企業年金の受託概況について(2016年3月末現在)

2016.6. No.578
年金研究所
目 次
【本 題】企業年金の受託概況について(2016 年 3 月末現在)………………………………………………P1
【コラム】定年延長に伴う確定給付企業年金の制度変更について ……………………………………………P7
企業年金の受託概況について(2016年3月末現在)
1. はじめに
企業年金の制度数および加入者数等については、厚生労働省および企業年金連合会が定期的に公表して
いるほか、毎年 5 月下旬には信託協会等による「企業年金(確定給付型)の受託概況」および「確定拠出
年金(企業型)の統計概況」が公表されています。
本年 5 月 24 日、上記概況の最新版(2016(平成 28)年 3 月末現在)が公表されましたので、その概
要ならびに企業年金制度の概数の推移について解説いたします。
2. 企業年金の 2016 年 3 月末現在の概況
(1)給付建て(確定給付型)制度
「企業年金の受託概況」は、信託協会、生命保険協会および JA 共済連の連名により、給付建て(確定給
付型)企業年金制度の受託件数、加入者数ならびに資産残高を取りまとめているものです。かつては厚生
年金基金および適格退職年金の概況を取りまとめていましたが、2002 年の確定給付企業年金の創設なら
びに 2012 年の適格退職年金の廃止を経て、現在は、厚生年金基金および確定給付企業年金の 2 制度につ
いて「企業年金(確定給付型)の受託概況」として取りまとめています。2016 年 3 月末現在の概況は、
図表 1 の通りです。
<図表 1 >企業年金(確定給付型)の受託概況(2016 年 3 月末現在)
受託件数
(基金、件)
厚基
生 年 金金
信託銀行
生保会社
小 計
確 企 信託銀行
定 業 生保会社
給 年 JA共済連
付 金 小 計
合 計
207
49
256
3,776
9,551
363
13,690
13,946
資 産 残 高(時価)
(億円)
227,459
14,610
242,070
426,765
147,883
4,353
579,002
821,072
構成比
94.0%
6.0%
100.0%
73.7%
25.5%
0.8%
100.0%
─ 対前年比
増 減 率
▲22.3%
▲26.8%
▲22.6%
▲3.3%
6.2%
2.6%
▲1.0%
▲8.5%
加入者数
(万人)
225
28
254
529
257
8
795
1,049
(注 1)受託件数および加入者数は、共同受託の場合は重複計上を避けるため幹事会社をベースに計上している。
(注 2)信託銀行の資産残高は、年金信託契約、年金特定信託契約等の合計。
(注 3)生保会社の資産残高は、特別勘定特約の資産残高を含む。
(注 4)生保会社および JA 共済連の確定給付企業年金には、受託保証型確定給付企業年金を含む。
(出所)信託協会・生命保険協会・JA 共済連「企業年金(確定給付型)の受託概況」(平成 28 年 3 月末現在)
−1−
企業年金の受託概況について(2016年3月末現在)
2016 年 3 月末現在の状況をみると(図表 1)、厚生年金基金は基金数 256 件(前年度比▲ 188 件)、加
入員数 254 万人(前年度比▲ 109 万人)となっています。2014 年 4 月より改正厚生年金保険法(公的年
金制度の健全性及び信頼性の確保のための厚生年金保険法等の一部を改正する法律)が施行されたことを
受けて、2015 年度は 175 基金が解散、15 基金が代行返上するなど大幅に減少しました。また、資産残高
も 24 兆 2,070 億円(前年度比▲ 7 兆 812 億円)と減少しています。
一方、確定給付企業年金(DB)は、2016 年 3 月末は制度数 13,690 件(前年度比▲ 194 件)、加入者
数 795 万人(前年度比+ 13 万人)となっています。制度数は 4 年連続の減少となったものの、前述の改
正厚生年金保険法の施行により厚生年金基金から既存の DB への移行が増えていることもあり、加入者数
は 3 年ぶりに増加に転じました。DB の資産残高は 57 兆 9,002 億円(前年度比▲ 5,634 億円)と、全体
としては 7 年ぶりに減少に転じていますが、受託形態別にみると生保会社および JA 共済連の受託残高が
増加しています。これは、マイナス金利下の運用環境の悪化を避けるための一般勘定へのシフトあるいは
受託保証型 DB の導入などが要因であると考えられます。
(2)掛金建て(確定拠出型)制度
確定拠出年金(企業型)については、制度施行から 10 年を経過したのを機に、運営管理機関連絡協議会、
信託協会および生命保険協会の連名による「確定拠出年金(企業型)の統計概況」が 2012 年から公表さ
れています。2016 年 3 月末現在の概況は、規約数 4,880 件(前年度比+ 308 件)、資産額 9 兆 5,315 億
円(前年度比+ 7,312 億円)、加入者数 550 万人(前年度比+ 43 万人)となっています。
<図表 2 >確定拠出年金(企業型)の統計概況(2016 年 3 月末現在)
規 約 数
(件)
確定拠出年金
(企業型)
4,880
対前年比
増 減 率
6.9%
資 産 額(時価)
(億円)
95,315
対前年比
増 減 率
5.5%
加入者数
(万人)
550
対前年比
増 減 率
8.4%
(注 1)記録関連運営管理機関 4 社(SBI ベネフィット・システムズ(株)、損保ジャパン日本興亜 DC 証券(株)、
日本インベスター・ソリューション・アンド・テクノロジー(株)、日本レコード・キーピング・ネットワ
ーク(株))で管理されているデータを基に、運営管理機関連絡協議会が作成したもの。
(注 2)制度開始ベースであるため、厚生労働省の公表計数(承認ベース)とは必ずしも一致しない。
(出所)運営管理機関連絡協議会・信託協会・生命保険協会「確定拠出年金(企業型)の統計概況」(平成 28 年 3
月末現在)
年度末
2001
02
03
04
05
06
07
08
09
10
11
12
13
14
15
<図表 3 >企業年金の制度数の推移(2001 年度末以降)
確定拠出年金(企業型)
厚生年金基金
確定給付企業年金
規 約 数
実施事業主数
70
─ 1,737
─ ─ ─ ─ ─ 361
─ 1,656
(291)
(▲81)
─ 15
─ 845
─ 1,357 (▲299)
(484)
2,379
316
(301)
1,402
838 (▲519)
(557)
4,350 (1,971)
992
(676)
1,866
687 (▲151)
(464)
6,664 (2,314)
1,430
(438)
2,313
658
(447)
(▲29)
8,667 (2,003)
1,940
(510)
2,710
626
(397) 10,334 (1,667)
(▲32)
3,098 (1,158)
3,043
617
(333) 11,706 (1,372)
(▲9)
5,006 (1,908)
3,301
608
(258) 12,902 (1,196)
(▲9)
7,407 (2,401)
3,705
595
(404) 14,628 (1,726)
(▲13) 10,044 (2,637)
4,135
577
(430) 16,440 (1,812)
(▲18) 14,989 (4,945)
4,247
(888)
560
(112) 17,328
(▲17) 14,697 (▲292)
4,434
531
(187) 18,393 (1,065)
(▲29) 14,337 (▲360)
4,635
444
(201) 19,832 (1,439)
(▲87) 13,884 (▲453)
4,964
256 (▲188) 13,690 (▲194)
(329) 22,574 (2,742)
(注 1)( )内は、対前年度比の増減数。
(注 2)厚生労働省および企業年金連合会の集計値であり、図表 1 および図表 2 の数値とは必ずしも一致しない。
(出所)企業年金連合会『企業年金に関する基礎資料』を基に、りそな年金研究所作成。
−2−
3. 企業年金制度の推移(時系列)
(1)制度数の推移
わが国の企業年金における 2001 年度以降の制度数の推移をみると(図表 3)、厚生年金基金は、2002
年の代行返上の解禁を受けて 2003 ∼ 04 年度にかけて急激に減少し、現在もなお減少基調にあります。
2015 年度は、前述の改正厚生年金保険法の施行を受けて減少傾向に拍車がかかっており、次年度以降も
同様の傾向が続くものと推察されます。確定給付企業年金は、制度創設以降順調に普及してきたものの、
適格退職年金からの移行措置が終了した 2012 年度末を機に、制度数が減少に転じています。
一方、企業型 DC は、制度創設以降右肩上がりで普及しています。適年移行が終了した 2012 年度末以
降は、規約数および実施事業主数ともに件数の伸びがやや鈍化したものの、2015 年度末時点の実施事業
主数は 22,574 件(前年度比+ 2,742 件)と過去最大の増加幅となりました。
(2)加入者数の推移
企業年金の加入者数の推移は、図表 4 の通りです。2001 年の確定給付企業年金法および確定拠出年金
法の制定により適年移行・代行返上が開始されたのを機に、確定給付企業年金および確定拠出年金(企業
型)の加入者数が徐々に増加しています。2012 年度末には、確定拠出年金(企業型)の加入者数が厚生
年金基金の加入員数を上回るに至っています。
しかし、2015 年度末の企業年金全体の加入者総数は約 1,597 万人と、ピーク時(1995 年度末で
2,571 万人)の約 6 割の水準にまで減少しています。とりわけ、厚生年金基金の加入員数の減少幅が、確
定給付企業年金および確定拠出年金(企業型)における加入者増加分を上回っています。企業年金の加入
者数の減少基調が今後も継続し、企業年金がごく一部の層にしか適用されない制度となってしまうと、税
制優遇という企業年金制度の立法基盤にも影響するのではないかとの指摘もあり、その動向にはなお注意
を払う必要があります。
<図表 4 >企業年金の加入者数の推移(2001 年度末以降)
(万人)
2,005
2,000
1,500
1,000
1,933
1,819
917
1
859
33
778
71
500 1,087 1,039 835
0
3
2001 02
135
03
適格退職年金
1,709 1,657 1,678 1,699 1,697 1,694 1,673 1,659 1,656 1,657 1,648
655
126
569
173
507
219
443
349
271
311
478
466
250
340
456
1,597
126
373
447
確定拠出年金(企業型)
厚生年金基金
422
439
464 505
548
437
420
405 361
254
615
531
522
570
801
796
788 782
795
314
506
727
430
647
384
04
05
06
07
08
09
10
11
12
13
15
14
確定給付企業年金
(年度末)
(注 1)2014 年度までは、厚生労働省の集計値。
(注 2)2015 年度は、厚生年金基金および確定給付企業年金は信託協会・生命保険協会・JA 共済連「企業年金(確
定給付型)の受託概況」、確定拠出年金は厚生労働省「確定拠出年金の施行状況」による。
(出所)企業年金連合会『企業年金に関する基礎資料』を基に、りそな年金研究所作成。
(3)資産残高の推移
企業年金の資産残高の推移は、図表 5 の通りです。2015 年度末の企業年金の資産残高総額は 91 兆
6,387 億円と、5 年ぶりに減少に転じました。とはいえ、資産規模ではわが国の名目 GDP(2015 年度速
報値で約 500.3 兆円)の 20% 弱の水準を維持しています。
制度別にみると、給付建て(確定給付型)制度である厚生年金基金および確定給付企業年金の資産規模
が全体の約 9 割を占めている一方、確定拠出年金(企業型)は、資産規模の面ではまだ存在を発揮するに
は至っていないのが現状です。
−3−
企業年金の受託概況について(2016年3月末現在)
<図表 5 >企業年金の資産残高の推移(2001 年度末以降)
(兆円)
100
80
60
40
20
0
99.8
94.5
90.1
93.1
86.3
84.7
10.0
91.6
8.5
79.3 78.4 78.8
9.5
7.4
73.1
11.7
3.1
70.5 6.4
3.1
6.5
31.3
3.7
24.2
4.9 5.5
20.7 17.2 2.3
30.9
22.7
8.1
28.9
21.4
4.0
26.9
0.6 1.2
38.9
29.0 27.9
32.7
0.1
37.5
25.6
38.5
50.0
58.5 57.9
57.0 51.2
50.0 53.6
42.0 45.3
39.0
36.9
36.7 32.9
33.0
21.7
0.4 8.1
79.7
79.3 78.6
2001 02
03
04
15.6
17.3
05
06
07
08
09
10
11
12
13
14
適格退職年金
確定拠出年金(企業型)
厚生年金基金
確定給付企業年金
15
(年度末)
(注 1)2014 年度までは、厚生労働省の集計値。
(注 2)2015 年度は、厚生年金基金および確定給付企業年金は信託協会・生命保険協会・JA 共済連「企業年金(確
定給付型)の受託概況」、確定拠出年金は運営管理機関連絡協議会・信託協会・生命保険協会「確定拠出年金
(企業型)の統計概況」による。
(出所)企業年金連合会『企業年金に関する基礎資料』を基に、りそな年金研究所作成。
4. その他の動向
(1)個人型確定拠出年金(個人型 DC)の概況
個人型確定拠出年金(個人型 DC)の加入者数の推移は、図表 6 の通りです。2015 年度末時点は、第 1
号加入者(自営業者等)が 70,373 人(前年度比+ 7,439 人)
、第 2 号加入者(企業年金のないサラリーマ
ン等)が 187,206 人(同+ 37,196 人)、合計で 257,579 人(同+ 44,635 人)となりました。
個人型 DC は、2014 年 12 月の与党税制改正大綱の公表や 2015 年 4 月の「確定拠出年金法等の一部を
改正する法律案」の国会提出等により大きく注目を集め、加入者数・登録事業所数ともに 3 年連続で過去
最高の増加幅を記録しています。同法案が本年 5 月に可決・成立したことを受け、来年(2017 年)1 月
から個人型 DC の加入対象が全ての公的年金被保険者に拡大されることから、今後ますます加入者数が増
加することが見込まれています。
<図表 6 >確定拠出年金(個人型)の加入者数の推移
(人)
257,579
250,000
第2号加入者
200,000
150,000
100,000
50,000
0
212,944
第1号加入者
183,543
158,209
187,206
138,575
124,906
150,010
112,063
126,410
101,201
93,036
107,213
80,081
92,280
81,339
63,303
70,861
55,464 62,328
46,066
46,581
35,196
443 13,995 28,225 24,920
70,373
50,996 57,133 62,934
140 6,948 14,871
37,572 38,873 41,202 43,567 46,295
33,500
28,107
303 7,047 13,354 21,146
2001
02
03
04
05
06
07
08
09
(年度末)
10
11
12
(出所)厚生労働省「確定拠出年金の施行状況」を基に、りそな年金研究所作成。
−4−
13
14
15
(2)確定拠出年金(企業型)におけるマッチング拠出の動向
一方、確定拠出年金(企業型)において 2012 年 1 月より実施が可能となったマッチング拠出(従業員
拠出)は、2016 年 3 月末で 1,669 規約・6,139 事業所で実施されています。同時点の全実施事業主数に
占める導入割合は 27.2% となっており、2015 年以降はマッチング拠出の導入がやや鈍化している様子が
うかがえます(図表 7)。
<図表 7 >確定拠出年金(企業型)におけるマッチング拠出の実施状況(2012 年以降)
(件)
26.5% 27.2% 27.2%
企業型DC実施事業主数
24.5% 25.3%
マッチング拠出導入事業主数
25,000
20.8% 21.4%
マッチング拠出導入割合
(右軸)
20,000
15.7%
17.0%
25%
22.4% 23.1%
18.2%
20%
13.9%
15,000
15%
11.1%
21,272 22,574
20,232 20,849
18,393 18,675 19,004 19,233 19,832
6,139
17,806
17,602
17,446
17,328
16,867
16,440 5.9%
5,535 5,785
16,741
3,827 4,002 4,252 4,442 4,849 5,118
5,000
2,732 2,984 3,247
1.2%
1,525 1,871 2,405
984
199
0
3月末 6月末 9月末 12月末 3月末 6月末 9月末 12月末 3月末 6月末 9月末 12月末 3月末 6月末 9月末 12月末 3月末
10,000
16,628
9.1%
2012年
2013年
2014年
2015年
10%
5%
0%
2016年
(注 1)マッチング拠出導入割合(%)= マッチング拠出導入事業主数 / DC 実施事業主数
(注 2)厚生労働省の集計値であり、図表 2 の数値とは必ずしも一致しない。
(出所)厚生労働省「企業型年金の運用実態について」を基に、りそな年金研究所作成。
(3)厚生年金基金の解散・代行返上の状況
前述の通り、2014 年 4 月より施行された改正厚生年金保険法(公的年金制度の健全性及び信頼性の確
保のための厚生年金保険法等の一部を改正する法律)を受けて、2014・15 年度の 2 年間で 249 基金が解
散、28 基金が代行返上しています。しかし、解散した 249 基金のうち特例解散措置を利用した基金は 58
基金と、解散基金全体の 2 割強に留まっています。ここ数年来の資産運用環境の好転を受けて、基金の財
政が健全化して特例解散措置の利用要件である「代行割れ」状態を脱した基金が増加したことが要因と考
えられます。
また、厚生年金基金における解散または代行返上の方針決定状況は、図表 8 の通りです。施行当初(2014
年 4 月)の段階では、解散も代行返上も選択しない「方針未定」の基金が約半数を占めていましたが、時
間の経過とともに方針を決定する基金が増加し、2016 年 4 月末時点で方針を決定していないのは 19 基金
となっています。
<図表 8 >厚生年金基金の解散・代行返上の方針決定状況(2014 年 4 月以降)
(件)
500
400
526 519 516
510 508 499
494 485 483
193 182
262 242 230 214
36 41
45 48
57 58
444 439
117 111 106
103 102 61
81
300
方針未決定
471 469
84
55
代行返上内諾
420 419
53 49
87 89
89 103 102 102 104
397 395
47
解散内諾
377 369
44 41
102 105
29
107 109
341 340
29
28
109 110
320 320
28
26
256 245
109 111 22 19
200
100
296 290 290 279 278 280 282 265
259
266 248 246
228 236 241 248 258
229 231 203 202
183 183
112 107
122 119
0
4月 5月 6月 7月 8月 9月 10月 11月 12月 1月 2月 3月 4月 5月 6月 7月 8月 9月 10月 11月 12月 1月 2月 3月 4月
2014年
2015年
(出所)厚生労働省「厚生年金基金の解散・代行返上の状況」を基に、りそな年金研究所作成。
−5−
2016年
企業年金の受託概況について(2016年3月末現在)
(4)中小企業退職金共済(中退共)の概況
中小企業退職金共済(中退共)の共済契約者数(加入企業数)および被共済者数(加入者数)の推移は、
図表 9 の通りです。2015 年度末時点では、加入企業数 362,092 件(前年度比+ 178 件)、加入者数 330
万 459 人(前年度比+ 38,754 人)となっています。
加入企業数は、2001 年度末以降一貫して減少基調にありましたが、2015 年度末は 15 年ぶりに微増に
転じました。加入者数は、適年廃止に伴う移行措置が終了した 2012 年度以降は減少傾向にありましたが、
2014 年 4 月からの改正厚生年金保険法の施行により、解散基金に係る残余財産を中退共に移行すること
が可能となったことから、再び増加に転じています。
<図表 9 >中小企業退職金共済の加入企業数・加入者数の推移(2001 年度以降)
(万件)
42.0
(万人)
40.6
40
39.6
38.8
38.5
38.2
37.9
37.4
37.0
36.8
30
266
260
261
264
276
284
291
295
302
314
36.7
36.4
36.2
36.2
36.2
325
324
324
326
330
400
300
200
20
共済契約者数
100
10
被共済者数(右軸)
0
0
2001
02
03
04
05
06
07
08
09
(年度末)
10
11
12
13
14
15
(注)「共済契約者」は加入企業を、「被共済者」は加入者数をそれぞれ表す。
(出所)勤労者退職金共済機構「中小企業退職金共済事業概況」を基に、りそな年金研究所作成。
(りそな年金研究所 高田 貴基)
−6−
定年延長に伴う確定給付企業年金の制度変更について
りそなコラム
定年延長に伴う確定給付企業年金の制度変更について
第 70 回のテーマは、定年延長に伴う規約型確定給付企業年金(規約型 DB)の制度変更に関する、とある
信託銀行の営業マン「A さん」とその上司「B 課長」との間のディスカッションです。
Aさん:規約型 DB を実施している取引先の C 社では、現在、社員の定年年齢を 60 歳から 65 歳まで延長
することを検討しています。現在の C 社の DB 制度の老齢給付金(年金)は 60 歳支給開始ですが、
今回の定年延長に伴い、65 歳支給開始とする制度変更をご提案したいと考えています。
B 課長:なるほど、A さんは、定年延長の制度変更案件を担当するのは初めてでしたね。定年延長では、
どのような点に留意しなくてはならないと考えていますか。
Aさん:はい、私がお客さまにお伝えしたいと考えていることをまとめたのが、表 1 です。
<表 1 >定年延長の制度変更における留意点
60歳代前半の 公的年金の支給年齢が引き上げられていることに鑑み、60歳以上65歳到達前に退職
した従業員については、退職時から老齢給付金(年金)の支給を可能とすること。
退職時支給
掛金変更の
可能性
制度変更に伴い、数理計算を行い、掛金率も変更となる可能性があること。
退職事由の
取扱い
60歳から65歳の間で退職する場合に、定年退職と同等の給付とするのか、あるい
は自己都合退職扱いとするのか等を検討する場合があること。
社内規程の
整備
確定給付企業年金制度の規約変更以外にも、退職金規程の変更など、必要な手続
きがあること。
B課長:いいですね。良くまとまっていると思いますよ。
Aさん:ありがとうございます。また、C 社のニーズの 1 つに、「従業員が生きる平均的な年齢まで、企業
年金からの年金の給付を続けてあげたい。それにより、公的年金の給付と相まって従業員の老後
の生活の安定に寄与したい」というご要望があります。現在の C 社の DB 制度では、年金の支給
期間については、裁定時、すなわち 60 歳到達時に、「10 年支給」若しくは「15 年支給」のどち
らかを受給者に選択してもらうことになっています。C 社の DB 制度の支給開始年齢を 65 歳に変
更すれば、日本人の男性の平均寿命は 80 年ですから、「15 年支給」を選択すれば、上記のニー
ズを満たせる可能性が高いと考えます。
B課長:C 社の理念は実に素晴らしいですね。しかし A さん、今のあなたの話を聞いていて、理解が少し
不十分だなと感じたことがあります。A さんは「平均寿命」と「平均余命」の違いについて、正
しく説明できますか。
Aさん:「平均寿命」と「平均余命」の違いですか ?・・・恐れ入りますが、どちらも同じような意味で捉
えていて、両者の違いについて深く考えたことがありませんでした。
B課長:確かに、
「平均余命」と「平均寿命」については、日常会話でも誤った認識のもと使われているこ
とが多く、正しく理解している人は少ないように感じています。年金を語る上では、自分が何歳
まで生きるのかという視点は非常に重要ですが、その際に「平均余命」と「平均寿命」の違いに
ついての理解は必須なので、詳しく説明しましょう。
まず、両者の違いを簡単に整理すると、表 2 のようになります。
<表 2 >平均余命と平均寿命の違い
平均余命
ある年齢の人がその後何年生きることができるかの平均値
平均寿命
0歳児の平均余命
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定年延長に伴う確定給付企業年金の制度変更について
Aさん:なるほど、つまり、平均寿命は 0 歳児のみに使う言葉で、平均余命の一種ということですね。
B課長:その通りです。では、上記の説明を頭に入れてもらいつつ、表 3 の生命表を見てください。それ
ぞれの年齢における平均余命が男女別に列挙されていますが、この表を見て、何か気づくことは
ありませんか ?
<表 3 >主な年齢の平均余命(2014 年)
年 齢
平均余命(男性)
平均余命(女性)
0歳(平均寿命)
80.50年
86.83年
60歳
23.36年
28.68年
65歳
19.29年
24.18年
70歳
15.49年
19.81年
(出所)厚生労働省「平成 26 年簡易生命表」 (http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/life/life14/)
Aさん:そうですね。今まで私は、日本人男性の平均寿命は約 80 年だから、70 歳時点の男性の平均余命
は約 10 年だと考えていました。しかし、上記の生命表を見ると、70 歳時点の男性の平均余命は
約 15 年となっていますね。この 5 年の違いは、どこから生じているのですか ?
B課長:今の A さんの質問は、非常に本質的なものですね。例えば、0 歳の男性を 10 万人集めたとしま
しょう。この 10 万人の中には、100 歳を超えて長生きする人もいれば、20 歳に達する前に不幸
にして亡くなる方もいるでしょう。それらの平均を 0 歳時点で取った余命が、80.50 年と推測さ
れるのです。一方、70 歳の男性を 10 万人集めた場合、この 10 万人の集団は、0 歳から 70 歳ま
で生き延びてきたという実績があるわけですから、0 歳児の 10 万人と比較すると、そのぶん生来
の体の強さが備わっている集団であると言えます。
Aさん:だから、70 歳の集団は、0 歳時点の平均余命である 80.50 年を超えて生きる可能性が高いという
ことなのですね!
B課長:その通りです。このあたりの話を厳密に突き詰めると、どうしても数学的あるいは統計学的な話
をしなくてはならないので割愛しますが、今の A さんの理解で問題ないと思いますよ。
Aさん:ありがとうございます。大変勉強になりました。
C 社の定年延長の制度変更について話を戻しますが、65 歳時点の男性の平均余命は約 20 年です
ので、年金の支給期間の選択肢として「20 年支給」を追加すれば、お客さまのニーズにより深く
応えることができますね。
B課長:よく気づきましたね。すごく良い着眼点だと思います。是非、C 社にご提案して差し上げなさい。
検討の価値は十分にあります。
Aさん:ありがとうございます。是非、提案してみたいと思います。
B課長:頼もしいですね。期待していますよ。
企業年金ノート № 578
2016(平成28)年6月 りそな銀行発行
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