2 5 9 (要旨〉 NPO法人を次世代につないでいくために 一一京都府内の認定 NPO法人からの一考察一一 三嶋孝佳 特定非営利活動促進法(平成 1 0年法律第 7号、以下、 NPO法という。)が施行され、 1 6年が経過し、 特定非営利活動法人(以下、 NPO法人という。)は、行政とともに公共サービスを支える組織として、 一定の役割を果たし、社会からの認知度も高くなっている。今後、社会保障の充実やほっとけない社 会課題〔深尾〕の解決に向けては、 NPO法人を代表とする地域に根付いた団体と行政との多様な支 え合いの輸が今以上に必要となっていく。しかし NPO法人の中には、財政基盤や組織基盤の脆弱 な同体が多い。なぜ、確固たる基盤を持った NPO法人が増えないのか。また、 NPO法人のうち、 一定の要件を満たす法人は、所轄庁の認定により認定特定非営利活動法人(以下、認定 NPO法人と いう。)となることができ、個人及び法人から寄附を受けることにより、組織基盤の強化や自立につ ながるという利点があるが、総 NPO法人数のうち、認定 NPO法人は、約 1割にとどまっている。 なぜ増加しないのか。本論文では、それぞれの理由について、考察をする。 第 1章においては、前提として日本の特定非営利活動(以下、 NPOという。)の歴史について述べ るo 日本で fNPOJ という用語が用いられるようになったのは、 1 9 9 0年代の半ばからであるが、奈 良時代の行基が、政府とは別に非営利活動を組織及び運営したという意味で、 NPOの歴史は 1 . 3 0 0年 近くとなる o そして、明治時代の民法において、公益法人制度が制定されたが、草の棋的な団体であ る NPOに公益法人制度による法人格の取得へのハードルは高く、財産が持てない等の問題が発生し てきた。そこで市民活動団体を中心に法制定に向けての声が大きくなった中、阪神・淡路大震災が発 生した。市民活動団体や多くのボランテイアの活躍は市民活動への重要性が増した。 NPO法は 1 9 9 8 年 3月、衆議院本会議において全会一致で可決、 1 9 9 8 年1 2月に施行された。 国及び地方自治体をとりまく現状として、パ 7・ル崩壊後の企業収益の減少に伴う税収減や地方分権 改革、また、少子超高齢化社会が進み、勤労者数が減少している状況や地域社会を支えてきた地方公 務員等行政職員の量的減少等により、行政が社会課題の解決に向けて充てられるマンパワーに限りが 出ている o また、 NPO法第 1条の精神や日的に照らし合わせた上で、介護保険事業にはじまり、緊 急雇用対策等、小泉政権、民主党政権及び安倍政権までの NPO法人に関する施策を述べる。 第 2章においては、京都府内における NPO法人の現状、京都府が NPO法人へ実施をしてきた施 策及び京都府の優遇税制及び国の NPO法人への施策、京都府内の NPO法人の主な動きとの関連に ついて述べる。京都府及び京都市が認証をした NPO法人は、 NPO法が施行された以降、一貫とし 0 1 4年度に入札その伸びは止まり、現状はほぼ横ばいである o て増加をしていたが、 2 2 0 0 2年山田啓二氏が京都府知事に当選したが、選挙のスローガンに、「府民発、府民参画、府民協 働」があった o そのこともあり、京都府において、 NPO法人支援施策が実施をされてきた。 第 3章においては、京都府内の認定 NPO法人の認定基準及び税制優遇措置、全団体の概要につい て述べるロまた、認定 NPO法人及び仮認定 NPO法人(以下、認定 NPO法人等という白)の 2 0団体 のうち 7団体について聞き取りを実施し、認定 NPO法人になった理由ゃなぜ認定 NPO法人が増加 しないかについて分析を行った。 以下は分析結果である o 認定 NPO法人になったことにより、責任感の向上に加え、規定や書類の整備等の向上はあった。 しかし、明確かつ確固たるミッションや理念を持っているが、総務面も含めた雇用人数が少人数であ り、今後、ミッションや理念を引き継ぎ、継続をさせていくためには、後継者等の人材育成が必要で あるが、少人数であるが故に、人材育成に時間をかけられない。財政基盤については、認定 NPO法 人格を取得した団体であっても、寄附を集めることを積極的にできていない団体があり、認定 NPO 法人にのみ適用される寄附優遇税制のメリットがうまくいかせていなし、寄附を集めたいと思っては いても、少人数での活動では、人材を充てられていないということも原因である。財政基盤がなく金 銭的余裕がない。金銭的余裕がないから人を雇えない。人が雇えないから寄附集めに充てられる人材 2 ω がない。寄附が集められないから財政基盤が安定しない。という負のスパイラルが生じている。財政 基盤の脆弱さが組織基盤の脆弱にも連動をしている。 日本社会に寄附文化がないので、寄附を集めることに苦労をしているとの声もあったが、日本には 寄附文化はある。ベクトルが NPO法人へ向いていないのである o NPO法人制度そのものが広く世 間には浸透していないことは、行政の発信不足である。行政が認定 NPO法人制度を含む NPO法人 制度の周知を行うこと、寄附税制優遇措置の周知を行うことは必要である o 寄附をした者のうち、約 9割が寄附の税制優遇措置の適用を受けていなし、税制優遇措置のあるなしにかかわらず団体の趣旨 や理念に賛同をして寄附をしているのである。聞き取りを行った認定 NPO法人は明確かつ確固たる 理念をしっかりと持ち、公益性の高い団体である。行政が寄附税制優遇措置の仕組みをアピールする とともに、認定 NPO法人自身もさらに情報発信の手法を学べば、負のスパイラルから脱却ができる。 結果として、認定 NPO法人が増加しない理由は、増える事務量及び費用と増える寄附及びみなし 寄附金制度で控除される金額の費用対効果を考えるとメリットが少ないということである o 認定 NPO法人制度の周知がなされ、寄附が増加しない限り、現状では、認定 NPO法人になる理由があ まりない。 第 4章では、共助社会における NPO法人のあり方について、前章において分析を行った課題に対 する解決策等を中心について述べる。 ほっとけない社会課題の解決に向けて努力をしている NPO法人等市民社会組織に所属をして、ボ ランテイア活動も含めて地域活動にかかわっていく。また、自ら活動をする時間がない人や行動がで きない人は、その自分の想いをミッションが近い団体へ寄附をする。誰かがやってくれるのではなく、 主体的に考えなければならない。理念をもった NPO法人を次世代につなげていくために持続発展を していくためには、 NPO法人のさらなる信用性、信頼性の確保は重要である。 次に、認定 NPO法人制度の普及である。日本における NPO法人に対する寄附意識の向上が必要 不可欠である o 前述のとおり、寄附文化そのものはあり、意識もあるが、 NPO法人へそのベクトル が向っていなし=。認定 NPO法人制度の周知とあわせて、 NPO法人全体の信頼性の向上やさらなる 情報公開、認証制度の重要性が増す。 2 0日年度税制改正大綱が発表され、「ふるさと納税ワンストップ特例 Jが2 0 1 5年 4月以降、納税者 が各市町村へ行う寄附分から導入される。これは、ふるさと納税を自治体にした場合、確定申告の手 続きなしで寄附控除の適用を受けられるものであるが、この特例のように確定申告なしで認定 NPO 法人等への寄附控除の適用が受けられる制度の導入を検討し、整備する必要がある。煩雑さがなくな る。また、京都府内の各市町村において、個人住民税の寄附金税額控除に係る条例の制定状況は、京 都府と共同で制定をした京都市以外には綾部市、亀岡市、長岡京市、南丹市、木津川市及び京丹波町 の 6市町である。各市町村で寄附による住民税の税額控除の仕組みがないことは問題であり、寄附の 向上につながっていかない。 京都府において、 2 0 1 3年度に筆者がリーダーとしてかかわった「京都府庁庁内ベンチャ一事業Jと いう政策研究で寄附文化の醸成に向けて、プレゼンテーションをした。結果、 2 0 1 4年度から、京都府 により「寄附を集める新しい応援事業Jが開始された。これにより少しでも寄附文化が醸成されるよ う大いに期待をしている。 今後は、上記事業と並行をして、認定 NPO法人制度の趣旨及び税制上の特例措置の内容、申請手 続きの方法等について、 NPO法人、一般市民及び企業等に対し、引き続き普及啓発を進めていくこ とが重要である。認定 NPO法人に対するヒアリングにおいても、認定 NPO法人の申請をするまで どの法人も日々の活動など日常業務カむ忙しく、認定を受けるための申請手続きを進める時聞がないこ とや会計や税務等に関する専門的な知識をもったスタッフが不足していること。さらに、申請手続き が煩雑である、又は、どのような準備が必要か分からない、といった課題を持っていた。大きな時間 的コストが指摘された。従って、認定 NPO法人制度の普及にあたっては、 NPO法人において日々 の活動のみならず、会計処理等法人の内部管理の面においても人材不足が解消されることが必要であ る。既に京都市市民活動センタ一等が相談活動を実施しているが、市民や企業、中間支援組織等の参 加及び協力がさらに進むように環境整備を図るとともに、会計や税務の専門的な知識を有した専門家 によって、 NPO法人の会計処理や申請手続きに対する支援の充実していくことが望まれる。その点 では、プロボノの重要性が増す。京都府においても「きょうとプロボノ元年Jとし、 2 0 1 4 年度から新 たに施策を取り組んでいる。 さらに、 NPO法人の信頼性の確保が必要である o その中で、民間の評価、認証専門機関を活用し NPO法人を次世代につないでいくために た NPO法人の信頼性の確保が挙げられる。京都では、全国初の市民セクターの評価、認証専門機関 として、一般財団法人社会的認証開発推進機構がある。 認定 NPO法人を含む NPO法人がほっとけない社会課題等の解決に向け取り組んでいるが、地域 社会の課題解決に向けて、住民、 NPO 、企業等様々な主体が協力しながらビジネスの手法を活用し て取り組むソーシャルビジネスに代表される事業体の活動が始まっており、事業の価値を最大化し、 現場のイノベーションを誘発することで社会課題を解決しかっ収益の確保の両立を日指す投資「社会 的インパクト投資Jがその役割を拡大している。日本においても複雑化する社会課題への対応や財政 改革は喫緊の課題であり、「社会的インパクト投資 Jの手法を活用した、より効果が高く効率の良い 公共サービスが期待される。その事業体に認定 NPO法人等 NPO法人が積極的に参加し、今後、 NPO法人が活躍できる場として非常に期待できるものである。 NPO法人でこれから求められるのは、質の良い NPO法人である。 NPO法が施行から 1 6年が経過 し、これからは、 NPO法人が日本を引っ張る時代になってほしいし、なるよう筆者自身もその一躍 を担いたい白 2 6 1
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