英国「ブレグジット」の経済効果を巡る各機関の見方

景気循環研究所レポート
英国「ブレグジット」の経済効果を巡る各機関の見方
2016 年 6 月 15 日
現実味増す英国の EU 離脱
英国のEU離脱が、現実味を増してきた。直近の世論調査によると、離
脱を支持する人が残留を支持する人の割合を上回っている(調査機関大
手6社平均、残留48%、離脱52%、調査期間は6月3~15日)
。
英国が6月23日の国民投票で、EUからの離脱を決めた場合、英国政府は、
早ければ6月末のEU理事会で、正式にEUからの離脱の意向を示し、2年間
にわたる離脱交渉をスタートさせることになる。英国は、離脱交渉にお
いて、EUへの拠出金の停止や移民の流入を制限する権利を獲得する代わ
りに、EU単一市場へのアクセスを大きく制限されると考えられる。また、
仮に2018年頃に離脱協定が成立し、正式にEUから離脱しても、英国は、
引き続き欧州各国と2国間の自由貿易協定(FTA)の締結に向けて交渉し
なければならない。
離脱後の貿易協定次第で
は、英国経済に大きな悪
影響が及ぶ
これまで公表されている公的・民間の各機関の分析・試算結果を見て
みると、英国がEUから離脱した場合、英国経済は、EU単一市場へのアク
セスを制限されることで、マイナスの影響を受けるとの見方が多い。表1
では、英国がEUから離脱した場合、2030年時点のGDPが、離脱しなかった
場合と比べて、どの程度低い水準に止まるかを示したものである。シナ
リオ①では、英国がEUから離脱した後に、EU各国と個別にFTAを締結でき
嶋中 雄二
景気循環研究所長
鹿野 達史
景気循環研究所副所長
シニアエコノミスト
宮嵜 浩
シニアエコノミスト
03-6627-5132
なかったケース、シナリオ②は、EUから離脱後に、EU各国と個別にFTAを
締結できたケースを想定している。
民間調査、英国政府のいずれの研究でも、英国経済は、EU離脱後に、
悪影響が予想され、迅速にEU各国と2国間自由貿易協定を締結できない場
合、影響は甚大なものになると予想されている。
表1.英国が EU から離脱した場合の長期間の経済的影響
miyazaki-hiroshi@sc.mufg.jp
シナリオ①
シナリオ②
福田 圭亮
Open Europe
▲2.2%
▲0.8%
シニアエコノミスト
03-6627-5133
独IFO
▲3.0%
▲0.8%
英国政府
▲6.2%
▲3.8%
fukuda-keisuke@sc.mufg.jp
本レポートは、嶋中雄二の見方に基づ
き、宮嵜・福田が執筆を担当しています。
景気循環研究所
(注1)Open Europeは、欧州系シンクタンク
(注2)EUから離脱しなかった場合と比べた、2030年の時点の英国のGDP
(注3)シナリオ①は、EUから離脱した上、EU諸国と個別にFTAを結ばなかった場合
東京都千代田区大手町 1-9-2
(注4)シナリオ②は、EUから離脱後に、EU各国と個別でFTAを締結した場合
大手町フィナンシャルシティ
(注5)独IFOは、上記シナリオの他に、「EUからの離脱により、直接投資が減少、
生産性が低下した場合」、最大で▲14%成長率を下押しと推計。
グランキューブ
(資料)各種報道より三菱UFJモルガン・スタンレー証券景気循環研究所作成
1
2016 年 6 月 15 日
金融ショックで、世
界経済に大きな影響
OECD は、2016 年 6 月公表の世界経済見通しで、英国の EU 離脱に伴う金融
ショックを想定し、その世界経済に与える影響について分析を行っている。
が及ぶ可能性
OECD のシナリオでは、英国が EU から離脱することで、株や債券のリスク
プレミアムが大きく上昇(株価が下落し、金利は上昇)し、さらに、ポンド
の大幅減価が想定されている(詳細は図 1 脚注を参照)。図 1 によると、当
然ながら英国は、大幅なマイナスが想定されるわけだが、欧州はもちろんの
こと、主要新興国、日本、米国にも多大な影響が及ぶことが示されている。
足元では、既に、英国の EU 離脱への懸念から、金融市場に動揺が走ってい
る。6 月 23 日の英国の国民投票は、欧州金融危機に匹敵する経済インパクト
となる可能性を秘めている。
図1.ブレグジットによる金融ショックの実質 GDP への影響(2018 年時点)
(%)
0.0
-0.2
-0.5
-0.4
-0.4
-0.4
-0.6
-0.3
-1.0
-0.3
-0.3
-0.3
-0.2
-0.2
-0.1
-0.6
-0.7
-0.8
-0.3
欧州ショック
-0.7
英国ショック
-1.0
-1.2
-0.3
-1.4
-1.6
英国
欧州(高) 欧州(中) 欧州(低)
BRIICS
他OECD
日本
米国
(注 1)英国ショックとは、英国単独の金融ショックおよびポンドの下落による成長率の下押し。欧州ショックとは、英国を除く欧州地域
の金融ショックによる成長率の下押し。
(注 2)OECD のシナリオ:Brexit により、株のリスクプレミアムが 16 年後半から 17 年にかけて、150bp 上昇(訳者注:リスクフリーレート
を一定とすると株価は▲13%程度下落)、18 年の上昇幅は 100bp に縮小。英国長期債のリスクプレミアムが 2016 年に 20bp、
17 年に 50bp、18 年に 50bp 上昇すると想定。英国の貯蓄率が 16 年後半以降 1%上昇すると想定。ポンドが 16 年年央にドル
に対して▲10%減価し、その後徐々に戻し、17 年は▲6%、18 年は▲4%と想定。
(注 3)欧州(高)とは、英国と貿易面、金融面でつながりの強い国々、アイルランド、オランダ、ノルウェー、スイスの 4 カ国。欧州(中)は
、英国とのつながりが中程度の国、フランス、ドイツなど、9 か国。欧州(低)は、英国とのつながりが弱い国、チェコ、ハンガリー
など 11 か国。
(資料)OECD Economic Outlook 2016 より三菱 UFJ モルガン・スタンレー証券景気循環研究所作成
(以 上)
(16.6.15
「ブレグジット」の日本経済への影響については、別レポート(『鹿野達史の日本経済の視点』)
にて配信の予定です。
巻末に重要なお知らせを記載していますので、ご参照ください。
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福田)
2016 年 6 月 15 日
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