耐熱性糖化酵素の開発 産業技術総合研究所、関西センター バイオメディカル研究部門 連携主幹 石川 一彦 1 オイルリファイナリーからバイオマスリファイナリーへ 地球温暖化 温室効果ガスの排出量削減 エネルギー の枯渇問題 オイル リファイナリー 資源,エネルギーの安定供給確保 原油 木質系バイオマス資源を化学品や複合材料, 燃料へバイオプロセスにより変換する 化学品 化学品 プラスチック・ プラスチック 繊維 液体燃料 液体燃料 グリーンイノベーションの実現 バイオマス 電力 電力 バイオマス 糖化酵素 糖をベースとするバイオマスリファイナリープロセスに 不可欠な糖化酵素の開発 2 従来技術とその問題点 バイオマス糖化には、糸状菌トリコデルマ由来の酵素製剤 を用いる方法が注目されているが、当該酵素の反応最適 温度が50℃付近であり、雑菌汚染、基質の低溶解性、低 反応効率等の理由でその実用化が滞っている。 3 セルラーゼ生産菌 糸状菌Talaromyces (Acremonium) cellulolyticus T. cellulolyticus Y94株 (2.0 FPU/ml 培養液) 1983年 工技院 三石, 山辺ら TN株 (7.3 FPU/ml 培養液) 1985年 工技院 山辺ら T. cellulolyticus Y94株 (野生株) C-1株 (12.3 FPU/ml 培養液) 2001年 産総研 山辺ら (株)月島機械 1983年 旧工業技術院 三石, 山辺らによ り発見されたセルラーゼ高生産菌 従来のTricoderma reesei に比べて β-グルコシダーゼ活性が高い、 酵素の耐熱性も高い等の特徴がある CF-2612株 (17.8 FPU/ml 培養液) 2007年 産総研 (株)月島機械 4 セルラーゼ生産糸状菌 糸状菌タラロマイセス(アクレモニウム) Talaromyces (Acremonium) cellulolyticus ・産総研が知財化している糖化酵素高生産菌 ・酵素製剤がMeiji Seika ファルマにより商品化 競合技術:糸状菌トリコデルマ ・最もメジャーな糖化酵素生産菌 ・大手酵素メーカーが知財化 高効率(耐熱性) 糖化酵素製剤の開発 5 バイオマスの加水分解に関係する酵素 β-グルコシダーゼ(BGL) キシラナーゼ(XYL) β-グリコシド結合を切断 ヘミセルロースを分解 エンドグルカナーゼ(EG) 非結晶領域をランダムに切断 ヘミセルロース 結晶領域 非結晶領域 セルロース セロビオハイドロラーゼ(CBH) 結晶領域を末端から分解 糖化反応に必要な酵素を耐熱化 耐熱性酵素のメリット ・酵素の安定性が向上、再利用が可能 ・高温による反応速度向上、反応時間の短縮 ・高温による雑菌汚染の回避 ・高温による基質および生成物の溶解度向上 6 •多くのCBHIの反応最適温度は50℃付近であるために、バ イオマス糖化行程における、基質の溶解度および雑菌汚 染等の問題により、その実用化が滞っている。 •70℃以上の高温で安定に作用する耐熱性CBHIにより、高 効率バイオマス糖化プロセスが可能になる。 •タンパク質工学的手法により70℃以上で高活性かつ安定 な耐熱性CBHIの構築に成功した。 7 糸状菌由来CBH I の比較 Fungus Optimum Temp. Talaromyces emersonii 70 Chaetomium thermophilum 65 Thermoascus aurantiacus 65 Hypocrea jecorina 50 Acremonium thermophilum 60 Trichoderma ressei 50 Talaromyces cellulolyticus 55 CBH I 活性 耐熱性 Talaromyces emersonii Low High Talaromyces cellulolyticus High moderate 8 1 Talaromyces cellulolyticus Talaromyces emersonii 1 2 2 Talaromyces cellulolyticus Talaromyces emersonii 3 Talaromyces cellulolyticus Talaromyces emersonii Talaromyces cellulolyticus Talaromyces emersonii 4 Talaromyces cellulolyticus Talaromyces emersonii 5 Talaromyces cellulolyticus Talaromyces emersonii 6 Talaromyces cellulolyticus Talaromyces emersonii Talaromyces cellulolyticus Talaromyces emersonii 3 4 5 Talaromyces cellulolyticus Talaromyces emersonii 9 T. cellulolyticus CBHI (Modeled) T. emersonii CBHI (1Q9H) 10 2 2 3 4 3 6 4 5 11 タンパク質工学的手法によるCBHIの耐熱化 耐熱性評価 M5 (M1+M2+M3+M4) M2 相対活性 (%) M1 M3 M3 M1 WT M4 耐熱性 Up (採用) 耐熱性 Down (保留・不採用) 変異体 65 oC と 60 oC の活性の比で,変異導入箇所を選別 至適温度 青・黄: Talaromyces cellulolyticus (構造予測によるモデル) 灰色: Talaromyces emersonii M4 比活性 (U/mg) M2 70 oC 至適温度 Up 変性温度 Tm ΔTm WT 63.0 oC --- M1 64.0 oC +1.0 oC M2 66.0 oC +3.0 oC M3 65.0 oC +2.0 oC M4 66.5 oC +3.5 oC M5 71.0 oC +8.0 oC 温度 (oC) 活性を下げずに耐熱性向上,高温での糖化反応が可能 12 名称 変異の種類 変異 野生型 - なし 変異体1 相対活性(%) Tm(℃) 100 65.50 M1 94 66.00 変異体2 M2 88 68.00 変異体3 M3 87 67.00 変異体4 M4 98 68.50 変異体5 M1-M2-M3 96 70.67 変異体6 M1-M2-M3-M4 95 72.50 変異体7 M5 93 65.50 変異体8 M1-M2-M3-M4-M5 95 105 72.50 60 TrichodermaCBHI 13 70度以上でアビセルを加水分解する耐熱性CBHI(65度で長時間安定) T. cellulolyticus による大量生産(>20g/L(培地))が可能 耐熱化変異体 Trichoderma CBHI 特願2014-109035 耐熱化改良した糸状菌由来 セロビオハイドロラーゼ 14 新技術の特徴・従来技術との比較 • 従来技術の問題点であったセルラーゼ酵素(CBHI)の耐熱 化・高機能化に成功した。 • 従来のバイオマス糖化行程においては酵素の低安定性の ため50℃以下での実施に限られていたが、耐熱性CBHIの 開発により、糖化反応を70℃以上で行うことが可能となった。 • 本技術により雑菌汚染回避および酵素反応速度向上、糖 化コストが1/2~1/3程度まで削減されることが期待される。 15 想定される用途 • 本技術の特徴を生かすためには、本酵素をバイオマ ス糖化行程に適用することで高効率バイオ原料を得 ることが可能になる。 バイオ燃料、バイオガス、バイオリファイナリー • また、産総研の酵素耐熱化技術に着目すると、その 他の酵素タンパク質の耐熱化デザインも可能である。 16 実用化に向けた課題 • バイオマス糖化酵素製剤について、耐熱性CBHIの利用 が可能なところまで開発済みである。 • キシラナーゼ、エンド型セルラーゼ、ベータグルコシダー ゼも既に耐熱化済み。 • 今後、バイオマス糖化に必要なセルラーゼ(CBHII)につ いても耐熱化を実施することで、糸状菌タラロマイセスの 高温バイオマス糖化行程への適用が可能になる。 17 バイオマス糖化に必要な加水分解酵素 糸状菌での 大量発現 糖化酵素 耐熱性 エンドグルカナーゼ (EG) ○ (105℃) ○ b-グルコシダーゼ (BGL) ○ (105℃) △○ セロビオヒドロラーゼ (CBHI) ○ (70℃) ○ セロビオヒドロラーゼ (CBHII) × (40℃) ○ キシラナーゼ(Xy) ○ (75℃) ○ 18 企業への期待 • 未解決の耐熱性酵素開発については、産総研の耐熱 化技術により克服できると考えている。 • 酵素改良・製造の技術を持つ企業との共同研究を希望。 • バイオマス糖化システムを開発中の企業には、本技術 の導入が有効と思われる。 19 本技術に関する知的財産権 • 発明の名称 :耐熱化改良した糸状菌由来 セロビオハイドロラーゼ • 出願番号 :特願2014-109035 PCT/JP2015/064994 ( H27/05/26 ) • 出願人 :産業技術総合研究所 • 発明者 :石川一彦、岸下誠一郎、中林誠、 蒲池沙織、柳本敏彰、藤井達也 20 産学連携の経歴 • 2003年- 大学発ベンチャー耐熱性酵素研究所 設立 • 2008年-2011年 東レ㈱と共同研究実施 • 2009年-2010年 A-STEP ウォータージェットによるキチ ン系未利用バイオマスの高度有効活用 事業に採択 • 2011年-2014年 JST先端的低炭素化技術開発事業 ALCA、セルロース系バイオマス原料か らモノマー原料の革新的製造プロセス に関する研究開発 事業に採択 21 お問い合わせ先 国立研究開発法人 産業技術総合研究所 生命工学領域研究戦略部 イノベーションコーディネータ 新間 陽 一 TEL 029-862 - 6032 FAX 029-862 - 6048 e-mail [email protected] 22
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