連載 小学校英語活動レポート17

小学校英語活動レポート⑰
小学校から中学校英語へ
—何をどうつなぐかー
田縁 眞弓
1.はじめに
小学校における英語指導もいよいよ教科化
を視野に入れ,その増加する時数や開始年齢
いったい何なのでしょうか。私立小学校で長
年指導を重ねた経験から考えてみたいと思い
ます。
の時期が様々なところで話題に上っています。
小学校での英語活動が高学年を対象として週
1 回(道徳と同じ位置づけの領域として)ス
2.前倒し? それとも後ろ倒し?
私立小学校の実践で「小中連携」の試みと
タートして以来,中学校英語教員は,英語学
して最初に考えたのは,中学校英語で中学生
習者として今までとは違った中学 1 年生に出
が弱いところを小学校で請けおえないかとい
会っておられることでしょう。
その特徴としては,英語だけの授業でも何
うことでした(もうずいぶん前の話になりま
す)。
とか理解しようとする姿勢や,物怖じするこ
そこで中学校教員に「小学校で前倒し指導
となく人前で発表活動ができるといった態度
するとしたら何がいいでしょう?」と尋ねた
面が挙げられるようです。
ところ一番に挙げられたのが英単語のスペル
また,「小学校から英語を学んできた子た
でした。なかなかスペルが正しく書けないと
ちは少しリスニングが強いだけで他は今まで
いうのです。「なるほどそこか!」と思い,
と変わらないので,今まで通り一からきっち
帯時間で単語テストを取り入れてみました。
り指導すべきだ」という声も多く聞かれます。
もちろん,日本語から英語へという単純な
確かに,もともと英語指導の専門家ではな
ものではなく小学生向けに工夫して絵で示し,
い小学校担任を中心に進められる英語活動は
さらに出題も自力で読める単語に限りました。
4 技能に焦点をあてたスキル指導でもありま
しかし,これは何人かの子どもたちにとって
せんし,またその発達段階に合った指導を考
は,英語嫌いを作りかねないほど負荷の高い
えるとそれがふさわしいとも言えません。
活動になってしまいました。
しかし,子どもたちが小学校から身につけ
そのほかにも「センテンスがしっかり書け
る英語力とは,本当に関心・意欲・態度と
るようにして欲しい」というリクエストが出
いった「コミュニケーションの素地」が主た
ました。これも書写のライティング指導で貴
るものであとはリスニング力が今までより少
重な英語の時間を費やすのはあまりにもった
し高いだけでしょうか?
いなく,語順に気付かせながら並べ替えると
今後 2020 年までには,高学年では英語が
いう活動に変えました。
教科化され開始は中学年からになるとされて
そこで改めて気付いたのが,小中連携とい
います(『グローバル化に対応した英語教育
うのは決して従来の中学校英語や生徒の「弱
改革実施計画』文部科学省 2013)。さらには
点」を「前倒し」指導するのでなく,小学校
導もスタートする小学校が多くなることが予
「後ろ倒し」にして中学校で伸ばしていくこ
指導時数も週に 2 〜 3 回になりモジュール指
から始めたからこそ付けられた「強み」を
想できます。そういった場合,小学校と中学
とが成功のカギになるのだということです。
校の英語をつなぐ一番太い幹となる部分は
大きな発想の転換でした。ただ,言うのは容
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易いのですが,その強みとは一体何であり具
教員は今まで以上に英語で進める授業,たく
体的にどんな指導でそれを伸ばしてください
さんの発表活動の工夫,また音声で入ってい
と中学校の英語教員に伝えていくかがとても
ると思われる聞き慣れた英語表現や単語の整
難しいと思いました。
理を中 1 の早い時点でして,今まで学んでき
たことを帰納的に整理できる機会を作ってあ
3.リスニング・スピーキングの指導
たくさんのインプットを与えることで子ど
もたちのリスニング力はどんどん伸びていき
ます。低学年のうちはたくさんの TPR(Total
Physical Response)の活動で体を動かしなが
ら音声と意味を結びつけ,歌やチャンツを楽
しみながら日本語とは異なった音声に慣れ親
げることが大切でしょう。
小学校から中学校英語につなぐ指導
▶ できるだけ英語で指導する。
▶ まず音声で聞かせ,内容を類推させ
てから文字(テキスト)を見せる。
▶ いきなり音声を repeat させるので
はなく,自力で文字の音声化を試み
しませることができます。
さらに,中学年になると絵本の読み聞かせ
などを利用し,絵をヒントに聞き取った英語
る時間を与える。
▶ 簡単なフォーマットを作成し,たく
さんの発表活動の機会を与える。
の内容を類推する力をつけるのが発達レベル
にあったふさわしい指導でした。
また,教室内をできるだけオールイング
4.小中連携の今後―読みとリテラシーの指
リッシュにしたこともリスニング力を上げる
導
のに大きく貢献したと思われます。
今後小学校での指導時数が増えるに伴い,
スピーキングの指導では,低学年から高学
今まではアルファベットの大文字・小文字指
年を通して児童自身がまわりの先生たち,あ
導としてしか扱われなかった文字の指導が,
るいは学習した他教科の内容などの本物の情
音韻認識を意識させるような簡単なリテラ
報に基づいて「意味あるやり取り」を行いま
シー指導へと進むことが考えられます。
した。その中には,会話を交わす必然性を与
そのことによって,音と文字とその意味を
えるインフォメーションギャップ活動や,丁
結びつけることができる児童を長い時間かけ
寧なフォーマットを与えた上での発表活動も
て育てることが,実は小中をつなぐ幹となり,
低学年から取り入れるようにしました。
今後の英語教育を大きく変えていくきっかけ
このようなリスニング・スピーキングをふ
んだんに取り入れた活動はそのまま中学校で
継続することが可能です。
現在ほとんどの公立小学校で使われている
になるのではないかと,大いに期待していま
す。
その具体的なリテラシー指導に関してはま
た次の機会にお伝えしたいと思います。
共通教材 Hi, friends!(文部科学省)では,た
くさんのリスニング活動やクラスの友達と関
田縁眞弓(京都教育大・立命館大 小学校英
わりあうインタビュー活動,さらにお勧めの
語指導法講師 私立小学校専科教員)
国を班ごとに発表するといったプレゼンテー
著書:We Can! Phonics Workbook(共著 マ
ションも含まれています。スピーキングやリ
クグロウヒル 2011)
スニングに関しては十分な下地をもった状態
小学校英語教育法入門(分担執筆 研
で児童は中学校にあがってくることが考えら
究社 2013)
れます。その強みを生かすには,中学校英語
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