June15, 2016 No.2016-027 Economic Monitor 伊藤忠経済研究所 主席研究員 主任研究員 武田 須賀 淳 03-3497-3676 [email protected] 昭一 03-3497-3678 [email protected] 中国経済:底入れする中で回復の筋道を模索(5 月主要指標) 5 月の主要指標からは、中国経済は底入れしつつあることが確認されたが、回復に向かう動きは いまだ見られなかった。在庫調整の進展により製品需給は一段と改善して生産は持ち直しつつあ り、需要面でも、自動車販売を中心として個人消費に底堅さが見られた。一方で、製造業の設備 投資の減速や輸出の不振継続など回復力は力強さに欠けており、中国の景気は、底入れする中で 回復への筋道の模索が続いている状況にあると言える。 景況感は改善しつつあるが、先行きは不透明 景況感を表す代表的な指標である PMI 指数(製 造業)は、5 月は前月と同じ 50.1 となり、好不 調の境目である 50 を 3 ヵ月連続で上回った。内 訳を見ると生産指数(4 月 52.2→5 月 52.3)も 良好な水準で推移しており、これまでの需要の 持ち直しを背景に生産活動が拡大していること を表している。ただし、新規受注指数及び新規 輸出受注指数も 3 カ月連続 50 台を維持している ものの徐々に低下しており、需要の拡大に勢い を欠く点は気がかりである(新規受注:3 月 51.4 →4 月 51.0→5 月 50.7、新規輸出受注:3 月 50.2 PMI(担当者購買指数)の推移(中立=50) 60 58 製造業 非製造業 新規受注(製造業) 生産(製造業) 56 改善 54 52 50 48 悪化 46 2012 2013 2014 2015 2016 (出所)中国国家統計局 →4 月 50.1→5 月 50.0) 。 なお、非製造業の PMI 指数は、5 月はやや低下したものの、引き続き高い水準を維持し、非製造業分野の 景気が堅調に推移していることを示した(4 月 53.5→5 月 53.1) 。 製造業の景況感改善は、製品需給の状況からも裏 付けられる。製品需給のバロメーターである生産 者物価は、5 月も前年同月比▲2.8%と、マイナ 生産者物価の推移(前年同月比、%) 35 25 スが続いたものの、5 か月連続でマイナス幅が縮 15 小している(4 月▲3.4%)。内訳を見ると、引き 5 続き生産財の需給改善が顕著である。原油価格の ▲5 下げ止まりによって原油ガス(4 月▲26.7%→5 ▲ 15 月▲21.5%)のマイナス幅は大幅に縮小、在庫調 ▲ 25 整の進展、インフラ投資、不動産市場の活性化な どを背景としてマイナス幅の縮小が続いていた 鉄鋼(4 月▲2.4%→5 月+1.7%)は、4 年 6 ヵ 工業製品 うち石炭 うち原油ガス うち鉄鋼 ▲ 35 ▲ 45 2011 2012 2013 2014 2015 2016 (出所)中国国家統計局 月ぶりにプラスに転じた。 本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、伊藤忠経済研 究所が信頼できると判断した情報に基づき作成しておりますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告 なく変更されることがあります。記載内容は、伊藤忠商事ないしはその関連会社の投資方針と整合的であるとは限りません。 Economic Monitor 伊藤忠経済研究所 こうした需給改善の背景にある在庫調整は着実に進展している。製品在庫の前年同月比の伸びは、2014 年 8 月(+14.6%)をピークに低下を続け、2016 年 4 月にはマイナスに転じた(3 月+0.0%→4 月▲1.2%) 。 そして、工業生産(実質値)は、4 月 5 月ともに前 年同月比 6.0%と、1~3 月期の前年同期比+5.8% から増勢を強めている。主な内訳(実質値)を見る 工業生産と在庫の推移(前年同月比、%) 25 工業生産 在庫 20 と、自動車 (4 月前年同月比+12.1%→5 月+11.2%) はやや伸びが鈍化したものの、汎用機器(+3.8%→ 15 +4.2%) 、特殊機器(+5.0%→+5.7%) 、コンピュ 10 ーター・通信機器(+8.3%→+10.0%)などは伸び 5 が高まっている。 0 在庫が減少に転じ、生産者物価の下落に歯止めがか ▲5 かり、生産の増勢が強まっている現状は、景気が底 (出所)中国国家統計局 (注)1、2月は月次データが公表されないため、累積値の前年同期比。 入れしつつあると言えるであろう。 個人消費は自動車販売を中心に底堅さが見られる 需要動向について見ると、個人消費は底堅さが見ら 社会商品小売総額の推移(前年同期比、%) れた。個人消費の代表的な指標である社会商品小売 18 総額は、4 月の前年同月比+10.1%から 5 月は+ 17 10.0%へやや鈍化、4~5 月でも前年同期比+10.2% 16 (1~3 月期+10.3%)と小幅ながら鈍化した。ただ 14 し、物価上昇を除いた実質値で見ると、5 月は+ 13 9.7%(4 月+9.3%)と伸びがやや高まっており、 個人消費は底堅いと言ってよいだろう。主な品目 (名目値)を見ると、原油価格下落の影響と思われ る石油製品(4 月▲3.8%→5 月▲4.5%)が引き続き 前年比マイナスとなったが、約 1 割のシェアを占め 名目 実質 15 12 11 10 9 8 2011 2012 2013 2014 2015 2016 (出所)中国国家統計局 (注)最新期は、4-5月。 る自動車(+5.1%→+8.6%)は伸びが高まった。 自動車販売台数の推移(季節調整値、年率、万台) 自動車販売の増加は、乗用車販売台数統計からも確 2,800 認できる。5 月の乗用車販売台数は前年同月比+ 2,600 11.4%(4 月+6.6%)、4~5 月では前年同期比+ 9.0%(1~3 月期+6.7%)と増勢を強めている。当 2,400 2,200 2,000 研究所試算の季節調整値で見ても乗用車販売台数 1,800 (年率)は増加(1~3 月期 2,154 万台→4~5 月 2,197 1,600 万台)するなど、自動車販売は持ち直しつつある。 1,400 今年の 1~3 月期に見られた、自動車購入税引下げ1 1,200 直後の反動減が一巡し、再び拡大基調に戻りはじめ 1 自動車販売台数 うち乗用車 (出所)中国汽車工業協会 (注)当社試算の季節調整値。最新期は4-5月。 2015 年 10 月 1 日から 2016 年末まで、排気量 1,600cc 以下の乗用車について自動車取得税を従来の半分に引き下げた。 2 Economic Monitor 伊藤忠経済研究所 た可能性がある。 固定資産投資は製造業を中心に増勢の鈍化が続く 国内需要のもう一つの柱である固定資産投資は、増勢 の鈍化が続いている。固定資産投資は今年に入って、 主にインフラ投資の拡大を背景として増勢を強めて いたが、3 月に前年同月比+11.2%まで伸びが高まっ 固定資産投資の推移(前年同期比、%) 50 固定資産投資全体 インフラ投資 製造業 不動産業 40 30 た後、4 月+10.1%、5 月+7.4%と伸びが低下した。 4~5 月で見ても+8.6%と、1~3 月期の+10.7%から 20 伸びは低下した。4~5 月の増勢鈍化の主な要因は、 10 製造業の設備投資の鈍化にある(1~3 月期前年同期 0 比+6.4%→4~5 月+3.1%) 。製造業の主な内訳を見 ▲ 10 ると、セメントやガラス2などの過剰生産設備削減対 象の業種を含む非金属鉱物製品(1~3 月期前年同月 比+0.8%→4~5 月▲1.5%)や、特殊機械(+5.4% 2011 2012 2013 2014 2015 2016 (出所)中国国家統計局 (注)1.インフラ投資は、道路、鉄道、水利・環境・公的施設、電気・ガス・水道の合計。 2.固定資産投資全体のうち、インフラ投資は21.5%、製造業は32.7%、不動産業は 23.0%を占める(2015年)。 3.最新期は4-5月。ただし、不動産業の5月の数値は未公表のため、4月の数値。 →▲1.1%)の伸びがマイナスに転じ、製造業全体の 伸びの低下に寄与したと考えられる。一方で、4~5 月はインフラ投資の伸びが高まった(1~3 月期+20.3% →4~5 月+22.2%) 。主な内訳を見ると、水利・環境・公的施設(1~3 月期+30.5%→4~5 月+27.1%) の伸びはやや鈍化したものの、道路(+10.1%→+10.8%)がやや高まり、鉄道(▲6.7%→+28.2%)は マイナスから大きくプラスに転じた。 輸出は先進国向けを中心に減少が続く 輸出は、軟調な動きが続いている。5 月の輸出(通関・ 仕向地別の通関輸出の推移(季節調整値、百万ドル) 1,200 6,500 1,000 6,000 800 5,500 調整値では 4~5 月は▲1.4%と、前期比 1~3 月期の▲ 600 5,000 2.1%と比べると減少傾向にある。 400 4,500 ▲1.8%からマイナス幅が拡大した。また、4~5 月は▲ 3.4%と、1~3 月期の前年同期比▲9.7%と比べるとマ イナス幅は縮小しているものの、当研究所試算の季節 日本 EU 輸出全体(右軸) 200 仕向地別に見ると、主要先進国向けは総じて減少傾向 にある。季節調整済の前期比で見ると、ASEAN 向けは、 4~5 月は+2.4%と、1~3 月期の▲6.1%からプラスに 米国 アセアン 百 米ドルベース)は、前年同月比▲4.1%となり、4 月の 4,000 0 3,500 2010 2011 2012 2013 2014 2015 2016 (出所)中国海関総署 (注)当社試算の季節調整値。最新期は4-5月期。 転じて底堅い動きを見せているが、シェア3が最大の米 国向けはマイナス幅が拡大、EU 向けと日本向けは、マイナス幅は縮小したものの減少が続いた(米国向 け:▲4.5%→▲0.6%、EU 向け:▲5.0%→▲1.4%、日本向け:▲2.5%→▲2.3%) 。 今年 2 月に鉄鋼業、石炭業の過剰設備削減目標が打ち出されたことに続き、5 月にはセメント、板ガラスの過剰生産設備削減目 標が打ち出された。 3 2015 年のシェアは、米国 18.0%、EU15.6%、ASEAN12.2%、日本 6.0%。 3 2 Economic Monitor 伊藤忠経済研究所 以上、需要動向を見てきたように、消費は底堅いが回復への筋道をけん引するほどの力強さには欠けてお り、固定資産投資は製造業の設備投資抑制から鈍い動きが継続、輸出は一年近く人民元安が継続している にもかかわらず減少傾向にあるなど、回復の道筋が見えない状況にある。 人民元相場は 1 月の水準に下落 そうした中で、人民元は再び下落が続いている。人民元相場は、昨年 8 月の切下げ以降、中国経済の先行 き不透明感などを背景に下落を続け、2016 年 1 月上旬に 1 ドル 6.5 元台後半まで下落した。その後は、1 ドル=6.4 元台後半~6.5 元台前半で推移していたが、4 月以降再び元安基調となり、6 月中旬現在は 1 月 上旬と同水準の 6.5 元台後半で推移している。 4 月以降の人民元安は、主に米国の利上げ観測などを背景とする海外への資金流出によるものと見られる。 実際に、外貨準備高が 2 ヵ月ぶりに前月差マイナス4(4 月+71 億ドル→5 月▲279 億ドル)となった。ま た、香港からの輸入金額が大幅に増加5(3 月前年同月比+116.5%→4 月+203.5%→5 月+242.6%)して おり、架空取引を利用した海外への資金逃避が増加しているとの報道もある。ただし、中国企業による外 貨建て借り入れの返済や対外直接投資の増加などが人民元安を促している面もあり、最近の人民元安を中 国からの資金逃避によるものとするのは行き過ぎた評価であろう。 直接投資額(ネット)の推移(億米ドル) 人民元相場の推移(元/米ドル) 6.90 人民元 安 6.80 150 流入超 100 6.70 6.60 50 6.50 6.40 0 6.30 流出超 6.20 ▲ 50 6.10 6.00 2010 人民元 高 2011 (出所)中国銀行 2012 2013 2014 2015 ▲ 100 2016 2012 2013 2014 2015 2016 (出所)商務部 (注)最新期は4月。なお、データ取得の制約上、金融業(それぞれシェアは1割程度)は除く。 景気は底入れしつつあるが回復に向かう動きは見られず 以上のように、5 月の主要指標からは、在庫調整の進展により製品需給は一段と改善して生産は持ち直し つつあり、需要面でも、自動車販売を中心として個人消費に底堅さが見られた。一方で、製造業の設備投 資の減速や輸出の不振継続など回復力は力強さに欠けており、中国の景気は、底入れしつつあるが回復に 向かう動きはいまだ見られず、回復への筋道の模索が続いている状況にあると言える。 4 外貨準備高の減少の原因は、一般的には、人民銀行による為替介入の増加が考えられるが、最近のドル高によってドル以外の 通貨も相対的に下落していることから、外貨準備高を構成するドル以外の通貨の時価評価額が目減りしていることも考えられる。 5 実態がない、あるいは実態より取引金額を水増しした輸入取引を香港を通じて行うことにより、国内の資金を海外に逃避させ ていると言われている。 4
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