資料8(2016年6月16日)

2016 年度 商法第 3 部
2016 年 6 月 16 日
資料 8
Ⅴ.運送(続)
5.運送人の責任(江頭 311-326 頁)
5.1.総論
民法の請負契約上の債務不履行責任
商法、国際海上物品運送法等の特則、約款による軽減・免除の可否
請求権者
船荷証券が発行されていない場合:荷送人と運送品到着後の荷受人(商法 583 条 1 項)
改正後は全部滅失時の荷受人を含む
船荷証券が発行されている場合:船荷証券所持人のみ
荷主側の損害保険者(貨物保険)による請求権代位(保険法 25 条)
VS
運送人側の責任保険者(P&I 保険)
5.2.責任原因
5.2.1.国際海上物品運送
(1)運送人の運送品に関する注意義務違反
「商業上の過失」による運送品の滅失・損傷・延着(国際海運 3 条 1 項)
無過失の証明責任が運送人に転換された過失責任(国際海運 4 条 1 項)
運送人による天災等の発生とそこから通常生じる損害であることの証明
→過失の証明責任が荷主側に転換(国際海運 4 条 2 項)
(2)運送人の「使用する者」の行為についての責任(国際海運 3 条 1 項)
運送人の従業員のほか、船内荷役業者、下請運送人、海運代理店等も
東京地判平成 8 年 10 月 29 日金法 1503 号 97 頁(Ⅴ-5)
(3)堪航能力の不備
船舶の堪航能力等の不備による運送品の滅失・損傷・延着(国際海運 5 条 1 項)
無過失の証明責任が運送人に転換された過失責任(国際海運 5 条 2 項)
Ex.東京高判平成 12 年 9 月 14 日判時 1737 号 133 頁
基準時は発航時
Cf.ロッテルダム・ルールズ 14 条
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5.2.2.国内陸上運送
運送品の受取・引渡・保管・運送の注意義務の懈怠による運送品の滅失・毀損・延着
無過失の証明責任が運送人に転換された過失責任(商法 577 条)
「其使用人」=従業員、「其他運送のため使用したる者」=下請業者等
Cf. 履行補助者の故意・過失に関する判例法理
運送品の滅失・毀損・延着以外の損害についての運送人の損害賠償責任
5.2.3.国内海上運送
陸上運送の責任規定の準用(商法 766 条、577 条)
堪航能力担保義務(商法 738 条):無過失責任➡過失責任化を予定
免責特約の制限(商法 739 条)➡削除を予定
Cf. 航海過失免責
5.3.免責事由
5.3.1.国際海上運送に特殊の免責事由
(1)航海上の過失免責(国際海運 3 条 2 項前段)
(2)火災免責(国際海運 3 条 2 項後段)
(3)堪航能力の不備との関係
東京地判平成 9 年 9 月 30 日判タ 959 号 262 頁
(4)立法論的な批判
ハンブルク・ルールズ、ロッテルダム・ルールズでの航海上の過失免責等の廃止
運送人の責任の強化と保険料の増減
(5)免責特約が認められる場合
原則として片面的強行規定(国際海運 15 条 1 項)
例外的に認められる場合
①船積前・荷揚後の事実による損害(国際海運 15 条 3 項)
②生動物(国際海運 18 条 1 項)
③甲板積貨物(国際海運 18 条 1 項)
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④運送品の特殊な性質や状態、運送が行われる特殊な事情(国際海運 17 条)
⑤保険利益享受約款?
国際海運 15 条 1 項第 2 文
最判昭和 51 年 11 月 25 日民集 30 巻 10 号 960 頁(百選 100)
運送人が保険契約を締結した場合は?
5.3.2.高価品免責
明告がない高価品については損害賠償請求不可(国際海運 20 条 2 項、商法 578 条)
高価品の意義(最判昭和 45 年 4 月 21 日判時 593 号 87 頁:百選 98)
例外:改正案で明文化を予定
明告がなくても運送人が高価品と知っていた場合
明告がないが運送人に事故についての故意・重過失がある場合
Cf.最判平成 15 年 2 月 28 日判時 1829 号 151 頁(百選 108)
制度趣旨と立法論的批判
Cf. ハーグ・ヴィスビー・ルールズの責任限度額制度(国際海運 13 条)との関係
5.4.損害賠償額の定型化
5.4.1.損害賠償額の定型化
滅失・損傷・延着に関する損害賠償額は荷揚予定地・時における市場価格(国際海運 12
条の 2、商法 580 条、766 条)
民法 416 条の特則
画一的な処理によるコストの削減・運送人の保護
実際の損害額<荷揚地の市場価格の場合
Cf.最判昭和 53 年 4 月 20 日民集 32 巻 3 号 670 頁(Ⅲ-20:百選 95)
5.4.2.定型化の排除
運送人の故意または損害発生の恐れがあることを認識しながらした無謀な行為(国際海
運 13 条の 2)
運送人の故意または重過失(商法 581 条)
最判昭和 55 年 3 月 25 日判時 967 号 61 頁(百選 96)
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5.5.責任限度額
1 包・1単位につき 666.67SDR と重量(kg)×2SDR の多い方(国際海運 13 条 1 項)
特別引出権:SDR(国際海運 2 条 4 項、13 条 2 項)
IMF による通貨バスケット(ユーロ、日本円、米ドル、英ポンド)
2016/6/14 時点:1SDR≒149 円
コンテナ貨物の場合(国際海運 13 条 3 項)
制度趣旨
運送事業の保護育成
荷主間の利益移転の防止
Cf.国際海運 13 条 5 項
限度額の設定
Cf.各条約の限度額
アメリカ海上物品運送法(ハーグ・ルールズ):1単位当たり 500 ドル
ハンブルク・ルールズ:1 単位当たり 835SDR、1 キロ当たり 2.5SDR
ロッテルダム・ルールズ:1 単位当たり 875SDR、1 キロ当たり 3SDR
国内運送についての責任限度額の法定の要否
Cf. 任意規定か片面的強行規定か
*船舶の所有者等の責任の制限に関する法律(船主責任制限法)
*船舶先取特権(国際海運 19 条、船主責任制限 95 条)
5.6.運送品の責任の消滅に関する特則
5.6.1.損害の通知義務
国際海上運送
通知義務(国際海運 12 条 1 項)の懈怠の効果は滅失・損傷なしとの推定(同 2 項)
国内陸上運送
荷受人の留保なしの運送品受取りにより運送人の責任が消滅(商法 588 条 1 項)
直ちに発見できない一部滅失・毀損について 2 週間以内に通知すれば消滅せず
運送人悪意の場合も消滅せず(商法 588 条 2 項)
改正案でも基本的に維持、利用運送人から下請運送人への求償時の猶予
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5.6.2.期間の経過による消滅
国際海上運送:除斥期間
運送品の引渡日(全部滅失の場合には引き渡されるべき日)から 1 年間(国際海運 14
条 1 項)
利用運送人から下請運送人への求償について 3 か月の猶予期間(国際海運 14 条 3 項)
国内陸上運送:短期消滅時効
荷受人の運送品受取りから 1 年間(商法 589 条、566 条 1 項)
運送人が悪意の場合には適用なし(商法 589 条、566 条 3 項)
最判昭和 41 年 12 月 20 日民集 20 巻 10 号 2106 頁(Ⅲ-21:百選 90)
改正案:除斥期間に、利用運送人から下請運送人への求償時の猶予期間
5.7.債務不履行責任と不法行為責任
法律・運送契約上の運送人の抗弁の援用の可否
①荷送人による不法行為責任の追及
②荷受人・船荷証券所持人・運送品の所有権者等からの不法行為責任の追及
③運送人の従業員・下請け業者等に対する不法行為責任の追及
最判昭和 44 年 10 月 17 日判時 575 号 71 頁
国際海上物品運送法の対処
①②→国際海運 20 条の 2 第 1 項
③→国際海運 20 条の 2 第 2 項
運送契約による対処
不法行為責任への抗弁の拡張
ヒマラヤ条項
直接の契約関係に立たない荷受人や所有者からの責任追及
最判平成 10 年 4 月 30 日判時 1646 号 162 頁(Ⅲ−22:百選 99)
改正案
【参考文献】
藤田友敬=松村敏弘「取引前の情報開示と法的ルール」北大法学 52 巻 6 号 218 頁(2002
年)
藤田友敬「国際航空運送における運送人の責任制限」成蹊法学 35 号 155 頁(1992 年)
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道垣内弘人「『重過失』概念についての覚書」『民法学における法と政策 : 平井宜雄先生
古稀記念』(有斐閣、2007 年)537 頁
6.航空貨物運送(江頭 290-292 頁、294 頁、303-306 頁、310-311 頁、326-330 頁)
6.1.モントリオール条約の適用範囲と性質
モントリオール条約 1 条2項
出発地と到達地の両方が締約国にある国際航空運送
出発地と到達地が単一の締約国内で、予定寄航地が他国であるもの(往復運送)
運送人の責任に関して片面的強行規定(26 条・47 条)
準拠法の選択も無効(49 条)
6.2.モントリオール条約上の航空運送人の責任
6.2.1.責任原因
航空運送中に生じた事故による貨物の破壊、滅失、毀損(18 条1項)
免責事由が限定された厳格責任(18 条 2 項)
「航空運送中」の意義(18 条 3 項 4 項)
延着については過失責任(19 条)
実行運送人の行為についての利用運送人の責任(40 条)
6.2.2.損害賠償額
賠償額の定型化はない
責任制限
貨物の破壊・滅失・毀損・延着について、1kg につき 19SDR
Cf. 最判昭和 52 年 6 月 28 日民集 31 巻 4 号 511 頁(百選 101)
運送人・使用人に故意があっても適用される(22 条 5 項・30 条 3 項参照)
6.2.3.不法行為責任との関係等
条約上の責任原因・責任限度額が不法行為請求にも適用される(29 条)
実行運送人の責任(40 条)
その他の運送人の従業員・下請業者等の責任(30 条 1 項、43 条)
運送人に対する責任保険の強制(50 条)
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7.複合運送(江頭 331-335 頁)
7.1.複合運送人の責任
複合運送人から下請運送人への求償と荷主側の予測可能性
タイアップシステム
ネットワークシステム
日本海運集会所の複合運送船荷証券 8 条 2 項
モントリオール条約 38 条 1 項
ユニフォームシステム
物品の国際複合運送に関する国連条約(1980 年)
ロッテルダム・ルールズの試み
国際海上運送+αの限度での複合運送への対処
既存の国際条約との調整
改正案
損害発生区間が特定できる場合
➡当該区間のみの運送契約を締結した場合に適用される日本の法令・批准条約
Cf. 日本海運集会所の複合運送船荷証券 8 条 2 項 iii との違い
損害発生区間が特定できない場合
➡運送法総則
7.2.相次運送
複合運送との違い
相次運送人の責任
商法 579 条、766 条、国際海運 20 条 2 項
任意規定(Ex 標準貨物自動車運送約款 56 条)
モントリオール条約
貨物運送の場合(36 条 3 項)
旅客運送の場合(36 条 2 項)
東京地判平成 3 年 3 月 29 日判時 1405 号 108 頁(百選 97)
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