2016 年 6 月 15 日 日 本 銀 行 金融機構局金融高度化センター PFI1・PPP2に関する地域ワークショップ(第7回)の模様 日本銀行では、2015 年 10 月 27 日に PFI・PPP に関する地域ワークショップの 第 7 回会合を長野県松本市において以下のとおり開催した。 日 時:2015 年 10 月 27 日(火) 会 場:松本商工会議所 <プログラム> ▼ 開会挨拶 岡本 宜樹(日本銀行 松本支店長) ▼ プレゼンテーション 「公有資産マネジメント・PPP/PFI 活用による地域の持続的経営へ向けて」 足立 慎一郎 氏 (日本政策投資銀行 地域企画部 PPP/PFI 推進センター 課長) 「公民連携ファイナンスの展開」 北村 佳之(日本銀行 金融機構局 金融高度化センター 企画役) 「民都機構の『出資』制度を活用した公民連携事業について」 福井 誠 氏(一般財団法人民間都市開発推進機構 業務第二部長) ▼ 自由討議 <主な参加機関> 金 融 機 関 :八十二銀行、長野銀行、松本信用金庫、上田信用金庫、諏訪 信用金庫、飯田信用金庫、アルプス中央信用金庫、長野県信 用組合、長野県信用農業協同組合連合会 地方公共団体:長野県、長野県警察本部、長野市、松本市、上田市、須坂市、 小諸市、中野市、塩尻市、立科町、高森町、上松町、中川村 1 Private Finance Initiative の略。公共施設等の建設、維持管理、運営等に民間の資金、経営 能力及び技術的能力を活用することにより、同一水準のサービスをより安く、又は、同一 価格でより上質のサービスを提供する手法。 2 Public Private Partnership の略。官民で協力して事業を行う形態。PFI は、PPP の一種と言 える。 1 ― プレゼンテーションの内容は配布資料を参照。 ― 自由討議のポイントは、以下のとおり。 1.長野県内における PFI・PPP 等への取組み ・ 長野県内では、①「長野市温湯地区温泉利用施設整備・運営 PFI 事業」 (実 施方針公表時期:平成 16 年 4 月)、②「大町市生ごみ堆肥化施設整備 PFI 事 業」(同:平成 23 年 3 月)、の PFI 事業 2 件が実施されている。 ・ 長野県内では PFI/PPP 事業がまだ少ないため、地域金融機関は専担者を置 いて取り組むまでには至っていないが、系列のシンクタンクで積極的に調査 を手掛けている先もみられる。 2.長野市温湯地区温泉利用施設整備・運営 PFI 事業 ・ 「長野市温湯地区温泉利用施設整備・運営 PFI 事業」では、須坂長野東イ ンターチェンジ(上信越自動車道)近くの綿内東山工業団地内に、平成 18 年 4 月に「湯~ぱれあ」という名称の温浴施設を建設した(事業手法:サー ビス購入型 PFI<BTO 方式>、事業期間:15 年間)。 ・ この施設のある温湯地区には、もともと市営の日帰り温泉施設(年間利用 者数 2~3 万人)があったが、経年劣化が進み、傷みが目立っていた。この 間、長野市がこの地区でボーリング調査を行ったところ、地下 1,050 メート ル地点から温泉3が湧出したため、平成 10 年から希望者への温泉水の無料配 布を開始した。 長野市では、この温泉の利用拡大策として複合施設の建設を検討し、平成 14 年度に PFI 導入可能性調査を行った。この調査では、年間利用者数を 5 万 人程度、VFM を 4.6%程度(8,700 万円程度)と見積もったが、利用者は地元 の中高年齢層が中心になるものとみられたことから、独立採算型 PFI として の組成はやや厳しいと判断し、サービス購入型 PFI とした。事業計画の策定 に際しては、市役所内にプロジェクトチームを設け、施設内容を検討した。 ・ この施設は、温浴施設(温泉・健康維持増進ゾーン<浴場、温水プールな ど>)、老人福祉センター(高齢者福祉ゾーン<会議室、多目的ホールなど 3 泉温 39.3℃のアルカリ泉。 2 >)、休憩ゾーン(足湯、飲食コーナー、売店など)から成る複合施設であ る(延べ床面積:約 2,360 ㎡)。 温浴施設では、水中運動プログラム、水中ウォーキング、アクアビックス などの指導を行っている。この点が地元の利用者(とくに中高年齢層)から 好評を得ており、近隣の民営温浴施設(スーパー銭湯、健康ランドなど)と の差別化に成功している。 ・ 一般的に公設の温浴施設(PFI 事業を含む)では、開業当初こそ利用者が 多いものの、時間の経過とともに新鮮さが失われて客足が遠のくほか、近隣 に民間の類似施設が開業すると、競合激化から経営が悪化しているケースも 少なくない。一方、本事業の年間利用者数は平均 14.5 万人程度であり、当 初見込み(年間 5 万人程度)を大幅に上回り、好調な経営が続いている。 ・ 本事業では、代表企業を務めていた地元の建設会社が平成 20 年に経営破 綻したため、構成企業のうち 1 社が代表企業を引き継いだ。過去に経営破綻 した PFI 事業(「タラソ福岡」、 「名古屋港イタリア村」)では、施設利用者数 が伸びず、事業採算性を確保できない中で、代表企業の経営破綻を受けて、 SPC も道連れとなって破綻した。一方、本事業は、事業採算性がきちんと確 保されているため、SPC 設立による倒産隔離効果が期待通りに発揮され、事 業続行に至っている。 3.長野県内での公共施設マネジメントへの取組み (1)松本市 ・ 松本市は、平成 27 年 7 月に「松本市公共施設白書」を策定し、公共施設 の現況把握を終えた。 松本市の公共施設は 1,547 か所であり、その建設時期は 3 つの時期(昭和 40 年代後半、昭和 50 年代後半、平成入り後)に集中している。松本市の住 民 1 人当たりの公共施設保有量は 4.43 ㎡であり、松本市と同規模の人口 10 ~25 万人の自治体(21 団体4)の 3.02 ㎡と比べるとやや多い。公共施設の耐 震化率は 87.4%(棟数ベース)であるが、このうち昭和 56 年以前(旧耐震 基準)に建設された建物の耐震化率は 59.6 パーセント(棟数ベース)にと どまっている。但し、この「耐震化率」には、プールの用具室など、「真に 耐震化が必要と言い難い建物」まで含まれている点には留意が必要である。 4 松本市を含まない。 3 松本市の公共施設白書には、「利用者 1 人当たりのコスト」や「市民1人 当たりのコスト」も掲載されている5。 ・ 今後、松本市では、施設の維持・保全に係る営繕費が毎年度 31 億円、改 修費・更新費が毎年度 71.7 億円、合せて毎年度 102.7 億円が必要となる。 市の予算額(毎年度 800~900 億円程度)の 1 割程度が公共施設の維持管理 に費やされるわけである。地方債の償還に毎年度 100 億円程度を充てている 中、公共施設の維持管理に巨額の費用を充て続けることが可能か、真剣に考 えなければならない。 ・ 公共施設白書の最終章(第 6 章)には「松本市公共施設マネジメント基本 方針」を掲載しており、維持管理・更新費用を圧縮する手法として、PFI・ PPP の必要性を謳っている。 ・ 松本市では、図書館に加えて、学校、公民館、児童センターにも図書室が それぞれ設けられている。また、公民館や学校にはそれぞれ調理室があるほ か、児童センターの遊戯室と体育館では、運動施設としての機能が重複して いる。このように機能の重複した施設は、今後、統合・集約化が必要となろ う。平成 28 年度から検討を開始する個別施設の再配置計画の中で、こうし た統合・集約化を具体的に検討していくことになる。 ・ 香川県まんのう町では、図書館や体育館について、学校施設と市民向け施 設を統合する PFI 事業(まんのう町立満濃中学校改築・町立図書館等複合施 設整備事業6)を実施した。この事業では、施設竣工後に工事の施工不良が発 覚するなど問題が発生しているが、「機能が重複している施設の統合・集約 化」というアイデアそのものは評価できるのではないか。 (2)上田市 ・ 上田市は、平成 27 年 6 月に「上田市公共施設白書」を策定した。現在は、 施設の総量削減(統廃合による集約化・複合化、譲渡等)やインフラ長寿命 化に向けた取組みを定めた「上田市公共施設マネジメント基本方針」の策定 に取り組んでおり、その中に PFI・PPP の活用を含めていく方針である。 5 平成 25 年度に計上された管理運営費(歳出額)を財産分類ごとに利用者数や人口総数で 除して算出したもの。 6 実施方針公表時期:平成 22 年4月。 4 (3)須坂市 ・ 須坂市では、平成 26 年度から、市内の約 90 の公共施設(学校、体育館、 動物園など)に、施設の維持管理に要する費用等を明示した A3 版のプレー トを設置している。 このプレートには、①年間の維持管理費(平成 24 年度ベース)、②維持管 理に当たる市職員のマンパワーと年間人件費、③当該施設に係る市民 1 人当 たりの維持管理費と職員人件費、④同じく利用者 1 人当たりの維持管理費と 職員人件費の負担額、⑤竣工後の経過年数、を記載し、公共施設に関する住 民の理解促進に努めている。 4.庁舎に関する PFI/PPP の導入可能性 ・ 市役所などの庁舎建替事業や耐震化改修事業は、総事業費に占める運営・ 維持管理費のウエイトが小さいうえ、収益施設の合築・併設の余地が限られ ていることから、VFM を確保しにくく、PFI/PPP 事業化しづらいのではない か。 ・ 庁舎建替事業については、大規模な収益施設が合築・併設されていない場 合でも、PFI 事業化されているケースがみられる。例えば、政府合同庁舎(盛 岡、熊本など)、京都市伏見区・左京区、岩手県紫波町、さいたま市大宮区 などの庁舎に加え、警察署・警察学校、消防署・消防学校、裁判所などの施 設整備事業も少なからず PFI として実施されている。こうした実績が少なか らず存在する以上、「庁舎整備事業は PFI 事業化しにくい」とは、一概には 言えないのではないか。 ・ 奈良県橿原市では、市役所庁舎に宿泊施設(ホテル)を合築する庁舎改築 PFI(八木駅南市有地活用事業7)に取り組んでいる。奈良県は著名な観光地 を多く擁しているものの、宿泊施設が少ないことから、宿泊者数が少ない。 橿原市では、庁舎建替費用の抑制にとどまらず、こうした「地域の抱える課 題」の解決策として、PFI 事業を活用したわけである。本件については、事 業採算性が確保されているため、官民ファンドの民間資金等活用事業推進機 構(PFI 推進機構)の支援対象として 3 億円の融資が実施されている。 ・ 7 東京都豊島区では、区庁舎の移転・建替事業を PPP で実施した。具体的に 実施方針公表時期:平成 26 年 4 月。 5 は、①旧庁舎跡地(本庁舎、分庁舎、公会堂の跡地)に定期借地権を設定し、 民間事業者から地代(25 年間分)を予め一括受領する、②区有地を中心とし て建設される再開発施設8は、1 階の一部および 3~9 階を区役所、1~2 階を 民間事業者の商業施設、11~49 階をマンションとする複合施設とする9、③ 区有地の権利変換で区が得たフロア(権利床)のみでは庁舎スペースが不足 するため、上記①の定期借地権の地代を原資として、再開発組合から余剰フ ロア(保留床)10を購入する、という事業スキームである。こうした手法を 採ったことにより、豊島区の新庁舎建設費は実質的にゼロに抑えられた。 ・ 神奈川県秦野市は、平成 20 年に市役所に隣接する駐車場内にコンビニを 誘致し、民間事業者から賃貸料収入を得ている。こうしたケースも、「庁舎 に収益施設を併設するタイプの PPP」と言えるのではないか。なお、このコ ンビニでは、夜間・休日を含め、市立図書館の貸出図書返却、住民票の取寄 事務11を取り扱っており、住民サービスの向上に貢献している。 5.公共施設マネジメントに関する住民理解 ・ 公共施設の統廃合は、程度の差こそあれ、住民サービスの縮減を伴わざる を得ないため、不利益変更として住民から反発を受ける可能性がある。しか し、自治体財政の厳しい現状を、時間を掛けて丁寧に説明していけば、最終 的には住民の理解を得られるのではないか。 ・ 住民に公共施設の統廃合計画を説明する際には、当該施設の利用実態を、 データを用いて示すことが不可欠である。「家の近くに施設があれば、何か と便利だから、とりあえず施設を残しておいてほしい」という漠然とした意 見が出やすい中で、「この施設が家の近くに無ければ、生活にどのような支 8 新庁舎建設予地の区有地(旧日出小学校と旧南池袋児童館の跡地)には、民間住宅地が隣 接しており、仮に区有地のみで新庁舎を建設すると、日影規制や斜線規制を受けて、庁舎 スペースの十分な確保が困難となるため、この住宅地を含めた再開発を行う必要があった。 9 新公会堂は旧公会堂跡地に建設される民間ビル内に設置される。 10 再開発組合は、地権者(豊島区、民間住宅地の地権者)に権利変換でフロア(権利床) を供与。その他のスペース(保留床)については、一部を庁舎用として豊島区に売却した ほか、分譲マンションとして区分所有権を一般向けに販売。 11 申請者はコンビニ店内の投入箱に封緘済みの住民票申請書を入れ、市役所職員がこれを 取り出して処理し、住民票を用意して、コンビニ店内の電子ロッカーに入れる。申請者は、 市役所から伝えられた暗証番号を入力して電子式ロッカーを開錠し、住民票を取り出す。 秦野市が考案した本スキームでは、コンビニ店員が住民票に触れず、申請者のプライバシー が保たれるため、わが国で初めて、コンビニ店での住民票取寄事務が可能となった。 6 障が出るのか」という点を、データに照らして、住民に確りと考えてもらう 機会を設けることが重要である。 ・ 住民は、メディアの報道等を通じて、自治体財政が厳しさを増しつつある 「方向性」はきちんと理解している。ただ、日々の生活の中では、以前と何 も変わらず、ゴミは定期的に収集されるし、水道の蛇口を捻れば水がきちん と出るし、トイレの水を流しても、汚水が逆流してくるわけではないため、 どうしても「肌感覚」では切迫性を感じにくい。だからこそ、公共施設白書 の漫画版冊子の作成・配布や出張説明会の開催など、自治体が地道な取組み を積み重ねていくことにより、住民に厳しさの「マグニチュード」を知って もらうことが大切である。 ・ 公共施設については、建設費として相当な金額が必要であることは誰でも すぐに理解できる。しかし、施設竣工後、馬鹿にならない金額の維持管理・ 運営費(人件費など)が毎年必要となってくることは、あまり知られていな い。 「建設したら、それでおしまい」ということではなく、 「施設が存続する 限り、少なからぬコストがずっと発生し続ける」という厳然たる事実を、デー タを示して、住民に丁寧に説明していくことが重要である。 6.その他 ・ 老朽化した公営住宅の建替事業を PFI で実施するケースが増えているが、 単純なリニューアルにとどまらず、収益施設を併設するケースもみられる。 例えば、徳島県営住宅集約化 PFI 事業12では、高層化した公営住宅13に独立採 算型の収益施設(サービス付き高齢者住宅および福祉施設等14)を併設して いる。一般的に公営住宅は近隣地域との交流が少なく、閉塞感が強いケース が多いが、収益施設の併設によって、近隣地域の住民が団地内に足を運ぶ機 会が増え、「地域に開かれた公営住宅」となる効果が期待される。 以 12 上 実施方針公表時期:平成 24 年 2 月。 13 老朽化した 12 団地(低層)を 3 団地(高層)に集約し、跡地を売却できたほか、高層化 に伴って津波避難ビルとしての利用も可能となった(団地の 4 階以上の廊下および屋上に 近隣住民 1,500 名を収容可能) 。屋上に設置した防災備蓄倉庫には、避難用品約 3 日分を備 蓄しているほか、災害時の電源としてポータブル発電機も設置している。 14 小規模多機能型居宅介護事業所、居宅介護支援事業所、訪問介護事業所、無床診療所な ど。 7
© Copyright 2025 ExpyDoc