原油価格上昇は本物?資源価格低下に注目

リサーチ TODAY
2016 年 6 月 24 日
原油価格上昇は本物?資源価格低下に注目
常務執行役員 チーフエコノミスト 高田 創
原油相場が50ドル台まで反発した後の持続性に注目が集まっている。みずほ総合研究所は原油価格の
反発の持続性に関するリポートを発表している1。2016年初、原油市場は30ドルを割る水準まで大幅に下落
した。その後2月に米国のドル高是正を機に市場が小康状態に戻って以降、原油市場も緩やかな回復を
続け、5月には再び50ドル台の大台を回復した。この背景には、ナイジェリアなどで原油生産が減少してい
たこと、2016年後半には原油の超過供給が大幅に縮小するというIEA(国際エネルギー機関)の見方が受
け入れられたこと等が挙げられる。下記の図表をみても、年初の下落をもって市場は底入れしたとみるのが
自然であろう。ただし、需給状況の本格的な改善要因が乏しく、50ドル台を超えての回復傾向の持続は難
しいだろう。
■図表:原油相場推移
(ドル/バレル)
130
ブレント
120
WTI
110
100
90
80
70
60
50
40
30
20
13
14
15
16
(年)
(資料)Bloomberg よりみずほ総合研究所作成
当社では昨年来、中国を中心とした新興国のバランスシート調整と原油安経済とはコインの表と裏、一体
であるというストーリーラインを描いてきた。それは、2000年代以降の世界的なバランスシート調整の「第3局
面」が、中国を中心とする新興国のバランスシート調整であり、この世界的バランスシート調整と資源価格安
は一体であるという見方だ。つまり、2000年代半ば以降の資源相場をけん引してきたのは新興国であった
が、その新興国が調整となるなか、過去10年の新興国による底上げ局面は終焉し、世界経済の状況が振り
出しである2000年代の水準に戻ったという見方もできる。2016年初に、世界的なリスクオフの不安から原油
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2016 年 6 月 24 日
価格が暴落し、その後リスクオンに戻ったことで原油価格が50ドル台まで回復したとはいえ、これ以上持続
的に上昇するまでの状況の変化は生じていない。その第一の要因は、先にストーリーラインとした新興国の
調整が進捗していないことである。下記の図表は銅・鉄鉱石相場の推移を示す。今回、原油相場は50ドル
台を回復したが、商品市況の改善は限られている。カナダの火災等、一部に原油市場の需給の改善要因
はあるが、商品市場全体を底上げするほどの力は限られている。
■図表: 銅・鉄鉱石相場の推移
7,000
(ドル/トン)
(ドル/トン)
銅(LME3カ月先物)
70
鉄鉱石(中国の輸入価格、右目盛)
6,500
75
65
6,000
60
55
5,500
50
45
5,000
40
4,500
35
4,000
15/1
15/3
15/5
15/7
15/9
15/11
16/1
16/3
30
16/5 (年/月)
(資料)Bloomberg よりみずほ総合研究所作成
現在の局面は、新興国市場の低迷を背景に原油価格の低迷が長期化する状況を覚悟するという新たな
レジームにあり、新興国経済のバランスシート調整(新興国ブームの転換)と原油需要の低迷とセットで捉え
る必要がある。当社は昨年5月に日本経済新聞出版社より『激震 原油安経済』2を刊行し、今年は『中国発
世界連鎖不況』3を刊行している。この2冊が示す原油価格の暴落、中国を中心とした新興国経済の減速は
別個のものではない。原油価格の暴落と新興国経済の減速は一体として世界経済が対処しなければなら
ない新たな環境の到来を象徴するものだというのが、この2冊による当社のメッセージだ。2014年末に原油
価格の下落が始まって以来1年半以上が経過し、市場は小康状態になった。ただし、中国経済の回復力
が緩慢であり、不安定な状況は今後も続くのではないか。
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井上淳 「原油反発の持続性」(みずほ総合研究所 『金融市場ウィークリー』 2016 年 6 月 10 日)
『激震 原油安経済』(みずほ総合研究所編著 日本経済新聞出版社 2015 年 5 月)
http://www.mizuho-ri.co.jp/publication/book/150501.html
『中国発 世界連鎖不況』(みずほ総合研究所編著 日本経済新聞出版社 2016 年 5 月)
http://www.mizuho-ri.co.jp/publication/book/160518.html
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