総合取引所:再論 ~早期実現に向けて - Nomura Research Institute

第237回NRIメディアフォーラム
総合取引所:再論
~早期実現にむけて~
2016年 6月14日
未来創発センター 戦略企画室
主 席 研 究 員
大崎 貞和
コンサルティング事業本部 金融コンサルティング部
上級コンサルタント
御竿 健太郎
目次
0.はじめに
1.未だに実現しない我が国の「総合取引所」
2.先細りの状況にある我が国の商品デリバティブ市場
3.商品分野単独による市場活性化の限界
4.総合取引所の必要性
5.総合取引所が実現しない理由
6.今こそ求められる総合取引所の早期実現
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2
0.はじめに
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0.はじめに
「総合取引所」 とは?
「総合取引所」とは?
証券(株式、株価指数等)
金融(金利、為替等)
商品(金属、エネルギー、農産物等)
を一体として取り扱うことのできる総合的な取引所
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4
0.はじめに
いまなぜ 「総合取引所」 なのか?
2016年は、我が国において「総合取引所」の実現を目指す上で転機となる年
・昨年来の原油価格乱高下による影響
・我が国の商品デリバティブ市場凋落
・電力先物、LNG先物等の新たな市場創設
・デリバティブ取引システム(J-GATE)の更改
・日米の国政選挙、TPP等のグローバル経済圏構想
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5
1.未だに実現しない我が国の「総合取引所」
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1.未だに実現しない我が国の「総合取引所」
近年、IT化の急速な発達と金融・資本市場のグローバル化を背景としながら、
世界規模で取引所の統合やグループ化が進行している。
世界のデリバティブ取引所ランキング(2015年)
米国
欧州
アジア
3,500
CME-G
CBOT
COMEX/
NYMEX
NSE
3,000
2,500
ISE
2,000
NYSE
ICE
Eurex
ユーロ
ネクスト
MOEX
1,500
1,000
NASDAQ
OMX
JPX
TFX
TOCOM
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取引所名
出来高
(百万枚)
1
CMEグループ
3,531
2
NSE(インド)
3,031
3
ドイツ取引所グループ
2,272
4
ICEグループ
1,998
5
モスクワ取引所
1,659
13
日本取引所グループ
30
東京金融取引所
48
35
東京商品取引所
24
361
・・・
500
300
順位
・・・
出来高(百万枚)
その他
(出所)報道記事、Futures Industry Association統計より野村総合研究所作成
7
1.未だに実現しない我が国の「総合取引所」
世界的な市場間競争の下で取引所の統合・グループ化が繰り広げられた結果、
世界の主要な取引所は証券・金融分野と商品分野を取り込み、すでに総合取引所化している。
世界の主要なデリバティブ取引所における収益構成(2015年)
0%
10%
20%
30%
40%
50%
60%
70%
証券・金融
80%
90%
100%
商品
CME
CMEグループ
グループ
株式,
19%
金利,
31%
為替,
7%
エネルギー,
23%
農産物,
15%
金属,
5%
その他, 1%
ICE
グループ
ICEグループ
エネルギー,
25%
金融,
67%
農産物・金属,
7%
その他, 7%
ドイツ取引所ドイツ取引所
グループ グループ
株価指数,
36%
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金利,
15%
オプション(ISE), その他金融,
20%
7%
商品,
15%
(出所)各社年次報告書より野村総合研究所作成
8
1.未だに実現しない我が国の「総合取引所」
我が国では、証券・金融分野においてようやく取引所と市場の統合・再編が完了。
日本取引所グループの発足と市場の統合・再編
2013/1/1
・日本取引所グループの発足
2013/7/16
・大阪証券取引所の現物市場を
東京証券取引所に統合
2014/3/24
・大阪証券取引所を「大阪取引所」に
商号変更
・東京証券取引所のデリバティブ市場を
大阪取引所に統合
日本取引所
グループ
日本取引所
グループ
日本取引所
グループ
東京証券取引所
大阪証券取引所
東京証券取引所
大阪証券取引所
東京証券取引所
現物
市場
現物
市場
現物
市場
現物
市場
現物
市場
デリバティブ
市場
デリバティブ
市場
デリバティブ
市場
デリバティブ
市場
デリバティブ
市場
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大阪取引所
デリバティブ
市場
(出所)野村総合研究所作成
9
1.未だに実現しない我が国の「総合取引所」
証券・金融分野と商品分野との一体化(総合取引所化)は未だ実現していない。
商品分野
証券・金融分野
監督機関
農林水産省・経済産業省
金融庁
法規制
商品先物取引法
金融商品取引法
取引所
商品取引所
金融商品取引所
金融商品取引所
取引市場
商品市場
金融商品市場
(派生)
金融商品市場
(現物)
取引商品
商品デリバティブ
金融デリバティブ
清算機関
商品取引清算機関
システム
取引システム
取引業者
商品取引業者
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現物
金融商品取引清算機関
取引システム
当業者
信用
取引システム
金融商品取引業者
(出所)野村総合研究所作成
10
1.未だに実現しない我が国の「総合取引所」
我が国の主要な取引所は、依然として証券・金融分野と商品分野とで分断されている。
商品分野
証券・金融分野
主要取引所
東京商品取引所
(TOCOM)
東京金融取引所
(TFX)
日本取引所グループ
(JPX)
取引商品
商品デリバティブ
(金、白金、原油、
ゴム、ガソリン、農産物等)
金融デリバティブ
(為替証拠金取引(FX)、
株価指数証拠金取引(CFD)、
金利先物等)
金融デリバティブ
(225先物・mini・オプション
TOPIX先物・オプション、
NYダウ先物、REIT指数先物等)
現物
(株式、ETF、REIT等)
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(出所)野村総合研究所作成
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1.未だに実現しない我が国の「総合取引所」
「総合取引所」 は新しい考え方ではなく、すでに10年以上前から方向性が議論されてきたもの。
しかし、現在に至っても、我が国では未だ総合取引所が実現する見込みは立っていない
政府方針等における総合取引所に関する主な記載
年
政府方針等
経済財政改革の基本
(平成18年) 方針 2007
2006年
内容
取引所の競争力の強化
• 取引所において株式、債券、金融先物、商品先物など総合的に幅広い品揃えを可
能とするための具体策等を検討し、結論を得る。
取引所の相互乗入れのための枠組みの整備
金融・資本市場競争
(平成19年) 力強化プラン
2007年
2011年
(平成23年)
日本再生の基本戦略
日本経済再生に向け
(平成25年) た緊急経済対策
2013年
2016年
(平成28年)
• 我が国取引所の国際競争力を強化する観点から、取引所間の資本提携を通じたグ
ループ化等によって、株式、債券や金融デリバティブに加え、商品デリバティブ
までのフルラインの品揃えを可能とするための制度的土台を整備することが必要
である。
総合的な取引所(証券・金融・商品)の創設の推進
• 総合的な取引所の実現に向け、取引所や規制・監督の在り方等の論点について方
針を取りまとめた上で、2012 年の通常国会に向けた所要の法案の提出準備を行う。
アジア No.1 市場の構築
• 「日本総合取引所」の創設に向けた取組の促進
2-2.活力ある金融・資本市場の実現
日本再興戦略2016
⑤ 金融資本市場の利便性向上と活性化
• 市場参加者の利便性の向上や日本の取引所の国際競争力の強化といった観点から、
引き続き、総合取引所を可及的速やかに実現するとともに、電力先物・LNG 先物
の円滑な上場を確保するよう、積極的に取り組む。
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(出所)野村総合研究所作成
12
1.未だに実現しない我が国の「総合取引所」
 グローバルな取引所間競争により、世界規模で現物とデリ
バティブ、原資産の種類を超えて市場のグループ化や合併
等が行われている。
 我が国では、証券・金融分野での統合が実施され、効率的
かつ効果的な市場運営を目指している。
 一方で、証券・金融から商品までの分野を超えた総合的な
市場は、過去10年にわたって議論されつつも、未だ実現す
る見込みは立っていない。
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13
2.先細りの状況にある我が国の商品デリバティブ市場
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2.先細りの状況にある我が国の商品デリバティブ市場
世界のデリバティブ市場は2008年の金融危機後も依然として拡大傾向。
世界のデリバティブ取引(全体) 出来高推移
30,000
出来高(百万枚)
25,000
20,000
オプション
15,000
先物
10,000
5,000
0
2006
2007
2008
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2009
2010
2011
2012
2013
2014
2015
(年)
(出所)Futures Industry Association
15
2.先細りの状況にある我が国の商品デリバティブ市場
中でも、商品デリバティブ(農業、エネルギー、金属等)の拡大は目ざましく、
過去10年で規模は4倍以上に増加。
世界の商品デリバティブ取引 出来高推移
5,000
4,500
4,000
出来高(百万枚)
3,500
3,000
卑金属
2,500
貴金属
エネルギー
2,000
農産物
1,500
1,000
500
0
2006
2007
2008
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2009
2010
2011
2012
2013
2014
2015
(年)
(出所)Futures Industry Association
16
2.先細りの状況にある我が国の商品デリバティブ市場
商品デリバティブの割合は、2015年時点で全体の約2割を占めるまでに拡大。
世界のデリバティブ取引 種目別割合推移
100%
90%
80%
その他
卑金属
70%
貴金属
60%
エネルギー
農産物
50%
為替
40%
金利
個別株
30%
株価指数
20%
10%
0%
2006
2007
2008
2009
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2010
2011
2012
2013
2014
2015
(年)
(出所)Futures Industry Associationより野村総合研究所作成
17
2.先細りの状況にある我が国の商品デリバティブ市場
一方、我が国の商品デリバティブ市場は2003年以降に激しく縮小し、
直近ではピーク時(2003年)の約6分の1程度の水準にとどまる。
日本の商品デリバティブ取引 出来高推移
180
農産物等
160
出来高(百万枚)
140
120
100
80
工業品
60
40
20
0
2015
2014
2013
2012
2011
2010
2009
2008
2007
2006
2005
2004
2003
2002
2001
2000
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(年)
(出所)日本商品先物振興協会
18
2.先細りの状況にある我が国の商品デリバティブ市場
我が国商品デリバティブ市場の出来高の大半を支えるのは、貴金属商品(金・白金)。
原油、ゴム、ガソリン、農産物等がそれに続く。
東京商品取引所における商品別出来高(2015年)
工業品その他
農産物等
3%
4%
金ミニ
5%
金
32%
ガソリン
7%
東京ゴールド
スポット
8%
ゴム
10%
原油
15%
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白金
16%
(出所)東京商品取引所
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2.先細りの状況にある我が国の商品デリバティブ市場
かつて東京市場が世界一の出来高を誇っていた「金」は、今ではNYの5分の1以下にとどまる。
一方、上海市場は過去3年で東京の3倍程度の水準にまで成長。
商品デリバティブ取引 主要市場の出来高推移(金)
60
金先物, NYMEX
金先物, 上海先物取引所
50
出来高(百万枚)
金先物, 東京商品取引所
40
30
20
10
0
2006
2007
2008
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2009
2010
2011
2012
2013
2014
2015 (年)
(出所)Futures Industry Association、東京商品取引所公表データより野村総合研究所作成
20
2.先細りの状況にある我が国の商品デリバティブ市場
「ゴム」は、東京がアジア地域における価格指標として用いられるとされているが、
その取引量自体は減少し続けており、上海商品取引所の10分の1にも満たない水準にある。
商品デリバティブ取引 主要市場の出来高推移(ゴム)
180
ゴム先物, 上海先物取引所
160
ゴム先物, 東京商品取引所
出来高(百万枚)
140
120
100
80
60
40
20
0
2006
2007
2008
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2009
2010
2011
2012
2013
2014
2015
(年)
(出所)Futures Industry Association、東京商品取引所公表データより野村総合研究所作成
21
2.先細りの状況にある我が国の商品デリバティブ市場
「ガソリン」の例を見ても、2006年時点では同商品として世界で最も多い出来高を誇っていたが、
現在ではNYMEXにやはり10倍近い差をつけられている。
商品デリバティブ取引 主要市場の出来高推移(ガソリン)
45
RBOBガソリン先物, NYMEX
40
ガソリン先物, 東京商品取引所
出来高(百万枚)
35
30
25
20
15
10
5
0
2006
2007
2008
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2009
2010
2011
2012
2013
2014
2015 (年)
(出所)Futures Industry Association、東京商品取引所公表データより野村総合研究所作成
22
2.先細りの状況にある我が国の商品デリバティブ市場
「白金」は、現在においても東京商品取引所が出来高において世界のトップを誇る商品。
しかしながら、2016年1~5月の実績を見れば、ついに今年はNYと逆転する見込み。
商品デリバティブ取引 主要市場の出来高推移(白金)
12
白金先物, 東京商品取引所
10
白金先物, NYMEX
出来高(百万枚)
8
6
NYMEX 2016/1-5 1,458,777
4
2
TOCOM 2016/1-5 1,179,296
0
2006
2007
2008
2009
2010
2011
2012
2013
2014
2015
2016 (年)
※2016年1~5月の実績データをもとに、2016年の年間出来高を推計してグラフ記載
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(出所)Futures Industry Association、東京商品取引所公表データより野村総合研究所作成
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2.先細りの状況にある我が国の商品デリバティブ市場
我が国の商品デリバティブ市場の出来高減少は、すなわち、商品デリバティブ取引を手掛ける
投資家数や委託手数料の減少をも意味する。
日本の商品デリバティブ業界に関する各種データ(業者数、委託者数、外務員数、委託手数料額)の推移
業者数
100
90
委託者数
140,000
120,000
80
100,000
委託者数(人)
業者数(社)
70
60
50
40
80,000
60,000
30
40,000
20
20,000
10
0
300
250
委託手数料額(十億円)
外務員数(人)
2014
2013
2012
2011
(年度)
委託手数料額
350
12,000
2010
2009
2008
2007
2006
2005
14,000
2004
外務員数
16,000
2003
(年度)
2002
2015
2014
2013
2012
2011
2010
2009
2008
2007
2006
2005
2004
2003
2001
0
10,000
8,000
6,000
4,000
2,000
200
150
100
50
0
2014
2013
2012
2011
2010
2009
2008
2007
2006
2005
(年度)
2004
2015
2014
2013
2012
2011
2010
2009
2008
2007
2006
2005
2004
2003
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2003
0
(年度)
(出所)日本商品先物振興協会
24
2.先細りの状況にある我が国の商品デリバティブ市場
商品デリバティブ取引市場を担う、東京商品取引所自体の経営状況も芳しくない。
その財務数値を見ると、近年は慢性的に営業損失を計上する状態にある。
東京商品取引所 収支状況(営業収益、営業利益、経常利益)
4,000
営業収益
営業利益
経常利益
3,000
1,000
132
109
0
▲29
▲959
▲876
2013.3期
▲1,358
▲597
2012.3期
▲556
▲20
▲728
▲568
▲1,170
▲1,139
▲1,400
▲2,000
▲969
▲1,000
▲237
(単位:百万円)
2,000
▲3,000
2009.3期
2010.3期
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2011.3期
2014.3期
2015.3期
2016.3期
(出所)東京商品取引所IR情報
25
2.先細りの状況にある我が国の商品デリバティブ市場
 海外の商品市場が取引規模を拡大し続ける中、我が国の商
品デリバティブ市場は先細りの状況にある。
 その結果、取引を手掛ける投資家数や委託手数料も減少を
続け、取引参加者の経営を圧迫しており、業者数等も減少
している。
 さらに、商品デリバティブ取引を担う東京商品取引所自体
の経営状況も悪化しており、近年は慢性的に営業損失を計
上する状態にある。
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3.商品分野単独による市場活性化の限界
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3.商品分野単独による市場活性化の限界
東京商品取引所は、今年度からの中期経営計画(2016 年度~2018 年度)において、
総合エネルギー市場(LNG先物、電力先物等)の実現を掲げている。
東京商品取引所 「中期経営計画(2016 年度~2018 年度)」
項目
内容
1.外部環境に左右されない構造的
に安定した経営基盤の構築
(1)
(2)
(3)
(4)
(5)
収益拡大に向けた施策
財務基盤の強化に向けた取組み
商品先物取引の認知度及びイメージ向上に資する広報活動の強化
利便性及び信頼性向上に向けた取組み
リスク管理に係る規制強化に向けた取組み
2.総合コモディティ市場整備に向
けた取組みの推進
(1)
(2)
(3)
(4)
(5)
電力市場の創設
総合エネルギー市場の構築
JOE 市場の活性化
取引所ビジネス領域の拡大
将来の事業展開に向けた研究開発の推進
3.他取引所等との連携強化
(1) JPX との連携強化
(2) 海外取引所等との連携強化
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(出所)東京商品取引所
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3.商品分野単独による市場活性化の限界
LNG先物市場の可能性
低廉かつ安定的なLNG調達を進めていくために、
中長期的にはアジアにおける指標ガス価格が
形成されることが望まれている。
「LNG 市場戦略(2016/5/2発表)」:我が国に流動性の
高いLNG市場を構築し、2020年代前半までに日本を
LNGの取引や価格形成の拠点(ハブ)としていく事を目指す
現状ではLNGスポット取引の数量や、売り手・買い手の数も
限定的であることを考えれば、現実的には、LNG先物取引が
市場として活性化するまでには相当な時間を要する
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29
3.商品分野単独による市場活性化の限界
電力先物市場の可能性
2016年4月1日より、電力の小売が全面自由化。
これを受けて、2016年度中に電力先物取引を
開始するべく準備が進められている。
電力については、電力会社を中心に需要を大きく上回る
供給力が存在し、売り手・買い手ともに多数存在するため、
流動性のある電力現物市場が成立する可能性がある。
そのため、電力先物市場も活性化する可能性があるが、
まずは現物取引の活性化が重要であり、
現物取引の厚みの増加に向けた取組が期待される。
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30
3.商品分野単独による市場活性化の限界
 商品分野では、政府が総合エネルギー市場構想を掲げ、
LNG先物や電力先物等の新商品上場や、海外からの投資
家・取引参加者呼び込み等の努力がなされている。
 しかし、総合エネルギー市場へむけたLNG先物や電力先物
等の施策が、我が国商品デリバティブ市場の起死回生の一
手となるとまでは言い難く、その他の施策も含めて総合的
に取り組んでいく必要がある。
 世界的な競争環境や、アジア勢の台頭を念頭に置けば、残
された時間はそう多くない。
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4.総合取引所の必要性
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4.総合取引所の必要性
国内の商品デリバティブ市場を維持する意義
国内に商品デリバティブ市場は必要か?
国益という観点からいえば、単にグローバルな価格に追随
していくようなサテライト市場ではなく、真に価格形成機
能のある商品デリバティブ市場を国内に維持していくべき






市場が国内にあることによる物理的な取引の利便性
日本のタイムゾーンでの取引が可能である
海外市場の価格乱高下や海外当局による意図的・政治的な介入・規制への対抗
産業インフラとしての必要性
海外との競争基盤維持
我が国の金融センター機能の強化
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33
4.総合取引所の必要性
総合取引所化にあたっては、単に取引所や市場が一体化することだけではなく、
証券・金融と商品分野の各基盤を相互に活かすことが重要。
商品分野
証券・金融分野
監督機関
農林水産省・経済産業省
金融庁
法規制
商品先物取引法
金融商品取引法
取引所
商品取引所
金融商品取引所
金融商品取引所
取引市場
商品市場
金融商品市場
(派生)
金融商品市場
(現物)
取引商品
商品デリバティブ
金融デリバティブ
清算機関
商品取引清算機関
システム
取引システム
商品取引業者
取引口座
商品デリバティブ取引口座
投資家
当業者
当業者
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現物
金融商品取引清算機関
取引システム
取引業者
投資家
信用
取引システム
金融商品取引業者
先物・オプション口座
信用口座
証券総合口座
投資家
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4.総合取引所の必要性
証券・金融分野と商品分野の一体化メリット
流動性:市場に参加する投資家の視点からは、証券・金融分野のデリバティブ
取引と商品分野のデリバティブ取引との間に本質的な違いがあるとは言えず、
総合的な取引所の存在は取引の利便性向上につながる。
投資家:証券・金融分野と商品分野との一体化によって、口座管理や資金効率、
投資効率等においてメリットが大きい。
清算機関:市場参加者からすれば、すべてのデリバティブ取引において、信頼
性の高い1つの清算機関を利用するに越したことはない。
システム:大阪取引所が2016年7月19日に稼動させる次期デリバティブ取引シ
ステム(次期J-GATE)は東京商品取引所に利用サービスを提供することとなっ
ており、同年9月20日に利用開始の予定。
取引業者:規制・監督が一元化されることにより、書類開示や報告等の負担を
軽減することができ、証券・金融分野と商品分野との相互参入障壁を低くする
ことができる。
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4.総合取引所の必要性
商品分野の出来高が2003年から2015年にかけて6分の1に縮小する一方、
証券・金融分野の出来高は同期間で8倍に拡大している。
我が国のデリバティブ出来高推移(上場または取引所取引)
400
日本取引所グループ
350
東京金融取引所
東京商品取引所
出来高(百万枚)
300
250
200
→FXのレバレッジ規制強化
150
→店頭FXの税制変更
100
50
→不招請勧誘禁止
0
2015
2014
2013
2012
2011
2010
2009
2008
2007
2006
2005
2004
2003
2002
2001
2000
(年)
※日本取引所グループについては、大阪取引所への統合前の東京証券取引所における取引分を含む
※東京商品取引所については、東京商品取引所への統合前の東京穀物取引所における取引分を含む
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(出所)各取引所公表の統計情報より野村総合研究所作成
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4.総合取引所の必要性
金融デリバティブにおける海外投資家比率はおよそ75~80%を維持しており、
現物市場以上に、国外からの売買が活発に行われていることがわかる。
日経225先物(ラージ、ミニ)に占める海外投資家比率の推移
委託に占める海外投資家比率(%)
90
80
70
60
50
40
30
20
日経225先物
10
日経225mini
0
2015
2014
2013
2012
2011
2010
2009
2008
2007
2006
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(年)
(出所)日本取引所グループのデータより野村総合研究所作成
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4.総合取引所の必要性
海外の主要な取引所においては、当業者(生産者、商社、加工者、利用者等)だけではなく、
ファンドや金融機関等、証券・金融分野の投資家が商品デリバティブ取引に参加している。
主要商品における投資家比率(2016年5月10日現在の建玉ベース)
電力 - NYMEX
天然ガス - ICE
とうもろこし - CBOT
原油 - NYMEX
金 - COMEX
0%
10%
生産者、商社、加工者、利用者等
20%
30%
40%
スワップディーラー
50%
ファンド
60%
70%
80%
その他要報告者
90%
100%
報告不要者
※電力:PJM WESTERN HUB RT OFF 5 MW、天然ガス:ICE HENRY HUB、原油:CRUDE OIL, LIGHT SWEET
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(出所)CFTC/Commitments of Traders (COT)reportより野村総合研究所作成
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4.総合取引所の必要性
 国益という観点からいえば、商品分野の価格形成機能を国
内に維持すべきである。
 商品分野の価格形成機能を国内に維持するためには、国内
外から多様な投資家を呼び込み、流動性を確保していくこ
とが必要となる。
 そのためには、証券・金融分野と商品分野の一体化が必要
であり、それこそが総合取引所の目指す姿である。
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5.総合取引所が実現しない理由
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5.総合取引所が実現しない理由
金融商品取引法改正内容の概要(2009年)
商品分野
証券・金融分野
監督機関
農林水産省・経済産業省
金融庁
法規制
商品先物取引法
金融商品取引法
取引所
持株会社
取引所
商品取引所持株会社
3
1
取引市場
商品市場
取引商品
商品デリバティブ
清算機関
商品取引清算機関
金融商品取引所による
商品市場の開設
2
3
金融商品取引所と
商品取引所の
グループ化
4
金融商品取引清算機関
による商品取引債務
引受業の実施
金融商品取引所持株会社
2
商品取引所
1
金融商品取引所
金融商品市場
4
金融デリバティブ
金融商品取引清算機関
取引業者
商品取引業者
当業者
金融商品取引業者
投資家
投資家
当業者
投資家
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5.総合取引所が実現しない理由
金融商品取引法改正内容の概要(2012年)
商品分野
監督機関
証券・金融分野
農林水産省・経済産業省
規制・
監督
協議等
5
金融庁
法規制
商品先物取引法
金融商品取引法
取引所
持株会社
商品取引所持株会社
金融商品取引所持株会社
取引所
商品取引所
取引市場
商品市場
取引商品
商品デリバティブ
清算機関
商品 2
金融商品市場
市場
取引業者
商品取引業者
当業者
3
投資家
投資家
当業者
商品
金融デリバティブ
デリバ
金融商品取引清算機関
4
金融商品取引業者
総合的な取引所投資家
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金融商品取引所と
商品取引所の合併
2
金融商品取引所による
商品関連市場デリバ
ティブに関する規定
3
金融商品等の定義
4
取引参加者の規定
5
農林水産大臣及び
経済産業大臣
との協議等
商品
金融商品取引所
取引所
1
商品取引清算機関
1
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5.総合取引所が実現しない理由
農林水産大臣及び経済産業大臣との「協議等」の内容 (金融商品取引法第194条の6の2、3)
 内閣総理大臣は、金融商品取引所、金融商品取引清算機関等に対し、次
に掲げる処分を行う場合には、あらかじめ、商品市場所管大臣と協議し、
その同意を得なければならないこととする。
 商品関連市場デリバティブ取引を行う金融商品市場を開設しようとする者に
対する免許
 金融商品取引所に対する、商品等に係る上場廃止命令等
 金融商品取引所に対する、商品関連市場デリバティブ取引の種類及び期限、
商品の受渡しに関する事項並びに商品関連市場デリバティブ取引の種類ごと
の商品等に関する細則に係る業務規程の変更の認可
 ・・・
 内閣総理大臣は、次に掲げる処分を行う場合には、商品市場所管大臣に対して、
あらかじめ、通知することとする。
 金融商品取引法第161条の規定による内閣府令であって商品関連市場デリバ
ティブ取引に関する事項を定めたものに違反した金融商品取引業者等又は取
引所取引許可業者に対し、業務停止命令等を行う場合
 ・・・
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5.総合取引所が実現しない理由
現在の状況(2016年6月)
商品分野
証券・金融分野
監督機関
農林水産省・経済産業省
法規制
商品先物取引法
×
協議等
×
規制・
監督
金融庁
金融商品取引法
認可
取引所
持株会社
商品取引所持株会社
金融商品取引所持株会社
優先
取引所
総合エネル
商品取引所
ギー市場
取引市場
電力先物
商品市場
LNG先物
取引商品
商品デリバティブ
清算機関
商品取引清算機関
商品
金融商品取引所
取引所
未実現
商品
金融デリバティブ
デリバ
金融商品取引清算機関
取引業者
商品取引業者
当業者
投資家
投資家
当業者
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商品
金融商品市場
市場
金融商品取引業者
未実現
投資家
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5.総合取引所が実現しない理由
 2度の金融商品取引法改正を経てもなお、規制・監督を一元
化するための手段は依然として限定されている。
 さらに、現在では「総合エネルギー市場」を確立すること
を優先課題として位置づけ、総合的な取引所の実現はその
次の段階としている。
 そのため、議論から10年以上が経過し、世界的な競争環境
が激変する中にあっても、総合的な取引所は実現の目処す
ら立っていない。
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6.今こそ求められる総合取引所の早期実現
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6.今こそ求められる総合取引所の早期実現
総合取引所の早期実現が必要な理由
総合エネルギー市場の完成を待ってから総合取引所化を進
めたのでは、時すでに遅しという事態にもなりかねない。
国内の商品デリバティブ市場を「救済」せざるを得ない状
態になってから総合取引所化を進めたとしても、国内の
商品デリバティブ市場を再活性化できる可能性は低い。
これまでの複数回にわたる閣議決定や成長戦略等への記載、
そして過去の金融商品取引法改正における立法趣旨を
踏まえれば、強力な政治的リーダーシップの下であれば
総合取引所化の推進は今すぐにでも可能。
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6.今こそ求められる総合取引所の早期実現
世界の競争環境や市場環境が速いスピードで変化する今、総合取引所化への道筋を一意に限定する
必要はなく、我が国全体の市場活性化を図る道筋を探るべき。
商品分野
証券・金融分野
監督機関
農林水産省・経済産業省
法規制
商品先物取引法
TOCOMによる
取引所
持株会社
海外取引所との提携
協議等
規制・
監督
金融庁
金融商品取引法
認可
商品取引所持株会社
JPX単独による
金融商品取引所持株会社
商品市場の開設
取引所
総合エネル
商品取引所
ギー市場
商品
金融商品取引所
取引所
取引市場
電力先物
商品市場
LNG先物
商品
金融商品市場
市場
総合エネルギー
取引商品
市場の開設
清算機関
取引業者
合併による
総合取引所化
商品取引清算機関
商品デリバティブ
商品取引業者
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当業者
商品
金融デリバティブ
デリバ
金融商品取引清算機関
金融商品取引業者
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