グリーンレポートNo.564(2016年6月号) 視 点 JAグループ地域生産振興:JA全農東京 八王子の新たな特産物づくりをめざして ∼JA八王子パッションフルーツ生産組合のモデル事業∼ JA全農東京では、地域生産振興の取り組みを進める この未経験作物づくりへの挑戦は、南国フルーツで なかで、新たな品目としてパッションフルーツに着目し、 「八王子の特産物をつくろう」という気運の高まりにつな その生産・販売モデル事業の構築に向けて、八王子市の がった。やがて若手グループが平成23年に「八王子パッ 若手グループが立ち上げた「JA八王子パッションフル ションフルーツ研究会」を発足して特産物づくりの活動 ーツ生産組合」を支援している。 が始まり、平成25年2月に「JA八王子パッションフル 八王子市は人口58万人(平成27年)を数え、多摩地 ーツ生産組合」が設立された。 区最大の都市であると同時に、農業粗生産額も26億円 JA全農東京では、JA八王子とともに、この活動を (平成24年)と都内一を誇っている。 支援し、未経験作物のパッションフルーツ栽培への挑戦 八王子市の農業は、野菜・果樹・水稲・花き・畜産・ が始まった。 酪農・椎茸(林業)など多様性に富んでいるが、 「八王 八王子に適した栽培技術を確立 子といえば○○」といった代表する特産物がこれといっ て見当たらなかった。そこで、たびたび東京の最高気温 栽培管理作業の省力化 を記録する「盆地で暑い八王子」という立地条件を活かし、 近年、パッションフルーツは全国各地で栽培されてお アマゾン原産の南国フルーツであるパッションフルーツ り、栽培技術に関する情報は数多くあるものの、八王子 で八王子の新たな特産物づくりをめざすことになった。 でのパッションフルーツ栽培には、いくつかの課題があ った。例えば、もともと生産が盛んで温暖な島しょ地区 未経験作物づくりへの挑戦 と八王子市では気象条件が全く異なるため、東京都南多 取り組みの背景、組織化への経緯 摩農業改良普及センターの技術支援のもと、八王子にお 東京都内のパッションフルーツ栽培は、温暖な島しょ けるパッションフルーツの新たな栽培技術の確立をめざ 地区(伊豆諸島・小笠原諸島)で盛んである。今回の取 すことになった。 り組みに至った経緯は、パッションフルーツ生産組合を 栽培技術の確立にあたって、克服しなければならない 立ち上げたメンバーのうちの1人が、小笠原諸島で行わ 最初の課題として、パッションフルーツに取り組んだ若 れた視察研修に参加した際、同島で盛んに栽培されてい 手グループの基幹作目は野菜、水稲、花き、植木、酪農な るパッションフルーツに出会ったことが契機となった。 どさまざまで、それらとの複合経営となるなかで、基幹 彼はパッションフルーツの魅力に惹かれて「八王子でも 作目に影響をあたえない栽培管理作業の省力化が求めら 挑戦してみよう」と考え、市内で試験栽培を開始した。 れた。 整枝法については、収量に優れる平棚仕立て(一般の ぶどう・なし・キウイフルーツ園に多くみられる平面水 平棚)の場合、上を向いたままの作業となるため肩や上 腕部への負担が大きく、高齢化が進むなかでの雇用労力 の確保という面でも大きな障害となっている。そのため、 授粉や整枝、摘葉などの作業労力の負担が少ない逆L字 仕立ての整枝法を採用した。また、近年の東京をはじめ とした関東地方の酷暑は、パッションフルーツにも多大 な影響をあたえている。酷暑における管理作業は、基幹 作目(夏の果菜類)とも競合し、その作業負担は非常に大 きい。最盛期の管理作業に支障をきたさないよう、今後 ▲アマゾン原産の南国フルーツであるパッションフルーツを 八王子の新たな特産品に は作業の省力化に向けた技術を開発していく必要がある。 4 グリーンレポートNo.564(2016年6月号) 現在、JA八王子パッションフルーツ生産組合では、 広くアピールするため、食べ方レシピの提案とともにパ 露地栽培が主体であるが、品質向上・計画性のある安定 ッションフルーツ生果実を使用したドリンク・スイーツ 生産に向けては、施設栽培の導入も視野に入れるべきで 類の試食販売会を開催し、マスコミ取材も入って、八王 あろう。 子市民へのお披露目は盛会のうちに終了した。 販売拡大に向けたPR活動など 次年度の試食販売会では、専用段ボールでの複数購入 ●生果実の魅力をアピール が目立ち、新たな八王子土産として贈答用の需要が年々 パッションフルーツはまだ知名度が低く、加工品やお 高まりつつあると感じた。 菓子などでは馴染みがあるものの、特に生果実としての ●加工品を開発し、都心にも進出 食べ方は提案していく必要がある。そこで、JA全農東 八王子パッションフルーツ生産組合では、加工品開発 京では、東京都南多摩農業改良普及センターと東京都農 に向けて、ジャム、ピューレを製造し、市内の洋菓子店 業振興事務所技術総合調整係の支援のもと「食べ方レシ を中心にさまざまな加工品(ケーキ類)が通年商品とし ピ」やPOP資材の作成、販売促進に関する各種講習会 を開催して、生食を中心としてPR活動をサポートして いる。 ●メディアに取り上げられ知名度がアップ 平成24年10月にはFМ放送で同組合のパッションフル ーツ生産が紹介され、翌25年には新聞・情報誌・テレビ や、地元八王子市の広報でも同組合の活動が紹介された。 ▲東京・大手町JAビル内の 「農業・農村ギャラリー」にも出品 都農林水産振興財団 チャレンジ農業支援センターの支 ▲国産農畜産物商談会に 出展し、 「TACの店コ ンテスト」で1位を受賞 援を受け、八王子パッションフルーツのキャラクター て販売されている。また、平成26年3月からは都心にも 「ふるーみん」が誕生、併せて販売用の専用段ボールもデ 進出し、 「銀座三越みのりみのるマルシェ」に出品したの ザインされ、お土産用・贈答用の要望に応えられる販売 を皮切りに、8月以降は東京・大手町JAビル内の「農 体制が整備された。 業・農村ギャラリー」にたびたび出品。平成27年3月に さらに、地元八王子の販売拠点のひとつである「道の は第9回JAグループ国産農畜産物商談会に「TACの 駅・八王子滝山」では、パッションフルーツの食べ方を 店・JA八王子」として出展し、 「TACの店コンテス また、販売PR戦略構築のため、公益財団法人 東京 ト」商談すすめ方部門で第1位を受賞した。 今後の展開について 販促活動による知名度の向上とともに八王子パッショ ンフルーツの需要は高まる傾向にある。また、次々と投 入した新しい加工品の効果もあって、加工品需要も旺盛 なことから、今後は計画的生産・安定供給に向けた体制 の整備が急務である。実需者の負託に応えるためには、 ▲八王子パッションフルーツ のキャラクター ▲カラフルにデザインされた販売用の 「ふるーみん」 専用段ボール 計画的な安定生産と栽培技術の向上に向け、都内だけで なく、他産地との情報交換や情報共有をますます進めて いく必要があ る。 平成27年か らはパッショ ンフルーツの 持つ新たな可 能性を探るた め、日本工学 ▲道の駅でドリンク・スイーツ類の試食販売会を開催 院八王子専門学校との協力体制を敷いて、新たな活動や 次号のJAグループ地域生産振興は、JA全農やまなしの「稲作地 商品開発について連携を進めているところである。 域の冬季収入として秋冬かぼちゃを導入」を紹介する。 【全農東京都本部 生産事業部 営農総合課】 5
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