どうしてこうなった? 異伝編 ID:88397

どうしてこうなった?
異伝編
とんぱ
︻注意事項︼
このPDFファイルは﹁ハーメルン﹂で掲載中の作品を自動的にPDF化したもので
す。
小説の作者、
﹁ハーメルン﹂の運営者に無断でPDFファイル及び作品を引用の範囲を
超える形で転載・改変・再配布・販売することを禁じます。
︻あらすじ︼
HUNTERの二次創作として投稿している﹁どうして
﹂という作品の続編です。一応本編を読んでいない方も問題なく読めると
この作品は、HUNTER
こうなった
×
ださい。
という地雷要素や、複数の異世界転生という地雷要素を気にされる方は閲覧にご注意く
は思いますが、たまに訳が分からない事もあるかもしれません。また、主人公使い回し
?
NARUTO 第十二話 ││││
NARUTO 第十四話 ││││
NARUTO 第十三話 ││││
NARUTO 第十五話 ││││
NARUTO 第二十四話 │││
NARUTO 第二十三話 │││
NARUTO 第二十二話 │││
NARUTO 第二十一話 │││
NARUTO 第二十話 ││││
NARUTO 第十九話 ││││
NARUTO 第十八話 ││││
NARUTO 第十七話 ││││
NARUTO 第十六話 ││││
1
目 次 艦これ短編 ││││││││││
NARUTO 第一話 │││││
NARUTO 第二話 │││││
NARUTO 第三話 │││││
NARUTO 第四話 │││││
NARUTO 第五話 │││││
NARUTO 第六話 │││││
NARUTO 第七話 │││││
NARUTO 第八話 │││││
NARUTO 第九話 │││││
NARUTO 第十話 │││││
NARUTO 第十一話 ││││
50
332 305 281 254 228 201 175 146 118 79
718 679 646 611 584 555 517 489 460 438 412 386 363
NARUTO 第二十五話 │││
NARUTO 第二十六話 │││
NARUTO 第二十七話 │││
NARUTO 第二十八話 │││
NARUTO 第二十九話 │││
NARUTO 第三十話 ││││
NARUTO 第三十八話 │││
NARUTO 第三十九話 │││
NARUTO 第四十話 ││││
NARUTO 第四十一話 │││
NARUTO 第四十二話 │││
NARUTO 最終話 │││││
ST││ │││││││││││
NARUTO編おまけ││THE LA
131712931262122411841153
1387
NARUTO 第三十一話 │││
NARUTO 第三十二話 │││
NARUTO 第三十三話 │││
NARUTO 第三十四話 │││
NARUTO 第三十五話 │││
NARUTO 第三十六話 │││
NARUTO 第三十七話 │││
11211091106610401016 989 952 917 881 856 819 795 753
なっていった。
そ し て い つ し か 大 型 の 兵 器 は 同 じ く 大 型 の 兵 器 を 相 手 に そ の 力 を 発 揮 す る よ う に
する武器から、より多くの人間を同時に攻撃出来るように大きく強く変化していった。
兵器は時代と共に改良を成され、その攻撃対象も変化していった。単体の人間を攻撃
大きな理由であった。
それは深海棲艦の全てが人間大から大型の獣程度の大きさしか持たないことが最も
かったのだ。
いや、全くなかった訳ではないが、深海棲艦には通常の兵器や戦略・戦術が効きにく
深海棲艦には人類の既存の兵器による攻撃は効果がなかった。
が存在し、その苛烈な攻撃により人類は制海権を失いつつあった。
艦艇群とあるだけに、深海棲艦は駆逐艦級から超弩級大型戦艦まで多彩を極める艦種
称した。
それは海からの進軍。海の底から現れた謎の艦艇群。それらを人類は深海棲艦と呼
ある時、人類はとある外敵からの攻撃により危機に陥っていた。
艦これ短編
1
艦これ短編
2
軍艦で人間を攻撃する者はいない。軍艦は敵の兵器││軍艦や戦闘機など││を攻
撃する為の兵器なのだから。
だが深海戦艦は先も述べているように精々が大型の獣程度の大きさしか持っていな
い。そんなものにどうやって攻撃を当てろというのか
そんな相手に直撃しない攻撃などどんな意味が有ると言うのか
ろか資源の無駄であった。
そして例え直撃したところで倒しきれないのが深海棲艦なのだ。
逆に深海棲艦の攻撃は人類に大打撃を与えた。
ない。それどこ
人間大の大きさで、海の上を自由に移動し、その攻撃力は軍艦を海に沈めるには十分
間大な故にその機動力も大きく上回っている。
深海棲艦は艦艇群だ。その攻撃力もそれに相当する。しかも通常の軍艦と違って人
?
や、軍艦すら凌駕していると言えよう。
だが相手は深海棲艦だ。見た目が人間大だろうとその性能は軍艦のそれなのだ。い
の衝撃で殺すことも出来るだろう。
いや、並の人間であれば例え砲弾が直撃せずともある一定の距離内に着弾させればそ
位置から米粒を正確に射るくらいの難易度と言えば分かりやすいだろうか。
軍艦から放たれる砲弾を、遠く離れた人間に当てる。それは弓で100m以上離れた
?
3
過ぎる火力を持つ。
そんなものを相手に戦えるような武器も、兵器も、戦術も戦略も、人類は持ち合わせ
ていなかったのだ。
人類は敗北に敗北を重ね、やがて制海権を喪失。それは人類にとって非常に大きな損
害であった。
このまま人類は深海棲艦によって徐々に滅びの一途を辿るのであろうか
◆
いくさぶね
かんむす
駆逐艦と一口に言っても様々であり、彼女は特型駆逐艦と呼ばれる艦船だ。
ある一人の艦娘がいた。彼女の名前は吹雪。駆逐艦の艦娘である。
ふぶき
その活躍により、制海権奪還に向けた反攻作戦が開始されようとしていた。
女たち。
艤装と呼ばれる武器を装着し、生まれながらにして深海棲艦と互角に戦う力を持つ彼
ぎそう
それこそが、在りし日の軍 船の魂を持つ娘たち。艦娘である。
のだ。
いや、そうはならなかった。深海棲艦という脅威を前に、唯一対抗出来る存在がいた
?
従来の駆逐艦と速度は同等に、その上で重武装化を果たした新たな駆逐艦の基準と
なったのが特型駆逐艦だ。
つまり彼女も駆逐艦として立派な性能を持っているということなのだ。││なのだ
が⋮⋮。
部類の存在だったのだ。
海上に浮けないわけではない。ないのだが⋮⋮彼女はいわゆる運動音痴と呼ばれる
だが彼女は、吹雪は少々勝手が違った。
軍 船の力を有しているなどとは言えないだろう。
いくさぶね
これは艦娘にとって特別なことではなく、当たり前の基本性能だ。そうでなくては
答えは簡単。艦娘は海の上を滑るように自由に移動出来るのだ。
のか。
そんな彼女たちがどうやって海上で深海棲艦と互角の戦いを繰り広げられるという
う。
艤装を装着していない艦娘を一目見て知らない者が艦娘だと見抜くのは難しいだろ
艦娘とは娘とあるようにその見た目は人間の女性と殆ど変わらない容姿をしている。
彼女は、落ちこぼれだった。
﹁はぁ⋮⋮どうして上手く行かないんだろう⋮⋮﹂
艦これ短編
4
5
訓練してもまともに海上を進むことが出来ない。そんな艦娘は果たして戦力になる
と言えるだろうか
そういう理由で彼女はこの鎮守府の提督から戦力外扱いされていた。鎮守府にいら
尤も、他の艦娘たちは大した訓練なく海上移動が出来るのだが。
訓 練 し 続 け れ ば い つ か は 他 の 艦 娘 と 同 様 に 海 上 を 自 由 に 走 れ る よ う に な る だ ろ う。
も大したものではないのだが。
と言っても、彼女はまだ艦娘として軍に入って日が浅く、実戦は当然として訓練時間
今もこうして必死に訓練を積んでいるのだが、さっぱり上手く行っていないようだ。
痴だ。
努力家ではある。性格も明るく前向きで、座学などは非常に優秀だった。だが運動音
いるとは思えないと言われるくらい落ちこぼれだった。
ともかく、彼女は落ちこぼれだった。まともに海上を進めない艦娘など彼女以外には
これで艦娘が気軽に量産出来る兵器であれば話は別だっただろうが⋮⋮。
貴重な戦力を捨てるような馬鹿はいない。例え今は役立たずだとしてもだ。
だが彼女は普通の兵ではない。深海棲艦と戦える人類唯一の力、艦娘なのだ。そんな
ているか後方任務へと移動させられていただろう。
否。言えるわけがない。ここが従来の軍であれば彼女はとっくの昔に除隊させられ
?
れるのは先の説明の通り艦娘だからというだけだ。
それを理解しているからこそ彼女は精一杯努力している。⋮⋮結果は散々だったが。
︶
吹雪は食事の為に一旦訓練を止め、宿舎へと移動する。もちろん食事の後も訓練は続
行するつもりだったが。
!
﹂
﹁俺が聞いた話だと百に届く数だったと聞いたぞ
﹂
ないか
!
!
﹂
たった一艦隊で数十を超える深海棲艦を相手に勝利 素晴らしい戦果じゃ
﹁すごいな呉鎮守府の一航戦は
そんな彼らの会話は吹雪にとって人生を変える程の衝撃を与えた。
ない。その為に人間の兵士も鎮守府内で働いているのだ。
雑務などの鎮守府を運用する為に必要な細かな仕事を艦娘に任せることは基本的に
要なのはその戦闘力だ。
当然だが鎮守府には艦娘以外に普通の人間も存在している。艦娘は戦力であって、必
る一般兵士の会話だった。
そんな時だ。吹雪の耳にある話し声が聞こえてきたのは。それは鎮守府で働いてい
決意を新たにし落ち込んでいた気持ちを吹き飛ばして吹雪は前を向いて進む。
︵頑張って早く戦場に出られるようにならなきゃ
!
!?
﹁ああ
艦これ短編
6
!
﹁それは話を盛りすぎではないか
一艦隊では弾数が持つとは思えん﹂
?
一人で六割か。そんな艦娘が内の鎮守府にもいてくれればなぁ﹂
!
はすでに入っていなかった。
︵たった一艦隊で数十、ううん百もの敵を
それも一人でその内の六割
︶
!?
していない艦娘は吹雪以外にも当然存在しているし、実戦経験が一度や二度という艦娘
それは自然と深海棲艦と戦う回数も少ないということを意味する。未だ実戦経験を
月は経ってはいない。
だが赤城はそうではない。そもそも深海棲艦と艦娘が戦いだしてからそれほどの年
有り得ないと言ってもいいだろう。いや、これが生涯に渡る戦果ならば理解出来る。
未だ戦場に出る事すら叶わぬ吹雪にもその戦果の偉業が理解出来た。
!?
段々と話が上司や軍に対する不満に変わっていったが、彼らのそんな話は吹雪の耳に
を回してくれるものかよ﹂
﹁無茶を言うな。この海域は深海棲艦の攻め入る量や回数が少ないんだ。それ程の戦力
﹁本当か
れは確かな筋の情報だ﹂
﹁ああ。誇張もあるかもしれんが、撃破数の内の六割が空母赤城によるものらしい。こ
﹁それとは別に、自分は赤城という空母型艦娘一人の戦果が大きいと聞きましたが﹂
﹁確かにそうだな。流石にここまで話が届くうちに誇張されたのだろうな﹂
7
など鎮守府のどこにもいるだろう。
例え艦娘と深海棲艦の戦いの発端から常に最前線で戦い続けていたとしても、そこま
での戦果を出すことなど出来るだろうか 大抵の人間││艦娘も含む││がこう言
うだろう。無理だ、と
︵ああ、いつか絶対に赤城さんと一緒の艦隊になって、赤城さんの護衛艦になるんだ
お願いがあります
﹂
!
︶
!
た。
吹雪は赤城を尊敬し憧憬し、いつしか赤城の横で共に戦うことを夢見るようになっ
上に立つことさえ覚束ない中、伝説とも言えるような戦果を誇る者もいる。
だが吹雪の中には尊敬という感情しかなかった。自分が戦場に立つことはおろか海
者もいるだろう。
倒的な力という物は必ずしも万人が受け入れられる物ではない。中には恐怖し怯える
この話を信じた者が次に思うことが幾つかある。尊敬・嫉妬・畏怖・恐怖などだ。圧
守府を鼓舞する為に戦果を誇張した結果だとか、そんな風に考える事はなかった。
だが吹雪の中で既にこの話は現実の物と認識していた。下らない法螺だとか、他の鎮
?
吹雪の決意は固かった。思い立ったが吉日と言わんばかりに行動を開始した。
!
吹雪は鎮守府を任されている提督に異動願いを出したのだ。
﹁提督
艦これ短編
8
吹雪のいきなりの願い届けとその迫力に圧倒されていた提督だったが、その転属願い
は受理された。
別にこれは提督が吹雪のことを想っての事ではない。ぶっちゃけると戦力にならな
い吹雪を厄介払い出来るという判断だった。
吹雪が呉鎮守府へと異動すればこの鎮守府の艦娘の保有艦隊数に空きが出来る。そ
うなれば軍の上層部に新たな艦娘を要求する事も出来るだろう。
言うなれば吹雪の異動願いは渡りに船だったのだ。
﹂
そうして陳情した吹雪自身が呆気に取られる程迅速に呉鎮守府への異動が決定した
のだった。
◆
﹁失礼しました
た。
呉提督は異動したてで誰が見ても緊張していると理解出来る吹雪を優しく迎え入れ
した。
呉鎮守府へと異動して来た吹雪は鎮守府到着後すぐに呉鎮守府提督に着任の挨拶を
!
9
だが吹雪は挨拶を終えて提督室から退出したというのにどこか落ち込んだ雰囲気を
漂わせ、しかも溜め息をついていた。
なぜ吹雪がこうも落ち込んでいるのか。それは提督から第三水雷戦隊への配属命令
﹁はぁ⋮⋮﹂
を受けたからだ。
提督は吹雪が未だに海上をまともに移動出来ないことを理解していた。恐らく吹雪
が異動する前の鎮守府から吹雪の詳しい情報を得ていたのだろう。
だというのにどうして戦隊の中に組み込むのか。このまま戦場に出れば夢である赤
木の護衛艦になるどころか味方の足を引っ張ってしまうだろう。
提督は優しくこう言った。失敗も経験の内だ、とか、君が失敗してもそれを助けてく
れる仲間がいる、とか、本番でなら意外と上手く出来るかもしれないよ、と⋮⋮。
しかし、前向きだが失敗続きで自分に自信がない吹雪には提督の言葉は慰めにもなら
なかった。
失敗したらどうしよう。そんな吹雪の考えはある人物の登場によって一旦掻き消え
た。
﹁は、はい
﹂
﹁あのぅ∼﹂
艦これ短編
10
!?
11
むつき
そこにいたのは吹雪と同じ第三水雷戦隊に所属する駆逐艦・睦月であった。
互いに挨拶を交わした後、二人は鎮守府の中を共に歩みだした。
睦月はとても面倒見が良く思慮深い性格をしていた為、着任したばかりの吹雪に色々
と世話を焼こうとしたのだ。
それは吹雪にとっても嬉しい話だった。赤城に憧れて呉鎮守府に着任したのは良い
が、知り合いなど一人もいなかった為心細かったのだ。
こうして優しく迎え入れてくれ、その上面倒まで見てくれる睦月に対して吹雪の好感
度は急上昇中であった。
睦月自身も特型駆逐艦という従来の駆逐艦を上回る性能と言われている駆逐艦が新
たに同じ戦隊に配属されることはあらかじめ聞いていたのでそれなりに緊張していた
のだ。
だが出会ってみれば吹雪はとても話し易く真面目で好感の持てる人物だった。緊張
もなくなり、気が合う仲間や友達として一緒に過ごせそうだと嬉しく感じていた。
意気投合した二人はそのまま鎮守府内を楽しそうに歩いていく。
吹雪は鎮守府の案内と施設の説明を睦月から受け、異動前の鎮守府と比べその大きさ
や整えられた設備の良さに素直に感動する。
そうして案内されやがて吹雪は第三水雷戦隊に与えられた一室に辿り付く。
そこで吹雪は新たな仲間たちに出会った。
よろしくお願いします
﹂
﹂
﹁夕立ちゃん。吹雪ちゃん連れてきたよ﹂
﹁ぽい∼
﹁吹雪です
!
?
行性のようだ。
何だか地味っぽい∼﹂
口を開けば夜だ夜戦だと叫び、夜戦がなくとも夜に活動することも多い。どうやら夜
で戦っていたことが原因だと思われる。
例えば長女の川内。彼女は大の夜戦好きだ。これには元となった軍 船が夜戦ばかり
いくさぶね
それだけにそれぞれ仲はいい。その性格には大分個性差があるが。
である。
この三人は同じ川内型と言われる型の軽巡洋艦であり、言うなれば姉妹のようなもの
珂の三人がそれだ。
もちろん駆逐艦以外の艦娘も第三水雷戦隊には存在する。軽巡洋艦の川内・神通・那
い。
少々おちゃらけた性格のようで大雑把なところもあるが、その性根は悪いわけではな
妙な語尾を口癖とする少女。彼女は吹雪・睦月と同じく駆逐艦の艦娘、夕立である。
?
!
﹁夕立だよ。あなたが特型駆逐艦の一番艦∼
艦これ短編
12
そして三女の那珂。艦隊のアイドルを自称する少々痛い子である。
自分のことを那珂ちゃんと呼んでおり、よく無許可でビラ配りをしたりステージで
歌ったりと勝手なアイドル活動をしてたりする。
最後に次女の神通。夜戦馬鹿な姉とアイドル馬鹿な妹に挟まれた可哀想な子である。
丁寧でしっかりとした性格で、姉と妹のブレーキ役となることが多い。大抵ブレーキ
になってないが。ちなみに第三水雷戦隊の旗艦︵リーダー︶を勤めている。
個性豊かな新たな仲間たちに囲まれて、吹雪の新たな鎮守府での生活が始まった。
◆
吹雪は睦月に引き続き鎮守府の案内をされる。
第三水雷戦隊の部屋と艦隊の仲間への紹介を優先した為まだ鎮守府内を殆ど回って
はいなかったのだ。
ちなみに暇だった夕立も付いて来ている。
夕立の口癖を深く考えては駄目だと出会ってものの数分で吹雪は悟った。
その言い方ではここが教室ではない可能性もあるということだろうか。
﹁ここが教室っぽい﹂
13
﹁今日は日曜日で誰もいないから、明日皆に紹介するね﹂
﹁うん、ありがとう﹂
睦月の言葉に礼を述べ、そこで吹雪は黒板の隣に貼ってある授業の時間割を見つけ
る。
そしてそこにある一つの単語がふと気になった。
︻演習︼。それは実戦を模した訓練を指す言葉だ。それによって吹雪は様々な連想を
した。
演習によって実戦を思い浮かべ、実戦から深海棲艦を思い浮かべ、更にそこから赤城
の戦果を思い浮かべ、そして自らの夢を夢想する。
﹂
どうやら吹雪は夢想状態から覚めていないようだ。﹁えへ、えへへ、私が赤城さんを守
を掛ける。
睦月は突然トリップしたように幸せそうな笑みを浮かべている吹雪を怪訝に思い声
﹁どうしたの吹雪ちゃん
?
え
!
何どうしたの
﹂
!?
﹂
るんだぁ﹂などと口走っている。かなり危ない状態のようだ。
﹁はわっ
?
夕立が珍しく語尾を付けずに叫んだ所でようやく吹雪は現実世界に帰還した。だが
!
﹁吹雪ちゃん帰ってこーい
艦これ短編
14
自分がトリップしたことは覚えていないようである。
﹁どうしたのはこっちの台詞っぽい。いくら呼んでも返事なかったぽい∼﹂
﹂
?
﹁あは、あはは。ご、ごめんね夕立ちゃん、睦月ちゃん﹂
﹂
﹁それはいいんだけど⋮⋮。何か気になることでもあったの吹雪ちゃん
ねぇ、この鎮守府には一航戦の人達がいるんだよね
?
そう言われて吹雪は自分が何を考えていたのかを思い出す。
﹁そうだ
﹂
!
機の姿があった。
﹁一航戦の先輩たちの練習っぽ∼い﹂
﹁あぁ∼、やっぱりここにいるんだぁ
﹂
夕立の言葉に興奮を隠しきれない吹雪。
!
﹁たった一艦隊で百以上の深海棲艦を相手に完全勝利したあの伝説の艦娘たち
﹂
しか
そして空から聞こえる音の正体を見る。そこには綺麗に編隊を組んで飛行する戦闘
窓際まで移動した。
空に響く音を聞きつけて夕立が教室の窓際まで移動する。吹雪と睦月も同じように
﹁あ、噂をすれば
﹁うん、いるよ。赤城先輩と加賀先輩だよね﹂
!
もその内の六割は赤城さんの活躍って話なんだよね
!
!
15
瞳を爛々と輝かせて我が事のように嬉しそうに話す吹雪を見て、これは完全に一航戦
に、特に赤城に憧れていると睦月と夕立は気付いた。
﹂
というかこれで気付けない奴がいたら恐らくそれは日本語を理解出来ていないだろ
う。
私は赤城さんの護衛艦になりたくてここに来たんだから
﹁あはは。その話、やっぱり有名なんだね﹂
﹁もちろんだよぉ
!
﹂
﹁でもその話ちょっと間違ってるっぽい﹂
ルの追っかけと言った方が正確だろうか。
完全にアイドルの追っかけである。いや、同じ艦娘同士だからアイドルによるアイド
!
そんな考えが一瞬で脳内を巡ってしまった。
しくない程にだ。
しかもその話の内容があまりにも過剰な内容なのだ。誇張されていたとしてもおか
それは仕方ないだろう。実際に直接戦果を見たわけでなく人伝に聞いただけだ。
は
もしかしたら噂は誇張された物に過ぎず、赤城の戦果は大したものではなかったので
夕立の突然の声に吹雪は動揺する。
﹁え
?
?
︵いや、それでも 例え戦果が少なかろうとも赤城先輩が立派な艦娘であることに変
艦これ短編
16
!
わりはないはず
﹁増えるのっ
﹂
︶
﹁倒したのは確か百五十を超えてるっぽい﹂
吹雪はそう考えて赤城への憧れを落とすことはなかった。
だったら十分過ぎる程の戦果だ。数十だとしても伝説と言えるだろう。
実際の戦果が数機程度だとしたらそれを百に盛る訳がないのだから。
ばそこまでの誇張表現は有り得ない。
例え赤城の戦果が百もなかろうとも、それでも数十はあるだろう。それぐらいなけれ
だが吹雪の赤城への憧れは揺るがなかった。
!
が混乱する。
﹂
まさかの増量である。戦果が下方修正どころか上方修正されてしまった。吹雪の頭
!?
夕立の悩み方からして流石に一人で百五十の内の六割撃破という戦果はなさそうだ
﹁あ、やっぱりそれはないんだ⋮⋮﹂
﹁うーん﹂
己を見失っているようだ。
まさかの戦果増量のせいで何故か信じていた噂を自ら疑い出してしまった。吹雪は
﹁いや、でも、赤城先輩がその内の六割っていうのは、違ったりするんだよね
?
17
と吹雪は悟った。
一艦隊でまさかの百五十以上の撃破だったが、その内の何割かは赤城のはず。
六割が誇張であったとしても、五割、いや四割でも恐ろしい戦果だ。
﹂
艦娘の一艦隊は最大で六人編成だ。六人の中で一人が四割の撃破ならば十分過ぎる
・・
?
だろう。吹雪の憧れは憧れのままなのだ。
﹂
﹁まああれも赤城先輩の力だから、やっぱり赤城先輩の戦果でいいんじゃないかな
﹁そうっぽい∼
﹂
?
﹂
!?
いや、流石にそれは⋮⋮﹂
一人で撃破したということになる。
夕立の話が真実ならば、百五十以上の撃破数の内八割、百二十以上の深海棲艦を赤城
吹雪の許容量はそろそろ限界だ。
﹁また増えたっ
﹁それなら赤城先輩の戦果は八割くらいっぽい∼﹂
だがそんな吹雪の疑問は次の夕立の言葉に吹き飛ばされる事となった。
行かれている。
なにやら二人だけで納得しているようだが、会話の意味が理解出来ない吹雪は置いて
﹁
?
﹁え
?
艦これ短編
18
これには赤城崇拝︵ただし互いに出会った事はない︶の吹雪も苦笑いである。という
か流石に簡単には信じ切れない。
じゃないと思うよ﹂
﹂
・・
・・
﹁伝説の一戦以外でも赤城先輩のあれを見た事はあるし、多分本当っぽい﹂
・・
﹁あれ
﹁えー、意地悪言わないで話してよー﹂
﹂
﹁そうだ。それなら今から一航戦の先輩たちの所へ行ってみない
行く行く
も見られるかも﹂
﹁え
!
もしかしたらあれ
?
とにかく、どうやら赤城のあれとやらを話すつもりは今はないようだ。
・・
⋮⋮少々同音ではなかったようだ。
﹃見れば分かる︵よ︶︵っぽい︶﹄
だが二人はそんな吹雪に対して少し微笑みながら異口同音に答えた。
吹雪は先程から二人が思わせぶりに口にしているあれとやらが気になる。
?
こうして元いた鎮守府から異動願いを出してまで呉鎮守府に来たのは偏に赤城と共
ひとえ
睦月の申し出は渡りに船というべきか、吹雪にとって最高の提案だった。
!?
・・
﹁私たちもその伝説の一戦は見てないの。先輩たちから話を聞いただけだから。でも嘘
19
に戦いたいが為だ。
そんな吹雪が赤城を見に行こうと言われて嬉しくない訳がなかった。
所変わって、吹雪たちは鎮守府内にある鍛錬所の一つに来ていた。
そこはまるで弓道場を模したような鍛錬所であった。射場があり、矢道があり、海の
上にだが的がある。
その答えは吹雪の視界の中にあった。
少々変則的だが誰が見ても弓道場だと思うだろう。
何故鎮守府内に弓道場があるのか
備わっている力である。
矢が戦闘機に変化するという本来なら有り得ない現象。これこそが空母型の艦娘に
闘機へと変化し的を射抜く様を見て、吹雪は素直に感動した。
弓を射るその凛とした佇まいと一直線に飛んでいく矢姿。そしてその矢が小型の戦
﹁わぁ⋮⋮きれい﹂
そこには、和弓を構え、弦を引き絞り、的に向かって矢を放つ艦娘の姿があった。
?
﹁あの人が⋮⋮﹂
﹁あれが第一航空戦隊。通称一航戦の誇り、赤城先輩だよ﹂
艦これ短編
20
とうとうその御姿を拝見する事が出来、吹雪は至上の多幸感に包まれていく。どうや
ら脳内麻薬がドパドパ溢れているようだ。
艦娘にも脳内麻薬があると実証されるのも近いかもしれない。
だが、そんな吹雪のトリップは赤城の隣に立つ女性、赤城と同じく一航戦である加賀
によって冷水を浴びたかのように覚めることとなる。
﹂
!
だがそれよりも早くに吹雪が赤城に対して言葉を掛けた。
艦なのかと確認の為吹雪に声を掛けようとする。
赤城は見慣れぬ艦娘がいることを不思議に思い、もしかして話に聞いていた特型駆逐
そうして三人が萎縮している間に赤城と加賀は三人の近くにまで近寄ってきた。
だが。
ただ一見冷たそうに見える為、注意を受けた側である三人は少々萎縮してしまったの
するようなことはない。
加賀はドライな性格をしており、規則は規則と注意しただけのことだ。この程度で罰
が。
三人を代表して睦月が謝罪する。といっても加賀も本気で怒っているわけではない
﹁す、すみません
﹁断りもなく入ってきては駄目よ﹂
21
﹁あの
私特型駆逐艦の吹雪と言います
あ、赤城先輩ですよね
!
その、私、今は
!
未熟ですけど いつか絶対赤城さんの艦隊で一緒に戦えるくらい強くなりますから
!
だから、その﹂
!
﹂
!
・・・
そう言えばあの子はどこに
﹂
?
ら﹂
誰かを探すように辺りを見渡す赤城。
?
﹁│ │ そ ん な 事 は な い わ 赤 城 さ ん。あの力 は 赤 城 さ ん が い な く て は 意 味 が な い の だ か
の力じゃ││﹂
﹁でも、困ったわね。私の事を尊敬してくれているのは嬉しいのだけれど、あれは私だけ
だが次の赤城と加賀の会話に吹雪は疑問を抱いた。
憧れの存在からのそんな思いがけない温かい言葉に、吹雪は感動して敬礼で返す。
﹁は、はい
﹁ええ、楽しみに待っていますよ吹雪さん﹂
へと向けた。
だがすぐに吹雪が何を言いたいのかを理解して、穏やかで包みこむような笑顔を吹雪
しまう。
突然の、まるでプロポーズでもするかのような勢いのある告白に赤城も少々戸惑って
!
﹁でもあれはあの子の⋮⋮あら
艦これ短編
22
あの子とやらを探しているのだろう。吹雪も釣られて回りをきょろきょろと見るも、
この場には他に誰も居はしなかった。
﹂
!
﹂
!
赤 城 先 輩 た ち も 何 か 意 味 深 な 事 を 言 っ て た し、気 に な る
!?
だが、そんな吹雪の気持ちはすぐに切り替わる事になる。
結局気になっていた何かを知る事は出来なかった。それが余計に気になる吹雪。
よー
﹁あれ っ て 結 局 何 な の ー
・・
睦月にそう言われて吹雪は当初の疑問を思いだした。
﹁そうよね。でも残念。吹雪ちゃんにあれを見せられなかったね﹂
・・
﹁確かに赤城先輩はかっこいいっぽいー﹂
﹁あ∼赤城先輩素敵すぎる∼
そこで間宮名物の特盛り餡蜜に舌鼓を打ちながら話に花を咲かせていた。
赤城たちと別れた吹雪たちは鎮守府内にある甘味所・間宮へと移動していた。
私たちはまだ訓練の続きがあるから、これで失礼しますね﹂
﹁ふふ、そう言わないであげて加賀さん。あっと、ごめんなさいね吹雪さん。それじゃあ
﹁きっとまた間宮に行っているのでしょう。全く⋮⋮﹂
23
﹃っ
﹄
今、呉鎮守府において稼動可能な全艦隊が出撃準備を終えて出港の時を待っていた。
軽巡洋艦神通率いる第三水雷戦隊。
戦艦金剛率いる第二支援艦隊。
空母赤城率いる主力の第一機動部隊。
◆
深海棲艦に対して、反撃の狼煙が上がろうとしていた。
軍事基地にて警報が鳴る。その意味を軽視する者はこの場には存在しない。
突如として鎮守府内に鳴り響く警報。それが吹雪の様々な疑問を吹き飛ばした。
!?
長門の言葉に多くの艦娘たちが沸き立つ。いよいよ深海棲艦への反撃の狼煙が上げ
襲するという作戦が通達される。
呉鎮守府正面海域を制圧している艦隊の棲地であると推測され、これより敵棲地を強
遠征に出ていた第四艦隊が敵深海棲艦と遭遇し、その際敵棲地を発見した。
司令官である提督の秘書艦を務めている戦艦長門から全艦隊へと通達が送られる。
﹁秘書艦の長門だ││﹂
艦これ短編
24
られるのだ。興奮するのも無理はない。
だが、長門の次の言葉に多くの艦娘たちがどよめいた。
﹄
!?
赤城が一度の出撃で百を超える戦果を上げた伝説と呼ばれる艦娘だとしても、数に任
守府は壊滅するだろう。
放置してより強大になった深海棲艦がこの鎮守府に攻撃を仕掛けてくれば、確実に鎮
つまり、これ以上敵が強大になる前に先に敵を叩けということだ。
にその数は増し、確実にこの鎮守府へと進撃してくるからだ﹂
﹁それでもお前たちに出撃を命じるのは、このままその敵深海棲艦を放置していれば更
にする事は出来なかった。
敵深海棲艦と遭遇した第四艦隊が、命からがら逃げ延びて伝えてくれた情報だ。蔑ろ
だが、それでも伝達しなければならない規模の敵だったのだ。
煽る様な真似など本来はしないだろう。
長門も軍に所属する艦娘としてそういった未確定の情報を公にして軍内部の不安を
本来軍に置いて曖昧な内容を正式な情報として伝達することは殆どない。
﹃っ
たそうだ﹂
﹁皆心して聴け。第四艦隊からの情報によると、敵の総数は数え切れない、という物だっ
25
せた波状攻撃を仕掛けられれば鎮守府を守りきれる訳がない。
だが逆にこちらが攻撃を仕掛け敵棲地にいる敵旗艦を叩けば敵の統率は乱れ、その隙
を突いて勝利を掴む事も出来るだろう。
敵深海棲艦の狙いは長門には理解出来た。恐らく赤城だ、と。
これまでにも細かな深海棲艦との戦闘はあったが、大きな戦闘は二回だけだ。
その一度目は赤城によって大半の深海棲艦が撃破された。
そして二度目。深海棲艦は赤城を脅威と見たのか二百もの艦隊を繰り出してきた。
みなぞこ
だがそれも赤城率いる第一機動部隊によって大打撃を受けて逃走した。
深海棲艦はここで確実に赤城を水底へと沈めようとしているのだ。
その為に近海から多くの戦力を集めたのだろう。
﹁布陣は、一航戦赤城たちを主力とした第一機動部隊が敵棲地を強襲。第二支援艦隊と
第三水雷戦隊はこれを援護﹂
﹄
?
として警戒に当たるのが基本だろう。
だが第三水雷戦隊。この艦隊は本来なら先の二つの艦隊よりも先行して主力の前衛
第一機動部隊と第二支援艦隊の布陣は問題ないだろう。
長門のこの命令には幾人かの艦娘が疑問を覚えた。
﹃え
艦これ短編
26
そんな当たり前の疑問に対して、長門はすぐに答えを返した。
も誰かが死ぬ。いやそもそも成功するのか
﹄
!
え死しても礎にはなれるはずだ。
他の海域で戦っている艦娘たちが、必ず多くの制海権を取り戻してくれるだろう。例
らない。
そう、例えここで死んだとしても、この作戦が失敗したとしても、それは無駄にはな
長門のその言葉の意味を誰もが理解した。
﹃
なっているという事だ﹂
﹁⋮⋮ こ う し て 敵 が こ の 海 域 に 集 中 し て い る と い う こ と は、他 の 海 域 で は 敵 は 手 薄 に
まだ経験の浅い者がそう思うのは無理もないだろう。
?
当然だ。戦力比が何倍もの敵を相手に突撃しろというのだ。作戦が成功したとして
娘たちだ。
長門の命令を理解した艦娘たちの何人かは死を覚悟した。その殆どが経験の浅い艦
丸となって敵棲地を一気に攻め落とす﹂
果たす事も出来ずに壊滅の危機に追いやられるだろう。だからこそ、今回は全艦隊が一
﹁今回の敵総数は二百以上だと推測される。その様な数を相手に先行していては務めを
27
・・・
﹂
そう思った瞬間に、誰しも死の恐怖を乗り越えられた。いや、死にたくはない。死に
たいわけがない。
それでもこの死地に飛び込む勇気が湧いて来たのだ。
﹁案ずるな。私もお前たちを無闇に死地へと送り込みはしない。⋮⋮赤城、あの子は
﹁大丈夫です﹂
﹁そうか⋮⋮﹂
長門と赤城の間にまたも吹雪が理解出来ない会話が成されていた。
回復する事にある。各自、心して作戦に掛かってほしい。油断は禁物だ﹂
﹁本作戦の目標は深海棲艦の脅威を排除し、この鎮守府正面海域からの海上護衛航路を
そんな少し緊張感が抜けた者達を嗜めるように長門からの通達が続く。
感が増している様に吹雪は感じられた。
だが吹雪以外の艦娘はどうやらその秘密を知っているようで、どこか先程よりも安心
い。
どうやら赤城に何かしらの秘密があるようなのだが、それが何なのかは理解出来な
?
結局赤城の秘密が何なのか知る事も、そして呉鎮守府に来て一度も訓練をする機会も
﹂
なく、吹雪の初実戦が始まろうとする。
﹁暁の水平線に勝利を刻むのだ
!
艦これ短編
28
長門のその締め括りの言葉と共に、とうとう吹雪の初実戦が始まった。
◆
﹂
!
は海上へと出撃した。
!
海上へと出撃されていく最中、吹雪の上半身にも艤装が装着されていく。これで吹雪
⋮⋮悲鳴を上げながらだったが。
﹁きゃあぁぁぁぁあぁ
﹂
吹雪の下半身に艤装が装着される。そうしてカタパルトから射出されるように、吹雪
旗艦である神通の出撃に合わせ、吹雪もまた出撃する。
﹁吹雪、行きまーす
﹁第三水雷戦隊。旗艦神通、行きます﹂
く事が出来ない海上に⋮⋮。
だったらもう覚悟を決めて出撃するしかない訳だ。そう、覚悟を決めて、まともに動
もうここまで来れば何をどう言おうと出撃を取り止める事など出来る訳がない。
通信室から下された出撃命令。それを聞いて吹雪は覚悟を決める。
﹃第三水雷戦隊。出撃して下さい﹄
29
﹂
は真に深海棲艦に対抗する力を手にした事になる。
﹁うわぁぁあぁぁ
﹁特型駆逐艦
﹂
﹂
﹂
陣形崩れてるよー
﹁す、すみません
﹁大丈夫
﹁どこか調子悪いっぽい
﹂
﹂
⋮⋮まともに海上を動く事が出来ればの話だが。
!?
!
!
!
﹄
そうして吹雪の驚愕の事実に全員が異口同音に叫ぶ。
吹雪も神通に悟られたと気付き、思わず目が泳いでいた。
そんな吹雪の動きや態度を見て、神通は何かに勘付いたようだ。
﹁吹雪ちゃんもしかしてあなた⋮⋮﹂
心配する睦月や夕立の声にも余裕なく返事をするしか出来ないでいた。
に着いて行くのがやっとだった。
綺麗な陣形を組んで移動する他の第三水雷戦隊と違い、吹雪はどうにかして彼女たち
﹁う、うん、だいじょうぶ、あ、あわわ
!
?
?
!?
⋮⋮いや、やはり少々同音ではないようだ。恐らく夕立がいる限りその面子で異口同
﹃実戦経験がない︵っぽい︶ー
艦これ短編
30
音が成される事はないのだろう。別段どうでもいい事ではあるが。
とにかく、吹雪のまさかの実戦経験零という事実に全員が唖然とした。それは決して
吹雪を悪く思っての事ではない。
前鎮守府では実戦経験を積ませる所か、練度を積む事すらさせてもらえなかったと言
うのか。そういう吹雪が以前に務めていた鎮守府に対しての反応だ。
だがそれは前鎮守府が悪いということではない。どちらかというと前鎮守府は吹雪
を守っていたと言えるだろう。
﹁私、運動が⋮⋮﹂
そう言い掛けた吹雪は、言葉を言い終える前に海上を転がり滑っていった。
それを見た第三水雷戦隊は全員が吹雪の言いたい事を完全に理解した。
﹂
ああ、運動音痴なんだ、と。
﹁何で言わなかったの
込まれた本人はたまった物ではないだろう。
だがまともに動く事が出来ず実戦経験なしの状態で、初実戦でこのような戦地に送り
司令官には恐らく何らかの考えがあるのだろう。
﹁いいかげんっぽーい⋮⋮﹂
﹁司令官が心配ない。皆が助けてくれるって⋮⋮﹂
?
31
それはある意味足手纏いを任された他の艦娘も同様である。
だが戦場は彼女たちに状況の整理を許す時間を与えなかった。
﹂
!
﹂
そして神通のその言葉はすぐに現実の物となった。
との戦闘海域に入るはずだ。
第二支援艦隊とはほぼ横並びに陣形を拡げて移動していた第三水雷戦隊もすぐに敵
その海域では既に味方と敵によって多くの砲弾が飛び交っていた。
旗艦である神通からの報告に全員が第二支援艦隊が展開している方角を見る。
します
﹁皆さん 第二支援艦隊が敵深海棲艦と戦闘を開始 私たちもすぐに敵海域に突入
!
!
なんて数
!
!
外の種類の深海棲艦も存在している。中には未確認の種類すらいた。
だが問題はその数だ。イ級は数えられるだけで二十は出現していた。しかもそれ以
目は恐ろしいが深海棲艦の中ではその脅威度は低いと言える。
この大型の異形の魚のような見た目は駆逐イ級と呼ばれる種類の深海棲艦だ。見た
原因だろう。
吹雪は初めて見える深海棲艦に怯えを見せる。予想よりも大きく異形であった事も
まみ
突如として海面に深海棲艦が現れた。
﹁っ
艦これ短編
32
未確認も含め、これらは全て駆逐艦級だった。だが問題は数だ。これだけの数に責め
﹂
立てられれば個々の練度で勝っていようともいずれは力尽きるだろう。
﹁砲雷撃戦初め
ないだろう。
!
﹁このままでは⋮⋮
ここは一度陣形を組み直します
﹂
!
﹂
!?
最初に被弾したのは川内だ。撃破にはいたってないがあちこちを損傷し艤装は中破
﹁うわぁぁあ
だが、やはり数で圧倒的に劣るということは大きな不利であった。
苛烈な攻撃を掻い潜りながらどうにかその場を切り抜けようとする。
そう悟った神通は一度陣形を組み直してから再度攻撃を開始することを提言する。
このまま攻撃に晒されるままでは確実にやられてしまう。
!
されてしまう程だったのだ。
数が数だけに敵からの攻撃の密度が高く、攻撃どころか回避に専念せねばすぐに撃破
だがその数を減らすという行為すら容易ではなかった。
﹁きゃあああ
﹂
何せ敵の数は甚大だ。とにかく撃って攻撃をして敵の数を減らさなければ話になら
神通の攻撃命令により、第三水雷戦隊は次々と各々の艤装から攻撃を繰り出す。
!
33
﹂
している。戦闘力は大幅に下がっただろう。
﹁か、顔はやめてー
﹂
!
﹁大丈夫だよ吹雪ちゃん。私たちには助け合える仲間がいるんだから﹂
そんな吹雪の疑問には、吹雪の隣で弾幕を張り続けている睦月が答えてくれた。
どうしてこんなどうしようもない様な状況でも戦う事が出来るのだろうか。
﹁どうして⋮⋮﹂
誰もが敵に負けじと攻撃を返していく。
だが、傷ついた仲間は誰もこの現状に恐怖していなかった。
このままでは皆やられてしまう。そんな未来を想像し、吹雪は戦場を恐怖する。
敵艦は更に数を増し、確実に第三水雷戦隊を追い詰めようとしていた。
頼れる仲間たちが傷ついていく。これが戦いなのだと吹雪は実感する。
﹁川内さん、那珂ちゃん⋮⋮
いずれ撃破されてしまうだろう。
続けて那珂も損傷する。損傷は小破と言ったところだが、今は小破でもこのままでは
!
戦場の空を多くの戦闘機が編隊を組んで飛び交っていく。
睦月のその答えはすぐに目に見える形で現れた。
﹁え││﹂
艦これ短編
34
﹂
戦闘機はそれぞれに備わっている機銃や爆弾などの武装で次々と敵深海棲艦を撃破
﹂
していった。
﹁あれは
﹁主力艦隊っぽいー
﹂
!
このような状態で敵本隊が待ち構えている敵棲地に赴き、果たして任務を遂行する事
しまっている。
しかし前哨戦とも言える戦いに全艦隊で出向いた為、主力の第一機動部隊も損耗して
し、この海域全般を開放する事である。
だが、これはこの作戦の前哨戦に過ぎない。最終目標は敵棲地にいる敵艦主力を撃破
を切り抜ける事が出来た。
そして吹雪もまた不慣れながらも砲弾を放ち続け、危なげながらもどうにかこの海域
第三水雷戦隊も主力艦隊に負けじと攻撃を加え続ける。
﹁私たちも続きます
は勢いを取り戻した。
その中でも一航戦である空母赤城と加賀の航空攻撃だろう。この攻撃によって前線
に加わったのだ。
第二支援艦隊と第三水雷戦隊の僅か後方に位置していた主力の第一機動部隊が戦列
!
!
35
が出来るのだろうか。
そんな吹雪の不安が具現したかのような光景が、吹雪の視界に広がっていた。
空は暗雲が覆い、海も何故か不気味に暗く染まっている。
﹁うそ⋮⋮﹂
その中央にある泊地に、敵の旗艦がその姿を現していた。
それだけではない。敵旗艦を守るように、そして攻め込んできた艦娘たちを屠る様
に、数え切れない深海棲艦が伯地の周りに終結していたのだ。
吹雪がそう呟いたのは誰にも聞こえなかったが、例え聞こえていたとしても誰も咎め
﹁こんなの無理だよ⋮⋮﹂
なかっただろう。
初の実戦でこの様な光景を見せられては心が折れたとしても仕方のない事だ。
どうすればこの絶望から逃れられるのか。不安と恐怖に押し潰されそうだった吹雪
は助けを求める様に後ろを振り向き、尊敬する赤城の姿を探した。
赤城はすぐに見つかった。彼女は弓道場で見た時と同じように弓を構えていた。
その表情には微塵も恐怖の色は感じ取れなかった。凛とした佇まいのまま、正射必中
の心得を以ってして、矢を放った。
﹁赤城先輩⋮⋮﹂
艦これ短編
36
赤城のその姿を見て、何時の間にか吹雪の中の不安や恐怖は何処かへ消えてなくなっ
ていた。
﹂
?
﹂
﹂
﹂
﹁来るよ吹雪ちゃん
﹁え
﹂
﹁活目するっぽい
﹁ええ
!
?
睦月と夕立の言葉に慌てふためく吹雪。先程から何が何やら訳が分からない状態だ。
?
!
が。
哀れ戦闘機は過剰とも言える対空攻撃によって海の藻屑となった。⋮⋮戦闘機は、だ
あれだけの深海棲艦に守られた旗艦にたった一機の戦闘機で何が出来たというのか。
吹雪は呆然としたが、まあ驚く事ではない。
﹁⋮⋮え
直戦に飛翔し⋮⋮爆発四散した。
それを証明するように、赤城が放った矢は戦闘機へと姿を変え、敵旗艦に向かって一
それが吹雪に力を与える。赤城と共にならば必ず勝てると。
この大軍を見ても、この戦力差を見ても、赤城は微塵も揺るいではいなかった。
︵これが、私が憧れた人⋮⋮︶
37
だがそんな吹雪の動揺は一瞬で更なる動揺によって塗り替えられる事となった。
砕けた戦闘機から一つの小さな影が飛翔する。
それを狙って海上から先程よりも更に凄まじい対空攻撃が加えられた。
深海棲艦は理解しているのだ。これこそ、自分たちの同胞を沈めた最強最悪の敵。
﹂
妖精であると
﹁ええー
妖精が自在に宙を飛び、無数の砲弾を掻い潜る
!
﹂
なぜなら、妖精の体に触れた弾はその軌道を変えて深海棲艦へと降り注いでいるのだ
いや、全ての弾丸を避け切れてはいない。だが命中してもいない。
!
!?
だが妖精はそうはならなかった。全身を何かオーラの様な光が覆ったと思うと、それ
数秒で撃破されているだろう。
妖精がいる地点はまさに地獄そのものだ。あの場にいればどんな艦娘だろうと物の
砲を放ち、戦艦型が大口径主砲の火力で押し込む。
空母型が戦闘機を繰り出し、駆逐艦型が機銃で弾幕を張り、軽巡・重巡型が中口径主
自ら放った攻撃で撃破されていく深海棲艦。だが彼女らも負けてはいない。
!?
!
﹁ええぇぇ
艦これ短編
38
﹂
らの攻撃の全てを弾き返したのだ。
どう言う事なの
?
否、そんな訳がない。
?
う。その方が効率的である。
妖精がそれだけ強ければ空母型の艦娘は全員戦闘機から妖精を取り出して放つだろ
を正確に敵へと返す妖精がいる。
どこに戦艦が放った大口径主砲をオーラで弾き返す妖精がいる。どこに無数の銃弾
だがこれはない。この妖精の強さはそんな次元の話ではないだろう。
空母の強さは妖精なくして語る事は出来ないのだから。
強いと言えるだろう。
空母が放った戦闘機は妖精が操縦しているのだ。そういう意味では彼女たち妖精は
その仕事ぶりは様々だが、戦場に置いて最も重要な仕事として、戦闘機の操縦がある。
妖精とは艦娘を様々な面で補助をしてくれる重要かつ大事な味方である。
そもそも妖精とはあんなに強いものなのか
夢の中で、目を覚ますと以前の鎮守府の布団に包まれているのかもしれない。
最早吹雪の脳は限界だった。何が現実で何が夢なのかも曖昧だ。もしかしたら今は
?
常識とは何だったのか。妖精とは何だったのか。大口径主砲って弾き返せるの ﹁嘘でしょぉぉぉおぉぉ
!?!?
39
﹁え
妖精さんが
﹂
妖精さんで
﹁落ち着いて吹雪ちゃん
?
妖精さんじゃなくて
?
﹂
!
妖精様ですか
?
﹂
?
か。
﹂
﹂
ちなみに某鎮守府の秘書艦は数日程現実逃避したという。
﹁あれって何なのぉぉぉ
﹁あれこそ、赤城先輩の伝説の立役者
﹄
﹁妖精を超え艦娘を超え深海棲艦を超え、全ての生物の頂点に立つ、妖精女王
﹃その名もヨウちゃん︵だよ︶︵っぽい︶
!
!
!?
﹂
睦月と夕立が交互に、そして最後には同時にあの奇怪な妖精について説明する。
!
﹂
正論である。初見でこれを冷静に処理出来る者が果たして世界に何人いるのだろう
﹁これで落ち着いていられるわけないよ
﹁気持ちは分かるっぽい。でも今は戦闘に集中しようよ﹂
!
?
?
そんな可愛く二頭身で短い手足を付けて身長三十cmもあるか分からないデフォル
だがまあ見た目は普通の妖精その物なので可愛くても可笑しくはないのだが。
しては随分可愛らしいものだ。
今もなお二百を超える深海棲艦を相手に互角以上の戦いを繰り広げる存在の名前に
﹁ヨウ、ちゃん
艦これ短編
40
メされたぬいぐるみの様な存在がこの強さという事が既に可笑しくはあるが。
﹂
!?
﹂
!?
妖精⋮⋮ヨウちゃんから放たれたビームの様な攻撃でその深海棲艦は消し飛んでいた。
避ける事は不可能。最早これまでか。死を覚悟した吹雪だったが││次の瞬間には
そして目の前に急に現れた深海棲艦。すでにその深海棲艦は攻撃態勢に入っていた。
﹁あ⋮⋮﹂
﹁吹雪ちゃん
海に着弾した敵の攻撃に驚き身を竦めてしまう。
あまりの光景と話の内容に完全に戦場から気を逸らしてしまっていた吹雪は、近くの
﹁いやそんな事言われて││きゃっ
またも交互に詳しく説明されたが、それで納得出来る程簡単な存在ではないだろう。
﹁だから吹雪ちゃんも深く考えない方がいいよ。すぐに達観出来るから﹂
﹁あまりにも意味分かんなくてその内皆思考するのを止めたっぽい⋮⋮﹂
味分からないくらいとんでもないの﹂
﹁他の妖精さんと違って戦闘機が無くなってもああして自由に動けるし、その強さも意
い﹂
﹁ヨ ウ ち ゃ ん は 赤 城 先 輩 が 放 つ 戦 闘 機 の 操 縦 妖 精 と し て 何 時 の 間 に か 生 ま れ て た っ ぽ
﹁そう、ヨウちゃんだよ﹂
41
﹁⋮⋮﹂
︶﹂
!
周りの深海棲艦たちもリーダーを守りたいのだが、攻撃するとリーダーを巻き込んで
い。
何度もタップを繰り返しギブアップを表現しているようだが、ヨウちゃんに容赦は無
い ま や 敵 旗 艦 は ヨ ウ ち ゃ ん の 繰 り 出 す 数 多 の サ ブ ミ ッ シ ョ ン で 涙 目 に な っ て い る。
海棲艦も唖然である。
をバリアらしき物で守っていたのだが、そんなものヨウちゃんは殴って壊していた。深
あの短い手足でどうやっているというのか。その前に旗艦である深海棲艦はその身
型をしている事が多い││に対してサブミッションらしき攻撃を仕掛けている。
終いには旗艦だと思われる人型の深海棲艦││深海棲艦の上位固体は艦娘の様に人
を振るって自分よりも遥かに巨大な深海棲艦を木っ端微塵に粉砕していった。
更には敵の数が減ってくるとビームを放つのを止め、近くに寄ってその小さな腕や足
いった。
そ の ま ま ヨ ウ ち ゃ ん は 全 身 か ら ビ ー ム を 四 方 八 方 に 放 ち 深 海 棲 艦 を 次 々 と 沈 め て
分かった。大丈夫だ、こっちは任せろ、と言っているかのようだ。
吹雪が見るとヨウちゃんが吹雪に向かって親指を立ててサムズアップしているのが
﹁︵ぐっ
艦これ短編
42
しまうのであたふたしている。
﹂
最早先程までの空気は何処かへ消え去っていた。吹雪はもう深く考えるのを止めた。
﹄
﹁ヨウちゃん凄いねー
﹃ねー
◆
母級艦娘の戦果となるのだ。だからヨウちゃんの戦果が赤城の戦果となっても別に不
そもそも空母級が放った戦闘機の操縦者である妖精が敵を撃破すればそれはその空
どれだけいると言うのか。馬鹿にされて終わりなのが関の山だろう。
敵深海棲艦を倒したのはヨウちゃんが殆どだが、それを馬鹿正直に広めて信じる者が
この戦果は全てが赤城の物となっている。これは軍としては当然の情報操作だ。
た。
この情報は瞬く間に全鎮守府に伝わり、赤城最強伝説を更に膨らませる原因となっ
その内八割が赤城︵その内更に九割がヨウちゃん︶による物である。
敵深海棲艦撃破数三百二十六︵確認出来うる限りの数なのでこれ以上の可能性有り︶。
呉鎮守府近海海域奪還作戦成功。全艦娘帰還。
!
!
43
思議な事では無い。
﹁⋮⋮私の力ではないのですけど﹂
なに気にする事はないの﹂
﹁いえ、赤城さんがいなければヨウちゃんも生まれていないわ。だから赤城さんがそん
がっくりと肩を落とす赤城を励ます加賀。そんな二人の肩をポンポンと叩き加賀の
﹁︵コクコク︶﹂
言葉を肯定するように頷くヨウちゃん。
妖精は話す事が出来ないからこうしてジェスチャーで感情や想いを表現するのだ。
流石の規格外妖精もそこら辺は妖精の範囲内に収まっているようだ。もっとも、戦闘
機乗りの妖精だというのに自由に出歩ける時点でどうかと思うが。
さて、赤城が改めてヨウちゃんへの信頼を確認しその絆を深めているところで、ヨウ
だったら他の妖精のように信頼して接するだけだ。
てないが、心優しく赤城の、いや艦娘の味方だということは確信を持って言えた。
そんな仕草に赤城は笑みを浮かべる。ヨウちゃんがどういう存在なのかは解明され
赤城の礼の言葉にヨウちゃんはぐっと親指を立てて応える。
﹁加賀さん、ヨウちゃん、ありがとう﹂
艦これ短編
44
45
ちゃんという規格外妖精について説明しよう。
率直に言えば、彼女は転生者と呼ばれる存在である。転生者と言えば読んで字の如く
死して生まれ変わった者だ。
仏教徒であればこの世の生物は命が輪廻転生して巡っているのだと信じているだろ
う。実際はどうなのか転生者であるヨウちゃんにも完全には理解出来てはいないが。
普通の輪廻転生と違い、ヨウちゃんには生前⋮⋮前世の記憶が残っているのが特徴
か。
それはそういう能力をかつてのヨウちゃんが作り出したことが原因だ。
これはとある目的の為に意図して作り出した能力だったが、それが意図していない結
果を生み出してしまった。
それが転生人生である。ヨウちゃんは死んでは生まれ変わり死んでは生まれ変わり
を繰り返すようになったのだ。
し か も そ の 能 力 を あ る 程 度 の 制 限 が あ る と は 言 え 引 き 継 い で 生 ま れ 変 わ っ て い く。
記憶があるから技術なども引き継げる。
つまり生まれ変われば生まれ変わる程に強くなっていくのだ。もちろん様々な要因
により前世より弱くなる事も有るには有るが。
ともかく、そんな延々と続く転生人生を歩んでいたが、これは真実永遠に続くわけで
はない。終わる方法が幾つかあるのだ。
そ の 最 た る 方 法 が 自 殺 で あ る。自 殺 を す れ ば 転 生 の 能 力 が 発 動 し な く な る と い う
ルールを能力の中に組み込んでいるのだ。
最も、今の彼女に自殺をするつもりはない。それは負けの様な気がするのだ。まあ本
当にどうしようもなく生に疲れたら自殺をするかもしれないが。
今は生まれ変わったら以前の人生は大事な事以外忘れ、今の人生を楽しもうと割り
切っているようだ。現在の妖精人生︵妖精生 ︶も中々刺激的で楽しんでいるヨウちゃ
んである。
直ヨウちゃん自身この確率については完全に綺麗さっぱり忘れている条件であった。
ちなみにこうして今も転生している事からこれまでは確実に発動してきている。正
ぼ0%だろう。
るほど転生の能力は発動しやすくなるのだ。生まれてすぐにでも死ねば発動確率はほ
確率とは、能力発動が絶対ではないことを現している。その人生で長く生きれば生き
他の転生を終える方法としては、単純に確率の問題と、もう一つある方法が有る。
?
それはヨウちゃんの最初の人生が大きく関
もう一つ⋮⋮最後に残された方法。それは女性と性交することでこの転生能力が消
滅するというものだった。
なぜこの様な条件を組み込んだのか
?
艦これ短編
46
47
わっているのだが、ここでは記す事も憚られる。
とにかくヨウちゃんはこれまでの人生で女性と一度たりとも性交する事なく過ごし
てきた。
それは別にヨウちゃんが女性嫌いという訳ではない。⋮⋮単純に一度もその機会が
巡ってくる事がなかったのだ。
大 抵 は 女 性 と し て 生 ま れ て き た。性 別 が あ る 生 命 に 転 生 す れ ば 性 別 の 確 率 は ほ ぼ
半々だ。
だが運が悪いのか、何故かほぼ全て女性として生まれてきたのだ。女性に生まれれば
余程の状況にならない限り女性と性交などするわけがない。
一応は男性として生まれる事も有るには有った。だが、男性というか、それは雄だっ
た。
雄。人間には使われない性別の総称だ。つまりはその時は人間ではなく異種の存在
だった。異形である。
そして同種の雌ももちろん異形だ。精神は人間であり、その美的感覚も人間のままで
ある当時の彼には同種との性交は御免であった。
結局彼││当時のヨウちゃん││はその生涯を童貞で終えた。最後は涙したのを覚
えている。こればかりは今もなお忘れる事が出来ない悲しい記憶となってこびりつい
艦これ短編
48
ていた。
さて、そんな彼︵彼女︶が巡り巡って生まれ変わったのが、妖精であった。
初めて意識が出来たのは戦闘機の中であった。これには流石に驚愕である。今まで
生まれた時は当然赤子なのが殆どなのに、急に意識が浮上したと思ったら戦闘機の中な
のだ。
戦闘機の操縦は何故か理解出来た。これは戦闘機の操縦妖精に生まれつき備わって
いる特性なのだろう。
だがそれを別としていきなりの状況に久しぶりに戸惑っていたヨウちゃんはいきな
り敵の機銃に被弾。そのまま戦闘機は無残に爆発四散した。
しかしそこは百戦錬磨どころか百生練磨というくらいに戦い続けて来た経験を持つ
ヨウちゃんだ。
戦闘機が四散する前に中から飛び出し、状況を確認。海面には多くの異形︵深海棲艦︶
が存在、本能としてそれらを敵と判断する。
後はまあ説明するまでもないだろう。結果だけを述べよう。哀れ深海棲艦は海の藻
屑と化した。
そこからは産みの親とも言うべき赤城に驚かれたり、加賀に驚かれたり、秘書艦を呆
然とさせたり、間宮で特盛り餡蜜を食べてご満悦したりと楽しい日々を送っているわけ
だ。
︶﹂
!
た。
ままならない転生人生を送っているが、彼女は何だかんだで楽しんでいるようであっ
入浴後の餡蜜を楽しみに思い笑顔全開のヨウちゃん。全力でサムズアップしていた。
﹁︵ぐっ
﹁私も行くわ﹂
﹁お風呂が終わったら一緒に餡蜜を食べに行きましょう﹂
す。
すぐに赤城の言葉に嬉しそうに頷き、そのまま赤城の肩に乗って共に風呂場を目指
いうか元日本人なヨウちゃんなので大好きと言っても過言じゃなかった。
楽しみにしていた餡蜜が少しお預けされたが、まあ入渠︵お風呂︶は嫌いではない。と
は流石にあった。
傷は付いてないが戦場故に汚れはある。砲弾が飛び交う中にいたのだ。煤汚れなど
だったが、そこは赤城によって止められた。
い つ も の 様 に 戦 闘 を 終 え て 間 宮 に て 好 物 の 餡 蜜 を 食 べ に 行 こ う と し た ヨ ウ ち ゃ ん
﹁︵⋮⋮こくこく︶﹂
﹁こらヨウちゃん待ちなさい。まずは入渠して汚れを落としますよ﹂
49
ず常識だと認識してしまう世の中。
いつまで続くのか、いつ終わるのか分からない地獄の様な時代。それを地獄だと思わ
戦争の巻き添えとして子どもを含めて死んで行く。
10歳にも満たない子どもが忍として戦場に出てその多くが死に、そして国民もまた
その平均を大きく下げていたのは、多くの幼い子ども達の死だった。
そんな戦国時代、忍と国民の平均寿命は僅か30歳前後と言われている。
た。
広がったせいで、戦争以外でも忍は多くの一族がいがみ合い殺し合う様になっていっ
更には国の戦争に関係なく、いや戦争で多くの仲間や家族を殺された恨みや悲しみが
して国に雇われ戦争に参加していた。
国々が自国の利権や領土拡大の為に争い、その戦力として忍は一族単位の武装集団と
いた。彼らはこう呼ばれていた。忍、と。
そこではチャクラと呼ばれる特殊な力を操る者達が血で血を洗う戦いを繰り広げて
かつて、戦国の世があった。
NARUTO 第一話
NARUTO 第一話
50
51
そんな時代に、ある一人の少女が生きていた。
彼女の名は日向ヒヨリ。忍の一族でも有名な日向一族、その宗家の姫君である。
ヒヨリはこの戦国の世を憂いでいた。他の忍と違い、ヒヨリは殺しを好まなかった。
いや、他の忍も好んで敵を殺す者は少なかったが、それでも敵は殺す物として当たり
前に思っていた。
だがヒヨリはそうではなかった。国の利権の為に雇われ、一族の利権の為に敵を殺
す。そんな生き方しかしらない自身の一族や他の一族を哀れに思っていた。
何故ヒヨリがその様な考えに至ったか。それは彼女が前世の記憶を有した転生者で
あるからだ。
平和な世界で生き、平和に育った経験を持つヒヨリにとって、この戦国の世しか知ら
ない人々は憐憫の対象となったのだ。
いや、大人ならばいい。大人が大人の都合で戦いに生きるのは否定しない。ヒヨリと
て争いはともかく競い合う意味を持った闘いならばそこまで嫌いではない。
だが、子どもを巻き込むなら話は別だ。戦争に子どもを投入し、十にも見たない歳の
子が殺されていく。そんな世の中は間違っている。
だからこそ、子どもを戦争に加担させる事が当たり前だという常識が、ヒヨリには我
慢出来なかった。
NARUTO 第一話
52
大人が大人の都合で、国が国の都合で戦争しているならばヒヨリも特に思うところは
なかっただろう。
国にとっての戦争とは政治の延長という側面もあるだろうし、場合によっては戦争を
しなければ国が滅んでいた事態もある。戦争の全てを否定はしない。
もちろん自国が一方的に他国に攻撃されて滅ぼされるのを許容するわけはないが。
それは別として、子どもを刈り出してまで殺し合いを繰り返すこの世界の常識はヒヨ
リには受け入れがたかった。
ある日の事。ヒヨリは日向一族の集落を抜け出し一人木の上に立っていた。
いつまでも続くこの戦国の世に気が滅入り、少し気分転換をする為にこうして景色を
眺めていたのだ。
高い所から目を凝らせばどこまでも遠くを見渡せるような気がするのでヒヨリは高
所が好きだった。
ヒヨリはその両目を白眼へと変化させ、周囲360度全てを見渡す。
白眼。これは日向一族が保有する血継限界と呼ばれる特殊な力である。
血継限界とは忍がチャクラを練って生み出す術では再現出来ない特殊な力の事を指
す。
53
その希少な能力の中でも白眼は三大瞳術と呼ばれ恐れられていた。
その能力はほぼ360度に渡る視界と透視能力に望遠能力、そして個人レベルでの
チャクラの性質を見抜く事も出来るという優れ物だ。優れたチャクラ感知能力を持つ
忍もチャクラの性質に関しては同じ事が出来るが、白眼だとそれ以上の精度で見抜く事
が出来る。
それだけではない。人体にあるチャクラの流れ││経絡系││や、その白眼の瞳力が
強い者はチャクラ穴││点穴とも呼ばれる││と言われる経絡系上にあるツボも見極
める事が出来るのだ。
これらは戦闘に置いても感知に置いても非常に優秀な能力であった。だからこそ日
向一族は忍の中でも強者として名を馳せていたのだ。
この白眼の能力はヒヨリの今までの人生でも得た事のない力だ。特に透視と望遠の
能力は便利に思っていた。
というか、ぶっちゃけそれ以外の白眼の能力は大抵がヒヨリの経験で補う事が出来て
いた。白眼を発動させなくても経絡系を感じ取れる事がその証拠であろう。
これは日向一族には絶対に秘密にしている事である。言えば多分へこむ。経験だけ
で白眼が真似られては悲しくてならないだろう。
ともかく、ヒヨリはこうして高所から白眼にて遠くを見渡すのが最近の楽しみになっ
ていた。
集落にいるとやれその力を一族の為に使えだの、敵を殺すのを躊躇うなだの年寄り共
が煩いのだ。
彼らもヒヨリの非凡な力を理解しつつあるのでヒヨリに期待してそう言っているの
だ。ヒヨリとしてはたまったものではなかったが。
そうして今日も年寄りの小言から逃げ出し遠方を見つめる。新しい発見はないかと
色々と見通すのだ。
ちなみにこれまでに幾つもの忍一族の集落や村などを見つけている。ヒヨリがその
気だったならば既に幾つかの集落が日向によって滅ぼされていただろう。
それだけヒヨリの望遠能力は優れていた。並外れたチャクラを白眼へと注ぎ込む事
で桁違いの距離を見通す事が出来たのだ。
そんな風に遥か遠方を眺めていたヒヨリは気になるものを見つけた。
それは二人の少年だ。どうやら川原で戦っているようだ。だがそこに殺気は感じら
れない。恐らく同じ一族なのだろう。鍛錬でもしているのだろうか。
そう思ったヒヨリは白眼で見た二人のチャクラ性質でその考えを否定した。
チャクラは個人個人でその性質が異なる。これは指紋と同じ様なもので完全に一致
︵これは⋮⋮二人のチャクラ性質が違い過ぎる︶
NARUTO 第一話
54
するチャクラ性質を持つ者はいない。
なのでこの二人の少年のチャクラの性質が異なっていたとしてもそれはおかしな事
ではないのだ。
だが、それでも似たようなチャクラの性質という物はある。それは家族や一族など近
しい血縁関係にある者達のチャクラ性質がそうだった。
この二人は完全に別物のチャクラ性質を持っていた。いや、どこか似ていると言えば
似ている様に何故か感じるが、その性質はやはり別物だ。
つまりこの二人は同じ一族の忍ではないということだ。だとしたらやはりこれは別
の忍一族同士の殺し合いなのだろうか
?
大抵は争うしかないが、稀に忍同士で手を組む事はあるにはあった。それでもこうし
もしかしたら彼らは同盟を結んでいる忍の一族なのかもしれないとヒヨリは考える。
﹁これは⋮⋮﹂
の勝負方法で競ったりしている。
そして勝った方はひたすら喜び、負けた方はすごく悔しがり、すぐに再戦したり、別
鍛錬の為の組み手としか思えない。
ヒヨリは思わずそう呟く。それどころか二人は実に楽しそうに戦っていた。完全に
﹁⋮⋮いや、やはり殺気はない﹂
55
て共に研鑚を積む事はまずない事だが。
しかしその考えも否定した。ヒヨリは二人のチャクラ性質を見抜いたのだ。
﹂
?
容を把握していた。ストーカー真っ青の能力である。
⋮⋮ちなみにあまりに遠方なので当然会話は聞こえていないが、口の動きからその内
リも驚愕である。
そればかりか二人はこの世界の未来についても話し合っていたのだ。これにはヒヨ
だというのに、敵対する一族同士でこうして研鑚を積むなど有りえないだろう。
で千手を雇えば対抗する為にうちはが、そしてその逆の立場が良く起こっていた。
二つの一族は敵対している事で有名なのだ。両一族は共に強大な力を持つので、戦争
そんな二人がどうしてこの様に楽しげに共に在るのか、ヒヨリは理解に苦しんだ。
の大人よりも強いという逸材であった。余程の才を持って生まれたのだろう。
しかも二人の動きやチャクラの練り方、術の練度からして、まだ少年だと言うのに並
くその一族に名を連ねる者達だろう。
二人のチャクラ性質はこのそれぞれこの二つの一族に似通っていた。まず間違いな
にヒヨリも戦場で見かけた事があり、そのチャクラ性質も見た事があった。
千手一族とうちは一族。それは日向に勝る程の知名度を持つ忍一族である。有名故
﹁千手と、うちはだと
NARUTO 第一話
56
それはさておき。二人の会話から、互いに一族の名を知らないのだろうとヒヨリは感
づいた。
姓を見ず知らずの相手に口にしない。それが忍の共通の掟だ。姓を知られればそれ
が殺し合いに発展する事は多いのだ。
それでも、二人は互いの姓を知らぬままでも、お互いに今の世の中をどうすれば変え
る事が出来るのかを話し合っていた。
少年だからだろう。方法は見つからずともどうにかして未来を良くするんだという
意気込みに溢れていた。
そんな二人を見て、ヒヨリは思った。
││千手柱間とうちはマダラの元へと向かった。
思い立ったが吉日という奴だろう。ヒヨリはすぐにその場から飛び立ち二人の少年
手一族とうちは一族と共になら⋮⋮。
日向一族だけでは多くの忍を屠らなければ実現は難しくとも、この二人と、そして千
世を変革する事が出来る。
だがそれでもやらなくてはこの世界は変わりはしない。この二人と共にならば今の
二人の少年と比べて打算的な己のその思考に嫌気が差すヒヨリ。
︵この、二人となら︶
57
NARUTO 第一話
58
それが⋮⋮悲劇を生んだ。もしヒヨリがもう少し熟考してから行動に移していれば、
起こらなかっただろう悲劇が⋮⋮。
◆
千手柱間とうちはマダラ。千手一族とうちは一族、両一族きっての才能を誇る少年達
は、偶然川原で出会ってから互いに無二の親友となった。
いや、偶然ではなかったのかもしれない。互いが川原にやって来るのは川を見ている
と心の中の嫌な気持ちが流れるような気がするという同一の理由だったから、二人の出
会いは必然だったのかもしれなかった。
出会ってすぐに二人は同じ理由で川原へ来ているのだと直感した。性格は違うが互
いに何か通じるものを感じた二人はすぐに惹かれ合っていった。
そして互いにこの戦乱の世を憂い、変えようとしていることを知る。
それは今の世にあって異端と言っても良い考えだ。誰もが自分たちの一族の繁栄と、
そしてそれ以外の一族の打倒を願っている。
それが当たり前の考えの世の中で、こうして同じ理想を持つ者同士が出会えた事は奇
跡に等しかっただろう。
互いの理想を知ってから、二人はちょくちょくと会う様になった。姓は互いに知らな
いまま、忍の技を競い合ったり未来について話し合ったりしたのだ。
まだ理想が高すぎて実力も手段も追いついてはいなかったが、それを覆すべく力を付
けるべく共に研鑚していた。
そんなある日の事だ。いつもの様に組手で力比べをし、休憩がてらに未来について語
り合う。
いつもと同じ日々だ。辛い世の中だが二人で理想を目指すのは互いの最大の楽しみ
だった。だが、その二人の日々は早くも終わりを告げる事となった。
い。
を示すには一定以上の力が必要だ。力のない理想を語っても、それは騙りにしかならな
それは柱間も理解していた。どんなに崇高な理想を語ろうとも、この戦乱の世でそれ
必要だとマダラは言う。
理想実現に必要な事は何か。未だ具体的な方法は見つからないが、何をするにも力は
ても何も変わらねぇ﹂
﹁まずはこの考えを捨てねぇことと、自分に力をつけることだろが。弱い奴が何を吠え
﹁でも具体的にどうやったら変えられるかだぞ。先のビジョンが見えないと⋮⋮﹂
59
﹁そだな⋮⋮とにかく色々な術をマスターして強くなれば、大人もオレ達の言葉を無視
できなくなる﹂
よォ⋮⋮﹂
﹁苦手な術や弱点を克服するこったな⋮⋮まあオレはもうその辺の大人より強ェーけど
マダラの言葉は嘘ではない。二人は少年と呼ばれる歳でありながら既に並の大人を
凌駕する実力を有している。
そんな自信のある言葉を吐きながら、マダラはその場を離れ下に川が流れる崖の端ま
で移動した。
何をするのか疑問に思った柱間だったが、すぐにマダラの行動を理解した。
立ちションである。
それを理解してすぐに柱間はマダラの真後ろに立とうとした。
そうすれば小便が止まる繊細なタイプだと以前にマダラが口走った事を思い出した
からだ。
それを確認してやろうと悪戯心を出し、柱間は気配を消してマダラの背後に立つ。
そして⋮⋮悲劇は起こった。
﹁フウ∼∼⋮⋮﹂
NARUTO 第一話
60
小便が川に落ちる音が響く。だがそれもすぐに止まってしまった。
﹂
マダラの小用が終わったわけではない。柱間が後ろに立った為に集中出来ずに小便
が止まってしまったのだ。
﹁⋮⋮﹂
﹁ホントに止まるんだ⋮⋮﹂
﹁だからオレの後ろに立つんじゃねェーー
﹄
!?
訪問者とも敵対する可能姓は高い、高すぎるだろう。
柱間とマダラの理想は未だ理想であり忍の世に欠片も浸透していない。ならばこの
は例外中の例外に過ぎない。
忍の世は敵だらけだ。例え二人が別の一族でありながら無二の親友だとしても、それ
問者が忍であると察する。
上空から降り立つという、明らかに一般人の登場方法ではないそれに、二人は急な訪
ても対応出来るように構えようとする。
二人の更に後ろに突然発生した気配に驚愕しつつも、二人はすぐに反応して何があっ
﹃
その時だ。マダラの後ろに立つ柱間の、その更に後ろに急に人が降り立ったのは。
マダラは後ろに立つ柱間に怒鳴りながら文句を言う。
!!
61
NARUTO 第一話
62
二人はこの相手が自分達の一族ではない事を咄嗟に祈る。もしそうであれば、この好
敵手とも、同じ理想を求める同胞とも呼べる親友との日々が終わってしまうのだから。
そうして二人は急な訪問者に振り向く合間の一瞬で様々な想いを抱く。
そして二人が振り向いた先に見た者は⋮⋮同年代くらいの少女であった。
だが少女であろうと忍は忍。年齢や性別などそこに関係ない事を二人は嫌というほ
ど理解していた。
それを変えたいと思っている矢先にこうして別の一族と出会ってしまうのか。そう
思っていた二人だが、少々少女の反応が可笑しい事に気付く。
何か目的が有ってこの場に来たのは明白だ。そうでなくては二人が一緒にいるこの
場に現れる理由がない。
理由としては互いの一族の者が別の一族と出会っている為に相手を殺しに来たのか。
二人は同時にそう考える。どちらもこの少女と初対面なので、互いに相手の一族の者
なのだと想像したのだ。
もう一つはどちらの一族の忍でもなく別の忍一族の者かという所か。こうして別の
一族を発見した為に少しでも戦力を減らす為に二人を殺しに来たのか。
それならば一人で来るとは考えづらい。恐らくどこかに伏兵がいるだろう。そう思
い目の前の少女だけでなく伏兵も警戒する。
だが、警戒する少女は二人を見て何故か視線を逸らした。
﹂
いや、二人ではなくマダラを見て、だ。それはマダラも、そして柱間も視線と気配で
理解した。
﹁お前⋮⋮何者だ
﹁待てマダラ
まだ敵と決まった訳ではないぞ
それに彼女に敵意は見られん
!?
﹂
!
!
!?
が難しい。
﹁何の目的でここに来た
﹂
流石に少女との出会い方が悪かった。あれではこの戦国の世で警戒するなという方
はならないだろう。
少女に敵意はなく、しかしだからと言って演技の可能性もある。警戒心を解く理由に
どちらの言う事も正しく間違ってはいない。
!
!
レ達を欺く演技の可能性もある
﹂
﹁油断すんな柱間 どっかに他の敵が潜んでるかもしれないぜ こうしてるのはオ
!
何故か顔を赤らめていたりと様子が可笑しいが、警戒しない訳にはいかなかった。
ない登場の仕方だ。
柱間と出会った時は偶然かもしれないが、この少女は二人を目指して来たとしか思え
様子の可笑しい少女にマダラは警戒心を顕わにする。
!?
63
﹁えっと⋮⋮その⋮⋮﹂
マダラの詰問に対して少女は答えにくそうにうろたえている。
﹂
それがさらにマダラの警戒心を大きく刺激し││
﹁その、股間⋮⋮見えてますよ
ていれば、柱間がマダラの後ろに立とうとしなければ、ヒヨリの到着が少しでも前後し
タイミングがとことん悪かった結果だ。マダラが小用を催したのが僅かでも前後し
小用中だったとは思ってもいなかった様だ。
戦乱の世を変えてくれるかもしれない人材の発見に少々浮かれていたようで、まさか
びしょ濡れの服で焚き火に当たるマダラにヒヨリは土下座する。
﹁何かすいませんでした﹂
◆
後に延々と笑い話にされるマダラの悲劇であった。
││マダラは崖から飛び降りた。
?
ていれば、起こり得なかった悲劇である。
﹁いや⋮⋮もういいよ﹂
NARUTO 第一話
64
﹁でも、その、見てしまいましたし。いえ私は気にしてないんですよ。互いに子どもじゃ
ないですか。まだご立派な物でもなかったですし可愛い物を見させてもらったといい
少しは男の気持ちを理解して言葉を選んで話せ
﹂
マダラの男としてのプライドはズタズタだ
意味わかんねぇわ
効果は抜群だ
!!
ますか﹂
﹂
﹁もういいっつってんだろお前よー
や
ヒヨリの精神攻撃
﹁男の⋮⋮気持ち⋮⋮﹂
﹁何でお前が落ち込んでんだよ
!
!
﹂
効果は抜群だ
なぁと思いださせられたのだ。
マダラの反撃
何言ってんだ柱間
﹁││だ﹂
﹁あ
!
ヒヨリは精神に多大なダメージを受けた
そして柱間はどこかキリッと表情をきつくしてこう言った。
いているのをマダラが気付いた。
そんな風にヒヨリとマダラが互いの心にダメージを与えている所、柱間が何かしら呟
?
!
マダラの言葉によってもはや男であった頃の気持ちなど記憶の残滓にも残ってない
!?
!
!
!?
?
!
65
﹂
﹁お前⋮⋮何者だ
﹁ぶふぅ
﹂
﹂
﹂
﹂
⋮⋮股間おっぴろげて言う台詞ではないぞ
レ達を欺く演技の可能性もある
﹁がぁ
﹂
﹁何の目的でここに来た
ハハハハハハハッ
﹁元はと言えばお前がオレの後ろに立ったのが原因だろォがァァ
と言っても互いに殺意はない。これくらいは親友同士の悪ふざけの範疇なのだろう。
た。
当然マダラがそれに耐えられる訳もなく、二人はそのまま殴り合いへと発展していっ
く柱間。
股間を晒した状態で放ってしまった台詞を真似する事でとことんマダラを煽ってい
!
!
!
!!
アハハハハ
﹁油断すんな柱間 どっかに他の敵が潜んでるかもしれないぜ こうしてるのはオ
柱間のごく最近どこかで聞いた様な台詞にマダラが噴き出した。
!?
!?
!
!!
!?
!?
どれだけ永く生き、どれだけ経験を積もうと、こういったやり取りは見てて飽きる事
そんな仲の良い二人を見てヒヨリはくすりと笑みをこぼす。
﹁ふふっ﹂
NARUTO 第一話
66
がないな、と。そう思い、心から微笑んだのだ。
﹂
まあ、それを見てどう判断するかは人それぞれなのだが。
﹁お前も笑ってんじゃねーっ
﹁あはは、ああ、ごめん。嬉しくてつい﹂
﹁⋮⋮ふん。何が嬉しいのやら。変わったやつだ﹂
﹂
お前は一体何者だおい
﹂
!?
﹁まあ恥ずかしいのは分かるが少女に当たるのはどうかと思うぞ
そんな事より
!
﹄
!?
もしれない出来事だ。
それを出会って十分足らずの相手に教えるなど前代見聞と言っても過言ではないか
言うべき掟なのだ。
当たり前だ。忍の姓は見知らぬ相手に教える物ではない。これは全忍の不文律とも
ヒヨリのいきなりのカミングアウトに柱間もマダラも驚愕する。
﹃
忍です。よろしく﹂
﹁えっと、今更ですが初めまして。私は日向ヒヨリと言います。ぶっちゃけ日向一族の
それも致し方ないだろう。誰だって自分の恥部の話を蒸し返されたくはないものだ。
ようやく話が本題に戻ったようだ。いや、マダラが無理矢理に戻したというべきか。
﹁お前はしつけーんだよ柱間ァ
!
?
!?
67
そんな前代未聞の自己紹介をしたヒヨリは唖然とする二人に更に言葉を続ける。
﹂
﹁いやぁ、日向って白眼にならなくても瞳が解りやすいくらい白みがかってますからね。
どうせばれるなら初めから教えても問題ないでしょう
くない
そしてこの忍が争う戦国の世にあって、他の一族と出会った忍がする事はただ一つ。
積極的に教える理由にはならないだろうが。
と言ってもそれは日向一族について多少なりとも知識や対面がある場合の話で、自ら
そのせいで瞳を見れば日向一族だとばれる可能姓は大いにあるのだった。
色と言った所か。
ヒヨリの言う通り、日向一族は常に瞳の色彩が薄い。具体的にはやや薄紫がかった白
?
しかしヒヨリは目的が有って二人に接触した。その目的はもちろんこの忍の世の変
乗らなかっただろう。無駄な争いなど好むヒヨリではない。
これが偶然出会ったのならばそれで良かっただろう。その時はヒヨリも姓までは名
すませた方がいいのはヒヨリも理解していた。
それを見て、やはり早過ぎたかとヒヨリは落胆した。もちろん名前だけで自己紹介を
様だ。
マダラは無言で苦無を構える。柱間も苦無を構えてはいないがやはり警戒している
﹁⋮⋮﹂
NARUTO 第一話
68
革の為だ。
だと言うのにだ。姓も名乗れずにどうして忍の世が変革出来るというのだ。それで
は今までと何も変わらないではないか。
たかだか姓を名乗るだけだが、この世界では大きな一歩なのは理解している。だが、
それでも前に歩まなければ作りたい未来に辿りつける訳がない。
ヒヨリは柱間やマダラの警戒心が籠もった視線を受けても目を逸らすことなく二人
を見据える。
││けどやっぱり早過ぎたかなぁ。もうちょっと仲良くなってからでも良かったか
なぁ。
などと内心動揺していたが、それはおくびにも出していない。これも長年の経験によ
る賜物である。
そんな二人の葛藤を知ってか、ヒヨリはその口を開いた。
をすぐに敵だと見做したくなかったのだ。
そして何より、あんな出会い方をして、あんな馬鹿なやり取りをして⋮⋮そんな相手
敵意があれば交戦していただろう。だがヒヨリからは微塵も敵意は感じられない。
柱間もマダラも、ヒヨリに対してどうすればいいのか考えあぐねていた。
﹃⋮⋮﹄
69
﹄
﹁姓も⋮⋮名乗れない世の中なんて⋮⋮嫌なんですよね私﹂
﹃
だが柱間は悩み逡巡した末に、意を決した様に面を上げて言葉を発した。
だろうと互いに予想していた。
相手に教えたい。だがそうするとこの関係は崩れてしまう。それは恐らく確実な事
けていた事だった。
だが、そんな二人なのに未だに互いの姓を知らない。それは今までにも何度も気に掛
た。
そんな世の中を変えたいと願ってこうして二人で共に研鑚を積み、方法を論じてき
柱間もマダラも、互いの姓を知らずにいる。
それは二人の願いの根源の一つだ。
!?
﹂
!!
聞きさえしなければ知らなかったですむ。だが、知ってしまえば⋮⋮。
いるのだ。
それを聞けばマダラは柱間を許せなくなる。今まで柱間と接してきてそう感づいて
それをマダラは止めた。柱間が何を言おうとしたのか理解したのだ。
﹁止めろ柱間
﹁オレは⋮⋮オレの名前は⋮⋮﹂
NARUTO 第一話
70
﹁マダラ
解ってる
﹂
お前の言いたい事は
を名乗れぬ世界ではないぞ
!
だが、オレ達の作りたい忍の世は、姓
!
千手柱間ぞ
﹂
!!
はまだ完全ではないという事だ。
写輪眼は成長すると瞳に勾玉が三つ浮かび上がる様になる。つまりマダラの写輪眼
る事が出来る。全ての術を無条件でコピー出来るわけではないが。
その上、体術・幻術・忍術の仕組みを看破し、またその術をコピーして自らの物とす
見せたり、催眠に掛けることも可能。
その能力は凄まじいの一言に尽きる。ずば抜けて高い動体視力を有し、相手に幻術を
それはうちは一族特有の血継限界、写輪眼である。
そう名乗ったマダラの瞳に小さな勾玉の紋様が一つ浮かび上がっていた。
﹁オレは⋮⋮うちはマダラだ﹂
姓を名乗った。
もう今までの関係は終わりを告げてしまったのだ。マダラもそれを感じ取り、自らの
言った。名乗ってしまった。最早後戻りは出来ない。
﹁オレは
の姓がなんであるかを、マダラと同じ様に感づいていたのだ。
柱間もまた理解していた。マダラが自分の姓を知ってどう思うかを。そしてマダラ
!?
!
!
71
だがそれでも十分過ぎる能力を持つのが写輪眼だ。日向一族の白眼と共に三大瞳術
に数えられている程の物である。
そしてその開眼条件はかなり特殊である。
それは、うちは一族の者が激しい感情の変化が起きた時、脳内に特殊なチャクラが噴
き出し、視神経に反応して眼に変化が現れて写輪眼となるのである。
つまりマダラは写輪眼が開眼する程に激しい感情の変化が起きたという事だ。
﹁柱間⋮⋮お前は千手。何となくそうじゃないかって思ってた。でも、出来れば違って
ほしかった⋮⋮オレの兄弟は千手に殺された﹂
それがマダラに激しい感情の変化をもたらした要因。マダラに取って千手一族は家
族の仇だったのだ。
そしてそれだけではない。真に写輪眼を開眼した理由、それはマダラが柱間と敵対す
る事を決意したからだ。
柱間と敵対する事を決意した事で激しい感情の変化をもたらすほど、マダラは柱間の
事を親友として認めていたという事である。
そして、そんなマダラの告白は柱間にも苦しい過去を思い起こさせた。
﹁
そうか⋮⋮やっぱりオレ達は殺しあうしかないようだな﹂
﹁オレの⋮⋮オレの兄弟も、うちはに殺された﹂
NARUTO 第一話
72
!?
柱間の告白を聞き、マダラはこうなるべくしてなったのだと思う。
﹂
互いに兄弟をそれぞれの一族によって殺されたのだ。最早手を取り合えるわけもな
別の道もあるはずだ
オレは弟を殺した千手が憎い
﹂
!
お前だって
﹂
!
巻いている。
﹁どうしてそんな事が言える
!
憎くないと言えば嘘になるさ でも、そうやってずっと憎しみだけ
で戦っていけば結局何も変わらないぞ
!
﹁オレも、4人兄弟だった。そして、一人だけ弟が残っている﹂
﹁⋮⋮一人だけ、弟が残っている﹂
﹁マダラ、お前は5人兄弟と言ってたな⋮⋮もう、一人も残っていないのか
﹂
今はこうして互いに思っている事をぶつけた方がいいと思って見守っているのだ。
そんな二人と違い、どこで声を掛けたらいいのかタイミングを計るヒヨリ。
二人の様々な感情が入り交ざった討論は加速していく。
!
﹁オレだって
!
それがマダラには信じられなかった。マダラの中には千手に対する憎しみが今も渦
!
いだろう、と。
オレ達は分かりあえただろ
!?
だが、マダラと同じ境遇であるはずの柱間の考えは違った。
そんな事はない
!
柱間は、この状況でなおマダラと手を取り合う未来を捨てていなかったのだ。
﹁違う
!
?
73
﹁それがどうした
﹂
!?
これ以上、兄弟を失いたくなかったからだろ
﹂
﹁オレ達がこの世界を変えたいと願ったのは、幼子が戦場に出るこんな世界に嫌気が差
﹂
したからだろ
﹁ッ
!
!
間や家族にこの地獄の様な世界を見せたくないぞ
!
!
依頼レベル
そこでは子どもがちゃんと強く大きくなるための訓練する
個人の能力や力を合わせて任務を選べる様にする
そうすれば子どもを激しい戦地へ送ったり
!
﹁オレは集落を作りたい
学校があるんだ
﹂
﹂
をちゃんと振り分けられる上役を作る
しなくていい、そんな集落だ
そんな物は夢物語だ
!
!
本当にそんな集落が出来れば、今みたいに幼子が使い捨ての道具の様に無闇に死んだ
いや、夢かもしれない。だが実現してほしい。マダラは激高しつつもそう思った。
!
!
!
!
たのだから。
それはマダラとて同じ想いだ。だからこそマダラは柱間と意気投合し、今まで共にい
﹁それは⋮⋮﹂
﹂
﹁オレ達にはまだ守りたい者がいるだろう オレは、オレはこれから生まれてくる仲
柱間の必死な言葉がマダラの心に突き刺さる。
!
﹁何を⋮⋮
NARUTO 第一話
74
りはしなくなる。
人が生きている限り全ての不幸がなくなる事はないのは分かっている。だが、それで
も確実に今よりは少なくなるはずだ。
そしてそんな集落が出来れば、今度こそ弟を失わずにすむのではと、最後に残った
たった一人の弟を守る事が出来るのではと、柱間の夢物語に希望を感じたのだ。
だから頼むマダラ
﹂
!
!
!
!
す事などマダラには容易いだろう。
﹂
共に夢を追ってくれ お前とならば夢は夢ではなくなる
﹁柱間何を⋮⋮
﹁頼む
﹂
マダラはいつしか苦無を落としていた。目の前の馬鹿は、この状況になってまだ自分
﹁馬鹿が⋮⋮出来てもいない集落を託されても迷惑なんだよ﹂
るからな﹂
﹁ああ。だが、それで最後にしてくれ。その後は集落を頼んだぞ。お前になら任せられ
﹁集落が出来たなら、夢が叶ったなら⋮⋮オレに、殺されてもいいというのか﹂
だから頼む
頼む
!
た時、お前の憎しみをオレにぶつけてもいい
!
!
!
!?
!
!
全てが終わっ
そう言って柱間は苦無を構えるマダラの前で土下座をした。今の無防備な柱間を殺
お前となら
﹁今は夢だ でもお前が協力してくれたらきっと実現出来る オレと同じ夢を見た
75
を信頼し、命がけで頼み込んできたのだ。
そんな想いの丈をぶつけられてはマダラの怒りも恨みも薄れてしまったのだ。
今でも千手は憎い。柱間に対してもまだわだかまりがあるだろう。
それでも⋮⋮弟を想い、弟が平和に生きていく世界を作りたいと願う気持ちは柱間と
同じだ。
﹂
そして、柱間とならそんな世界が作れると思っているのもまた同じだった。
﹁マダラ
⋮⋮他人の、腑を見るこたぁ⋮⋮出来ねー﹂
!
術はないのだ、と。そうマダラは言った。
だが本当にそうする事は不可能だ。人の腹の中の奥、腑までは、本音までは確認する
出来ればと願っていた。
敵同士でも腹の中を見せ合って本音を語って隠し事をせず、そうして仲を深める事が
それはマダラがかつて柱間に言った言葉。
﹁気色わりぃ顔見せんな
そこに見えたのは写輪眼ではなくなった瞳のマダラの顔だ。
想いが通じたのだと柱間は喜色満面の笑みを浮かべ面を上げた。
苦無を落とし殺意が薄れていく事でマダラの戦意がなくなった事を柱間は悟る。
!
﹁だが、今回だけは信じてやる。お前のさっきの言葉が、腑を見せたもんだってな﹂
NARUTO 第一話
76
﹁マダラ⋮⋮
のだ。
﹂
﹁う、うう。オレは、オレは嬉しいぞ⋮⋮
﹂
そんな自分と同じ境遇の柱間だからこそ、その腑を見ずとも言葉を信じる事が出来た
い、そんな世界を変えたいと努力している。
柱間だからこそ。互いにたった一人残った弟を想い、幼子が理不尽に死す世の中を憂
柱間以外ならば、マダラは相手が何を言っても信じはしなかっただろう。
!
かよ
﹂
﹁うう、感動です
!
その歳で何ほざいてんだ
﹂
いけませんね歳を取ると涙もろくなってしまって⋮⋮
﹂
!
!
﹁そういやいたなお前よぉ
!?
!
﹂
?
﹁日向ヒヨリ。性別女性。年齢・体重・スリーサイズは秘密です。知りたかったら私の心
﹁で、結局お前は何なんだ
てるのかとマダラが思っても仕方ないだろう。 歳を取るとなんて言っているが、どう見ても柱間やマダラと同年代である。馬鹿にし
ヒヨリ。
だーだーと涙を流す柱間の横で、一連の話を聞いて感動して涙をほろりと流している
!!
!
﹁だぁぁ 泣くなうっとうしい お前落ち込みやすいだけでなく感激屋でもあんの
!
77
を射止める事ですね﹂
﹂
﹁んなこと知りたくもないわアホがァァ
﹁え⋮⋮もしかしてホ││﹂
﹁そこから先は言わせねぇぞ
﹂
!
﹄
!!
冗談ですってば
﹂
﹂
⋮⋮という事はもちろんなかったが。
﹁冗談
避けるな
﹂
オレが悪かったぞ
当たれば痛いでしょ
くそ
﹁この
!
﹂
﹂
やっぱりお前とは相容れねぇぇぇ
﹁落ち着けマダラ
﹁避けるよ
!
この騒動は柱間とマダラが倒れこむまで続いたという。
!
!
!
!
﹁黙れこらぁぁぁ
﹂
哀れ。二人は殺意の波動に目覚めたマダラによって大地の養分と化してしまった。
﹃ぎゃああああああ
マダラの瞳に写輪眼が宿る。しかも勾玉は二つだ。本気の殺意である。
﹁ぶっ殺す
﹁マダラ⋮⋮お前オレの体を狙って⋮⋮﹂
!
!
!
!
!
!
!
NARUTO 第一話
78
NARUTO 第二話
いるくらいだ。
マダラなんて柱間に辛勝とは言えまともに勝てたおかげでむしろ機嫌が良くなって
既に互いに勝負の原因については忘れてしまっているようだ。
﹁ぐ、次は⋮⋮負けんぞマダラァ⋮⋮﹂
﹁よ、よし、オレの⋮⋮勝ちだぜ柱間⋮⋮﹂
を写輪眼が覆した結果だろう。
これまでの組手から柱間とマダラでは僅かに柱間の方が上であったが、その僅かな差
そんな二人のタイマンはヒヨリの判定ではマダラの勝利と出た。
まあヒヨリがさりげなく柱間を盾にして逃げたせいだが。
三人の騒動は次第に柱間とマダラのタイマンへと移行していった。
う。
倒れ伏している二人の頭上。何時の間にか樹上へと避難していたヒヨリが二人を労
﹁お疲れ様でした。いい勝負でしたね。僅差でマダラの勝利かな﹂
﹃ぜぇ、ぜぇ、ぜぇ﹄
79
ヒヨリは樹上から降り立ち二人へと近づいていく。
﹂
﹁さて、それでは私が何の為にあなた達へと近づいたのかを教えましょう﹂
﹃⋮⋮あ﹄
﹁⋮⋮忘れてましたね
﹃夢⋮⋮
です﹂
﹄
﹁安心してください。私の目的は、私の夢を叶えるのにあなた達の力を貸してほしい事
もしヒヨリの目的が二人の命ならばこの状況なら確実に殺されていただろう。
勝負の原因どころかヒヨリの目的を暴く事すら忘れていたようだ。
?
事です﹂
﹁はい。私の夢は⋮⋮子どもが戦場に出ずに、自由に遊べて、学ぶ事の出来る世界を作る
?
﹁違うぞマダラ。オレ達の夢ぞ﹂
﹁柱間と同じ夢⋮⋮﹂
係なく協力しあえる。そんな世の中であってほしい﹂
﹁一族に関係なく子ども達は仲良く遊べ、一族に関係なく子ども達は共に学び、一族に関
その夢は、二人と同じ夢だった。
﹃それは⋮⋮﹄
NARUTO 第二話
80
そう言ってくれる柱間にマダラは嬉しく思う。こういう奴だからこそ、性格は違えど
共にいる事が出来るのだと。
そんな二人を見てヒヨリも嬉しく思う。この二人となら絶対に成し遂げられると。
﹂
?
﹄
?
ね。だってチャクラ性質が違う一族のそれなんですよ この時勢にあって違う一族
﹁い や ね。今 の 世 に 嫌 気 が 差 し て ふ と 遠 方 を 見 つ め て い た ら 気 に な る 二 人 が い ま し て
まさかの覗き見である。これにはマダラどころか柱間も耐えられず突っ込んだ。
﹃おい
﹁白眼で。会話は口の動きを読みました﹂
﹁⋮⋮どうやってオレ達を見つけたんだ
あなた達を見つけてそれが夢ではなくなったと思いました﹂
﹁一人では無理だと思っていた。そうして今の世の中を憂いているだけだった。でも、
81
しょう
﹂
同士の子どもが一緒に仲良く修行したり語りあっていたら気になるのも仕方ないで
?
﹁無視してるぞこやつ⋮⋮﹂
らこの不毛な乱世を終わらせる事が出来るんじゃないかと思いまして﹂
﹁そしたらこの乱世にあって私と同じ考えを持っているじゃないですか。この二人とな
﹁だからと言って覗くかおい﹂
?
﹁存外図太い神経してんな﹂
﹂
﹁そう思ったらいても立ってもいられず⋮⋮⋮⋮あ、その節はすいませんでした﹂
﹂
﹁というわけで
﹁断る
﹂
﹂
私もあなた達と一緒に集落作りをさせてください
﹁マダラ、お前個人的な感情で言ってないか
股間見られた事なんか関係ねー
﹂
?
﹂
そして、姓も名乗れない世の中は嫌だというヒヨリの本音も知らしめる為の自己紹介
らこそ嘘偽りなく姓も含めて自己紹介した。
あれはヒヨリの誠意だったのだ。遠くから覗き見し、目的有って近づいてきた。だか
それはマダラにも解っていた。あの時姓を名乗った理由が今なら解る。
!
だろ
﹂
﹁オレは⋮⋮嘘じゃないと思ってる。他の目的があるなら⋮⋮自分から姓を名乗らない
﹁大体こいつの言ってる事が嘘じゃないとどうして分かる
誰が見ても関係していると思うだろう。そんな必死さがマダラから伝わっていた。
﹁いーや違うね
﹂
嘘じゃねぇぞ
!
きっと一生ネタにされるのだろう。マダラとヒヨリを見て柱間はそう確信した。
﹁オレの股間を見ながら言う台詞かテメェェェ
!!
!
!
!
!
?
!
?
﹁それは⋮⋮
NARUTO 第二話
82
だったのだと。
今の世を変えたいと本気で願っている事を誰よりも早くに明言したのだ。
﹁⋮⋮﹂
﹁もちろんです
﹂
﹁⋮⋮分かった。ただし一度でも裏切ったら二度と信用しないからな﹂
の夢を叶える為には他人を信用する必要がある事を思い出す。
だがそこまで疑っていてはもう誰も信用出来なくなるだろう。マダラは自身と柱間
言えよう。
で二人を仲違いさせるのが目的かもしれない。結果的にそうなる可能姓は高かったと
二人を殺す事が目的ならその機会はいくらでもあった。もしかしたら姓を名乗る事
まりそれだけ自分達に賭けたのだとマダラも理解出来る。
だがそれでもヒヨリは姓を名乗った。それが分からない程馬鹿ではないだろう。つ
も言える。
柱間の言う通り、姓を名乗る事は二人はおろかその一族まで敵に回しかねない愚行と
﹁⋮⋮﹂
に、姓を名乗ったんだ。オレは⋮⋮信じたい﹂
﹁オレ達どころか下手すればオレ達の一族と敵対しかねない。そんな可能性があったの
83
!
マダラが渋々と言った感じにヒヨリを認めたところ、それを聞いてヒヨリは喜びを顕
わにする。
そして柱間はヒヨリの台詞を聞いて、﹁いや、そいつはもちろんじゃなくてもろちん
だっだぞ﹂などと口走ろうとしたが止めにした。
恐らくこれを口にしたが最後、マダラとは完全に敵対関係になる様な気がしたのだ。
やるなら時間が経ってほとぼりが醒めてからだ。あまり連続してからかうと相手を怒
らすだけだろう。
三年後くらいにまたからかってやろうと決意して、それを一切表には出さずに柱間は
これでオレ達は同志だ これから三人でどうすれば良いか考えて行こうぞ
二人に話し掛ける。
﹂
﹁よし
!
!
!
﹂
﹁お 前 今 な ん か 良 か ら ぬ 事 を 考 え て な か っ た か オ レ の 首 筋 が チ リ チ リ す る ん だ が
NARUTO 第二話
?
?
﹂
﹁気のせいぞ気のせい オレは仲間が増えて嬉しく思ってただけぞ アハハハハハ
84
!
!
マダラもジト眼で柱間を見ているが、実際に証拠はないのだからこれ以上の追求はし
どこかわざとらしい乾いた笑いをしながら、柱間はそう言って誤魔化す。
!
なかった。
今日の所はこれで終わりにしよう。思った以上に時間が過ぎている。これ以
話だと見ただけで術をコピー出来たり、眼が合うだけで幻術を掛ける事も出来るんだよ
﹁写輪眼もすごいですよ。さっきの戦いを見る限り洞察力は高まっていますし、聞いた
﹁それが白眼か⋮⋮オレも目には自信あったけど、望遠に関しちゃ負けてるな⋮⋮くそ﹂
いますよ﹂
﹁⋮⋮周囲5kmに渡って人はいないか。ここがばれているという事は今の所ないと思
いいだろう。
取り合えずヒヨリの感知と白眼による知覚にて誰もいなければ一先ずは安心と見て
だ。自身が強者である事は自覚しているが、絶対である等とは過信出来ない。
この世界はヒヨリも初めての世界であり、どんな能力があるのか見等もつかないの
ない。だが完全に気配を消していればヒヨリでも感知出来ないやもしれない。
そう言って白眼を発動するヒヨリ。感知に自信のあるヒヨリだが周囲に気配は感じ
﹁そうですね。ちょっとお待ちを⋮⋮﹂
て、また後日に会って話そうぜ﹂
﹁⋮⋮ そ う だ な。下 手 に 疑 い を 掛 け ら れ た ら こ の 集 ま り も 終 い だ。今 日 は 一 旦 解 散 し
上は一族に余計な心配をされるだけぞ﹂
﹁さて
!
85
まあそうだな。でもお前の白眼だって大したもんだぜ﹂
ね。羨ましいですよー﹂
﹁そうか
どうした柱間
﹁ははは⋮⋮お、おい
﹂
?
﹂
?
﹁そ、そうですよ。それにほら、こんなの持ってたら敵から狙われやすくなるから、持っ
﹁お、おい。そんな事で落ち込むなよ。瞳術がなくてもお前は強いだろ
まあ柱間も本気の本気で写輪眼や白眼を羨ましいと思っているわけではないが。
んでるのは明らかだ。
こんな事を言ってるが三人の内一人だけ特別な眼を持っていない事に対して落ち込
二人からすれば果てしなく下らない理由で落ち込んでいた。
てないぞ⋮⋮これっぽっちも悔しくないぞ⋮⋮﹂
﹁どうせオレだけ何も持ってないぞ⋮⋮二人だけ便利な目を持っててずるいなんて思っ
そんな二人の心配は、ぶっちゃけ意味のない物だった。
急に落ち込んでいる柱間を心配して二人が優しく声を掛ける。
﹂
﹁あの、何かあったの
?
だがそんな二人を尻目に一人落ち込んでいる者がいた。そう、柱間である。
更ではないようだ。さっきまでの疑りは何処へ行ったのか。
そう言って笑い合うマダラとヒヨリ。マダラも目覚めたての写輪眼を褒められて満
?
?
NARUTO 第二話
86
てない方がいい事もありますよ﹂
︶﹄
﹁⋮⋮慰めるでないぞ。別に落ち込んでなんかないぞ⋮⋮﹂
﹃︵う、うざい
﹂
ともに未来について話し合い││
﹁ぜぇ、ぜぇ、ちょ、ちょっと待つぞ⋮⋮﹂
早速修行をするぞ
﹂
﹂
そうすれば他の一族も力を貸してくれる
!
﹁その為にはオレ達が強くならなくちゃな。よーし
やも知れぬ
﹁忍の一族間のバランスは一気に崩れるぞ
﹁なるほど。うちはと千手と日向。この三つの一族がそれぞれ協力すれば
﹁思うに私達三人がそれぞれの一族の長になればいいんですよ﹂
ともあれ、三人は同士として友として幾度となく集った。
⋮⋮思っているわけではないはずだ。
!
﹁はぁ、はぁ、ひ、ヒヨリ⋮⋮お前、強すぎだろおい⋮⋮﹂
!
!
!
!
87
﹁私は私より強い奴に会いに行く⋮⋮﹂
ともに研鑚し││
﹂
﹂
﹁あ、こっちを目指して誰か来ますよ﹂
﹁何
﹁誰ぞ
オレを探してるのか
﹂
﹁だ、だから⋮⋮強すぎぞヒヨリ⋮⋮﹂
!
﹂
!?
族かな﹂
﹁それは恐らく弟の扉間ぞ
!
時に逃げたり││
﹄
﹁取り合えず逃げましょう
﹁やべぇな。見つかったら終いだぜ﹂
!
﹁白眼で確認した所、私達より少し年下の男の子ですね。チャクラ性質からして千手一
?
!?
﹃おう
NARUTO 第二話
88
﹁もう⋮⋮お前一人で⋮⋮いいんじゃないか⋮⋮﹂
ますよ﹂
﹁全てが上手く行けばまた三人で笑い合える日々が来ます。その時を楽しみに待ってい
﹁ああ。もうこうして会う事も出来なくなるな﹂
﹁⋮⋮これからオレ達はそれぞれ一族の長になるべく行動する﹂
広大な森を一望出来る大きな崖の上で、三人は向かい合っていた。
◆
そして、時は流れた。
そうして三人は強くなっていった。
時に理不尽に泣いたり││
とか足りませんし﹂
﹁私一人でどうにかなるなら二人を見つけて喜びませんよ。私だって子どもだから体力
89
﹁ああ﹂
﹁そうだな﹂
三人が一緒に行動するようになってそれなりの年月が経つ。
だが、いい加減それぞれの家族から疑われ始めたのだ。
無理もないだろう。月に何度も姿が見えない日々があるのだ。後を付けられた事も
何度もあった。
修行をしてると誤魔化したり、付けられる度に巻いたり、例え気付けなくてもヒヨリ
の白眼や感知で気付いて逃げたりして、一族にこの集いが気付かれる事はなかったが、
それももう限界だろう。
このままでは強硬手段を取られると判断した三人は、もうこうして三人で集う事を終
わりにした。
﹁けど、それでもオレ達はやるしかない。オレ達の夢を叶えるにはオレ達が長になるし
る過程でも、それは起こるだろう。
既に千手とうちはは幾度となく戦場でぶつかりあっている。これから三人が長にな
柱間の言う事は、これまでの話し合いで既に理解していた事だ。
て、互いの一族を殺す事もあると思う⋮⋮﹂
﹁こ れ か ら オ レ 達 は 戦 場 で 何 度 も 出 会 う 事 に な る と 思 う ⋮⋮ 一 族 同 士 で ぶ つ か り 合 っ
NARUTO 第二話
90
かない
﹂
!
﹂
!
﹄
!
﹂
!
﹁おう
﹂
﹂
!
!
ヒヨリは困惑している。
﹁ヒヨリに一度も勝てないのは納得いかんぞ
﹂
柱間の想いを籠めた叫びにマダラが同意する。
?
!
﹁お⋮⋮おう
﹂
﹁必ずヒヨリに勝つぞ
柱間の想いを籠めた叫びに二人が同意する。
﹃おう
﹁必ず夢を実現するぞ
それを夢見て、三人は共に歩んできたのだ。
を。
子どもが子どもらしく育つ事が出来る集落を。一族の垣根を無くす事が出来る集落
三人の夢。この広大に広がる森と大地に大きな集落を作ること。
﹁オレ達の夢は夢でなくなる
﹁ええ。私達が長となり、それぞれの一族で協力を結ぶ。そうすれば﹂
﹁ああ。一刻も早く長になる。それが一族同士の殺し合いを防ぐ一番の近道だ﹂
91
﹁そうだ
何でそんなに強いんだこらァ
﹂
﹂
それなのに二人掛かりで勝てないのは納得いかねー
﹁そこはその⋮⋮年季が違うとしか、ねぇ
? !?
実年齢はともかく、中身は年季が違うどころではないのは秘密である。
﹁オレ達と同い年だろうが
!!
﹂
!
ば皆無と言えた。
!
﹂
!
﹁ああ。いつか絶対に追い抜いてやる。うちはの血を舐めるなよ﹂
﹄
﹁ほほう。面白い。いつでも挑戦を待ってますよ。ふはははははは
﹃ぐぅ、むかつく
ヒヨリという大敵を相手に負けじと対抗する柱間とマダラ
!
!
﹂
﹂
二人に勝るのはそれぞれの父親を含め僅か数人と言うところだろう。女性だけなら
すでに柱間もマダラも一族の中では一級の実力者となっている。
﹁一族の女でオレより強い奴なんてもういねーよ
﹁そこはほら、女の子の方が成長は早いといいますし﹂
まあ、それを知らない二人が納得出来るわけがなかったが。
すぎた。まだ若い二人が敵わなくても仕方ない事だ。
戦闘経験で言えば言うに柱間やマダラの数千倍ですむかどうか。文字通り桁が違い
!!
!
﹁丁度いいぞマダラ。この機に徹底的に修行してヒヨリを超えようぞ
NARUTO 第二話
92
果たして二人はこの強大な敵に打ち勝つ事が出来るのか
どうやら扉間とイズナはそれぞれの兄を探しているようだ。それぞれの一族の集落
度は高かった。
柱間もマダラもヒヨリの感知を疑ってはいない。それ程に感知に置いてヒヨリの練
かったのだ。
ヒヨリの感知網に柱間の弟である扉間と、マダラの弟であるイズナの存在が引っか
﹁もうお別れだな﹂
﹁⋮⋮そうか﹂
﹁⋮⋮二人とも。扉間とイズナがあなた達を探しているようです﹂
さて、この楽しげな茶番にも終わりを告げる時が来たようだ。
!
﹂
だからお前も死ぬなよ
﹂
が別の場所にあるから扉間もイズナも互いに出会ってはいないが、この場まで来れば確
実に戦闘となってしまうだろう。
オレ達は再びここに集う
!
これで完全に終わりであった。
﹁別れじゃないぞマダラ
!
その時を楽しみにしてるぞマダラ
!
!
﹁そうだな。その時まで死ぬなよ柱間。オレはお前に勝ち越すんだからな﹂
﹁アハハハハ
!
93
﹂
﹂
?
忍
﹁⋮⋮私の心配は
悪魔
﹃ない﹄
﹁鬼
﹃いや忍だよ﹄
!
﹃⋮⋮はっ﹄
﹁ああ﹂
﹁それじゃあな﹂
﹂
そうして最後まで仲良く口喧嘩をして、三人は別れを告げた。
お前がか弱かったら人間は全員死にかけの老人だとばかりに笑う二人。
﹁鼻で笑いやがった
﹂
﹁か弱い女の子になんて失礼な奴らだ
!
!?
!
!
◆
から立ち去り、それぞれの一族の元へと帰って行った。
後に集落を作ると決めた森を一望出来る崖の上にて、三人は再会の約束をしてその場
﹁またね﹂
NARUTO 第二話
94
95
柱間とマダラと別れてからヒヨリは日向一族の長となるべく行動を開始した。
いや、一応は長となる下準備はヒヨリが産まれた時から出来ていた。
そう、ヒヨリは日向一族の本家の姫君であった。正確には現日向当主の次女であり第
三子と言うべきか。
おおつつき
にんしゅう
日向の歴史は古い。その歴史を遡ると忍の祖と言われる六道仙人へと繋がる。
六道仙人、その名を大筒木ハゴロモ。彼こそがチャクラの教えを説き忍 宗を広めた忍
の祖。
忍の神として崇められた始まりの人物とされており、乱れた世界に安寧と秩序をもた
らす創造神とも、世界を無にする破壊神とも伝えられている実在したかも曖昧な神話の
存在だ。
説明の通り、今では六道仙人は神話やお伽話としてしか語り継がれず、多くの人がそ
の存在を空想上の人物だと思っている。だが彼は確かに実在していた。
そして大筒木ハゴロモには弟がいた。その名は大筒木ハムラ。
ハムラはある理由にて月へと旅立ったが、その時に地上に残された子孫が後の日向一
族であった。
これは千年もの遥か昔の出来事だ。故にそれを知っている者は日向一族でも極一部
である。
NARUTO 第二話
96
話を戻そう。千年という永き年月に渡って伝わってきた血を持つ一族だ。
当然その血統に対する誇りも並の一族のそれではない。
宗家の血は絶対であり、分家は宗家を立てる為の礎に過ぎない。全員ではないが、そ
う思っている日向一族は宗家・分家問わずに多い。
誇り高き日向一族に取って一族の掟は絶対であり、どれほど優秀だろうと分家の人間
が宗家に成り変わって長となる事は不可能なのだ。
故に、ヒヨリはギリギリだが日向の長、当主となる資格を有していた。
尤もヒヨリが長となる確率は非常に低いと言える。理由は日向が掟を重んじている
からだ。
基本的に長となるのは当主の第一子だ。この場合はヒヨリの兄である。これは余程
の事がない限り覆される事はない。それが名家の掟という物だ。
万が一ヒヨリの兄が死した場合は次に第二子、長女であるヒヨリの姉が長となるだろ
う。そしてその姉が死した場合、ヒヨリが長となるのだ。
つまりヒヨリが長となるには兄と姉が死なねばならない訳だ。柱間とマダラに長と
なると言ったが、流石にヒヨリもそれは許容出来ない。
宗家のみが一族の長となれる掟だからヒヨリには長になれる可能性があり、掟を重視
する一族だからこそ第一子が長に選ばれやすい。何とも皮肉な事である。
97
まあ第三子という立場だからこそ、ヒヨリが頻繁に一族の集落から姿を消していても
注意はされど厳重に罰せられたり、隔離されたりはしなかったのだが。
そうでなくてはあれ程頻繁に柱間とマダラに会う事は出来なかっただろう。
こういった名家に置いて子どもは後継者のみを重視して、それ以外は後継者が死んだ
時の為の予備と考えられている事も多かった。
今代の日向の当主もそうであったというだけだ。それ故にヒヨリはあまり父親が好
きではなかったが。まあ親には変わらないので憎くまではないが。
話を戻そう。どうすればヒヨリが長になれるかだが、まだ方法はあった。可能姓は低
いが、この戦乱の世ならばこその方法が。
平時ならば先の説明の様に何らかの理由で兄と姉が死なねばまず無理だろう。
だが、戦乱の世ならば話は違う。戦乱の世に一番必要なのは何か。多くの者がこう言
うだろう、それは力だ、と。
そしてその力を日向一族の誰よりも持っていると自負しているのがヒヨリである。
忍の強さは主に体術・幻術・忍術の三つの項目で計られる。その中で日向が得意とし
ているのが体術だ。
日向には柔拳と呼ばれる独自の体術があり、その力は触れただけで相手の経絡系に
チャクラを流し内部から破壊する事が出来るという凶悪なものだ。
NARUTO 第二話
98
経絡系は眼には見えぬ物だが、日向一族は白眼にて見切る事が出来る。そして白眼の
瞳力が強い者は点穴すら見抜き、その点穴を突く事で相手のチャクラの流れを止める事
も出来る。
白眼と、この恐るべき体術こそが日向を強者足らしめている最大の要素と言えよう。
さて、ヒヨリの強さだが。彼女は転生者である。そしてその転生回数は一度や二度で
はなかった。
そう、ヒヨリは幾度となく転生を繰り返して来たのだ。何故ヒヨリがその様な転生人
生を歩むようになったかは今は置いておくとしよう。
ヒヨリはある理由から強くなりたかった。そして転生を繰り返す度に強くなる為に
修行を続けた。まあ二度目の転生で既に最初に強くなる理由はないも同然になってし
まったのだが。
そしてヒヨリは転生しても記憶と技術、そして生命のエネルギーとも言うべきモノを
引き継いでいた。
そのエネルギーは世界によって呼び名は様々だ。オーラとも、気とも、そしてチャク
ラとも呼ばれる。
そう、ヒヨリは転生して修行をし続けた事により、膨大なチャクラをその身に宿して
いたのだ。
99
ヒヨリに匹敵するチャクラを持つモノはこの世には現状存在しなかった。そう言っ
ても過言ではない程のチャクラ量だ。
あまりに膨大故に絶対に恐れられるだろうと予測している為、一族の誰にもチャクラ
量に関しては秘密にしていた程だ。
ちなみにこの予測は今までの転生人生による経験側だ。まず間違いないとヒヨリは
思っている。
チャクラは忍にとって最も重要な力の源だ。チャクラを練って忍術を繰り出し、体術
を強化し、相手のチャクラを乱す事で幻術に掛ける。
チャクラ無くして忍は語れないだろう。チャクラは忍という兵器を動かす為の燃料
と言った所か。当然多ければ多いほど有利なのは言うまでもない。
同じ術でも籠められたチャクラが違えばその威力も違ってくることもある。同じ技
術、同じ忍術、同じ知力で忍が戦えば、チャクラが多い方が勝つ確率が高くなるだろう。
そんなチャクラを誰よりも多く有している。それだけでヒヨリは圧倒的に他の忍よ
りも有利だった。
そして体術。日向流の柔拳に関してはともかく、千年を超える研鑚が築き上げたヒヨ
リの体術レベルは父である日向当主など歯牙にも掛けぬ程だ。接近戦にてヒヨリに勝
つ事は日向をしてまず不可能と言えるだろう。
NARUTO 第二話
100
柔拳に関しても既に体得済みだ。元々ヒヨリの極めていた体術は元の世界で柔術や
合気と呼ばれる武術だ。柔拳とはそこそこ相性も良く、それ故に覚えも早かった。恐ら
く後数年もせずに純粋な柔拳の技術も父を超えるだろう。
まあ忍術と幻術に関しては未だお察しレベルではある。体術と比べると月とスッポ
ン、鯨とミジンコ程の差があるだろう。
この二つに関して本格的に修行するのは日向に認められて長となり、戦乱の世を終え
てからでも良いとヒヨリは思っている。理由はやはり日向が体術に重きを置いている
からだ。
さて、日向にあって既に最強と言える力を有していたヒヨリだったが、今までは目立
たずに一族の中で過ごしてきた。目立てば目立つほど自由に動きにくくなるから、それ
が嫌だったのだ。
だが最早そんな事は言えない。共に夢を叶えようとする柱間とマダラ。今ごろは必
死になって長となるべく行動している二人を前に、目立つのが嫌だとか口が裂けても言
える訳がなかった。
そうしてヒヨリは日向一族で頭角を現していった。
その圧倒的な力を徐々に周囲に知らしめ、兄や姉を差し置いても当主に据えるべきだ
と言う意見を日向の長老連から出させる程に成長した姿を見せ付けた。
101
そしてとうとう多くの一族に認めさせ、兄と幾つかの契約を結んだ結果、ヒヨリは日
向の当主となった。
◆
長きに渡った戦乱の世。その一部にだが、終止符が打たれようとしていた。
互いにいがみ合い憎しみ合い、殺し合って来た千手一族とうちは一族が同盟を結んだ
のだ。
そしてそれと同時に日向一族もその二つの一族と同盟を結んだ。
これにより戦乱の世のバランスは千手・うちは・日向の忍連合軍によって一気に崩れ
る事になる。
最強の忍一族はと問われて出てくる答えの大半がこの三つの一族だ。それが手を組
んだとなると他の一族に勝てる見込みは万が一、いや億が一にもなかった。
そして忍連合は周辺国家にて火の国と呼ばれる大国と手を組み、国と里が同等の立場
で組織する平安の国づくりを始めた。
その国づくりには猿飛一族や志村一族と言った名の知れた忍一族も協力し、それに伴
い更に多くの忍一族が同盟の元に集った。
かつて崖から一望出来ていた広大な森は、今ではその多くが切り開かれ大きな里へと
変化していた。
その里を崖の上から見下ろす三人の男女の姿があった。
﹁見よマダラ、ヒヨリ。これが、オレ達の││﹂
﹁ああ。夢の実現だ﹂
﹁長かったのか、それとも短かったのか⋮⋮ようやくここまで来ましたね﹂
かつてと違い大人となった三人は、子どもの頃に語り合った夢が現実になった事に素
直に感動していた。
里が出来上がっていく様を見てもどこか浮世離れした物を見ている気分だったが、こ
うして三人揃ってかつて夢を語った崖の上から夢の塊を見る事でようやく実感したの
だ。
そうだからな。これからこの里はもっと大きくなるぞ
!
ね﹂
﹁ええ。恐らく火の国周辺に潜んでいた一族の多くがここへと集うようになるでしょう
!
!
﹁聞いた話じゃまだ他にもいるらしいな﹂
﹂
﹁何をいうかヒヨリ まだまだこれからぞ 猿飛一族や志村一族も仲間に入りたい
NARUTO 第二話
102
それは火の国の中という限定した空間かもしれないが、その中では忍の一族同士での
殺し合いが殆ど無くなるという事を示している。
それこそがこの三人が望んで止まなかった世界への架け橋なのだ。
﹂
?
﹁オレ
どうせやるのは柱間でしょうし﹂
?
﹂
何を言う。オレはマダラを推薦しようと思ってたところぞ﹂
⋮⋮冗談だろ
!? ?
マダラの全ての憎しみをその身に受け止め、そして里をマダラに託すと。
だに忘れてはいなかった。
かつての、一歩間違えれば殺し合いになっていたあの時。その時の約束を、柱間は未
と﹂
﹁何を言う。あの時約束したではないか。全てが終わった時、お前に集落を、里を託す
?
﹁うん
﹁うーん、まあ火影でいいんじゃない
んでいる柱間。大人になってもかつての癖は抜けてない様であった。
密かに自信があったネーミングを安直と言われ、ぶつぶつと何かを呟きながら落ち込
その落ち込み癖⋮⋮﹂
﹁ひねりのない安直な名前だなおい。ま、悪くは⋮⋮おい、お前まだ治ってなかったのか
火影としようと思うのだが、どうだ
﹁火の国から里の代表を決めるよう要請があってな。火の国を守る影の忍の長⋮⋮名を
103
そんな柱間に、マダラは本当の馬鹿を見た気がした。底抜けの馬鹿で、そして度がつ
く程にお人好しを。
でも精一杯なんだ。お前かヒヨリがやればいいさ﹂
﹁⋮⋮馬鹿が。そんな約束忘れちまったよ。オレは長なんて柄じゃねーよ。うちはだけ
﹂
﹁そういう面倒なのは人に丸投げするのがヒヨリ流長生きの秘訣。よって私はパス﹂
﹁なんぞそれ
﹂
?
﹂
!
﹂
!
千手も、うちはも、日向も、この里が出来るまでに多くの忍が死んでいった。この中
間でした。
戦乱の世を、理想のために駆け抜けた。意に沿わぬも、どうしても必要な戦いを一族
怒鳴る柱間に笑いながら逃げるマダラとヒヨリ。
﹁なんぞこの茶番はー
!!
﹂
﹁はい決定。おめでとう柱間、お前がナンバーワンだ
即座にマダラとヒヨリの手が上がった。三人中二人が賛成。よって可決である。
﹁それはいいな。では、柱間が火影になるのが良いと思う人は挙手を﹂
里にちなんで多数決で決めませぬか
﹁ふむ。マダラさんや、柱間さんは何やらご不満の様子。ここは一つ多くの一族が集う
!?
﹁悔しいが⋮⋮お前なら許せるぜ⋮⋮頑張れよ柱間
NARUTO 第二話
104
の三人で、相手の一族を殺していない者は一人としていない。
それはどうしても避ける事が出来ない必要な戦いだったのだ。限りなく死を少なく
しても、人のやる事に限界はある。
ましてや彼らは一族の長となった者達だ。その立場上、一族を優先して守らなくては
ならない。そうしなければすぐに一族の者から不満が溢れるだろう。
何度も何度もそんな戦いを繰り広げ、何度も何度も別の一族を憎み恨みもした。それ
でも理想の為に心を殺して戦い続けた。
その結果が目の前にあるのだ。もう、一族間で殺し合う事はないのだ。
火の国以外では未だに忍一族の闘争は続いている。完全に無くなる事はないだろう。
だが、それでもこうして自らの手が届き眼で見える範囲でだが、争いを減らす事が出
来た。
この里だが、木々が茂り木の葉が舞う里故に木ノ葉隠れの里って
ようやく、三人揃って馬鹿な話で笑い合う事が出来る様になったのだ。
﹂
﹁おお、そうだ柱間
いうのはどうだ
グも安直ではないか
﹂
!
!
!
﹁ぬぬ、二人が里に関する名前をつけたなら私も何か考えねば
﹂
﹁ごまかす気かマダラ 大体人のセンスを安直呼ばわりしておいて、お前のネーミン
?
!
105
﹁どうしてそこで張り合うのだヒヨリよ⋮⋮﹂
﹁うーむ。里長の名称に里の名前と来たから⋮⋮火影直属の護衛部隊の名前でも⋮⋮四
﹂
天王⋮⋮いや、死天王⋮⋮弐天羅刹⋮⋮八卦衆⋮⋮煉獄⋮⋮光輪疾風漆黒矢零式⋮⋮う
﹂
う、何故か頭が痛い⋮⋮
﹁どうしたヒヨリ
﹁それがいいぞ⋮⋮﹂
﹂
﹁ふ、ふぅ⋮⋮わ、私は何かを名付けるのは止めておくとしよう﹂
まあ気にする事はないだろう。遠い過去の痛々しい傷痕が疼いただけなのだから。
何故か頭を抑えて大地に膝をつくヒヨリを心配する柱間とマダラ。
﹁お、おい、何があった
!
!?
!?
里の長、火影には柱間が就任した。これはマダラとヒヨリだけでなく火の国や里の民
まあ気のせいだろうとすぐに忘れる事にした。
ちなみにヒヨリは最後に思い浮かんだ言葉を何処かで聞いたような気がしていたが、
た。
そんな風に幼かった頃を思い出す様な話を繰り広げながら、三人は里の為に働き続け
﹁ああ、見てて痛々しかったぜ⋮⋮﹂
NARUTO 第二話
106
107
意と上役との相談によって決定された。
もちろんマダラやヒヨリもその候補として名が上がっていたが、柱間にその両人から
の推薦が有ったというのが大きかった。
そしてマダラとヒヨリの両人も火影の補佐役としての立場につく事になった。
これはぶっちゃけると二人から火影を押し付けられた柱間の意趣返しである。
木ノ葉隠れの里のシステムが思いの他上手く回っていた為、他国の忍達もそれを真似
する様になってきた。
火の国の忍が纏まった事に対して危機感を覚えたのもあるのだろう。やがて火の国
と同等に大国と言われる四つの国にもそれぞれ大きな忍の隠れ里が出来た。
これを後に忍五大国と呼ぶようになった。
これにより他国でも一族間の小競り合いや任務での殺し合いは少なくなっていった。
三人の夢が世界に広がろうとしていたのだ。少なくとも柱間はそう思っていた。
だが、事はそう簡単には動かなかった。
一族間での争いはなくなったが、だからと言って忍同士の争いがなくなったわけでは
ない。
忍五大国の誕生は、新たな戦乱の世の幕開けとなったのだ。
NARUTO 第二話
108
一族間ではない、大国間での争い。忍五大国を中心として忍界全体を巻き込む初の大
戦。第一次忍界大戦が勃発したのである。
多くの忍が争い、そして死んでいった。だが、思いの他早くに戦争は終結へと辿り着
いた。
その決め手となったのが、木ノ葉の里の三人の忍。千手柱間、うちはマダラ、日向ヒ
ヨリである。
三人は圧倒的な力を他国に示した。そうする事が終戦に繋がる近道だと三人で判断
したのだ。
敵対するのも馬鹿らしくなる程の力を見せ付ける。言うなれば木ノ葉の里を作る為
に三人がした事と似たようなものだ。
もちろん敵も国を背景に持つ故に一族間の争いの様に、はい負けました、と言って戦
争が終わる事はない。
だが、このまま戦争を続けても確実に木ノ葉の利となるだけと判断した各里の長達│
│影達││は、木ノ葉からの休戦条約に飛びついた。
ちなみに余談だが、この三人はその圧倒的な力から木ノ葉の三忍と他国からは恐れ、
自国からはより敬われる様になった
優勢だった木ノ葉からの提案故に、残りの忍五大国も条約や協定に関して無茶を通し
109
たりはしなかった。
むしろ木ノ葉から各国の戦力バランスの為に尾獣と呼ばれる強大なチャクラの塊で
あり巨大な魔獣を各国に分配した。
もちろんタダではなかったが。いや、柱間本人はタダで分配しようとしていたが、柱
間の外付け政治回路である扉間によって阻止された結果だ。
とにかく、これにより第一次忍界大戦は終戦へと導かれた。だが││
いつからだろうか。木ノ葉の歯車は狂い初めていた。
第一次忍界大戦から数年後⋮⋮うちはマダラが木ノ葉の里に反旗を翻したのだ。
何故木ノ葉の里設立の立役者であり、第一次忍界大戦の英雄であり、うちはの現当主
であるマダラが反旗を翻したのか。その真相は明らかになってはいない。
そもそもうちはマダラが木ノ葉に反旗を翻した事実を知る者自体が里の極一部の上
層部のみだった。里の安定の為に闇に葬られた歴史の真実である。
ともかく、反旗を翻したマダラは柱間と激しい死闘を繰り広げた。
地形が変わる程の激戦の末、勝利したのは柱間だった。この時、うちはマダラは死亡
したとされる。
そしてそれから程なくして、柱間はマダラを追うようにこの世を去った。
NARUTO 第二話
110
多くの者が悲しむが、時の流れは人を待ってはくれない。火影が亡くなったのだ、次
代の火影が必要となった。
二代目火影に選ばれたのは柱間の弟、千手扉間だった。ヒヨリにもその話は来ていた
が、ヒヨリはそれを自分には相応しくないと断ったのだ。
ヒヨリとしては最大の友であった柱間とマダラがいなくなった事で時代の流れを感
じたのだ。もう、自分が前に出る幕ではないのだと。
ヒヨリは火影をサポートし、里を見守る役目に終始する事を決意したのだ。
時は流れる。
扉間はその政治手腕で里に多くの制度や施設を設け、柱間が残した里をより良く導い
ていった。
時折その現実主義な性格により人によっては非道と思わる政策を提案していたが、全
ては里の為を思っての事だった。
最も、あまりにあまりだと判断された政策はヒヨリが口を入れる事で若干修正されて
いったが。
その一つがうちは一族による警務部隊の設立だろう。
111
当初の扉間の予定では暴走の可能性のあるうちは一族に里の中枢への権限を無くし、
それでいて里の警備を取り締まるという立場を与える事でうちはを一つに纏め監視し
やすくする為の政策だった。
だが、それでは里の上層部から遠ざけられた事に対していずれ反発が来る可能姓があ
るとヒヨリから示唆され、扉間は火影が選ぶ優秀なうちはの忍を代々の火影の補佐とす
る事でそれを緩和させる様にした。
そして日向一族から不満が出ないように日向からも同じ様に火影の補佐を選ぶよう
になった。これによりうちはの動きを日向が見張ることが出来るという意味合いも持
たせていた。これはヒヨリには秘密にしていたが。
扉間がここまでうちは一族を危険視しているのには理由がある。
それはうちは一族が愛情と憎悪に支配された呪われた悲しい一族だからだ。
うちは一族の愛情は非常に深い。だが、うちははそれを封印してきた。
一度うちは一族の者が愛情を知ると、その強すぎる愛情が暴走する可能性を秘めてい
たのだ。
愛を知ったうちはの者がその強い愛情を失った時、それがより強い憎しみに取って代
わり人が変わってしまう事があるのだ。
扉間はそれを戦乱の世で幾度となく見てきた。そしてそうなる事でうちはにある症
NARUTO 第二話
112
状が出る。それこそが写輪眼である。
更に写輪眼は心の憎しみと共に力を増していく。その行き着く果ては扉間にも分か
らない。だが、憎しみに捉われた者が里に安定をもたらすとは扉間は思えなかったの
だ。
扉間とてうちはを蔑ろにするつもりはない。扉間にとってどの一族とて里にとって
危険性があるものを注意深く捉えていた。ただうちはが特に考慮すべき一族だっただ
けだ。
うちは一族に警務部隊を任せた事がその証だろう。犯罪者を取り締まる部隊だ。信
用の置けぬ者には与えられない役目と言える。
更に火影の補佐という大役もうちはと日向から選ばれるので、うちはが蔑ろにされて
いないという分かりやすい実証となった。
他の一族が火影の補佐に選ばれぬ事に不満を覚えるかもしれないが、元々木の葉の設
立の立役者がうちはと日向だ。更に里長たる火影は一族に関係なく優秀な忍が選ばれ
る。そうであれば特に不満も上がらなかった。
この火影の補佐は次第に火影の右腕左腕と称されるようになってくる。
他にも扉間は忍の養成学校││通称アカデミー││を設立したり、中忍試験の制度を
定めたりと、次々と里の基盤を作り出した。
113
これらを見て、やはり二代目火影は扉間しか有りえなかったとヒヨリは語っている。
ちなみにその時扉間は面倒だから押し付けただけではないのかと呟いたそうだが、定か
ではない。
そんな扉間も火影の座を次代に譲る事となる。
それは雲隠れの里との会談の際、雲隠れの里の忍の一部が起こしたクーデターが切っ
掛けであった。
クーデターにより扉間は瀕死の重傷を負ったのだ。共に会談へと赴いていた忍を逃
がすため、一人残って多くの敵を相手に囮を務めたのが原因だ。
瀕死の重傷を負いつつも、扉間は木ノ葉へと帰還した。だが、傷ついた肉体を治療す
る事が得意な医療忍者はこの時代には数が少なく、またその質も良くなかった。
そうして扉間はその傷が元で死亡した⋮⋮わけではなかった。
扉間はこの瀕死の重傷を乗り越え生き延びたのだ。それは何故か
後、忍としては一線を退くも多くの優秀な忍を育てる事となる。
九死に一生を得た扉間は、火影後継者として猿飛ヒルゼンという忍を推薦。火影引退
生忍術で半ば無理矢理治療したのである。
ヒヨリがその溢れんばかりのチャクラと白眼を利用して鍛えた医療忍術を超える再
?
NARUTO 第二話
114
時は流れる。
三代目火影が木ノ葉を治める時代は長く、二度も大戦が繰り広げられた。
それが第二次忍界大戦と第三次忍界大戦である。これにより多くの忍が戦争を経験
し、そして死んでいった。
第一次忍界大戦より約二十年。再び起こった大戦である第二次忍界大戦。
この大戦で、二代目火影であった扉間も死亡した。忍として一線を退いており、最早
木ノ葉に自らが要る必要がなくなったと判断したのか、窮地に陥った里の忍を助ける為
に奮戦し死亡したという。
その大戦の最中、木ノ葉のある三人の忍が二代目三忍と謳われる様になる。初代三忍
は既に一人しか残っておらず、その偉業も力も既に過去の物として捉えられている事も
多かった。これも時代の流れなのだろう。
そして、第二次忍界大戦から更に二十年程の年月が経ち、第三次忍界大戦が勃発。
その大戦にて、初代三忍で最後まで生き延びていた日向ヒヨリもその命を落とした。
平均寿命が三十歳と言われていた時代から生き延び、齢八十近くまで生きたのであ
る。当時の力はすでに全盛期の半分以下だったと言われている。
それでもなお戦場に赴き、多くの同胞を助け、最後には尾獣の一体を食い止めて、瀕
死の重傷で里に帰り、畳の上で死んだという。
そして⋮⋮少しだけ時は流れる。
戦争によって多くの人が命を落とした。それは変えられぬ事実であり、悲しい現実だ
ろう。
﹂
だが、生があるから死があり、そしてまた死によって失われる命があるなら新たに生
おぎゃぁ
まれる命もあるのだ。
﹁おぎゃぁ
!
﹂
!
父も母も、そして産婆もその誕生を喜んでいた。
ホノカ
無事元気な赤子が産まれました
良くやったぞ
!
﹁おめでとうございます
﹁おお、良くやった
!
!
︵あ、どうもよろしくお願いします今世の母さん、そして父さん︶﹂
!
時点でまあ普通ではないだろう。
さて、この赤子だが、実は普通の赤子ではなかった。産まれたての赤子に自我がある
﹁おぎゃぁ
﹁ありがとうございますあなた⋮⋮初めまして、私があなたのお母さんよ﹂
!
﹂
ここ木ノ葉の里にも新たな命が芽生えていた。とても喜ばしいことだろう。赤子の
!
115
まだ喉や舌が発達してないからまともな発語は出来ないが、それも半年もすればそれ
なりに喋れる様になるだろう。至って異常な赤子である。
ま
それもそのはず、この赤子は転生者である。かつては日向ヒヨリと名乗っていた人物
が死んで生まれ変わったのがこの赤子なのだ。
さて、そんな赤子が産まれてまず最初に気になる事があった。
﹁おぎゃあ⋮⋮︵ところで差し支えなければ早く私の性別を教えてくれませんか
だ産まれて間もないので自分の肉体も把握出来ないんですよね⋮⋮︶﹂
それはこの者が最も重要視している自身の性別である。
在に生まれたりと散々だったのだ。
そして数少ない女性でない転生は、男ではなく雄であったり、そもそも性別がない存
れてきた。
この転生者、これまでに幾度も転生を繰り返しているが、その大半が女性として生ま
?
﹂
ちなみにこの者の記憶が残っている最初の性別は男である。運がないとしか言い様
がなかった。
﹂
?
﹁うむ、以前に話し合った様に、女の子だからアカネと名付けよう
﹁おぎゃあ︵知ってた︶﹂
!
﹁あなた、この子の名前は
NARUTO 第二話
116
117
それはそれは諦観が籠もった泣き声だったという。
ないが。
もっとも、転生自体が珍しいというレベルではないので他と比較する事など出来はし
ノ葉にて連続で日向で生まれるなどどれだけの確率なのか。
そして前世と同じ一族として生まれたのもまた驚きだった。多くの一族が住まう木
る程しかない。というかこれが二回目だった。
転生の度に異世界に行く事が多いアカネが、二度続けて同じ世界で生まれた事は数え
た。
そんな彼女の苗字だが、なんと前世と同じく日向であった。これにはアカネも驚い
に待とうと言えるくらい達観していた。それくらいの長き人生を歩んできたのだ。
彼女の根幹にあったとある目的の為には男性に生まれなければいけないが、まあ気長
を女性として過ごしているのだ。もう中身は殆ど女性といっても過言ではなかった。
そもそも彼女の起源は男性であるかもしれないが、すでに最初の人生の何倍もの時間
すくすくと育っていった。
さて、またも女性として産まれたアカネであったが、まあ何事もなかったかのように
NARUTO 第三話
NARUTO 第三話
118
119
そもそもこの世界には多くの国があるのだから木ノ葉で産まれたこと自体が珍しい
と言えよう。
だが、アカネは知らない事だがこれには一応の理由があった。
それはアカネの内蔵するチャクラの量に関係している。
アカネは幾度もの生を経て、膨大なチャクラを生まれながらにその身に宿している。
その為転生をするには器となる肉体がそのチャクラに耐えられる素養を持ってなけ
ればならないのだ。
もし素養のない肉体に生まれ変わっていれば、アカネは数年と持たずに死んでいただ
ろう。下手すれば産まれてすぐに死亡していた可能性もある。
それを防ぐ為に無意識に魂が強い肉体を求めた結果、再び日向一族に生まれ変わった
のだ。
もっとも、確率で言えば日向に生まれ変わるのが低かった事は確かだ。
アカネの転生体としての候補に上がる一族には、千手一族・うずまき一族・うちは一
族などが日向以外にあった。もちろんこれら以外にも幾つか候補はあっただろうが。
その中でもっとも器として理想的なのが千手一族とうずまき一族だ。この二つは特
に生命力が強い一族として知られているからだ。
この候補はあくまで候補であり、転生時に選んでいる訳ではない。日向に生まれ変
NARUTO 第三話
120
わったのは完全に運である。なので、低い確率を引き当てた事に間違いはなかった。
まあそんな事はアカネには知った事ではなく、とりあえず今の人生を楽しむ事にしよ
うと考えていた。
アカネはこれでも転生のベテランである。⋮⋮アカネ以外にそんな存在がいて、それ
をアカネが知ればすぐにでも友達になりに行くだろうが。
とにかく、アカネが転生してからまず最初にする事がある。前世は前世、今世は今世
と頭を切り替える事だ。
前世を引きずったままでは今世に色々と面倒事を持ち込むことになるからだ。
前 世 は あ あ だ っ た。前 世 は 良 か っ た。な ど と 考 え る の は 今 世 に 対 し て 失 礼 だ ろ う。
特に産んでくれた父母に対して一番失礼だ。
前世の両親の方が良かったなどとは口が裂けても言えないし、思うこと自体が失礼
だ。なので、頭を切り替えるわけだ。
そうする事で新しい人生を楽しむ事も出来る。子ども時代も慣れれば楽しいものな
しも
のだ。ベテランは切り替えが早かった。
⋮⋮流石に赤子の内にされる下の世話だけは永遠に慣れる事はなかったが。
さて、頭を切り替えたアカネだったが、日向一族に転生した事は少々頭が痛い思い
だった。それは日向一族の特異体質・白眼が原因であった。
121
白眼は相手のチャクラを色で見分ける事が出来る。そしてチャクラの色は個人個人
で違う。
似ているチャクラ性質をしている者は色も似ているが、それでも瞳力の強い白眼なら
ば見分ける事が出来るだろう。
そしてアカネのチャクラの色は前世であるヒヨリの色と瓜二つ⋮⋮というか完全に
同一の物だった。まあ魂が同一人物なので当然と言えば当然だ。
日向一族とて常時白眼を発動している訳ではないが、それでもアカネを白眼で見る機
会が全くないという事はまずないだろう。
そしてその白眼の持ち主がヒヨリのチャクラ性質を良く知る者であったら⋮⋮その
時は、アカネ=ヒヨリという図式が出てくるかもしれない。
そうなればまず間違いなく面倒事が起こるだろう。
もし完全にばれた場合何かの実験台にされる、とかは別にいい。逃げ切る自信はある
からだ。
だが敬われた場合、これが困る。新しい人生で楽しみたいのに最初から敬われるなど
たまったものではない。
そして敬われるだけの土台がある事はアカネも理解していた。何せヒヨリは木ノ葉
では伝説と謳われた三忍の一人にして、日向では最強の長として尊敬と畏怖を集めてい
NARUTO 第三話
122
たのだ。
まあそこまではいい。許容範囲と言えた。だが、アカネにとって最も恐ろしい事は、
今世の父と母に忌み嫌われる事だった。
自分の子どもが前世の記憶を持っており、すでに大人顔負けの知識や実力を有してい
る。
人によっては自分の子ではないと捨てる者もいるだろう。
産みの親として、育ての親として、これを容易に受け入れる事は難しいのではないだ
ろうか
九尾の封印が解けたのである。
それはアカネが一歳の時に起きた事件が原因だった。
そして、早くも事態が動く切っ掛けが起きてしまった。
今は事態が動くまでは二人の子どもとして甘えさせてもらうだけだった。
す訳にもいかないのだ。
だからと言って出来る事はアカネにはなかった。ばれたくないからと言って逃げ出
いという事にはならない。
もちろん両親がそう言った人柄ではないと理解しているが、だからばれるのが怖くな
そしてアカネはこれまでの経験でそれを良く知っていた。だからこそ恐れるのだ。
?
123
◆
四代目火影・波風ミナトの妻・うずまきクシナ。彼女は九尾の人柱力だった。
九尾とは尾獣の一体である。尾獣はその名の通り尾を持っており、それぞれ一本から
九本の尾を持つ九尾を含めて九体が存在している。
そして尾獣を封印術により体内に封じられた者が人柱力と呼ばれる存在である。
人柱力は忍の里にとって非常に重要かつ繊細な立ち場にある。
強大なチャクラの塊である尾獣をその身に宿すのだ。その戦力は小国など容易く滅
ぼす事が出来るだろう。
それだけの力を誇る人柱力は里にとって重要な切り札となる。
だが、尾獣という強大な力を宿すのだ。当然リスクは高かった。
人柱力となった人間はその身に宿る尾獣により常に不安定で暴走の危険性を孕んで
いるのだ。
そしてそんな人外とも言える力を身に宿している人柱力は恐れられ遠ざけられる事
が多い。
里としても強大な戦力である人柱力は最重要機密の存在であるため、他里に見つから
ないように隔離や軟禁、幽閉をしている場合もある。
国を左右する程の戦力である人柱力。その一人であるうずまきクシナは妊娠してい
た。もちろん赤子の父親は波風ミナトである。
人柱力の妊娠、そして出産。これは非常に危うい可能性を孕んでいた。
人柱力が出産を行う際、尾獣の封印式が弱まり封印が解ける可能性が高まるのだ。
九尾の復活は里にとって危険極まりない事件である。
そうはならないように封印術に長けた忍が護衛を務め、木ノ葉の里より離れた場所に
て結界を張って慎重に出産が行われるようになった。
﹂
そして出産最中、九尾が封印から抜け出そうともがく事があったが、出産自体は無事
おぎゃあ
に成功した。
﹁おぎゃあ
﹂
!
﹁ハハ⋮⋮
オレも今日から父親だ⋮⋮
﹂
!!
﹁ナルト⋮⋮やっと会えた⋮⋮﹂
そうして産まれてきた我が子にミナトが感動し涙を流す。
出産という女性にしか分からない偉業を傍で見守り、痛みに叫ぶ妻の声を聞き続け、
!
出産に立ち合っていた三代目火影の妻・ビワコが産まれたての赤子を取り上げる。
!!
!
﹁元気な男の子ぞえ
NARUTO 第三話
124
想像以上の痛みに、女として母として耐え抜き、ようやく出会えた愛しい我が子の名
を呼んでクシナは喜びの声を上げる。
だが、感動も喜びも二の次にしなければならない。こうしている間にも弱まった封印
から九尾が抜け出そうとしているのだ。
九尾を完全に押さえ込んで再び強固な封印術にて縛らなければならない。
﹂
﹂
ミナトがそうしようとした矢先の事だった。
﹂
﹁ああああぁあぁぁぁぁぁあ
﹁これは
九尾が出てこようとしてるぞえ
!
﹂
このままではまずいぞえ
クシナ、もう少し頑張ってくれ
!
﹁は、早く封印式を強化するのじゃ
﹁はい
﹁
結界が破られた
!?
﹂
だが全ては少しだけ、本当に少しだけ遅かった。
慌て、しかし冷静に忍達は対処する。
!
!
!
﹂
それはまるで外から九尾を引っ張り出そうとしている力が働いている様だった。
視役のビワコも予想外の出来事だった。
今まで以上の勢いで九尾が封印から抜け出ようとしていたのだ。それはミナトや監
﹁いかん
! !?
!?
!!
125
出産場所を守る為に仕掛けていた結界が破られた。それはつまり何者かがこの場に
侵入して来た事を意味する。
﹂
九尾が急激に封印を破ろうとしている事、そして何者かの襲撃。この二つが偶然な訳
がない。
した。
気配を察知したミナトが苦無を投げる。だが侵入者はその苦無をいとも容易く回避
﹁何者だ
!?
子・ナルトだった。
││火遁・豪火球の術
放った。
侵入者はナルトと、そしてナルトを抱き上げていたビワコに向けて強大な火遁の術を
!
だが、侵入者が最初に狙ったのは九尾を宿すクシナではなく⋮⋮産まれたばかりの赤
の前に立つ。
声も発しない侵入者の狙いは九尾、すなわちクシナだろうと判断してミナトはクシナ
た。
侵入者は全身をマントで、そして顔を面で隠した明らかに不審人物と言える容貌だっ
﹁⋮⋮﹂
NARUTO 第三話
126
九尾の封印式を強固にする為の邪魔になるのでナルトをビワコがクシナから遠ざけ
ていたのがミナトにとって最大の不幸だった。
ミナトがナルトを守る為にはどうしてもクシナから離れなければならない。だが、ミ
ナトにとって産まれたばかりの我が子を見捨てる訳にもいかない。
二者択一。ミナトが選んだのは⋮⋮今何とかしないと死んでしまうナルトだった。
ミナトは黄色い閃光との異名が付くほどの忍である。その名に恥じない速度でナル
トへと近づき、そしてナルトを抱くビワコもろとも飛雷神の術を発動し、その場から消
え去った。
飛雷神の術とはチャクラを用いて付加したマーキングへと一瞬にして跳躍出来る時
空間忍術である。
﹂
おぎゃあ
﹂
あらかじめ用意していたマーキングへとミナトはナルトとビワコを連れて避難した
のだ。
﹁くっ
﹁おぎゃあ
﹂
!
!
じゃが、このままではクシナが、九尾が
﹂
﹁す、すまぬミナト
!
ビワコの叫びにそう返しつつ、ミナトは焦りながらも冷静に思考していた。
﹁分かっています
!
!
!
127
あの侵入者は何者なのか。あの豪火球の術は並の豪火球と比べて桁違いの威力と大
きさだった。
普通の忍が使う豪火球の術ならばミナトは容易く対処出来るだろう。だが、先の豪火
球はその威力ゆえに飛雷神の術で回避する以外には対処しようがなかったのだ。
咄嗟の判断を要されていたのも原因だった。あと少し、本当に一瞬とも言える間があ
れば豪火球を時空間結界にて別の場所に飛ばすという対処も出来たのだが⋮⋮。
﹂
とにかく、侵入者の狙いが九尾なのは確か。一刻も早くにクシナの元に行かねばなら
ナルトをよろしくお願いします
﹂
!
ない。
﹁ビワコ様
任された
!
!
﹂
だが、全ては僅かに遅かった。
これによりミナトはいつでもクシナの元へと移動する事が出来た。
ク シ ナ に 施 さ れ た 九 尾 の 封 印 式 に は 飛 雷 神 の マ ー キ ン グ が 書 き 足 さ れ て い る の だ。
ビワコにナルトを託し、ミナトは飛雷神の術で再びクシナの元へと瞬間移動する。
﹁うむ
!
!
クシナがナルトを産む為に用意された場所は木の葉の里から場所にある離れた大き
﹁う⋮⋮ミナト⋮⋮﹂
﹁クシナ
NARUTO 第三話
128
な岩をくり抜いて作られていた。
その岩場がすでに崩れ去っていた。そしてクシナは全身から鎖を出して、岩場の外に
⋮⋮危ないクシナ
﹂
出ようとしている九尾を縛り付けていた。
﹁九尾が
!
﹁っ
それでか
﹂
!
のだ。
口寄せの術で召喚出来る生物は、その生物との契約を交わした術者以外には不可能な
出来なくはないだろう。しかしそれは一つのある事実を示していた。
だが、出産時に封印が弱まっていれば話は別だ。それならば口寄せの術で強引に召喚
い。
本来ならば口寄せの術で口寄せされたところで九尾が封印から抜け出る事はまずな
為である。
ミナトは出産を終えた時の急激な九尾の復活に得心がいった。九尾が口寄せされた
!
﹁ミナト⋮⋮早く⋮⋮九尾が口寄せされようとしている﹂
一体何者なのか。ミナトがそう思っていた時、クシナがある情報を口にした。
豪火球の術を放ったのは言うまでもない。全身を覆い隠した不気味な侵入者だ。
ミナトはクシナへと向かってくる豪火球の術を時空間結界にて別の場所に飛ばす。
!
129
つまりこの侵入者は九尾と契約を交わしているという事である。そしてこれまでの
情報を全て統合すると、ミナトの脳裏に一人の忍の名が浮かんできた。
﹂
それに対しても仮面の男は何も返さない。無言で攻撃をしよう印を組んで⋮⋮しか
﹁⋮⋮﹂
﹁いや、そんなはずはない⋮⋮彼は死んだ﹂
だが、うちはマダラは初代火影と戦い死亡したはず。そう思いミナトは考え直す。
そんなものはうちはマダラくらいだろうとミナトは見当したのだ。
き、木の葉の結界に引っかかる事なく出入りする事が出来る忍。
桁の違う豪火球の術、出産時に九尾の封印が弱まる事を知っている、九尾を口寄せで
﹁お前は⋮⋮うちはマダラなのか
?
しその動きが何故か止まってしまった。
﹂
?
﹁これは
⋮⋮あの男、口寄せされていたのか
﹂
?
男が消えた時の独特の消え方が時空間忍術の一つ口寄せの術で召喚された者が消え
!
だが、男は音を立てて煙と共にその場から消え去って行った。
ようとする。
突如として動きを止めた男を不審に思うも、今が好機と判断してミナトは反撃に転じ
﹁
NARUTO 第三話
130
る時と同じ現象だった事からミナトはそう見抜いた。
それはつまりあの男には協力者か、男を裏で操る黒幕的存在がいるという事である。
﹂
﹂
九尾を狙う不穏な影を危険に思うが、今はそれどころではなかった。
﹁うう
﹂
﹁グルルルルル
﹁クシナ
!
﹂
?
今はビワコ様が守って下さっている
それより
﹂
!
﹁ミナト⋮⋮ナルトは⋮⋮
﹁無事だ
!
﹁私なら、もう駄目よ⋮⋮﹂
!
一番最初に狙われるのは⋮⋮この場から最も近く大きな里、木ノ葉だろう。
が死ねば九尾は自由となり、封印されていた怒りと憎しみを周囲にばら撒くだろう。
だがそれにも限界はある。クシナの命はまさに風前の灯火と言えた。そしてクシナ
がうずまき一族と呼ばれる生命力に溢れた一族の末裔だからだ。
九尾を、尾獣を抜かれた人柱力は死んでしまうのだ。クシナが未だ存命なのはクシナ
間の問題だ。
今はまだクシナの体から出ている鎖状の封印術が九尾を縛り付けているが、それも時
九尾がクシナの封印を無理矢理引き千切ろうとしているのだ。
!!
!
131
クシナも自らの死を悟っていた。尾獣を抜かれて死なない人柱力はいないのだ。も
う残された時間は僅かだろう。
そうすれば九尾の復活次期を延ばす事が出来る。そう言ってクシナはミナトやナル
﹁このまま私は⋮⋮九尾を引きずりこんで⋮⋮死ぬわ﹂
トを救う為に最後の力を振り絞ろうとする。
人柱力がその身に尾獣を宿したまま死亡した場合、宿っていた尾獣は一旦チャクラへ
と分散し、そして再び元の尾獣の形に戻る。
君の男にしてくれた
ナルト
だが尾獣が元に戻るのには数年程の時間が出来るのだ。そうすれば九尾の脅威から
は一時的に逃れられるだろう。
﹂
!
クシナの、今生の別れの言葉にミナトの感情は激しく渦巻いた。
それなのに⋮⋮
!
﹁今まで⋮⋮色々とありがとう﹂
の父親にしてくれた
!
こんな状況でも、ミナトに愛されて嬉しいと、愛する我が子が産まれて嬉しいと、も
だがクシナはそんなミナトを慰めた。
しい女性を、守る事が出来なかった。それがミナトを苛める。
さいな
守る事が出来なかった。今もなお死を以って自らと子どもを守ろうとしてくれる愛
!
﹁クシナ、君がオレを⋮⋮四代目火影にしてくれた
NARUTO 第三話
132
し生きて家族三人で暮らしている未来を想像したら幸せだと、そう言って今を肯定した
のだ。
心残りがあるとしたら、大きくなったナルトを見てみたかった。クシナのその言葉を
聞いて、ミナトは決意した。
⋮⋮どういうこと
﹂
?
﹂
!
﹁おぬし達
九尾
封印は解けたのかえ
!
﹂
!!
﹁どうするつもりじゃ
﹂
﹁ビワコ様、ナルトをこちらに﹂
りビワコにあやされて泣き止んでいたナルトも再び大声で泣き出した。
突如として現れたミナトとクシナ、そして何より九尾にビワコは驚愕する。それによ
!
そうして辿り付いた場所ではビワコがナルトを抱きかかえてあやしていた。
ングがしてある。
正確には最初にナルトとビワコを避難させた場所だ。当然そこには飛雷神のマーキ
る場所だ。
ミナトはクシナを九尾ごと連れて飛雷神の術で移動する。行き先は⋮⋮ナルトのい
﹁え
?
トとの再会の為に使うんだ⋮⋮
﹁クシナ⋮⋮君が九尾と一緒に心中する必要はないよ。その残り少ないチャクラはナル
133
?
﹄
﹁九尾をナルトの中に封印します﹂
﹃
﹁そんな事をしたらナルトが
﹂
!
もないだろう。
破壊され、確実に九尾が復活する。そしてその時人柱力であったナルトは⋮⋮言うまで
そんな九尾を産まれたばかりの赤子に封印すればどうなるか⋮⋮。封印は遠からず
していた。九尾一体で他の尾獣の数体分の力を持っているかもしれない程だ。 並の人柱力では九尾を封印する事など出来るはずがない。それだけの力を九尾は有
特別な力を有するうずまき一族の人間を選ぶ事からも伺えるだろう。
九尾の持つチャクラ、力は膨大の一言に尽きる。それは人柱力に九尾を押さえ込める
ミナトの言葉はクシナにもビワコにも信じがたいものだった。
!?
﹂
!
木ノ葉の里を思えば当然の帰結なのだ。
ミナトの案にビワコは賛同する。それにクシナは納得が行かないが、ビワコの考えは
﹁ビワコ様まで
﹁⋮⋮確かに、それならばまだ可能じゃ。この際⋮⋮致し方あるまいえ﹂
八卦封印でね﹂
﹁大丈夫だ。九尾のチャクラを陰と陽に分けて、陽のチャクラだけをナルトに封印する。
NARUTO 第三話
134
尾獣は忍の里の軍事バランスとなっている。各里にはそれぞれ尾獣とその人柱力が
存在し、それが牽制しあって戦争や政治的なバランスを保っている。
だが、九尾ほどの尾獣が木の葉から無くなってしまえばどうなるか。木ノ葉が弱体化
したと考え、多くの他里が木ノ葉に戦争を仕掛けて来るやもしれなかった。
しかも数年たって九尾が復活した場合、どこでどの様な被害が出るか計り知れない
上、他里に九尾を奪われるとより厄介な結果となるだろう。
﹂
ミナトは火影として、里を守る長としてそれを認める訳にはいかなかったのだ。
﹁大体、どうやって九尾のチャクラを半分に⋮⋮
火影が里からいなくなっては里が⋮⋮
でも⋮⋮あの術は術者が
!
﹁屍鬼封尽を使う﹂
﹁⋮⋮
﹁それはならんぞえミナト
﹂
!
!
らう。
術の発動と同時に術者と封印の対象にしか見えない死神が現れ、術者と対象の魂を喰
を死神に引き渡す、命を代償とする封印術である。
クシナとビワコが動揺する程の術・屍鬼封尽。それは術の効力と引き換えに術者の魂
!
﹂
ミナトのその答えは、クシナにとってもナルトにとっても残酷なものだった。
どうやって九尾をチャクラを陰と陽に分けるのか。
!
135
そして死神に喰われた魂は死神の腹の中で互いに絡み合い憎み合い永遠に闘い続け、
未来永劫苦しみ続けるのだ。
命を代償とし、死後すら地獄もかくやという苦しみを味わわされるだけに、この封印
術は非常に強力だった。そう、九尾のチャクラを陰陽で分ける事が出来るくらいに。
三代目に任せます。火影を引退したばかりで引っ張り出して悪いですけど⋮⋮﹂
﹁ビワコ様、申し訳有りませんがそれ以外に方法はありません。木ノ葉は⋮⋮しばらく
﹁⋮⋮そうか。ふん、ヒルゼンならアチシが尻を引っぱたいてでも働かせてやるえ。心
配はするなえ﹂
﹁ありがとうございます﹂
ミナトとビワコが今後について話し終わるが、まだ納得がいかない者がいた。そう、
﹂
ナルトに九尾を封印するという事に、ミナトが屍鬼封尽をするという事に納得のいかな
どうしてミナトが⋮⋮
!
今回の襲撃者とその裏にいる存在は、必ず災いをもたらすとミナトは確信していた。
て起きる災い。
ミナトは言う。かつてミナトの師から聞いた世界の変革の予言。そしてそれに伴っ
!
い者が。
なんでナルトに⋮⋮
!
﹁君の言いたい事は分かる。でも││﹂
﹁なんで⋮⋮
NARUTO 第三話
136
﹂
そして、それを止める事が出来るのはナルトだと。ナルトが人柱力として未来を切り
拓いてくれると何故か確信したのだ。
﹁この子を信じよう。何たってオレ達の息子なんだから
そう言って、ミナトは屍鬼封尽の術を発動した。
◆
!
そのような歳でまともな力を発揮出来るわけがない。せめてあと三年も経っていれ
まだ一歳の幼子なのだ。
当然だ。アカネがいかに転生者であり、前世の能力を引き継ぎ、優秀であろうとも、い
だが、それだけだ。察知しただけ、それ以上の事は何も出来なかった。
間に、木ノ葉の忍の誰よりも早くにそれを察知した。
アカネの感知能力は全ての忍の中でもトップクラスだ。それ故に九尾が復活した瞬
アカネは九尾のチャクラが消失したのを感じ取る。
︵九尾のチャクラが消えた⋮⋮
︶
九尾は両親の想いと共にナルトに封印された。
そして、いくつかミナトとクシナは会話を交わし、ビワコにナルトを託した。そして
!!
137
ばと歯噛みをしていたが、九尾は里の者に託す以外になかった。
すべ
そうして焦燥していたが、九尾のチャクラは数分足らずで消失した。封印に成功した
のだろうかと気になるが、今それを知る術はアカネにはない。
今はただ情報が入るのを待つしかなかった。
九尾復活の情報はアカネには一切入ってこなかった。父親も母親も、それらしい事は
言わずに何事もなく生活をしている。
九尾が復活して暴れていれば甚大な被害が出ているだろうが、その気配も微塵も感じ
られない。やはり九尾は再び封印されたのだろう。
そして変わりに入ってきた情報が、四代目火影ミナトとその妻クシナの死去であっ
た。
ネロという異名まで付いたくらいだ。
されており、その馬鹿にした男子を返り討ちにしたという曰く付きだ。赤い血潮のハバ
そしてクシナ。彼女は里の問題児だった。幼少期は特徴的な見た目によって馬鹿に
を想う良き忍だった。だからこそ火影となれたのだろう。
ミナトはアカネが知る限りでも優秀と言える忍だった。才能だけでなく、思慮深く里
︵⋮⋮ミナトとクシナが逝ったのか︶
NARUTO 第三話
138
だが、良い子だったとアカネは思っている。そうでなくてはミナトが見初めるわけが
ない。
そんな二人が亡くなってしまった。悲しくあるが、アカネは九尾の復活が原因である
事はまず間違いないと考える。
九尾の人柱力であったクシナは九尾の封印が解けた為に死んだのだろう。そしてミ
ナ ト は 九 尾 か ら 里 を 守 る 為 に 死 ん だ の か。そ の 辺 り は ア カ ネ に は 詳 し く は 分 か ら な
かったが。
︶
次にアカネが考えるのが何故九尾の封印が解けたのか、である。
︵⋮⋮出産か
ミナトとクシナ以外に亡くなった人の話はアカネも耳にしない。つまり死んでいな
︵となると、二人の子どもは⋮⋮︶
の中ではそう予想された。
その時は危うくも封印が破られる事はなかったが、今回はそうならなかった。ヒヨリ
九尾の前人柱力・うずまきミトの出産である。
だが、アカネが知る限り一度だけ九尾の封印が破られそうになった事がある。それが
全の準備が必要だし、そして時間が掛かる。
九尾の封印式は非常に強固だ。その封印を解いて人柱力から九尾を抜き出すには万
?
139
いのか、そもそも生まれなかったのか、それとも⋮⋮その存在を隠されているかだ。
もし存在を隠しているのだとして、四代目火影の子どもを隠す理由。それはその子ど
もが非常に重要な立場にあるという事だ。他里はおろか、木ノ葉の者││もしかしたら
︶
大人は皆知っているかもしれないが││にも隠すほどの理由。
カネは思う。
今はまだこの状況を甘んじるしかないだろう。だが、いつまでもそれでは駄目かとア
する事は出来ない。
それからも色々と推察してみるが、所詮推察は推察だ。見てもいないのに全てを理解
れないと考えたからだ。
何故ならいくらうずまき一族の血を引くとはいえ、赤子では九尾のチャクラを抑えき
アカネの行き付いた結論がそれだ。だがその結論はすぐに霧散した。
︵⋮⋮人柱力か
?
あのミナトや三代目火影である猿飛ヒルゼンがいるのだ。そんな不手際を起こす様
はいない。
九尾の復活。それに伴う火影の死。これが出産の不手際であるとはアカネも思って
色々と遊ぼうと思っていたのに︶
︵全 く。転 生 し て も 忍 は ゆ っ く り 出 来 な い な。前 世 で は 立 場 上 の し が ら み が あ っ た 分
NARUTO 第三話
140
な下手な真似はしないだろう。
ならば第三者の存在が介入したはずだ。木の葉の結界を超えて、厳重な警護を敷かれ
ていたであろう出産場所を襲い、火影を出し抜いて九尾の封印を解く。
並大抵の忍では不可能な所業だ。つまり大物が関与しているわけだ。それは木ノ葉
を揺るがす大きな災いとなる可能性もあった。
︶
!
そ の 上 ヒ ヨ リ で あ る 事 を 教 え る の が 遅 く な れ ば 遅 く な る ほ ど 信 用 さ れ に く く な る。
ろう。
今のままでは年齢と分家という立場が足かせとなり、自由に動く事が出来なくなるだ
その為にはいずれ日向の当主と長老に自分の正体を告げる必要があるだろう。
を守る為ならば立ち向かう所存だった。
ならばそれを害する事を許すわけにはいかない。いかなる難敵であろうとも木の葉
の里に住む者達も皆ヒヨリが、アカネが守りたいと願う者達だ。
代わりに木ノ葉の里という大きく素晴らしい子を作る事が出来たからだ。そしてそ
それはかつての兄との契約による結果だったが、アカネはそれを後悔はしていない。
アカネの前世、ヒヨリに子どもはいない。そもそも結婚自体をしていなかった。
れに仇なすならば⋮⋮
︵木ノ葉は私と柱間と、そしてマダラの夢の里。そして私の子の様な存在でもある。そ
141
幼い内に教えた方が信憑性が増すのだ。
成長すれば出来て当然でも、幼少時ではまず不可能という事は多くある。それらを幼
い内に見せつけ、更にチャクラ性質の色を見せればヒヨリを良く知る長老は納得するだ
ろう。
そして現当主である日向ヒアシ。彼ももちろんヒヨリと面識がある。というかヒア
シの祖父がヒヨリの兄なのだ。面識があって当然である。
⋮⋮ちなみにヒヨリが兄から当主の座を譲ってもらう為に交わした契約は、子孫を残
さぬ事と、兄の子が次期当主となる事の二つである。
例え日向一族の忍でなくても白眼の能力を得る事が出来るのだ。
だからこそ、白眼は他の忍から狙われていた。白眼を奪い取り別の忍に移植すれば、
眼を有する日向一族は繁栄していたのだ。
白眼は三大瞳術の一つに数えられ、忍にとって非常に有用な能力である。それ故に白
この呪印は日向宗家と、そして白眼を守る為に作られたシステムだった。
を刻まれる掟となっている。
呪印を刻むとあるが、日向の分家の生まれは必ず額に︻籠の中の鳥︼を意味する呪印
刻まれるはず。そのくらいの年齢なら今よりも多少の力は発揮出来るだろうし︶
︵ヒアシと長老への報告は私に呪印を刻む時がいいか。確か三∼五歳くらいになったら
NARUTO 第三話
142
それを防ぐ為に作られたのが呪印である。呪印を刻まれた分家の忍が死す時、呪印は
その者の白眼の能力を封印して消えてなくなるのだ。
それだけではない。宗家の者が秘印を結ぶと呪印は効果を発揮し、分家の者の脳神経
を簡単に破壊する事が出来る。これは分家が宗家を裏切る事がない様に仕組まれた物
だ。
もっとも、白眼を守るという意味でなら呪印も認めていたが、宗家が分家の命を物理
的な意味で握っているこの効果はアカネは好きではなかった。
もちろん好き嫌いで判断し、私情を持って動く事は忍としても日向の長としても失格
であると理解していたが。
ちなみに四∼五歳で多少は力を発揮出来るとアカネは考えているが、それは何もおか
しな事ではなかった。
この世界では優秀な者は齢六歳くらいで忍者アカデミーを卒業し、下忍として働きだ
す事もままあるのだ。まあ戦時下や里の戦力補強が急務である時のみの話だが。
ヒヨリであれば四∼五歳くらいで上忍並の力は発揮出来るだろう。
ネだけの特異体質だった。正確にはアカネの二度目の人生で作り出したある能力が作
そう、アカネに呪印は効果を及ぼさない。それは日向一族に伝わる秘術ではなくアカ
︵ま、呪印を刻むと言っても、私には呪印とか効果ないんですけどねー︶
143
用した結果だが。
その能力により、アカネは呪印や幻術といった能力が無効化されるのだ。もっとも無
効化には術の効果に見合ったチャクラが消費される為、無尽蔵に無効化出来るわけでは
なかったが。
まあ無尽蔵と言ってもおかしくないチャクラ量を有しているので、この世の大抵の呪
印、幻術、封印術、その他陰遁等の術の大半は無効化出来るのだが。
つまりアカネを倒すには物理的なダメージを与えるしかないのであった。幻術使い
は涙目である。
気になるのは呪印が刻めない事が問題となるかもしれない事だ。
前世がどうあれ今のアカネは日向の分家の生まれだ。宗家を敬う立場の分家に呪印
が刻めないとなったら色々と体面が悪いだろう。
百に満たない人生でアカネ以上に精神的に成長している人間もいる事を考えると情
のかもしれない。
まあかれこれ千年以上は生きているので、逆に言えばこれ以上精神的には成長しない
るのだろうか。
ヒヨリ時代と相変わらずの丸投げであった。果たして彼女は成長をしていると言え
︵うーむ。まあヒアシや長老に考えさせるか︶
NARUTO 第三話
144
145
けない限りである。悲しいが、これが彼女の人間としての器の限界なのだろう。
下手に長く生きすぎてあまりに強い力を手に入れてしまっているので大抵の困難が
力づくで切り抜けられるのが原因の一つかもしれない。強いというのも考え物だった。
ある。
そんな日々にとうとう転機が訪れた。そう、アカネに呪印を刻む日がやって来たので
カネ。
それでも毎日の様に幼い体に無理が行かない程度に走りこみを続ける日々を送るア
こればかりは本当にうんざりする事もあるアカネだった。
無くしていけばいいのだが、体力は本当にひたすら反復して付け直すしかないのだ。
技術面ではしばらく修行していなかった分の錆落としや、新たな肉体と技との齟齬を
のだ。これがまた苦行だった。
成長して体がまともに動くようになっても、体力は一から付け直さなくてはならない
影もない。
どうしてもまともに体は動いてくれず、かつては丸三日寝ずに闘えていた体力は見る
長きに渡る人生に、多くの転生。この中で一番辛いのが成長過程の期間である。
通りに動くようになって来ていた。
さて、時は流れアカネも三歳となっていた。すくすく育ったアカネは肉体が大分思い
NARUTO 第四話
NARUTO 第四話
146
る決定的な楔を刻まれるのだ。それを喜ぶ親は少ないだろう。
自分の子に呪印を刻まれる。その一生を宗家という大きな籠の中で飼い殺しにされ
には宗家が絶対として映るのだから。
盛大であればあるほど、多くの分家が宗家に傅いている姿を見れば見るほど、その眼
呪印が当たり前の物だと刷り込む。そうするには盛大な祝いの日は都合の良いだろう。
幼子の内に宗家という超えられない絶対の壁を刷り込み、幼子の内に呪印を刻む事で
い幼子がいる。
宗家に何らかの祝い事があり、それに招待される分家の者の中に呪印が刻まれていな
それはアカネも察していた。そしてその理由も。
ない顔であった。
宗家の目出度い席に招待された事を光栄と言うが、アカネの父である日向ソウは浮か
﹁かしこまりました父上﹂
礼な事をしてはいけないぞ﹂
ろう。その目出度い席に我らの様な分家の端くれも招待して下さったのだ。決して無
﹁⋮⋮うむ。宗家の嫡子であるヒナタ様の二歳の誕生日だ。今日は盛大な祝いとなるだ
﹁父上、本日はヒナタ様のお誕生日なのですね﹂
147
いや、日向にあっては少なくはなかった。分家は宗家の為に命を賭して忠誠を誓う事
が当たり前だと思っている分家の人間は多い。そしてそれは決して間違った考えでも
なかった。
宗家という日向にあって最も重要な血を未来永劫残すのは一族として当然の義務な
のだから。
そしてこれはアカネも否定はしていなかった。そういう伝統によって残されていく
文化や因習は古き歴史を知る貴重な宝にもなるのだから。
さるさ
﹂
﹁うむ。流石はオレとホノカの子どもだ きっと宗家の方々もアカネを気に入って下
!
化したままでいるのは少々気が引けたのだ。
いや、そういう特異体質であると誤魔化す事は出来るかもしれないが、このまま誤魔
は呪印を刻めない理由を教える事が出来ないだろう。
だが今日はそれを宗家だけでなく、父と母にも教えるつもりであった。隠したままで
ても言えない気持ちになってしまうのだ。
それがアカネには逆に辛い。実は前世の記憶や力を引き継いでいます、等と口が裂け
ソウはすぐに浮かなかった表情を隠し、アカネを不安がらせない様に努めた。
!
︵これでヒヨリとしての立場を得る必要がなければずっと二人の子どものままでいられ
NARUTO 第四話
148
たのになぁ⋮⋮︶
覚悟は決めていてもそう思わずにはいられない。覚悟とは、父と母に捨てられる覚悟
である。前世を告げるならばそうなる可能姓は大いにあるのだ。
そうしなければならない原因を作り出した九尾復活の裏にいる犯人。そいつは絶対
に許さないと改めて誓うアカネであった。
日向ヒナタの誕生祝いが盛大に開かれ、そして長き歴史を持つ日向らしく厳かに終え
﹁勿体無いお言葉です﹂
﹁うむ。足労だったなソウよ﹂
﹁ヒアシ様、ヒナタ様のお誕生日おめでとうございます﹂
と赴いた。
かつての我が家を思い出しつつ、アカネは父と母に連れられて懐かしき宗家の屋敷へ
あ改築や増築などされていれば話は別だが。
ヒヨリ時代では実家として使用していたのだ。知らない場所など殆どなかった。ま
等と言っているが、もちろん初めてなのはアカネとしてである。
﹁はい母上﹂
﹁アカネは宗家のお屋敷は初めてでしたね﹂
149
ようとしていた。
そして全てが終わる前に、最後のしきたりが行われようとしていた。
﹁それではソウよ。娘をしばし預かるぞ﹂
﹁⋮⋮はい﹂
全ては宗家の、ひいては日向一族の為。心が痛むがそう納得し、ソウはヒアシの言葉
に頷いた。
﹁アカネだったな。着いて来るのだ﹂
かつての我が家の懐かしさに目移りしているアカネを、ヒアシは初めて訪れる宗家の
りだった。
ヒアシの後を追いながら、宗家の屋敷を見渡すアカネ。そのほとんどは記憶にある通
すつもりなのだ。
なので一度ヒアシに着いて行き、周囲に人がいなくなった時を見計らって話を持ち出
だ。それ以上は情報の漏洩という危険性も考えると秘密にしておくべきだろう。
前世に付いて教えるのは当主であるヒアシとその父の長老、そして父と母だけで十分
周囲には多くの分家の者がいるからだ。
ア カ ネ は ヒ ア シ の 後 を 着 い て い く。こ こ で ヒ ア シ に 全 て を 話 す わ け に は い か な い。
﹁はい﹂
NARUTO 第四話
150
151
屋敷に興味津々なのだろうと思っていた。
聞いた話では三歳にして天才と言われる分家の寵児との事だったが、こうして見ると
年齢に相応な少女だとヒアシは感じていた。
だが歳相応であるのは悪い事ではない。優秀であれば多少は眼を瞑れるだろう。こ
れくらいで期待外れだと感じる事もない。
それに分家の者だからと言って宗家より劣るとは限らない。ヒアシは双子の弟を思
い浮かべて僅かに顔をしかめる。
宗家に産まれた双子。それがヒアシとその弟ヒザシだ。
殆ど産まれたタイミングは同じだが、僅かに早く産まれたヒアシは兄に、僅かに遅く
産まれたヒザシは弟という立場になった。
そしてその僅かな時間で出来た立場の差は、後に大きな差となったのだ。
兄のヒアシは宗家の当主となり、弟のヒザシは分家の一門に落ちたのだ。
同じ宗家の人間として生まれ、容姿も実力も互角でありながら、産まれたタイミング
が僅かに違っただけで決定的な立場の差が出来てしまった。
かつては兄弟として振舞えたが、今ではそれもままならない。当主としての立場が、
分家としての立場がそれを許さないのだ。
今でもヒアシは弟が当主の座を継げば良かったと思っている。
周囲からは互角と言われていた二人の実力だが、ヒアシはそうは思っていない。ヒザ
シの方に僅かにだが日向の才の天秤は傾いていたと実感していたのだ。
だが、ほんの僅かな差は周囲には理解されず、また理解されたとしてもその程度の差
では弟であるヒザシが日向の当主となる事は出来なかっただろう。
それを思い出して僅かに残ったしこりの様なモノが胸に去来するが、ヒアシはすぐに
気を取り直す。
﹂
そして後ろから聞こえた恐ろしい言葉を耳にして、驚愕と共に後ろを振り向いた。
﹂
﹁ヒザシの事を気にしているのですか
!?
?
事 を ヒ ア シ に 術 を 掛 け ら れ た と 認 識 さ せ ず に 一 瞬 で 読 み 取 る 事 な ど 出 来 る 訳 が な い。
そんな術を掛けられた記憶など当然ヒアシにはなく、そもそもたった今思考していた
準備と長い時間を掛けて行える術だ。
心や記憶を読む術などヒアシの記憶にはあるにはあるが、それは相応の術者が入念な
何故たった今考えていた事を、僅か三歳の幼子がぴたりと言い当てられるのだ。
わる。
だが、この場所で、この時に、そしてこの者が、自身に放ったとなれば話は大きく変
その言葉自体は、特に恐ろしいと言えるものではないだろう。
﹁
NARUTO 第四話
152
ならばヒアシがヒザシに対して追い目を感じている事を知っていて鎌をかけたとい
うと、それも考えがたい。
相手は三歳の少女なのだ。ヒアシとヒザシの確執など知る由もなく、例え分家の誰か
││この場合は両親の可能性が高い││が教えていたとしても、この場でこのタイミン
グで確認してくるものだろうか
で不審人物へと変化していった。
ありえない。それがヒアシの見解だ。だからこそヒアシの中で目の前の少女が一瞬
?
│
柔拳にて相手の経絡系にチャクラを流し込み、死なない程度に痛めつけようとして│
もはや問答不要。言葉を捨て力にて答えを聞きだそうとするヒアシ。
﹁⋮⋮答えぬか。ならば││﹂
﹁いや、驚かせてすみませんヒアシ﹂
を取り、両目の白眼を発動させた。
いずれにせよ日向に、ひいては木ノ葉に仇なす存在だろう。ヒアシは瞬時に臨戦体勢
日向アカネに化けている別人、もしくは日向アカネの精神を乗っ取った何者か。
﹁貴様何者だ﹂
153
これは⋮⋮
││その攻撃は、アカネを覆うチャクラの塊にて弾かれた。
﹂
││馬鹿な
!
?!
非なるものだった。
だが、アカネがたった今ヒアシの前で披露した防御法は回天であって回天でない似て
日向だからこその秘奥であった。
白眼により全身のチャクラ穴から放出されるチャクラを認識し制御する事が出来る
が白眼であろう。
それを全身で可能とさせるのが柔拳の極意である。そしてそれを可能としているの
や体の一部からの放出を術や技に利用するのが限界だ。
チャクラ穴から放出されるチャクラはコントロールが難しく、上忍と言えども手や足
これは日向でも柔拳を極めて高いレベルで習得した者しか体得出来ない奥義である。
して弾き返す。
そして更にそこから自身の体をコマの様に高速回転させる事であらゆる攻撃をいな
ラを多量に放出し、そのチャクラで攻撃を受け止めるというもの。
日向宗家に代々口伝にて伝えられる秘術・回天。それは全身のチャクラ穴からチャク
自身の攻撃を弾いた防御法。それにヒアシは見覚えがあった。
!
﹁なっ
NARUTO 第四話
154
155
回天とはチャクラを放出し、己の体を回転させて敵の攻撃を弾き返す技だが、先のヒ
ヨリはその身を一切回転させていなかったのだ。
それはかつてヒアシが先々代の当主であった木ノ葉の伝説の三忍、日向ヒヨリに見せ
られた回天を超える奥義・廻天。
己 の 身 で は な く 全 身 か ら 放 出 さ れ る チ ャ ク ラ そ の 物 を 高 速 回 転 さ せ る 秘 中 の 秘 で
あった。
この廻天の利点は自分が回転していないという点につきる。
回天であれば敵の攻撃をその場で弾くしか出来ないが、廻天であれば敵の攻撃を弾き
ながら移動したり、別の行動をする事が出来るのだ。
その自由度の差は非常に大きな違いを生み出す事になるだろう。だが、チャクラを全
身から放出し、かつ敵の攻撃を弾けるレベルで高速回転させるには非常に高度なチャク
ラ制御を要する。
なのでこの術を考案したヒヨリ以外には先代も現当主であるヒアシも体得する事が
出来なかった奥義なのだ。当然回天すら伝えられていない分家に至っては言うまでも
ない。
だが、その秘奥の術を僅か三歳の、しかも分家の者が披露してみせる。今のヒアシの
驚愕はいかほどか。
﹁お前は⋮⋮一体⋮⋮
﹂
﹁ふむ⋮⋮白眼で見ても分からないのか
にてアカネの肉体を見つめる。
﹂
まさか、いやそんな馬鹿な⋮⋮だが、確かに⋮⋮
!
そして、唐突に信じがたい事実に気付いた。
﹁こ、このチャクラの色
﹂
だとしたら少し面倒だな。等と呟くアカネに対し、ヒアシは驚愕に染まりつつも白眼
?
!
のは私の死の間際だから⋮⋮4年振りくらいか
﹂
﹁良かった。どうやら気付いてくれたようですね。久しぶりだねヒアシ。言葉を交わす
その全てがヒアシの中で繋がっていった。
ていない廻天。自身とヒザシの確執に、それを見抜く洞察力。
ヒアシの白眼に映る忘れようもない色のチャクラ。そしてヒヨリのみしか体得出来
!
﹂
!? ?
が。
もっとも、アカネはヒアシが理解してくれた事が嬉しくてただ笑っていただけなのだ
継げなくなっている。
齢四歳にしてただならぬ雰囲気を発しているアカネに気圧されてヒアシは二の句が
こうも多くの動かぬ証拠を見せ付けられたヒアシはその答え以外は出てこなかった。
﹁まさか⋮⋮ひ、ヒヨリ様⋮⋮なのですか⋮⋮
NARUTO 第四話
156
﹁良ければ貴方と長老⋮⋮ヒルマと話がしたいのです。あと、私の父と母も一緒に。内
密の話なので、場所は選んでください﹂
か⋮⋮
﹂
﹁⋮⋮ヒアシ様、私達に内密の話があるとの事でしたが、それはどの様な話なのでしょう
その妻ホノカに、二人の子であり渦中の人物であるアカネの5人である。
その場にいるのは当主である日向ヒアシと先代当主ヒルマ、そして分家の日向ソウと
周囲にはそれ以外の人は完全に払われていた。
日向宗家の屋敷、その奥にある一室。そこには数人の日向一族が集まっており、その
◆
ヒアシは未だ動揺を抑えられずにアカネに言われた通りに行動した。
ば仕方のない事だと言える。
分家の子どもが実は先々代当主でしたなどという奇想天外な事実を突きつけられれ
いようだ。
あまりの出来事にアカネに対してどう対応していいのかヒアシの中で定まっていな
﹁うむ、は、いや、いえ⋮⋮分かりました﹂
157
?
﹁もしや、アカネが何か粗相を⋮⋮
﹂
されては悪い出来事しか頭に浮かばない二人であった。
?
んじる一族なので当主の立場にあるヒアシが分家の者がいる場でその様な発言をした
自分の事を長老ではなく父と呼ぶヒアシに一瞬だが怒気を発するヒルマ。伝統を重
てきたわ﹂
一端しかワシも触れてはおらぬが、それでもお主よりはその力をヒヨリ様の傍で体験し
﹁む⋮⋮。当然だ。あの方は日向の長き歴史に置いても最強と謳われた御方。その力の
?
いで、余計に何があったのか想像だに出来ないでいた。
﹂
だが、その密会に日向の分家でも宗家との関わりも薄い者達を共に呼び出しているせ
知っているヒルマからすれば相応の何かがあるのだろうとは理解していた。
内密の話があるとだけで呼び出したのだ。ヒアシが無駄な事をしない性格であると
に呼び出されていた。
ヒアシの父であり先代当主のヒルマもまた何も知らされずにヒアシによってこの場
﹁ヒアシよ。ワシも何故呼び出されたのか理解できん。一体何があったというのだ
﹂
宗家と分家の身分差は大きく、その当主となれば尚更だ。そんな存在から急に呼び出
急にヒアシによって呼び出されたソウとホノカは戦々恐々としていた。
!?
﹁⋮⋮父上、ヒヨリ様のチャクラを覚えておいでですか
NARUTO 第四話
158
事に怒りを覚えたのだ。
だがヒルマはヒアシに向けようとした注意の言葉を抑えた。ヒアシは日向当主とし
て十二分の才覚を発揮してこれまでの責務をこなしてきた。ここに来てそれが崩れた
という事はそれ相応の事態が起きたという事だろう。
ならば注意をする時間すら惜しい。先々代当主についての質問の意図は理解出来な
かったが、ヒルマはそれが必要な事だろうと判断して知ってる限りを答えた。
常があったのだろうか
二人がそう不安に思い出した所で不意に物音が聞こえた。
それともチャクラ穴を見抜く事も出来ない未熟な白眼では見つける事が出来ない異
も異常はない、全く健康な愛しい娘だ。
その眼に映っているのはいつもと変わらない娘のチャクラだった。経絡系のどこに
ソウとホノカはアカネのチャクラを見つつ、一体何の意味があるのかと怪訝に思う。
ヒアシの言葉に疑問を覚えつつも、全員が白眼を発動してアカネのチャクラを見る。
﹁かしこまりました﹂
﹁は、はい﹂
﹁ぬぅ﹂
よ、お前達もだ﹂
﹁⋮⋮今すぐ白眼を発動し、日向アカネのチャクラを確認してください。ソウにホノカ
159
?
二人が物音の原因へと視線を向ける。そこには狼狽し体勢を崩して慄いているヒル
マの姿があった。
眼の焦点は凝視するようにアカネへと向いており、体は震え口は大きく開かれてい
る。
そんな長老の姿を見た事も想像した事もないソウとホノカに理解出来た事は、長老が
﹂
一体何があるというのですか
﹂
ここまで驚愕するほどの何かが娘にあるという事だった。
﹁ひ、ヒアシ様
アカネに何が⋮⋮
!?
!
!?
そしてヒアシは取り乱すソウとホノカを見てある事実に気付いた。
ない事だと自分を叱咤してアカネは気を取り直した。
ますます正体を明かす事に対して気が重くなってきたが、それでもやらなければなら
案じてくれているのだと⋮⋮。
それがどれほどの事かをアカネは心の底から理解する。それほどまでに、自分の身を
る。
誠実で生真面目な父が、温厚で礼儀正しい母が、日向当主に対して言を荒げて追求す
﹁娘に⋮⋮
!
そう、二人はヒヨリを白眼で見た事がなかったのだ。分家の者が宗家の当主を白眼で
﹁⋮⋮そうか。ソウとホノカはヒヨリ様を白眼にて見た事はなかったのだな﹂
NARUTO 第四話
160
見る機会などそうそうない。
しかも二人が産まれた時の日向の当主はヒルマであったためヒヨリと出会う機会は
より少なかったのだ。
しかも組手や戦場でもない限り白眼にて宗家の人間を見るなど不敬と言えるだろう。
だから二人はヒヨリのチャクラの色を知ってはいないのだ。
﹂
そして、ヒアシの言葉に困惑する二人に答えを教える様に⋮⋮いや、更なる困惑を呼
び出す様にヒルマはある言葉を口にした。
﹄
﹁おお⋮⋮これはまさしく⋮⋮ヒヨリ様のチャクラじゃ⋮⋮
﹃
﹂
﹁そ、それは一体どういう事なのですか
?
と同一なのかまでは理解出来ない。
ヒルマの言葉の意味を理解出来ても、どうしてアカネのチャクラがヒヨリのチャクラ
﹂
﹁アカネが、ヒヨリ様のチャクラを⋮⋮
?
謳われている日向ヒヨリと同一なのだ、と。
愛する我が子であるアカネのチャクラが、日向の先々代当主にして伝説の初代三忍と
出来ない程二人は愚かではなかった。
ヒヨリ様のチャクラ。この言葉が何に向けられた言葉なのか、これまでの流れで理解
!?
!
161
そしてその疑問の答えはヒルマも、そしてヒアシも持ち合わせてはいない。それに答
えられるのはアカネしかいなかった。
とうとう
その言葉は、この場のアカネを除く人間の人生に置いて最大の衝撃となって駆け抜け
﹁それは私が、日向ヒヨリの生まれ変わりだからです﹂
た。
誰もが声を発する事が叶わない中、アカネは滔々と説明した。
そして長きに渡る沈黙が降り立ち、その沈黙をゆっくりとヒアシが破った。
﹁⋮⋮父上、ヒヨリ様⋮⋮いえ、アカネ様は、ヒヨリ様のみの秘奥を使われました﹂
⋮⋮そうか。ならば最早疑う余地はない。この御方は粉う事なくヒヨリ様の生
﹂
﹁アカネは⋮⋮私達の子は、ヒヨリ様の⋮⋮﹂
!
りの証となった。
齢三歳の身で廻天を体得する。それはヒルマにとってアカネの言葉を肯定する何よ
せなかったが、ヒアシの言葉はヒルマに十分に伝わった。
分家の者がいる故、宗家のみの秘伝となる回天、そしてその発展系の廻天の名は明か
まれ変わりじゃ﹂
﹁ッ
!
﹁それでは、本当に
NARUTO 第四話
162
現当主と先代当主。日向に置いて絶対の権力者である二人の言葉を疑う術をソウと
ホノカは持っていない。
﹂
その信じがたい、信じたくない事実に、二人は俯き耐え忍ぶ事しか出来なかった。
﹁父上、母上⋮⋮今まで秘密にしてきて、申し訳ございません⋮⋮
アカネ様を呼び捨てにするとは││﹂
!
そして日向ヒヨリは宗家の当主を務め、木ノ葉を築いた伝説の三忍でもある。分家風
絶対の力を誇っていた日向の誉れ高き忍・日向ヒヨリその人だ。
あまりの出来事にまだ動揺は収まっていないが、既にヒルマの中ではアカネはかつて
﹁おぬしら⋮⋮
だがそんな二人に向かってヒルマは怒気を顕わにした。
アカネに対して何かを言おうとして、何を言えば良いのか分からないソウとホノカ。
﹁ああ⋮⋮﹂
﹁あ、アカネ⋮⋮﹂
らおかしくはないだろう。
苦労しながら子どもを育み、その成長を見守ってきた親として騙されたと考えても何
だ。
初めて出来た子どもが、実の子ではあれどその中身には前世の記憶が詰まっていたの
そんな二人に対してアカネは頭を下げて謝る事しか出来なかった。
!
163
情が対等な立場で物を言うなど許されるわけがない。
だがヒルマの怒気は、当のアカネによって止められる事となった。
事ではないのは分かっている。だが⋮⋮父上と母上を許してくれ﹂
﹁ヒルマ⋮⋮日向ヒヨリとしての立場を持ち出し、利用しようとしている私が言うべき
そう言って頭を下げてヒルマに頼み込むアカネ。尊敬し敬愛する存在からそのよう
﹂
に言われては逆に困惑するしかないヒルマだった。
﹁あ、頭を上げて下されヒヨリ様
ぬ。そしてこれからもじゃ﹂
﹁⋮⋮ 分 か り ま し た。ソ ウ と ホ ノ カ じ ゃ っ た な。先 の 言 に 対 し て お ぬ し 達 に 責 は 問 わ
け替えのない両親なんだ。⋮⋮頼むヒルマ﹂
﹁父上と母上は私を産み育ててくれたのだ。前世は関係ない、今の私にとって二人は掛
!
た。
その答えはすぐに出る事はなく、今はただ静かにこの場の流れを見守るしかなかっ
んでいた。
だがヒルマの言う〟これから〟という言葉に関してはどうすればいいのか二人は悩
ヒルマの許しの言葉に二人は頭を下げて感謝の意を示す。
﹃寛大なお心、ありがとうございます﹄
NARUTO 第四話
164
﹁ヒヨリ様、こうして私達に前世を明かされたその理由は⋮⋮﹂
﹁⋮⋮恐らく九尾復活の裏には何者かの手引きがあったはず﹂
微妙にずれている二人の会話だが、両者ともそれには気付いていないようだ。
いうのに⋮⋮﹂
力不足でした。もう少し早く生まれていれば、四代目の犠牲もなかったやもしれないと
﹁気付く事は出来ても、当時の私は一歳の幼児でしたからね。流石に九尾を抑えるには
﹁しかし、流石はヒヨリ様。九尾の復活を予見されていたとは﹂
ヒアシ、渾身の勘違いであった。
そう理解してヒアシはアカネへの尊敬を深めていった。
それを防ぐ為に、里を守る為に、転生の秘術によって再び日向にて生を受けたのだ。
黒幕の危険性もまた同等と言えるだろう。
九尾の復活は里にとって滅亡の危機となる程の大事であり、それを利用しようとする
察知していたのだ、と。
アカネは九尾の復活とその裏にいるだろう黒幕の存在を日向ヒヨリであった頃から
アカネの言葉を聞いて、ヒアシは全てを理解した。
﹁⋮⋮やはりそうでしたか﹂
﹁ああ、二年前の九尾復活が原因だな﹂
165
﹁⋮⋮はい。現場に居合わせたビワコ様がその犯人を目撃しています。といっても、全
身を布で覆っており、顔は仮面で隠していた為何者かは未だ不明ですが﹂
明かしたのは、私が自由に動けるように色々と手を貸してほしいからだ﹂
﹁そうか。⋮⋮もうヒアシは分かっているだろうが、私がこうしてヒヨリという前世を
アカネは日向の分家の生まれの為、宗家の命令には絶対服従を強いられる。
そして順当に育ってもアカデミーに入り、卒業すれば上忍率いる忍の一班の中に組み
込まれ、自由に動く事は出来なくなるだろう。
その上この先修行をするにも相手を探すのに苦労するという問題もあった。それら
を解決する為にこうして宗家に全てを明かしたのだ。
すかヒアシ﹂
﹁私の修行の場と相手、そして下忍として縛られない立場。これらを用意してもらえま
﹂
?
修行の相手を自ら買って出るヒアシの目を見て、アカネは少し楽しそうに笑った。
﹁ほう。⋮⋮ええ、問題ないですよ。ヒアシがどれだけ強くなっているか楽しみです﹂
﹁修行相手に関しては⋮⋮私では如何でしょうか
﹁ふむ、いいですね。それならばあなたの命令でいかようにでも動く事が出来ますし﹂
名目ならば里の上層部も疑わないでしょう﹂
﹁⋮⋮立場に関しては私専属の付き人としましょう。優秀故に幼い内から育てるという
NARUTO 第四話
166
︵弟への嫉妬と後ろめたさ。それらを振り切りたいというところか。うんうん、そうい
うのは嫌いじゃないぞ︶
ヒアシの感情を読み取っていたようだ。自分よりも優秀な弟に抱く僅かな嫉妬と、優
秀な弟を当主にしてやれなかった後ろめたさ。
それらを弟よりも強くなる事で振りきり、自分が当主として相応しいと証明しようと
しているのだろう。
そ し て そ れ が 自 分 だ け で な く 弟 を 思 っ て の 考 え で あ る 事 も ア カ ネ は 見 抜 い て い た。
名家の双子というのは中々厄介な様だ。
﹁もちろんでございます﹂
?
日向ヒヨリであるアカネに対して呪印を刻むという大それた事をする訳には、だが分
した。
誰もその事について忘れていたようだ。ヒアシもヒルマもこの問題に関して悩みだ
な声を出した。
本来アカネが呼ばれた目的を口にして、アカネ以外の全員が﹁あ⋮⋮﹂という間抜け
﹁後は⋮⋮私の呪印なんですけど、どうしましょうか
﹂
扱って下さいよ。もちろんヒヨリという名で呼ぶのは禁止です﹂
﹁さて、取り合えず大まかな事は決まりましたね。公の場では私の事は分家の娘として
167
家の者に呪印を刻まない訳には、等とどうすればいいのか分からず混乱している当主と
前当主。
そんな二人にアカネはちょっとした爆弾発言をした。
﹄
﹁まあ私に呪印は効果ないのですけど﹂
た。
結構無茶苦茶言ってるのだが、アカネは〟てへぺろ〟くらいの気持ちで説明してい
⋮⋮﹂
自 動 的 に 無 効 化 す る の で す。自 動 故 に 私 の 意 思 で も こ の 能 力 を 切 る 事 は 出 来 な く て
﹁いや、かつてそういった術を開発しまして。私に作用する陰遁や封印術に呪印の類は
混乱が収まらない二人にアカネは説明する。
﹃⋮⋮は
?
﹂
!
﹁別に刺青くらい構いませんよ。どうせその気になったらすぐに元に戻せますし﹂
﹁ヒヨリ様に刺青を彫るなどと
﹁それなんですよねぇ。いっその事、額に呪印と同じ刺青でも彫りましょうか﹂
い事をどう説明したものか⋮⋮﹂
﹁うむ⋮⋮しかし、それならば他の者達にヒヨリ様⋮⋮アカネ様に呪印が刻まれていな
﹁それは、その⋮⋮どうしようもないですな﹂
NARUTO 第四話
168
169
刺青とは針や刃物などで体を少し刻んで傷を作り、その傷に色素にて着色させること
で完成する。
傷の付け方で色々な見た目の刺青を作る事が出来るので、日向の呪印に似せた刺青を
彫る事も可能だろう。
そして元々は傷なので、アカネがその気になれば一瞬で治療して元通りに戻す事も出
来るのだ。
もっとも刺青は既に塞がった傷と言えるのでそのままでは治療のしようがなく、元の
額に戻すには一旦刺青を額の肉ごと削ぐ必要があるのだが。
ま あ 多 少 肉 体 を 失 っ た く ら い な ら ば 瞬 時 に 再 生 が 出 来 る の で 何 の 問 題 も な か っ た。
それが出来るのはヒヨリ含めて数人程度しか忍世界にはいないが。
◆
結局アカネの呪印に関しては刺青で誤魔化す事に決まった。
刺青に関しては後々用意をしてから彫る事になり、それ以外にも幾つか細かな話をし
て、この場は解散となった。
ヒアシとヒルマは解散後しばらく興奮し、二人して夜遅くまで酒を呑みつつ昔話に花
を咲かせていたりする。
そしてアカネとその両親であるソウとホノカ。家族三人は宗家の二人とは対照的に
静かに帰路についていた。
﹁⋮⋮﹂
﹁⋮⋮﹂
﹁⋮⋮﹂
三人ともに無言のままに家路につく。誰も何も言う事が出来ないでいた。
ソウとホノカは驚愕の事実によって大きなショックを受けており、そんな二人に対し
て何を言えばいいのかアカネには思いつかなかった。
何を言っても、被害者と言える二人に加害者と言える自分が声を掛けた所で御為ごか
しにしか聞こえないだろうからだ。
自分の想いは既に宗家の屋敷にて話している。後は二人がどう受け止めてくれるか
だ。最悪捨てられる事になろうとも、アカネは二人を恨むつもりはなかった。
﹂
そうしてゆっくりと無言で家路につく中、ソウがその重たい口を開いた。
⋮⋮はい﹂
!
?
ソウに柔拳の鍛錬を受けていた時も、ホノカに様々な教育をされていた時も、アカネ
﹁ッ
﹁今までの、多くが嘘だったんだな
NARUTO 第四話
170
の中では全て経験して来た事のおさらい程度だったのだ。
筋が良いとソウに褒められ嬉しそうにしていたのも、今では演技としか見られないだ
ろう。多くの思い出は転生という詐欺のような力によって穢されたのだ。
﹁あなた⋮⋮アカネは⋮⋮﹂
夫にそう言われては貞淑な妻としては何も言う事は出来ない。
﹁分かっている。お前は黙ってなさい﹂
﹂
ホノカは夫に全てを託して静かに夫と娘を見守った。
﹁なら、オレ達と過ごした全ても、嘘だったのか
その全てが演技だったのか
表では子どものフリをしてその裏ではうんざりして
それだけは、絶対に⋮⋮
﹂
それに対する答えはアカネには一つしかなかった。
﹁そんな事ない⋮⋮
?
だからソウの言葉はすぐに否定した。それを信じてくれる可能姓は低いが、だからと
嘘はなかった。
なったが、両親としての二人を愛しているし、共に暮らす日々に幸せを感じている事に
そう、そんな事はなかった。確かに迂闊に話せる内容ではない為に二人を騙す事に
!
いたのか
?
族として過ごしてきた四年間。
一緒に笑い、一緒に悲しみ、一緒に食事をして、一緒に風呂に入り、一緒に寝て、家
?
!
171
言って楽しかった日々を否定する事も出来なかったのだ。
﹁そうか⋮⋮﹂
そう返事をするだけで、またソウは無言となった。
またもしばらく重たい空気の中を無言にて家路につき、とうとう三人の家に帰りつい
た。
そして玄関を開けずに、しばらく無言だったソウはアカネへと向き直してから口を開
く。
な。それでも、その事に怒りが湧かないなんて言えば嘘になる﹂
﹁お 前 が ヒ ヨ リ 様 の 生 ま れ 変 わ り な の は ⋮⋮ 理 解 し た よ。そ れ を 言 え な か っ た 理 由 も
アカネも覚悟していたが、実際に聞けば心に突き刺さる言葉だった。
﹁⋮⋮﹂
だって思いたくない﹂
﹁父上⋮⋮﹂
!
﹂
間不信になっちまう⋮⋮
﹁父上⋮⋮
!
﹂
!
﹁思ってたまるか⋮⋮
お前の笑顔も、泣き顔も、全部が演技だって言うならオレは人
﹁だけど⋮⋮家族で過ごした三年間、あの充実した日々の全てが嘘だったなんて、オレ
NARUTO 第四話
172
文句あるかホノカ
﹂
﹁例 え 前 世 が な ん で あ ろ う と ア カ ネ は オ レ 達 の 子 ど も だ
るって気持ちに嘘はない
!
オ レ が ア カ ネ を 愛 し て い
!
それに対して、ホノカは優しく微笑んで答えた。
認する。
ソウは自分自身に言い聞かせるように叫び、ホノカにもこの結論に文句があるかを確
!
﹂
に愛されてもいいんですか⋮⋮
﹁当たり前だ
﹂
﹁二人に、本当の事を話さなかったのに⋮⋮
!?
いっぱい、叱って下さい⋮⋮
後で叱ってやるから覚悟しろ
﹂
!
﹂
!
!
!
﹁子どもの隠し事や悪戯なんていくらでもある
﹁はい⋮⋮
!
!
﹂
﹁いいんですか⋮⋮。これからも、父上と母上と呼んでも⋮⋮二人を愛しても⋮⋮二人
のだ。
それでも二人はアカネをヒヨリとしてではなく我が子として受け入れようとしている
葛 藤 は あ っ た だ ろ う。悩 み 苦 し ん だ だ ろ う。蟠 り が な い と 言 え ば 嘘 に な る だ ろ う。
それはソウに対してではなく、アカネに対して語りかけた言葉だった。
ですよ。前世があろうとも関係ありません﹂
﹁文句などあるわけがありません。アカネは私がお腹を痛めて産んだ、正真正銘私の子
173
は払拭し、三人は家へと戻っていった
だがそれでも、この家庭から笑顔が消え去ることはない。そう思える程に重たい空気
された事に変わりはないのだから。
以前のような親子関係に戻る事は不可能だろう。純真な子どもではないと思い知ら
﹁ふふふ。それじゃあアカネが叱られている内に食事の準備をしておきますね﹂
NARUTO 第四話
174
NARUTO 第五話
日向宗家の屋敷の中にある大きな道場にて、息を切らして床に倒れこむ者がいる。
厳しい稽古を積んでいる最中なのだろう。床には汗と思われる水滴があちこちに散
らばり、その中には赤い水滴も存在していた。
ぐぅ、も、もう一本、お願いします
﹂
倒れ込んでいる者││日向ヒアシ││は不規則な呼吸を出来るだけ素早く整え、立ち
はぁっ
日向の当主には相応の実力も求められるのだ。ただ宗家の嫡子に生まれただけで成
程しかいない。
ヒアシの実力は低くない。というよりも、木ノ葉の里でヒアシに勝る実力者は数える
見れば確実に自身の眼を疑うだろう。
で対峙し合い、そして大人であるヒアシが息を切らせ倒れる。これを何も知らない者が
大人と子ども。見た目でも、そして実際の年齢でもそれくらいの差がある二人が道場
ヒアシと対峙しているのは四歳の誕生日を迎えたばかりの少女、日向アカネである。
!
上がって目の前の相手と対峙する。
﹁はぁっ
!
﹁ええ、何度でもお受けします﹂
!
175
NARUTO 第五話
176
れるほど安い立場ではない。
ヒアシは日向の長い歴史の中での歴代の当主と比べても、上から数えた方が早い実力
者と言えた。
だが、それでもアカネを相手にすると力不足な感が否めなかった。だがこれに関して
もヒアシが悪い訳ではない。
日向流柔拳を学んで数十年、転生を繰り返して多くの武術を学ぶ事千年。そんな規格
外を相手に勝てという方が可笑しいのだ。
まさ
ヒアシの攻撃はアカネに掠る事もなく、逆にアカネの攻撃をヒアシは防ぎ切る事は出
来ない。
柔拳の技術では確かにアカネが勝っているが、ここまで一方的になるほどの差はな
い。ならば何故こうもヒアシはアカネに翻弄されているというのか。
その答えが、アカネを最強足らしめているアカネ最大の武器の一つ、読みである。
アカネ程戦闘経験を持つ人間はまずいないだろう。幾千幾万を超える闘争を乗り越
えたアカネの読みの深さはいつしか未来予知に匹敵する程に至ったのだ。
相手の動きを、その呼吸や表情、チャクラの流れ、感情の変化、筋肉の動き、足捌き
や体裁き、多くの材料から先読みして対応する事が出来るのだ。
アカネに勝つにはアカネ以上の技術を有するか、先読みしても避ける事の出来ない規
模の攻撃か、先読みすら覆す程の動きを要求されるのだ。そしてそのどれもヒアシは有
していなかった。
ヒアシが幾度となく道場の床に転がされ、とうとう立ち上がる事が出来なくなった時
点で本日の修行は終了した。
﹁気にしないでください。ヒアシには世話になっていますしね﹂
﹁⋮⋮ふ、不甲斐ない姿を晒し、申し訳ありませぬ⋮⋮﹂
だろう。
なのでヒヨリは自分のチャクラをヒアシへと分け与える。これで多少はマシになる
合った場合にだらしない姿を見せては日向の沽券に障るだろう。
だ が 日 向 当 主 が こ の 有 様 で は 他 の 者 に 示 し が つ か な い と い う 物 だ。不 意 な 来 訪 が
回復してすぐにこれではスタミナも尽きえよう。
ぶっ倒れるまでしていたのだ。
仕方あるまい。この組手の前にもチャクラコントロールやその技術を高める修行を
いるようだ。
ありがとうございました。そう言葉にする事も出来ないくらいにヒアシは疲労して
﹁⋮⋮﹂
﹁お疲れ様です。今日はこれくらいにしましょう﹂
177
そう、アカネはヒアシにかなり世話になっている。
こうして修行に付き合ってもらう事で戦闘の勘も取り戻す事が出来た。当主直々に
付き合ってもらっているのだ、この時点で本来ならあり得ないだろう。まあヒアシにも
利点がある事なのだが。
それにアカネがヒアシの付き人という立場を得られたのも大きい。これがなければ
今後の展開にかなり差し支えていただろう。
﹁ふぅ、もう結構ですアカネ様。ありがとうございます﹂
と呼ばなければいけないんですよ
﹂
﹁アカネと呼び捨てにしてもいいのに。むしろ立場上、私の方があなたの事をヒアシ様
そうである以上アカネの言う事は正しいのだが⋮⋮。
これが覆る事はない。
ヒアシは宗家で、アカネは分家。例え前世がどうであろうが今の立場はそうであり、
?
それほどアカネの前世であるヒヨリに敬意を示しているのだろう。
上位の者に対する振る舞いを取ってきた。
だが、頑としてヒアシは││ヒルマもだが││周囲に誰もいなければアカネに対して
舞わせていただきますが﹂
﹁誰もいない修行中ならば問題はないでしょう。もちろんそれ以外では宗家として振る
NARUTO 第五話
178
アカネはヒアシを見る事で最初と二度目の人生で当時のアカネに対して並外れた敬
意を払っていた一人の女性を思い出す。
﹁
何かあったのですか
﹂
?
ないほどの被害が出るのだ。山の一つや二つで済んだら御の字と言えるだろう。
千手柱間とうちはマダラが全力で闘った時など地図を大きく書き換えなければなら
葉の三忍の力なのである。
ヒアシもそこまでの力をアカネが持っているとは想像だにしていないが、それが木ノ
その後屋敷に甚大な被害が出るだろう。
全力でチャクラを練って開放などすれば、まず道場が崩壊し、そして結界が吹き飛び、
ろう。数秒間は、という条件が付くが。
これのおかげでアカネが全力でチャクラを練っても道場外の者には気付かれないだ
結界。それはこの道場内に張られているチャクラを外に漏らさない為の防壁である。
﹁ああ、いえ、何もありませんよ。そろそろ結界を解除しますか﹂
?
遥か過去を思い浮かべ、冗談になってないなとアカネは首を横に振った。
征服だろうと行動に移した事だろう。
あれは敬意というか、最早狂信の類に近かった気がしたのだ。恐らく命令すれば世界
︵⋮⋮いや、比べるとヒアシに悪いな、うん︶
179
もっとも、それを知っている者はこの世でも一握りしか残っていないが。大半がお伽
話の類と思われている嘘の様な本当の話であった。
結界を解除し、普段の立場である日向当主とその付き人へと戻る二人。
そんな二人の前に一人の少女⋮⋮いや、幼女が現れた。
どこか自信無さげに話掛けるこの少女の名は日向ヒナタ。ヒアシの娘であり、後の日
﹁ち、ちちうえ、アカネねえさま、おつかれさまです⋮⋮﹂
向当主となる予定の宗家の嫡子である。
一年近く前から父であるヒアシの付き人となったアカネとも当然交流があり、物心付
く頃から一緒にいたのでアカネの事を姉として慕っているようだ。
アカネとしても自分を慕ってくれる年下の少女を本当の妹のように愛おしく思って
いた。
を受けたからと言って才能の花が開く事はないのだが。
幼い頃からの英才教育が後の当主を作り出す事になる。⋮⋮全ての人間が英才教育
の年齢から色々と教育されるのだ。
ヒナタは現在二歳││もうすぐ三歳になるが││だ。日向の宗家ならばそれくらい
﹁ヒナタ様もお勉強をなされていたのですね。お疲れ様でした﹂
﹁うむ⋮⋮﹂
NARUTO 第五話
180
﹁あの、アカネねえさまは⋮⋮きょうはとまっていかれるのですか
﹂
?
﹂
﹁じゃ、じゃあ、きょうもいっしょにねてくださいますか
ないし、例え我が子に呪印を刻まれる分家の者の思いを理解したとしても、伝統にして
もちろんヒナタは宗家の人間ゆえに呪印を刻む事は特別な理由がない限りはあり得
と思えば、それはどれ程の葛藤と苦しみがあるのか、と。
だからこそ。子がいるからこそ理解出来る。我が子に呪印を刻まなければならない
それでも子が喜んでいるのを見て嬉しいと思うのは父として当たり前の感情だろう。
ヒナタは初めて出来た我が子だ。当主として厳格な態度で接さなければならないが、
楽しそうに話している二人を見て、ヒアシも僅かに表情を崩す。
﹂
﹁ええ、喜んで。今日はどの様なお話をいたしましょうか
?
﹁それじゃあ││﹂
?
二人の会話を聞いて、ヒナタはその顔に歳相応の笑顔を咲かせた。
﹁ありがとうございますヒアシ様。お言葉に甘えさせて頂きます﹂
﹁構わん。今日は疲れただろう。アカネよ、今日の所は屋敷にて逗留する事を許す﹂
ヒアシはそれに気付き、若干諦めた様に頷いた。
何処か期待を籠めた様なヒナタの瞳を見て、アカネはちらりとヒアシに視線を送る。
﹁それは⋮⋮﹂
181
NARUTO 第五話
182
日向を守る為に必要なこの儀を止めるつもりもない。
だが、双子の弟であるヒザシの息子に呪印を刻む日が近づいていると思うと、僅かに
感傷的になってしまったのだ。
もうすぐヒナタは三歳の誕生日を迎える。その目出度い日に、ヒザシの息子・日向ネ
ジは呪印を刻まれるだろう。宗家を守る為の道具という役目を与えられる為に。
その日を思い、ヒアシはある決意をした。
◆
この日、木ノ葉は記念すべき日を迎えていた。
忍五大国の一つ、雷の国にある雲隠れの里との間に同盟条約が結ばれる事になり、木
ノ葉では来訪した雲隠れの忍頭を歓迎する盛大なセレモニーを行っていたのだ。
長年木ノ葉と争っていた雲隠れと同盟という名の和解が出来たのだ。戦争が好きだ
という忍は少なく、平和を望む者達はその思いをセレモニーにて発露していた。
だが、下忍から上忍に至るまでほぼ全ての忍が参加したそのセレモニーに、唯一参加
していない一族があった。それが日向一族である。
当然セレモニーに参加しなかったのには訳がある。その日は日向の嫡子である日向
ヒナタの三歳の誕生日という記念すべき日だったのだ。
全ての日向一族はヒナタを祝う席に参加していた。そこで初めて日向ネジと日向ヒ
ナタは邂逅した。
ネジが見たヒナタの印象は、自分よりも小さく可愛らしい子であった。ネジはこの時
四歳であり、子どもらしい素直な感想と言えよう。
そしてその感想を隣に立つ父ヒザシにも素直に小さな声で呟いた。
そんな息子の声に、ヒザシは浮かない顔をするだけで何も答える事が出来なかった。
﹁かわいい子ですね父上﹂
﹁⋮⋮﹂
﹂
生まれた順番が違えば当主となっていたのはヒザシだった。二人の違いは生まれた
角の兄ヒアシ。その兄に全てを持っていかれたのだ。
日向ヒザシの根には宗家への憎しみの芽があった。双子として生まれ、実力もほぼ互
まれるなどネジは知りようもないのだ。
尊敬し愛する父の想いはネジには理解出来ない。これから宗家に絶対服従の証を刻
対してもヒザシは誤魔化すように何でもないと言う事しか出来なかった。
父親の様子が可笑しい事に気付き、ネジは心配したように話し掛ける。だが、それに
﹁⋮⋮どうしたのです父上
?
183
NARUTO 第五話
184
時間。それだけで、宗家と分家と言う超えられない壁を兄弟の間に築かれたのだ。
兄として接してきたヒアシと対等の口を聞く事はもうあり得ず、常に兄が上、弟は下
という身分を強制される。
ヒザシが双子の弟ではなく、普通に歳の離れた弟として生まれていれば諦めもついた
だろう。だが、僅かなのだ。本当に僅かな差で、ここまで大きな差が出来てしまったの
だ。
実力は互角と言われていたが、ヒザシは自分が兄より優れている自信があった。そし
てそれは真実だ。二人が百回闘えば、その内六割はヒザシが勝利しただろう。
だがその僅かな差は、数分あるかないかという産まれた時間の差という僅かな差に押
し潰されたのだ。
この境遇に立って、納得しない者は少なくないだろう。自分の方が当主に相応しいと
吠える者は多くいるだろう。
ヒザシもそれらの想いを抱いていた。だがそれを全て飲み込んだのだ。宗家が争っ
て日向に利する事など一つとしてない。それを理解しているヒザシは自分の想いより
も一族を重視したのだ。
だが、同じ想いを子どもにも背負わせるとなれば話は別だった。
父親の目から見てもネジの才能は別格だった。日向の天凛を授かって産まれたとす
185
ら言えるだろう、そう言える程の片鱗を齢四歳にしてネジは見せていた。
このままネジが育っていけば、自分を超えて日向の歴史上でも数える程の実力者に育
つだろう。それほどの確信がヒザシにはあった。
だがその才覚も分家の身として産まれた瞬間に、宗家に全て捧げる事が決定してし
まった。それがヒザシは悔しかった。
何故宗家
自分の事ならば想いを飲み込む事が出来た。だが我が子となれば親としての想いが
また出てくるのだ。それが親と言うものなのだろう。
?
そんな思いがヒザシの内
何故宗家よりも優れているネジが分家の身に甘んじなければならない
の為に命を捨てる覚悟を持たなければならない なぜ
心を回り巡る。
?
ば死すら厭わない様に教育されるのだ。
ナタを守り日向の血を絶やさない様に生きる事と決まっていた。ヒナタを守る為なら
そんな劣る宗家の為に、日向の天凛たる我が子は生きねばならない。ネジの定めはヒ
解出来るほどに二人の差は大きかった。それだけネジが優秀と言う事でもある。
ヒザシがヒナタを見た事は数回しかないが、その数回でネジとヒナタの才能の差を理
お世辞にも宗家の嫡子たるヒナタに才能があるとは言えなかった。
いや、宗家がネジよりも優れているならばこんな想いも抱かなかっただろう。だが、
?
それをどうして許せる
どうして納得出来る
何故自分が当主ではない 当
?
?
ネジを残して無駄死にをする訳にもいかず、ヒザシは全てを諦観するしかなかった。
⋮⋮死だ。
宗家に逆らう事は出来ず、逆らった所で呪印にて罰せられるのみ。そしてその罰は
た。
宗家への恨みと、どうしようもないという諦め。二つの相反する感情は、諦めが勝っ
﹁⋮⋮いや、何でもない⋮⋮﹂
の恨みをより引き出していた。先程ネジの言葉に反応出来なかったのはその為だろう。
そしてこれからネジに忌まわしい呪印が刻まれる。その事実がヒザシの中の宗家へ
く、産まれた順番ただそれだけで当主を決めた宗家を。
ヒザシは兄であるヒアシを恨んではいない。だが、宗家は恨んでいた。実力ではな
装えても、宗家に服従を誓っていても、決して消し切る事の出来ない想い。
これらの考えはヒザシの中では小さな、しかし確かに残るしこりの様な物だ。平静を
主であればネジにその様な生き方を強要する事はなかった。
?
だが、そこでヒザシに思いもよらない出来事が起こった。
﹁え
あ、はい
?
﹂
﹁ヒザシよ。ネジを預かる前にお前に用がある。着いて来い﹂
NARUTO 第五話
186
!
このままネジの呪印を刻む儀式を行うのだと思っていたヒザシに取って、その言葉は
予想外だった。
一体どの様な用があるというのか。疑問に思うも宗家の命令に従うしかないヒザシ
は無言で進むヒアシの後を着いていく。
そして到着したのは宗家の屋敷にある道場だった。ヒアシに着いて中に入ると、そこ
には一人の少女の姿があった。
ヒザシにも覚えがある少女だ。齢三歳にしてヒアシの付き人になるという日向の歴
史でも異例の抜擢を受けた少女、日向アカネだ。
先程はネジに日向の天凛があると思っていたし、それは真実だとヒザシは言える。だ
が、こと才能という点に置いてはアカネの方が上ではという考えはかつてからあった。
生半可な才能で兄が分家の人間を傍に置くとは思っていないのだ。
アカネは二人が道場内に入室してすぐに立ち上がり、一礼をしてから道場の端へと寄
る。
何故ここにアカネがいるのか、一体兄はどうして自分をここへ連れてきたのか、疑問
ばかり募るが、ヒザシに出来る事はヒアシの言葉を待つだけだった。
そして、ヒアシは驚愕の言葉を放った。
﹁ヒザシよ。今から私と決闘を行ってもらう﹂
187
﹁なっ
決闘
私と、ヒアシ様が
!?
﹂
!?
﹂
?
﹂
﹁うむ⋮⋮ヒザシよ。お前が勝てば日向当主の座はお前に譲る﹂
﹁ほ、褒美⋮⋮ですか
﹁安心しろ。例え私に勝っても罰はない。いや、それどころか褒美すらやろう﹂
だが、ヒアシはヒザシが更に驚愕する言葉を放ってきた。
いるはずだ。
例え決闘を行ったとしてもヒザシが本気で闘える訳もなく、それはヒアシも理解して
ど許されるわけがない。
だが決闘となれば話は別だ。分家の人間が宗家の、しかも当主に対して決闘をするな
た二人だ。
修行ならまだ分かる。かつては同じ宗家の一員として、兄弟としてよく共に鍛錬をし
!?
!?
﹂
﹁それとも、別の褒美が良いか
﹁っ
!!
ネジに呪印を刻まないというのはどうだ
?
﹂
?
ない。恐らく日向の歴史上でもありえないだろう。
勝負に勝てば当主の座を譲る。そんなとんでもない当主交代の理由など聞いた事は
それはヒザシにとって、いや日向の人間にとって爆弾級の発言だった。
﹁なっ
NARUTO 第五話
188
ヒザシはここに来てようやくこれがヒアシの挑発なのだと理解した。
全力で掛かって来い。それでも私は負けはしない。そうヒアシは言外に言っている
のだ。
﹁後ろの者はこの決闘の見届け人だ﹂
それらの思いがヒザシを全力で勝負に挑ませた。
教えてやる。
勝って、その天狗となった鼻を叩き折ってやる。当主の座はオレに相応しかったのだと
何の為にそんな事をするのか。そんな事はヒザシにはどうでも良かった。ヒアシに
る為の方便なのだろうと思っている。
宗家は宗家、分家は分家だ。それが覆ることはない。先の言葉は自分に本気を出させ
いた。
ヒザシはこの勝負に勝ったとしてもヒアシが約束を守る事はないだろうとは思って
ていた。
ヒザシの思いが白眼となって現れる。勝ってやる。そんな思いがヒザシの中に溢れ
﹁⋮⋮分かりました。全力でお相手いたします﹂
﹁二言はない。お前が勝てばどちらでも好きな褒美を選ぶといい﹂
﹁⋮⋮本気、なのですね﹂
189
﹁日向アカネと申します。此度の決闘の見届け人を承りました。よろしくお願いいたし
ます﹂
堂の入った挨拶に、ヒザシから放たれる圧力にも動じない態度だ。それだけでやはり
只者ではないと伺えた。
だが次の瞬間にはヒザシの中からアカネの存在は消えてなくなった。目の前にいる
のは敬愛する兄にして憎むべき宗家の当主。
そんな存在を相手に勝つにはその全てを持って集中して戦いに臨まなければならな
いのだから。
﹁それでは、両者前へ﹂
アカネの言葉に従い二人が一定の距離まで近づく。すでにヒアシも白眼を発動して
いる。両者とも臨戦体勢は完全の様だ。
﹂
﹂
そして⋮⋮決闘の合図が降りた。
﹁始め
◆
!
﹁それまで
!
NARUTO 第五話
190
勝負は決した。地に立つ者と地に倒れる者。一目見て明確な差が勝負の結果を表し
ていた。
勝ったのは⋮⋮日向ヒアシだった。
ヒザシの心に去来するのは運命には抗いようがないという諦めだった。
﹁ふ、ふふ⋮⋮わ、たしの、負けですね⋮⋮何をしても、宗家には勝てないのか⋮⋮﹂
努力をして修行に励んできた。それでも⋮⋮負けたのだ。
それでも負けた。自らの身分が分家の座に落ちてからも、いや落ちたからこそ一層の
なかった。気負って勝負を急いては勝つ事の出来ない実力者だと理解していたからだ。
油断はなかった。全身全霊で勝ちにいった。勝つという気概はあれど、気負ってはい
ろ、自分の方が若干だが強かったはずだ、と。
だからこそ解せない。自分と兄の実力差はここまでではなかったはずだ、と。むし
に、ぐうの音も出ない完敗だった。
いや、完敗だった。何故負けたと説明するならば完全に地力の差と言う他ないほど
そんな痛みの中、ヒザシは思う。この決闘になぜ負けたのか、と。
み呻く。
数十の点穴を突かれ、チャクラを練る事も出来なくなったヒザシは全身の痛みに苦し
﹁う、ぐ、ぅぅ⋮⋮﹂
191
そんなヒザシの諦めの言葉に対して、ヒアシはそれを否定した。
﹁違うぞヒザシ。お前は宗家に負けたのではない。兄である私に負けたのだ﹂
﹂
そしてヒザシに対して見せた事もない様な笑みを浮かべてこう言った。
るし、チャクラを練る事も出来るだろう。
ヒアシはヒザシに近づき点穴によるチャクラ封じを解除する。これで多少は楽にな
少なくてもヒザシはそう思っていた。いや、ヒアシも少し前までは同じ思いだった。
どうあれ兄弟としての関係は終わったものだったのだ。
ヒアシは当主として、ヒザシは分家として振舞わなければならない為、二人の本心は
宗家と分家に別れてから今まで、ヒアシと兄弟として接してきた事はなかった。
ヒアシが何を言っているのか、ヒザシには理解出来なかった。
﹁⋮⋮え
?
﹁お前が当主になれなかったのは弟だからではない、私の方が強かったからだ﹂
呆気に取られているヒザシにヒアシは更に言葉を続ける。
だが、今のヒアシの表情は実に晴れ晴れとしており、そして何よりも楽しそうだった。
んな風に自慢げに話す事はない人だった。
それはヒザシが聞いた事もないヒアシの言葉だった。強気な態度を示していても、こ
﹁どうだ。私の勝ちだぞヒザシ﹂
NARUTO 第五話
192
﹁それは⋮⋮
﹂
な兄らしいな、と思えたのだ。
ら余計にヒアシが真に自分の事を想ってくれているのだと理解が出来たのだ。不器用
上からの立場による言葉にも思えるだろう。あまりにも不器用な言葉だろう。だか
に感じたのだ。
なかったのだ。だから、生まれを呪わず、前を向いて歩いてくれ。そう、言っている様
弟だから当主になれなかったのではない。私の方が強かったからお前は当主になれ
やりなのだと感じ取った。
その、一歩間違えれば嫌味としか受け取れない言葉を、何故かヒザシはヒアシの思い
!
﹁これは当主としてではない。お前の⋮⋮兄としての言葉だ。これくらい素直に受け取
﹁ヒアシ様が謝られる事は⋮⋮﹂
﹁すまぬな﹂
アシがその運命に対して僅かなりとも想うものがあると知れて、ヒザシは満足だった。
それは日向の分家として生まれた者には逃れられぬ運命。だが、それでも当主たるヒ
﹁⋮⋮はい、承知しております﹂
を守り、他里に白眼を渡す事を防ぎ里を守る為にも必要な事だ﹂
﹁ヒザシ。辛いかもしれんが、ネジに呪印は通例通りに刻む。これは日向という家と血
193
れ﹂
﹁っ
﹂
て接しろと。
?
﹂
?
﹂
﹁いや⋮⋮偽者なのかなって﹂
﹁なぜ白眼を開く
もしや偽者なのではと白眼を発動してそのチャクラや経絡系を調べた程だった。
一体何があったらあの厳格で強気で頑固な兄がこんなになるのだろうか。ヒザシは
は、構わんだろう。そう思わないかヒザシ﹂
﹁⋮⋮たった二人の兄弟だ。しきたりや伝統は守るべき物だが⋮⋮誰もいない時くらい
﹁⋮⋮いいんですか、兄さん
﹂
ヒアシの言葉の意味をヒザシは理解した。今は宗家と分家ではなく、一介の兄弟とし
!?
!
と思える程僅かにだが││して、それ以上は何も言ってこなかった。
だが、ヒアシは少し顔を顰めるもすぐに表情を柔らかく││ヒザシがギリギリそうだ
る。
ヒザシは少しばかり不機嫌になった兄を見てこれはまずいと感じてすかさず謝罪す
﹁はは⋮⋮すまない兄さん、つい⋮⋮﹂
﹁お前⋮⋮
NARUTO 第五話
194
そんな兄を見て、やはりどこか変わったのだろうとヒザシは思う。娘であるヒナタが
生まれ育っていった過程で何かあったのかと推測するが、しかしすぐにどうでもいいか
と思いなおした。
過程はともかく、今という結果は悪くはない。こうして再び兄弟として接する事が出
来る様になれるとは思ってもいなかった。
そう思うと、何処か清々しい物がヒザシの中に通って行った気がした。これまで募っ
た宗家への恨みやしこりが吹き飛んで行くような、何かが。
そうしてヒアシだけでなくヒザシも晴れ晴れとした表情になって、そこでふとヒザシ
は気付いた。
兄は誰もいない時くらいは兄弟に戻ってもいいだろうと言っていたが、この道場には
ヒアシとヒザシ以外にもう一人日向の人間がいる事に。
その当の本人であるアカネは兄弟二人を見て、うんうんと頷いていた。ようやく兄弟
﹂
が多少は元の関係に戻れた事を喜んでいる様である。
﹁兄さん、彼女は⋮⋮
ああ、アカネならば問題はない。この事を口外する様な奴ではない﹂
?
を見せるなんて思えなかったのだ。
ヒアシのアカネに対する信頼にヒザシは驚く。兄が子どもに対してここまでの信頼
﹁む
?
195
その疑問はヒアシにも、そして当然アカネにも察せられていた。ヒザシの疑問に気付
いたアカネはヒアシへと目配りをする。
それでアカネが何を言いたいのか理解したヒアシは、アカネに本当によろしいのです
かと確認の為にしばらくアカネを見つけたが、アカネはそれに対して首を縦に振った。
﹂
﹁ヒザシよ。実は私は先程の決闘でずるをしていてな﹂
﹁ずる⋮⋮ですか
かもしれない。
わざと答えを言わずに溜めを作るヒアシ。意外とエンターテイナーの気質もあるの
﹁うむ。実はな⋮⋮﹂
ザシは負けたのだ。そこにずるやイカサマなどが絡む要素はなかった様に思えた。
先程の決闘は純粋に力と力、技と技のぶつかりあいであり、そして順当な力負けでヒ
ずると言われてもヒザシには何の事だか分からなかった。
?
がったわ﹂
?
生きていればの話だが。
日向ヒヨリに稽古をつけられた。なるほど強くなるのも納得だ。⋮⋮日向ヒヨリが
﹁なるほどヒヨリ様に稽古を。道理で強くなって⋮⋮⋮なって⋮⋮⋮は
﹂
﹁実は、ここ一年ほど日向ヒヨリ様に稽古をつけられていてな。おかげで数段実力が上
NARUTO 第五話
196
﹁兄さん何を⋮⋮
まさか、当主としての激務や責任による心労が兄さんを祟って
﹂ ﹂
!
﹂
?
るを得ない物証の数々を見せ付けられては納得するしかあるまい。
事の顛末の全てを説明されたヒザシは納得しがたい超常現象を納得した。納得せざ
あった。
そして白眼にて捉えたアカネのチャクラは、まさに日向ヒヨリのチャクラそのもので
頃にヒヨリに見せてもらった秘奥技とまさに瓜二つだった。
チャクラは高速で回転しており、その勢いはあらゆる攻撃を弾くだろう。かつて幼い
いるアカネの姿があった。
声に釣られて横を向くと、そこには日向ヒヨリのみに許された秘術・廻天を使用して
﹁⋮⋮え
﹁どうも、私が日向ヒヨリです﹂
⋮⋮﹂
﹁だけど流石にそれは信じられない。せめてヒヨリ様本人を連れてきてくれない事には
無稽な事をヒアシは言ったのだから。
だが事情を知らない人間ならばヒザシの言葉に頷く者が殆どだろう。それほど荒唐
?
!?
﹁その言葉かなり不敬だと理解してるかお前
197
そして最後にヒアシが決闘終了後に晴れやかな笑顔を見せて実に嬉しそうに勝利を
宣言していた理由も知る事が出来た。
かったからな。久方ぶりの勝利に浮かれてしまったのだ。許せヒザシ﹂
﹁⋮⋮この一年間。ヒヨリ様、もといアカネ様との勝負で一度たりとも勝つ事が出来な
しれっとそんな風に言うヒアシ。ヒザシとしては別に怒ってはいないが、このヒアシ
︶
がたった一つの勝利に浮かれるという事実の方が恐ろしかった。
︵一体どれほど負け続ければあの兄さんがこうなるんだ
けて仕方ないで済ませられる程ヒアシも歳を取ってないという事だ。
相手が伝説の忍と理解していても、中身は少女ではないと言えど、だからと言って負
するというものだ。
それはもう大の大人が少女に負けて負けて負けて、負け続ければ勝ちに貪欲になりも
?
変わりはないが、窮屈ながらも分家なりの自由があり、宗家にも宗家なりの窮屈さがあ
少しは前向きに物事を考えられる様になった証拠だろう。分家が宗家に尽くす事に
うが、以前ほどではなかった。
ネジの元に戻るという事はネジに呪印を刻むという事だ。ヒザシはそれを悲しく思
﹁それは⋮⋮そうですね﹂
﹁さて、そろそろ戻るとしよう。いい加減ネジが待ちくたびれている事だろう﹂
NARUTO 第五話
198
るのだ、と。
こうして兄弟としてヒアシと向かえ合えてヒザシはそれに気付けた。ならば、兄が立
派に宗家としての務めを果たしているならば、自分も分家としての務めを果たすだけ
だ。
﹂
それがヒザシが開き直った結果辿り着いた境地である。
まあ、叶えられる程度なら聞こう﹂
﹁ところで兄さん、お願いがあるんだけど﹂
﹁む
ヒアシにとってそれは実に複雑な頼みだった。
﹁オレもアカネ様と一緒に修行をしてもいいんだよね
?
そろ私も修行の段階を上げたいので﹂
﹁私は一向に構わん。というか、二人掛かりで相手をしてくれると嬉しいですね。そろ
と、結局はそう言うしかないわけだ。 ﹁まあ、構わん。もちろんアカネ様の了承を得られたならの話だが﹂
小さい人間と思われるだろう。
兄として常に弟より上にありたいという複雑な感情なのだ。かと言って断ると懐の
のではという若干情けない思いもほんの僅かにだがあった。
以前の様に共に修行に励める事は素直に嬉しく思う。だが今の優位性を縮められる
?
199
アカネとしても願ったり叶ったりな提案だ。ヒアシは十分な実力者だが、一人が相手
では出来ない修行もある。それに二対一くらいならばハンデとしてはまだ足りないく
らいだ。
まあ、そう匂わせるような言動に、ヒアシとヒザシが反応しないわけがなかったが。
﹁ほほう。我ら二人を同時に相手にすると﹂
れずに済んだようだ。
後日、二人が道場の床にへばりついていた姿があったが、結界のおかげで誰にも見ら
そうに笑っていた。
二人から放たれるプレッシャーにニコニコと笑顔で応えるアカネ。それはもう嬉し
﹁いくらヒヨリ様とはいえ、怪我くらいは覚悟していただきますよ﹂
NARUTO 第五話
200
頭に攫われ掛けたが、すぐに助け出されたのだ。
正確にはこの事件、誘拐ではなく誘拐未遂で終わっている。日向ヒナタは雲隠れの忍
の事だったのだろう。
たからである。木ノ葉と同盟を結んだのも初めから日向ヒナタを、日向の白眼を狙って
それは雲隠れの里の忍頭が、日向宗家の嫡子である日向ヒナタを誘拐しようとしてい
には実は一悶着あったのだ。
もっとも、里の忍の多くは知り得ない情報だが、実際には雲隠れの里との同盟条約後
続き、そして今後もそうであってほしいと願っている者が殆どだろう。
中には物心ついた頃から戦争を経験して来た忍もいるのだ。こうして平和な日々が
いないが。
戦争を経験してきた忍たちはそれを謳歌していた。もちろん日々の修行は欠かして
日々を送っていた。
雲隠れの里との同盟条約が結ばれてから、木ノ葉の里は戦争とは久しく無縁の平和な
時は流れる。
NARUTO 第六話
201
NARUTO 第六話
202
その時ヒナタを救ったのが日向アカネである。というか、アカネは雲隠れの忍頭が日
かどうかはアカネ自身も分からないが、少なくとも並
向一族の土地に忍び込んだ瞬間からその気配を察知していたのだ。
アカネの感知能力は世界一
けん
だが同盟条約を締結したばかりの雲隠れの忍となれば話は別だ。下手な事をすれば
倒してお終いだ。
これで侵入者が木ノ葉の裏切り者とかだったら悲しいが話は簡単だった。さっさと
一躍有名になった。当然アカネも容姿くらいは知っていた。
雲隠れを歓迎するセレモニーに参加していなかったが、それでも彼の顔は木ノ葉では
る。
さて、ここでアカネは少々困っていた。確認した侵入者が雲隠れの忍頭だったのであ
それをアカネは白眼にて確認する。
ア カ ネ は す ぐ に 宗 家 の 屋 敷 へ と 駆 け つ け た。侵 入 者 は 未 だ 屋 敷 の 中 に い る よ う だ。
侵入していった。完全に黒だろう。
一応は気配を追ってしばらく見に回っていたアカネだが、気配は日向宗家の屋敷へと
しれない。真夜中だったが。
日向の敷地内で気配を消して移動する。まあ忍であれば修行中だったと言えるかも
ぶ者は少ないという自負はあった。これくらいの気配探知など朝飯前だった。
!
203
話が拗れて同盟が崩壊しかねない危険性を孕んでいた。
侵入して来たのは相手側だが、それで話が終わりなら苦労はしない。特に雲隠れの長
である雷影は激情家で有名だ。無茶苦茶な理論で戦争を吹っかけて来ても可笑しくな
い程にだ。
かと言って放置は言語道断だ。何せこの侵入者はアカネの愛する妹分であるヒナタ
を担いで攫おうとしているからである。
死なない程度に痛めつける。忍頭の運命はこの瞬間に決定していた。
さて、ぼこぼこにされて全身の点穴を死なない程度に突かれて数多の関節を外されて
自 殺 も 出 来 な い 様 に 徹 底 的 に 捕 縛 さ れ た 忍 頭。彼 を 巡 っ て 雲 隠 れ と は い ざ こ ざ が 起
こった。
木ノ葉側は里に忍び込むだけでなく里の人間を攫うとはどう言う了見だ、と雲隠れを
責め立て、雲隠れ側はそいつが勝手にした事だから里は関与していないと突っぱねた。
これで忍頭が死んでいればそれを理由に木ノ葉を脅し、再び戦争を仕掛けると匂わせ
てから落とし所として忍頭を殺した日向の下手人を寄越せと言うつもりだった雲隠れ
だが、流石に死んでいないのならばそこまでは言えないでいた。
というか、死んでいたとしても侵入して人攫いをしようとした時点でどう考えても悪
いのは雲隠れである。それでそんな事を言えるのなら面の皮が厚いというレベルでは
ないだろう。
結局この事件は雲隠れの落ち度として話はついた。雲隠れ自体は里の関与を認めな
かったが、それでも犯人が雲隠れの忍頭である事に変わりはない。
しかし木ノ葉としても人的被害がなかっただけに雲隠れへの要求もさして重い物に
はしなかった。下手に拗れて再び戦争が起こるのは避けたかったのだ。
なので雲隠れがそれなりの賠償金を払う事で今回の事件は手打ちとなった。多少は
木ノ葉と雲隠れの間にしこりは残るだろうが、戦争にまでは発展しないだろう。
そうして細かな事件が有りつつも、木ノ葉は概ね平穏だった。そう、まるで嵐の前の
静けさの様に。
◆
木ノ葉の里の入り口にある〝あ〟と〝ん〟の文字を掛かれた巨大な門の前に三人の
男女がいた。
一人は日向ヒナタ。成長し大きくなった彼女は幼い頃と同じ様に自信無さげに、そし
﹁アカネ姉さん、本当に行くんですか⋮⋮﹂
NARUTO 第六話
204
て寂しそうにアカネに尋ねる。
この自信のなさに関してはアカネもそれなりに修正しようと努力していたが、まあ殆
ど意味がなかった。ここまで来れば生まれついた資質と言えよう。
そうしてアカネが十分な体力を得たと実感したのが今の年齢なのだ。ちなみにヒア
あった。
にどうやるんだそれというツッコミが入るツッコミを自分自身にしているアカネで
どうして体力も持ち越せるように能力を組んでいなかったんだ最初の私、などと実際
上でまだ修行を積み重ねている。だが体力だけは新しく身に付けるしかないのだ。
理由としては体力不足を補う為だった。技術に関しては前世へととっくに至り、その
は一人で任務も受けずに只管に修行していた。
アカネは普通の忍と違って三人一組を組んではいない。アカデミーを卒業してから
スリーマンセル
それからは中忍試験は受けず、下忍のまま過ごしていた。
日向アカネは現在十三歳となっていた。既にアカデミーは卒業し下忍になっている。
だがそれを振り切ってでもやらなければならない事がアカネにはあるのだ。
る様な瞳に精神にダメージを食らっているようだ。
二人目は日向アカネ。妹分であり守るべき宗家の一員でもあるヒナタのその懇願す
﹁ええ。それがヒアシ様から与えられた私の任務ですから﹂
205
シなどはもう十分なのでは、と数年前からアカネにぼやいていた。
無駄に長く生きている分目標も無駄に高くなっていたアカネであった。
として頑張らなくてはならないのですよ。そろそろ姉離れをするべきですよ﹂
﹁ヒナタ様ももう十二歳。アカデミーも来年には卒業なされます。これからは立派な忍
実際に妹離れが出来ていないアカネの台詞ではなかった。もしヒナタが本気の本気
で甘えて行かないでと言えば、しょうがないですねぇなどとベタベタに甘えさせて一日
か二日は留まっていただろう。
それをさせない為にか、この場にはもう一人ある人物がいた。それが三人目にしてこ
の場で唯一の男、日向ネジである。
﹂
!
あるというものだとはりきっていた。
なりおどおどとして情けないと口には出さずとも思っているが、だからこそ守り甲斐が
そしてネジはその役目に充足感を感じている。守るべき姫は頼りなく才能もなくか
く、そしてネジの父親が日向当主であるヒアシの弟だという事が評価されての役目だ。
日向ネジは宗家の嫡子である日向ヒナタのお守り役である。年齢も近く、実力も高
恥ずかしくない姿を見せる為にもアカネにかまけてばかりではいけません
ナタ様は多くの任務をこなして中忍を目指さなければなりません。宗家の嫡子として
﹁アカネの言う通りですヒナタ様。アカデミーの卒業は問題ないでしょうが、この先ヒ
NARUTO 第六話
206
﹁ネジ兄さん⋮⋮今何か言った
﹂
﹂
そ れ よ り も、オ レ の 言 っ て い る 事 を ち ゃ ん と 聞 い て い る ん で す か ?
まったく、これもアカネがヒナタ様を甘やかしすぎるからだぞ
?
?
これでも我慢してる方なんだからな
﹂
!
!
!
﹁ネジこそしっかりとヒナタ様を守るんですよ 全く何でヒナタ様の守役なのにヒナ
求めた。誰も応えてはくれなかったが。
もう駄目だこいつ。早く何とかしないと。ネジはヒアシとヒザシに心の中で助けを
かしたいんだ
﹁何を言うネジ 私はヒナタ様を甘やかして甘やかして、これでもかと言うほど甘や
!
﹁い や 何 も
207
!
﹂
タ様の傍を離れて下忍として働いているんだか﹂
馬鹿かお前は
!
﹁なんでこの馬鹿がオレよりも強いんだ⋮⋮
け続ける事が悔しくて堪らなかった。
﹂
幼い頃から神童や天才と言われ自信があったネジとしては同年代の、しかも女性に負
ネジは何度かアカネと手合わせをした事があるが一度たりとも勝った試しはなかった。
ネジの心の底からの思いが声となって響き渡る。ネジとアカネが出会ってから数年、
!
ついているなど有りえない。
全くである。戦時でもないというのに流石に宗家の嫡子と言えども護衛が恒常的に
﹁木ノ葉の下忍だからだよ
!
その悔しさをバネに必死に修行をして、宗家にしか伝わっていない回天や柔拳法八卦
六十四掌という奥義を独力で身に付けるに至っていた。
それを知った時のネジの父ヒザシはそれは驚愕していたものだ。ネジのその努力が
アカネに負けたくないという理由なのを知って複雑な表情をしていたが。
無理だと悟らせるべきか、この悔しさによる成長を見守るべきか悩んだのだ。最終的
に後者を選んだが、ネジがどう足掻こうと勝ち目がないと知っているヒザシとしては複
雑だった。
﹂
﹁はっはっは。私に勝とうなど千年は早いなネジ君﹂
﹁おのれ⋮⋮
言っているとは思うまい。
ア カ ネ の 言 葉 を 挑 発 と 受 け 取 る ネ ジ。ま あ 誰 だ っ て 本 当 の 意 味 で 千 年 早 い な ど と
!
﹂
!
る。
しばしの別れを悲しみアカネへと抱きつくヒナタ。それをアカネは優しく受け止め
﹁アカネ姉さん⋮⋮
たらきっと日向の才能を開花なされます﹂
るんですよ。ヒナタ様はお優しいから最後の一歩を踏み込めませんが、そこを乗り越え
﹁さて、名残惜しいですがそろそろ出発するよ。ヒナタ様お元気で。しっかりと修行す
NARUTO 第六話
208
﹁憧れている人がいるのでしょう だったら、その人の事を想えばヒナタ様ならきっ
な、ナルト君は、そ、その⋮⋮﹂
と出来ます﹂
﹁ええ
?
父親も母親もいないという事と、大人から好意的に見られない事が多い事。これらが
気付いてしまう。ナルトもそうだった。
幼い子どもは意外と敏感で、そういった大人の感情の機微に晒され続けるといつしか
姿がちらほらと目撃されていた。
だがやはりどこか遠目から蔑んだり恐れるような目付きでナルトを見ている大人の
の事件では幸い九尾は里に被害を与えていない為、目に見える迫害は受けてはいない。
そのせいか一部の忍からはあまりいい目では見られていない節があった。九尾復活
軍事力になるので木ノ葉の忍で中忍以上ならば大抵が知っているが。
とも一般的には隠された情報である。といっても九尾の人柱力に関しては里の重要な
九尾の人柱力な上に四代目の子どもという極めて扱いの難しい存在であり、その両方
ヒアシから九尾事件と四代目火影の残した子どもについては詳しく聞いているのだ。
アカネもナルトと直接の面識はないがどういう人物なのかはある程度は知っている。
になっていた。ナルトに懸想しているのは明白である。
先程までの悲しみに暮れた顔とは一転、ヒナタの顔は誰が見ても分かるくらい真っ赤
!?
209
NARUTO 第六話
210
重なりいつしかナルトは悪戯をする事で自分を見てもらおうと表現するようになって
いた。
アカネもこの辺りの大人の感情については色々と思うところがあったが、流石にそれ
を変える事は難しかった。
こういう事は他人ではなく本人がどうにかして変えなければ上手く行かないものな
のだ。他人が横から止めたとしても大人達の内心は簡単には変えられない。一時抑え
るのが限界だろう。
まあ表だって迫害されてないだけ人柱力としては悪くはない扱いと言えた。それに
ナルトも一人ではない。
忙しいが後見人としてナルトに﹁じいちゃん﹂呼ばわりされている三代目火影に、そ
の妻のビワコは忙しい夫に代わってナルトの面倒を良く見てあげていた。本当の孫の
様に扱っているのでナルトもかなり懐いていた。
大人がナルトに余所余所しくしている為に、その子どももナルトに対して馴染まずに
仲間外れにする事もあったが、全ての大人がナルトに対してそう言う態度ではないし、
子どももまた同様だ。
ナルトにも友達と呼べる者はそれなりにおり、一緒に遊んだり悪戯をしたりと年齢通
りのヤンチャ振りを見せている。
さて、そんなナルトだが九尾が体内にいる故にその強大なチャクラが影響して上手く
チャクラを練る事が出来ず、そのせいでアカデミーでは落ちこぼれ呼ばれをされてい
る。
それでもめげる事なく火影になるという夢の為に毎日必死に努力をしており、その落
ちこぼれでも諦めずに努力を続ける姿を見続けて、ヒナタはいつしかナルトに惹かれ憧
れていったとのだと、いつの頃かアカネは本人に聞いていた。
実に微笑ましい事だ。感動的だ。だが恨めしい。それがヒナタから惚気られたアカ
ネの感想だった。順調に姉馬鹿の道を進んでいるようだ。おかげで常識の道からは更
に外れてしまったが。
さて、そんな愛しのヒナタからネジへと視線を向ける。
んだからな﹂
﹁⋮⋮せいぜい無事に帰って来い。オレがお前に勝つまでお前に死なれたらオレが困る
それでもこうしてしばらく会えなくなると寂しく思うくらいの感情は見せていた。
負け続けて悔しいので表に出す事はないが。
そ っ け な く 答 え る が ネ ジ も ア カ ネ が 嫌 い な 訳 で は な い。む し ろ 尊 敬 す ら し て い た。
﹁ふん、言われるまでもない﹂
﹁ネジも元気で。ヒナタ様を頼みましたよ﹂
211
﹁ふふ。ええ、あなたが満足するまで相手をしてあげますよ﹂
聞きようによっては微妙に怪しい台詞である。だがこの場にいるのはまだ少年と少
女。その言葉を変な捕らえ方をする事はなかった。良い事だ。一人だけ中身が怪しい
が、まあ気にしない方が良いだろう。
無事に帰ってきて下さい﹂
﹁では、任務もありますので私はこれにて﹂
﹁いってらっしゃいアカネ姉さん
!
九尾を狙う事が出来ない状況にあったのか。
諦めたのかと考える事はアカネはなかった。諦めたのではなく、力を蓄えているか、
なかった。
あれから既に十三年という年月が経つが、木ノ葉ではナルトを狙う存在は現れる事は
尾復活の裏にいる存在について調べる為だった。
さて、アカネが木ノ葉の里から出立した理由、言うなれば任務の内容だが、それは九
◆
二人から見送られ、アカネは木ノ葉の里から出立した。
﹁さっさと行け。お前が長期任務している間にオレはもっと強くなってやる﹂
NARUTO 第六話
212
とにかく理由は分からないがいずれ何らかの方法でナルトから九尾を奪い取る算段
だろうとアカネは考えている。
アカネも十分な戦闘力を身に付けたと自負しており、例え九尾を狙う存在がどれ程強
大だろうと最悪逃げ延びて情報を持ち帰る事くらい出来ると踏んでいた。
今のアカネを倒すなら千手柱間とうちはマダラが協力して殺しに掛かる必要がある。
それくらいの戦闘力を既に取り戻していた。
⋮⋮いや、これには語弊があるかもしれない。取り戻したというのは正確ではなく、
アカネはヒヨリ時代より強くなっているのだ。
ヒヨリ時代ではしなかったいくつかの忍術の修行や術の開発。これにより闘いの引
き出しを増やしたアカネはヒヨリの時よりも強かった。
今なら柱間とマダラの二人掛かりでも勝てるのではとアカネが考えるほどにだ。
今ではこの力を振るえる相手を欲しがっているくらいだ。九尾を狙う存在に若干期
待している不謹慎なアカネであった。
﹂
!
旅を続ける事数日。アカネは久しぶりに里の外を満喫していた。今は中々いい味の
﹁あいよ
﹁おじさん、蕎麦もう一杯追加で﹂
213
蕎麦屋を見つけたので満足いくまで食べている所だ。本当はざる蕎麦の方が好みだが
つゆ蕎麦も悪くはない。
先日は美味しい団子を、その前は鍋料理が評判の宿に泊まり、その前はジューシーな
ステーキをたらふく食べていた。
幸い予算はそれなりに多く持っていた。任務に必要だろうと貯めていた貯金と、ヒア
シから頂いた必要経費がたんまりとだ。
﹁ふぅ。ご馳走様でした﹂
いてやるぜ
﹁ありあした いい食べっぷりだったなお嬢さん 気分がいいから少しだけまけと
﹂
!
﹂
そうだ。聞きたい事があるんですけど、この辺りで食事が
美味しい宿ってありませんか
﹁ありがとうございます
?
!
!
!
見渡して怪しい場所がないか調べているのだ。
こうして適当に食べ歩きしている様に見えるかもしれないが、定期的に白眼で周囲を
だがもちろんアカネが任務を忘れた事など一秒たりともない。ないったらない。
⋮⋮任務を忘れているのではないかと疑える程満喫しているようだ。
││﹂
﹁あーっと、それならこの先の大通りの角を右手に曲がって、そこから少し歩いた場所に
NARUTO 第六話
214
白眼はこういった探索には非常に有効な能力なのだ。透視眼は伊達ではない。決し
て覗き魔には渡してはならない能力だ。
﹁⋮⋮覗き魔がいた﹂
まさかの覗き魔発見であった。アカネが先程教えてもらった旅館には温泉があり、昼
間からも良く旅館客が利用している有名な温泉らしい。
その温泉の女湯をめっちゃ覗いている人物を白眼にて発見してしまったアカネ。
さて、こうして覗き魔を発見したならばどうするか。それは無視するか、法的機関に
連絡するか、直接叩きのめすか、まあ色々あるだろう。
だがアカネはそれらをする前に、まず頭を抱えていた。それは何故か
それは、覗き魔が知り合いだったからだ。
﹁じ、自来也ぁ⋮⋮﹂
手・自来也の三人であった。
それこそが初代三忍と同じ三忍の名を受け継ぐ木ノ葉の誇る二代目三忍、大蛇丸・綱
││な忍と激戦を繰り広げ、その半蔵本人から認められた程の実力者。
という二つ名を持つ忍世界でも高名││忍にとって名が売れる事は実力の高さを指す
かつて第二次忍界大戦にて多大な活躍をし、雨隠れの里の長であり〝山椒魚の半蔵〟
自来也。それは木ノ葉の里では、いや他里に置いても非常に有名な人物であった。
?
215
NARUTO 第六話
216
その木ノ葉の今を生きる伝説の忍が、女湯を覗きその顔をだらしなく歪めて悦に浸っ
ているのだ。情けなくて頭も痛くなるというものだ。
もういっそ初代三忍として三忍の称号を引っぺがしてやろうかと考えるほどだった。
だがまあ自来也が以前と差して変わってはいない様なのでそこは少し安心したアカ
ネだった。
二代目三忍とはヒヨリ時代に彼らが三忍と謳われる以前から面識があった。
彼らは三代目火影の弟子だったのだ。それも全員が優秀だったのでヒヨリとしても
先が楽しみであった三人だった。
だが、今の木ノ葉に三忍の影はなかった。
大蛇丸は禁術に手を出し、その上人体実験を繰り返す様になった為に今ではビンゴ
ブック││犯罪者の手配書││にて最高ランクのS級犯罪者の烙印を押されており、当
然木ノ葉からも抜け忍となって逃げ出している。
綱手は抜け忍にこそなっていないが度重なる戦争で大切な人を亡くしてしまい、その
せいで血液恐怖症となり里から離れ放浪し続けている。
そして自来也。彼は里を抜けた大蛇丸の調査をする為と、個人的な事情により世界各
地を巡っていた。言うなれば彼だけは木ノ葉の忍として今も立派に活動していると言
えよう。
⋮⋮アカネの目には女湯を覗いてだらしなく笑う姿しか映っていないが、立派なので
ある。
さてさて。まさかの覗き魔がかつての知り合いだった事は驚きだが、だからこそ余計
に覗きを許せないというものだ。
アカネは気配を完全に消し、念のため遥か昔の人生で作っていた能力を発動する。
その能力とは、チャクラを他人に察知出来ない様にするというものだ。例え全力で
チャクラを練ってもそれを感知する事も視認する事も出来ない優れ物だ。白眼であっ
ても見抜けないだろう。
完全に気配を消しきったアカネはそっと自来也の裏へと回る。当の自来也は今も﹁え
えのぅええのぅ﹂等と女湯に入っている女性にばれない程度の小声で女湯の神秘につい
て感想を述べていた。
﹂
アカネは心の中で﹁南無⋮⋮﹂とだけ呟き、軽くチャクラを足に籠めて⋮⋮自来也の
股間を蹴り上げた。
﹁ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッッ
◆
自来也の声にならない叫びが周囲に、世界に響き渡った。
!!?
217
﹁よっこらせっと﹂
アカネはあまりの痛みに悶絶し最終的に気絶してしまった自来也を担いで街から離
﹁うう⋮⋮﹂
れた川原へとやって来た。
﹂
﹂
ワシの大切な息子
そこで自来也を大地に下ろし、気付けの為に水をぶっかける。覗き魔に掛ける情けは
な、なんじゃこれはぁ
ないのである。
﹁ぶはぁっ
﹁目が覚めましたかこの覗き魔め﹂
くぅぅ
なんて事をしてくれたんじゃ
お前は誰⋮⋮ぐおおぉぉ、ま、まだ玉がぁっ
!
!?
をあの世に旅立たせようとしたのはお前かのぉ
﹁むお
!
!
!
詰め寄る。
!
﹁覗いていた奴が悪いんですよ﹂
﹁何 を 言 う か あ れ は 覗 き で は な く 取 材 じ ゃ
!
その為に必要な事なのだ
!
﹂
女 体 を 直 に 目 に す る 事 で イ ン ス ピ
れてはいないかを確かめつつ、自来也は男に対して恐ろしい事を仕出かしたアカネへと
自来也が気絶して既に結構な時間が経過しているが未だにあそこは痛むようだ。潰
!?
?
レーションを湧き立てより良い作品を作る
!
NARUTO 第六話
218
要約すれば自分の為に必要だから覗いた。だから何も悪くはない、である。悪くない
わけがなかった。
?
ろう者が情けない⋮⋮﹂
ワシの事を知っておるのか
?
おなご
全く最近の若い奴は礼儀を知らんの⋮⋮﹂
!
自来也様と
!
扱われ、上げて落とされる様に感じた様だ。そのせいかぶちぶちと小言を言うように文
自分を知っているという女性に久方振りに出会えて内心喜んでいた所をぞんざいに
言わんか自来也様と
﹁なんじゃとぉ 女子じゃからと思っとったら大層な口を聞きおって
!
はぁ、と思い切り溜め息を吐くアカネ。その言動を聞いて自来也は憤慨する。
なたを見て誇りに思う里の人がどれだけいるのやら⋮⋮﹂
﹁ええ、知っていますよ。木ノ葉の誇る二代目三忍の一人自来也でしょう。まあ今のあ
議に思ったわけだ。
なので名前を名乗る前から自分の事を三忍と知っていた歳若いアカネに対して不思
方ない事だ。
れ渡ってはいない。自来也が大蛇丸を追って木ノ葉を出たのがかなり昔の事だから仕
木ノ葉の三忍として名は売れている自来也だが、容姿に関しては若い忍にはあまり知
﹁お
﹂
﹁何だその無茶苦茶な理屈は。あなたがどう言おうが覗きは覗きです。全く三忍ともあ
219
句を言っている。
アカネとしても一応は目上の立場にあるので様という敬称を付けようとは思ってい
たが、まああの情けない顔を見せられてはその気も失せるというものだ。
﹁尊敬されたかったら尊敬出来る様に見せなさい⋮⋮あんな出会いをしてどうして敬う
事が出来ますか﹂
﹁ふん、口は達者だのぉ。まあいい。ワシは女性には優しいフェミニストよ。今回ばか
りは許してやる﹂
などと言っているが、その実本当に自来也は怒ってはいない。見た目や言動で誤解さ
れる事もあるが、自来也の性根は善性だ。女子供相手に本気になる様な人間ではなかっ
た。
それはアカネも知っているかつての自来也と同じであった。歳を取っているが言動
は差して変わらず、そして内面も以前と同じである事に安堵する。
それはつまり信用の置ける木ノ葉の忍であるという事だ。そこでアカネは自来也に
サインならくれてや
?
協力してもらおうと考えた。
﹂
﹁うん 言い直した所はまあ褒めてやる。それで、どうした
らんでもないぞ
?
?
﹁ところで自来也⋮⋮様﹂
NARUTO 第六話
220
ワシが手がけているのはこれよ
﹂
﹁いえサインはいりません。というか、作品とか言ってましたが何を作ってるんですか
良くぞ聞いた
!
﹂
﹁おお
!
?
アカネは最後まで聞く事にした。
恋 に 愛
そして自来也が懐から出したのは一冊の本、小説だった。
﹂
!!
かって叫んだ。
﹁ご大層な事を言っても中身は所詮エロ本じゃないですか
﹂
出会いに別れ
そ う し て 読 み 進 め て い く 内 に 段 々 と ア カ ネ の 手 が 震 え て き た。そ し て 自 来 也 に 向
れてペラペラと中を読んでいく。
タイトルからして恋愛物だろうが、どんな小説なのかと気になり、自来也から手渡さ
!
﹁イチャイチャ⋮⋮パラダイス
﹂
﹁うむ これはワシの実体験を元に描かれた小説よ
﹂
人と人の複雑な恋愛模様を描いた渾身の一作よ
﹂
﹁へぇ⋮⋮読ませてもらってもいいですか
﹁うむ
!
?
あの自来也が物書きをするようになるとはアカネも意外だった。
?
!
!
!
!
話が妙な方向にずれているが自来也があまりに嬉しそうなので止めるのも何だなと
!
221
エロ本を所詮と言い張るアカネ。彼女の根源である始まりの人生では大層お世話に
なったというのにこの扱いである。
それを所詮
これだから女子はいかん。男にとってエロ本とは己を導き賢者へと至ら
おなご
もうアカネに男であった頃の残滓は残っていないのかもしれない⋮⋮。
エロ本がなければどれほどの男が欲に狂った事か
せる悟りの書よ
﹂
とは片腹痛いわ
﹂
!
!
全く⋮⋮﹂
﹁って、そうじゃありません 私はあなたとエロ本の話をしたいわけじゃないんです
自来也の気迫に圧されてしまうアカネ。それほどまでに自来也の説得力は高かった。
﹁うっ⋮⋮
!
﹁かぁーッ
!
!
!
来也だけだろう。
﹁
﹂
ですが﹂
﹁ええ。自来也様は大蛇丸を追っているのでしょう その情報を教えてもらいたいの
?
まさに二代目三忍の名に偽りなし。恐るべきは自来也よ。
﹂
かつての日向ヒヨリにここまでエロ本エロ本と連呼させたのは忍多しと言えども自
!
﹁そう言えば何か言っとったのォ。ワシに何か用でもあるのか
NARUTO 第六話
222
!?
?
223
そう、自来也は確かに大蛇丸を追っている。自来也のかつての同期であり、同胞であ
り、同じ三忍であり、ライバルであり、そして友でもあった大蛇丸。
そんな大蛇丸が大罪を犯して木ノ葉から去っていった。抜け忍となった大蛇丸が何
をしようとしているか、その一部だが自来也には分かっていた。
木ノ葉への復讐である。自分を認めず四代目火影に選ばず、禁術の実験をしていた所
を見つかり逃亡せざるを得なくなった。そんな大蛇丸が木ノ葉をいつまでも放ってお
くとは思えなかったのだ。
だからこそ同じ三忍であった自来也が大蛇丸の調査に乗り出したのだ。
それはいい。本当の事だし、木ノ葉でも知っている者はいる。歳若いアカネが知って
いるのも担当上忍に教えてもらったという事も有り得るだろう。
だが、何故それを知りたがるのかが疑問だった。大蛇丸は非常に危険な存在だ。それ
は強さ以上にその性質が問題だった。
老若男女は大蛇丸の前に等しく意味がない。大蛇丸は他人の事を己の役に立つか立
たないか、邪魔をするかしないかくらいにしか考えていない。
役に立つならば徹底的にコマにして使い潰し、邪魔をするならば何であろうと排除す
る。その際邪魔者が有用な実験材料になるなら血の一滴まで研究し尽くすだろう。
そんな狂人について知ったところで良い事などない。下手に近づけば良くて死、悪く
て一生実験動物だ。
﹁⋮⋮どうして大蛇丸について知りたがる
﹂
﹁十三年前の九尾復活について知っていますね
﹁うむ﹂
﹂
悼んだ事か。九尾復活は忘れるわけがない事件である。
忍の世を変革するとまで思っていた弟子の一人が亡くなった事を自来也がどれだけ
いう間に死んでしまったのだ。
それほどまで付き合い長く信頼置ける弟子が火影となって喜んだのも束の間、あっと
なった程だ。
関係だけでなく私生活にまで及び、生まれてくる子どもの名前も自来也が名付け親に
四代目火影波風ミナトは自来也の自慢の弟子であった。その付き合いは師と弟子の
あの事件は自来也にとっても痛々しく忘れがたい事件だった。
?
?
疑問はあるが、どうして大蛇丸について知りたいかは分かった。
とは言え自身に話すのか。
何故この少女がそんな重要な任務を負っているのか。何故そんな重要な任務を三忍
﹁大蛇丸という事か。なるほどの﹂
﹁あの事件の裏にいる犯人を追っているのですが、その容疑者の一人が││﹂
NARUTO 第六話
224
だがそれに対する自来也の答えはこうだった。
?
﹂
さいな。師を労わるのも弟子の役目ですよ
﹁⋮⋮お前、本当に何者だ
?
昔の知り合いのような、いや、それどころか目の前の少女が齢五十の自分よりも年上
思っていた。
アカネと会話していると自来也は何故か昔を思い出してくる様な気になり不思議に
?
﹂
﹁今からでも五代目火影になりませんか 三代目もいい歳ですし、隠居させてあげな
を覚えていたが。
当の自来也はまるで自分の事を昔からの知り合いの如くに話してくるアカネに疑問
知っている。だが自来也ならば火影に相応しい器であるともまた知っていた。
自 来 也 は 自 由 奔 放 な 性 格 故 に 火 影 と し て 里 に 縛 ら れ る の を 好 ま な い の は ア カ ネ も
あの言葉が自来也の優しさから来る物だとアカネは理解していたのだ。
﹁本当に。あなたが四代目になっても良かったと私は思っていたんですけどね﹂
だがそれを言われた本人は静かに微笑んでいた。
それは任務を帯びた忍にとって侮辱とも取れる言葉だ。
ないんでのぉ。あたら若い命を捨てる事もなかろうて﹂
﹁断る。悪い事は言わん。お前は里に帰れ。大蛇丸はお前なんぞの手に負える奴じゃあ
225
のような気さえしてくるのだ。
﹁ふふふ、そうですね。あなたにならまあいいでしょう﹂
何が言いのだろうか。自来也がそれを聞き返す前にアカネは立て続けに言葉を吐く。
﹁私の名前は日向アカネです﹂
さあ、試してみなさい
﹂
だが聞いた事はない名前だ。やはりさっきの感覚は気のせいかと自来也が思いなお
﹁⋮⋮日向一族か﹂
したところで、アカネがチャクラを練り始めた。
﹂
!
﹁ぬう
﹁力があれば大蛇丸について聞いても問題はないでしょう
有無を言わさぬアカネの圧力が自来也を襲う。
︶
それに自来也は無意識に反応して攻撃を選択していた。
││火遁・炎弾
あまりのプレッシャーについ
!
!
術だが、それでも人間一人を殺すには十分な威力だ。
自来也の口から炎の塊が吐き出される。自来也の使う火遁の術の中では弱い部類の
意がなかったのも原因だろう。急なプレッシャーに咄嗟に動いてしまったのだ。
アカネが放ったプレッシャーにより防衛本能が刺激されたのだ。アカネに今まで敵
!
?
!?
︵しまったァ
NARUTO 第六話
226
﹂
その、人間を殺すにたる威力の炎弾は、身じろぎ一つしていないアカネの目の前で消
し飛んだ。
﹁な、なんじゃとぉッ
チャクラのみで
何という奴だ
︶
!
!
さいてん
﹁ついでだ。お前の実力がどれ程上がっているかも試してやろう﹂
はくはつどうじがまつか
﹂
!
!
北に南に西東 斉天敵わぬ三忍の白髪童子蝦蟇使い
!
この自来也様を試そうたぁ百年早いわぁッ
舐めるなよ小娘
泣く子も黙る色男
﹁ぬぅ
!
!?
自来也は大仰なポーズを取り見栄を切る。それが勝負開始の合図となった。
!
!
︵チャクラの放出で炎を消し飛ばしたのか 日向の回天ではなく、部分的に放出した
ば忍としてどの程度の実力と評せばいいのだろうか。
失格だろう。防ぐならば状況によるが一流とも二流とも取れる。だが、かき消すとなれ
避けるなら忍として合格だ。当たれば忍としては落第点だ。耐えられずに死ねば忍
!?
227
﹂
NARUTO 第七話
﹁ふっ
﹂
﹁ぐふぉおぉっ
!
﹂
アカネは鋭い針の山に何ら躊躇する事なく拳を叩きこんだ。普通ならその拳は無数
!?
﹂
だが、その選択がすでに間違いだった。
初手を針地蔵にて防ぎ、次に距離を取る。それが自来也の選択だった。
一般的な対応法だ。
ない。中距離から遠距離を保ち忍術などの遠距離攻撃にて仕留める。それが日向への
ならば初めから接近戦は捨てるまでだった。触れられさえしなければ柔拳は発動し
不可能な柔拳だ。触れられたが最後、自来也と言えどダメージは免れられない。
日向の体術は触れるだけで対象の経絡系を攻撃し内臓に直接ダメージを与える防御
い針に変化させ、それで全身を覆う事でアカネに触れられるのを防ぐ。
懐へと接近しようとするアカネに対して自来也は忍法・針地蔵にて自分の髪の毛を鋭
﹁ちぃっ
!
!
﹁はぁっ
NARUTO 第七話
228
の針によってズタズタになっているだろう。
︶
だが針山に叩きこんだ拳には傷一つ付いていなかった。そればかりか針地蔵にて防
こりゃあ綱手と同じ攻撃か
御していた自来也が吹き飛んでいく始末だ。
︵な、なんちゅう馬鹿力
!
怖を思い出す。
若干のダメージを受けて勢いのままに吹き飛ばされながら、自来也はかつての死の恐
︵こうして吹き飛んでいると綱手に全力で殴られた時の事を思い出すわい⋮⋮︶
だった。
ア カ ネ の 拳 が 傷 一 つ 付 い て い な い の も チ ャ ク ラ を 集 中 し て 防 御 力 を 高 め て い た 為
ともに今の一撃を受けていれば、それだけで勝負は決していただろう。
その綱手と遜色ないレベルの攻撃をアカネは放っていたのだ。もし針地蔵がなくま
は広範囲に渡って砕け散るだろう。
綱手がその気になれば指一本で大地を割る事も出来るほどだ。拳を叩き込めば大地
を跳ね上げる技術がある。それを綱手は得意としていた。
そのチャクラコントロールを応用し、攻撃する箇所にチャクラを集中する事で攻撃力
クラコントロールを必要とする。
三忍の綱手は医療忍術のスペシャリストだ。そして医療忍術には非常に高度なチャ
!
229
若かりし頃に女湯の綱手の覗きをした事がばれて綱手から全力で殴られ、両腕と肋骨
六本の骨折及び内臓破裂という重傷を負い死の境をさまよった時の事を。
もしこれで死んでいれば三忍として最も最低な死に方をした忍として別の意味で伝
説になっていただろう。生きていて良かったものである。
﹂
優に100mは吹き飛んだか。ようやく地面に降り立った自来也はある疑問をアカ
﹁それにしても⋮⋮﹂
ネにぶつけた。
日向が剛拳なんぞ使うんでないわ
!
放ってくるアカネに自来也も驚愕だった。
言うなれば日向の誇りの一つと言えるのが柔拳だ。だというのに思いっきり剛拳を
性も非常に良く、日向の長き歴史に渡って練り続けられた技術と言えよう。
だがその珍しい武術を基本戦術として取り入れているのが日向なのだ。白眼との相
しいのだ。
の攻撃方法が肉体による直接攻撃では基本だろう。内部破壊を主とする柔拳の方が珍
剛拳とは肉体を用いて直接攻撃にて対象の外部を破壊する攻撃。一般的にはこちら
﹁お前本当に日向か
!?
しょう。そもそも、日向が剛拳を使って何が悪い
﹂
﹁失礼な。柔拳も剛拳も等しく敵を倒す為の技術。状況によって使い分ける事も必要で
NARUTO 第七話
230
!
﹁お前に日向の誇りはないんかのぉッ
﹂
﹂
!?
ここからが本番よ も
﹂
﹁ええい まあこうして距離を取れたから良しとしよう
﹂
全力で相手をしてやろう
おなご
どこの世界に人間を100mも殴り飛ばすか弱い女子がおるっ
﹂
!
!
﹂
煙管を咥え、腹にはサラシを巻き、法被を着て、そしてこの言動。まさにヤクザその
せる気かワリャ
﹁なんじゃい自来也ァ 久しぶりにわしを呼んだと思うたらこないなガキを相手にさ
﹁ブン太まで知っとるとはのォ⋮⋮﹂
﹁⋮⋮ガマブン太か﹂
というだけの事はあるだろう。口寄せされたガマの大きさは50mほどもあった。
そして自来也が口寄せしたのは、巨大なガマ蛙であった。流石は自分の事を蝦蟇使い
ける事で術式が発動するのだ。もちろん必要な印と相応のチャクラを必要とするが。
これは口寄せの術を使用するのに必要な行為である。血を地面や巻物などに擦り付
自来也は極当たり前の正論を吐きながら指を僅かに噛み切った。
﹁やかましい
﹁わたし、かよわい、おんなのこだよ
はやお前を女子供とは思わん
!
?
!
!
絶対ない。そう確信した自来也であった。
﹁⋮⋮⋮⋮もちろんありますよ
?
!
!
!
!?
231
ものと言えるこの赤い巨大ガマこそ、自来也が契約しているガマでも最強最大のガマ
蛙、ガマブン太である。
扱い辛い性格をしており、ガマブン太を口寄せ出来るのは現状自来也以外にはいな
い。それくらい気位が高いのだ。気に入った人間でないとその頭の上には乗せようと
はしない。
だがその力は確かである。巨体故の破壊力、水遁系の術、ガマ特有の生物としての力
﹂
!
﹂
見かけで判断すると痛い目を見るぞ
あいつ何処かで見た事ありゃせんか
?
!
などを有しており、全力で闘えば地形が変わるほどだ。
⋮⋮ん
?
﹁気を抜くなよブン太
!?
れる特殊な力を使用する事が出来る。
ブン太は妙木山と呼ばれる秘境に住むガマであり、この秘境にすむガマは仙術と呼ば
いうべきか。
確かにブン太とアカネは面識があった。正確にはブン太とヒヨリに面識があったと
えがあるのだ。
見た目も多少はある。だがそれ以上にアカネのチャクラをかつて何処かで感じた覚
既視感を覚えた。
自来也の言葉にアカネを注意深く確認したブン太。そこでブン太はアカネに対して
﹁ああん
NARUTO 第七話
232
仙術とは自然エネルギーを利用した術の事だ。自然エネルギーを取り込む事で感知
能力が高まるのである。
今 は ま だ 仙 術 チ ャ ク ラ │ │ 本 来 の チ ャ ク ラ に 自 然 エ ネ ル ギ ー を 加 え た も の │ │ を
練っていないが、それでも自然エネルギーを感じ取れるブン太は感知能力もそれなりに
高い。
そんなブン太がアカネのチャクラに反応している。つまりはかつて感じた事のある
ヒヨリと同質のチャクラに反応しているという事だ。
まだアカネがヒヨリである事に気付いていないが、いずれ気付く可能性もあった。
﹂
﹂
まあアカネは自来也には自分の正体を教えるつもりなので何の問題もなかったが。
﹂
﹁ふふふ、ブン太が相手なら私も口寄せをしましょう
﹁なに
どがいな相手じゃろうがわしの敵じゃあないわ
!
り込む。
﹁な、なんというチャクラ⋮⋮
あやつは人柱力か何かか
﹂
﹁チャクラに尾獣の気配はないわい ありゃああのガキだけのチャクラじゃあ
﹂
あ
!!
!?
ない馬鹿でかいチャクラ練りこんで何呼ぼうっちゃうんじゃあ
!?
!
!
アカネも自来也と同じ様に指に傷を作り、そして印を組んで⋮⋮莫大なチャクラを練
﹁はん
! !?
!
233
自来也とブン太が驚愕するほど莫大なチャクラを練り上げて口寄せされる物。それ
は一体何なのか。
﹂
大地に手を置く事で口寄せの術式が広がる。そして莫大なチャクラを消費してある
生物が口寄せされた。
綱手様ではないのですか
?
﹁⋮⋮﹂
?
﹁⋮⋮﹂
﹁⋮⋮あ、わりゃカツユか
﹂
認識出来る大きさだった。具体的には小指くらいの大きさである。
それは、人間が一般的にナメクジと呼んでいる生き物で、人間が一般的にナメクジと
それはとても可愛らしい声だった。そして、とても小さかった。
﹁⋮⋮あれ
?
ジ⋮⋮そのほんの切れ端の様な分体であった。
ちなみにブン太とカツユの会話から分かるように、二人││二匹
?
さて、口寄せされたカツユは召喚主であろうアカネへと向き直る。小さなナメクジが
ある。結構古い仲であった。
││は知り合いで
口寄せされたのはカツユ。妙木山と同じく秘境と呼ばれる湿骨林に住む巨大ナメク
﹁あらブン太さん。お久しぶりですね﹂
NARUTO 第七話
234
一生懸命に体を方向転換している様はどこか可愛くもあるかもしれない。
﹂
?
﹂
!
﹁どうして生きているのですかヒ││﹂
なく、この程度の大きさしか口寄せ出来ないという点である。
ちなみにアカネが言わないでと言っているのは正体について言わないでほしいでは
試しに口寄せの術を使ってみたのだが、結果はご覧のあり様であった。
アカネとしてはヒヨリの肉体ではないのだから適正も変わっているのではと思って
あった。もう完全に適正がなかった。
そう⋮⋮ヒヨリは、アカネは口寄せが⋮⋮というより時空間忍術全般が非常に苦手で
来なかったからだ。そう、かつてのヒヨリもそうだったのである。
ちなみに正体に気付いたのはアカネがほんの切れ端の様な小さな分体しか口寄せ出
結んでいたのでそこから気付くのも当然の帰結である。
どうやらアカネの正体に気が付いた様子のカツユ。ヒヨリとカツユが口寄せ契約を
﹁い、言わないでぇ⋮⋮﹂
さかあなたは
﹁この口寄せ⋮⋮私を口寄せ出来て、かつこの程度の大きさしか口寄せ出来ない⋮⋮ま
﹁⋮⋮はい﹂
﹁あのー、あなたが私を口寄せしたのですか
235
﹁解
﹂
﹂
?
﹁⋮⋮ワシも自信がなくなってきた。さっきのは幻術でも見せられてたのかのォ⋮⋮﹂
﹁⋮⋮おい。こがいな阿呆がほんまに強いんか
訂正しよう。三者二様であった。一人と一匹の思いは同じだからである。
三者三様の意味が籠められた沈黙が場を支配する。
﹁⋮⋮﹂
﹁⋮⋮﹂
﹁⋮⋮﹂
湿骨林へと還っていった。
口寄せの術を解除したと同時に、白い煙と同時に音を立ててカツユ︵超ミニ分体︶は
!
ある綱手は数十メートルはあるカツユ︵同一ナメクジ︶を呼び出す事が出来たりする。
それでも微々たる大きさのカツユしか呼び出せないのだが。ちなみに三忍の一人で
のが、馬鹿でかいチャクラで適正のなさを強引に振り切ったカツユとの口寄せである。
ヒヨリ時代から空いた時間があればそれはもう練習していた。そうして会得出来た
術などの時空間忍術の事をアカネは気に入っていた。
扉間やミナトが得意としていた飛雷神の術や、様々な契約動物を呼び出せる口寄せの
﹁⋮⋮私にだって、苦手な事くらい⋮⋮ある﹂
NARUTO 第七話
236
﹂
掛かって来いひよっこがぁ
﹁さあ勝負の続きと行きましょう
﹁おお
﹂
!
!
この屈辱を怒りに変えてお前達にぶつけてやる⋮⋮
﹂
振り落とされんようにしろよこの阿保がぁ
!
﹁やかましいブン太
﹂
ブン太 あ奴から離れるように動いてくれ
綱手ばりの馬鹿力で殴られるでのォ
﹁完全に逆恨みだのぉ⋮⋮。まあ良い
!
!
はり彼はフェミニストなのだ。
あまりの哀れさに取り合えず先の事を見なかった事にしてあげた自来也である。や
﹁優しいのぅ自来也。見なかった事にしてやるんかい﹂
!
﹁なんじゃいわしゃただの足がかりかい
﹂
!
ブン太は蛙らしく跳躍が得意であった。
││
一度の跳躍で一気に距離を取り、遠距離から自来也が攻撃をする。
││蝦蟇油弾
!
自来也の口から可燃性の高い油が一気に放出される。当たれば体は油で塗れ動きを
まみ
巨大なガマ蛙が移動するのと、人間が移動するのでは当然歩幅が違い過ぎる。しかも
ようにする為だった。
自来也がブン太を口寄せしたのは単純な戦力としてではなく、アカネを近づかせない
!
!
!
!
237
NARUTO 第七話
238
多少なりとも阻害されるだろう。
そして油で塗れた体は火遁の術で焼き払われる事になる。蝦蟇油弾と火遁の相性は
抜群だ。その火力は骨も残さない程だ。
まあ当たればの話だが。遠距離からの攻撃は確かに近接主体の忍には有効だが、距離
があれば攻撃は避けやすくなるものだ。
ましてや相手は日向ヒヨリの生まれ変わりのアカネだ。遠距離攻撃をアカネに当て
たいならば超広範囲の術か超高速の術を使わなければならないだろう。
蝦蟇油弾を躱したアカネは自来也に接近せず、遠距離戦に付き合う事にした。
日向にも中・遠距離用の術はある。それに接近戦はヒアシとヒザシを相手に十分な修
行を積んでいた。ならば遠距離戦もたまにはこなすかというのがアカネの考えだ。
││
修行相手にされている自来也としたらふざけるなという考えかもしれないが。
││八卦空掌
アカネの威力に関してはまあ自来也の反応を見れば分かりやすいだろう。
術によって威力が変化するわけだ。
威力に関しては個人個人で違う。要は籠められたチャクラとチャクラを放出する技
眼を用いれば遠方の敵の急所を的確に射抜く事も可能だ。
八卦空掌。掌からチャクラによる真空の衝撃波を放つ柔拳の遠距離攻撃である。白
!
﹁ぬおお
﹂
﹁⋮⋮殺す気か
﹂
た。どうやら八卦空掌の軌道線上にあった雲のようだ。
ふと自来也が後ろを見ると大きな雲にどこか不自然な、しかし綺麗な大穴が空いてい
その時自来也の耳に入った音は大砲の弾でも横切った様な音だった。
掌が通り過ぎていった。
自来也はブン太の上で思いっきり横っ飛びする。そして自来也のすぐ真横を八卦空
!?
ています
﹂
﹁そんな信頼いらんわ
ブン太ァ
油だ
﹂
!
じゃろうからなぁ
﹂
﹁もうお前加減する気ないじゃろ まあええわい
こいつ相手に加減の必要はない
!
!
!
ちなみにブン太もどうやらアカネの正体に気付いたようだ。これほどまでにチャク
だがまあここまで来てアカネを一介の忍と判断するほど自来也は馬鹿ではない。
範囲の術だ。一介の忍にする攻撃ではないだろう。
ブン太が自来也の要求に応える。今から二人がする合体忍術は非常に強力かつ超広
!
?
!
力なら綱手の一発の方が上ですよ上。だから何とかなりますって。私はあなたを信じ
﹁ははは。三忍ともあろうお方が何を仰る。死にはしませんよあれくらいなら。多分威
!
239
ラを嫌というほど感じさせられたら気付きもするものだ。
自来也ももしかしたら気付いているのかもしれない。そうでなくてはこの様な術を
││
使いはしないだろう。⋮⋮多分。
││火遁・蝦蟇油炎弾
││
!
﹁ぬぅ、これすらも防ぐか
流石は
﹂
威力は八卦空壁掌がそれぞれ勝り、やがて二つの術は互いに相殺しあい掻き消えた。
蝦蟇油炎弾と八卦空壁掌がぶつかり合う。範囲と量では蝦蟇油炎弾が、面積辺りでの
狭めて貫通力を上げる事も出来る。
し、さらに放出面積を広げる事で術の範囲も大きく広げる事が出来る。もちろん面積を
そして威力は八卦空掌の倍、どころではない。両手で放つ事でチャクラの放出量を増
これを個人で放つ事が出来る日向はアカネとヒアシとヒザシの三人だけだ。
二人以上の日向一族が同時に八卦空掌を放つ事で八卦空壁掌となる。
それは両手で放たれる八卦空掌だ。だが並の使い手では個人で使用する事は敵わず、
││八卦空壁掌
その迫り来る死の炎に向かって、アカネは両手を突き出した。
ブン太の口から出た大量の油と自来也の火遁が合わさった結果だ。
小さな町程度なら軽く飲み込む程の巨大かつ強力な火遁がアカネを襲う。
!!
!
!
NARUTO 第七話
240
﹁
おいぃ
﹂
奴はどこじゃあ
!
﹂
!?
﹁ブン太
仙術で探れ
﹂
そればかりか、どれだけ探そうともアカネの姿はない。
かった。
ブン太の言葉に驚き炎が消え去った大地を見るが、アカネが元いた場所には誰もいな
﹁なに
!?
!?
!
﹂
!?
!
!
﹁っ
﹂
来也へと当てていた。
二人がアカネに気付いた時には、すでにアカネは自来也の後ろを取ってそっと掌を自
!?
!?
﹁な、なんじゃとぉ
﹂
そんな二人の疑問はすぐに解決した。
出来ない。一体何処にいったというのか。
だがそれでもアカネのチャクラを捉えることが出来ないでいた。気配も微塵も感知
知能力を大幅に上げていた。
自然エネルギーを取り込み仙術チャクラを練り上げていたブン太は、仙人モードで感
んじゃい
﹁もうやっとるわい じゃがあのガキのチャクラをとんと感じん どないなっとる
!
241
アカネは八卦空壁掌を放ってからすぐに炎を目眩ましに上空へと跳躍したのだ。そ
してチャクラを感知出来ないようにかつての能力である︻天使のヴェール︼を発動させ
た上でチャクラと気配を消している。これで仙人だろうが何だろうがアカネのチャク
ラを感知する事は出来ない。今のアカネを捉えるには目視か、アカネの気殺以上の知覚
能力を有するしかなかった。
柔拳使いに触れられている。それを意味する所を理解出来ない自来也ではない。
﹁⋮⋮ワシの負けですのォ﹂
素直に負けを認めた自来也を見て、そっと手を下ろしてアカネは微笑む。
﹁ええ。私の勝ちです﹂
これにて、近くの街を大騒ぎさせた傍迷惑な勝負は終わりを告げる。
巨大蝦蟇や雲を貫く衝撃波や蝦蟇よりも巨大な炎などを放っておいてばれないわけ
がなかった。
﹂
⋮⋮ちなみにそれを知った二人は脱兎の如く別の街へと逃げ出した。
◆
﹁申し訳ありませんでした
!
NARUTO 第七話
242
今、街道から僅かに逸れた森の中で一人の大男が少女に対して土下座していた。
大男の名は蝦蟇使いの仙人・自来也。そして少女はもちろん日向アカネであった。
どうしてこうなったか。それはまあ、アカネの正体に自来也が気付いたからに他なら
ない。
というか、実は先の戦闘中に自来也はアカネの正体がヒヨリである事には気付いてい
た。と言っても気付いたのはかなり後半だったが。
見た目が違い過ぎる││老女と少女││し、そもそもヒヨリが死んでいるのでアカネ
がヒヨリであるとは思考の端にもなかったのだ。
だが流石にあれだけ闘えばそのチャクラからアカネがヒヨリである事に気付いたの
だ。
自来也にとってヒヨリとは言うなれば木ノ葉の下忍にとっての自来也と同じだ。
さいてん
自分が子どもの頃から三忍と謳われ今の木ノ葉の礎を築いた伝説の忍相手に、小娘だ
こうべ
のひよっこだのと言い放ったのだ。まあ頭を垂れもしよう。
るようだ。歳を取ると性格が悪くなるのかもしれない。
ニヤニヤしながら心にもない台詞を吐くアカネ。完全に自来也の反応を楽しんでい
ぬ白髪童子蝦蟇使い。泣く子も黙る自来也様にその様に畏まられると恐れ多いですよ﹂
はくはつどうじがまつか
﹁気になさらずに。今の私は所詮は礼儀知らずな小娘のひよっこ。三忍にして斉天敵わ
243
﹂
﹁し、しかし、その件に関してはワシとて言い分がありますぞ。ヒヨリ様は確かに亡くな
られたはず。それがどうして生きて、しかも若く別の肉体でいるのですか
に己を助ける術となるのだ。何もかも知ればそれで良いという物でもない。
まあ身に覚えはないので気のせいだろうと思い、自来也の疑問に答える。無知とは時
したような気になって心にちくちくと刺さる物を感じていた。
そんな風に自来也に怪しまれているアカネはと言うと、何故か遥か過去に外道な事を
油断出来る相手ではない。
ならなくなる。今までのアカネの言動に怪しいモノを感じていないが、だからと言って
いくらヒヨリが木ノ葉の伝説とは言え、その様な外道に落ちれば里の為にも倒さねば
かもしれないのだ。
肉体を乗っ取るという非常に凶悪にして外道な術を用いて今も生きながらえているの
これに関しては自来也も詮索しなければならない重要な件だ。もしかしたら他者の
?
﹁なんと
﹂
輪廻転生⋮⋮その様な術を⋮⋮。ッ もしやヒヨリ様は輪廻眼を持って
おられるのですか
!?
!
!?
よ﹂
術、輪廻転生を果たしたわけです。だから正真正銘この体は私の生まれ持った体です
﹁こ れ は 私 が か つ て 作 り 出 し た 術 に よ る 結 果 で す ね。言 う な れ ば 新 た に 生 ま れ 変 わ る
NARUTO 第七話
244
輪廻転生と輪廻眼。輪廻という共通の言葉を持つそれに自来也はもしやと勘ぐる。
輪廻眼とは、白眼・写輪眼と同じ三大瞳術の最後の一つにして最も崇高な瞳術と言わ
れている。
他の二つの瞳術と違い血継限界として引き継がれる物ではなく、その開眼方法は明ら
かになっておらず、そもそも誰が開眼するかも知られていない伝説の瞳術だ。
だが自来也はその輪廻眼に見覚えがあった。もっとも、その持ち主も今では死んでし
まったという話を自来也は耳にしたが。
﹂
?
﹁空が青いですなぁ。お、鳶ですぞ﹂
﹁剛と柔。どちらがいいですか
おとこ
誰であろうと変わらないその姿勢には一貫した物を感じる。まさに漢である。
しい目付きをしている自来也。
すでに老境の身であったヒヨリを思い出しながら今のアカネと見比べ、どこかいやら
様がこんなピチピチギャルになるとは⋮⋮﹂
﹁⋮⋮そうですか。しかし、生まれ変わりとはまたとんでもないですのォ。あのヒヨリ
ありませんよ﹂
んよ。この術は私オリジナルの私にしか使用出来ない秘術です。瞳術や血継限界では
﹁いえ、輪廻眼なんてとんでもない代物は持ってませんし、私でも今まで見た事ありませ
245
アカネの脅しを聞いて空を飛ぶ鳶を見ながらそう言ってすっとぼける自来也。
﹁全くあなたは。まあいいです。私の事はヒヨリではなくアカネと呼んで下さい。もち
ろん敬称も敬語も必要ありませんよ。今の私に肩書きなど下忍くらいしかありません
からね﹂
自来也としては先人にして憧れでもあるヒヨリにその様な態度を取る訳にはと思っ
﹁しかし、そう言うわけには⋮⋮﹂
ている。
だがアカネとしては自来也程の忍に畏まられる所を誰かに見られると色々と勘ぐら
れるし、フレンドリーに接してくれた方が色々とやりやすいというものだった。
それじゃあ普段通りにするかのォ。改めてよろしく頼むぞアカネよ﹂
﹁私は気にしないので、あなたも気にしないで下さいな﹂
﹁そうですか
ネも驚いていた。
自来也の順応性の高さは三忍一なのかもしれない。この態度の変化には流石のアカ
?
るわけがなかった。
かつては里の狂気と恐れられた事もある自来也である。そんな男が敬語を得意とす
﹁いやぁ、元々敬語は苦手でのォ。そう言ってくれると助かるわい﹂
﹁え、ええ。それで結構です﹂
NARUTO 第七話
246
﹂
まあ流石の自来也も人によっては敬語を使うのだが、相手が使わなくて良いと言うな
ら遠慮なく甘えるだけだった。
﹁ところで、色々と疑問は解けたが⋮⋮あの口寄せはどういうことなんだ
﹁⋮⋮恥ずかしながら、私は時空間忍術が苦手でして﹂
どうしてあれだけのチャクラを練り込んであの程度のカツ
?
﹂
私がその気になればもっと大きなカツユを口寄せ出来るという所を見せて
﹂
た。これならアカネが全力でチャクラを練っても結界は壊れる事もなく外に漏れる事
そう言ってアカネは四方に結界を作り出す。しかもその結界は多重結界となってい
﹁お、おい
あげましょう
!
?
!
﹁なにを
れていただろう。
ら、アカネのチャクラが膨大でなければ確実に時空間忍術の適正は零という烙印を押さ
だろうが、通常のチャクラでは恐らくカツユの欠片たりとも口寄せ出来ないだろうか
なまじわずかばかりでもカツユを口寄せ出来た事から全く適正がないわけではない
ベルであった。
自来也としては最早時空間忍術の適正がないときっぱり言われた方が納得が行くレ
ユしか呼び出せんのかさっぱり分からんわい﹂
﹁それでもアレはないぞ
?
247
もないだろう。
そう、全力でチャクラを練っても、だ。
あんた国
!
﹂
ちょ、ちょい ちょい待て アカネ いや、アカネ様
!
﹁はあぁぁぁぁぁぁぁぁ
﹁お、おお
﹂
!
﹂
!
ほどだ。
﹂
まさにナメクジと牛くらいの差があるだろう。
﹁はぁ、はぁ、よし
姿は違えどあなたはヒヨリ様ですね
!
!
﹁ああ、やはりヒヨリ様
﹂
音と共にカツユが現れた。その大きさは先のアカネの口寄せとは比べ物にならない
﹁口寄せの術ぅぅ
た。そして、カツユを口寄せした。
そしてアカネは狼狽する自来也の言葉など気にもせずに更にチャクラを高めていっ
に展開しているというのに軋んでいるようだ。
あまりのチャクラに空間が歪んで見えるほどだ。結界も相当なレベルの結界を多重
ていた。
自来也が慌てて敬語になり、慄いてそう口走る程に馬鹿げたチャクラをアカネは発し
でも破壊する気ですかいのォ
!
!?
!
!
!
NARUTO 第七話
248
口寄せされたカツユは召喚主であるアカネに擦り寄って問い詰める。
だがアカネはそれどころではないようだ。どうだ、と言わんばかりに胸を張って自来
也に向けてドヤ顔を見せていた。
﹂
?
?
た。
カツユの寂しげな声が辺りに響いた。
﹁⋮⋮そろそろ私にも説明してもらえないでしょうか
﹁そうでしたね。これは他言無用ですよカツユ﹂
﹂
の程度の口寄せしか出来ない相手に時空間忍術を教え込むのは不可能というものだっ
三忍であり四代目火影を育てた自来也も、あれだけのチャクラを籠めておきながらこ
﹁⋮⋮ワシにだって、出来ない事くらい⋮⋮ある﹂
﹁⋮⋮私に時空間忍術を教えてくれませんか
アカネの口寄せしたカツユなど数千分の一あるかどうかが良い所だろう。
十分の一にも満たない大きさだ。
湿骨林にはカツユの本体が存在し、綱手をして口寄せ出来るカツユの大きさは本体の
だがまあ自来也の感想としてはそんなものだった。
いるカツユ全てを口寄せしてなお余っていたであろうなぁ﹂
﹁確かにでかくなっとる。ただ⋮⋮同じチャクラを綱手が使えるなら、恐らく湿骨林に
249
アカネは忍術・かくかくしかじかを使った。
まるまるうまうま。カツユは全てを理解した。
﹁なるほどそうだったのですか。ヒヨリ様⋮⋮いえ、アカネ様と再び会えて嬉しいです﹂
﹁私もですよカツユ。再びこうしてあなたをベッドにして横になる事が出来るとは、嬉
しいですねぇ﹂
アカネは牛ほどの大きさのカツユの上に乗って寝転がっていた。
これが意外とプニプニして柔らかくて気持ちいいらしい。アカネ︵ヒヨリ︶談である
ので諸説あり。
﹁シュールな光景だの⋮⋮﹂
むべ
傍から見たら巨大ナメクジに埋まりかけている少女である。ちょっとしたホラーだ
ろう。自来也の感想も宜なるかな、である。
いた。
アカネとカツユは別れを名残惜しそうにしながら二人⋮⋮一人と一匹で抱き合って
口寄せの術で呼び出された口寄せ動物は一定時間になると元の場所へと戻るのだ。
﹁アカネ様⋮⋮﹂
全力で呼べるのがこの大きさですから、そう何度も呼ぶ事は出来ませんし⋮⋮﹂
﹁いつまでもこうしていたいですが、口寄せには制限時間がありますからねぇ⋮⋮私の
NARUTO 第七話
250
﹂
そうしてカツユが湿骨林へと戻った後、アカネと自来也は本題へと戻った。という
か、閑話が長すぎである。
﹁というわけで、大蛇丸の情報について私が知る事に異論はありませんね
﹁もちろん﹂
﹁その中に大蛇丸が
﹂
﹁そうだ。そして奴らの狙いは恐らくだが││﹂
?
というくらいだ﹂
いる事と、組織の構成員の殆どがビンゴブックに載ってる一癖も二癖もあるS級犯罪者
﹁うむ。ワシも奴らの関しては多くは知らぬ。知っているのは各地で様々な術を集めて
﹁暁⋮⋮ですか﹂
りを話した。
そうして自来也は大蛇丸に関して、そして大蛇丸が所属する組織に関して知ってる限
で集めた情報からその可能性が高いと見ていた。
それに九尾を狙う者を追えば自然と大蛇丸にも行きつくのだ。自来也は今まで自分
かった。
ア カ ネ の 実 力 を 嫌 と い う ほ ど に 知 っ た 自 来 也 だ。今 更 大 蛇 丸 を 追 う な と は 言 え な
?
251
﹁九尾⋮⋮いや、九尾を含む尾獣か﹂
﹁⋮⋮そうワシは睨んでおる﹂
それが自来也の知る暁の全てであった。あまりにも少なく、だと言うのに危険性を感
じる情報だ。
暁が何の為に各地から危険な術を集めているかは分からないが、犯罪者集団のやる事
が世界平和であるはずがない。
アカネも自来也も当然そう考えている。⋮⋮実は暁には世界平和を目的とする人物
﹂
﹂
も何人かいたりするのだが、まあ方法が方法なのでこの二人が受け入れる事はないのだ
ろう。
﹁なるほど⋮⋮それで、暁のアジトは
﹁いや、そこまではワシも⋮⋮もし知っとったら
﹁そりゃさっさと襲撃して潰しておこうかと﹂
来也であった。
?
﹂
るんだろうが。それでも大蛇丸が一構成員という豪華千万な組織だ。その目的も知ら
﹁無茶苦茶な⋮⋮大蛇丸が下に付くほどの組織だぞ
まあ奴の事だから何か目的があ
面倒な事は纏めて終わらせるに限る。力一杯にそう言うアカネに呆れるしかない自
?
?
ずに事を進めるといくらお主でも痛い目を見るやも知れんぞ
?
NARUTO 第七話
252
などと言う自来也だが、言っておいて何だがこの化け物に勝てる奴っているのかのぉ
等と考えていた。
ない。
まあ、お前実は尾獣じゃねぇの というチャクラを見せられればそうなるかもしれ
?
?
﹂
くり暁について調べるとしよう﹂
?
?
から疲れましたし﹂
道中自来也の実力が否が応にも伸びた事は言うまでもない。
こうしてアカネと自来也の珍道中は始まったのであった。
!
!
﹁人の話を聞かんかぁ
﹂
﹁さあ行きますよ 取り合えず次の街で英気を養いましょう。全力でチャクラ練った
﹁最後ちょっと待て﹂
ますし。敵も複数いるようですし。あなた強いですし。修行相手に持ってこいですし﹂
?
ワシも一緒になのか
﹁え
?
それはまあ、あなたが一緒なら色々と捗るでしょう
﹁え
一人より二人とも言い
﹁うーん。そうですね。急いては事を仕損じるとも言うか。自来也もいる事だし、じっ
253
NARUTO 第八話
﹁ワシは一度里に戻るぞ﹂
﹂
それはアカネと自来也が共に暁と大蛇丸について調べる為の旅に出てから一年程が
経った時の事だった。
﹁ふむ。それはいいのですが、やはり大蛇丸ですか
かつては里の狂気と言われた男だが、里を愛する気持ちは人一倍なのである。
そう判断した自来也は木ノ葉の里が手遅れになる前に里へと戻ろうとしている訳だ。
る。
ともかく、どうやら大蛇丸は木ノ葉に関して何らかの動きを見せている可能性があ
というか、自来也からしたら暗躍していない大蛇丸というのを想像出来ないのだが。
これまでの調査で二人は大蛇丸が何やら暗躍しているのを察知していた。
?
りですしね﹂
﹁そうですか⋮⋮なら私も一度木ノ葉に帰りますか。どうも暁に対しては今の所手詰ま
する可能姓は高い。それが木ノ葉の為になる可能性は、まずないな﹂
﹁奴は木ノ葉に、三代目に対して恨みを抱いているからのォ。木ノ葉に何らかの干渉を
NARUTO 第八話
254
アカネも自来也の話を聞いて一度木ノ葉へ戻る事に決めた。
というのも、暁について調べていたのはいいが、当の暁が目立った動きを見せていな
いので中々尻尾を掴めそうになかったのだ。
一度だけ暁と思わしき敵に接触したのだが、その敵を倒してからはとんと情報が入ら
なくなったのだ。
だがそんな事を言っていては初めから何も出来ないのだ。今は出来ることをするし
ない。
相手が仕掛けた最初の一手が取り返しのつかない一手であれば、もはやどうしようも
﹁うむ⋮⋮それが取り返しのつかない一手でなければ良いのだが⋮⋮﹂
﹁相手がアクションを掛けて来るのを待つのも一つの手かもしれませんね﹂
は危険というものだろう。
そしてそういった存在を集めているのが暁だ。自分達の常識に当てはめて考えるの
世界は広い。長年生きてきた二人にも知らない術は多くあるのだ。
のか、はたまた別の何かか⋮⋮﹂
﹁だろうのォ。それに同じ見た目の敵が複数いた。分身とは違う実体で。そういう術な
て駒だな﹂
﹁後手に回ってるね。あの敵も私達の情報を得る為の尖兵だったのでしょう。恐らく捨
255
かない。自来也はそう自分を納得させるだけだった。
まあ隣にいる少女の見た目をした別の何かがいればどんな一手もひっくり返せそう
な気がしているのだが、自来也は己の精神衛生上考えないようにした。
﹁それでは懐かしの里へ帰るとしますか﹂
そんな風に話しながら二人は木ノ葉への帰路についた。
﹁アカネはまだ一年程度だろうに。ワシは何年になるかのぉ﹂
◆
木ノ葉の誇る三忍の一人大蛇丸。と言っても既に抜け忍となってる彼は木ノ葉の誇
るとは言えない存在に堕ちているが。
彼は今木ノ葉の里にて暗躍していた。正体を隠し中忍試験に参加し、めぼしい存在を
目を凝らして探していたのだ。
それは己の新たな器を探す為だった。大蛇丸はある禁術を開発していたのだ。
ふしてんせい
そ れ こ そ が、他 者 の 肉 体 を 乗 っ 取 り 自 ら の 物 と し、永 劫 を 生 き 続 け る 最 悪 の 禁 術、
そして器となる肉体の素養が高ければ高いほど、それを元にした大蛇丸の力も高まる
︻不屍転生︼である。
NARUTO 第八話
256
257
事になる。
特に大蛇丸が興味を示しているのは努力では得られない力、血継限界の持ち主達だ。
それも他の忍術で代用が利く氷遁や沸遁などの性質変化系統の血継限界ではなく、肉
体その物に効果が現れる体質系統の血継限界をだ。
これまでで幾つかの器と成り得る候補を捕獲し、その中でも最大のお気に入りがあっ
たのだが、そのお気に入りは既に壊れていた。
死病を患った器など器足り得ない。だから大蛇丸は古巣である木ノ葉に新たな器を
求めてやってきたのだ。
そして現在大蛇丸が狙っている最大の器候補が、写輪眼という素晴らしい瞳術を有す
るうちは一族であった。
だがうちは一族ならば誰でも良いという訳ではない。
写輪眼を開眼していないうちはなど必要としていないし、例え写輪眼があったとして
も才能が足りなければ大蛇丸の食指は動かない。
その大蛇丸が厳選した素材が、うちはイタチとその弟うちはサスケであった。
うちはイタチは大蛇丸からしても完璧な忍と言えた。
才能、肉体、精神。そのどれもが突出した力を持ち、うちはの長き歴史に置いても才
能という点でイタチに並ぶ者はあのうちはマダラくらいなのでは、と大蛇丸に思わせる
NARUTO 第八話
258
程にだ。
だからこそ、イタチは大蛇丸の器候補に上がっていながら器には出来なかった。そ
う、イタチが強すぎるからだ。
全力で闘えば勝てはせずとも負けはしないと大蛇丸は思っている。だがそれでは肉
体を乗っ取るなど不可能と言えた。
相手の肉体を乗っ取るのだ。相手が自分よりも強くては乗っ取りようがないのだ。
大 体 イ タ チ も 他 の う ち は 一 族 と 同 じ く 木 ノ 葉 の 里 の 警 備 部 隊 に 入 隊 し て い る の だ。
里にいるイタチを狙って他の忍に悟られないように体を乗っ取る。そんな事が出来る
わけがなかった。
現状大蛇丸がイタチを乗っ取るには様々な点から不可能と言えた。
そして次に目を付けたのがサスケだった。
イタチの弟であり、偉大な兄に追いつこうと必死に努力をしている天才少年だ。
優秀な兄に対して多少のコンプレックスはあるが、それでも兄を慕い兄を目指して今
も中忍試験を受けている。
イタチに比べるとサスケは劣るかもしれない。
イタチは七歳でアカデミーを卒業し八歳で写輪眼を開眼させ十歳で中忍に昇格した
という異例の経歴を持っている。
259
対してサスケは十三歳でアカデミーを、写輪眼も同じく十三歳で、そして今中忍試験
を受けている最中だ。
単純に考えて兄が出来ていた年齢で弟が出来なかったら、それは兄よりも弟が劣って
いると判断されるだろう。
少なくともサスケやうちは一族はそう思っている。
だが大蛇丸は違う。サスケはまだ芽が出たばかり若葉なのだ。花開くのはまだ先の
話。
そしてその才能の花が開花すれば、サスケはイタチをも上回る忍になると大蛇丸は確
信していた。
中忍試験を忍んでサスケを観察した甲斐が有ったと言うものだろう。サスケの才能
を垣間見た大蛇丸は歓喜していた。あれがもうすぐ自分の物になると思って。
残虐非道で知られる大蛇丸だが中忍試験中は目立った動きをしなかった。
大蛇丸が中忍試験に参加したのはサスケの才能を確かめる為だったからだ。
下手な動きを見せれば木ノ葉の忍が自身を狙って来る事は理解していた。
そこらの凡百な忍が束になって掛かってきても返り討ちにする自信はあったが、先の
うちはイタチや日向ヒアシ、三代目の現右腕左腕のうちはシスイに日向ヒザシが来れば
流石にどうしようもない。
木ノ葉の里が建立された時から共に瞳術の使い手として競い合ったり、協力しあった
木ノ葉には忍のエリートであるうちは一族と日向一族が揃っているのだ。
葉の里は力があると言えた。
逆に言えばS級犯罪者にして強者ばかりが集まっている暁が警戒するほど今の木ノ
先決だった。そうすれば今後も動きやすくなるというものだ。
それよりも今後も障害と成り得る木ノ葉の優秀な忍を少しでも間引きしておく方が
先事項としては今はまだそこまで高くはない。
ナルトを捕らえ九尾をいつでも活用出来るように常に監禁し続ける事も出来るが、優
正確には奪ってもすぐに目的の為に活用する事が出来ないのだ。
現状ナルトを捕らえても封印された九尾を奪う事は難しいからだ。
ないようだ。
その際九尾の人柱力であるナルトを確保出来ればより良いのだが、これは最重要では
の事だった。
今回の中忍試験を機に、木ノ葉の戦力を削れ、と。出来るならば潰しても構わないと
大蛇丸は自身が所属する組織・暁のリーダーであるペインに言われた事を思い出す。
うか︶
︵やはり木ノ葉は厄介ねぇ⋮⋮ペインの言う通りここは木ノ葉の力を削いでおきましょ
NARUTO 第八話
260
りしている両一族の仲は悪いものではなかった。
特に一族で優秀な忍が火影の護衛として選ばれる事でその両者の仲も深まり、それは
一族へと繁栄されて行ったのだ。
そんな優秀な一族が揃っている木ノ葉と敵対すれば勝てるにしても手痛い反撃を受
けるだろう。
そうならない為にも木ノ葉で一暴れする様に大蛇丸は言われていた。
へのプレゼントを思い狂気に顔を歪める。
三代目に逆恨みに近い憎しみと、未だ無くならぬ若干の敬意を宿し、大蛇丸は三代目
げる切っ掛けとなった恩師。
三代目火影猿飛ヒルゼン。自らの師にして自らを火影に選ばなかった男。里から逃
びっきりのプレゼントを贈ってさしあげましょう。くくく︶
︵三代目⋮⋮猿飛先生ィ⋮⋮あなたと闘える時を楽しみに待ってますよ⋮⋮その時はと
もりであり、そしてその最大の狙いも決まっていた。
こうして目立つ事を避けて隠れ潜んでいるのだ。その日が来れば徹底的に暴れるつ
もっとも、大蛇丸はそんな生易しい結果で済ませるつもりは当然なかった。
微でも里に入る依頼は減るでしょう︶
︵狙いは中忍試験本戦当日。諸外国の大名がいる中で惨劇を起こせば例え里の被害が軽
261
︵あの4人を見た時の猿飛先生の顔が楽しみだわぁ⋮⋮︶
狂った三忍大蛇丸。彼は中忍試験を途中でリタイア。変装に使用していた草隠れの
忍の姿を脱ぎ捨てて木ノ葉から一度離れ、木ノ葉崩しの最後の準備に掛かった。
◆
アカネと自来也が木ノ葉に戻って来たのは中忍試験の本戦準備期間中であった。
中忍試験は幾つかの試験を乗り越えた者だけが本戦へと出る事が出来る。その本戦
へ出場する忍に一ヶ月の準備期間が与えられたのだ。
この準備期間で中忍試験中に傷ついた体を癒したり、新たな力を求める修行をしたり
するわけだ。
ヒナタはアカデミーを卒業したばかりなので中忍試験を受けていない可能性もある
くつもりだ。
アカネはヒアシにこれまでの情報を報告し、そして気になっていたヒナタに会いに行
里の入り口で一旦別行動を取る二人。
﹁いいですよ。私も一度宗家へ報告しに行きたいので﹂
﹁ではここからはしばらく別行動を取るかの﹂
NARUTO 第八話
262
が、受けていたとしたらどうなっているかも確認したい。
そして自来也は久しぶりの木ノ葉でのんびりと覗き⋮⋮もとい取材に張り切るつも
りだった。
なにせこの一年間はアカネと共に殆ど過ごしていたのでまともに覗きをする事も出
来なかったのだ。
これを機に思う存分取材という名の覗きを捗らせるつもりだった。
ちなみにアカネ自身を取材対象にしようとした事があったが⋮⋮その時は人生二度
目の死の予感を覚えた自来也だった。
アカネは懐かしい日向の敷地へと戻ってきた。
一年程度では差してどこも変わってないな、と当たり前の感想を胸に抱きつつ歩いて
いると、ふとある人物と出会った。
ああ、確か君はアカネちゃんだったね。久しぶり、大きくなったじゃないか。い
?
名前の通りうちは一族であり、その優秀さは幼い頃から知れ渡っていた。
その人物とはうちはシスイ。火影の右腕と呼ばれる凄腕の忍である。
や、綺麗になったと言った方が正確かな﹂
﹁ん
﹁おや、これはシスイさん。お久しぶりです﹂
263
﹂
ヒ
うちは最強と名高いうちはイタチも尊敬する忍であり、今ではイタチと共にうちはの
両翼とまで言われている。
ザシ様に何か御用でも
﹁あはは。ありがとうございますシスイさん。ところで今日はどうしたんですか
?
?
ラと機密情報を話していては忍失格だろう。
﹁いや。⋮⋮そう言えばアカネちゃんは中忍試験は受けないのか
が、君ならいつでも中忍試験に合格する事が出来るだろうに﹂
今年はもう無理だ
任務には極秘の内容もあり、それは当然自里の忍にも秘密にすべき事もある。ベラベ
なるほど。任務に関する事か。そうアカネは推測する。
﹁ああ⋮⋮ちょっと色々とね﹂
優秀な日向一族くらいの認識だが。
そうして以前にアカネとシスイは出会ったのだ。もちろんシスイにとってアカネは
た然りだ。
こうしてたまに日向の敷地にヒザシに会いにやって来る事もしばしば有る。逆もま
なので任務上だけでなくプライベートでも二人は親しくなっていた。
ヒザシは火影の左腕と呼ばれており、二人は共に火影を警護・補佐する立場にある。
?
﹁そうですか。お仕事お疲れ様です﹂
NARUTO 第八話
264
﹁ありがとうございます。でも、中忍試験とか怖いからいいですよ。私は一生下忍での
んびりするんです﹂
丁寧に、身分の差を理解した応対をしてヒアシに招かれるままに後ろを着いて行く。
れしい態度を見せるわけにはいかないのだ。
アカネの立場はヒアシの付き人だ。屋敷の中には多くの使用人もおり、彼らに馴れ馴
宗家の屋敷にてヒアシと再会したアカネはまずは帰還の挨拶をする。
﹁うむ﹂
﹁ヒアシ様。ただいま戻りました﹂
速めた。
大蛇丸が本格的に動いているのかもしれないなと考え、アカネは宗家の屋敷への足を
ほどならば尚更だ。
火影の右腕が任務とあらば厄介事しか考えられないだろう。ヒザシに相談しに行く
﹁ふむ。シスイさんが任務か⋮⋮﹂
スイは去っていった。行き先はヒザシの所だろう。
変わった子だと思いつつも、まあそういう忍が一人くらいいてもいいかと思い直しシ
﹁そ、そうかい⋮⋮。それじゃあオレはこれで。元気でねアカネちゃん﹂
265
﹂
そうして誰もいないヒアシの私室に到着し、二人は白眼で確認をしてからいつもの態
度に戻る。
﹁お疲れ様でしたアカネ様﹂
﹁いえ、それほど疲れは⋮⋮いやまあ多少は疲れる事はあったかな
一件││を思い出して言葉を改める。
ヒアシの労いの言葉を否定しようとし、しかし自来也との一件││正確には口寄せの
?
﹂
ヒアシとしてはあのアカネが素直に疲れる事があったという言から何かしらの事件
に巻き込まれたのかと勘ぐっていた。
﹁もしや九尾復活の犯人を突き止めたのですか
!?
⋮⋮もしや、自来也様もアカネ様の正体を
そうしてアカネはこの一年間で得た情報をヒアシへと伝える。
?
質で数を凌駕する事は可能かと言われればアカネもヒアシもこう言うだろう。可能
の力を侮ることは出来ません﹂
﹁はい。大蛇丸が構成員となっているほどの組織です。少数の様ですが全員が精鋭、そ
﹁⋮⋮なるほど。大蛇丸に暁ですか﹂
﹂
﹁ああ、いえ。実は三忍の自来也と出会いましてね。それで少々ありまして﹂
﹁二代目三忍の自来也様に
?
﹁ええ。彼なら信用出来ますから。それと、幾つかの情報も得ました﹂
NARUTO 第八話
266
である、と。
1の力を持つ忍が百人集まるよりも、100の力を持つ忍一人いた方が強い場合は
多々ある。
もちろん状況によって話は変わる。いくら強くても一人では手が回らないが百人な
らば可能という事はいくらでもあるだろう。要は力の方向性の違いだ。
だがその方向性が合えば最高の質は最大の力となるのだ。暁のメンバーはそれぞれ
が常識では計れない力を持つ者達。少数だからと油断していたら痛い目を見るのは明
白だ。
﹂
?
﹁ヒザシに いえ、そう言う話は何も。⋮⋮そう言えば最近うちはシスイが日向の分
知っていますか
﹁そう言えば先程シスイに会いました。何やらヒザシに用が有ったみたいですが、何か
267
﹂
茶屋に入り中で楽しく会話をしているようだ。
するとシスイと顔を赤らめた日向の娘が一緒に歩いているのを発見。近くにあった
アカネはすぐに白眼を使って周囲数kmを確認する。
﹁はい、逢引です﹂
﹁⋮⋮逢引
家の娘と逢引している所を何度か目撃したという話を聞いた事がありますな﹂
?
?
紛う事なき逢引である。
﹁⋮⋮逢引ですね﹂
白眼の悪い使用例である。
﹁覗き見は感心しませんが⋮⋮﹂
火影の右腕が来るほどだから余程の大事でも起こったのかと思っていたらこれであ
る。
﹂
まさかアカネもシスイが逢引の為に日向一族の敷地へ来ているとは思っていもいな
かった。
﹁まあ、平和な事で何よりです⋮⋮大蛇丸を見た者はいないのですか
のかのどちらかだ。
それがないのだから大蛇丸は木ノ葉にいないのか、それとも未だに見つかっていない
実に報せが届くはずだ。
火影の左腕であるヒザシならば大蛇丸ほどの忍が木ノ葉の里の内部で見つかれば確
いですし、その為にヒザシに火影様の近辺に異常はないかを確認したので確かかと﹂
﹁そう言う情報は上がっていませんな。中忍試験中は警備体制も強化しなければならな
?
﹁可能姓はあります。日向の者には白眼による監視を強化させましょう﹂
﹁相手が大蛇丸ならば見つかっていない可能性も高いですね﹂
NARUTO 第八話
268
﹁見つけてもけして一人で先走らない様によく伝えておきなさい。必ず上に連絡する様
にと﹂
﹁もちろんです﹂
見つけました。でも倒されました。では意味がないどころかあたら命を無駄にする
だけだ。
それを防ぐ為にもまずは報告を義務付けねばならない。それほど大蛇丸は危険だっ
た。
戦闘力で言えば自来也と差は殆どないかもしれないが、禁術や予想出来ない術などを
使ってくるので厄介さで言えば大蛇丸が上と予想されていた。
﹂
まあ自来也もこの一年で強くなっているので実際にどうかは分からないが。
﹁では私はこれで。あ、そうだ、ヒナタは中忍試験を受けたんですか
﹁そうですか⋮⋮。残念ですが、中忍試験はまた次の機会に受ける事が出来ます。それ
われたわけだ。
予選の勝者のみが第三試験本戦に出場出来るようになる。つまりは振り落としが行
以上に多かった為に急遽行われた予選の事だ。
第三の試験、言うなれば現在準備期間後に行われる本戦の事だが、その出場者が予想
﹁⋮⋮受けましたが、第三試験の予選試合にて落ちました﹂
?
269
と、ヒナタは無事ですか
﹂
い
ネジに落ち度はありませぬ 何とぞお怒りを御静めくだ
!
もなく││﹂
﹂
﹁ほ、ほほう。ネジが、相手ですか。あの護衛め⋮⋮ ヒナタを負かすとは⋮⋮
勝負ですゆえ
や、勝つのはまだしも傷つけるとは⋮⋮
﹁勝負
﹂
!
!
﹁ええ。幸いと言いますか、不幸と言いますか、予選の相手がネジでしたので。然程怪我
?
!
!
なったせいで怒りが湧いたのだ。
を傷つけられた事と、その相手がよりにもよって気心の知れたネジだという事が偶々重
もちろんアカネも宗家だの分家だので怒ってはいない。ただ単純に溺愛するヒナタ
理解しているのでそれで強権を振りかざす程狭量ではない。
宗家の人間を分家が傷つけたのだが、そこは試験の中の勝負という事くらいヒアシも
る。
たネジにその怒りを向けるアカネに、ヒアシは娘を傷つけたネジを庇う様に語りかけ
護衛の癖に護衛対象を傷つけるというアカネからしたら大罪とも言える愚行を犯し
さい
!
!
来ようと思う。それではな﹂
﹁大丈夫です。私は冷静だ。ちょっと本戦に出場するネジに激励と少々の修行をつけて
NARUTO 第八話
270
﹁誰ぞ
誰ぞおらぬか
アカネを止めよ
!?
ネジに逃げろと伝えるのだ
!
﹂
!
アカネは自来也を探して木ノ葉の里をウロウロとしていた。
アカネがネジを一通りぼこぼこ、もとい修行をつけて来た翌日。
◆
かった。その件に日向の長が関わったそうだが、定かではない。
その日、木ノ葉のどこかで少年の悲鳴が聞こえたそうだが、特に問題にされる事はな
叫びに応える者は誰もいなかった。
ヒアシの叫びも虚しく、いつもの如くアカネとの密会中は人払いをしているのでこの
!
なのですぐにヒアシに確認を取ったのだが、本戦への出場者で砂の忍が多く残ってい
合が多い事が気になった。
中忍試験により他里の忍も内部に入って来ている為だろうが、それでも砂隠れの忍の割
だ が 里 の 内 部 に は 自 来 也 の 姿 は な か っ た。変 わ り に ち ら ほ ら と 砂 隠 れ の 忍 が い る。
アカネ。
本人が聞けば否定しそうな本当の事を言いつつ、白眼にて周囲を見渡し自来也を探す
﹁何処に行ったんだかあのエロ仙人は﹂
271
る為だろうとの事だった。
それならと納得したアカネだが、一応は注意を向けて置く。どうにも砂隠れの忍から
ピリピリとした緊張感を感じたからだ。
杞憂ならばいいのだがと思いつつ、アカネは再び自来也を探す。白眼の望遠能力の範
囲を広げて周囲を見渡すと、里の外れにある滝近くの川辺に自来也がいるのを発見し
た。
ようやく発見したかと思い、次に何故そんな場所にと疑問を抱くアカネだが、その傍
にいる人物を見て更に疑問が深まった。
かつてアカネが柱間とマダラを白眼で観た時に何故か二人のチャクラが二重になっ
そして白眼でナルトを︽観る︾度に柱間とマダラを思い出す事があるアカネであった。
アカネはこうして白眼でナルトを観た事は何度かあった。
力を高めておこうとしたのか。いや、両方だろうなとアカネは判断した。
それとも九尾の人柱力だからその力の使い方を教える事で暁に対するナルトの抵抗
弟子の波風ミナトが残したナルトに何か思うところがあったのかもしれない。
どうやら自来也はナルトに修行をつけているようである。自来也も可愛がっていた
そう疑問に思いつつも、二人の行動からすぐにその疑問は晴れた。
︵あれは⋮⋮ナルトじゃないか。どうして自来也とナルトが一緒に││︶
NARUTO 第八話
272
273
て見える事が何度かあった。
それと同じ事がナルトを白眼で観た時に起こっているのだ。そしてそれはこれまで
この三人以外には起こった事はない現象だ。
この感覚が何なのか。もしかしたらナルトと接触する事でそれを理解出来るかもし
れない。
これもいい機会かと思いアカネは二人が修行している川原へと飛び立った。
自来也はナルトに口寄せの術を教える為、その前準備としてナルトに水面歩行の業を
やらせていた。
これはナルト自身のチャクラを使い切らせ、ナルトの中に封じられた九尾のチャクラ
を発動させやすくする為である。
ナルトはまだまだ未熟であり、本人が練り上げるチャクラだけでは口寄せの術が出来
ないのだ。いや、出来はするが役に立つ程の口寄せ動物を呼ぶ事が出来ないと言うべき
か。
だが九尾のチャクラを上手く利用すればそれこそガマブン太すら口寄せ出来るだろ
う。まあ自来也はナルトがそこまで出来るとは思っていなかったが。
そうしてナルトに水面歩行の業をやらせつつ、本人は近くの水辺で水着を着て遊んで
いる女性を隠れて眺めていた。
傍から見ると完全に変態である。大蛇丸はお姉言葉で喋る人体実験マニアで、綱手は
﹂
賭け狂いの若作り婆。木ノ葉の三忍にまともな人間はいないのかも知れない。
﹁エヘヘ⋮⋮ぐぼぉっ
カネである。
﹁あなたは本当に、本当に⋮⋮﹂
アカネは心底情けなさそうに溜め息を吐いていた。
こ れ が 本 当 に 自 分 達 の 三 忍 の 名 を 継 い だ 二 代 目 三 忍 の 一 人 な の だ ろ う か
?
﹁ああ
﹂
!
りを向けるが、アカネのドスの効いた返しにすぐに手のひらを返した。
神聖な覗き⋮⋮ではなく取材を邪魔された挙句蹴り飛ばされた自来也はアカネに怒
﹁いや、すいませんでした⋮⋮﹂
?
﹂
辺りはガハハハと笑ってそうかと思いなおしていた。
柱間やマダラが生きていたらそれはもう嘆くだろうと思いながら、いややっぱり柱間
いった思いがアカネの中を巡っていた。
そ う
そんな変態を横から蹴り飛ばす者がいた。それはこの変態と一年間旅をした女性、ア
!?
﹁うおおお⋮⋮い、痛いのぅ、何するんじゃアカネ
NARUTO 第八話
274
今 の ア カ ネ に 逆 ら え ば 殺 さ れ る。そ れ を こ の 一 年 間 で 良 く 理 解 し て い た 自 来 也 で
あった。
◆
?
﹁おお、目覚めたか﹂
エロ仙人
?
だのォ。早速技を教える
﹂
⋮⋮ん
あれ、さっき変な姉ちゃんがいなかった
?
!
﹁おお 待ってましたぁーー
!
エロ仙人を蹴っ飛ばしたやつ﹂
?
だがすぐに気絶前に見た光景を思い出し、その疑問を口にした。
びを顕わにする。
チャクラを使い切った事での気絶から目覚めたナルトは新たな技の伝授に素直に喜
か
!
﹁エロ仙人ではないっちゅうに。まあ良い。ようやく殆どのチャクラを使い切ったよう
﹁⋮⋮んあ
﹂
に疑問を覚えつつ、チャクラを使い果たして川に沈んだのであった。
川の上でフラフラと水面歩行の業をしていたナルトは目の前で繰り広げられた喜劇
﹁な、何なんだってばよ⋮⋮﹂
275
﹂
﹁ああ、うむ。アカネならそこじゃ⋮⋮﹂
﹁あん
﹂
?
等と考えた自来也であるが、すぐにその考えを却下し
?
されるからだ。
やるならここでアカネを殺す覚悟をしないと確実にアカネが元の調子に戻ったら殺
た。
今ならセクハラし放題では
行かんでチャクラ切れを起こしたのだ。あんなアカネを見るのは初めてだのォ﹂
﹁うむ、これからお前に教える口寄せの術の練習をあやつもしていたのだが⋮⋮上手く
﹁⋮⋮どうしたんだってばよ
なって大地にへばっている女性の姿があった。
自来也の言葉に自来也が指の指す方向をナルトが見ると、そこには息も絶え絶えに
?
頑張れよー
﹂
く、くっくっく⋮⋮
な。おーい
﹁ぷっ
﹂
!
!
もちろんその笑いはアカネの耳に届いており、あとでぶっ飛ばすと決意されていたの
た自来也は笑いを堪えるのに必死であった。
下忍のナルトに心配されて応援される修行中の日向ヒヨリという構図を思い浮かべ
!
!
﹁ふーん。あの姉ちゃんも修行中なんだな。上手く行ってないみたいだし、大変なんだ
NARUTO 第八話
276
で意味のない堪えであったが。
後ろ足生えてんじゃねーかよ
﹂
⋮⋮語弊があった
いや、進歩はしている。ナルトとていつまでも成長しないわけではないのだ。
﹁良く見ろってばよ
!
そう ナルトの口寄せした蛙には後ろ足が生えているのだ
!
!
﹂
だが限界までチャクラを振り絞ったせいで今はその元気もなく、ナルトの応援に手を
ヒラヒラとさせて応えるしか出来ないアカネであった。
﹁さあ、あやつに関しては後で教える。今は口寄せの術を教えるから良く見とけ
﹂
そうして自来也の指導によるナルトの口寄せ修行が始まった。
才能ナシ
始まったのだが⋮⋮。
﹁もーお前死ね
!
ナルトの才能の無さは、自来也が匙を投げかける程であった。
!
確かに成長はしている。最初は見たまんまおたまじゃくしだったが、今は後ろ足が生
いないのだ。
ナルトは口寄せの修行を始めてから十五日間の間、おたまじゃくししか口寄せ出来て
⋮⋮。
かもしれない。正確にはナルトが口寄せしたのは蛙ではなく、おたまじゃくしであった
!
!
277
えているのだ。徐々に蛙に近づいていると言えよう。
だがまあ普通の忍からすれば微々たる成長なのだが。
し か し こ れ は ナ ル ト の 才 能 が な い 事 が 原 因 で は な い。ナ ル ト は 九 尾 と い う 強 大 な
チャクラの塊が体の中にいる為に、九尾が阻害となって経絡系からチャクラを練るのが
苦手なのだ。
成長すれば徐々にナルトの体と九尾が慣れて行く事で緩和されるだろうが、幼い内は
﹂
特に負担が掛かり術などが苦手となるのだ。ナルトが落ちこぼれと言われる原因であ
アカネだってオレと変わんないってばよ
!
ろう。
﹁大体
﹂
!! !
カツユが何か喋っている時も、小さすぎてその声が聞き取れない程だ。
なナメクジを口寄せする始末。
だがまあ結果はお察しである。もうカツユと判別をつける事も出来ないほどに小さ
チャクラで普通にカツユを口寄せしようとしていた。
もちろん修行なだけに馬鹿でかいチャクラで無理矢理口寄せするのではなく、普通の
そう、アカネもナルトと同じくここで口寄せの修行をしているのだ。
突如として話を振られたアカネは図星を指されて呻いていた。
﹁うっ
NARUTO 第八話
278
﹁な、ナルト。私は口寄せが苦手なだけで、他の術はそこそこ使えるんですよ
﹂
正真正銘真実だが、結局は口寄せが出来ない事に変わりはなかったりする。
﹁ふーん。どんな術
﹁え
アカネも日向の柔拳ってやつを使えんのか
﹂
!?
﹂
?
﹂
そいつも柔拳使うって話なんだ
絶対勝ってやるんだ
!
!
あの野郎サスケばりのいけすかねー奴でさ
!
!
﹂
!
!
ナルト視点ではかっこつけて話たり上から目線で話してくるネジを良く思ってはお
﹁お、おう⋮⋮﹂
ジに打ち勝ちなさい
﹁いいでしょう。ネジに負けないくらいに叩きこんであげましょう ですから必ずネ
!
!
﹁じゃあさじゃあさ オレと組手してくれよ 次の対戦相手はネジっていう奴でさ
なのだ。きっと成長すれば賢くなる⋮⋮と思いたい。若者の可能性は無限なのである。
ナルトはそこまで頭に入ってはいなかったようだ。まだまだ頭を使うのが苦手な歳
に﹂
﹁それはまあ。私も日向の一族ですし。て言うか日向アカネって自己紹介したでしょう
!
アカネが幾つか会得した術を口にしていると、途中でナルトが口を挟んできた。
﹁えーと。日向の柔拳でしょ、螺旋丸系統でしょ、それからせ││﹂
?
279
らず、絶対に負けてやるものかと意気込んでいた。
そのネジが使う柔拳と同じ物を使えるアカネに組手を頼んだのだが、ナルトが思って
いた以上にアカネが乗り気で逆にナルトが引いてしまっていた。
﹂
アカネとしてはヒナタを傷付けたネジをまだ許していなかった。いや、本当はもう
怒ってはいないのだが、ナルトがネジに勝つと面白いだろうと思っていたりする。
﹁まあ組手はいいがの。お前ら口寄せの修行を完了させるのが先じゃないんかのォ
?
りする。
ちなみにナルトのチャクラが二重になって観える現象に関しては何も掴めなかった
いては言うまでもない。
それによりナルトはようやく口寄せの術を成功させる事が出来た。なおアカネにつ
尾のチャクラを引き出させる事に成功する。
後に自来也がナルトをわざと窮地に落とし入れる事でナルトを追い詰め、無理矢理九
自来也に突っ込まれて二人は口寄せの修行を再開した。
﹃あ、はい⋮⋮﹄
NARUTO 第八話
280
NARUTO 第九話
すべき戦いは幾つかあった。まずはナルトとネジの試合だろう。
ある程度の試合を見てアカネは満足そうに頷いた。下忍故にまだまだ未熟だが、注目
る。白眼様々であった。
し、試験会場に向けて白眼を発動した。これでここからでも試合を見る事が可能であ
さて、修行を終えて家に戻り一休みしたアカネは今日が中忍試験の本戦だと思いだ
にミクロなカツユを口寄せするだけに終わっていた。
だがまあ何十年も上手く行ってない物がいきなり出来るわけもなく、結局いつもの様
口寄せの修行を一人でしていた。もちろん結界を張って周囲にばれない様にしてだ。
そしてアカネはナルトに一通りの修行をつけた後、こっそりと未だ諦めきれていない
でいた。
した。だがすぐに退院し、約束していた通りアカネと二人で柔拳に対抗する修行を積ん
あの後、ナルトは口寄せの術に成功してからチャクラの使いすぎで気絶し病院に入院
アカネは修行を終えてすぐにそう述べた。
﹁なぜ私は口寄せが、時空間忍術が出来ないのか⋮⋮﹂
281
NARUTO 第九話
282
二人の勝負はやはりというべきかネジが優位に立って進めていたが、土壇場になって
ナルトが爆発的な底力を発揮して最後にはネジを叩き伏せていた。
これにはアカネも驚いていた。ナルトを鍛えたアカネだったが、それでもナルトの勝
率は一割にも満たないと思っていたからだ。
九尾の人柱力だからという理由ではなく、ナルトの諦めない根性と気合が生んだ勝利
だろう。これはアカネも素直に称賛していた。
もう一つ、木ノ葉の奈良一族の少年と砂隠れのくノ一との試合もかなり見応えがあっ
た。
純粋な戦闘力では砂隠れのくノ一が圧倒していただろう。風遁を利用したり奈良一
族の影縛りの術││若い忍は影真似の術と呼ぶ││の効果や範囲を見切り戦術を組み
立てていた。戦闘力だけでなく頭も切れるようだ。
だが奈良一族の少年の頭脳はその更に上にあった。力量の低さを手持ちの武器と頭
脳を駆使して覆したのだ。この試合に期待していなかった多くの観客も引き込まれる
程見事な戦法と言えた。
最後には自身のチャクラ切れを見越してさっさとギブアップをしてしまったが、頭脳
に見合う実力とチャクラを手に入れたらと思うと将来が楽しみな逸材である。恐らく
今回中忍試験を受けたどの下忍よりも隊長に向いているだろう。
そして第三試験一回戦最後の試合。これが始まりの合図となった。そう、大蛇丸によ
る木ノ葉崩しの始まりである。
その試合はうちは一族の期待の少年うちはサスケと砂隠れの我愛羅という忍の闘い
であった。
︶
そしてアカネは我愛羅を見た瞬間にある事実に気付いた。
︵砂隠れの人柱力か
も対処しやすい様に試験会場へと移動を始めた。
この試験で暴走の可能性も有り得る。そう判断したアカネは取り敢えずどうなって
など忍の歴史でも稀なのだ。
だが人柱力には常に暴走の危険性が伴っている。尾獣と完全に共同しあえる人柱力
ナルトも同じ様に試験を受けている。
そして人柱力が中忍試験を受ける事も珍しくはあれどあり得ない話ではない。実際
い。
有していた尾獣だ。砂隠れの忍である我愛羅が一尾の人柱力なのもおかしな話ではな
我愛羅の中には一尾という尾獣の一体が封印されたいた。一尾は昔から砂隠れが所
のだ。この禍々しくも強大なチャクラ。完全に尾獣のそれであった。
アカネは我愛羅の中に我愛羅以外のチャクラを感じ取り、そしてその正体に気付いた
!
283
移動しながらアカネは白眼の焦点を試験会場から全体へと拡げる。
大蛇丸が暗躍している可能生と、砂隠れの人柱力、そしてピリピリと気を張り緊張し
ていた砂隠れの忍。これらがどうにも気になったのだ。
そしてアカネは見た。火影である猿飛ヒルゼンの隣で中忍試験を観戦している砂隠
れの風影。その中身が大蛇丸であるという事実を。
更に里の外壁近くに砂隠れの忍が百人程木々に隠れて待機しているのを発見。この
次期にこんな場所にこんな人数が集まって何をする まさか仲良く遊びに来たとい
動する。そして潜ませていた部下に強力な結界を張らせて周囲と孤立させた。
その瞬間を狙って風影に扮していた大蛇丸は三代目火影を連れて会場の屋根へと移
んで深い眠りへと誘 っていた。
いざな
試験会場では幻術が発動し多くの観客や木ノ葉の忍││主に下忍だが││を巻き込
うわけがないだろう。それを証明するかのように、試験会場にて事態は動き始めた。
?
砂と大蛇丸が手を組んでいたか。大蛇丸の狙いはヒルゼンの様だが⋮⋮﹂
!
用法もまた効率的だ。 教 授との異名は伊達ではない。
プロフェッサー
そして五大性質変化である火遁・水遁・雷遁・土遁・風遁の全てを扱え、その術の使
れており、実際に全てではないがほぼ全ての術を理解している。
アカネはヒルゼンの強さを知っている。木ノ葉の全ての術を網羅しているとも言わ
﹁ちっ
NARUTO 第九話
284
だがそれも全盛期の話だ。今のヒルゼンは齢七十が近い老齢の身。スタミナも衰え
チャクラも全盛期の半分にも満たないだろう。
そんな状態で五影と同等の実力と言われる三忍の大蛇丸を相手に闘い倒す事が出来
るのか。そう考えると流石にアカネも不安が勝る。
だが危機に陥っているのは火影だけではない。突如として襲ってきた砂隠れと音隠
れの忍に混乱した木ノ葉の民の多くは逃げ惑っている。しかも敵の中には大蛇丸が口
寄せした家よりも大きな大蛇もいた。
木ノ葉には忍だけでなく一般人も多い。砂と音の忍も一般人を狙うよりはまず木ノ
葉の忍を攻撃するだろうが、身を守る術を持たない彼らを放置していたら忍術合戦に巻
き込まれ被害は拡大する一方だろう。
かと言って火影を見捨てる訳にもいかない。火影とは里の中心的存在だ。それが万
が一にも死んでしまえば里の損失は非常に大きい。
周囲の忍を片付けるか、それとも火影であるヒルゼンに加勢するか。結論はどっちも
同時にやればいいというものだった。
﹂
み出す高等忍術だ。更に無数の影分身を生み出す多重影分身という禁術に指定された
影分身の術。これは実体のない通常の分身とは違い、術者と同じ肉体を持つ分身を生
﹁影分身
!
285
危険な術もあるが、今回は三体の分身を生み出すだけに留めた。
無数の影分身を生み出すとチャクラを均等に分散する為に一体辺りのチャクラ量は
少なくなってしまう。それでは強大な敵が現れた時に本体ならいざ知らず分身では対
処出来ない可能性もある。
あとはアカネの実力なら三体の分身で十分だというのもある。敵が弱ければ一掃し、
強ければ三体という少ない人数だからこそのチャクラ量で対応する事も可能だろう。
﹂
!
◆
のだと。その大木の若葉達を信じてアカネは駆け出した。
はこの程度で揺らぐほど貧弱な木ではない。友と築き上げた何者にも負けない大木な
それでも守りきれない部分はあるだろうが、それは自里の忍を信じて託した。木ノ葉
を果たす為に活動を開始した。
アカネ本体はヒルゼンのいる試験会場を目指し、影分身は四方に別れそれぞれの役目
体化影分身で対応出来そうな忍は倒すようにする。
化影分身には木ノ葉の住民を助ける為に動いてもらうつもりだった。その上でこの弱
その上で殆どチャクラを籠めずに弱体化した影分身を百体ほど作り出す。この弱体
﹁もいっちょ影分身
NARUTO 第九話
286
287
中忍試験第三の試験本戦。その中の一戦、木ノ葉のうちはサスケと砂の我愛羅との戦
闘中にそれは起こった。
火影と共に観戦していた風影││砂隠れの長││が、突如として会場内を覆った幻術
の発動を合図として火影を連れて会場の屋根へと移動したのだ。
そして音隠れの忍を使って自分と火影を中心に四方へと結界を張らせる。四紫炎陣
と言われるその結界は触れただけで対象を燃やし、その強度も並大抵ではない強さを
誇っている。
これだけだと砂が木ノ葉を裏切り戦争を仕掛けた様に見えるだろう。事実多くの砂
の忍がこの戦争に加担している。
それは風の国が行った軍縮によって砂隠れの里の戦力維持が難しくなった事が起因
している。軍縮による戦力低下に危機感を感じた風影は音隠れと組んで木ノ葉を襲っ
たのだ。
全ては里の為。風の国の大名に国の危機管理の甘さを教え、里の回復の為に木ノ葉を
襲ったのだ。これ以上時が経てば木ノ葉を襲う戦力を完全に失う為、今この時を最後の
機会として。
だが全ては大蛇丸の、ひいては暁の手の内だった。
NARUTO 第九話
288
里に木ノ葉を襲う様に命令した風影は⋮⋮既に殺されており、その姿は大蛇丸の物と
されていたのだ。そう、三代目を襲った風影は大蛇丸が化けていた物だったのだ。
大蛇丸の狙いは初めから三代目火影の命。それは禁術を開発していた所を見つけら
れ、木ノ葉から追い出された恨み⋮⋮だけではなかった。
真の理由は二つ。一つは止まっている物を見るのが退屈という極個人的にして手前
勝手な物。
そしてもう一つは自らの組織からの命令である木ノ葉の戦力低下であった。火影を
殺す事は間違いなく里の戦力低下を招くだろう。
もちろんそれを黙って見過ごす木ノ葉ではない。暗部と呼ばれる木ノ葉の部隊が三
代目に加勢しようとする。
だが四紫炎陣に阻まれて加勢は叶わなかった。外から四紫炎陣を破るのは優秀な忍
である暗部でも簡単ではなかったのだ。
内側で結界を張っている4人の音忍を倒せばいいのだが、それも音忍が内側から更に
結界を張る事で自分達の身を守っていた。
暗部達は三代目火影を案じながらも見守るしか出来ないでいた⋮⋮。
三代目と大蛇丸が対峙し、二人が放つプレッシャーは高まり続けて行く。
やがてプレッシャーは物理的な力すら持つようになり、二人の中心にある屋根の一部
はひび割れる程に高まった。そしてそれが戦闘開始の合図となった。
││
三代目は手裏剣を一つだけ投擲し、印を結んでその手裏剣に対して術を掛ける。
││手裏剣影分身の術
からこの術を考案したのだが、あまりに非道な術ゆえに禁術として封じられていた。
二代目は敵であるならば死者であろうと利用する程に現実主義者であり、その有用性
て自由に使役するという、まさに死者を冒涜する術であった。
それはかつて二代目火影が考案した禁術中の禁術。死者を浄土から穢土に口寄せし
それを大蛇丸は口寄せの術の一種で防いだ。
││口寄せ・穢土転生
投擲された手裏剣は無数の実体を持つ手裏剣を生み出し、大蛇丸を襲う。
忍術と手裏剣術を組み合わせた術。
それは影分身と呼ばれる従来の分身の術ではなく実体を持った分身を生み出す高等
!
!!
﹂
それを大蛇丸が解き明かして己の術としたのだ。
ふたつ
!
一つ目の棺には︻初︼、二つ目の棺には︻二︼。これを見て三代目は口寄せされた死人
そして口寄せされた死人が収められている棺には文字が書かれていた。
﹁ひとつ
!
289
の正体を理解し、三つ目の口寄せだけは口寄せ解除の印を組む事で防いだ。
まさか
﹂
﹂
⋮⋮ふふふ。三人目は防いだ様ですが、この方は防げなかった様ですねぇ﹂
だからこそ、四つ目の口寄せを防ぐ事が出来なかった。
﹁よっつ
﹁四人目
!
◆
そして三代目はかつて木ノ葉にあった懐かしい面々と再会する事になる。
火影と同等の位置にいた人物を。
だが三代目はすぐに最後の一人に思い至った。木ノ葉を語る上で外す事の出来ない、
ば口寄せされるのは三人のはずだ。
火影は現在までで四代目まで存在しており、三代目を除き全員亡くなっている。なら
はいないはずだ。
そしてその危惧の通り、口寄せされたのは死した火影である。だがそれならば四人目
れる事。
三代目が危惧していたのは自分を除く初代から四代目までの三人の火影を口寄せさ
!
!? !
﹁さあ、懐かしい顔とご対面ですよ猿飛先生ぃ⋮⋮
NARUTO 第九話
290
場所は変わって木ノ葉の東口門。ここには巨大な蛇が複数体も口寄せされて暴れて
いた。
異仙忍
あまりの巨大ゆえに討伐に駆けつけた忍も手が付けられないでいたが、その巨大蛇を
﹂
圧倒する巨大蛙が突如として現れた。
屋台崩しの術
﹂
その小せー目ェ根限り開けて良ーく拝んどけ 有難や
そしてその巨大蛙の上には三忍である自来也が立っていた。
天外魔境暴れ舞い
﹁ヒヨっ子ども
者自来也の
!
空から降り立った巨大蛙はそのまま巨大蛇を踏み潰してしまう。
﹁忍法・口寄せ
!!
!
﹂
?
けつけたのだ。
二人は巨大蛇の出現を聞き、まずは並の忍では止められないだろうそれを防ぐ為に駆
残った二匹の巨大蛇を倒したのは二人の忍。うちはシスイとうちはイタチであった。
﹁流石は三忍の一人⋮⋮噂以上の実力ですね﹂
﹁お疲れ様です自来也様﹂
﹁⋮⋮あれ
だが見栄を切った対象である残りの巨大蛇はその見栄を見る前に逝き絶えていた。
!
!
木ノ葉の忍に囲まれ注目を浴びている自来也は調子に乗って見栄を切る。
!
!!
291
だがまあ自来也がいれば来る必要もなかったかと思っている所だが。
﹁シスイにイタチか⋮⋮お前ら揃いも揃って人の見栄張りを邪魔しおってからに
﹂
﹁ははは⋮⋮申し訳ありません。ですが、非常事態ですので⋮⋮﹂
﹁まあ良い。三代目は
﹂
!
だが、すぐにでも三代目を助けに行きたい二人を自来也は止めた。
に加わったところで三代目の邪魔になる事も無い実力の持ち主である。
あの結界も強固であるが、シスイとイタチならば破壊する事も可能であり、また加勢
也が加勢してくれたとあらば後顧の憂いもなく三代目の加勢に行けるというものだ。
自分よりも里を大事にしている三代目らしい命令である。だが、里に三忍である自来
ザシの加勢を断り、里の防衛を課したのだ。
シスイは火影の右腕としてその護衛も兼ねている。だが三代目はシスイと左腕のヒ
るならば今からでも三代目の加勢に││﹂
﹁我々は加勢よりも里をと三代目に命じられたのです。ですが、自来也様がいらっしゃ
﹁試験会場で大蛇丸と⋮⋮﹂
?
﹂
!?
三代目を守る必要がないと言いのける自来也にシスイは憤慨する。
﹁自来也様何を
﹁まあ待て。三代目の加勢は必要ないのォ﹂
NARUTO 第九話
292
だが、自来也も何の意味も無くそんな言葉を吐いた訳ではなかった。
﹄
!
高密度のチャクラが籠められている
!?
爆弾か
﹂
!
と、空を飛ぶ暁は空から何かを落とした。
﹁あれは⋮⋮
!
空を飛んでいる故に中々手出しは出来ず、遠距離の忍術で牽制するかと考えている
三人は警戒しながら空を飛ぶ暁の一人を見る。
﹃はっ
気を引き締めろよ﹂
﹁暁か⋮⋮どうやら大蛇丸と一緒に里を攻めてきた様だの。一筋縄では行かん相手だ。
あった。
その忍は雲の模様が入った黒色の衣を付けていた。そしてそれに自来也は見覚えが
そこには上空を飛ぶ巨大な鳥の様な物に乗った一人の忍の姿があった。
自来也の言葉を聞く前から、シスイとイタチもそれに気付いて既に上を見ていた。
﹁それよりも、里を守る方が先決だの。上を見ろ﹂
あれが加勢する限り、三代目が死ぬ事はまずない。その確信が自来也にはあった。
かかっていた。
自来也の感知に高速で試験会場に近づいて来る良く知ったチャクラの持ち主が引っ
﹁すでに三代目にはとびっきりの加勢が行った。これ以上は過剰戦力というものだの﹂
293
NARUTO 第九話
294
イタチが写輪眼にて投下された物体を見切る。それは粘土にチャクラを混ぜて起爆
させる起爆粘土と呼ばれる動く爆弾だ。
そこまではイタチも知らないが、チャクラを大量に含んでおり、そして上空から落と
した事で爆弾だろうと予測したのだ。
あれだけ上空にいるのも爆発の範囲から逃れる為。つまりそれ相応の威力を持った
爆弾という事が予測された。
イタチとシスイはすぐに爆弾に対処すべく万華鏡写輪眼を発動する。
つくよみ
万華鏡写輪眼とは写輪眼開眼者がある条件を満たす事で開眼する事が出来る写輪眼
を超えた写輪眼である。
ことあまつかみ
その力は万華鏡の名の通り個人によって変わる。イタチの左目には月読、右目には
アマテラス
ス
サ
ノ
オ
天 照という瞳力が、シスイの両目には別 天 神という瞳力が宿っている。
そして両目の瞳力を宿した者にのみ使用可能な須佐能乎。この須佐能乎こそが二人
が使用しようとしている術である。
須佐能乎はチャクラで構成された巨人を作り出し、術者を守る絶対防御の鎧と化す術
だ。
そしてそれは同時に強力な攻撃手段にもなる。あのうちはマダラもこの瞳術の使い
手であり、その威力は山を斬り大地を裂き地形を大きく変えた程だ。
﹂
だが今二人が求めているのは防御としての須佐能乎だ。これで空から落ちてくる爆
弾と思わしき物体から里を守るつもりなのだ。
ここで
﹁イタチ。お前は須佐能乎を使うな。お前の体の事を知らないと思っているのか
﹁⋮⋮シスイ。オレの事は気にするな。お前こそ、良い人が出来たんだろう
?
﹂
﹂
!?
﹁あれは
!?
﹁なっ
だが││
弾へと飛び立とうとする。
里の為に生かすべきは先のあるシスイ。そう考えているイタチはシスイを置いて爆
ある物だ。
爆弾の威力が須佐能乎で防げる程度ならば良いが、予想以上という事はどんな時でも
弟の事は気がかりだが、それでも弟が生きる里を守る事は弟を守る事に繋がるのだ。
いと思っていた。
それを知りつつ、いや知っているからこそ、イタチはここで木ノ葉の為に散っても良
う死病だ。
イタチは死の病に侵されていた。今はまだ良いが、もう数年もすると命を失くすだろ
死ぬのは先のないオレだけで十分だ﹂
?
295
爆弾が里に落ちるよりも、爆弾を防ぐ為にイタチが飛び立つよりも先に、一人の少女
が爆弾を掴んでいた。両手で収まり切らない爆弾をチャクラで覆っている。それで爆
発を防ぐつもりだろうか。
イタチも、その少女を知っているシスイも、その少女の行動に驚く。そして自来也は
頭を抱えていた。
﹁流石にそれは無茶なのでは││﹂
途端に爆音が辺りに響いた。その爆音は爆弾の威力の程を理解させるに十分なほど
であった。だが、木ノ葉の里には一切の被害はなかった。
あの少女が身を挺して守ったのかと、その自己犠牲を嘆きながらもイタチが空を見る
と、そこには爆発の影響で吹き飛ばされているが五体満足な少女の姿があった。
しかも空中で姿勢を制御し、その上でチャクラを放出する事で軌道まで修正して元の
位置へと戻っていく。
﹂
﹁な、なんとまあ。死なんとは思っとったがダメージ無しとはの。あやつ、本当に人間か
NARUTO 第九話
296
ちなみに流石のアカネもあの爆発を直接喰らえばダメージも負うし、死ぬ可能性もあ
かと思っていたが、あの爆発を間近で受けても無事の様だ。
自来也は少女の、アカネの頑丈さにほとほと呆れていた。流石にダメージくらい負う
?
る。あれはチャクラで爆弾を覆い、一箇所だけ穴を開けてそこから爆発を逃がしていた
のだ。
それにより威力を最小限にしていたのだ。その結果が無傷な姿なのだが、空を飛ぶ暁
の一員もこの結果に大きく動揺したようだ。
アカネはチラリと自来也を見て、すぐに上空の暁を無視して試験会場へと駆けて行
く。どうやら自来也達に上空の敵を任せたみたいだ。
││
││
そして自来也達も暁の動揺を見逃す程お人好しではなかった。
││火遁・大炎弾
││火遁・龍炎放歌の術
││
││風遁・大突破
!
立っていった。
ノ が 突 き 破 っ て い く の が 三 人 の 目 に 映 っ た。そ し て そ れ は そ の ま ま 木 ノ 葉 か ら 飛 び
だが、完全に喰らったわけではないようで、上空を覆う大火炎の中を大きな鳥の様なモ
渾 身 の 爆 弾 を 防 が れ た 暁 の 一 員 は そ れ に 気 付 く の が 遅 れ て 回 避 し 損 な っ て し ま う。
風遁を受ける事で更に強大となり、そのまま上空の暁へと迫って行った。
自来也とイタチが火遁を、シスイが風遁を放ち上空の暁に攻撃をする。強力な火遁は
!
!
﹁⋮⋮逃げおったか﹂
297
﹁その様です。分身などではありません﹂
写輪眼は忍術や幻術を見抜く力を持っている。そのため先程逃げたのは分身などの
囮ではないと見抜いたのだ。
﹁しかし、アカネちゃんは一体⋮⋮﹂
﹁おお、シスイはアカネを知っておるのか﹂
﹁ええ、日向の敷地で何度か。⋮⋮ですが、あそこまでの実力を持っているとは⋮⋮﹂
﹂
﹁まあ今はそれどころではあるまい。気になるだろうが、一先ずは里の防衛に専念せよ﹂
﹁そうですね⋮⋮。イタチ、大丈夫か
?
◆
移動の先々で無数のアカネ︵影分身︶を目撃したのは言うまでもない。
のであった。
そしてアカネに想いを託し、自来也もまた別の場所を襲う砂の忍を倒す為に移動する
││三代目を頼むぞ、アカネ││
二人は里の防衛の為に各地に散っていった。
﹁問題ない。それでは自来也様。私達はこれにて⋮⋮﹂
NARUTO 第九話
298
試験会場では試験を観戦していた木ノ葉の上忍が攻めて来た砂の忍に対応していた。
突如として同盟国が敵国へと変わり、火影も連れ去られ敵に襲われているという危機
的現状だが、上忍達は三代目火影を信じてまずは襲い来る砂の忍に対処するよう冷静に
行動する。
﹂
!
じゃない﹂
﹁お前には老人を労わる心がないのかこの人非人
?
だ。これは両方とも元々オビトの写輪眼なのだが、かつての戦争でいざこざがあり左目
両者は対称的に片目のみに写輪眼を持っていた。カカシは左目に、オビトは右目に
る。
この二人こそ木ノ葉一のコンビネーションを誇るはたけカカシとうちはオビトであ
事なコンビネーションで砂忍を仕留めて行く。
軽口を言い合いつつも二人の動きは止まっていない。矢継ぎ早に攻撃を繰り出し、見
﹂
﹁お前ね⋮⋮三代目を老人扱いするのはどうなの
﹂
﹁落 ち 着 け よ オ ビ ト。上 は 暗 部 に 任 せ ろ。火 影 様 は そ う や す や す と や ら れ る よ う な 人
く次々と倒している。その腕は上忍に相応しいようだ。
⋮⋮若干一名は冷静さを欠いているようだ。だが襲い来る砂の忍に不覚を取る事無
﹁三代目が心配だ。一気に奴らを叩くぞカカシ
!
299
の写輪眼をカカシに譲った結果だ。
その時は死を覚悟したが故の写輪眼のプレゼントだったが、オビトは日向ヒヨリに助
けられる事で九死に一生を得たのだ。
右半身が岩に潰されるという重傷を負っていたが、ヒヨリの二代目火影すら癒した再
生忍術にて命を長らえたのだ。そのせいで多少寿命が縮まってしまったが。
再生忍術は対象の細胞分裂の回数を急激に速めて細胞を再構築する術だ。だが人の
一生の細胞分裂回数は決まっている為、それを速める事は寿命を縮める結果に繋がるの
だ。
まあすぐに死ぬか、寿命が縮んでも生き延びるかならば大半の人間が後者を選ぶだろ
う。事実オビトもヒヨリには感謝していた。元々老人愛護が強いオビトだったが、その
せいで余計に老人愛護が高まっていたりする。
とにかく、両者とも同じ瞳を持ち、長年の友にしてライバルとも言える関係だ。
おかげでそのコンビネーションも群を抜いていた。同じくカカシのライバルを自称
する体術の達人マイト・ガイも嫉妬する程であった。
﹂
﹂
!
火遁使ってるんじゃねーのか
相変わらず仲がいいなぁ羨ましいぞコンチクショー
﹁お前は相変わらず暑苦しいんだよ
!?
!
ガイは木ノ葉でも、いや世界で見ても右に出る者が少ない体術を披露して次々と砂忍
!
﹁お前らぁ
NARUTO 第九話
300
を倒し、オビトも写輪眼を駆使して敵の動きを読みながらカウンターを決めていく。
この二人も意外と仲が良かったりする。と言うか、かつて中忍試験でガイにボコボコ
に負けた経験のあるオビトはガイもライバル視しているのだ。
青春と熱血が大好きなガイもそんなオビトを気に入っており、いつでもどこでも挑戦
を受けて立っている。そんな関係を続けている内に仲も良くなっていったのだ。
そんで怪我したらリンに治してもらう
﹂
そんな暑苦しい両者を見て呆れるのがカカシであり、そんな三人の関係は木ノ葉では
有名であった。
﹁さっさと倒して三代目を助けに行くぞ
!
!
多分。
﹁うるせー
お前が影で隠れてこっそりとイチャイチャシリーズ読んでるの知ってる
オビトの未来はまだ閉ざされてはいないのだ。人の可能性は無限なのである。⋮⋮
い訳ではなかった。
の所というのも、人の心は移ろうものだからだ。実際リンもオビトに対して想う所が無
だが、彼女は実はカカシが好きであり、オビトの想いが報われる事は今の所ない。今
その実力は医療忍者の最先端を行く綱手に次ぐとまで言われている。
リンとはオビトの台詞から分かる通りオビトの想い人だ。医療忍術の使い手であり、
﹁お前欲望に忠実だね。ほんとそこ等辺は尊敬するよ﹂
!
301
おま
﹂
それは言わない約束でしょーが
﹂
﹂
行くぞ
オレも負けてられん
!
!
内の砂忍はほぼ全てが無力化される事となった。
﹁やるじゃないかお前達
﹂
﹂
﹂
風遁覚えろよカカシ
﹂
触れただけで感電し、その上高圧水流に押し潰されるという強力な忍術によって会場
り自在に動き、会場内の砂忍を次々と襲っていく。
これが二人の合体忍術・雷水龍弾の術である。雷を帯びた水の龍はオビトの操作によ
!
一気にやるなら合わせろよオビト
﹁ええい
﹂
││
﹁四つの性質変化覚えてれば十分でしょ
﹁おう
││水遁・水龍弾の術
﹂
﹁雷遁
!
!
!
オビトが放った水龍弾にカカシが雷遁のチャクラを混ぜ込む。
!
!
!
お前が風遁を使えりゃオレが火遁するのによ
﹁あれか
!
だがその動揺を怒りに変え、怒りを力に変え、それを全て砂忍にぶつける事にした。
秘密にしていた趣味を知られていたカカシは思い切り動揺する。
!
んだぞオレはァ
﹁ちょ
! !!
﹁そんな約束した覚えねーよ
!
!
!
!
NARUTO 第九話
302
﹁どうよ見たか
これが未来の火影の力だぜ
﹂
﹂
!
﹂
影と大蛇丸が戦っている屋根の上だ。
﹁あれは
!
﹂
﹁あれは⋮⋮ヒヨリ様だ⋮⋮
﹁なに
﹂
!
あのチャクラはヒヨリ様のチャクラだ
﹂
ガイのその考えは次のオビトの言葉によって口から出る事はなかった。
それにしては強すぎるチャクラを纏っている。
だがそれにしては
﹂
その少女は会場内に着地し、すぐにその場を飛び立った。目指した場所は、三代目火
らに迫って来る少女をカカシは見た。
空に巨大な爆発が広がっていく光景が見え、そしてそれに驚いている内に高速でこち
てその先を言う事が出来なかった。
次の敵を倒すぞ。そう言おうとしたカカシは、視界の中で起こった出来事に圧倒され
﹁オレ達の力だろ。さあ、次の││なんだ
!?
!
﹁木ノ葉の下忍か
!
!?
た。
オビトはかつてヒヨリに助けられた時にヒヨリのチャクラをその身で感じ取ってい
!
!?
﹁オレが間違えるものか
!
303
NARUTO 第九話
304
更に右目の写輪眼でもヒヨリのチャクラを確認している。白眼程ではないが高い洞
察力を持つ写輪眼によってオビトはヒヨリのチャクラを良く覚えていた。
そのチャクラと先の少女のチャクラが完全に同質だったのだ。ヒヨリと同じく白眼
を発動している少女を、オビトはヒヨリとしか見る事が出来なかった。
そしてオビトの言葉にカカシ達が驚く暇もなく、少女は三代目と大蛇丸を取り囲む結
界を突き破って中に侵入していった。
NARUTO 第十話
三代目の目の前には懐かしい顔ぶれが揃っていた。
︻初︼と書かれた棺からは初代火影・千手柱間が、︻二︼と書かれた棺からは二代目火
あの方々は⋮⋮
﹂
影・千手扉間が、そして最後の︻日︼と書かれた棺からは⋮⋮日向ヒヨリがそれぞれ姿
まさか
﹂
!?
を現していた。
﹁ま⋮⋮
﹁あの方々⋮⋮
!
二人に死亡した時から今日までの記憶は当然ない。死者に記憶などないからだ。言
た猿飛ヒルゼンだと気付く。
二代目が三代目に気付き、そして初代も目の前の老忍がかつての記憶よりも歳を取っ
﹁ほぉ⋮⋮お前か。歳を取ったな猿飛﹂
﹁久しぶりよのォサル⋮⋮﹂
ろう。
もう一人はどうやら先代火影とヒヨリの姿を知らない様だ。恐らく若い暗部なのだ
結界の外でそれを見た暗部の一人は口寄せされた者の正体に気付いた。
?
!
305
うなれば未来にタイムスリップして来たような感覚と言った所だろうか。
﹂
﹁ま さ か こ の よ う な こ と で 御 兄 弟 お 二 人 と、そ し て ヒ ヨ リ 様 に 再 び お 会 い し よ う と は
⋮⋮ん
﹂
﹁どういう事なの⋮⋮
!?
﹂
﹂
穢土転生に必要な死者の一部も、生贄も、術式も完璧だった。なのに何故
ヒヨリの奴め、まだ生きているのか
そんな
そう言えば、猿飛がそれ
?
疑問が大蛇丸の中を巡る。
﹁穢土転生が失敗した
?
ヒヨリがそう容易く死ぬはずはあるまい
!
?
ずだ。だが、事実日向ヒヨリの穢土転生は失敗している。
術の失敗はなかったはず。死者である日向ヒヨリは確実に浄土から口寄せされたは
蛇丸でさえ理解出来なかった。
何故ヒヨリの穢土転生だけ崩れ落ちたのか。それは三代目はもちろん、術者である大
!?
﹁これは⋮⋮
土転生に必要な生贄が中から倒れ出てきたのだ。
ヒヨリの姿を模っていた塵 芥は形成された瞬間からすぐに崩れ落ちていき、最後に穢
ちりあくた
だったが、穢土転生の最後の一人である日向ヒヨリの様子が可笑しい事に気付く。
衝撃的な再会に驚きその再会がこの様な形で成された事を残念に思っていた三代目
?
﹁ガハハハハ
!
NARUTO 第十話
306
﹂
だけ歳を取っておるということはヒヨリも相当な年寄りになっているのだろう
てみたいものぞ
見
?
だが三代目はそれはあり得ないと言う事を確信している。
は死者を呼び出す術なのだから当然の話だ。
日向ヒヨリが生きている。それならば確かに穢土転生は失敗するだろう。穢土転生
!
﹂
!
大蛇丸はこのままでも二人を操る事が出来るが、そうすると二人の制御に力を割く為
全なる殺戮人形へと化す。
穢土転生による死者の頭の中に特別性の札を埋め込む事でその死者の人格を殺し完
と切り替えて行動に移る。
は穢土転生が成功した初代と二代目を完全な傀儡にして、師である三代目を殺すべきだ
大蛇丸も同じ疑問を抱いていたが、ここでこうして悩んでいても仕方のない事だ。今
失敗したのか。
確かに日向ヒヨリは亡くなっていたはずである。だというのにどうして穢土転生は
関しては疑問が残る物となっていた。
日向ヒヨリの穢土転生が失敗に終わった事は三代目に取って喜ばしい事だが、それに
傷が元で亡くなられたはず⋮⋮
﹁そんなはずは⋮⋮ヒヨリ様は確かに十五年前の戦争中に現れた三尾を食い止めた時の
307
に大蛇丸自身の三代目への対応が疎かになる可能性がある。
それを防ぐ為に敵を殺す為のマシーンに切り替えようとしているのだ。
﹄
そして大蛇丸が札を埋め込もうとした瞬間││結界の中に新たな乱入者が現れた。
﹃
三代目も大蛇丸も同時にそう思い、そして三代目はそれが味方
?
﹂
何故ここに
白眼の娘が何の用かしら
?
﹂
!?
三代目はこれから起こるだろう血みどろの殺し合いの中に入ってきたアカネを心配
乱入者の正体が判明した所で三代目も大蛇丸もすぐに落ち着きを取り戻した。
﹁日向
?
!
すぐにアカネの名を思い出した。
木ノ葉にいる忍││アカデミーの候補生は除く││ならば全員覚えている三代目は
三人一組を組まずに一人で下忍として活動しているという日向アカネ。
スリーマンセル
その姿に見覚えがあったのだ。去年アカデミーを卒業し、日向ヒアシの付き人として
であると判断した。
地した。新たな敵か
その乱入者は、暗部の侵入を拒んだ強力な結界を突き破り、三代目と大蛇丸の間に着
かった暗部も、新たに現れた存在に驚きを隠せなかった。
三代目も大蛇丸も、結界を張っていた大蛇丸の部下も、結界の外を見守るしか出来な
!?
﹁お前は⋮⋮日向アカネか
NARUTO 第十話
308
するが、大蛇丸はわざわざやって来た実験サンプルに興味を示していた。
﹂
!
﹂
!?
﹁ガハハハハ
﹂
大蛇丸は確信した。これは⋮⋮化け物だ。
蛇丸のプレッシャーの比でない。
あまりのプレッシャーに周囲の屋根はどんどんとひび割れていく。先の三代目と大
解した。
目の前の少女から放たれるプレッシャーに大蛇丸は先程までの考えが甘い物だと理
﹁これは⋮⋮
﹁う、おお⋮⋮
ない。そう思っていた大蛇丸は、すぐにその考えを破棄した。
結界を突き破っての闖入には驚いたが、三代目を殺すついでに貰っていくのも悪くは
だ。
日向一族は白眼に対する警戒心が強いので大蛇丸でも奪う事は容易ではなかったの
なかった。
世界各地から集めた珍しい能力を持っている大蛇丸の実験体の中にも日向一族はい
貰っておこうかしら﹂
﹁白 眼 は 持 っ て な か っ た わ ね ぇ。写 輪 眼 と 比 べ る と 見 劣 り す る け ど、貰 え る も の な ら
309
!
三代目と大蛇丸がアカネのプレッシャーに気圧されている中、初代火影は突如として
笑い出した。
お前は本当にオレを驚かせる
﹂
そして初代の隣にいる二代目火影も頭を抱えてアカネを見ていた。
﹁なるほど
﹂
!
!
﹂
﹁安心しろ。すぐに止めてやるから﹂
め、二人を見ながら微笑み語りかけた。
そしてアカネは初代と二代目の言葉を聞いてそれまで放っていたプレッシャーを弱
カネを見ている。
大蛇丸はその意味が理解出来なかった。だが三代目は理解出来たのか、驚愕の瞳でア
﹁⋮⋮まさかッ
﹁穢土転生が成功せんわけだ⋮⋮﹂
!
任せたぞ
!
!
﹂
木ノ葉は今日終わるのですよ 先代達は物言わぬ殺戮人形になっていただ
!?
きましょう
!
﹁何を
そして二人の返事にアカネもまた頷く事で返した。
アカネの言葉に、柱間と扉間は頷いて答えた。
﹁お前がどうして今ここにいるのかは知らん。だが、木ノ葉を頼んだぞ﹂
﹁うむ
NARUTO 第十話
310
!
大蛇丸からしたら戯言としか言えない台詞を吐く初代と二代目に苛立ち、大蛇丸はす
ぐに二人の頭に札を突き入れた。
徐々に二人の体が生気を帯びて行き、生前の姿へと近づいていく。
﹂
!
今更あなたの逆鱗に触れたところで⋮⋮
﹂
!
﹂
!
そう呼ぶのか。
何故火影ともあろう者が一介の忍││にしては強いチャクラを纏っているが││を
三代目火影がこの御方と呼ぶ人物だろうアカネを大蛇丸は怪訝に思う。
﹁ワシではない⋮⋮この御方のじゃ
だが、三代目の言う逆鱗とは己自身の事ではなかった。
人体実験をしていた大蛇丸だ。里を想う三代目にとってそれは許せない事だ。
大蛇丸は既に三代目の逆鱗に触れている。少なくない里の忍達を犠牲にして禁術の
﹁逆鱗
?
﹁愚かよの大蛇丸。人の道を外れ外道に成り下がり、その結果逆鱗に触れてしまった﹂
そこから感じ取れる怒りを知り、三代目は大蛇丸を見た。
それは三代目に有無を言わせない圧力を籠めた言葉だった。
﹁下がれ。二人は私が止める。大蛇丸もだ﹂
﹁しかし⋮⋮
﹁ヒルゼン。下がってなさい﹂
311
﹂
その疑問は、アカネの放つチャクラを感じている内に解けていった。
﹁まさかお前は
!
日向ヒヨリ
筋違いかもしれない⋮⋮が
大蛇丸 この二人を口寄せした事を後悔させてやろ
﹁扉間も他里の忍にしていた事だ⋮⋮私が怒るのは扉間の穢土転生の犠牲者からすれば
﹂
﹂
!
!?
う
﹁あなたは
﹂
!
!
いや、私と同じ術か
﹂
!?
を作り出し身に纏ったのだ。
まさか生きていたとはね
!
快なんだがな﹂
ふしてんせい
あなたの白眼はどれ程見通せるのかしら⋮⋮
?
いる。
﹂
他人の肉体を乗っ取る不屍転生を開発した結果、大蛇丸の本体は巨大な白蛇と化して
!
?
﹁そこまで見抜けると言うのね
!
﹁お前と同じ それはお前の中にいる白蛇の事か だとしたら一緒にされるのは不
!
無駄に放出されるチャクラを凝縮する事で視認出来る程に具現化したチャクラの衣
内へと圧縮されていった。
大蛇丸がアカネの正体に気付いた瞬間、アカネの体から更にチャクラが溢れ、一瞬で
﹁はぁっ
!
!!
﹁くっ
NARUTO 第十話
312
いいわ 興味があるわその術
!?
!
どうやって蘇っ
そして今の体の奥深くに隠してあるその本体をアカネは白眼にて見抜いていたのだ。
﹂
!
!
どの威力はないが、様々な形態変化により術の幅を大きく上げる事が出来る。
形態変化とは読んで字の如くチャクラの形態を変化される技術の事だ。性質変化ほ
螺旋丸とはかつて四代目火影が考案した形態変化を極限まで極めた忍術だ。
しかも柱間と扉間に大玉螺旋丸を叩き付けるというおまけ付きでだ。
た。
だがその術が発動する前に、アカネは二人を通り越して大蛇丸の前へと移動してい
れぞれ術を発動しようとする。
柱間が木遁││柱間のみに使用出来る血継限界││の印を、扉間が水遁の印を組みそ
﹁⋮⋮遅すぎる﹂
だが、その大蛇丸の考えはまだアカネという存在を過小評価した考えだった。
下手に手加減などすれば危ういのは己の身だ。
ろうとの判断だ。
殺戮人形故に加減は出来ないが、目の前の化け物は加減をしないくらいが丁度いいだ
大蛇丸はアカネを捕らえるべく殺戮人形と化した柱間と扉間をアカネにけしかけた。
た日向ヒヨリィィィ
﹁しかも不屍転生ではない⋮⋮
313
NARUTO 第十話
314
ちなみに忍術を使用する時に必要な印は形態変化を簡易的に使用する為に開発され
た物だ。この印を組む事で性質変化をした術に様々な形態を加え、それが火遁や水遁な
どに代表される術となるのである。
そして螺旋丸は印を用いず形態変化のみで最大の威力を持てるようにする思想で開
発された。
掌からチャクラを放出し、それを乱回転させて更に圧縮して球状に留め、それを対象
にぶつける術である。
言葉にすれば簡単だが実際にこの術を会得するのは非常に困難だ。忍術の会得難易
度で言えばAランク。上から二番目である。
相当なチャクラ操作とチャクラ放出の技術が要される高等忍術であった。現在螺旋
丸を会得している忍は数える程だ。
ちなみに術を開発し命名したのは四代目火影だが、アカネはヒヨリとして生まれた時
から螺旋丸を会得していた。
長きに渡る人生で似たような技を開発していたのである。印を用いずに使用出来て
かつ高威力を誇るのでアカネも愛用している術だ。
その術を両手で作り出し、その大きさを人一人が飲み込める程に大きくして柱間と扉
間にぶつけたのだ。
それだけではない。穢土転生体は例え体を損傷してもすぐに塵芥が集まり元に戻っ
てしまう。いくら攻撃しても倒す事が出来ない不死身の兵と化すのだ。
だからアカネは二人を攻撃した螺旋丸を自身の体から離れてからもそのまま維持し
続けた。二人が再生してもすぐに破壊して、再生と破壊を繰り返させる事で行動不能に
陥らせたのだ。
例え二人の肉体が動き螺旋丸からずれた場所で再生しようとしてもすぐにアカネが
螺旋丸を操作して二人の体を攻撃し続ける。
螺旋丸は掌から放出されるチャクラを操作して作り出す術だ。これは掌がもっとも
チャクラ放出に向いている箇所なのが理由だ。
それを肉体から離しても維持し続ける。そのチャクラ放出とチャクラ操作、二つの
チャクラの技術が桁外れに高いアカネだからこその芸当である。白眼で二人の位置を
確認しているのも要因の一つだ。
﹂
﹁ふ、ふふははは
忍の真の力
!
素晴らしい⋮⋮
!
これが
!
これがお伽話にすらなった初代三
!
りを破られると理解していたからか⋮⋮﹂
ない。お前がそうしなかったという事は本来の力で二人を復活させると穢土転生の縛
﹁所詮は不完全な穢土転生。柱間と扉間が本来の力で蘇っていればこんな攻撃は通用し
315
大蛇丸をしてアカネの力は桁違いと思わざるを得なかった。
瞬神と呼ばれた四代目以上の速さ、螺旋丸の高等応用技、そして今も周囲を圧迫する
程の圧力を放ちながらも一切の無駄な破壊を生み出していない高密度なチャクラの衣。
まさに伝説の忍。木ノ葉を築き上げた最強の三忍その一人。
﹁大蛇丸。お前は少々やりすぎた。幼い頃はこうではなかったのに、いつから⋮⋮﹂
﹁さあ、それは私にも分かりませんねぇ⋮⋮。私はただこの世の全てを解き明かしたい
だけなのですよ﹂
この世の全てを解き明かす。それは全ての術を知りこの世の全ての真理を理解する。
それが大蛇丸の欲望。
ふしてんせい
だが人の身でそれを成すには時間が足りな過ぎる。有限の身では全ての真理を理解
するなど不可能だ。だからこそ大蛇丸は不屍転生を開発したのだ。
﹂
!
それは一度不屍転生を行うと三年ほど時間を開けないと再び使用出来ないという物。
ふしてんせい
大蛇丸の不屍転生にはある欠点があった。
ふしてんせい
その秘密⋮⋮是非とも教えて頂きたい物です⋮⋮
﹁まるで悠久の時を手に入れているかの様なお言葉ですね。死して新たな肉体で蘇った
ても達する事が出来ない境地だ﹂
﹁そんな事は全知全能にでもならない限り不可能だ。そしてそれは悠久の時を手に入れ
NARUTO 第十話
316
だがアカネの術にそう言った欠点がないのなら、しかも乗っ取る相手を見繕う必要が
ないのなら、それは大蛇丸にとって理想の転生忍術と言えた。
﹂
!
﹂
!
││
!
いくら暴風に耐える為に踏ん張ろうとも、足場その物が吹き飛べば踏ん張りようがな
う。
だが屋根の上という不安定な足場を崩し、アカネを宙に吹き飛ばす事なら出来るだろ
この程度の忍術でアカネを傷つける事は不可能だと大蛇丸も理解している。
だがこの攻撃はアカネにダメージを与える為のものではなかった。
大蛇丸の口から暴風が吐き出され、荒れ狂う暴風がアカネを襲う。
││風遁・大突破
幻術が一切効果ないとすぐに悟った大蛇丸は忍術による攻撃を選択した。
だが幻術の類はアカネの能力によって完全に無効化されてしまうのだ。
大蛇丸はアカネの肉体を無傷で手に入れる為に幻術を仕掛ける。
﹁やってごらんなさい。出来るものならね
﹁だったらあなたの体を乗っ取ってでも⋮⋮
しようとアカネの能力を会得する事は出来ない。
アカネの転生能力は忍術ではないのだ。例え誰であろうと、この世の全ての術を会得
﹁無駄ですよ。これは私だけの術。あなたが使う事は不可能です﹂
317
いのだから。
そうして宙に吹き飛んだ所を体の中に口寄せしてある草薙の剣で攻撃する。
草薙の剣は大蛇丸の持つ忍具の中でも最大の切れ味を誇る剣だ。また自在に刀身を
伸ばす事も出来る。結界がある為アカネが吹き飛び過ぎない様になっているのも計算
づくだ。
こ れ な ら ば ア カ ネ が い か に チ ャ ク ラ の 衣 で 身 を 守 っ て い よ う と も 貫 く 事 が 出 来 る。
大蛇丸は草薙の剣を空中で無防備となっているアカネへと伸ばそうとして││
﹂
そればかりか足場もないと言うのに宙に浮いて元の位置を維持しているのだ。未だ
アカネの位置は大蛇丸が風遁を放った時から僅かたりとも後ろに下がってはいない。
微動だにしていないアカネを見て驚愕する事となった。
﹁なッ⋮⋮
!?
暴風はアカネを襲っているというのにだ。
﹂
!
草薙の剣は確かにアカネに命中した。だが高速で回転するチャクラによって草薙の
向から否定される事となった。
当たりさえすれば致命傷を与える事が出来るはず。その大蛇丸の考えはまたも真っ
大蛇丸はそれでも構わずにアカネに向けて草薙の剣を伸ばした。
﹁くっ
NARUTO 第十話
318
いえこれは
││
剣はアカネにかすり傷一つ付ける事も出来ずに弾かれたのだ。
││か、回天
!
﹁ぐがああ
﹂
││柔拳法八卦六十四掌││
チャクラの流れを塞き止める日向宗家にのみ伝わる秘伝。
そ し て 放 た れ る は 柔 拳 の 奥 義。瞬 時 に 相 手 の 点 穴 を 流 れ る よ う に 打 ち 続 け る 事 で
近した。
アカネは大蛇丸の攻撃を廻天にて弾いた後、そのまま廻天を維持しつつ大蛇丸へと接
の奥義、廻天である。
肉体ではなく放出したチャクラそのものを回転させる事で攻撃を弾く回天の更に上
そう、大蛇丸が気付いた様にこれは回天ではない。
!?
の手で排除してもらわない限り大蛇丸はまともにチャクラを練る事も出来ないだろう。
これで時間が経っても点穴は解除される事はない。アカネがチャクラを消すか、誰か
アカネのチャクラを点穴に突き刺して残しておく。
肉体の奥深くに隠れている白蛇まで浸透するようにチャクラを鋭く突き刺し、その上
いていた。
凄まじい速度で繰り出される攻撃はその全てが大蛇丸の本体である白蛇の点穴を突
!?
319
さらには体の内部から焼かれる様な痛みが常に大蛇丸を襲い続ける。これがアカネ
が大蛇丸に下す罰であった。
だ人の痛みを僅かでも思い知れ﹂
﹂
﹁これでお前の大半の術は奪った。そしてその痛みは永劫消える事はない。お前が弄ん
くそ⋮⋮
!
来しか待っていない。
はないのだ。このままでは木ノ葉に捕われ永劫の苦しみを味わうか、座して死ぬかの未
悪態を吐く余裕もなく大蛇丸は痛みに悶えながら思考する。そんな事をしている暇
﹁ぐ、うううぅうっぅ
!
﹂
何とかして逃げなくてはならない。生き延びさえすれば方法はあるのだから。
﹄
﹁あなた達
﹃はっ
!
めがアカネに通用するわけもなかった。
部下に僅かでも時間を稼がせて自分は逃げ切るつもりだろう。だが、この程度の足止
大蛇丸はそれに呼応する様に後ろへと下がって行った。
結界を張っていた大蛇丸の部下が結界を解除して主人を守るように飛び出してくる。
!
アカネに向けてチャクラを流し込んだ粘着性の糸を飛ばしてくる音忍。だが既に糸
﹁喰らえ蜘蛛しば││﹂
NARUTO 第十話
320
を飛ばした場所にアカネの姿はなかった。
﹂
﹂
﹁逃げ切れると思うなよ大蛇││む
﹁くっ⋮⋮役立たずめ
﹂
その速さに対応出来た音忍はおらず、残りの三人もあえなく気を失う事となった。
える。
アカネは経絡系を突いて音忍の一人を気絶させた後、すぐに残りの音忍へと攻撃を加
その言葉を最後に糸を飛ばした音忍は気を失った。
﹁ど、どこに
!
この消え方、口寄せ解除か
﹂
だがその攻撃は寸でのところで止まる事となった。それは何故か
﹁消えた
!?
﹁馬鹿な⋮⋮
プライドの高いあ奴が口寄せされていたじゃと
﹂
!?
除すれば確実に元の場所まで時空間を飛び超えて一瞬で移動する事が出来るのだから。
だが確かに効果的な逃走方法だ。予め口寄せにて現れていたならば、その口寄せを解
大蛇丸が誰かと口寄せ契約をする様な人間だとは思ってもいなかったのだ。
その事実に大蛇丸の師である三代目火影も驚愕していた。
!
そう、アカネが攻撃を止めたのは肝心の大蛇丸がその場から急に掻き消えたからだ。
?
?
逃げようと足掻く大蛇丸に止めとなる一撃を加えようとしたアカネ。
!?
!
321
﹁⋮⋮やれやれ。面倒事を片付けられませんでしたか﹂
そう呟きつつも、まだ木ノ葉には面倒事が残っている事を思い出し、それをアカネは
片付けようと白眼にて当の面倒事を確認する。
﹁⋮⋮あれは﹂
アカネが見た物は、面倒事である尾獣が一体・一尾と闘っているナルトの姿だった。
ナルトはあの一尾を相手にガマブン太を口寄せし、協力して渡りあっている。
人柱力と力を合わせていない尾獣とはいえ、それでも尾獣は強大だ。
それを相手に一歩も退かずにナルトは闘っていた。
﹁⋮⋮ふふ﹂
これなら大丈夫だ。アカネはそう確信を持って言えた。
今のナルトは誰かを守る為の目をしており、そして敵を憎む目をしていない。そうい
う目をした者は強い。アカネはそれを長き人生で知っていた。
ナルトを信じて九尾を封じ込めたのだろうとアカネは思う。
アカネにそう思わせる何かがナルトにはあった。恐らくミナトもそれを感じ取って
じていた。
もっとも、その必要はないだろう。何故かアカネはそう思えるほどナルトが勝つと信
﹁もしもの事があれば加勢してあげるから、全力でやりなさいナルト﹂
NARUTO 第十話
322
そんな風に過去に思いを馳せ、地味に現実逃避をしていたアカネは後ろから感じる複
﹂
数の視線に気付きつつもあえて無視していた。
いけナルト
﹁⋮⋮ヒヨリ様﹂
﹁おお、そこだ
﹂
﹂
私は日向アカネというしがない下忍でして。ヒヨリ様という超絶美女くノ一
﹁ヒヨリ様
!
とご一緒にされるとヒヨリ様に申し訳ないのですが
?
の名は伊達ではないのだ。
だが残念。アカネはそれくらい容易に読み取る洞察力を備えているのだ。初代三忍
あるが、命が惜しくてそれを口にする事はなかった。
アカネの過去だろう人物を想像すると果てしなく似合わない仕草と思ったカカシで
﹁⋮⋮﹂
﹁⋮⋮てへぺろ﹂
日向ヒヨリと面識のある忍だ。
三代目火影、はたけカカシ、うちはオビト、マイト・ガイの四人である。全員生前の
アカネが後ろを振り向くと、アカネの予想通り四人の忍にじーっと見られていた。
﹁それで誤魔化せると思っておられるなら些かワシ等を馬鹿にし過ぎですが﹂
?
﹁はて
!
!
323
﹁何か言いたそうですねカカシさん。下忍なんかに遠慮せず言っても良いんですよ
﹁空が青いですねー。あ、鷹だ﹂
どこかで聞いた事のある様な誤魔化し方をするカカシ。
カカシは自来也の孫弟子に当たるので、余計な所まで継承したのかもしれない。
﹂
﹂
?
ていた。それは日向ヒヨリも例外ではない。
オビトは小さい頃から老人と仲良くなるのが得意で、木ノ葉の全ての老人と知り合っ
思い出した。
昔から泣き癖がある子だったなとオビトの幼い頃を良く知っているアカネはそれを
オビトは残った右目からだーだーと涙を流していた。
﹁うう、生きてたんですねヒヨリ様
!
︶生きていて非常に嬉しく涙を禁じえないようだ。
そしてオビトは命の恩人であるヒヨリを今も尊敬し慕っていたのだ。亡くなったヒ
ヨリがこうして無事︵
?
﹂
?
させて頂きます﹂
んな疑わしそうにこっちを見るんだヒルゼン
﹁ええ。私もこの状況で白を切るつもりはありませんよ。⋮⋮本当ですよ
最初に白を切った本人に言われても説得力という物がないだろう。
?
なんでそ
﹁ヒヨリ様、色々と事情を聞かせてもらいたいのですが⋮⋮今は非常事態ゆえ後回しに
NARUTO 第十話
324
﹂
﹂
﹁この戦争の片が付いたらこの場にいる人と信用の置ける忍を集めておきなさい。その
すぐに戦争を終わらせるぞ
時に全てを説明しましょう。でも、出来るだけ少ない人数でお願いしますよ
﹄
﹁かしこまりました。皆の者
﹃はっ
!
?
◆
こうして木ノ葉隠れと砂隠れの戦争は終わりを告げた。
しても無駄に戦争を続けて被害を拡大するつもりはなかったのだ。
木ノ葉はそれを承諾。戦争を仕掛けて来た砂の掌を返した様な申し出だが、木ノ葉と
出してしまった砂隠れは木ノ葉に全面降伏を宣言。
後に、戦争により里の戦力低下を招くという本来の計画からすれば真逆の結果を生み
ら撤退。
そしてナルトが一尾とその人柱力である砂の我愛羅を倒した所で砂隠れは木ノ葉か
亡や重傷で戦闘不能に陥っており、無事な砂忍も大半が戦意を喪失していた。
と言っても既に大蛇丸は退場し、一尾もナルトが抑えている。残りの砂忍の多くが死
そうして三代目と共に上忍たちが砂忍との決着をつけにいく。
!
!
325
とある薄暗い部屋の中に二人の人物がいた。
﹁危ないところだったわ⋮⋮﹂
一人は大蛇丸。全身を襲う痛みに耐えながら大蛇丸は安堵の溜め息を吐いていた。
口寄せの術を利用した移動法で上手く木ノ葉から逃げ延びた大蛇丸。
後僅かに口寄せ解除が遅ければ⋮⋮。やはり口寄せ契約を交わしておいて正解だっ
たと大蛇丸は自分の英断を内心で褒め称える。
大蛇丸は木ノ葉の戦力を舐めてはいない。今の木ノ葉には自身を脅かす存在が最低
でも五人はいると判断していたのだ。
それが三代目火影・うちはシスイ・うちはイタチ・日向ヒアシ・日向ヒザシの五人で
ある。
一人一人ならば勝つ自信もあったが、二人同時ならば勝ち目は薄く、三人以上ならば
まず勝てないだろう。それ程の実力者達だ。
だからこそ念には念を入れて緊急避難用に口寄せ契約を結んでいたのだ。
このカブトこそが大蛇丸と口寄せ契約を結び、大蛇丸をこのアジトへ呼び戻した張本
える忍の一人にして大蛇丸が最も重宝している男である。
そして大蛇丸の隣で彼に医療忍術を掛けている男。彼の名前はカブト。大蛇丸に仕
﹁ご無事で何よりです﹂
NARUTO 第十話
326
人であった。
ああ、私が死
?
大蛇丸は木ノ葉を抜け出してから暁に入り、多くの人体実験を繰り返していく中で一
だ。
大蛇丸は戦争で傷ついた肉体をカブトに癒してもらった時にその才能を見出したの
う。才能があったからこそ、カブトは大蛇丸に目を付けられたのだから。
幸いと言っていいのかカブトには医療忍術の才能があった。いや、不幸だったのだろ
の忍を癒してきた。
カブトもまたマザーと呼ばれるカブトを拾ってくれた恩人に医療忍術を教わり、多く
なしていた。
多く得る為に孤児院の職員や子どもは医療忍術にて木ノ葉の忍を癒すという仕事をこ
孤児院は火の国や木ノ葉の里から補助金を受けて経営されており、その補助金をより
かつてカブトはとある孤児院に世話になっていた一人の戦災孤児であった。
かった。
大蛇丸の言葉に無言で返すだけのカブト。彼は望んで大蛇丸に仕えている訳ではな
﹁⋮⋮﹂
ねばあなたの大切な人も危なかったわねぇ⋮⋮﹂
﹁ふん⋮⋮あなたにしたら私が死んだ方が良かったんじゃないかしら
327
NARUTO 第十話
328
つの不満を抱えていた。
それは術の開発に使用される人間の数が多い為その補充が追いつかないという事だ。
人体実験に使用した人間が使い捨てではなく、
あまりに多くの人間を攫って人体実験を繰り返していれば流石に木ノ葉や他里の忍
に気付かれやすくなる。
それを防ぐにはどうすればいいか
再利用出来る様にすればいいのだ。
そのマザーは大蛇丸に捕らえられ、いつでも大蛇丸の意思一つで殺せるように処理さ
親よりも愛している何よりも大切な存在だ。
カブトに取ってマザーは命の恩人であり名付け親であり自分の理解者であり、本当の
それこそが孤児院のマザー、ノノウであった。
したのだ。
だから大蛇丸はカブトを調べ上げ、カブトが己の命よりも大切にしている者を人質に
る。
口憚るような手段を取れば話は別だが、それでも意思が強い者ならば裏切る可能性はあ
もちろんただ拉致しただけでカブトが自分の命令を聞くとは思っていない。色々と
とした。
そんな悪魔の様な思考で大蛇丸は優秀な医療忍者であったカブトを拉致して己の駒
?
れてしまったのだ。
さらに大蛇丸はマザーだけでなく孤児院その物もカブトを脅す材料にした。孤児院
はカブトの家というだけでなく、血は繋がってないが兄弟と思っている多くの仲間がい
る。
そんな存在も大蛇丸の手に掛かればいとも容易く破壊されてしまうだろう。カブト
は大蛇丸に頭を垂れるしかなかったのだ。
だがカブトも大蛇丸にただ従っているだけではない。虎視眈々と復讐の機会を待ち、
そして僅かばかりの嫌がらせに大蛇丸や暁の情報を巧妙に隠して木ノ葉の一部の忍に
伝えていた。
それが大蛇丸と同じ三忍の自来也だったりする。自来也が仕入れていた大蛇丸や暁
に関する情報の多くはカブトから手に入れたものだったのだ。
るのだ。
それは大蛇丸に間断無い痛みを与え続け、しかもチャクラを練る事を阻害し続けてい
塞がっている。
大蛇丸の本体である白蛇の点穴の内六十四は今もなおアカネのチャクラ針によって
カブトの治療を受けた大蛇丸は未だ己を苛む痛みに呻く。
﹁⋮⋮もういいわ。ぐぅ⋮⋮少しは楽になったけど⋮⋮﹂
329
三忍と言われた大蛇丸だからこそチャクラを多少は練る事が出来ているようだが、一
般的な忍ならば僅か足りともチャクラを練る事は出来ないだろう。
﹂
そしてそれらはカブトの卓越した医療忍術でも癒す事は出来なかった。
﹁おのれ日向ヒヨリ⋮⋮
﹁ふふふ⋮⋮今なら簡単に私を殺せるわよ
﹂
らにはそれが事実なのだと理解して更に驚く。
日向ヒヨリ。とうに死んだはずの人間の名前が出た事に驚き、そして大蛇丸が言うか
静かに怒気を現す大蛇丸の言葉にカブトは内心で驚いていた。
!
?
もしかしたらそれは大蛇丸のはったりなのかもしれない。だが大蛇丸ならばそんな
死ぬようになっているとカブトは大蛇丸に説明されているのだ。
マザーがどこにいるかカブトは知らされていない。そして大蛇丸が死ねばマザーも
がそれで殺せたとしても、マザーを助ける事は出来ないのだ。
今もカブトはこの弱った大蛇丸の首を掻っ切ってやりたい衝動に襲われている。だ
情で占められていた。
そしてそんなカブトの内心は大蛇丸への殺意とマザーと孤児院を心配する二つの感
カブトの内心は大蛇丸でも計りきれない。それほど上手くカブトは己を殺していた。
﹁ご冗談を⋮⋮﹂
NARUTO 第十話
330
仕組みをマザーに仕込むのも容易いと思わされている。
その思いがある限りカブトは大蛇丸を表面上は裏切る事が出来ないでいた。
浮かべ、闇の中へと消えて行った。
かもしれないという希望的観測だが、その未来を想像した大蛇丸は暗く歪んだ嗤いを
で弱った所を上手く突けば乗っ取りも可能かもしれない。
あの伝説の力を上手く誘導すれば、暁を出し抜く事も可能かもしれない。暁との戦闘
﹁くくく⋮⋮﹂
たアカネの姿を思い浮かべる。
大蛇丸は新たな器候補であるサスケと、今もなお生きて伝説の力をそのままに振るっ
ない⋮⋮﹂
﹁ふん⋮⋮。まあいいわ。木ノ葉崩しは失敗に終わったけど、収穫がなかったわけじゃ
331
NARUTO 第十一話
木ノ葉の里のある一室に複数人の忍が集まっていた。
その面子は三代目火影を中心としてそうそうたる物で、木ノ葉のご意見番である水戸
門ホムラとうたたねコハル。暗部の中の一部隊﹃根﹄の主任である志村ダンゾウ。二代
目三忍の一人自来也。火影の右腕うちはシスイに左腕日向ヒザシ。日向の長である日
向ヒアシにうちはの長であるうちはフガク。木ノ葉有数の上忍であるはたけカカシに
うちはオビトとマイト・ガイにうちはイタチ。
以上の十三人と後一人が一室に揃っていた。この十三人がその気になれば彼らだけ
で幾つかの国を落とす事も可能だろう。そんな実力者達だ。
そんな実力者達が一人の少女を見つめていた。現在渦中の人物と化してしまった日
向アカネである。
﹁とまあ、そういうわけでして。一応この事はこのメンバー以外には秘密にしておいて
対するアカネは必殺忍術・かくかくしかじかを放った。
皆を代表して三代目がアカネへと詰問した。
﹁では、説明していただきましょうか﹂
NARUTO 第十一話
332
ください。外に漏れると厄介事しか呼びませんからね﹂
アカネの言う事は正しい。転生の秘術などという代物を知れば多くの存在がそれを
求めてやってくるだろう。
例え転生の秘術がアカネにしか使えないのだとしてもそんな事は関係ないのだ。欲
にまみれた人間は受け入れやすい事柄のみを事実と信じ、受け入れがたい事実は信じな
いものなのだ。
この場の人間以外にも木ノ葉には信用の置ける上に立場もある忍は多くいる。だが
秘密というものは多くの人が共有すればするほど漏れやすくなるものなのだ。である
ので少なくとも今はこの十三人のみがアカネの秘密を共有する事となった。
日向の現当主にそう言われては疑る事も出来はしない。
﹁御二方、信じがたいとは思いますがこれは真実です。それは私が保証いたします﹂
もアカネの存在に驚いていた。
その力も死に様も三代目と同じくこの場の誰よりも知っている。だからこそ誰より
知っていた人物達だ。
相 談 役 の コ ハ ル と ホ ム ラ は 三 代 目 の 同 期 の 忍 だ。幼 い 頃 か ら ヒ ヨ リ の 存 在 を 良 く
﹁こうして目の前にしても信じられん⋮⋮﹂
﹁なんと⋮⋮ヒヨリ様が転生なされたとは⋮⋮﹂
333
日向ヒアシという人物が下らない嘘を吐く人物でない事をこの場の全員が良く知っ
ているのだ。
だ
﹂
﹁間違いないぜコハル婆ちゃんホムラ爺ちゃん このチャクラはヒヨリ様のチャクラ
!
カネを疑う事はなくなった。
?
用してきそうだったし⋮⋮﹂
らダンゾウとかホムラとかダンゾウとかコハルとかダンゾウとかが絶対に私を有効活
﹁いやまあ、転生なんて大っぴらにしたくはありませんでしたしね。それに⋮⋮教えた
三代目のその言葉にアカネは頬を掻きながら返した。
﹂
次々とアカネがヒヨリの転生体であると保証する声が上がる事で、この場の全員がア
蛇丸を容易く撃退した強さ。疑い様などある訳がない﹂
﹁ワシも疑ってはおらぬ。あの時の初代様と二代目様の反応。そしてチャクラの質と大
転生体よ﹂
﹁ワシも保証しよう。この一年間アカネと旅をしてきたが、まあ間違いなくヒヨリ様の
自身の右半身を癒してくれた力強く暖かいチャクラを間違える訳がなかった。
オビトはその右目の写輪眼で見切るまでもなく自信を持ってそう言えた。
!
﹁しかし何故それをもっと早くに教えていただけなかったのですか
NARUTO 第十一話
334
﹂
﹁当たり前です。あなた程の力があれば里にどれだけの貢献が出来るか。あと、ワシの
名前が多いのはどういう事ですかな
を遊ばせておくつもりは毛頭なかった。
ダンゾウは使える物は親だろうが子だろうが使う性分なのでアカネという最大戦力
今まで黙っていたダンゾウがアカネの言い分にそう返す。
?
﹁そうですか。では暁の危険性も良く理解出来たでしょう。私は暁に対抗する為に出来
﹁それは既に自来也から聞いております﹂
﹁あと、暁という組織についても調べてますよ﹂
蛇丸と砂隠れによる木ノ葉崩しはもっと大きな被害を受けていただろう。
そう言われてはダンゾウも強くは言えなかった。実際アカネがいなければ今回の大
﹁まあ、それは確かにそうですが⋮⋮﹂
﹁それにまあ、ちゃんと木ノ葉の為に働いてるじゃありませんか﹂
それでアカネを止められる訳もなかった。
好きだの嫌いだので動かれては忍が務まるか。そう考えているダンゾウであったが、
﹁今は子どもですし。十四歳ですし﹂
﹁子どもですかあなたは⋮⋮﹂
﹁ほらぁ。こうなるから嫌だったんですよ﹂
335
るだけ里に縛られずに動きたいんですよね﹂
里の任務などで動いていてはいざという時に対応が間に合わない可能性がある。
それを防ぐ為にもアカネは自由行動権を欲していた。これまではヒアシ付きの下忍
という立場でそれを得ていたが、こうして木ノ葉の中枢に正体を知られたなら改めてそ
の権利を得る必要があるのだ。
﹁それは了解いたしました。ワシからの特別任務という形を取りましょう﹂
三代目のその意見に反対する者はいなかった。
くださいね。敬語も必要ありませんし、アカネと呼び捨てで結構です﹂
﹁ありがとうヒルゼン。それと皆にお願いが。私の事は公には普通に下忍として扱って
﹁それは⋮⋮﹂
﹁確かに必要な処置ですが⋮⋮﹂
﹁分かったぜアカネちゃん いやぁあのヒヨリ様をこう呼ぶなんて思ってもいなかっ
たのだ。
彼らはヒヨリとの付き合いが長かった為にすぐに了承の意思を見せる事が難しかっ
アカネのお願いに特に難色を示したのが老人四人だ。
﹁ヒヨリ様を呼び捨てとは⋮⋮﹂
﹁むう⋮⋮﹂
NARUTO 第十一話
336
!
たぜ
﹂
﹄
!
﹁そう言えばヒルゼン。柱間と扉間はどうなりました
﹂
﹂
﹁残念ながら⋮⋮大蛇丸が穢土転生を解除したのでしょう。封印の手前にて穢土転生は
その間に三代目火影は封印術にて二人を封印しようとしていたのだが⋮⋮。
続ける事で抵抗する事も出来ずにいた。
穢土転生の術にてこの世に口寄せされた柱間と扉間はアカネによって常に破壊され
?
思い出した。
そうしてアカネの正体と今後の対応について一通り話終えた所で、アカネはある事を
﹃はっ
﹁まあそう言うわけです。今後ともよろしくお願いしますね皆さん﹂
そして老人と若者の中間と言える者達は公私の区別を上手く付ける様にしていた。
﹁ああ。私も屋敷ではそうしていたよフガク殿﹂
問題ないでしょう﹂
﹁公の場では下忍として扱い、事情を知る者だけならばヒヨリ様と応対する様にすれば
た。
対してまだ若い││と言っても老人組からしたらだが││者達は柔軟に対応してい
?
!
﹁お前はお前で馴染むの早いね⋮⋮。まあ了解だアカネ。これでいいんですよね
337
解除されました⋮⋮﹂
﹁やはりか⋮⋮﹂
そう。穢土転生は口寄せの術の一種なので相手は口寄せにて呼び出された存在なの
だ。元の術である穢土転生を解除すれば呼び出された死者は再び浄土へと戻るだろう。
つまりもう一度大蛇丸が穢土転生を使用すれば再びあの二人が口寄せされる事にな
るというわけだ。
﹂
﹁まあ今の大蛇丸がまともにチャクラを練る事は不可能でしょうが﹂
しかしそれはいずれ回復するのでは
?
するだろう。
三代目の疑問は尤もだ。いくら点穴を突いて経絡系を封じたとしてもいずれは回復
﹁点穴ですか
?
﹂
﹁その様な技術が
!
う。
﹂
共に日向最強の二人なのだが、そんな彼らが知らない技術なので余計に驚いたのだろ
アカネの説明に一番驚いているのはヒアシとヒザシの二人だった。
!
﹁なんと⋮⋮
さない限り経絡系が癒える事はありません﹂
﹁いえ、大蛇丸の点穴の奥深くに針の様に鋭いチャクラを残しておきました。それを外
NARUTO 第十一話
338
﹁と言ってもこれってあまり使い道ありませんよ 敵を倒すなら普通に点穴突けばい
が使い道があるだろう。
点穴は敵を無力化する時か、味方に突いてチャクラの増幅を図る時かのどちらかの方
こむ方が早いのは道理だろう。
言うなればわざわざ六十四回敵を攻撃しているわけだ。それよりも柔拳を一回叩き
方が早かったりする。
点穴を十だの二十だの六十四だの突くよりも、経絡系に大量のチャクラを流し込んだ
と自体が無駄だと実は思っていたりする。
それだけで敵を無力化し倒す事が出来るだろう。まあアカネとしては点穴を突くこ
だけで十分なのだ。
そう、敵を倒すという一点ならばこのような技術を使うまでもなく普通に点穴を突く
いだけなんですから。これはお仕置き用の裏技みたいなものです﹂
?
全ては大蛇丸に他人の痛みを少しでも理解させる為にだ。点穴を突かれるというの
攻撃方法を選んだ。
そう、あの時アカネは大蛇丸をただ倒すのではなく、死にはしないが苦痛が持続する
ね。すみません﹂
﹁お 仕 置 き に 拘 ら な け れ ば こ こ で 終 わ り に 出 来 て い た の で す が ⋮⋮ 私 の 判 断 ミ ス で す
339
は内臓を直接攻撃されるようなもので、その痛みは慣れ親しめるものではない。
更にこの世の全ての術を手にしたいと願っている大蛇丸がその術の源であるチャク
ラの大半を奪われてはその苦しみは想像を絶するものだろう。
そうして大蛇丸を無効化しておいて、その後捕らえて尋問なり投獄なりするつもり
だったのだ。口寄せの術を利用して逃走されるとはその時は想像していなかったアカ
ネであった。
﹁ふむ。まあ逃げられた事は仕方ないでしょう。この話はこれで終わりとしよう。次の
話だが⋮⋮﹂
ダンゾウが流れを変えるように話を切り出した。その内容とは⋮⋮火影交代につい
てだった。
る。
ているのも四代目が早くに死去してしまい、火影として相応しい者がいなかった為であ
それは三代目も自覚していた事だった。元々三代目が今の木ノ葉の火影として立っ
が重い﹂
界は大きく動き出すじゃろう。その時にワシの様な年寄りでは木ノ葉を動かすには荷
﹁⋮⋮そうだな。ワシも歳を取りすぎた。大蛇丸といい暁といい、これから木ノ葉と忍
﹁ヒルゼン。そろそろ五代目火影を決める時だろう﹂
NARUTO 第十一話
340
いや、正確には三代目が五代目にと思う者は複数いた。だがその誰もが五代目火影就
任を拒んだのだ。
例えば日向ヒアシ。彼は日向の宗家としての立場からその就任を断った。そして弟
のヒザシも宗家の存在を鑑みて宗家より上の立場に立たないよう断っている。
うちはイタチも自分は若く未熟だとして断り、そしてシスイもまた同じであった。
ちなみにアカネを火影にするという案は流石になかった。若くそして誰よりも強い
が、表だった実績が少ないので木ノ葉の忍が認めないだろう。
ヒヨリという正体を明かすなどもっての他であるし、そもそもヒヨリは木ノ葉創生期
の人間だ。そんな彼女に木ノ葉を任せるなど今の木ノ葉はオムツも取れてない赤子と
言っているようなものだ。それを容認出来る者はこの場にはいなかった。
の句を告げなくなる程の返答であった。
ヒルゼンが全てを言い出す前にダンゾウは自分の思いを語りきった。ヒルゼンも二
﹁大体ワシもお前と同じ歳だろうに﹂
﹁⋮⋮﹂
影に出来ぬ仕事をするのがワシの役目よ﹂
﹁自来也か綱手姫が良かろう。ワシは裏方よ。根が表に出るなど大木を枯らす行為。火
﹁ダンゾ││﹂
341
ヒルゼンとしてもダンゾウに火影をしてもらうのはあくまで次の火影が決まるまで
の繋ぎをと考えていたのだが、こうも頑なに断られては口に出す事も出来なかった。
﹁ワシは断る。火影なんて柄じゃないんでのォ。綱手にやらせるのが一番だろうよ﹂
﹁だが綱手姫は今どこにいるか⋮⋮﹂
自来也が言っているのはナルトの事である。
﹁ワシが探してこよう。ついでに旅の共に連れて行きたい奴もいるしな﹂
これを機にナルトに本格的に色々と指導しようとしているのだ。
暁がナルトを狙っているのはほぼ確定している。ならば早急にナルトを強くする必
要があった。
ナルトを守るのはナルトそのものが強くなるのに越した事はないのだ。
﹃はっ
﹄
い。各自里の復旧に力を貸してくれ﹂
﹁ではこれにて会議を終了する。今回の戦争の被害は少なかったがなかったわけではな
これで一先ずの方針が決定したのでこの会議も終わりとなる。
﹁仕方ないのぅ﹂
を牽引してもらうぞ﹂
﹁では頼んだぞ自来也。綱手姫が戻るまでは今まで通りヒルゼン、お主が火影として里
NARUTO 第十一話
342
!
﹁それじゃあ私もこれで﹂
会議が終了したのでこの場から立ち去ろうとするアカネ。
だがそんなアカネに声を掛ける人物がいた。それも複数もだ。
好きだった団子屋まだあるから一緒に食べに行かないか
!
もちろんオレの奢りだ
﹂
!
!
﹁じゃあ団子屋に││﹂
!
?
らのコールであった。
修行の相手でも頼みこむのか
この場の殆どの者がそう考えていたが、ガイの頼み
アカネがオビトの誘いに乗ろうとした所で待ったコールが発生。それは何とガイか
﹁ちょっと待ったーーッ
﹂
ちなみにアカネが一番惹かれているのはオビトの誘いだったりする。
だったが。
な ど と フ ガ ク の 声 を 皮 切 り に ア カ ネ に 対 し て 多 く の 誘 い が 出 て い た。全 部 う ち は
?
﹁そんな事よりアカネちゃん 命を救ってくれた恩返しをしたいんだ ヒヨリ様の
コントロールは写輪眼でも真似る事が出来ない代物。是非ともご教授願いたい﹂
﹁知識の披露もいいですが、私は稽古をつけてくれると嬉しいです。あなたのチャクラ
火影と我らが先祖うちはマダラとの話などを聞かせて頂けるとありがたいのだが﹂
﹁アカネ殿。良ければあなたの知識を披露しては下さらぬか。もはや伝説となった初代
343
は至って真面目な物だった。
﹂
﹁アカネ様 確かアカネ様は医療忍術の名手だったはず オビトを癒したのもアカ
ネ様ですよね
!
!
どうかリーを オレの弟子を治して下さい
この通りです 何とぞ
!
﹁おお
治してくれるんですか
!
﹂
!?
﹂
?
はアカネの選択肢にはなかった。
アカネにとってリーは他の同期よりも気になる存在だった。そんな彼を見捨てる事
だ。
が気に掛かっていた。ガイの弟子であるロック・リーとアカネはアカデミーの同期なの
アカネはガイのその態度よりも、リーが自身に頼まねばならない程に傷ついている事
下座をするほどに。それほどまでに真摯に頼みこんでいたのだ。
だが、本当に真剣な頼み事だった。自分の為ではない。弟子の為に頭を下げる所か土
!
知りませんし﹂
﹁どうか
﹂
!
﹁え、ええ。まあ薬とかに関しては綱手の方が上でしょうけど。特に最近の薬はあまり
!
何とぞリーを
!!
!
その剣幕と必死さはアカネをして気圧される程だった。
!
﹁もちろんです。リーの所に案内してくれますか
NARUTO 第十一話
344
﹂
﹂
﹁容態を見てみない事にはなんとも言えませんが⋮⋮。それでも私に出来る限りの手は
これでリーは⋮⋮リーは忍の道を諦めずに⋮⋮
ありがとうございます
!
尽くしましょう﹂
﹁あ、ありがとうございます
﹁はい
!
◆
ダンゾウの言葉に力なく頷いて、アカネは今度こそ病院へと移動した。
﹁立ってるモノは火影でも使う性分ですゆえ﹂
﹁いや、いいけどね⋮⋮。お前本当にいい根性してるよダンゾウ⋮⋮﹂
ませぬから﹂
多少の怪我程度ならば放っておいても結構。何もかもアカネ様がしては里の力が育ち
﹁ああアカネ様。ついでに並の医療忍者では癒せない重傷患者の治療もお願いします。
だがそんなアカネの足をまたも止める様な声が掛かってきた。
院へと移動しようとする。
アカネは涙ぐみながらも希望を感じて明るい返事をしたガイを伴ってリーがいる病
!
﹁では行きましょうか﹂
涙すら見せるガイに、アカネはただ一つ頷いて立ち上がった。
!
345
﹁う、うおおおおおお
ありがどうございまずぅぅぅぅぅ
﹂
!
ボクは本当に完治したんですか
﹂
大切な人の容態が良くなって嬉しくない者など居はしないだろう。
はしゃぎ回るガイをアカネは宥め叱る。だがガイの気持ちは分からなくもない。
﹁ガイさん。ここは病院ですよ、お静かに﹂
復へと向かったからだ。
何故なら二度とまともに歩く事も出来ず、忍としての道を断たれた愛弟子の容態が回
だがそうと注意されていてもきっと彼は、ガイは大声で同じ事を叫んでいただろう。
えよう。
木ノ葉の病院内に盛大な叫び声が響いた。病院という環境では非常識な態度だと言
!
!
!?
させました。ただし、治療する前に注意したように僅かですがあなたの寿命を削る事に
﹁ええ。神経系に入り込んだ骨破片は全て取り除き、その際に傷ついていた神経も再生
治療したので治りましたと言われても急すぎて現実感が湧いていないのだ。
まともに動く事も出来ず、看護師からも幾度となく止められてきたのだ。
今まで医者からは何度も再起不能だと言われ、それでも無理を推して修行していたが
アカネの治療を受けたリーは半信半疑にそう確認する。
﹁あ、アカネさん⋮⋮
NARUTO 第十一話
346
なりましたが﹂
アカネの再生忍術は対象の寿命を削る。これに関しては術式前に説明はしておいた。
残念ながらリーの傷は普通の医療忍術では回復は難しく、医療忍術と手術を組み合わ
せた所でその成功率はアカネをして五割、良くて六割と言った所だった。
成功する確率があるとは言え、この手術に失敗すれば死ぬか良くて永遠に半身不随
これで、これでボクは夢を諦めなくても⋮⋮
う、
だ。死ぬ可能性のある手術よりは少々寿命は削れるが確実な再生忍術による治療を選
択したわけだ。
﹂
﹁多少の寿命くらい構いません
うう⋮⋮
!
才能の持ち主と相対して、心が折れそうになった事は幾度もあるだろう。
まともに忍術も使えない者など忍と呼べるわけがない。そんな嘲笑を浴び続け、真の
力を掲げる事がどれだけ過酷だったか。
文字にすれば説明も簡単な目標だろう。だがその努力がどれだけ辛く、そしてその努
じて、それを証明する為に努力を重ね続けてきたのだ。
だからリーは残された体術だけを磨き上げた。体術だけでも立派な忍になれると信
ンスとして持ち合わせていなかったのだ。
リーには忍術と幻術の才能がない。これは努力でどうにかなる物ではなく、本当にセ
!
!
347
だが、それでもリーは自分を信じて努力し続けて来たのだ。
死 に 物 狂 い の 努 力 を し て で も 叶 え よ う と し た 夢 を 諦 め ず に す む の だ と 実 感 し た 時、
﹂
リーの瞳には自然と涙が流れていた。
﹁リー⋮⋮
﹂
ガイにとってリーは己の生き写しであり、父に教えられた想いと覚悟を伝えるべき後
勝利なのだとかつてのガイも父親から教わったのだ。
それでも努力する事を忘れず、自分にとって大切なものを守りぬけるものこそ本当の
もあった。
事もあった。青春を信じて負けた時にはそんなものに意味はあるのかと悩んでいた事
ガイもいい歳をして青春だの熱血だのと言っているが、かつてはそれを疑問に思った
恐らく上忍で忍術らしい忍術を使えない者などガイくらいのものだろう。
い。
今でこそ口寄せの術の一つくらいは覚えているが、それ以外の術は体術以外にはな
ガイもリー程ではないが忍術などは得意ではなく落ちこぼれの烙印を押されていた。
ガイにとってリーはただの弟子ではなかった。
ガイもリーと同じく涙を流していた。
!
!
﹁ガイ先生⋮⋮
NARUTO 第十一話
348
継者でもあるのだ。
リーにとってもガイはただの担当上忍以上の存在だった。
心が折れそうな時に励まされ、自分を信じ、自分にとって大切なものを守りぬくこと
を教えてくれた恩師。
今のリーを形作るのにガイという存在は欠かせない物だ。ガイがいなければリーは
忍としての道をとうに諦めていただろう。
二人は涙を流しながら、最高の笑顔を浮かべて抱きしめあっていた。
◆
患者は何人かいるのでそちらの治療もしなければならないのだ。
アカネは書置きを残してそっと気配を消してその場から立ち去った。まだ見るべき
人をそっとしておいてあげたかったので口は挟まなかった
念のため術の修行は明日からにするんですよ。そう伝えたいアカネだったが、今は二
んな彼が夢を諦める事なく済んでアカネも嬉しかったのだ。
力して体術のみで忍の道を切り進もうとするリーの事をアカネは気に入っていた。そ
アカネも二人の様子を見て破顔し、喜びを顕わにしていた。才能がなくとも必死に努
﹁⋮⋮﹂
349
リーの治療を終えてから数日後。アカネは木ノ葉に古くからある老舗の団子屋に来
ていた。
古くといっても何百年という歴史があるわけではない。そもそも木ノ葉の里自体が
出来てから百年の時も経っていないのだから当然の話だが。
それでも五十年も店が潰れる事なく営業され続けているのはやはり売り物の団子が
美味しいからという一言に尽きる。
アカネもヒヨリ時代からお気に入りの人気店なのだ。
﹁やっぱり団子と言えば粒餡です。こし餡もみたらしも美味しいですが、団子に限って
は何故か粒餡が好きなんですよね﹂
オレの命の恩人なんだからこれくらい安いもんさ
﹂
そう隣に座る男性へ説明してからアカネはもきゅもきゅと団子を頬張る。その顔は
実に幸せそうだ。
その表情を見て隣に座る男性、うちはオビトも破顔して頷いていた。
﹁そりゃ良かった。ここの会計はオレが出すから遠慮せずに食べてくれよな
﹁もちろんだよ
?
オビトは数日前に言った通りアカネを団子屋へと誘ったのだ。
!
﹂
!
﹂
?
!
﹁誘ってもらっておいてなんですけど、いいんですか
私結構食べますよ
NARUTO 第十一話
350
これはかつて命を救ってくれた事への僅かばかりの恩返しであり、アカネに勘定を払
わせるつもりはなかった。
﹂
そしてアカネが健啖家である事もヒヨリ時代からオビトは良く知っていた。若い肉
体だと言う事も加味して路銀はそれなりに用意してあった。
﹂
﹁それじゃあ遠慮なく。すいませーん、団子各種3皿ずつお願いしまーす
﹁かしこまりましたー
彼もいつまでも子どものままではないのである。誰しも成長し大人になるという事
オビト。
そう言って趣味嗜好などを恥ずかしがる女性に理解を示し上手く合わせてあげる男
﹁だよねぇ。オレも修行した後は腹が減って腹が減って﹂
風に頷いた。
少し恥ずかしそうにはにかみながらそう言うアカネにオビトは分かっているという
﹁やっぱり動くと食べる量も多くなっちゃうんですよね﹂
ビトにとっては予想の範疇の数だった。
なので全部合わせれば81本という数になる。普通に食べ切れない量ではあるが、オ
きな粉・ゴマ・三色の9種類だ。そして一皿あたりの団子の本数は3本である。
ちなみにこの店の団子の種類は全部で粒餡・こし餡・白餡・みたらし・よもぎ・醤油・
!
!
351
なのだ。
まあ、その甲斐性を本命相手に発揮出来ているかと言えばお察しなのだが。
﹁むぐむぐ。そう言えば、オビトは火影が夢って言ってたね。今でもそうなの
﹁ああ、その夢は今でも変わっていないさ﹂
そう、オビトの夢であり目標は火影になる事である。
任務で体を壊し、様々な理由で夢を見るのを止めて現実を直視する様になる。
﹂
だがそれをいつまでも維持し続ける者は少ない。ある者は実力の壁を知り、ある者は
だ。
それは何も珍しい夢ではない。木ノ葉で成長した忍ならば多くが一度は夢見る目標
?
﹂
それでも火影になる者はやはりいる。それに必要なのは火影になるという目標に目
指す努力⋮⋮ではない。
﹁火影になる為に一番大事な事を知っていますか
ああ⋮⋮﹂
?
事な事がある。それこそが││
﹂
実力は必要だ。弱い影では里を守る事は出来ない。だが、それと同じくらい必要で大
オビトは一瞬迷うが、すぐにそれに思い至った。
﹁一番大事な事
?
﹁里と、里に住む人を誰よりも大切に想う気持ち⋮⋮だろ
?
NARUTO 第十一話
352
﹁はい﹂
オビトの答えに、アカネは嬉しそうに微笑んで頷く。
オビトはアカネの知っていた小さな頃から変わっていなかった。精神的にも肉体的
にも成長している。だが、芯となる大切な部分は微塵も変わってはいなかった。それが
アカネには嬉しかったのだ。
﹁それを忘れていないあなたなら、きっといい火影になります。五代目はもう決まって
てもアカネはそう思っている。
もしそんな者が火影になりでもしたら、いずれ木ノ葉は滅びてしまうだろう。少なく
止める。これが出来ない者は里の長になる資格はない。
だが、その時に犠牲となった者を書類の上での数字ではなく、一人の人間として受け
にして多くの忍や民を救わなければならない事もあるだろう。
上に立つ人間は冷酷な判断をしなければならない時がある。時には少数の忍を犠牲
人間だと理解し愛するという事を意味する。
里を理解する。それは里をシステムとして見るのではなく、そこに住む人々を一人の
になるに相応しいのです﹂
けでは火影は務まらない。里を想い里を愛し、里という物を理解している者こそ、火影
﹁強さは、必要です。強くなければ守りたいモノを守る事が出来ない。でも、ただ強いだ
353
オレはきっと火影になって里を守ってみせる
あ
それで他里に睨みを効かせてや
!
いますが、六代目はあなたかもしれませんね﹂
﹁ああ。見てろよアカネちゃん
﹂
のでっかい顔岩にオレの写輪眼を刻んでやるんだ
る
!
!
のでオビトに頼み事をした。
な、なにアカネちゃん
﹁オビト⋮⋮﹂
?
﹁あ、はい﹂
﹂
そんな内心慌てふためいているオビトにアカネがした頼み事とは⋮⋮。
うにか動揺を抑えようとしている。
アカネちゃんはヒヨリ婆ちゃん、アカネちゃんはヒヨリ婆ちゃん、と心の中で呟きど
何だか憂いを籠めたようなアカネの表情にオビトは動揺する。
﹁え
﹂
アカネはどこかオビトとナルトが似ているなと考えながら、ふと手に違和感を感じた
子どもの様な夢を今も真っ直ぐにぶつけてくるオビトの事がアカネは好ましかった。
それはかつてヒヨリが聞いたオビトの今も変わらぬ夢。
﹁ええ、楽しみにしてますね﹂
!
?
﹁お代わり、頼んでもいい
NARUTO 第十一話
354
?
団子のお代わり催促だった。
﹂
︶承諾してくれたのでアカネは早速お代わりを頼もうとして、ふと
話している最中も高速で食べていたので団子がすでに無くなっていたのだ。
オビトが快く︵
ああ、サスケか。どうしたこんな所に
何かオレに用か
オビトに近づいてくる人がいたので注文を取り止めた。
?
﹂
?
警務部隊として里の治安を一任されているうちはから犯罪者が出るとは⋮⋮サスケ
事案であった。場合によっては一族から逮捕者が出るかもしれない。
十台後半の男性。
出る所は出ているが、自分とさして変わらない歳の少女と団子屋でお茶をしている二
ちらりとオビトの隣にちょこんと座るアカネを見てそう呟くサスケ。
に犯罪じゃねーか
﹁いや、カカシの奴を探してんだが⋮⋮ところでオビトさんよ、デートはいいけどよ流石
あった。
何か用があって訪ねて来ても不思議ではないが、その内容は予想出来ないオビトで
サスケとオビトは同じ一族のいわば遠縁同士なので当然知り合いである。
?
﹁よおオビトさん﹂
﹁ん
?
オビトを訪ねて来たのはうちはサスケであった。
?
355
これはデートとかじゃなくて 恩返し
﹂
!
恩返しなの
!
てたのォ
気付けなくてごめんねぇ
﹂
オレこ
﹁おいぃぃ アカネちゃんなんて事言ってくれちゃってんのォ それにおめかしし
!
は心を痛めた。
﹁ちげーーよっ
の子に救われたの
!
﹁⋮⋮私はてっきりデートかと。おめかしもしてきたのに⋮⋮﹂
!
!?
あんたの事、嫌いじゃなかったぜ﹂
﹁⋮⋮警務部隊に配属される前に犯罪者を、それも一族を捕まえる事になるなんてな。
この違いに気づかない辺りまだまだオビトは未熟であった。
が良く見れば僅かに化粧も施していた。
アカネの服装は日向の代表的な胴着や忍衣装ではなく女性らしい服装であり、オビト
!!
!?
!?
﹂
﹁逃げてオビトさん
!
﹂
﹂
あんた絶対面白がってやってるだろォォ
私が囮になるからその内にあなただけでも
!
いるのだが。
まるで悲劇のヒロインを演じているかの様である。まあまさしく言葉の通り演じて
!!
!
!
﹁話ややこしくすんなよ
!
!
﹁違うから 話せば分かるから だからその苦無をホルダーに収めるんだサスケ君
NARUTO 第十一話
356
﹁私の名前は日向アカネです。よろしくね。団子食べます
﹂
?
いいぞ、ガキが調子に乗っても大人
?
でいただろう。多分。
あ
﹂
?
﹁カカシの奴を探しているんだ。修行をつけてもらおうと思ってな⋮⋮﹂
アカネとしてはもうちょっとやってもよかったと思っていたが。
かった。
流石にこれ以上はまずいと思ったのかサスケもオビトをからかうような真似はしな
若干不機嫌そうにオビトはサスケに同じ質問をする。
﹁で、サスケは何の用があって来たんだ
?
これがもし仲間や里の民の命が懸かっていたならば必ず命を賭してでも戦いを挑ん
けっして臆病だとかではない。
勝 ち 目 の な い 闘 い を 挑 ま な い。彼 は 忍 と し て 非 常 に 正 し い 選 択 を し た だ け な の だ。
出して最後の一言は喉から出さなかった。
を見せ付けてやるとかなり大人気ない事を考えていたオビトだがアカネの強さを思い
唐突に自己紹介に切り替えた二人が自分をからかってると理解し、大人の力という奴
には勝てないと⋮⋮あ、やっぱりいいです﹂
﹁分かった。お前らオレをおちょくってんだな
﹁うちはサスケだ。悪いが納豆と甘い物は嫌いなんだ﹂
357
NARUTO 第十一話
358
スリーマンセル
サスケはナルトと同じ三人一組の班であり、その強さも人となりも良く知っている。
そしてサスケの知るナルトとは落ちこぼれの負けず嫌いであった。どれだけ負けて
も勝つ為に努力する根性は認めているが、才能がなければ話にならないのが忍だ。
だがそんなナルトは一緒に任務をする内に目を見張る速度で成長していった。気が
つけば先を行っているはずの自分の後ろを走っているようで不気味に感じたほどだ。
内心ではナルトを認めつつも、心のどこかでは認めまいとする心もある。そして大部
分を占めるのが、ナルトに負けてたまるかという想いだった。
それは今回の木ノ葉崩しの一件で更に膨れ上がった。サスケはこの事件にて砂の人
柱力である我愛羅を追っていたのだが、その力に屈し殺され掛けていた。
それを救ったのがナルトだった。圧倒的な砂の我愛羅を相手に奮闘し、驚くべき力を
発揮して最後には撃退してしまったのだ。
その時は素直にサスケも感嘆した。仲間であるナルトの成長に興奮もしたものだ。
だが全てが終わり冷静に振り返った時、サスケはナルトに助けられた事を恥じてい
た。
これがナルト以外ならばサスケもこうは思わなかっただろう。だが何故かナルト相
手だとサスケは異常に反応してしまうのだ。
それが何故かはサスケにも分からない。だが昔からナルトにだけは負けたくないと
いう想いがサスケの中にはあったのだ。
ナルトには負けたくない。そんなサスケがやるべき事はただ一つ、修行である。
その為に修行相手を探しているのだ。最有力候補であった兄は里の復旧任務で忙し
く、父も簡単に時間が取れる立場にはいない。
そして担当上忍であるカカシに白羽の矢を立てたわけだ。
﹁ふん。まああんたでもいいか⋮⋮あんた、雷遁は使えたっけか
!
﹁悪いがオレが使えるのは火遁と水遁と土遁だ﹂
する可能性を秘めていると言えよう。
﹂
だ。まだ雷遁を覚えたばかりで応用も出来ていないのだ。もっと修行すれば更に発展
サスケはここ最近にカカシ教わった雷遁に関してさらに修行を積もうとしているの
う確認をする。
この際オビトで妥協しようと本人が聞いたら噴飯物の思いを抱きつつもオビトにそ
?
よ﹂
﹁ま だ 言 う か こ の ク ソ ガ キ め ま っ た く イ タ チ 相 手 だ と あ あ ま で 態 度 が 変 わ る の に
﹁それなのにあんたはデートとかいいご身分だなオビトさんよ﹂
は忙しくなってるからなぁ﹂
﹁カカシの奴なら任務だな。里の被害は思ったよりは少なかったけどそれでも平時より
359
﹁使えねぇ⋮⋮﹂
﹂
!
まあ、それも今のサスケにとっては意味がなく役に立たない事なのだろうが。
ればカカシとのコンビネーションが更に高まるだろう。
今はカカシが覚えていない風を覚えようと努力している所だ。風の性質変化を覚え
ともかく、上忍で三つの性質変化を有しているオビトは十分優秀なのだ。
遁を覚えた上に威力も兼ねているサスケは真実天才という事になる。
その性質変化を下忍になる前に火遁を覚え、カカシに習って一ヶ月足らずで新たに雷
質変化と合致していないと威力を保てない場合もある。
には相当な修行期間が必要になる。一般的には数年は掛かるだろう。更には生来の性
この性質変化だが修行して新たに覚える事は確かに出来るのだが、それを実現する為
ている。
一族ごとに引き継がれる性質もあり、うちは一族は火の性質変化を生まれついて有し
る。
す事も不可能ではない。木ノ葉の上忍ともなれば多くが2∼3の性質変化を有してい
大体は生まれ持って一つの性質変化の才能を持っているが、努力によって適正を増や
忍術の性質である五大変化には適正というものがある。
﹁んだとこらー
NARUTO 第十一話
360
﹂
﹂
﹁それなら私が教えましょうか、雷遁
﹁⋮⋮お前が
﹁アカネちゃん
?
﹂
?
いますよ﹂
?
だけは保証する﹂
﹁ああ、雷遁が使えるのは知らなかったけど、アカネちゃんが強い事は間違いない。それ
たかったのだ。
そんな自分の修行の相手となれる同年代の少女がいるなどサスケには俄かに信じが
未満だが既に実力は中忍並に至っている。
サスケはその歳では木ノ葉で右に並ぶ者がいない程の実力者だ。下忍になって一年
サスケはアカネの話が信用出来ずにアカネにではなくオビトへと確認をした。
﹁⋮⋮本当か
﹂
﹁私も雷遁を使えますし、その応用技もいくつか知っています。多少は役に立てると思
ろだ。
を選んで風と雷を更に覚えたのである。後は土でも覚えられたらなと思っているとこ
元々は水の性質変化を持っていたアカネが、水と同時に使用する事で強力になる性質
アカネの会得している性質変化は水と風と雷である。
!?
361
オビトはそれだけは誰にだろうと保証する事が出来た。
﹂
口憚る事情さえなければ木ノ葉最強だと大声で叫ぶ事も出来ただろう。
﹂
﹁他にも美貌とか智謀とかも保証してくれてもいいんですよ
﹂
﹁強さと優しさは保証する
﹁おい
!
?
任されました
さあ、有望な若人を鍛えるぞ∼
!
かと少しだが後悔する事になる。
﹂
後に、サスケは何故この時アカネに修行を頼まずカカシの任務完了を待たなかったの
!
駄にしたくないからな、頼んだぜ﹂
﹁まあいい。あんたが雷遁が使えるって言うんなら少しは役に立つだろ。今は時間を無
カネに頼んでみる事にした。
このやり取りで若干、いやかなり信憑性をなくしているが、まあサスケも駄目元でア
﹁⋮⋮﹂
?
!
この時何故かサスケは猛烈な悪寒を感じたと言う。
﹁ええ
NARUTO 第十一話
362
NARUTO 第十二話
アカネとサスケは木ノ葉にある訓練場の一つに来ていた。ここならば大規模な術を
使わない限り誰にも迷惑を掛けずに修行をする事が出来るだろう。
そしてアカネはサスケが望む通り雷遁の修行と、その為に必要な雷遁の説明を開始し
た。
が威力の高い一撃だ。
雷遁による電撃を片手に集め、肉体活性による高速移動を用いて対象を貫く。単純だ
ない。
その正体は電撃を帯びた突きだ。言葉にすれば簡単だが、実際はそれ程簡単な術では
る。
これはカカシのオリジナルの術であり、今やカカシの代名詞となる程有名な術でもあ
サスケがカカシから習った雷遁は千鳥と呼ばれる術だ。
﹁知っている。オレの雷遁は千鳥だからな﹂
る事も出来ますし、形状変化と組み合わせると非常に効果的です﹂
﹁雷遁は応用力のある性質です。ただ術として敵に放つだけでなく、肉体活性に応用す
363
その分リスクも高い。あまりに高速で動く為に使用者自体の反応が追いつかない事
があるのだ。その場合敵にカウンターを合わせられると目も当てられない惨状になる
だろう。
写輪眼の様な洞察眼に優れた眼を持っている者や、瞳術でなくても反射神経に優れた
者でないと危険性が高い術である。
更にこの術は性質変化だけでなく形態変化も加えられている術だ。
放電している様に見えるのは雷だからではなく、放電している様に形態を変化させる
事で攻撃の威力と範囲を変化させているのだ。
ま あ こ れ く ら い の 形 態 変 化 は そ れ 程 難 易 度 の 高 い 物 で は な い が。だ が 形 態 変 化 に
よって様々な可能性を広げる事が出来る術と言えよう。
﹁千鳥ですか。カカシさんに習っただけはありますね﹂
この歳で千鳥を会得する。それは十分に天才の証だとアカネもサスケを評価する。
﹂
性質変化と形態変化。両方を有する術を持つ忍は上忍でも稀なのだ。
﹁では千鳥を更に応用する方法は分かりますか
﹂
?
﹂
アカネの問題に対して少しだけ熟考してからサスケはその答えを導き出した。
﹁⋮⋮⋮⋮別の形態変化か
?
﹁正解です。さて、例えばどんな形態変化があるでしょうか
?
NARUTO 第十二話
364
﹁そうだな⋮⋮剣とか槍みたいに伸ばして攻撃範囲を広げるとかだな﹂
﹁はぁ、はぁ
くそ
﹂
!
﹂
!
第で総量を増やす事も可能だ。
そしてチャクラの総量はある程度生まれついての資質が物を言う事が多いが、修行次
ネルギーを練り合わせる事でチャクラへと転じる。
サスケのチャクラ量はまだ十分な物ではない。チャクラは身体エネルギーと精神エ
サスケの修行は難航していた。と言ってもまだ一日も経ってはいないのだが。
﹁くっ⋮⋮
旦休憩した方がいいですね﹂
﹁はい、ストップ。チャクラが少なくなって余計に形態変化が雑になっていますよ。一
!
そんな思いでサスケの修行が始まった。
千鳥をより極めていけばもっと強くなれる。絶対にナルトに追いつかれてたまるか。
サスケはアカネからの言葉により千鳥の可能性を広げる事が出来た。
したり槍状にしたりする事も出来るはずですよ﹂
て、千鳥を使えるあなたは形態変化もある程度は修めています。だったら千鳥を剣状に
﹁ま た ま た 正 解。ま あ 他 に も 色 々 あ り ま す か ら 正 解 は 一 つ で は な い で す け ど。さ て さ
365
今のサスケは修行不足というよりは成長しきっていないだけだ。まだ十三歳の少年
なのだから当然の話だ。
とにかく、チャクラ量がまだ十分でない為に千鳥の練習も難航しているのだ。
千鳥を発動してそこから形態を変化させようとしているのだが、その千鳥自体サスケ
は一日に二度が限界とカカシに言われているのだ。
本来の千鳥と違い肉体活性を使わずに威力も抑えているのでチャクラ消費も大分少
ないが、それでも何度も練習していればすぐにチャクラも尽きるというものだ。
チャクラそのものを形態変化させるのは比較的簡単であり、剣状や槍状くらいならば
サスケも一時間も経たずに会得出来るだろう。
だが性質変化と形態変化を組み合わせた瞬間にその難易度は跳ね上がる。チャクラ
が足りずに練習回数が足りない現状では流石の天才も一日では会得出来なかったよう
だ。
﹁お前じゃなくてアカネですよ﹂
﹂
彼もサスケと似た様な感じだったなぁ、と遥か過去でありながら色あせない思い出に
サスケのぶっきらぼうな話し方にアカネは昔の大切な友達を思い出す。
﹁⋮⋮アカネは千鳥の形態変化が出来んのかよ
?
﹁⋮⋮そう言うお前は││﹂
NARUTO 第十二話
366
心を馳せて、アカネはサスケの策略に乗ってあげた。
今のサスケは写輪眼を発動していた。これでアカネが千鳥の更なる形態変化を使用
した所を見てコツを盗むつもりなのだろう。
アカネに出来なければ出来ないでその時はアカネが修行相手に相応しくないとして
一人で修行するだけだった。
﹁出来ますよ。はい﹂
そう、本当に簡単そうに言って、簡単にアカネは千鳥を発動して形態を変化させた。
﹂
剣状にしたり、槍状にして伸ばしたり、果ては手から離して投擲して遠くの岩を破壊
﹂
したりまでした。サスケの眼はまん丸だ。比喩だが。
﹁とまあご覧の通りですね。師としては合格ですか
﹁⋮⋮カカシよりは使えると思ってやる。⋮⋮明日も暇か
﹁では今日は体力作りの為に走りこみをして、その後疲れた時にもちゃんと動ける様に
﹁じゃあまた明日に││﹂
修行に付き合うのも好きなので特に不満に思う事はなかった。
アカネとしてはそんな態度には慣れたものでむしろ微笑ましく思っていた。他人の
相変わらず上から目線だが、これでも思春期の少年には精一杯のお願いなのだ。
﹁ええ。暇な時間はいつでもお相手してあげますよ﹂
?
?
367
組手の修行をしましょう。それが終わればチャクラを回復してあげますからまた千鳥
の修行に戻りますかね。最後は体をほぐす為に軽くランニングしながら帰りましょう
か。さ、行きますよ﹂
﹁え、ちょ、ま││﹂
何度も何度も千鳥の形態変化の修行をした為にチャクラが底を突きかけ、わざわざ疲
れる必要もないほどに疲れているサスケ。
そんなサスケにアカネの言葉は寝耳に水だった。軽い修行ならまだともかく、アカネ
の言う内容を判断するに明らかに軽くなどない。
思わず抗議の言葉を発しようとしたサスケだったが、次のアカネの台詞でその言葉は
胸の中にしまわれる事となった。
﹂
!
﹁ただいま⋮⋮﹂
我が強いが扱いやすい。それがアカネのサスケに対する評価であった。
の少年であった。
ナルトに出来て自分に出来ない。それが我慢ならないというまさに思春期真っ盛り
﹁何してる早く行くぞアカネ
﹁ナルトならこなせた修行なんだけどなぁ⋮⋮﹂
NARUTO 第十二話
368
﹂
﹁おかえりサスケ遅かったわね⋮⋮って、あなたボロボロじゃない。どんだけ修行した
のよもう
日だけで一段も二段も成長した自覚があるからだ。
悔しさはあったが、アカネに修行をつけてもらえば強くなるという実感はあった。今
流石だったが、それがプラスに思えないほど徹底的に力の差を見せ付けられていた。
チャクラを回復してもらってからの修行で千鳥の性質変化をある程度会得したのは
手でもぼこぼこにされたのだ。
あの後徹底的にしごかれたサスケ。走り込みで周回遅れという屈辱を受けた上に組
た。
あの後、一通りの修行を終えたサスケはボロボロになってどうにか自宅まで帰ってき
いた。うちはの家紋が入った衣服も見る影もない程だ。
サスケの帰りを待っていた母のミコトはサスケのあまりのボロボロな姿に驚愕して
!
そんな父がどうしたのだろうかと思いながらも、サスケは父のいるだろう私室へと赴
父のフガクは一族の長であり最近は木ノ葉崩しの影響で家にいない時間も多い。
﹁父さん帰ってたのか。分かったよ﹂
﹁あ、待ちなさい。父さんが呼んでたわよ。先に挨拶してからにしなさい﹂
﹁取り合えず風呂に入ってくる⋮⋮﹂
369
いた。
﹁失礼します﹂
親子でありながらも礼節を弁えた態度でサスケは入室する。
﹁うむ﹂
フガクは家族想いではあるが、それと同じくらいに立場と言うものを重視する性格
だ。
うちは一族の長としての威厳は家族に対しても発揮しなければならない物として出
来るだけ家族を贔屓せずに対応している。
そんな厳格な父の私室にボロボロの格好で入るのはサスケも気が引けたが、修行に対
する理解は忍の一族ゆえに当然高いのでそこまで怒られる事もないだろうと思い直し
ていた。
﹁ありがとうございます⋮⋮次の
﹂
﹁まだ正式な発表はされていないが、此度の中忍試験で中忍に昇格出来たのは一人だけ。
なく、サスケは父の言葉に疑問を抱いた。
フガクはやはりサスケの姿にも理解を示してくれたようだ。それを嬉しく思う暇も
?
むんだぞ﹂
﹁それは⋮⋮修行か。休まず良く鍛錬している様だな。その調子で次の中忍試験にも励
NARUTO 第十二話
370
奈良一族のシカマルのみだ﹂
⋮⋮そうですか。すみませんでした﹂
!?
﹂
?
も意識して修行するといいだろう﹂
でお前を含む他の下忍は力押しという印象が強まってしまった。これからはそこら辺
に選ばれていた。後はシカマルの戦術の見事さが目立ちすぎたのも原因だな。おかげ
だ。従来の中忍試験ならばまだ試験は続いていただろうし、お前は十分に合格する対象
﹁今 回 は 途 中 で 木 ノ 葉 崩 し と い う あ ま り に も 大 き な ア ク シ デ ン ト が 起 こ っ た 事 も 原 因
動揺したままのサスケにフガクは言葉を掛けた。
葉にまたも驚愕する。
中忍試験失格に関して叱られる為に呼び出されたと思っていたサスケはフガクの言
﹁え
﹁あまり気にするな﹂
り自分自身が情けなくなったのだ。
ざかった気がしていた。兄が十歳で中忍になったというのに自分は、という思いが強ま
そして父の期待を裏切ったばかりか、尊敬する兄を乗り越えるという目標も大きく遠
かなりの自信があったのだ。
フガクの言葉はサスケに相当なショックを与えていた。サスケとしては中忍試験に
﹁っ
371
﹁あ⋮⋮は、はい
分かりました
﹂
!
﹂
相手が出来るが、どうする
﹂
﹁話はもう一つある。ようやくオレの仕事にも休日が取れそうでな。明日ならば修行の
ない父親に褒められたとなれば年頃の少年として相応の態度だろう。
頭を下げつつもその表情はどこか嬉しそうだ。不合格とはいえあまり褒める事をし
した。
フガクが慰めてくれているのだと理解して、サスケは動揺を抑えられないままに礼を
!
?
なった。
だがそこでサスケは明日の予定が入っている事を思い出し、途端に沈んでしまう事と
れる程に嬉しかったのだろう。
下忍になってからは出来るだけ忍として対応する様に心掛けていたのだ。それを忘
フガクの言葉に嬉しくなり思わずサスケの喋り方も元に戻ってしまう。
﹁本当父さん
!
まあカカシならば問題はないだろうが﹂
?
﹁日向
﹂
﹁いや、日向の⋮⋮﹂
﹁ふむ。カカシか
﹁あ⋮⋮ごめんよ父さん。明日は他に修行相手が⋮⋮﹂
NARUTO 第十二話
372
?
ど う し て そ こ で 日 向 の 名 前 が 出 て く る の か。う ち は と 日 向 は 木 ノ 葉 結 成 以 来 か ら
切っても切れない関係で、合同で訓練をしたりもしてはいる。
だがサスケが個人で学ぶ様な相手や繋がりがあっただろうかと思案し、日向の天才で
ある日向ネジを思い出す。うちはと日向の天才同士が共に修行しているならば話は分
かるという物だ。
ところが相手はフガクが仰天する程の人物だった。
﹂
?
﹁⋮⋮は
﹂
﹁いや、アカネに修行をつけてもらうといい。その方が良い経験となるだろう﹂
﹁あの、明日は断って父さんとの修行を││﹂
﹁そうか⋮⋮﹂
るしか出来なかった。
やばい、怒られるのか。そう思ったサスケだが父に嘘を吐くわけにも行かず、首肯す
言えよう。
サスケに詰め寄った。この時内心の驚愕を最小限にしか表に出さなかったのは流石と
恐る恐ると修行相手の名前を告げたサスケが最後まで言葉を言い切る前にフガクは
﹁それは本当か
﹁うん⋮⋮日向アカネって││﹂
373
?
フガクのまさかの返事にサスケは呆気に取られるしかなかった。
そういう疑問がサスケの中に巡る。そしてその疑問を
この父が自分よりも他人、それも下忍を持ちあげるような言動をするなどどうして思
えるというのか。
一体アカネは何者なんだ
﹁それはネジの││﹂
﹁⋮⋮⋮⋮日向の天才児だ﹂
﹁アカネって、何者なんですか
﹂
サスケは父にぶつけてみる事にした。
?
もサスケを慰める言葉を紡ぐ。
そんなサスケの感情の変化を見抜いたフガクはこればかりは致し方ないと思いつつ
歳は一つしか違わない。だというのにどうしてこうも差があるんだ、と。
フガクのアカネを手放しで褒める言葉にサスケは徐々に嫉妬を募らせていった。
フガクは今考え付いた言い訳でどうにか対処する。
てはいなかったがな﹂
﹁そのネジなど歯牙にも掛けぬほどのな。ヒアシ殿の秘蔵っ子だった故にあまり表立っ
?
今のお前が負けてもそれは仕方のない事だ﹂
﹁サスケ。アカネに負ける事は恥ではない。⋮⋮アカネに勝てる忍は数える程だろう。
NARUTO 第十二話
374
﹁そ、そんなに
話したのだ。
﹂
からとは一言も言っておらず、歴史上の忍を含めての事だというのは悟られないように
ちなみにフガクはわざとぼかした言い方をしている。数える程とは現存する忍の中
木ノ葉でも火影やうちはと日向の長などの一部の忍のみなのかと驚愕したのだ。
だがそれでも父がそこまで言うほどとは思ってもいなかった。アカネに勝てる忍は
教え込まれたものだ。
アカネが強い事はサスケも知っていた。今日の修行だけでそれこそ嫌と言うほどに
!?
うだろう。それが同年代ならば自分への劣等感で苛まれる可能性もある。
アカネという存在に関わってしまえば誰もが自分と比較してその差を確認してしま
だ。
りはなかったのだが、やはりアカネがサスケのほぼ同年代というのがネックだったの
やはり甘くなったか。そう自嘲しながらフガクは溜め息を吐く。ここまで話すつも
﹁は、はい。分かりました﹂
じゃないぞ。もちろんアカネ本人にもだ﹂
だ。ここまで話した事でさえ本来は有り得ない事。故に、これらの情報は誰にも言うん
﹁そしてアカネがそれだけ強いのにも理由がある。だがこれに関しては里の最重要機密
375
だがアカネが十四歳だというのは完全な詐欺なのだ。それなのに詐欺と比較して落
ち込んで歪んでしまうのは流石に酷というものだろう。
いい﹂
﹁話は以上だ。明日も頑張りなさい。後は風呂に入って食事をしてからゆっくり休むと
失礼しました﹂
ぶりに秘蔵の酒を出して晩酌をする事にした。
◆
走れ走れー
!
サスケがアカネと修行する様になって十日が経った。
体力なくして忍が務まるか
!
それまでの修行の内容の一部をダイジェストで送ろう。
﹁何はともあれまず体力
!
後ろから千鳥刀振り回しながら追ってくんじゃねー
!
﹂
﹂
フガクはヒヨリという伝説の忍に見出された自分の子を誇らしく思い、その夜は久し
サスケだ﹂
﹁アカネの⋮⋮あのヒヨリ様の目に適う、か。⋮⋮ふふ、流石はオレの⋮⋮いや、流石は
サスケが退室してしばらくしてからフガクは難しい表情をから僅かに破顔した。
﹁はい
!
﹁うおおおおおお
!
NARUTO 第十二話
376
﹂
﹁あ、そこから先はトラップゾーンになってるから気をつけてねー﹂
うおぉぉっ
!?
!?
﹂
!
﹁ん
何と違うって
﹂
?
﹂
﹁ぐぅ⋮⋮今の、なんだ
なのか
?
です﹂
﹁いえこれは私の⋮⋮オリジナル⋮⋮ですよ。合気と言いまして相手の力を利用するん
?
写輪眼で見てたのに、体が反応出来なかった⋮⋮それも柔拳
﹁世界の違いへの愚痴さ⋮⋮。ま、気にしない気にしない。さあ次行きますよー﹂
?
から。とにかく色んな応用法を考えておくように。││とは大違いだよホント﹂
﹁おお、飲み込み早いですね。チャクラは応用力が高い力⋮⋮というか、高すぎる力です
﹁こうか
でしょう﹂
ずとも千鳥を安定して使用する事も出来ます。そうすればチャクラ消耗も抑えられる
ばより効率的に肉体を強化する事も出来るし、視力と神経系を強化すれば写輪眼を頼ら
﹁ただ漠然と肉体活性をするのではなくどこを活性化させるか意識しなさい。そうすれ
﹁なに
377
﹁
何で言い淀んだんだ
﹂
?
﹂
三点セットでお得な術
﹂
!
ガイさんからいい物を貰ってきましたよ
﹂
これで修行もより捗りますね
!
﹁それを⋮⋮先に⋮⋮言え⋮⋮﹂
﹁サスケ
﹂
特注の重りです
﹂
!
﹁ま、まさかそれは
﹁はい
!
!
!
﹁オレがこんな暑苦しい物を⋮⋮
!
しかも戦闘中に外す事で﹃なに
あんな物
!
!
チャクラ量も自然と増すという優れ物
!
﹁何を言う このアイテムは身体能力の大幅な強化が見込め、その上体力も付くので
!
﹂
﹁ただし馬鹿みたいにチャクラを消耗するのでご利用は計画的に﹂
よし⋮⋮
﹁それはすごいな⋮⋮
!
を知るあなたなら予想出来るでしょう。何より雷遁チャクラで防御力も高まるという
られます。雷により神経伝達スピードを上げる事で高速戦闘を可能とし、攻撃力も千鳥
﹁雷遁のチャクラを全身に纏う事が出来れば飛躍的にスピードと攻撃力と防御力が上げ
﹁ほらほら細かい事は気にせずに掛かってきなさい﹂
?
!
NARUTO 第十二話
378
﹂
﹄と相手を驚愕させる効果も││﹂
納得いかねー
ナルトならこの程度では││﹂
!
をつけて今まで闘っていたのか
﹁もう限界ですか
!
まだ千鳥も三発撃つのが限界なんだがな﹂
?
感はない。
修行の休憩中にアカネにそう言われるも、サスケとしてはそこまで成長したという実
﹁そうか
﹁サスケも大分成長しましたね﹂
⋮⋮絆も高まっているはずだ。
と、この様に非常に濃密な修行をした二人はその絆と実力を高めていったのだった。
﹁はっはっは。冗談ですよ冗談。今は少し休みなさい﹂
﹁こ、殺される⋮⋮﹂
﹁良し立て。疲れた時にする修行こそ真の修行﹂
﹁う、うう﹂
﹁あ、駄目だコレ。仕方ないなぁ。チャクラちゅ∼にゅ∼﹂
﹁⋮⋮⋮⋮⋮⋮﹂
!
!?
﹁何でこんな馬鹿がオレよりも強い⋮⋮
379
強くなったとは思うが、毎回修行でボロボロになる上にたった十日でそこまで成果が
出たとは思えなかったのだ。
だがまあそれはサスケが修行の濃さで色々と麻痺してしまった事が原因であり、実際
には修行前は二発が限界の千鳥を三回撃てるようになってるのは相当チャクラ量が増
えているという事なのだが。
﹂
あとチャクラコントロールが高まったおかげで千鳥を発動するのに無駄に出ていた
余計なチャクラ消費が少なくなったおかげでもある。
﹁それだけ撃てたら普通に中忍のチャクラは超えてると思うけど
﹁⋮⋮そういやそうだったな﹂
ても過言ではないだろう。
シでそれなのだから下忍にして十三歳という若さで三発も撃てれば十分過ぎると言っ
サスケはかつてカカシが千鳥は四発が限界と言っていたのを思いだす。上忍のカカ
?
しがなかったからだ。
それは本当に嫌と言うほど分かっていた。この十日間で体力が尽きずに終わった試
﹁分かってる﹂
度のものです。チャクラを多くするなら基礎鍛錬を欠かさない事ですよ﹂
﹁まあチャクラは上忍クラスかもしれませんが、今のあなたではその端っこに触れた程
NARUTO 第十二話
380
目の前の体力おばけは汗を掻く程度で済んでいたというのに自分がこれでは沽券に
関わる。負けず嫌いのサスケは女に負けてなるものかと奮起していた。
アカネはそれを見て女だとこういう時に便利だとほくそ笑んでいたが。
﹂
?
︵はて、誰だこれ
綱手の付き人かな
︶
?
現状だとほぼ確実にサスケが勝つだろうけ
?
スケにも出たのだ。
それはナルトのチャクラが二重になって見える時がある事だが、それと同じ現象がサ
アカネは二人に関して気になる事があった。
ど、ナルトの爆発力も侮りがたい。それに⋮⋮︶
︵サスケとナルトを一度闘わせてみるか
なので特に気にする事なく次の修行について考えていた。
らない事などいくらでもあるのだから当然だ。
アカネも綱手の交友関係を全部知ってるなどは流石になかった。木ノ葉の中でも知
?
かったが、もう一つは誰かは判別が付かなかった。
そ し て 二 人 と 一 緒 に 別 の チ ャ ク ラ が 同 行 し て い る の も 察 知 し た。一 つ は 綱 手 と 分
アカネはナルトと自来也のチャクラを感じ取りその帰還を知る。
﹁ナルトが
﹁さーて今日の修行は⋮⋮っと、どうやらナルトが帰って来たようですね﹂
381
柱間とマダラと同じこの現象。そしてナルトを見ている時に柱間が、サスケを見てい
る時にマダラが思い浮かぶ。
この感覚は何なのかをアカネは知りたかった。もしかしたら二人の転生体なのかと
も思ったが、柱間が穢土転生で口寄せされたからにはその可能性も低い。
取り合えず二人をぶつけてみたらもしかしたら分かるかもしれないし、二人をぶつけ
る事は両者の成長にも良い影響となるだろうとの考えだ。
﹁良し。サスケ、ナルトと一度組手をしますよ﹂
⋮⋮いいぜ。オレもナルトと闘ってみたかったところだ﹂
もある。アカネ相手ではいまいちそこら辺が掴みにくいのだ。
そしてこうして強くなった今、その成果を計る事が出来る相手を求めていたというの
るナルトに対して今までとは違うライバル心が芽生え出していたのだ。
サスケはナルトと一度闘ってみたかった。任務の中や中忍試験でどんどんと成長す
﹁なに
?
︵あの綱がとうとう火影か。感慨深いなぁ︶
うだ。恐らく綱手を木ノ葉の重役達の所へ連れて行っているのだろう。
二人は早速ナルトの所へと移動する。どうやらナルトは里の奥へと向かっているよ
﹁ああ﹂
﹁では早速行きますか﹂
NARUTO 第十二話
382
383
アカネは綱手と最初に会った時の事を思いだす。
あれはまだ綱手が生まれたばかりの事だ。その時からアカネは綱手の事を知ってい
た。何故なら綱手は千手柱間の孫だからだ。
初孫が出来た時の柱間の喜びようをアカネは今でも思い出せた。それはもうジジバ
カの顔をしていたものだ。
柱間が孫にべったりだったおかげで柱間の賭け事好きを綱手が受け継いでしまった
のは残念だったが。
そうして思い出に馳せている内に、アカネは少しだけ綱手と会う事を躊躇する。それ
はかつての苦い記憶が原因だった。
綱 手 に は 歳 の 離 れ た 弟 が 一 人 い た。名 前 は 縄 樹。だ が 彼 は も う こ の 世 に は い な い。
戦場で命を落としたのだ。かつての戦国の世と比べると遥かにマシになったが、それで
も死ぬ時は死ぬのだ。
縄樹が死んだ綱手は大層落ち込んだが、そんな彼女の心を救ったのがダンという青年
だ。ダンと綱手はすぐに恋人となり仲睦まじく過ごしていた。
それを見てアカネも⋮⋮ヒヨリもホッとしたものだ。縄樹が死んだ時の綱手は見て
いられなかったのだ。
だが⋮⋮忍びの世は残酷だった。綱手の心の拠り所となっていたダンも縄樹と同じ
NARUTO 第十二話
384
様に戦場で命を落としてしまったのだ。
その時綱手は医療忍者としてダンと同じ小隊にいたが、ダンを癒す事は出来なかっ
た。
腎臓がほぼ丸々消し飛ぶ程の致命傷だったのだ。当時二代目三忍と謳われていた医
療忍術のスペシャリストの綱手も失われた臓器を復活させる事は不可能だった。
だがヒヨリならばそれは可能だった。医療忍術を超えた再生忍術。それならばダン
の命を救う事は出来た。自分がいればダンを助ける事が出来たのではとヒヨリは自責
の念に駆られたものだ。
当時ヒヨリは別の戦場で他の忍達を助ける為に奮闘していた。多くの忍が命を救わ
れたのはヒヨリのおかげであり、ダンを助けられなかったからと言って自分を責める必
要はない。それはアカネも分かっている。
どれだけ強くともアカネは神でも全知全能でもない。全てを救うなど到底不可能な
のだ。
そして神ではない人間だからこそヒヨリにも好き嫌いというものがある。綱手は大
事な親友の大事な孫だ。それに肩入れしたいと思っても不思議ではないだろう。
しかももう一人の孫、綱手にとっての弟を失っているのだ。残された綱手を守ってや
りたかったのだ。体だけでなく、その心も。
385
綱手はダンが死んだ時に血液恐怖症という精神的な病を患ってしまった。もう第一
線で働くのは厳しいだろう。
あれから長い年月が経っているから既に克服している可能性もあるが⋮⋮。せめて
時の流れが綱手を癒してくれていたらとアカネは願っていた。
NARUTO 第十三話
アカネ達がナルトを目指して移動しているとやがて火影室へと辿り着いた。
どうやら大分前にナルト達は綱手を重役達に出会わせていたようだ。まだ正式発表
はされていないが既に綱手は五代目火影として就任していた。
そして五代目となった綱手は重要な話があるという事でナルトとサスケを招集する。
そこに丁度アカネ達も到着したようだ。
三代目はどうしたんだカカシ
﹂
丁度いい所にいたな。五代目様がお呼びだぞサスケ﹂
サスケを呼ぶ為に火影室から出て来たカカシとすぐに出会ったのだ。
﹁ん
﹁五代目
?
﹂
ど治世が巧みだった火影もそういないだろうけどね﹂
引継ぎだったんだ。ここまで長く里を治めていたのが異例だったんだよ。ま、三代目ほ
﹁三代目様は引退なされたんだ。元々四代目が早くになくなってしまった為の一時的な
?
?
?
てると怒られるよ
⋮⋮特にフガクさんに﹂
﹁お前ね⋮⋮少しは上司に気を使いなさいよ。火影様だよ火影様。あんまり調子に乗っ
﹁⋮⋮それで、五代目とやらがオレに何の用だ
NARUTO 第十三話
386
?
﹁う⋮⋮分かったよ﹂
相手が担当上忍だろうが火影だろうが自分が認めて尊敬する相手以外には基本的に
敬語を使わないのがサスケだ。
﹂
だがカカシがフガクの名前を出したので流石のサスケも口を噤んだようだ。
﹁え
アカネが
サスケの
!
⋮⋮ほ、本当なのかサスケ
!
﹂
?
そんなカカシの言葉にサスケが以前から抱いていた疑問が更に大きくなった。
﹁そうか⋮⋮運が良かったなサスケ﹂
あると知っているカカシからすれば驚いて当然の事件なのだ。
日向ヒヨリが弟子を募集すれば全国から数多の忍が募るだろう。アカネがヒヨリで
これはちょっとした事件である。
サスケの返事にカカシは目を大きく開けて驚く。あのアカネがサスケを弟子にした。
﹁⋮⋮まあな﹂
!?
カカシに疑問にアカネは胸を張って答えた。どや、と言わんばかりだ。
﹁それはもちろん。私がサスケの師匠だからです﹂
うか、と。
カカシはサスケの隣に立つアカネに疑問を抱く。この二人に接点などあったのだろ
﹁ところで⋮⋮なんでお前とアカネが一緒にいるの
?
387
一体この女は何者なんだ、と。日向の一族で、強いという事は分かっている。人が良
いのも分かる。だがそれだけだ。それ以外には何も知りはしない。
それだけならここまで疑問には思わなかっただろうが、父であるフガクと担当上忍に
して上忍の中でも抜きん出ているカカシの二人が共にアカネを知っており、そして一目
置いているという事実が非常に気になるのだ。
父は日向の天才児と言っていたが、それだけではないような気がしていたのだ。
﹁⋮⋮﹂
だがその疑問を素直にぶつけられるサスケではなかった。少なくとも疑問の当人で
あるアカネがいるのにそんな話題を出す事は出来なかった。
基本的に捻くれた少年であるサスケは本人に気になっているという事を知られるの
が嫌なのであった。
一体なんだってんだよ⋮⋮﹂
?
なかったのでそれについて思考していた。
残されたアカネはナルトが呼ばれた理由はともかく、サスケが呼ばれた理由が分から
そうしてサスケとカカシは火影室へと入っていく。
﹁ナルトも
﹁ええ分かりました﹂
﹁ま、アカネは少し待っててくれるか。呼ばれてるのはナルトとサスケだからさ﹂
NARUTO 第十三話
388
ナルトならば恐らく暁に関する事だろう。暁がナルトの中にいる九尾を狙っている
のは明白。ならば当の本人にもそれを話しておく事は必要だろう。
だがサスケに関しては想像出来ないでいた。ナルトと共に呼ばれているという事は
もしかしたら暁は関係のない事柄なのかもしれない。
しかし火影室には自来也もいるようなのだ。それが余計に暁関連の話を想像させて
いた。
もっとも、綱手の見た目は確かに二十台程だが実際は自来也と同じく五十一歳という
だからこんな若い女性が五代目火影だとは思ってもいなかったのだ。
それはサスケも同じだ。
今 の 若 い 忍 は 火 影 と 言 え ば 老 人 で あ る 三 代 目 火 影 を 真 っ 先 に 思 い 浮 か べ る だ ろ う。
火影室にてサスケは五代目火影の綱手と初対面する。そして僅かに驚いた。
◆
アカネは近くの椅子に座って話が終わるのを待つのであった。
結局考えても仕方ないので今はそうするしかないという結論に至ったようだ。
﹁ま、気長に待ちますか﹂
389
とても若いとは言えない年齢なのだが。
これは綱手が老いるのが嫌という何とも女性らしい理由により特別な術を用いて見
た目の年齢を自由に変化させている為だ。
﹂
﹂
言うなれば若作り婆さんなのだが、それを本人の前で口にすればどうなるかは自来也
に聞くと懇切丁寧に教えてくれるだろう。
﹁良く来たな。お前がうちはサスケか﹂
久しぶりだなサスケ
﹁ああ⋮⋮。あんたが五代目火影⋮⋮様か﹂
﹁よお
﹁おう。それで、一体オレになんの用なんですか
!
た。
早くナルトと勝負をしたいサスケは速攻で話を終わらせようと用件を聞きだし始め
?
!
われている事を伝える。 現在自来也とアカネが調べて入手した限りの暁の情報と危険性を説明し、ナルトが狙
暁。その組織がナルトを狙っているという話を。
そう言って綱手は話を切り出した。
だろうと思ってお前達をここに呼んだ﹂
﹁ふむ⋮⋮。あまり良い話ではないが、コレに関しては早い内に知っておいた方がいい
NARUTO 第十三話
390
事実、ナルトが自来也と共に綱手捜索の旅に出た時に暁に襲われたのだ。その時は自
来也が撃退して事なきを得たが、一歩間違えればナルトは暁の手に落ちていただろう。
﹂
?
?
﹂
?
﹁二代目三忍、いや元をつけた方がいいな。そいつは木ノ葉の抜け忍だ﹂
サスケはどこで聞いたのかを思いだそうとしている内に、答えを綱手が口にした。
初耳、いや何処かで聞いた事がある名前だった。
﹁大蛇丸
﹁お前も無関係の話ではないからだ。⋮⋮暁には大蛇丸という奴がいてな﹂
だがサクラは呼ばれずに自分は呼ばれる。それがサスケには腑に落ちなかった。
が、それを言うならここにいない最後の一人である春野サクラもそうだ。
そう、これまでの話とサスケに関わりがないのだ。確かにナルトは同じ班の仲間だ
ないようだが
﹁それとオレにどういう関係があるって言うんだ 聞いてりゃオレの話は一切出てこ
性も理解は出来た。だがそれでも分からない事がサスケにはあった。
なるほど。確かにその通りであるし、ナルトが危機的状況である事も暁とやらの危険
な﹂
ナルトには徹底的に強くなってもらう。お前が強くなる事が暁への一番の抵抗だから
﹁そして暁が次にナルトを狙ってくるのは三、四年後だと言う情報が入った。その間に
391
どういう事だってばよ綱手婆ちゃん
﹂
それを聞いてサスケも思いだした。かつて忍者アカデミーで授業に出た事のある名
前だと。
﹁その大蛇丸がどうしたって言うんだ﹂
﹂
﹁奴はお前を狙っている﹂
﹁なに
﹁なんだって
!
た言葉から分かった事だった。
それは大蛇丸が綱手にアカネに封じられた点穴の治療を依頼しに行った時にこぼし
るという事を。
大蛇丸が不死の研究の末に開発した禁術・不屍転生。その器としてサスケを狙ってい
ふしてんせい
そんな二人に綱手は知り得る限りの情報を伝える。
た。
サスケも、今までの話が良く理解出来ずにいたナルトも綱手の言葉に驚愕を顕わにし
!?
!?
﹁ちっ⋮⋮
人の体を乗っ取ろうなんて何様だそいつ⋮⋮
!
﹂
そうなればお前が連れ去られる可能性もより高まる事になる﹂
百人いても相手にならない奴だ。それに抑えられた力をいつ元に戻すかも分からない。
﹁今の大蛇丸は本来の力の半分程度も発揮出来ない状態だが、それでも今のお前程度が
NARUTO 第十三話
392
!
誰しも自分の体を他人に渡したくはないものだ。
当然サスケも自分の体を狙っているという存在を不気味に思いそして憤慨していた。
﹂
そ れ じ ゃ あ 任 務 と か 出 来 な い っ て 事 オ レ っ て ば す っ げ ー 難 し い 任 務 を
!?
次々とこなして里の皆を認めさせて火影になってやろうと思ってんのによー
!
会ったばかりの当初は馬鹿なガキという感想だったが、今では誰よりも守りたい存在と
綱手はナルトと出会い火影になるまでの経緯でナルトを本物の男と認めていた。出
とっては弟の様な存在なのだ。そういう言動もどこか微笑ましく感じていた。
そんなナルトを綱手は優しく微笑んで見ていた。生意気で馬鹿なナルトだが、綱手に
行に励む事は反対ではないが、任務を受けられないのは御免なのだ。
綱手の言葉にすぐに反感の意思を見せたのはナルトだ。火影になりたいナルトは修
!
﹁え ー
いからな。だからしばらくは里の中で修行に励んでもらう﹂
のに捕らえられては意味がない。私達も里の外でまで常にお前達を守れるわけではな
﹁ほう、いい気概だ。とにかく、今お前達を下手に任務などで外に出して暁だの大蛇丸だ
﹁ふん⋮⋮上等だ。その大蛇丸とやらがオレを狙ってくるなら返り討ちにしてやる﹂
が強くなる事が一番の自衛の方法だからな﹂
であるお前をそう簡単には大蛇丸なんぞに渡すつもりはないが、ナルトと同じ様にお前
﹁というわけでだ。お前も乗っ取られたくなければより強くなる事だ。私達も里の仲間
393
思っている。
﹂
﹁これこそがその任務だ。私からお前達に任務を言い渡す。三年間で暁や大蛇丸に負け
﹂
?
オレに任せとけ綱手の婆ちゃん
これはS級任務だ。分かったな
おっしゃー
!
﹂
⋮⋮っと、ちょっと待った婆ちゃん
どうしたナルト
﹁よーし、やるぞー
﹁ん
?
!
﹂
暁や大蛇丸に負けないくらいに強くなる。それはむしろサスケの望むところだった。
そう言うサスケも綱手の命令を聞いてうっすらと笑みを浮かべていた。
!
ないくらいに強くなれ
﹁S級⋮⋮
!
﹁ウスラトンカチが⋮⋮どれだけ単純なんだお前は﹂
!
!
﹂
サクラちゃんはどうすんだってばさ
カカシ、誰だそいつは
?
﹂
!
!?
意味深な目線を送りながら綱手にサクラの説明をするカカシ。
足は否めませんが、頭脳は明晰でチャクラコントロールも高く、そして根性があります﹂
﹁我々第七班の最後の一人である春野サクラ。今はまだ下忍の域を出ておらず正直力不
なので第七班の担当であるカカシに説明を任せた。
ナルトの言う事も至極もっとも。だが綱手はサクラという存在を全く知らなかった。
?
ん
﹁任務ってんならオレ達第七班全員の出番だろ ここにはサクラちゃんがいねーじゃ
?
!
﹁サクラ
NARUTO 第十三話
394
その目線とチャクラコントロールに長けて根性があるという説明を聞いて綱手はカ
カシの言いたい事を理解した。
﹁おお
話が分かるぜ婆ちゃん
﹂
!
どうしてだよ
﹂
!?
だった。
?
﹁そんなのオレとサスケがいりゃあどうとでもなるってばよ
﹂
﹁いや、オレも五代目の意見に賛成だ﹂
﹁サスケ
そうだろサスケ
﹂
!?
そうなったらサクラも死んで終わりだろうが
!?
!
ら残されたサクラは誰が守るんだ
!
﹁このバカ、少しは頭を使え もし五代目が言った様な状況になってオレ達が死んだ
!?
!
い。そこに弱者がいればそれだけで自分はおろか味方に危機を招く事になる﹂
﹁そうだ。お前達と同じ班のままいるという事は、暁や大蛇丸と戦う可能性は非常に高
﹁⋮⋮弱ければ危険だからだ。そうだろ五代目
﹂
綱手の厳しい言葉に反感を覚えるナルト。そしてナルトに対して答えたのはサスケ
﹁えー
!
点で春野サクラの任務は終了。別の班へ移動してもらう﹂
﹁ただし、サクラの修行は私がつける。それに着いてこれないと私が判断したら、その時
!
﹁分かった。同じ班という事ならそのサクラとやらにも同じ任務を受けてもらう﹂
395
⋮⋮それは﹂
お前はそうしたいのか
﹁っ
﹂
!?
﹂
!
サクラちゃんならきっと綱手の婆ちゃんの修行に着い
!
だから。
た。精神を乗っ取るという心転身の術を受けても無理矢理にその縛りを破った女なの
サスケも言葉にはせずとも意外と根性のあるサクラならば大丈夫だろうと思ってい
た。仲間を信じる思いは誰よりも高いのがナルトなのだ。
ナルトはサクラなら絶対に綱手の厳しい修行を乗り越えられると自信を持って言え
﹁ふん⋮⋮﹂
ていけるさ
﹁あ⋮⋮。そっか、そうだな
着いてこれないなら、と言っておっただろうが﹂
﹁全く。ナルトォ、お前はもう少し話を良く聞けぃ。綱手はそのサクラとやらが修行に
ナルトが消沈したところで今まで黙っていた自来也が溜め息を吐きつつ口を開いた。
いい。だがサクラが、仲間が死ぬのは何よりも痛かった。
サスケの言う状況を思い浮かべてナルトは意気消沈する。自分が死ぬのならばまだ
!
ならそれまでだがな﹂
﹁では決まりだな。サクラには私から話しておく。まあこの話を聞いて初めから断る様
NARUTO 第十三話
396
﹂
﹁ナルトの修行に関してはワシが見よう。螺旋丸も含めてこ奴を鍛えるのにワシ以上の
お前以外に螺旋丸が使える奴が今の木ノ葉にいたのか自来也
人材は⋮⋮まあ、おるにはおるがワシが適任だろうしのォ﹂
﹁ん
?
お前以外でか
﹂
?
つ大蛇丸に対応する事は難しい。むしろカカシ自体の戦力上昇も考えなければならな
だがこれから先は今まで通りには難しかった。流石のカカシもサスケの修行を見つ
たったのだ。うちは一族の大半が警務部隊に入っているというのも大きな理由だが。
上忍にしてはサスケへの贔屓の可能性も考慮して写輪眼を持つカカシに白羽の矢が当
元々カカシが今までは担当上忍としてサスケの修行を見ていた。うちはの者を担当
﹁ん
?
﹁それですが⋮⋮実は今サスケの師匠をしている人がいまして⋮⋮﹂
せるのが良いかの﹂
﹁ああ、まあ、それは後で話すとしよう。サスケに関してだが、うちはの事はうちはに任
にもいかないので、今は説明する時ではないと自来也は口を噤んだ。
まだこの部屋にはナルトとサスケがいる為に迂闊にアカネの正体に関しては話す訳
たので早い内に知らされるだろう情報だが。
だが綱手は未だにアカネの存在と正体を知ってはいなかった。もちろん火影になっ
自来也が自分以上の人材と口にして頭に思い浮かんだのはもちろんアカネだ。
?
397
い状況なのだ。
それゆえに今回はうちは一族の誰かにサスケを任せようとしていたのだ。うちは一
族の敷地内ならば大蛇丸とてそう易々とサスケを狙う事は出来ないだろうとの考えだ。
﹂
﹁ええ⋮⋮アカネです﹂
﹁⋮⋮マジか
﹁はい﹂
﹁それは⋮⋮﹂
﹂
分日向に行けば後二人くらい同胞が増えるだろう。
して何度も頷いていた。ここに性格も年齢も違い過ぎる二人の男が分かりあった。多
サスケも自来也を見て同胞を見つけたような気持ちになりいつもの強気の態度を崩
らいに⋮⋮。
一年間で相当絞られたのだ。もうしばらくはアカネと一緒に旅をしたくないと思うく
同類を見るような目線を自来也はサスケに送った。自来也もアカネと共に旅をした
﹁ああ⋮⋮あんたもか﹂
﹁⋮⋮サスケ、お前よく生きておったの﹂
カカシの言葉に嘘が無いと判断した自来也は感嘆の念を籠めてサスケに話しかけた。
?
﹁一体誰なんだそのアカネという奴は
NARUTO 第十三話
398
?
﹁日向アカネってやつだが⋮⋮知らないのか
﹂
﹂
どうして日向の人間がうちはの師をしているんだ
どういう事だ︶
﹂
により綱手がどう反応するかを見たかったのだ。だが今までの反応からしてどうにも
カカシが口淀んだ瞬間にサスケはアカネの名前を出して綱手の反応を伺った。これ
?
なんでアカネがサスケの師匠をしてんだってばよ
誰だそいつ
や自来也って三忍は知っているのにか
カカシ
?
綱手はアカネの事を知ってはいないようだ。
﹁アカネ
﹁アカネェ
?
︵ナルトがアカネを知っているのはともかく⋮⋮五代目はアカネを知らない
!?
?
そうしてナルトとサスケが退室してから、綱手は自来也を睨みつける。
任務を告げる。それまで自由に待機していて構わん。では解散だ﹂
﹁⋮⋮分かった。ナルトとサスケ、お前達には私がサクラに同じ事を話した後に正式に
﹁あー、アカネについては後でワシから説明する。取り合えず一旦はこれで解散するぞ﹂
ありそうな気もしていたサスケであった。
単に綱手がしばらく木ノ葉を離れていただけという可能性もあるが、それ以外に何か
て自来也も知っている。なのに同じ三忍の綱手はアカネを知らない。
カカシやフガクの反応からしてアカネは上忍からも一目置かれる存在だろう。そし
これによりサスケはよりアカネの存在が気になる事になる。
?
?
!?
399
﹂
﹁で、どういう事だ 日向アカネとやらについてはあいつらに話す事が出来ない内容
なのか
?
のだ。ナルト達には後で合流すると話している。
アカネはナルト達が出て行った時に自分が呼ばれるだろうと思って待ち構えていた
そうして火影室から出たカカシはすぐにアカネを見つける。
﹁おう、そうか。なら頼むとしようかの﹂
は知られる事になるでしょうから、ちょっと呼んできますよ﹂
﹁ちょっと待って下さい。実は当のアカネがすぐそこにいましてね。どうせ五代目様に
それほどまでに情報を規制する必要がある存在が気にならないわけがなかった。
としていたのに気付いていた。
綱手は自来也がアカネについてナルトとサスケに知られない様に二人を遠ざけよう
?
アカネはヒヨリとして綱手とはそれなりに親しい関係を結んでいたが、それでも綱手
で失ったのだ。そうなるのも致し方ないだろう。
当時の綱手はそれはもう荒み落ち込んでいたものだ。最愛の弟と最愛の恋人を戦争
アカネは記憶に残る最後の綱手を思いだす。そして思わず目を瞑った。
﹁ええ。⋮⋮あの子に会うのも久しぶりですね﹂
﹁アカネ⋮⋮五代目様がお呼びだ﹂
NARUTO 第十三話
400
の心の傷を癒す事は無理だった。
いや、その時間すらなかったのだ。ダンを失った綱手は程なくして木ノ葉から去った
のだから。
その綱手が木ノ葉に帰り火影の座についた。安堵と心配と不安と感慨深さが混ざり
合った感情を抱きながら、アカネは火影室の扉を開けて中に入る。
﹁⋮⋮いや、すまない。私の勘違いだ││﹂
綱手はアカネの姿にヒヨリが重なって見えていた。
他の日向の女性を見た時はこんな風にヒヨリを思い浮かべる事はない。だが、何故か
くりという訳ではない。
そしてポツリとそう呟いた。アカネは確かにヒヨリと同じ日向の一族だが、別段そっ
﹁ばあ様⋮⋮﹂
は震え、座っていた体は何時の間にか乗り出していた。
信じられないモノを見たかのように驚きで目を見開いてアカネを見つめる綱手。唇
綱手の言葉は尻すぼみしていった。
入室して来たアカネを見て綱手は火影として挨拶をする。だがアカネを見てすぐに
﹁うむ。私が五代目火影の綱手だ。お前が日向アカ⋮⋮ネ⋮⋮﹂
﹁失礼します﹂
401
勘違いだから気にするな。そう言おうとした綱手の言葉をアカネが遮った。
﹁久しぶり、綱﹂
﹂
﹂
?
した。
そしてアカネの正体とその経緯を知った綱手は溜め息を吐いてゆっくりと腰を下ろ
驚愕に身を竦ませている綱手に、アカネはゆっくりと全てを語った。
﹁少し長くなるけど、全てを話すよ﹂
綱手のその言葉に、アカネは頷いて答えた。
﹁ヒヨリ⋮⋮ばあ様、なのか
そして自然と答えが口から出て来ていた。
とは思わなかった。
久しぶり。会った事もない相手からのその言葉だが、綱手は何故か不思議とおかしい
その言葉に、その優しい眼差しに、またも綱手はヒヨリを思い浮かべる。
﹁
!!
うだ。
予想だに出来なかった事態を目の前にして流石の火影も興奮が冷めやらぬ様子のよ
﹁ふぅ⋮⋮。まさかヒヨリばあ様が転生をしていたなんてな⋮⋮﹂
NARUTO 第十三話
402
まあ、予想しろという方が無茶なので誰しもこうなって当然だろう。
そんな綱手にアカネは優しく、そして嬉しそうに語りかけた。
⋮⋮何でもお見通しか。ばあ様には昔から隠し事が出来なかったな﹂ !?
﹂
?
﹁ナルトには、礼をしなければなりませんね﹂
どこか不思議な期待を持たせる事が出来るあの少年ならばと、アカネは思えたのだ。
た少年。
うずまきナルト。九尾の人柱力であり木ノ葉の下忍。だがそれ以上の可能性を秘め
﹁そう、か﹂
﹁⋮⋮ああ﹂
﹁⋮⋮ナルトか
ネはふとナルトの存在を思いだした。
自分の力で克服したのか、それとも第三者の手助けがあったのか、それを考えてアカ
情な過去を飲み込み、前を向く事が出来ているのだ。
いや、正確には少し違う。無くなっているのではなく乗り越えたのだ。あの凄惨で非
事に気付いた。
アカネは綱手と接している内にかつて綱手の中にあった負の感情がなくなっている
﹁っ
﹁綱⋮⋮過去を乗り越えたんだな﹂
403
自分にも出来なかった事をナルトは成し遂げてくれた。きっとアカネがどんな言葉
を並びたてようともそれは綱手の心に響かなかっただろう。
けどナルトはそんな綱手の心を動かしたのだ。どうやったのかは分からないが、それ
だけでナルトはアカネにとっての恩人だった。
大切な親友の孫を救ってくれたのだから⋮⋮。
﹂
﹁後で修行でもつけてあげましょうか﹂
﹁お前、ナルトに恨みでもあるんかの
﹂
?
葉である。
ヒヨリばあ様になんて口の聞き方だ
﹂
!
﹁いいんですよ綱。というか、あなたもこう言った事情を知る者達だけの場ならともか
そんな尊敬すべき相手に対し対等の口を聞く自来也に憤慨するのも無理はない。
たりと色々と世話をしてもらったものだ。
美味しいおやつを貰ったり、怪我をしたら治してくれたり、修行の手伝いをしてくれ
左腕にして木ノ葉設立の立役者にして、そして気の優しいお婆ちゃんだった。
綱手にとってヒヨリとは尊敬する祖父である初代火影柱間の親友にして初代火影の
!
お礼にとびっきりの修行をつけて強くしてあげようと思っていた矢先の自来也の言
﹁なんで
!?
﹁おい自来也
NARUTO 第十三話
404
く、それ以外では普通に木ノ葉の下忍として扱って下さい。そうしないと厄介ですし﹂
﹂
?
能性を感じているのだろう。
恐らくナルトを弟の縄樹に重ね、その上で過去を乗り越える要因となったナルトに可
理解した。
その物言いと籠められた思いから、綱手が余程ナルトを信用しているのだとアカネは
話が違う。一刻も早くナルトには強くなってもらわねばならん﹂
﹁そうではない。だが大蛇丸だけが狙っているサスケと暁全員が狙っているナルトでは
﹁ワシが信用出来んか綱手
﹁ヒヨリばあ様がサスケを見るならばそちらは安泰だろうが、やはり問題はナルトか﹂
だがそれも束の間。すぐに二人は先の事に付いて話しあった。
再会を喜びあった二人はそう言って互いに笑いあう。
﹁いいですよ。私もその方が嬉しいですし﹂
対応させてもらうぞ﹂
﹁⋮⋮分かった。では普段はそうさせてもらう。だがそれ以外ではヒヨリばあ様として
態度を見せては色々と問題だろう。
綱手もアカネの言い分は理解出来る。火影ともあろうものが高々下忍を相手に敬う
﹁それは⋮⋮確かにそうだが⋮⋮﹂
405
ナルトならば九尾の人柱力という境遇を乗り越え、いずれは火影になり里を守る力と
なると信じているのだ。
力を完全に使いこなせれば⋮⋮﹂
﹁けど焦っても意味はありません。まずは地力を伸ばす事が重要です。その上で九尾の
そうなればまず敵はない。それほど九尾の力は凄まじいのだ。
ナルトの中にある九尾のチャクラはどうも完全ではないとアカネは感じ取っていた
が、それでも尾獣の中でもっとも強大な力を持っている規格外の尾獣が九尾なのだ。
ちなみに今のナルトの中にある九尾のチャクラは陽のチャクラのみ。陰のチャクラ
は屍鬼封尽にてミナトが道連れにして封印してある。半分でそれだから本当に規格外
なのである。
﹂
?
還元されるという物がある。
そして影分身の特性として、影分身が得た情報や経験は影分身を解除した時に本体に
す術だが、影分身はそれに実体を持たせるという高等忍術だ。
それは影分身を応用した修行だ。分身の術とは実体を持たない術者の分身を生み出
綱手の質問にアカネは九尾チャクラを利用した修行法を伝える。
﹁どういうことだばあ様
﹁うーん、九尾チャクラを自在にコントロール出来れば修行も大幅に捗るのですが⋮⋮﹂
NARUTO 第十三話
406
それを利用して、影分身を大量に出してその分身全てに修行させる事で修行時間を大
幅に縮めるという裏技的な方法があるのだ。
もっとも全てにおいて都合良くは出来ていない。まず影分身自体が本体のチャクラ
を分散して作り出す術なのでこの修行方法だとあっという間にチャクラが切れてしま
うのだ。
これを行うには桁違いのチャクラが必要になってくる。それこそ尾獣のチャクラを
自在に操れるくらいでなければ不可能だ。
だが今のナルトはまだその域に達してはいない。今までにも何回か九尾のチャクラ
が漏れ出して爆発的な力を見せた事はあるが、自在にとなると難しい。
そして上手く九尾のチャクラを引き出せた所で問題がある。あまりに九尾のチャク
ラを引き出していると下手すれば九尾の封印式が緩んで九尾が復活する可能性もある
のだ。
この修行法は上手く行けば非常に効率的な修行だが同時に危険性も高いのである。
九尾の力や意思を抑える事が出来るのだ。かなりおかしい性能である。流石は忍の神
九尾という天災を抑える事が出来た数少ない忍の一人が柱間だ。木遁の特殊な力で
﹁柱間がいればなぁ。あいつ木遁で九尾を縛る事が出来たし﹂
﹁なるほどな⋮⋮﹂
407
と謳われた存在だ。
何か言ったか
﹂
﹁落ち込みやすい性格の癖に⋮⋮﹂
﹁ばあ様
?
﹁え
﹂
﹂
﹁ちょっとお待ちを。木遁忍術なら一人だけ扱える忍を知っています﹂
を挟んだ。
結局はそれが一番の近道だろう。そう結論付けたアカネだったが、そこにカカシが口
としよう﹂
﹁いや何も。まあ無い物ねだりをしても仕方ない。ナルトには地道に強くなってもらう
?
それを扱える者が今の世にいるなどとは流石の二人も想像だにしていなかった。
えないのかもしれない。それほどの秘術なのだ。
いや、柱間と同じ千手一族にも直系の子孫にも伝わっていないので血継限界とすら言
これにはアカネも綱手も困惑した。木遁とは初代火影のみに許された血継限界だ。
﹁どういう事だカカシ
?
?
が。
カカシは事の詳細を語る。と言ってもカカシも全てを知っているわけではなかった
﹁実はかつて大蛇丸がしていたという人体実験の成果でして⋮⋮﹂
NARUTO 第十三話
408
かつて大蛇丸がまだ木ノ葉の里から抜けていなかった時、大蛇丸は様々な研究を秘密
裏に行っていた。木遁の研究もその一つだ。
千手柱間の細胞を利用してそれを幼い子どもに移植し木遁を再現出来ないかという
最悪の実験。そして実験台となった子どもはその殆どが死に絶えた。
いや、大蛇丸は全員が死亡したと思っていた。だが一人だけ生き延びた子どもがいた
のだ。
﹂
!
﹁そうか。それじゃあナルトの修行が一段落したらそのテンゾウさんに力を貸してもら
しょう﹂
﹁とまあ、テンゾウはオレも信用の置ける男です。奴ならば九尾を抑える事も出来るで
何に。
初代三忍と二代目三忍の紅一点から命を狙われる事になった大蛇丸。彼の運命や如
︵この二人の怒りを買うか。死ぬのぉ、あいつ︶
は少しだけ外道に堕ちた元仲間に同情した。
カカシの説明を聞いた二人は大蛇丸への怒りを顕わにする。隣でそれを見た自来也
﹁最悪だな。今度あった時は一切の加減も仕置きも抜きで⋮⋮﹂
﹁大蛇丸め、どこまで⋮⋮
﹁それが後に暗部の一員となったテンゾウという男です﹂
409
いましょう﹂
﹁今すぐじゃ駄目なのかばあ様
﹂
﹁何時でもテンゾウが動ける様にあいつにはオレから声を掛けておきます﹂
行は毒になる。まずは地力を伸ばしてからという事に変わりは無かった。
自力で影分身による修行が出来るならば話は別だが、そうでないならば頼り切った修
るなら二年はきちんと自分の力だけで強くなってもらいます﹂
﹁ええ。最初から他人に頼った修行をしてはナルトの為になりません。三年の時間があ
?
危機的状況になってからでは遅いのだが、その状況にならなければ理解出来ないのが
里に漏らす訳がない。
そもそも人柱力とは里にとっての重要な軍事力なのだ。それは最重要機密であり、他
など期待出来ようもないだろう。
わけがない。例え暁の危険性を説いても自分達ならば大丈夫と言い張り、他里との連携
改めて同盟国となった砂はともかく、雲と土と霧。この三つの里がまともに話を聞く
と思っている。
だがそう言いつつも綱手は他里が木ノ葉の話を素直に聞き入れるのは難しいだろう
力を狙っているならば必ず他の里も狙うはずだからな﹂
﹁うむ。これで大体の方針は決まったな。後は他里にも声を掛け続けておく。暁が人柱
NARUTO 第十三話
410
411
人間なのだ。それでも何もしないままでいるわけにも行かないので、綱手は出来る限り
他里へと呼びかけをするのであった。
人だけどうしてチャクラが二重に感じるのか。その不思議を少しでも解く為だ。
そしてアカネにとってはナルトとサスケのチャクラを見比べる為でもある。この二
せてより追い付こうとする気概を持たせる為でもあった。
狙われている二人の力を計る為であり、サクラに今の自分とナルト達との差を理解さ
そして今日はナルトとサスケが勝負をする為にこうして集まっているのだった。
時間を使って徹底的に鍛え上げるつもりだ。
その時のサクラの意気込みを見て綱手はサクラを気に入った。こうなったら開いた
嫌で、逆にナルト達を助けてやろうと決心したのだ。
た。今まで彼女はナルトやサスケに助けられてばかりだった。そんなお荷物な自分が
サクラがこの場にいるのは、サクラが綱手から聞かされの任務を受ける事を選択し
の担当であるカカシの計七人である。
アカネ・自来也・綱手の師匠組と、ナルト・サスケ・サクラの弟子組、そして第七班
いた。
木ノ葉の里に広がる森の中。その森で木々のない開けた土地に数人の忍が集まって
NARUTO 第十四話
NARUTO 第十四話
412
勝負が始まる前からアカネは白眼を発動して二人を見る。こうして見比べると二人
は似ているようでどこか違っていた。
ナルトからは柱間を、サスケからはマダラを思い起こさせるチャクラを感じる。だが
二人のチャクラが柱間とマダラに似ている訳ではない。
二重になっているチャクラがそれぞれ柱間とマダラの二重になっていたチャクラと
同一に感じるのだ。
︶
そして組手が終わり決着の後に、互いに対立の印を前に出して重ね合わせ結び、和解
を意味し、これから戦う意思を示す行為。それが対立の印だ。
組手前に必ず片手印を相手に向ける行為の事だが、両手印で術を発動する所作の半分
作の一つだ。
対立の印とは木ノ葉の里で古くから守られてきた伝統の訓練方式である忍組手の所
自来也の言葉に従い、ナルトとサスケが対立の印を組む。
立の印をせい﹂
﹁それじゃあこれよりうずまきナルト対うちはサスケの勝負を始める。まずは互いに対
るしかなかった。
長い人生を歩むアカネも皆目見当が付かないこの現象。とにかく今は観察に集中す
︵はてさて。これは一体何なのか
?
413
の印として仲間である事の意思を示す。
その一連の流れが忍組手の作法一式である。
ナルトとサスケは対立の印を組む事で過去に思いを馳せていた。
それは二人の最初の戦いの記憶。アカデミーでの忍組手の記憶だ。
当時の組手はサスケの圧勝だった。家族がいて才能があって強くて、ナルトにとって
サスケは眩し過ぎる存在だった。
それからナルトはサスケをライバル視するようになった。必ずサスケに勝って自分
を認めさせる。無意識の内に自分が初めて眩しいと感じた相手に認められる事で第一
歩を踏み出せる様に思ったのだ。
﹂
今までは落ちこぼれとしてナルトはサスケの眼中になかった。だが同じ班となって
共に任務をし、今ではサスケから闘いたいと言われる様になった。
﹂
そして今目の前に本気のサスケがいる。それがナルトには嬉しかった。
﹁へへ﹂
お前にやっと勝てると思ったらな
﹂
!
﹁何がおかしい
ナルトの答えにサスケは笑って返す。
﹁おかしいんじゃねーってばよ、嬉しいんだ
!
?
﹁ふん。残念だが、今日もオレが勝つ。明日も、明後日もだ
!
NARUTO 第十四話
414
﹂
﹂
﹁いつまでも落ちこぼれだと思ってんじゃねーぜ
﹂
﹁安心しろ⋮⋮とっくの昔に思っちゃいねェーよ
﹁サスケェーー
ない自分に腹が立っていた。
それが悔しくもあり、情けなくもあり、そして悲しくもある。何時までも成長してい
時の間にか自分の遥か上に立っている。
それはどこか寂しさを感じさせる現実だった。自分よりも下と見ていたナルトが何
たんだ⋮⋮︶
︵あの落ちこぼれだったナルトが何時の間にかこんなに⋮⋮とっくに、置いてかれてい
にとっては驚愕だった。
天才と謳われたサスケの体術にナルトは付いていっているのだ。それだけでサクラ
られる。
互いに振りかざした拳を同じ様に受け止め、そしてそこから幾度かの攻防が繰り広げ
二人は正面からぶつかりあった。
互いの名を叫び、そして勝負が始まった。
﹂
﹁ナルトォーー
!
!
!
!
415
そんなサクラを見て綱手はこれだけでもサクラを連れてきた甲斐があったと思って
いた。
こうした思いがある限り人は努力出来るのだ。これで奮起しない様では忍として端
から見込みがないと切り捨てるしかないだろう。
ナルトとサスケの体術合戦は徐々にサスケが優位に進めていった。いくらナルトが
急成長したとは言えサスケとの間にあった差を埋める程ではなかった。
いや、サスケが成長していなければとっくに追い抜いていただろうが、サスケとて成
長しているのだ。
﹂
まともにぶつかり合っては不利と判断したナルトは得意術にしてとっておきの切り
札を使用する。
﹁多重影分身の術
﹁いくぞサスケェ
﹂
故にこれはチャクラが大量にある忍のみに使用を許された禁術なのである。
クラが少ない者ならば気絶する可能性を秘めていた。
影分身は術者のチャクラを分散する術故に大量の分身を生み出すとそれだけでチャ
やしたという術だが、それだけで禁術扱いされている術でもある。
術の発動と共に百を超えるナルトが現れた。影分身で生み出す分身の数を単純に増
!
!
NARUTO 第十四話
416
﹁ちぃ
﹂
﹃うわぁあぁ
﹄
││千鳥流し
││
ならば迎撃あるのみ。それがサスケの選択だった。
のナルトがいる為無事に切り抜ける事は難しい。
これを防ぐのは並大抵の体術では不可能だろう。飛んで逃げようにも上空にも無数
からも攻撃を仕掛けてくるのだ。
大量のナルトがサスケに襲い掛かる。影分身同士が連携して四方は当然として上空
!
!
﹂
!
のだ。
試験からたった二週間程でこの様な応用技を身に付けているとは思ってもいなかった
これに驚愕したのはカカシだ。元々千鳥をサスケに教えたのはカカシだったが、中忍
﹁何時の間にあんな術を
攻撃を受ければ消滅する影分身相手には効果的な術だろう。
威力はそこまで高くはないが多くの敵を巻き込み痺れさせる事が出来る。一撃でも
一点に集中していた千鳥を全身から発する事で自身の周囲に高圧電流を流す術だ。
これがサスケがアカネとの修行で新たに覚えた千鳥の発展型である。
サスケの周囲を覆っていたナルト達が一斉に消滅していく。
!
417
サスケの天性の才能を褒めるべきか、それとも短期間でサスケに仕込んだアカネを褒
めるべきか悩みどころなくらいだ。
﹁ふっ﹂
﹁へへっ﹂
上手く大量の影分身を消滅させたサスケはナルトに強い態度を見せるが、それに対し
てナルトも笑って返した。
﹂
それを怪訝に思うサスケだったが、次の瞬間にサスケはナルトの態度の理由を理解し
た。
﹁がぁっ
う
ず
!
ま
!
き
!
ナルト連弾
!
﹂
!
である。
これもかつて中忍試験でサスケが使った獅子連弾という体術の物真似で覚えた体術
!
たのだ。かつて中忍試験でネジを相手に使用した戦法の応用である。
ナルトは大量の影分身を出した時に影分身に紛れて本体を地面の下へと潜らせてい
応出来なかった様だ。
そしてサスケの顎を殴りつけて上空へと吹き飛ばす。さしものサスケもこれには反
サスケの足元の地面がひび割れ、突如として地面を突き破ってナルトが現れたのだ。
!?
﹁まだまだぁ
NARUTO 第十四話
418
サスケを意識したが故の物真似だろう。もっとも一人でやっているサスケと違いナ
﹂
ルトは影分身と協力しあっての連携体術だが。
﹁ぐ、あ、あぁ
︶
ナルトがここまで成長しているなんて
ナルトがサスケ君に勝っちゃうの
︵まさか
︵うそ
!?
︶
!
﹂
!?
のか
ナルトは動揺しつつも四方を見渡してサスケを探す。
本体だけではない。無数の影分身全ての視界から消えたのだ。そんな事が有り得る
決着をつけようとしたナルトの視界からサスケの姿が消え去っていた。
﹁な、なにぃ
だが、その驚愕の瞬間は訪れなかった。
を見開いて活目していた。
カカシもサクラもあの落ちこぼれだったナルトが天才のサスケに勝利する瞬間に目
いくらナルトが強くなったと言っても現時点でのこの展開は予想外だったようだ。
!
!
せた。ここで一気に勝負を決めるつもりなのだろう。
最後の一撃で大地に叩き付けられたサスケに、ナルトは全ての影分身を一斉に突撃さ
叶わずにナルト連弾を喰らってしまう。
顎に強烈な一撃を貰い軽い脳震盪を起こしていたサスケはまともにガードする事も
!
419
?
そして見つけた。何時の間にかサスケは数十メートルも離れた場所に移動していた
のだ。
﹂
どうやってあの一瞬でそこまで移動したのかはナルトには分からない。だが見つけ
たからには本体含む全てのナルトがサスケへの追撃に移行した。
た。
脳震盪を回復させるには十分な時間を得たサスケは、大きく息を吐き切り札を使用し
﹁ふぅ⋮⋮ナルト。お前は強い⋮⋮強くなった。だが⋮⋮まだオレが強い
!
それは先程ナルトの攻撃を回避した時と同じ術。あまりのチャクラ消費量の為にま
だ短時間しか発動出来ないサスケのとっておき。
﹂
雷遁チャクラによる高速モードである。
!
事すら不可能という事だ。
に対応出来る反射神経を今のナルトはまだ身に付けてはいなかった。つまり、抵抗する
サスケは瞬きも許さぬ間に次々とナルトの影分身を消し去って行く。その高速攻撃
見失った理由だった。
これにより目にも止まらぬ高速戦闘を可能としたのだ。これが先程ナルトがサスケを
全 身 に 雷 遁 の 衣 を 纏 っ た サ ス ケ は 雷 を 利 用 し て 電 気 信 号 の 伝 達 速 度 を 加 速 さ せ る。
﹁はぁ
NARUTO 第十四話
420
﹁うわぁぁぁっ
﹂
﹂
!
た。
勝者うちはサスケ
してチャクラを練ろうとするが、その暇も与えられずにあっという間に倒されてしまっ
ナルトが訳も分からぬままに影分身は全て消滅する。そしてどうにか応戦しようと
!?
﹁はぁ
はぁ
﹂
!
﹂
!
だが勝負はチャクラ量だけで決まるものではない。少ないチャクラも要は使い方次
う。
チャクラを有する事になるのだ。ことチャクラ量でナルトに勝る忍は極僅かと言えよ
駕しており、実に数倍の差がある。その上九尾のチャクラを引き出せれば百倍を超える
対してナルトはまだまだスタミナが残っていた。ナルトのチャクラ量はサスケを凌
今のサスケのチャクラではやはり雷遁の衣を発動し続けるのは厳しい物があるのだ。
だった。
悔 し が る ナ ル ト に 息 を 荒 げ る サ ス ケ。勝 者 は サ ス ケ だ が 消 耗 が 激 し い の も サ ス ケ
!
﹁く、くそぉ⋮⋮
也が決着の言葉を放った。
倒れたナルトに馬乗りになり拳をすん止めしているサスケ。そしてそれを見た自来
﹁それまで
!
421
第だ。
今のナルトはまだ大量のチャクラを持て余しているに過ぎなかった。
組手が終われば和解の印を組む。ここまでが忍組手の流れだ。
﹁では互いに和解の印をせい﹂
最初に二人が闘った時はいがみ合って素直になれずに拒みあっていたので和解の印
は成立しなかった。
負けた事が悔しくて才能溢れるサスケに認められていなかった事が悔しくて、ナルト
から拒んだ結果である。
だが││
﹂
﹁はぁ、はぁ⋮⋮。ナルト⋮⋮オレはもっと、もっと強くなる﹂
﹁ッ
様な錯覚を覚えた。しかし、次のサスケの一言でその錯覚は消え去った。
そんな遠い目標を持っているサスケの瞳を見ているとナルトはまた置いて行かれる
置にいる存在を知っているのに満足など出来るわけがなかったのだ。
サスケの目標は優秀で尊敬する兄であり、そして身近にアカネという手が届かない位
今でも十分に強いとナルトは思っていた。だがそれでサスケは満足していなかった。
!
﹁だからお前も追いかけてこい。さっさと来ないとオレはどんどん先に行くぞ﹂
NARUTO 第十四話
422
﹁⋮⋮
﹂
へんっ オレってばお前よりも絶対強くなってやる
くて追い抜いてやるから覚悟しとけよ
!
追いつくんじゃな
!
めあったのだ。二人の実力が加速度的に飛躍していくのはこれからであった。
ここで二人は始めて和解の印を結んだ。互いに仲間と認め友と認め好敵手として認
められたのだ。嬉しくない訳が無かった。
そしてそんなサスケの思いはナルトに伝わっていた。一番認めて欲しい存在から認
分からない。それはサスケも自覚していた。
て貰ったからこその僅差だった。雷遁による高速戦闘がなければどうなっていたかは
サスケはナルトを自分のライバルと認めたのだ。先程の勝負はアカネに修行を付け
!
!!
そんなサクラに綱手が声を掛けた。
そして自分の情けなさに肩を落としていた。
どちらも一ヶ月前には想像出来なかった姿だ。同じ班としてサクラは二人を尊敬し、
遁を巧みに操り圧倒的な力を見せたサスケ。
多重影分身を使った戦術と膨大なチャクラ量を披露したナルトに、覚えたばかりの雷
﹁本当にね。全く、こりゃうかうかしてたらあっという間に追い抜かれるな﹂
﹁サスケ君もナルトもすごい⋮⋮﹂
423
﹂
﹁置いていかれるままでいいのか
﹁ッ
﹂
?
必ず横に並んでみせます
に向けて強くなり、二人を守ると誓ったのだ。
﹁いえ、私は二人の後ろにいたくない
﹁はい
﹂
﹂
修行は厳しいぞ
!
﹁そうか。ならばお前を私の正式な弟子とする
?
!
!
それを見ていたアカネもふとした事を思い付いた。
に必死の修行をするだろう。
サクラも決意を新たにして綱手の弟子となった。これからあの二人に追いつくため
!
﹂
このままでいい訳がない。自分だって二人と同じ第七班の一員なのだ。来るべき時
思い。成長し続ける二人に置いていかれたくないという思い。
それはサクラの核心を突く言葉だった。先程の二人の忍組手の最中にも感じたその
!?
﹁ん
どういうことだばあ⋮⋮アカネ
﹂
?
﹁ふむ⋮⋮。それなら三人一緒に修行をするという事か
﹂
ようかと思いまして。それぞれに合った技術を提供出来そうですし﹂
﹁サスケばかりに教えるのも何ですから。私の持つ技術をナルトとサクラさんにも授け
?
﹁ふむ。どうせなら私も第七班それぞれに教えましょうか﹂
NARUTO 第十四話
424
?
﹁いえ、基礎修行ならともかくここから先はそれぞれの方向性に合わせた修行に特化し
ます。三人一緒に修行してもあまり意味はないでしょう。なので、自来也にナルト、カ
カシ及びうちは一族にサスケ、五代目にサクラさんの修行を付けてもらい、私は空いた
時間にそれぞれを見ようかと﹂
﹂
?
?
﹁オレもわからねーってばよ。少しだけ一緒に修行した事あんだけど、すげー強いって
るの
﹁ねぇ、あのアカネっていう人何者なの 何で五代目火影の綱手様と普通に話してい
ぶつけてみた。
そんな二人の会話を聞いていたサクラはナルトとサスケへと近付いて二人に疑問を
﹁お願いします綱手様﹂
﹁いいだろう。うちは一族には私から伝えておく﹂
取り入れた。
修行を行う様にすればより効果的な修行になる。そう判断した綱手はアカネの意見を
普段は別個に分かれて個人に合わせた特化修行を行い、たまに三人揃って連携や基礎
に与れるようにした方が全体の戦力向上に繋がるだろう。
アカネがサスケ一人に集中するよりも、これまで培ってきた経験と技術を全員が恩恵
﹁なるほど⋮⋮﹂
425
事しか知らねーってばよ﹂
﹁オレもだ。あいつのおかげで強くなれたんだが、あいつが何者なのかはさっぱりだ。
父さんやオビトさん⋮⋮一族の一部は知っているみたいだが﹂
アカネって一体何者なんだってばよ
﹂
謎の女アカネ。そのベールが暴かれる時は果たして来るのだろうか。
︶︶
﹁なあなあ綱手の婆ちゃん
︵︵良くやったナルト
!
!?
それを一切気にせずに質問した馬鹿なナルトを今日ばかりは褒めていた。
ど う に も ア カ ネ に は 重 要 な 秘 密 が あ る 様 な の で 明 確 に 聞 く 事 が 憚 ら れ て い た の だ。
内心で褒め称えた。
気になっても聞くに聞けなかった事をあっさりと聞いたナルトをサスケとサクラは
!
﹁えー
﹂
いいじゃん婆ちゃんのけちーっ
﹁何と言おうと駄目なものは駄目だ
!
!
﹂
して他里にも広まるだろう。そうなった時の厄介さなど考えたくないものだ。
口が軽そうなナルトにアカネの正体など教えればあっという間に里全体に広まり、そ
ト﹂
出来んし、以後の質問も禁ずる。もちろんこの話を広める様な事もするなよ。特にナル
﹁うむ。気になるのは分かるだろうがこれは里の重要機密に関わる。よって教える事は
NARUTO 第十四話
426
!
食い下がるナルトだが綱手が了承するはずもなく、仕方なく引き下がった。
だが諦めていない事は誰の目にも明白であり、恐らくアカネと二人きりになればその
時に本人に確認する事だろう。まあアカネも教えるつもりはなかったが。
そこでアカネはふと面白い案を思い付いた。
﹁本当かアカネ
ようし、その約束忘れんじゃねーぞ
﹂
!!
した活動なだけで、真の目的は他にあった。
だがそのどれも本当の目的ではなかった。あくまで組織を運営する金や力を目的と
ている凄腕の忍を狩ったり、世界中に散らばる禁術を集めたりなどだ。
その活動は多岐に渡り、忍の争いに傭兵として雇われたり、闇相場で賞金を懸けられ
暁。それはS級犯罪者としてビンゴブックに名を連ねている凶悪犯罪者集団の集い。
◆
かった様である。
なお、ナルトとサスケのチャクラが二重になって見える現象に関しては何も分からな
教える気はないなこりゃ。それが大人組全員の感想だったのは言うまでもなかった。
!
﹁そうですね。私に勝てたら教えてあげてもいいですよナルト﹂
427
その目的の為の手段が尾獣狩りである。
暁はある目的の為に九体いる尾獣の全てを手にするつもりなのだ。その為に世界各
地から仲間足りうる力と思想を持つ忍を集め活動していた。
もっとも、真の目的など関係なくただ己の欲望を満たす為に動く者が殆どだったが。
暁という組織が自分の欲を満たすのに適しているから属しているだけの者は多かった。
だが暁はここしばらく活動を控えていた。それには二つの理由があった。
一つは尾獣を人柱力から引き剥がし外道魔像と呼ばれる存在に封印する為の準備期
間だ。これらの術と必要な道具を集めるのにかなりの時間が掛かるのだ。
そして二つ目の理由。それは⋮⋮日向ヒヨリの存在であった。
だった。
この場に集まっているのは暁の面々。そして会話の内容は今後の活動方針に関して
に具現し会話しているのだ。
だが実際にその場に人はいない。これは術によって遠方にいる人間の意識をこの場
の指の上にそれぞれ一人ずつ人間が立っていたのだ。
岩肌に囲まれた薄暗い洞窟の中に複数の気配が漂う。外道魔像と呼ばれる巨大な像
﹁どうして今更活動を抑えろって言うんだよ、なあリーダーさんよぉ﹂
NARUTO 第十四話
428
それは三年間に渡って活動を抑えるという、過激派とも言えるメンバーにとっては納
得のいかない方針だったのだ。
その理由を問いかけているのは飛段という男だ。過激派の中でも特に人を殺す事が
大好きでジャシンという神を崇めるジャシン教の狂信者だ。
﹁⋮⋮木ノ葉の日向ヒヨリが生きている。それも若い肉体を得てな﹂
角都に図星を突かれたペインは活動を抑える本当の理由を話した。
この恐ろしい二人が組んでいるのには訳があるが、今はそれは置いておこう。
でもない癖もある。
段は冷静沈着だがトラブルが起こると激昂し仲間であっても殺してしまうというとん
人殺しを好むというより、金のみを信じているので金の為に人を殺すのだ。だが、普
にこの男もかなりの危険人物であった。
暁は基本的に二人一組で行動するようになっている。そして飛段と組んでいるだけ
ツー マ ン セ ル
そう言ったのは角都。飛段と二人一組を組んでいる男だ。
ツー マ ン セ ル
﹁それならば尾獣狩り以外の仕事をする事に問題はないだろう﹂
人もいなかった。
表だった理由を暁のリーダーであるペインが語るが、それで納得する者はこの場に一
﹁我々の目的は尾獣だ。だが尾獣を封印する為の準備に後三年はかかる﹂
429
﹃
誰だそれ
﹄
﹁あ
﹂
?
!?
﹂
?
?
尾獣並であり尾のない尾獣とまで呼ばれている強者だ。
それともお前と同じ術か大蛇丸
﹂ 水遁を得意とする忍であり、そして鮫肌という特殊な大刀と駆使する。チャクラ量も
獰猛な鮫を思わせる見た目とは裏腹に丁寧な物言いをする男の名は鬼鮫。
﹁それが本当だとしたらこの上なく厄介ですねぇ﹂
生きている事にもっとも驚愕したのだ。
だからこそ日向ヒヨリの存在を良く知っていた。だからこそ死んだはずのヒヨリが
る忍の最高齢だった。
その年齢は実に八十八歳。あの初代火影千手柱間との戦闘経験を持つという現存す
物とする事で今も生き延びている老忍だ。
この事実を一番信じられなかったのが角都だ。角都は他人の心臓を奪い取り自分の
を得ているだと
﹁馬鹿な⋮⋮日向ヒヨリは十五年も前に死んだはずだ。それが生きて、しかも若い肉体
だが。
暁の殆どがペインの言葉に驚愕する。飛段だけはヒヨリの存在を知らなかったよう
?
﹁オレと同じ傀儡か
?
NARUTO 第十四話
430
くぐつ
そう聞いたのはサソリと呼ばれる男だ。サソリは己の身を傀儡と呼ばれる人形に改
造した生きた傀儡人形だ。
人形ゆえに老いる事はなく、その姿は若かりし頃と全く変わってはいない。それなら
ば日向ヒヨリが生きているのにも頷けるという物だ。
そしてもう一つの理由として問われた大蛇丸は日向ヒヨリが生きているという事実
﹁⋮⋮﹂
をペインが知っている事に内心動揺していた。
この事実は今はまだ暁には教えずに機を見て暁を翻弄する為に利用しようとしてい
返事をしろ﹂
たのだ。それがどうしてペインにばれていたというのか。
﹁おい大蛇丸。どうなんだ
も見つかって一瞬で捕らえられた。あれ、相当強いと思うよ﹂
﹁うん。二代目三忍の自来也と一緒に暁について調べていたよ。隠れていたボクの分身
う特異な能力を駆使して世界を巡り情報を集めているのだ。
ペインが問うたゼツという男は暁の情報収集担当の男だ。地面や木に同化するとい
我々の活動を調べているという報告がある。そうだなゼツ﹂
﹁理由はどうでもいい。問題は日向ヒヨリが生きているという事だ。そして、ヒヨリは
﹁さあ⋮⋮私にも分からないわ﹂
?
431
と言ってもゼツの戦闘力は暁でも最低、いや世界的に見てもけして高いとは言えない
だろう。
それでも情報収集には非常に役に立つ能力を有しているからこそ暁の一員なのだ。
﹁その日向ヒヨリっていうのはどんな見た目だ、うん﹂
独特の語尾で話す男の名はデイダラ。起爆粘土と言うチャクラを混ぜた爆発する粘
土を使用する術を持ち、大蛇丸の木ノ葉崩しの手助けをした忍だ。
﹁日向の若い女だよ﹂
な形にしたクソ女だ﹂
﹁それだけじゃわからねーよ。だが、多分あいつだな、うん。オレの芸術をあんな不完全
デイダラが木ノ葉崩しにて里に落とした起爆粘土はアカネによって防がれてしまっ
た。
その時の動揺で出来た虚を突かれて手傷を負ってデイダラは撤退したという苦い記
﹂
?
憶がある。
﹂
!
C2・C3とはデイダラの起爆粘土の種類を表している。そしてC3は起爆粘土の中
﹁なに⋮⋮
﹁⋮⋮C3だ﹂
﹁お前のC2を防いだのか
NARUTO 第十四話
432
で最も爆発力が強いデイダラの十八番で、その威力は一つの里を飲み込む程もある。
それを防いだという日向ヒヨリの実力の高さは最早疑いようがないだろう。
気にくわねーな。いくら強いからってたった一人の人間に怯えてこそこそす
!
は近付かず、小国や小さな隠れ里、一族のみで生きる忍のみを狙え。それらの情報はゼ
﹁⋮⋮各々の趣味を制限するつもりはない。だがけして目立つ様には動くな。五大国に
に問う。
それが意味をなさないならば暁を抜ける事もある。暗にそう含ませて飛段はペイン
く事が出来なくなる。それを防ぐ為の暁入りだったのだ。
ただ単に暴れるがままに暴れていてはいずれ大きな里から目を付けられて自由に動
たのだ。
ジャシン教の﹁汝、隣人を殺戮せよ﹂という狂った教義を全うする為に飛段は暁に入っ
が出来るからだぜ。それなのにこれじゃあ本末転倒もいいところだ﹂
るなんてよぉ。大体オレが暁に入ったのはジャシン教の教義を満足するまで満たす事
﹁ちっ
る前にな﹂
む。そして⋮⋮準備が整い次第に九尾以外の尾獣を一気に集める。日向ヒヨリにばれ
は済まない。本格的な活動は準備の整った三年後、それまでは情報を集めて地下に潜
﹁分かったな。それが日向ヒヨリだ。伝説の存在を舐めてかかれば手痛いしっぺ返しで
433
ツから受け取れ﹂
﹁そうこなくちゃな﹂
一先ずは満足の行く答えが貰えたようだ。他にもメンバーに不満は大小あるが、それ
でもペインの言う方針を破るつもりはないようだ。
ペインの言葉を最後にそれぞれが術から開放されて意識を元の肉体に戻していく。
﹁それではこれで一度解散する。三年まてば⋮⋮その時は思う存分暴れさせてやる﹂
だが大蛇丸とペイン、そしてもう一人だけはその場に残っていた。術の使用者である
まだ何か用かしら
﹂
ペインがその二人を開放しなかったのだ。
﹁⋮⋮
?
﹁何の事
﹂
﹁⋮⋮お前の知っている情報を全て話してもらうぞ大蛇丸﹂
?
言葉を口にした。
だがペインではなく、もう一人残った仮面を付けた様に見える男が大蛇丸の予想外の
などある訳がない。
多い存在。そんな人物に今のチャクラをまともに練れない自分が逆らった所で勝ち目
平静を装っているが大蛇丸の内心は動揺に塗れている。ペインは大蛇丸をして謎の
?
﹁貴様が日向ヒヨリと交戦したのは分かっている。その情報を隠さず話せば、お前を蝕
NARUTO 第十四話
434
むチャクラの縛りを解いてやろう﹂
﹂
!?
もしれない。
ある程度の憶測はあるのだろうが、もしかしたら自分の正体にも気付きかけているか
もまあそこに気付いたものだと。
仮面の男は無言だが、大蛇丸の情報網の広さと勘の良さには内心称賛していた。良く
﹁⋮⋮﹂
術にも⋮⋮﹂
封印を解除した時の事を詳しく聞きたいわぁ。興味があるのよね、うずまき一族の封印
﹁⋮⋮必要ないわ。どうにかする目処は立ったから⋮⋮。それよりも、あなたが九尾の
用して別の利を得た方がマシという物だ。
既にこの身を蝕むチャクラの縛りを解く手立ては立っている。ならばこの取引を利
願ったり叶ったりではある。
何故そこまでの関心を示すのかは大蛇丸にも分からないが、男の言う事は大蛇丸には
た。
それがこんなにも長く話す。日向ヒヨリにかなりの関心を示しているのは明白だっ
大蛇丸の知る限り仮面の男はこれまで殆ど会話らしい会話をした事がなかった。
﹁
435
だがそれならそれで別に構わなかった。大蛇丸は使えるコマであるし、裏切ったとこ
ろで処分するのも容易く放置した所で支障はない。仮面の男にとって大蛇丸はその程
度の価値だった。
そして九尾襲撃時の出来事を話す事にも何も問題はない。それよりも日向ヒヨリに
関する情報を少しでも多く集める方が先決と言えた。
﹁いいだろう。奴に関する情報は少しでもあった方がいい。奴と直接戦ったお前に聞く
のが一番だ﹂
そうして己の知る全てを大蛇丸は語る。
﹁そう。じゃあ話しましょう﹂
大蛇丸が全てを語り終えた後、この場に残っているのは誰もいなかった。
とある場所にて仮面の男は空を見て呟いた。
波状攻撃を仕掛け弱ったところに三尾を投入したのだ。
流石にこれはイレギュラーだった。面倒な日向ヒヨリを確実に殺す為に戦場を操り
生きている。
あの時、三尾をけしかけて確実に殺したはずの女。それが転生して新たな肉体を得て
﹁生きていた、いや転生したのか⋮⋮﹂
NARUTO 第十四話
436
だというのにこれでは意味がないどころか若返ったのでむしろ面倒事が大きくなっ
たくらいだ。
に価値はないと断じて。
そうして男は姿を消した。この世にある全てはただの余興と断じて。この世の全て
の余興は楽しませてもらわねばな﹂
﹁所詮ただの余興だ。この世界は等しく存在する価値がない。ならばせめてこのくらい
な声だった。
そう呟く男の声はこの世に全くの興味を持ってない、そんな意思が籠められたかの様
﹁まあ、いい。どうせその気になればすぐにでも⋮⋮﹂
437
NARUTO 第十五話
アカネがカカシ率いる第七班それぞれに修行を付ける様になって一ヶ月が経った。
影分身を利用する事で三人同時に別々に修行を付ける事が出来るので改めて影分身
の利便性を再確認するアカネ。
加えて影分身を解除すると本体に経験が戻ってくるので自分の修行にもなるという
優れ物だ。この術を開発した二代目火影は表彰物だとアカネは思っている。もっとも、
穢土転生を開発したせいでプラマイゼロ、いやマイナスかもしれないが。
その程度の日数で覚えられるとは思ってもいなかったのだ。
ナルトは器用なタイプではない。発動に必要な印が不要な螺旋丸はナルト向けだが
た十日程で螺旋丸を覚えていたのだ。これにはアカネも驚いていた。
前から修行を付けていたサスケはともかく、ナルトは何と自来也と綱手を探しに行っ
だ。
若者の成長の早さは素晴らしい、とナルト達の成長を思い出して悦に浸っているよう
等と良く分からない歌を口ずさみながらアカネはご機嫌で歩いていた。
﹁しゅ∼ぎょう∼しゅ∼ぎょう∼、た∼っぷ∼り∼しゅぎょう∼﹂
NARUTO 第十五話
438
439
螺旋丸を考案したナルトの父であるミナトは螺旋丸の完成に三年の年月が掛かって
いる。完成形を教えられるナルトが早く覚える事が出来るのは道理だが、それでも一か
ら覚えるなら十日というのは素晴らしい速度だと言えよう。
螺旋丸を使うナルトを見るとアカネはミナトを思いだす。やはり親子だと実感する
のだ。血は争えないと言う事だろう。
今はまだ九尾のチャクラはもちろん自分の膨大なチャクラも持て余しているが、下地
が出来上がりそれらを上手く操れる様になれば飛躍的に成長するだろう。
サクラは医療忍術を習い始めたばかりなのでまだ表立った成果は出ていない。だが
チャクラコントロールには目を見張る物があるのも確かだった。
医療忍術は難易度が高く一人前になるには長い年月を修行に費やす必要があるが、サ
クラならばあと少しである程度の医療忍術を覚える事が出来そうだった。
綱手と共に一通りの医療忍術を叩き込んだらその後はチャクラコントロールを利用
した攻撃方法と、医療忍者に必要な戦闘技術を教え込むつもりだ。その際はこの世界に
はいないあの武術の後継者になるかもしれない。
上手く育てば綱手の後を継ぐ医療忍者に至れるだろう。将来を思うと楽しみになる
アカネだった。
サスケに関しては言うまでもない。まさに彼は天才だった。
うちは一族に当てられたその言葉だが、サスケはその中でも飛び抜けた才を持つ一人
だろう。
アカネの教えを水を吸い取る砂の様に吸収して行く様は見事の一言だった。目下の
弱点はチャクラ不足だが、それを克服した時サスケに勝てる忍びは数える程になるだろ
う。
そしてナルトとサスケの関係が上手い具合に作用していた。
互いに相手をライバルと認識しており、相手に負けてなるものかと修行する事で成長
を更に後押ししているのだ。
そ し て そ ん な 二 人 を 意 識 す る 事 で サ ク ラ も 二 人 に 付 い て 行 こ う と 必 死 に 努 力 す る。
素晴らしい関係だった。
ナルトがサスケに勝つ↓サスケが更に修行する↓サクラが二人に追い付こうと努力
する↓サスケがナルトに勝つ↓ナルトが更に修行する↓サクラが追い付こうと努力す
る↓ナルトがサスケに勝つ↓以下エンドレス。
これがアカネの思い描く最終段階である。この修行の無限螺旋に至れば三人の実力
は否応無く上がっていくだろう。そう思うと歌も歌いたくなるというものだ。
空からは燦燦と太陽の光が降り注いでいる。まるでナルト達の成長を祝福している
﹁うーん、今日もいい修行日和だ﹂
NARUTO 第十五話
440
ようだ。⋮⋮当のナルト達は今日も地獄が始まると朝からどんよりしていたが。
そんな風にアカネが機嫌良く歩いているとふと見知った人達を見掛けた。アカネの
正体を知る数少ない人物であるうちはイタチとうちはシスイである。
二人は日向一族に用があるのか、日向の敷地に向かって歩いていた。つまり日向の敷
地から出て行こうとしていたアカネとは自然とすれ違う事になる。
の対応である。
?
﹁出来ればね﹂
﹁⋮⋮なるほど。誰も居ない場所の方が都合が良いでしょうか
﹂
アカネはシスイのその言葉からどうやら二人は自分に用があるのだと理解する。
ね﹂
﹁ああ、サスケ君から修行の時間を聞いていたがどうやらいいタイミングだったようだ
﹁本日は日向にどの様なご用件でしょうか
﹂
あり、イタチは上忍、シスイは火影の右腕としての立場だ。前以って決めてあった通り
アカネもシスイ達もどちら肩書き通りの立場で会話をする。つまりアカネは下忍で
﹁おはよう﹂
﹁おはようアカネちゃん﹂
﹁おはようございますシスイさん、イタチさん﹂
441
?
﹁⋮⋮﹂
アカネの質問に対し、シスイはイタチを見つつ答えた。当のイタチはどこか不満そう
だ。あまり表情を変化させてはいないがアカネにはそう読み取れた。
用件とはどうやらイタチに関する事のようだ。そう思ったアカネはイタチを少しだ
け観察する。そして長き年月によって鍛えられた観察力により、イタチの体にどこか違
和感があると感じ取った。
﹁⋮⋮着いて来てください﹂
アカネは二人を連れて人気のない場所へと移動する。宗家の屋敷も考えたが、出来る
だけ広めたくない話ならば止めた方がいいだろうと思い直したのだ。
宗家の屋敷ならばヒアシの耳に入るのは確実だ。人払いをするにも表立った立場が
低いアカネではヒアシに頼まねば出来ないのだから致し方ないだろう。
そうして到着した林の中で周囲に他者の気配が無い事を確認し、アカネは二人の用件
を聞く前に白眼を発動してイタチの体を詳しく調べた。
﹂
?
シスイは誰も居ない場所なので口調をヒヨリに対する物へと改める。
しょうか
﹁流 石 は ア カ ネ 様。イ タ チ の 状 態 を 察 し て 白 眼 に て 早 く も 確 認 す る と は。⋮⋮ ど う で
﹁⋮⋮これは﹂
NARUTO 第十五話
442
443
シスイの言葉の意味。それはイタチの容態は大丈夫なのでしょうかという確認の言
葉だ。
それはつまり、イタチの体が病に蝕まれているという事だった。
事の発端は数ヶ月前にイタチが任務を終えて里へと帰還した時だ。
うちは一族は警務部隊を担当しているが、だからと言って通常の任務を受けられない
訳ではない。警務部隊が休日の時や、人が足りている時には里の任務を受ける一族も少
ないがいるにはいた。イタチもその一人だ。
そして久しぶりの長期任務を終えて帰って来たイタチをたまたまシスイが発見した。
良く知った仲であり兄弟のいないシスイはイタチを弟の様に思っており、当然気軽にイ
タチへと声を掛けた。
いや、掛けようとした。掛けようとしたが、イタチがふらりと道から外れて人気の無
い小道に入っていくのを見て声を掛けるのを止めたのだ。
悪 戯 心 が 湧 い た シ ス イ は 少 し 驚 か せ て や ろ う と 思 い イ タ チ を こ っ そ り と 尾 行 し た。
そしてそこで咳き込み膝を着くイタチを見てしまったのだ。
心配して駆け寄ったシスイにイタチは驚きつつも、少し咳き込んだだけだと説明し
た。その時はシスイもそれで引き下がった。だがそれからシスイはイタチを注意深く
観察する様にしたのだ。
そうして観察している内に、シスイはイタチの体に何らかの異変があると判断した。
イタチの動きが若干、本当に若干だが鈍いのだ。それは注意深く観察したシスイだから
こそ気付ける程僅かな違いだ。
しばらくは黙って見ていたシスイだったが、木ノ葉崩しにて自分を犠牲にしようとす
るイタチを見て我慢も限界が来たのだ。
かった時点で何故相談しなかったのですか﹂
私 が ヒ ヨ リ と 分
命に別状はないのか
そうして医療忍術の第一人者であったヒヨリの転生体であるアカネへと相談に来た
わけだ。
﹂
それら全てを籠めた言葉だ。
再びシスイはアカネに確認する。イタチの病気は何なのか
﹁⋮⋮どうでしょうか
治療は可能なのか
?
?
?
本当にイタチは不治の病なのですか
!
﹂
アカネ様
治せますけど
?
﹁イタチ⋮⋮
﹁いえ
?
!
﹂
!?
不治の病であると知りとうに諦めていました﹂
﹁申し訳ありません⋮⋮。自分の体の事は良く知っているつもりです。なので、これが
アカネの叱る様な口調に、まるで子どもに戻った様だと自嘲しつつイタチは答える。
?
?
﹁⋮⋮ 全 く。イ タ チ、あ な た 初 期 症 状 は 自 覚 し て い た ん で し ょ う
NARUTO 第十五話
444
﹃⋮⋮え
﹄
イも、アカネの一言に呆気に取られていた。
助かる事のない命と思っていたイタチも、イタチの言葉に嘘がないと理解出来たシス
?
﹂
!
﹁アカネ様
どうかイタチをよろしくお願いします
﹂
!
﹂
!
!
話だが、だからと言って悲しくないわけがない。イタチはその悲しみによって万華鏡写
イタチはかつて任務にて恋人を失ってしまった。それはこの忍の世界では良くある
お前にだって幸せになる権利はあるんだ
﹁⋮⋮お前は任務で大切な人を亡くしてしまった。その上この仕打ちはないだろう ﹁止めてくれシスイ。オレの為にお前がそこまでする事はない﹂
アカネにイタチの治療が可能と知り、シスイは土下座する勢いで頭を下げた。
!
て素直に驚愕を顕わにしていた。
アカネの言葉にシスイは喜色満面の表情を見せる。イタチも普段の冷静な面を捨て
﹁はい。私か綱なら手術と医療忍術を駆使する事で治療可能な病気です﹂
﹁並の⋮⋮では
しょうから、その判断も間違った物ではありません﹂
の医療忍者ではこの病を手術で治療する事は出来ても治療箇所の発見は困難でしたで
﹁いえ、いい自己判断ですよ。良く初期症状の段階でそこまで見抜いていましたね。並
445
輪眼を開眼したのだ。
そしてシスイはイタチに対して心苦しく思っていた。イタチは恋人が死んだという
のに、自分は恋人を作り幸せな日々を送っているのだ。
いや、イタチに幸せになる権利があるようにシスイにもまた幸せになる権利がある。
シスイもまた大切な人を失い万華鏡に開眼した者だ。イタチを気に掛ける事はともか
く申し訳なく思う必要まではないだろう。
だがシスイにとってイタチとは友であり好敵手であり、そして弟の様に信頼を置いて
いる唯一無二の存在なのだ。そのイタチがこのまま病に倒れて死ぬなどシスイには耐
えられなかった。
体を治療してはもらえないでしょうか﹂
﹁ああ、分かっている。ありがとうシスイ。⋮⋮お願いしますアカネ様。どうか、オレの
シスイの想いを受け止めたイタチはアカネに対して深く頭を下げて治療を懇願する。
幸せになれるかは分からないが、己の命を軽んじる事は止めようと思ったのだ。自分
を想ってくれる人が自分が死んだ時にどう想うか、シスイを見てそう考えるととても安
易に死を選べなくなったのだ。
イタチが自分の死を軽んじていた事を察していたアカネは少しだけ説教をするつも
﹁⋮⋮どうやら説教の必要はないようですね﹂
NARUTO 第十五話
446
りだったのだが、イタチが考えを改めたのを知りその必要がないと理解した。
﹂
!
﹂
?
を取り戻したイタチは今も里の警務と任務とに張り切っているが、家族からの要望もあ
術後しばらくしてイタチは退院。完全に元の健康体に戻っておりかつての技の冴え
いただろう。手術すらしなかった場合はもちろん死が待っていた。
再生忍術が無くても手術は成功していただろうが、イタチは肺の機能が著しく落ちて
生忍術で元の健康な肺に戻すという手術だった。
イタチの手術が行われたのはそれから一週間後。肺の三分の一を切り取り、それを再
事情の説明と任務の長期休暇を取りに行く。
アカネは綱手にイタチに関する事情を話しに行き、イタチとシスイはフガクの元へと
取り敢えずこの場で話す事は終わったので三人は一度ここで別れた。
﹁⋮⋮はい﹂
んと家族には話すんですよ
なりますから当然任務は受けないでくださいよ。警務の仕事も休みなさい。あと、ちゃ
﹁手術は細かな検査をして綱と話し合ってからですね。しばらくは治療に掛かりつきに
﹁ありがとうございますアカネ様﹂
﹁本当ですか
﹁二人とも頭を上げなさい。そこまで頼みこまなくてもちゃんと治療はしますよ﹂
447
りその仕事量は以前よりも落としているようだった。
◆
第七班の修行が始まってから既に一年という年月が経った。
﹂
オ
今アカネ││影分身だが││の目の前では三人の男性が疲れ果てて大地に転がって
何故彼らがアカネの元で修行しているのか
それは少し前にあった第七班vsカ
?
負である。と言うのもこの勝負はかつて第七班がカカシから与えられた下忍になる最
その内容は鈴取り勝負。カカシが腰につけた鈴を奪うという、第七班の思い出深い勝
あったカカシがナルト達三人と勝負したのだ。
一年間で第七班がどれだけ強くなったか。それを確認する為に第七班の担当上忍で
カシの勝負が原因である。
?
いた。
ビトは三回、ガイに至っては一度もダウンしてませんよ
﹁カカシ、またへばったんですか これで今日の修行中六回目のダウンですよ
?
?
三人とはカカシ・オビト・ガイの木ノ葉の有名な忍達であった。
﹁もうしわけ⋮⋮ありません⋮⋮﹂
NARUTO 第十五話
448
449
終試験でもあったのだ。
結果は合格だったが、鈴を奪えた訳ではなかった。カカシがこの三人に忍として、人
として必要なモノを持っていると判断したからこその合格である。
なのでナルト達は今度こそ鈴を取ってやると息巻いて勝負を開始した。
⋮⋮結果はカカシの負けであった。鈴を取られただけではない。ナルト達が鈴を奪
うのに必要とした時間は僅か二分程度だったので、アカネが勝負を鈴取りから本気の勝
負へと変更したのだ。
もう分かるだろう。カカシは三人と本気で勝負して負けたのだ。ナルトは多重影分
身から螺旋丸を加えた体術による連撃を、サスケは大幅に伸びたチャクラ量を利用した
雷遁チャクラモードに火遁を巧みに利用した戦術を、サクラは二人をサポートしつつ綱
手直伝の怪力にアカネ直伝の合気柔術という武術を、それぞれが修行で身に付けた力を
これでもかとぶつけてきたのだ。流石のカカシも押し負けてしまった。
いくら自来也に綱手、そしてアカネが鍛えているとはいえたった三人の下忍に、それ
も教え子に負けたカカシはショックでしばらく落ち込んでいた程だ。
落ち込んでいたカカシだがこのままでは担当上忍の沽券に関わる。そう思い至った
カカシは名案を思い付いた。
あ の 三 人 が ア カ ネ に 修 行 を 付 け て も ら い 強 く な っ た の な ら 自 分 も そ う す れ ば い い
じゃない、と。
二日後には後悔していた。なのでオビトとガイを誘い地獄の道連れを作り出したの
である。自分だけでないならきっと耐えられると思ったのだ。
オビトもガイもカカシの申し出を快く受けた。オビトは火影になる為に、ガイは二人
に負けない為に、どちらもカカシの申し出は願ったり叶ったりだったのである。
二日後にはオビトは後悔していたが。なおガイは一切後悔していない模様。流石は
努力の達人である。これにはアカネもにっこりだ。
それはカカシに決定打とも言える術が無くなる事を意味する。更に写輪眼は相手の
をまともに運用出来なくなってしまうだろう。
写輪眼が無ければカカシは自身の切り札である雷切り││カカシの千鳥の呼称││
は便利な代物だった。
だがそれでも厳しい戦闘では写輪眼を使用せざるを得ないのだ。それほど写輪眼と
カカシは普段は写輪眼を布で覆って塞いでいるのだ。
それはカカシも理解しているカカシのみの写輪眼の欠点だ。理解しているからこそ
用すればすぐにチャクラ切れを起こします﹂
はうちは一族ではないあなたの体には合っていない代物です。便利だからと無闇に使
﹁あなたはチャクラ量が他の上忍と比べて少ないわけではありません。ですが、写輪眼
NARUTO 第十五話
450
術を見切りコピーして自らの物としてしまう能力もある。
これらが封じられた時カカシの戦闘力は果たしてどれだけ落ちるのか。
﹂
?
?
体が写輪眼に合わせて慣れて行くでしょう﹂
そうするとオレはすぐにへばって動けなくなっちゃうんですけど⋮⋮
?
そうすれば体はその間に衰え、修行しても意味がない物となってしまう。
まいまたも長い時間寝込む事になるだろう。
戦闘中ではないとはいえ、普段からずっと写輪眼を発動していてはその内に倒れてし
い写輪眼を戦闘中ほぼずっと発動していたので戦闘後は一週間も寝込んでいたのだ。
かつての強敵ザブザとの戦いをカカシは思いだす。あの時も普段はあまり使用しな
﹁え
﹂
んが、これからは普段から出来るだけ写輪眼を発動していなさい。そうすれば少しずつ
﹁あなたは写輪眼を発動し続けるとすぐに体が参るので普段は写輪眼を使用していませ
く理解出来なかった。
前者二つはカカシも想定していた自身の課題だ。だが最後の一つはどういう事かよ
﹁写輪眼に、慣れる
写輪眼に慣れる事です﹂
に術を使用してもすぐにチャクラ切れを起こさないチャクラ量を手に入れる事、そして
﹁あなたの課題は三つです。写輪眼に頼らずとも使える決定力を得る事、写輪眼と同時
451
だが、そんな不安はアカネの前では無意味だった。
﹁大丈夫です。影分身の私があなたに付いてあなたが倒れたらすぐに治療します。チャ
﹂
クラも分けますからすぐに元通りです。これでいつでも何度でも写輪眼の修行が出来
ますよ
﹁うおおお
﹂
羨ましいぞカカシぃ
﹁お前ら⋮⋮
﹂
!
カカシの問題を指摘した次に、アカネはオビトへと視線を送った。
どちらも勘弁してくれというのがカカシの心情だったが。
しそうな視線を送っていた。
アカネの説明を聞いたオビトはカカシに同情の視線を送り、そしてガイは本気で羨ま
!
!
﹁⋮⋮よ、良かったなカカシ、アカネちゃんがずっと一緒だってよ﹂
!
人の強敵相手は苦手なのである。
これもまたオビトも理解していた課題であった。対集団には効果的な術は多いが、一
﹁う⋮⋮﹂
手には決定打が無い為に苦戦を強いられるでしょう﹂
打がありません。術も火遁・土遁・水遁と多彩で集団の敵に対しては強いですが強敵相
﹁オビトの課題は欠点が少なく纏まっている事ですね。カカシと違いこれだという決定
NARUTO 第十五話
452
そのいい例がガイであろう。ガイと勝負をしてもオビトは殆ど勝てた試しがない。
大規模な術を使ってもガイならそれを避けるなり突き破るなりして向かってくるの
だ。
近接戦闘が苦手なわけではないが、それでも決定打がないオビトでは接近戦の達人で
あるガイ相手に近付かれてはどうしようもないのだ。
﹂
?
﹂
?
行 し て も ら い ま し ょ う か。な に チ ャ ク ラ 切 れ が 起 き る っ て
私がいますよ﹂
?
安 心 し て 下 さ い。
﹁というわけで、ナルトと違って土台が出来上がっているあなたは影分身を応用して修
火遁となるのだ。その威力は火遁に強い水遁でも相殺出来なくなる程だ。
逆に言えば味方同士で火遁と風遁を同時に敵に向かって放てばそれは更なる威力の
と風遁の風を受けた火遁が更に威力を増してしまうからだ。
忍術の属性には相性があり、風遁は火遁に弱い。何故なら火遁と風遁がぶつかり合う
で広範囲の決定打としては十分でしょう﹂
﹁それは重畳。風遁を覚えれば一人で火遁と風遁の合体忍術が使用出来ます。これだけ
﹁ああ、使えるけど
後は風遁を覚える事が出来ればいいですね。影分身は使えますか
﹁あなたも基礎修行は当たり前として、近接主体の決定打を覚えてもらいましょうか。
453
?
アカネという尾獣すら超えたチャクラを持つ化け物が傍にいる限り修行中のチャク
ラ切れは起こり得ない。
つまり延々と修行が出来るという事である。素晴らしい天国の様な環境だ。⋮⋮修
行ジャンキーにとってはだが。
自分の夢を再確認する事でオビトは自身を奮い立たせた。きっと彼ならば立派な火
﹁オレは、絶対に火影になるんだ⋮⋮﹂
影になってくれるだろう。修行を乗り越えられたらだが。
次にアカネはガイへと視線を向ける。そこには期待に胸を躍らせているガイの姿が
あった。きっと自分にはどんな課題があるのか楽しみなのだろう。
カカシとオビトを良く知り、二人の欠点と課題を聞いていたガイはそれらの課題を乗
り越えた時に二人がどれほど強くなるか理解していた。
なので自分もアカネの課題を乗り越えた時にどれだけ強くなれるか楽しみで仕方な
!?
いのだ。
﹂
それはないんじゃないか こう、オレにもここが足り
ないとか、こうすれば良くなるとかあるだろ
﹁えー ちょっとアカネ
!
ガイはリーを救ってくれた恩からアカネの事を様付けで呼んでいたが、アカネが懇願
!?
!?
﹁ガイは何と言うか、今のままで完成していますね﹂
NARUTO 第十五話
454
してどうにか止めてもらえた。
いや、それが秘密を知る者だけがいる場ならいいんだが、常日頃からアカネが里の何
処にいようとも出会えば敬ってくるのだ。秘密を守る気はないのかと問いたい。と言
うか問うた。
ア カ ネ や カ カ シ 達 が 何 度 も 説 明 し て よ う や く 通 常 の 対 応 を す る よ う に な っ た の だ。
まあ、それはいいとしよう。
ガイは予想と違ったアカネの答えに困惑していた。弱点を克服した時に強くなれる
という楽しみが潰された思いだ。
羨ましいじゃないか
﹂
!
﹂
!
﹁まあ落ち着いて下さい。完成されているのは通常のガイの事です。あなたの切り札で
そんなガイにアカネは朗報││と言っていいのだろうか││を伝える。
事に青春を見出している様だ。
事情を知らない者には訳の分からない事を口走っているが、どうやら欠点を克服する
﹁オレだってもっと青春をしたいんだ
いうのに、ガイだけはそれがないのだから当然の話だ。
逆に憤慨しているのがカカシとオビトだ。自分達は大量の欠点を叩き付けられたと
﹁そうだ
!
﹁完成してると言われて何で落ち込んでるんだお前は⋮⋮﹂
455
と言うと
﹂
ある八門遁甲を使った時は別ですよ﹂
﹁え
?
る目で見つめるカカシとオビトであった。
欠点があると明確に言われたのに嬉しそうに反応するガイ。そんなガイを馬鹿を見
?
の上の門など説明するまでもないだろう。
術に慣れていない者なら一の門である開門を開けただけでも体は大きく傷つく。そ
た理由だ。
そして、それだけ強力な術だけに代償も大きい。それこそがこの術が禁術に指定され
くなっていく。
り、後半の門ほど開ける事が難しい。もちろん後半になるに連れ引き出される力も大き
門にはそれぞれ開門・休門・生門・傷門・杜門・景門・驚門・死門と名付けられてお
術である。
うなればリミッター││を無理矢理外す事で通常では出せない潜在能力を発揮する禁
八門遁甲とは、経絡系上に頭部から順に体の各部にある八つの門││経絡系の弁、言
しょう。⋮⋮死門まで開ければまた話は変わるでしょうが﹂
至った素晴らしい忍です。そして八門遁甲を発動すればあなたに勝てる忍は極僅かで
﹁あ な た は 忍 術 や 幻 術 を 不 得 意 と し て い る の に、体 術 の み で カ カ シ と 互 角 以 上 に ま で
NARUTO 第十五話
456
そしてどんなに八門遁甲に長けた術者であろうと、最後の死門を開いた者は僅かな時
﹂
間だが火影の何十倍もの力を得る事と引き換えに、その命を失ってしまう。
﹁今のあなたはどこまで門を開けますか
﹁⋮⋮七門までだ﹂
﹂
﹁死門は論外として、実質最高の七門までですか。ちょっと開放してもらえますか
⋮⋮いや、分かった。では行くぞぉ
!
﹁ではあそこの木まで走って、ここまで戻って来てもらえますか﹂
開いた者は体から碧い汗をかく。それが己の熱気で蒸発して碧い蒸気となるのだ。
﹂
そしてガイの体から凄まじいチャクラが溢れだし、その身を碧い蒸気が覆う。驚門を
師であるアカネの言葉に従いガイは驚門までを開放する。
何故この場で八門遁甲を開放させるのか、その理由はガイには分からなかったが今は
﹁ん
?
?
全身が傷つき動けなくなった時に後から現れた雑魚に殺されては話にならない。
そして毎回それではその時は危機を退けられても後がない。強敵を倒したはいいが、
理引き出しているのだ。肉体が傷ついて当然だ。
だがその引き換えにガイの全身は骨までボロボロになるだろう。潜在能力を無理矢
に数少ない。五影でも怪しいと言えるだろう。
第七の門・驚門。死門の一つ手前の門だけに、ここまで開いたガイに勝てる忍は本当
?
457
﹁分かった
行くぞぉ
﹂
!!
﹂
!
る。
﹁良し
戻って来たぞ
に戻ってきた。写輪眼を発動していないカカシとオビトには見る事も叶わぬ速さであ
叫ぶと同時にガイは目にも止まらぬ速さで数百メートルの距離を移動し、そして瞬時
!
﹁うむ
え
⋮⋮ぐ、ぐわぁぁぁぁぁ
﹂
!
だ。
驚門まで開けて動けばたったあれだけの時間でもこれほどの副作用が待っているの
アカネに言われ八門を閉じて元に戻るガイの全身に痛みが走る。
?
﹁お疲れ様。それでは八門を閉じていいですよ﹂
!
!
﹂
!
の強化もしましょう。体術の先は極めた後にある
限界を乗り越えて修行し続けて
基礎修行と驚門を開き続ける修行を只管繰り返す事になりますね。それとは別に体術
﹁というわけで、今後のあなたの課題は第七門を副作用無く運用出来る様になる事です。
アカネはガイに治療を施しながら話を続ける。
﹁お、仰る通りで、おおおおぁっ
副作用無く運用出来るのは第五門か、良くて第六門が限界でしょう﹂
﹁とまあ、このように八門遁甲は強大な分その副作用もまた強大ですね。今のあなたが
NARUTO 第十五話
458
!
﹂
﹂
分かったぞアカネよ
オレは限界を
!!
始めて辿り着ける境地があるのです
超えて更に体術を磨き上げていくぞ
!
﹂
!
!
!
カネにはなかった。
カネが複数の男性と付きあって弄ぶ悪女だという噂が立つのだが、今それを知る術はア
なお、多くの忍︵主に男性︶に影分身を付けて密着修行した事で後の木ノ葉の里でア
たりする。
そんな二人の思いを他所にアカネは影分身を利用した他の忍の強化なども考えてい
していた。
ああ、最悪の二人が意気投合したのかもしれない。カカシとオビトは同時にそう恐怖
近付きましょう
﹁その意気や良し あなたにも私の影分身を付けましょう ともに体術の極みへと
!
!
!
﹁限界を乗り越える⋮⋮ う、うおおおお
459
NARUTO 第十六話
ナルト達が修行を始めて一年と半年が過ぎた。アカネ︵本体︶とナルトが修行をして
いる場には、日向の姫君である日向ヒナタの姿もあった。
さて、何故ナルトと一緒にヒナタがいるのか。その答えは⋮⋮まあ、野暮というもの
だろうがすぐに分かるだろう。
⋮⋮ 鬼 ア カ ネ と
﹁な、ナルト君⋮⋮お疲れ様、こ、これ良かったら飲んで。家で作ってきたの﹂
!
!
だからこそ、愛する妹分であるヒナタの為だからこそ、アカネはナルトが小さく呟い
と魅力に気付き、いつしか愛が芽生えるだろうという案だ。
そして疲れた時や傷ついた時に優しく看護すればその内にナルトもヒナタの優しさ
る事を提案したのである。
憧れていて惚れた男と一緒にいたい。そんなヒナタの想いにアカネが共に修行をす
ナルトと修行をしている。
とまあ、この様に甲斐甲斐しく世話をしているのだ。もちろんヒナタも一緒になって
違って﹂
﹁お、サ ン キ ュ ー ヒ ナ タ や っ ぱ り ヒ ナ タ は い い 奴 だ っ て ば よ
NARUTO 第十六話
460
た言葉を見過ごしてやった。
担当上忍である紅からアカネを紹介されたのである。
近ヒナタがメキメキと実力を付けて来て、このままではいられないと思っていた矢先、
第八班の一員、犬塚キバ。彼は現在アカネ︵影分身︶の地獄の修行を受けていた。最
では第八班の悩みとは何なのか。それは⋮⋮自身達とヒナタとの実力差であった。
消し、そしてヒナタの想いも遂げられる一石二鳥の案をアカネは考え付いたのである。
だが第八班の班員達にはある悩みがある事がヒナタの言葉から発覚した。それを解
による連携修行や任務もあるのだから致し方ない。
そんなヒナタが常日頃からナルトと共にいる事は出来ないだろう。同じ第八班同士
も一応は任務中なのだが。
つまりナルトと違ってヒナタには任務をこなす必要があるという事だ。まあ、ナルト
七班という班に入っているように、ヒナタも夕日紅率いる第八班の一員である。
さて、こうしてナルトと一緒に修行をしているヒナタだが、ナルトがカカシ率いる第
見過ごしたのは今だけのようだ。ヒナタが離れた時がナルトの最後かもしれない。
︵ヒナタ様がいなくなったら覚えていろよナルトめ︶
461
﹁もう、無理だ⋮⋮﹂
﹁大丈夫。出来ます。これが出来ればあなたの通牙は更なる威力を得て進化するでしょ
う﹂
﹂
﹁オレは日向じゃねぇんだよ あんたやネジみたいにそう簡単に全身からチャクラを
放出なんて出来るか
!
や、間違いではないが、間違っているとも言えた。その理由をアカネがキバに説明した。
向ならではの技術なのだ。キバがアカネに文句を言っているのも間違いではない。い
だが全身からチャクラを放出出来るのは経絡系や全身の点穴を見切る事が出来る日
明な台詞を吐いて実行する事も出来る。
を作る事が出来るが。その気になれば﹁私自身が螺旋丸になる事だ﹂などという意味不
旋丸を手から作っているのもそれが理由だ。まあ、アカネは全身のどこからでも螺旋丸
チャクラとは基本的に掌という放出しやすい箇所を使用して術などを発動する。螺
!
アカネに説明されても納得を見せないキバ。こうしてアカネに修行を付けてもらっ
﹁⋮⋮んなこと言ったってよ﹂
身からチャクラを放出する事が出来る様になりますよ﹂
術に長ける素養があるだけの事。その素養がなくても意識して修行すればいずれは全
﹁全身からチャクラを放出するのは日向の特権ではありません。日向はあくまでその技
NARUTO 第十六話
462
ているのは担当上忍である紅からの指示だからだが、いきなりの事なのでまだ全てに納
得が出来ていないのだ。強くはなりたいが、良く知りもしない同い年くらいの少女が相
手では納得する事が出来ず修行に身が入るわけもない。
これが今のあなたの通牙です﹂
だからアカネは分かりやすくキバに修行の結果を見せて上げることにした。
﹁え
﹂
﹁そしてこれが私の修行を成し遂げた時の通牙です﹂
威力になるか。
しかもたった一人でこれだ。相棒の忍犬である赤丸と共に放ったならばどれだけの
これがアカネの修行による成果だとすると、キバは興奮するしかなかった。
﹁⋮⋮す、すげぇ﹂
た。
カネは擬獣忍法無しで放ったのだ。しかもその威力はキバのそれを遥かに凌駕してい
性を手に入れ、全身を高速回転させる事で初めて通牙を放つ事が出来る。その通牙をア
犬塚一族は一族に代々伝わる擬獣忍法という獣そのものに成りきる術にて獣の俊敏
使用してみせた。
そう言ってアカネは全身を高速回転させながら敵に体当たりするという荒業、通牙を
﹁いいですか
?
463
?
キバが驚く間もなく、アカネは再び通牙を放った。
それは最初の通牙と違い、全身からチャクラを放出して纏う事でその威力を格段に上
昇させていた。
威力が増した通牙は全てを切り裂き薙ぎ払い突き進んでいく。その破壊の嵐はキバ
の想像を遥かに超えていた。触れれば相手が何であろうとも確実に倒せるだろうと確
信させる程のものだ。
﹁⋮⋮﹂
もはやキバには言葉もなかった。茫然自失となってこの破壊の傷痕を眺めており、そ
して少しずつ現実感が戻ってくると徐々に興奮が湧き上がっていく。
!
絶対にこの技を覚えようぜ
!
!
ある牙通牙やそれ以上の術も効力を増す事でしょう﹂
赤丸
﹂
﹁とまあ、このように通牙でさえこの威力になります。これを極めれば通牙の発展系で
すげぇよ
!
﹂
!
力向上をと思っていたのだが、流石にそれは取りやめた。
ちなみにアカネとしては放出した肉体と同時にチャクラを回転させる事で更なる威
てきた事に安堵する。
最初の頃とのその気迫の差にアカネは苦笑しつつ、どうやら修行に対する意欲が湧い
﹁オン
﹁すげぇ
NARUTO 第十六話
464
それは即ち日向の秘奥と言われている回天の上位、廻天と同じ理屈の奥義になるから
だ。流石にそれを他家に教えては日向の沽券に関わるだろう。
もっとも、当主であるヒアシをして十年の年月を掛けてようやく体得した秘奥中の秘
奥を、まだ若いキバが一年や二年で体得出来るわけはないのだが。
どうすればいいんだ
!?
﹂
文句なんてあるもんか 早く修行を付けてくれ
﹂
!
﹁では、私の修行に文句はありませんね
﹁ああ
何でもするぜ
!
シノもキバと同じく担当上忍に言われるがままにここへとやって来た。だが、シノに
互いに無言のままに時間が過ぎていく。
﹁⋮⋮﹂
﹁⋮⋮﹂
いた。
ところ変わって、アカネ︵影分身︶は第八班の最後の一人である油女シノと対面して
た言葉である。
気軽に何でもするなどと言ってはいけない。後にキバが自身の子どもにしかと教え
!
!
?
465
はキバと違う点があった。
﹂
それはアカネの修行を楽しみにしているという事だ。そう、シノはアカネが強く、そ
して師として有能である事を知っているのだ。
﹁私があなたの師となる日向アカネですが⋮⋮私で問題はないのですか
そう、ヒナタは事有る毎にアカネの自慢をしているのだ。
﹁ああ⋮⋮何故なら、お前の評判はヒナタから良く聞いているからだ﹂
ていたからである。
ちなみにキバがアカネの事を覚えていないのは単に彼がヒナタの自慢話を聞き流し
先にこの話が来たのだから、シノとしては渡りに船だったのだ。
このままではヒナタだけが強くなり、自分達は置いていかれるのでは。そう思った矢
そしてヒナタの実力がここ最近急速に伸びているのもアカネのおかげとの事だ。
下忍や上忍にまで修行を付けている、等とだ。
アカネ姉さんに教わったからこの技が出来る様になった、アカネ姉さんがたくさんの
?
﹁では⋮⋮﹂
シノは期待していた。どのような修行で自分を強くしてくれるのか、と。
﹁⋮⋮﹂
﹁そうですか⋮⋮﹂
NARUTO 第十六話
466
﹁ああ⋮⋮﹂
ごくり、と唾を飲み込む音が聞こえる。果たしてそれはどちらから聞こえた音なの
か。
﹁す、すみません。あなたの一族の術は特殊すぎて私ではそれらを発展させる事は難し
るくらいである。
出来る事と言えば基礎修行と近接戦闘修行を付けて、より秘伝忍術の使い勝手を上げ
いアカネにどうしてできようか。
そんな特殊な秘伝忍術の使い手に、更なる秘伝忍術の応用や発展など油女一族ではな
として与え続ける契約をしているのだ。
油女一族は蟲を自在に操り戦闘の殆どを蟲に委ねる代償として、自らのチャクラを餌
に貸し与え、その力を借りて戦うという秘伝忍術の一族だ。
油女一族は蟲使いの一族である。この世に生を受けたと同時にその体を巣として蟲
する一族の中でも、更に特殊な一族だからだ。
だがそれも仕方がないのだ。何故なら油女一族は木ノ葉に存在する秘伝忍術を伝承
シノが期待した様な特別な修行はなかった。
﹁⋮⋮﹂
﹁と、取り敢えず基礎修行をしましょうか﹂
467
いんです⋮⋮﹂
﹁⋮⋮分かっている。何故なら、それが油女一族だからだ﹂
そう返すシノは、どこか寂しそうであった。
﹁だ、大丈夫です 基礎修行をしてチャクラを増やせば寄生させる蟲の種類や量を増
そうすれば秘伝忍術を使用する時に便利なはずです
﹂
やす事が出来ますし、近接戦闘力を向上させれば敵への接近時に戦術の幅も広がります
!
!
えばシノもやる気が漲ってくるというものだ。
今寄生させている蟲だけでも新たな戦法を作り出す事も可能かもしれない。そう思
来そうにはないが、アカネの修行を成し遂げれば大きな利点を得る事も出来る。
これに関してはシノも異論はなかった。確かに新たな蟲の秘伝忍術を覚える事は出
﹁⋮⋮そうだな﹂
!
﹂
!
うのに木ノ葉でも屈指の近接戦闘のスペシャリストへと至るのであった。
まあ、どう考えても気合の入れ方を間違っているだろう。哀れ、シノは蟲使いだとい
に力を入れる事でその不備を詫びようと気合を入れる。
シノに合った特別な技を伝授出来そうにないので、アカネは基礎修行と近接戦闘修行
﹁はい
﹁では、よろしく頼む﹂
NARUTO 第十六話
468
◆
アカネちゃんとは何でもないんだって
信じてくれよリン
﹂
!
﹁だから
!
﹂
﹁オビトの言う通りだ オレがロリコンだなんて根も葉もない噂だ オレは無実だ
!
469
!
!
狂っていた。失礼、流石に狂ってまではいない。ともかく怒っていた。
まさに怒髪天を突くという言葉が相応しいだろう。リンは二人に対して非常に怒り
そんな優しいリンだが、今の彼女に逆らう気概はオビトとカカシにはなかった。
独身を貫いているのだが。
ている男性は数多いだろう。だが、彼女はカカシの事が好きなので三十路が近い今でも
リンは優しくて気立ても良く、木ノ葉でも有数の医療忍者である。嫁にしたいと思っ
行したりしている。
はかつては同じ小隊を組んでいた仲であり、今でも仲が良く共に食事をしたり任務を遂
男性の名はうちはオビトとはたけカカシ。そして女性の名はのはらリン。この三人
た。
今、木ノ葉の里で大の大人である男性二人が一人の女性を相手に必死に懇願をしてい
!
その理由は、親友であり想い人であるカカシと、親友であり自分を想ってくれている
オビトの二人が、十六歳の少女に手篭めにされているという噂を聞いたからである。し
かも両者とも同じ少女だ。ここまで聞いて怒りを顕わにしない程、リンは聖女ではな
かった。
⋮⋮あなた達の隣にいるその娘は何なのよ
説明してもらえるわよね
﹂
﹁ふーん。そのアカネって子とは何でもないし、根も葉もない噂、ねえ⋮⋮。だったら
﹃ど、どうも。日向アカネと申します﹄
!!
話を聞いて
!
はべら
オレが愛しているのはリンだけだって言ってるだろ
﹂
ただし本人ではあるが本体ではない。影分身だ。そしてカカシとオビトの二人にそ
リンの言う通り、カカシとオビトの隣には件の少女であるアカネ本人がいた。
!?
れぞれ影分身は付けているので、今この場にアカネは二人いる事になる。
﹁待って
!
のおばちゃんの如くにだ。
らだ。オビトの恋心を知ったアカネが後押しをしたのだ。そう、まるで近所の世話好き
その募った想いの丈をリンにぶつける事が出来たのはアカネからの発奮があったか
いたのは十数年以上前からなので、遅い告白ではある。
オビトが言うように、実はオビトはリンに対して既に告白をしていた。想いを秘めて
!
﹁これまた器用に二人共に同じ娘を侍らせるとはね⋮⋮﹂
NARUTO 第十六話
470
そうして一大決心をしてリンに告白をするも、返って来た答えはオビトの期待してい
た答えではなかった。だが、予想していた答えではあった。
リンがカカシの事が好きなのは昔から知っているのだ。それでもオビトはリンが好
きだった。例え断られようとも、その程度で揺らぐような愛でも恋でもなかったのだ。
だからオビトは断られても、リンに迷惑にならない程度に自分の愛を証明してきた。
プレゼントをしたり、デートに誘ったり、熱い告白を再びしたりとだ。
リンもオビトが自分の事を好きな事は知っていたが、自分はカカシに想いを抱いてい
るので告白されても袖にするしかないと思っていたし、自分がカカシが好きだという事
はオビトも知っていると理解していたので告白してくる事はないと思っていた。
だが急な告白に、断ってからも愛を伝えてくるオビトに、次第にリンの気持ちも揺れ
ていた。いつまで経っても自分を避ける煮え切らないカカシと、ストレートに自分だけ
﹂
後生だから最後まで説明させてくれ ロリコンなんて不名誉な称号がオレ
を見つめてくるオビト。この二つに揺れるのは乙女︵28︶として仕方のない事だろう。
﹁頼む
に付くなんて耐えられないんだ
!
択をした事を悔いていた。
だがカカシは過去にリンが敵に捕われた時に任務遂行を優先して見捨てるという選
そしてカカシ。リンが幼い頃から恋心を抱いていた相手。
!
!
471
そのせいでリンだけでなくオビトまでも危険に晒したのだ。自分が任務だけでなく
もっと仲間の事を想えば起こらなかっただろう悲劇だ。
ヒヨリという存在がいたからこそ、今もこうして三人揃って無事に生きているのだ
が、そうでなければ確実にオビトは死んでいただろう。
リンを見捨てたという最低最悪││少なくとも今のカカシはそう思っている││な
選択をした自分が、リンに愛される資格なんてない。
カカシはそう考えているからこそ、リンの想いを知りつつもそれを避けるように行動
しているのだ。そしてそれはリンも分かってはいた。
いつかは心の傷も癒えて自分の愛を受け入れてくれる。いや、自分が心の傷を癒して
あげる。リンはそう想い続けていたのだ。
だがそういった二人への想いも全部台無しだった。
何だこの二人。私の愛を受け入れないのは私が若くないからか。若い女の方がいい
のか。どうせ私はもうすぐ三十路のおばさんだ。私だけを愛しているとか言いながら
本当は若い女がいいんだろう。この野郎共。
鬼気迫るというべきか。アカネですら恐れる程の殺気をリンは放っていた。カカシ
とオビトなど最早涙目だ。
﹁お、おち、落ち着いて下さいリンさん⋮⋮わ、私は二人とは何でもないんです⋮⋮﹂
NARUTO 第十六話
472
長い人生に置いてここまで動揺した事は数えるほどしかなかったなぁ、などとアカネ
つまり二人とは遊びだったんだぁ﹂
は軽く現実逃避をしながら過去に思いを馳せていた。
﹁へえ
﹁ち、ちが⋮⋮
﹂
﹂
遊びとかじゃなくて││﹂
﹁じゃあやっぱり本気なんだよね
﹁タスケテ
内心でカカシとオビトをそう罵倒するが、それで味方が増えるわ
!
﹁う、うらぎりものー
﹂
残されたのはカカシに付いていた影分身のみだ。
逃げだした。
にしようとし、ほんの僅かに早くオビトに付いていた影分身が自らその体を消滅させて
最後に頼りに出来るのは自分自身。なので、影分身のアカネは互いにどちらかを犠牲
けではない。アカネの命は風前の灯火だ。
この役立たずめ
オビトは既に戦意を失っているようだ。
思わず助けを求める程にアカネは追い詰められる。だが、渦中の人物であるカカシと
!
?
!
された。
だが残念。現実は非常である。アカネは深まるリンの殺気に一瞬で現実へと引き戻
?
473
!
﹂
﹁ちょっと、お・ね・え・さ・んとお話しようかしら
﹁ヨロコンデー
﹂
?
ではない。 ネはリンの怒りを知る事になり、木ノ葉から逃げ出そうか画策したというがそれは定か
なお、影分身の一体が消滅し、その経験と知識が本体のアカネに還元された事でアカ
いなかった。
お姉さんという言葉を強調するリンに対し、アカネに拒否という選択肢は与えられて
!
﹂
?
ネの年齢では考えられない物なのだ。
り、影分身を大量に作ってそれぞれに修行をつける程の実力となると、それはもうアカ
アカネが二人に修行を付けている事を説明するにはアカネの力を説明する必要があ
も含めている。
ここまで来ては全てを話す他はない。その全てとは、アカネの正体がヒヨリである事
た。
アカネはリンの家にまで連れられて、そこでどうにかリンを落ち着かせて釈明をし
ん。ご理解いただけたでしょうか
﹁と、言うわけなのです。なので、けっして私と彼らは付きあっている訳ではありませ
NARUTO 第十六話
474
なので、カカシとオビトがリンは信用出来ると太鼓判を押した事もあり、アカネはリ
これってドッキリ
﹂
ンに自身の正体を明かした上で全てを説明したのである。
﹁⋮⋮え
?
﹂
﹁も⋮⋮﹂
﹁も
!
?
﹁申し訳ございませんでしたー
﹂
が、あの時は冷静さを失っていたのだろう。だから仕方ないのだ。
⋮⋮その理解を先程の二人のロリコン疑惑釈明時に発揮してやれれば良かったのだ
理解出来た。
も、やはり最も信頼しているのもこの二人なのだ。なので、二人が嘘を吐いてないのは
二人の言葉からドッキリであるという線はなくなった。二人に対して怒ってはいて
だと認めている。他にも何人かの里の重役は知っている事だ﹂
﹁ああ。それに日向ヒアシ様や二代目三忍の自来也様に、三代目様もアカネがヒヨリ様
んのチャクラがヒヨリ様と同じなのは確認しているからな﹂
﹁いや、信じられないかもしれないけど、本当なんだリン。オレの写輪眼でもアカネちゃ
ある日向ヒヨリだなどとどうして信じれる。
リンの反応も宜なるかな。目の前の少女が伝説の三忍にして木ノ葉設立の立役者で
?
475
そ れ は そ れ は 見 事 な 土 下 座 で あ っ た。見 る 人 が 見 れ ば 惚 れ 惚 れ し て い た で あ ろ う。
まあ、そんな土下座への理解者はこの場にはいないのだが。
﹁あ、頭を上げて下さい。誤解される様な配慮の足りない事をした私が悪いのですから﹂
﹁いえ 私達を助けて下さったヒヨリ様に対してあのような仕打ちをしてしまったの
本 当 に 申 し 訳 ご ざ い ま せ ん ⋮⋮ お、オ ビ ト を、オ ビ ト を 助 け て 下 さ っ て
!
同一人物なのだから、同じお礼は一度貰えば十分だ。
そう、ヒヨリが存命時にもリンはヒヨリにオビト救出の礼はしている。姿形は違えど
ですから﹂
でください。木ノ葉は私の子どもの様な里です。そこに住む人々を守るのは、当然の事
﹁⋮⋮あなたのお礼は、ヒヨリであった頃にも頂いていますよ。だから、もう気にしない
確実に死んでいただろう。それを思うと、何度礼をしてもしたりないくらいであった。
それは涙を流しながら発せられた言葉だった。あの時、ヒヨリがいなければオビトは
⋮⋮本当にありがとうございました﹂
です
!
!
⋮⋮まあ、その母の様な人を脅して怯えさせるという珍事を成したのだが。柱間やマ
母の様な慈しみの心を持って接してくれるアカネに感激して。
アカネの優しさにリンは再び涙して礼を述べる。ヒヨリであった頃から変わらない、
﹁はい⋮⋮ありがとうございますヒヨリ様⋮⋮﹂
NARUTO 第十六話
476
ダラにさえ出来なかった快挙であった。
いえ、アカネ様
﹂
しばらくして落ち着いたリンは改めてアカネに頭を下げる。
﹁ヒヨリ様
!
﹁⋮⋮じゃあ、アカネちゃん。私にも二人と同じ様に修行を付けてくれないかしら
私も医療忍者としてもっと腕を上げて皆の役に立ちたいの﹂
であり、影分身を利用して多数の忍に修行を付ける事が出来る。
だがアカネは違う。医療忍者としては最高峰と謳われる日向ヒヨリの生まれ変わり
る。そんな彼女に弟子入りを申し込むのは少々気が引けたのだ。
しかし綱手は火影という非常に忙しい立場であり、そして既に一人の弟子を持ってい
半年前に帰って来た綱手くらいだった。
優秀な師がいれば良かったのだが、既に木ノ葉にはリン以上の医療忍者と言えば一年
当たっていると実感したのだ。
だが最近自分に限界が見えてきたのだ。これ以上は独力ではどうしようもない壁に
からそう思って修行を怠る事はなかった。
自分にもっと医療忍術の腕があれば、助けられる人も多かったはずだ。リンは常日頃
?
る私が敬われるのはおかしいですから﹂
﹁呼び捨てで結構ですよ。公の場で私がヒヨリとばれても困りますし、下忍の立場にい
!
477
﹂
﹂
アカネならば自分の壁を壊してくれるはず。そう願っての弟子入り祈願であった。
﹂
﹁⋮⋮私の修行は厳しいですよ
﹁望むところです
﹁止めておくんだリン
早まるんじゃない
﹂
?
!
!
!
する。だがリンの決意は固かった。
るつもり
﹂
﹂
﹁二人ともアカネちゃんに修行を付けて貰っているんでしょう
﹁そう言うわけじゃないけどさ
﹁お前が自殺しようとしているのを見過ごすわけには行かないでしょ
!
﹂
﹁まあ、取り敢えずリンさんの修行は後日からにしましょう。今日の所は三人でゆっく
ていた。これで二人とも更にレベルアップする事だろう。目出度い事だ。
だが時既に遅し。二人の物言いから既にアカネの中では修行の三割増しが決定され
地獄も生温い過酷な修行が待っているに違いないからだ。
地獄。その一言をカカシもオビトも喉から出そうになって飲み込んだ。言えば最後、
!
!
私だけ仲間外れにす
アカネの修行の過酷さを身を持って知っている二人はリンの自殺行為を止めようと
﹁そうだ
!
?
﹁あなた達、私の修行を何だと思っているんですか⋮⋮﹂
NARUTO 第十六話
478
﹂
?
り休んで下さい﹂
それってオレ達の修行も休みってこと
?
◆
?
﹁アカネさん、本当にありがとうございます。あなたと綱手様のおかげで息子は無事に
る舞いを取らなくてはならない訳だ。
ミコトとサスケがいる為だ。この二人はアカネの正体を知らないので、下忍に対する振
ちなみにイタチの言葉遣いが丁寧ではないのはこの場がイタチの実家であり、近くに
いたが、再発や転移の恐れがある病だった為に定期的にアカネが診察しているのだ。
今アカネは白眼にてイタチの体を診察していた。イタチの病は手術により完治して
﹁ああ、そうするよ。度々すまないな﹂
ら必ず私の所か綱手様の所に相談に来てくださいね﹂
﹁ええ。問題ないですね。今は完治したと見ていいでしょう。ですが、違和感を感じた
﹁⋮⋮どうだ
﹂
カカシ大正解である。流石はコピー忍者のカカシ。頭の切れも大した物であった。
﹁明日から修行が三割増しくらいになってそうで逆に不安だよ⋮⋮﹂
﹁え
479
今も生きていられます﹂
アカネと綱手がイタチの手術をした事はこの一家には周知の事実だ。もう何度も礼
をしているが、それでもミコトはしたりないくらいだった。
サスケの修行を手伝ってくれている事といい、ミコトはアカネにお礼と称して良く家
の食事に誘っていた。そういう訳でアカネはちょくちょくサスケの家で食事を摂って
いたりする。
﹁気になさらないでくださいミコトさん。私も何度も夕飯をご馳走になってますし、お
礼は頂いていますから﹂
﹁ミコト。診察も終わった事だから茶の用意を頼む。茶菓子も忘れずにな﹂
そう言ってミコトはその場を立ち去った。美味しい羊羹と聞いたアカネの期待度は
﹁はい。アカネさん、少し待っていて下さいね。美味しい羊羹があるんですよ﹂
非常に高まっているようだ。
﹂
?
えを読み取りフォローすら入れた。空気の読める男である。
食べた覚えがないイタチは濡れ衣を着せられた事に僅かにうろたえるが、フガクの考
﹁⋮⋮すまないなサスケ﹂
てくれんか。場所は分かるだろう
﹁いや、確かその羊羹は昨日イタチが食べてしまったな。サスケよ、少しばかり買ってき
NARUTO 第十六話
480
﹁アカネが影分身で買いに行けばいいんじゃ││行って来ます
カネに頭を下げた。
﹂
これでしばらくはこの場には事情を知る三人のみとなるだろう。改めてフガクはア
び出して行った。
けばいいんじゃないかと文句を言うサスケだったが、フガクの一睨みで颯爽と家から飛
影分身という非常に便利な使い走りを用意出来る術を持っているアカネが買いに行
!
﹂
!
の姿に、イタチは素直に感動する。だからと言って羊羹を食べた犯人を擦り付けるのは
あの厳格な父が自分の為にこうして頭を下げて思いの丈を顕わにしてくれているそ
﹁父さん⋮⋮﹂
だ。
ざミコトがアカネに出す為に用意していた羊羹を、ミコトに隠れてこっそりと食べたの
逆に言えばアカネに礼を言いたいが為に二人を遠ざけたのである。その為にわざわ
げている姿を見せないようにする為だった。
ミコトとサスケを遠ざけたのも、うちは一族の当主である自分が下忍を相手に頭を下
大きな声ではないが、静かに響く思いが籠められた言葉だった。
ことにありがとうございます⋮⋮
﹁アカネ様、イタチの病を治していただき、感謝の念が尽きぬ思いです⋮⋮まことに、ま
481
どうかと思ったが。
自分にも他人にも厳しいフガクだが、家族への愛情は内に秘めていた。滅多に表に出
す事はないが、命を救ってくれたとなれば話は別だった。
今まではアカネと一緒にいる時にはサスケやミコトがいた為に簡単な礼しか言えな
かったが、こうして機会を作り深く感謝の意を示したのだ。
﹁頭を上げて下さい。ミコトさんにも言いましたが、もうお礼は頂いていますよ﹂
﹁ああ⋮⋮﹂
アカネに言われて頭を上げたフガクはすぐに佇まいを当主としての物にする。ミコ
トが近付いてくる気配を感じ取ったのだ。
﹁ごめんなさいアカネさん。羊羹がどこにもなくて⋮⋮おせんべいならあるんだけど﹂
﹁ごめんよ母さん。昨日オレが知らずに食べてしまったんだ。今サスケが買いに行って
くれているから﹂
フガクは心の中でイタチに謝った。こうもフォローしてくれると余計に心が痛くな
るものである。
﹂
?
﹁そう何度も世話になると申し訳ないんですが⋮⋮﹂
食べて行くわよね
﹁そうだったの。もうしょうがないわねぇイタチは。そうそうアカネさん、今日も夕飯
NARUTO 第十六話
482
﹁いいのよ、そんなに気にしなくても﹂
それはサスケなりの冗談だったが、それくらい強くなったと伝えたかったのだ。
﹁ああ、大分強くなったと思うよ。今なら兄さんにだって勝てるかもね﹂
して父が自分に興味を示してくれているのが嬉しかった。
幼い頃は優秀な兄と比べられてあまり期待されていないと思っていたサスケは、こう
なるとやはり父としてもうちはの当主としても気になるのだろう。
夕食を摂りながらの家族の会話だ。サスケがあの日向ヒヨリの修行を受けていると
﹁サスケ、修行の方はどうだ﹂
身で夕食をご馳走になる事は伝達済みだ。
そうしてサスケ宅にて夕食が開始される。ちなみにアカネの両親にはちゃんと影分
だから仕方ない。
幻術の一種││にでも掛かっているのかと思うくらいに同じ流れである。様式美なの
既にフガクやイタチも、そしてサスケも何度となく見た光景だ。たまにイザナミ││
サスケ宅で食事を摂る一連の流れである。
夕飯に誘う、一度は断る、気にしないでいいのよ、じゃあお言葉に。これがアカネが
﹁じゃあ、お言葉に甘えてご相伴に預からせてもらいますね﹂
483
﹁ふ、大きく出たな﹂
﹁ん。まあ六対四くらいですかね﹂
サスケの言葉を虚勢と取ったフガクは、その後に続いたアカネの言葉の意味が良く理
﹂
解出来なかった。
﹁六対⋮⋮四
です﹂
﹂
﹁ええ。イタチさんとサスケが戦った場合の勝率ですよ。イタチさんが六でサスケが四
?
﹁お代わりならオレが入れてやる ほらよ大盛りだ さっさとさっきの話を詳しく
﹁あ、ミコトさん、お代わりお願いします﹂
!?
こか信じられないでいた。
﹂
そんな兄に、まだ負ける確率が高いとはいえ勝つ可能性を自分が得ている。それがど
うコンプレックスを抱いていた。
昔から父は事ある毎に優秀な兄と自分を比べ、優しい兄を尊敬しつつも嫉妬するとい
で、乗り越えたいと努力をしても決して追いつけない存在であった。
その言葉に一番驚いていたのがサスケである。サスケにとって兄とは優秀すぎる壁
﹁⋮⋮え
?
﹁そ、それは本当かアカネ
NARUTO 第十六話
484
!
!
聞かせろ
﹂
﹂
﹁もう半分飯食い終わってんじゃねーかこのウスラトンカチ
﹁食事くらい⋮⋮ゆっくり⋮⋮食べさせて⋮⋮下さいよ﹂
!
﹁この尼⋮⋮
﹂
﹂
?
何でこんなのがオレより強い⋮⋮
!
﹂
﹁ああ、心底そう思うぜ⋮⋮
!
﹂
﹂
!
もう少しゆっくり食え
来ますよ。経験の差でイタチが有利でしょうが、十分にサスケにも勝機があります﹂
﹁楽しみに待ってましょう。先程の話ですが、今のサスケならイタチともいい勝負が出
﹁いつか絶対ぶっ飛ばしてやる⋮⋮
﹁まあサスケをからかうのはこれくらいにしますか﹂
な気がしてならなかった。
ネジもきっと同じ思いを抱いているのだろうと思うとサスケはネジと心が通じそう
!
ですね
﹁その台詞。ネジにも何度も言われるんですよねぇ。あなたとネジって仲良くなれそう
!
﹁ふぅ。お茶が美味しい。⋮⋮で、何でしたっけ
常である。それを堪能しているアカネにサスケの罵倒など耳にも入らなかった。
肉を食べ、白飯を食べ、そして肉を食べ、白飯を食べる。肉と白飯の相性の良さは異
!
!
485
﹁そ、それほどまでに⋮⋮﹂
これにはフガクも驚愕であった。サスケに期待はしていたが、それでもイタチと比べ
ると見劣りすると思っていたのは確かだ。
将来的にはもしかしたらと思っていたが、ここまで早くに芽を出すとは思ってもいな
かったのだ。
期待に目を輝かせてこちらを見るサスケに、フガクはまだまだ子どもかと思いつつ
も、サスケが望む言葉を口にしてあげた。
﹂
﹁流石はオレの子だ﹂
﹁父さん⋮⋮
られた事が嬉しかったのだろう。
サスケの喜びようと来たらアカネも見た事のないほどであった。それだけ父に認め
!
﹂
!
﹁⋮⋮﹂
伊達ではないのだ。
調子に乗らない様に多少の釘を刺しておく事も忘れてはいない。うちは当主の名は
﹁う⋮⋮
てもらわねばな﹂
﹁まあ、下忍のままで修行に身を費やしているのだ。イタチやオレを超えるくらいはし
NARUTO 第十六話
486
ちなみにイタチはサスケの成長を嬉しく思いつつも、もう少しは兄として弟の壁で有
りたいという思いもあった。
なのでこっそりとアカネへ弟子入りしようかなと考えていたりする。
﹂
食事をしつつ、サスケとアカネが馬鹿な話をしつつ、それを肴に珍しく食事中にフガ
クが晩酌をしつつ、そうした団欒が広がる中、ミコトが爆弾発言をした。
﹂
﹁ねえアカネさん。アカネさんが良ければイタチかサスケのどちらかの嫁に来ない
﹁ぶはっ
﹂
?
難しそうな、困った様な表情のアカネを見て、ミコトは少し表情を暗くする。
﹁うーん﹂
出来事を聞かされたのだ。驚くなという方が無理である。
フガクからすれば日向ヒヨリが息子の嫁になるという意味不明どころか驚天動地な
ば彼を責めまい。事実イタチは父の反応を理解していた。
ミコトのいきなりの発言に酒を噴き出してしまったフガク。だが、事情を知る者なら
﹁い、いや、何でもない﹂
﹁ど、どうしたのあなた
それに過剰反応したのは当のアカネやイタチにサスケでもなくフガクであった。
!
?
487
﹁ダメかしら
﹂
﹂
アカネさんがいるといつもより明るくなるから私としては嬉しかった
んだけど⋮⋮もしかして、他に意中の人でもいるのかしら
だったら、好みの人はどんな人なの
﹁意中の人ですか⋮⋮。そういう人は⋮⋮いませんね﹂
﹁そうなの
?
?
?
﹂
?
そしてふとミコトに告げた言葉を思いだす。
夕食も終わり、サスケの家を発ったアカネは帰路へと付く。
フガク、イタチ、サスケの親子三人の言葉が完全に一致した。
﹃結婚する気はないようだな﹄
﹁私と同じかそれ以上に強い人ならもっといいかな﹂
﹁ふんふん、どんな人がいいの
﹁そうですね。優しい人なら⋮⋮あ、でも││﹂
完全にガールズトークである。周りの男共は若干居心地が悪くなっている様だ。
﹃⋮⋮﹄
?
かつての悲しい過去を思いだし、アカネはしばらく夜空を見続けていた。
﹁私と同じくらい強い人、か⋮⋮。あの馬鹿め⋮⋮どうして木ノ葉を、私たちを⋮⋮﹂
NARUTO 第十六話
488
NARUTO 第十七話
ナルト達が暁に備え、暁が来たるべき未来に備え、それぞれが力を蓄える。そうして
時は瞬く間に流れて行った。
ナルト達が修行という任務を受けてから三年近い年月が経った。その年月でナルト
達は強く、そして大きく育っていた。
それを証明するかの様にナルトとサスケは闘いを繰り広げていた。
三年前と同じ様に体術合戦をし、三年前とは桁違いな技術を披露する。
ナルトの流れる様な連撃をサスケは捌き、サスケの反撃を紙一重で避ける事でナルト
は逆に反撃の機会を作る。だがそれを読んでいたサスケは体を深く沈めてその反撃を
﹂
││
躱し、体を沈めた反動を利用してナルトを蹴り上げた。
﹁ぐあっ
││火遁・豪火滅却
に使用したのは影分身を警戒した為である。
ちはマダラが集団の敵を相手にするのに多用していた高等火遁だ。今回単体のナルト
空中に吹き飛んだナルトへの追撃としてサスケは火遁の術を放つ。それはかつてう
!
!
489
NARUTO 第十七話
490
広範囲に広がっていく炎がナルトを襲う。まともに当たれば並の忍ならば骨も残ら
ないだろう。だが、ナルトは並などではなかった。
ナルトは空に吹き飛ばされながら追撃への対処として既に影分身を作りだしていた。
豪火滅却を放たれた後に影分身をしても間に合わない可能性があるから蹴り上げられ
ながら影分身の術を使用していたのだ。
そして影分身は本体の前に現れ、両の手にそれぞれ大きな螺旋丸を作り出す。それを
豪火滅却にぶつける事で後ろにいる本体へ炎が向かわない様にする。
威力と範囲を兼ね備えた豪火滅却を一部分とは言え掻き消す事が出来るのも同時に
二つの螺旋丸を作り出す事が出来る様になったからである。
かつては影分身を利用して初めて片手に螺旋丸を作る事が出来たのだが、今はその必
要もないのだ。
更にナルトは次々と影分身を作り出す。影分身が本体を投げたり蹴ったりする事で
空を移動しているのだ。
そうして豪火滅却による炎の壁を上から乗り越えてサスケへと接近。豪火滅却は巨
大な炎の壁を作り出してしまうので、術者が対象を見失う欠点もあった。それを突いた
ナルトの戦術であった。
だがそのような欠点など術者であるサスケには承知の上だ。常に気を張ってチャク
ラを感知していたサスケはナルトの位置を見失ってはいなかった。
サスケは感知タイプと呼ばれる感知を得意とする忍ではないが、それでもこの距離な
らばこの程度の感知は造作もなかった。
ナルトとサスケは互いに睨み合い、そして計ったかの様にそれぞれが自身の代名詞と
なりつつある術を展開する。
ナルトは螺旋丸を、サスケは千鳥を。両方とも一撃で相手を殺し得る威力を持つ術
﹂
だ。それを相手に叩きつけようとして││
﹁はいストップ
のだ。
﹂
﹁うわぁっ
﹁くっ
!?
単に二人の力の方向がナルトが地に、サスケが天に向かっていたのでそれを合気にて利
空に吹き飛ばされたサスケは空中で姿勢を取り戻し、華麗に着地していたが。これは
ルトは更に急加速して大地に叩き付けられたのでかなり痛そうに呻いていた。
ナルトは大地に、サスケは上空にそれぞれが吹き飛ばされる。大地に向かっていたナ
!?
﹂
ナルトとサスケの術を発動している手首を掴んで合気にてそれぞれを吹き飛ばした
第三者の手によってそれを邪魔された。
!
491
﹂
﹂
用しただけで、他意はない。そのはずだ。
﹁あ、頭がぁあああ
に長ける様になった。
合気の理を三年間みっちりと叩きこまれたサクラは相手の意を読んで攻撃を読む事
武術。その為には相手の力の流れや相手の意を読まなければならない。
だからアカネは合気柔術をサクラに伝授したのだ。合気柔術は相手の力を利用する
それは味方を癒す医療忍者がやられては意味がないという理由からだ。
けてはならないと教えられている。
そして成長したのは医療忍術だけではない。そも、医療忍者は戦闘にて敵の攻撃を受
る程になっていた。
医療忍者として類い稀なるスピードで成長したサクラはまさに綱手の後継者と言え
術も習っていたのだ。
医療忍者として綱手の弟子になっていた。そして同時にアカネに合気柔術という護身
そう、合気にて二人を吹き飛ばしたのはアカネではなくサクラだったのだ。サクラは
う邪魔を仕出かした第三者、サクラに詰問する。
ナルトは大地に叩き付けられた頭部の痛みに悶絶し、サスケは勝負を途中で遮るとい
!
!
﹁なにしやがるサクラ
NARUTO 第十七話
492
そして敵の力を利用した合気柔術に、チャクラコントロールを利用した怪力。これら
を武器に闘う様になったサクラの力はナルト達に匹敵するほどに高まっていた。
おいナルト、今回の勝負は次に持ち越しだ﹂
!
は出来ない。だがその不利を生来の才能で覆したのだ。
めるべきだろう。ナルトの多重影分身修行は尾獣を持たないサスケには真似をする事
だがそれでもナルトがサスケに勝ったのは僅か二回だ。これに関してはサスケを褒
行を始めて三年目から行った多重影分身を利用した修行がその要因だろう。
二人の実力は大きく向上し、特にナルトはサスケとの差をほぼ完全に埋めていた。修
﹁オレの勝ちに決まっているだろうが﹂ ﹁あーいてて。分かったってばよ。ちぇっ、今日はオレの勝ちだったのになぁ﹂
﹁ちっ
五代目が叱責するだろう点もまた理解していた。
煙の色を見て、あれが第七班への報せだとサスケも理解する。そして遅れた場合あの
﹁そ、綱手様からの緊急召集の要請よ﹂
﹁あれは⋮⋮﹂
煙が上がっていた。
そう言ってサクラが指を差した方角をサスケが見ると、そこには緊急招集を知らせる
﹁ごめんごめん。でも、あれ見てよサスケ君﹂
493
いや、生来の才能の差を多重影分身で埋めたナルトを褒めるべきなのかもしれない
が。ど ち ら に せ よ 両 者 と も 並 の 上 忍 程 度 な ら 軽 く あ し ら え る 実 力 を 手 に 入 れ て い た。
そして受けに回れば二人でも攻め切れないサクラ。第七班は木ノ葉でも最強の⋮⋮下
忍だった。
そう。何と三年経ってもこの三人は下忍のままなのだ。実力ではとうに上忍クラス
に到達していたが、誰もこの三年間で中忍試験を受けなかったのだ。
中忍試験を受けるという事は、中忍試験に集中して修行の時間が削れるという事。つ
まり他の第七班に先を越されるという事だ。
サスケを追い抜こうとしているナルトはそれが我慢出来ず、ナルトに追い抜かれまい
とするサスケはそれが我慢出来ず、二人に追い付き追い越そうとするサクラはそれが我
慢出来ない。そんな三人の意思が一致した結果である。
﹂
ちなみに三人の同期で下忍のままの忍は誰もいない。一つ上のネジに至っては上忍
﹂
になっている。
!
三年間で成長したのは実力だけなのかもしれない。この二人は相も変わらずであっ
そんな事など全く気にせずに二人は仲良く口喧嘩をしている。
﹁やるかウスラトンカチ
!
﹁んだとぉー
NARUTO 第十七話
494
た。
いや、ナルトは三年間で以前よりも思慮深くなり、サスケもクールというよりは冷静
さを持つ様になってはいる。ただ、ナルトとサスケが混ざるとこうなってしまうのだ。
◆
!
我愛羅はかつて砂隠れが大蛇丸と共謀して木ノ葉に戦争を仕掛けた時に切り札とさ
暁に捕われたという報告だった。
火影室に呼び出されたナルト達が聞いたのは砂隠れの新たな風影となった我愛羅が
﹁我愛羅が⋮⋮
﹂
そして、その不安は当たっていた。暁が活動を再開したのである。
見て、サクラはそう不安に思ってしまった。
だが、そんな楽しい日々にも終わりが来るのかもしれない。綱手の緊急招集の報せを
ましく、そして嬉しかったのだ。
いつまでも子どもの様に変わらずに友としてライバルとして接している二人が微笑
そう言いつつもサクラは二人を見て微笑んでいた。
﹁もう、二人とも止めなさいよー。早く行かないと綱手様に怒られるわよ﹂
495
NARUTO 第十七話
496
れていた砂の人柱力だ。
かつては自分の境遇に孤独と憎しみを抱き、周囲にその憎しみを感情のままにぶつけ
ていた我愛羅だが、同じ境遇を持つナルトに負けて、そしてナルトに理解される事で互
いに友情を感じる様になる。
それにより我愛羅は変わった。ただただ憎しみを振りまくのではなく、例え迫害され
ても負けない強さを持つナルトの様になりたいと思うようになったのだ。他者との繋
がりを否定していた我愛羅が、苦しみや悲しみ、そして喜びを他者と分かちあえるのだ
と思うようになったのだ。
その心境の変化が良い結果に繋がったのだろう。風影という中核を失っていた砂隠
れは我愛羅を風影に任命し、我愛羅は里を守るべく五代目風影へと就任した。
そして⋮⋮里を守る為に、暁に攫われてしまった。一対一の戦いでは我愛羅は里を
襲った暁の一員・デイダラに負けてはいなかっただろう。
だが里に巨大な起爆粘土を落とされた為、里を守る為に持てる力を振り絞ったのだ。
それにより疲弊し大きな隙を作ってしまった我愛羅はデイダラに捕らえられてしまっ
たのだ。
それを知った砂隠れは同盟国である木ノ葉に連絡を取る。その連絡を受け取った綱
手がナルト含む第七班を召集したのだ。
﹁そうだ。そこでお前達に新たな任務を下す。直ちに砂隠れの里へ行き状況を把握し木
ノ葉に伝達。その後砂隠れの命に従い彼らを支援しろ﹂
それは火影としては間違った指令かもしれない。これは暁にナルトという餌を与え
るに等しい行為かもしれないからだ。
だが綱手はナルトの気持ちを理解していた。ナルトと我愛羅は同じ人柱力だ。そし
て二人はかつて中忍試験で闘った仲である。
その時ナルトは我愛羅を理解し、そして我愛羅もナルトの理解を得る事で人としての
自分を取り戻した。
同じ人柱力同士分かり合えたのだ。そしてナルトは我愛羅を助けたいと思っている。
そんなナルトの後押しを綱手はしてあげたかったのだ。
そして何より綱手はナルトを信じていた。ナルトならば暁などに負ける事なく任務
を達成出来ると。
潜られたままよりは対処しやすいと言えた。そんな好機を逃すわけには行かないだろ
その暁が再び活動を再開したとなれば厄介ではあるが打倒する好機でもある。地に
の修行に忙しくて暁についての情報収集も出来なかった。
そう言ったのはアカネである。アカネはこの三年間は第七班を初めとする多くの忍
﹁その任務。私は参加しませんので﹂
497
NARUTO 第十七話
498
う。
だと言うのに何故ここに来て暁討伐の機会を逃す様な事を言い出すのか。それには
二つの理由があった。
一つは暁に気付かれない様に近付きたかったから。
アカネとてこの機会を逃すつもりはない。だが暁にどの様な能力者がいるか分から
ないまま、あからさまにナルト達と共に行動していては暁にアカネの行動がばれる可能
性もあるだろう。
暁にアカネが日向ヒヨリの転生体である事は周知されていると見ていいだろう。暁
に大蛇丸が所属している事からその点はほぼ間違いがないとアカネは考えている。
アカネが警戒されている可能性は非常に高いと言える。だからこそ暁に見つからな
い様、第七班にも秘密にして行動するつもりだった。
もう一つの理由は第七班の精神的な成長を促す為だ。
彼らはアカネの実力の高さを嫌と言うほど知っている。だからこそ、アカネがいれば
どんな局面でもどうにかなると思っているかもしれない。
そうであればいざという時にアカネがいなければ精神的に脆くなってしまう可能性
もある。どれだけ実力が伸びようともそれでは意味がないだろう。
それを確認する為にも第七班のみでこの任務を受けてもらい様子を見たかったのだ。
まあ、いざとなればアカネが手助けする事に変わりはないのだが、そのいざという事態
に陥った時の対応が見たいのだ。
﹂
⋮⋮もっとも、第七班の実力の高さから余程の事がない限りそのいざという事態が起
こる事もないかもしれないのだが。
我愛羅は絶対に助けてやる
!
﹂
!
︵こいつらに負けないように修行して、そのせいで不名誉な称号を得たオレ達の恨みと
の一員以外はサクラの前に立ってはいけないのかもしれない。
今のサクラに十発も殴られれば絶対に途中で死ぬだろう。不死コンビと呼ばれる暁
気が済まないわ﹂
つらがナルトとサスケ君を狙っているからよね⋮⋮。一発、ううん、十発は殴らないと
﹁そうよね⋮⋮私達が中忍試験を受ける事もなく修行し続けたのも、元はと言えばそい
くても万華鏡を開眼しそうな程にチャクラが荒ぶっている。
三年間の修行はサスケに地獄を見せたようだ。そのせいか哀しみや怒りを背負わな
だけ地獄を見たのか教えてやる⋮⋮
﹁ふん、我愛羅を助ける義理はないが、暁が相手なら丁度いい。この三年間でオレがどれ
りの三人の台詞もまた逞しいものだった。
ナルトのその言葉を聞いたアカネは確認の必要はなかったかなと思えた。そして残
﹁アカネが行かなくてもオレは行くぜ
!
499
NARUTO 第十七話
500
憎しみと哀しみをオレが代表して暁にぶつけてやる︶
カカシは言葉にこそしていないが、暁に対する恨みはナルト達に負けない程に高まっ
ていた。まるで一人ではなく多くの忍の怨念を背負っているかの様である。
影分身だがアカネとほぼ四六時中一緒にいて修行していたせいで、アカネの修行を受
けた三十代前後の忍はその多くにロリコンの称号が里から与えられていた。
あの時、カカシとオビトを見るリンの冷たい視線を彼らは一生忘れる事はないだろ
う。そういった恨みの諸々を暁にぶつける時が来たとカカシは普段の様子を捨ててま
で息巻いていた。
そんな第七班の様子を見てアカネは確信する。うん、こいつらが私に頼り切りになる
事ってないな、と。
そして同時に願った。どうか、彼らと戦う暁が人としての尊厳を保ったままにやられ
ますように、と。
◆
カカシ率いる第七班は我愛羅救出に向けて木ノ葉を発つ。道中で火の国に来ていた
501
我愛羅の姉であるテマリと偶然合流し、それから三日掛けて砂隠れに到着する。
ナルト達が全力を出せば二日で辿りつけるだろうが、それでは肝心の暁と戦う時に疲
労が大きくなっているだろうし、テマリがいるから移動速度を抑えた結果が三日という
時間だった。
いや、テマリとて木ノ葉崩しから約三年で下忍から上忍となっており大きく成長して
いるのだが、ナルト達の成長がそれを遥かに凌駕する程だったのだ。
砂隠れの里に到着したナルト達は我愛羅救出に向かう前に我愛羅の兄であるカンク
ロウの治療を行う。
カンクロウは我愛羅が連れ攫われた時にすぐに弟を救うべく暁に立ち向かったのだ。
かつては憎しみのままに殺戮を振りまく弟を疎ましく思っていたが、成長した我愛羅を
見てカンクロウも変わったのだ。今では大切な弟であり里の中核を成す風影となった
我愛羅を誇りに思っている程だ。
だが相手は暁。カンクロウ一人では敵うことはなく、あえなく返り討ちにあってし
まった。その際に敵の毒を受けてしまい、今まさに生死の境を彷徨っているのだった。
その毒は砂隠れの里のご隠居であり毒の専門家でもあるチヨという老婆でも解毒は
不可能な程困難な調合を施されていた。
だが綱手とアカネの修行を受けて医療忍者として成長したサクラが直接毒を体内か
NARUTO 第十七話
502
ら抜き取る事でどうにか大事を切り抜ける。その後は砂隠れにある薬草を用いて解毒
薬を調合し、カンクロウの解毒処置は完了した。
なお、その際にチヨがカカシを見てその容貌からカカシの父であるサクモと勘違い
し、カカシに襲い掛かるというハプニングがあったのだが⋮⋮まあ怪我人は出なかった
ので問題はないだろう。
解毒薬の準備も整った所で第七班は我愛羅救出の為に暁の追跡に入る。カンクロウ
から暁の手がかりである匂いの元を託され、そして同時に我愛羅を頼むという思いも受
け取ったナルト達は砂隠れを発つ。
メンバーにはチヨも加わる。理由は我愛羅を攫った暁の一員に、チヨの孫であるサソ
リが混ざっていたからだ。
サソリは傀儡の使い手であり、その腕前も群を抜いている。それに対抗する為にサソ
リに傀儡の術を教えたチヨ本人が出張ったという訳だ。いや、それ以上に孫を止めたい
と願う気持ちもあるのだろう。
道中でチヨはナルトの境遇と我愛羅へのシンパシーと想いを知り、時代は変わりつつ
ある事に気付く。同盟など形だけと思っていたが、こうして自里が危機に陥った時に同
盟国は即座に救援に来てくれた。
ナルト達の可能性を見てそれを羨ましく思いつつも、まだ老いぼれにも出来る事はあ
るかも知れないと思い至り、チヨは一人覚悟を決めていた。
そしてチヨ含む第七班は暁のアジトの一つだろう場所に辿り付く。だが⋮⋮その時
既に、暁はその場には誰もいなかった。
アジトは岩壁をくり抜かれた洞窟状になっており、その入り口は大岩で塞がれた上に
何らかの封印が施されていたので簡単に中に入る事は出来ない。そしてナルト達では
中の様子を確認する術もない。
だが、アジト内部に既に生きた人間は誰もいない事に気付いたのがこの中にいた。そ
れは第七班でもなければ、チヨでもない。その人物はカカシの忍具を収める鞄の中から
声を出した。
﹁これは⋮⋮まずいな﹂
﹂
突如として響いたその声に第七班は驚愕する。
﹁え
﹂
﹂
アカネの声よ今の
﹁いま、アカネの声がしなかったか
﹁間違いないわ
﹂
﹁ま、まさか⋮⋮﹂
!
?
!?
﹁⋮⋮そこか
!
!
503
そしてカカシとチヨはその声がどこから聞こえたのか見抜いた。カカシは自分の鞄
を下ろして鞄を開く。すると中から巻物が一つ飛び出してきた。
飛び出した巻物は空中で音を立てて姿を変える。そう、巻物はアカネが変化した姿
﹂
カカシは気付かなかった自分を恥じ、そしてチヨ
だったのだ。アカネは気配を消して巻物に変化してカカシの鞄の中に潜んでいたのだ。
﹂
﹁い、いつの間に⋮⋮
﹁誰じゃお主⋮⋮
一体いつの間に潜んでいたのか
!?
﹂
中は既にもぬけの空です
いるのは⋮⋮尾獣を
!
しているが。
抜かれた風影様のみ⋮⋮
!
!
は突然現れたアカネを訝しむ。まあ、ナルト達の反応からして敵ではない様だと判断は
?
?
﹁それよりも、風影様が危険です
﹄
!?
でいる事は周知の事実。当然暁もそれを知っている。だからこそ、全てを速攻で終わら
全てはアカネを、ヒヨリを警戒しての電撃作戦だった。砂隠れが木ノ葉と同盟を結ん
ら逃げ出していたのだ。
の三年間で修行した封印術により圧倒的速度で我愛羅から尾獣を抜き取ってアジトか
そう、全ては遅かった。暁は我愛羅を攫ってから凄まじい速度でアジトへと戻り、こ
﹃っ
NARUTO 第十七話
504
せてこの場から離れたのだ。
﹂
!
﹂
!
!
﹂
!
ある思いを秘める。まあ、ナルトは成長しつつも相変わらずなのだが。
﹂
!
!
事は一刻を争うので強引に行かせてもらいます
!
﹁だったらさっさとその札を外して我愛羅を助けるぞ
﹄
﹁その必要はありません
﹃え
?
﹂
成長した第七班を見て、カカシはもう自分は必要ないかな、と嬉しくもあり悲しくも
﹁⋮⋮﹂
サクラがその知識で封印術の種類と対処法を伝える。
いるわ。この岩に一つあるから、残り四つがどこかにあるはず
﹁これって五封結界ね。近辺に〝禁〟と書かれた札を五ヶ所に貼り付けて結界を作って
だ。
焦るナルトを止めたのはサスケだ。その写輪眼にて大岩を覆う封印術を見抜いたの
出来ないぞ
﹁待てナルト この岩には封印が施されている。これを何とかしないと中に入る事は
大岩を壊して中に入ろうとする。
人柱力から尾獣が抜かれる。それにより起こる事実を理解しているナルトは焦って
﹁早く中に入らねーと
505
ナルトの意気込みを他所に、アカネは一気に体内チャクラを練り上げる。同時に天使
怪我をしますよ
﹂
のヴェールを発動しているのでそのチャクラを周囲の者は感じ取る事は出来ないでい
たが。
﹁離れていなさい
!
る事となる⋮⋮。
そして内部に侵入したナルト達は⋮⋮倒れ伏し、ピクリとも動かない我愛羅を発見す
行動を止めていては命が幾つあっても足りないと達観しているのだ。
ルト達にはそう見えている││アカネが岩を破壊した事に驚愕するが、それでいちいち
ナルト達は岩が破壊された瞬間に内部に侵入する。チャクラを練っていない││ナ
を粉々に破壊した。
それを確認したアカネはチャクラを右手の一点に集中し、そして封印を無視して大岩
うなのだと理解しているのだ。チヨも第七班を見てそれに倣いその場から離れた。
アカネが叫ぶと第七班は全員がその場から離れていく。アカネがそう言うならばそ
!
﹂
!
ナルトの声に我愛羅は何の反応もしなかった。その体に生気はなく、息もしていない
﹁ナルト⋮⋮﹂
﹁くっ⋮⋮
﹁が、我愛羅⋮⋮﹂
NARUTO 第十七話
506
事をナルトは悟る。
サスケもかつて戦った化け物の如き我愛羅がこうして死んでしまった事にどこか悔
しさを感じていた。あの強かった我愛羅が、呆気なく死んでいるのを見て何かこみ上げ
てくるものがあったのだ。
サクラはナルトの悲しみを知り、そして死者を救う事が出来ない医療忍術の限界を嘆
いた。仕方ない事だとは分かっている、死者を治療する術はないと分かっているのだ
が、それでもやはり救えないというのは悔しいものなのだ。
そんな三人を尻目に、アカネは我愛羅の治療を試みる。
傍に駆け寄り、心臓をマッサージして少しでも血流を動かして、再生忍術にて尾獣が
抜かれた事による経絡系の損壊を修復しようとしているのだ。
再生忍術は生きている人間にしか効果はない。再生させる細胞が死んでは再生しよ
心臓を直接マッサージするんです
﹂
うがないのだ。だが細胞とは人間が死ねばすぐに死滅するわけではない。もしかした
手伝いなさい
!
らという可能性を信じて、アカネは再生忍術を施し続ける。
﹁サクラ
﹂
!
開し、直接心臓をマッサージする。
アカネの考えを理解したサクラはすぐにチャクラで作ったメスで我愛羅の胸部を切
﹁わ、分かったわ
!
!
507
そして人工呼吸にて息を吹き込み、我愛羅の蘇生を試みる。少しでも息を吹き返せば
アカネがどうにかしてくれる。そう信じてサクラは心臓マッサージと人工呼吸を繰り
返した。
﹁⋮⋮﹂
それを見て、チヨは決めていた覚悟を取り出した。
他里の忍である我愛羅の死を本気で嘆くナルトに、悔しそうに呻くサスケ。今も必死
で蘇生を試みるサクラと、そしてかつての大敵が風影を必死に助けようとする姿を見
て、今が覚悟を示す時だと思ったのだ。
それではあなたは
﹂
チヨは我愛羅へと近付いていき、その体にそっと手を添えてある術を発動させる。そ
止めなさいチヨ
!
天使のヴェールの存在が逆にアカネの正体を気付かせる事になったのだ。何せ、その様
日 向 ヒ ヨ リ は そ の チ ャ ク ラ を 他 者 に 悟 ら せ な い。古 い 忍 達 は そ う 知 っ て い る の だ。
思い至ったのだ。
の面識も当然あった。だからこそ、アカネのチャクラを感じずともヒヨリという正体に
チヨは古くから砂隠れの忍として存在している。故にアカネの前世であるヒヨリと
!
して、それを白眼で見たアカネはチヨを止めようとする。
!
﹁やはり見抜くか日向の姫よ。姿は変われどその瞳力は変わらんな﹂
﹁それは⋮⋮そのチャクラの流れは⋮⋮
NARUTO 第十七話
508
な術者などそう多くいるわけがないのだから。
当時はその強さに恐れ慄いていたものだとチヨは苦笑する。当時から今も生きてい
﹂
る忍で日向ヒヨリを恐れなかった者など一人としていまいと自信を持って言える程だ。
﹁チヨ
﹂
!
﹂
!
!
眼でチャクラの流れを見切り、ナルトが過剰な量のチャクラを流し込まないようにサ
ナルトがチヨの手に自分の手を重ねてチャクラを分け与える。そしてサスケは写輪
﹁⋮⋮仕方ないな﹂
﹁お、おう
んだ。サスケはそれを写輪眼でサポートしてくれ
﹁時代とか、そんな事が年寄りが死ぬ理由になるか ナルト、チヨにチャクラを分ける
歳を取っても生きていて欲しいと願うようになるからだ。
た。歳を取った時にはそう思っても、転生して若い肉体になり仲の良い老人を見ると、
だが、転生を続けるアカネは何度もその考えに至りつつも、何度もそれを否定してき
度となくそう思った事があるからだ。
チヨの覚悟はアカネにも理解出来ない訳ではない。事実、アカネも今までの人生で何
となるのだ﹂
﹁もう、ワシの時代ではないのだ日向の姫よ。老いぼれは去り、若い者が時代を動かす力
!
509
ポートをする。
きしょうてんせい
そしてサクラが心臓マッサージと人工呼吸を行い、アカネが再生忍術を施し、チヨが
きしょうてんせい
己の命を代償に初めて可能とする禁術、転生忍術である己生転生を使用する。
あらゆる蘇生術を施された我愛羅は程なくして息を吹き返した。そして己生転生の
きしょうてんせい
術者であるチヨも大きく疲弊してはいるが無事であった。
本来なら己生転生を用いて死者を蘇生した場合、術者は確実に死亡する。だが、ナル
トからチャクラを分けてもらい、サクラとアカネが我愛羅を蘇生していた事で、完全な
死者ではなく半死人となっていた我愛羅を蘇生させるのに全ての命を懸ける必要がな
くなったのだ。
まさか生き延びるとは思っていなかったチヨはナルトが我愛羅に笑い掛けている姿
を見ながら呆然としていた。そしてそんなチヨにチャクラを分けながらアカネは話し
掛ける。
﹁ワシではないわ、お前の事よ日向の姫よ。どうして若い肉体になって生きておるんだ
﹁いい事じゃないですか﹂
﹁⋮⋮そうじゃな。全く、意外としぶとい物じゃな﹂
﹁どうですか。生きていればいい物が見られるでしょう﹂
NARUTO 第十七話
510
⋮⋮﹂
﹂
?
﹁⋮⋮ あ あ、こ う い う 物 が ま だ 見 ら れ る な ら、も う 少 し ば か り 生 き て い た い も の だ な
していた。
つけてその無事に喜びを顕わにしている。そこに嘘はないと長年の経験でチヨは理解
かつては我愛羅を蔑み恐れ離れて迫害していた里の忍達が、今では我愛羅の為に駆け
あったのだ。
そこには、砂隠れの里から風影である我愛羅を助ける為に多くの忍が駆けつける姿が
かとチヨは思い、そして少しの時間を置いて驚愕する。
それは我愛羅の生を喜ぶナルトと、そのナルトを見て喜ぶ我愛羅の姿ではなかったの
﹁ん
﹁ほら、いい物が見れますよ﹂
他里同士でもいがみ合うだけでなく、分かりあう事も出来るのだと⋮⋮。
が。ナルト達を見てチヨは木ノ葉への見方を、忍の世界の見方を変えたのだ。
まあ、アカネに関係なくすでにチヨの中に木ノ葉へ戦争を仕掛ける気などないのだ
も成功するはずもないとチヨは理解した。
アカネの言葉が本当かは分からないが、この姫が生きている木ノ葉に戦争を仕掛けて
﹁ははは⋮⋮私特有の転生忍術でして⋮⋮﹂
511
⋮⋮﹂
﹁そうでしょう。こういうのは、何度見ても、いつになっても、素晴らしい物です⋮⋮﹂
﹂
この場の誰よりも人生経験を積んでいる二人は、多くの忍に囲まれる我愛羅を見てそ
う思った。
﹁⋮⋮私の事、秘密にして下さいね
﹂
﹁さてのー。ワシ、年寄りじゃからそんな約束覚えられんかものー﹂
?
ギャハ、ギャハ、ギャハ
!
!
﹁えぇ⋮⋮﹂
ボケたフリ∼
!
◆
たのだが、とりあえずアカネは何も考えないようにした。
なお、ここに来た意味があったのかを考えている木ノ葉の上忍が視界の隅に映ってい
アカネはそう思い、そしてやはり長生きするのは悪い事ではないと苦笑した。
個性的な笑いをする様になったな⋮⋮。自分をからかって楽しんでいるチヨを見て
﹁なーんてな
NARUTO 第十七話
512
どこか薄暗い洞窟の中。まともな人間なら集まりそうもないそんな場所に、十人の男
女が集まっていた。
たって一人だろ
﹂
﹁全くよぉ。ここまで警戒する必要があるのかそのヒヨリってのはさぁ。いくら強いっ
ない者もいたが。
それだけ暁はアカネという存在を警戒しているという事である。⋮⋮中にはそうで
だ。
み力を蓄え人柱力の情報を集め、そして全ての準備を整えてから一気に事を起こしたの
全ては日向アカネに悟られない様にするために。それだけの為に暁は三年間地に潜
人柱力は大蛇丸の薬で意識を奪って捕らえ続けていたのだ。
だが尾獣は尾の数が少ない一尾から順に封印する必要があるので、先に捕らえていた
柱力だったので後回しにされていただけなのである。
柱力ではなく尾獣のままに捕らえていたが。一尾は木ノ葉の同盟国である砂隠れの人
そう、ペインが言うように、暁は既に九尾以外の人柱力を捕らえていた。三尾のみ人
﹁その内の七体は既に捕獲済み。後は尾獣を抜き出して封印するのみだ﹂
暁のリーダーであるペインが現在の状況を各々に説明する。
﹁これで一尾は終わりだ。残る尾獣は八体﹂
513
?
﹁日向ヒヨリを舐めるなよ飛段。⋮⋮死ぬぞ
﹂
?
う。最早人外の術と言えよう。だが、そんな人外の集いが暁なのだ。
﹁例え死ななくても対処の仕方はあるわ。封印でもされたら終わりよ
うっせーな、分かってんよ﹂
﹂
心臓を貫かれても、首を切り落とされても、体をバラバラにされても生きているだろ
ている。それは文字通り不死身なのだ。
飛段はジャシン教と呼ばれる宗教によりある秘術を施され、不死身の肉体を手に入れ
﹁それをオレに言うかよ角都。ほんと殺せるものなら殺して欲しーぜ﹂
?
としては耐えがたい屈辱だろう。
〝汝、隣人を殺害せよ〟という狂った教義と殺戮をモットーとしているジャシン教信者
何せ死にもせず永遠の時間を動きを封じられて過ごさなくてはならなくなるからだ。
けは勘弁な飛段だった。
大蛇丸に図星を刺された飛段は捻くれた様に舌打ちする。だが実際封印されるのだ
﹁ちっ
!
﹂
?
流石に粉々になれば終わりかもしれない。そう思った飛段は角都の言葉を信じる事
﹁⋮⋮﹂
死なないからと舐めて掛かれば⋮⋮身体を修復不可能な程に粉々にされるぞ
﹁何度も言うが、あれは人ではなく一種の化け物だ。人柱力など歯牙にも掛けぬ程のな。
NARUTO 第十七話
514
にした。
同じ不死コンビと呼ばれ、自分よりも強い角都がそこまで言うほどだから相当なのだ
ろう。まあ、角都がそこまで言うからこそ、飛段もこの三年間地道に修行をしてきたの
だが。
何せ時間なら無駄にあったし、殺戮を楽しみながらも修行に費やしていたのだ。それ
は他の暁も同様である。多くの者が日向アカネに、そして木ノ葉に備えて地力を伸ばし
ていた。
﹁そういった鬱憤は全部木ノ葉にぶつけてやればいいさ。次こそはオイラの芸術であの
ても相当な日数が掛かるだろう。そう思うと憂鬱になるものだ。
間短縮は出来ているが、二尾から八尾までの七体の尾獣を抜き取るとなると多少短縮し
人柱力から尾獣を抜き取る作業はかなりの時間を要するのだ。修行により多少の時
我愛羅を連れ攫った片割れであるサソリはうんざりとした様子で呟く。
﹁そうは言ってもしばらくは封印で時間が取られるがな﹂
人柱力を連れ攫ったので流石に鬱憤が溜まっているようだ。
鬼鮫はこれからの事を思い獰猛な笑みを浮かべる。三年間地に潜み、こそ泥のように
奇襲にて終わらせたのが殆どですからねぇ。どうにも楽しめませんでしたよ﹂
﹁しかし、ようやく暴れられますね。人柱力相手は時間を優先したのでまともに戦わず
515
女を吹き飛ばしてやるぜ、うん﹂
デイダラは未だに己の芸術と称する起爆粘土をアカネに防がれた事を根に持ってい
た。自信のあったC3という大技だけに尚更だ。
それを晴らす機会がようやく来たと思えば封印術に掛かる多少の日数など何ともな
い程だ。
無言の者も多いが、やる気が見られる暁の一同を見てペインは言葉を放つ。
暁が、その牙を木ノ葉に向けようとしていた。
を⋮⋮潰す﹂
﹁ではこれから残る二尾から八尾までの封印を開始する。それが終われば全員で木ノ葉
NARUTO 第十七話
516
NARUTO 第十八話
暁が捕らえた尾獣の内、六体を封印し終わるのに要した時間は約二週間。尾獣一体に
辺り二日はかかるので、流石に合間に休憩を挟みながらであった。
そして最後の八尾の人柱力であるキラービーから尾獣を抜き取り封印をする。だが、
そこで思わぬトラブルが生じた。
キ ラ ー ビ ー を 捕 ら え て い た 大 蛇 丸 が 口 寄 せ に て キ ラ ー ビ ー を 封 印 の 間 に 呼 び 出 す。
それを見た仮面の男はピクリと反応し、滅多に開かない口を開いた。
﹄
!?
﹁これは⋮⋮﹂
した。
事が出来ない。だが、苦無が命中した瞬間、キラービーの肉体は巨大な蛸の足へと変化
薬で意識を奪われた上に鎖で雁字搦めにされたキラービーは当然その苦無を避ける
面の男はキラービーに苦無を投げつける。
仮面の男の言葉に驚愕する暁。そして仮面の男にその言葉の意味を追求する前に、仮
﹃
﹁⋮⋮分身か﹂
517
﹁情けねーな大蛇丸
いっぱい食わされてるじゃねーか
﹂
!
﹁どうするんだ
また八尾を捕らえに行くのか
﹂
のようなものがあったのだ。後は様々な情報を集めた結果からの判断でもある。
このまま暁の思い通りに事が進めば自分の野望を達成出来そうにない。そういう勘
の思い通りに動かないように手を抜いていたのだ。
だがこれは大蛇丸がわざとキラービーを逃がした結果であった。大蛇丸は全てが暁
﹁⋮⋮申し訳ないわね。私の失態よ﹂
のだろう。
に騙されたという事になる。恐らく戦闘中に上手く尾獣の一部を囮にして逃げ出した
飛段が言うように、キラービーを担当したのは大蛇丸だ。つまり大蛇丸がキラービー
!
?
﹁だが確実に逃げてるな、うん。また居場所を探す手間がいるぜ、うん﹂
?
それを見た大蛇丸はやはりペインの裏にいるのが仮面の男だと確信する。あれが裏
仮面の男の言葉を聞いたペインはその通りに取り掛かるように全員に命令を下す。
﹁⋮⋮そう言う事だ。全員封印の準備にかかれ﹂
﹁問題ない。蛸足一本でもいいから外道魔像に封印しておけ﹂
口々に自分の考えを語る暁に、仮面の男は特に焦る事もなく儀式を続ける。
﹁その手間は大体ゼツが払うんですがねぇ﹂
NARUTO 第十八話
518
でペインを操っているか、それとも共謀しているだけなのかまでは分からないが。
暁が八尾の蛸足を封印し終える。これで不完全ではあるが捕らえた尾獣は全て封印
された事になる。
﹂
ジ ャ シ ン 様 ァ ァ 見 て て 下 さ い
!
行く﹂
よぉ
﹁よ っ し ゃ ー や っ と 思 い 切 り 人 を 殺 せ る ぜ
!
う。
この三年間で溜まった鬱憤を全てぶつける事が出来る機会が来て、真実嬉しいのだろ
暁のメンバーそれぞれが自分の欲望のままに動ける事に喜びを顕わにする。
﹁さて⋮⋮私も準備に取りかかろうかしらねぇ﹂
いくのだ﹂
﹁違うな。芸術とは永遠に残る美の結晶だ。オレはこの傀儡の体でそれを永久に伝えて
﹁芸術は爆発だ。それを木ノ葉の連中に教えてやるぜ、うん﹂
手に入ればそれでいい﹂
﹁お前はこの三年間で大分殺しただろうに。まだ殺したりないのか。まあ、オレは金が
!
!
﹁では、各々休息して最後の準備に取りかかれ。それが終われば⋮⋮木ノ葉を落としに
519
﹁作戦は以前に言った通りだ。では、一度解散する﹂
あ れ で は お 前 一 人 で 日 向 ヒ ヨ リ を 抑 え る 事 に な る
そうしてその場から暁は一人、一人と消えていく。最後に残ったのはペインと仮面の
男のみだ。
﹁⋮⋮ あ の 作 戦 で 良 か っ た の か
が﹂
﹂
?
仮面の男、うちはマダラはその言葉に頷き宣言する。
ではないか﹂
﹁⋮⋮そうだったな。日向ヒヨリと同じ初代三忍の一人⋮⋮うちはマダラならば不可能
﹁ふ⋮⋮問題ない。オレを誰だと思っている
それに対して仮面の男は不適に笑い、その問いに答えた。
出来るのかと疑問に思い問いかける。
暁には作戦通りと口にしたが、ペインは仮面の男一人であの日向ヒヨリを抑える事が
?
◆
マダラは仮面の下にある瞳を怪しく輝かせ、その顔を喜色に歪めた。
﹁教えてやろう。オレは⋮⋮うちはマダラは日向ヒヨリに劣らぬという事をな﹂
NARUTO 第十八話
520
時は僅かに遡る。暁が尾獣封印に時間を掛けている時、木ノ葉の二代目三忍である自
来也はある任務をこなしていた。
それは大蛇丸のアジトの探索である。自来也は自分が持つ情報網から暁がしばらく
の間は動けないという事を知っていた。それはつまり大蛇丸も動く事が出来ないとい
うわけだ。
今が好機と断じて自来也は兼ねてからの任務をここで終わらせようとしていた。そ
の任務とは⋮⋮。
れを可能としていた。
ての自来也は一人で仙人モードになる事は出来なかったのだが、色々と修行した結果そ
ドと呼ばれる状態になっており、大きく広がった感知能力で周囲を探る。ちなみにかつ
焦る気持ちを抑えてアジトを丁寧に探索する自来也。探索の為に自来也は仙人モー
ら先は目的のモノを見つけるまで、自力でアジトを探さなければならなくなるだろう。
というのも協力者から得た情報で見つけられたアジトはこれが最後だからだ。ここか
そして新たに見つけた大蛇丸のアジトに、どうか目当てのモノがあるようにと祈る。
実験体がいたのでそれらを開放はしたが。
既に幾つかのアジトは見たが、そのどれにも目当てのモノはなかった。まあ、多くの
﹁ここが当たりであって欲しいのぅ⋮⋮﹂
521
そうして仙人モードでアジトを探る事十数分。とうとう自来也は見つけた。そのア
ジトの奥にある牢屋の中に捕らえられた一人の女性、孤児院のマザーであるノノウを。
﹂
してノノウの体内チャクラを正常に戻す事で幻術を解く。
だが今は過去の後悔を思っている場合ではない。自来也はノノウを縛る鎖を壊し、そ
大蛇丸の近くにいながらそれを止める事が出来なかった自身への怒りだ。
かつては里の同志であったと言うのに、ここまで歪んでしまったのかという怒りと、
の怒りを膨らませる。
大蛇丸がノノウに仕出かした処置を思うと自来也は大蛇丸への怒りと、そして自身へ
﹁幻術か。薬も打たれているな。大蛇丸めむごい事を⋮⋮﹂
けていた。
は開いてはいるが完全に焦点があっておらず、目の前に自来也が現れても虚空を眺め続
自来也が見る限りノノウは衰弱はしているが外傷などはない様である。だがその瞳
うやら変化などの偽者ではなさそうだ。
写真で見た通りの見た目の女性を見つける。仙人モードで目を凝らして見た限り、ど
﹁この女性か
!
だが薬を打たれているノノウは幻術から目を覚ましてもすぐに意識を取り戻す事は
﹁う⋮⋮﹂
NARUTO 第十八話
522
なかった。
﹂
自来也はそれを気にせずに、更にノノウに施された呪印を解く。
﹁ぬん
丸への復讐を誓っていた。だからこそカブトは大蛇丸と敵対している自来也に暁の情
いや、カブトは大蛇丸に脅されて協力を強要されているだけであり、その内心は大蛇
ている忍、薬師カブトであった。
火の国のある場所にて自来也は一人の青年と落ちあう。その青年とは大蛇丸に仕え
その場から離れて行った。
念には念を入れて口寄せ解除の術式をノノウに刻み、そして自来也はノノウを担いで
は大蛇丸から開放されたと見ていいだろう。
どうやら後は薬を抜くだけのようだ。それ自体は特に難しい事ではないのでノノウ
する。
少々面倒な呪印を解除し、これで完全にノノウが自由の身になった事を自来也は確認
印の解除は簡単⋮⋮とまでは行かなかったが、不可能ではなかった。
既にここに至るまでに大蛇丸の研究資料を見てきた自来也にとってノノウを縛る呪
!
523
報を渡していた。
そしてその見返りがノノウの救出であった。この三年間は暁が動かなかったのでカ
ブトも中々手の出しようがなかったが、暁が尾獣封印の為にしばらくは自由に動けない
事を知ってこうして自来也に頼みこんだのである。
﹂
﹁待たせたのカブト。ほれ、お前が助けたがっていたノノウだ。受け取れ﹂
﹁マザー
ボクです、分かりますか
!
!
のぼやけた視界の中に、カブトの姿が映った。
﹂
良かった
﹁⋮⋮だれ、なの
﹂
そしてノノウの目蓋が薄く開らかれていく。まだ覚醒しきっていないせいかノノウ
していく。
その言葉を証明するかのようにノノウはカブトの声を聞いて少しずつ意識を取り戻
るはずだ﹂
﹁安心しろ。薬の影響で意識を失っとるだけだの。解毒は施してあるから程なく目覚め
ける。
自来也からノノウを受け取ったカブトは、意識を失っているノノウを心配して声を掛
!
!
ノノウのその言葉にカブトは頭をガツンと殴られたかの様な錯覚を覚える。だが、す
?
﹁マザー
NARUTO 第十八話
524
ぐにある事を思いだした。
ノノウは普段から眼鏡をかけている事を。そして今はその眼鏡をかけていない事を。
かつてプレゼントした眼鏡が無くなっている事を悲しく思うが、今はそれを無視して
カブトはすぐに自分の眼鏡をノノウにかける。
かつて視力が悪くて時計の針が見えなかった時にノノウから貰った大切な、とても大
切な思い出の眼鏡だ。あれから十年以上が経つのにこうして大事に使っているのがそ
の証拠だろう。
そして眼鏡をかけた事でぼやけた視界が綺麗になったノノウは、改めてカブトを見
た。
﹁っ
マザー
マザー
!
﹂
!
るだけ習慣付けていた。だが今はそれを言うべき時ではないのだが、どうやらノノウの
孤児院では夜の九時を消灯時間としている。カブトは孤児院を出た後もそれを出来
辺りはすでに暗くなっている。時間としては夜の九時を過ぎたところだ。
﹁もう⋮⋮駄目じゃないカブト⋮⋮もう寝る時間でしょ⋮⋮﹂
それを嬉しく思わないカブトではない。
意識を取り戻し、視力も取り戻したノノウはカブトをカブトと認識する事が出来た。
!
﹁ああ⋮⋮カブト⋮⋮良かった、無事だったのね﹂
525
あとで叱ってくれてもいいから⋮⋮今はマザーがゆっ
意識は完全には戻っていないようだ。
﹁うん、ごめんよマザー⋮⋮
くり休んでよ⋮⋮﹂
た﹂
﹁あ り が と う ご ざ い ま し た 自 来 也 様。あ な た の お か げ で マ ザ ー は 無 事 に 戻 っ て 来 ま し
へと顔を向ける。
眠りについたノノウを優しく抱きしめて、自身の頬を伝う涙を拭ってカブトは自来也
らず、解毒はしたが薬の影響も残っているのだ。
そうしてノノウは再び意識を失う。いや、眠りについたようだ。まだ体力が戻ってお
﹁そう、ね。ごめんなさいカブト⋮⋮少し、寝るから⋮⋮﹂
!
﹂
!
カブトのその暗く冷たい思いを知っている自来也はそれを止めようとする。
﹁まあ待て。大蛇丸はワシに任せておけ。それがお前の為だの﹂
﹁分かっています。大蛇丸は絶対に⋮⋮
われると思うと怒りと憎しみが煮えくり返る思いになるのだ。
自来也の言葉に顔を顰めるカブト。分かってはいたが、マザーが戻ってきた喜びを奪
の﹂
﹁うむ。だが大蛇丸がいる限り再びお前もマザーも、そして孤児院も狙われるだろう、
NARUTO 第十八話
526
復讐に走った者の末路は多くが悲惨な物になる。長くを生きてきた自来也はそれを
知っていた。
それに大蛇丸の仕出かした事はワシの、木ノ葉の不祥事でもある。お前は孤児院で
﹁幸いお前は失ったわけではない。お前が復讐に走って、それで残された者はどう思う
527
﹁ですが、本当に暁のリーダー⋮⋮ペインの所に乗り込む気ですか
﹂
暁という得体の知れない組織のリーダー。ペインの居場所である。これが分かれば
そう、それがカブトが自来也に渡す最後にして最大の情報。
報だったな﹂
﹁暁のリーダーであるペインの居場所。それがマザーを助けた時にお前が渡す最後の情
?
してはその点が不安であった。
うにかしてくれるとは言うが、この後に自来也が何をするつもりか知っているカブトと
だが、大蛇丸をどうにかしない限り孤児院に平穏は戻らない事も確かだ。自来也がど
末転倒だ。また離れ離れになるだけである。
自来也の言う通りだ。こうして無事に戻ってきたマザーを置いて復讐に走るなど本
自来也の気持ちを理解したカブトは未だ燻る復讐心を抑える。
﹁⋮⋮分かりました﹂
マザーや兄弟達を守ってやれ﹂
?
ペインの情報を更に探り、多くの忍による奇襲作戦も可能となるだろう。
﹁安 心 し ろ。ワ シ と て 一 人 で ペ イ ン に 挑 も う 等 と は 思 わ ん。敵 の ア ジ ト に な る の だ か
ら、のぅ。それに、お前の所の孤児院にも助っ人を付けておくよう頼んでおくからそっ
ちの問題もないわい﹂
争に巻き込まれその土地を戦場とする事が多かった。
雨隠れの里は土・風・火の三大国に囲まれた小国だ。だから雨隠れはその三大国の戦
心のペインの居場所がまずかった。
自来也から話を聞いた綱手は奇襲作戦にてペインを叩く好機だと判断する。だが、肝
かと思うが、幸か不幸かそれを注意する者は近くにはいなかった。
もっとも、それは酒を酌み交わしながらであったが。火影として、三忍としてどうなの
ペインの情報を入手した自来也は里へと戻りその情報を火影である綱手へと伝える。
◆
⋮⋮雨隠れの里だと。
自 来 也 の 言 葉 を 信 じ た カ ブ ト は 自 分 の 知 る 情 報 を 伝 え て い く。ペ イ ン の 居 場 所 は
﹁⋮⋮分かりました﹂
NARUTO 第十八話
528
529
それにより雨隠れは閉鎖的な国になり、雨隠れを出入りする者には入国審査と滞在期
間中の監視を徹底するようになったのだ。そんな国で奇襲作戦を行おうにも複数の忍
が侵入しては気付かれる可能性も高まってしまうだろう。
だからこそ、自来也は一人で雨隠れに侵入する事にした。
さま
綱手は危険だと一度は反対するが、自来也の説得に押し切られてしまう⋮⋮わけがな
かった。
・・
いや、その場ではいつも損な役目をさせている事を申し訳なく思う様を見せていた
が、内心ではある事を考えていたのだ。
そうして自来也は綱手の心中など知らずに一人で雨隠れへの侵入任務に出る。
綱手はそれを見送り、そして何事もなく帰ってくれば自来也の秘めた思いを受け入れ
てやると誓い⋮⋮何かしらあって帰ってくればその時はまだまだだと笑ってやるつも
りでいた。
雨隠れへと侵入した自来也は雨隠れの忍を二人ほど捕らえ、彼らから情報を入手す
る。
と言っても捕らえた忍は下っ端であり、あまり良い情報を得る事は出来なかった。い
や、ペインに関する情報は例え里の上層部でも知らされていない事なので、彼らが知ら
NARUTO 第十八話
530
ないのも当然の事なのだが。
だがその中で自来也は信じられない情報を聞いた。それは、ペインが雨隠れの長で
あった〝山椒魚の半蔵〟を殺したというものだった。
半蔵はかつて自来也を含む二代目三忍が戦い、そして敗れた程の実力者だ。忍の世界
では知らぬ者がいないとまで言われている忍であり、その強さは世界に知れ渡ってい
た。
そんな半蔵と戦い生き延びたからこそ、半蔵は彼らを二代目三忍と呼ぶようにし、そ
れが木ノ葉にも他里にも定着したのだ。つまり、それだけの発言力を持つ人物だったの
だ。
だが、その半蔵がペインに殺された。あの強かった半蔵を倒したというペインに、自
来也は底知れぬ何かを感じ取る。
それ以上のペインの情報を得る事は出来なかった。どんな術を使うのか、どんな見た
目をしているのか。それらが分からない以上、交戦してでも情報を得るしかない。そう
思った自来也は覚悟を決める。
覚 悟 を 決 め た 自 来 也 は 己 の 中 に 封 印 し て あ っ た 八 卦 封 印 に 結 合 す る 鍵 を 開 放 す る。
それはナルトの中にいる九尾を封印している術である八卦封印が弱まった時に、再び封
印を閉め直す鍵であった。
自分が死ねばこの大事な鍵も失われてしまう。それを恐れた自来也が一度開放した
のだ。ちなみに、鍵は特殊な蛙によって守られている巻物に記されており、その蛙は意
識も知恵も持っていた。なので自来也の次の言葉に反発をしていた。
それはどうぞ金庫を開けて下さいと言っているようなものだろう。
?
事なきを得られたならばそれに越した事はないからだ。
なかった。こうして侵入して別の場所から情報を得たり、ペイン本人を見つけて奇襲で
ペインと戦う覚悟は決めていたが、だからと言って堂々と強引に事を進めるつもりは
八卦封印の鍵をナルトに託した自来也は心置きなく侵入任務を再開する。
だ。
は信じていただろうと確信しているし、自来也もミナトと同じくナルトを信じているの
ナルトならばいずれ九尾の力をコントロールする事が出来る様になる。そうミナト
れをいずれナルトに託して欲しいというミナトの願いだと受け取ったのだ。
だが自来也は違った。この鍵はミナトから預かったものだった。そして自来也はそ
者がいる
それを蛙は反対する。当然だろう。何処の世界に金庫を開ける鍵を金庫の傍に置く
は金庫と鍵を一緒に保管する事と同じ意味になるだろう。
ナルトに蔵入りしろとはすなわちナルトの中に封印されておけ、という意味だ。それ
﹁ワシに何かあった時はナルトに蔵入りしろ﹂
531
NARUTO 第十八話
532
だが、自来也が雨隠れの里に侵入した瞬間から、すでにペインは侵入者の存在に気付
いていたのだった。
そして、自来也は懐かしい顔と再会する事となった。
それは暁の一員にして、かつての自来也の弟子、小南であった。
小南と再会した事で自来也は薄々と勘付いていたペインの正体をほぼ確信した。自
来也が小南と同時に取った弟子は残り二人。その内のどちらか⋮⋮いや、奴だけだと。
ペイン。痛みを関するその名を掲げる男の正体。それは、自来也の弟子であり、幼い
頃に三大瞳術の一つにして、最も崇高とされる輪廻眼に目覚めた少年⋮⋮長門であっ
た。
長門と再会した自来也は見た目も、そして思考も大きく変わったかつての弟子を嘆
く。
だが嘆いてばかりではいられない。かつての弟子と言えど、木ノ葉はおろか忍界全て
を巻き込む騒動を起こそうとしているのなら倒さなくてはならないからだ。
長門の目的を聞いた自来也は到底それに共感出来なかった。長門は尾獣を集め、その
力を元にして強大な破壊を齎す禁術兵器を開発しようとしていたのだ。
それを各国にばら撒き、国々が戦争でその力を使用する。そして互いに大きな代償を
533
払って痛みを知り、初めて平和が築かれる。世界に痛みを教える事で世界の成長を促
す。それが長門の目的であった。
自来也には欠片も理解出来ない思想だ。何千何万、いやそれ以上の人間を犠牲にして
得られる平和に何の価値があるというのか。
かつての優しかった愛弟子は歪み変わってしまった。ならば、その後始末をつけるの
は師の役目だろう。
そうして自来也と長門。二人の強者の闘いは始まった。
自来也は長門との戦いの中で妙木山の二大蝦蟇仙人を口寄せし、仙法両生の術にて融
合する。これが自来也の仙人モードの最終形態である。
自来也はかつては一人で仙人モードになる事は出来なかったが、ここ数年の修行でそ
れを可能とした。だがそれでも二大蝦蟇仙人と融合した方が強いのでこうして口寄せ
にて呼び出したのだ。
理由としてはやはり仙人モードの持続時間が上げられる。周囲の自然エネルギーを
集め、それを自身のチャクラと混ぜ合わせる事で仙人モードに至れる事が出来る。だが
それではいずれ集めた自然エネルギーがなくなり、元に戻ってしまうのだ。
それを防ぐ方法として蝦蟇仙人との融合があるのだ。自来也の肩に融合した蝦蟇仙
NARUTO 第十八話
534
人││フカサクとシマの蝦蟇夫婦││が自然エネルギーを集め続ける事で、自来也の仙
人モードを持続するというわけだ。
これには自然エネルギーを集めるのにしばらく動かずにじっとしなければならない
という欠点を補うという利点もある。
更にはフカサクとシマはそれぞれが幻術や仙術にて自来也の戦闘をサポートしてく
れるのだ。これで通常の仙人モードより弱いわけがなかった。
だが、その仙人モードに至った自来也でも輪廻眼の持ち主である長門は強敵と言わざ
るを得なかった。
いや、相手が一人ならば既に決着は付いていただろう。だが長門は二人の人間を己の
味方として口寄せしたのだ。しかもその二人の両目にも輪廻眼が存在していた。
これには驚愕するしかない自来也である。伝説とまで称されている輪廻眼の持ち主
が同時に三人も現れるなどどうして予想出来ようか。
疑問に思う自来也だが、それで敵が待ってくれるわけもない。三人に増えた事により
長門との戦いは更に加速していく。
その中で自来也は敵の能力の幾つかに気付いた。まず、輪廻眼はそれぞれが同じ視界
を共有しているという事だ。これに気付いたのは正確にはフカサクであったが。
視界を共有する事で誰かが敵を視認していれば、他の二人は敵を見ずともその位置や
535
何をしているのかが分かるという事だ。
更に自来也が気付いたのは、敵の能力が一固体に付き一系統しかないのでは、という
事だった。
最初に戦った長門は口寄せの術のみを使用し、もう一人は術を吸収するという異能の
みを使用する。残る一人は分からなかったが、その二人はそれ以外の術を使用する事は
なかった。
まだ確定ではないが、これを前提として自来也は賭けに出る。
戦闘で出来た大穴の中に入り自来也は敵と距離を取る。そして二大蝦蟇仙人による
音を使った幻術にて敵を幻術の中に落としこもうとする。
当然それを黙って待つペイン達ではない。自来也を捜索し、そして手遅れになる前に
始末しようとする。
自来也を発見したペイン達はそのまま自来也に駆け寄っていく。だが、その自来也は
影分身であった。
壁に隠れていた本体はペインの後ろを取り、そこから火遁の術を放つ。そうする事で
術を吸収する敵がその火遁を吸収するのを自来也は確認した。
自来也の推測は合っていた様だ。そして影分身の自来也はすぐに真正面からも火遁
の術を放った。
後ろからも吸収されているとは言え火遁が放たれ続け、前からも火遁が迫る。術を吸
収する者は後ろで火遁を吸収しているので前から迫る火遁は避ける他ない。
そして逃げ道は上空のみだった。そう判断したペイン達は天井高くへと飛び上がる。
だが、それすらも自来也の罠であった。
天井を足場とした敵の一人はその天井に足を取られたのだ。予め自来也が仕掛けて
いた地面を底無し沼へと変化させる土遁黄泉沼の術である。それを天井に使用してい
たのだ。
残る一人は足を取られた味方に手を付く事で黄泉沼からは逃れる事が出来たが、これ
で完全に分断される事となった。
そうして各個が分断された事でコンビネーションを失ったペイン達はそれぞれが動
きを封じられ、やがて二大蝦蟇仙人が放つ幻術に捕われる事となる。
幻術に掛かり無力化されたペイン達はあえなく自来也によって止めを刺された。
巨大な剣を胴体に突き立てられたのだ、生きてはいられないだろう。それは自来也も
確認をした。
全てが終わった。そう思った自来也の後ろには⋮⋮別の敵が存在していた。
そしてその奇襲は自来也を傷つけ吹き飛ばす⋮⋮ことはなく、自来也の左腕によって
﹁油断するなとアンタから教わったはずだが⋮⋮自来也先生﹂
NARUTO 第十八話
536
そんな物はワシにはないのぉ﹂
防がれる事となる。
﹂
﹁油断
﹁
﹂
﹂
!?
﹂
!
気を引き締めて下されよ ここからが本番
!
!
﹁⋮⋮﹂
﹁まさか⋮⋮その顔⋮⋮弥彦なのか﹂
見た時に自来也は驚愕する事になる。
自来也の言葉を示す通り、自来也の前には更に新たな敵が現れた。そして、その敵を
のようです
﹁とは、行かんようですな⋮⋮御二方
﹁そうか、ワシらの幻術に掛かり切る前に⋮⋮。だが、これで終わり││﹂
﹁どうやら前もって口寄せしておいたんでしょうのォ﹂
倒しはしたものの、いきなり現れた新たな敵にフカサクは驚きの声を上げる。
﹁こ、こいつは
いくその敵は完全に意識を、いやその命すら失っていた。
その敵が動揺した瞬間を狙って自来也は大玉螺旋丸を叩きつける。吹き飛ばされて
﹁ぬん
完璧なタイミングの奇襲を防がれた事に、新たな敵は逆に動揺する。
!?
?
!
537
自来也は新たな敵の顔に弥彦の面影を見たのだ。弥彦とは長門と小南と共に弟子に
した最後の一人である。そして、彼ら三人の中でリーダー格となっていた者だった。
自来也と長門が戦う前に、長門は弥彦は死んだと言っていた。だが、こうして目の前
にいる敵はまさしく成長した弥彦にしか見えなかった。
﹂
驚愕する自来也を無視して、弥彦の面影を持つ敵は自身が持つ能力を発動する。
﹄
﹁ぐおぅっ
﹃
!?
来ない光景が広がっていた。
そして⋮⋮吹き飛ばされて壁を付き破り外へと飛び出した自来也の目に、更に理解出
細がつかめない新たな能力。
目に見えない強い力に自来也は吹き飛ばされていく。新たに現れた弥彦似の敵に、詳
!!?
線を画す力を持っている。まさに暁のリーダーに相応しい力の持ち主だろう。
六人で一個の生命のように動く忍。そしてその能力はそれぞれが通常の能力とは一
そう、暁のリーダーペイン。その名はこの六人全員を指し示す呼び名であったのだ。
全員が輪廻眼を宿している。
そこには先程倒したはずの四人の敵を含む、六人の敵が揃っていた。そしてその六人
﹁ペイン六道⋮⋮ここに見参﹂
NARUTO 第十八話
538
﹁何故だ⋮⋮弥彦は死んだはずじゃ⋮⋮﹂
戦いの前に確かに長門はそう言った。だが目の前にいるペインの中の一人は確かに
弥彦だ。
しかし解せないのはその弥彦が輪廻眼を持っている事だ。輪廻眼を持っていたのは
長門一人のはず。弥彦は普通の眼であった。
六人全員が輪廻眼を持っている事といい、輪廻眼を持っていなかった弥彦が輪廻眼を
持っている事といい、死んだはずの弥彦がこうして生きている事といい、倒したはずの
ペインが生き返っている事といい、もう分からない事だらけである。
だがその中で分かった事が一つだけあった。それは、長門と思っていた最初に出会っ
たペインが、長門ではないという事だ。
風貌が変わっていたが全くの別人というほどの変化ではなく、輪廻眼を持っていたと
いう事もあって最初のペインを長門と思いこんでいた。
だが弥彦の肉体を見てそれは違うと確信したのだ。弥彦には長門の面影を感じると
お前らは一体何なんだ
﹂
いうのに、この六人のペインの中に長門の面影を感じる者は一人としていない。またも
分からない事が増えてしまった。
﹁弥彦なのか⋮⋮長門なのか⋮⋮
!?
ここまで分からない事だらけの状況は自来也とて初めてだ。苛立ちと困惑を見せる
?
539
自来也に対して弥彦は、ペインは言う。
出来ないようにしたのだ。
それは先の戦闘にて理解していたので自来也は髪の毛で縛りつけて増幅しても分裂
増えるという特殊な口寄せだ。しかも分裂と融合までする事が出来る。
この巨大犬は増幅口寄せと呼ばれる特殊な術に縛られており、攻撃を受ける度に体が
る。
し対象を締め付ける乱獅子髪の術にて縛り、そしてそれを振り回して巨大な武器とす
口寄せを使うペイン││畜生道││が口寄せした巨大な犬を髪の毛を伸ばして操作
だが自来也はそんなペインを相手に善戦していた。
のペインを相手に戦って無事でいられる忍が果たしているのだろうか。
更に輪廻眼による視界の共有によりそのコンビネーションは更に高まっている。こ
命のように連携を取って掛かってくるペイン。
ただでさえ一体一体が強く厄介な能力を個別に持っている上に、六人全員が一個の生
自来也とペインの戦いは熾烈を極めた。
そう言って、ペイン六道は全員で自来也を始末するべく動き出した。
﹁我々はペイン⋮⋮神だ﹂
NARUTO 第十八話
540
541
巨大な質量の武器と化した口寄せ動物はペインに当たる前に口寄せを解除される。
そして全身に兵器を仕込んだ傀儡人形のペイン││修羅道││が肉体のあらゆる箇
所からミサイルを放つ。
自来也はそれをシマの火遁とフカサクの風遁、そして自身の蝦蟇油弾を組み合わせて
放たれる強大な火遁、仙法・五右衛門にて迎撃。
そのままあわよくば修羅道をとも思っていたが、それは術を吸収するペイン││餓鬼
道││によって防がれてしまう。
対象の頭に手を当てる事で対象の記憶や情報を読み取る能力を持つペイン││人間
道││が黒い棒状の武器を持って自来也を攻撃する。
それを避けて反撃をするが、その反撃は弥彦の肉体を持つペイン││天道││によっ
て防がれた。
だがそれは自来也には予想された行動だった。どのペインも人間道を庇うには遠く、
唯一近くにいた天道のペインのみが助ける事が可能だと読んでいたのだ。
弥彦の肉体だが、もはや問答は無用。ここで倒さなくてはペインは更なる災厄を生み
出すだろう。その果てに平和があったとしても受ける痛みは代償としてはあまりにも
高すぎる。
既に覚悟を決めていた自来也は螺旋丸を作り出し、それに更に火遁を混ぜ合わせた火
遁・極炎螺旋丸を放つ。
形態変化の極限である螺旋丸に火の性質変化を組み合わせるという会得難易度で言
えば最高峰のSランクに当たる術だ。
そしてその威力は桁外れと言ってもいいだろう。螺旋丸によって高速回転している
渦が炎を帯びて更に威力を増し、あらゆる物を焼き滅ぼす極炎と化すのだ。
当たればまず死は免れない。そして、避けられるタイミングではなかった。ペイン六
地獄で会おうぞ
︶
道が不可思議な力にて蘇るとしても、肉体が欠片も残っていなければ復活も到底出来な
いだろう。
︵すまんな弥彦
!
となる。
﹂
﹁自来也ちゃん
大丈夫か
﹁な、なんじゃこれは
!?
﹂
この謎の力によって吹き飛ばされるという現象に自来也だけでなくフカサクとシマ
里の周囲を覆っている水へと叩きつけられる。
攻撃が当たる寸前に、何故か自来也は後方へと大きく吹き飛ばされ、そして雨隠れの
!?
﹂
だが、自来也のその必殺の一撃は⋮⋮攻撃対象であるペイン天道によって防がれる事
!
!?
!?
﹁ぐぅぅっ
NARUTO 第十八話
542
も困惑しているようだ。
それもそのはず。極炎螺旋丸は確実に当たるタイミングだった。あの瞬間に何をし
ようとも避ける事はおろか防ぐ事も不可能なはず。だと言うのに、自来也は突如として
謎の力によって吹き飛ばされたのだ。
﹂
﹁流石は伝説の三忍。流石は我が師。たった一人でこのペイン六道を相手にここまで戦
しないだろう。
もすぐに無効化されるか、そもそもペインに効果的な強力な幻術など発動自体を許しは
いや、幻術ならば可能性はあるが、六人の敵に囲まれているこの状況で幻術などして
ダメージを与える事は実質不可能というわけだ。
その力は物体はおろか忍術全般を弾き返す。つまりこの力がある限りペイン天道に
である。
これがペイン天道の能力。己を中心として引力と斥力を操るという強大無比な能力
で無効化するという有り得ない力。
相手を吹き飛ばすどころか、自来也の持つ術の中で最大の攻撃力を誇る極炎螺旋丸ま
天道が最初に放った謎の力と同じ物であると判断する。
水面から上がってきた自来也は驚愕の瞳でペイン天道を見つめ、そしてそれがペイン
﹁こ、これはあの時の⋮⋮
!
543
えるとはな⋮⋮﹂
それは素直な賞賛の言葉であり、そして上から見た意見でもある。
だが真実それは自身が負ける事がないという自負からの言葉なのだろう。ペイン六
道に隠された秘密を解き明かし攻略しない限り、ペイン六道に対して勝ち目等ないのだ
から。
﹁随分と上から目線だのぉ。そういうのはな⋮⋮﹂
水面の上に立ち、全てのペインから見下ろされている自来也はそう言いつつ一拍間を
置く。
そして、次の言葉を放つ前に、ペイン餓鬼道の後ろの水面から現れたもう一人の自来
﹂
﹂
也が餓鬼道へと奇襲の一撃を喰らわせた。
﹁ワシを倒してからほざくんだのゥ
!?
ペイン六道は視界を共有しているが、その全員が自来也を見ていた上に、囲んでいな
のだ。それを水中で気配を消して餓鬼道の裏側へと移動させる。
自来也は水の中に入ってから水面に上がってくるまでに影分身の術を使用していた
インさえ倒せば、一番厄介なのはペイン天道のみ。
強烈な一撃は確実に餓鬼道の命を奪った。術を吸収する厄介な防御役であるこのペ
!!
﹁なに
NARUTO 第十八話
544
かったので後ろに回った影分身に気付くのが遅れたという訳だ。
この時自来也が天道を狙わなかったのは奇襲すらも気付かれた瞬間にあの謎の力で
防がれる可能性があったからである。
あの避ける事も防ぐ事も出来ないタイミングですら弾かれたのだ。能力を発動する
のに要する時間は限りなく零に近く、その上予備動作も必要としない。これでは奇襲も
成功しづらいだろう。
確実に殺せるだろう餓鬼道を先に始末する。敵の数は減り、そして術を吸収される事
もないからやりやすくもなる。あとは蘇らされない様に攻撃を加え続けることでその
隙を無くせばいい。
だが、そう事は簡単には進まなかった。自来也はまだペイン天道の能力を過小評価し
ていたのだ。
﹂
!?
﹂
!?
倒的に伸びていたからだ。
自来也が驚いたのは天道の力を発動した事ではない。その力の範囲が先程よりも圧
﹁な、なにぃ
ペイン天道は餓鬼道と自来也の中心に立ち、そして天道の力を発動する。
﹁ぬ
﹁残念だったな自来也先生⋮⋮﹂
545
自来也は先の攻撃で天道の力の及ぶ範囲を計っていた。だが、今回のそれはその計算
を遥かに上回っていたのだ。
自来也が後方へ吹き飛ばされると同時に餓鬼道の死体も反対方向へと吹き飛ばされ
る。そしてそこにいたのは地獄道と呼ばれるペインだった。
地獄道が手をかざすと、そこから閻魔を模したかのような巨大な顔が現れる。
その閻魔像が餓鬼道の死体を口の中に入れ、そして再び口を開いた時⋮⋮その口の中
﹂
﹂
から餓鬼道は完全な姿となって新たに現れたのであった。
﹁何じゃと
﹁こげん馬鹿な話があるかい
だから⋮⋮
﹂
!
を相手にしているのだから。
あのペインが他のペインを復活させていたのか
だから後ろにいたのか。自来也はペインの陣形を理解した。
!
この地獄道こそがペイン六道の生命線だ。だからこそ常に自来也から一番離れた位
間の魂を抜き取り、それを死したペインに与える事で復活させているのだ。
自来也の予想通り、地獄道は他のペインを復活させる能力を持っている。正確には人
!
だがそれも当然だろう。倒しても倒しても復活をするというふざけた能力を持つ敵
フカサクとシマが驚愕する。ペインと戦い始めて何度目かも分からない驚愕だ。
!?
!
﹁そ、そうか
NARUTO 第十八話
546
置で積極的に攻撃をせずに戦闘を見守っていたのだ。
◆
!
自来也の強さを警戒したペインが天道の力を巧みに使い、自来也から攻撃の手段やタ
さっている。いくつか骨も折れているだろう。
全身の多くは傷ついており、右肩にはペインが持っている黒い棒状の武器が突き刺
た。
だが、それに至るまでに自来也が受けた傷はとても代償にあっているとは言えなかっ
る。つまりペインの数が減ったという事だ。
これにより結界内部に死体を留めておく事で地獄道による復活を阻止する事が出来
中に引きずり込んで止めを刺したのだ。
自来也はどうにかペインの一人、畜生道を倒す事に成功する。蝦蟇結界により蝦蟇の
﹁くっ⋮⋮
よ、ようやく一体か⋮⋮﹂
ペイン六道が、自来也に止めを刺すべく襲い掛かった。
もう終わりだ﹂
﹁これで再び元の六対一だ。ここまで善戦出来るとはな、伝説に偽りなしか。⋮⋮だが、
547
イミングを奪いさったのが苦戦の一番の理由だ。
チャクラが乱される
﹂
ペインの生命線は地獄道だが、もっとも厄介なのは天道であると自来也は身を持って
体が⋮⋮
!!
知った。
﹁ッ
!?
付かなかった。
で奇妙と来たものだ。どうすればペインに対抗する事が出来るのか、自来也には見当も
黒い棒が抜かれた事で自来也のチャクラの乱れは収まる。正体も奇妙ならば武器ま
ら黒い棒を抜きさった。
その原因が自来也に突き刺さっている黒い棒だと察したフカサクは即座に自来也か
畜生道を倒して結界の中で一息ついていた自来也のチャクラが突如として乱される。
!?
持っていなかった。
ペイン天道の顔は間違いなく弥彦であると自来也は確信する。だが、弥彦は輪廻眼を
自来也は今ここにいない人間を思う事を止め、ペインの謎について思考を巡らせる。
いられなかった。
きっとアカネならばペイン六道が相手でもどうにかしてしまいそうだと思わずには
自分よりも遥かに長く生きている理不尽の権化を思いだして自来也は苦笑する。
︵いや⋮⋮アカネならばどうにか出来そうだから笑えるのォ︶
NARUTO 第十八話
548
ならば弥彦が何らかの理由で長門から輪廻眼を奪い取ったのか。しかしそれも解せ
ない。何故なら他にも輪廻眼を持つ者があれだけいるからだ。
更に戦いの前に人間道が話していた内容からは長門の言葉を思わせるものもあった
のだ。ならば目の前で死体となっている畜生道はやはり長門なのだろうか。
自来也がそう思った時、畜生道の額当てが外れ落ちた。激戦の中で留め金が緩んでし
まったのだろう。
こいつは長門なんかじゃない
﹂
そうして畜生道の額が顕わになったのを見た時、自来也はかつての記憶を思いだし
た。
﹁そうだ⋮⋮思いだした
!
打倒に繋がる秘密となるからだ。
だが予想は予想。確信には至らない。ならば確信する必要があった。それがペイン
る予想が浮かび上がっていた。
何故その男がペインの一人としてここにいるのか。深まる謎に対して、自来也にはあ
だったのだ。額の傷を付けたのは自来也なので間違えようがなかった。
そ れ は か つ て 自 来 也 が 旅 を し 始 め た ば か り の 頃 に 山 道 で 襲 っ て き た 風 魔 一 族 の 男
を見てそれを思いだした。
そう。畜生道の体は長門の物ではなかった。自来也は畜生道の額にある横一筋の傷
!
549
と戦おうと言っているのだ。
そしてそれを了承したのはシマのみだった。フカサクは自来也に付き合ってペイン
るよう頼む。
覚悟を決めていた自来也はフカサクとシマに今までの情報と人間道の死体を持ち帰
それを防ぐ為にもここで少しでも多くの情報を手に入れなければならないのだ。
もある。そうなれば多くの忍が命を落とすだろう。
そもそもペインが里を襲ったとして、アカネを頼る事すら出来ない状況に陥る可能性
だ。
先程はああ思ったが、実際にペインを相手にしてアカネですら勝てる保証はないの
会はないだろう。
だが自来也が自身の意見を曲げる事はなかった。今を除いてペインの正体を掴む機
していた。
だが次にペインと相対すれば間違いなく自来也は死ぬ。そうフカサクとシマは確信
ペイン六道を相手に今も生き延びている。それは自来也の強さの証と言えよう。
思議な程の猛攻を受けたのだ。
それにはフカサクもシマも猛反対した。既に自来也は死に体だ。生きているのが不
﹁ワシはもう一度奴らの前に出て確かめたい事があります⋮⋮お二人はお帰り下され﹂
NARUTO 第十八話
550
︶
全てが終わったら自来也と共に飯を食べに帰ると妻であるシマに約束して⋮⋮。
ペインを良く見ていた。
こいつら全員ワシの会った事のある忍だ
︶
そして残る五人全てのペインが自来也を睨みつける。そして同じく自来也も五人の
た。鋭く投擲された苦無は容易く躱されてしまう。
死角から放たれた苦無だが、それは五つの視界を共有するペインには通用しなかっ
を出して修羅道に苦無を投擲する。
蝦蟇結界から外へと飛び出した自来也は気配を消して水中を進み、静かに水面から顔
◆
自来也は二人の優しさに深く感謝する。だが、次の瞬間に何かに気付いて驚愕した。
︵ありがとうございます⋮⋮。⋮⋮ぬっ
!?
そこで自来也は予想を確信へと変えた。
︵間違いない
!
この情報を必ず木ノ葉へと伝える。そしてその為にするべき事も理解しており、覚悟
の正体に行きついた。
その確信を得て、そしてこれまでの全ての情報を繋ぎ合わせた結果、自来也はペイン
!!
551
﹂
も決めていた。
﹁ッ
﹂
!
を確信する。そして再び同じ言葉を口にした。
そうして自来也は力なく水中へと沈んで行く。それを見届けたペインは自来也の死
わった。
出して⋮⋮そのまま倒れ込んでしまい、最後の螺旋丸は足場である岩を崩すだけに終
だが最後に残った力を振り絞り、一人でも多くのペインを倒そうとして螺旋丸を作り
喉を潰されて声も出ないままに自来也は血を吐き出す。
﹁││ッ
り残る二本を避ける事は出来なかった。
それを自来也はどうにか二本ほど防ぐが、やはり奇襲により体勢を崩していた事によ
残る四人のペインがあの黒い棒にて自来也を串刺しにしようとする。
水面から奇襲を仕掛けてきた修羅道の一撃により自来也は喉を潰される。その上で
!!
す。
そうして自来也の強さを褒め称えた所でペインは誰もいない方向に顔を向けて話だ
ろうな。流石は我が師だ﹂
﹁伝説の三忍自来也もついに死す、か。我らにこの秘密が無ければ勝てはしなかっただ
NARUTO 第十八話
552
﹁ところで⋮⋮そろそろ出て来い﹂
その言葉と共に現れたのはゼツだ。地面や木々と同化するという特殊な能力を持っ
ており、潜入任務や情報収集にはうってつけの男である。
﹁とんだ邪魔が入った。他の奴らは準備が出来ているか
﹂
?
に携わるからだ。
﹂﹁三忍ノ名ハ伊達ジャナカッタカ。大蛇丸ヨリ強インジャナイカ
?
﹁悪いが少しばかり時間を貰う。オレも少々消耗したからな﹂
﹁そうなの
﹂
りなのだ。それに関しては暁全員が認めていた。うかつに死なれては今後の情報収集
なので暁が木ノ葉へと仕掛ける戦争には参加せず、能力を駆使して見学に徹するつも
ている。
なくとも木ノ葉襲撃に参加すると途中で倒される事は間違いないと他の暁には思われ
ゼツは情報収集に特化した能力ゆえかそれほどの戦闘力は持ち合わせていない。少
﹁うん。後はペインだけだよ﹂﹁サテ、木ノ葉ガ崩壊スルノヲ見学サセテモラオウカ﹂
?
謎の存在である。
で違っているという不可思議な存在であった。その正体を知る者は殆どいない暁でも
ゼツはその左半身が白く、右半身が黒く染まっていた。そして思考もそれぞれ左と右
﹁かなりかかったね﹂﹁相手ハアノ自来也ダッタノダカラナ﹂
553
自来也の奮闘はペインを大きく消耗させていた。その回復にはしばしの時間が掛か
るだろう。
それをペインは苦々しく思うも、今はそれを忘れて回復に集中する事にした。
﹁じゃあ回復したら教えてね﹂﹁ソノ時ガ木ノ葉ノ最後カ。楽シミダ﹂
そう言ってゼツは地面へと溶け込み姿を消していく。
ゼツの姿が消えて無くなった後にペインは小さく呟いた。
ペインは歩み続ける。
痛み。それこそが世界を成長させて平和へと至らせる唯一無二の手段。そう信じて
﹁さあ、世界に痛みを与えよう﹂
NARUTO 第十八話
554
NARUTO 第十九話
今、木ノ葉の里をある衝撃が襲っていた。
二代目三忍自来也死す。それは多くの忍にとって信じがたい出来事であった。
三忍とは木ノ葉にとって特別な称号だ。それは初代三忍が木ノ葉の設立者であり、そ
して並ぶ者がいない実力者だったからである。
それは二代目三忍も同じだ。多くの忍にとって三忍とは雲の上の存在なのだ。
その三忍である自来也が暁のリーダーであるペインに敗れた。
強く、里を愛し、忍の文字に恥じない忍耐を持つ彼が死んだ事も衝撃だったが、暁の
リーダーが自来也を上回る強さという事もまた木ノ葉を揺るがしている衝撃であった。
あの三忍でも勝てなかった。それを知って危機感を覚えない忍は木ノ葉にはいない
だろう。
﹂
そして、自来也の最後の弟子であるナルトもまた、自来也の死を知って嘆き悲しんで
いた。
﹁何でそんな無茶を許したんだってばよ
!!
555
ナルトは火影室で綱手に詰問していた。暁という危険な組織のリーダーがいるアジ
トに一人で潜入任務をする。それがどれだけ危険な任務かはナルトにも理解出来る。
だというのに、そんな危険な任務を自来也一人で行かせたのだ。それがナルトには許
せなかった。
正確には自来也が自ら買って出た任務であり、一人ではないと逆に難しい任務であ
り、そして綱手は反対をした側なのだが、最終的に一人で行かせた事に変わりはないと
綱手はナルトの言葉を否定しなかったのだ。
に││﹂
﹁バアちゃんはエロ仙人の性格を良く分かってんだろ たった一人でそんな危ねー所
!
た。
﹂
だが、理解出来るからと言ってそれで納得出来る程ナルトは大人にはなっていなかっ
う受け止めているかは理解している。
なおも綱手を責めるナルトをカカシが宥める。ナルトとて綱手が親しい人の死をど
﹁よせナルト。五代目の気持ちが分からないお前じゃないだろ﹂
!
大体、そんな危険な任務ならアカネが一緒にいれば良かったじゃねーか
!
を返した。
それを聞いてアカネは顔を僅かに顰めるが、すぐに表情を元に戻してナルトへと言葉
﹁くそ
NARUTO 第十九話
556
﹁私とて常に誰かに付いていられる訳ではありません。忍の世界に死とは切っても切れ
ない物。どんな強者でも死ぬ事はあります。私がいればどうにかなると思っているな
ら大間違いですよ﹂
﹂
!
﹂
!
今のナルトには時間を与えた方がいいという綱手の判断だろう。その言葉に従いサ
した。
そんなナルトを追いかけようとするサクラを綱手は止め、そしてサクラにも退室を促
急の話し合いがある﹂
﹁サクラ⋮⋮いい。少しそっとしておいてやれ。それよりも、お前も退室しろ。少し緊
﹁ナルト
悪態を吐いて火影室から退室する。
ナルトは五代目火影が自来也だったならば綱手にこんな無茶をさせていなかったと
﹁くそ
れていないナルトにはやはりつもりだったという事だろう。
・・・
任務と死は隣り合わせ。それは分かっていたつもりだった。だが、親しい人の死に慣
れて何も言い返せなくなる。
静かだが、しかしはっきりとした物言いとアカネから放たれた圧力にナルトは気圧さ
﹁う⋮⋮﹂
557
﹂
クラはナルトを追う事はなく、自身も退室した。
﹁⋮⋮オレはいいのか
だろう。
必要だが、発奮を掛けた方が上手くいく場合もある。特にナルトの様なタイプだとそう
今のナルトは大切な師匠が死んでしまい落ち込んでいる。優しく慰めてあげる事も
サスケは綱手が何を頼みたいのかすぐに理解した。
﹁⋮⋮ちっ。分かったよ。オレも今のナルトじゃ戦い甲斐がないからな﹂
﹁お前には頼みがある﹂
ける。
サクラは退室させて自分は残される。それを不思議に思ったサスケは綱手に問い掛
?
﹁過保護すぎんぜアンタ。まあいい、それじゃあオレは行くぜ﹂
しな﹂
﹁だが、今日の所は放っておいてやってくれ。あいつも一人で考えたい事もあるだろう
だがこんな親友がナルトの近くにいてくれた事を綱手は内心感謝していた。
綱手が親友と言わなかったのは言っても拒否されるからだ。
﹁ふん﹂
﹁理解が早いな⋮⋮流石はライバルというところか﹂
NARUTO 第十九話
558
そう言ってサスケは火影室を退室する。口ではこう言っているが、親がいないナルト
にはこれくらいの理解者がいてもいいだろうという思いもあった。
だ。
!
が。
まあ、四人と言っても一人は蛙なので三人と一匹というのが正しいのかもしれない
ナルト達が退室した火影室では残る四人による話し合いが始まっていた。
るべく窓から飛び出して外の空気を浴びに行った。
自来也が死んだ事で意外に影響を受けているのか。そう思ったサスケは気分を変え
る自分が馬鹿らしくなり頭を振る。
起こっていない出来事を考えて嫌な気持ちになるという何の得にもならない事をす
﹁ちっ
オレは何を考えている⋮⋮﹂
は怒り憎しみ、そして何を捨ててでも復讐に走るだろう。そんな嫌な自信があったから
自分だったらどうだろうか。そう考えればぞっとする。家族が任務で死んだら自分
んだ事で悲しむ気持ちも理解する。
その理解者を罵倒して出て行ったナルトに若干の怒りを感じつつ、同時に自来也が死
﹁ウスラトンカチが⋮⋮﹂
559
﹁さて、問題はペインの能力だな﹂
綱手はまずそこからだと話を切り出す。ペインの能力が理解出来なければ自来也と
同じく返り討ちにあってしまうだろう。
﹁うむ。奴らは││﹂
ペインの能力を自来也と共に体験したフカサクが知りうる限りの情報を顕わにする。
それを聞いたカカシはペインの底知れなさに恐怖する。一人で挑んで勝てる相手で
はない。ここまでの情報を手に入れた自来也の奮闘に頭が下がる思いだ。
た厄介ですね﹂
﹁視界の共有と個体ごとの固有能力。大まかにはこれくらいですが、その固有能力がま
﹂
?
手は常日頃からアカネに頼っている訳ではないので問題はないだろう。
物事の全てを他人に頼っては成長にはならないが、緊急事態なら話は別だ。それに綱
あ人に頼る事は全てが悪い事ではないかと思い直す。
どうにも綱手ですら自分を頼る気持ちが零ではないようだ。そう思うアカネだが、ま
うかを確認する。
ペインの能力について纏めていた綱手はそれらの能力を相手にアカネが勝てるかど
⋮⋮ばあ様はどうだ
﹁う む。特 に 復 活 と 斥 力 の 様 な 能 力。こ れ ら を ど う に か し な い 限 り 勝 ち 目 は 薄 い な。
NARUTO 第十九話
560
﹁まあ、体験してみない事にはどうとも言えませんね。その斥力とやらが私の想像以上
なら私でも苦戦するかもしれません﹂
?
ネとて勝てるとは言い切れなかった。
﹁警戒するに越した事はないな⋮⋮。フカサク様、他に情報はないのか
﹂
﹁うむ⋮⋮どうもあのペインは全て本物ではないようじゃ﹂
﹁本物では⋮⋮ない
?
﹂
自来也と戦った時ですら本気ではなかったのかもしれない。そうであるならばアカ
ラの万華鏡写輪眼を超えていてもおかしくはない。
そして輪廻眼と言えば三大瞳術の中で最も崇高と謳われている代物だ。ならばマダ
体と呼ばれる須佐能乎の威力は天を裂き地を砕き山を断つ程だ。
マダラの持つ写輪眼を超えた万華鏡写輪眼は凄まじい瞳力を有していた。特に完成
アカネは友であり同志であり好敵手でもあったうちはマダラを思いだす。
﹁それに伝説の輪廻眼です。他にも能力があってもおかしくはありません﹂
思いを抱いた。
ンに苦戦で済ませるアカネに驚くべきか。アカネを除くこの部屋の者達は全員が同じ
アカネでも苦戦するやもしれないペインの実力に驚くべきか、自来也を圧倒したペイ
﹁⋮⋮そうか﹂
561
綱手の言葉にフカサクは首肯し、そして詳細を述べた。
﹂
﹁これは自来也ちゃんが気付いたんじゃがの。あのペイン六道は全て過去に自来也ちゃ
つまり、そいつらが全員輪廻眼を持っていたのか
んが出会った事のある忍の様なのじゃ﹂
﹁⋮⋮
?
刺さったチャクラを乱す黒い棒。死体の復活。そしてペイン六道はかつては誰も輪廻
一個体につき一つの固有能力。六人全員が持つ輪廻眼。全ての視界を共有。全身に
フカサクの言葉を聞いた三人はこれまでの情報を吟味する。
のペイン六道を操っている。そうであるならば納得が行く話じゃ﹂
﹁⋮⋮ペイン六道の中に長門とやらはおらんようじゃった。恐らくその長門本体が全て
?
ちゃんの弟子である長門一人じゃろう﹂
﹂
﹁こ れ も 自 来 也 ち ゃ ん の 予 想 な ん じ ゃ が な。恐 ら く 輪 廻 眼 を 持 つ 者 は か つ て の 自 来 也
眼の大量生産を可能とするならそれだけで忍界を牛耳る事が出来るだろう。
一人ならまだしも、六人もの人間が輪廻眼を後天的に得るなど出来る訳がない。輪廻
後天的に輪廻眼を手に入れる。それが事実ならどれ程恐ろしい事か。
かったそうじゃ。つまり、ペイン六道は後天的に輪廻眼を得たという事になる﹂
﹁い や、そ う で は な い。自 来 也 ち ゃ ん が 出 会 っ た 時 に は 誰 も 輪 廻 眼 な ど 持 っ て お ら ん
?
﹁だったら何故そんなにも輪廻眼を持つ者がいるんだ
NARUTO 第十九話
562
眼を持っていなかった。
長門本人がペイン六道に己の力を分け与えて全てを操作している。確証のない推測
だ。だが、確かにそう言われると全てに納得が行った。
﹁ようやくか⋮⋮こう言っては何だが、もっと早くにしても良かったんじゃないか、ばあ
をつけましょう﹂
﹁さて、ではナルトですが⋮⋮明日になって本人の気持ちが定まっていれば仙術の修行
綱手も判断した。
そうなればよりペインの秘密に近付けるやもしれない。今はそれを待つしかないと
れば更なる情報が得られるだろう。
黒い棒とペイン六道の一人餓鬼道の死体、そして雨隠れの忍。これら全てを調べ上げ
﹁⋮⋮そうだな﹂
しましょう﹂
﹁とにかく今は自来也のおかげで手に入れた情報源から新たな情報が得られる事を期待
分からずに倒す事が出来るのだろうか、と。
カカシと綱手が難しそうに呻く。ただでさえ強いというのに、本体がどこにいるかも
﹁ペインを倒した事にはならない、な﹂
﹁だとしたら本体を倒さない限り⋮⋮﹂
563
様
﹂
それでもアカネがナルトに仙術を学ばせなかったのには理由があった。
なければならないが、ナルトは完全に基準値を超えていた。
仙術を身に付けるには自然エネルギーに負けないくらい多くのチャクラを有してい
程に達している。
綱手の疑問は分からなくもない。既にナルトの基礎能力は仙術を学ぶに十分過ぎる
?
だがアカネの理想としては今の力量関係を維持したままの方が実力の伸びが速いの
るとサスケも負けじと努力するだろうし、サクラも同じだ。
仙術を覚えたナルトは確実にサスケを圧倒する実力を得るだろう。もちろんそうな
だがナルトが仙術を覚えてしまうとこの関係が崩れてしまう可能性があるのだ。
に更に励み、同じ様にサクラも二人に追い付こうと努力する。
に負ける事が多いので必死に努力して修行し、サスケはナルトに追い付かれまいと修行
ナルトは現状でもサスケとほぼ互角の力量に至っている。それでもナルトはサスケ
れの力関係についてだ。
そう、アカネの言う通り今の第七班の関係は非常に上手く行っていた。それはそれぞ
が非常に上手く回っていましてね⋮⋮﹂
﹁もちろんナルトに仙術を教える事は吝かではなかったのですが⋮⋮今の第七班の関係
NARUTO 第十九話
564
だ。仙術を覚える事はいざとなればいつでも出来るので後回しにした結果である。
更に言えばナルトの向上心が減少する可能性も考慮していた。サスケを圧倒する実
力を得て調子に乗って修行への気の入り方がこれまでと比べて減少するだろうという
アカネの予想だ。
これに関しては修行をしなくなるという事はないだろうが、確実に起こり得る事態だ
とは思っていた。人間は目標を達成すると気が抜けてしまうものなのだ。
自来也の訃報から一夜明けた木ノ葉の朝。ナルトは未だ自来也の死から立ち直れず
◆
﹁ナルトならきっと乗り越えてくれる。私はそう信じている﹂
しい。そういう贅沢な願いを籠めて綱手は呟いた。
死に慣れては欲しくないが、死と隣り合わせの世界に生きている。その実感はして欲
欲しい⋮⋮﹂
﹁⋮⋮そうだな。荒療治だが、これが忍の世だ。ナルトには悪いが今回の件を糧にして
尽な力から誰かを守る為には自身にも力が必要。それをナルトなら分かるはずです﹂
﹁ですが、自来也の死という衝撃を受けたナルトならばその心配もないでしょう。理不
565
に自室にて籠もっていた。
昨夜に恩師であるアカデミーの講師イルカに慰め励まされたが、やはり完全に振りき
れてはいないようだ。
部屋の明かりを点けるのも億劫だ。そんな風にナルトが沈んでいる時、玄関のチャイ
ムが鳴り響いた。
無視しようかという思いもあったが、何か重要な任務に繋がる話かもしれない。忍と
しての習性が捨てきれずにナルトはゆっくりと玄関へと移動する。
そして扉を開いた時に驚愕した。そこには同じ第七班にしてライバルであるサスケ
の姿があったからだ。
﹂
今までサスケがナルトの家を訪ねた事はなかった。だからこそ余計に驚愕したのだ。
?
﹂
!
ナルトは慌ててサスケの後を追う。
﹁ちょ、待てよサスケ
サスケはナルトの返事を待たずにさっさと移動する。
サスケの剣幕に押されての事だが、そんなナルトを見てサスケは苛立ちを覚える。
いつもなら反応しているその罵倒にナルトは呆ける事しか出来なかった。
﹁ちょっと面貸せウスラトンカチ﹂
﹁サスケ⋮⋮な、何の用だってばよ
NARUTO 第十九話
566
道中サスケは一言も言葉を発さず、それに対してナルトも何も言えなかった。
﹂
そうして二人が付いたのは演習場の一つだった。
﹁おい、どうしてこんな場所に来るんだってばよ
﹂
!?
﹂
!
﹂
!?
﹁さっきから何だその態度は。いつからお前はそんなに腑抜けになった あの程度の
サスケから放たれる怒気と、写輪眼となったその鋭い視線にナルトは気圧された。
﹁⋮⋮なっ
﹁気に入らねェんだよ﹂
怒りを顕わにするナルトに対して、サスケはそれ以上の憤怒を見せていた。
蹴り飛ばされて距離が開いた事でようやくナルトはその言葉を口にする事が出来た。
﹁な、何しやがる⋮⋮
サスケは何度もナルトを殴り、蹴り飛ばす。
サスケの突然の行動にナルトは反応する事も出来なかった。そしてその隙を突いて
けたからだ。
ナルトに背を向けていたサスケが突如として振り返ってナルトを力いっぱい殴りつ
﹁ぐあっ
そう言おうと思っていたナルトだが、その言葉を口にする事は出来なかった。
まさか今この状況で戦おうと言うのか。だったら別の時にしてくれ。
!?
567
?
﹂
攻撃なんざ修行でいくらでも受けてきただろうが。それが反応する事すら出来ないと
はな。無様だなナルトォ
がっ
﹂
これがオレの⋮⋮クソ
!
﹂
!
そう、子どもの喧嘩の様に力一杯に攻撃しているだけだ。
けで、それは体術と呼ばれる物ですらなかった。
忍術も幻術も使わない。ただ体術のみで攻撃する。いや、振りかぶって殴っているだ
﹁ナルトォ
最後の言葉を飲み込んで、サスケは怒りのままにナルトに突撃した。
!
!
なかった。それがサスケには心底我慢出来なかった。
そんなナルトはサスケの知るナルトではなかった。サスケの知るライバルの姿では
ただ殴られるままでいて、この程度の怒気に気圧されて何も言えなくなる。
あの程度の剣幕に気圧されてのこのこと付いて来て、あの程度の奇襲に反応出来ずに
にはいた。
自分に追い付こうと追い抜こうとするナルトはどこにもおらず、ただの負け犬がそこ
サスケは気に入らなかった。今のナルトの全てが気に入らなかった。
﹁うっ⋮⋮く⋮⋮﹂
!
﹁これがオレと同じ班の一員か これがオレの認めた男か
NARUTO 第十九話
568
五発、六発と殴られていく内に、ナルトにはサスケの思いが理解出来てきた。
﹂
!
﹂
!?
﹂
!
助走を付けて思い切り振り被り叩きつけた拳をサスケはまともに喰らう。
﹁がっ
﹁サスケェ
そしてナルトは吹き飛びつつも倒れる事なく踏みとどまり、叫んだ。
サスケには分かったのだ。今の一撃をナルトはわざと受けたのだと。
目を見開いた。
サスケが放ったテレフォンパンチをナルトがまともに喰らう。それを見てサスケは
﹁おおお
︵すまねぇ⋮⋮サスケ⋮⋮︶
そんな思いを籠めて、不器用なサスケはただ全力でナルトを殴りつけているのだ。
友なわけがない。
こんな男が自分のライバルなわけがない。こんな男がオレの⋮⋮オレの最も親しい
た瞬間にそんな気持ちが吹き飛んだのだ。
サスケとて最初はただ発破を掛けるだけにするつもりだった。だが、ナルトを一目見
サスケは悔しかったのだ。自分が認めた男が腑抜けになった様を見て。
︵⋮⋮そうか⋮⋮︶
569
吹き飛ばされつつも、サスケもナルトと同じ様に踏みとどまり、そしてナルトと同じ
﹂
様に叫びながら前に出る。
﹂
﹁うおおおぉ
﹁ぐぅ
!
でも二人の顔はどこか晴れ晴れとしていた。
二人は既にボロボロだ。避ける事もなく全力で殴り合えばそうもなろう。だが、それ
は十分も経ってはいなかった。
どれだけの時間が過ぎたのか。本人達は数時間は経ったかの様に思っていたが、実際
そこにあったのは忍同士の戦いではなく、ただの意地の張り合いであった。
けじとナルトを殴り返す。
またも吹き飛ばされるナルト。そして再びサスケを全力で殴り飛ばす。サスケも負
!!
だ が ナ ル ト の 言 う 通 り 最 初 に ナ ル ト を 多 く 殴 っ て い る の で そ れ だ け サ ス ケ が 有 利
だろう。
サスケの言う通り先に倒れたのがナルトだったので勝者がどちらかと言えばサスケ
﹁⋮⋮当たり前だろうが⋮⋮お前の方が先に殴ってんじゃねーか﹂
﹁⋮⋮今日もオレの勝ちだウスラトンカチ⋮⋮﹂
NARUTO 第十九話
570
だったのは当然だ。
その自信がサスケにはなかった。
◆
!?
﹁なんでこんなにボロボロなのよぉ
﹂
自分とナルトの立場が逆であったならば。その時自分は同じ結論に至れるだろうか。
その結論に至れたナルトを内心で尊敬する。
ナルトの思いを聞いたサスケはようやく自分なりの結論を見つけたかと思い、そして
﹁⋮⋮ふん﹂
﹁エロ仙人の思いはオレが受け継ぐ⋮⋮そうじゃなきゃ、弟子失格だからな⋮⋮﹂
を止めてしまっても死んだ人間は帰ってこない。
落ち込んでいても何も始まらない。悲しむ事が悪い訳ではない。だが、それで進む事
てくれたからだ。
それ以上の言葉はナルトには必要なかった。言葉以上に分かりやすくサスケが教え
﹁ああ⋮⋮分かってんよ﹂
﹁⋮⋮いつまでもウジウジしてんじゃねーよ﹂
571
顔中ぼこぼこでもはや別人のように膨れ上がっていたナルトとサスケを見てサクラ
は憤慨する。
修行でもこんなになった事はないというのに、まさに酷い有様であった。まあ、顔だ
本当に何時まで経っても子どもなんだから
﹂
けを狙ってひたすら防御も回避もせずに殴りあっていたらこうもなろう。
﹁全くもう
!
ているだろう。
これで医療忍者を怒らせて治療をしてくれなかったら当分はまともに動けなくなっ
内は鉄の味しかしていないのだ。
顔は腫れ上がって痛みを通り越して外の空気が気持ちよくなるくらいに熱を持ち、口
手当てをしてもらっている身としては二人とも謝る事しか出来なかった。
﹁わりぃ⋮⋮﹂
﹁ごめんよサクラちゃん⋮⋮﹂
!
ちなみに近くにはアカネもおり、サクラの言葉に﹁うんうん﹂と頷いて同意していた。
に籠められた思いを理解したからだ。
サクラのその言葉に二人は何も言えなかった。ただの侮蔑の言葉とは違う、その言葉
﹃⋮⋮﹄
﹁ホントにもう⋮⋮男って馬鹿なんだから⋮⋮﹂
NARUTO 第十九話
572
どうやらかつての親友達を思いだしているようだ。
アカネが過去に思いを馳せている間にナルト達の傷はサクラの医療忍術により完治
する。
﹂
治療を終えたナルトはサクラに礼を述べるとすぐに火影室へと赴いた。自来也の思
エロ仙人を倒した敵の事を詳しく教えてくれ
いを受け継ぐと決めた今、やるべき事は一つだろう。
﹁ばあちゃん
!
にはいかん﹂
かたき
エロ仙人の敵はオレが討たなきゃならないんだ
﹂
!
気持ちの整理をつけてやる気を漲らせていたナルトに今の綱手の言葉は納得が行か
﹁なんでだよばあちゃん
!?
﹁いいだろう。だが、ペインの情報を教えたところで今のお前をペインと闘わせるわけ
みを浮かべた。
あったが、綱手は不機嫌になるどころか昨日とは打って変わったその顔を見ることで笑
突 如 と し て 火 影 室 に 押 し か け て 第 一 声 が 挨 拶 で な い と い う 失 礼 極 ま り な い 態 度 で
﹁⋮⋮少しは吹っ切れたか﹂
変わりに倒す。それが自来也の意思を継ぐ第一歩だと思ったのだ。
敵討ちをしたいという思いもあるだろう。だが、自来也が倒せなかった敵を自来也の
ナルトがやるべき事は自来也を殺した敵を倒す事である。
!
573
なかった。
だが綱手としても言い分がある。負けると決まっている闘いをナルトにさせるわけ
には行かないからだ。
﹁今のお前ではペインには勝てん。九尾の人柱力であるお前がペインに負けてしまえば
﹂
⋮⋮だったら、このまま黙って他の奴らがペインを倒すのを黙ってみてろって
どうなるか⋮⋮お前も風影を通じて理解しているはずだ﹂
﹁っ
言うのかよ
敵に笑って答えを返す。
それを綱手も良く分かっている。だからこそ、ナルトのその噛みつくような言葉に不
だが、だからといって﹁はい分かりました﹂と言って納得出来るナルトではない。
綱手の言い分も理解出来る。
暁に負けた人柱力がどうなるか。それは我愛羅の一件でナルトも良く分かっていた。
!?
!
﹁え
⋮⋮どういうことだってばよ
﹂
!?
ンに抗う事も出来んからのう﹂
﹁ナルトちゃんには妙木山で仙術の修行をしてもらう。仙術を身に付けん限りにはペイ
ナルトの疑問には綱手の変わりにフカサクが答える。
?
﹁勘違いするな。私は今のお前では、と言ったんだ﹂
NARUTO 第十九話
574
﹁せん⋮⋮じゅつ
﹂
ように確認をする。
!?
付ける。それ以外にない。
それでもやるかえ
﹂
?
だったらオレだって負けねぇ
やってやる
!
﹁仙術の修行は想像以上に厳しいぞ
﹁エロ仙人にも出来た事だろ
そうしてナルトの仙術修行が始まった。
?
!
﹂
ならば答えは簡単だ。例えどれほど厳しい修行だろうと必ず乗り越えて仙術を身に
ち目がない。
仙術を身に付けなければ綱手はペインとは闘わせようとしないだろうし、そもそも勝
それを聞いたナルトはどの道これ以外に方法がないと理解する。
﹁⋮⋮﹂
﹁それは分からん。じゃが、今のままでは勝ち目がない事は確実じゃ﹂
﹁それでホントにペインに勝てるのか
﹂
自来也も身に付けていた。それを聞いたナルトは目を見張りフカサクに掴みかかる
﹁そうじゃ。自来也ちゃんも身に付けていた力じゃ﹂
?
く事すら不可能な秘境にある。
妙木山は木ノ葉から歩いて一ヶ月は掛かる上に、秘密のルートを知らない限り辿り着
!!
575
だが蝦蟇と口寄せ契約を結んでいる者ならば逆口寄せにより直接妙木山へ移動する
事が出来るのだ。
妙木山へと辿り着いたナルトは蝦蟇仙人から厳しい仙術修行を受ける事になる。
だが、ナルトが修行に励んでいる間も時は全てのモノに等しく流れていく。
ナルトが妙木山に赴いてから一週間。とうとう暁が木ノ葉へと襲撃を仕掛けたので
ある。
◆
修行が上手く進まずに舌打ちをするサスケにアカネは宥めるように話しかける。
﹁ちっ⋮⋮﹂
?
である。非常に分かりやすい男であった。
﹁妙木山以外にも仙術を学べる場所はないのか
﹂
もちろんその理由は仙術を得る為であり、仙術を得る理由はナルトに負けたくない為
アカネの言葉が示す通り、サスケは自然エネルギーを感じ取る修行をしていた。
ら﹂
﹁焦る必要はありませんよ。自然エネルギーは簡単に感じ取れるものではありませんか
NARUTO 第十九話
576
ナルトが妙木山に旅だってから一週間しか経っていないが、それだけの期間を掛けて
修行の成果が出なかった覚えがないサスケは一向に進まない仙術修行に苛立っていた。
・・
﹂
﹂
正確には仙術を学ぶ上で最高の環境である妙木山にいるナルトが自分よりも先に進
んでいるかもしれない事に苛立っているのだが。
・・
﹁あるにはありますよ。湿骨林と龍地洞です﹂
﹁⋮⋮それはなにとなにの秘境だ
﹁残念。私も龍地洞の場所は知りません。湿骨林なら分かりますよ
﹁⋮⋮その中じゃ蛇がマシか。じゃあ││﹂
﹁湿骨林が蛞蝓で、龍地洞が蛇ですね﹂
?
もっともこれは仙術に対する適正が高ければ変化も少なくなるのだが。ちなみに自
響を受けて見た目が蛙っぽく変化するのだ。
つまり蝦蟇の秘境である妙木山で仙術修行をすると、仙人モードになった時に蛙の影
るとその秘境の特徴が現れるというものだった。
だがアカネからの説明を聞いて前言撤回した。その説明とは、秘境にて仙術を会得す
していた。
サスケはナルトが仙術修行をしていると聞いた当初は自分も妙木山に行くと言い出
﹁⋮⋮遠慮しとく﹂
?
577
来也は少々の影響を受けて見た目が若干蛙化していた。
とにかく、それを聞いたサスケは蛙になる事を拒んで妙木山行きを取り止めた。
ならば秘境に頼らずに仙術修行をする。それがサスケの考えであったが、流石に何の
とっかかりもなしに自然エネルギーを感じ取って吸収する事は天才サスケをして難し
かったようだ。
何の成果も得られない為に妙木山以外の秘境をと確認したが、返って来た答えはサス
ケにとって残念極まりないものだった。
蛙・蛞蝓・蛇ならばまだ蛇がマシと思ったが、肝心の蛇仙人の秘境である龍地洞の場
所はアカネをして知らなかったのでどうしようもない。
﹁⋮⋮ナメクジ可愛いのに﹂
﹁それだけは共感できねーな﹂
今すぐカツユを口寄せしてその可愛さをたっぷりと教えてやろうか。そう思ったア
カネだったが、流石にそれは止めにした。
﹁問題
﹂
ですが問題は別にあります﹂
す。まあ、サスケなら1ヶ月もすれば自然エネルギーを感じ取れる様になるでしょう。
﹁と に か く で す。秘 境 に 頼 ら ず に 仙 術 を 会 得 す る な ら そ れ 相 応 の 時 間 が 必 要 に な り ま
NARUTO 第十九話
578
?
﹁ええ。仙術の説明はしたから覚えているでしょうが、仙術エネルギーとはチャクラの
源である身体エネルギーと精神エネルギーに更に自然エネルギーを混ぜ合わせて生み
出されるものです﹂
それは修行の始めにアカネから教わった事だ。ナルトと違いそれなりに記憶力のい
いサスケは当然それを覚えている。
自然エネルギーという外なるエネルギーを加える事で内なるエネルギーのみのチャ
クラよりも遥かに強くなれると。
し か も 自 然 エ ネ ル ギ ー は 世 界 に 溢 れ 返 っ て い る。使 え ば 使 う ほ ど 消 耗 す る 従 来 の
チャクラと違い、取り込めば取り込む程逆に体力を回復するのだ。
スタミナでナルトに負けているサスケには打ってつけの力と言えた。だからこそサ
スケは仙術チャクラを会得したかったのだ。
だが、ナルトと比べてチャクラが少ない。それが仙術を得る上でのネックだった。
﹂
?
した。
それはどう言う事なのか。想像もつかないサスケに対し、アカネは恐ろしい答えを返
﹁自然エネルギーに取り込まれる
エネルギーを取り込んだ時に逆に自然エネルギーに取り込まれてしまいます﹂
﹁自然エネルギーとは非常に強力な力です。その身に膨大なチャクラを持たないと自然
579
﹁自然エネルギーを取り込み過ぎた場合、その者は石へと変化してしまうのです。それ
も永遠に⋮⋮﹂
﹂
込める自然エネルギーの量は確実にナルトよりも劣ります﹂
﹁今のあなたのチャクラ量ならば最低限の仙術を会得する事は出来ます。ですが、取り
受けてしまうのだ。
自然エネルギーとはあまりに強すぎるが為に下手に利用すると大きなしっぺ返しを
それこそが仙術を学ぶ上で最も重要かつ恐ろしい事実だ。
﹁
!?
言う事だ。
ナルトとサスケが同じ仙人モードになってもその効力は圧倒的にナルトが有利だと
かるだろう。
り込む自然エネルギーがナルトよりも少なければどうなるか。それくらい馬鹿でも分
そのチャクラの差はそのまま自然エネルギーを取り込める許容量の差に繋がる。取
だ。
だろう。むしろ多いくらいだ。だが、ナルトはその倍以上のチャクラを持っているの
サスケのチャクラ量は決して少ないわけではない。木ノ葉の上忍の平均の倍はある
﹁⋮⋮﹂
NARUTO 第十九話
580
﹂
﹁どうしますか 会得するには危険が過ぎ、会得した所でナルト程の成果を得られな
い。それでも仙術の修行を続けますか
?
?
﹁分かりました。それでは仙術の修行を続けましょう。まずは自然エネルギーを感じ取
サスケの答えを聞いたアカネは機嫌良さそうに笑う。
あった。
たかだかチャクラ量が劣るだけで負けるわけには行かない。それがサスケの考えで
ない。それを相手よりも上手く活用した者が勝者となるのだ。
チャクラ量も、忍術も、幻術も、体術も、戦術も、仙術も、それらは全て手段に過ぎ
かして戦うのが忍なのだ。
例え少ないチャクラだろうとそれでもナルトを上回る。手に持つ手段を最大限に生
ネルギーが少なくとも、それもこれまでと変わらないだけの話。
そう、サスケのチャクラがナルト以下なのは今までも同様なのだ。取り込める自然エ
らば何の問題もない﹂
も、そしてこれからもだ。仙術も術である以上武器の一つ。質で劣っても使い手が上な
﹁少 な い チ ャ ク ラ も 要 は 使 い 様 だ。そ う や っ て オ レ は ナ ル ト に 勝 っ て き た。こ れ ま で
アカネの問い掛けにサスケはしばし沈黙し、そしてニヤリと笑う。
﹁⋮⋮﹂
581
﹂
る事からですが⋮⋮修行の前に言った様に、私がいない時には絶対に仙術の修行をして
はいけませんよ
である。
動物とは読んで字の如く動く物である。動かずに居続ける事は非常に難しく辛いの
だが、実際にそれを実行する事は困難だ。
その為には指先一つ動かさずにじっとしなければならないのだ。聞くだけだと簡単
が出来る。
自然エネルギーは生物としての流れを止め、自然の流れと調和して初めて感じ取る事
﹁ではじっとして自然エネルギーを感じ取る修行を再開します﹂
サスケも御免であった。
誰かにそれを止めて貰わなければ一度の失敗で永遠に自然物の仲間入りだ。それは
込み過ぎた場合は石に変化してしまうと聞けば納得もする。
最初に聞いた時はその理由が分からなかったサスケだったが、自然エネルギーを取り
﹁ああ⋮⋮オレも石になんかなりたくないからな﹂
?
てしまう。
今までの修行と全く別物の修行にサスケは地獄の修行の方がまだ楽だったとこぼし
﹁くっ⋮⋮激しい修行の方がまだ楽だぜ⋮⋮﹂
NARUTO 第十九話
582
﹂
それを聞いたアカネは仙術を会得したら次は仙術の修行が楽だったと思わせてやろ
﹂ どうしたアカネ
うと考え││突如として愕然とした。
お、おい
?
﹁な⋮⋮
﹁⋮⋮
?
⋮⋮マダラ﹂
?
そのチャクラを感じ取り、アカネは驚愕に目を見張った。
うちはマダラ。かつての同志にして好敵手にして、そして最高の友。
﹁穢土転生⋮⋮なのか
心配するサスケを気に掛ける事も出来ずにアカネは小さく呟いた。
今までアカネと接して来て、こんな反応をしたアカネを見たのは初めてなのだ。
急に振り返ってあらぬ方向を見つめて目を見開くアカネにサスケは驚愕する。
?
!
583
NARUTO 第二十話
木ノ葉の里から数km程離れた場所にある森の中。
そこに一人の男が立っていた。仮面を被り顔を隠した男はそこでじっと誰かを待っ
ていた。
﹁⋮⋮来たか﹂
待つ事僅か十数秒。僅かなチャクラを発してからその程度の時間でのご到着だ。
流石は、等とは男は思わない。何故なら相手は日向ヒヨリ、その転生体。ならばこの
程度の所業など造作もない事なのだ。
仮面の男の前には何時の間にか日向アカネが立っていた。二人は僅かに互いを見や
り、そして懐かしそうに仮面の男が口を開いた。
﹁お前ならばオレの発した僅かなチャクラを感じ取る事が出来ると思っていたぞ﹂
仮面の男││うちはマダラは仮面を外すことなく会話を続ける。
﹁⋮⋮マダラ﹂
るとはな⋮⋮久しいなヒヨリ﹂
﹁まさか転生するなど思ってもいなかったぞ。身体は違えどこうして再びお前と相対す
NARUTO 第二十話
584
その言葉からマダラが何らかの目的があってアカネをこの場に呼び出した事が分か
る。
で は そ れ は 一 体 何 な の か。今 の マ ダ ラ は 暁 の 象 徴 と も 言 え る 外 套 を 羽 織 っ て い る。
それが意味する所は一つしかないだろう。
暁の一員であるマダラの用件。それが碌な物ではないと予想しつつ、アカネはマダラ
﹂
が何かを言う前に先にマダラにある確認をした。
﹁お前は⋮⋮穢土転生で操られているのか
﹁⋮⋮穢土転生の術者は大蛇丸なのか
﹂
﹁だがオレは操られてなどいない。オレはオレの意思で動いている﹂
わしくない黒ずんだ瞳が⋮⋮。
そこには穢土転生の証である黒ずんだ瞳があった。写輪眼を持つマダラには似つか
ネは白眼にてマダラの仮面の裏を透視しているのだ。
そして例え実は死んではおらず生きていたという可能性もあるかもしれないが、アカ
的な復活くらいしかアカネは想像が出来なかった。
柱間と闘い死んだはずのマダラがこうして今ここにいる理由は穢土転生による擬似
やはりそうか。マダラの返事を聞いたアカネは内心でそう呟く。
﹁ふ⋮⋮流石に分かるか。そう、今のオレは穢土転生で蘇った身だ﹂
?
585
?
﹁そうだ。お前への対抗としてオレを穢土転生したのだろうな。だが、その為にオレを
生来の実力に近しく蘇らせてしまった。縛りきる自信があったのかもしれないが⋮⋮
ふ、三忍の名を舐めてもらっては困る﹂
確かに今のマダラは誰かに操られている様子はない。だが操られていないという保
証もまたなかった。
会話だけは自由意志を持たせておいて肉体の主導権のみを得る事も穢土転生は可能
だった。そうであるならば油断するわけには行かないだろう。
ほしい。お前がオレに協力してくれるならばそれに越した事はないのだからな﹂
﹁まあ、それを信用しろというのは無理があるだろう。だが、オレの話は最後まで聞いて
﹂
たアカネはその内容を聞く事にした。
一体何の協力をさせようと言うのか。疑心暗鬼ではあるが、マダラの話に興味を持っ
﹁協力
?
﹂
?
はない。知っているからこそ答えられなかったのだ。
その質問に対してアカネは何も答える事が出来なかった。いや、答えを知らない訳で
﹁それは⋮⋮﹂
くんだ
﹁そうだ。⋮⋮なあヒヨリよ。オレ達が目指した平穏な世界には一体いつになったら届
NARUTO 第二十話
586
長きを生きるアカネはそれを理解していた。人間が生きる世界で完全なる平穏など
有り得ないという事を。
人が二人いれば大小の差はあれど争いは起こる。どれだけ仲が良く協力して生きて
いても競争とは起こる物なのだ。そしてその競争の果てが戦争である。
極端だがつまり完全なる平和・平穏とは人が生きていく社会では達成する事は出来な
いのだ。
それでも世界には争いが蔓延っ
?
﹂
る⋮⋮。だが それでも私達がした事は無駄じゃなかった
生まれ、無駄な死は少なくなった
争いの中にも秩序が
!
!
が 出 来 た 事 で 小 競 り 合 い は 減 っ た。だ が そ の 代 わ り に 里 と 里 の 戦 争 が 出 来 上 が っ た。
﹁違うな。オレ達がした事は新たな戦争を産み出しただけだ。確かに里というシステム
だが、激昂するアカネに対してマダラは冷たく言い放つ。
遂げた成果。それらを否定する事は例えマダラと言えども許す事は出来なかった。
自分達がしてきた事は無駄ではない。あの最悪の戦国時代を変える為の努力と、成し
!
!
﹁そんな事はない 確かに未だに世界には争いはあるし、今でも人は傷つけあってい
ている⋮⋮無駄だったのさ、オレ達がして来た事はな﹂
しない。オレが死んでからどれだけの時が流れた
﹁そうだ。オレ達が目指した平和な世界にはいつまで経っても到達する事なんか出来や
587
﹂
結局は回数が減っただけでその規模は逆に大きくなった。これを無駄と言わずに何と
言う
﹁な⋮⋮
﹂
?
を滅ぼし尽くせばいい。そうすれば人と人の争いはなくなり、自然本来の必要な争いし
いや、答えだけならば幾つかはあるだろう。例えばだが、この世に生きる全ての人間
か。
だがどうやって実現するというのか。それを問われて答えられる者はいるのだろう
恒久的な平和の実現。確かにそれが可能ならば素晴らしい事なのかもしれない。
!?
﹂
そんな想いを籠めたアカネの言葉を遮って、マダラはアカネに告げる。
いた。
争いの少ない平和な世界を知っているアカネにはそれが夢物語ではないと実感して
いるのだ、今は無理でもいつかはそこに行きつく。
争いを無くす事は無理でも限りなく少なくする事は出来る。時代は常に流れ続けて
も││﹂
に近付いている。今は無理でも、完全には無理でも、それでもいつかは戦争がない時代
﹁それでも確実に犠牲者は減っている。あの血に塗れた時代と比べれば世界はより平穏
?
﹁恒久的な平和。それが実現出来るとしたらどうする
NARUTO 第二十話
588
か残らなくなる。
だがそれは本末転倒だ。人が生きていく中での平和が必要だからこそアカネは柱間
達と努力してきたのだ。肝心要の人がいなくなれば何の意味も持たないだろう。
てしまった。
﹂
﹁⋮⋮一つ、いや二つ聞きたい事がある﹂
﹁⋮⋮なんだ
その方法とは一体何だ
?
だが何故世界を平和にする為に柱間と殺し合う必要があったのかがヒヨリには理解
る為だと言っていたという。
ヒヨリであった当時に柱間にもそれを確認したが、柱間曰くマダラは世界を平和にす
り広げた理由だ。
アカネが一番確認したかった事。それはマダラが自分達を裏切って柱間と死闘を繰
?
?
﹁何故、柱間と闘った
﹂
だがそれ以外の何かでマダラは嘘を吐いている。それもまた長年の経験で理解出来
自信を持って答えるマダラに嘘はない。それはアカネの長年の経験で理解出来た。
を齎す事が出来る﹂
に世界を変えろと言っているのだ。そしてお前が協力してくれれば確実に世界に平和
﹁オレにはその手段がある。こうして穢土転生で復活出来たのはまさに好機、天がオレ
589
出来なかった。
そしてもう一つ、恒久的な平和とやらを実現する方法。それが本当ならば確実に非人
道的な方法になるはず。そうであるならば協力など出来るわけがない。
﹂
﹁⋮⋮柱間とオレは結局相容れなかったのさ。オレの考えを柱間は理解出来なかった。
ならばオレの邪魔になる前に消すしかなかった﹂
﹁そんな事で⋮⋮そんな事で私達を裏切ったのか
ろう
互いの一族で殺し合って、な﹂
﹁それも全ては世界の為なのさ。目的に至るまでに犠牲は必要だ。オレ達もそうしただ
?
﹂
忍の数は十や二十などでは利かないだろう。
ヒヨリも、それぞれの一族として他の一族と戦って来たのだ。そこに至るまでに死んだ
マダラの言葉は間違ってはいない。里というシステムを作るまでに柱間もマダラも
?
!
﹁オレにはお前が必要だ。共に平和な世界を作り上げ、そして共に生きようではないか﹂
そう憤慨するアカネにマダラは優しく語りかける。
は間違っている。
犠牲が必要なのは仕方ないかもしれないが、だからと言ってそれを当然と割り切るの
﹁お前が協力してくれればその犠牲も限りなく少なくすむ﹂
﹁だからと言って⋮⋮
NARUTO 第二十話
590
それはアカネにとって甘美な誘いだ。平和な世界が実現する事は当然望む所ではあ
るし、友であるマダラと共に生きる事も否はない。
﹂
だがその前に最後の確認が残っている。肝心要の平和な世界を実現する方法。それ
を聞かなければ話は始まらないだろう。
﹁⋮⋮どうやって平和な世界を実現するつもりだ
﹁⋮⋮もう一度聞く。お前は穢土転生で操られてないんだよな
﹁お前⋮⋮何者だ
﹂
る為にアカネはある言葉を言う。
﹂
だが、そんな事は関係なくアカネには確信出来る事があった。そして、それを実証す
ているし、マダラならばそれが可能なほどの実力を持っている事もまた知っている。
穢土転生で復活した者がその縛りを解く事は不可能ではない。それはアカネも知っ
﹁当然だ。まあ、それを証明しろと言われても証明しようがないがな﹂
?
こには争いもわだかまりもない。完全なる平穏が待っている﹂
﹁全ての人間を幻術の中でコントロールする。誰もが望む世界をそれぞれに与える。そ
やはりか。そう落胆したアカネを他所にマダラは次々と己の理想を吐いて行く。
それはアカネが想像した中で全ての人間を殺す手段を除き最悪の手段の一つだった。
﹁月に己の眼を投影する大幻術、無限月読にて全ての人間に幻術を掛けるのさ﹂
?
591
!?
﹁
何を言う。オレはうちはマ││﹂
﹂
レ達を欺く演技の可能性もある
柱間だと
﹂
!
﹂
﹁何の目的でここに来た ⋮⋮どうした、お前はうちはマダラなんだろう
!?
そして怒りを籠めて残りの言葉を言い切った。
マダラの、いや仮面の男のその反応でアカネは完全に理解した。
アカネの突然の言葉にマダラは辺りを警戒する。
﹁なに⋮⋮
?
!
!
ら⋮⋮何故この言葉で怒りを顕わにしない
・・
?
!?
﹂
?
ズナを思って、イズナの為に里を作り上げたマダラが⋮⋮
それを無駄だったなどと
﹁貴様が⋮⋮貴様が私達の夢を無駄だと言った時からだ⋮⋮マダラが、あれだけ弟を、イ
﹁⋮⋮いつから気付いていた
﹁上手くマダラを演じたな⋮⋮私も最初は騙されかけたよ﹂
を剥がす事となった。
当人達だけが知る何らかの暗号か何かか。とにかくそれを知らなかった男はメッキ
!!
だった
﹁油断すんな柱間 どっかに他の敵が潜んでるかもしれないぜ こうしてるのはオ
マダラの言葉を遮ってアカネは更に言葉を続ける。
?
﹁⋮⋮﹂
NARUTO 第二十話
592
!
口にするか
マダラの想いを侮辱したな⋮⋮イズナァァァ
﹂
!!
う。
良くぞ見抜いた 警戒に警戒を重ねていたつもり
クラが物質的な圧力すら伴ってマダラに、いやマダラの体を操っているイズナへと向か
アカネの身から怒りと共にチャクラが噴き溢れた。尾獣すらも凌駕する膨大なチャ
!
何故貴様がマダラを操っている
﹂
何故貴様が今も生きている
﹂
!?
出来ない所業である。
﹁イズナ
!
アカネがマダラを操っている存在がイズナだと気付いたのはマダラの演じ方が完璧
!?
穢土転生体に幻術を掛ける事は出来るが、それでも意識を乗っ取り操る事は幻術では
なのだから当然だ。
生の術者が大蛇丸というのも大嘘であった。穢土転生体は術者以外には操る事は無理
それこそがうちはマダラの肉体を操っている張本人であった。最初に言った穢土転
願った唯一無二の存在。
うちはイズナ。うちはマダラに残された最後にして最愛の弟。マダラが守りたいと
いた。
だがそのチャクラの暴威を受けたマダラは、いやイズナはそれを涼しげに受け止めて
だったが、まだオレはお前を見くびっていたようだ
﹁ふ、ふふ⋮⋮ふはははははは
!
!
!
593
だったからだ。その口調に表情の変化、更に何十年も前の状況を詳しく知っており、マ
ダラを生前の実力に近しく穢土転生にて蘇らせた上で操る事が出来る。その全ての条
件を満たす者などイズナ以外には考えられなかったのだ。
だが、アカネもそこに至った理由や原因までは理解出来ない。それを知るには当人か
﹂
ら聞きだすしかないだろう。アカネは木々を軋ませる程のプレッシャーと共にイズナ
を詰問する。
﹁何故オレが兄さんを操っているか⋮⋮だと
!!
気を顕わにした。
﹂
﹂
仮面をゆっくりと剥がしていき、それを握りつぶしたイズナはアカネに劣らぬ程の怒
?
貴様が、貴様らがそうさせたんだろう
どういう事だ
﹁それを貴様が言うか
﹁なに⋮⋮
!
!
そんなアカネに対してイズナは怒りのままに叫び続けた。
イズナの言葉に身に覚えがないアカネはそれがどういう意味なのかを問う。
!?
﹂
れを許容した
﹁な⋮⋮
!
!
﹂
どうして千手柱間なんぞが里の長になる どうして兄さんはそ
!
!
全部⋮⋮全部貴様と柱間のせいだろう
!
くてはならない
﹁貴様らが兄さんを変えた どうしてオレ達の兄弟を殺した千手なんかと手を組まな
NARUTO 第二十話
594
!
それはイズナがずっと溜め込んできた想いだった。
千手一族は五人いたイズナの兄弟の内三人を殺した憎い敵だ。それは兄のマダラも
同じ想いだった。そのはずだった。
それを変えたのが当の千手一族である千手柱間であり、そして二人の癒着剤の役目と
なっていた日向ヒヨリであった。
千手柱間がいなければ。そうであれば忍の世を支配していたのは兄のマダラだった。
日向ヒヨリがいなければ。そうであれば兄のマダラは千手柱間と手を取り合うなど
なかった。
それがイズナの考えである。
そうして得られる物は何だ
認した兄さんを見続けて生きろと言うのか
﹁イズナ⋮⋮お前⋮⋮﹂
﹂
里が出来て一族の争いが
!
それを容
僅かな名誉か ふざけるな
下らない争いにオレ達うちはは便利な道具とし
れば憎い千手とも手を取り合った だが現実はどうだ
!
?
なくなったら次は里と里の争いだ
て刈り出される
!
そんな事で⋮⋮そんな下らない物の為に弟達の無念を諦めろと言うのか
?
!
そこまでの闇を抱えて生きていたのか。
!!
!
!
!
﹁いや、オレだって平和な世界がそれで実現出来るなら我慢もした 兄さんに頼まれ
595
ヒヨリであった頃、ヒヨリはイズナと対面した事はほとんどなかった。イズナが避け
ていた事は知っていた。だが、ここまで思い詰めていたとは思ってもいなかったのだ。
た。どれだけの犠牲を払っても、どれだけの我慢を強いても、今のやり方で完全な平和
﹁第 一 次 忍 界 大 戦。そ の 終 わ り が 全 て の 始 ま り だ っ た の さ。あ の 戦 争 で オ レ は 理 解 し
は手に入らないってことがな﹂
﹂
アカネに思いの丈をぶつけつつ、イズナはかつての記憶を掘り起こしていた。
◆
﹁イズナ⋮⋮どうすれば分かってくれる
?
﹂
!
それに、柱間のやり方では本当の平和なんて手に入りやし
!
!
ズナは里というシステムでも完全な平和には至れないと今のやり方に見切りをつけた
その原因はイズナが木ノ葉から離反しようとマダラに持ちかけた事から始まる。イ
主であるうちはマダラとその弟うちはイズナは言い争っていた。
第一次忍界大戦が終結した木ノ葉の里。その中のうちは一族の所有地にて、一族の当
ない
具として使われるだけだ
﹁兄さんこそ分かってくれ 今のままじゃオレ達うちはは里に組み込まれて永遠に道
NARUTO 第二十話
596
のだ。
族が木ノ葉から離反したところでその結果は見えていたからだ。
そう考えていたイズナはそれでもすぐに発起したわけではなかった。例えうちは一
迎えた終結などいつ崩壊するか分かったものではない。
いない。先の大戦は木ノ葉の三忍による圧倒的な力により一応の終結を迎えたが、力で
それでも平和が訪れるならばまだ我慢も出来たが、実際には戦争は未だになくなって
苦痛だったのだ。
になれていないイズナにとって、家族や仲間を殺した連中と歩みを共にする事は非常に
だがそんなマダラの言葉はイズナには届かなかった。マダラ程に千手に対して寛容
いつかは平和な世界に行きつくはずだと。今焦る必要はないのだと。
者が、それで無理でもその更に次代の者が世界を少しずつ良くしてくれる。そうすれば
例え自分達の代でそれを成せなかったとしても、その想いを引き継いでくれた次代の
向かって歩み続けるしかないのだ。
一度に全ての争いを無くすことなど出来はしない。それを成す為には少しずつ目標に
だがマダラはそれは早計だとイズナを諭した。確かに戦争は未だになくならないが、
一族間の争いを失くす事は出来た。オレ達は少しずつだが前に進んでいるんだイズナ﹂
﹁今すぐに平和を実現する事なんて出来やしないさ。だが、永遠に続くと思われていた
597
木ノ葉が誇る三大戦力である千手・うちは・日向。その力はほぼ拮抗している。うち
はのみが離反したところでその結果は想像に難くないだろう。
だが今のイズナはそれを覆す手段を手に入れていた。正確には、その手段に至れる方
法を知ったというべきか。
どういうことだイズナ
﹂
﹁兄さん、オレと眼を交換してくれ﹂
﹁なに
?
どうしてそんな事をお前が知っているんだ
﹂
が落ちる事のない永遠の万華鏡写輪眼を手に入れる事が出来るんだ
﹁なんだと
!?
﹂
!
視力
それはうちは当主であるマダラも知り得なかった事である。真実か否かはともかく、
!?
!
全身が痛むのだ。
使えば使うほどに視力を徐々に失っていき、更に肉体に掛かる負担も大きく使う度に
イズナの言う通り、万華鏡写輪眼は強力だがデメリットもまた大きかった。
の分反動が大きい﹂
﹁オレ達は互いに万華鏡写輪眼に目覚めている⋮⋮でも、万華鏡は強力な瞳術だけどそ
そんな事をして何の意味があるというのだろうか。
突如として眼を交換してくれなどと言い出したイズナにマダラは理由を問いかける。
?
﹁だけど万華鏡写輪眼を開眼した者同士が瞳を交換するとその反動がなくなる
NARUTO 第二十話
598
何故それをイズナが知っているのか。それがマダラには解せなかった。
くとも、それだけでイズナには全てを賭ける事が出来た。
﹁⋮⋮永遠の万華鏡を手に入れてどうするつもりなんだイズナ
﹂
﹁千手柱間に勝負を挑む﹂
﹁なに
?
勝てる忍など数える程だ。
いや、イズナは強い。マダラと共に研鑚を積み万華鏡写輪眼を開眼しているイズナに
千手柱間に勝負を挑む。それはまさに自殺行為と言えた。
?
﹂
賭けにはなるが、上手く行けば真の平和を得る事が出来る。例えどれほど可能性が低
り、そしてうちは一族に伝わる石碑に書かれていた事をイズナなりに解釈すれば⋮⋮。
そう、その偶然をイズナは天恵と受け取ったのだ。これに書いてある事が真実であ
レにはそれが天命に思えたよ﹂
﹁オレだって驚いたよ。蔵の整理をしている時に棚の上からこれが落ちてきたんだ。オ
﹁確かに⋮⋮そう書いているな⋮⋮だが、こんな書物があったとは⋮⋮﹂
はじっくりと読み進めて行く。
そう言ってイズナは懐に収めていた古びた書物をマダラへと手渡す。それをマダラ
﹁うちはに伝わる古文書を紐解いていた時に見つけたのさ⋮⋮これだよ﹂
599
だが柱間はその数える程の中に加わっている忍なのだ。例え永遠の万華鏡写輪眼を
手に入れた所でイズナが柱間に勝てるとはマダラには到底思えなかった。
だからだろう。次のイズナの言葉にマダラが肯定してしまったのは。
﹁頼むよ兄さん。これでオレが柱間に負けたら、その時は今の木ノ葉の全てを受け入れ
るよ﹂
ありがとう兄さん
﹂
﹁⋮⋮分かった。ただし、戦うのは柱間一人だ。他の忍や里を巻き込む事は許さん﹂
﹁ああ、もちろんだ
!!
◆
それが⋮⋮悲劇の始まりとなった。
そうして二人は互いの両眼を交換し、共に永遠の万華鏡を手に入れた。
!
﹂
貴様らがいなければ兄さんはオレの意見に賛同してくれたんだ⋮⋮オ
レが兄さんを操らなくてはならないのは貴様らのせいだ
!
﹁ふざけるな どうしてお前がマダラを操っているか、その経緯は分からん⋮⋮だが
まるで子どもの癇癪の様な叫びを聴いてアカネは苛立ちを募らせる。
!
操っている
﹁オ レ は 貴 様 ら の 作 っ た 偽 り の 平 和 で は な く、真 の 平 和 を 作 る 為 に こ う し て 兄 さ ん を
NARUTO 第二十話
600
!
マダラがお前の野望に反対した事は間違いないんだろう
﹂
だというのに、マダラ
!
を操ることで無理矢理協力させている奴が⋮⋮どの口でほざく
!
!
﹂
﹁それはこちらの台詞だ 何度も言わせるな⋮⋮貴様らさえいなければ良かったのだ
601
!
﹂
!
﹂
?
前の一割から二割は落ちるだろう。それではアカネに勝てるわけもない。
無限のチャクラを有しており、朽ちる事のない肉体を持っているが、実力としては生
なると穢土転生では再現出来る力に限界があるのだ。
いや、並の忍ならばそれも可能だろう。だがうちはマダラという世界最強の一角とも
る事が出来るわけではなかった。
アカネの言う通り、穢土転生は死者を蘇らせるがそれは生前と完全に同じ力で蘇らせ
となっているマダラで私を倒せると思っているのか
﹁やってみるがいい。だが、いかにマダラを操っているとはいえ、穢土転生で不完全な力
⋮⋮ここでくたばれ死に損ないが
言うのならば全てを許すつもりだったが、そうでないならば貴様は計画の最大の障害だ
﹁兄さんを操っているオレには世界を平和に導く使命と義務がある。貴様が協力すると
ているイズナにアカネの言葉は届きはしなかったのだ。
話は完全に平行線であった。全ての原因を千手柱間と日向ヒヨリのせいと決め付け
!
だがイズナはアカネの台詞を聞いて不敵に笑った。
﹁ふ、確かにお前の言う通り、今の兄さんの体でまともに戦ってもお前に分があるだろう
な﹂
﹁⋮⋮何を狙っている﹂
イズナのその言葉からアカネはイズナがまともに戦うつもりがないという事を見抜
いた。
ならばどうやってアカネと戦うつもりなのか。口で説明するよりもその身で理解さ
⋮⋮こうするのさ
﹂
せてやる。そう言わんばかりにイズナはマダラを操ってその力を開放した。
﹁何を狙っているかって
!!
ならない程の影響を与える力の権化。
その力は天を裂き地を砕き山を断つ。地形を大きく変えて地図を書き変えなければ
使用可能となる須佐能乎の、言葉通り完成体だ。
完成体須佐能乎。かつてのマダラの最強の力。両目の万華鏡を開眼したもののみが
?
それを⋮⋮イズナは木ノ葉の里に向かって振り下ろした。
﹂
!?
は木ノ葉から空に向かって方向を修整されてそのまま天を貫いて消えて行った。
天から振り下ろされた須佐能乎の剣をアカネは廻天にて逸らし弾く。須佐能乎の力
﹁っ
NARUTO 第二十話
602
地形を変える一撃を見事に捌き切ったアカネにイズナは賞賛の言葉を送った。
切るとはな﹂
!
﹂
!?
まともな戦闘ならば避ければ済むものを、木ノ葉を守る為に常に庇い続けなければなら
それを防ぐ為に、アカネは身を挺して須佐能乎の力を受けなければならない。これが
い。
を半壊させるだろう。その時に生まれる犠牲は数え切れないものとなるのは間違いな
須佐能乎の力は数km離れていようが確実に木ノ葉に届き、そしてたったの一撃で里
る。
アカネが大切にしている友と作り上げた掛け替えのない木ノ葉を人質にしたのであ
る最高にして最悪の戦術。
そう、それがイズナの作戦。厄介なアカネを足止めし、そしてまともに戦わずに封じ
を守りながらいつまで耐えられるかな
﹁気付いたか。そう、確かに貴様は強い。その力は忍界最高だろうさ。だが⋮⋮木ノ葉
ろかイズナの最悪の戦術を理解して怒りを顕わにしていた。
イズナからの賞賛の言葉を聞いてもアカネは少したりとも嬉しくはない。それどこ
﹁き、貴様⋮⋮
﹂
﹁流石は日向ヒヨリ。この一撃を受けて傷一つ負わないばかりか、見事に木ノ葉を守り
603
ない。
そんなアカネに対してイズナはただ全力で木ノ葉に向かって須佐能乎の力を振り下
﹂
貴様が⋮⋮貴様がいなけ
お前は、お前はマダラの想いを砕こうとしているん
ろせばいい。この状況でどちらが有利かなど言うまでもないだろう。
﹂
﹁イズナ 分かっているのか
だぞ
ればこうする必要もなかったんだよ日向ヒヨリィィィ
﹁何度も⋮⋮何度も言わせるな 貴様が兄さんを語るな
!
﹁く、うう
﹂
そらそら
いつまで持つかな
!
﹂
!
佐能乎を受け止める程の廻天となるとその消耗は当然激しい物となる。
うと戦い続けるチャクラを有していようと、いずれは尽きる。しかもマダラの完成体須
だが人である限りどんな事にも限界という物が存在する。三日だろうと一週間だろ
は並ぶ者がいない。
アカネのチャクラは膨大であり、そのスタミナも同様であり、そして磨き上げた技術
!
!
影響のないように空に向けて力の方向を変えて行く。
その全てをアカネは廻天にて受け流し、逸らし、木ノ葉に、そして出来るだけ周囲に
イズナは咆哮と共に須佐能乎の剣を木ノ葉に向けて幾度となく振るう。
!!
!
!
!
!?
﹁はっははははは
NARUTO 第二十話
604
対してイズナの操るマダラの肉体は穢土転生で作られた物。穢土転生体のチャクラ
はまさに無限。出力そのものは生前を元としている為限界はあるが、どれだけ術を放と
うともそのチャクラが尽きる事はない。
持久戦に置いて穢土転生に勝てる者はこの世のどこにも存在していないのだ。強い
て言うなら術者の体力はいずれ尽きるだろうが、アカネと比べてどちらの消耗が早いか
そ
など言うまでもない。そも、術者の体力が尽きようと、術者が死のうと穢土転生は止ま
貴様が勝つのは簡単だぞ 木ノ葉を見捨てればいい
﹂
!
らない。持久戦でアカネに勝ち目等有りはしないのだ。
﹁どうした日向ヒヨリ
﹂
れだけで貴様はその力を十全に振るう事が出来るのだからな
!
!
!
自らそれに枷を嵌めている
﹂
んだよ
﹂
﹁はあっ
﹂
!
﹁ぬ
!
!?
木ノ葉を背にしている時点で貴様の勝ちはなくなった
﹁愚かな奴だ 誰よりも強い力を持ちながら、無駄に優しい心を持っているからこそ
てそれを嘲り笑っているのだ。
そんな事がアカネに出来る訳がない。イズナはそう理解しているからこそ、勝ち誇っ
﹁く⋮⋮っ
!
!!
!?
605
アカネはイズナの嘲笑を無視して廻天にて須佐能乎の力を逸らしつつ、その猛撃の合
間を縫って八卦空掌にて反撃をする。
その一撃はマダラを覆う須佐能乎によって防がれてしまう。須佐能乎は最高の攻撃
力を誇ると同時に最高の防御力も兼ね備えているのだ。
だが、防ぎはしたがマダラの肉体は八卦空掌の威力に押されて数十メートルも後方に
吹き飛ばされた。その事実にイズナは驚嘆する。
﹁⋮⋮心底、貴様に守るべき物がある事を安堵するぞ。完成体須佐能乎の攻撃を受けつ
つここまでの反撃に転じる事が出来るとはな﹂
そう言いつつもイズナは攻撃の手を緩めない。イズナはアカネの狙いを理解してい
た。アカネは須佐能乎の力が木ノ葉に及ばない位置までマダラの肉体を移動させよう
としているのだ。
そうすれば木ノ葉を気にせずに攻撃に集中する事が出来る。だが、イズナがそれを理
﹂
解していながらアカネの狙いを許すわけがなかった。
!?
流石のアカネも初見にてそれに対応することは出来なかったようだ。だが、知識とし
襲ったのだ。
突如として謎の力にて吹き飛ばされるアカネ。目に見えない何らかの力がアカネを
﹁ぐぅ
NARUTO 第二十話
606
て知っていた為にそれが何であるのかは理解した。
﹂
八卦空掌により吹き飛ばされた距離を一気に詰めて元の位置に戻ったイズナにアカ
ネは問い掛ける。
﹁馬鹿な⋮⋮何故お前に、マダラの両目に輪廻眼がある
外の事態だ。
?
冠した十二の基本印とは全く違う印だ。恐らく秘伝忍術か血継限界の類いなのだろう。
だがイズナが組んでいる印は見た事もない印だった。子・丑・寅と言った干支の名を
合わせて組まれ方に法則があるので大抵は予測出来る。
が何であるかを理解する事が出来る。例え知らない印だろうと忍術の印は概ね性質に
この世界で長く生きるアカネは多くの印を知っており、印を見れば術の発動前にそれ
ないアカネはイズナがこれから使用する術が何なのか予測出来ない。
そう言ってイズナは印を組む。何をしようとしているのか、イズナが組んだ印を知ら
﹁答える必要はない⋮⋮。それよりも、これを防ぐ事が出来るかな
﹂
ペイン六道以外にも輪廻眼を、しかもマダラがそれを有している事はアカネにも予想
あった。
力は自来也を圧倒した敵ペイン六道。その中の一体ペイン天道が使用する斥力の力で
何時の間にか両眼を輪廻眼に変化させているマダラを見てアカネは叫ぶ。そう、その
!?
607
それならばアカネにも予測は出来なかった。
イズナの術を警戒するアカネだが、印を組んで術を発動するには僅かな間という物が
存在する。それを狙わないアカネではない。
だが、そんなアカネに対してイズナは嘲り笑うように口を開き、そしてアカネはその
木ノ葉が終わるぞ
﹂
言葉を聞く前に何が起こったのかを理解した。
﹁いいのか
?
﹂
人の、個人の力で隕石を落とす。それを成す者を本当に人と呼んでいいのだろうか。
現象があったのだ。
それは⋮⋮木ノ葉の里の遥か頭上。天高くから堕ちる巨大な隕石という有り得ない
こっていたのだ。
して常識を問うのもおかしいかもしれないが、そんな忍であっても常識外れの事態が起
そこには常識では考えられない物があった。いや、超常の力を使う忍という存在に対
イズナがその言葉を言い終わる前にアカネは木ノ葉へと振り向き、そして空を見る。
?
!
仙人モード。そう呼ばれる状態に至るのに要した時間は一秒未満。両目の周囲に僅
を吸収する。
言われるまでもない。アカネは両手を勢い良く合わせ、そして周囲の自然エネルギー
﹁さあ、防いでみせろ
NARUTO 第二十話
608
││
かに隈取りが浮かぶくらいの変化という完璧な仙人モードに至ったアカネはその力を
隕石に向けて放つ。
││仙法・螺旋風塵玉
即座に発動した。
が││
﹂
んでいく。瞬く間に放たれた二つの極大仙術。まさに伝説の三忍の名に偽りなし。だ
膨大な水の壁が高速で放たれた事で二つ目の隕石は砕け散りながら彼方へと吹き飛
れた八卦水壁掌だ。それは天から降り注ぐ二つ目の隕石へと放たれた。
・・・
八卦空壁掌に水遁を加える事で水の重さと高圧水流を得て圧倒的な破壊力を手に入
││仙法・八卦水壁掌
││
微塵となり風に乗って散っていく。だが、そうであるにも関わらずアカネは新たな術を
アカネはそれを巨大隕石へと撃ち放つ。螺旋風塵玉が命中した隕石は術名の通り粉
刃があらゆる物を切り刻み微塵と化すのだ。
螺旋丸に風遁の性質変化を加えた術・螺旋風塵玉。強大な螺旋の渦に籠められた風の
!
!
はアカネに向けて須佐能乎の剣を振り下ろしていた。
その言葉を言い終わる前から、いや正確にはアカネが八卦水壁掌を放つ前からイズナ
﹁良くやった。だが、隙だらけだぞ
?
609
NARUTO 第二十話
610
その一撃を避ける事はアカネには出来なかった。いや、元より避ければ木ノ葉へとそ
の力が届いてしまう。初めから防ぐ以外の方法はアカネにはない。
問題は⋮⋮そのタイミングで放たれた須佐能乎の威力を木ノ葉へと届かせない為の
廻天を発動する間がアカネにはなかった事だった。アカネに出来たのはせめてその身
で少しでも威力を減らすべくその一撃を受ける事だけだ。
イズナの凶刃が、アカネに振るわれた。
生も当然の如く、そればかりかチャクラをまともに感じ取る事が一生ないだろう一般人
それを感じ取れなかった忍は一人としていない。下忍はおろか、アカデミーの忍候補
届いていた。
一つは日向アカネ。怒りと共に発したチャクラは大瀑布の如くに木ノ葉へと一瞬で
化け物。それは二つの存在を指す言葉だった。
その原因は何かと問われれば誰もがこう言うだろう。﹁化け物が現れた﹂と。
ていた。
だが、その強国であるはずの木ノ葉の里が現在蜂の巣をつついたかの様な騒ぎとなっ
質と数。二つの力を共に有しているからこその強国だ。
の数そのものも他里と比べて多いのも強国の理由だろう。
忍里の中では比較的穏やかな風潮もあり、更に肥沃で広大な土地を持っている為に忍
のうちは一族と白眼の日向一族を有している。
多くの優秀な秘伝忍術を使える忍を有しており、血継限界も強力な瞳術である写輪眼
木ノ葉の里は忍界にある忍の隠れ里の中でも最大と言っても良い強国である。
NARUTO 第二十一話
611
NARUTO 第二十一話
612
にすら感じ取れた程だ。
この時点で木ノ葉の忍は何かとんでもない事が起こっていると漠然と理解し、アカネ
のチャクラを良く知る者達はそれ以上に恐ろしい何かが起こっているのだと恐怖した。
アカネが全力を出す事態など易々と想像は出来ないのだから当然だ。
そしてもう一つの化け物。
それが突如として森の中から現れたチャクラの巨人、うちはマダラの完成体須佐能乎
である。
数kmは離れている為に流石に須佐能乎の姿は小さく映る程度だが、逆に言えば数k
mは離れているというのにその大きさで見えるという事だ。
多くの忍や民は塀で囲まれている為に巨人を見る事はなかったが、それでも少なくな
い数の忍は高所からそれを見つけて驚愕していた。
しかもその巨人が巨大な剣を里に向けて振るっているのだ。その一撃は強大な衝撃
波となって上空を通過していく。その際に雲は散り散りとなって消し飛んでいた。
その威力は塀の中からも見えていた。雲を消し飛ばす程の威力を持つ何かが里に向
けられている。それを理解して恐慌しない者は殆どいないだろう。
特に一般人である里の住民は怯え竦んでいた。多くの忍が彼らの避難誘導を率先し
た事でパニックによる被害は少なく済んだが、それだけでも大騒ぎと言えた。
﹂
この巨人に関してはアカネを知る者達も多くが知らない存在であったが、それを理解
イタチ
する者も少ないがいた。
﹁これは⋮⋮
!
だが、オレの須佐能乎とは⋮⋮﹂
!?
いだろう。
!?
うちはマダラは当に死んでいる
そんなはずは││﹂
!
﹁だが、アカネ様から聞かされていたうちはマダラの情報と符号します。それに穢土転
そんなはずはない。その言葉は次のイタチの言葉により飲み込む事となる。
﹁馬鹿な⋮⋮
!
それを聞いたフガクはイタチの言葉を一度は否定した。
イタチはその鋭い分析力であの須佐能乎がマダラの力であると推測する。
﹁まさかあれはうちはマダラの⋮⋮
﹂
裂き、雲をかき消し、当たってもいない大地を揺るがす。まさに化け物の総称が相応し
だがイタチの目に映る完成体須佐能乎はまさに桁が違った。振るうだけで天を切り
者だ。
桁が違う。イタチも須佐能乎に目覚めている史上でも数少ない万華鏡写輪眼の開眼
﹁須佐能乎なのか⋮⋮
あれはオレの知るそれであっているのか、と。
・・
マダラの完成体須佐能乎を見たうちはフガクは隣にいる息子のイタチへと確認する。
!
613
生という例もあり、更にはアカネ様という例もまた⋮⋮﹂
﹁⋮⋮確かに。忍の世に想像を超える出来事など多いという事か﹂
そう、死者が蘇るという一例を既に二人は二回も見ているのだ。
初代火影と二代目火影の穢土転生に、転生を果たして今も生きる日向アカネ。それを
思えばうちはマダラが復活したとあっても不思議ではなかった。
!
オレは警務部隊を動かして里の住
﹁ともかくこうしてはおられん。イタチ お前はすぐに火影様にこの情報を伝えよ
﹂
!
!
!
シスイがいるとは思うが不在の可能性もある
﹂
民を避難させる
!
いた。
その根の創設者でありリーダーのダンゾウは薄暗い地下にあって地上の異変に気付
るという目的で作られた暗部、それが根だ。
同時刻。木ノ葉の地に潜む〝根〟。木ノ葉という大木を目に見えぬ地の中より支え
を超えた出来事が二人の目に映っていた。
忍の世に想像を超える出来事など多い。そのフガクの言葉をまさに表している想像
迅速を尊ぶ二人の行動は早かった。だが、その二人の動きを止める事態が起こった。
﹁はっ
NARUTO 第二十一話
614
﹁これは⋮⋮﹂
音も無く現れた一人の暗部がダンゾウへと地上の騒動を伝える。
﹁ダンゾウ様││﹂
暗部の説明を聞いたダンゾウはこのチャクラの持ち主に得心がいった。
強大なアカネのチャクラと、そしてもう一つ感じた別の恐ろしい程のチャクラの塊。
︶
この質は遥か以前にも感じた事のあるチャクラだった。
︵やはりうちはマダラ⋮⋮復活したというのか
﹁ダンゾウ様、如何いたしましょう﹂
﹁ワシ等にはワシ等のすべき事がある。ワシの予測が正しければこれより暁が攻め込ん
その冷静な態度は里の民を想っていない様にも思えるだろう。だが││
はずだ﹂
﹁それも構わん。綱手姫はお飾りではない。既に避難誘導の為の組織を向かわせている
﹁では、地上の混乱は⋮⋮﹂
下手にアカネの援護などしようものなら無駄に多くの忍を失うだけである。
ていた。
そう、うちはマダラを相手に自分達が出来る事はない。ダンゾウはそれを良く理解し
﹁放っておけ。アカネ様がどうにかするだろう﹂
?
615
で来るはず。根の者は暁に備えて里に散開。見つけ次第交戦し時間を稼ぎ、そして情報
を集めよ﹂
何時の間にか、ダンゾウの周囲には多くの根が傅いていた。
﹃はっ﹄
そしてダンゾウの命令に従って小隊を組み、木ノ葉の各地に散らばっていく。
戦って勝てとはダンゾウは命令しなかった。いや、勝つ事が出来ればそれに越した事
はないのだが、相手は暁だ。まともに戦って勝てたら苦労はしないだろう。
最も大事なのは最終的に勝つ事だ。場当たり的に交戦するのではなく、防御に徹して
時間を稼ぎ被害を少なくし、敵の能力などの情報を手に入れて多くの仲間に伝える。
そうすればいずれ敵は丸裸となり対処も容易になるだろう。感情のままに動くので
はなく感情を制御して里の為に貢献する。それが根の役目なのだ。
同時刻。火影である綱手と共に日々の業務をこなしているうちはシスイもイタチと
上へと赴いた。
かつてのある事件にて持ち出せなかった覚悟を、今この時に胸に秘めてダンゾウは地
時代は流れている。既に木ノ葉は磐石だ。
﹁さて、そろそろワシも⋮⋮﹂
NARUTO 第二十一話
616
同じく須佐能乎の正体とその術者を見抜いていた。
﹂
!?
えるとその答えに行きついたのだ。
!
ないヒザシではない。
だが、あのアカネと同等の力を持つ伝説の三忍が敵に回る。その恐ろしさを理解出来
先程のチャクラはその為だったのだろう。
まだ里が無事なのはアカネが守ってくれているからだとヒザシには理解出来ていた。
力を木ノ葉へと向けている。
何が原因かは分からないが、うちはマダラが復活した。しかも見た限りマダラはその
言葉に驚愕する。
シスイと同じく火影の警護と業務の手助けを任務としていた日向ヒザシもシスイの
﹁うちはマダラが蘇ったと言うのか⋮⋮
﹂
そしてその情報とシスイ自身の須佐能乎、そしてあの凄まじい須佐能乎を統合して考
の称号を持つマダラについて語ってもらった事がある。
うちは一族でアカネの正体を知る四人は、アカネに自分達の先祖にして最強のうちは
能乎、恐らくはその使い手もまたマダラかと⋮⋮﹂
﹁恐らくは⋮⋮。あれは以前にアカネ様からお話して頂いたうちはマダラの完成体須佐
﹁間違いないのかシスイ
617
﹁綱手様
﹂
﹁分かっている
今はばあ様が守ってくれているがいつまでもそれで良い訳がない
!
﹂
恐らくフガクなら既に動いてくれていると思うがそれで
緊急避難の訓練を積んでいた小隊をすぐに向かわせろ
まずは里の民の避難だ
は手が足りん
!
らんぞ
﹂
﹂
!?
今は僅かな時間も⋮⋮こ、これは﹂
!
僅かな時間も惜しい。そう言おうとした綱手は空を見上げてその一言を発する事が
﹁急ぐぞ
そう言っているのだと。
綱手の言葉を二人はすぐに理解した。この騒動に合わせて暁が攻めて来る。綱手が
﹁暁
!?
﹂
﹁次に各一族の長に木ノ葉襲撃に備えるよう通達しろ。この騒動、マダラだけでは終わ
小隊を組織していたのだ。
注力するのは当然の事だ。その為に里の避難場所へと民を誘導する訓練を積んだ忍の
一度受けた痛みだ。次に同じ事があればそれを失くす、少なくとも被害を減らす事に
たパニックによる被害が大きかった。
三年前の木ノ葉崩しは忍による被害こそ少なかったがその実逃げ惑う住民が起こし
!
!
!
!
!
﹁⋮⋮まさか
NARUTO 第二十一話
618
出来なかった。
﹂
空を見上げて呆然とする綱手と同じく、シスイとヒザシもまたそれを見て驚愕するし
か出来ないでいた。
﹁ば、馬鹿な⋮⋮﹂
﹂
綱手様こちらに
﹂
が呆然とした所でそれを咎める事が出来ようか。
﹁シスイ
﹂
天を覆い隠すよう大岩。そんな物が頭上から落ちて来ているのを見て、一瞬ではある
いただろう。
呆然とする三人。いや、この時木ノ葉の殆どの忍がそれを見て同じように呆然として
﹁これが⋮⋮人の業だと言うのか
?
私よりも少しでも里の民を
!
﹁分かっている
お前ら何をする
!
!
!
だが、頭上から落ちる圧倒的な質量は並大抵という言葉を遥かに凌駕しているのは明
るつもりなのだろう。
須佐能乎の防御力は並大抵の攻撃では超える事は出来ない。なのでそれで綱手を守
絞めにしてでもだ。
シスイは綱手を自らの須佐能乎の中に閉じ込める。外へ出ようとする綱手を羽交い
﹁っ
!
!
619
白。だからヒザシは須佐能乎の中に入らなかった。
僅かでも威力を軽減するべく須佐能乎の前にて廻天を展開するヒザシ。命を懸けて
死ぬぞ あんな岩程度私が砕いてやる
!!
だからお前が須佐能乎
火影を守る。それこそが火影の左腕に選ばれたヒザシの任務なのだ。
﹂
﹁止めろヒザシ
の中に
!!
また多いはず
その時あなたは必要なのです
﹂
!
!
!
応しい。
相応しく、今後の木ノ葉に必要な人物なのだ。そんな火影だからこそ命を懸けるのに相
里の為に、部下の為に命を懸けて大岩を砕こうとする。そんな綱手だからこそ火影に
のも気付いていた。
らせる為の嘘だと気付いていた。だが、あの大岩に向かおうとしている事が嘘ではない
大岩を砕くという綱手の言葉だが、綱手の怪力を知るヒザシでもそれが自分を生き残
!
﹁これで里の全てが終わるわけではありませぬ 多くの犠牲は出るが、生き残る者も
!
﹁こ、これは
﹂
だが、ヒザシの覚悟はどうやらここが発揮する場ではなかったようだ。
一人残す事になる息子を想い、そして全力で大岩に備えるヒザシ。
︵すまないネジ⋮⋮生きていてくれよ︶
NARUTO 第二十一話
620
!?
﹁なんと⋮⋮
﹂
﹂
ど暁は優しくはなかった。
﹂
怒涛の展開に三人は言葉もなかった。だが、そうして呆けている事を許してくれるほ
﹃⋮⋮﹄
それが膨大な水流で砕けながら彼方へと消えるのを見る。
それがアカネの仕業であると理解し、次に新たに落ちる二つ目の大岩に驚愕し、また
微塵となり砂となって風に乗って彼方へと消え去ったのだ。
木ノ葉へと降り注がれようとしていた絶望は瞬きの間に消滅したのだ。正確には粉
﹁⋮⋮ば、ばあ様か
!
!
少しぐらいゆっくりさせてくれてもいいものを
!
合図。それはマダラ││実際はイズナ││がペインへと教えていた作戦開始の合図
空から落ちる巨大な岩を見て、ペインはそう呟く。
﹁⋮⋮なるほど、分かりやすい合図だ﹂
◆
空を見上げていた綱手はそれに気付いた。そう、天から侵入して来た暁の一員を。
﹁⋮⋮ちっ
!
621
だ。
﹂
離れた位置から木ノ葉を眺めていればすぐに気付くと言われて待機していたが、なる
ほど確かにすぐに気付ける合図の様だ。
﹁そうね。でも、これでは私たちが出るまでもなく木ノ葉は終わりでは
﹁ペイン⋮⋮﹂
が、ここまで予想を超えた力を持っているとは流石に思ってもいなかったようだ。
そして内心でうちはマダラの力を小南は恐れる。完全に信用していたわけではない
来は容易く想像が出来ていた。
ペインにそう訪ねたのは小南だ。作戦も何も、天から落ちる絶望を見れば木ノ葉の未
?
れたからこそ今の暁が、今のペインがあった。
恐らく感情のままに暴れて程なくして力尽きていただろう。マダラが道を示してく
ダラがいなければそれから先に何を成せていたか。
あの時、二人の友にして仲間にして、そして最高の家族であった弥彦が死んだ時、マ
集める事が出来たのもマダラの協力あっての物だ。
そう、ペイン││長門が世界平和という目的の為にここまで強大な組織を作り尾獣を
のも事実だ﹂
﹁ああ、オレも奴を信用はしていない。だが、奴の協力がなければここまでこれなかった
NARUTO 第二十一話
622
﹁もうすぐだ。もうすぐ世界は痛みを知る。そうなれば争いはなくなり世界は平和にな
る。その時にマダラが世界の悪になるというのなら⋮⋮オレが殺す﹂
内部へと侵入し、そして口寄せの術を使用した。
易々と里を囲む壁を飛び越え、木ノ葉の里を覆う感知結界を突き破って畜生道は里の
けて投げ飛ばす。
そう言ってペインは六道の内、口寄せ能力を持つ畜生道を地獄道によって木ノ葉に向
﹁分かっている。だからこその暁の総力戦だ﹂
﹁気をつけて。木ノ葉は強いわ﹂
﹁では行って来る。お前はオレの本体を頼む﹂
・・
かどうか。ペインではなく長門の弱点を知っている小南としてはそれが不安であった。
人外の者と思わざるを得ない化け物二体。果たして無敵のペインであっても勝てる
天から落ちる絶望を吹き飛ばしたアカネの手腕に小南はマダラと同じ脅威を覚える。
﹁そうね⋮⋮日向ヒヨリ、まさかここまでの存在だとは⋮⋮奴も危険過ぎるわ﹂
﹁さて、オレ達の出番が来たようだな﹂
る。
ペインが、最後に残された最愛の家族である長門がそう言うのならと小南は納得す
﹁⋮⋮分かったわ﹂
623
本気で殺しまくりますからよォォ
﹂
﹁やっとかよ待ちくたびれたぜ ジャシン様見てて下さいよォォォ
殺すから
!
!
オレめっちゃ
!
﹂
?
そしてリーダーであるペイン天道が集合した暁全員に命令を下す。
畜生道の口寄せにて現れたのはゼツ・小南・マダラを除く暁とペイン六道だ。
暁らしいですよ﹂
﹁やれやれ。これだけの面子が揃っての任務は暁初ですからねぇ。纏まりがなくて実に
﹁木ノ葉崩し再び⋮⋮次は防げるかしらねぇ﹂
んだな。前回は不発だったんだろう
﹁やられるのがオチだ。それよりも、木ノ葉の連中にお前の良く分からん芸術を見せる
﹁ち、気にくわねーな。オイラの芸術をあの女に魅せつけてやりたかったのによ、うん﹂
られる﹂
﹁⋮⋮どうやら日向ヒヨリの足止めは成功しているようだな。これなら心置きなく暴れ
!
だが暁の運用法としてはこれで合っていた。元々我が強い連中の集まりなのだ。連
べきは九尾の人柱力であるナルトを殺さずに捕らえる事だけ。
各個に分かれて好き放題に暴れる。それが暁の作戦とも言えない作戦だ。唯一守る
その言葉に従い、暁は木ノ葉を滅ぼすべく動き出した。
﹁思う存分暴れろ﹂
NARUTO 第二十一話
624
625
ツー マ ン セ ル
携して動けと言われてそれが出来れば苦労はしない。せいぜい二人一組が限界だろう。
そして、暁はそれで何も問題はなかった。我が強いだけの忍が集められた組織ではな
い。忍界屈指の使い手が集められた組織が暁なのだから。
木ノ葉の里に戦火が舞った。
◆
迫り来るイズナの凶刃を背後に感じながら、アカネに出来た事は耐える為にチャクラ
を活性化させる事だけだった。
耐える自信はあった。仙人モードとなって身体能力が圧倒的に向上しているアカネ
の防御力は桁違いだ。だが、ダメージは確実に負うだろうし、何より須佐能乎の威力を
殺し切る事が出来ないだろう。
そうなれば木ノ葉は甚大な被害を被ってしまう。だがアカネにはどうする事も出来
ない。そういうタイミングでイズナは攻撃を放ったのだ。そうすればアカネがより苦
しむだろうと理解して。
だが、アカネが想像する地獄の様な光景も、イズナが想像する愉悦極まる光景も、い
つまで経っても来る事はなかった。
アカネは痛みも衝撃も来ない事を疑問に思うもすぐに体勢を立て直してイズナへと
向き直る。するとそこにはアカネに当たる直前で止められている須佐能乎の剣があっ
た。
﹁⋮⋮なぜ振り下ろさなかった﹂
確実に当てる機会だったはずだ。自慢になるが、自分にまともに攻撃を命中させる機
会など滅多にある物ではないとアカネは自覚している。
疑問に思うアカネはイズナの、いやマダラの苦しそうに
外道な手段を使ってまで手に入れたその機会をイズナが潰すとはアカネには思えな
かった。一体何のつもりだ
何故
何故穢土転生の肉体で苦しそうに呻いているのか。腕がもがれようが首が
歪む顔を見て更に怪訝に思った。
?
﹁意識が⋮⋮
ま、まさか
﹂
!?
!?
﹂
何で邪魔をするんだ⋮⋮
マダラなのか
!
﹁何でだ
﹁マダラ
! !?
兄さん
!?
﹂
イズナの言葉から考えられる事はアカネには一つしかない。
?
﹂
その答えはイズナ本人が教えてくれた。
千切れようが気にせずに戦える不死身の肉体で、何が苦しいと言うのか。
?
﹁ば、馬鹿な⋮⋮まだ、意識が⋮⋮
NARUTO 第二十一話
626
!!
﹂
二人の叫びに応えるかの様に、マダラの口からイズナではない、そう、マダラ本人の
言葉が紡がれた。
﹁この、うちはマダラを⋮⋮舐めるなよイズナ
﹁ふ、久しいなヒヨリ。姿は違えどこうして再び会えるとは思ってもいなかったぞ⋮⋮
﹁マダラ⋮⋮﹂
更に膨れ上がった。そこまでこの女が大事なのかと。
だと言うのにこれだ。アカネを守る為に意識を取り戻したと思うとイズナの怒りは
ダラへの縛りは念入りに強固にしていた。
当時は他の尾獣を奪い封印する準備が整っていなかった為に九尾は保留にしたが、マ
す。
尾という最強のチャクラの化け物を奪う事が出来なかった苦い記憶をイズナは思い出
最後にマダラが意識を取り戻したのは十六年程前、九尾復活事件の時だ。おかげで九
め続けていた。
だが、その度にイズナはより強固に穢土転生の縛りを強くし、マダラの意識を封じ込
間にもマダラは何度かイズナの縛りを解いて意識を取り戻していた。
イズナがマダラを穢土転生にて口寄せしてから二十年近い年月が経っている。その
まだ意識を保っていたとは。完全にイズナは意表を突かれていた。
!
627
とんだ再会になってしまったがな﹂
軽口に聞こえるかもしれないが、今もマダラは必死にイズナの力に抗っていた。振り
下ろし掛けている剣は僅かに震えている、それだけ力を籠めて耐えているのだろう。
﹂
自分の為にそこまでの力を発揮してくれている。それがアカネには心底嬉しかった。
﹁ありがとうマダラ⋮⋮お前のおかげで木ノ葉は無事だ﹂
﹁転生しても相変わらずだな⋮⋮少しは自分の身を心配したらどうだ
例え姿が変われどアカネはヒヨリのままだった。それがマダラには嬉しかったのだ。
ダラは変わっていないなと安堵する。
須佐能乎の力を受ける直前でも自分ではなく木ノ葉を心配していたアカネを見てマ
?
イ ズ ナ は オ レ の 意 識 で は な く 肉 体 の 操 作 の み に 力 を 注 い で い る
かつての友は友のままであったと感じる事が出来て。
﹂
!
!
もう、持たんぞ⋮⋮
⋮⋮
!
﹂
!
!
る事が出来なくなった。
の所でイズナの縛りに耐えていたマダラは意識はそのままだが肉体の動きを自由にす
イズナはマダラの全てを操る事を諦め、肉体の操作のみに力を注いでいた。ギリギリ
から安心しろ
分かった⋮⋮ 穢土転生のお前の全力程度なら幾らでも受け止めてやる。だ
﹁っ
!
﹁く ⋮⋮ ヒ ヨ リ よ
NARUTO 第二十一話
628
再び振り下ろされた須佐能乎の剣。だがアカネの臨戦態勢は疾うに整っている。そ
の一撃を廻天にて逸らし、空へと受け流していく。 ﹂
!
﹂
し玉はあるから精々注意するんだな
﹂
永遠の万華鏡を手に入れて輪廻眼に目覚めたオレの力を侮るなよ まだ隠
!
!
暁が木ノ葉を襲っているぞヒヨリ
あっているのだ。
﹁む
﹂
!
﹁分かっている だが里の忍は強い 私たちの子は皆逞しく育ってくれているさ
!
!
アカネのその言葉に対抗するように、マダラを操るイズナはある術を発動する。
それに私の影分身も里には多く居るから││﹂
!
!
いたのか、と。
﹁その胸のモノはお前の趣味じゃないようだな
﹂
その術を見たアカネは不安が的中した事に舌打ちをする。やはり柱間を取り込んで
!
想像を絶する戦いの中とは思えない会話だ。二人は戦いの中であって旧友を確かめ
!
﹁ふん
!
!
どな
﹁だったらかつてより強い姿を見せてみるんだな まあ、私も大分強くなっているけ
がな
﹁お前は全く⋮⋮穢土転生とはいえ、そうも容易くオレの力を止められるのも癪なんだ
629
・・・・・
﹁誰がこんなモノを好きで埋め込むか
下らない事を言わずに木ノ葉を守れ
﹂
!!
﹂
て消滅していった。
だが、修行用に作り出された影分身ではそれが限界。全ての影分身がその一撃によっ
て全ての須佐能乎の力を逸らしていく。
それを防ぐ為に里に残っていたアカネの影分身全てが対応した。それぞれが廻天に
ノ葉へとその力を振るう。
合計して二十体の木遁分身のマダラが作り出され、その全てが須佐能乎を発動して木
!
﹁問題ない
る。
﹂
マダラのその叫びが示す通り、新たな一撃が全ての木遁分身から放たれようとしてい
﹁次はどうする
!?
捌き切った。
﹁つくづく規格外だなお前は
!
﹂
!
だが、木遁使ってるお前に言われたくない
﹂
その仙術・影分身達は一瞬でそれぞれ木遁分身のマダラへと駆けつけ、全ての攻撃を
十体作り出した。
アカネはマダラ本体の一撃を捌きながらも一瞬で仙術チャクラを籠めた影分身を二
!
﹁良く言われる
!
NARUTO 第二十一話
630
﹁黙れ
﹂
チャクラの化け
!
文句があるなら尾獣も修行すればいいだろうが
何だそのチャクラ量は 以前よりも増えてるだろうが
物とか言われている尾獣に謝れ
﹁私が修行で手に入れたチャクラだ
﹂
﹂
!
!
!
る場合ではない事も思い出す。
﹂
﹁いつまでもこうしていたいがそういう訳にもいかないか⋮⋮
有ったんだ
マダラ
一体何が
!
か理由があり、それにイズナが関わっているのは明白だ。
少なくとも今のマダラを見てアカネはマダラが木ノ葉を裏切ったとは思えない。何
何故輪廻眼に目覚めているのか。何故⋮⋮木ノ葉を裏切り柱間に戦いを挑んだのか。
何 故 穢 土 転 生 し て イ ズ ナ に 操 ら れ て い る の か。何 故 イ ズ ナ は 今 も 生 き て い る の か。
須佐能乎の横薙ぎの一撃を下から蹴り上げて弾き、アカネは問う。
!?
!
これでマダラが操られてさえいなければ。そう思うアカネ。そして楽しく戦ってい
げる。だが、そこに殺意は欠片もなかった。
再会するまでの長い時間を埋めるかの様に二人は互いに罵倒しながら死闘を繰り広
いがみ合っている様に見えて、その実二人は笑いあっていた。
﹁修行する尾獣とか笑えないんだよ
!
!
!
631
﹂
﹁⋮⋮オレはイズナに頼まれて互いの両眼を交換した。それが全ての始まりだった⋮⋮
﹂
どういう事だ
!?
﹂
る永遠の万華鏡写輪眼に目覚めるのだ
!
その代償が無くなるというのは喜ばしい事だ。マダラとイズナの力は確実に高まる
ラもそれに応えて別の力を手に入れていた。
アカネもそれを心配してマダラには出来るだけ万華鏡の使用を控える様に頼み、マダ
下していく。最後には光を失ってしまうだろう。
だが、その代償は重い。使えば使うほどに肉体は反動で痛み、そして視力は徐々に低
に目覚め、極めると須佐能乎という恐ろしい力の権化を手に入れる事が出来る。
それは確かに凄まじい情報だ。万華鏡写輪眼は強大な力を誇る。開眼者固有の瞳術
!?
﹂
﹁万華鏡に目覚めた者同士が互いの眼を交換すると視力の低下と肉体への負担が無くな
気付かなかった事実だ。
当主のマダラ自身イズナが手渡した古文書がなければ、イズナと目を交換しなければ
一族の全てを知っている訳ではない。
何故兄弟で眼を交換する必要があるのか。それが何になるのか。アカネとてうちは
﹁眼を
!?
!
﹁なっ
NARUTO 第二十一話
632
結果となっただろう。
だが、どうしてそれが全ての原因となるのだろうか。それがアカネには理解出来な
かった。
か
ぐ
つ
ち
永遠の万華鏡を開眼した者は新たな瞳術に目覚める事があ
﹂
あまてらす
イ ズ ナ の 万 華 鏡 は 天 照 と 加具土命 ⋮⋮ 新 た に 目 覚 め た 瞳 術 は 何 な ん だ
イズナが、そうだ
!
﹁それだけではない⋮⋮
るのだ⋮⋮
﹁イ ズ ナ が
﹂
!? !
﹂
!
だ⋮⋮
ま、まさか⋮⋮
!? !
ませる事でその行動を誘導する。対象者がそれに気付く事はない、第三者が解除しない
だが別天神は別だ。対象の意識を誘導し、さも自分が考えて決めた意志の様に思いこ
はいずれ気付くだろう。
に掛けられたかも気付く事は出来ないが、その幻術の真っ只中にあれば殺されない限り
幻術に掛けられた者はいずれそれに気付く事が出来る。相手が格上ならばいつ幻術
﹁なっ
﹂
﹁⋮⋮別 天 神。対象に幻術に掛けられた事に気付かせずに意識を誘導して操る最強幻術
ことあまつかみ
ナが目覚めた最強の瞳術の名を聞いた。
何十合もの攻撃を交わし続けながら二人は情報を共有し合う。そしてアカネはイズ
!?
!
633
限りは自力での解除は不可能。まさに最強の幻術と言えよう。
﹂
イズナはオレを別天神にて操ったのだ⋮⋮
そして目的の為にオレ
そしてアカネはその幻術の存在を知る事で理解した。マダラが木ノ葉から離反した
理由を。
﹁そうだ⋮⋮
と柱間を戦わせたのさ
!
出かしてしまったのだ。それも何の疑問も抱かずにだ。
﹂
オレはイズナの言う通りに行動した⋮⋮何の疑問も抱かずにな
貴様はどこまで堕ちれば
!
﹂
!
お前に、柱間に、木ノ葉に、世界に迷惑を掛けてしまった⋮⋮。オレがあの時イズナを
﹁すまぬ⋮⋮。兄であるオレがイズナを止めるべきだった。オレが不甲斐ないばかりに
る。だが、当のイズナは何の痛痒も感じずにマダラを操り攻撃を繰り返していた。
何処かでこの会話を聞いているだろうイズナにアカネはありったけの怒りをぶつけ
﹁い、イズナ⋮⋮
!
!
木ノ葉を、仲間を、友を、全てを捨てて裏切るなど、考えられない事を自ら進んで仕
かった。だからこそ別天神の恐ろしさを誰よりも理解していた。
だからこそ操られてからの自身の行動を思い出し、自身を殴り飛ばしたくて仕方がな
穢土転生となり蘇ったマダラの思考は別天神で操られる前のそれに戻っている。
!
!
﹁イズナはオレに対して、自分に疑問を持つなという類いの幻術を仕掛けたのだろう
NARUTO 第二十一話
634
止める事が出来ていれば⋮⋮
﹂
お前が悪いわけがない お前はイズナを誰よりも想っていた
それを理解せずに自分勝手な怒りをぶつけてくるイズナこそが
﹂
私たちはその切っ掛け
!
の締め括りを失敗した己が誇れる事などあるわけがない。
﹁違う
イズナの
だ と 言 う の に こ れ だ。何 が 三 忍 だ。何 が う ち は 最 強 だ。何 が 伝 説 の 忍 だ。忍 と し て
えて行き、最後には多くに見守られて穏やかに終わる。そうなるはずだった。
はずだと。柱間とヒヨリと自分。そこにイズナや扉間も加わり、更に自分達の家族が増
自分がイズナを止めてやる事が出来ていれば。そうすれば全ては上手く行っていた
るのだ。
マダラの中には後悔が溢れていた。全ての元凶は自分、そういう思いがひしめいてい
!
為にお前は憎しみを捨てて平和な世界を作ろうと努力した
に過ぎない
!
!
大切な兄弟と、大切な友や仲間たち。それらが死して、その憎しみや恨みを我慢し耐
れたモノの小ささに⋮⋮﹂
よりも家族を、友を愛していた。だから許せなかったのさ。支払った犠牲に対して得ら
﹁⋮⋮そう言ってくれるな。イズナの想いはオレにも分かる。あいつは、オレよりも、誰
ようとする。そんなイズナが元凶でなくて何だと言うのか。
イズナこそが全ての元凶。マダラの想いを踏みにじり、全てを自らの思い通りに進め
!
!
!
635
えて、そして得られたのは完全には程遠い僅かな平和。
その平和もすぐに崩れる砂上の楼閣、少なくともイズナにはそう見えていた。
解出来ないのか⋮⋮﹂
﹁戦乱の世から、僅か数十年であの里に至った⋮⋮。それがどれ程の事か、イズナには理
様々な世界の知識や常識を知っているアカネにはそれがどれだけ途方もない事か理
解していた。
世 界 の 流 れ を 変 え る と い う 事 は 非 常 に 困 難 な 道 の り だ。長 い 年 月 を 掛 け て 徐 々 に
徐々に人々の意識を変えて行き、そうして何百年何千年と掛けて辿り着ける。それが平
和な世という物だ。
だと言うのに、僅かな時間で得た結果を見て見切りをつけて、全てを幻術の中に落と
そうとしているイズナはアカネにとってただの我が侭な子どもにしか見えなかった。
確かに完全な平和は到達しようがないが、それでも幻術でそれを強制しようなど間
違っている。
を見つけてしまったイズナがそれを理解するのを拒んでしまったのだ。
いや、マダラは語らなかったわけではない。ただ、完全な平和という夢物語の可能性
た⋮⋮﹂
﹁オレだって、あの里が尊い物だと理解している。それをもっとイズナに語るべきだっ
NARUTO 第二十一話
636
イズナがあの古文書を見つけなければ、そしてうちは一族に伝わる石碑を曲解しなけ
れば⋮⋮話はまた変わっていたかもしれない。
﹂
!?
﹂
﹁いや違う⋮⋮輪廻眼に目覚める為にだ
﹁なっ⋮⋮
﹂
輪廻眼。それはかつて六道仙人が開眼したと言われる伝説の瞳術。そして輪廻眼は
んなアカネを他所にマダラは全てを説明していく。
今日一日で何度驚いただろうか。アカネも今までの人生でそう経験のない事だ。そ
!
!
使用しているのだろう。
マダラの胸に柱間の細胞が埋め込まれている事に。だからこそマダラが木遁忍術を
アカネはその白眼と、そして持ち前の感知能力で疾うの昔に理解していた。
﹁木遁を得る為にか
全ては千手柱間の細胞を手に入れる為だったのだ。
い。
そう、イズナがマダラを柱間と戦わせたのはただ千手憎し、木ノ葉憎しだからではな
はある理由があった﹂
﹁⋮⋮話を戻すぞ。とにかく、オレはイズナに言われるがままに柱間と戦った。それに
﹁マダラ⋮⋮﹂
637
NARUTO 第二十一話
638
何が要因となって開眼するかは全く解明されていなかった。
突然変異として現れるという説もあり、少なくとも血継限界の様に遺伝で受け継がれ
ている物ではないとされていた。
だが、実際は写輪眼の行きつく先が輪廻眼だったのだ。そしてイズナはうちは一族秘
伝の石碑を読み解いてその開眼方法を見つけたのだ。
石碑にはこんな文があった。〝一つの神が安定を求め陰と陽に分極した。相反する
二つは作用し合い森羅万象を得る〟。
うちはと千手。それは両方とも六道仙人の直系の子孫であり、その力をそれぞれ受け
継いでいる一族。
陰と陽。うちはと千手。二つの力を手に入れたモノが森羅万象を得る。そうイズナ
は解釈したのだ。
そして⋮⋮最強の千手の力を手に入れるべく、イズナはマダラと柱間が闘う様に仕向
けたのだ。
その死闘は柱間の勝利で終わったとされている。だが、それは実は誤りであった。
当時の柱間とマダラの実力は完全に互角。いや、九尾という最強最悪の尾獣を用意し
ていたマダラが有利であった。
だが実際に勝ったのは柱間だ。それはイズナがマダラにわざと負けるように命じて
639
いたからだった。
ここで勝つと柱間以上に面倒な日向ヒヨリが出てくるだろう。そう予想していたイ
ズナはマダラに戦闘中柱間の細胞を不自然の無い様に手に入れさせ、その上でわざと負
けさせたのだ。
この時、柱間は確実にマダラに止めを刺していた。だが、マダラはある幻術にて柱間
の目を欺いていたのだ。
それがうちは一族に伝わる幻術・イザナギである。このイザナギもまた別天神に劣ら
ぬ凶悪な幻術だ。
本来幻術とは現実ではなく文字通り実体のない幻覚を見せる術だ。だがイザナギは
現実に干渉するという幻術の枠を超えた幻術であった。
他者ではなく自身に掛けるという幻術で、不利な事象を﹁夢﹂、有利な事象を﹁現実﹂
に変えるというまさに究極の幻術。
しかも時間差で術を発動することも可能であり、これによってマダラは柱間に殺され
たという現実を書き換えることで表向きには死亡したように装ったのだ。
ただし、やはり強大な力を持つ幻術ゆえに代償はあり、使用した場合必ず失明すると
いうリスクがある。一度の使用につき一つの目を失明するので、他人の写輪眼を得ない
限り二度しか使えないという幻術であった。
﹂
﹂
そうしてマダラは、いやイズナは千手柱間の細胞を手に入れた。それをイズナは自身
とマダラの体へと移植した。全ては輪廻眼を得る為に。
だが││
﹁だが、それでもイズナは輪廻眼に目覚めなかった⋮⋮
じゃあ輪廻眼に目覚めたのはお前だけと言う事か
?
!
考えたイズナは⋮⋮兄の細胞すら自分の体へと移植したのだった。
﹂
そうと言うのも輪廻眼の開眼条件をイズナもマダラも真に理解していなかったから
輪廻眼に開眼したのだ。まさにイズナの執念が産み出した産物であった。
取り込んだイズナは⋮⋮﹂
﹁そうだ⋮⋮オレと柱間。うちはと千手、二つの一族最強の細胞とチャクラ。それらを
!?
すればいい
うちはの肉体に千手の力を加えても自分は輪廻眼に目覚める事はない。ならばどう
開眼する事はないと考えたのだ。
自分よりも優秀な兄が死の間際になってようやく開眼した物を、自分が生きている内に
それを見たイズナは自分が死の間際になっても輪廻眼に開眼する事はないと悟った。
寿命によって死ぬ間際になってようやくだ。
そう、イズナは輪廻眼に目覚めなかった。輪廻眼に目覚めたのはマダラのみ。しかも
﹁何だって
?
?
﹁柱間と、お前の
NARUTO 第二十一話
640
641
だ。
真に輪廻眼に開眼するにはある特殊な条件がある。それが、六道仙人の息子であるイ
ンドラとアシュラ。その二人の転生体のチャクラを一つにするという途方も無く可能
性の低い条件だった。
インドラとアシュラは互いに六道仙人から受け継いだ力がある。インドラは仙人の
眼︽チャクラと精神エネルギー︾を、アシュラは仙人の肉体︽身体エネルギーと生命力︾
を。それらを一つにするとどうなるか。そう、六道仙人そのものになるだろう。
つまりインドラの転生体であるうちは一族の者││この場合うちはマダラ││が、ア
シュラの転生体││この場合千手柱間││のチャクラを得る事で初めて輪廻眼は開眼
するのだ。
そこまでして初めて六道仙人に近付く事が出来るという訳である。輪廻眼を開眼し
た者は六道仙人を除きマダラが初めてだ。それほど困難な条件だったのだ。
そう、つまるところイズナは⋮⋮インドラの転生体でないイズナは本来なら輪廻眼に
目覚める事は出来ないのだ。
チャクラ
チャクラ
だがそれをイズナは執念で乗り越えた。その身にインドラの転生体であるマダラの
細胞とアシュラの転生体である柱間の細胞を取り込む事でその条件を満たし、そして本
来なら開眼するはずもない故に起こった途方もない激痛に耐えて、とうとう輪廻眼に開
眼したのだ。
﹁なるほどな⋮⋮だが、それでも解せない事がある﹂
マダラの説明を戦いながら聞いたアカネは全てに納得する。マダラが裏切っておら
ず、そして何のために柱間と戦ったかを。
途方もない話故に動揺はしたが、それでも筋が通っており理解出来る話だ。だが、そ
﹂
れでも解せない点が一つだけあった。
・・・・・・・
?
が早いのは当然の話となる。戦乱から離れて医療技術が発展し続け食生活が安定した
長く生きる事がなく、医療技術なども完全に発達しているとは言い難い世界だ。老い
だ。
んでしまうのが原因だが、それ故にこの世界の人間の最大寿命もまた低くなっているの
この世界は戦乱の世が続いていた為に人間の平均寿命は短い。それは戦争で早く死
と納得が行かない現象だ。
けならばまだ納得も出来るが、このマダラをこれほど操れる程の力を保ったままとなる
だがそれでもイズナが今も生きているとしたら百が近い高齢となる。生きているだ
だ。
そう、それが最後に残る疑問だ。イズナはマダラの弟であり、当然マダラよりは年下
﹁何故イズナは今も生きている
NARUTO 第二十一話
642
時代が長く続けば自然と寿命も延びるだろうが、それは先の話だ。
とにかく今の世で八十まで生きれば長寿であり、そして老いによって衰えるのもまた
早い。三代目火影である猿飛ヒルゼンは全盛期の半分の実力もないだろう。
それはアカネも同じであり、かつてヒヨリとして最期に戦った時は全盛期と比べて見
る影もない程だった。
そして老いとは全ての存在に平等に訪れる現象だ。イズナもまた同じ。どうにか今
も生き延びていたとしても、その力は全盛期とは程遠いはずなのだ。
その謎に、マダラは更なる驚愕の真実を語った。
きしょうてんせい
﹂
!?
そう、例え生き返ったとしてもそれは転生とは違って元の肉体で蘇るだけだ。つまり
﹁だがそれでも若返るわけではないだろう
もっとも、己生転生と同じく使用した術者はその命を失う事となるのだが⋮⋮。
返させる事も出来るという瞳術だ。
びた者でも蘇生でき、死から然したる時間が経過していなければ一度に多くの者を生き
砂隠れのチヨが使用していた己生転生と同じ転生忍術だが、己生転生と違い肉体が滅
が出来る転生忍術。
輪廻天生。輪廻眼を持つ者が使える多くの能力の一つであり、他人を生き返らせる事
﹁イズナは一度死んだ⋮⋮そして蘇ったのだ。オレの輪廻眼の力、輪廻天生でな⋮⋮﹂
643
元の老人のままだと言う事になる。
だが輪廻眼はその理屈すら覆す力を持っていた。輪廻天生にて蘇ったイズナは全盛
期の体で復活していたのだ。
なる段階ではない。
うと、木ノ葉がどれだけ強国となろうと、全ての忍里が手を組もうと、それでどうにか
すでに計画は最終段階に入っている。例え日向ヒヨリの転生体であるアカネがいよ
なったイズナに焦る理由はなかったのだ。
若さを取り戻し、輪廻眼を手に入れた事で誰よりも強く、六道仙人に近しい存在と
準備が整うまで闇に潜んで焦らずに計画を進めていく。
老いてなお厄介な日向ヒヨリを戦争をコントロールし三尾を操る事で排除し、全ての
るのだ。今更マダラが何を言おうともイズナがそれで止まる訳がなかった。
夢で見るしかない完全なる平和が後一歩の、手を伸ばせば届く距離にまで近付いてい
は届かなかった。
だが輪廻眼を開眼し、更に生前のマダラの輪廻眼を手に入れたイズナにマダラの言葉
おり、正気に戻ってイズナを説得した。
それが全ての真相であった。穢土転生で復活したマダラは別天神の影響から外れて
﹁そして、輪廻天生の反動で死んだオレを穢土転生にて復活させたのだ⋮⋮﹂
NARUTO 第二十一話
644
645
全てはイズナの手の上に集まっているのだから。
NARUTO 第二十二話
木ノ葉の里は創立以来最大の危機に陥っていた。
暁が攻めて来てまだ五分と経っていない。だが既に里のあちこちからは火が上がり、
喝
﹂
悲鳴が響き、そして多くの忍が犠牲となっていた。
﹁芸術は爆発だ
!
!
デイダラが起爆粘土を大量に作り出し、それを木ノ葉の忍に取り付けて一斉爆破す
る。
﹄
?!
最弱の威力からC2、C3とレベルが上がるごとにその威力も向上していく。
籠めたチャクラの量と粘土の量で起爆粘土のレベルが変わり、C1と呼ばれる小さく
変化させる。
掌に作り出した口から粘土を取り込み、その粘土にチャクラを籠める事で起爆粘土へと
デ イ ダ ラ の 能 力。そ れ は 岩 隠 れ の 里 で 禁 術 と さ れ て い た 起 爆 粘 土 を 作 り 出 す 術 だ。
ている起爆粘土に対応する事が出来ずにその多くが死へと誘われた。
いざな
起爆粘土を見慣れていない木ノ葉の中忍は小さく、そして動きの素早いC1と呼ばれ
﹃││
NARUTO 第二十二話
646
更に遠隔操作をする事も出来る。蜘蛛の造型で作り出されたC1は威力が低いが、そ
れを数十も操作して木ノ葉の忍の顔や首と言った急所に貼り付けたのだ。いくら威力
が低かろうとそれ程の至近距離で急所を爆破すれば確実な致命傷となるだろう。
かつてのデイダラはここまで多くの起爆粘土を一度に操作する事は難しかったが、そ
││
れもこの三年間の修行でそれらを可能としていた。しかも速度・威力共に向上してい
る。
﹂
││火遁・豪火球の術
﹁おのれ暁
そう、デイダラは鳥を模した起爆粘土││C2││の上に乗り自由に空を飛んでいる
その造型による為か、その上に乗り空を飛ぶ事も可能なのだ。
その豪火球をデイダラは空を飛ぶ事で回避した。デイダラが作り出した起爆粘土は
﹁遅いな﹂
火球もかなりの規模となってデイダラへと襲いかかっていた。だが││
デイダラの起爆粘土に唯一対応出来た通りその実力は上忍クラスに至っている。豪
務部隊の一員だった。
うちはの家紋を背負っており、ここ等一帯に逃げ遅れた一般人がいないか確認に来た警
この場にあって唯一生き延びていた忍が豪火球の術にてデイダラを攻撃する。男は
!
!
647
のだ。一直線に放出される上に単発の豪火球ではまともに狙いをつけるのも難しいだ
ろう。
を恨むんだな﹂
﹁うちはの家紋か。だが、血統に恵まれようと弱い奴は弱い。恨むなら、才能のない自分
デイダラはC2の口から大量の起爆粘土を吐き出させ、それを上空からうちはの忍に
﹂
向かって大量に投下する。
﹁う、おおお
忍は命を落とす事となる。
小さいとはいえ大量の起爆粘土の一斉起爆は大爆発を巻き起こし、敢え無くうちはの
!?
木ノ葉全体に被害を与えるこの戦術は木ノ葉の里からしたら最悪の戦術であった。
攻撃が集中しないので一定以上の強者には通用しない戦術だが、多くの忍を巻き込み
撃出来るのだ。
ずに空から爆弾を投下し続ける。それだけで木ノ葉の忍では対処が難しく一方的に攻
ヒット&アウェイ。空という絶対的な地の利を持つデイダラは地に残って長く戦わ
離れる。
そう言いつつも木ノ葉を警戒しているデイダラはC2に乗って空を飛びその場から
﹁こんなもんだ、うん。木ノ葉と言っても弱い奴は弱いって事だ、うん﹂
NARUTO 第二十二話
648
﹁さぁて、次はC3の爆発を見せてやる
⋮⋮と言いたいとこだが⋮⋮うん﹂ ﹂
これじゃあ空を飛べばオイラまで巻き込まれるな、うん。仕方ない、地道に木
ノ葉の里に芸術の素晴らしさを見せつけてやるか。芸術は、爆発だ
﹁ちっ
き込まれない程の上空へ行けば逆にこの衝撃波に巻き込まれる恐れがあるだろう。
衝撃波が上空を不規則に飛び交っているのだ。C3という強大な起爆粘土の爆発に巻
乎の衝撃波が飛び交っていた。直撃はおろか、掠りでもしたら命を失いかねない威力の
そう呟き、デイダラは空を見上げる。既に一片の雲もなくなった空には完成体須佐能
!
木ノ葉の暗部の一つ〝根〟。その根の忍が苦痛に顔を歪めていた。
﹁う、うう⋮⋮﹂
トを木ノ葉の忍にも見せつける為に地獄を生み出していく。
芸術は爆発だ。それを言葉通りの意味で実行する最悪の芸術家デイダラはそのアー
トを感じる。
形ある物はただの造形物に過ぎず、作り出した芸術を爆発させる事でその一瞬にアー
!
!
649
﹁なるほど。木ノ葉の暗部は中々の粒揃いだな。このオレを相手にここまで持つとは、
な﹂
周囲に多くの屍を生み出し、その中心に不敵に立つ男。腰辺りから蛇腹状の鋭い刃を
持つ尾を振り払い血を吹き飛ばしてその男は、サソリは根の忍を褒め称える。
サソリと根の小隊が戦い始めて三分程度しか経過していない。だが、既に小隊は壊滅
状態。そして小隊の隊長は今や虫の息であった。
それでもサソリは根を褒め称えた。そこに嘘はない。自分を相手にして三分も持っ
た事を心底褒めているのだ。そう、それだけサソリは自らの実力に自信があるという事
だ。
その毒はオレの特別製。解毒は不可能だ。お前は確実に死ぬ﹂
や確定と言えた。
そして時間を必要とするだろう。今この場でそれが出来る者はおらず、隊長の死はもは
成分を解析すれば解毒薬を作る事も出来るだろうが、それも非常に優秀な知識と腕、
強力な毒だ。
サソリの刃の尾には毒が仕込まれている。例えかすり傷でも対象を死に至らしめる
﹁苦しいか
?
たぞ。こんな風に、な
﹂
﹁まあ、お前も平時ならばオレのコレクションの末端に加えても良いくらいの実力だっ
NARUTO 第二十二話
650
!
そう叫んでサソリは己のコレクションを披露し、そして背後に潜んでいた残りの暗部
に襲い掛かる。
コレクション。サソリがそう呼ぶそれは傀儡人形の事だ。だが、ただの傀儡ではな
い。サソリの作り出すそれは生身の人間を元に作り出された人傀儡なのだ。
サソリは殺した忍の中で強く気に入った忍を選び、防腐処理を施してから仕込みを埋
め込んで人傀儡へと作り変えているのだ。まさに凶人の発想であり、そして恐るべき術
でもある。
この人傀儡は通常の傀儡人形と大きく違う点がある。人傀儡は生前の忍のチャクラ
を宿したまま傀儡となっており、その為生前の術をそのままに扱う事が出来るのだ。
││風遁・風切りの術││
││火遁・龍火の術││
二体の人傀儡が生前のその者が得意としていただろう術を放つ。
﹄
二つの術は一つとなり、豪火となって隠れ潜んでいた暗部へと襲いかかる。
﹃ぐわぁあぁ
サソリは己のコレクションを元に戻し、死に掛けの暗部隊長を一瞥してその場から離
たな﹂
﹁ふん、オレの情報を得る為に部隊を分けていたか。用意周到な事だ。だが、無意味だっ
!
651
れていく。
﹁⋮⋮﹂
隊長は毒が回り死に瀕しているその状況で、どうにか暗号を残して僅かでも仲間に情
報を伝えようとする。
僅かしか得られていない情報だが、それでもあるとないとでは大違いだ。敵が傀儡師
であるという情報も、操る傀儡人形が忍術を放つという情報も、どちらも非常に重要な
情報である。
﹂
サソリが放った尾がその体を貫いていたからだ。
だが、隊長の体から僅かな暗号を書き残す力すら消え去る事となる。
﹁っ
!?
そして蔑みながらサソリは新たな犠牲者を生み出す為に動き出した。
生身の身体という、サソリからすれば不便極まる肉体しか持たない者を哀れに思い、
﹁ふん。定命の者は苦労するな。この程度で死ぬなんてな﹂
長は、無念の内にその命を散らした。
それが本当に慈悲であるなど誰も思いはしないだろう。最後の務めすら奪われた隊
﹁毒で苦しんで死ぬ事もないだろう。慈悲をくれてやる﹂
NARUTO 第二十二話
652
﹁な、なんだこいつら
﹂
﹂
﹁あー痛てて。多勢に無勢でやってくれるじゃねーかよ。痛かったぞこらぁ
に取って特別大した事ではないという意味を表している。
﹂
相方である角都も飛段の姿を見て何も動揺している様子はない。つまりこれは二人
﹁遊びすぎだ。わざわざ敵の攻撃を受ける必要はない﹂
かりに平気で動いているのだ。
だと言うのに飛段は痛みに苦しむ素振りを見せながらも、だからどうしたと言わんば
ても致命傷ではなく即死している傷だ。
心臓に刃が突き刺さり、左腕が千切れ、胴体に幾つもの苦無が刺さっている。どう見
程恐れる理由。それは飛段の身体を一瞥するだけで理解出来るだろう。
飛段。それが木ノ葉の忍が恐れ慄いている男の名だ。歴戦の忍である上忍達がそれ
!!
力に驚愕していた。
今、木ノ葉の忍はある暁のコンビと戦い、そしてその実力に⋮⋮いやその恐ろしい能
﹁信じられん⋮⋮化け物か
!?
!?
653
NARUTO 第二十二話
654
それもそのはず。飛段は真実不死身であるという、常識外れの暁にあって更に常識か
ら外れた存在だからだ。
飛段はジャシン教という邪教の信者であり、その邪教が行っていた儀式││人体実験
とも言う││の被験者であった。その実験により飛段は不死身の肉体を手に入れたの
だ。
首を刎ねられようが、心臓を貫かれようが死ぬ事はない。そんな不死身の化け物が飛
段である。
そして角都もまた飛段に劣らず化け物であった。
飛段はダメージを受けているが、角都は全くの無傷である。だがそれは攻撃を受けな
かったという訳ではない。
角都も木ノ葉の上忍の攻撃に当然の如く晒されていた。だが、その全てを無傷で切り
抜けていたのだ。
それだけ聞くと全ての攻撃を避けたかの様に思えるだろう。しかしそうではなかっ
た。上忍達の苛烈な攻撃は確実に角都へと届いていたのだ。
ど
む
だがそれは角都の土遁の術によって防がれていた。それが全身を鋼の様に硬化する
土遁・土矛である。起爆札という高威力の爆発する札すら防ぎ切る防御力を得る術だ。
それだけが角都の能力ではない。彼も飛段と同じく不死と呼べるある能力を有して
いるのだ。
ダメージを受けず、例え受けたとしても問題なく行動する事が出来る不死コンビ。そ
﹂
れを見て驚愕しない者が果たしてどれだけいるだろうか。
﹁分かってるって。でもよ、手っ取り早かっただろ
さっさと殺して殺して殺
?
!
!
る。それがジャシン教の戒律なのだろう。
飛段は人を殺した後に三十分以上の時間を掛けてジャシンに捧げる儀式を行ってい
は⋮⋮﹂
﹁分かってんよ だから我慢してるって言ってんじゃねーか これだから無神論者
﹁ふん、したければすればいい。だが、敵陣ど真ん中でそれをする暇があればだがな﹂
して、面倒事を終わらせて儀式をしなきゃいけないんだよオレはよぉ﹂
﹁オレも儀式をしなけりゃならないのを我慢してるんだぜ
その首を跳ね飛ばしたのだ。不死身である事を利用した自爆戦法である。
飛段は心臓を刺した男がそれで油断をし離れた瞬間にその手に持つ大鎌を振るって
倒したと思った。だが、不死身の飛段はその程度では死にはしない。
必殺のタイミングで攻撃をした木ノ葉の上忍は心臓を刃で突き刺した時点で飛段を
一応の理由があった。
角都の言葉を聞き飽きた様に返す飛段だが、飛段が一切の攻撃を避けなかったのには
?
655
だが流石の飛段も木ノ葉の里の中、敵に囲まれている状況でそれをするつもりはな
かったようだ。そんな事をすればどうなるか。まあ馬鹿でも理解出来るだろう。
だからこそさっさと終わらせて、その上で儀式を行うつもりだった。木ノ葉崩しが終
神に捧げられる贄となれ
⋮⋮って、わりぃ角都ぅ、手、繋
わればそれはそれは大量の人間が死ぬだろう。そうなればどれだけの供物がジャシン
へと捧げられるか。
さぁ
﹂
これで思いっ切り暴れられるぜ
﹂
!
腕を縫いつける。
角都は飛段の言動に溜め息を吐きつつも、その身体から黒い触手を生やして飛段の左
ではあるが再生能力が有るわけではないようだ。
大仰な言葉を吐いた飛段だが、千切れた左腕を見て角都へと治療を頼み込む。不死身
!
それを思うと今から笑みが浮かぶ飛段であった。
﹁ゲハハハハ
げてくれねぇかな
!
﹁締まらない奴だ⋮⋮﹂
?
!
!
そ れ を 見 た 木 ノ 葉 の 忍 は も う 何 に 驚 い て い い の か 理 解 が 追 い つ か な く な っ て い た。
確認していた。
縫い付けてすぐに神経まで繋がったのか、飛段はその左腕を回して手を動かし具合を
﹁サンキュー
NARUTO 第二十二話
656
心臓を刺しても平気な顔をし、五体が千切れてもその程度の治療で元に戻るなどどう考
えても納得がいく話ではないだろう。
﹂
!!
霧隠れでは〝尾を持たない尾獣〟と恐れられている強者である。
その異様な大刀を振るう男の名は干柿鬼鮫。暁の一員にして霧隠れ出身の忍であり、
肌のような刀であった。
それは霧隠れの里で有名な七本の忍刀の一つ、〝鮫肌〟である。読んで字の如く鮫の
出来る者はまずいないだろう。
鋭いギザギザとした刃が無数に連なって形作られているそれを一目みて刀だと判断
一人の男が異様な大刀を振るっていた。いや、それは刀と言っていいのだろうか。
暁の不死コンビが木ノ葉の里にその猛威と恐怖と、そして死を振り撒いて行く。
なぁ
﹁そんなに金が大事かねぇ。まあ、次に行くのはオレも賛成だ。こいつら皆殺しにして
﹁さて、こいつらはビンゴブックにも載っていない雑魚どもだ⋮⋮さっさと次に行くぞ﹂
657
既に周囲には大量の死体が転がっている。その全ては見るも無残な遺体となってい
る。鮫肌によってそうなったのだ。
その理由は鮫肌の形状にあった。見た目通りまともな形状をしてない鮫肌は対象を
綺麗に斬る事は出来ず、むしろ肉や骨を削るという荒々しい刀だ。
そんな鮫肌で攻撃され続ければ肉体は削り取られ獣が喰らった後のような無残な遺
体が残るのである。
﹂
そして今もまた新たな犠牲者が生まれようとしていた。
﹁こ、これは⋮⋮
﹂
!
動する事も敵わない。忍術を得意とする忍には天敵と言ってもいいだろう。
練り上げたチャクラも鮫肌を一振りすれば削り取られてしまい無意味となり、術を発
喰らうという忍にとって最悪の能力を有している事であった。
鮫肌はただ肉体を削るだけの刀ではなかった。その真の恐ろしさはチャクラを削り
根の忍が鬼鮫にその肉体を削られながらも鮫肌の特性を見抜いた。
⋮⋮チャクラもね
﹁気 付 き ま し た か。そ う、私 の 鮫 肌 は 斬 る の で は な く 削 る そ れ も 肉 体 だ け で な く
!?
!
いますよ﹂
﹁あなたのチャクラはそれなりに美味しいようですよ。その証拠にほら、鮫肌も喜んで
NARUTO 第二十二話
658
﹁ギギギ
﹄
!?
﹂
!!
﹂
!
││
!
変化させて津波の如く吐き出す術である。
印を組み上げた鬼鮫はその口から大量の水を吐き出す。口の中のチャクラを水へと
││水遁・爆水衝波
が鬼鮫が〝尾を持たない尾獣〟と恐れられている理由だった。
持ち前のチャクラと鮫肌によるチャクラの増加。そしてもう一つ⋮⋮この三つこそ
ルさせる為の食事に過ぎなかったのだ。
つまり削り殺された忍達は鬼鮫にとって今後の戦闘に備えて鮫肌にチャクラをプー
という能力を持っている。
鮫肌はチャクラを削り喰らい、そしてそれを溜め込んで使い手である鬼鮫に還元する
訳ではない。
食事。そう、鬼鮫が鮫肌で根の忍を削り殺したのはただ嗜虐趣味があったからという
たのでここらで食事も終わりにしましょう
﹁あなた達にも鮫肌を味わわせてあげたいのですが、鮫肌にも十分なチャクラが集まっ
そしてその隙を突いて印を組んだ。
刀が鳴き叫ぶという怪異を見た根の忍は驚愕する。それを見て鬼鮫は笑みを深くし、
﹃
659
﹃うわぁああぁあ
﹄
││
!
﹁ギギギ
﹂
構えていた。
﹂
木ノ葉を水浸しにして自らに有利な戦場を作り上げながら、鬼鮫は新たな獲物を待ち
!!
?
い尽くした。
匹の鮫のような形の水遁が出現し、そして水の中をもがく忍を襲い⋮⋮跡形もなく喰ら
自らが作り出した水の上に立つ鬼鮫が水中に手を入れて術を発動する。そこから五
││水遁・五食鮫
してそんな彼等に鬼鮫は無情にも追撃を放った。
大量の水に飲み込まれた根の忍たちは水圧と水量に押し潰されて流されていく。そ
の補助忍術も桁が違えば十分な威力となる。
大量の水を作り出すことで攻撃用の水遁を使いやすくする為の補助忍術だ。だが、そ
押し寄せる濁流に根の忍は飲み込まれていくが、これは攻撃の為の水遁ではない。
!?
﹁くくく、さて次の獲物のチャクラは美味しいでしょうかねぇ、鮫肌
NARUTO 第二十二話
660
痛み。それこそが平和へと繋がる唯一絶対の手段。そう信じてペインは破壊と共に
﹂
痛みを木ノ葉の里に振り撒いていく。
﹁うわああぁあ
﹁知らん
﹂
知っていたとしても仲間を売ったりなんぞするか
﹂
!
?
事はなかった。魂を抜き取られる事はなかったが待っている運命には何ら変わりはな
だがこの忍は本当にナルトの居場所を知っていないようだ。だが、それが幸いとなる
られてしまう。それが地獄道のもう一つの能力だ。
地獄道が掴み上げた忍に質問をする。その質問に対して嘘を吐いた者は魂を吸い取
!
﹁うずまきナルトはどこだ
読み取る際にその魂を抜き取るのだ。そして魂を抜かれた者の末路は⋮⋮死だ。
だが、その手には忍の肉体ではなく魂が掴まれたままだった。人間道は対象の記憶を
を持っていない事が分かれば用済みと言わんばかりに手を離す。
人間道がある忍の頭にその手を当て、そしてその記憶を覗き込む。そして目的の情報
﹁う、あ⋮⋮﹂
ペインを食い止めようとした忍はその破壊に巻き込まれてしまう。
修 羅 道 が そ の 体 か ら 数 多 の 兵 器 を 放 ち そ の 火 力 で 周 囲 に 膨 大 な 被 害 を 与 え て い く。
!?
661
﹂
いのだから。
﹁ぎゃああ
﹂
る事となった。
哀れ、地獄道の手から逃れられた忍は畜生道が口寄せした巨大な獣によって死を迎え
!!
﹂
らもペインは許してはくれなかった。
せめて新たに得た情報││人間道と地獄道の能力││を持ち帰ろうとするが、それす
さに手詰まりだ。
忍術も体術も無意味。かといって幻術も実力差が有り過ぎて効果を及ぼさない。ま
忍術を弾き掻き消す。
餓鬼道が忍術を吸収し、天道が物理攻撃や餓鬼道が吸収している隙を狙って放たれた
た。だがその攻撃の全ては天道と餓鬼道によって防がれていた。
多くの忍がペインの犠牲となっている間にも、更に多くの忍がペインを攻め立ててい
﹁くそ
!
?!
象天引〟である。
これが天道のもう一つの能力。斥力を操る〝神羅天征〟と対を成す、引力を操る〝万
この場から離れようとした忍達は突如として天道に向かって引き寄せられてしまう。
﹁な、うおおお
NARUTO 第二十二話
662
﹁が、あ⋮⋮﹂
離れようとした瞬間に引き寄せられるという現象は忍達に大きな隙を作り、敢え無く
天道が作り出した黒い棒によって串刺しにされてしまった。
攻撃を仕掛けてきた全ての忍を返り討ちにしたペインは更に歩を進める。
この程度ではまだ足りない。痛みを知るにはもっと、もっともっと大きな犠牲が必要
だ。
痛み。それこそが平和へと繋がる唯一絶対の手段。そう信じてペインは更なる破壊
を木ノ葉の里に振り撒いていく⋮⋮。
そして、木ノ葉の里に攻め入った暁の最後の一人。
元木ノ葉の忍にして元二代目三忍。ある目的の為に狂ってしまった最悪の忍、大蛇
丸。
その大蛇丸が、目標であったうちはサスケと対峙していた。
﹁探したわぁサスケ君﹂
663
﹁⋮⋮お前が大蛇丸とやらか﹂
他の暁達が木ノ葉を攻め入っている中、大蛇丸だけは木ノ葉ではなくサスケを目標と
していた。
いや、大蛇丸も木ノ葉を攻めるつもりはあるが、今この時を除いてサスケの肉体を奪
う機会はそう訪れないと理解しているのだ。
暁により木ノ葉の里が混乱しているこの時こそ、この若く美しく、そして強い肉体を
手に入れる最高の好機なのである。
大蛇丸は最終的にはアカネの肉体を奪いその転生術の秘密を手に入れる事を目標と
していたが、その為にはまだ実力が足りないと判断していた。
だからこそサスケの体を奪う事でより強くなり、その上で機会を見てアカネの体を奪
うつもりであった。
時間は掛かるが何ら問題はない。何故なら大蛇丸は不老の術を手に入れているのだ
から。
でしょう
⋮⋮ちょうだい、若くて美しくて強い、その身体をォォォ
﹂
!
けで戦意を喪失する程のプレッシャーを、だ。
大蛇丸がその欲望をプレッシャーと共にサスケに叩きつける。並の忍ならばそれだ
?
﹁ええそうよ。綱手か自来也から聞いているようね。なら、私の目的も分かっているん
NARUTO 第二十二話
664
だが⋮⋮この三年で、サスケは並などとはけして言えない実力を既に有していた。
﹂
!
口寄せの一種・雷光剣化である。
あらかじめ剣やクナイなどの忍具を巻物や衣服に封じ、 必要に応じて召喚する忍具
られてサスケの手に収まる。
手首に仕込んである口寄せ術式に触れて術式を発動。契約をしていた苦無が口寄せ
わらせてやるという思いでサスケは大蛇丸に攻撃を仕掛ける。
大蛇丸を倒し、そして残りの暁を倒す。どうせならナルトが帰ってくる前に全てを終
時間を掛けるつもりはサスケにはなかった。
先手はサスケだった。今木ノ葉の里は非常事態に陥っている。そんな状況で無駄な
◆
かつての木ノ葉の天才と、現木ノ葉の天才。二人の天才が、死闘を繰り広げ始めた。
くした。ここまで成長しているのか、と。それが自分の物になるのか、と。
大蛇丸のプレッシャーを跳ね除けてサスケは吠える。それを見て大蛇丸は笑みを深
してやる
﹁オレの身体はオレの物だ。浅ましく他人の力を欲している盗人風情が⋮⋮返り討ちに
665
忍具を取り出す手間に、構えから投擲までの行程を限りなく少なくする事で攻撃速度
を上げる事が出来る便利な術式だ。
サスケは次々と口寄せされる苦無を電光石火の速度で投げ放つ。
無数の苦無に晒された大蛇丸は口寄せ・羅生門によって全ての苦無を防ぎ切った。
羅生門は強固な防御力を誇る巨大な門であり、その防御を突破するには苦無では威力
が足りな過ぎた。
だがサスケはそれでも構わずに苦無を投擲し続ける。その苦無は真っ直ぐに羅生門
へと向かわず、羅生門を逸れて投擲されていた。
完全に当たるコースではない。だがサスケは苦無と苦無を空中で衝突させる事でそ
﹂
の軌道を変化させ、羅生門の後ろに隠れている大蛇丸へと苦無を届かせた。
!
雷光剣化による苦無の高速投擲が羅生門によって防がれたならば、それを利用して新
﹁⋮⋮なるほどね。私が羅生門を口寄せして、視界が通っていない内に起爆札を⋮⋮﹂
苦無に起爆札を付けていたのである。
次の瞬間には大蛇丸が先程まで立っていた地点に爆発が起こる。サスケが幾つかの
が、大蛇丸は全ての苦無を避け切ったというのに咄嗟にその場から離れていく。
反射を利用して左右上下から迫る苦無を大蛇丸は見事な体捌きにて避け切った。だ
﹁やるじゃない
NARUTO 第二十二話
666
たな手を二重三重に仕込んで打ってくる。
この歳でこの力量。将来は確実に自分の手に余る存在へと至るだろう。やはりこの
時以外にはなかったと大蛇丸は確信した。
るサスケならば無茶ではない。後は印の知識を詰め込めば良いだけである。
普通の忍には無茶な修行だが、写輪眼という動体視力と観察眼に優れた眼を持ってい
を理解出来るようにする為だ。
する為ではなく、術の印の構成を見切る事でその術が完成する前に何の術が発動するか
サスケは修行の過程で多くの術の印を教え込まれていた。それはそれらの術を会得
そしてサスケは大蛇丸の印を写輪眼で見切り、その構成が風遁系の術だと看破した。
も黙ってそれを見ているわけがない。大蛇丸も印を組み、術を発動させようとする。
高速で印を組み、得意の千鳥にて一気に勝負を決めようとするサスケ。だが、大蛇丸
意識を改めたサスケは大蛇丸を確実に殺す為に全力を尽くす。
くして倒せない敵だと意識を改めた。
元とは言え二代目三忍の名前は伊達ではないようだ。そう認識したサスケは消耗な
せられなかった事に舌打ちをする。
無駄にチャクラを使わずに終わらそうと思っていたサスケはこの段階で手傷も負わ
﹁ちっ⋮⋮﹂
667
NARUTO 第二十二話
668
大蛇丸が放とうとしている術が風遁系だと理解したサスケの行動は早かった。
雷遁は風遁に弱い。そして千鳥は雷遁の一種である。術の相性的に雷遁で風遁に勝
つ事は難しいと言える。雷遁チャクラを纏ってもその防御を超えてダメージを与えて
くる可能性も高い。
ならばどうするか。答えは簡単だ。風遁に強い火遁を放てばいいのである。
サスケは直ぐに雷遁から火遁の術へと印を組み直した。それを見た大蛇丸は怪訝に
││
││
思ったが、既に組みあがった術の発動を止める事は出来なかった。
││風遁・真空大玉
││火遁・豪火球の術
!
ばどうなるか。それは大蛇丸が身を持って教えてくれた。
すればより強大な火遁の術へと転じさせて敵を攻撃出来るのだが、敵対する者同士なら
これが性質変化の相性なのだ。風遁は火遁の炎をより強大にする。二人の忍が協力
い。
大玉が豪火球に劣る術という訳でも、術において大蛇丸がサスケに劣るという訳でもな
だがそれは後から放たれた豪火球の術に飲み込まれてしまう事となる。これは真空
という術の強化版だ。
大蛇丸が口から巨大な真空の玉が放たれる。当たった物を貫く貫通力を持つ真空玉
!
﹁ぐああああぁあぁ
﹂
﹂
﹁ふふふふふ、良く見抜いたわね
流石は写輪眼と言ったところかしら
﹂
!
﹁やはり生きていたか
そしてすぐに体を捻って後ろから迫っていた草薙の剣を紙一重で躱した。
一つしなくなったその死体を一瞥してその場から離れていく。
大蛇丸の全身が黒焦げとなるのに大した時間は掛からなかった。サスケは身じろぎ
身を焼き焦がしていく。
真空大玉を飲み込んで更に巨大な炎の塊となった豪火球は大蛇丸すら飲み込みその
!?
片や面倒な敵だと大蛇丸を睨みつけるサスケ。片やサスケを見ながらその表情を歓
戦闘開始と同じく再び相対する二人。だがそんな二人の表情は対照的だった。
れになっていたかもしれない。
を倒すには至らない。角都か飛段のどちらかがいなければ大蛇丸が不死コンビの片割
この恐るべき再生能力も数多の人体実験で得た成果だ。あの程度の外傷では大蛇丸
表皮を脱ぎ捨てて無傷のままに復活を遂げた。
更に大蛇丸はその口から大蛇丸自身を吐き出し、まるで脱皮したかのごとく黒焦げの
しサスケを攻撃していたのだ。
黒焦げの死体となったはずの大蛇丸がその口から草薙の剣を吐き出して刀身を伸ば
!
!
669
喜に歪ませる大蛇丸。
そして大蛇丸はサスケに対してその実力を褒め称え始めた。
印の速度。相手の印を見抜く洞察眼。そしてその術の詳細を理解する知識。即座に
﹁素晴らしい⋮⋮素晴らしいわサスケ君。良くぞここまで強くなったものね﹂
印を組み直し、相手の術に相性が良く後手に回った故に手早く印が組み終わる術を選択
する判断力。全てが上忍ですら成し得ない熟練の業だ。これが十五、六の少年だと言う
のだから称賛せずにはいられないだろう。
﹂
そして大蛇丸はその称賛の後に爆弾発言を落とした。
﹁流石は三忍の弟子と言ったところかしら
﹂
?
はサスケの疑問を理解した。
大蛇丸が勘違いでもしているのか
そんな風に考えるサスケの反応を見て大蛇丸
父のフガク、そして主に日向アカネだったからだ。
だがサスケはその三人の誰の弟子でもない。サスケを鍛え上げたのは兄のイタチと
也と綱手、そして目の前にいる大蛇丸を指す言葉だ。
大蛇丸の言葉はサスケには理解出来ないモノだった。サスケにとって三忍とは自来
﹁⋮⋮なに
?
?
﹁ああ⋮⋮そう言う事。どうやら教えてもらっていないようねぇ。日向アカネも人が悪
NARUTO 第二十二話
670
い⋮⋮いえ、秘密にする必要がある事だから仕方ないと言えば仕方ないわね﹂
﹂
!?
あの歳で誰よりも⋮⋮そう、火影よりも強いだなんて普通はありえない
?
それが、大蛇丸の口からサスケへと放たれた。
詮索を避けつつも内心で気にしていたアカネの秘密。
そう言われれば守るのが忍だが、そう言われれば余計に気になるのが人間だ。誰もが
ころか詮索無用の命令まで受ける始末だ。
だが事情を知っているだろう上忍や火影に聞いても誰も教えてはくれない。それど
らない者ならば誰もが疑問に思っていた事だ。
そう、それは常日頃からサスケが、いやアカネが修行を付けていてアカネの正体を知
わ﹂
るでしょう
﹁くくく、いいわ教えてあげる。日向アカネの強さにあなたも疑問に思った事くらいあ
に気になっているだろう答えを教えてあげた。
を深める。それを見たサスケが更に苛立ちを顕わにするが、大蛇丸は無駄に引っ張らず
そんなサスケを見て大蛇丸は強くなっても精神はまだ成熟していないようだと笑み
密を敵である大蛇丸が知っているというのが余計にサスケを苛立たせているようだ。
大蛇丸の思わせぶりな言い方にサスケは苛立ちを見せる。自分も気になっていた秘
﹁⋮⋮アカネが何だって言うんだ
671
﹂
﹁日向アカネが誰よりも強い秘密⋮⋮それはね、日向アカネがあの初代三忍である日向
ヒヨリの生まれ変わりだからよ
﹂
大蛇丸が語った衝撃の真実を聞いたサスケは一瞬呆けて、そしてこう返した。
﹁⋮⋮﹂
!
﹂
!
アカネの圧倒的な底知れぬ強さ、特定の忍との関係、そしてその存在の秘匿性。それ
大蛇丸の心の底からの叫びにサスケはその言葉に信憑性を感じてしまう。
なんてね⋮⋮教えて欲しいものねぇ、その転生の秘術を⋮⋮
しかも、記憶も術もチャクラも受け継いだ上に完全に新たな肉体となって生まれ変わる
とは思ってもいなかったからねぇ。いえ、誰であろうと想像した事はないでしょうよ。
﹁いいえ真実よ。信じられないのも分かるわぁ。私もまさかあの日向ヒヨリが復活する
と考えても何らおかしな事ではない。
しかも敵である大蛇丸の言葉だ。騙そうとしているか馬鹿にしているかのどちらか
得る訳がない。
サスケの反応は間違いなく正しい反応だろう。生まれ変わり等と普通に考えてあり
﹁⋮⋮馬鹿にしてんのか
?
らの理由が日向ヒヨリの転生体である事ならば⋮⋮。
﹁まさか⋮⋮﹂
NARUTO 第二十二話
672
﹁そのまさかなのよ。穢土転生しかり、私の不屍転生しかり。死者を蘇らす術や他者の
﹂
肉体を乗っ取り転生する術は数少なかれどこの世には存在する。ならば輪廻転生する
術があっても不思議ではないと思わない
ならば輪廻転生の一つや二つくらいあって不思議ではないだろう、と。
目の前の男も他人の体を乗っ取り長く生き続け、これからも不死であろうとしている。
そう言われてサスケは納得する。この世界には想像を超えた術が人知れずあるのだ。
?
﹂
?
﹁⋮⋮なんですって
﹂
﹁ああ⋮⋮二代目三忍とやらが名前負けしてるって事が良く理解出来たよ﹂
﹁納得したかしら
に費やしていると分かって幾分かは溜飲が下がった思いである。
負けて悔しいという思いはなくならないが、相手が自分よりも圧倒的に長い時を修行
のだ。
ここまでの力の差があって同年代という思いに結構打ちひしがれていた事は多かった
確かに信じがたい事実だが、むしろ同年代でなかった事に逆にホッとしたくらいだ。
すっきりとした。
道理で強いわけだ。あの化け物染みた強さの秘密が理解出来てサスケはどことなく
﹁なるほどな⋮⋮道理で⋮⋮﹂
673
?
事実を知ったサスケの反応の変化を見て悦に浸っていた大蛇丸はその言葉に大きく
プライドを揺すられた。
そんな大蛇丸を無視してサスケは挑発を止めずに言葉を続ける。
﹁初代があれで、二代目がこれだろ 影分身のアカネにすら勝てないオレを相手に手
﹁言ってくれるわねひよっ子風情が⋮⋮
﹂
サスケの挑発に激昂した大蛇丸は怒りを隠す事もなくサスケを攻める。草薙の剣を
!
!
﹁そのひよっ子に返り討ちにされるのさあんたは
﹂
や五代目をお前なんぞと一緒にしてはあの二人に悪かったな﹂
こずっている二代目⋮⋮。三忍の名が泣いてるぜ。いや、元だから仕方ないか。自来也
?
振るい、生意気な口を聞く小僧に痛い目を見せてやろうと苛烈な攻撃を仕掛ける大蛇
﹂
!
丸。
﹂
!
ケはその場から離れつつ火遁・鳳仙火の術を放つ。
剣での接近戦を仕掛けようとする大蛇丸と距離を取ろうとしているのだろう。サス
を受け入れるわけもなく身を翻して躱し術にて応戦する。
無数の蛇を口寄せし、その蛇にてサスケを拘束しようとするが、サスケも黙ってそれ
﹁やってみろ
﹁力の差を教えてあげるわ
NARUTO 第二十二話
674
サスケの口から放たれた複数の火の玉はその中に手裏剣を隠して大蛇丸へと放たれ
た。火遁の威力と殺傷力を持つ合わせ技だ。
だがその合わせ技を大蛇丸は容易く草薙の剣で弾き飛ばした。その上で離れようと
しているサスケに向けて草薙の剣の切っ先を向けて、その刀身を伸ばし攻撃をする。
﹂
﹂
裂かれた。
﹁なっ
!
もなかった。
事が出来る大蛇丸だ。傷も乗っ取りさえすればすぐに癒す事が出来るのでなんの問題
致命傷ではないが、戦闘続行は難しい重傷だ。死にさえしなければその体を乗っ取る
を突いて大蛇丸はそのままサスケの胴体を貫く。
防いだと思っていた草薙の剣が苦無を切り裂いた事でサスケに動揺が生まれ、その隙
﹁もらったわ
﹂
合ったとは思えない程にあっさりとサスケの苦無は草薙の剣によって真っ二つに切り
草薙の剣は苦無とは比べ物にならない切れ味を誇っている。金属と金属がぶつかり
あった。
まさかの攻撃方法にサスケは咄嗟に苦無にてその切っ先を防ぐ。だがそれは悪手で
﹁なに
!?
!?
675
﹁が、ぁあ⋮⋮
﹁こ、これは
﹂
﹂
勝ち誇る大蛇丸。だがすぐにその嘲笑は収まる事となった。
﹁ふふふふふ⋮⋮残念だったわねぇ。所詮はまだひよ││﹂
!
││
大蛇丸の胴体は綺麗に上下に分かれ、無残にも大地に転がり落ちていった。
れ味もまた同じくだ。
千鳥の攻撃力は雷遁忍術でもトップクラス。そして形状を刀へと変化させた時の切
大蛇丸の胴を薙ぎ払った。
分だ。幻術に嵌った隙を突き、千鳥を発動させてその形状を刀へと変化させてサスケは
その事実に気付いた時には既に遅かった。一瞬の幻術だったがそれでサスケには十
││幻術
そして周囲から無数の刃が自分を貫くイメージが大蛇丸の脳内を巡った。
貫き重傷を負ったはずのサスケが大蛇丸自身に変化していく。
!?
!?
﹁鳳仙火を放った後にだ﹂
れた。
いつの間に幻術を仕掛けたのか。その答えは幻術を仕掛けたサスケ自身が教えてく
﹁い、いつの間に⋮⋮﹂
NARUTO 第二十二話
676
﹁⋮⋮なるほど、全てがあなたの⋮⋮﹂
そう、サスケが大蛇丸を挑発してからの攻防は全てがサスケの計算通りに動いてい
た。
わざと大蛇丸を激昂させてその思考や動きを読みやすくし、鳳仙火という弱い術を
放ったのもチャクラ温存を計りつつ後方へ下がる為の時間稼ぎに見せかけ、その上で後
方へ下がって草薙の剣による追撃を誘う。
草薙の剣についての情報も自来也や綱手から聞いていたのでサスケはそれを利用し
て戦術を組み立てていたわけだ。そして大蛇丸に自身が草薙の剣で貫かれるという幻
術を見せる。後はその隙を突けばいいだけの話だ。
チャクラの消費を抑えたローコストで決着を着ける為のサスケの戦術であった。
自分にも気付かせない程の幻術の冴え。眼と眼を合わせれば相手を幻術に落としい
れる事が出来る写輪眼の力を十全に使いこなした結果に大蛇丸はますますサスケへの
評価を高めていく。
合って元に戻ったのだ。
それもそのはず。二つに分かれた胴体から無数の蛇が生え、そして互いにくっ付き
胴体を真っ二つにしたはずの大蛇丸に向かってサスケはそんな言葉を吐き捨てる。
﹁⋮⋮つくづく化け物だな﹂
677
﹂
私 は 不 滅
﹁お前⋮⋮本当に不死か
﹁そ う よ。私 は 不 死
﹂
﹂
あ な た は 私 の 予 想 を 遥 か に 超 え て 強 い わ、で も
⋮⋮不死の私を殺す事が出来るかしら
!
?
サスケと大蛇丸の激戦は更に加速し、周囲にその影響を広げていく。
!
!?
!
﹁⋮⋮いいだろう。だったらお前が蘇らなくなるまで殺し続けるまでだ
NARUTO 第二十二話
678
NARUTO 第二十三話
不死不滅。致命傷を負っても瞬く間に元に戻ってしまう化け物大蛇丸が己を称する
言葉だ。
だが実際に大蛇丸は完全な不死不滅という訳ではない。本体である巨大白蛇を殺せ
ばそれで一応の死を迎えるだろう。
アカネから大蛇丸の正体を聞いていたサスケも本体を倒す事が大蛇丸を倒す事に繋
がると理解している。問題はその本体をどうやって探し出せばいいかだ。
サ ス ケ の 写 輪 眼 で は 大 蛇 丸 の 肉 体 の 奥 深 く に 潜 む そ の 白 蛇 を 見 抜 く 事 は 出 来 な い。
なのでどうやってか引きずりだすか、肉体もろとも本体を滅する必要がある。
問 題 は 真 っ 二 つ に し た と い う の に そ の 本 体 の 白 蛇 が 全 く の 無 傷 だ ろ う と い う 事 だ。
胴体を薙いで駄目なら頭部か、それとも心臓付近か、はたまた下半身か。
とにかく見当が付かないので手当たり次第に攻撃するしかない。そう判断したサス
ケは全力を出す為に自身に課せられていた修行の枷を解く事にした。
サスケの行動を見て大蛇丸はまさかと思う。この状況でそんな物を着けていたのか
﹁⋮⋮それは﹂
679
と。
そう、サスケが解いた枷。それは⋮⋮修行の為に常に着けさせられていた高重量の重
りであった。
サスケが両手首と両足首に着けていたその重りを放り捨てる。重りが地面に落ちた
﹂
時の重量感溢れる音と、柔らかい土が減り込む見た目によりその重りがどれ程の物かは
想像に難くない。
﹁あなた⋮⋮そんな物を着けて私を倒すつもりだったの
す。
本気で舐められたものね。そう怒りを顕わにする大蛇丸に対してサスケは平然と返
?
﹂
﹁修行中に攻め込んで来た貴様らが悪い。⋮⋮だが、お前には少しだけ感謝している﹂
?
﹂
││速い
!?
││
﹂
!
重りを外したサスケの速度は大蛇丸の予想以上だった。
!
﹁ッ
﹁おかげで仲間には試せない術が思う存分使えるんでな
その意味をサスケは言葉と共に身を持って教えてやる事にした。
サスケの言葉の意味が理解出来ない大蛇丸。なぜわざわざ感謝をするというのか。
﹁⋮⋮どう言う意味かしら
NARUTO 第二十三話
680
681
地を蹴って舞った土煙を残し、サスケは瞬速にて大蛇丸の背後を取る。
だが大蛇丸も然るもの。この程度の速度ならば予想以上でも予想外ではない。対応
││
が遅れたのは事実だが対応出来ない訳ではなかった。
││水遁・水陣壁
││火遁・豪火滅却
││
水陣壁を見たサスケは体術ではなく忍術へと攻撃方法を切り替える。
術を選べるのも大蛇丸が歴戦の忍という証拠だろう。
んだのが水の性質変化による防御術だ。サスケの速度に驚愕しつつもすぐに対応して
火の性質変化を持つサスケを相手に風の性質変化で防御する訳にも行かないので選
になると術者の周囲360度に渡って水の壁を作り出す事が出来る。
チャクラを水に変化させ、術者の口から水を出す事で水の壁を作り出す術だ。熟練者
!
サスケの口から放たれた豪炎は大蛇丸の水陣壁を蒸発させてそのまま大蛇丸自身も
つまるところ、サスケは強引に水陣壁を突破しようとしているわけである。
は消えるが、森を焼き尽くす劫火に多少の水を掛けた所でまさに焼け石に水だろう。
だが性質変化の相性はあくまで有利不利の話であり絶対ではない。水を掛ければ火
全な悪手だ。
水の性質変化に対して火の性質変化を用いる。それは定石とは言えないどころか完
!
焼き払う。
だがそれでサスケの攻撃は止まらない。これくらいで死ぬ相手ならばとっくに殺し
ているからだ。
水陣壁が蒸発する際の水蒸気を利用してサスケはある仕掛けを施し、そして厄介な水
││
陣壁が無くなった事で更なる追撃を放つ。
││千鳥
だが││
残念ねサスケ君
﹂
!
のだ。だがサスケはそんな大蛇丸の不死性を見ても果敢に攻め続けた。
いくら攻撃しても無意味の如くに復活する様を見せられ続ければ心が折れそうなも
せる再生力だ。
ボロボロとなった肉体の口から新たな大蛇丸が吐き出される。まさに不死身を思わ
!
したのは本体にダメージを与える確率を増やす為である。
頭部に二つ、胴体に四つ、両手足に二つずつ。完全に即死のダメージだ。全身を攻撃
つもの穴を作り出した。
その千鳥苦無は岩すら貫通する威力となって焼け焦げた大蛇丸に命中。その身に幾
口寄せした苦無に千鳥を流し、その切れ味を圧倒的に高めて複数本投擲する。
!
﹁あははははは
NARUTO 第二十三話
682
││千鳥千本
だが││
││
至ったからこその術である。
の戦闘力を奪い去るつもりなのだ。これはサスケの写輪眼が点穴すら見抜けるまでに
これは致命傷を与える為ではなく、大蛇丸の点穴を狙った攻撃だ。点穴を突く事でそ
針状に形態変化させた千鳥をその名の如く無数に投擲する術だ。
!
いだした。
ここでサスケは大蛇丸の言葉からアカネから聞いていた大蛇丸の弱体化について思
見抜ける者は稀なのだから。
いや、写輪眼で点穴を見抜ける時点で十分なのだが。何せ白眼の持ち主でさえ点穴を
眼ではこれ以上に大蛇丸の奥深くを見抜く事は出来ないでいた。
いくら点穴を見抜ける様になったとはいえ、その辺りは白眼の十八番だ。流石に写輪
打ちをする。
全身に刺さった千鳥千本を何の痛痒にも感じずにそう語る大蛇丸を見てサスケは舌
﹁ち⋮⋮﹂
の点穴を見抜く事は出来ないわね﹂
﹁無駄よ。私の点穴はそこではないわ。日向アカネならばともかく、あなたでは私の真
683
本体である白蛇に直接チャクラの針を埋め込む事でその点穴を封じ込め続けるとい
う性質の悪い仕置きをアカネは大蛇丸に施していたはずだ。
だがこの大蛇丸は弱体化しているようには到底思えない。いや、これで弱体化してい
ると言うのだろうか。それならば流石は二代目三忍となるのだが。
﹂
ああ、あれね。私がいつまでもあんな術で封じられていると思うのかしら
﹁⋮⋮お前、アカネの封印はどうした
﹁封印
のだが。人間窮すると思考が纏まらないものである。
尤も、大蛇丸自身すぐにその発想に至らなかったからこそ一度は綱手に助けを求めた
だった。
である。これは大蛇丸の部下にそういう特殊能力を持つ者がいたからこその回復手段
大蛇丸がチャクラの針を取り除いた方法は単純だ。チャクラそのものを吸収したの
ようだ。
サスケにはどうやったのかの見当は付かないが、どうやら弱体化はとうに解けている
?
?
とっくの昔に解除させてもらったわ﹂
?
うかしら
﹂
﹁⋮⋮まあそうね。いつまでも舐められているのも癪だし、ここは挑発に乗って上げよ
﹁そうか。じゃあこれで全力って事か。やっぱり大した事はなさそうだな﹂
NARUTO 第二十三話
684
!
││風遁・大突破
﹁無駄な事を
﹂
││
大な土煙は周囲を覆い隠し視界を零にしてしまう。
その証拠に大突破はサスケではなく地面に向けられていた。それにより発生した膨
の術だった。
大蛇丸が叫びと共に口から暴風を解き放つ。だがこれは攻撃ではなく目晦ましの為
!
﹂
!
一旦は土煙から離れて様子を見る。そう判断したサスケはその場から飛び立ち土煙
ので無駄撃ちをしてチャクラを消費をする訳にも行かない。
いっその事全てを焼き払ってやろうかと思うが、本体が土煙の中にいるとは限らない
風遁の性質変化を有していないサスケにこの土煙を掻き消す手段は少ない。
﹁ちっ
ないでいた。
のチャクラが残されており、それによりサスケは大蛇丸の本体がどれなのか判断が出来
だが大蛇丸は土煙の中に自らの脱皮体を複数配置していた。この脱皮体には大蛇丸
るのだ。
色で見分ける事が出来る。それは視界が遮られていてもある程度は判別する事が出来
土煙で視界が遮られていようとサスケには関係ない。サスケの写輪眼はチャクラを
!
685
NARUTO 第二十三話
686
から離れて木の枝に着地する。
そして周囲を見渡し、写輪眼にてあらゆる物を注意深く観察する。そこでサスケは大
蛇丸のチャクラを持ち、尚且つ動く物体を発見した。
││
他の脱皮体は微動だにしていない事からこれが本体であると判断したサスケは即座
に攻撃を放つ。
││雷遁・電磁投射の術
前方から迫る苦無に集中すればするほど後方の苦無に対しては一度避けた事もあり
石苦無を引き寄せ、後ろから大蛇丸を狙い撃つ。
だがそれで問題はなかった。すぐに投擲された新たな磁石苦無が最初に投擲された磁
最初に投擲した磁石苦無が大蛇丸へ向かうが、それはあっさりと避けられてしまう。
士を引き寄せ合わせる。擬似的な磁遁とも言えるだろうか。
い。投擲した時に雷遁を籠めておき、雷遁の強弱によって磁力をコントロールし苦無同
電磁石は電気を流した時に磁力を発する。つまり通常は普通の苦無と殆ど変わらな
ある。
空中で引き寄せるというサスケとアカネが開発したオリジナルの術が電磁投射の術で
で苦無は電磁石と化すのだ。そして雷遁の巧みなコントロールにより磁石苦無同士を
導線を巻いた特殊な苦無、それを複数本投擲して雷遁により電流を流す。そうする事
!
その存在を感知する事も出来なくなるだろう。しかも互いに引き寄せあう性質により
途中から苦無の速度が上がるのでその為に目測を見誤る事もある。
﹂
確実に命中した。そう思っていたサスケは次の瞬間に驚愕する事となる。
﹁なに
﹂
!?
た。
!
頭部には4本の角が生えており、全身の皮膚はまるで爬虫類の鱗のように変質してい
そこにいたのは大蛇丸だ。だが、その見た目は大きく変貌していた。
﹁これは⋮⋮
﹂
大蛇丸がそう呟くと同時に土煙は霧散していき、そして大蛇丸の全貌が顕わになっ
﹁無駄よサスケ君⋮⋮今の私の感知能力にはあの程度の攻撃は通用しないわ﹂
体どういう絡繰なのか。
しかも土煙により視界がほぼ零の状態で前後から迫る高速の苦無を避けたのだ。一
た。それだけ特殊で意表を突いた攻撃だと言えよう。
サスケ自身、何も知らなければこの術を見抜く事は出来ないだろうという自覚があっ
﹁あれを初見で見抜いただと⋮⋮
しかも後ろを見る事もなく後方から迫る苦無を掴み取るという芸当も披露してだ。
不意を突いたはずの二段構えの攻撃が完全に躱されたのだ。
!?
687
る。そして両目の周囲には隈取りが現れていた。
﹂
﹂
完 全 な 仙 人 モ ー ド に
その見た目の変貌、そして大蛇丸の言う感知能力。そこからサスケは大蛇丸の変化の
答えに行きついた。
﹁まさか⋮⋮仙人モードか
至った私を相手に勝てるかしら
﹁知 っ て い た の ね ぇ。そ う、こ れ が 私 が こ の 三 年 で 得 た 力 よ
﹂
た。そして再び訪れた龍地洞にて大蛇丸はとうとう仙人モードを会得したのだ。
だがこの三年という年月は大蛇丸が自身の肉体を強化するには十分過ぎる時間だっ
持っていなかったのだ。
蛇 丸 は そ の 時 は ま だ 仙 人 へ と 至 る 事 は 出 来 な か っ た。仙 人 モ ー ド に 耐 え う る 肉 体 を
そこから大蛇丸はその一族の秘密を探り当て、そして龍地洞を発見したのだ。だが大
いた。
大蛇丸は実験にて自然エネルギーを体に取り込む特殊な性質を持つ一族を分析して
そう、この三年間で大蛇丸は仙人モードを会得していたのだ。
!?
!
!
見た目が人間からより蛇に近付いただけだろうが
!
!
はなくとも理解はしていた。
口ではそう言うが、サスケは仙人モードの恐ろしさをアカネの口から説明されて実感
﹁ふん
NARUTO 第二十三話
688
事実先の攻撃を完全に見切り躱しているのだ。油断しよう物なら一瞬でやられてし
まう。そう認識してサスケは全神経を集中させて写輪眼にて大蛇丸を睨みつける。
あらゆる動きを見逃してなるものか。仙人となった大蛇丸を最大限に警戒してのそ
の判断は、それ故にサスケを窮地へと陥れてしまった。
と至ったのよ
﹂
!?
﹂
激しい光で視界を奪い、轟音で聴覚を奪い、空気振動で感覚を麻痺させて動きを奪う
しまいまともに動く事すら叶わなかった。
咄嗟にその場を離れようとするが、骨すら軋むような轟音にサスケの感覚は麻痺して
を落とし目を瞑り、そして耳を塞いでしまう。
炸裂した龍は凄まじい光と音を発したのだ。その光量と轟音に思わずサスケは目蓋
その術は最大限に効果を発揮した。
何が起こっても対応出来る様に注意深く写輪眼でその龍を見ていたサスケに対して、
﹁││ッ
て行き、そして炸裂した。
大蛇丸がその口から黒い球を持った白い龍を吹き出す。龍は黒い玉を中心に渦巻い
!
!!
││仙法・白激の術
││
﹁ふふふ。既に私は蛇じゃないわ⋮⋮。完全な仙人の力を手にした私は蛇を脱し、龍へ
689
術、それが白激の術だ。
この状況で動く事が出来るのは大蛇丸のみだ。蛇の角膜で視界を閉じることで光を
無視し、体内を液化するという大蛇丸の実験体から得た能力で音と振動に柔軟に耐え
る。
白 激 の 術 を ま と も に 受 け て し ま っ た 時 点 で サ ス ケ に 対 処 す る 手 段 は 皆 無 と な っ た。
当然この大きな隙を大蛇丸が狙わない訳が無い。颯爽とサスケに近付いて行きその口
を大きく、サスケを飲み込める程に大きく広げてそのままサスケを体内へと捕らえよう
とする。
体内にてサスケの動きを麻痺させ、ゆっくりと意識を朦朧とさせ、そして最後にはそ
││ちぃっ
﹂
の肉体を乗っ取る。これで大蛇丸は今までで一番強く美しい肉体を手に入れる事が出
来るだろう。
﹁頂いたわサスケ君
!?
り下ろされた巨大な剣が物語っていた。
﹂
何故千載一遇の好機を逃したのか。その理由はサスケと大蛇丸の間を塞ぐように振
丸は突如として身を翻しその場から離れる事となった。
だがそうはならなかった。後一歩の所でサスケの肉体を飲み込もうとしていた大蛇
!!
﹁ここに来て邪魔が入るとは⋮⋮麗しい兄弟愛ねぇ、うちはイタチ
!!
NARUTO 第二十三話
690
﹁⋮⋮﹂
そう、それが大蛇丸の邪魔をした男の名。うちはサスケの兄にしてうちは最強の男。
うちはイタチである。
﹂
?
だがサスケの術を確認した為にサスケと暁が交戦中だと判断し、弟を守る事と暁の数
動き出していた。
イタチはフガクの命令通りに綱手の元に赴き情報を伝え、その後に暁に対抗する為に
出来る術だ。
チしかいない。そして豪火滅却は炎が広範囲に広がるので遠目からでも確認する事が
そう、サスケが放った火遁・豪火滅却は木ノ葉の里でサスケ以外に使用する者はイタ
﹁ああ、なるほどねぇ﹂
﹁あれほどの火遁が上がればな⋮⋮﹂
かったのかしら
﹁まるで見ていたかの様に完璧なタイミングでの登場じゃない⋮⋮どうやってここが分
そんなサスケの傍にイタチは降り立ち、サスケを守る様に大蛇丸と対峙する。
が出来ないでいた。
白激の術自体は既に消えているがその効果がまだ残っているサスケには現状の把握
﹁ぐ、ぅ、な、何が⋮⋮﹂
691
を減らすという名目を同時にこなせるだろうこの場へと急遽赴いたのだ。
そしてタイミングに関しては大蛇丸の言う通り、見ていたからこその完璧なタイミン
グだった。
暁はどのメンバーも得体の知れない能力を有する者達だ。そんな敵を相手に何も考
えずに戦闘に参加し、何の情報もないままに未見の能力で一網打尽にされては堪った物
ではない。
けん
そう判断したイタチはサスケが優勢に戦闘を進めていた事もあってまずは大蛇丸の
能力を見切る為に忍んで見に回っていたのだ。
そして白激の術の範囲外にてその効果を理解し、サスケを飲み込もうとする大蛇丸を
﹂
牽制する為にサスケの眼前に須佐能乎の剣を振り下ろしたのである。
!?
﹂
!
甲斐なさだ。
尊敬する兄に助けられた事はサスケに二つの想いを抱かせていた。安堵と、己への不
﹁くっ⋮⋮
﹁ああ。遅くなってすまなかったな﹂
る。
ようやく視界が元に戻ったのか、傍に立つイタチを確認してサスケは驚きの声を上げ
﹁これは⋮⋮に、兄さん
NARUTO 第二十三話
692
超えるべき兄に助けられる。成長し強くなっても未だに兄の手の平の上に立ってい
るに過ぎないのかと己の不甲斐なさに情けなくなるくらいだ。
そんなサスケを見てイタチはそれを否定した。
﹁っ
ああ、分かっているさ
﹂
!
﹂
!
﹁ふざけやがって⋮⋮
おれ達はお前なんぞの替えじゃないんだよ
﹂
!
サスケは大蛇丸の不死性に対抗する為にチャクラを温存していたが、もはやそうも
!
モードとはそれほどの物を秘めているのだ。
そしてそれは驕りではなかった。真実大蛇丸はそれだけの力を手にしていた。仙人
れなかった。それだけ今の自分の実力に自信があるということだろう。
現うちは一族で五本の指に入る実力者を二人同時に相手にしても大蛇丸の余裕は崩
間違えてどちらかを殺してしまってもスペアがあるというのは魅力的じゃない
﹁二対一ね⋮⋮いいわよ。イタチ、あなたの肉体も十分に魅力的だしねぇ⋮⋮。加減を
に他ならないのだ。
それは慰めにはなったかもしれないが、逆に言えば大蛇丸の恐ろしさを表している事
イタチですら初見では対応出来なかったという事実は脅威以外の何物でもない。
!
めろよ。奴は強い﹂
﹁そう嘆くな。今のはオレも初見では対応する事は出来なかっただろう⋮⋮気を引き締
693
言ってられる状況ではなくなったと判断して全力を開放する。
すなわち雷遁チャクラモードの発動である。仙人モードの大蛇丸は完全にサスケを
上回る実力を有している。そんな敵を相手にチャクラの温存などと悠長な事を言って
いられる訳もなかった。
﹂
﹁行くぞサスケ﹂
!
仙人モードの感知能力は桁違いだ。通常の大蛇丸ならば敢え無くこの一撃を受けて
だが、どれだけ鋭い矛だろうと当たらなければ意味はない。
手刀はあらゆる物を貫く矛となっている。
そして攻撃においても同様だ。千鳥と同じく一点に集中させた電撃によりサスケの
の上全身を覆う雷が肉体を守る強固な鎧と化す。
雷遁チャクラモードは体内を走る雷が神経伝達を上げる事で高速戦闘を可能とし、そ
丸に近づき手刀を繰り出す。
先手はサスケだった。雷遁チャクラモードによる高速移動を駆使して瞬く間に大蛇
挑む。
雷遁を纏うサスケと須佐能乎を纏うイタチ。うちはの兄弟コンビが狂った龍退治に
﹁ああ
NARUTO 第二十三話
694
いただろうが、仙人に至った大蛇丸は瞬きする間もないサスケの攻撃でさえ見切ってい
たのだ。
紙一重でサスケの手刀を躱した大蛇丸は反撃にサスケへと拳を振り下ろす。
その攻撃は雷速を手に入れたサスケには余裕で回避出来る速度であった。現にサス
﹂
ケは不適な笑みを浮かべて余裕をもって回避している。
﹁ぐあっ
﹂
!?
吹き飛ばされるサスケに大蛇丸が高速で迫る。ここで一気に止めを刺そうとしてい
イタチにもこの攻撃を見切る事は出来ないという訳だ。
しかも自然エネルギーは仙人でない限り感知する事は出来ない。つまりサスケにも
を術者の体の一部の様に操り、対象に攻撃する事が出来るのだ。
仙人モードになると自然エネルギーをその身に纏う様になる。その自然エネルギー
モードの特徴の一つ、自然エネルギーを利用した攻撃である。
経 験 豊 富 で 洞 察 力 と 分 析 力 が 高 い イ タ チ に も 理 解 出 来 な い そ の 攻 撃。こ れ が 仙 人
﹁これは⋮⋮
はずだった。それは離れていたイタチも写輪眼にて確認していた。
確実に避けたはずだった。大蛇丸の腕はサスケの肉体には全く触れずに通り過ぎた
だが、サスケは理解出来ない攻撃によって大きく吹き飛ばされた。
!?
695
るようだ。
致命傷を与えて放置し、その後にゆっくりとイタチを相手にするつもりだろう。だが
││
それを黙って見ているイタチではない。
││八坂ノ勾玉
﹂
く直撃すれば仙人モードですら致命的なダメージを負うだろう。
これがイタチの須佐能乎の最強の遠距離忍術、八坂ノ勾玉である。その威力は凄まじ
イタチが写輪眼の瞳の勾玉の形をした巨大なチャクラの塊を須佐能乎から投擲する。
!
知れない術で封印でもされたらたまった物ではない。
大蛇丸ならば先の忍術で致命傷を受けても再生するだろうが、その再生の間に得体の
今の八坂ノ勾玉もそうだ。大蛇丸が知らない術であり、その威力は計り知れない。
何を秘めているのか分からない何かがあった。
純粋な実力ではサスケもイタチに十分追い縋っている。だがイタチは大蛇丸をして
やはりうちはイタチはうちはサスケ以上に危険な存在か。そう大蛇丸は判断する。
を刺すのを断念した。
流石に危険と判断したのか大蛇丸は八坂ノ勾玉を回避する事に専念しサスケに止め
﹁くっ
!
︵やはりイタチを先に仕留めるべきかしらねぇ︶
NARUTO 第二十三話
696
そう考えていた大蛇丸にイタチが言葉を投げ掛ける。
﹂
?
﹁堕ちた 目覚めたと言って欲しいわね。そんな質問をするだなんて平和ボケした木
﹁大蛇丸⋮⋮かつては二代目三忍と謡われたあなたが何故そこまで堕ちた⋮⋮
697
﹁だから言ってるでしょう。目覚めたのよ。木ノ葉の為 下らないわ。私は私の為に
に命を懸けて戦っていたはずだ﹂
﹁かつてのあなたはそうではなかったと聞く。少なくともかつてはあなたも木ノ葉の為
ノ葉に住んでいるとうちはも腐っていくのね﹂
?
﹁日向ヒヨリも同じような事を言っていたわね。でも、やってみなければ分からないで
可能だ﹂
﹁そちらの方が下らないな。例え永遠を生きたとしても全ての真理を手に入れるなど不
ざりだったわぁ﹂
が私の望み。そんな私にとって仲良しこよしのあなた達木ノ葉と一緒にいるのはうん
﹁私にとって忍者とは忍術を扱う者の事。全ての術を手に入れ全ての真理を理解する事
まるで木ノ葉に対する憤りを表すかのように⋮⋮。
そう吐き捨てて大蛇丸は風に乗って眼前に落ちて来た木の葉を振り払い微塵にする。
は赤の他人よ。そんなものの為に命を懸けて戦っていたなんて反吐が出そうよ﹂
生きる。猿飛先生が言っていたわねぇ。里は家族だって。愚かしい、どう言おうが所詮
?
しょう
﹂
││
!
大蛇丸が周囲の自然物に自身の生命力を分け与える。それにより生体機能を持たな
││仙法・無機転生
丸は、サスケが戻って来たのを確認してその力を発揮し始める。
イタチの会話をサスケが戻るまでの時間稼ぎと理解しつつもそれに乗っていた大蛇
!
接近戦は不利だとサスケは悟った。
﹂
そ れ で も 復 帰 す る の に こ こ ま で の 時 間 を 要 し た の だ。感 知 不 能 な 威 力 の 高 い 攻 撃。
に抑えていたのだ。
ている。だが雷遁チャクラを纏っていたサスケの防御力はどうにかダメージを最小限
自然エネルギーを利用した一撃は非常に強力であり、並の忍ならば一撃で即死となっ
ていた。
イタチと大蛇丸が会話をしている間にサスケは態勢を立て直し再び大蛇丸と対峙し
﹁無駄だ兄さん。こいつは瞳と共に心も閉じている。何を言おうが意味はない﹂
チの言葉など聞く耳も持たなかった。
話は完全に平行線だった。大蛇丸の里への想いなど負の感情しか残っておらず、イタ
﹁無駄な事は止めて三代目の教えを思い出すんだな。その方が余程身の為になる﹂
?
﹁時間稼ぎは終わりかしら。それじゃあそろそろ行かせてもらうわよ
NARUTO 第二十三話
698
い土や岩、鉱物に生命が与えられ、大蛇丸のコントロール化に下った。
土 遁 な ど の 忍 術 で 操 る 術 と は そ の 攻 撃 速 度 も 術 の 範 囲 内 で の コ ン ト ロ ー ル も 桁 が
﹂
違っていた。恐るべきは仙人の術か。
﹁ちぃ
﹂
!
﹁やるじゃない
確かに命を持っている木は私にも操れないわねぇ
﹂
!
木ですら操る事が出来ていれば今頃サスケは大蛇丸の餌食になっていただろう。
たのだ。
だったが、大地の全てが襲ってくる状況でどうにか足場を得なければ逃げようがなかっ
これはサスケも一か八かの賭けだった。大蛇丸の術の詳細が理解出来ていない状況
いる木々ならば足場にするに問題はないという事だ。
そう、無機転生は命を持たない自然物に命を与えて操る術。つまり元から命を持って
!
して利用してその攻撃を躱し続ける。
て攻撃を仕掛けてくる。大地にまともに降り立つ事も出来ないサスケは木々を足場と
しかし大蛇丸の攻撃は止まらない。サスケを追って次々と周囲の自然物が牙を剥い
佐能乎が誇る絶対防御でその攻撃を防ぎ切った。
だがサスケとイタチも然る者。サスケは雷遁による圧倒的な速度で躱し、イタチは須
﹁っ
!
699
﹁この
﹂
﹂
││
!
﹂
の大地へと戻って行ったのだ。
そしてそれは好手となった。無機転生で操られた自然物はサスケの火遁を受けて元
を焼き尽くすつもりだろう。
迫り来る無機物に対してサスケは火遁で応戦する。範囲の広い術で一気に無機転生
││火遁・業火滅却
姿勢が崩れたサスケに向かって大地が刃と化して迫り来る。
﹁くそ
か空中で姿勢が崩れ、その苦無はあらぬ方向へと飛んで行った。
サスケは空中で大蛇丸目掛けて苦無を投擲する。だが回避しながら攻撃に転じた為
!
!
!
││
!
炎はけして消える事はなく、対象を燃やし尽くすまで存在し続けるという。
天照。視界の中で焦点を合わせた空間に黒い炎を生み出す万華鏡写輪眼だ。その黒
││天照
に万華鏡写輪眼の一つを仕掛ける。
その言葉を聞いたサスケがイタチの元に戻って来た瞬間にイタチは自分たちの周囲
それを見たイタチは無機転生の弱点を理解した。
﹁サスケ、オレの傍に来い
NARUTO 第二十三話
700
封印する以外に天照の黒炎を取り除くことはほぼ不可能であり、下手すれば術者にも
牙を剥きかねない強力にして危険な瞳術だ。
その黒炎を周囲の大地に仕掛ける事でイタチは無機転生を封じ込めたのだ。
││
!
めていた雷遁を一気に活性化させる。
サスケが投擲した磁石苦無が大蛇丸の元に飛来する。瞬時にサスケが磁石苦無に籠
単純だが確かに効果的かもしれない。まあ、見破られなければの話だが。
ば感知しようが避け切れない量の攻撃を加えようという気だろう。
それらを見た大蛇丸はサスケの狙いを看破した。仙人モードの感知能力が高いなら
より口寄せした苦無や手裏剣を無数に投擲した。
大蛇丸に向けて磁石苦無を投擲。そしてすかさずサスケは上空に向けて雷光剣化に
すでに大蛇丸に破られた術だが、サスケは敢えてこの術を選択した。
││雷遁・電磁投射の術
安全な足場を得たサスケは接近戦を避けて遠距離で大蛇丸を仕留めるべく術を放つ。
弱点も増えてしまったわけだ。
そう、それが無機転生の弱点だった。生命を得た事で強力な術となったが、それ故に
験になったわ﹂
﹁なるほどねぇ。生命を得たが故に炎の熱さで大地が元に戻ってしまったのね。良い実
701
強 力 な 電 磁 石 と 化 し た 苦 無 目 掛 け て 空 中 の 苦 無 や 手 裏 剣 が 一 気 に 引 き 寄 せ ら れ た。
だが当然そうなると理解していた大蛇丸は空に向かって風遁・大突破を放っていた。
仙術となった大突破ならばこの程度の磁力を無視して上空の苦無を吹き飛ばすだろ
う。後は高々一本の磁石苦無を処理するだけだ。⋮⋮そのはずだった。
電磁石の磁力は導線を巻いた回数と流される電流の強さによって変わる。そしてサ
スケが投擲した苦無には重ならないよう数十回も導線が巻かれ、その上雷遁により強力
な電流が流れている。
つまりこの電磁石は非常に強い磁力を放っているわけだ。空中に飛来していた苦無
や手裏剣は当然の如く⋮⋮地中に隠されていた苦無も反応して引き寄せられる程にだ。
﹂
!?
面に苦無を仕込んでいたのだ。後の電磁投射の術に利用する仕込みとしてだ。
大蛇丸の水陣壁を業火滅却にて蒸発させた後。水蒸気で視界が遮られている隙に地
実はサスケは大蛇丸が仙人モードになる前に地面に苦無を仕掛けていたのだ。
んな仙人モードの自分をいつ欺いたのか。
感知能力が高まり、視界は蛇の角膜で閉ざしているので幻術で騙す事も出来ない。そ
解が出来なかったのだ。
これには大蛇丸も驚愕した。空中はともかく、地中の苦無はいつ仕掛けたのか全く理
﹁なに
NARUTO 第二十三話
702
一度目の電磁投射で仕留める事が出来れば利用するつもりはなかったが、どうやら無
﹂
駄な仕込みにはならなかったようである。
﹁こんなもので
る。
まさか
﹂
!
ジを負い、生き延びても電撃により動きを硬直させる。これぞ電磁投射包囲の陣であ
作り出す。これで逃げ場はない、結界を抜け出ようとすれば強力な電撃を浴びてダメー
更に大蛇丸を囲む磁石苦無がそれぞれ電撃を放ち大蛇丸を囲む電撃の壁、電磁結界を
投擲されたのではない。この展開を狙って仕掛けていたのだ。
サスケが無機転生から逃れている時に放った苦無は姿勢が崩れた為にあらぬ方向へ
る苦無が映る。そう、サスケの磁石苦無である。
大蛇丸は咄嗟に背後を振り返った。そして大蛇丸の視界に木に刺さって放電してい
﹁これは
!?
寄せられていた無数の苦無は突如としてその軌道を変え、大蛇丸目掛けて再び飛翔す
だが、そんな弱点を術者であるサスケが理解していない訳がない。磁石苦無へと引き
つまり磁石苦無から離れれば残りの苦無も全て回避する事が出来る。
結 局 は 苦 無 は 大 蛇 丸 目 掛 け て で は な く 磁 石 苦 無 目 掛 け て 引 き 寄 せ ら れ て い る の だ。
意表を突かれた大蛇丸だがその素早い感知で咄嗟に動きその場から離れる。
!
703
所詮はたかが苦無
仙人モードの私に効きはしないわ
﹂
!
る。
﹁下らないわね
!
そう判断した大蛇丸は迫り来る苦無をその身で受け、そして弾き返した。
事で仙人モードの力をより見せ付ける事になるだけだろう。
苦無程度で多少の傷を負ったとしてもすぐに再生する事が出来る。逆に全てを防ぐ
が巻き込まれる恐れもあり、風遁は確実に火遁による追撃を誘発するだけだろう。
水遁か風遁で防ぐ事も考えたが、水遁では雷遁の力で電気を帯びて下手をすれば自分
るのも癪だという大蛇丸の忍としての矜持みたいなものだ。
苦無程度では多少の傷にもならないだろう。こうして回避していたのはまともに受け
仙 人 モ ー ド は 自 然 エ ネ ル ギ ー に よ り 身 体 能 力 が 向 上 し 防 御 力 も ま た 高 ま っ て い る。
!
勝ち誇る大蛇丸。そんな大蛇丸に対してサスケは続けて攻撃を仕掛けた。
う。
電磁投射の術を使用すればまた再利用出来るだろうが、それも結局は無意味となるだろ
残りの苦無は大蛇丸に何の痛痒も与える事なく大地に転がっている。サスケが再び
る。雷遁により切れ味が増していたのでこれだけが突き刺さったのであろう。
大蛇丸に刺さったのはたった一本の苦無だけだった。最初に投擲した磁石苦無であ
﹁ふん、所詮はこの程度よ。あなたの忍術では私は殺せないわ﹂
NARUTO 第二十三話
704
││
﹁なら、これでどうだ
﹂
││千鳥流し
﹁ぐっ
!
﹂
!?
││
!
││
!
﹂
!!
そしてサスケは悶え苦しむ大蛇丸に更なる追撃を加える為に、空に向けて更に豪龍火
強固な防御力をも無意味とするのが天照なのだから。
肉体に燃え移るとその部位を切り落とさない限りは逃れる術はなく、そしてどれだけ
すべ
流石の仙人モードと言えどこの連撃は、特に天照は防ぎようがなかった。
﹁ぐあぁあああぁっ
流し多大なチャクラを消耗するが、この機を逃す手はなかった。
そしてイタチもその右目に宿った瞳力・天照を使用する。天照の反動で右目から血を
サスケの口から龍を形取った炎が幾数も放出されて大蛇丸に襲い掛かる。
││天照
││火遁・豪龍火の術
た。その隙を狙わない二人ではない。
これには流石の大蛇丸も多少のダメージと、そして電撃による一時的な麻痺を受け
繋がっていた。それに千鳥を流し大蛇丸の体内に直接電撃を加えたのだ。
大蛇丸に刺さった唯一の苦無。その磁石苦無にはワイヤーが張られており、サスケと
!?
705
を放った。
﹁はぁ、はぁ
これで、終わりだ
﹂
!
そしてその怪訝はすぐに理解へと変わった。そう、これはサスケの放つ術の為の前準
の場だけにある雷雲にイタチが怪訝に思う。
木ノ葉の里の上空はマダラの須佐能乎の攻撃による衝撃で雲一つないというのに、こ
手を天高く掲げるサスケ。この場の上空にはいつの間にか雷雲が集まっていた。
!
備だったのだ。
﹂
!
最後にサスケが上空に放った豪龍火の術が決め手となり、積乱雲は作り出された。
サスケが大蛇丸と戦闘を始めてから放った様々な火遁の術に、イタチの天照。そして
それを誘導し敵に叩き付けるという荒業が麒麟なのだ。
エネルギー。
雷雲から発生する自然の力、雷。人がチャクラで生み出す雷遁とは比べ物にならない
雷雲││を作る。
火遁の熱を大量に利用して大気を急激に暖める事で上昇気流を発生させ、積乱雲││
きである。
麒麟。それがサスケが使用する術の名。対アカネ用に編み出したサスケのとってお
﹁喰らえ
NARUTO 第二十三話
706
後 は 積 乱 雲 が 発 生 さ せ る 雷 を 大 蛇 丸 へ と 振 り 下 ろ す の み。こ こ ま で 来 れ ば も は や
チャクラは僅かしか必要としない。術の大本は天にあるのだから。
││
そしてサスケが天高く掲げたその手を振り下ろした。
││麒麟
地は消し飛んだ。
天の怒りが大蛇丸目掛けて落ちてくる。轟音が鳴り響き、その衝撃で大蛇丸付近の大
!
そうなる前に勝負を決する為に、これほどの大技を連発したのだ。だが、その甲斐は
が長引けば確実に大蛇丸よりも先にサスケのチャクラが尽きていただろう。
サスケは消耗激しく、ようやく大蛇丸を倒す事が出来て安堵していた。このまま戦闘
﹁⋮⋮﹂
﹁ようやく、くたばりやがったか⋮⋮﹂
もバラバラになって焼け焦げた大蛇丸の遺体が存在していた。
やがて砂煙が晴れ渡り、麒麟の直撃を食らった大蛇丸の姿が現れる。そこには無残に
のエネルギーを利用した一撃だ。流石の大蛇丸とてただではすむまい。
麒麟の一撃にイタチも驚嘆していた。これほどの威力、そして仙人モードと同じ自然
﹁凄まじいな⋮⋮﹂
﹁はぁ、はぁ、どうだ⋮⋮﹂
707
﹂
﹂
⋮⋮どうやらなかったようだ。
﹁まだだサスケ
くそが
!
!
傷の状態で、だ。
麒麟の直撃を受けた大地が盛り上がり、そこから大蛇丸が姿を現した。⋮⋮完全に無
けていたサスケもそれに気づいた。
油断なく周囲を見据えていたイタチも、勝ったと思いつつも日々の修行で残心を心掛
﹁⋮⋮っ
!
!
エネルギーを蓄えて新たなガワを作り出してこうして再び姿を現したのだ。
そして麒麟はそのガワを砕いたにすぎなかった。本体は悠々と地下深くに潜み、自然
れば本体は問題ない。
天照は触れた物を焼き滅ぼす消えない黒炎だが、天照に晒されたガワのみを切り捨て
と避難させていたのだ。
大蛇丸は豪龍火と天照を受けた時に、その炎を目晦ましとして本体のみを地面の下へ
直撃を回避していた事になる。
そう、麒麟をまともに受けていれば大蛇丸とて危険であった。つまり大蛇丸は麒麟の
!
!
いたかもしれないわね
﹂
﹁あはははは 今のは危なかったわサスケ君 まともに受けていれば私でも死んで
NARUTO 第二十三話
708
﹁く⋮⋮﹂
兄さんを置いてオレだけ逃げろって言うのか
!?
!
﹁サスケ⋮⋮ここから先はオレだけでやる﹂
﹁なっ
﹂
激しい反動の大きな術を連発しているのだ。その消耗は計り知れなかった。
イタチも天照に須佐能乎というチャクラの消耗が激しいだけでなく、肉体への負担も
いるサスケは持って後数分でチャクラが尽きるだろう。
大技を連発し、雷遁チャクラモードというチャクラの消費の激しい術を発動し続けて
対してサスケとイタチは既に半分以上のチャクラを使い果たしていた。
つまり、大蛇丸の衰弱は有り得ないという事だ。
そ し て 大 蛇 丸 の ス タ ミ ナ は 蛇 の 如 く に 多 く こ の 戦 闘 で 尽 き る 事 は ま ず な い だ ろ う。
モードの強みであった。
本 人 の 純 粋 な ス タ ミ ナ が 切 れ な い 限 り は 戦 い 続 け る 事 が 出 来 る の だ。こ れ も 仙 人
吸収出来る仙人は消耗してもすぐに回復する。
自然エネルギーは人間が持つチャクラとは比べ物にならないほど膨大であり、それを
の状態よ。さて、そんな状態で私を殺し尽くせるかしらねぇ﹂
﹁あら、二人とも大分消耗しているわねぇ。対して私は自然エネルギーのおかげで万全
﹁⋮⋮﹂
709
イタチの発言はサスケには到底受け入れられない物だ。そんな事を言い出すイタチ
が信じられず、サスケは未だに一人前に扱ってもらえない事にイタチに苛立ちすらし
た。
オレが食い止めておくから援軍でも何でも呼んで来
﹁言う事を聞け。もうオレ達でどうにかなる相手ではない﹂
﹂
!
!
││
!
くないトラウマなどを見せつけ続け、そして発狂させてしまうという恐ろしい術だ。
現実では一瞬だが、幻術内では何十時間にも引き伸ばされた時間を拷問や対象が見た
を対象に見せる事が出来るのだ。
だがただの幻術ではない。月読は幻術内の時間を引き延ばし、術者の思う通りの幻術
わせた対象に幻術を仕掛けるというもの。
月読。イタチの左目に宿る万華鏡写輪眼である。その効果はイタチの左目と目を合
││月読
つくよみ
そんなサスケにイタチはある瞳術を発動した。
する事しか出来なかった。
だがそれでも自分を犠牲にしてサスケを逃がすというイタチの言葉にサスケは反発
イタチの言葉は忍としては正しく、それはサスケにも理解出来る。
ればいい
﹁だったら兄さんが下がってろ
NARUTO 第二十三話
710
それをイタチはサスケに使用した。
﹂
﹂
に向かって行った。
そして現実世界に帰還したサスケはイタチを睨みつけ⋮⋮イタチを無視して大蛇丸
以上の時間を過ごした。
一瞬。現実時間ではほんの一瞬だが、サスケはイタチが作り出した幻術世界にてそれ
﹁ぐっ
!?
﹂
!?
ない攻撃を受ける。
サスケとイタチが揃ってから始まった攻防を焼き直したかの様にサスケは感知出来
﹁ぐあっ
回避した大蛇丸はサスケに反撃として自然エネルギーによる攻撃を叩きこむ。
だが感知能力が高まっている大蛇丸にその攻撃は通用しなかった。紙一重で手刀を
す。
雷遁チャクラモードによる高速移動で大蛇丸に接近したサスケは鋭い手刀を繰り出
のにねぇ﹂
﹁くくく。お兄ちゃんの言う事を聞いていれば、もしかしたら逃げられたかもしれない
それは大蛇丸には兄に逆らう青い少年の無謀な突進にしか見えなかった。
﹁おおおお
!
711
だが若干結果は変わっていた。最初の攻防は吹き飛ばされたサスケだったが、今度は
大地に叩きつけられたのだ。
大蛇丸がサスケを逃がさない様に自身から離れない位置に留めておこうとしたのだ。
だがサスケは雷速の反応で大地を蹴り大蛇丸から遠ざかっていく。
││
それを逃がすまいと追う大蛇丸だが、それを黙って見ているイタチではない。
││八坂ノ勾玉
を開いた。
八坂ノ勾玉によるイタチの牽制に大蛇丸はサスケから離れ、そしてイタチに向けて口
◆
咄嗟に放った八坂ノ勾玉にてイタチは大蛇丸を牽制する。
!
﹂
?
いい加減聞き飽きたわ
?
!
あったはずだ。三代目の教えを思い出すんだ﹂
﹁⋮⋮はあ、また下らない説法
﹂
﹁大蛇丸、かつての自分を思い出せ。お前にも木ノ葉の為に命を懸けて戦っていた頃が
も厳しいのではなくて
﹁まるでデジャブね。でも最初との違いはやはりあなた達の消耗。もう万華鏡を使う事
NARUTO 第二十三話
712
大蛇丸は目の前に落ちてきた木の葉を振り払い叫ぶ。
大蛇丸はかつての友である自来也にも似たような言葉を言われた事を思い出して辟
易としたのだ。
そんな大蛇丸に対して態勢を立て直したサスケが辛辣な言葉を放った。
﹂
?
﹂
!
││天照
││
││火遁・業火滅却
!
││
方が敵に利用されない分マシだろうという判断だ。
眼前の苦無に対しても大蛇丸は無機転生にて対処した。水遁や風遁よりはこちらの
解除された。後は眼前の苦無を処理するだけだ。
無機転生にて大地に命を与え、そして周囲にある磁石苦無を取り除く。これで結界は
ば対処法も編み出す事くらい出来る。
再び大蛇丸に迫る無数の苦無。だが大蛇丸とて馬鹿ではない、何度も同じ術を喰らえ
﹁何度も意味のない事を
ケは電磁投射の術を放った。
ここで大蛇丸は何かがおかしい事に気づく。だがそんな大蛇丸にお構いなしにサス
﹁⋮⋮
﹁無駄だ兄さん。こいつは瞳と共に耳も閉じている。何を言おうが意味はない﹂
713
!
サスケとイタチは無機転生が苦手な火遁を放ち、再び無機転生を封じ込める。
そしてサスケは火遁により上空に発生した雷雲を利用して再び麒麟を放った。
﹂
だが大蛇丸は麒麟発生を感知して既に地中深くに避難しており、麒麟はまたも不発と
なってしまう。
一度通用しなかった術が二度も三度も通用するわけないでしょう
!
﹂
!?
黙れ黙れ黙れェェェッ
﹂
!
火遁・業火滅却であった。
それを見て大蛇丸は電磁投射だと判断し無機転生を発動させようとするが、その術は
撃を仕掛けようとする。
同じタイミングで同じ様に落ちて来る木の葉に恐怖する大蛇丸に対してサスケが攻
叫ぶ大蛇丸の目の前に木の葉が舞い落ちる。
!
ノ葉の為に命を懸けて戦っていた頃があったはずだ。三代目の教えを思い出すんだ﹂
﹁大蛇丸。お前は既にオレの術中に嵌っている。かつての自分を思い出せ。お前にも木
﹁こ、これは⋮⋮
追撃はイタチの八坂ノ勾玉にて防がれる。
そんな大蛇丸にサスケが接近戦を仕掛け、それを自然エネルギーの力で反撃し、だが
同じ事を繰り返すサスケとイタチに大蛇丸が苛立ちを見せる。
﹁無駄よ
!
﹁だ、黙れ
NARUTO 第二十三話
714
﹁ぎゃああああ
◆
こ、こんな││﹂
サスケに勝負を挑む時期が遅かったのか 暁に入った事が間違っ
?
それとも⋮⋮。
木ノ葉に反逆したのが間違っていたのか 三代目の教えを無視した
のが間違っていたのか
ていたのか
に来たからか
こんなはずではなかった。一体どこで間違ったというのだ。イタチがサスケの助け
ら手に入れるはずだった。
華し、うちはサスケの肉体を手に入れて日向アカネを超え、そして日向アカネの肉体す
こんなはずでは。大蛇丸の中に様々な想いが巡る。仙人の力を手に入れて龍へと昇
!!
?
大蛇丸のその苦悩には、今はまだ答えが出ないでいた。
?
?
?
していた。
立ったまま一切の反応を見せなくなった大蛇丸の前でサスケとイタチが会話を交わ
﹁そう、運命を決める術⋮⋮イザナミだ﹂
﹁これが兄さんの言っていた⋮⋮﹂
﹁⋮⋮これで、終わりだ。奴はこのループから逃れる事は出来ない﹂
715
NARUTO 第二十三話
716
圧倒的な力を振るい、視覚による幻術を無効化していた大蛇丸を陥れた幻術。それが
イザナミである。
イタチはこのイザナミを大蛇丸に使用していた。だがイザナミの使用条件は非常に
困難であり、その条件の達成の為にクリアしなければならない手順をイタチは戦闘中に
こなしていた。
その為にイタチはサスケに対して月読を使用したのである。それに関してはまずイ
ザナミの使用条件について説明しなければならないだろう。
イザナミは視覚ではなく術者と対象の二人の体の感覚によって発動させる瞳術だ。
行動の中の任意の一瞬、その一瞬の術者と対象の感覚を瞳力にて写真の様に記憶す
る。仮にこれをAとしよう。
を作る。
を重ね繋げる事によりそれまでの二つの間の時の流れまで
そしてAと同じ体の感覚をわざともう一度再現し、その一瞬を同じように瞳力で写真
の様に記憶しA
イザナミはそのAとA
イタチは月読の幻術世界でサスケにイザナミの概要と、その仕掛け方を説明していた
る為であった。
そしてイタチがサスケに月読を仕掛けた理由。それはサスケにイザナミの説明をす
繋げて無限ループを作り出す能力なのだ。
'
'
717
の だ。イ タ チ の 意 思 で 月 読 の 効 果 時 間 は 変 更 可 能。そ し て 現 実 世 界 で は ほ ん の 一 瞬。
作戦説明には持って来いの術であった。
そしてサスケはイタチが記憶したAという事象を再現する為にイタチに苛立った様
に見せて大蛇丸へと突進したのだ。イタチがサスケを煽る様な発言をしたのは大蛇丸
がサスケの突進に疑問を持たないようにさせる為の芝居だったのだ。
全てはイタチの思い描いた通りに事は進んでいた。これにて大蛇丸は完全に無力化
された。⋮⋮イタチの左目の失明を引き換えにして。
NARUTO 第二十四話
大地に立ち尽くし虚空を眺め続けている大蛇丸。そんな大蛇丸に止めを刺すべくサ
スケは千鳥を振り下ろそうとしていた。
だが、それを止めた者がいる。大蛇丸にイザナミを仕掛けた本人であるイタチだ。
﹁待てサスケ﹂
﹂
その言葉を聞いたサスケは大蛇丸に触れる寸前の千鳥を静止し、イタチに向かって叫
に、兄さん、その左目は
!?
んだ。
こいつは生かしておいても││
!?
あった。
イタチの左目が一切の光を映していないのである。そう、これがイザナミの反動で
サスケだが、イタチの左目を見た瞬間にそんな感情は吹き飛んでいた。
生かしておいても害悪しかない存在である大蛇丸に止めを刺す事を止めた兄に憤る
﹁どうしてだ兄さん
!?
イザナギは術者の都合の良いように運命を変えるうちはの完璧な瞳術だと言われて
イザナミとはイザナギを止める為に編み出された瞳術だ。
﹁イザナミはその効果と引き換えに失明するリスクを負う⋮⋮﹂
NARUTO 第二十四話
718
719
いた。
己の結果に上手く行かない事があればその結果を掻き消し元に戻る事が出来る。失
明というリスクはあるが眼を交換さえすれば何度でもやり直せるという究極の幻術だ。
だが、イザナギには失明以上のリスクがあった。結果を己の思うがままに変える事が
出来る故に術者を驕らせ、個を暴走させる要因となったのだ。
イザナギの術者が一人ならば問題はないが、二人以上になると都合の良い結果の奪い
合いが始まるのだ。
それを止める為に作られたのがイザナミなのだ。
都合のいい結果のみに運命を変えようとすると同じところを永遠とループし続ける
仕組みだ。
だが失明をリスクとするイザナギを止める為に作られたせいか、イザナミもまた失明
をリスクとしてしまうのだ。
しかもイザナミは対象を救う為の術。故にイザナミから抜け出す方法もまた存在し
ている。抜け道のある術など実戦では危険なので使用出来ない。そういう意味でイザ
ナミは禁術とされていた。
だが、そんな欠陥禁術を使ってまでイタチは何故大蛇丸を止めたと言うのか。それは
サスケにも疑問であった。
﹂
どうして兄さんがそんなリスクを負ってまで大蛇丸にイザナミを掛けたん
まさか大蛇丸を救うためってわけじゃないだろうな
﹁何でだ
だ
!
!
﹂
﹁今ここで大蛇丸を殺すのは簡単だ。だが、それで大蛇丸は本当に死ぬのか
?
そんな大蛇丸が何の保険も掛けずに木ノ葉に戦争を仕掛けるだろうか
日向アカ
ネの存在は大蛇丸も知っているはずだ。あのアカネを敵に回して死の危険はないと驕
?
を知ったのだ。
イタチは様々な観点から大蛇丸を調べた。そしてその不死に対する類まれなる欲望
人物や、大蛇丸の人体実験場の跡なども調べている。
に関して調べずにいられるわけもなかった。自来也以外にも大蛇丸の元弟子であった
要な要素だとイタチは理解しているのだ。それに大事な弟を狙っているという大蛇丸
イタチは自来也から大蛇丸の情報を確認している。情報とは戦闘に置いて非常に重
そう、大蛇丸は殺しても死ぬのか。それがイタチの疑問だった。
?
﹂
能性があるならば今ここで止めを刺すべきなのだ。だが、イタチの考えは違っていた。
だがその後に止めを刺さずにいるというのは納得が出来ない事だった。抜け出す可
のにイザナミを使ったのはサスケにも分かる。
実力で自分たちを凌駕し、再生までするという限りなく不死不滅に近い大蛇丸を倒す
!?
﹁なに⋮⋮
NARUTO 第二十四話
720
るだろうか
ていた。
それくらいならば仕出かしかねない恐ろしさが大蛇丸にはある。そうイタチは判断し
呪印と共に大蛇丸の意識や魂の一部を封印し、いざという時のバックアップとする。
違ってはいないだろう。
それもただのチャクラではない、仙術チャクラがだ。これは自来也が確認したので間
大 蛇 丸 が か つ て の 弟 子 に 施 し て い た 呪 印 に は 大 蛇 丸 の チ ャ ク ラ が 籠 め ら れ て い た。
ると知っているのだ。
それはない。少なくともイタチはそう大蛇丸を評価する。敵の過小評価は死に繋が
?
﹂
?
他の忍ならばともかく、大蛇丸ならばとサスケも思ってしまった。
と言われた事がある。
忍の術には想像もつかない術も多い。そうアカネから教わり固定観念に捉われるな
死性を大蛇丸に見せ付けられたからだ。
イタチにそう言われてはサスケも否定しづらい。本当にそうかもしれないという不
﹁それは⋮⋮﹂
ないと、この不死身の男を相手にどうして言える
﹁ここで殺しても、大蛇丸ならばいずれ何らかの形で復活する。その手はずを整えてい
721
﹁封印するだけなら、別の方法もあったのだがな⋮⋮﹂
とつかのつるぎ
そう、イタチには大蛇丸に対抗する為の力がまだあった。
十 拳 剣と言い、イタチの須佐能乎に備わっている三種の神器の一つ。突き刺した者を
幻術の世界に飛ばして永久に封印する効果を持つ剣である。
これならば如何に大蛇丸が不死であろうと関係なく封印する事が出来る。だが、そう
しなかった理由は上記の通りという訳だ。
活する恐れのある大蛇丸だ。殺しても安心し切ることなど出来はしない。
大蛇丸が生きている限りサスケは狙われ続けるだろう。ここで殺してもどこかで復
であった。
ならばなぜイタチは大蛇丸にイザナミを使用したのか。⋮⋮それは全てサスケの為
事は同情を遥かに凌駕するほどの罪なのだから。
いた大蛇丸が狂いだした原因は確かに同情の一つもするが、それでも大蛇丸がしてきた
イタチはけして大蛇丸の為を思ってイザナミを仕掛けた訳ではない。自来也から聞
い出しているだろう。そうなればイタチとしては後顧の憂いがなくなるというものだ。
不死不滅を求めた根幹。それを思い出した時、その時は木ノ葉の忍としての自身を思
て初めてループは終わる。その時は大蛇丸も⋮⋮﹂
﹁イザナミは過ちを繰り返す限り抜け出る事は出来ない⋮⋮己の間違いを認め受け入れ
NARUTO 第二十四話
722
だからこそのイザナミだ。イザナミならば大蛇丸の性根を正してくれる。それだけ
の力を秘めた術だ。イタチはサスケが永遠に狙われ続ける僅かな可能性よりもイザナ
ミによる矯正に賭けたのだ。
既にサスケの実力はイタチに迫っている。いや、万華鏡写輪眼がなければサスケはイ
﹁ふ⋮⋮そうだったな。許せサスケ﹂
れよ兄さん﹂
﹁⋮⋮いや、その時はオレ一人の力で大蛇丸を倒す。いつまでも子ども扱いは止めてく
うその考えを自分の中で飲み込んで。
サスケが納得してくれるならとイタチはその言葉に了承した。弟の為に失明したとい
イザナミが術としての効果を発揮している以上その可能性はないが、それで少しでも
蛇丸がなんら変わっていなかったら⋮⋮。
折衷案として出したのがイザナミを抜け出た後の大蛇丸の処置だ。もしそれでも大
希望を与えたのだ。その兄の意思を無にするような事はしたくはなかった。
サスケとしては完全には納得出来なかったが、イタチが失明してまで大蛇丸に僅かな
﹁ああ、その時はお前の好きにしろ。オレも力を貸す﹂
⋮⋮﹂
﹁⋮⋮分かった。だが、もし大蛇丸がイザナミから抜け出ても変わっていなかった時は
723
タチ以上と言えるだろう。
だが子ども扱いしないでくれと呟くサスケはやはりイタチにとってはまだ子どもと
言える愛しい弟だ。
そんなサスケに対してその額を指で小突くイタチに、それを子ども扱いされていると
見て不満そうに睨むサスケ。
﹁さて、何時までもこうしている訳には行かないな⋮⋮戦闘はまだ続いている﹂
﹁分かっている。だが、オレ達も大分消耗してるぞ⋮⋮﹂
イタチの言う通り、木ノ葉の里ではまだ暁との戦闘が続いている。
だがサスケの言う通り現状の二人はかなり消耗していた。既に写輪眼を維持する事
も難しい状態であり、その戦闘力は通常時の三割にも満たないだろう。
そんな状況で戦線に加わっても足手纏いになりはしないだろうか。それがサスケの
不安であった。
ならないだろう。だがないよりはマシだと判断して二人は補給の為に医療施設へと移
回復に至っても二人のチャクラ量ならば完全回復させるには大量の丸薬を食さねば
サスケ達クラスになると殆ど効果を及ぼさないが。
兵糧丸は食べるとチャクラを回復・増幅させる効果を持つ丸薬だ。と言っても増幅は
﹁そうだな⋮⋮取りあえず補給の為に兵糧丸を受け取りに行くか﹂
NARUTO 第二十四話
724
動しようとして││
﹄
!?
ツー マ ン セ ル
まあ、この二人も我が強い事に変わりはないのだが、それでも二人の特異な能力が噛
二人一組を組んでもまともに小隊としての機能が働かないのである。
ツー マ ン セ ル
というのも暁は二人一組で動く事を基本としているのだが、我が強い暁のメンバーは
ツー マ ン セ ル
して機能しているコンビである。
対 す る 暁 は 不 死 コ ン ビ と 名 高 い 飛 段 と 角 都 の 二人一組 だ。暁 で も 珍 し く 二人一組 と
ツー マ ン セ ル
でそのまま小隊を組み、暁に対抗しているのである。
彼らは暁が攻め込む前に焼肉店にて食事をしていたのだ。そして暁が攻め入った事
る。
アスマの弟子であった奈良シカマル・山中イノ・秋道チョウジのいわゆるアスマ班であ
小隊は三代目火影の息子である猿飛アスマを隊長とした四人一組で、そのメンバーは
フォーマンセル
木ノ葉の里の一角にて木ノ葉の小隊と暁が戦闘を繰り広げていた。
◆
││突如として、二人の周囲が爆発した。
﹃っ
725
﹂
ツー マ ン セ ル
み合っている為に他のメンバーよりも二人一組として機能しているのだった。
﹁この、化け物め
動に支障がない様に見受けられ、しかもその火傷はすぐに消失してしまった。
だがその動きには一切の陰りが見られない。言動からも痛みは受けているが何ら行
に火傷が見られる。
飛段は確かに眼に見えるダメージを受けていた。灰積焼の爆発により全身の至る所
﹁痛てーじゃねーかおい﹂
メージを与えた⋮⋮はずだった。
灰積焼は確実に角都と飛段の二人を飲み込みそして着火、その爆発は二人に着実なダ
味方を巻き込まない様に注意する必要があるが。
灰という粉塵故に広範囲に広まる点ではなく面を重視した術である。その分自分や
る術だ。
に変化させて口から吹き出し、奥歯に仕込んだ火打石による火花で着火させて爆発させ
悪態を吐きながらアスマは飛段に向かって火遁・灰積焼を放つ。チャクラを高熱の灰
!
灰積焼を無傷で切り抜けたらしい。
角都に至ってはダメージすら見受けられなかった。どんなカラクリがあるのか、先の
﹁無駄な事をするな。手間を掛けさせずにさっさと死ね﹂
NARUTO 第二十四話
726
そして角都の興味はアスマに向けられていた。アスマの忍衣装にある火の紋様。そ
れが裏の社会では多額の賞金を懸けられている守護十二士の証だからだ。
角都は﹁信じられるのは金だけだ﹂と豪語するほどに金に対して執着心があり、その
角都にとってアスマはまさにお宝なのだ。
残りの三人はどれだけ強かろうが角都にとってはゴミに過ぎない。せいぜいがここ
﹂
﹂
で生き延びればその内いい賞金首になるかもな、くらいの感情しか持っていないだろ
う。
﹁何なんだこいつら⋮⋮
﹁全然こっちの攻撃が効いてないじゃない
飛段は攻撃を受けると傷は負っている。それがすぐに元に戻っているだけだ。だが
たとしても対処法はあるはずだ、と。
飛段と角都を見てシカマルは思考する。完全な不死身なんてあるわけがない。あっ
﹁⋮⋮﹂
いるのをその眼で見たのだから。
その戦闘でどれだけの攻撃を受けてもすぐに再生するか全くの無傷かで切り抜けて
の忍を屠ってきた。
チョウジとイノが思わず叫ぶのも無理はない。ここまでの戦闘で飛段と角都は多く
!
!?
727
四肢の欠損までは自力での再生は出来ていなかった。つまり修復能力はあれど再生能
力はないという事だ。
角都は殆どの攻撃を回避するか、受けても無傷で切り抜けている。つまりダメージを
受けない様にする術か何かがあるだけで飛段のような不死性はないと予測される。
ここまではいい。問題はその為にどうすればいいかだ。圧倒的に準備が足りていな
いのだ。
能力を知っても対処する為の道具や準備がなければどうしようもない。それだけの
力の差が現状のアスマ班と不死コンビにはあった。
しかも敵の能力は完全に詳細が割れていないのだ。どんな力を隠し持っているかも
分かっていないこの状況でどうやって勝てばいいのか。
これが野外での遭遇戦ならばどうにかして逃げの一手を打つ事も出来ただろうが、こ
れは里を舞台とした防衛戦なのだ。ここで退いていつ戦うと言うのか。
いや、それでも難しいとシカマルは判断していた。心転身の術は精神を乗っ取った時
勝機は作る事が出来るかもしれない。
対象に自分の精神を直接ぶつけて対象の精神を乗っ取る術である。これならば確かに
山中一族であるイノは一族に伝わる秘伝忍術を会得している。それが心転身の術だ。
﹁どうにかして私の術が決まれば⋮⋮﹂
NARUTO 第二十四話
728
にその対象が傷つけば術者自身も傷つくというリスクがある。不死の敵が相手では一
方的にこちらにダメージが蓄積されるだけという可能性もあった。しかも心転身の術
は一度不発してしまうと数分は元の肉体に戻れないという欠点もある。うかつに使用
する訳にもいかない術なのだ。
強敵の一人を操れば確かに有利になるかもしれないが、まだ敵の能力が割れていない
状況ではリスクが高すぎる作戦だった。
﹂
﹂
﹂
﹁きゃあ
!
﹁うわぁっ
!
!
﹁くっ
﹁お前ら下がっていろ
﹂
その大鎌を巧みに操って飛段はアスマ班へと攻撃を繰り返す。
れており、実際の攻撃範囲よりも遥かに延びて届く仕組みになっている。
飛段とアスマ班の距離は大鎌が届く範囲ではないが、大鎌の柄の先端には縄が付けら
刃がついた異様な大鎌をアスマ班に向けて⋮⋮振るった。
自身の体から流れていた血を使って地面に陣図を描き、その中に入る。そして三つの
シカマルが僅かな時間に数十もの策を講じている内に飛段が動き出した。
﹁さて、こいつら結構やるからこれを使うとするか﹂
729
!
アスマは三人を庇う様に前線に立ちその大鎌を捌く。
イノは医療忍者であり特殊な秘伝忍術の使い手であまり体術は得意ではなく、チョウ
ジは体術は得意だがどちらかと言えば圧倒的な質量による攻撃がメインで回避はそこ
ま で で も な い。シ カ マ ル は 頭 脳 は ず ば 抜 け て 優 れ て い る が 体 術 に 関 し て は イ ノ 以 上
チョウジ以下と言ったところだ。そんな三人ではこの攻撃を捌く事が出来ないと判断
してアスマは代わりに攻撃をひき付ける。
その間にシカマルが打開策を立て、それを二人がサポートしてくれれば。そう頼りに
思う程に三人の力が合わさった時の爆発力は侮れない物があるとアスマは確信してい
た。
ぐ
ぐ
││
﹂
だが敵は飛段一人ではないのだ。アスマの思う通りにシカマル達の手はずが整うの
を待ってくれるわけがなかった。
る
││水遁・牙流愚虞
げ
﹁しゃーねーな。んじゃさっさと終わらせますか
﹁おおお
﹂
より鋭い刃と化した水刃が無数に飛び交いアスマ達を襲う。
角都の左肩から突如として奇妙な面が現れ、そして強力な水遁を放った。高圧水流に
!
!
﹁オレもやる。面倒事は残っているんでな﹂
NARUTO 第二十四話
730
!
その水刃をアスマは己のチャクラを籠めたチャクラ刀にて切り裂いていく。
このチャクラ刀とは使用者のチャクラ性質を吸収する特別な金属で出来ており、アス
マの風のチャクラ性質を吸収した事で非常に鋭利な刃と化しているのだ。
﹂
次 々 と 迫 る 水 刃 の 全 て を 切 り 裂 い た ア ス マ に 角 都 は 称 賛 の 言 葉 と 共 に 新 た な 術 を
放った。
││
﹁やるな。だが、これはどうだ
ぎあん
││雷遁・偽暗
地面に向かってだ。
!
﹁させっかよ
﹂
ける。このコンビの必勝パターンの一つであった。
には至っていないが、それでも電撃による麻痺は起こる。そこを飛段の大鎌が狙いをつ
足元の水分を伝って雷遁はアスマにまで到達した。直接命中してないが故に致命傷
解させる攻撃であった。
も次の一手に繋がる攻撃を仕掛ける。角都が数多の戦闘を潜り抜けてきた猛者だと理
アスマの周囲の地面は先の水遁により水に覆われていたのだ。例え防がれたとして
﹁し、しま││がああああっ
﹂
角都の右肩に現れた新たな面が強力な雷遁を放った。それもアスマに直接ではなく、
!
?
731
!
自分たちの先生であるアスマを見捨てる訳もなく、シカマル達はその大鎌の一撃をど
うにかして食い止めようとする。
イノとチョウジは苦無や手裏剣などの忍具で大鎌を少しでも逸らし、シカマルは奈良
一族秘伝・影真似の術にて麻痺したアスマを操りその場から離れさせようとする。
影真似の術は術者の影を自在に操作し、術者の影と対象の影を接触させる事で自身の
動きを対象に真似させるという特殊な術だ。
この術で敵の動きを封じて味方の術のサポートをするのが本来の使い方だが、今回の
様に身動き出来なくなった味方を助けるという使用方法もある。
﹁ぐ、た、助かったぞお前たち⋮⋮﹂
飛段の大鎌はアスマの腕を僅かに切り裂いただけだったようだ。あのまま放置して
いれば確実に死んでいただろうからこの程度は軽傷と言えるだろう。
九死に一生を得た事を弟子であり成長した仲間に礼を言うアスマ。だが、そんなアス
!
オレと一緒に最高の痛みを味わおーぜェェ
無駄だ無駄だ 既にてめーはオレに呪われた
さアァ
これより儀式を
﹂
!
!!
!
マを嘲笑うかのように飛段は大鎌に付着したアスマの血を舐めて笑い声を上げた。
始める
!
アスマ達が理解出来ないその言葉を実証するかの如く、飛段は鋭く細い槍状の武器を懐
いつの間にか全身に黒い紋様が浮かび上がった飛段。そんな飛段の言う呪いという、
!
﹁ゲハハハハハ
NARUTO 第二十四話
732
﹄
﹂
から取り出し⋮⋮己の左足に突き刺した。
﹃っ
﹁ぐあっ
﹁先生
どうしてアスマ先生まで││﹂
﹂
!?
﹂
﹁アスマ
マが痛みに呻き出した。
意味不明な行動にシカマル達は誰もが唖然となり、その真意を問う前に目の前でアス
!?
!?
﹁な、何で
!?
地面に描いた図の上に立ち、そして呪いたい対象の血を舐めて体内に取り入れる。こ
効果である。
もちろんそんな偶然などあるわけがない。これこそが飛段の最悪の呪術・死司憑血の
しじひょうけつ
に一致していた。ここまでの一致が偶然の一言で片付けられていいのだろうか。
しかも飛段が突き刺した左足の太ももと、アスマに突如として現れた傷の箇所は完全
には傷一つないのか。
そんな箇所に攻撃を受けた様子は確かになかった。しかも血が出ているのに何故衣服
三人が見ればアスマが手で抑えている左足からは血が流れ出している。先程までは
どうしてアスマまで、飛段と同じ左足に怪我を負っているのか。
!?
733
れが死司憑血の発動条件だ。
そしてその状態で自身の肉体に傷を与えると、血を取り込んだ対象の肉体にも同じ傷
が浮かび上がる。
これだけならば相打ち用の自爆技とも言えなくもない。だがこの呪術の術者は不死
身の飛段であり、対象は不死身ではない。
だが急所はこんなもんじゃねーぞォォ あの痛みは
つまりこの状況になれば一方的に相手にのみ致命傷を与えることが出来るという訳
﹂
!
!
だ。
ゲハハハハ
!
他人が死ぬ時の痛みがオレの身体の中に染み込んで来る 痛みを通り越
!?
して快感に変わるゥ
!
べく思考を張り巡らせ行動を開始していた。
シカマル達は飛段のその狂い様を見て青ざめるが、それ以上にこの状況をどうにかす
う言うのか。
しかも他人の死すら快楽を彩るスパイスとしているのだ。これを狂人と言わずにど
ろうか。
の人間はいるが、死すら厭わぬ痛みを以ってそう受け止める者など飛段以外にいるのだ
完全に狂人の嗜好であった。痛みを苦として受け入れず快楽とする。そういう性癖
!
最高だ
﹁痛てぇだろ
NARUTO 第二十四話
734
飛段がダメージを負えば同じダメージをアスマが負う事は理解出来た。ならばそれ
を止める為には飛段の動きを止めなければならない。
﹂
遠距離から飛段を攻撃してはアスマが傷つくだけで、不死身の飛段の動きは止まりよ
﹄
イノ
!
うがないのだ。
﹁シカマル
﹃分かってる
!
││風遁・圧害
﹁アスマァァッ
││
﹄
﹂
飛段とアスマのダメージはリンクしている。ならばアスマは心臓を貫かれた事にな
!!
た。
そしてシカマル達が動きあぐねている中、飛段は己の心臓にその鋭い槍を突き刺し
杯で飛段の動きを止めるどころではなかった。
角都から新たに現れた別の仮面が強力な風遁を放つ。シカマル達はその対応に精一
﹃うわあああぁっ
!? !
あつがい
﹁何をする気かは知らんが、邪魔はさせん﹂
チョウジがそう判断して二人に叫ぶが、それを黙って見過ごす角都ではなかった。
こ の 状 況 を 覆 す 事 が 出 来 る の は シ カ マ ル の 影 真 似 の 術 と イ ノ の 心 転 身 の 術 の み。
!
735
﹂
これは⋮⋮﹂
る。⋮⋮その結果が理解出来ない者はこの場にはいないだろう。
﹁っ⋮⋮ん
無事なの
!?
?
いようだ。
?
﹂
そこには怒りに振るえている飛段の姿が映っていた。
飛段の術に対する予想が間違っていたのか
そう思い飛段を見やるアスマ班だが、
アスマ本人も不思議がっており左胸を抑えている。どうやら致命傷には至っていな
は僅かに血が流れているが、それだけだ。
だが結果は全員の想像とは違った物となっていた。アスマの心臓⋮⋮左胸付近から
﹁先生
!?
!?
た。
誰かが遠距離から槍をへし折った。そう悟った飛段は周囲を見渡し、そして発見し
だけだったのだ。
刺す瞬間に、その槍が根元からへし折れた為に僅かに左胸に傷を作るしか出来なかった
そう、飛段の術の効果はアスマ達が予想していた通りだ。だが飛段が己の心臓を突き
鋭く尖った先端は大地に転がっていた。
飛段はそう叫んで右手に持っていた槍を投げ捨てた。その槍は根元から折れており、
﹁⋮⋮誰だ神聖な儀式の邪魔をした奴はよぉ
NARUTO 第二十四話
736
﹂
数十メートルは離れた位置から掌をこちらにかざしている一人の少女の姿を。
││っ
!?
﹂
するが、大地からの奇襲によりそれを阻止される事となる。
儀式の邪魔をした張本人を見つけた飛段は制裁を加える為に大鎌を振りかざそうと
﹁てめーか
!
﹁ちぃっ
やってくれたなてめー
﹂
!!
﹁良く分かったなシノ
あの図を破壊すりゃいいってよ
﹂
!
の笑みを浮かべる。
怒りを顕わにする飛段を無視して談笑する三人。その三人を見てシカマル達は希望
﹁ううん、私には分からなかったからやっぱりすごいよシノ君﹂
﹁そうでもない。なぜなら、敵の用意した物を怪しむのは忍として当然の事だからだ﹂
!
そしてその傍に槍を破壊した少女と図を破壊した少年と犬が集合する。
その言葉に飛段は後ろを振り向く。そこには先ほどとは別の少年が一人立っていた。
﹁その反応。どうやらその図がお前の術には必要な様だな﹂
!
その攻撃は飛段が立っていた図を破壊した。それを見て飛段は思わず舌打ちをする。
ながら地中を進んで来たようだ。
大地を削りながら現れたのは一人の少年と一匹の犬だ。高速回転により大地を削り
﹁ひゃっほう
!
737
﹂
オレらに任せて休んでいてもいいぜ
私たちも加勢します
﹂
!
◆
鬼鮫は襲い来る木ノ葉の忍の全てを返り撃ちにしていた。
水遁は水がない所ではその規模が縮小されるというのが一般的な忍の常識だ。
﹂
土遁を得意とする岩隠れの忍ならばもしかしたら鬼鮫に対抗する事も出来たかもし
少なからずいるが、その相性の差を覆す実力を鬼鮫は有していた。
既にどれだけの忍が犠牲となっているか。水遁に強いはずの土遁使いも木ノ葉には
殊な大刀を得物としている鬼鮫に対抗出来る忍はいなかった。
これも鬼鮫が有している圧倒的なチャクラの量による代物だ。そして鮫肌という特
作り出す事さえ出来るのだ。
だが鬼鮫はその常識を無視する程の水遁使いであり、しかも得意なフィールドを自ら
!
﹁お前ら⋮⋮
﹁へっ、苦戦してんじゃねーかシカマル
みんな
!
﹁あまり強い言葉を言うものじゃない。なぜなら、弱く見えるからだ⋮⋮﹂
!
!
!
窮地に陥っていたアスマ班に援軍が現れた。そして他の木ノ葉の戦いにも││
﹁アスマ先生
NARUTO 第二十四話
738
れないが、火遁を得意とする者が多い木ノ葉の忍にとって鬼鮫は鬼門と言っても良い敵
だった。
為だった。
!
﹂
﹁次 の お 相 手 は あ な た の よ う で す ね ぇ。ど う や ら 大 物 の ご 様 子 ⋮⋮ お 名 前 を 伺 っ て も
鬼鮫はプレッシャーを感じ取った方向に振り向き、そしてその持ち主を発見した。
﹁これは⋮⋮
﹂
ならば何故か。それは⋮⋮無駄口を叩く余裕もなくなる程の敵意をその身に受けた
攻撃を受けた訳ではない。誰かに話しかけられたが為に遮られたのではない。
その呟きは最後まで言葉として発する事は出来なかった。
が歯応えが││﹂
﹁忍五大国最強と言われる木ノ葉も案外大した事ないんですねぇ。これなら霧隠れの方
739
﹁貴様に名乗る名などない。だが、この言葉だけは魂に刻んでおけ⋮⋮日向は木ノ葉に
そしてその忍は鬼鮫の言葉に対して返事を返した。
ようだ。
これまでの忍とは一線を画すその貫禄と放たれる気配から余程の大物だと理解した
崩れ掛けた建物の上に立ち自身を見下ろすその忍に鬼鮫は問い掛ける。
?
二人の強者がぶつかり合った。
尾を持たない尾獣、霧の怪人干柿鬼鮫。
日向当主にして一族最強の男、日向ヒアシ。
!
﹂
以前に輪廻眼による視界共有で全ての攻撃は見切られ回避されるのが殆どだ。
いや、そもそも単純な実力で圧倒的な差があるのだ。この二体に攻撃を無効化される
道に弾かれる。
多くの忍が様々な攻撃をするも、術の多くは餓鬼道に吸収され、物理攻撃の多くは天
わんばかりであった。
その力は自来也が齎した事前情報により警戒を重ねて作戦を練った所で無意味と言
圧倒的な力を振るい木ノ葉に痛みを与え続けるペイン六道。
!
ならばその言葉が真実かどうか、確かめ
て最強。来世があるならば思い出す事だ。我らに敵対せぬようにな
日向の御大ですか
﹁これはこれは⋮⋮
!
﹂
させて頂きましょう
!
NARUTO 第二十四話
740
六体が揃ったペイン六道に勝てる忍は居はしなかった。自来也の実力が高くなまじ
善戦をしてペインの能力の多くを里に持ち帰らせた事が逆にペインを警戒させていた。
そうでなければペインは六道をばらばらに動かして木ノ葉の里に痛みを振りまいて
﹂
いただろう。それならばまだ各個撃破の目があったのだが⋮⋮。
﹁うう⋮⋮﹂
﹁まだ息があったか。せっかくだ。うずまきナルトはどこだ
そこには忍刀を右手に携えて左手に先の忍を抱えている一人の老人の姿があった。
人間道がゆっくりと首を動かし、ある人物に語りかける。
﹁⋮⋮﹂
﹁⋮⋮大した物だ。このペインを相手にここまで気配を感じ取らせないとはな﹂
そうする前に手を放さざるを得ない状況に陥ったのだ。
だがその前に人間道はその忍から手を放した。記憶を読み取り終わった訳ではない。
無力だ。数秒も経たずにこの忍は知っている情報を洗いざらい読み取られるだろう。
どれほど強固な精神をしていようと、魂から直接記憶を盗み見る人間道の力の前では
とする。
だがペインはそれをむしろ幸いだと利用し、その頭を掴み魂と共に記憶を抜き取ろう
無数の忍が返り討ちにあった中、一人の忍が命を長らえていた。
?
741
そう、この老忍に切り掛かられた為に人間道は咄嗟に記憶を読もうとした忍から手を
離したのだ。
残る五人のペインもその老忍を取り囲む。一対六。かの二代目三忍自来也でさえ覆
﹁一人か。このペイン六道を相手にそれは自殺行為だな﹂
せなかった戦力差だ。この老忍にそれを覆すことが出来るのだろうか。
││
老忍はペインの言葉には耳も傾けずに忍術を放つ。
││風遁・真空玉
﹂
││
忍の予想通りの反応であった。
この程度の術など餓鬼道で吸収するまでもない。そうペインは思い、そしてそれは老
﹁下らぬ。この程度の術││﹂
ても良いレベルの術であった。
老忍の口から数発の真空の弾が放たれた。だが、それはペインに取っては児戯と言っ
!
││火遁・豪炎の術
!?
!
る。
それにより真空玉は一つ一つが豪炎と化し、威力を高めてペイン六道へと襲いかか
突如として現れた新たな老忍が真空玉に向けて火遁の術を放った。
﹁
NARUTO 第二十四話
742
咄嗟の判断で天道がその力││神羅天征││にて全ての豪炎を掻き消した。
その判断力は流石は暁を統べる者というべきだろう。だが、能力を使用した瞬間を狙
う者達がこの場には隠れ潜んでいた。
││
││
││水遁・水龍弾の術
││風遁・真空波
!
﹂
行った。
二 つ の 術 が 同 じ チ ャ ク ラ 比 率 で 合 わ さ っ た 事 で 更 に 威 力 を 増 し て 天 道 へ と 迫 っ て
して水龍の圧力を更に高める。
水で形作られた龍がその勢いで敵を圧殺しようと迫り、それを風遁の真空波が後押し
!
だがその行動が天道の能力に限界がある事を木ノ葉の忍に教える事となった。
な術だろうと忍術ならば餓鬼道の前では無力となる。
無防備となった天道の前に餓鬼道が現れてその合体忍術を吸収する。どれだけ強力
この合体忍術はその隙を狙っての攻撃だったのだ。
それが術と術の間に必要とするインターバルである。
斥力を操りあらゆる物理的な攻撃を弾く事が出来る神羅天征にもある欠点があった。
それに対して天道は神羅天征にて術を弾く事が出来ないでいた。
﹁っ
!
743
﹁なるほど。やはりフカサク様が仰った様にあの術を弾き返す能力にはインターバルが
あるようですね﹂
﹂
!
ダンゾウ様に失礼でしょ
﹂
﹁大丈夫か三代目様 ダンゾウのじいちゃん オレ達が来たからにはもう安心だぜ
﹁じいちゃんって⋮⋮ちょっとオビト
!
!
﹂
﹁⋮⋮構わん。ここでは無礼講とする。それよりもヒルゼン、衰えてはおらんだろうな
!
!
?
毒も傀儡に仕込ませている武器だ。つまりサソリは傀儡人形の力のみで木ノ葉と言
それ以外の忍術らしい忍術は使用せず、したとしてもそれは人傀儡が放つそれのみ。
毒と傀儡。この二つの武器でサソリは木ノ葉の里を蹂躙していた。
ペイン六道の前に五人の忍が立ちはだかった。
子にして日向アカネの弟子でもあるはたけカカシ・うちはオビト・野原リン。
三代目火影猿飛ヒルゼン。根のリーダーにして裏の火影志村ダンゾウ。四代目の弟
﹁ふん、お主の風遁に完全に合わせておっただろうが﹂
NARUTO 第二十四話
744
う大国を相手取り蹂躙しているのだ。それだけサソリが傀儡師として優秀だという事
である。
だが、意外にもサソリの相手をした木ノ葉の忍の中で毒によって死んだ者は少なかっ
た。
サソリがその身体から生やしている蛇腹状の刃の尾にはかすり傷一つでも死に至る
毒が塗られている。
だがそれで死んだのは致命傷を負った忍のみで、多少の傷ならば物ともせずに動いて
急に毒で死ぬ忍が少なくなった︶
いたのだ。毒による朦朧もなく攻めて来る忍を見てサソリは怪訝に思っていた。
︵どういうことだ
その毒に対する解毒薬をこの僅かな時間でどうやって入手したと言うのか。
その配合率を見抜くのはサソリの師であったチヨバアにも不可能だと言われている。
リが手ずから配合したものだ。
サソリは傀儡人形の造詣以外にも毒に対しても非常に詳しく、この特別製の毒もサソ
﹁馬鹿な。オレの毒にこの短時間で解毒薬を作ったなど⋮⋮有り得ん﹂
いつの間にか治療されているというべきか。
だが突如として毒の効き目が薄くなったのだ。いや、効いている節は見られるのだが
そう、急になのだ。奇襲を仕掛けた当初は毒は非常に有効に効果を発揮していた。
?
745
毒の入手、調合配分の検査、解毒薬の調合。これだけの事を僅かな時間で出来る者な
どいるわけがない。
だが実際にサソリの毒は大部分が無効化されてしまっている。一体どういうことな
のか。それを調べる為にサソリはわざと生かしておいた忍をその尾で持ち上げた。
﹁う、うう⋮⋮﹂
﹁おい、きさまは解毒薬を持っているだろう。見せろ﹂
た綱手はサクラに解毒薬の量産をさせていたのだ。そして今回の暁侵攻により、サソリ
だが役に立たなかった訳ではない。いずれ暁が攻め込んで来るだろうと予測してい
退き上げた事でその解毒薬は使用される事はなかった。
にあった薬草を調合することで解毒薬を三つ用意していたサクラだったが、暁が早々に
際に毒の配合を見抜き解毒薬を作っていたのだ。サソリとの戦闘に控えて砂隠れの里
サクラは砂影奪還の任の時にサソリの毒にやられた砂の忍を診察し解毒した。その
クラにあった。
何故木ノ葉の忍が暁のサソリの毒に対する薬を持っているのか。その答えは春野サ
切ったのだ。つまりこの忍は解毒剤を持っているのだ。
眼鏡を掛けたその忍はサソリの言葉に対して不敵に笑ってそう白を切る。そう、白を
﹁な、何の事だか分かりませんね⋮⋮﹂
NARUTO 第二十四話
746
に立ち向かう忍に解毒薬が普及したのである。
そうと知らないサソリは半死半生の忍に問い掛ける。もっとも、サソリとしてはいち
いち死体を探って解毒薬を見つけるのが手間だからこそこうして直接確認しただけで
あり、教える気がないならわざわざ生かすつもりもなかった。
はないとばかりに。
そんな少年に対してサソリは無造作にその尾を振るった。所詮はガキ、どうという事
﹁おっと﹂
るために。
それでも少年は恐怖を振り払い暁に立ち向かった。殺されそうになった恩師を助け
相手に出来る代物ではない。事実少年も暁の猛攻に怯えて隠れ潜むしか出来なかった。
木ノ葉を襲う暁は誰もが恐ろしい使い手だ。アカデミーを卒業したばかりの下忍が
であった。
いや、確かに少年は忍ではある。だが少年はまだアカデミーを卒業して間もない下忍
ろうか。それはまだ年若い少年だった。
だがその前にサソリに対して奇襲を仕掛けた忍がいた。いや、忍と言ってもいいのだ
躊躇なくその尾を振り払い忍を空中に投げ捨て、止めを刺そうとするサソリ。
﹁そうか、なら死ね﹂
747
だがその結果を見てサソリは眼を見開いた。少年は影分身を用いて小さいが確かに
螺旋丸を作り出し、サソリの尾を破壊したのだ。
ここは私が時間を稼ぎますから
﹂
これにはサソリも驚きだった。そして冷徹な眼でこの結果を生み出した少年を見下
ろした。
﹁う、うう﹂
﹁に、逃げなさい木ノ葉丸君⋮⋮
!
だった忍、エビスはその身体に鞭を打ってどうにか木ノ葉丸を逃がそうとする。
無 理 も な い。如 何 に 才 は あ ろ う が ま だ 少 年 な の だ。そ ん な 木 の 葉 丸 を 見 て 死 に 体
サソリの生み出した圧倒的な圧迫感に少年は、木ノ葉丸は気圧されてしまう。
!
﹂
!
を目指すライバルだと言ってくれたのだ。
だがナルトは違った。木ノ葉丸を等身大の木ノ葉丸として見て受け止め、そして火影
して自分を見て、木ノ葉丸として見てくれなかった。
そんな時に木ノ葉丸はナルトと出会い、そして変わったのだ。誰も彼もが火影の孫と
いた事に嫌気が差していた頃の事だ。
それは木ノ葉丸がまだ幼く、そして三代目火影の孫という立場だけでちやほやされて
束したんだ
﹁に、逃げない。オレは、ナルトの兄ちゃんと火影の名を賭けて、いつか勝負するって約
NARUTO 第二十四話
748
それから木ノ葉丸はナルトを目指して進むようになった。だから木ノ葉丸は逃げ道
﹂
を選ばない。その先に、尊敬するライバルはいないと知っているのだから。
﹁うおおお
﹁⋮⋮お前、何者だ
﹂
そんな未来を見たくなく、思わずエビスは眼を背けてしまった。
サソリが半ばから砕けた尾を振るう。それだけで木ノ葉丸はこの世を去るだろう。
たその身体は意思に反してまともに動いてはくれなかった。
エビスはどうにかして木ノ葉丸を救おうと足掻くが、サソリによってボロボロとなっ
忍だ。
注意すべきは螺旋丸のみ。それ以外は突出した動きも見られない下忍の域を出ない
リには完全に見切られていた。
再び作り出した螺旋丸をサソリに叩きつけようとするが、奇襲ですらないそれはサソ
残酷なまでに大きかった。
だが、どれだけ木ノ葉丸が精神的な成長を見せようと敵は暁。その差は果てしなく、
ていたナルトだと理解して、木ノ葉丸の教師役だったエビスは嬉しく思う。
大きく成長した木ノ葉丸を見て、そしてその成長を促したのが里の嫌われ者と言われ
﹁木ノ葉丸君⋮⋮﹂
!
?
749
﹁⋮⋮
﹂
﹂
エビスは恐る恐ると眼を開き、そしてサソリの前に立つ一人の少年を見た。
その言葉はエビスが想像した未来にはない言葉だ。
?
!
ばいいのか。
それを防ぐのが仙人蛙との融合なのだが、ナルトはそれが出来ない。ならばどうすれ
だ。戦闘中にそんな事をすれば致命的な隙を作ってしまうだろう。
然エネルギーを吸収する必要があるが、その為には一切の身動きをしてはならないの
これでは戦闘中に仙人モードになる事は難しいと言える。仙人モードになるには自
法両生の術にて融合する事が出来ないという事だった。
それはナルトの中に封じられている九尾のチャクラのせいでナルトとフカサクが仙
あった。
慌てたナルトはすぐに木ノ葉に帰ろうとしたが、ナルトの仙術修行には一つ問題が
カサク達に伝えたのだ。
まれた時に木ノ葉に残していた連絡用の蛙がその事実を妙木山へ持ち帰り、ナルトやフ
ナルトは妙木山にて仙術の修行に明け暮れていた。だが木ノ葉が暁によって攻め込
そう、その少年はうずまきナルト。暁が求めていた最終目標その人であった。
﹁な、ナルト兄ちゃん
NARUTO 第二十四話
750
﹂
その答えに行きつくのに少々の時間が掛かってしまったのだが、ナルトは独自のアイ
ディアでそれを解消し、こうして木ノ葉に戻って来たのだった。
﹁おう、良く頑張ったな木ノ葉丸。流石はオレのライバルだってばよ
﹂
!
﹁大丈夫だ。オレに任せとけ
﹂
﹂
有象無象など放って置いても何の支障もない。
それをサソリは黙って見ていた。当然だ。目の前に最高の獲物が現れたのだ。他の
く。
木ノ葉丸はすぐにエビスを抱え、ナルトの邪魔にならない様にその場から離れてい
その言葉と笑顔は木ノ葉丸に何の疑いも抱かせなかった。
﹁⋮⋮うん
!
!
は自信満々に答えた。
一人で暁に挑もうとするナルトを木ノ葉丸は案じる。だが、そんな木ノ葉丸にナルト
﹁でも
﹁木ノ葉丸。エビス先生を連れてここから離れてろ﹂
う。
思わず目頭が熱くなるが、敵を前にして泣くわけにはいかないと木ノ葉丸は顔を拭
邂逅一番、ナルトのその言葉は木ノ葉丸にとって最高の言葉だった。
!
751
﹂
﹁ターゲットが自らのこのこと現れるとはな。先ほどのガキも無謀にも実力差を省みず
にオレに挑んできたり⋮⋮木ノ葉には馬鹿しかいないのか
﹂
事が出来なかった。
サソリの馬鹿にしたような物言いに対してのナルトの返答は⋮⋮サソリには見切る
?
!
る。
仙人に至ったナルトと百の傀儡を操るサソリが戦闘を開始した。
﹁うっせーよ。木ノ葉をこんなに無茶苦茶にしやがって⋮⋮ぶっ飛ばしてやる
﹂
はナルトの攻撃が回避不可能と悟り、ヒルコを破棄して脱出する事で難を逃れたのであ
サソリはヒルコの中に潜みそこからヒルコを操り行動していたのだ。そしてサソリ
いたのはサソリが操る傀儡人形の一つ、ヒルコだったのだ。
いや、砕いたのはサソリの肉体ではなかった。今まで木ノ葉の忍がサソリだと思って
﹁⋮⋮それがてめーの本体か﹂
旋丸がサソリの肉体を打ち砕いた。
一瞬。ほんの一瞬でナルトとサソリの間にあった距離は零となり、ナルトが放った螺
﹁││ッ
!?
﹁やるな⋮⋮まさかオレ本体が出張る事になるとはな﹂
NARUTO 第二十四話
752
想していた。それでは駄目なのだ。
つまり自身の班員であるシカマル・チョウジ・イノと極端には変わらない実力だと予
ベルだろう。
差はないレベルだった。この三年間で強くなっているだろうがそれも予測が出来るレ
アスマも紅班の実力は知っている。三年前の時点ではアスマ班と比べてそれほどの
があった。
あまりにも強大であり、中忍レベルが何人集まろうとも焼け石に水と言える程の実力差
確かに援軍は心強い。だが彼らはまだ中忍の身だ。現在アスマ達が戦っている敵は
のその心境は複雑であった。
三人が援軍として駆けつけて来たおかげでアスマは九死に一生を得た。だがアスマ
なのでこの場に現れたのは日向ヒナタ・犬塚キバ・油女シノの三人の中忍だけである。
ている。
だが担当の紅は妊娠中の為とても戦闘に参加する訳にも行かず一般人と共に避難し
アスマ班の危機に駆けつけた夕日紅上忍が率いる第八班、通称紅班。
NARUTO 第二十五話
753
いや、シカマル達もキバ達もそれぞれ突出した一芸とも言える秘伝忍術や血継限界を
有している。これは普通の忍にはない強みであり、彼らをそこらの中忍と比べて一際輝
かせる武器となっている。
それでも、それでも暁との間には果てしなく高い壁があるのだ。今は退き、情報を持
ち帰り、準備と戦力を整えてから再び暁と相対する。それが今するべき最適な戦術。そ
一旦退け
﹂
の為の捨て駒となるのが⋮⋮。
﹁お前ら
!
﹂
オレの能力の
オレの言う事を聞け
!
出来ないと判断しての考えだ。
今はこれが最善の手だ
あんた一人で死ぬ気かよ 足止めならオレがやる
﹂
!
方が最適だ
﹁お前なら理解しているはずだ
!
そう、シカマルとて理解しているのだ。この状況で最も正しい行動は一人を犠牲にし
だ。だがアスマはそんなシカマルを怒鳴りつける。
アスマの言動からその考えを見抜いたシカマルは到底賛同出来ないとばかりに叫ん
!
!
!
!
捨て駒となるのは自分。それ以外の者ではこの敵を相手に撤退の為の時間稼ぎすら
刀││を両手に構えて叫ぶ。
アスマはアイアンナックル││メリケンサックとナイフが合体した形状のチャクラ
!
﹁ふざけんな
NARUTO 第二十五話
754
755
て一度撤退する事だと。
しじひょうけつ
シカマルは既に飛段の能力をおおよそ理解していた。死司憑血の発動条件は呪いた
い対象の血を取り入れる事と、地面に描いた図の上に立つ事だと。
この情報があれば飛段の能力を逆に利用する策も取れる。だがその為には必要な準
備という物がある。一度撤退しなければそれは叶わない。
そして撤退する為にはどうしても足止めが必要になる。そして足止めにはシカマル
の言う様に奈良一族の術が確かに最適だ。
だがシカマルの真骨頂は術ではなくその頭脳にある。敵の能力を理解し反撃の策を
思いつくにはシカマルが生き延びなければならない。その為にシカマルを残すという
選択肢はない。
そしてイノとチョウジもまた足止めには向いていない。純粋な戦闘能力が優れない
イノは論外であり、チョウジも複数の敵を相手に粘る技量はまだ持ち合わせていなかっ
た。
いや、最善の手などと言っても所詮はアスマの言い訳に過ぎないのかもしれない。シ
カマル達もキバ達も未来ある若者だ。彼らを犠牲にしたくなく、自己犠牲に殉じたいだ
けなのだ。
何故なら紅班に押し付けた方が片足が傷ついているアスマよりもまだ時間を稼ぐ事
アスマ先生だけ置いていくなんて出来ない
が出来るのだから。
﹁そんな、嫌だよ
﹂
!
ヒナタ達だって来てくれたんだからきっと皆で戦えば
﹂
!
!
実力差が分からないのか
なんだこりゃ
﹂
﹂
お涙頂戴の三文芝居か
?
木ノ葉ってのは随分と温いんだ
?
そんな飛段がアスマ達を見ると元いた里を思い出して辟易とし、殺意が湧いてくる思
えに感銘を受けて里を抜け出したのだ。
だが飛段にとってその里は平和ボケしたぬるま湯に過ぎず、それ故にジャシン教の教
の里となった。
飛段は湯隠れの里出身の忍である。湯隠れの里は軍縮に伴い平和を享受し平和主義
な。オレがいた里を思い出してムカムカするぜ
!
そんなアスマ班を見て飛段は馬鹿にするように鼻で笑っていた。
三人の言葉を嬉しく思いつつもアスマは必死に三人を説得する。
!
性格をしているがその芯は心優しい故にアスマを見捨てる事が出来ないのだ。
チョウジは生来から気が優しく師であるアスマの事を尊敬しており、イノも気の強い
如くそれに反対する。
二人の会話を聞いてチョウジとイノもアスマの自己犠牲を理解した。そして当然の
﹁そ、そうよ
!
﹁馬鹿野郎ども⋮⋮
!?
!
﹁はっ
NARUTO 第二十五話
756
いだった。もっとも、そうでなくても殺意が湧くのが飛段なのだが。
﹄
!?
なった木ノ葉設立期の人間だ。そんな伝説の忍と戦って今を生きているこの男は一体
そ れ を 聞 い た 木 ノ 葉 の 忍 は 全 員 が 驚 愕 し た。初 代 火 影 と 言 え ば 数 十 年 も 前 に 亡 く
﹃
初代火影をな﹂
﹁貴様らのような甘ちゃんを見ていると初めて戦った木ノ葉の忍を思い出す⋮⋮そう、
というものだった。
う理不尽な里だ。任務失敗も木ノ葉の忍が原因なのでそれを思い出すと余計に苛立つ
そんな角都から言わせれば木ノ葉の里は他の里よりも温く、それでいながら強いとい
てた。そうして角都は滝隠れに伝わる禁術を盗み出して里抜けをしたのだ。
あれだけ貢献してきたというのに、一度の失敗で己に屈辱を与えた里を角都は切り捨
角都に汚名と重罰を与えた。
だが角都はある任務に失敗した。たった一度の失敗だ。だが、その失敗を里は許さず
ていた。
角都は滝隠れの里出身の忍だった。角都は里の中でも優れた忍でありその名を馳せ
る⋮⋮虫唾が走るな﹂
﹁木ノ葉は昔からこうだ。そうでありながら他のどの里よりも強国として成り立ってい
757
何歳だと言うのか。
ちなみに角都が失敗した任務とは実は初代火影の暗殺任務だったりする。初代火影
﹂
の暗殺に失敗したので里は角都を厳罰に処した。これを初代火影の強さを知る者達が
そんなデタラメを⋮⋮
聞いたら誰もが角都に同情するだろう。
﹁ふざけるな
!
無駄話は終わりだ。そう言い放つ角都に賛同する者が一人いた。
もらうぞ賞金首﹂
﹁信じる信じないは自由だ。それよりも、だらだらと話すのは終いだ。そろそろ死んで
!
﹁同感だ。何故なら、敵を前に無駄に話すものではないからだ﹂
﹂
!?
た。
!?
取ったのだからそのまま攻撃すればいい物を、わざわざ声を掛けるのだから。これでは
シノの気殺に驚愕する角都だが、やはりガキかと内心で嘲笑する。せっかく背後を
に後ろを取られている。
会話に気を取られていたとはいえ油断はしていなかった。だというのにこんな若造
││何時の間に
││
その言葉で角都がシノに気付いた時には、すでにシノは角都の背中に拳を当ててい
﹁っ
NARUTO 第二十五話
758
攻撃しますよ、避けて下さいと言っている様なものだ。
││
だが、シノの攻撃は角都に触れている時点で既に終了していた。
││虫食い
まう。
﹂
く、適切なチャクラ量を与える事が出来ない者はそのまま内部からむさぼり食われてし
その恐ろしい蟲を触れた対象の肉体に送り込む術。それが虫食いだ。読んで字の如
しい蟲がいる。
内で与えるチャクラの量を間違えると肉をむさぼり急成長する寄生させておくのが難
油女一族は身体の中に様々な蟲を寄生させている。その中の一種に奇大蟲という、体
!
﹁ぐぅっ
﹂
の原因に気付き、己の能力にて奇大蟲を即座に排除する。
だが初代火影と戦ったという言葉は法螺ではない。歴戦の猛者たる角都はすぐにそ
自らの内部で突如として急成長する蟲に角都は困惑と痛みを感じる。
﹁なっ
!?
﹁こ、このガキ
﹂
と引きずりだし、そしてそれを角都が殴り殺した。
角都の身体から生えた黒い触手が体内に潜んでいた奇大蟲が成長しきる前に体外へ
!
!!
759
﹁あまり敵を舐めない方がいい。なぜなら、油断は死に繋がるからだ﹂
自分よりも遥かに年下の少年のその挑発めいた言葉に角都の苛立ちは頂点に達する。
普段は冷静沈着な角都だが、トラブルが起こるとすぐに殺意が湧くという悪癖があ
ど
む
る。そんな角都にとってシノの挑発は殺意を誘発するのに十分なものであったようだ。
角都は目の前の舐めたガキを殺すべく土遁・土矛にて腕を硬化して殴り掛かる。
土矛は肉体を硬化する事で絶大な防御力を得る肉体強化の術の一種だ。今まで受け
た攻撃を無効化して来たのもこの術である。
硬化した部位は曲げたり動かしたりは出来ず、全身を硬化した場合は身動きも出来な
くなるが、一部のみならば今のように攻撃に利用する事も出来る。
角都の怒りの籠もった一撃を、しかしシノは中忍とは思えない体裁きで躱し、逆にそ
の勢いを利用して懐に飛び込んで肘打ちを叩きこんだ。
﹂
!
何故なら、硬化していなければ確実に死んでいただろう攻撃を浴びたのだから。
た。それは最適な判断だったと言えよう。
その動きを見てまずいと判断した角都は吹き飛びながら土矛により全身を硬化させ
い掛けて、そして追撃を放とうとする。
それでシノの攻撃は終わらなかった。肘打ちで吹き飛ぶ角都をそれ以上の速度で追
﹁ぬぅっ
NARUTO 第二十五話
760
シノはチャクラを籠めた拳を角都の鳩尾に叩き込む。そのまま地に沈む様に拳を下
ろし、角都を大地に叩きつけた。
これで衝撃が分散される事はない。シノは走ってきた勢いをそのまま足に乗せ振り
上げ、そして踵を全力で角都の顔面へと振り下ろした。
その一撃で起きた爆音と衝撃により周囲の瓦礫や砂が吹き荒れる。シノの突然の動
おい角都ぅ
﹂
きに驚愕していたアスマ達が角都を確認するが、地面深くに埋まった為にその姿は眼に
なんだ今のは
!?
映る事はなかった。
﹁おい、おいおいおい
!
から。
!
﹂
﹁おらぁっ
!
キバの鋭い爪を飛段はその大鎌で受け止める。更に連撃を繰り出すキバに、そのキバ
﹁ちぃっ
﹂
だが角都を心配する暇は飛段にはなかった。すぐ後ろから迫るキバに気付いたのだ
させている飛段だが、これには逆に飛段が驚愕してしまった。
そんな角都があんな少年一人に圧倒されたのだ。普段はその不死身ぶりで敵を驚愕
信頼している。純粋な戦闘力では角都には勝てない事も自覚していた。
まさかの出来事に飛段も困惑している様だ。飛段は角都の事を戦闘に置いて非常に
!
761
に追従する様に動きキバの連撃の間を縫って攻撃を繰り出しその隙を減らす忍犬の赤
丸。
忍犬と共に戦う犬塚一族らしいコンビネーションでキバと赤丸は飛段に反撃の隙を
与えずに戦っていた。
﹂
そしてヒナタがアスマ班の前に立ち白眼を発動しながら彼らを護る様に柔拳の構え
今の内にアスマ先生の足を治療して
﹂
!
を取る。
﹁イノちゃん
あ、うん
!
!
﹂
て最も重要な味方の治療という役目を思い出す。
シノ君だけではあの敵には勝てません⋮⋮
!
!
考えは楽観視にしか映らなかった。
﹁いいえ
・・
あの人はまだ││﹂
だが現実はそこまで甘くはない。少なくとも白眼にて角都を視たヒナタには二人の
まり、誰も犠牲にならずに勝利するという理想をだ。
シカマルがシノとキバの実力にシカマルとアスマが理想の未来を夢見てしまう。つ
!
?
﹁ああ⋮⋮こいつらオレの予想を遥かに超えて成長してやがる
﹂
紅班の戦い振りに呆気に取られていたイノはヒナタの言葉で我に返り、医療忍者とし
﹁え
?
﹁こりゃ⋮⋮まさかのまさかか
NARUTO 第二十五話
762
ヒナタの言葉を遮る様に爆音が響いた。その音源を全員が見ると、そこには天を貫く
様に放たれた風遁の術があった。
﹂
!
は触手で構成された肉体を得てその姿を現した。
叫びと共に角都の肉体が盛り上がり四つの仮面と黒い触手が溢れ出る。そして仮面
﹁うォォォォ
あの人はまだ⋮⋮全力を出していない、と。
続きを理解した。
角都の放つプレッシャーはシノ以外にも届いていた。そして全員がヒナタの言葉の
が、それでもシノは冷や汗を一つ掻くだけで後ずさりはしなかった。
この場の誰よりも戦闘経験を持つ角都が放つ強大なプレッシャーを受けるシノ。だ
対する。
風遁の術の範囲外に逃れていたシノは怒りが振り切れて逆に冷静になった角都と相
まで虚仮にされたのは初めてだったのだ。
だが無傷のはずの角都はそのプライドに傷を負っていた。ガキと舐めた相手にここ
ら無傷で凌ぐ程の防御力を有するようだ。
風遁が放たれた中心地から現れたのは無傷の角都だ。土矛の術はあれだけの猛攻す
﹁やってくれたな⋮⋮﹂
763
じ お ん ぐ
これが角都が滝隠れの里から奪った禁術・地怨虞である。
全身から黒い触手を生やし操る術で、触手を通じて肉体を切り離して操作する事も出
来る。
更に忍の心臓をその経絡系ごと抜き取り取り込む事で生来の性質変化以外の性質変
化を手に入れる事も出来るという凄まじい術だ。
角都本来の性質変化は土遁だが、これにより残り四つの性質変化を使いこなしている
のだ。
しかも自身の心臓が寿命で止まる前に新しい心臓を得る事で寿命を無理矢理延ばす
事も出来る。角都が九十一という高齢になっても忍として現役で戦えている理由がこ
れだ。
行で強くなったとしても、いや強くなったからこそより顕著に理解出来るのだ。
シノは冷静に自己と敵の戦闘力を比較して判断した。勝ち目がない、と。アカネの修
だ。
強力な性質変化の術を使う四人の味方と共に完璧な連携で襲いかかってくるという事
角都と四体の仮面がシノに襲い掛かる。これはシノの数十倍の戦闘経験を持つ忍が
﹁⋮⋮来い﹂
﹁光栄に思えガキ。全力で戦う敵は久方振りだ﹂
NARUTO 第二十五話
764
765
すべ
あつがい
この状況を勝利に導く術をシノは有していない。せいぜい死ぬまでの時間を延ばす
程度が限界だろう。⋮⋮一人だったならば、だが。
ず こっ く
風遁を操る仮面と火遁を操る仮面が融合し、その口を同時に開く。風遁・圧害と火遁・
頭刻苦による合体忍術を放つつもりだ。
角都という本体が操っている仮面達はその術のチャクラ比率を完全に同一にする事
が出来る。通常の忍が連携して放つ合体忍術には多少のチャクラ比のズレが生じるが、
仮面の合体忍術にはそれがないのだ。
それはつまり合体忍術を最大の威力と効率で放つ事が出来るという事である。そし
て単体の術でも強力な風遁・圧害と火遁・頭刻苦が合わさればその威力はまさに強力無
比な火力となる
決まれば必殺。直撃すればシノは、いやシノどころか周囲にいる角都を除く全ての忍
が巻き込まれ、そして死にかねない。
いや、飛段だけは例え炭と化しても死す事はなくいずれ元に戻るだろう。不死身とい
う有り得ない仲間だからこその巻き込み攻撃である。
もっとも、角都は飛段が不死身でなかったとしてもこの術を放っていただろうが。殺
││
意に塗れた角都に仲間を気遣うという精神はなかった。
││八卦空掌
!
だが、全てが灰と化す様な未来は訪れなかった。
風遁と火遁の仮面がその口を開いた瞬間に、二体の仮面は術を放つ事なく吹き飛んで
﹂
行ったからだ。
﹁なにっ
﹂
・・
それが先の八卦空掌である。掌からチャクラによる真空の衝撃波を放つという中・遠
これを視たヒナタはすぐにその術の発動を阻止する事に動いた。
術に籠められたチャクラの総量と、二つの術が完全に同一のチャクラ比率である事。
て術を発動させようとしている前兆も捉えていた。
白眼は他のどの瞳術よりも視る事に特化している。それ故に仮面がチャクラを高め
た。
の塊。そしてそのチャクラの塊が外に現れた事でヒナタの警戒は最大限に高まってい
全身に蠢いているチャクラの糸に、体内に存在する四つの心臓という強力なチャクラ
いたヒナタはその化け物ぶりを他の誰よりも理解していた。
そう、角都が術を放とうとする瞬間を狙ったのはヒナタだった。白眼にて角都を視て
攻撃は止まってはいない。
全ての敵を焼き滅ぼそうと思っていた角都はそれに驚愕するが、その間にもヒナタの
!
!?
﹁はぁぁっ
NARUTO 第二十五話
766
距離用の柔拳の基本技だ。
白眼をスコープの様に使用する事で急所を的確に射抜く事が出来る点を狙う術であ
﹂
る。それをヒナタは四連射し、全ての仮面を狙撃した。
﹁ぬぅ
舐めるなよガキが
﹂
!
それを嫌った角都は掴んでいた足を離し、未だ空中にいるシノを蹴り付ける。その一
シノは掴まれた足から蟲を繰り出し角都の手を直接攻撃する。
その一撃を角都は左腕でガードし、シノの足を掴み大地に投げつけようとする。だが
ルして蹴りを放った。
シノは前に踏み込み体を沈める事で躱し、そのまま大地に手を付いて体勢をコントロー
触手が効果を成さない事に苛立つ角都が直接シノを殴り殺そうと拳を放つ。それを
﹁ちっ
触手はシノの身体から溢れ出る蟲によって噛み千切られる事となる。
角都の触手はかなりの攻撃速度を有しており、シノをあっさりと捕縛した。だがその
反撃を加える。
だがその攻撃を角都は土矛の術ではなく体術によって捌き、逆にシノへと触手による
りを顕わにするが、シノはそんな角都にお構いなく攻撃を繰り出した。
次々と放たれた八卦空掌に全ての仮面が吹き飛ばされる。その犯人を見て角都は怒
!
!
767
撃を十字に組んだ腕でガードしつつ、シノは吹き飛ばされる前に逆さのままに角都の頭
部を蹴り付けた。
﹂
﹁ぐっ
!
という気持ちが勝っていた。
まさ
だが、それでも世界の頂点を知っている身としてはこの程度で屈する訳には行かない
ている事に世界の広さを感じている様だ。
シノも角都の実力に舌を巻いている。徹底的に体術の修行をした自分が攻めあぐね
﹁体術も想定以上か。だが、予想以上ではない﹂
少なくともここまで自分に喰らい付いて来るとは思ってもいなかった。
ろう。
角都は素直にシノを称賛した。この年齢でここまでの体術を披露する者は少ないだ
﹁このガキ⋮⋮大した体術だ﹂
た程度ですんでいる。
対するシノもチャクラを籠めた強固なガードが間に合ったおかげで多少腕が痺れて
受けてはいない。
頭部に一撃を受けた角都はシノが不安定な体勢で放った攻撃故に大したダメージは
﹂
﹁くぅ
!
NARUTO 第二十五話
768
﹁つくづくオレを怒らせるのが上手い奴だ⋮⋮﹂
﹂
!
﹂
!
││
!
じだった。
﹁おらよっ
﹂
飛段もこの三年間で修行を重ねて死司憑血をより効率的に扱える様に体術に磨きを
しじひょうけつ
キバと赤丸の強力な連携攻撃は飛段を圧倒していた。
!!
!
﹁くっ、この犬っころ共がッ
﹂
もしヒナタがいなければ疾うにシノは殺られていただろう。そしてそれはキバも同
だけに集中して動く事が出来ていた。
瞬時に四発の八卦空掌を放ち、全ての仮面の動きを阻害する。それだけでシノは角都
││八卦四天空掌
確に敵の動きを見抜き、その行動を一歩手前で止めているのだ。
だがそれは全てヒナタによって防がれていた。遠距離から全てを見通す白眼にて的
して体術でシノを足止めしつつ四つの仮面を操り残りの敵を倒そうとしていた。
再びシノと角都の体術合戦が始まる。いや、角都は見た目とは違い冷静であり、こう
﹁ふっ
﹁抜かせっ
﹁大した事ではない。何故なら、言葉も忍の武器だからだ﹂
769
掛けていたが、キバと赤丸の連携はその飛段の上を行っていた。
飛段には多少の負傷を無視してでも敵の攻撃を受けて無理矢理反撃するという強引
な手段がある。飛段に取っての相打ちは勝ちに等しいのだ。
だがそんな飛段の自爆戦法すらヒナタは防いでいた。飛段がキバの攻撃を防ぐでは
﹂
なく無理矢理受け止め強引にキバに隙を作り、それを突こうとした瞬間に八卦空掌が飛
ってーなまたかよこのクソ女がァァッ
んで来るのだ。
﹁があっ
!!
に術を放つ。
﹂
﹁行くぜ赤丸
﹁ワン
﹂
││犬塚流・人獣混合変化・双頭狼
││
何度も何度も邪魔をされて飛段は怒り心頭だ。そんな飛段に対してキバは赤丸と共
!
││牙狼牙
││
一人と一匹が協力する事で得られる力を全力で奮い、双頭狼は飛段に襲い掛かった。
犬 塚 一 族 の 秘 伝 忍 術 に よ る 変 化 は 見 た 目 だ け で な く そ の 戦 闘 力 も 大 き く 向 上 す る。
狼へと変化する。
キバと赤丸が重なりあい、そして同時に変化の術を使用する事で一体の巨大な双頭の
!
!
!
!!
NARUTO 第二十五話
770
双頭狼が高速で回転し敵に突撃する。その回転は真空の刃を作り出し触れずとも裂
傷を負わせる程だ。
それだけではない。キバは修行の末にとうとう全身からのチャクラの放出を会得し
ていた。
流石に日向一族程ではないが、それでも牙狼牙等の犬塚一族が良く使用する回転攻撃
中にチャクラを放出する事でその威力を向上するくらいならば可能となったのだ。
しかもあまりの高速回転故に敵へのマーキングがなければ追尾不可能という欠点も
克服していた。敵のチャクラを感知し更に敵の体臭を覚える事でマーキングなくとも
││
追尾を可能としたのだ。
││あれはまずい
﹂
のその隙を突いて角都は飛段を触手にて引き寄せた。
やはりその戦闘経験の差だろう。キバの術にヒナタが目を見張った瞬間、ほんの一瞬
りも早くに理解したのは他でもない、角都であった。
元々の威力が高い高速回転の術に、チャクラの放出を加える。これによる結果を誰よ
!
頭狼は破壊を撒き散らしながら飛段を追いかける。
飛段が角都に引き寄せられた瞬間に、飛段がかつて居た大地は微塵と化した。更に双
﹁うおっ
!?
771
これに慌てたのがシノだ。角都は飛段を己へと引き寄せた。そしてシノは角都と体
術合戦を繰り広げていた。つまりこのままではシノまでこの恐ろしい術に巻き込まれ
るという事になる。
﹁冗談ではない⋮⋮﹂
流石にそれは御免だったシノは一度角都から離れキバの術の範囲から逃れる。飛段
を追尾している事はシノも理解しているので飛段から離れれば問題はないのだ。
飛段を引き寄せた事で角都も双頭狼の牙の攻撃範囲に入る。だが角都としてはここ
で飛段を見捨てるつもりはなかった。
これは仲間意識というよりは戦術上の問題だ。飛段という味方が減る事で自分に掛
かる負担が大きくなる事を避ける為である。
つまり⋮⋮この術は不死身の飛段を戦闘不能に至らせる程の威力があると角都は判
断したのだ。
﹂
!!
ナタはキバが邪魔で八卦空掌を放つ事が出来ないだろう。
その位置取りとはヒナタの邪魔が入らない、双頭狼を壁にした位置取りだ。これでヒ
を行う。
その言葉を無視しながら角都は飛段を引きずりながら双頭狼から離れつつ位置取り
﹁いって、痛てぇっつてんだろ角都ぅ
NARUTO 第二十五話
772
る
ぐ
ぐ
││
そして角都は迫り来る双頭狼に向かって全ての術を開放した。
げ
ぎあん
││
││
││水遁・牙流愚虞
││雷遁・偽暗
ず こっ く
││
││火遁・頭刻苦
あつがい
!
﹁き、キバ君
﹂
結果、二つの圧倒的破壊は互いに拮抗し、凄まじい衝撃を生み出した。
する事なく組み合わさった圧倒的破壊がぶつかり合う。
み合わさった圧倒的破壊と、単体で強力な威力を誇る四つの性質変化の術が互いを相殺
触れずとも敵を切り裂く高速回転と双頭狼の持つ鋭い牙と爪にチャクラの放出が組
と化し、頭刻苦と圧害は火遁と風遁のセオリーに従い全てを焼き尽くす劫火と化す。
牙流愚虞と偽暗が合わさった事で水刃は雷を帯び全てを切り裂く質量を持った雷刃
四つの仮面から放たれた強大な術は互いに威力を高めあって双頭狼へと襲い掛かる。
││風遁・圧害
!
!
!
双頭狼の勢いを軽減させる為のクッションとして威力と範囲を調節した八卦空掌で
ヒナタは咄嗟に双頭狼に向かって八卦空掌を放った。だがこれは攻撃の為ではなく、
姿が感知される。
あまりの衝撃にキバを心配するヒナタ。そんなヒナタの知覚に高速で迫る双頭狼の
!?
773
あった。
おかげでキバと赤丸はその勢いのままに壁や地面に突撃するという事態を避ける事
赤丸も大丈夫
﹂
が出来た。あのままではそれだけで重傷を負いかねなかったのだ。
﹁キバ君
!?
﹂
うだ。それほど自信のあった術だったのだろう。
だが必殺のつもりで放った一撃を防がれた事でキバの精神は大きく揺らいでいるよ
心配するヒナタだがどうやらキバも赤丸も命に別状はないようだ。
﹁クゥン⋮⋮﹂
﹁う、うう⋮⋮くそっ、あれでも駄目かよ⋮⋮﹂
!
!
つまり、キバに起こった現象は角都側にも起こっているという事だ。もちろん術者本
いほどの衝撃を受けた為だ。
撃によりここまで吹き飛ばされた。ヒナタが食い止めなければその勢いで死にかねな
キバの術と角都の術は質は違えどその破壊力は拮抗していた。そしてキバはその衝
アスマは飛段と角都を油断なく見つめていたので誰よりも先にそれに気付いたのだ。
なかった。
そんなキバに対してアスマは慰めの言葉を掛ける。だがそれは意味のない慰めでは
﹁いや⋮⋮落ち込む必要はないぞキバ
NARUTO 第二十五話
774
一匹殺られてんじゃねーか
﹂
人が突撃する牙狼牙と違って忍術を放った角都はその被害は少ないだろう。だがそれ
相殺し切れなかったのかよ
!!
でも多少の損害を与える事は出来たようだ。
﹁おいおい
!
今は治療しなきゃ
﹂
﹁へへ、何だよ効いてんじゃねーか⋮⋮。良し、赤丸もう一撃だ⋮⋮
﹁駄目だよキバ君
!
﹂
いや、あの四つの術とまともにぶつかってこの程度で済んでいるだけで凄まじいのだ
という事はそれだけの衝撃を受けたという事だ。
キバの身体はボロボロだった。大地に激突すれば死ぬほどの速度で吹き飛ばされる
!
!
どに、自分よりも遥かに年下の敵は手強かったのだ。
そうなればこの敵を相手に一人で戦わなければならない。それを避けたいと思うほ
喰らえば不死の飛段も全身がバラバラとなり戦闘力は皆無となっていただろう。
飛段の叫びもありいっそ見捨てるべきだったかとも思う角都だが、あの威力の攻撃を
予想以上の威力に角都も想定外の被害を受けて憤慨しているようだ。
角都は飛段の喚きを鬱陶しそうに聞き流し、そしてキバを睨み付ける。
﹁黙れ。助けてもらっておいて喚くな﹂
れ落ちているのがその目に映った。
それは飛段の叫びだった。その叫びにキバも敵を見ると、角都が操る仮面の一体が崩
!
775
﹂
が。とにかく、もう一度牙狼牙の様な強力な体術を放てばその反動でキバは下手すれば
死んでしまう可能性もあった。
赤丸も
!
﹂
奴らを調子に乗らせると面倒だ
﹂
もっとも、それは敵も理解している当然の戦術なのでそれを黙って許してくれるわけ
ろう。
こうして少しずつ敵の戦力を減らして行く事が出来れば勝利も手にする事が出来るだ
そ れ で も 味 方 を 治 療 す る 事 は 戦 闘 の 勝 率 を 上 げ る 結 果 に 繋 が る 事 に 変 わ り は な い。
に飲み込まれるだろう。もちろん敵が大人しく同じ攻撃を受けてくれればの話だが。
そうすれば仮面の一つを失った角都はその攻撃を相殺する事が出来ず、牙狼牙の威力
完治すればまたあの凄まじい攻撃を繰り出す事が出来るだろう。
アスマの治療が終わったイノがキバと赤丸を治療しようとする。この一人と一匹が
﹁キバ、こっちに来て
!
いつものあれで行こうぜ
!
がないのだが。
﹁おおよ
!
!
飛段の呪術にてアスマを呪い殺すという選択もあるが、そうする内にキバが回復する
仕掛けて殲滅させる事を選んだ。
時間を与えれば有利になるのは木ノ葉の忍。そう理解している角都は一気に猛攻を
!
﹁行くぞ飛段
NARUTO 第二十五話
776
いつかおめーには神の裁きが下るぜ
という可能性を考慮し、回復の手間を潰す事を選択したのだ。
﹁飛段、盾になれ﹂
﹁⋮⋮ちっ、わーったよ
﹂
!
という盾であった。
本体である自分ならば八卦空掌にも対応出来ると踏んでの戦術であり、念の為の飛段
飛段と角都の二人のみに絞られる。
とにかく、全ての仮面を融合させる事で攻撃の手数や戦術は減るが、ヒナタの狙撃は
ていた。
第八班の戦術を支えているのはシノでもキバでもない、ヒナタなのだと角都は理解し
遠距離から的確な狙撃をしてくるなど厄介極まりない存在だ。
だがヒナタの様な敵がいるとそれも意味がない戦術となる。術の発動を先読みして
せて攻撃の手を増やす為だ。
角都が仮面の化け物を別個に分離して使用するのはそうする事で敵の注意を分散さ
身体に残る三つの仮面を融合させて術を放つ準備をする。
そうして飛段はアスマ達に向かって一直線に突撃する。それを盾にして角都は己の
それが正しい戦術であると飛段も理解しているのだ。
角都が何を言いたいのか理解した飛段は角都に苛立ちを見せつつもそれを了解した。
!
777
﹁くっ
﹂
﹁馬鹿が
お前の動きに注意してりゃそんなの避けるのわけないんだよ
﹂
!
!
で敵を食い止めるつもりの様だ。
今度はオレも加勢する
﹂
シノが前に立ちそう呟く。ここ最近の修行で体術に秀でてしまった蟲使いはその力
﹁来るぞ﹂
ほぼ見切っていた。
一度集中出来れば流石の暁というべきか。八卦空掌に慣れた事もあってその攻撃は
たが為だ。
今までそれが出来なかったのはシノやキバによる攻撃で八卦空掌に集中出来なかっ
!
モーションから見切って完全に躱し切った。
迫 り 来 る 飛 段 と 角 都 に ヒ ナ タ は 八 卦 空 掌 を 放 つ。だ が そ れ を 二 人 は ヒ ナ タ の 攻 撃
!
!
﹁ボクもやる
﹂
成長した第八班の実力と健闘を見てこの戦いに希望が湧いて来たようだ。それはシ
足の治療が終わったアスマはシノと共に前に立ちアイアンナックルを構える。
!
!
﹁キバ、赤丸ごめん。治療する暇はないかも
﹂
﹁アスマがそう言うって事は勝ちの目を見たって事だな﹂
﹁ああ
NARUTO 第二十五話
778
カマルも同じだった。ここまで味方が揃えばどうにか出来そうだと戦術を組み立て直
している最中だ。
ここは絶対通さないから
﹂
チョウジとイノも絶望しかなかった状況が一変した事で気力が充実しているようだ。
﹁キバ君は休んでて
!
心伝身だ
﹁イノ
!
﹂
伝達対象が膨大だった場合や伝達時間が長すぎた場合は術者に大きな負担が掛かる事
これは術者のみでなく術者に触れている対象の思念を伝達する事も可能だ。ただし、
シーの一種、心伝身の術である。
これが山中一族に伝わる心転身の応用、周囲の仲間と思念のやりとりを行うテレパ
をイノを通じて全員に伝える。
シカマルはここまでの敵の能力と味方の能力を計算に入れて新たに作り出した戦術
﹂
﹁ええ
!
させる為に身体を休める。
そんな自分を情けないと思いながらもキバはヒナタの言葉に従い少しでも力を回復
来ない状況だ。
ヒナタはキバの前に立ち庇うように構えを取る。キバはまだまともに動くことも出
﹁くそ⋮⋮﹂
!
!
779
もある。
だがこの程度の人数で、シカマルの戦術を説明するくらいならば問題はなかった。
﹂
だが、シカマルが全ての戦術を説明し終わる前に飛段と角都の猛攻が始まった。
!!
││回天
││
キバとヒナタに同時に迫る大鎌を、ヒナタは日向宗家にのみ伝わる奥義にて完全に防
!
した。
だが、命中しても傷が付かなければ問題ないという考えもある。それをヒナタは実行
けなければならない。
かすり傷一つでも付けば血液という呪術の材料が手に入るので、飛段の攻撃は全て避
という守りの要がいなくなれば後が楽になるだろうからだ。
同時に飛段はキバを護るヒナタもあわよくば片付けられたらと思っている。ヒナタ
先に潰しておくべきだと判断したのだ。
今はほぼ無力化されているが、あの破壊力をもう一度放たれる可能性を考えると真っ
方にて体力回復に努めているキバに襲い掛かる。
独特の形状であり柄の先端に縄が付けられている大鎌は広い攻撃範囲を生かして後
攻めに転じる事が出来た飛段は生き生きと大鎌を振るう。
﹁そらよぉぉ
NARUTO 第二十五話
780
781
ぎ切った。
未だ点穴を見切る事が出来ないヒナタではあるが、厳しい修行の果てにとうとう回天
を会得したのだ。
全ては尊敬する愛しい人を護りたいという一心による賜物だ。そんな想いで会得し
た回天は仲間であるキバを護り抜いた。
だが暁の攻撃は終わっていない。飛段は大鎌を振るったままにアスマ達に突撃し、そ
││
れを迎え撃とうとしたアスマ達目掛けて角都は術を放った。
││風遁・圧害
││
!
した。
風遁には火遁。お決まりの性質変化の相性を角都が利用する前にアスマが逆に利用
││火遁・豪炎の術
質を覚えていればどの仮面がどの術を放つかを見切るのは容易いだろう。
四つの仮面はそれぞれ形が違っているのだ。今は三つだが。とにかく、仮面の形と性
を既に見切っていた。
だが流石は上忍か。アスマは角都の仮面の化け物を見て、どの仮面がどの術を放つか
性を利用した戦術だ。
飛段に対応しようとした矢先にこの竜巻である。不死身という有り得ない味方の特
!
風遁と火遁がぶつかり合えば火遁が勝つ。その場合火遁の勢いに風遁が押される事
になるのだが、今回の結果は違っていた。
圧害が豪炎の術よりも術としての威力が高かったのだ。それにより圧害は豪炎の術
││
に押される事なくその場で爆炎となって燃え盛った。
││風遁・大突破
││
前にその中から焼け焦げた飛段が大鎌を振るって飛び出してくる。
だが角都が放った頭刻苦によってその爆炎は相殺された。そして爆炎が掻き消える
││火遁・頭刻苦
段達に向けようとしたのだ。
その爆炎にアスマは更に大突破による暴風を放つ。燃え盛る爆炎を暴風によって飛
!
!
﹂
!
クルで飛段の大鎌を捌く。
﹁オレに一度呪われた雑魚が
﹂
邪魔なんだよ
﹁だからオレが貴様の相手をしているのさ
﹂
!
そう、一度呪われたアスマならば飛段にまた血を取り込まれる心配もない。二重に血
!
!
角都の本気かどうか分からない称賛の言葉をぞんざいに返し、アスマはアイアンナッ
﹁そりゃどうも
﹁意外とやるな。術を選ぶ判断力は褒めてやる﹂
NARUTO 第二十五話
782
783
を取り入れても意味がないだろうと見越しての対応だ。
これはシカマルの予測だった。飛段が血を取り込む事を呪術の第一段階としている
ならば、それが既に終わっているアスマが適任だろうとの予測だ。
飛段が呪術を発動するには地面にあの図を描かなければならない。だがこうも接近
戦を繰り広げているとその隙もないだろう。
だが純粋な近接能力では飛段の方がアスマよりも上だ。このまま長引けば呪いなど
に関係なくアスマが殺されるだろう。
そうさせない為の援護役がヒナタだ。後方から白眼にて戦場を把握し援護射撃に専
念する事で味方のサポート役に徹する。
そして角都に対抗するのが残りの全員だ。そうするだけの実力が角都にはあるとシ
カマルは判断していた。
シノが角都に術を放つ暇を与えさせない様に接近戦に入る。こと忍術に置いて角都
はこの場で最も優れている存在だ。敵の真骨頂を引き出してやる必要はないだろう。
更にチョウジが秋道一族に伝わる秘伝忍術・倍化の術を駆使してシノと共に角都を攻
め立てる。これで土矛の術を使用させて動きを阻害させるという狙いだ。土矛の術で
防御した時に角都が動いていない事をシカマルは見抜いていたのだ。
そうして角都を足止めしている隙にイノはキバの治療を行い、飛段の動きを止める。
││
そうすれば全員で角都を相手に封殺すればいい。後はシカマルの戦術がどこまで通用
するかであった。
﹂
││部分倍化の術
﹁おおお
﹂
こうして角都と飛段と引き離してそのコンビネーションを食い止める作戦だ。
いてシノは角都を全力で蹴りつける事で後方へと弾き飛ばす。
だがやはり全身を硬化した場合身動きが取れなくなるという欠点がある。そこを突
この質量すら無傷で防ぐこの術は凄まじいと言えよう。
ま と も に 受 け れ ば ダ メ ー ジ は 免 れ な い と 判 断 し た 角 都 は 土 矛 の 術 に て そ れ を 防 ぐ。
を攻撃する。
チョウジが巨人の如くに巨大化した腕を大きく振るい、シノに足止めされている角都
!
!
!
だが││
放たれた雷の槍はシノに命中した。
威力・速度共に優れている偽暗ならばこの面倒な敵を一蹴出来るだろう。そう思って
暗を放った。
吹き飛ばされた角都はすぐに土矛の術を解き、接近して来るシノに向かって雷遁・偽
﹁おのれ⋮⋮
NARUTO 第二十五話
784
﹁蟲⋮⋮
分身だと
﹂
!
﹁よし
﹂
これで二つ目
﹂
!
じ経絡系が絡み付いていたという。
心伝身の術でシカマルとヒナタが情報を交換していたが、あの臓器はやはり心臓と同
脈打つ臓器がくっ付いていた。
シカマルの予測はまたも正解だった様だ。あの四体の仮面にはそれぞれ心臓の様に
!
た場所に無数の触手が攻撃をしていた。
だがシノはそこで油断せずにすぐにその場を離れる。次の瞬間にはシノが立ってい
角都を貫き、その心臓をも破壊した。
チャクラを集中させて攻撃力を増していた抜き手は土矛の術を発動していなかった
﹁硬化がなければ問題ない﹂
﹁ぐぶっ
の心臓を一突きした。
本体は瓦礫に隠れて近づいており、角都が分身を攻撃した瞬間を突いて抜き手にてそ
作っていたのだ。
チ ョ ウ ジ の 部 分 倍 化 に て 角 都 が 押 し 潰 さ れ 視 界 が 途 切 れ た 時 に 蟲 を 用 い て 分 身 を
その一撃を受けたシノは無数の蟲となって霧散していった。
?
!?
785
そ こ で シ カ マ ル は 敵 が 自 分 の 物 を 含 め て 五 つ の 心 臓 を 持 っ て い る の だ と 予 測 し た。
不死身の敵の相方だ。能力を過大評価しても過小評価する必要はないだろう。
もちろん当たっていない方が嬉しい予測だったが、今回は残念ながらも正解だった様
だ。
﹂
!
後はヒナタの邪魔が入らない内にアスマを殺せばいい。だが意外と手強い為に戦っ
にしてヒナタの攻撃を防ごうとしたのと同じ考えだ。
なので飛段はアスマを自分とヒナタの直線上に立つ様に誘導した。角都がキバを盾
飛段もアスマを殺しようがなかった。
そうしてアスマを相手に梃子摺っている間にヒナタによる狙撃を受ける。これでは
たが、それでも圧倒するほどの差ではない。
アスマと飛段は激しい戦闘を繰り広げていた。飛段はアスマよりも体術に秀でてい
怒りを顕わにする角都。だがその怒りを更に増す出来事が起こった。
﹁オレの心臓を二つも⋮⋮久方ぶりだぞ
NARUTO 第二十五話
786
ている内にいつヒナタが邪魔に入るかも分からない。
一番いい方法は呪術・死司憑血にて確実な止めを刺す事だ。これならば自分への邪魔
は寧ろアスマへのダメージになる。
死司憑血の為の図を描く隙を作るにはどうするか。そう考えていた飛段の前で、アス
﹂
マは突如として苦悶の表情で左足から体勢を崩した。
﹁ぬぐっ
││
﹁アスマ先生伏せてください
││八卦空壁掌
﹁ぐ、おお
﹂
﹂
える為ではなく飛段を吹き飛ばす為の攻撃なのだから。
父や尊敬する姉に比べればまだ未熟な空壁掌だがそれで問題はない。ダメージを与
段へと撃ち放った。
だが、そうはさせじとばかりにヒナタは八卦空掌を両手で同時に放つ八卦空壁掌を飛
!
!
だ。
この隙に飛段は地面に呪術の為の図を描いた。後は図の中で心臓を刺せばいいだけ
ていなかったのだ。激しい戦闘で再び傷が開いたのだろう。
それを見た飛段は笑みを浮かべる。あの時の呪いによって与えた傷が完全には癒え
!?
787
!
八卦空壁掌を受けた飛段はその勢いに押されて図から吹き飛ばされていく。その衝
撃によるダメージをアスマも受けたが、心臓を貫かれる事に比べれば遥かにマシだろ
う。
だが吹き飛ばされた飛段は大鎌を大地に突き刺す事でどうにか踏みとどまり、すぐに
﹂
体勢を戻して再び図へと戻ろうとする。
﹁今度こそ邪魔はさせねぇッ
そうしてようやく敵を呪い殺せる事に快楽の笑みを浮かべ、飛段は鋭い槍を己に突き
伏せたアスマを避けるように放たれたのだから当然だろう。
飛段に取って幸いにも先ほどの八卦空壁掌で図は壊れてはいなかった。まあ、地面に
素早く図の上に戻り、新たな邪魔が入る前に儀式を完了しようとする。
!
刺そうとして⋮⋮そのまま身動き一つ出来ずに固まった。
﹂
!?
﹂
!
シカマルが今まで影真似の術を使用していなかった事。そしてシカマルの影が地面に
その術をシカマルは飛段に仕掛けていた。それに飛段が気付かなかった理由は二つ。
という奈良一族の秘伝忍術。
影真似の術。自身の影と対象の影を重ねる事で対象に自身の動きをトレースさせる
﹁影真似成功⋮⋮
﹁な、なんだとォッ
NARUTO 第二十五話
788
描いた図と重なっていた事だ。
シカマルは影真似の術を最後の最後に利用すると決めていた。ここまでの戦闘で影
真似を使用していなかった事を逆に利用し、その効果を敵が理解する前に決め手となる
時に術を使用した訳だ。
そして飛段が呪いを発動する為に必ず図の上に乗る事も利用した。奈良一族は己の
影を自在に動かして形を変える事が出来る。影を伸ばす距離の限界は影そのものの面
積と同じだが。そうして影を伸ばし、図と同じ形で図に重ねて飛段が影に触れるのを待
ち構えていたのだ。
こうなれば飛段に足掻く術はない。シカマルの影真似の術は持続時間が切れるか、圧
倒的な実力差で無理矢理外すくらいしか抜け出る方法はないが、そのどちらも飛段には
﹂
満たす事は出来なかった。
﹂
﹁今だアスマ⋮⋮
﹁ああ
を吸収したチャクラ刀は鋭い切れ味にて飛段の五体をバラバラに切り裂く。
そうして飛段は敢え無くアスマのチャクラ刀によって切り裂かれた。風の性質変化
アスマは武器を振るう。
シカマルが影真似の術で飛段を無理矢理に図の上から引きずり出したのを確認して
!
!
789
不死身だと言うのならば身動き一つ出来なくすればいいだけの話だ。ここまですれ
﹂
ば例え生きていたとしてもどうしようもないだろう。
﹁て、てめぇら⋮⋮よくも
﹂
マルの言う通りだと理解して次の敵に目を向ける。
予想はしていたがこれでも飛段が生きている事に驚きを禁じえないアスマだが、シカ
﹁だが、不死身でもそうなっちまえばどうしようもねぇよな﹂
﹁そんなになっても生きているか⋮⋮﹂
!
油断し過ぎだ
!
││
るように動く者がいた。いや、者というか、蟲だったが。
足が傷ついたままのアスマではそれを防ぐ事が出来ないだろう。だが、角都に並行す
わせようとしているのだ。
角都の触手は糸の様に使用する事も出来るので、それを利用して飛段の身体を繋ぎ合
飛段が行動不能に陥ったのを見た角都はすぐに飛段の元へと向かう。
﹁飛段⋮⋮
!
││秘術・蟲玉
﹂
!
!
都 の 動 き を 僅 か に 止 め た だ け だ。す ぐ に 角 都 は 全 身 か ら 触 手 を 噴 出 さ せ て 蟲 を な ぎ
シノが放った蟲が角都の全身を覆いその動きを止める。だがその程度の足止めは角
﹁ぬっ
NARUTO 第二十五話
790
払った。
だが僅かに動きを止めるだけでシノには問題なかった。敵が嫌がる行動をする事が
勝利への一歩だとシノは理解していた。
角都が何をしようとしていたかまではシノは理解していなかったが、それでも角都が
飛段に駆け寄ろうとした事には何らかの意味があると判断し、その動きを阻害したの
だ。
これは
﹂
﹂
そしてその僅かな動きの阻害で、勝負は決していた。
﹁邪魔を⋮⋮っ
﹁アンタら⋮⋮敵を舐めすぎだぜ
!?
﹂
!
る事も出来た。
とも後二回死ぬ余裕がある角都だ。全ての心臓が尽きる前に抜け出し、そして再起を図
角都ならば影真似の術から逃れるのに然程の時間は掛からなかっただろう。少なく
﹁この程度の術⋮⋮
く近づいていた影は蟲玉によって動きを抑えられていた角都を捕らえたのだ。
更に瓦礫が生み出す影がシカマルの影の距離を伸ばす役目にもなる。そして音もな
は最適の役目を果たしていた。
影真似再びである。周囲の瓦礫はシカマルの影を気付かせない様に敵に近づけるに
!
!
791
そう、角都はここに至って撤退する気であった。心臓を二つも消費し飛段も行動不能
となっている。そんな状況で木ノ葉を相手に戦闘を続ける程角都は愚かではなかった。
生きてさえいれば再起は可能。この歳まで他人の心臓を奪ってまで生き延びている
老獪な忍らしい思考だ。だが、全ては遅かった。 ﹂
││
﹂
!?
かりか、その身体の殆どを消し飛ばした。
圧倒的破壊力を誇る双頭狼の牙狼牙の直撃。それは角都の心臓の全てを破壊するば
﹁う、うおおおおッ
抜け出す暇もない連携攻撃だ。角都には防ぐ事も避ける事も出来はしなかった。
ていた。体力回復に努めていたキバはここぞのタイミングで残る力を振り絞ったのだ。
角都が影真似に捕らえられた瞬間。完璧なタイミングでキバと赤丸が牙狼牙を放っ
││牙狼牙
﹁喰らえやァッ
! !!
角都はこの世を去った。
そんな者達が一丸になったとはいえ自分を打ち倒した事が未だに信じられないまま、
少年少女達。
首だけになった角都が最期に怨嗟の声を呟く。視界に映るのは己よりも遥かに若い
﹁ばか、な⋮⋮﹂
NARUTO 第二十五話
792
﹁か、角都
殺られやがったのかよおいっ
﹂
!
﹂
封印だろう
そんな飛段にシノは冷静な口調で現状を語った。既に詰みなのだ、と。
確かにオレの負けだな だがオレは死にはしねぇ
!
だが飛段はシノに対して嘲笑を浴びせた。
﹁クッ、ククク
!
が何だろうがしてもいずれ抜け出して、テメーらの喉元に喰らい付いてやるぜ
!
﹂
﹁無駄だ。何故なら⋮⋮お前はこれから蟲の餌となるからだ﹂
だがシノはそんな飛段に対して冷静に残酷な言葉を返した。
だという不安を周囲に与える程にだ。
その叫びはアスマ達を呪い殺さんばかりに響き渡った。いずれ本当にそうなりそう
!!
﹁もう終わりだ。何故なら、お前はもう動く事も出来ないからだ﹂
自分よりも強い角都が死んだという事実が信じられずに飛段は首だけのままで叫ぶ。
!
の蟲を見て青ざめる。
!
﹂
﹁肉片一つ残さずに消えても生きているのか⋮⋮確かめた事はあるか
﹁て、てめー、ま、まさか⋮⋮
﹂
﹂
シノの言葉が理解出来なかった飛段は一瞬呆け、そしてシノが全身から開放した無数
﹁⋮⋮あ
?
﹁や、やめろォォォ
!!
?
793
哀れ、不死身なれど再生能力を持っていない飛段は、全身余すことなく蟲に喰らわれ
て完全に消滅した。
﹁⋮⋮むごいな﹂
﹁⋮⋮ああ﹂
﹂
﹁ボク、虫料理だけは食べられないと思う⋮⋮﹂
﹁見ちゃ駄目よヒナタ
﹂
!
!
たという。
その死に様には暁に対して敵愾心しか持っていないアスマ達にも同情心を生み出し
﹁う、うん
NARUTO 第二十五話
794
NARUTO 第二十六話
現在、木ノ葉の里には不自然に水浸しとなった一角がある。まるでその一角のみに天
から大量の雨が降ったかの如く大地は水で溢れていた。
そんな不自然な地にて二人の強者が向かい合っていた。一人は日向ヒアシ。木ノ葉
にて高名な日向一族の長だ。もう一人は干柿鬼鮫。この一角を水浸しにした張本人に
して暁の一員。
木ノ葉と暁。二人の忍が出会ってする事はただ一つ。生死を懸けた戦いのみであっ
た。
﹂
二人が相対し僅かに睨み合い⋮⋮そして戦いは始まった。
柔拳の使い手に接近戦は不利だ。
族は独特の体術である柔拳を用いて戦う。触れただけで内臓に直接ダメージを与える
日向を相手に接近戦を挑む。大半の忍がそれを愚かな選択だと罵るだろう。日向一
放ち、鬼鮫はヒアシに切り掛かる。
先に動いたのは鬼鮫だった。獰猛な見た目には似つかわしくない丁寧な言葉遣いを
﹁では⋮⋮そのお力を見させてもらいましょうか
!
795
だが鬼鮫はそれを理解しつつ敢えて接近戦を挑んだ。鬼鮫の体術がヒアシよりも優
れているから、という理由ではない。
確かに鬼鮫は忍術はおろか体術すらそこらの上忍を凌駕しているが、ヒアシと比べる
と一歩も二歩も劣るだろう。他の日向一族ならまだしも、一族を束ねる長たるヒアシを
相手に接近戦を挑むなど無謀という物だ。
だが鬼鮫には他の忍にはない特別な武器があった。常に肌身離さず持ち歩いている
愛刀鮫肌である。
鮫肌の能力であるチャクラ吸収は凄まじい効果を持っている。その特異な形状は肉
を削るだけでなくチャクラすら削り喰らうのだ。
そして柔拳は相手の体内にチャクラを流し込んで発動させる体術だ。だが、流し込ま
れたチャクラが体内を傷つける前に鮫肌が吸収してしまえば⋮⋮。その一撃はただの
打撃、いやそれ以下に陥るだろう。
空間に満ちるチャクラすら削り喰らう鮫肌の旺盛な食欲と吸収の早さ。その能力が
あるからこそ、鬼鮫は敢えてヒアシを相手に接近戦を挑んだのだ。
﹂
!
くる鬼鮫に対し、ヒアシは八卦空掌を放ったのだ。
だがヒアシが鬼鮫の思惑に付き合う事はなかった。己の領分だろう接近戦を挑んで
﹁⋮⋮はぁっ
NARUTO 第二十六話
796
﹁っ
﹂
﹁ちぃっ
だ。
﹂
困惑する鬼鮫だが、ヒアシはお構いなしに攻撃を放ち続ける。八卦空掌の乱れ撃ち
クラを吸収したはずの攻撃にここまでの威力があるのか。
これには鬼鮫も怪訝であった。何故得意のはずの接近戦を受けないのか。何故チャ
数mも吹き飛ばされてしまう。
鬼鮫は咄嗟に鮫肌を前に構えて八卦空掌を受け止めた。だがその勢いに押されて十
!?
だ。
遠距離攻撃は主に二つに分けられる。チャクラによる攻撃と、飛び道具による攻撃
││さて、どうして鮫肌で吸収出来ないのか││
鬼鮫のその考えはあっていた。となると鬼鮫にとっての問題はただ一つ。
だろう。
おおよそだが気付いていた。恐らく鮫肌の力を見た忍がヒアシにその能力を伝えたの
そして僅かに稼いだ時間を使って思考する。ヒアシが接近戦を受けなかった理由は
し周囲の建物の裏に隠れた。
正確に、高速に、それでいて重い一撃が連続で放たれる。これには鬼鮫も堪らず後退
!
797
チャクラの攻撃は忍術ならば││火遁は熱がるが││鮫肌で削り喰らう事で無効化
出来る。チャクラを飛ばす気弾も同じだ。
飛び道具は道具そのものは吸収出来ないが、その道具に籠められたチャクラを吸収し
て威力を軽減する事は出来る。
そしてヒアシの攻撃は道具を使用した物ではない。印も結んでおらず性質変化もし
ていなかったのでチャクラを用いた気弾という事になる。だが鮫肌で吸収する事は出
来ていない。つまりあれはチャクラそのものを放つ遠距離攻撃ではないのか
ぶつける体術なのだ。
八卦空掌は掌からチャクラを高速で放出して真空の衝撃波を生み出し、それを対象に
クラを利用して放たれる攻撃ではあるのだが、攻撃そのものはチャクラではないのだ。
鬼鮫の疑問は正解だ。八卦空掌はチャクラによる遠距離攻撃ではない。確かにチャ
?
鮫肌がチャクラを吸収しようとも生み出された衝撃波までは吸収する事は出来ない。
つまり先ほど鬼鮫が吹き飛ばされたのは衝撃波のみの威力だったのだ。
その答えに行きつく前に、鬼鮫は思わぬ衝撃を受けて吹き飛んだ。
﹂
!?
だ が 何 故 死 角 に 隠 れ て い る 自 分 を 攻 撃 出 来 た の か。そ の 疑 問 は す ぐ に 解 消 さ れ た。
誰が成した事かはすぐに理解していた。敵対するヒアシに他ならないだろう。
﹁がはっ
NARUTO 第二十六話
798
日向が誇る血継限界にして三大瞳術の一つ、白眼の能力を思い出したのだ。
﹂
﹂
!?
││八卦空掌六十四連
││
長に相応しい実力と言えよう。
の遠距離で、針の穴を通す様に正確な攻撃を高威力でしかも連続で放つ。まさに日向の
更にヒアシの八卦空掌は高速で弾き飛ぶ鬼鮫の点穴を正確に貫いていた。これだけ
き続ける。
吹き飛ぶ鬼鮫の態勢が整わない内に追撃を加え、空中で跳ねるボールの様に鬼鮫を弾
はしなかった。
ヒアシの攻撃は止まらない。連続して放たれる八卦空掌は一度捉えた鬼鮫を逃がし
﹁ぐ、あっ、があぁぁ
透視眼にて鬼鮫の位置を正確に把握していたヒアシは建物ごと鬼鮫を攻撃したのだ。
ない。
白眼は視る事に特化した瞳術。その瞳から逃れるには物影に隠れる程度では事足り
﹁しまった⋮⋮
!
る。
人体には三百六十一箇所の点穴があり、この攻撃はその内の六十四を突いた事にな
六十四の点穴を突いた時、ようやくヒアシは攻撃の手を止めた。
!
799
これだけならばまだ大半の点穴が残っている様に思えるかもしれないが、これだけで
身体を巡るチャクラを塞き止めるには十分なのである。
点穴を突かれたという事はチャクラを封じられただけではない。同時に内臓にもダ
メージを受けたという事だ。放置すれば死に至るだろう。
いや、あの威力の八卦空掌を喰らい続けたのだ。点穴に関係なく死に至る攻撃だった
と言える。事実ヒアシですら終わったと思っていた。
﹁ぐ⋮⋮ぅ⋮⋮ッ﹂
鬼鮫は生きていた。だが、それは文字通り生きていただけだった。
﹁ほう。生きておったか。大した物だ﹂
全身は血に塗れ内臓のダメージにより多量の吐血をしている。まさに死に体だ。止
めを刺す必要もなく僅かな時間でくたばるだろう。
八卦空掌を放った。
ヒアシは死に体となった鬼鮫相手にも油断する事なく、確実に止めを刺すべく全力の
た大罪人なのだから。
それをヒアシは称賛するが、それで慈悲を掛ける訳もない。相手は多くの同胞を殺め
鬼鮫はあれだけの攻撃に晒されながらもその手から鮫肌を離してはいなかった。
﹁未だ武器を手放さぬその闘志は認めよう。だが慈悲はない﹂
NARUTO 第二十六話
800
だが││
﹂
﹂
﹁ギギッ
!?
﹂
完全に回復し切る前にとヒアシは八卦空掌を放つが、それは傷の大部分が治癒した鬼
﹁かぁっ
これが鮫肌の最も恐ろしい真の能力であった。
敵からチャクラを奪うだけでなく、それを持ち主に還元して傷や体力を回復させる。
点穴すらも、だ。
鬼鮫に送られた膨大なチャクラは傷ついた身を急速に癒した。それは塞がれていた
たチャクラを鬼鮫に還元したのだ。
主を護った鮫肌は更に驚くべき行動に出た。今まで殺してきた木ノ葉の忍から奪っ
ようだ。意思を持つ武器など想像の範疇を超えているだろう。
そんなヒアシですら鮫肌そのものが動き鬼鮫を庇うとは流石に予想していなかった
アシの予想の範疇。敵が瀕死の振りをしている可能性すら考慮の内だ。
ヒアシは驚愕するが、それは鬼鮫が生き延びたからではない。そうなる可能性すらヒ
たのだ。
その八卦空掌は鬼鮫の命を奪うには至らなかった。その攻撃は鮫肌によって防がれ
﹁むっ
!
!
801
鮫によって防がれてしまう。
威力に押されて後退するが、立ち止まった時には既に鬼鮫の傷は完全に癒えていた。
よ﹂
﹁日向は木ノ葉にて最強⋮⋮この言葉、伊達ではない様ですねぇ。死ぬかと思いました
う、完全に息の根を止めれば良いだけの話よ﹂
﹁どうやら風貌通りの怪物の様だな。まあよい。回復などという生ぬるい事が出来ぬよ
そう、生きていれば回復も出来るが、死ねば回復もへったくれもないだろう。ヒアシ
の答えは極端だが正解だった。
次は点穴を狙うなどと生易しい事はせずに八卦空掌の連撃にて肉体に風穴を開けて
﹂
やろう。そんなヒアシの思惑に、今度は鬼鮫が付き合う事を拒否した。
││
!
!
その迫り来る大津波に対し、ヒアシは八卦空壁掌にて対抗しようとして、それを躊躇
れ返り一瞬で大地に湖を作り出す程だ。
単純だがその効果は凄まじかった。その効果はまさに大瀑布の如く。大量の水が溢
その単純な強化版が大爆水衝波だ。
口の中に溜め込んだチャクラを水に変化させ、それを津波の様に吐き出す爆水衝波。
││水遁・大爆水衝波
﹁無理矢理にでも接近戦に持ち込ませて頂きましょう
NARUTO 第二十六話
802
してしまった為に水の中に飲み込まれてしまう。
ヒアシを飲み込んだ大津波はそのまま大地に流れ広がって行く事無く、巨大な水球と
﹂
なってヒアシを閉じ込めた。
﹁⋮⋮
﹁では、行きますよ﹂
これが尾を持たない尾獣と恐れられている鬼鮫の真の戦闘形態である。
ていた。
鮫が有していた膨大なチャクラと合わさり尾獣に匹敵する程のチャクラを鬼鮫は放っ
しかも融合した事で鮫肌が蓄えていたチャクラも完全に鬼鮫へと受け継がれ、元々鬼
ていた手段だったが、これではそれも不可能だろう。
鬼鮫の対処法として回復する前に殺し切るという物騒な手段とは別にヒアシが考え
││これではあの武器を奪う事は出来ぬな││
半魚人とも言える姿に変化した鬼鮫を見てヒアシは僅かに渋面となる。
鮫肌と融合した鬼鮫はその容貌を更に鮫の如くに変化させた。鮫をモチーフにした
鬼鮫と鮫肌。忍と忍具。別個に存在するはずのその二つが融合し一つとなったのだ。
た変化には流石に驚愕した。
大水球に捕らわれたヒアシはそれでも焦る事無く冷静に在るが、鬼鮫の身体に起こっ
!
803
NARUTO 第二十六話
804
鬼鮫は凄まじい速度で水中を移動しヒアシへと接近する。どうやら見た目の変化は
伊達ではない様だ。
大爆水衝波で作り出した膨大な水に敵を捕らえ、鮫肌と融合して水中で動きが不自由
となった敵を攻撃する。水牢鮫踊りの術と呼称される鬼鮫の得意術だ。
対するヒアシは水中が不利なのでどうにか移動してこの大水球を脱出しようと考え
⋮⋮る事はなかった。
迫る鬼鮫に対して微動だにせず待ち構え、鬼鮫が近づいて来た瞬間に全身からチャク
ラを放出しそれを高速で回転させる事で日向の秘奥である廻天を使用する。
日向ヒヨリが編み出した回天を超える廻天。自らが回る回天とは違い廻天は放出し
たチャクラそのものを高速で回転させる。
この二つの違いは術中の自由度の差だ。自らの肉体を回転させる回天は術中にその
場から動く事は出来ない。だが廻天ならばチャクラの高速回転による防御をこなしつ
つ攻撃や移動を行う事も出来る。これは非常に大きな差となるだろう。
ヒアシは廻天にて己の周囲に満ちている膨大な水を押しのけた。防御の為ではなく、
自由に動ける空間を作る為の廻天だ。
廻 天 で は な く 回 天 を 使 用 し な か っ た の は 攻 撃 の タ イ ミ ン グ が 一 瞬 し か な い か ら だ。
相手は鮫肌と融合している。チャクラを放出して水を押しのけようとも吸収されれば
元の木阿弥だ。
だからこそ、相手がチャクラを吸収し、水が元に戻ろうとした一瞬のタイミングで攻
撃する。そのタイミングを得る為には回天よりも廻天の方が都合が良かったのだ。
ヒアシの予想通り、廻天によるチャクラの放出は鬼鮫に吸収され、周囲の水は一瞬で
元に戻ろうとする。
││
そのタイミングでヒアシは鬼鮫の攻撃を躱し逆に柔拳の一撃を叩き込んだ。
││柔拳法・一撃身
される前に鬼鮫の肉体に確かに届いた。
一点に集中している上に一瞬で放たれた膨大なチャクラの一撃は、鮫肌に全てを吸収
と予測しての攻撃である。
体外に漏れ出すチャクラではなく体内のチャクラなら鮫肌による吸収も遅いだろう
生み出す柔拳の一撃だ。
体内に集中させていたチャクラを触れた対象に一瞬で叩き込む事で爆発的な威力を
!
﹁感服しましたよ。やはり接近戦はあなたが有利の様ですね。なら、これならどうです
至らなかった様だ。
だが、やはり多少なりとも吸収された事でその威力は軽減し、鬼鮫を即死させるには
﹁⋮⋮鮫肌と融合した私にここまでの一撃を加えるとは﹂
805
NARUTO 第二十六話
806
﹂
せんしょくこう
││水遁・ 千 食 鮫
││
ダメージを与えていた。
そして一撃が掠り、また一撃が掠りと、少しずつ鬼鮫と水鮫の攻撃はヒアシに着実と
には躱し切れない。回天や廻天にて防御するも、それは鬼鮫にて削り吸収される。
一番厄介である鬼鮫の攻撃を捌き躱す事に集中すると、どうしても水鮫の攻撃は完全
全ての攻撃に対応出来る訳ではない。
その動きをヒアシはチャクラの質を見切る白眼にて見抜いていたが、だからと言って
えていく。
だが敵は水鮫だけではないのだ。無数の鮫に紛れて鬼鮫もヒアシに対して攻撃を加
迫る水鮫も白眼にて殆ど死角がないヒアシには通用しなかった。
ヒアシは無数の鮫の攻撃を全て見切り、一瞬の内に柔拳にて破壊していく。背後から
う。
れで死ぬ様ならばヒアシは日向は木ノ葉にて最強などという言葉を口にはしないだろ
水中という本来の動きが取れない不自由な地形でそれだけの数の鮫に襲われる。そ
ヒアシに襲い掛かった。
鬼鮫が周囲の水を利用して放たれた水遁は術名を表す様に千匹もの水の鮫となって
!
!?
苦しいでしょう。水中で呼吸が出来ないのは不便でしょうねぇ﹂
?
││
!
を戦闘中に察知したヒアシが、最も適切な場所にこの大水球を移動させる為に逃げる振
自らこの場所に移動したのだ。鬼鮫が移動するとこの巨大な水球も移動する。それ
れて移動したのも、水底へと沈んだのも、それは逃げた結果ではない。
ヒアシは、水中に捕らわれようと逃げる心算など欠片もなかった。無数の攻撃に晒さ
追い詰めていく。
もはや逃げる力もなくなったのか。そう判断した鬼鮫だが焦らず侮りなくヒアシを
そして水底へと沈んで行った。
攻撃を当てる事も出来ないヒアシはやがて追い詰められ逃げ惑う様に水中を移動し、
自在に水中を動く鬼鮫にあっさりと回避されてしまった。
攻撃のモーションが鬼鮫に見切られるのだ。そんな攻撃など放たれる前に察知され、
う邪魔物はヒアシの動きを制限していた。
迫り来る鬼鮫に向けてヒアシは八卦空掌で狙い撃つ。だがやはり水という全身を覆
││八卦空掌
しても人としての限界という物はあるのだ。
だがどれだけ水中戦に長けていても、水中で延々と息が続く事はない。どれだけ修行
ヒアシとて忍だ。水中戦は不慣れなれど多少の心得はある。
﹁どうですか
807
NARUTO 第二十六話
808
りをして鬼鮫を誘導していたのだ。
││
そして全ての準備が整ったヒアシはその力を解放した。
││八卦空壁掌
らだ。あれだけの水が吹き飛んでくればその場にいた者達は確実に巻き込まれ、そして
だがそれをしなかった理由は吹き飛ばした水の行き先が木ノ葉の里の内部だったか
シは八卦空壁掌にて水に飲み込まれる前にその水を吹き飛ばす事が出来ていた。
これがヒアシの狙いだった。ヒアシが最初に大水球に飲み込まれた時。あの時ヒア
そうして全ての水は木ノ葉の里を囲む広大な森の中へと消えて行った。
の水を彼方へと吹き飛ばして行く。
ているのだ。一撃だけではない。八卦空壁掌の連続使用という凄まじい所業にて大量
湖を生み出す程の大量の水という質量をヒアシは八卦空壁掌にて吹き飛ばそうとし
熟練と共に向上して当然だろう。
会得した八卦空壁掌も、ヒアシは会得して数十年と経っている。ならばその質・威力も
ヒアシが放った八卦空壁掌もそうだ。ヒナタやネジがこの三年間の修行でようやく
方が威力が上だろう。
によって威力が変化する。例え同じ術でも下忍と上忍ならば基本的に上忍が放つ術の
水中から放たれたその一撃は膨大な水を全て押し上げていく。術という物は使い手
!
多くが犠牲になっただろう。
その中には自分の娘すらいたのだ。そんな事はヒアシには出来なかった。なので鬼
﹂
鮫の攻撃を受けつつも木ノ葉に影響を受けない位置へと移動し、そして全ての水を森林
へと吹き飛ばしたのだ。
﹁あれだけの水を吹き飛ばすとは⋮⋮化け物ですかあなた
﹁貴様に言われたくはない⋮⋮﹂
消耗させる戦術が最も効果的だろう。
ならばどうするか。決まっている。やはり接近戦にてヒアシのチャクラを奪いつつ
るだろう。
解していた。術の基盤となる大爆水衝波自体が大量の水を生み出す前に消し飛ばされ
先の八卦空壁掌を見るにもはやヒアシには水牢鮫踊りの術は通用しないと鬼鮫も理
﹁どうやらその様ですね⋮⋮﹂
﹁ここならば存分に戦う事が出来る﹂
まあ、多少のダメージを受けていたとしてもすぐに回復していただろうが。
鬼鮫を攻撃する為ではなく水や鬼鮫を吹き飛ばす為に範囲を大きく広げていたからだ。
どうやら鬼鮫に先ほどの八卦空壁掌によるダメージはないようだ。それはヒアシが
久方ぶりの空気を存分に味わい、ヒアシは空から降り立った鬼鮫と再び相対する。
?
809
柔拳はその性質上どうしても敵にチャクラを放つ必要がある。その工程を介する限
り鮫肌のチャクラ吸収によって柔拳の威力は激減してしまうのだ。
鬼鮫はヒアシのチャクラを吸収しつつ回復する事が出来、ヒアシはチャクラを吸収さ
れ消耗しながら戦う。純粋な接近戦はヒアシが圧倒しているが、長期戦になれば鬼鮫が
有利なのは言うまでもないだろう。
鮫肌を奪われる事が唯一の敗因となると理解している鬼鮫は鮫肌と融合したままに
ヒアシに攻撃を仕掛ける。陸上だろうと人間の特性も持つこの形態は特に動きを鈍ら
す事はない。
﹁陸に上がった鮫如き⋮⋮﹂
﹂
柔拳恐るるに足らず。鮫肌という強力な相棒を持った鬼鮫はヒアシの反撃を恐れる
﹁その如きに食われるんですよあなたは
!
事無く、鮫の獰猛性を表したかの様な猛攻を仕掛け││
﹂
!?
﹂
!?
ただけだ。だが、木ノ葉の忍ならば誰もが今の一撃に驚愕するだろう。
ヒアシは特別驚くような攻撃をした訳ではない。誰が見ても普通だと思える攻撃し
﹁な、あ、それ、は⋮⋮
││ヒアシの拳を受けて吹き飛ばされた。
﹁ごっ
NARUTO 第二十六話
810
それは木ノ葉に限らず、日向一族と柔拳を知る者ならばきっと驚愕していただろう。
今の鬼鮫の様に。
ヒアシは、本当に特別な攻撃をしたわけではない。ただ近付いて来る鬼鮫が放った攻
﹂
撃を躱し⋮⋮その顔を全力で殴り付けただけだった。
何を呆けておる
?
﹂
大地に膝を付いた所を丁度いい高さだとばかりに脳天に肘を落とし、傍に近寄った事
す。
鋭い蹴りを鬼鮫の延髄を抉る様に叩き込み、そのまま足を振り上げて脳天に踵を落と
訳がなかった。
鮫肌のチャクラによりそれも回復していくが、ヒアシが完治するのを黙って見ている
をへし折っていたのだ。
激痛が走り思わず呻く鬼鮫。それもそのはず、ヒアシの一撃は比喩ではなく真実背骨
﹁がはぁっ
に殴り付ける。
瞬身の術にて一瞬で鬼鮫の背後に回り、鬼鮫が振り向く前に背骨をへし折らんばかり
る。
ヒアシは呆然とした鬼鮫にそう問い掛けつつも、答えを聞く事なく更なる追撃を加え
﹁どうした
?
!
811
で始まっているチャクラ吸収から逃れる為に自分が離れるではなく鬼鮫を強烈な回し
蹴りにて吹き飛ばす。
﹂
その反撃に対してヒアシは防御するでも回避するでもなく、自身の攻撃をぶつける事
アシに反撃する。
鬼鮫は近寄って来たヒアシに対して空中で姿勢を制御しつつ大地に降り立ち、迫るヒ
勝負は速攻。一切の無駄な時間を作らない様、ヒアシは鬼鮫に向かって駆け寄った。
鬼鮫を追う。
されながら傷を癒しているのを白眼にて確認し、器用な真似をすると顔を顰めながらも
時間を掛ければ有利になるのは鬼鮫。それはヒアシも理解している。今も吹き飛ば
フル稼働させて傷を癒す。そうでもしないと間に合わない程の重傷を負っているのだ。
大量の血反吐を撒き散らしながら鬼鮫は吹き飛んで行く。その間にも鮫肌の能力を
﹁ばはあぁぁぁっ
!!
﹂
で逆に鬼鮫の攻撃して来た腕を破壊する。
!?
ヒアシは練り上げたチャクラを全力で肉体強化に回し、吸収される前に凄まじい速度
攻撃してダメージを与えた方が効率的という物だろう。
防御しても回避してもここまで接近した以上チャクラを奪われるだけ。ならば逆に
﹁ッ
NARUTO 第二十六話
812
813
さま
で攻撃を加え続ける。その様はとても日向宗家の戦闘とは思えないだろう。
だが剛拳を振るっているがそこに至るまでの工程は日向の血や柔拳の基礎によって
築かれていた。
白眼にて敵の動きやチャクラの流れを見抜き、柔拳を鍛え上げた事で培った戦闘経験
で的確に敵の攻撃を見切り反撃する。
様々な下地があるからこそ、ヒアシの剛拳は効果を発揮しているのだ。
ヒアシの苛烈なまでの猛攻を受け続けた鬼鮫。だがその猛攻を受けたのは鬼鮫だけ
ではなかった。
鮫肌は意思を持つというその特殊性の為か痛覚まで持っている。つまり鬼鮫と融合
した鮫肌もヒアシの攻撃を受けているという事になるのだ。
あまりの痛みを受けた為か、鮫肌はその痛みから逃れる為に鬼鮫との融合を解除して
しまった。鮫肌の主人である鬼鮫も予想していなかった行動だ。武器で在りながら意
思を持つが故の欠点と言えるのかもしれない。
融合を解除した鮫肌を、それでも鬼鮫は手放す事無くその柄を握り締めていた。離せ
ば最後、回復の手段を失った瞬間に死が待っていると鬼鮫は理解しているのだ。
だがヒアシがそれを許す様な生易しい性格をしているはずもない。味方にも自身に
も厳格な男が、敵に優しい訳がないのだ。
ヒアシは鮫肌を握る鬼鮫の腕に強烈な手刀を叩き込み、その腕をへし折った。更に鮫
﹂
﹂
肌の柄を蹴り付ける事で鬼鮫の手から鮫肌を奪う。
﹁ぎっ
﹁ギギィ
!
﹂
そんな鮫肌を見て、鬼鮫は苦痛に顔を歪めながら次にヒアシへと振り向く。
く事も出来る鮫肌だが、これではそう簡単には動く事も出来ないだろう。
吹き飛ばされた鮫肌は勢いのままにその刀身が大木へと突き刺さる。自らの力で動
﹁ギィッ
飛ばした。
そんなどうでも良い事は気にも止めず、ヒアシは鮫肌を更に蹴り付けて遠くへと吹き
奇しくも主人とその武器は痛みにより似た様な悲鳴を上げる。
!?
!!
向は柔拳に誇りを持っており、日向と言えば柔拳という認識は常識とも言える程だ。
日向一族が代々伝えてきた柔拳。宗家にのみ口伝として伝える奥義すらある程に日
﹁柔拳も剛拳も等しく敵を打ち倒す為の技術。状況によって使い分けて当然であろう﹂
息も絶え絶えに呟く鬼鮫のその言葉にヒアシはこう返した。
⋮⋮ね﹂
﹁ま、ま さ か ⋮⋮ 日 向 の 長 と も あ ろ う 御 方 が ⋮⋮ 柔 拳 で は な く 剛 拳 を 使 っ て 来 る と は
NARUTO 第二十六話
814
そんな日向一族の長が、柔拳ではなく剛拳にて敵を打ち倒す。それを想像出来る者が
果たして忍界にどれだけいるのだろうか。
だが今の鬼鮫の様に日向が剛拳を使う事を想像もせずにいる者に対して、日向最強の
忍はこう言うだろう。日向が剛拳を使って何が悪い、と。
誇りを持つ事によって人は己に自信を持つだろう。だが、誇りを重視し過ぎて視野を
狭くする事は愚かである。
柔拳に誇りを持つ事は良い事だが、だからと言って剛拳を身に付けてはいけない理屈
もない。ヒアシはアカネからそう教わったのだ。
時には柔拳が効果を及ぼさない敵や状況もある。そんな時の選択肢として剛拳を覚
えておく事は悪い事ではない。そうして身に付けた剛拳は確かに効果を発揮した。
柔拳の内部破壊は確かに生物に対しては無類の強さは発揮するが、鬼鮫の様な特殊な
敵には効果は今一つだ。
だが剛拳は柔拳と違い己の肉体を強化して対象を外部から破壊する単純明快な攻撃
方法だ。その攻撃に対象にチャクラを流し込むという複雑な工程は挟まれない。
つ ま り 鮫 肌 に よ る チ ャ ク ラ 吸 収 を 最 低 限 に 抑 え て 攻 撃 す る 事 が 出 来 る と い う 事 だ。
﹂
これが鮫肌を有する鬼鮫への最適解の戦術であった。
﹁わた、しは⋮⋮
!
815
全身が傷つき、息も絶え絶えとなっている鬼鮫はそれでも力を振り絞って足掻き通し
た。
偽りのない世界。誰の言葉も疑う必要のない、夢の世界。暁にて唯一イズナの目的を
││
知り、それを目指している鬼鮫は最期の最期まで諦めるつもりは毛頭なかった。
││水遁・大鮫弾の術
﹂
土地にて自らのチャクラのみでここまでの巨大な鮫を作り出す。まさに鬼鮫の執念が
周囲にある水はヒアシが吹き飛ばした事で僅かしか存在していない。殆ど水のない
の規模は凄まじかった。
あの身体でどうやってここまでの術を放ったのか。ヒアシにそう思わせる程、この術
!
私も全霊にて応えよう
!
籠もった一撃だ。
!
││八卦空壁集掌
││
鬼 鮫 の 大 鮫 弾 は 術 そ の も の が チ ャ ク ラ を 吸 い 取 る と い う 性 質 を 持 っ て い る。敵 が
義。
八卦空壁掌を一点に集中させて攻撃範囲を絞り、その威力を絶大に高めた柔拳の奥
!!
力を尽くした。
その執念を感じ取ったヒアシは鬼鮫を憎き敵としてではなく尊敬すべき敵として全
﹁見事
NARUTO 第二十六話
816
放った忍術を吸収して更に巨大となり攻撃力を増すという凄まじい術だ。
だがヒアシが放った八卦空壁集掌はその大元は八卦空掌と同じ、すなわちチャクラを
放出して真空の衝撃波を作り出すという術だ。
大鮫弾の術ではチャクラを吸収してもその威力までは吸収しきれず、鬼鮫が全てを振
り絞って放った術は敢え無く消し飛んだ。
﹁⋮⋮やはり剛拳は慣れぬな﹂
散っていった。
こうして、偽りだらけの世界を生きた事で偽りのない世界を夢見る様になった男は
ヒアシの言葉を聞いた鬼鮫が最期にどう思ったか。それは誰にも分からない。
﹁⋮⋮﹂
事をけして忘れんだろう。⋮⋮さらばだ﹂
﹁まだ息があるか⋮⋮大した奴だ。慰めにもならんが最期に伝えておこう。私は貴様の
や戦闘力の欠片も残ってはいなかった。
両肺と心臓。強靭な生命力を誇る鬼鮫も、この二つの重要内臓器官を失った事でもは
な水の鮫を消し飛ばすに飽きたらず、鬼鮫の胸部をも貫通していたのだ。
鬼鮫の口から大量の血が溢れる。そしてその胸からも。ヒアシが放った一撃は巨大
﹁⋮⋮がぶっ﹂
817
NARUTO 第二十六話
818
鬼鮫の死を確認したヒアシは自身の手を見やり呟く。その両手は鬼鮫ではなく自ら
の血に塗れ、指の骨も幾つかが折れていた。
鮫肌と融合した鬼鮫の皮膚は文字通り鮫の肌の様に硬くざらついていたのだ。それ
を幾度も強打していればこうもなろう。チャクラの吸収がなければそれも防げたのだ
ろうが。
それ以外にも多くの傷をヒアシは負っていた。鬼鮫の水牢鮫踊りの術はヒアシを大
きく負傷させていたのだ。
だが泣き言など言えぬ。誰が見てなかろうとも日向ヒアシは誇り高き日向一族の長。
それが泣き言など口にしてはならないのだ。
休みたがる肉体の声を無視し、ヒアシはその歩を進めていく。
NARUTO 第二十七話
一体一体が強力な固有能力を持ち、輪廻眼の視覚共有により完璧な連携を誇るペイン
六道。
あの二代目三忍自来也が仙人となっても太刀打ち出来なかった相手だ。だが木ノ葉
の誇る精鋭が五人で掛かればどうだろうか。
いや、ペイン六道を相手に数の有利はない。必要なのは数ではなく質だ。一定以上の
実力を持たない忍が何百、何千と集まろうと一蹴されるだけで終わるだろう。
そ の 点 で 言 え ば こ の 五 人 は 一 定 以 上 の 質 を 有 し て い た。三 代 目 火 影 猿 飛 ヒ ル ゼ ン。
裏 の 火 影 と 謳 わ れ る 根 の リ ー ダ ー 志 村 ダ ン ゾ ウ。千 の 術 を コ ピ ー し た は た け カ カ シ。
火影を目指すうちはの精鋭うちはオビト。綱手に次ぐ医療忍術の使い手のはらリン。
いずれも強国である木ノ葉にて右に並ぶ者が少ない実力者たちだ。彼らだけで一国
を落とす事も可能だろう。
だが、それでもペイン六道を相手に十分だと言い切れる戦力ではなかった。それは相
対する木ノ葉の忍の誰もが理解していただろう。
﹁三代目火影と、それを裏から支える志村ダンゾウか﹂
819
ペイン六道の中でリーダー格として動く天道が戦闘の前に口を開く。カカシ達には
目もくれず、天道の視線はその二人を射抜いていた。
﹂
前たちが磐石の物とした。その治世は他里すら羨む程だろう﹂
﹁お前達は今の木ノ葉を築き上げた立役者だ。初代が作り、二代目が基礎を積み上げ、お
﹁暁の首領に褒められてもな⋮⋮﹂
﹁その木ノ葉を滅ぼそうとする輩が何をほざく
様に想っている三代目は激昂していた。
冷静だが里を滅茶苦茶にされた事でダンゾウは静かに怒り、里の全ての者を子どもの
ダンゾウもヒルゼンも、天道の言葉に怒りを顕わにする。
!
そんな二人の怒りから放たれる威圧など意に介さず、天道は言葉を続けた。
﹁平和
こんな事をして平和ですって⋮⋮
﹂
!?
﹁そうだ。三代目、そして志村ダンゾウ。お前達は確かに木ノ葉を豊かに、そして平和に
破壊しているペインの言葉は到底許せない事だった。
心優しく戦いを望まないリンに、平和の為とほざきながら多くの忍を殺して木ノ葉を
インへとぶつけた。
天道の言葉を聞いたリンはペインの言動の矛盾に誰よりもその怒りを言葉にしてペ
?
﹁全ては世界平和の為。お前達木ノ葉はその礎となるのだ﹂
NARUTO 第二十七話
820
導いて来た。だが、それでも戦争は起こる。他里と幾度となく殺しあって来たお前達な
らば分かるはずだ。⋮⋮幾ら里を理想の形に導こうとも、他里にまでその理想を届ける
事は出来ないのだと﹂
﹃⋮⋮﹄
天道の言葉にヒルゼンもダンゾウも返す言葉を失くしていた。その言葉が事実だか
らだ。どれだけ二人が、いや二人の意思を広げ木ノ葉の忍が一丸となって里を平和にし
ようとも、それは木ノ葉の里だけの話だ。
軍事力を高め続ける雲隠れ、血生臭い噂が絶えない霧隠れ、他里を信用しない岩隠れ、
近年に木ノ葉を襲った経歴を持つ砂隠れ。忍五大国の内、四つが平和と反する行動を
取っている。砂隠れは木ノ葉と真に同盟を結んだが、それも永遠に続く訳ではないだろ
う。
この十数年、尾獣という強大な力の塊が里と里の軍事バランスを保ち多くの犠牲を恐
れて戦争は避けられていた。だがその尾獣も殆どが暁によって狩られた。軍事バラン
﹂
戦争の火種を作り出したお前達
スが崩れた今、いつ戦争が起きてもおかしくはなかった。
に言われたくねぇんだよ
﹁三代目様達は誰よりも立派に木ノ葉を護って来た
里と里に住む人々を愛し火影を目指すオビトはヒルゼンやダンゾウを尊敬していた。
!!
!
821
その尊敬する彼らをまるで無能の様に罵る上に、尾獣を奪い木ノ葉を攻撃する暁とそ
の首領の言葉など受け入れられる訳がなかった。
成長を与える。痛みなくして世界に平和は訪れない﹂
﹂
﹁そう、我々は戦争の火種を作った。その戦争をコントロールし、世界に痛みと言う名の
﹁その痛みとやらでどれだけの犠牲が出ると思っている⋮⋮
﹁どうやら会話は成り立たん様だの﹂
とって、犠牲の多さは寧ろ好都合なのだ。
尾獣を利用した禁術兵器によって世界に大きな痛みを与えようとしているペインに
カカシの言葉もペインには届きはしない。かつての師である自来也にも語った様に、
﹁例え億単位の人間が死のうとも、それが世界の平和に繋がるなら必要な犠牲だ﹂
!
!
││土遁・土流城壁
││
木ノ葉の強豪とペイン六道。その死闘が幕を開けた。
あった。
会話は無意味。分かり合える事なく平行線を保つのみ。ならば互いに問答は不要で
﹁愚かな。我らに協力すれば助けてやるのも吝かではなかったというのに﹂
﹁元より問答無用。木ノ葉を傷つけた報いは受けてもらう﹂
NARUTO 第二十七話
822
823
先手必勝とばかりに手を出したのはオビトだ。土流城壁にて地面を垂直に隆起させ
る事でペイン六道の前に壁を築き上げる。更に術の効果範囲を操作する事でペインの
周囲全てを土の壁で覆った。
これは攻撃の為の術ではなくペイン六道の視界を塞ぐ為の術であった。自来也が得
た情報はフカサクが伝えた事で主だった木ノ葉の忍に知れ渡っている。
││
その情報を元にオビトはペインの視界を塞ぎ輪廻眼の視界共有を妨げたのだ。
││雷遁・雷獣追牙
雷獣追牙が土の壁を突き破った時、そこには既に天道と餓鬼道が待ち構えていた。
ンビとしてその名を馳せている証拠であろう。
る差はなかった。一切の打ち合わせをせずにこの連携を行う事が出来るのが、二人がコ
オビトが土流城壁を放つタイミングとカカシが雷獣追牙を放つタイミングに然した
その壁越しに奇襲を喰らわせるというコンビ技だ。
雷遁は土遁に強い。その相性の良さを利用し、土の壁で視界が塞がれているペインに
ンへと襲い掛かる。
土流城壁に向けて放たれた雷獣追牙は土の壁を一瞬で食い破り、その後方にいるペイ
雷切の形態変化で、狼の形をした雷切が敵を襲う術だ。
そして間髪入れずに放たれるのはカカシの雷遁である。カカシの代名詞とも言える
!
NARUTO 第二十七話
824
土流城壁にて土の壁が築かれた瞬間に次に忍術か飛び道具による一斉攻撃が来ると
予測していたのだ。
流 石 に 土 の 壁 が 築 か れ た 瞬 間 に そ れ を 突 き 破 っ て 雷 遁 が 強 襲 し て く る の は 予 想 外
だったが、忍術ならば餓鬼道が吸収すれば済むだけの事だ。
更に修羅道がその全身から数多の兵器を作り出し、土の壁に向けて一斉に放った。
無数のミサイルやレーザーと言ったこの世界の技術水準では本来有り得ない兵器を
自らの肉体から作り出す。これも輪廻眼の恐るべき力であった。
││
無数の兵器は土の壁を容易く破壊しそのままヒルゼン達に襲い掛かる。
││
││火遁・大豪炎の術
││風遁・真空大玉
!
よる攻撃が餓鬼道に通用するわけもなく、炎はそのまま餓鬼道に吸収されていく。
それだけでなくそのまま餓鬼道に向かってその炎は直進していく。だが当然忍術に
防ぎ切った。
大豪炎に真空大玉が合わさる事でその火力と規模は圧倒的に高まり、修羅道の兵器を
ぬ、まさに熟練の技である。
同時に、完全にチャクラ比を合わせて放った。カカシとオビトのコンビに勝るとも劣ら
当然それを黙って受けるわけもなく、ヒルゼンとダンゾウは互いに得意とする忍術を
!
825
だが餓鬼道は忍術を吸収している間動く事が出来ない。その隙を突いてリンは複数
の苦無を投擲する。
物理攻撃を防ぐ手段を餓鬼道は有していない。それを防ぐ為に天道は苦無に向けて
神羅天征を放つ。自分を中心として周囲に斥力を発生させるだけでなく、こうして部分
的に斥力を発生させる細かな放出も可能であった。
餓鬼道が炎を吸収し続け、天道が苦無を弾いた。その瞬間にカカシが地面から奇襲を
仕掛けた。
カカシはオビトの隣で立っている。だがこうして奇襲をしているのもカカシだ。
カカシは土流城壁が壊される前に影分身の術を使用していたのだ。そして影分身を
地中に潜らせて天道が神羅天征を使用した瞬間に攻撃を仕掛けたのである。
神羅天征のインターバルに付いてもフカサクから聞かされていた。その隙を突いて
の奇襲であった。
だが天道、いやペイン六道は能力が強いだけの存在ではない。
影分身のカカシが地面から飛び出す前に大地が僅かにひび割れた予兆を見逃さず、そ
の奇襲を見切り完全に回避した。
更に追撃しようとする影分身だが、修羅道が振るった刃の尾により肉体を貫かれて消
滅する││前に、修羅道に電撃を流していく。
││雷遁影分身だと││
そう、カカシの影分身はただの影分身ではない。雷遁を組み合わせる事で消滅する前
に対象に雷撃を流す雷遁・影分身であった。
││
電 撃 を 流 さ れ た 修 羅 道 は そ の 動 き が 麻 痺 し た 事 で 次 の 攻 撃 を 回 避 す る 事 が 叶 わ な
かった。
││螺旋丸
然この奇襲に使われたのも影分身だ。当人はカカシの隣で立っているのだから。
そして天道がその腕から伸ばした黒い棒によりオビトは貫かれて消滅する。だが、当
オビトはそのまま餓鬼道を破壊しようとするが、それは天道によって防がれた。
の破壊に成功する。
チャクラを乱回転させて球状に留めた事で生み出される破壊力はペイン六道の一体
のだ。それが螺旋丸である。
アカネとの修行でオビトは自身に欠けていた近接戦闘に置ける決定打を手に入れた
道は破壊された。
カカシとタイミングをずらして地面から奇襲を仕掛けたオビトの螺旋丸により、修羅
!
﹁油断するな。奴らは復活する様だからな﹂
﹁取り敢えず一体か⋮⋮﹂
NARUTO 第二十七話
826
﹁復活の術を使うあのペインを先に倒しておきたい所だがのぅ⋮⋮﹂
修羅道を倒したオビトにダンゾウもヒルゼンもまだ油断するなと声を掛ける。
そして奥にいる地獄道を難しそうな表情で睨んだ。地獄道は人間道と畜生道によっ
て護られているのだ。
その三体のペインは後方に下がって完全に防御の体勢に入っていた。木ノ葉に地獄
道がペインの急所だと知られているのを理解しているので、地獄道がやられるのを警戒
しての動きだった。これでは奇襲も成功しないだろうと、まずは数を減らす事を先決に
して修羅道を狙ったのである。
﹂
!
いく。
﹃ぐぅっ
た。一瞬で目に見えない力が全身に襲い掛かり、僅かに留まる事も出来ずに吹き飛ばさ
斥力の力は情報として頭に入れてはいたが、実際に体感するとなると大違いであっ
!?
!?
﹁きゃあっ
﹂
﹄
枠を超えた圧倒的な力はそれを警戒していたヒルゼン達をいとも容易く吹き飛ばして
天道は修羅道の前に立ち自身を中心に神羅天征を放った。斥力を操るという忍術の
葉にはいい忍がいる⋮⋮。だが、このペイン六道の前では全てが無意味
﹁このペイン六道相手にここまで戦えるとはな。自来也先生といいお前達といい、木ノ
827
れる。
防御だけでなく攻撃にも利用出来るまさに攻防一体の厄介な能力だ。強く吹き飛ば
された事で全身が痛む彼らはこの術にどう対抗すべきか高速で頭を回転させていた。
だがそれどころではなかった。天道が放った神羅天征はヒルゼン達を攻撃する為だ
けではなく、修羅道を後方へと吹き飛ばす為でもあったのだ。
吹き飛ばされた修羅道は地獄道に受け止められ、そして地獄道が呼び出した閻魔に飲
み込まれて再び現れる。その姿は傷一つない、破壊される前の修羅道そのものであっ
た。
﹁これで振り出しに戻ったな﹂
﹂
その理不尽さに嫌気も差すというものだ。
理不尽な力の応酬にオビトも歯噛みする。話には聞いていたが、こうして目にすると
﹁じょ、常識超え過ぎだろおい⋮⋮
!
﹂
だがこのままじゃジリ貧だぜ
﹂
忍術は吸収され、物理攻撃は弾かれ、倒しても復活する。これに納得しろというのが
無理という物だろう。
﹁分かってるよ
!
!
敵が理不尽でも戦うしかないというカカシの言葉は正しいが、オビトの言葉もまた正
!
﹁それでもやるっきゃないでしょ
NARUTO 第二十七話
828
しい。天道は振り出しに戻ると言ったが実はそうではない。消耗はヒルゼン達の方が
激しいのだ。
術の連発に神羅天征のダメージ。まだ動きに支障が出るほどではないが、確実に戦闘
開始直後よりも消耗している。
対 し て ペ イ ン も 確 か に チ ャ ク ラ は 消 耗 し て い る か も し れ な い が 六 道 全 員 が 無 傷 だ。
その上忍術を吸収する事でそのチャクラも回復している。どちらが有利かなど子ども
でも理解出来るだろう。
この現状を覆す方法は誰もが理解していた。敵の復活の要である地獄道を倒す事だ。
そうすればペイン六道がこれ以上復活する事はなくなるだろう。
だがもちろんそれはペインも理解している。だからこそ地獄道を強固な守りで護っ
ているのだから。
﹂
どうにかしてあの守りを突破し地獄道を倒す。それがヒルゼン達に残された唯一の
道である。
﹁さて、これはどうする
それだけでなく巨大な鳥の口寄せ動物に畜生道・地獄道・人間道・修羅道が乗り込み
らをヒルゼン達にけし掛ける。
一瞬の膠着状態を破ったのはペインだ。畜生道が複数の口寄せ動物を呼び出しそれ
?
829
﹂
空へと飛び立った。
﹁あれでは⋮⋮
││風遁・真空連波
﹂
││
││
ミサイルの間に突如として現れた存在がいた。
そのカマイタチに対して修羅道はミサイルを放ち迎撃しようとするが、カマイタチと
ダンゾウが口から複数のカマイタチを吹き出し上空のペイン達を攻撃する。
!
く。
この怒涛の攻撃に対してヒルゼン達はそれぞれが力を発揮し連携する事で凌いでい
メレオンとムカデがそれぞれヒルゼン達に襲い掛かる。
更に修羅道が空から地上に向けて無数の兵器で攻撃を仕掛け、地上では巨大な犬とカ
を倒す手段が減った事になる。
空という領域に飛び立った地獄道への攻撃方法は限られている。これでより地獄道
!
││土遁・地動核
!?
!
の術で餓鬼道をカマイタチとミサイルの間まで上昇させたのである。
地動核の術は対象の立つ地面を不意打ちの形で持ち上げたり下げたりする術だ。そ
それはヒルゼンの地動核の術により一気に持ち上げられた餓鬼道であった。
﹁むっ
NARUTO 第二十七話
830
忍術を吸収出来る餓鬼道だが物理攻撃はそうではない。前方のカマイタチは吸収出
来るが後方のミサイルは防げずにダメージを受けるだろう。
だがヒルゼンとダンゾウが予想した未来は訪れなかった。なんと餓鬼道はカマイタ
チではなく地動核にて持ち上げられた地面を吸収したのだ。
元々は普通の地面だが、チャクラによって操られ隆起した存在だ。ならば術を吸収す
﹂
る餓鬼道に吸収出来ないわけはなかった。
かりに襲い掛かる。
﹂
││土遁・土流割
!
その口寄せ犬に対してオビトは土流割にて大地に巨大な裂け目を作る事で対処した。
!
﹁舐めんな
││
回避行動を取るオビトに向かって巨大な犬がその強靭な顎と牙にて噛み砕かんとば
躱していく。
が起こる。その爆発を縫って更にミサイルが地上へと降りかかり、それをヒルゼン達は
餓鬼道が元の地面へと戻った事でカマイタチとミサイルはぶつかり合い上空で爆発
り餓鬼道には通用しないようである。
火遁などのエネルギーではなく質量を持つ土遁ならばと思っていたが、忍術である限
﹁物体である土遁も無理か
!
831
突如として地面に出来た裂け目に巨大な犬も飲み込まれていく。更にオビトは連続
││
して術を放つ事でこの口寄せ犬を封じ込めた。
││土遁・土流槍
﹂
術を放っているのだ。
だがそれは前もってオビトも聞いている情報だ。だからこうして動きを封じる様に
だ。
特殊な口寄せに縛られた巨大な犬は物理ダメージを受けるとその数を増やしていくの
その攻撃を受けた事で口寄せ犬はその頭部を増やしていく。増幅口寄せの術という
自らが作り出した裂け目から無数の土の槍を生み出し口寄せ犬を串刺しにしたのだ。
!
クラコントロールと忍術の腕を必要とする高等な技である。
口寄せ犬が分裂をする前にこれだけの術を一瞬で連発し大地を閉じる。巧みなチャ
で大地を閉じる事で分裂できるスペースを完全に奪い去ったのだ。
増えた頭の数だけ分裂する口寄せ犬を串刺しにし身動きが出来ない状態にし、その上
犬を地下に閉じ込めた。
更にオビトは土流割にて作り出した裂け目を再びチャクラを操り閉じる事で口寄せ
﹁そらよ
!
﹁大したものだ⋮⋮﹂
NARUTO 第二十七話
832
相手にすると厄介な増幅口寄せをこうも見事に封じ込めた手腕にペインも称賛の言
葉を紡いだ。
流石はカカシと共に音に聞こえた忍なだけはある、と。こういった忍は生かしておく
と後々厄介になるとペインは理解していた。
まあ、この場の誰一人も生かす気がないので今更ではあったが。
天道はオビトに向けて片手を伸ばす。それを見たオビトは神羅天征を使用するつも
りだと予測し斥力の力に耐えようと身構える。
││万象天引││
だが天道が使用したのは神羅天征ではなかった。それは神羅天征と対を成す術、引力
﹂
を操る万象天引であったのだ。
﹁なぁっ
﹁みんなー
こいつは引力も操るッ
﹂
持っているのではなく、斥力と引力を操る力を持っているのだと。
万象天引の力を受けたオビトは瞬時に天道の力を理解した。天道は斥力を操る力を
気に天道へと引き寄せられて行く。
弾かれる力に身構えていたオビトは予想外であった引き寄せる力に不意を突かれ、一
!?
!!
全員に天道の能力を教えながらもオビトは万象天引に抗おうと忍具として持ってい
!
833
た鎖を周囲の瓦礫に絡ませる。
だが万象天引の力にはその程度で抗う事は出来なかった。天道が更に力を籠める事
でオビトは握り込んでいた鎖を手放してしまい、待ち構えていた天道が持つ黒い棒に突
﹄
き刺されてしまう。
﹃くっ
た。
﹄
方の回復役として前に出ていないリンも、オビトを助ける事が出来ず叫ぶしかなかっ
巨大なムカデを相手にしていたカカシも、苦無を投擲してカカシをサポートしつつ味
﹃オビトォォォ
!!
みするしか出来ないでいる。
だが││
!
そればかりかオビトは鎖から手を離した瞬間にその右手に苦無を持ち構え、引き寄せ
オビトは生きていた。左肩を黒い棒にて貫かれているが、急所は避けていたようだ。
﹁ぐっ⋮⋮へ、舐めんなって言っただろうが
﹂
牽制とミサイルの迎撃に精一杯のダンゾウもオビトに救いの手を伸ばす暇はなく、歯噛
姿を消して攻撃を仕掛けてくるカメレオンに対処していたヒルゼンも、空中の敵への
!
﹁⋮⋮貴様﹂
NARUTO 第二十七話
834
られた勢いを利用して逆に天道に苦無を突き立てていた。
それは惜しくも天道の左腕にて防がれた為に致命傷には至っていないが、それでも自
来也ですら傷つける事が出来なかった天道に傷を付けたのは確かだ。
オビトは更に追撃を加えるべく、苦無から手を離し右手で螺旋丸を作り出す。この至
近距離ならば外しようはない。先ほどは咄嗟だった故に螺旋丸を作る事は出来なかっ
たが、この威力ならば腕でガードしようがダメージを防ぎきれるものではない。逃がさ
﹂
ない様に肩の痛みを無視し左手で天道の右腕を掴み、全力で螺旋丸を叩きつけようとす
る。
﹁ッ
﹂
をかき乱された状態で使用出来る訳もなく、敢え無く霧散してしまったという訳だ。
螺旋丸は非常に高度なチャクラ操作を要求する高難度の術だ。そんな術をチャクラ
を乱したのだ。
さっているのと同じ物だ。これを利用してチャクラを流し込む事でオビトのチャクラ
この黒い棒はチャクラの受信機としての役割を持っている。ペイン六道の全身に刺
征を使用した為ではない。オビトの左肩に刺さった黒い棒が原因であった。
だがその螺旋丸は天道に当たる直前に掻き消える事となった。それは天道が神羅天
!?
﹁クッ
!
835
オビトは咄嗟に天道から離れる。黒い棒を引き抜いた為に左肩に激痛が走るが、そん
な痛みは無視して更にその場を離れようとする。そんなオビトに向けて修羅道は空か
らは無数のミサイルを撃ち放った。
あわや絶体絶命か。そう思っていたオビトは突如として後方へと引き寄せられる事
﹂
でそれらの攻撃から逃れる事が出来た。
﹁無事かオビト
﹁ああ、問題ねー
助かったぜカカシ﹂
を絡ませて引き寄せたのだ。
オビトを救ったのはカカシだ。巨大なムカデを雷切にて切り裂いた後にオビトに鎖
!
!
けないカカシとリンではなかった。 !
医療忍術を施す。
﹁だ、大丈夫だって
こんなの唾でも付けときゃ問題ないからさ
﹂
!
戦闘中の回復は必要だが、この状況では回復している暇にペインの攻撃に晒されより
!
カカシは二人の前に立ちペインの動きに警戒し、リンはすぐにオビトの傷を確認して
早く傷を見せて
﹂
急死に一生を得たオビトはカカシに礼を言う。だがその中に強がりがある事を見抜
!
!
﹂
﹁リン
!
オビト
﹁ええ
NARUTO 第二十七話
836
危険に陥る可能性が高い。
私を心配してそんな事言ってるなら怒るからね
﹂
それによりリンが危険になる事を危惧したオビトは強がりを述べるが、それで納得す
るリンではなかった。
﹁何強がり言ってるの
!
複雑ではあったが。
﹁リン⋮⋮悪かった﹂
!
カカシは自分の後ろでそんな風に治療と青春をしている二人を微笑ましく思いつつ
の程度の傷ならば僅かな時間で治療が可能であった。
アカネの元で医療忍者として修行を積んだリンはその実力を大きく伸ばしており、こ
リンの想いを理解したオビトは素直に謝罪する。そして治療も終えた様だ。
﹁ううん、怒鳴ってごめん⋮⋮。よし、これでもう大丈夫よ
﹂
頼ってほしいと思うのだ。同時に女性としてのリンはオビトの言動に嬉しく思うので
そんなオビトにリンは腹を立てていた。もっと自分を信用してほしい。仲間として
だろう。
た事がある。その上リンに惚れていると公言しているのだ。これが強がりなのは明白
誰よりも仲間想いなオビトだ。これまでの任務でも幾度となく仲間の為に無茶をし
オビトが自分を心配してそう言っている事はリンには分かっていた。
!
837
NARUTO 第二十七話
838
もペインへの注意は怠っていない。
そしてペインの動きの不自然さに気付いた。リンがオビトの治療に掛けた時間は僅
かだ。だがその僅かな時間の中とはいえ、ペインは一切の攻撃をしてこなかった。
空から降り注がれていたミサイルも、天道の引力と斥力も、全ての口寄せ動物が倒さ
││
れた畜生道も新たな口寄せをする事なくこちらを見つめていたのだ。
││いや、見ているのはオレ達だけか
は攻撃の為の絶好の機会だったはずだ。それを何故見過ごしたのか
夢が自分の夢であり、三人でずっと一緒に平和を目指し、三人でずっと一緒に平和を謳
二人が誰よりも大事だった。仲間であり友であり、それ以上に家族であった。弥彦の
守る自分。
の弥彦の無茶を窘めつつも、無茶によって傷を負った弥彦を癒す小南。そんな二人を見
この世に平和をもたらす為に努力して無茶をするかつてのリーダーである弥彦。そ
思い出していた。
カカシには分かるはずもなかったが、ペインはこの時カカシ達を見てかつての記憶を
?
何故自分たちを注視して攻撃の手を止めたのか。オビトを治療する為に生まれる隙
いた。
ペインの視線の先にあるのが自分とオビトとリン、この三人にあるのをカカシは見抜
?
歌したかった。
今でもその叶わぬ夢を思い出す。そんなペインがカカシ達の今の光景をかつての自
分達と重ね合わせてしまうのは仕方のない事なのかもしれない。
かつてあった幸せな記憶を壊したくない。そんな想いがペインに攻撃の手を緩めさ
せる原因となった。
ペインは最後の慈悲としてカカシ達に言葉を告げる。
もりはなかった。
!
そしてその言葉への返答はオビトが行った。
だったら、答えは一つだけだ
?
﹁そうか⋮⋮ならば死ね﹂
界平和の為に生み出される犠牲を容認出来る者はこの場にはいないのだから。
例えペインがナルトの命を奪わないと言っても答えは同じだろう。ペインの言う世
付けている。
その言葉はオビトだけでなく全員の意思の代弁だ。誰もがペインを強い意思で睨み
﹁その木ノ葉の中にナルトはいないんだろ
﹂
それは最後通告だった。これに従わないならばペインもこれ以上の慈悲を掛けるつ
木ノ葉を傷つける事はしないと約束しよう﹂
﹁⋮⋮我々に従い協力しろ。世界を平和へと導く為の力となれ。そうすれば、これ以上
839
その言葉を合図にペイン六道の攻撃は再び開始された。
地上の天道による引力と斥力の操作。空中の修羅道による圧倒的な破壊の雨。畜生
道が新たに口寄せした巨大生物。
これらの前にヒルゼン達は耐え凌ぐ事しか出来なかった。こちらの攻撃は天道が巧
みに操作する斥力によって弾かれる。
天道の神羅天征の術と術の合間にあるインターバルを狙うも天道の傍にいる餓鬼道
が忍術を吸収し、物理攻撃は天道が避けるか最悪餓鬼道が身を挺して守る。
そして破壊されたペインは地獄道が修復する。忍術を吸収し、物理攻撃を弾き、何度
やられても復活する。こんな化け物を相手に耐え凌げているヒルゼン達はむしろ称え
﹂
られても良い程である。
!
と言えよう。木ノ葉の全ての術を知り五大性質変化を有するヒルゼンと、
﹃根﹄の創立者
二人が全盛期であったならばヒルゼン達とペイン六道の立場は完全に逆転していた
も全盛期の半分程の実力もないだろう。
に高齢でもあるのだ。衰えた肉体に蓄えられるチャクラの量は限られている。二人と
既にヒルゼンもダンゾウもチャクラの大半を失っている。二人は歴戦の忍だが同時
このままではいずれ力尽きる。ヒルゼンの危惧は正解だ。
﹁このままでは⋮⋮
NARUTO 第二十七話
840
にして裏の火影たるダンゾウだ。その全盛期は忍の神と謳われる程であった。
だが悲しいかな。時の流れとは全てに平等に流れ、そして残酷だ。いや、衰えても並
の上忍等とは比べ物にならない程の強さを保っている二人はやはり忍として高みに
至っているという事なのだろう。
ともかく、既に多くのチャクラを失ったヒルゼンとダンゾウ。この二人が倒れてしま
えば一気に戦況はペインへと傾く事になる。
そうなれば残る三人もあっという間に倒されるだろう。そしてペインは悠々と木ノ
何をっ
﹂
葉を破壊して回ることになる。そうするわけには行かない。
﹁三代目様
!?
!
だ。
││後は頼んだぞダンゾウよ
││
友が、自分の最も信頼する男がその隙を突いてくれるだろうとヒルゼンは信じているの
だからこその捨て身だ。全てを賭してでもペインに隙を作り出す。そうすれば必ず
インもそれを理解しているからこそ地獄道を守っているのだ。
敵の要である地獄道。これさえ仕留めれば後はペインも消耗し続けるしかない。ペ
も未来を切り開く為に自爆覚悟の攻撃に出たのだ。
ヒルゼンは覚悟を決めて前に出る。例え敵の攻撃で死に至る傷を負おうとも、それで
!?
841
言葉にせずとも伝わっているとヒルゼンは信じている。それ程の長きに渡って共に
在った仲間であり、友であり、そして好敵手なのだから。
幾度となく語らい、いがみ合い、時には争い、そして今に至る。互いに蟠りを失くし
てからは真の友として助け合ってきた。そんなダンゾウならば自分の思いを理解して
﹂
くれると信じ切っていた。
﹁ゆくぞ猿魔よ
放ち吸収させる事でその動きを止めていた。
リンは天道に向けて無数の苦無を放つ。オビトは餓鬼道が天道を庇わない様に火遁を
天道は万象天引にてヒルゼンを引き寄せようとするが、それを阻止するべくカカシと
により逆に迎撃される。
その無謀とも言える特攻に修羅道は迎撃の兵器を放つが、それはダンゾウが放つ風遁
﹁愚かな﹂
変化させ、空中にいる地獄道に向けて跳躍する。
ヒルゼンは自らの口寄せ動物である猿猴王・猿魔を金剛如意という変幻自在の棍へと
!
え無く修羅道により迎撃されると踏んでいたのだ。
やむなく天道は神羅天征にて己の身を守る。どうせ無謀な特攻をしたヒルゼンは敢
﹁ちっ﹂
NARUTO 第二十七話
842
それを証明するかの如く修羅道はその頭部からレーザーを放とうとしていた。エネ
ルギーの塊であるレーザーならばダンゾウの風遁では防げないだろう。
それでもヒルゼンは構わず地獄道目掛けて跳躍していた。口寄せされた鳥が離れよ
うとも閻魔の変化を利用して空中で足場とし跳躍を繰り返し追い続ける。
例え修羅道のレーザーがこの身を貫こうとも構わずに地獄道を道連れにするつもり
だ。頭部のみを守り近付くヒルゼンに、修羅道は望み通り胴体に風穴を開けてやろうと
レーザーを放ち││
﹄
││互いに大地に引き寄せられる事でその体勢を崩す事となる。
﹃なッ
﹂
答えは大地にいる巨大な生物にあった。
﹁ヴォオオオオ
!!
その能力は強力な吸引だ。巨大な口を大きく開きあらゆる物を吸い込んでいく。そ
ンゾウが口寄せした生物である。
象の様な鼻を持つこの巨大な生物の名は貘。悪夢を喰らう化け物と呼ばれており、ダ
ばく
天道は神羅天征も万象天引も使用していない。ならばこれは誰の仕業だと言うのか。
も驚愕していた。
凄まじい勢いで引き寄せられるヒルゼンと空中にいるペイン達。これには敵も味方
!?
843
の吸引力でヒルゼンも、そして空を飛ぶ鳥諸共ペインも引き寄せられているのだ。
大地に立っていれば抵抗も出来ようが、空という不安定な空間では自らを支える事も
出来ずにヒルゼンもペイン達も貘に向けて引き寄せられていく。
更にダンゾウは影分身を使用し、その影分身に風遁・大突破を本体自らに向けて放た
せる事で貘の吸引力を振り切ってペインへと向かう。
巨大な鳥に降り立ったダンゾウはその勢いのままに苦無を振るい地獄道を破壊しよ
うとして││修羅道によって阻止された。
﹂
﹂
人間道、畜生道もその手から黒い棒を伸ばし次々とダンゾウの身体を貫いていった。
修羅道が振るった刃の尾はダンゾウの身体を貫いていた。それだけではない。残る
だ。
かけダンゾウに近付かれたのは予想外だったが、それでやられるままにいる訳がないの
ペインもダンゾウの思いのままにさせるつもりはない。貘の力で地上へと降ろされ
﹁ぐぅっ
!!
!!
││今度はオレの番だヒルゼン││
は僅かに見やり、そして笑みを浮かべた。
ヒルゼンは大地に落ちつつその光景を目にして叫んだ。そんなヒルゼンをダンゾウ
﹁ダンゾウ
NARUTO 第二十七話
844
﹂
ヒルゼンはダンゾウのそんな声を聞いた気がした。その言葉の意味を理解したヒル
ゼンは再び叫んだ。
﹁だ、ダンゾウォォ
﹁む
こ、これは
﹂
!?
﹂
!
そしてダンゾウがその身に刻み込んでいた術式がその効果を発揮した。己の死に際
は逃がさない様にしたのだ。
地獄道の足をダンゾウが掴んでいたのだ。死ぬ前に全ての力を振り絞り、地獄道だけ
る。だが、その中で地獄道のみが脱出する事が出来ないでいた。
ダンゾウの最期の足掻きに口寄せ鳥の上に立つペイン達はその場から離れようとす
﹁ちっ
たのだ。そしてそれは周囲に広がりある陣を描き出した。
一番最初に異変に気付いたのは人間道だ。ダンゾウの身体から黒い何かが噴き出し
?
だが、その地獄道が放てる言葉はそれが最後だった。
ずもない。
五人掛かりで拮抗を保っていたのだ。そこから一人減れば最早拮抗など保てようは
﹁ようやく一人か。だが、お前たちの抵抗もこれで終わりだな﹂
巨大な鳥の上に倒れるダンゾウを見て地獄道は呟く。
!!
845
NARUTO 第二十七話
846
に発動するよう術式を組んでいた封印術。周囲の全てを自らの死体に引きずり込んで
封印する道連れ封印術である。
ダンゾウは初めからこれを狙っていたのだ。貘を今まで使用していなかったのは敵
に空中から引きずり落とす手段がないと油断させる為。ヒルゼンの特攻を補佐したの
もヒルゼンを囮とし自らの行動を悟らせない様にする為。
味方すら欺き敵の隙を生み出しそこを突く。根を束ねるダンゾウらしい戦術だった。
その隙を突いた苦無の一撃も通用はしなかったが、それすらダンゾウの手の内だった。
も ち ろ ん 苦 無 の 一 撃 に て 地 獄 道 を 破 壊 す る 事 が 出 来 て い れ ば そ れ に 越 し た 事 は な
かったが、それが不可能だった場合は自らが犠牲となる事をダンゾウは厭わなかった。
全ては木ノ葉の為に。かつて若かりし頃のダンゾウはその覚悟を持ち出す事が出来
なかった。だがヒルゼンは木ノ葉の為に犠牲となろうとしていた。ヒルゼンの犠牲は
二代目火影扉間によって防がれたが、当時は屈辱のあまりヒルゼンを憎んだ事すらある
ダンゾウだった。
だが生きて帰った二代目に諭され、時間を掛けてヒルゼンと共に成長していく内にダ
ンゾウは変わった。ヒルゼンに対抗する為ではなく、真に木ノ葉を想って物事を考える
様になったのだ。
そしてかつて持ち出す事が出来なかった覚悟を持ち出す機会がやって来た。ダンゾ
ウが予想した通りヒルゼンは自らを犠牲にして未来を切り開こうとしていた。
それを阻止し、自身が犠牲となる。五代目の統治にヒルゼンの様な存在は必要だ。経
験不足の綱手をより良く導いてくれるだろう。自分の代わりは作れるが、ヒルゼンの様
に木ノ葉を照らす光の変わりはそうはいないのだ。
だからこそヒルゼンを生かし自身を礎とする。そうする事で最後にヒルゼンに勝て
﹂
た様な気になりそれを嬉しく思いつつも、死に際までヒルゼンへの対抗心が残っていた
この、馬鹿者が⋮⋮ ワシの様な年寄りを庇ってどうする⋮⋮
!
事にどこか可笑しく思いながらダンゾウは死んでいった。
﹁ダンゾウ⋮⋮
!
ゆくぞ皆の者
!
木ノ葉の未来はこの一戦にある
!
!
秘め、ダンゾウが切り開いてくれた未来を掴む為に前を向く。
﹁これで敵の復活はない⋮⋮
﹂
だが今はダンゾウの死を嘆き続けている場合ではない。ヒルゼンはその想いを内に
だ。
ンゾウの努力によって築かれた平和を謳歌する子ども達を見守り続けてほしかったの
火影の裏方として動き続けていたダンゾウには生きて未来を見てほしかったのだ。ダ
こんな先の短い老いぼれを庇い犠牲になる必要はなかった。常に木ノ葉の根として
きつつその行動を批判する。
庇うならばこんな枯葉ではなく木ノ葉の若葉だろうと、ヒルゼンはダンゾウの死を嘆
!
847
﹃はっ
﹄
叫んだ。
一旦離れよ
﹂
!
││
!
天道を中心に強大な斥力が放たれる。それは大地を削り瓦礫を吹き飛ばし、そして耐
││神羅天征
﹁いい判断だ。だが遅い﹂
!
それを見たヒルゼンはペインの行動の意味を理解し、すぐにこの場から離れるように
げ飛ばされる。
天道の近くに集まっていたペインの内、畜生道のみが修羅道によって遥か後方へと投
付けた。
ルゼン達の覚悟も、そしてダンゾウの犠牲をも嘲笑うかの如く、ペインはその力を見せ
ヒルゼン達は誰もが相打ってでもペインを止めようと覚悟していた。だがそんなヒ
の唯一の好機なのだから。
わけには行かなかった。復活のキーである地獄道がいなくなった今こそがペイン打倒
こちらもダンゾウが死した為に戦力は大きく削れてしまったが、だからといって退く
る事は出来ない。
ダンゾウの死を悲しむ暇などない。地獄道がいなくなった今、ペインはもはや復活す
!
﹁いかん
NARUTO 第二十七話
848
える暇もなくヒルゼン達を吹き飛ばしていく。
当然その力に周囲のペイン達も巻き込まれる。味方だけは巻き込まないという便利
な力ではないのだ。この力に巻き込まれなかったのはあらかじめ避難していた畜生道
のみだ。
畜生道を逃がした行動で、ヒルゼンは今までとは規模の違う神羅天征が放たれると予
﹂
測したのだが、その予測も退避の支持も無意味と言わんばかりの強大な力が全てを吹き
飛ばした。
﹁ぐ、ううっ⋮⋮﹂
﹁なんて奴だ⋮⋮﹂
﹁⋮⋮みんな、無事
﹁なんという力。じゃが、あれでは奴らも⋮⋮﹂
傷をリンも負っているのだ。まずは動けるように自身の傷を癒す事にリンは集中する。
皆の傷を癒そうとリンが動こうとするがその意思は肉体には伝わらない。それ程の
る。
まりの力で吹き飛ばされた為に全身の骨が幾つも折れ、瓦礫により無数の傷が出来てい
ヒルゼン達はかろうじて全員が生きていた。だが誰もが重傷を負っている様だ。あ
﹁どうやら、生きてはいるようだな⋮⋮﹂
?
849
ヒルゼンの考えている通り、天道の周囲にいたペインも神羅天征に巻き込まれダメー
ジを受けている。
いや、ヒルゼン達よりも天道の遥か近くにいた為にその身に受けたダメージは比では
﹂
﹂
なく、天道と畜生道以外のペインは全て破壊されてしまっていた。
﹁自分たちの戦力を減らすなんて、何考えてんだ
﹁だが好機だ。あと二人、特にあのペインを倒しさえすれば⋮⋮
口寄せされたのは神羅天征によって破壊された修羅道・人間道・餓鬼道、そしてもう
した。
使用した。そして口寄せされた者を見て、その者が行った事を見て、ヒルゼン達は驚愕
天道は万象天引にて遠く離れた畜生道を引き寄せる。そして畜生道は口寄せの術を
││万象天引││
唯一畜生道だけ逃したその意味を。
だがカカシは理解していなかった。いや、ヒルゼン達の誰もが理解していなかった。
道はどうとでもなる。
オビトの疑問ももっともだが、カカシの言う通り最も厄介な天道さえ倒せば残る畜生
!
?
﹂
一人、今まで見た事のない新たなペインであった。
﹁七体目の、ペインじゃと
!?
NARUTO 第二十七話
850
﹁違うな。ペイン六道はその名の通り六体のペインを表す﹂
ヒルゼンの言葉にそう返す天道だが、正確には七体目のペインとも言うべき存在はい
る。だがこの場では関係ないのでそれは省こう。
呼び出されたのは七体目のペインではない。それを示すかの様に、新たなペインは破
壊された三体のペインを自らの力で呼び出した閻魔像に飲み込ませ、そして元通りの身
体で復活させた。
﹄
!
ではなく、ペイン六道の一体、地獄道なのだ。
その力を持つペインはダンゾウが封印したはず
!
﹁予備⋮⋮だと
﹂
となった。そしてその情報が木ノ葉に伝わっている事も理解している。
ペインと自来也が戦った時、ペインは自来也の予想以上の実力に多くの力を見せる事
用意していたのだ。と言っても予備は地獄道のみなのだが。
そう、予備だ。ペインは木ノ葉に戦争を仕掛ける前にあらかじめペイン六道の予備を
!?
だ﹂
﹁その通りだ。地獄道はあの男によって封印された。だから予備の地獄道を動かしたの
﹁ば、馬鹿な
﹂
それはまさに地獄道の力そのものであった。そう、このペインは七体目のペインなの
﹃ッ
!?
851
NARUTO 第二十七話
852
ならば敵が地獄道を狙わないはずはなかった。当然だ。復活させる能力を持つ敵を
放置するなど馬鹿でもしない所業だろう。ペインが地獄道を他のペインで守っている
のも同じ理由だ。
だがそれだけでは地獄道を守るには足りないだろうとペインは木ノ葉を高く評価し
ていた。自来也という強大な力の持ち主がいたのだ。他にも多くの実力者がいないと
どうして言える。
自 来 也 と 同 じ 二 代 目 三 忍 の 綱 手。三 代 目 火 影 で あ る ヒ ル ゼ ン。裏 の 火 影 ダ ン ゾ ウ。
火影の右腕左腕に、うちはと日向の当主、他にも多くの名が知れ渡っている忍を擁する
のが木ノ葉隠れの里なのだ。甘く見てはペインと言えど痛い目を見るだろう事は容易
く予想された。
更にはあの日向ヒヨリの生まれ変わりである日向アカネと戦う事も計算に入れてい
たのだ。慎重に慎重を重ねても臆病ではないだろう。
そうしてペインは木ノ葉を襲う前に地獄道の予備を用意した。手頃な死体を用意し、
それにチャクラの受信機となる黒い棒を埋め込み、地獄道が破壊された時に新たな地獄
道となる様に準備していたのだ。
この手は無数の予備を生み出すには至らなかった。ペイン六道を生み出すにはそれ
なりの手間と準備が必要であり、無数に予備を用意する事は様々な点から不可能だった
のだ。
予備の地獄道を準備するだけでも長門に大きな負担を強いていたのだからこれ以上
は長門の体力と寿命を更に削る事になっていただろう。
﹂
﹂
﹁う、おおお
!
避けられただろう。
を癒し万全に近い体調に戻っていた。あの距離から放たれたミサイルならば問題なく
リンも同じくその場から離れている。この中で唯一医療忍者である彼女は自身の傷
だ。
でに開いたが、だからと言って諦めるつもりは毛頭ない彼らは最後まで足掻くつもり
ヒルゼンとカカシは全身の痛みを無視してその場から離れた。戦力差は絶望的なま
!
﹁ぬぅぅっ
ルゼン達に放った。
復活した修羅道がその全身から数多のミサイルを生み出し、傷つき瓦礫に埋もれるヒ
裁きを下す。
そう言って、ここまで戦い抜いたヒルゼン達を称賛しつつペインはヒルゼン達に神の
前達の力を﹂
﹁恨むなら自来也先生の強さを恨め。そして誇れ。このペインにここまで警戒させたお
853
だが唯一瓦礫から動かない者がいた。
﹂
!!
││火遁・大豪炎の術
││
││
!
││残る苦無は三本││
がオビトに向かって走りつつ、その脅威からオビトを守った。
やがてヒルゼン達の守りを突破し、幾つかのミサイルがオビトへと向かう。だがリン
無理だった。
だがそれが限界だ。今のヒルゼン達は傷つき疲弊し弱っている。これ以上の援護は
める。
ヒルゼンが火遁にてミサイルを迎撃し、カカシが水の壁を張る事でオビトの防御を高
││水遁・水陣壁
!
に向けた。
当然ヒルゼン達がそれを良しとする訳がない。各々が今出来るだけの援護をオビト
迫っているのだ。このままではオビトはミサイルの餌食となってしまうだろう。
足から鉄材を抜こうにもそれだけの暇は既にない。こうしている間にもミサイルは
その鉄材は巨大な瓦礫と繋がっていた。これでは動く事など出来ないだろう。
そ れ は オ ビ ト だ。オ ビ ト の 足 に は 建 築 に 使 わ れ た だ ろ う 鉄 材 が 突 き 刺 さ っ て い た。
﹁く、くそっ
NARUTO 第二十七話
854
リンはオビトの前に向かいつつ自身の忍具を確認する。投擲武器である苦無の本数
は三本。そしてミサイルの数は七つだ。リンは残る全ての苦無に起爆札を付けてミサ
イルに投擲する。
一投目、ミサイルに命中し爆発、更に誘爆を起こした事でミサイルの数は五つとなる。
二投目、同じく命中し爆発、誘爆によりミサイルは残り二つとなる。
そして最後の一投。それもミサイルに命中し爆発を起こす。だが⋮⋮誘爆を起こす
事はなかった。
最後に残ったミサイルはそのままオビト目掛けて飛び続ける。もはやリンにそれを
阻止する手段はない。いや、あった。オビトを守る為の最後の手段が。
﹄
リンは、己の身を盾として、ミサイルからオビトを守り抜いた。
﹃り、リンーーーッ
渡った。
ミサイルの爆音を掻き消すかの如くに、オビトとカカシの慟哭が木ノ葉の里に響き
!!?
855
となっていたのだが、その真実はサソリが人傀儡のコレクションとするべく三代目風影
それが三代目風影の人傀儡である。かつて三代目風影は何者かに攫われて行方不明
る一品を取り出した。
警戒していた。なのでサソリはコレクションしている人傀儡の中で最も気に入ってい
隠れ蓑であったヒルコを容易く破壊され本体を晒されたサソリはナルトを最大限に
そんなサソリがナルトという十六歳の少年一人を相手に圧倒されていた。
凌駕する忍界最高の傀儡使い。百の傀儡にて一国を落とした事すらある男だ。
ならば、百体の傀儡を同時に操る事が出来るサソリは何なのだろうか。チヨバアすら
儡を同時に操るチヨバアはまさに超一流だ。
て傀儡使いを名乗る事が出来、三体の傀儡を操る事が出来れば一流と言え、十体もの傀
傀儡使いは操れる傀儡の数でその実力が計れると言われている。一体の傀儡を操れ
からその技を教わり、更に独自に進化させたサソリは忍界最高の傀儡使いに至った。
敵であるサソリは暁でも屈指の実力者だ。高名な傀儡使いである砂隠れのチヨバア
圧倒的。まさにそう言っても良い程の実力をナルトは発揮していた。
NARUTO 第二十八話
NARUTO 第二十八話
856
857
を密かに殺害していたのだ。
サソリの人傀儡は生身の人体から作り出した故に生前のチャクラを宿している。つ
まりこの三代目風影の人傀儡も生前の力を振るえるという事だ。
その力は磁力の力だ。三代目風影は練り込んだチャクラを磁力に変える事が出来る
特別な体質であり、それを利用して砂鉄を操り状況に応じた武器を作り出す事を得意と
していた。それにより三代目風影は歴代最強と謳われていたのだ。
その三代目風影を、サソリは全力で操った。傀儡へと改造した時に全身に仕込んだ仕
込みを余す事無く披露し、様々な形状に変化させた砂鉄を雨あられの如く放出する。
毒使いでもあるサソリなだけにそれらの攻撃には全て毒が仕込まれていた。掠りで
もすれば毒は回り戦闘力は低下し、短時間で死に至る恐るべき毒だ。
対抗する為の解毒薬は既に木ノ葉に存在しているが、残念ながらナルトは所持してい
ない為に掠り傷一つで敗北は必至となる。
だが、その全てをナルトは跳ね返した。
仙人モード。それはナルトに圧倒的なまでの力を与えていたのだ。
大きく広がった感知能力によりサソリの鋭く複雑な攻撃の全てを見切り、磁力によっ
て千本の様に鋭く細かな武器と化した砂鉄も超大型の螺旋丸にて全てを吹き飛ばした。
細かな武器では意味がないと悟ったサソリは砂鉄を一つに纏めてナルトにぶつけよ
NARUTO 第二十八話
858
うとするが、自然エネルギーにより向上した身体能力を持つナルトは鋼の硬さを持つ砂
鉄の塊を容易く殴り飛ばす。
これでは埒が明かないと思ったサソリは三代目風影の切り札を使用する。
砂鉄界法。磁界の反する二つの高密度の砂鉄の塊を結合する事で磁力を一気に高め、
その磁界の反発力にて広範囲に砂鉄の針を棘の如く拡散させる術だ。
これだけの速度と広範囲に広がるこの術ならばとサソリは思うが、ナルトはこの術の
真っ只中にあってさえ無傷であった。
ナルトの周囲には三体の影分身がそれぞれナルトを囲む様に配置され、外側に向けて
大型螺旋丸を作り出していた。
更に本体のナルトも頭上に向けて大型螺旋丸を掲げており、それにより死角を無くし
たナルトは周囲から迫る砂鉄の全てを螺旋丸にてなぎ払ったのだ。
この切り札でも倒せなかった事にサソリは驚きを禁じえないが、それでも冷静さを保
ち傀儡使いのセオリー通り中距離を保って戦闘を続行しようとする。
傀儡使いは接近されると弱い。もちろんサソリはその例から外れているが、今のナル
トを相手に近付くことは自殺行為だと理解しているのだ。
だがそんなサソリの警戒すらまだ足りないとばかりに、ナルトはサソリに向けてある
仙術を放った。
859
││仙法・風遁螺旋手裏剣
││
サソリは風遁螺旋手裏剣の軌道から素早く離れる。予想以上だと思っていたナルト
位を破壊されない限り行動可能というサソリがこの術の前に逃げの一手を取ったのだ。
当たればまず死は免れない。人の身体を捨て、痛みを捨て、胸にある唯一の生身の部
解した。
サソリは間違いなく超一流の忍だ。故にこの風遁螺旋手裏剣の恐ろしさを一目で理
それに焦ったのはサソリだ。
ナルトは完成した風遁螺旋手裏剣をその名に負けない様にサソリに向けて投擲する。
て完全な術へと進化したのだ。
わんばかりに投げる事が出来ない不完全な術だった。それが仙人に至った事でこうし
元々は忍術として一度は完成させていた螺旋手裏剣だったが、手裏剣の名は伊達と言
も右に並ぶ術は忍界に少ないという程の仙術だ。
の経絡系の全てを損傷させる程の威力を持つ。それだけでなく単純な破壊力に置いて
その攻撃回数は濃度で表した方が的確な程に濃く、針に形態変化したチャクラは対象
だ。
のチャクラによる無数の針が螺旋丸に渦巻く事で圧倒的な攻撃回数を誇るという大技
風遁螺旋手裏剣。螺旋丸に風の性質変化を加えた忍術だ。その威力は凄まじく、風遁
!
が更に予想以上なのだと理解したサソリはどうするべきかと考える。
ここまでの戦闘でナルトの強さが自分以上だとサソリは見抜いた。このまま戦って
は死ぬか、死なぬまでも確実に手痛い目に遭うだろう。ならば撤退するべきか。
僅かな時間でそこまで思考したサソリだが、次の瞬間に驚愕に目を見開いた。投擲さ
れた風遁螺旋手裏剣が、その軌道を変化させて自分に向かって来ているのだ。
その理由はナルトの影分身にあった。ナルトは風遁螺旋手裏剣を投擲する前に自身
の影分身を先行させていたのだ。そしてサソリが回避行動を取った所を確認し、近づい
て来た螺旋手裏剣を掴みサソリに向けて再び投げつけたのだ。
自身の術とはいえ、これほどの大忍術をこうも容易く操れるのはこれまでのナルトの
弛まぬ努力の結果だろう。ともかく、一度避けたと思っていた術が再び迫る事態にサソ
リは驚愕し、そして三代目風影の人傀儡を犠牲にする事で難を逃れた。
﹂
!!
﹁ここまでとはな⋮⋮﹂
跡形もなく消え去り、綺麗な半円状となった地面しか残されてはいなかった。
そこには巨大な大穴しか残っていない。瓦礫も、平らな大地も、そして三代目風影も、
それに吹き飛ばされながら、サソリは風遁螺旋手裏剣の威力を垣間見た。
人傀儡と風遁螺旋手裏剣がぶつかり合い、そして凄まじい破壊の奔流が周囲を襲う。
﹁くっ
NARUTO 第二十八話
860
規模で言うならばこれ以上の忍術は数多⋮⋮とまでは言わないがそれなりに存在す
る。だが、ここまでの密度を保った威力を誇る術はどれだけあるだろうか。
あの術の攻撃範囲内にあった物は全てが塵と化すだろう。サソリにそう思わせるだ
けの威力を風遁螺旋手裏剣は有していた。
先の戦闘の実力に加え、これだけの術とそれを使いこなす技術と判断力。まさに手に
負えない化け物だ。多くの人柱力を狩ってきた暁が最後に当たった壁がこれかとサソ
リは苦笑するしかなかった。
撤退するべきか、ではなく撤退するしかない。サソリのその判断は正しく、そして遅
かった。
﹂
!
﹂
!?
反応する暇もない攻撃だが、その威力はそこまでではなかった。更にナルトは続けて
﹁
を巻物から口寄せしようとして││ナルトによって殴り飛ばされた。
するしかない。瞬時に作戦を見直したサソリは自身が操れる最大数である百体の傀儡
この状況で逃げるのは不可能。ならば戦闘しつつどうにかして隙を作り出して逃亡
いつの間にか、既にサソリの周囲には影分身含めた四人のナルトに囲まれていた。
﹁くっ
﹁逃がさねぇよ﹂
861
サソリを殴り飛ばす。何度も、何度もだ。
怪訝になったのはサソリだ。ナルトの実力を知ったサソリはこの攻撃で自分を破壊
﹂
する事は容易いだろうと予測していた。だというのに、ナルトは今も大したダメージに
﹂
ならない攻撃をサソリに加え続けている。
﹁何のつもりだ
﹁てめぇは⋮⋮そんな身体になって、痛みを忘れちまったのかよ
だが、サソリのその考えは見当違いの物だった。
悔しがっているナルトを見やり、サソリはナルトを嘲笑う。
の身。痛みなどとうの昔に捨て去った物だ。憎い敵が痛みに苦しむ様を見られなくて
ナルトは自分を痛めつけてやろうとしていたのだろうと。だが生憎とサソリは傀儡
た。
ナルトの言葉の意味を理解出来なかったサソリは、少し逡巡してその答えに行きつい
ればいいだけだからな﹂
なのかもしれないがな。傀儡となったオレには不要の代物だ。何せ悪い部品は交換す
だ。いや、お前ら生身の人間にとっちゃ自分の肉体の異常を知らせてくれる便利な装置
﹁⋮⋮ 何 を 言 う の か と 思 え ば。痛 み な ど 戦 い に 置 い て 邪 魔 に し か な ら な い 無 駄 な も ん
!
?
﹁ふざけんな オレが言ってんのは自分の痛みじゃねー 他人の痛みを理解する事
NARUTO 第二十八話
862
!
!
も出来なくなったのかって言ってんだ
﹂
﹂
今度こそ、サソリはナルトが何を言ってるのか理解出来なかった。他人の痛み
﹁⋮⋮あ
れが忍の世に何の役に立つと言うのか。
﹂
﹂
!!
そ
どうして戦争なんてふざけた真似が出来るんだてめーらは
忍の世は騙し騙されが当たり
は確かだ。それを覚悟せずに忍になる事は間違っているのかもしれない。
確かにサソリの言う言葉は全てが偽りではない。この忍の世にそんな一面がある事
物だった。
いたく、他人に認められたかったナルトには、サソリの考えはどうしても理解出来ない
ナルトは更にサソリを殴り付ける。他人から痛みを受け育ち、他人から理解してもら
﹁てめー
前に徘徊する魔窟だ。それが嫌なら初めから忍者になんざなるもんじゃないのさ﹂
﹁他人の痛みなんざ理解してどうなる 馬鹿かお前
?
﹁何でこんな事が出来る
の痛み以上に邪魔な物にしかならないだろう。それがサソリの偽りない本心だった。
忍の世の常だ。だと言うのに、他人の痛みを理解して何になるというのだ。自身の肉体
敵と遭えば敵を殺し、利用出来るなら騙し、必要とあらば仲間ですら裏切る。それが
?
?
!!
?
!!
!
863
﹂
だが、やはりそれは一面なのであり、全てではない。木ノ葉で傷つきながらも育ち、仲
誰か一人くらいお前を愛してくれる奴がよ
間と師に恵まれ、友を得たナルトはそう信じていた。
﹁お前にはいなかったのかよ
﹁⋮⋮﹂
!
戦場という命のやり取りをする特殊な環境でそんな思いに至る事を不思議に思いつ
に至って、何故かサソリはそう思った。
思えば、その存在がいなくなった事が自身が歪み出した原因かもしれない。この状況
思い出す。
そんな者はいなかった。いや、いた。サソリは自身に愛を注いでくれた確かな存在を
!
﹂
つ、これも目の前の少年が成せる力なのかもしれないとサソリは考える。
!?
﹂
!!
逃げる心算はサソリの中から消えていた。それを不思議と思いつつも、サソリは何故
﹁この、馬鹿野郎が
ば、オレを殺すんだな﹂
﹁赤秘儀・百機の操演。オレはこれで一国を落とした。⋮⋮もう遅いのさ。止めたけれ
んであった巻物を取り出し百体もの傀儡を口寄せする。
サソリは突如としてナルトを殴り、その勢いでナルトから離れた。そして背中に仕込
﹁ぐっ
NARUTO 第二十八話
864
865
か逃げるつもりにはならなかった。かつて失った何かが胸に宿った様な気がして、サソ
リはそれを自嘲する。
││生身の身体を捨てた時、オレは人の心も捨てたはずなのにな││
どうしてか目の前で素直に感情を表す少年を見ると捨てたはずの心が疼く気がした。
人の身体と共に心を捨てたはずのサソリにそう思わせる何かをナルトは持っている
のだ。自来也や綱手にアカネがナルトを実力以上に信頼しているのもそれと同じだろ
う。
己の全てを振り絞ったサソリとナルトの戦いは、然程の時間を要する事なく終わりを
告げた。
無数の傀儡に無数のカラクリを仕込もうとも、自来也とアカネの修行を受けて成長
し、妙木山にて仙人に至ったナルトには届かなかった。
サ ソ リ が 操 る 人 傀 儡 は 一 体 一 体 が 並 の 上 忍 に 匹 敵 す る 程 の 戦 力 を 持 つ。だ が 仙 人
モードのナルトも、仙人モードによる影分身も、人傀儡など歯牙にも掛けぬ程の戦力を
有していた。
襲い来る無数の傀儡を次々と破壊しながらナルトはサソリへと突き進み、そしてサソ
リの元へと到達する。
サソリは全ての力を出し切った。操れる全ての人傀儡を繰り出し、全てのカラクリを
披露し、掠り傷一つで勝ちを拾える毒を用い、己の本体とも言える生身のパーツを別の
人傀儡に移し見た目だけの人傀儡を囮にする戦法まで駆使した。
それら全てをナルトは突破した。百の人傀儡の攻撃を掠りもさせず、邪魔をする人傀
儡は破壊し、そして仙人モードによる感知力でサソリの本体を見極める。
そして、壊された傀儡を装い隠れていたサソリの生身であるチャクラを生み出すパー
ツを、ナルトは螺旋丸にて破壊した。
だ が 違 っ た。チ ャ ク ラ を 生 み 出 す 為 に ど う し て も 生 身 の パ ー ツ を 使 わ ざ る を 得 な
てたという事だ。
人の肉体を捨てた時にサソリは人形になりきったはずだった。それは人の心すら捨
だ。
だが今のサソリは痛みではなく、別の何かに感情を支配されていた。それは悔しさ
から。
当然だ。人傀儡となった時に、サソリは苦痛という物を失った、いや捨て去ったのだ
いない様に見えた。
サソリは口から血の様な液体を流しながら呟く。だがその表情は何の痛痒も感じて
﹁⋮⋮ちっ。やられたか⋮⋮﹂
NARUTO 第二十八話
866
かった様に、人の心もまた完全に捨て去る事は出来ていなかったのだ。
それがナルトとの戦いの中で蘇った。いや、ナルトがぶつけて来た熱く偽りのない生
の感情が、サソリの心の奥底に残っていた感情を呼び起こしたのだ。
ナルトには全てをぶつけたいとサソリは何故か思ったのだ。そして全力を尽し、負け
た。全力を出したから満足した等とサソリは思わない。むしろこんな子どもに負けた
事を悔しく思っていた。
こんなガキにやられるなんざな⋮⋮﹂
人が死ぬ事は悲しい。そう、ナルトは言っているのだ。
人形を破壊したのではない。人間を殺したのだ。憎くても、自分が殺した相手でも、
ねー﹂
﹁違う⋮⋮お前は敵だし、憎いとも思った。だけど⋮⋮お前は人間だ。人形なんかじゃ
だ⋮⋮﹂
﹁たかだか人形一つを破壊しただけだろうが⋮⋮。憎い敵が一つ壊れた。それだけの話
気になる程だ。
ない。敵に対して感情を顕わにするなど、木ノ葉の里ではどういう教育をしているのか
自分たちの仲間や里に破壊と死を撒き散らした憎き敵に対する表情とはとても思え
自分を倒したはずの男は、ナルトは悲しそうにサソリを見下ろしていた。
﹁⋮⋮何て顔をしてやがる
?
867
﹁⋮⋮木ノ葉には馬鹿が多いが、お前はとびっきりだな。こんな馬鹿は初めて見た⋮⋮
だからだろうな⋮⋮オレにも、馬鹿がうつったのは⋮⋮﹂
馬鹿が感染したせいで、逃げる事もせずに負ける戦いをしてしまった。そう納得した
サソリは、負けて悔しいと思えど、何故か逃げなかった事は後悔せず⋮⋮その生涯を終
えた。
﹁⋮⋮馬鹿野郎﹂
他は⋮⋮大分やられて
どこか満足そうに死んだサソリに最後にそう呟き、ナルトは気合を入れ直す。落ち込
んでいる状況ではないからだ。
アカネは⋮⋮くそ、冗談じゃねーってばよ﹂
!
断した。
は三代目達が戦っているペインと、アカネが戦っているマダラ以外には暁はいないと判
暁と思わしきチャクラや戦闘中のチャクラは殆ど感じ取る事が出来ないので、現状で
たのだ。
の途中から参戦したナルトは暁がどれだけの人数で攻め込んだのか知りようがなかっ
ナルトには理解出来ないが、喜ばしい事に暁の多くは既に打倒されている。この戦争
ナルトは仙人モードによる感知能力で木ノ葉の里周辺の状況を把握する。
?
!
るけど、勝ってんのか
﹁くそっ じっちゃんやカカシ先生達はまだ大丈夫か⋮⋮
NARUTO 第二十八話
868
869
そしてアカネに向けて感知を伸ばすと信じられない物をナルトは感じ取った。
それは化け物と化け物のぶつかりあいだ。仙人に至ったからこそより明確に理解出
来る。アカネとマダラ。この二人と自分の間にある隔絶とした差を。高みに至ったが
故に気付ける更なる高みを。
仙人モードの自身ですら勝ち目があるとは言えない。それほどまでの実力差を感じ
取り、今は木ノ葉の内部にある戦闘を終わらせる事に意識を向けるべきだと判断する。
ナルトは消耗した仙術チャクラを自然エネルギーを吸収する事で回復させる。
そして三代目達が戦っている場所へ赴こうとして││ナルトは木ノ葉の外れにて二
人の忍のチャクラを感じ取った。
その内の一人はナルトが誰よりも良く知る人物だ。同じ班の仲間にして好敵手にし
て友であるサスケ。そしてその兄であるイタチ。
そんな二人がいつもと比べるまでもなく分かるほどに弱々しいチャクラを発し││
そんな二人に近付く感じた事のないチャクラを見つける。
瞬間、ナルトは影分身を木ノ葉の各地に分散させ、本体である自身はサスケの元へと
駆け出した。
感じた事のないチャクラはサスケ達へと近付いている。仙人モードのナルトでなけ
れば気付けない程巧妙に気配を消して、だ。
仲間に対してそんな風に近付く必要はなく、つまりサスケ達に近付くこの存在は⋮⋮
敵だ
﹂
目は失明している。これでまともな戦闘が出来るわけもないだろう。
乎の反動で全身には強い痛みが断続的に続いている。その上イザナミの使用により左
イタチの右目からは血が流れている。これも天照を多用した結果だ。そして須佐能
うリスクが、短期で見ても全身に強い痛みを与えるリスクが存在するのだ。
きな瞳術でもある。使用に必要なチャクラは膨大であり、その上長期で見れば失明とい
万華鏡写輪眼は非常に強力な瞳術であり、それと同時に肉体に掛かる負担が非常に大
用とイザナミの使用。これらはイタチに多大なダメージを与える結果となった。
特にイタチの消耗はかなりのものだった。万華鏡写輪眼である天照と須佐能乎の多
大蛇丸との激闘を制したサスケとイタチは予想以上に消耗していた。
◆
遅かった。
サスケに忍び寄る魔の手を払うべくナルトは全力で駆ける。だがそれは││僅かに
!!
!
﹁サスケェ
NARUTO 第二十八話
870
871
サスケもイタチ程ではないが大きく消耗している。幾度となく強力な忍術を連発し
た事でチャクラは大きく減少し、仙人モードの大蛇丸の攻撃を喰らった事で大きなダ
メージも受けている。
今のサスケの戦闘力は通常時の二割から三割といったところだろう。そこらの雑魚
ならともかく、暁ほどの敵となると足手まといになりかねない消耗具合だ。
なので二人が医療施設を目指しているのは間違った判断ではなく││二人が敵の気
配に気付かなかったのも仕方ない事である。それほど巧妙に敵は気配を消しており、そ
れ以上に二人は消耗しているのだから。
二人の前に突如として現れたのは奇妙な形をした虫とも蜘蛛とも言える見た目の何
かだ。それが無数に二人へと飛び掛ろうとしていた。
それを確認した瞬間、サスケはイタチを突き飛ばした。今のイタチはまともに動く事
も難しい程に疲弊しているのだ。ここまで歩くのにサスケの肩を借りねばならなかっ
た程にだ。
自分が兄を守る。そう決意していたサスケは庇う様にイタチの前に立ち、全身を雷遁
チャクラにて強化して敵の攻撃に備え││そして無数の何かは﹁渇っ ﹂という言葉と
共に爆発した。
まさか爆発するとは思ってもいなかったサスケはその衝撃に耐えようと両手で顔を
!
覆う事しか出来なかった。
だがすぐに気付く。あれだけの爆発の割には痛みがない事に。衝撃も殆どなく、身体
は爆発に吹き飛ばされる事無くその場に立っている。敵の攻撃が予想以上に弱かった
のか。
そう怪訝に思うサスケが爆発による土煙が晴れた後に目にした光景は││うちは一
﹂
族が誇る写輪眼を疑いたくなるような光景だった。
﹁⋮⋮にい、さん
おかしい。何だこれは
幻術なのか
?
に気が付く。それがイタチの身体から伸びている事にも。
目の前の光景が理解出来ず混乱するサスケは、やがて自身の周囲を覆うチャクラの鎧
?
自分が兄の前に立ったのに、自分が爆発でやられていないのに、兄が倒れているのは
程の爆発だったのか。だがそこまでの衝撃を自分は受けていない。
だが何故全身から血を流しているのか。それ程強く突き飛ばした覚えはない。それ
したのだから倒れているのか、それなら仕方ない。
隣に立っているはずの兄がいない。いや、いた、大地に倒れていた。自分が突き飛ば
?
それは須佐能乎の鎧だ。
﹁あ、ああ⋮⋮﹂
NARUTO 第二十八話
872
﹁にい⋮⋮さん⋮⋮
﹂
﹂
の爆発による衝撃をまともに受けたのだ。
サスケに須佐能乎の鎧を分け与えたからこそ、自分の守りが疎かとなり、イタチはあ
﹁嘘だ⋮⋮﹂
ジを受けなかったのだ。
須佐能乎の鎧で守られたからこそ、あれだけの爆発の中でもサスケは然したるダメー
?
この時点でデイダラには二つの選択肢があった。一つは大蛇丸に協力して木ノ葉の
けたのは同胞である大蛇丸と戦うサスケとイタチだ。
それが気になったデイダラはその外れに近付きつつ遠目から確認した。そして見つ
空から眺めている内に、木ノ葉の外れにて大きな爆炎が舞ったのをその目で見たのだ。
デイダラは木ノ葉にて空を飛びつつ起爆粘土をばら撒き好き放題暴れていた。だが
す。それは暁の一員にして芸術家を自称する起爆粘土の使い手、デイダラだ。
サスケの慟哭など気にも止めず、二人に奇襲を仕掛けた張本人は草むらから姿を現
﹁ちっ。まとめて一発ってわけにはいかねーか、うん﹂
る類の術ではないのだ。
そして、サスケを覆っていた須佐能乎が消えた。当然だ。術者が力尽きても効果が残
﹁嘘だあああああぁっ
!!
873
忍を倒すこと。傍目から見ても強敵だと分かるサスケとイタチだ。こちらも協力して
戦うのが最も良い戦術だろう。
だがデイダラはもう一つの選択肢を選んだ。それは、どちらかが勝利するまで身を隠
し、勝利した方を不意打ちにて殺すという選択肢だ。
仲間であるはずの大蛇丸だが、デイダラは大蛇丸の事を嫌っていた。同胞でなければ
自分が殺したいと思うほどにだ。今までは同じ暁の一員という建前があった為それは
不可能だったが、木ノ葉との戦争中のドサクサに紛れて暗殺すれば何の問題もないだろ
う。
他の仲間から怪しまれようとも、木ノ葉の連中に殺された事にすればそれ以上疑われ
る事もない。デイダラはそう思っていたし、実際そうなる可能性は高いと言えた。
そして蓋を開ければ勝利したのは木ノ葉の忍だ。大蛇丸をだらしないと思いつつも、
死んではいないようなので止めを刺す楽しみはある上に、生き残った二人の厄介な強者
も倒す事が出来る。まさに一石二鳥だ。
まともに戦えそうもない程に弱った二人を殺す事など容易い事だ。だが得体の知れ
ない力を使う敵を警戒し、デイダラは起爆粘土による奇襲を試み⋮⋮今に至る。
所に送ってやるぜ﹂
﹁まあいい。生き残った奴ももうボロボロだしな。うん。今すぐ大好きなお兄ちゃんの
NARUTO 第二十八話
874
生き延びはしたが、今のサスケが自分相手に勝てるわけもないと踏んだデイダラは
悠々と語りつつ起爆粘土を用意する。
木ノ葉を攻め落とす為に起爆粘土に必要な粘土は大量に用意してある。袋に入れて
ある粘土を掌の口に食わせる事で自身のチャクラを混ぜ込み起爆粘土へと変化させ、そ
れを独自の感性に基づき造形していく。
これでデイダラ曰く芸術作品の完成だ。いや、これは完成への序章だ。後はこれをサ
地獄でそれを広めるんだな
うん
﹂
スケにぶつけ爆発させるだけ。それでデイダラの芸術は真の完成に至る。
﹁芸術は爆発だ
!
!
?
││
││なんだこれは
どうして 決まっている。
?
決まっている。オレが弱かったからだ。兄さんを守れな
?
いくらい、逆に兄さんに守られる程に弱かったからだ。
どうしてオレを庇った
どうして兄さんが倒れている
なんでこうなった
?
オレを庇ったからだ。
?
ほどに、ただの耳障りな音としか認識出来ない程に、サスケは昂ぶっていた。
それ程今のサスケの感情は高まっていた。デイダラの声が言葉として認識出来ない
という話ではない。真実デイダラの言葉が聞き取れなかったのだ。
サスケにはデイダラが何を言ってるのか理解出来なかった。それは芸術がどうたら
!
875
兄さんが須佐能乎で自分を守れなかったのは何故だ
いや、オレを庇った理由は何だ
決まっている。オレと兄さ
決まっている。オレを庇う必要があったからだ。
ば、オレが余計な事をしなければ何の問題もなかったはずだ。
なったからだ。オレが兄さんを突き飛ばさなければ、オレと兄さんが離れていなけれ
んの距離が離れすぎていたからだ。オレを須佐能乎で守った事で、自分の守りが薄く
?
肉体を盾としてミサイルを受けた為に起こった爆発だ。
オビトの目の前で凄まじい爆発が起こった。それは、オビトを庇う為にリンが自らの
◆
て最高潮へと達した。その瞬間││
オレが突き飛ばしたから敵が攻撃をして来たから││サスケの感情は昂ぶり続けやが
どうしてどうしてどうしてどうしてどうして││オレが弱かったから敵がいたから
オレを、オレ達を攻撃した奴がいるからだ。
?
リンーーッ
﹂
その爆風は直撃していないオビトにも向かい、オビトはその衝撃で吹き飛ばされた。
!
!!
だがオビトはそんな衝撃など気にも止めず、全身の痛みなどなかったかの如くにただ
﹁リン
NARUTO 第二十八話
876
ただ叫ぶ。叫び、リンの安否を確認する。
そ ん な は ず な い。リ ン が 死 ぬ は ず な い。き っ と 生 き て る。い や そ ん な 訳 な い。あ の
威力が直撃して生きているわけがない。そんな事はない、リンが死ぬ訳ない、だから生
きている。
リンが生きていると根拠もなく叫ぶ自分と、そんな訳ないと冷静に現実を見る自分。
相反する二つの意思がオビトを支配する。
分かっているのだ。忍として高い実力と判断力を持つオビトは現実を直視出来る冷
静さを持っている。今の攻撃でリンが生きている可能性は限りなく零に近いのだと理
解しているのだ。
だがそれを認めたくないオビトがいるのも確かだった。リンはオビトにとって何よ
りも大切な人だ。幼い頃から思いを募らせ、今に至るまで慕い続けてきた最愛の人なの
だ。
死んでいるわけがない。きっと生きている。少しでも生きていれば、医療忍術できっ
﹂
と癒せる。そう、信じている。信じたかった。
オビト
!
だ。
カカシもまた二人の安否を気遣っていた。カカシにとってこの二人は最も親しい友
﹁リン
!
877
NARUTO 第二十八話
878
幼い頃のトラウマから、カカシは忍に必要なのは掟を守る事であり、感情を優先して
行動する事は忍として最も愚かな事だと思っていた。
だがそれはオビトによって間違いだと気付かされた。確かに掟は重要であり、この世
界で必要だ。それを守る事が出来ない忍はクズ扱いされる。
だが仲間を大切にしない奴はそれ以上のクズだ。カカシはオビトからそう教わった
のだ。忍としてはオビトは間違っているだろう。だが人間としてオビトはカカシより
も遥かに上だった。少なくともカカシはそう思っている。
オビトのこの言葉を、この思いを、カカシは自分の生徒へと伝えている。伝えようと
するあまりカカシが担当した下忍はナルト達第七班以外がアカデミーに戻されている
が、それでもカカシはこの思いを伝える事を止めようとはしないだろう。
かつてクズだった自分を慕ってくれたリンと、クズだった自分を正してくれたオビ
ト。掛け替えのない二人の親友。その命が危ぶまれようとしているのだ。カカシが冷
静なままでいられる訳もなかった。
やがてカカシはオビトの姿を見つけた。今もリンを探して叫び続けているオビトを
見つけるのは容易かったようだ。
だがリンの姿はどこにもない。リンからの返事も一切がない。カカシもオビトも、心
を潰さんばかりの絶望と、僅かな希望を胸に抱いてリンを探し続ける。
そして二人はすぐにリンを見つけた。爆風によって吹き飛ばされたのか、リンはオビ
トよりも後方にて倒れていた。リンはミサイルの直撃を受けてもどこも欠損をしてい
なかった。あの威力のミサイルが直撃したにしては奇跡とも言えるだろう。⋮⋮その
﹄
全身から止め処なく血を流していなければ、だったが。
◆
の感情は振り切れた。その瞬間││
が、そう告げていた。そしてその現実を受け止めた時⋮⋮受け止めてしまった時、二人
何よりも信じたくないその現実を、心の中でどこまでも冷静であろうとする忍の部分
││ああ、リンは助からない││
数多く見てきた。それとリンが重なって見えた。つまりもう││
それは戦場で、助ける術もなく死にゆく者達。敵と味方の区別もなく、死にゆく者達を
二人は今までにも幾度となく今のリンと似た状態の者達を見てきた事がある。そう、
感じ取れず、流れる血は命がそのままに流れ落ちていくかの様に見えた。
眼でも死んでいるとしか判断出来ない有様だ。傷ついた肉体からは欠片もチャクラは
二人の声にピクリとも反応しないリンを見つめて、オビトとカカシは絶望する。写輪
﹃リン⋮⋮
!
879
NARUTO 第二十八話
880
その瞬間││サスケの両目が、オビトの右目が、カカシの左目が、万華鏡写輪眼となっ
た。
どの様な偶然か。この日この時、同じタイミングで、三人の忍が万華鏡写輪眼に目覚
めた。
NARUTO 第二十九話
兄が死んで呆けているサスケに向けて、デイダラは新たな起爆粘土を放つ。呆けてい
る。少なくともデイダラはそう思っていたし、この一撃で終わりだとも思っていた。
サスケが先の奇襲で生き延びたのはイタチの助けがあったからだ。それが無くなっ
た今、サスケに起爆粘土を防ぐ術はないだろう。まともに命中すれば必ず死ぬ。それは
﹂
間違いではないだろうし、そしてサスケがデイダラの起爆粘土を避ける事はなかった。
﹁喝っ
﹂
!!
来たし、オイラはついてるな。うん﹂
﹁おいおい。最終目標がわざわざ目の前まで来てくれるとはな。邪魔者も一気に始末出
間に合わなかったようだ。
つけた。だがナルトがサソリと対峙していた位置から木ノ葉の外れまでは遠く、僅かに
仙人モードの感知力でサスケに迫る危機を察知したナルトは全速力でここまで駆け
﹁サスケェェ
に新たな存在がやって来た。
言葉と共に爆音が響き渡る。デイダラ曰く芸術作品の完成だ。それと同時に、この場
!!
881
﹁サスケ⋮⋮
イタチ兄ちゃんまで⋮⋮
てめぇよくも
!
﹂
!!
力で殴りつけてやろうとして││
これで怒りを顕わにしないナルトではない。目の前でヘラヘラと笑っている敵を全
ず倒れている。そして今またサスケまでも。
自分にも兄がいれば。イタチを見てそう思った事すらあった。そんなイタチが物言わ
弟の友達になってくれてありがとう。イタチにそう言われた事をナルトは思い出す。
ても優しく接してくれた存在だった。
よる兄の自慢を聞いた事があるナルトからしてもイタチは良い兄であり、ナルトに対し
サスケと長い付き合いであるナルトは当然イタチとも知り合いであった。サスケに
!
﹄
﹁ナルト⋮⋮下がってろ﹂
!?
る
どうやって防いだ
?
能乎のチャクラで覆っているサスケの姿だった。
は⋮⋮写輪眼とは異なる紋様を怒りと共に浮かべた瞳をデイダラに向け、その身を須佐
疑問は募るが、その答えはすぐに理解できた。爆発による煙が晴れたそこにあったの
?
これに驚愕したのはナルトだけでなくデイダラもだ。あの爆発でどうして生きてい
サスケの言葉で、その行動を停止した。
﹃
NARUTO 第二十九話
882
﹁さ、サスケ
﹂
尊敬する兄を失ったサスケの怒りはどれ程の物か。
当然だろう。ナルトですらイタチの死にここまで怒ったのだ。仲の良い兄弟であり
む。そしてサスケの怒りの深さに納得する。
サスケの無事を喜ぶナルトだが、同時に彼が抱く怒気に気付き無意識の内に唾を飲
!
かは二人とも理解している。
死んだ人間を守ってほしい。それがどれだけ感傷的で、どれだけ戦場で無意味な行動
﹁⋮⋮分かった﹂
⋮⋮﹂
﹁お 前 は 兄 さ ん を ⋮⋮ 兄 さ ん を 守 っ て や っ て く れ。も う こ れ 以 上、傷 つ か な い よ う に
るペインに対して抱いたのだから。
師である自来也が死んだと、殺されたと聞いた時、今のサスケと同じ気持ちを仇であ
ルトにはあった。
だったらどうしていただろうか。きっとサスケと同じ事をしただろうという自覚がナ
そんなボロボロの体で何を、等とはナルトには言えなかった。自分がサスケの立場
﹁⋮⋮﹂
﹁こいつはオレがやる⋮⋮邪魔をするな⋮⋮﹂
883
だが、それでもそうしてほしいとサスケは願い、ナルトはそれに応えた。二人の立場
どれだけ強くてもやっぱガ⋮⋮キ⋮⋮﹂
が違っていれば同じ事をナルトは願い、そしてサスケは応えていただろう。
!
?
須佐能乎には幾つかの段階がある。第一段階は巨大の骸骨の様な形となって術者を
遂げていた。
ころではない。サスケの怒りはデイダラという明確な敵を目の前にして更なる成長を
更に須佐能乎も開眼したてだというのにこうして自在に発動していた。いや、それど
に宿っているのは天照。そして右目にはそれを自在に操る加具土命。
開眼したばかりだというのに何故かサスケは自身の新たな力を把握していた。左目
ていた。先の起爆粘土を防いだのも開眼したばかりのサスケの須佐能乎だ。
両目の万華鏡写輪眼を開眼した事によりサスケは須佐能乎を開眼する条件も満たし
敵への憎しみ。その全てがサスケに万華鏡写輪眼を開眼させる切っ掛けとなった。
兄が死んだ悲しみと、そうさせた原因である自身の弱さの後悔と、そして兄を殺した
させて殺意を放つサスケに。
魅入ってしまったからだ。デイダラの言葉を聞いて、憎き敵の存在のみに意識を集中
後まで発する事が出来なかった。
サスケの感傷を子ども故の物だと馬鹿にしようとするデイダラ。だがその言葉は最
﹁⋮⋮はっ、ははは 死体を守ってほしい
NARUTO 第二十九話
884
覆いその身を守る鎧となる。これは須佐能乎を開眼したばかりの術者に共通する形だ。
そして第二段階。ここから術者によって様々な形に変化していく。イタチの場合は
天狗の様な顔に三種の神器を装備した形で現れた。そしてサスケの須佐能乎もまたこ
の第二段階へと変化していく。
サスケの溢れんばかりの殺意に須佐能乎が応えているのだ。巨大な骸骨は更にチャ
クラを纏っていき、陣羽織を羽織った武者の様な姿へと変化した。
万華鏡に変化した瞳に殺意を乗せ、破壊の権化である須佐能乎を纏うサスケ。それは
神や仏を殺そうとする悪魔や修羅の様にも見えて、デイダラはそこに自分とは違う芸術
を見出した。
││これは、芸術だ││
サスケが作り出した生きた芸術。それに魅入られたデイダラは、サスケが放った攻撃
﹂
に対して僅かに反応が遅れてしまった。それが全ての明暗を分ける結果となった。
﹁はっ
避するには仙人モードに匹敵する程の感知力や反射神経を持たなければ不可能だろう。
その矢の速度は放たれてから避けるのは遅すぎると言える程に速かった。これを回
おり、右手から作り出したチャクラの矢を弓にて高速で撃ち出したのだ。
デイダラがそれに気付いた時には遅かった。サスケの須佐能乎は左腕に弓を携えて
!?
885
そのどちらもデイダラは有していなかったし、そもそも反応するのが遅すぎた。
まさに呆気ない幕切れと言えよう。その一撃で、イタチを死に追いやった張本人であ
るデイダラは死亡した。
最大の破壊力を持つC3や、切り札であるC4など使う暇もなく、その胴体を巨大な
矢で貫かれて即死したのだ。苦しむ暇がなかったのはデイダラにとって幸いと言えよ
う。
いや、自身とは違う形の芸術の美しさを見せ付けられ、それを否定する事も出来ずに
死んでいったのはデイダラとしては不幸だったのかもしれないが⋮⋮。
だが不幸なのはデイダラではなくサスケなのかもしれない。仇を打った。それもい
さいな
とも容易くだ。そこに至る達成感も苦労も何も感じないほどに容易くにだ。
それが逆にサスケを苛めた。こんな奴に、こんな呆気なく殺せる奴に兄さんは殺され
たのか。こんな奴を相手に守られなければならない程自分は弱かったのか。
いっそ死闘の末に倒す事が出来た方がサスケにとっては良かったのだろう。それが
お前が お前なんかが 兄さんを
!
!
おお、おお
自 分 を 慰 め る 言 い 訳 に も 使 え た の だ か ら。こ れ ほ ど の 敵 だ っ た な ら ば 仕 方 な か っ た、
﹂
!!
!
!
と。
おおお
﹁ふざけるな⋮⋮ふざけるな
NARUTO 第二十九話
886
サスケは怒りのあまりにデイダラの遺体を須佐能乎で掴み、そのまま大地に幾度も幾
度も叩き付ける。
地面に叩き付けられ続け、いや須佐能乎の力で握り潰された事でデイダラの遺体はと
うに細切れと化した。それでもサスケは止めなかった。いくら死体に当たっても、大地
もう、やめろ⋮⋮
﹂
を削っても、サスケの心が晴れる事はなかった。
﹁もう止めろサスケ
﹂
!
﹂ !
どれ程サスケが力を振り絞ろうとも既に限界なのだ。感情が爆発した為と、万華鏡に
﹁ぐ、ぅ⋮⋮﹂
た。
サスケは殺意高らかに叫びつつペインの元を目指そうとし、そしてその場で膝を付い
﹁殺してやる⋮⋮暁は、どいつもこいつも皆殺しだ
ノ葉を滅茶苦茶にした元凶だ。あれが攻め込んできたからイタチは死んだのだ。
サスケがその類稀なる力を持つ瞳にて見たのは、宙に浮かぶペインの姿だ。あれが木
標を見つける。
トの言葉は何故かサスケに届いていた。それを不思議と思う事もなく、サスケは次の目
ナルトの言葉を耳にしてようやくサスケは動きを止めた。この状況にあってもナル
﹁はぁ、はぁ
!
!
887
開眼したが故に一時的にサスケは消耗を無視して戦えた。だがそれも一時の誤魔化し
に過ぎない。
むしろ無茶をした反動によりサスケの消耗は限界に達しようとしている。そればか
りか須佐能乎の使用にその急激な成長だ。元々リスクの高いその力は確実にサスケの
﹂
肉体を蝕んでいた。
﹁ゴホッ
﹂
!
いてサスケは前に進もうとする。
邪魔するなら⋮⋮お前も⋮⋮
!
籠めて、サスケはナルトを睨む。
﹂
?
だが││
﹁な││ぐぁっ
!?
﹂
その復讐の邪魔をするなら例え親しい友といえど容赦はしない。それだけの意思を
なってもいい。悪魔に売り渡してもいいと言えただろう。
今のサスケにあるのは復讐。それだけであった。それさえ叶うなら自分の身がどう
﹁邪魔を、するな
﹂
突如として吐血したサスケを心配してナルトが近付く。だがそんなナルトの手を弾
﹁サスケ
!? !
﹁邪魔すんなら、どうだってんだ
NARUTO 第二十九話
888
﹂
ナ ル ト が サ ス ケ を 殴 る。突 然 の そ の 行 動 に サ ス ケ は 反 応 す ら 出 来 ず に 吹 き 飛 ん で
行った。
﹁て、めえ⋮⋮何しやがる⋮⋮
が
ペインを相手にどうしようってんだ
﹂
!
?
!
!
イタチの イタ
!
命を懸けて守ってくれたお前
!
ケを怒鳴り続けた。
それを、イタチ兄ちゃんが
今生きてんのは誰のおかげだ 誰が守ってくれた
チの兄ちゃんだろうが
﹁お前が
無駄に散らすのがお前のする事なのかよ
の命を
﹂
!
!!
イタチの死による悲しみではない。いや、泣きたいと思うほど悲しかったのだがこの涙
ナルトは泣いていた。サスケを殴りつつ、怒鳴りつつ、ナルトは泣いていた。それは
﹂
﹁││
!
!
!
!
!
サスケを怒鳴りつつ、ナルトはサスケの言葉を遮って更に殴った。殴りながら、サス
!
!
して││がぁっ
﹂
﹁決まってる 殺してやるのさ イタチをあんな目に合わせた奴の仲間なんざ皆殺
!
﹁何しやがるだって お前こそ何しようと思ってた あんな攻撃も避けられねぇ奴
ナルトは意に介せず、逆にサスケを怒鳴りつけた。
ナルトの突然の行動にサスケは更に怒気を籠めて睨み付けた。だがそんな怒気など
!
889
はそうではない。
悔しかったのだ。自分の友が、怒りに全てを忘れて闇に進もうとしている様を見た事
が。イタチの死に怒るあまり、どうしてイタチがその身を挺してまでサスケを守ったの
それを
﹂
お前に生きていてほしかったからだろうが
!
サスケはナルトを見ながら怒りを忘れて少し前の過去を思い起こしていた。
﹁⋮⋮貸しだ﹂
﹂
!
そう言ってサスケは自分の服を掴んでいたナルトの手をそっと外し、そしてゆっくり
﹁これは⋮⋮貸しだ。全てが終われば、殴り返してやる⋮⋮﹂
解出来ずにナルトは呆けた声で聞き返した。
殴るのを止めて自身を睨んでいたナルトに対してサスケはそう呟く。その意味が理
﹁え
?
﹂
ナルトの様に怒りと悲しみを混ぜ合わせたかの様な顔をしていたのだろうか、と。
あの時、自来也の死を知った後の不甲斐なさを見てナルトを殴っていた自分も、今の
!
かを理解していないサスケを見た事が。悔しかったのだ。
それを
﹁イタチ兄ちゃんがお前を助けたのは
!
││ああ、オレもこんな顔だったのかもな││
!
﹁はぁ、はぁ⋮⋮
NARUTO 第二十九話
890
とイタチの元へと戻って行く。
その行動をジッと見ていたナルトに向けてサスケは僅かに振り向いて言葉を放った。
﹂
?
とっとと終わらせて来るってばよ
!
!
味だと理解したナルトは嬉々として返事を返す。
ああ
!
﹁お前は││﹂
いや、応えた者がいた。それは││
﹁良く耐えましたね、サスケ﹂
その言葉に応えてくれる者は誰もいなかった。
﹁これで良かったのか⋮⋮兄さん⋮⋮﹂
されたのはサスケと、物言わぬイタチのみだ。
そしてナルトは宣言通り早く全てを終わらせる為にペインの元へと駆ける。後に残
トには嬉しかった。
しみは無くなった訳ではないだろうが、それでもいつものサスケが戻って来た事がナル
振り向いたサスケの瞳は先ほどまでとは違い冷静さを取り戻していた。悲しみや憎
﹁っ
﹂
これからペインと戦うから今は殴るのは勘弁してやる。先ほどの言葉がそういう意
の仇を取るんだろう
﹁何してやがる⋮⋮さっさとペインを止めてこいウスラトンカチが⋮⋮お前が、自来也
891
◆
万華鏡写輪眼を開眼したオビトとカカシ。二人は新たな力に戸惑う事無く、まるで予
それが痛みだ。その痛みを世界中が知って初
め知っていたかの様にその力の使い方を理解していた。
﹁⋮⋮親しい者を殺したオレが憎いか
していた。
ペインの言葉など今の二人には戯言にしか聞こえず、ただただやるべき事のみに集中
めて世界は平和の道を歩み始めるのだ﹂
?
﹂
やるべき事。すなわち⋮⋮リンを殺した敵を殺す事だ。
!
そして、まさにその言葉通りとなった。カカシの視線の先にあった修羅道のいる空間
ていた。まるで視線のみで敵を殺せるとばかりに。
対してカカシはその場から動かずにペインを、それもリンを殺した修羅道を睨み付け
け寄っていく。
みなど凌駕していた。そんな傷などなかったかの如くにペインに向かってオビトは駆
叫びと共にオビトは駆け出した。鉄材が突き刺さっていた右足だが、今のオビトは痛
﹁おおおおお
NARUTO 第二十九話
892
が突如として歪み出したのだ。
﹂
﹁これは⋮⋮
﹂
と下半身の一部が大地に転がった。
まう。その結果、修羅道の胴体部分は神威空間に飛ばされ、この世界に残された上半身
神威の効果を理解し切る前に、修羅道は回避もままならずにまともに神威を受けてし
る。それがカカシの神威であった。
・・・
攻撃に利用すれば回避は可能だが防御不能という圧倒的殺傷力を持つ術へと変化す
に対して耐えるという防御法は通用しない。
しようとしているのだ。空間を歪めて任意の空間のみを神威空間に移動させるこの術
カカシは今、修羅道の胴体部分のみを別空間││神威空間とも言われる││へと転送
で攻撃用の忍術として扱う事も出来る。
う能力を有している。その本質は言うなれば時空間移動の能力だが、それを応用する事
神威と名付けられるこの瞳術は術者の視界の任意の範囲内を別空間に転送するとい
左目の万華鏡写輪眼。その力は時空間忍術の類である。
空間を歪める程の力の先にあるのがカカシの左目だとペインは気付いた。カカシの
﹁なに
!?
カカシの瞳力の凄まじさに驚愕するペイン。だがすぐに新たな脅威が間近に迫って
!
893
いた。
﹁おおおおおっ
﹂
としてオビトに向けて頭部からレーザーを放ったのだ。
上半身の一部となった修羅道だがまだ完全に破壊されたわけではなく、最期の足掻き
修羅道に最期の仕事をさせる事で対処しようとする。
凄まじい殺気を隠す事もなくペインに迫るオビト。そんなオビトに対してペインは
!!
﹂
そしてそのレーザーはオビトに確実に命中しその体を貫き││
﹂
﹁おおおおおお
!?
!!
るというまさに絶対回避の能力だ。
時空間に転送し接触を回避する事が出来る。しかも意識せずとも発動させる事が出来
そしてオビトの神威の能力、それは敵の攻撃や物体に接触する瞬間に被弾する部位を
のだ。カカシがそれを有しているのはオビトの写輪眼を譲り受けたからに過ぎない。
人の、つまりはオビトの写輪眼だった事に起因する。この二つの神威は元は一つだった
そう、オビトの万華鏡もまた神威という名称だった。それは二人の写輪眼が元々は一
た万華鏡写輪眼の力、オビトの神威である。
・・・
貫き、だがオビトにダメージを与えるには至らなかった。これがオビトの右目に宿っ
﹁なっ
NARUTO 第二十九話
894
895
他者を転送するカカシの神威と対を成す、自身を転送させる神威である。 最強の矛
であるカカシの神威と最強の盾であるオビトの神威。二つの神威がペインに牙を剥く。
修羅道のレーザーを神威にて回避したオビトはその勢いのままに修羅道に向かう。
そして螺旋丸を作り出し、死に損なっている修羅道に向けて叩きつけた。これで完全
に修羅道は破壊された。地獄道が復活させない限り行動は不可能だろう。
オビトは修羅道を破壊してすぐに標的を残るペインに向ける。こいつらがリンを殺
した。愛する女性を殺したのだ。ならばこの怒りをぶつけずしてどうするというのか。
次に狙いを定めたのは地獄道だ。地獄道がいる限り敵は延々と復活し続ける。怒り
に身を任せても忍として冷静な部分が効率的な動きをオビトにさせていた。
当然それを阻止しようとペインは残る六道にてオビトを攻撃し続ける。人間道と餓
鬼道は黒い棒にてオビトを突き刺し、畜生道は新たに口寄せした動物でオビトを叩き潰
す。
だがそのどれもがオビトにダメージを与える事はなく、全てをすり抜けてオビトは地
獄道へと迫り、そして螺旋丸を叩きつけようとする。
それを天道は神羅天征を地獄道に放つ事で防いだ。地獄道は神羅天征の威力で吹き
飛ばされるが、螺旋丸が直撃するよりはマシだろう。
そして天道の予想通り神羅天征でもオビトはびくともしていなかった。まるで攻撃
の全てがすり抜けるように全ての攻撃が無効化される。
いや、神羅天征を無効化した時は他とは違う現象が起きていた。オビトの肉体が完全
にこの空間から消えていたのだ。オビトの体に神羅天征の斥力が触れた瞬間、オビトの
体が消えるのを天道はその輪廻眼にて確実に見ていたのだ。
斥力という全身に触れる攻撃を受けたが故にオビトの全身が神威空間に飛ばされた
のだ。一部ならすり抜けるように見えるが、全身ともなるとそうは行かない。これによ
りペインはオビトの能力の一端を見抜いた。
││何らかの時空間忍術による回避。厄介だな││
﹂
天道が神威に関して大まかに予測するが、それどころではない事態が天道を襲う。
くっ
!
!
なったが。
から離れた。代わりに口寄せ動物はカカシの神威によって引き千切られ消滅する事と
そうして天道は畜生道が口寄せした動物を自身に体当たりさせる事で強引にその場
訳にはいかないのだから。
なので必死になってその場から離れようとする。この肉体は特別な物。簡単に失う
ているかも最早言わずとも天道は理解していた。
天道の周囲の空間が歪んでいるのだ。これが何の能力なのかも、どういう効果を持っ
﹁これは
NARUTO 第二十九話
896
││あの二人、厄介過ぎる││
一人一人でも警戒に値する敵だが、二人揃って戦えば面倒極まりない存在だ。
ペイン六道もかくやと言わんばかりのコンビネーションに、この強力な瞳術だ。疲弊
している今仕留めなければ後に厄介な敵となるだろう。
なのでペインは温存する事を捨てて、全ての力を解放して敵を滅する事を選んだ。
天道は畜生道を神羅天征にて木ノ葉の外まで吹き飛ばす。そしてすぐに畜生道に自
分以外のペインを口寄せさせた。
もう少しで地獄道を破壊出来る寸前まで追い詰めていたオビトは目の前で消えた地
獄道に歯噛みするが、すぐに狙いを天道に変えて駆けつける。
﹂
そんなオビトを嘲笑うかの如く、天道は空へと昇っていく。斥力の力を応用して宙に
浮いているのだろう。
ぐぅっ
!?
それだけではない。どれだけアカネの訓練で写輪眼に体が慣れようとも、万華鏡とも
になる代わりに、オビトの神威よりも消耗が激しいのだ。
強大な力にはそれに伴うデメリットも存在する。カカシの神威は強力無比な攻撃術
りカカシは膝から崩れ落ちてしまう。
カカシは天道に対して再び神威の照準を当てる。だが強力すぎる万華鏡の反動によ
﹁お前だけでも逃がすか⋮⋮
!
897
なると話は別だ。うちは一族ではない上に消耗し切っている体でこれ以上の神威の使
用は命に関わる危険すらあった。
﹂
ペインにもその代償は理解出来る。彼もまた大きな代償を払いこの力を振るってい
﹁それだけの力だ。代償はあったか﹂
てめぇは絶対に逃がさねぇ
るのだから。
﹁待て
!!
く。そんなオビトやカカシを見やりながらペインは呟く。
そんな状況でまともに飛べる訳もなく、オビトはペインに届かずに大地へと落ちてい
無視していても右足が傷ついている事に変わりはないのだ。
宙に浮かんでいくペインに向かってオビトが跳躍する。だが、やはりどれだけ痛みを
!
オレは
リンの仇も取れないのかよ⋮⋮
﹂
!
してはいなかった。
﹁くそ、くそぉっ
﹁オビト⋮⋮﹂
!
オビトの絞り出す様な叫びにカカシも何も言う事は出来なかった。カカシもまた己
!
にかなる距離ではないだろう。今のペインをどうにかする方法をカカシもオビトも有
その言葉を最後にペインは一気に空高くへと飛び上がって行く。最早跳躍してどう
﹁まだ理解出来ないならば教えてやる⋮⋮これが、神の力だ﹂
NARUTO 第二十九話
898
の無力さを噛み締めているのだ。
何の為にあれだけの修行をこなしてきたのか。こうならない為だったのに、結果は無
様な物だった。助けたい人を助けられず、倒したい敵を倒す事も出来ない。無力な自分
﹂
という現実しかこの場には残っていない。
カツユ様
リンは、リンは助かるんですか
﹂
!?
があった。
﹁っ
!
こうしてリンに張り付いているならば、まだ可能性は残っているのではないかと希望
は綱手の力を受けて遠隔で医療忍術による回復を施す事が出来る。
リンに張り付いているカツユを見てオビトとカカシは僅かな希望を抱いた。カツユ
!
ヒルゼンのその言葉に二人が振り向くと、そこにはリンに張り付いているカツユの姿
じゃろう﹂
﹁こ ち ら に 来 い。綱 手 が 里 の 忍 全 て に カ ツ ユ を 寄 越 し て く れ た。こ れ で 回 復 が 出 来 る
になったオビトとカカシをこのままにしておくわけにも行かないだろう。
いつまたペインが襲来してくるかも分からない今、木ノ葉の最大の戦力とも言える程
でもないが、今はそれどころではないのだ。
己への無力感に絶望している二人にヒルゼンが声を掛ける。二人の想いは分からん
﹁二人とも、こっちに来るのじゃ⋮⋮
!
899
を抱いてしまったのだ。
﹁⋮⋮お二人とも、早く私の分身を連れて下さい﹂
だが、カツユから返って来た言葉は二人が望んだ言葉ではなかった。下手な希望は持
たせたくないとばかりに告げられたその言葉は、僅かとはいえ希望を抱いた二人を更な
る絶望に落とすには十分過ぎる程だった。
カツユは黙り込む二人に声を掛ける事はなく、そのまま黙って二人に自身の分身を貼
り付けた。これで傷ついた二人も多少は回復していくだろう。
そしてそんな地上の出来事など些事とばかりに天高く浮かび上がった天道は、その恐
るべき力の全てを解放する。
アカネが僅かでも動きを止めると完成体須佐能乎の一撃は木ノ葉の里を襲うだろう。
アカネとマダラの戦いは一瞬たりとも止まる事無く続いていた。
◆
制限していた力の全てを解放し、神羅天征が木ノ葉の里の全てに向けて放たれた。
││神羅天征││
﹁ここより世界に痛みを﹂
NARUTO 第二十九話
900
901
そうするわけにもいかず、アカネは反撃の機会を得る事も出来ずにただただ須佐能乎の
攻撃を捌き続けなければならない。
イズナが操るマダラがその動きを僅かでも止めるとアカネはその一瞬で反撃の一手
を打つだろう。そうするわけにもいかず、イズナはマダラの攻撃の手を一切緩める事が
出来ないでいる。
マダラの完成体須佐能乎は両手に持った刀を間断なく振るい続けてどうにか拮抗を
保っている状況だ。
一振りで幾つもの山を断ち、大地はおろか天も海も裂く攻撃を雨あられの如くに放ち
続け、ようやく拮抗を保っているのだ。
そ の 拮 抗 も ア カ ネ に 木 ノ 葉 を 守 る 気 が あ る か ら こ そ だ。そ う で な け れ ば ア カ ネ は
とっくの昔に穢土転生のマダラ如き叩き潰しているだろう。
木ノ葉を守る為に須佐能乎の衝撃を完全に空へと逃がす。その余計な行為がアカネ
から反撃の暇を奪っているのだ。
││このままでは││
││このままでいい││
アカネとイズナ。二人の思惑は完全に対立していた。
遠く離れた里の被害をその優れた感知能力にて感じ取っているアカネはどうにかし
NARUTO 第二十九話
902
て木ノ葉に救援を送りたく、イズナは当然それを阻止すべく動いている。
アカネは次々と消えていく命を感知してしまっている。このままでは更に犠牲者が
増えていくだろう。だが、アカネが焦る事はない。いや、焦っているのだが、それが表
に出る事がないと言うべきか。
修行に修行を重ね、千年を超える修行という本来の人間では辿り着けないだろう境地
に至っているアカネは外部の影響により精神が乱れる事はほぼないと言っても良いほ
ど完成されている。
どれだけ里を大事に思っていても、どれだけ大事な人が傷つき倒れても、それで怒り
はすれど動きに支障が出る様な事はないのだ。それは武人としては長所なのだろうが、
人間としては短所だろうとアカネは思っている。
だがいくら動きや技に支障がないからと言って焦らない訳ではないのだ。アカネは
今も消えゆく命を思い、この状況を打破したいと願い続ける。
そう、願っている。願う事しか今のアカネには出来ないのだ。それほど詰みとも言え
る状況にアカネは追い込まれているのだから。
この状況を打破する為にアカネが動けば木ノ葉は須佐能乎の攻撃に巻き込まれ壊滅
する。それでは本末転倒だろう。だから、この状況を一変してくれる第三者の手を待つ
しかないのだ。
﹁マダラ、どうにかして動きを止める事は出来ないのか
﹂
アカネの悲痛な叫びにマダラは悔しそうに顔を背け、そして答えた。
!?
﹁マダラ、頼む⋮⋮
このままでは、木ノ葉が、皆が⋮⋮
﹂
!
泣きそうな程に顔を歪ませるアカネの懇願に、マダラは何も答える事はなく、ただ悲
!
力を注げば流石のマダラと言えど抵抗のしようもなかった。
それもイズナが意思と肉体の両方を操っていたからだ。こうして肉体のみの操作に
の精神力はまさに桁違いと言えよう。
マダラはそれすら破ってこうして意識を浮上させたのだ。アカネの危機とはいえ、そ
な事がない様に徹底的に穢土転生の縛りを強めていた。
最も面倒な尾獣である九尾を捕らえる機会を潰されたのだ。イズナは二度とその様
件で更なる強化を重ねる事で完全にマダラの意思を封じる事となった。
を強固に改良して来た。それはマダラが最後にその意思を見せた十六年前、あの九尾事
長年に渡って抵抗して来たマダラを御する為にイズナは幾度となく穢土転生の縛り
ること自体が奇跡と言えよう。
そう、マダラにはこの現状を打破する力はなかった。むしろこうして意識を保ってい
のみに回している。これほど強固な縛りを破る事はオレでも出来ん⋮⋮﹂
﹁すまん⋮⋮無理だ。オレの意思を縛っていない分、イズナはその力をオレの体の操作
903
痛の表情で顔を背けるしか出来ないでいた。
そして世界のどこかでアカネのその顔を見て、イズナは悦に浸っていた。あの日向ヒ
ヨリが、伝説の三忍の一人が、最強の忍が懇願しているのだ。その力が及ばずに他人に
助けを求めているのだ。これが愉快でなくて何だと言うのか。
今イズナがこうして兄であるマダラを操っているのも、兄が心変わりをして千手一族
への憎しみを捨てたのも、全ては千手柱間と日向ヒヨリのせいだとイズナは決め付けて
いる。
そんな元凶の一角がこうして己の無力に嘆くしかないのだ。イズナにとってはまさ
に痛快とも言える見世物だろう。
どことも知れぬ場所にてイズナは一人呟く。このまま木ノ葉が壊滅して行く様を背
﹁せいぜい苦しめ⋮⋮だがその程度オレの苦しみと比べたら些細な物だ﹂
中越しに味わい続けるアカネがどうなっていくかを思い描き顔を愉悦で歪めながら。
﹂
だが、イズナの思い描く光景は現実になる事はなかった。
!?
アカネがそれを出来るわけはない。仙人モードのアカネに対抗すべくマダラの完成
マダラが吹き飛ばされたためだ。
突如としてイズナが操るマダラの攻撃が止まったのだ。何らかの攻撃を受けた事で
﹁なに
NARUTO 第二十九話
904
体須佐能乎は攻撃のみに集中していたのだ。あの状況ではいかにアカネと言えど反撃
出来る訳がない。
そう、イズナの言う通りこれはアカネの仕業ではない。もちろんイズナに完全に操ら
﹂
れていたマダラの仕業でもない。つまり、第三者による仕業という事。
﹁もう遅い
﹂
そして次のアカネの言葉を聞いて先ほど邪魔に入った第三者の正体をイズナは理解
その攻撃をどうにかして凌ぐ。
更に本体のアカネはそのままマダラに攻撃を仕掛けて来た。イズナはマダラを操り
を木ノ葉の里へと向かわせる。
イズナが気付いた時にはアカネは既に影分身を生み出していた。そしてその影分身
!
!
││仙法・影分身
││
うが、次の瞬間に意識をマダラの操作へと戻した。だが、それは遅すぎる判断だった。
こんな化け物と化け物の戦いに割って入るのは一体何者なのか。イズナは疑問に思
攻撃出来る者はこの忍界に数える程しかいない。
封じる為に攻撃のみに注力していたのはいえ、それでもイズナに気付かせずにマダラを
いくらイズナがマダラを操作する事に注力していたとはいえ、いくらアカネの反撃を
﹁何者だ⋮⋮
!
905
した。
﹁遅いですよ自来也
もう少し早く来なさい
馬鹿な
││
﹂
こんな怪獣大決戦にほいほい割って入ればこっちが死ぬわ
││自来也だと
どうにか倒した時の事。
﹂
もう少し詳しく説明しよう。あの時、自来也が水中で蝦蟇結界を張りペインの一人を
である。
だが答えは簡単だ。単に自来也はあの時死んでいなかった。ただそれだけの話なの
い者がいるだろうか。
イズナの疑問は最もだろう。死んだはずの人間が生きている。これに疑問を覚えな
来也の最期を見ている。ならば一体どういう事なのか。
ペインが嘘を吐いたとはイズナには思えないし、そもそも自分の腹心であるゼツが自
まり完全に生者だと言う事だ。
穢土転生かとも考えるが、今の自来也に穢土転生の特徴である黒ずんだ目はない。つ
!
!
二代目三忍の一人自来也。それはペインによって殺されたはずの人物だ。
!?
!
!
!?
﹁無茶を言うな
NARUTO 第二十九話
906
ペインの秘密にもう少しで辿り着けると確信した自来也は無茶をしてでも情報を得
ようとする。
止めようとしたフカサクとシマも強情な自来也に折れてしまい、フカサクに至っては
││の蝦蟇仙人に内心で感謝をしている時、急に自身
自来也と一緒に残って戦おうとする始末だ。
そして自来也が二人││二匹
誰もが言葉を失っていた。
﹁はっはっは。助っ人参上
﹂
どうしたんですか自来也
﹂
いきなりお前が現れて驚かんわけがないじゃろうが
⋮⋮あれ
﹁どうしたもこうしたもあるか
?
忍具入れから飛び出した苦無がいきなり年頃の少女に変化する。あまりの出来事に
﹃⋮⋮﹄
﹁よっと。お疲れ様です自来也。大分苦戦しているようですね﹂
たが、次の瞬間にはハトが豆鉄砲を食らったかの様な顔になっていた。
ペインが新たな能力で結界の中に侵入でもしたのか。そう思い警戒する自来也だっ
突如として感じた新たなチャクラに自来也は驚愕する。
の持つ忍具入れからチャクラを感じ出したのだ。
?
!
!
さっきまでの悲壮で覚悟を決めた空気は何処へ行ったのか。結界の中の空気はがら
!
?
907
りと変わってしまっていた。
そんな自来也の様子の変化にどうやらこの少女が敵ではない事を二大蝦蟇仙人は悟
なしてこげん姿で生きとんじゃヒヨリちゃん
﹂
る。そして仙人モードになっている二人はアカネの正体を勘ぐる内にそのチャクラの
﹂
持ち主に行き付いた。
﹁こ、これは⋮⋮
﹁父ちゃんも気付いたか⋮⋮
!?
﹂
?
だがそれに対するアカネの応えは否だった。
えを改めて確認をする。
勝ち目は無い。そう思っていた自来也だったが目の前の理不尽の権化を見てその考
ら勝てるか
﹁ああ⋮⋮奴の秘密を理解せん限りには、勝ち目は⋮⋮勝ち目は⋮⋮⋮⋮アカネ、お前な
?
る。
﹂
そしてアカネは簡潔に自分が転生した事を説明し、この現状をどうするかを確認す
なのである。
アカネはヒヨリであった時に妙木山に赴いた事があるのでこの両仙人とも顔見知り
﹁あはは。お久しぶりですフカサク様、シマ様。お元気そうで何よりです﹂
!
!?
﹁自来也はもう一度ペインの前に出て行くつもりなのですね
NARUTO 第二十九話
908
﹁奇襲が通用すればともかく、真っ向勝負では無理ですね。あなたの忍具に入ってずっ
と外を視ていましたが⋮⋮影分身の私ではあの斥力の様な力に抗う事は難しいです﹂
?
﹁やはりペインの秘密は手に入れるべきですな﹂
﹁ヒヨリちゃんと二人でなら逃げ出す事も出来るんじゃないか
﹂
られては意味がないし、天道が予想以上の力を持っている可能性もないわけではない。
ペイン六道は天道含む六体でペイン六道なのだ。天道を倒しても地獄道に復活させ
うとは限らないし、アカネがどうとでも出来ると言っているのはペイン天道の話だ。
問題なのは今だ。そして未来だ。例えアカネがペインに勝てるとしても木ノ葉がそ
まあ、それも予想出来ていたことなので今更驚く事はない。
﹁⋮⋮そうか﹂
ればどうとでも出来るでしょうが﹂
﹁あの威力と範囲、あれ以上になろうとも予想を遥かに超えていない限り私の本体であ
影分身には相性の悪い攻撃方法だろう。まさに攻防一体の凄まじい能力であった。
そ し て あ の 斥 力 の 様 な 力 は ペ イ ン 天 道 を 中 心 と し て 予 備 動 作 も な く 広 が っ て い く。
撃を受ければ例え掠り傷だろうとも消滅してしまうのだ。
影分身は一撃でも攻撃を受ければ消滅してしまう。その一撃に強い弱いはない。攻
﹁⋮⋮そうか﹂
909
﹁そうじゃのう﹂
アカネがいる事で自来也がペインと再び相対しても生き延びる可能性が増えた。
そう思ったフカサクとシマは明るい表情になる。だが、自来也の次の言葉に再び表情
を曇らせた。
﹂
﹂
﹁いや、やはりワシ一人でペインの元へ向かいましょう﹂
﹁な
﹁どういうことじゃ自来也ちゃん
憤慨する両仙人に対して自来也は自分の考えを述べる。
はどういうつもりなのか。
アカネが来た事でせっかく生き延びる可能性が見えたというのにそれを拒否すると
!?
!?
﹁まあ、出来ますね﹂
れずに水中から逃げる事も可能じゃろう﹂
﹁お二方はアカネと共にここから離れて逃げてくだされ。アカネならばペインに気付か
也の狙いが理解出来たようだ。
自来也の考えを読んだアカネは納得して頷く。アカネの言葉を聞いて両仙人も自来
﹁⋮⋮ああ、なるほど。ここで死んだ事にするつもりですか﹂
﹁アカネがいるのならば一芝居打つ事も可能かと思いましてのぅ﹂
NARUTO 第二十九話
910
﹁そしてペインの感知が届かぬ地まで離れたら白眼にてワシを確認し続けてくれ。そし
﹂
てワシはペインに殺られたフリをして水中に落ちていくので││﹂
﹁そこをワシが逆口寄せをすればいいんじゃな
﹂
?
流石にかなりの重傷だった故に影分身のアカネでは完治までに時間が掛かり、その間
フカサクに頼む事で逆口寄せしてもらい、その傷を癒す為に力を注いだのだ。
後はその様子を見ていたアカネが十分に沈みペインを騙すことに成功した自来也を
た。
い棒に貫かれるが、それでも致命傷は避けてどうにか水中に沈む様に死んだフリが出来
そうして自来也はこの作戦を決行した。その結果、ペインの攻撃により喉を潰され黒
に対し、自来也は首肯する事で応えた。
生き延びるだけならばそんな危険を冒す必要はない。暗にそう告げるアカネの言葉
ません。それでもやりますか
ません。私がそれを見抜いてフカサク様に逆口寄せを願っても間に合わないかもしれ
﹁ですが危険は伴いますよ。あなたが殺られたフリをする前に本当に殺されるかもしれ
誘えると判断しての作戦だ。
このままアカネの力を借りて逃げ帰るよりも、敵に死んだと思わせた方が後の油断を
これがアカネが加わった事で自来也が思い付いた作戦だった。
?
911
NARUTO 第二十九話
912
にフカサク達には先に木ノ葉へとペインの情報を伝えに行ってもらった。
当然自来也が生きている事はアカネを送り込んだ綱手以外には伏せられてだ。多く
の忍が知ればそれは木ノ葉の里に広まり、そして暁に伝わる可能性もある。それを考慮
しての判断である。
ナルトが精神的に傷付く事も予測されたが、アカネや綱手は逆に成長してくれる事を
願ってナルトを信じて自来也の生を隠した。
そうして命からがら生き延びた自来也は影分身のアカネから治療を受け、完治した後
は何らかの情報がないかアカネの影分身と共に身を隠して行動していた。
だ が 影 分 身 の ア カ ネ か ら 告 げ ら れ た 情 報 を 聞 い て 自 来 也 は 即 座 に 木 ノ 葉 へ と 舞 い
戻った。暁襲来の情報である。木ノ葉に残していたアカネの影分身が須佐能乎の攻撃
を防いで消えた時に、その時の情報が自来也に付いていた影分身にも還元されたのであ
る。
そして影分身のアカネは自来也にある頼み事をした。それは、本体がマダラによって
動きを封じられているので、気付かれない様にマダラに近付いて強力な一撃を与えて隙
を作ってほしいという頼みだ。
その頼みを自来也が承諾した後に、影分身のアカネは自らをチャクラへと還元させて
本体に情報を持ち帰った。その情報を知ったアカネは出来るだけイズナの気を自分に
引く様に、イズナが気に入りそうな演技を見せていたのである。
そして自来也は気配を消してマダラへと近付き、渾身の極炎螺旋丸を完成体須佐能乎
に叩き込んだのだ。
然しもの完成体須佐能乎も火遁と螺旋丸の組み合わせである強力な忍術に耐え切れ
ず吹き飛び、その鎧の大部分が破壊されていた。
それでも中身であるマダラの身にダメージが入っていないのだから完成体須佐能乎
の防御力の高さが伺えるというものだろう。
﹂
だがそこで出来た隙は果てしなく大きかった。アカネが仙術チャクラを籠めた影分
身を作り出す事も容易い程に大きな隙が出来たのだ。
﹂
﹁全く。泣きそうな面をしておると思えば、やっぱり可愛げのない女子じゃのぅ
﹁はっはっは。覚えておくといい。女性は皆女優だと言う事を
﹁ふっ
﹂
たイズナは激昂し完成体須佐能乎の攻撃をアカネに振るう。
自来也とアカネの会話からあの慟哭も表情も全ては自分を騙す演技なのだと気付い
!
!!
913
!
だが全ては遅いのだ。攻守は逆転した。今までとは逆にアカネの攻撃を防ぐ為にイ
ズナは全力を尽くさねばならなくなったのだ。
アカネが作り出した巨大な螺旋丸により須佐能乎の攻撃は初動で食い止められその
威力に押されて一気に後退する事になる。
近付いて来るアカネを吹き飛ばそうと神羅天征を放つが、それはアカネにとって既に
﹂
初見の攻撃ではない。ならば以前と同じ様に吹き飛ばされる事もなかった。
﹁来ると分かっていればこの程度
﹂
!
﹄
した二代目三忍自来也と申します﹂
﹁これは初代三忍うちはマダラ様。お初にお目に掛かります。あなた達の通り名を襲名
台詞が完全に被ったマダラと自来也は同時に互いを見やり、そして分かりあった。
?
来也も驚愕した。
で行く。これにはイズナどころかマダラも、そして神羅天征の力をその身で味わった自
そうして対象が吹き飛ばずにいる事で逆にマダラの肉体が後ろに向かって吹き飛ん
視するかの如くマダラに向かって進んでいた。
全てを弾き飛ばす斥力の力を受けてもアカネは微動だにせず、それどころか斥力を無
﹁な⋮⋮
!
﹃本物の化け物だな⋮⋮ん
NARUTO 第二十九話
914
﹁ああ、話は聞いている。名ばかりかと思っていたが中々どうして。イズナを欺きオレ
・・
﹂
の完成体須佐能乎をあそこまで破壊する⋮⋮大した奴だ。その名に恥じぬとオレが認
めよう﹂
・・
﹁それはありがたいですな。ところでやはりアレは昔からああなので
﹁心中お察ししますぞ⋮⋮﹂
?
﹂
!
はペインのみだという事も。ならば、自来也に出来る事は愛弟子であるナルトを信じる
アカネも自来也も仙人モードによる感知力で木ノ葉の現状を理解している。残る敵
めてくれる。ワシはそう信じておる
﹁ナルトに全てを託し、ワシは信じて待つ。ナルトならば、必ずやペインを⋮⋮長門を止
﹁ああ⋮⋮残る敵はペインのみ。ならば││﹂
木ノ葉の忍が聞けば信じられないだろうその言葉をアカネは否定しなかった。
﹁うむ。だが、残る戦いにワシは何もせん﹂
﹁まあいい。自来也、ここは私に任せて木ノ葉に行け﹂
もとい共通の話題があれば人は協力し合えるのである。
人間共通の話題があればそれだけで分かり合えるものなのだ。目の前に化け物⋮⋮
﹁⋮⋮何でお前らそんないきなり分かりあってんの
﹂
﹁決まっているだろう。アレのせいで昔からどれだけ苦労したか⋮⋮﹂
?
915
NARUTO 第二十九話
916
事だけだった。
ナルトならば必ずや長門を、かつての愛弟子を正してくれると信じて。
アカネもまたペインをナルトに託し、自身の影分身達を傷付き倒れる木ノ葉の忍の救
援に向かわせていた。
今ならばまだ間に合う者も多くいるのだ。見知った者も倒れているが、それでもアカ
ネならばまだ間に合う。木ノ葉の命運をナルトに託し、アカネもまた自身に出来る事を
成す為に全力を尽くすのみだった。
NARUTO 第三十話
イタチを殺した暁への復讐。それを無理矢理にでも抑えナルトに全てを託す。
その判断が正しかったのか、今のサスケには分からない。例え死してでも憎き仇に立
ち向かうのが正しかったのではないか。だが、それは自分を守ってくれた兄の想いを無
にする行為ではないか。
理性と感情。理想と現実の狭間にサスケは揺れ動く。これで良かったのか。それを
物言わぬ兄に問うた時、サスケに声を掛ける者が現れた。
﹁復讐を押し止め、イタチの想いを汲んだあなたをもっと褒めたい所ですが、一刻を争う
いるという事だろう。
眼の使い手でも影分身を見抜ける者は殆どいない。それだけサスケの力量が上がって
サスケの写輪眼の瞳力は影分身を見抜く程に高まっているのだ。洞察眼に優れた白
抜いた。
突如として現れ声を掛けてきたアカネを一目見て、それが影分身であるとサスケは見
﹁お前は⋮⋮アカネ⋮⋮そうか、影分身か⋮⋮﹂
﹁良く耐えましたね、サスケ﹂
917
のでそれは後にします﹂
話しながらもアカネは素早く行動する。イタチの元に駆け寄り白眼にてその全身を
確認する。
心肺停止状態。全身に無数の擦過傷に裂傷、更には軽度の火傷もあり。骨は無数に折
れているがそれよりも問題なのは折れた肋骨が幾つかの内臓を傷つけている事。心肺
停止から約二分。
兄さんは、助かるのか⋮⋮
﹂
瞬時にイタチの容態を把握したアカネは即座に治療に移る。これならまだ間に合う
と判断したのだ。
﹁⋮⋮まさか、助かるのか
!?
だが、アカネの口から出た言葉は、サスケを安心させるものだった。
だ。これでもし無理だと言われたら、きっとサスケは立ち直れないだろう。
今のアカネの行動から、もしかしたら兄は蘇生するのではないかと希望を抱いたの
る可能性を見たのだ。助かるかも知れないと感じ取ったのだ。
施術を開始したアカネに向かってサスケは叫ぶ。そこにあるのは希望と絶望。助か
?
ああ
!
!
させてください﹂
﹁あ、ああ
﹂
﹁これくらいならば問題ありません ですが、手元が狂う可能性もあるので今は集中
NARUTO 第三十話
918
!
アカネの言葉を聞いたサスケは涙声で返事を返す。そしてその後は何も言わずアカ
ネを見守っていた。
アカネはまず臓器に刺さっていた骨を全て取り除き、そして骨を元の位置に戻す。そ
の後イタチの止まっていた心臓に衝撃を与えて再び動かした。
心臓が動いた瞬間にイタチの体は一瞬痙攣し、その口から僅かに血が溢れ出す。だが
それを気にせずにアカネは再生忍術をイタチの体に施していく。
強力なアカネの再生忍術によりイタチの肉体は瞬く間に癒えていく。アカネがイタ
チの蘇生を行って僅か数十秒。それだけの時間でイタチは傷一つない元の体へと戻っ
ていた。
兄さんは
﹂
?
もう終わりましたけど 蘇生は終わって傷は全て再生しました。今はまだ気
﹁⋮⋮え
?
?
暖かい。それを感じた瞬間に次にサスケはイタチの口元に手を当て、呼吸がある事を
の体に触れた。
アカネの言葉を聞き終わる前にサスケはイタチに近付いていく。そして恐る恐るそ
絶しているだけです﹂
﹁え
?
そう事も無げに言うアカネにサスケは目を丸くしていた。
﹁ふぅ、これで良し。さて、サスケの傷も治しておきましょうか﹂
919
﹂
確認する。最後に胸元に耳を当てて心臓の音を確認する。
﹁⋮⋮生きてる。兄さん⋮⋮兄さん⋮⋮
﹂
だが次の瞬間にアカネはサスケの前に立って叫んだ。
たのだ。
なっているサスケもやはりまだ子どもなのだと、こうしているサスケを見るとそう感じ
普段は生意気な態度が多く大人ぶった印象が強く、そして並みいる大人よりも強く
泣きながらイタチに抱きつくサスケを見ながらアカネは微笑む。
!
イタチを抱えて衝撃に備えろ
﹂
﹁サスケ
﹁なに
!
!
﹂
そしてアカネとサスケは見た。衝撃波がやって来た方角、衝撃波が発生しただろう中
を解除する。
それによりこの強大な衝撃波を防ぎきったようだ。そして衝撃が止み、アカネが廻天
り出す。
アカネはサスケとイタチを囲むように中心部分に空間を作り出した巨大な廻天を作
!?
!
﹁こ、これは
﹂
アカネの言葉の意味をサスケが理解する前に、凄まじい衝撃がこの場を襲った。
!?
﹁はぁっ
NARUTO 第三十話
920
心地である木ノ葉の里を。
木ノ葉の中心から外周部近くまでが大きく円状に削り取られていた。まさに壊滅状
態と言えよう。
﹁嘘だろ⋮⋮﹂
﹂
だが、これでは綱も⋮⋮
﹂
だがこの惨状に比べて人の被害は殆ど出ていないようだ。それを感知したアカネは
この惨状にはサスケも開いた口が塞がらず、アカネも怒りを顕わにしていた。
﹁ペイン⋮⋮
!
その原因も突き止める。
﹁綱か
!
﹂
?
サスケの言葉の意味は早く木ノ葉に向かわなくてもいいのか、という意味だとアカネ
﹁⋮⋮いいのか
﹁⋮⋮サスケ、早くあなたの傷を治しますよ﹂
れた。
下手すれば気を失いしばらく起き上がる事も出来ない程に綱手は弱っていると予測さ
だ が そ れ だ け の 人 数 に チ ャ ク ラ を 注 ぐ と な る と 綱 手 の 負 担 は 計 り 知 れ な い だ ろ う。
忍を回復させる事でどうにか被害を抑えたのだと知る。
綱手が里の者ほぼ全てにカツユを付けた事を察知したアカネは綱手がその力で里の
!
921
は理解した。
そしてそれに対してアカネは首肯して答えを返す。
﹂
﹁里の皆にも他の私達が向かっています。それに、あのペインは││﹂
﹁││ナルトが倒す。だろう
勝負も分かりませんね﹂
﹁ふふ、そうですね。あなたも万華鏡の力を手に入れたみたいですし、これでナルトとの
笑う。
そう言いながらもどこか照れた様にそっぽを向くサスケを見て、アカネは楽しそうに
らわなくてはな﹂
﹁仙人の力とやらを手に入れたんだ。それに⋮⋮オレのライバルならそれくらいしても
アカネの言葉を遮ったサスケの答えにアカネは微笑んで返す。
?
﹂
!
なったつもりだったが、本当につもりでしかなかったのだと実感したのだ。
サスケは暁との戦いを通じて自分の弱さに嫌気がさしていた。まだ足りない。強く
﹁当然だ。オレは⋮⋮もっと強くなる
﹁あはは。そうですね。じゃあ、この騒動が終われば仙術の修行と万華鏡の修行ですね﹂
だ﹂
﹁ふっ、オレも仙人の力を手に入れるつもりだ。そうなれば万華鏡がある分オレが有利
NARUTO 第三十話
922
強くなりたい。誰かを倒す為ではない。誰かに守られなくてもいいくらいに強くな
りたい。自分の為に誰かが犠牲になるなんてサスケには真っ平御免だった。
今は眠る兄を見つめ、サスケは更に強くなる決意をここで新たに誓った。
◆
天高く昇っていくペイン。地上ではオビトとカカシがリンの死を嘆いている。
﹂
そしてペインがその力を発動する少し前にこの地にアカネの影分身の一体が辿り着
いた。
﹄
﹁お待たせしました皆さん
﹃アカネ︵ちゃん︶
﹂
!
﹁くっ
﹂
行くぞオビト
﹁すまない⋮⋮
!
!
!
﹂
そう言ってアカネは遺体であるダンゾウとリンを抱えてその場から駆け出した。
が来ます
﹁ここから離れますよ ペインが何をするかは分かりませんが、経験上どでかい一発
突如として現れたアカネに一同は驚愕するが、アカネはそれを無視して叫ぶ。
!?
!
923
!
足が傷つき素早い動きが出来ないオビトをカカシが抱えて走り、ヒルゼンもまた全力
でその場を離れる。
そして、天から神の裁きが落ちた。
││神羅天征││
全力で放たれる斥力の力が全てを薙ぎ払っていく。その範囲は木ノ葉の里のほぼ全
域に広がり、里の約八割の大地が削り吹き飛ばされていった。
斥力の力はその範囲で収まったが、余波が衝撃波となって里の外にまで広がってい
く。そしてその力で広大な木ノ葉の里はほぼ壊滅状態に陥った。
個人の力でこれだけの広範囲を壊滅させる。まさに神の所業と恐れられてもなんら
﹄
可笑しくはないだろう。
﹃うおおおっ
﹂
ダメージを受ける事すら防いだのだ。
いでいた。僅かでもダメージを受けると消滅してしまう影分身なので、こうして僅かな
アカネのみはリンとダンゾウごと自身の周囲に廻天を発動させる事でダメージを防
れていく。
効果範囲から完全に抜け出す事が出来なかったアカネ達は斥力によって吹き飛ばさ
!?
﹁全員⋮⋮無事か
?
NARUTO 第三十話
924
﹁ええ何とか。綱手様の力で回復してくれたおかげもあってか、殆ど怪我はありません﹂
信じられねぇ⋮⋮﹂
?
﹁ナルトが⋮⋮
ならばナルトは仙人に至ったのか
﹂
!?
リン⋮⋮
﹂
﹁そうだな⋮⋮だけど、悔しいな。オレがリンの仇を取りたかった⋮⋮う、うう。リン、
﹁そうか。あのナルトが仙人に⋮⋮。完全にオレは超えられたな﹂
ヒルゼンの言葉にアカネは首を縦に振る。
!
﹁ナルトが来ました。ナルトなら、きっとペインを止められます﹂
だが、そんな二人を安心させるかのようにアカネは呟いた。
が、傷つき疲弊しきった自分たちでは手も足も出ないと感じていたのだ。
オビトもカカシも僅かにそういう思いがあった。敵は愛する女性を殺した憎い仇だ
﹁大丈夫です﹂
思いは誰もがどこかに持っていた。
もちろん戦う気概のある者はまだ多くいるが、それでも勝てないかもしれないという
を負っており、そしてこの破壊の爪跡を見て戦意を失っていく。
木ノ葉の忍はその多くが綱手のおかげで生き延びている。だが誰もが大小あれど傷
里が無くなった。その結果を見て果たしてどれだけの忍が戦意を保てるだろうか。
﹁これは、あの斥力の力なのか
925
!
リンの死を改めて受け止めたオビトは嘆くしか出来なかった。
こ の 世 の 全 て が ど う で も い い と い う 衝 動 す ら 起 こ る 程 オ ビ ト は リ ン を 愛 し て い た。
だが、本当にこの世の全てを捨てる程にオビトは子どもではなかった。
人生を長く歩むという事は肉体だけでなく精神すら成長させるという事だ。成長し
た精神がオビトにその衝動を抑えさせる。だから、嘆く事しか出来ないでいた。
そんなオビトに対してカカシも何も言えず項垂れるしか出来ない。カカシもまた同
じ思いだからだ。
﹂
﹁オビト、カカシ。悔しければ次はリンを必ず守りなさい﹂
﹁⋮⋮次
えていたリンを見た。
その言葉の意味が理解出来ない二人はアカネに向かって振り向き、そしてアカネが抱
?
リン
﹂
!
﹂
!
認する。
オビトもカカシもすぐにリンに駆け寄った。そしてリンが確実に生きている事を確
﹁リン
!
﹁ま、まさか⋮⋮
リンの口から僅かな呻き声が聞こえた。胸も呼吸に沿って動いているのを見る。
﹁う⋮⋮﹂
NARUTO 第三十話
926
﹁生きてる⋮⋮
﹂
﹁ああ、生きてるよ
リンは生きてる
﹂
!
﹁アカネよ⋮⋮ダンゾウは、無理なのじゃな
ヒルゼンによって明かされた。
﹂ 喜ぶ二人を見るアカネだが、その言葉はどこか悲しそうであった。そしてその答えは
﹁どうにか間に合ったようです⋮⋮﹂
!
!
助かる命もあれば助からない命もある。そして助からなかった命の前で喜びを顕わ
の内に収めた。
リンの蘇生を喜んでいたオビトとカカシもアカネ達の会話を耳にしてその喜びを胸
﹃⋮⋮﹄
れたのは彼らが蘇生出来る可能性があったからに過ぎない。
いくらアカネでも完全に死んだ人間を蘇らす事は出来ない。イタチやリンを助けら
⋮⋮死んでいたのだ。
生術が効果を及ぼす時間を超えていたのだ。つまり、ダンゾウは蘇生不可能なほどに
だがダンゾウは助けられなかったのだ。ダンゾウが死んでからの時間がアカネの蘇
そう、リンは確かに助けられた。蘇生してからの再生が間に合ったのだ。
﹁⋮⋮はい。私の力が及びませんでした﹂
?
927
にする程二人は不謹慎にはなれなかった。
﹁⋮⋮ナルトか﹂
ヒルゼンの言葉に全員が里の中心に目を向ける。そこにはペインと対峙するナルト
の姿があった。
ておるぞ﹂
﹁見てるかミナト、クシナ。お前達の子が⋮⋮里に疎まれた子が⋮⋮今、里を救おうとし
遠目からナルトの背を見てヒルゼンはそう呟く。生まれてすぐに親を亡くし、複雑な
事情があるナルトを預かったのはヒルゼンとその妻ビワコだ。
火影としての仕事の多さ故にあまり構ってはやれなかったが、それでもナルトに掛け
る愛情の深さは人一倍だろう。
小さな頃から自分を見てほしい為か悪戯が絶えず、多くの者から蔑まれていたあのナ
ルトが。落ちこぼれと言われ馬鹿にされ続けたあのナルトが。誰よりも大きな背を見
﹂
せてあのペイン相手に立ち向かっているのだ。
?
う⋮⋮﹂
ノ葉を救った救世主として称えられるじゃろう。それを見届けた後にワシは引退しよ
﹁そうじゃな。もう歳じゃよ。ダンゾウも逝った⋮⋮ナルトはこの戦いで勝利すれば木
﹁⋮⋮歳ですかねヒルゼン。涙ぐんでますよ
NARUTO 第三十話
928
ヒルゼンは忍として一線に立つ事が出来る年齢をとうに超えている。ヒルゼンと同
じ年代の忍など三代目土影を含め数える程だろう。他はとうに引退して一線を退いて
いる。
今まで老体に鞭を打って働いていたのは偏に木ノ葉の為にだ。だがこうして木ノ葉
の若葉は立派に育っている。もう自分が出来る事はなく、綱手の相談役としての立場に
落ち着こうと考えていた。
ひたすら修行し、共に競い合い力を高め合い、そして今仙人の力を得た。
ようやく力を取り戻した天道。だがナルトは強かった。サスケという目標に向けて
てのペインがナルトによって破壊される事となった。
を放った天道はその力を再び使用する為に長い時間を必要とし、その間に天道以外の全
神羅天征はその力の強弱によりインターバルの時間も延びる。あれだけの神羅天征
に傾いていく。
その死闘はペイン天道が最大の力で神羅天征を放った事が要因となり戦況はナルト
それからはこの場の誰もが固唾を飲んで静かにナルトとペインの死闘を見守った。
るぞ﹂
﹁そうじゃな⋮⋮。ナルトよ、お前が未来を切り開くのをワシはここで信じて待ってお
﹁気が早いですよヒルゼン。今はナルトの戦いを見守りましょう﹂
929
既 に そ の 力 は 自 来 也 す ら 超 え て い た。仙 人 と し て の 適 正 も 自 来 也 以 上 だ っ た の だ。
影分身を利用して巧みに仙人モードを維持し、ナルトはペインを追い詰める。
ナルトが勝ったぞカカシ
﹂
﹂
そして、ペインとの幾多の問答と死闘を超え、ナルトはペインに打ち勝った。
﹁勝った⋮⋮
!
本当に、強くなったなナルト⋮⋮
!
!
﹁⋮⋮いえ、どうやらまだ終わってはいないようです﹂
の姿に感動すらしていた。
落ちこぼれでサスケに無謀なライバル心を見せるだけだったあの頃とは大違いなそ
てナルトの成長を感慨深く見ていた。
ナルトの勝利を見届けたオビトとカカシは素直に喜ぶ。特にカカシは担当上忍とし
﹁ああ
!
じ取り、その潜伏場所へと向かう。
ナルトは自身の体にペインの黒い棒を刺した事でペインの本体のチャクラを逆に感
道とまともに相対するしかなかったのだが。
だが完全に確証もなく、その上どこで操っているのか探るのも時間が掛かりペイン六
いう憶測は立てられていた。
自来也から得た情報で、敵が何らかの方法でペイン六道を操っているのではないかと
﹁本物はいない⋮⋮つまりはそういう事か﹂
NARUTO 第三十話
930
それを見てやはりどこかでペイン六道を操っている本体がいたのかとヒルゼンも確
信に至ったようだ。
その後も長門は多くの仲間の死を味わった。それら全ては木ノ葉を筆頭とする大国
その二つの痛みはかつての自身が出した答えが意味のない物だと長門に気付かせた。
の痛み。両親の死と、新たな家族である弥彦の死。
長門の答え。それが平和に必要なのが痛みというものだ。かつて長門が受けた二つ
弟子が互いの意思と答えをぶつけ合う。
・・
ナルトとペインの本体である長門。共に同じ師を持ち、だが異なる道を進んだ二人の
◆
味方すら騙している事にアカネは若干心を痛め、謝罪の言葉を今から考えていた。
蟇仙人に、あとはマダラとイズナくらいだ。
実際は自来也は死んでいないのだが、現状それを知っているのはアカネと綱手と両蝦
﹁そうかもしれませんね⋮⋮﹂
ワシはそんな気がするよ﹂
﹁復讐の相手を前にナルトがどういう答えを出すのか⋮⋮未来はそこに掛かっておる。
931
の平和を維持する影で行われる戦いの犠牲であった。
大国の平和は小国の犠牲の上に危うく成り立っているだけであり、彼らの平和が弱者
への暴力なのだと長門は語る。
人は生きているだけで気付かぬ内に他人を傷つけている。人が存在する限り同時に
憎しみも存在する。この呪われた世界に本当の平和など存在せず、自来也が語った人々
が理解し合える時代など来はしない。
そんな長門の意思と答えに対し、ナルトも己の意思と答えを示した。
長門達の過去は理解したし、その怒りもまた理解出来る。だが、それでも長門達を許
せず憎しみは未だ残っている。
だが、自来也は自分を信じて託してくれた。ならば自来也が信じた事を信じる。それ
がナルトの答えだった。
だが長門にとってそんな言葉は戯言にしか聞こえなかった。今更自来也の言葉など
信じる事は出来ないと。本当の平和など呪われた世界に生きている限りありはしない
のだと長門は叫ぶ。
そんな長門に対し、ナルトはある言葉を送った。
てやる。オレは諦めねェ
﹂
﹁なら⋮⋮オレがその呪いを解いてやる。平和ってのがあるならオレがそれを掴み取っ
NARUTO 第三十話
932
!
まるで理想だけを語ったかのような綺麗事だ。諦めないだけで平和が掴めるのなら
苦労はないだろう。
だが、そんな綺麗事に長門は反応した。それは長門と最も長く居た小南も動揺する程
にだ。
﹂
?
⋮⋮長門﹂
﹁本 の 最 後 に こ の 本 を 書 く ヒ ン ト を く れ た 弟 子 の 事 が 書 い て あ っ た。ア ン タ の 名 前 だ
言葉を出す事が出来ない長門に向けて更にナルトは続けて話す。
﹁⋮⋮﹂
だが、これが自来也の最初の本であり、一番の力作でもあった。
それは自来也が書き記した書物。あまりに売れなかった為に本の方向性を変えたの
だ。エロ仙人はこの本で本気で世界を変えようとしていた﹂
﹁そ う だ っ て ば よ ⋮⋮ 今 の は 全 部 こ の 本 の 中 の セ リ フ だ。エ ロ 仙 人 が 書 い た 最 初 の 本
えがあったのだ。
長門はナルトのセリフに覚えがあった。聞き覚えではない。言い覚えと、そして見覚
﹁そのセリフは⋮⋮﹂
﹁長門⋮⋮どうしたの
﹁お前⋮⋮それは⋮⋮﹂
933
﹁
そんな⋮⋮これは偶然か⋮⋮
﹂
?
││
﹂
例えどんな苦境にあっても諦めず、平和を掴む為に足掻き続ける。その主人公の名は
のはまさに長門を主人公とした小説だった。
後に自来也と別れた長門は自来也が残した一冊の本を読んだ。そこに書かれていた
公の名もその場にあった食べ掛けのラーメンから安直にひねり出す。
長門のその言葉を聞いた自来也は本のアイディアが浮かんだ。同時にその本の主人
方法よりも大切な事。それは信じる力だと、長門は自来也に告げた。
いてみせる。平和があるなら自分が掴み取って見せる。
平和に辿り着く方法、それは長門にも分からない。だが、いつか自分がこの呪いを解
に伝えに来たのだ。
て長門に話した世界の憎しみについて、長門なりに考えそして答えを出した事を自来也
そこで長門はラーメンで腹ごしらえをしている最中の自来也と話す。自来也がかつ
していた一時期、長門が最も幸せだと感じていた時期の話だ。
ナルトの言葉を聞きながら長門はある過去を思い起こす。それは自来也の元で修行
﹁そしてこの本の主人公の名前⋮⋮それが││﹂
!
﹁ナルトだ
!!
NARUTO 第三十話
934
﹁ッ
﹂
見えていた。
そんでもって雨隠れも平和に
﹁だからオレの名前はエロ仙人からもらった大切な形見だ
﹂
オレは火影になる
オレを信じてくれ
に傷をつける訳にはいかねェ
してみせる
!
!
オレが諦めて師匠の形見
ナルトの言葉に長門は更に動揺する。長門には過去の自分と今のナルトが重なって
!
!
嘘がない物だと長門に理解させる力を持っていた。
自分を、そして自分に全てを託してくれた自来也を信じて放たれたその言葉は欠片の
⋮⋮。どんなに痛てー事があっても歩いていく││それがナルトだ﹂
﹁オ レ は 師 匠 み て ー に 本 は 書 け ね ー か ら ⋮⋮ だ か ら、続 編 は オ レ 自 身 の 歩 く 生 き 様 だ
本になってしまう。それはナルトではないと。
主人公が変わればその物語は別の物になってしまう。自来也の残したものとは別の
そんな長門の問いに対して、ナルトは答える。
じたままで居られるのか。そう言い切れるのか。自分を信じられるのか。
これからどれ程の痛みが自身を襲っても変わらないと。憎しみに捉われず自分を信
るのか。
長門には理解出来なかった。どうしてナルトはこうも自分が変わらないと言い切れ
!
!
935
長門の脳裏に次々と過去の記憶が巡る。ペインとなった自分と相対した時の自来也
の言葉が、弟子であった自分を信じる自来也の言葉が、弥彦が最期に自分に託した言葉
が、自分自身が語った言葉が、そしてナルトの今の言葉が。
﹁オレは兄弟子⋮⋮同じ師を仰いだ者同士理解し合えるハズだと前に言ったな﹂
それは長門がナルトと戦った時に冗談として発した言葉だ。だが、それが本当に真実
に、しかも逆の意味で理解し合うとは長門は思ってもいなかった。
ナルトを見ていると長門は昔の自身を思い出す。他の誰にもない、信じさせる不思議
な力をナルトは持っている様だと長門は思う。
長門は自来也を信じる事が出来ず、自分自身さえも信じられなかった。だが、ナルト
は自分とは違った道を歩く未来を予感させてくれた。
﹂
!?
﹄
!?
突如として現れた自来也に誰もが驚きの声を上げる。当然だ、死んだと思っていたは
﹁エロ仙人
﹃じ、自来也先生
﹁ようやく、元のお前に戻ったのぅ長門﹂
を知った自来也は涙を堪えてゆっくりと姿を現す。
この時、交わる事がないと思われていた二人の道が交わった。隠れて見守りつつそれ
﹁お前を⋮⋮信じてみよう⋮⋮うずまきナルト⋮⋮﹂
NARUTO 第三十話
936
自来也先生は確かにオレが⋮⋮﹂
ずの、しかもこの場の誰にとっても特別な存在がいきなり現れたのだ。これに驚愕する
なと言う方が無理だろう。
﹁馬鹿な⋮⋮これは幻術なのか
﹂
あ、痩 せ て も 枯 れ て も 二 代 目 三 忍 自 来 也 様 が お ぬ し の 様 な ひ
││本物だってばよ││
││本物ね││
││本物だな││
よっこに殺されるはずなかろうがのゥ
﹁か っ は っ は っ
?
!
⋮⋮あ
﹂
だったら何で今まで姿
エロ仙人が死んでオレがどんな気持ちだったか⋮⋮
!
らなかった。
を見せなかったんだよ
﹁エロ仙人⋮⋮生きてたのかよ 良かった⋮⋮
!
!
物の自来也だと。この状況でこんな馬鹿げた見栄切りが出来る者をナルト達は他に知
そう言って見栄切りする自来也を見た三人の思いが一致した。これは間違い無く本
!!
!
事な姿を見せてくれれば良かったとナルトは自来也に詰め寄る。
ナルトは本当に自来也を慕っておりその死を嘆いていた。生きていたのなら早く無
る。
自来也の生存を喜ぶナルトだが、次に生きていたのに姿を隠していた事に怒りを見せ
!
!
937
﹁すまんの。今後の事を踏まえて死んだ様に見せかけた方が良かったと判断してな。い
ずれお前にも教えるつもりだったが、ここまで遅くなって本当にすまなかった﹂
自来也は自身の死でナルトがどれだけの衝撃を受けたのかを知り、それを嬉しく思い
つつもナルトに謝罪する。
自来也の偽装死によってイズナが操るマダラに大きな隙を作る事が出来、そのおかげ
でアカネは木ノ葉に援軍を送る事が出来た。この偽装死は一応の成果を見せている。
だからと言って味方を騙した事に変わり無く、親しい者に悲しい思いをさせた事は事
実だ。それはやはり謝罪すべき事なのだろう。
﹁⋮⋮いいってばよ。エロ仙人が生きててくれて⋮⋮本当に良かった⋮⋮﹂
そう言って涙を見せる愛弟子を自来也は強くなってもまだまだ子どもかと暖かく見
守る。
そしてもう一人の弟子である長門に眼を向けた。
今更どの面下げて自来也を見ればいいのか。思い悩む長門に向かって自来也は言葉
い思いで一杯だった。
ナルトと向き合う事でかつての自分を思い出した長門の心は自来也に顔向け出来な
﹁自来也先生⋮⋮オレは⋮⋮﹂
﹁⋮⋮長門よ。良くぞかつての自分を見つけた﹂
NARUTO 第三十話
938
を掛ける。
﹂
!
﹂
?
信じてくれるのかと長門は目を細めて自来也を見る。
師を、自身すらも裏切った長門に向かって自来也は手を伸ばす。こんな自分でもまだ
か
う。これからは共にナルトに協力し、皆が分かり合える平和な世界を目指してはくれん
﹁長門よ。今のお前ならば⋮⋮諦めない気持ちを思い出したお前ならばもう大丈夫だろ
じてくれたからこそ、長門もまたかつての自分に戻る事が出来たのだ。
自来也はそう言ってナルトに頭を下げる。ナルトがいたからこそ、ナルトが自分を信
﹁エロ仙人⋮⋮﹂
トよ⋮⋮お前のおかげだ。良くやってくれた⋮⋮
﹁本当ならワシが気付かせたかったのだがのゥ⋮⋮ワシにはそんな力はなかった。ナル
いるのだ。それが長門にも小南にも理解出来た。
赦すと、言っているのだ。自来也は長門達の過ちを赦すと、まだ遅くはないと言って
﹁自来也先生⋮⋮﹂
る事は出来る﹂
かった。それだけだ。元に戻ろうという意思がある限り、必ず間違った道から戻って来
﹁誰にでも間違う事はある。長門に小南、お前達にはそれを正してくれる者が傍にいな
939
ナルトもまた長門を信じる様にまっすぐに長門を見つめていた。だが、そんな二人の
思いを長門は受け取る事が出来なかった。
││外道・輪廻天生の術﹂
﹁ありがとう自来也先生。そしてナルト。だが、オレのこの手は血に染まり過ぎた⋮⋮。
そう言って長門はある印を組み始める。それはナルトはともかく、自来也すら知らな
い印だった。
アナタまさか
﹂
だが長門と共に在り続けた小南だけはその術を知っており、そして驚愕の声を出す。
﹁長門
!!
!?
来也も朧気に理解する。
何の術だってばよ
﹂
小南の反応から長門が使用しようとしている術がとてつもない何かだとナルトと自
﹁小南⋮⋮もういい。オレに新たな選択肢が出来た⋮⋮諦めていた選択肢が⋮⋮﹂
!
!?
の説明と術の名で予測してしまった。
その説明だけではナルトにはピンと来なかった様だが、自来也はその術の内容を小南
われている。長門の瞳力は生死を司る術。七人目のペイン。外道だと。
輪廻眼を持つ者はペイン六人全ての術を扱え、生と死の存在する世界の外に居ると言
ナルトの疑問には小南が答えた。
﹁何だ
NARUTO 第三十話
940
﹁⋮⋮まさか。止めよ長門
﹂
傷すら完全に癒えて。
﹂
﹂
!
﹁これは⋮⋮
﹂
死んだはずの者達が皆生き返っている
暁との戦いで死んだはずの死者が次々と蘇っているのだ。しかも死の原因であった
そして不思議な現象が木ノ葉の各地で起こった。
その口からは死者の魂が次々と開放されていき、その魂が死者の中へと入っていく。
閻魔像が出現する。
木ノ葉隠れの里の中央。神羅天征にて出来たクレーターの中心に突如として巨大な
◆
自来也の制止の声もむなしく、ここに外道・輪廻天生の術は発動した。
﹁さよならだ自来也先生﹂
!!
どういうことなんだ一体
﹂
!
!?
﹁まさか⋮⋮いえ、生き返っている
﹁なっ
!?
﹁そんな
!
アカネはその感知力で次々と蘇る忍を察知したのだ。
!?
941
そしてヒルゼン達に付いているカツユがナルトに付いているカツユを通じて得た情
報を教えてくれた。
この術で犠牲となった皆さんを生き返らせてくれたのでしょう﹂
﹁これはどうやらペインの能力の様です。ナルト君がペインを説得した為に、ペインは
﹁そんな術が⋮⋮﹂
﹁これも輪廻眼の力って奴なのか﹂
カツユの説明に驚愕するオビトとカカシ。そして同時にあのペインすら説得したと
いうナルトの器の大きさに感動する。
特にナルトと同じ様に火影を目指すオビトはより顕著だ。そしてナルトに負けない
﹂
様にもっと人として大きくならなければと心に誓った。
﹁⋮⋮これは﹂
﹁だ、ダンゾウ
!
!
ンを見て、今は輪廻眼に関しては置いておこうとアカネは思う。
ワシなんぞを庇って犠牲になるとは⋮⋮
お前がいな
眼の力の凄さをアカネは理解するが、ダンゾウと、そしてダンゾウの復活を喜ぶヒルゼ
アカネでさえ蘇生不可能だったダンゾウもこうして完全に蘇っている。改めて輪廻
そしてここにも輪廻天生にて蘇った者がいた。そう、志村ダンゾウである。
!!
﹁ダンゾウ この馬鹿が
!
NARUTO 第三十話
942
くなればワシは誰と喧嘩すればいいのだ⋮⋮
﹂
!
﹂
!
◆
﹁何だってばよ
何が起こったんだってばよ
﹂
!?
たカツユだ。カツユはペインとの戦闘中にナルトに様々な助言を与えていたのだ。
そんなナルトに現状を説明してくれる者がいた。それはナルトの服の中に隠れてい
るのだが、ナルトにはまだ理解出来ない。
小南の悲痛な表情に自来也の制止の声。二人がそこまで焦る程の何かが起こってい
!?
この時、何かに気付いた様にアカネが呟く。そしてアカネは││
﹁あ││﹂
た。
そんな二人を見てアカネ達も喜び、そして木ノ葉の里にも同じ様な光景が広がってい
るヒルゼン。
生き返ったばかりで激昂するダンゾウに、そんなダンゾウを見てより喜びを顕著にす
ろヒルゼン
﹁⋮⋮まさか死に損なうとはな。生き恥を晒したわ⋮⋮って、ええい暑苦しいから離れ
943
それって⋮⋮
﹂
﹁里の人達がどんどん生き返っています﹂
﹁
!
﹂
!
言葉だと自来也も気付いた。
その言葉を聞いてそれがかつて自分が長門達を拾う時に綱手達に説明したのと同じ
は紡ぐ。
かつて戦争孤児だった自分たちを拾って強く育ててくれた自来也と同じ言葉を長門
﹁それは⋮⋮
﹁木ノ葉に来てオレ達が殺めた者達ならばまだ間に合う。これがせめてもの償いだ﹂
だ。
て輪廻天生の術のデメリットも予想する。強力で便利な術には、代償があるものなの
更に自来也は術の効果と小南の反応、そして赤い髪が白く染まる程の長門の消耗を見
カツユの言葉はナルトに驚愕を与え、そして自来也に確信を与えた。
﹁やはり⋮⋮か﹂
!?
出来るだけの便利な術ではないのだと。
長門の消耗具合を見てナルトも気付いた。輪廻天生の術とは死者を生き返らす事が
﹁⋮⋮お前﹂
﹁ハァ、ハァ⋮⋮。安心しろ⋮⋮暁の連中は⋮⋮生き返らせてはいない⋮⋮﹂
NARUTO 第三十話
944
術の代償として術者は生命力を大きく削る事となる。しかも蘇生する対象の人数が
多ければ多い程、もしくは死亡した時間の経過が長ければ長い程その負担も大きくな
る。
長門は多くの木ノ葉の忍を蘇生させた。その負担は生命力に溢れるうずまき一族の
末裔である長門ですら耐えられない程だろう。
◆
そうしてナルトに全てを託し、長門は散っていった。
い⋮⋮。ナルト⋮⋮お前だったら⋮⋮本当に││﹂
﹁オレの役目はここまでのようだ⋮⋮。自来也先生⋮⋮ナルトを見守ってやってくださ
え続けるだろう。
が、それでもその言葉と長門が託そうとしているモノの意味は、きっとナルトは心で覚
ナルトはその言葉を聞き心に刻みこむ。一言一句頭で覚えるのは無理かもしれない
を、死を、それらが戦争であり、ナルトがこの先立ち向かう事になるものだと。
長門は最後の力を振り絞ってナルトに語り掛ける。戦いの先にある痛みを、憎しみ
られず⋮⋮死ぬはずがないと都合よく⋮⋮思い込む⋮⋮﹂
﹁戦いとは双方に死と⋮⋮傷と痛みを伴わせるものだ⋮⋮。大切な人の死ほど受け入れ
945
﹂
長門が外道・輪廻天生にて木ノ葉の里の忍を蘇生させた時、それにアカネとマダラ、そ
﹂
してイズナも同時に気付いた。
﹁む、これは
長門め、どういう心境の変化だ
?
それがマダラには理解出来なかった。
それがどうして自らの命を代償とする輪廻天生を使用して木ノ葉を救うというのか。
思を貫き続けていた男だ。
長門は戦争を憎み、それでも平和の為に戦争を利用するという矛盾を抱えながらも意
ぐに術の効果に気付き、そして疑問に思う。
自らもイズナに操られていたとはいえ輪廻天生の術を使用した事のあるマダラはす
﹁⋮⋮まさか、輪廻天生か
!?
!?
そしてマダラの肉体を操る力をマダラの意思を操る事に向け、そして口を開いた。
戦闘行為に意味がないと悟ったのだ。
いつしかマダラはその動きを止めていた。マダラを操っているイズナがこれ以上の
﹁そうか⋮⋮お前がそこまで言うのなら、きっとそうなのだろうな﹂
きっと私達の理想に近付けると思わせてくれる程にな﹂
﹁き っ と ナ ル ト だ ろ う。ナ ル ト に は 人 を 変 え る 不 思 議 な 力 が あ る ん だ よ。あ の 子 な ら
NARUTO 第三十話
946
﹁日向ヒヨリよ⋮⋮今回は貴様達の勝利だ﹂
﹂
?
﹂
それを説明してやる必要もあるまい だが、そうだな。やはり労力
!
が、そうすれば貴様も安寧の世界に導いてやる﹂
や犠牲は少ないに越した事はない。八尾と九尾を寄越せ。殺しても飽きたらない所だ
﹁ははははは
!
!
﹁どういう事だ
いるに過ぎん。最早月の眼計画は成就しているも同然なんだよ﹂
﹁そう、余興さ。全てはオレの手に集まっている。お前達はオレの手の平の上で踊って
がイズナは涼風でも当たったかの様に平然とアカネに言葉を返す。
アカネは空間すら歪みそうな程の怒気と殺気をマダラ越しにイズナに叩き込む。だ
アカネの怒りを買うのに十分過ぎる言葉だった。
木ノ葉の多くの人間を巻き込み傷つけたこの戦争を、イズナは余興だと言う。それは
﹁余興だと
くとも何の問題もないのだ﹂
﹁だが所詮はただの余興だ。オレにとってはな。ここでお前達が死ねば良し。そうでな
最も親しい友とその弟の差くらい見抜けないアカネではなかった。
その変化にアカネはすぐに気付いた。イズナという存在が裏にいると知っていれば、
﹁⋮⋮イズナか﹂
947
﹁ふざけるなよ。私がそんな条件を飲むと思っているのか
応を見て愉しんでいるだけなのだ。
﹂
当然イズナはアカネがそんな条件を飲む訳がないと理解している。ただアカネの反
の世界に連れて行ってやる。そうイズナは言っているのだ。
八尾と九尾、つまりは雷影の弟であるキラービーとナルトを生贄にすれば永遠の幻術
?
﹂
だが、月の眼計画に賛同していれば良かったと後悔しても遅いぞ
はははははは
その
﹁そうだろうな ならばせいぜい守るんだな 八尾と九尾を守る為に戦力を集める
といいさ
!
二人を守る為にどれだけの人間が無駄死にするかな
!
?
!
元に呼び戻し、消えた。
イズナは本体と操作するマダラの両方で高笑いしながらマダラをその場から本体の
?
!
暁と木ノ葉の死闘はこれにて幕を閉じた。唯一生き残った小南は長門と天道の肉体
◆
アカネはその決意を固めた事をマダラに静かに謝った。
イズナを止める決意。それはイズナを││
﹁イズナ⋮⋮お前は必ず止める。⋮⋮⋮⋮すまない、マダラ﹂
NARUTO 第三十話
948
であった弥彦の亡骸を持って木ノ葉を去った。
自来也が共にいる事を提案したが、それを小南は拒否した。小南は長門が信じたナル
トを信じ、雨隠れにてナルトと共に二人の夢を追い掛けると告げて雨隠れへと戻って
行った。
ナルトは小南と別れた後に木ノ葉に戻ろうとする。だがやはり激戦に次ぐ激戦を乗
り越えた為かその疲労は大きく、道中で倒れそうになる。
だがそれを自来也が支えた。そして改めてナルトに向かって言葉を放つ。
﹂
﹁よく帰って来た
﹁信じてたぞ
﹂
!
!
!
﹁お前は英雄だナルト
﹂
そして誰もが一斉にナルトに向けて声を掛ける。
ノ葉の民が待ち構えていた。
そのまま自来也がナルトを背負い木ノ葉に帰還する。するとそこには多くの忍や木
る。
自来也の言葉にナルトは疲労も忘れて笑顔を浮かべ、そして自来也の背に顔を埋め
﹁へへ⋮⋮﹂
﹁よく、頑張ったな。お前は⋮⋮お前はワシの自慢の弟子だ﹂
949
﹂
﹂
﹁ありがとう
﹁おかえり
﹁自来也様も帰っているぞ
﹂
﹁おかえりー
﹂
!
﹁敵はどんなだった
﹂
?
﹂
!?
押すなってばよ
﹂
﹂
!
﹁怪我してない
!
今までこんな風に羨望や憧れの目を向けられた事がないナルトは群がってくる無数
﹁イテ
﹂
が、それでもナルトが諦めなかったからこそこの未来を掴み取れたのだ。
全てはナルトの諦めない根性と忍道が招いた結果だ。他人の助けはもちろんあった
た。
かつては多くの者から蔑まれていたナルトが、今は多くの者から慕われる様になっ
木ノ葉を救ってくれた英雄の帰りを。
カツユが事の顛末を里の皆に話した事で誰もがナルトの帰りを待ち構えていたのだ。
﹂
﹁ナルトーー
﹁とにかくよかった
﹁自来也様も生き返ったのか
!?
!
!
!?
!!
!
NARUTO 第三十話
950
の子ども達に戸惑っている様だ。
ヒナタ
﹂
そこにアカネに背を押されたヒナタがナルトに向かって近付いていく。
﹁ん
?
た。
だが、戦乱の芽はまだ潰えていない。それを知る者はこの場には僅かしかいなかっ
こうして木ノ葉隠れに新たな英雄が生まれた。
も二人の進展を見守っている様だ。
それを暖かい目でアカネは見守る。サスケやサクラ、そしてナルトとヒナタの同期生
た。
ナルトが生きて帰ってきてくれた事を誰よりも安堵し、ヒナタはナルトに抱きつい
﹁ナルト君⋮⋮良かった。無事で良かった⋮⋮﹂
?
951
NARUTO 第三十一話
暁の脅威が去って僅か一日。木ノ葉の里は早くも復興の兆しを見せていた。
それと言うのも一人の忍の活躍が大きかったからだろう。その忍の名はヤマト。か
つてはテンゾウという名で暗部に所属していた木ノ葉唯一の木遁使いである。
かつての大蛇丸の人体実験により初代火影柱間の細胞を埋め込まれた多くの実験体
の中で唯一の適合者であり生き残りがヤマトだ。それ故に彼は柱間のみの秘術であっ
た木遁を使用出来るのだ。
その木遁を巧みに使用して一瞬で大量の家屋を作り出す。職人が複数人で掛かって
何日も掛けて行う作業を僅か数秒足らずで行うのだ。復興速度は桁違いだろう。
人が生活する上で住居があるとないとでは大違いだ。ヤマトの活躍はまさに木ノ葉
の影の救世主と言えた。⋮⋮もっとも、それは彼の疲労と引き換えに得た実績だった
が。
アカネのチャクラ譲渡があったとはいえ、一日足らずで木ノ葉の住民全員が住める家
﹁お疲れ様でした。はい、チャクラを分けてあげますね﹂
﹁も、もう駄目だ⋮⋮これ以上は死ぬ⋮⋮﹂
NARUTO 第三十一話
952
屋を作り出したヤマトは肉体的にも精神的にも疲労困憊であった。
ノルマをこなし終えた後に疲労回復の為のチャクラを譲渡され、ヤマトはようやく開
放された。
さて、里が復興に向けて動いている中、一部の忍達が一同に集まって会議を開いてい
た。
布団なども一切備え付けられてないのでそのまま床に寝転がって泥の様に眠りについ
考えても意味がない事に気付いたヤマトは自分で作った家の中に入り、作りたて故に
だな、今は何も考えずに休もう﹂
がいるから休憩すらなくこれだけの作業をこなさなければならなかったのか⋮⋮不毛
﹁アカネがいるからこれだけの作業をどうにかこなせたと思うべきか。それともアカネ
消滅した影分身を見てヤマトはぽつりと呟く。
消えた。どうやら影分身のアカネだったようだ。
まさに救世主に相応しい活躍をしたヤマトに労いの言葉を掛け、アカネはその場から
どではないでしょうが大変なのでゆっくり休んでください﹂
﹁明日には足りない家屋や設備などが書類に纏められていると思います。明日も今日ほ
953
た。
参加者は木ノ葉の上役に三代目火影、五代目火影、志村ダンゾウ、自来也、うちはと
日向の長、火影の両腕、名だたる名家の代表に、多くの上忍達、そしてアカネである。
﹁皆、里の復興に忙しい中だが良く集まってくれた﹂
まず木ノ葉のトップである五代目火影綱手が集まった面々にそう告げる。綱手は暁
襲撃の一件で酷く消耗していたが、アカネの治療とチャクラ譲渡により元の体調に戻っ
ていた。
要な話をする為だ﹂
﹁今回集まってもらったのは他でもない。今後の木ノ葉、そして忍界の未来について重
綱手の言葉がなくとも誰もが理解していた。暁の脅威は去ったがそれは一時的な物
に過ぎず、残る暁は少なくとも多くの尾獣を有するその戦力はけして侮ってはならない
ものなのだと。
里に向けて緊急の会談を要請していたが、それらは全て却下されていた。
そう言う綱手の表情には僅かな苛立ちがあった。これまでに幾度も砂隠れと共に他
を奪われている現状ならば五影会議も開かれるだろう﹂
ら再び五影会談を開く様に申請してある。⋮⋮多くの里から人柱力が連れ去られ、尾獣
﹁暁に関しては五大国全てとその隠れ里で協力するべきだが、それに関しては私の方か
NARUTO 第三十一話
954
ここまで緊急を要さない限り協力する切っ掛けすら出来ない忍界の現状に苛立ちを、
そして憂いを持っているのだろう。
いて知ってもらった方が良いと思いますので﹂
話す情報は眉唾物と取られそうですので、まずはその信憑性と説得力を得る為に私につ
﹁ですが、暁に関して話す前に皆様に私について知ってもらおうと思います。これから
で察する事が出来るのは流石は名だたる忍の集いと言うべきだろう。
アカネに何らかの秘密や事情がある事を理解していた。僅かな気配の動きからそこま
だがアカネの事情を知る者からはその困惑が全くない事から、幾人かの忍はそこから
全員がその気配を消している。
アカネが前に出る事に多くの忍から困惑の気配が漏れるが、それは僅かでありすぐに
しては私がより詳しい情報を得ているので、こうして皆様の前で話させて頂きます﹂
﹁初めましての方もいらっしゃるので自己紹介を。日向アカネと申します。残る暁に関
促されるままにアカネは綱手の横まで移動し、そして多くの忍へと向き直した。
来るように促す。
そこまで話して綱手は部屋の一番後ろに座していたアカネに言葉を掛け、そして前に
カネ﹂
﹁だがそれは別として木ノ葉の里でも皆に知ってもらいたい情報が幾つかある。⋮⋮ア
955
アカネという少女について詳しく知ればどう説得力が出るというのか。その真意が
理解出来ない者が多いが、相手は下忍と言えど五代目火影である綱手が呼んだ忍であ
る。誰もが文句も言わずに黙ってその推移を見守っていた。
﹁先ほどは初めましてと言いましたが⋮⋮こうして見ると多くの者と知り合いだったり
しますね。では改めて。私は日向ヒヨリの転生体、日向アカネと申します。生前よろし
﹄
くしていた方もしていなかった方も、今後ともよろしくお願いしますね﹂
﹃⋮⋮は
﹂
﹁ヒヨリ様の⋮⋮
﹂
介を理解するには一瞬以上の時間を要する様である。
今度こそ多くの忍から呆けた様な声が漏れ出ていた。流石の名だたる忍達もこの紹
?
?
?
﹁はい﹂
﹁あの初代三忍の
﹂
﹁ヒヨリ様って⋮⋮﹂
する。
自分達の耳か頭が壊れたのかと確認する様に呟いた言葉をアカネがにこやかに肯定
﹁はい﹂
﹁転生体
NARUTO 第三十一話
956
?
﹂
再び念を入れるかの様に多くの忍がアカネに確認をする。だが返って来るのは年頃
の少女のにこやかな笑顔と肯定の言葉だ。
﹁すまないが、それが嘘ではないという証拠はあるのか
た。
そして奈良シカマルの父である奈良シカクを見つけ、アカネはある情報を思い出し
とアカネは考える。
せっかくだからそれ以外の者からどうにか証拠になる様な物を出す事は出来ないかな
もちろん事情を知っている綱手や自来也などに説明を頼めばそれでいいのだろうが、
から提出する事は出来ないだろう。
頃にいのいちとまともに会話した事など殆どなく、彼を納得させるだけの材料をアカネ
アカネはいのいちの事を知っているが、それは文字通り知っているだけだ。ヒヨリの
や記憶など証拠になる物はあるが、いのいちに対してそれを証明する事は難しい。
証拠と言われたアカネはどう答えるか悩み周囲を見渡す。生前と同じチャクラの質
﹁そうですね⋮⋮﹂
であった。
もいきなりは納得出来ないのだろう。しかも転生前の人物が日向ヒヨリとあらば尚更
そう聞いて来たのは山中いのの父親である山中いのいちだ。やはり転生と言われて
?
957
﹁⋮⋮38戦38勝0敗﹂
その言葉の意味は誰にも、アカネの前世であるヒヨリについて最も詳しいだろう綱手
やヒルゼンにも理解出来なかった。当然いのいちにもだ。
だが一人だけその勝敗を聞いて僅かに反応する者がいた。そう、奈良シカクである。
日向ヒヨリ。そして自分。その対戦成績。これらを結びつける記憶がシカクには確
﹁それは⋮⋮﹂
かにあった。
偶然の一言で片付けるには正確過ぎる数字の指摘。そしてヒヨリが誰かに話す事は
まず考えられず、例え話していたとしてもこの情報が日向一族とはいえ今の世代に伝わ
﹂
る事もまずないだろうとシカクは考える。
?
﹁ほ、本当にヒヨリ様なのかシカク
﹂
事だといのいちは理解しているのだ。
そんな二人を見ていのいちは驚愕する。シカクが認めるという事はまず間違いない
ないシカク。
懐かしそうに過去を想うアカネと、それをどこか信じ難く思いつつも納得せざるを得
﹁懐かしいですねシカク⋮⋮﹂
﹁まさか、本当にヒヨリ様なのですか
NARUTO 第三十一話
958
!?
﹁⋮⋮これまでの情報を統合するに、まず間違いはないな﹂
シカクはこれまでの情報全てを統合して思考し、そして結論を出した。これまでの情
報とはこの会議に置けるアカネの発言だけでなく、シカクがこれまでの人生で耳にした
アカネの情報の全てという意味だ。
三年前の木ノ葉崩しに置けるアカネの活躍、里に無数に散らばる多重影分身、多くの
忍を鍛える手腕、日向一族の秘蔵っ子。幾つか眉唾な噂もあったが、これらに前世が日
向ヒヨリという情報を絡めると納得も出来るという物だ。
シカクは木ノ葉でも、いや世界でも右に並ぶ者が少ない程に頭が切れる忍だ。そのI
Qは200を超えるのではないかと言われる程にだ。
そのシカクがここまで断言するからには本当にまず間違いないのだろう。それほど
いのいちはシカクの頭脳を信頼していた。
﹂
やはり文字通り対戦成績なのだろうと予測する。
いのいちだけでなくこの場の全ての忍がそれを気にしていたが、それでも多くの者は
という事になる。
体だという奇想天外な話を納得した。ならばこれはそれだけ説得力のある情報だった
いのいちが気になるのはそこだ。この成績を聞いてシカクはアカネがヒヨリの転生
﹁シカク、先ほどの対戦成績は何なんだ
?
959
ヒヨリに勝てる忍など他の初代三忍以外にまず考えられず、老いていたとしても若か
りし頃のシカクでは勝ち目はなかっただろう。38勝0敗という成績も当然という物
だ。
﹁38戦38勝0敗⋮⋮ふふ、強かった。⋮⋮シカク、あなた強すぎますよ⋮⋮﹂
﹄
﹁戦闘ではともかく、将棋ならば負けるつもりはありませんな﹂
﹃将棋かよ
したからな﹂
﹁飛車角落ちならばまだ良い勝負になったでしょうが、ヒヨリ様は頑なにそれを拒みま
る。
全員が総突っ込みをする。どうやら38勝はヒヨリではなくシカクの戦績の様であ
!!
など屈辱の極み
﹂
﹂
﹁⋮⋮飛車角落ちでも負けるのが怖かったという事は
﹁⋮⋮そ、そんな事、ないよ
?
!
!
!
結果は先も説明してある通り全敗。千年を超える年月を生きる中で覚えた将棋も、真
将棋を指していたのである。
とまあ、この会話から分かる様に、かつてヒヨリは暇な時間を見つけて偶にシカクと
?
﹂
﹁当然です 対等の相手に勝ってこそ勝利の喜びがあるというもの 手加減される
NARUTO 第三十一話
960
の天才の前には呆気ない物であった。アカネのIQでシカクに将棋で勝つには、それこ
そ一つの人生を将棋に捧げなければならないだろう。
うちはマダラと言えばうちはの英雄なのだ。千手柱間や日向ヒヨリと共に木ノ葉の
謀者だと察し、そして表情には出さずとも苦い思いをしていた。
ここまでを聞いたフガクはアカネが首謀者の名前を言い切る前にうちはマダラが首
﹁今回の事件⋮⋮いえ、忍界に置ける様々な事件の裏にいる首謀者⋮⋮それは││﹂
転生体である事を理解してもらったところでアカネは本題に移る。
他にも様々な質問があるだろうが、今はそれどころではないのだ。自身が日向ヒヨリの
どうやって転生したのか、なぜ転生したのか、記憶と共に実力も引き継いでいるのか、
話を進めさせてもらいます﹂
﹁さて、私に関してまだ納得出来ない方もいらっしゃるとは思いますが、それは後にして
もが理解し受け入れた。流石は年の甲と言うべきか。場を支配する力は高い様である。
ヒルゼンの言葉を聞いて会議室は一気に静まり返り、そして改めてアカネの存在を誰
混乱する場をヒルゼンがそう言って締めた。
と思う﹂
知の上じゃ。今まで黙っていたのは無用な混乱を避ける為であるのは理解してくれる
﹁ま、まあ、将棋はともかくだ。アカネがヒヨリ様の転生体である事は上層部の全てが承
961
基盤を作り上げ、第一次忍界大戦にて破竹の活躍を成して三忍の二つ名を有した忍。
今でもマダラを尊敬し、マダラを目指すという者はうちはに少なくない。フガク自身
はマダラが木ノ葉に反旗を翻し、柱間と死闘を繰り広げたという隠された歴史を知って
いるが、殆どの忍はそうではないのだ。
それが覆されるのかと思うと、うちは一族の当主としてはやはり受け入れがたいもの
があった。
だが、アカネの口から出た首謀者の名前はフガクが予想だにしていなかった物だっ
た。
﹁││うちはイズナです﹂
﹄
!?
んだはずでは
というもの。もう一つは、誰だそれは
というものだ。
?
に埋もれてしまったのだ。更にはイズナが自ら歴史の影へと消えていった事も大きな
在のイタチやサスケに勝るとも劣らぬ実力者であっただろう。ただ、偉大すぎる兄の影
第一次忍界大戦にてイズナはかなりの戦果を上げている。当時の単純な実力でも現
していない、という訳ではなく、単純に兄であるマダラの偉業が大きすぎるのが原因だ。
イズナの名はマダラと比べると認知度が低い。それはイズナが名が広まる程に活躍
?
うちはイズナ。その名を聞いた者の反応は二つに分かれる。一つは、イズナはもう死
﹃
NARUTO 第三十一話
962
原因だろう。
大戦当時から今も生きる者や、そうでなくても経験を積んでいる者、博識な者はイズ
ナの名を知っているが、それでもまだ若いと言える忍はイズナの名を知らずとも致し方
ないと言えた。
﹂
いや、例え生きて
そうしてイズナを知らぬ者が困惑する中、イズナを知る者から別の困惑の声が上がっ
た。
うちはイズナはとうの昔に死んでいるはず⋮⋮
いたとしてもどれだけの高齢か⋮⋮。この様な事件を起こせるとは到底思えませぬ
﹁馬鹿な⋮⋮
!?
フガクの疑問も、そしてアカネのその考えも至極全うなものだ。人は永遠ではない。
ノ葉から出奔し、そしてそのまま何処かで、と﹂
﹁私もイズナはとうに死んだものと思っていました⋮⋮。マダラが死んだ事が原因で木
出奔したというものがあった。
その知識の中で、イズナはマダラが反旗を翻し柱間によって討たれた後に木ノ葉から
や過去の人物について詳しく理解している。
フガクも当時を生きる者ではなかったが、それでも一族を率いる当主としてその歴史
上がった。
その疑問は当然と言うべきか、うちは一族について誰よりも詳しいはずのフガクから
!
!
963
どれだけ強くとも、どれだけ賢しくとも、どれだけ優れていようとも、寿命は等しく存
在する。
イズナが木ノ葉から離れてどれだけの年月が経ったか。五十年生きれば長生きと言
われるこの時代で、既に七十を過ぎたヒルゼンやダンゾウよりも遥かに年上のイズナが
今を生きているなどどうして思えるのか。
﹂
!
が話を切り出した。
全員が事態を飲み込めただろうという十分な時間が過ぎた頃に、アカネに代わり綱手
に知らされれば無言にもなろうと言うものだ。
の中のどれか一つだけでも忍界を揺るがす事が出来るだろう。それがこうも立て続け
マ ダ ラ の 裏 切 り の 真 実。イ ズ ナ の 暗 躍。輪 廻 眼。月 の 眼 計 画。十 尾。無 限 月 読。こ
を信じ切れず、それでいてなお激しく危機感を感じていた。
アカネが全てを話し終えた後、室内を支配したのは静寂であった。誰もがアカネの話
その言葉を皮切りに、アカネはマダラとイズナから得た情報を語り始めた。
あったのです⋮⋮
﹁ですがイズナは生きていた。そして、マダラが木ノ葉を裏切ったその原因も、イズナに
NARUTO 第三十一話
964
おおごと
﹂
!
﹁未来とは、平和とは、一人の人間によって与えられる物ではない
全員で掴み取って
こそ意味がある物だ それをイズナに示す為にも忍界全てが手を組まねばならん
!
ねばならないのだ
﹄
皆の力と想い、私に貸してくれ
﹂
!
﹁ともかくだ。今はどうなるか分からん五影会談の問題よりも現状分かる問題に関して
が痛くなるヒルゼン達であった。
れで上手く五里が纏まるだろうか。砂隠れはともかく、残りの三つに関して考えると頭
だが問題はその手を組むべき他里なのだ。恐らく五影会談は開催されるだろうが、そ
そう安堵する。
これで木ノ葉の意思に問題はないだろう。ヒルゼンとダンゾウは成長した綱手を見て
綱手という木ノ葉を照らす灯火の元に、木ノ葉の思いは一つに纏まろうとしている。
﹃はっ
!!
!
皆も他里に思う所はあるだろう。だが、里と里という垣根を超えて人と人が手を結ば
!
!
来る事をしなければ。そうした思いが全ての忍に宿っていく。
そうだ。事の大きさに呆けている場合ではない。この事態をどうにかする為に今出
綱手の言葉に誰もがその眼に力を取り戻す。
るのは永遠の平和という名の支配だ。そんな事を許すわけにはいかん
﹁分かったはずだ。これがどれ程の大事かを。イズナをそのままに放置すれば待ってい
965
纏めるべきだろう﹂
そう言って綱手はフガクに視線を向け、そして口を開く。
﹁フガクよ。別天神に関して⋮⋮この場の者達に説明する事になるが、構わないな
﹂
その綱手が別天神に関して何らかの情報を得ている。ここからアカネが予測出来る
だ。
関して詳しいとは思えない。火影という立場とはいえ、全てを知っている訳ではないの
だが綱手はそうではない。しばらく木ノ葉から離れていた綱手がそこまで万華鏡に
して知りえていてもおかしくはないだろう。
華鏡の力や情報が記録として残っている可能性もある。そこからフガクが別天神に関
フガクが知っているのは何の疑問も抱かない。うちはの当主として過去にあった万
た万華鏡の力を、この二人は既知であるように聞こえたからだ。
この二人の会話を聞いたアカネは疑問に思う。別天神というアカネすら知らなかっ
が、この状況にあっては致し方ないかと⋮⋮﹂
﹁⋮⋮ は っ。あ れ は う ち は に と っ て も 木 ノ 葉 に と っ て も 最 も 秘 す る べ き 力 で あ り ま す
?
﹂
事は一つ。火影の右腕であるうちはシスイ。彼から何らかの情報を得ているという事。
いや、もしかしたら││
﹁⋮⋮もしや、別天神の使い手が今のうちはにいるのですか
?
NARUTO 第三十一話
966
アカネは疑問をそのままに綱手にぶつける。そして綱手の答えは⋮⋮肯定だった。
ては看過出来なかった。
と言って別天神という力を持たせたまま自由にさせるという事は、木ノ葉の上層部とし
それだけではない。シスイという人物は誰からも認められる人格者であるが、だから
たのだ。これはアカネすら例外ではなかった。
う。そんな力を周囲に知らしめる訳にはいかず、ごく僅かな人数で機密として守ってい
火影に仕掛けたとすれば、木ノ葉その物を裏から支配する事も不可能ではないだろ
の上層部に仕掛ければ下手すれば組織の全てを操りうる可能性を持つ力だ。
対象に幻術を掛けられていると気付かせずに思考を誘導・操作するその術は、一握り
か知りえない情報だった。それほど別天神の力は凄まじいのだ。
この情報は木ノ葉を揺るがしかねない最重要情報だったので、火影と僅かな上層部し
あった。
つ者がいるのだ。これを悪用すればどうなるか。下手すれば里が割れかねない情報で
この情報に多くの忍が驚愕する事となる。当然だ。かつての大英雄を操った力を持
れも両目ともに﹂
﹁はっ。私の万華鏡写輪眼はもうお察しされたかと思いますが⋮⋮別天神なのです。そ
﹁ああ⋮⋮。シスイ、説明しろ﹂
967
故にシスイにはある呪印が施されていた。緊急時に置いては現火影の了承が、そうで
ない場合は火影と相談役二人、そしてダンゾウの四人の了承がなければ別天神を使用出
来ないという呪印だ。
これによりシスイは要注意人物とみなされながらも自由を得ていたのだ。下手すれ
ば国を乗っ取る事も可能な力だ。これは穏便な処置と言えるだろう。
これらの情報を聞いて多くの忍が安堵のため息を吐いていた。これならば本人は当
然として、第三者がシスイを抱き込んで悪用する事も容易ではないだろう。
綱手がシスイに関する境遇や状況を説明した後、シスイは別天神に関して詳しい情報
を伝えていく。
もっとも、その幻術としての力に関しては大体がアカネがマダラから得ていた情報と
変わりはない。あえて言うならば再使用に必要とされる時間に関してだろうか。
効果だけを見ればまさに最強幻術の名に相応しい別天神であるが、やはり強すぎる力
にはそれなりのデメリットも存在していた。
別天神は一度使用すれば、再使用までに十数年もの年月を必要とするのだ。
﹂
?
事でした。その後はこの力を上層部とフガク様に説明し、封印に至りました﹂
﹁私が万華鏡写輪眼に目覚めた時の事ですね。二十年近くも前、霧隠れの忍と交戦中の
﹁シスイ殿が最後に別天神を使用したのはいつ頃なのだ
NARUTO 第三十一話
968
﹂
シカクの質問に対してシスイが説明をする。それに対してシカクは微笑を浮かべて
頷いた。
﹂
﹁そうか⋮⋮つまり別天神を使用する事に問題はないのだな
﹁ええ、それはまあ⋮⋮﹂
未知数なので⋮⋮﹂
﹁上手く行く保障はありませぬ。いえ、普通ならば問題ないのでしょうが、正直敵の力が
﹁⋮⋮なるほど﹂
﹁いい案という程ではありません。誰でも思いつく程度の事です。つまりは││﹂
綱手の期待に応えるかの様に、シカクは自身の考えを述べていく。
難敵を相手に効果のある作戦はいくらでも欲しいというのが綱手の本音であった。
そんなシカクの立てる作戦ならばその信頼性も高い。イズナという予想もつかない
いだろう。
は先も説明した通り非常に頭の切れる忍だ。恐らくは木ノ葉一と言っても過言ではな
何やら含み笑いをするシカクに対して綱手は若干の期待を籠めて確認する。シカク
﹁何かいい案でもあるのかシカク
?
?
969
﹁いや、可能性はある。いけるかシスイ
﹁恐らくは⋮⋮ですが﹂
﹂
﹂
後イズナ陣営のみに対して別天神の使用を許可する﹂
﹁はっ
そうして綱手は様々な情報と今後の対応について会議を続けていく。
﹁では次だが││﹂
よ﹂
しばらくして話題に上がったのは大蛇丸に関してであった。
イタチ
﹁良し。今回は非常事態に当たり、シスイの別天神の封印を一部解除する。シスイよ、今
上手く行けば││そう考えるだけでアカネの心は高揚していた。
る事を知らないというのも強みだろう。
別天神の力を考えれば可能性は高い。特にイズナがこちら側に別天神の使い手がい
﹁そうか。いや、十分だな﹂
?
ろうとすら言われている危険人物だ。実際仙術を身に付けた大蛇丸に確実に勝てると
二代目三忍にして木ノ葉の裏切り者。その力は五影にすら匹敵、下手すれば上回るだ
?
!
﹁大蛇丸に関してだが⋮⋮奴が自力で幻術から抜け出る可能性はないんだな
NARUTO 第三十一話
970
言える五影はいないだろう。
そんな大蛇丸だが、今はイザナミの幻術の中だ。ここから自力で脱出するのは不可
能。抜け出るには己を変革せねばならないという、別天神とは別の意味で厄介な幻術
だった。
﹂
?
死なぬように栄養補給を行いつつ、厳重な封印を施して管理する事とする﹂
﹁ふむ⋮⋮分かった。イタチの言い分も皆の心配ももっともだ。大蛇丸に関しては現状
る方が危険だとイタチは言う。
むしろどこで復活の禁術を仕掛けているか分からない分、殺して処分という方法を取
らば。その時は木ノ葉に仇なす事はもうないと思われます﹂
しょう。そうでないならば、過去の過ちを悔い、かつての自分を思い出す事が出来たな
﹁大蛇丸が生まれついての邪悪であるならば⋮⋮二度と幻術から抜け出せる事はないで
かく、そうでない一族の者はあの大蛇丸がそれで更生するとは到底信じ切れないのだ。
そう心配する声が周囲から上がる。イザナミの力を理解しているうちは一族はとも
いとは限らないのでは
﹁⋮⋮だが、それで大蛇丸が過ちを理解し幻術から抜け出したとして、木ノ葉に仇なさな
でしょう。今の自身を保ったまま自力で抜け出せる事は不可能です﹂
﹁はい。大蛇丸が幻術から抜け出せた時、それは奴が自らの過ちを理解し受け入れた時
971
そう結論付けた後、綱手は申し訳なさそうにイタチを見た。その視線は特にイタチの
左目へと注がれている。だが綱手はその立場上言いにくい事があり、それを察した自来
也は綱手の代わりにイタチへと謝罪の言葉を掛けた。
﹁すまんなイタチ。本来ならばあやつは友であったワシが止めるべきだった⋮⋮。ワシ
の力不足がお前に犠牲を強いる事となった⋮⋮。面目ない﹂
﹁いや、師であるワシが大蛇丸の変化を察してやれなかった事が原因よ。ワシが止める
事が出来ておれば⋮⋮すまぬ﹂
木ノ葉隠れの長として公の場では素直に謝罪するわけにもいかない綱手に代わり、自
来也とヒルゼンが謝罪をする。いや、例え綱手の代わりという名目がなくとも、この二
人は謝罪をしていただろう。それほどに大蛇丸に関して責任を感じていた。綱手もこ
の場に第三者がいなければ同じく謝罪していただろう。
それを理解出来ているイタチは三人の気持ちを汲み取り、その謝罪を受け取った。
⋮⋮﹂
﹁うん
どうした
﹂
?
イタチの言葉が自身に向けられていると知った自来也は、内心で何を聞かれるか理解
?
み。あまりお気になさらないで下さい。それよりも、お聞きしたい事があるのですが
﹁お心遣いありがとうございます。ですが、私は木ノ葉の忍として抜け忍を捕らえたの
NARUTO 第三十一話
972
しつつイタチに問い返した。
﹂
?
る。
そうして自来也に関しての説明が終わったところで、綱手がイタチへとある確認をす
小隊が運んでいるなどというのは忍の世界では珍しい事ではない。
だ。小隊の誰もが密書を運ぶ依頼だと思っていても、実はそれは囮で本物の密書は別の
自来也の言い訳で一応は全員が納得の意を見せた。忍の世界では良くある手法なの
﹁ま、まあ、ぶっちゃけるとだ。敵を騙すにはまず味方から、という訳だのゥ﹂
である。
ほぼ全員からの冷静な突っ込みが入る。まさに火影を火影と思わぬ無情の突っ込み
﹃そんなの見れば分かります﹄
﹁自来也が死んだと言ったな⋮⋮あれは嘘だ﹂
た。
こうなるだろうと理解していた綱手と自来也は互いに頷き、そして綱手が口を開い
意する様に頷いた。
会議が始まってから誰もが突っ込みたかったその質問に、事情を知らぬ多くの忍が同
﹃⋮⋮﹄
﹁⋮⋮自来也様はお亡くなりになられたのでは
973
﹁ああ、イタチ、今の大蛇丸から情報を得る事は出来るか
﹁可能です﹂
◆
﹂
る時かもしれない。それがいつになるかは誰にも分からないが。
いつか彼が幻術から解き放たれた時、その時はもしかしたら二代目三忍が再び終結す
議題は終了した。
様々な情報から下した綱手の処置に対して異論を挟む者はおらず、大蛇丸に関しての
﹁ならば後ほど私と共に来てくれ。以上で大蛇丸に関しては終了とする﹂
?
るべく、アカネはうちはの人間を伴ってそのままフガクの家へと移動した。
アカネもまた同様だ。アカネにもするべき事は多いのだ。その内の一つを終わらせ
綱手の言葉と共に、多くの忍が解散してその場から離れて行く。
だ﹂
空いた者や任務までに時間のある者は出来るだけ里の復興を手助けしてほしい。以上
﹁ではこれにて会議を終了とする。皆はそれぞれ与えられた任務に当たってくれ。手の
NARUTO 第三十一話
974
そうして一同がフガクの家に到着し、人払いをした一室にて集まる。そこには会議に
はいなかったサスケの姿もあった。
﹂
?
そ、そんな訳ないだろう﹂
!?
ないだろう。
まさに図星を言い当てられたサスケ。だがサスケの気持ちを理解出来る者は少なく
﹁
スケ
﹁永遠の万華鏡写輪眼があれば誰にも負けない。そんな風に考えていませんでしたかサ
る。
そう思っていたサスケだが、アカネの鋭い視線を受けて冷水を掛けられた思いとな
ら望める。この永遠の万華鏡があればどんな敵でも倒せるだろう。
まさに夢の様な情報だ。万華鏡写輪眼の唯一の欠点がなくなるばかりか、更なる力す
性もあるという。
くなる。まさに永遠の瞳力を手に入れられるのだ。その上新たな瞳力に目覚める可能
永遠の万華鏡写輪眼。従来の万華鏡と違い、視力の低下や使用時の肉体への反動がな
こから語られた話はとんでもない物だった。
サスケは会議とやらが気になるが、今はそれは置いておきアカネの話に集中する。そ
﹁では、先の会議にて敢えて話していない情報について語ります﹂
975
先の暁が起こした戦争にて、ただでさえ己の力不足を見せ付けられた想いだったの
だ。次は負けない様、誰かに守られなくてもすむよう、更なる力を欲する。それは浅は
かと一言では言えない感情だろう。
だが、容易に苦労もせずに手に入れた力で間違える者は多い。万華鏡に至ったのはサ
スケの才能と不幸な状況だが、こうも容易く永遠の万華鏡写輪眼を手に入れてはサスケ
が慢心しかけても致し方ないだろう。
﹁少し考えが変わりました。サスケ、しばらくは万華鏡写輪眼の特訓をします。新たな
力とそのリスク。それらを理解した時、永遠の万華鏡に関して再び話をしましょう﹂
﹁う⋮⋮。くそ、分かったよ⋮⋮﹂
サスケとしては早く永遠の万華鏡が欲しかったが、アカネにこうも言われた上に、周
囲にいる逆らいがたい面々││フガク・イタチ・シスイ││がいればNOとは言えな
かった。
後に、サスケは別の意味で永遠の万華鏡写輪眼を欲する様になる。あんな化け物にた
だの万華鏡で勝てるか。それがサスケの言い分であった。
﹂
?
イタチとしてもアカネの言い分に異論はなかった。サスケが間違った道に進む前に
﹁ああ﹂
﹁イタチさんもそれでいいですか
NARUTO 第三十一話
976
正そうとしてくれているのだ。異論などあるはずがなかった。
そんな二人の会話を聞いてサスケは考える。あの時、大蛇丸が言ったアカネの正体。
それを兄や父は知っているのだろうか、と。
恐らくだが父は知っているだろうと予測出来た。サスケがアカネの修行を受けてい
ると知った時の父の反応。今思えばあれはアカネの正体を知っているからこその反応
だろう。
更に同じ理由でカカシも知っていると予測出来る。サスケと綱手が初対面する前に、
カカシが父と似たような反応をしたのをサスケは気付いていたのだ。
父が知り、カカシも知る。ならば当然だが火影も知っており、火影の右腕たるシスイ
も知っているだろう。ここまで来れば一定以上の実力者や上層部は知っているはずと
サスケは考えた。
﹂
そうして膨らんだ疑問や好奇心を抑える事はサスケには出来なかった。なので、他に
誰も聞いていないこの場でサスケは疑問をぶつけてみた。
﹁アカネ⋮⋮お前が日向ヒヨリの生まれ変わりだというのは本当か
﹄
﹁なるほど、やはり真実か⋮⋮﹂
サスケの言葉に対する全員の僅かな反応。それだけでサスケも理解した。
﹃ッ
!?
?
977
﹁⋮⋮大蛇丸か
﹂
何でだ
むしろ納得したし、安心したくらいだ﹂
﹂
﹁全く。面倒事しか作らないなあいつ⋮⋮。ええ、黙っていてすみませんでした。仰る
アカネの確認に首肯するサスケを見て、アカネはため息を吐く。
アカネもサスケがその情報を知りえる可能性を考え、そして答えに行き付いた。
?
通り、私は日向ヒヨリの生まれ変わりですよ。⋮⋮幻滅しましたか
﹁幻滅
?
?
すれば、この世の誰も才という物を持たずに生まれている事になるだろう。
から自分の才能が低いわけではないと安心したくらいである。サスケの才能が低いと
むしろほぼ同年代でありながらこの圧倒的な力の差に納得し、そして修行時間の違い
が、サスケとしてはそこら辺はどうでもいい話だ。
きた老人な上に生き汚く転生しました、となれば幻滅の一つもするかなーと思っていた
アカネとしては今まで師として友として接していた相手が、実はかつては何十年も生
?
﹁ええ。ですが、私が座して待つ様に見えますか
﹂
そんな挑発的なセリフに対し、アカネは驚きつつも真実笑みを浮かべて頷いた。
い修行時間の差に胡坐をかいて待っていろ﹂
﹁気にすんな。まあ今は無理だが、いつか必ず追いついて、いや追い抜いてやる。せいぜ
﹁安心って⋮⋮﹂
NARUTO 第三十一話
978
?
﹁⋮⋮そこは座して待ってろよ﹂
アドバンテージが大きい上に修行を怠らない。油断をしない上にスタート地点が違
ううさぎを相手に亀では勝ち目はないだろう。
だがサスケは亀ではなくうさぎ、いや龍と言っても過言ではない。これくらいのハン
デなどむしろ望むところとばかりに、サスケは不敵に笑った。
﹁まあいい。せいぜい首を洗って待ってろよ﹂
アカネとしては本当に楽しみにしていた。アカネは強い。強すぎると言ってもいい
﹁はい。楽しみにしていますね﹂
くらいにだ。幾度となく転生を繰り返し、その都度修行と実戦を重ね、この世の誰より
も経験を積んでいるアカネだ。
敵がいない。それは平和が脅かされる事が少ない証拠である。だがアカネにとって
は内心残念な事実でもあった。
この鍛えた技を惜しげもなく使用出来る相手が欲しい。それは忍にとっては失格の
﹂
考えであり、武人にとっては至極当然の考えであった。やはりアカネの骨子は忍ではな
く武人だという事だろう。
﹁ところで、シスイは永遠の万華鏡に関してはどうしますか
現在木ノ葉の万華鏡開眼者はシスイ・イタチ・サスケ・オビト・カカシの五人。だが
?
979
オビトとカカシは他の三人と違い片目ずつという開眼だ。この二人に永遠の万華鏡の
法則が通じるかはまだ不明である。
そしてイタチとサスケがいずれ万華鏡の交換をするとして、シスイはどうするのか。
イタチとサスケが交換した後にどちらかと万華鏡を交換するのか。それともオビト
とカカシの二人と片目ずつ交換するのか。それらの方法で永遠の万華鏡に至るか至ら
ないか。兄弟などの血縁関係でなくとも問題はないのか。
分からない事は多くある。だがシスイの答えは一つだった。
⋮⋮﹂
﹁いえ、私はこのままで十分です。むしろ私に関しては下手な事はしない方がいいかと
切り出した。
これ以上は逆にシスイに気を遣わせてしまうだろうと判断したアカネは別の話題を
滅私するシスイに対し、アカネは謝罪と礼を述べるしか出来なかった。
それを憂慮したシスイは永遠の万華鏡を求めることを拒否した。そこまで里の為に
ぬ疑いを掛けられかねない程にだ。
遠の万華鏡になればその警戒度は更に跳ね上がる。下手すればうちは一族全てに在ら
そう。ただでさえシスイは別天神という警戒される力を有しているのだ。それが永
﹁そうか。そうだな。すまないシスイ。いや、ありがとう﹂
NARUTO 第三十一話
980
﹁しかし、イタチとサスケの万華鏡交換については問題が一つあるな⋮⋮﹂
﹂
!
﹂
?
か
﹁私の左目をイタチに移植して頂きたい﹂
そう思っていたアカネに対し、フガクは決意していた思いを述べた。
?
何を以って問題ないと言えるのか。もしやアカネも知らぬうちはの秘密でもあるの
﹁フガク
﹁いえ、それに関しては問題ありません﹂
に過ぎるという物だった。
だがアカネの見解としてはやはり失明した状態から元に戻ると考えるのは、少々気楽
したままなのか。それは移植してみなければ分からないだろう。
視力を失った万華鏡写輪眼でも、永遠の万華鏡を得られるのか。それともやはり失明
﹁ええ。今の状態で互いの瞳を交換して、果たしてそれで問題ないのかどうか⋮⋮﹂
らイタチが気にするなと言ってもそれで気にしないサスケではなかった。
自分を助ける為に左目の視力を失ったのだ。サスケの反応は止む無しだろう。いく
アカネの言う問題点をフガクはすぐに察し、そしてサスケは苦い顔をする。
﹁⋮⋮っ
﹁イタチの左目ですな﹂
981
﹁父さん
﹂
﹂
する事が出来るならば、オレの片目程度安い物だ﹂
﹁イタチよ。お前の力は既にオレを超えている。そんなお前の力を維持、いや今以上に
だがそれを理解しつつもフガクはイタチに片目を譲る所存だった。
うちは一族という精鋭を束ねる存在がそうなるのは本来避けなければならない事だ。
が下がるが、うちはに限ってはそれ以上の痛手となるのだ。
写輪眼は両目揃って初めて真価を発揮する。片目を失うという事はそれだけで戦力
言うべき写輪眼を譲る。これがどれ程の大事か分からない者はこの場にはいなかった。
うちはの現当主が、いや警務部隊の隊長が実の息子相手とは言え、一族の代名詞とも
驚愕するイタチ。当然サスケも絶句しており、シスイも動揺を抑えられていない。
!?
!
﹁勘違いするでない
これはお前への施しではなく、木ノ葉の、引いてはうちはの為に
﹂
⋮⋮了解致しました﹂
最善手と考えての命令だ
!
命令とあらば逆らう事は出来ない。苦々しくもその命令を承諾したイタチに対し、な
﹁⋮⋮ッ
!
!
クは一喝した。
父の想いを知るも、イタチはなおも食い下がろうとする。そんなイタチに対してフガ
﹁だが⋮⋮
NARUTO 第三十一話
982
おもフガクは言葉を続ける。
それはもしや⋮⋮﹂
?
﹁お前で駄目ならば誰を推薦すればいい サスケも既にオレを超えてはいるが、まだ
﹁ですがオレは今回の戦争で一度死んだ身⋮⋮オレには荷が重いかと⋮⋮﹂
ない。フガクの言葉は誰もが納得のいく物であり、ぐうの音も出ない話であろう。
片目を失ったうちは一族が里の治安を維持する警務部隊の隊長を務める訳にもいか
⋮⋮イタチよ、お前だ﹂
﹁う む。お 前 と 左 目 を 交 換 次 第、オ レ は 警 務 部 隊 の 隊 長 の 座 か ら 降 り る。次 の 隊 長 は
﹁最後
﹁それでいい。オレからの最後の命令だ。すまんなイタチ﹂
983
する事など出来はしなかったのだ。
主としての想いと父としての想い。その二つを理解したイタチは、フガクの想いを拒否
目に関しては命令と言い、隊長に関しては命令とは言わない。そこにあるフガクの当
命令とは言わなかった。つまりこれはフガクからの頼み事となる。
フガクは自身との目の交換を命令と言ったが、その後の隊長の座につく話に関しては
フガクにここまで言われてしまえば、イタチとしてもそれを拒む事は出来なかった。
みるといい。誰も文句は言わん﹂
経験不足な点も多い。だがお前ならば誰もが納得するだろう。うちはの者達に聞いて
?
﹁了解いたしました⋮⋮隊長の任、お受けいたします﹂
﹁うむ⋮⋮。それではアカネ様、移植の手術をよろしくお願いいたします﹂
フガクの考えは変わらないだろうとアカネも理解している。なのでこの願いには拒
否する事無く首肯した。
これによりイタチの左目は再び光を取り戻した。代わりにフガクの左目は失明状態
となる。一応はイタチの左目を移植したが、やはり光は戻らぬままであった。
しかしうちは全体で考えればイタチが失明したままよりは全体の力を増した事にな
るだろう。だが、もしフガク以外の写輪眼保持者から移植すれば、フガクの力も衰えぬ
ままだっただろう。
だが例え誰かが写輪眼を譲ると申し出たとしても、フガク自身がそれを拒否しただろ
う。それがフガクの忍としてではなく、父としての矜持であった。
取りあえずうちはの面々の問題が一段落した所で、アカネはイタチに向かって謝らね
﹂
ばならない問題を切り出した。
﹁は⋮⋮なんでしょうか
改まったかの様に述べるアカネにイタチも態度を正して耳を傾ける。
?
﹁さて⋮⋮イタチよ﹂
NARUTO 第三十一話
984
﹂
そんなイタチに対し、アカネは全力で⋮⋮土下座を敢行した。
﹄
?
!!
それを聞いたオビトはアカネに優しく声を掛けた。
﹁わ、私が治療せずとも生き返っていた⋮⋮﹂
アカネの態度にカカシとオビトが反応する。
何かに気付いたかの様なアカネの呟きと、その後の明らかに動揺していると見られる
﹁あ││﹂
飛んでいた。
ウ。そんな二人を見て笑みを浮かべていたアカネだったが、次の瞬間にその笑みは吹き
生き返った事を素直に喜ぶヒルゼンと、そんなヒルゼンを鬱陶しそうにあしらうダンゾ
あれは長門の輪廻転生にて木ノ葉の無数の死亡者が生き返った時の事。ダンゾウが
◆
に土下座してまで謝罪するというのか。その疑問はアカネが全て答えてくれた。
これに驚愕したのはイタチだけでなく他の面々もだ。一体どうしてアカネがイタチ
﹃⋮⋮は
﹁申し訳ありませんでしたーー
985
死んだ人間が生き返るなんてどうやって予想すればいいん
アカネちゃんの治療が無駄だったなんて誰も思わないって﹂
﹁そんな事関係ないだろ
だよ
?
それとも呪
﹁まさか⋮⋮﹂
樹
え、どうしたのアカネちゃん
﹂
?
﹁⋮⋮じゅ﹂
﹁じゅ
?
出来ている。
それを理解しているのはカカシのみだった。じゅ、の後に続く言葉もカカシには予想
ていない。
オビトはアカネがこうも焦っている理由が理解出来ず、何を言いたいのかも理解出来
?
そう言うオビトだったが、カカシはアカネが冷や汗を掻いている理由に気がついた。
?
?
寿命を削ってしまうのだ。
術もそれに漏れなくデメリットが存在し、再生した傷が大きければ大きいほど、対象の
だがメリットが大きければそれに伴うデメリットもまた大きくなりやすい。再生忍
可能な傷すら再生させる事が出来る優れた忍術である。
アカネのその言葉でオビトも思い出した。アカネの再生忍術は医療忍術でも治療不
﹁⋮⋮あ﹂
﹁じゅ、寿命⋮⋮めっちゃ⋮⋮削っちゃいました⋮⋮﹂
NARUTO 第三十一話
986
再生忍術とは対象の各種タンパク質を活性化させて細胞分裂を急速に速めて細胞を
再構築する術だ。
全ての器官や組織すら再生出来る術なのだが、人間が一生で行う細胞分裂回数は決
まっている。つまりそれを速めるという事は実質寿命を縮めるのと同意なのだ。
﹂
の予測によると││
?
削らなくても復活出来たとなれば話は別だろう。
それも死ぬはずの運命を覆せるならば一年の寿命も仕方なしと思うだろうが、寿命を
同じ事が言えるかと考えれば一年の大きさを理解出来るだろう。
一年くらいなら、と思う者もいるかもしれないが、それは人生残り僅かとなった時に
で、あった。それ程にリンが受けた傷は大きかったと言える。
﹁だいたい、一年くらい⋮⋮かな
﹂
そしてアカネの経験や感覚で対象の寿命がどれくらい減ったのかは予測出来る。そ
範囲が小さければ寿命は減りにくい。
範囲が大きければ大きいほど寿命は減りやすく、例え完治に時間が掛かるとしても傷の
としてはその怪我が自然治癒するのに掛かる日数だが、一概にそうとは言えない。傷の
その寿命の減り方はもちろん再生忍術による細胞分裂の回数によって決まる。目安
﹁ど、どれくらい
?
987
だアカネ当人は地味に傷ついていたりするのであった。
まあ、当然の如く誰も怒ってなどいないのだが、治療が余計な物になったと思い込ん
敢行していた。
いた為にアカネが後ほど伝えたのである。当然同じ様にリンにも後ほど土下座謝罪を
ちなみにイタチの寿命も約一年程縮む結果となっていた。この時イタチは気絶して
そこには見事に土下座するアカネの姿があった。
﹁ご⋮⋮⋮⋮ごめんなさい﹂
NARUTO 第三十一話
988
NARUTO 第三十二話
木ノ葉の里が着々と復興し、その影で多くの忍││主にヤマト││の悲鳴が上がる
中、ある一行が木ノ葉の里を訪れた。
﹁なるほど⋮⋮大蛇丸に関してか﹂
﹂
と非常に少ない。完全にない訳ではないが、それでも人柱力に弟子が存在している事か
この二人から見て取れるよう、雲隠れでは人柱力に対する態度や差別が他里と比べる
に奔走していた。
いる中、カルイとオモイの二人はその情報を待ちきれずに独自で木ノ葉の中で情報収集
ムイが綱手を相手に直談判し、雷影の手紙を手渡しして大蛇丸に関する情報を確認して
ビーの弟子であり、師であるキラービーを非常に尊敬しているのだ。今も隊長であるサ
特にカルイとオモイの二人はこの任務に対する意気込みが高かった。二人はキラー
報の収集であった。
にして雲隠れの人柱力でもあるキラービーを連れ去った犯人である大蛇丸の捜索と情
その一行とは雲隠れの忍であるサムイ・カルイ・オモイの三人。その目的は雷影の弟
﹁はい。大蛇丸は木ノ葉にとっても抜け忍のはず。協力していただけますよね
?
989
らその事実が伺えるだろう。
﹂
﹁もちろんだ。だが、協力は出来るが、ある意味では無意味かもしれんな﹂
どういう意味ですか
?
﹂
らなかった。
そんなサムイが驚愕する情報を綱手は平然と言い放った。しかもそれだけでは終わ
如く冷静沈着な忍である。
名は体を表す。それを字の如く体現している忍が多い雲隠れにて、サムイもその名の
﹁なっ
﹁うむ。まず問題の大蛇丸だが⋮⋮既に捕らえて無力化している﹂
隠れにとってとんでもない情報を話した。
綱手の言葉が理解出来ないサムイはその意味を問う。そんなサムイに対し、綱手は雲
﹁⋮⋮
?
!?
﹁申し訳ないが大蛇丸に関しては我々の恥部だ。奴は木ノ葉にて裁くようにしている﹂
ていた。
なのだろうという評価を下す。雷影からの信の厚さはそのまま忍としての実力を示し
あの気難しい雷影からそこまでの信頼を得ているサムイという忍に、綱手は優秀な忍
いるので、これは雷影の言葉と受け取ってもらって結構です﹂
﹁な、ならば大蛇丸の引渡しを申し出ます。この件に関しては雷影から私に一任されて
NARUTO 第三十二話
990
﹁ですが大蛇丸は雲隠れの人柱力を││﹂
綱手の言い分に異議を申し立てようとするサムイの言葉を遮って、綱手は次の驚愕発
言を言い放った。
﹂
?
別にキラービーが抜け忍になったというのではなく、自由奔放な性格であるキラー
いうのは十分考えられた。
した。キラービーの性格からして、暁に捕らえられたフリをして雲隠れから脱走すると
それはどうでもいいとして、綱手の話を聞いたサムイはありえない話ではないと判断
は思いつくも咄嗟に飲み込んだ。正しい判断だっただろう。
キラービー殿はどこぞに雲隠れしたようだな。雲隠れの里だけに。この言葉を綱手
⋮⋮姿をくらましたようだな﹂
ようだ。雲隠れにもこの情報が伝わっていないという事は、キラービー殿はどこぞに
引き出した情報だが、どうやら大蛇丸が捕らえたキラービー殿は分身による偽者だった
﹁協力は出来るが無意味かもしれんと言っただろう。捕らえた大蛇丸に幻術を駆使して
なサムイに綱手は立て続けに情報を与えていく。
冷静に異議を申し立てようとしていたサムイはその言葉で固まってしまった。そん
﹁││は
﹁あと、大蛇丸から得た情報だが、どうやらキラービー殿は捕らえられていないようだ﹂
991
ビーが、たまに里の外を自由に謳歌したいと考えての脱走だろう。
だが綱手の話が全て真実であると判断するのはサムイには出来なかった。これが大
蛇丸を庇う為の嘘であるという可能性もある。綱手と大蛇丸は元は同じ二代目三忍で
﹂
あり、これもありえない話とは言えなかった。
﹁その話、真実である証拠は
定していると話したのだ。
なので綱手はキラービーが無事だとは言わず、大蛇丸から得た情報とその信頼性は確
が既にキラービーを捕らえている可能性はないとは言えない。
から得た情報だ。当の大蛇丸がこの情報を真実だと思い込んでいただけで、実は別の暁
もちろん綱手が回りくどい言い方をしたのには理由がある。あくまでこれは大蛇丸
賭けにすらなっていないと言える。
これは賭け事が弱い綱手にも自信を持って肯定出来る情報だ。確定した情報ゆえに
としての立場を賭けてもいい﹂
﹁大蛇丸から聞き出したという事。大蛇丸が嘘を吐いていない事。この二つは私の火影
?
い。暁の狙いは全ての尾獣を捕らえる事だ。多くの暁は此度の戦いにて死亡・無力化し
﹁礼には及ばん。それよりも、一刻も早くキラービー殿を捕捉する事に注力した方がい
﹁⋮⋮了解しました。重要な情報に感謝します﹂
NARUTO 第三十二話
992
たが、まだ厄介なのが残っているからな⋮⋮﹂
﹂
?
﹁お気になさらずに﹂
サムイの反応を見て綱手はますますサムイの評価を高める。
﹁お前に言っても意味はなかったな。すまん﹂
﹁⋮⋮﹂
撃出来る要素を与える必要はないだろう。
それで木ノ葉隠れと雲隠れの関係が今更悪化するわけではないが、それでも無駄に攻
は悪手なのだ。今のサムイの言動は雷影のそれと同意なのだから。
異議を申し立てるのも、雷影から全権を受けているという言葉を発したサムイにとって
すなわち安易な事は何も言わず、ただただ黙するだけである。下手に言い繕う事も、
に対応した。
は緊急を要したんだがな、という暗を含めた言葉と視線に、サムイは動じる事無く冷静
綱手の、雲隠れ含む好戦的な里や他里を信じられない里がそれを拒み続けたから事態
がな﹂
の五影会談を要請する手紙だ。⋮⋮こうなる前から五影会談の要請を出していたのだ
﹁これに関しては五影会談にて詳しく説明する。先程雷影殿より封印筒が届いた。緊急
﹁厄介⋮⋮とは
993
﹁うむ。とにかく、キラービー殿捜索に関しては我々も独自の小隊を結成して対応に当
たらせよう。事は雲隠れだけで済む問題ではなくなっているからな。見つかり次第連
絡を取りたいので、そちらとの連絡手段を用意してもらいたい﹂
特の形状の三つの山からなる国で、独自の文化、独自の権限と、強力な戦力を保有する
時間は流れ、五影会談が始まろうとしていた。開催場所は鉄の国。三狼と呼ばれる独
◆
ラービーの捜索に動き始めた。
三人は早速この情報を連絡鳥にて雲隠れへと送り、自身達も木ノ葉隠れに負けじとキ
高いと思われていた状況と比べると大きな違いだろう。
報に二人は喜びを顕わにした。確信は出来ない情報だが、それでも死んでいる可能性が
それよりもサムイから得たキラービーが生きて、それも捕らえられていないという情
の一部が知る情報なのでまあ仕方ないだろう。
里を動き回るが、特別新しい情報を得る事なく終わる。大蛇丸に関しては上層部や上忍
そうして特に問題もなくサムイの用件は終了した。カルイとオモイも木ノ葉隠れの
﹁了解しました﹂
NARUTO 第三十二話
994
中立国である。
古くから忍はこの鉄の国に手を出さないという忍界全体の決まり事があり、故に鉄の
国では忍ではなく侍と呼ばれる者達が国を守っていた。
忍術としてではなく、チャクラそのものを出力として戦う術に長けている侍。その技
量は万能の忍とは違い戦闘に特化している面が強く、その分一人一人が精鋭と言えるだ
ろう。
そんな強国であり、中立国である鉄の国ならば、五影会談にはうってつけの場所と言
えた。
﹁オレから話す。聞け﹂
とその部下たち。この少数人数にて忍界の未来を決める会談が始まった。
五影と、その後ろにて会談を見守るそれぞれの信頼置ける部下が二名。そしてミフネ
の代表である侍大将・ミフネ。
照美メイ。雲隠れの四代目雷影・エー。岩隠れの三代目土影・オオノキ。そして鉄の国
木ノ葉隠れの五代目火影・綱手。砂隠れの五代目風影・我愛羅。霧隠れの五代目水影・
かるミフネと申す。これより五影会談を始める﹂
﹁五影の傘を前へ⋮⋮。雷影殿の呼びかけにより、今ここに五影が集った。この場を預
995
会談は我愛羅の話から始まった。いや、始まりはしたがその進みは微々たる物だっ
た。
我愛羅は己の体験から来る暁の危険性を語り、人柱力がここまで奪われてからようや
く協力するという現状に憤りを示す。だがオオノキは自国の体裁や面目を保つ為にそ
んな事は出来るわけがないと、自里のみを考えるならば正しいかもしれない反論を吐
く。
メイも尾獣が奪われた事が即危険や恐怖に繋がる訳ではないと反論する。尾獣の力
は凄まじいが、反面そのコントロールは難しいと。
オオノキの言い分に対して、我愛羅は体裁や面目を保つ為に無駄な犠牲を生み出す事
の愚かしさを少ない言葉で語るが、この場の誰よりも齢を重ねているオオノキにとっ
て、それはまだ若僧の意見として見られていた。
﹂
!
!
砂
﹂
!! !
霧
!
お前らの里の抜け忍で構成されとるのが暁だ
それ
!
りがありありと溢れていた。
﹁木ノ葉 岩
!
だけではないぞ
!
若人と老人。二つの意見がぶつかり合う中、エーが吠える。そこには他里に対する怒
ん
﹁下らん 貴様らがどれだけ暁の危険性を語ろうと、ワシはお前達を信じる事は出来
NARUTO 第三十二話
996
エーはつらつらと他里の闇を語る。彼らは暁を利用してきたのだと。
かつての戦国時代とは違い、大国は一様に安定してきた。それは軍拡から軍縮へ移行
している事からも明らかである。
軍 縮 が 伴 う に 連 れ て 国 の 軍 事 力 で あ る 里 は 金 食 い 虫 の 邪 魔 な 存 在 と な っ て し ま う。
だからと言って里の軍事力を下げすぎる事はリスクも大きい。戦争はいつ起こるか分
からないのだ。突然に戦争が起きた時、国を守る力が少なければどうなるかは明白だ。
それを回避する一つの方法が戦闘傭兵集団である暁だったという事だ。里は無駄な
出費や人材の消費を防ぐ事が出来、暁は活動資金を得る事が出来る上に腕を磨く事も出
来る。互いに得のある契約という訳だ。
こうして特に暁を利用したのが岩隠れであり、砂は暁であった大蛇丸と手を組んで木
ノ葉崩しに利用し、霧に至っては暁発生の地との噂もある。
エーの言葉にメイは里としての恥部を苦々しく思いながらも話す。先代である四代
目水影は何者かに操られていたのではないかとの疑いがあり、それが暁の可能性もあっ
たと。これが他里に知られる訳にもいかず、事を大げさにしない為に秘していたのだ。
﹂
る大蛇丸を生み出しているが、それ以外では暁との接点もなく、戦争での利用もない。
エーが強く当たれない里は木ノ葉隠れくらいであった。木ノ葉もまた暁の一員であ
﹁どいつもこいつも⋮⋮
!
997
しかも雲隠れはかつて木ノ葉隠れに対して和平と言いつつも、白眼欲しさに日向ヒナ
タを拉致しようとした後ろめたい前科がある。捕らえられた忍も傷つきはすれど命に
別状はなく、しかも穏便に済ませてもらっているという、完全に雲隠れの落ち度と言え
る事件であった。
そもそもこの軍縮の時代にお前らがなりふり構わず力を求めて忍術
そうして岩・霧・砂に対して怒りを顕わにするエーに対してオオノキもまた反論する。
﹁口を慎め雷影
﹂
﹂
を集めよるから⋮⋮ 対抗する為に暁を雇わざるを得んようになってきたんじゃぜ
!
!
うかとは思うが、オオノキもまた自里の為ならばこれくらいの汚い手段などどうでも良
も大きいと言えよう。そんな雷影を有する雲隠れに対抗する為に暁を利用するのもど
もちろんその考えは大なり小なりと誰もが持っているだろうが、エーはそれが他より
反面自里の為ならば他里などどうなってもいいという過激な考えもある人間だった。
自里には誰よりも深い愛情を持っており、同じ里の忍には大きな愛情を注いでいるが、
エーは非常に好戦的な性格をしており、それは他里との関係にも通じる所があった。
言えない点もある。
オオノキのそれはエーにいい様に言われすぎない為の反論だが、あながち間違いとは
!!
!
﹁何だと
NARUTO 第三十二話
998
いと言える人物であった。
そうしてヒートアップするエーとオオノキ。互いに嫌いあっている二人を落ち着か
せるには相応の衝撃が必要だろう。そして今まで一度も発言をしていなかった綱手が
それだけの衝撃を持つ爆弾発言を落とした。
﹄
﹁暁にはうちはマダラがいる﹂
﹃ッ
﹁あやつはとっくに死んでるはずじゃぜ⋮⋮
﹂
つての大戦にて見た事があるオオノキの反応は誰よりも大きかった。
静かに、だがはっきりと発せられたその言葉に誰もが絶句した。特にマダラの力をか
!?
﹁死者を⋮⋮操る
まさかそれは
﹂
!
﹂
!?
﹃ッ
﹄
﹁⋮⋮マダラの弟であるうちはイズナだ﹂
ぜ
﹁穢土転生⋮⋮それならば確かにマダラを。いや、なら誰がマダラを操っているんじゃ
﹁ああ⋮⋮かつて二代目火影が生み出した禁術、穢土転生だ﹂
?
にはいる。そいつが暁の真のリーダーだ﹂
﹁ああ。言葉が足りなかったな。確かにマダラは死んでいる。だが、それを操る者が暁
!?
999
!?
次々と出てくる情報の大きさに、木ノ葉を除く全ての者が驚愕する。そして綱手はア
カネから知り得た情報を皆に伝えた。
穢土転生として蘇ったマダラに、それを操る上に伝説の輪廻眼を持つイズナ。そして
﹂
イズナの目的である月の眼計画。尾獣の集合体であるという十尾。どれもこれもが眉
そんな話が信じられるか
唾物の情報だ。
﹁馬鹿な⋮⋮
!
﹃ッ
﹄
んでいるようです﹂
﹁会談中に口を挟んで申し訳ありませんが⋮⋮その真意を問える人物がどうやら忍び込
るのか。それを問う前に、綱手の後ろに控えていた一人の忍が口を開いた。
エーの言葉は誰もが考えた物だ。到底信じられる話ではない。その証拠はどこにあ
!
たこの空間で、平然と口を開いた。
⋮⋮早く出てきなさい﹂
そんなアカネはただ一点のみを見つめている。そして一触即発の雰囲気を醸し出し
唯一態度を変えていないのは口を挟んだ当の本人⋮⋮日向アカネのみだった。
主を警護すべく素早く傍に近寄る。
その言葉に全員が反応する。五影は誰もが警戒態勢を取り、五影の補佐たる忍は己が
!
﹁私相手に隠れ切れると思っている訳じゃないだろう
?
NARUTO 第三十二話
1000
その言葉に、アカネの視線の先からゆっくりと一人の男が姿を現した。それを見て誰
﹂
もが警戒態勢を強め、そしてオオノキは更なる驚愕と共にその人物の名を口にした。
﹁う、うちは⋮⋮マダラ⋮⋮
﹂
!?
﹄
!?
日向ヒヨリ。うちはマダラや千手柱間に並ぶ初代三忍の一人。数多の伝説を作り出
驚愕を生み出していた。
五影会談で幾度となく驚愕してきた五影とミフネだが、今回の情報もまたありえない
﹃なっ
ないさ。なあ⋮⋮日向ヒヨリよ﹂
﹁ふ、やはりお前がここにいたか。まあ、オレもお前の目を欺くなど出来るとは思ってい
そんな彼らを無視してマダラは、いやマダラを操るイズナは淡々と言葉を発した。
オオノキの言葉を皮切りに、エー・我愛羅・メイ・ミフネがマダラを呆然と見つめる。
﹁うちはマダラ⋮⋮﹂
﹁あの伝説の三忍の一人⋮⋮﹂
﹁こいつが⋮⋮﹂
﹁なに
聞いて残る皆も驚愕を強める。
五影の中で、うちはマダラを直接見た経験を持つオオノキが思わず呟く。その言葉を
!
1001
した偉人の一人。だが日向ヒヨリは確かに死んだはず。それが何故この少女を指して
その名が出てくるというのか。
各々の驚愕を他所に、マダラを操るイズナは五影に向かって己の目的を話し出した。
﹂
﹁一つ言っておくが、オレは戦闘目的でここに来たわけではない。それはお前ならば分
かるだろう
﹁なに
分身じゃと⋮⋮
﹂
?
ろう﹂
﹁だろうな。木遁分身如きで五影を始末出来る。流石のお前もそこまで慢心はしないだ
五影にそう言いつつ、イズナはアカネにそう確認する。
?
を掛ける。
本当に分身なのか
そう疑問に思うアカネ以外の全員に対して、イズナは優しく声
せてもマダラの肉体が分身であると見抜けないのである。
これは右目に白眼を有する水影の護衛の一人である青も同様だった。白眼を発動さ
見抜く事は出来なかった。
アカネの言葉にオオノキも、そして誰もがマダラを注視するが、それが分身であると
?
?
ダラと、そこの日向ヒヨリのみ。貴様らが見抜けなくとも何ら恥ではないさ﹂
﹁まあ気にするな。この木遁分身は千手柱間の術。それを見抜く事が出来たのは兄のマ
NARUTO 第三十二話
1002
かつての自身でも見抜く事は出来なかった。つまりこれはイズナに取っては慰めの
言葉だったのだが、そう受け止められる者はこの場に一人たりともいなかった。
﹂
特に挑発と受け取ったのはエーだ。怒気を顕わにしながらイズナへと怒鳴る。
﹁貴様
いざな
だがそれは全ての可能性も同時に奪ってしまう事となる。人と人が関わる事で生ま
来ない平和へ至る方法だ。確かにそれならば争いは起こらないだろう。
この世の全ての人間に幻術を仕掛け、永遠の夢の中に誘う。常人ならば誰もが理解出
気を疑った。
イズナのその語りから先の情報は間違っていなかったと誰もが理解し、そしてその正
﹁さて、オレの最終目的である月の眼計画については既に知ったと思うが⋮⋮﹂
エーの反応を見てイズナは自らの目的について説明し出す。
まずは情報を得る方が先決だと冷静さを取り戻し、イズナの声に耳を傾けた。そんな
い。
時は激情に身を任せそうになるが、相手が分身だというのならば倒した所で意味はな
今にも飛び出しそうな雷影に対してイズナはあくまで冷静に語り掛ける。雷影も一
な﹂
﹁先 も 言 っ た が オ レ は 戦 闘 目 的 で 来 た わ け で は な い。落 ち 着 い て オ レ の 話 を 聞 く ん だ
!!
1003
れる争い以外の結果。それも無限月読は消し去ってしまうのだ。
誰もがイズナを狂人として見る。だがイズナはそんな事は気にせずにこの場に来た
目的を話した。
﹁残りの八尾と九尾を差し出せ。オレの計画に協力しろ。それが最も犠牲を生まずに平
和へと至る唯一の方法だ﹂
月の眼計画への協力の申し出。それがイズナが会談の場に来た理由だった。言うな
れば最後通告だ。
﹂
これを飲むならば全ての人間が幸せな夢の世界へと至れる。だが断るならば││
﹁馬鹿な。そんな事を飲むと思っているのか
ナの答えは一つだった。
オオノキの答えに対してイズナは躊躇なく戦争と口にする。そう、断るならば、イズ
﹁そうか。ならば戦争だな﹂
?
﹂
﹂
﹂
戦争。五大国とイズナ。二つの戦力による第四次忍界大戦。それがイズナの答えだ。
﹁私が素直にナルトを渡すと思っているのか
?
﹁うずまきナルトは渡さない﹂
﹁私も同じく
!
?
﹁残りの五影も同じ答えか
NARUTO 第三十二話
1004
﹁弟は渡さん
﹂
る様に蔑みながら語り掛ける。
当然の如くに残る五影の答えも同じだった。そんな彼らに対し、イズナは愚か者を見
!
それは流石に五里を舐めすぎでは
イズナ
﹂
?
らを合わせた所でオレには敵わん﹂
﹁どうでしょうか
?
﹁正気か貴様
﹂
﹂
?
ているのは僅かな木片だけであった。
そう不敵に笑いつつ、イズナはマダラの木遁分身を解除してこの場から消えた。残っ
う。せいぜいオレを愉しませてくれよ
﹁当然だ。いずれお前達は今回の決断を後悔するだろう。その時を楽しみに待っていよ
!?
る﹂
﹁ま あ い い だ ろ う。お 前 達 の 決 意 は 理 解 し た。こ こ に 第 四 次 忍 界 大 戦 の 宣 戦 を 布 告 す
している。アカネはそう確信出来た。
自信ありげに語るイズナに嘘は見られなかった。それだけの力を持っていると自負
力をな﹂
﹁ふ⋮⋮違うな。貴様らが、いや貴様が舐めているのだよ日向ヒヨリ。今のこのオレの
?
﹁愚かだな。そこにいる日向ヒヨリの戦力に、貴様ら五影有する五大忍里の戦力。それ
1005
アカネはイズナの真意について塾考していたが、今までの会話と最後の言葉からそこ
にあるのが愉悦なのだと理解した。
わざわざ五影会談に現れたのも。危機感を無駄に煽ったのも。全ては五里が協力す
る為にわざとそうしたのだろうとアカネは考える。
何故敵が強大になるのに協力したのか。それはイズナが既に勝利していると完全に
思い込んでいるからだ。勝利が確定しているからこそ、その道程を愉しもうとわざと敵
を煽り強大にしたのだ。
この予想は恐らく間違っていないとアカネは思うし、事実間違ってはいなかった。そ
﹄
﹁お前が日向ヒヨリだというのはどういう事だ
﹂
!?
﹁最早ここに至って隠し立ては不要だ。全てを話してもらおう﹂
﹁これが真実ならばマダラやイズナが生きていたのと同じくらい大事じゃぜ
おおごと
﹂
んな風にイズナの真意について思考するアカネに対し、綱手を除く各国の人間がアカネ
﹂
じゃあるか
なんでしょうか
に注目していた。
﹃なんでしょうか
?
アカネの疑問の声に全員が突っ込みを入れた。
!!
?
﹁木ノ葉には若さを保つ秘訣でもあるのでしょうか⋮⋮﹂
!!
?
﹁⋮⋮え
NARUTO 第三十二話
1006
誰もがアカネに対して真実を問う中、メイのみ別の疑問をぶつけていたりするが、そ
れは小声であった為にどうやら他の誰にも聞かれてはいなかった様だ。
だが五十代になっても二十代の若さを保つ綱手といい、先の話が真実ならばヨボヨボ
の老人であるはずなのに完全に少女と言える若さを見せるアカネといい、そんな二人を
見て自分の歳と婚期の遅れを気にするメイがそう思うのは無理のない事なのかもしれ
ない。
とにかく、全員から疑問の声をぶつけられたアカネから得られた真実の中に、メイが
求めた答えはなかったとだけ記しておこう。
◆
雨隠れのある場所にて、イズナは操作しているマダラと共に歩いていた。そしてマダ
ラの木遁分身から得た情報に、一人納得する。
イズナとしても五里が自身の目的に協力した方が犠牲が少なくて済むと考えてはい
であり、そして望むところでもあった。
五里の全てが敵に回ったとイズナは知る。それはイズナに取っても予想していた事
﹁五影は全員敵に回ったか⋮⋮まあ、予想通りではあるな﹂
1007
る。だがそれと同時に避けては通れない道だとも理解していた。
イズナも自身の計画が万人に受け入れられる物ではないと理解しているのだ。いや、
万人どころか月の眼計画に賛同する者は余程今の世に絶望した者くらいだろう。
例えその家族や友が賛同しないだ
だがそれでもイズナは止まらない。止まる事は出来ない。今止まってしまえば、今ま
で犠牲になった家族や友にどう言えばいいのか
その中にイズナは誰の断りも入れずに堂々と入っていく。
そ う 呟 く イ ズ ナ は あ る 場 所 に 辿 り つ い た。そ こ は 雨 隠 れ の 国 に 隠 さ れ た あ る 建 物。
強くとも⋮⋮オレと兄さんの力には敵う事はない﹂
﹁無駄だ。無駄なんだよ。例え五影や五大国が手を組もうとも、日向ヒヨリがどれほど
ろうとしても、それでもイズナは止まる事は出来なかった。
?
﹂
それと⋮⋮お前は何者だ
﹂
そんなイズナとマダラに向かって突如として無数の紙が飛び交った。だが無数の紙
何故あなたがここに
!?
?
はマダラが放った火遁にて一瞬で燃え尽きた。
﹁マダラ
!!
だと言うのにここに辿り着いたマダラに、そしてマダラの隣で立つ身知らぬ男に小南
べき場所。それを知る者は雨隠れのどこにもいないはず。
先の攻撃は小南が放った紙手裏剣だったようだ。ここは小南にとって何よりも守る
!
﹁小南か。そんな攻撃がオレに効くと思っていたのか
NARUTO 第三十二話
1008
は警戒を顕わにする。
﹂
!?
まった。
幻 術 と 気 付 い た と こ ろ で 抵 抗 は 無 意 味 だ っ た。僅 か な 時 間 で 小 南 は 気 を 失 っ て し
﹁幻⋮⋮じゅつ⋮⋮長門⋮⋮やひ、こ⋮⋮﹂
一瞬だ。その驚愕の隙を突いたイズナの写輪眼による幻術に小南は捕らわれた。
愕し、僅かな隙を作ってしまった。
輪廻眼の真の所有者に、マダラの弟だという発言。ここまでの多くの事実に小南が驚
﹁⋮⋮
チャクラを感知する事などオレには容易い﹂
﹁何故ここに、と言ったな。長門の輪廻眼は元々マダラの、オレの兄さんの物だ。その
そしてイズナは小南の疑問に対して答えを口にした。
る事を悟って驚愕する。
マダラではなくイズナから語られるその言葉に、小南はあのマダラすら操る存在がい
﹁な⋮⋮。まさか⋮⋮マダラの裏にまだ││﹂
なった﹂
良 か っ た も の を。お 前 も 長 門 も 無 駄 な 事 を す る か ら 永 遠 の 平 和 を 得 る 事 が 出 来 な く
﹁オレに関しては今更お前に話しても意味がない。オレに踊らされているだけであれば
1009
僅かな隙でも見せてしまえばその瞳術の餌食となる。一対一で写輪眼と向かい合う
事は危険とされていた理由がこれだ。
倒れ伏した小南に止めを刺すべくイズナは歩み寄り、そして後ろから掛けられた声に
その動きを止めた。
それは操られていないマダラの言葉だった。先のアカネとの接触にて、マダラは僅か
﹁もう、止めろイズナ⋮⋮それ以上の犠牲は生むな﹂
だが自身の縛りを解く事が出来る様になったのだ。
そうして闇に落ちてなお、更なる深淵に潜ろうとする最愛の弟を止める。だが、それ
でも僅かにしか止める事は出来なかった。
して⋮⋮遺体から両目の輪廻眼を抜き取った。
小南が二人を想って作り出した造花を踏み躙り、イズナは長門の遺体の横に立つ。そ
で作られた多くの薔薇の造花に埋もれた弥彦と長門の遺体が安置されていた。
そうしてイズナは小南をその場に捨て置き、前に向かって歩みを進める。そこには紙
関しては、例えマダラが何を言おうとも止めるつもりはイズナにはなかった。
そう言ってイズナは小南に止めを刺す事を止めた。だが、それだけだ。月の眼計画に
いえ元は仲間だ。長門と弥彦と過ごす夢に浸らせるのもいいだろう﹂
﹁⋮⋮分かったよ。こいつを殺しても生かしても意味はない。利用する関係だったとは
NARUTO 第三十二話
1010
﹁⋮⋮確かに返してもらったぞ﹂
死してなおイズナを嘲笑うかの如くに微笑を浮かべる長門に僅かな苛立ちを覚える
が、所詮は死人だとイズナは割り切る。
死ねば意味がない。どんな想いがあろうとも、どんな理想があろうとも、どんな力が
あろうとも、生きていなければそれは無意味だ。
だからこそ、イズナは兄の命を犠牲にしてでも今もこうして生き長らえているのだ。
全ては理想を、この世の完全平和を成し遂げる為に。
目的を果たした後、誰も知らぬアジトへとイズナは戻って来た。そして理想を叶える
為の力を見渡した。
イズナが千手柱間の細胞を培養し、尾獣のチャクラを注いで作り出したという十万体
もの白ゼツ。
そして姿をくらまして暗躍している内にかき集めた名だたる忍の肉体情報。そこか
ら作り出した穢土転生による精鋭集団。
そう、大蛇丸もイズナと同じく穢土転生の使い手だ。故に暁にて大蛇丸は仮面で顔を
という事に薄々と気付いていたか⋮⋮﹂
﹁しかし⋮⋮大蛇丸にはしてやられたな。オレの正体はともかく、兄さんが穢土転生だ
1011
隠したマダラと接触する内に、その正体が穢土転生であると確信はなくとも感づいてい
たのだ。
だからこそ大蛇丸は先手を打っていた。それが初代・二代目火影の穢土転生による口
寄せと、それらの封印であった。
あらかじめ穢土転生にて口寄せした人物は、その穢土転生が解かれない限り別の穢土
転生で口寄せする事は出来ない。それを利用して大蛇丸は、マダラとその裏にいるであ
ろう何者かに対抗する切り札としてその二人を口寄せし、封じていたのだ。
これでは然しものイズナと言えど、死した火影達を口寄せする事は不可能だ。二代目
とはいえ三忍の名は伊達ではないかとイズナは大蛇丸を称賛する。
う様は見たかったがな⋮⋮﹂
﹁まあいい。余興の愉しみが一つ減ったくらいだ。日向ヒヨリがかつての同胞二人と争
どちらにせよ自身の勝利に変わりはない。それを確信する為の力をイズナは手に入
れたのだから。
﹂
そうして理想実現の為に最も必要な力を手に入れようとするイズナを見たマダラは
そんな事をすればお前は
!!
思わず叫び、イズナを止めた。
!
マダラのその必死の制止の呼びかけは、やはりイズナには届かなかった。イズナはこ
﹁まさか⋮⋮止めろイズナ
NARUTO 第三十二話
1012
れから起きる出来事でマダラが自由になる事を考慮して、そうなる前にマダラを一時的
に封印する。
﹂
そしてイズナは⋮⋮マダラの輪廻眼を自らの両掌へと埋め込んだ。
﹁ぐ⋮⋮おおおおおおお
るうずまき一族の様に秀でた生命力があって初めて輪廻眼に耐えられると言えよう。
は一族の肉体では輪廻眼に耐えられない事を示している。千手一族や、千手の遠縁であ
六道仙人の肉体││アシュラの転生体││を融合させる事なのだ。それはつまりうち
元々輪廻眼を開眼する条件自体が、六道仙人のチャクラ││インドラの転生体││に
ずまき一族の末裔であり、本人の資質が高かった為に他ならない。
い程に強力すぎる瞳術なのだ。長門が移植に耐えられたのは、長門が生命力に溢れるう
輪廻眼はそこらの忍ではその力を発揮するどころか、移植をしただけで発狂しかねな
いや、輪廻眼の力をあそこまで引き出せた長門を褒めるべきと言えよう。
だがそれすら本来の持ち主ではない故に、その真価を発揮していなかったと言える。
獄道・外道の七つの力を操り長門は木ノ葉を蹂躙した。
その力は木ノ葉にて大いに振るわれた。天道・人間道・修羅道・畜生道・餓鬼道・地
強の瞳術だ。
輪廻眼とは神話の存在とも言われる六道仙人が開眼した、この世で最も崇高にして最
!!?
1013
生命力という点だけならばイズナはクリアしている。イズナもまたマダラと同じく
千手柱間の細胞を自らに移植しているのだから。
その上でマダラの細胞を移植したからこそ、本来輪廻眼目覚めないはずのイズナが輪
廻眼に目覚めたのだ。だが、やはりそこには無理があった。
自分の物ではないマダラと柱間の細胞とチャクラ。どちらか一つならまだしも、二つ
も掛け合わせる事で無理矢理輪廻眼に目覚めるという方法はイズナに苦痛を与えた。
当時イズナが輪廻眼に開眼した時は三日はその苦痛が止まなかった。そこに更に輪
廻眼を二つも組み込めばどうなるか。筆舌し難い苦痛がイズナを襲うだろう。いや、果
﹂
!!?
たしてそれは苦痛だけで済むのかどうか。
が、あああアアァァァァァアァッ
!!
が忘れようともイズナは忘れない。亡くなった家族の、同胞の無念の叫びを。彼らの犠
そんな苦痛の嵐を、イズナは狂気とも言える信念で耐えて、耐えて、耐え抜いた。誰
真の輪廻眼開眼者でも耐えられるかどうか。
としているのだ。一つでも常人ならば発狂する程の力だ。それが四つともなれば、例え
四つの輪廻眼という強すぎるチャクラと力に、イズナの肉体と精神が引き裂かれよう
てた故に叫ぶ事すら出来ず、無言の苦痛を発し続ける様になったのだ。
イズナの叫びは何日経とうとも止まらなかった。いや、叫びは止まった。喉が枯れ果
﹁ぐおおお
NARUTO 第三十二話
1014
牲は無駄ではなかった。それを証明する為に、真の平和を生み出す。
兄も、千手柱間も、日向ヒヨリも、五影達も、誰もが真の平和を作り出せないという
のならば、己こそが作って見せよう。その一心にて敬愛する兄すら犠牲にした。なら
ば、どうしてここで屈せようか
﹂
!
ここに、六道仙人すら超える存在が誕生してしまった。
これら全てを有したイズナは確信する。もはや誰にも負ける訳がない、と。
うちはとしての自らの力。取り込んだ千手柱間の力。自らの輪廻眼に、兄の輪廻眼。
強すぎる力によって傷ついた肉体は、その力を掌握した瞬間に治癒していた。
﹁これが⋮⋮真の平和への第一歩だ﹂
る新たな力の鼓動を感じて口を開く。
だがイズナはゆっくりと、だが確かに己の二の足で立ち上がった。そして己の中に巡
は治まり、死んだかのようにイズナは倒れる。
やがて、声にならぬ雄叫びがアジト内に上がった。そうして苦痛によるイズナの痙攣
﹁││
!!
1015
NARUTO 第三十三話
五影会談。暁がもたらした被害と脅威により開催されたそれは、イズナの登場によっ
て混迷の一途を辿っていた。
イズナの計画を聞いた五影と鉄の国の侍大将ミフネは、到底その目的を理解出来ず、
敵対する道を選んだ。
イズナもそうなるだろうと予測しており、不敵な笑みを残して消え去って行った。残
された者達に出来る事は唯一つ。そう、イズナの計画を止める為に諍いを捨てて協力し
﹂
合う事⋮⋮ではなく、一人の可憐でか弱い乙女を弾糾する事であった。
﹂
!
?
いるのである。
﹁正直に答えろ
貴様が日向ヒヨリだというのはどういう意味だ
﹂
!?
真面目に対応しないアカネに、我慢という言葉をそこら辺の草原にでも捨ててきた
!
るオオノキが思わず叫ぶ。だが、外部に知られていないだけで、こういう一面も持って
日向ヒヨリとはこんな性格だったのだろうかと、綱手を除きこの場で最もヒヨリを知
﹁やかましいわ
﹁ぷるぷる。私、悪い日向ヒヨリじゃないよ
NARUTO 第三十三話
1016
エーが怒鳴り散らす。だがまあ今回ばかりはエーと同じ気持ちの者達が大半であった
が。
流石にアカネもこれ以上とぼける事はしない。最初のおとぼけはいわゆるお約束と
いう奴なのだ。
﹄
!?
﹂
?
﹁⋮⋮そ、そういえば⋮⋮日向ヒヨリと同じチャクラの質じゃぜ⋮⋮﹂
すか
﹁うーん。私のチャクラの質は変わっていないので、オオノキなら分かるんじゃないで
り一概に嘘だと断定する事も出来ないでいた。
誰もが信じ難い事実を、やはり信じ切れずにいたが、綱手のその言葉で信憑性が上が
な﹂
﹁信じられないだろうが、これは事実だ⋮⋮。私も始めて知った時は本当に驚愕したが
目的でしたとか言える訳がなかった。
要な情報は秘密にしているが。流石に何度も転生してきた事や、童貞捨てるのが最初の
驚愕する皆に対して、アカネは転生に関してある程度の情報を公開する。幾つかの重
﹃
生し、再び今の私として生を授かったのです﹂
﹁そのままの意味ですよ。私はかつて日向ヒヨリという存在でした。死して魂が輪廻転
1017
﹁本当かオオノキ
﹂
う信憑性を更に上げていた。
?
﹁どういう事だ風影
﹂
﹁あ、そうですね。チヨは前回の一件で私の正体に気付きましたよ﹂
﹁⋮⋮もしや、これはチヨバアも知っている事か
﹂
クラだ。間違いない。そう確信するオオノキの言葉は、アカネがヒヨリの転生体だとい
そんなオオノキがアカネのチャクラを探ると、そこにあったのはヒヨリと同質のチャ
な実力と、有り得ない程のチャクラの量、そしてその質は目と体に焼き付けられていた。
第一次忍界大戦にてヒヨリの戦いをその目で見た事があるオオノキだ。その圧倒的
!?
た事。そして事件解決後に、チヨバアからアカネとは敵対するなと言われていた事を。
人柱力として暁に狙われ攫われた時に、救出部隊としてアカネとチヨバアもが来てい
ての事件のあらましを説明した。
二人の会話の意味が理解できずにエーが我愛羅へと確認する。そこで我愛羅はかつ
?
ちを理解出来ていた。
少し拗ねた様に言うアカネだが、綱手とオオノキだけは他の誰よりもチヨバアの気持
﹁失礼な。私をそんな危険人物みたいに言わないで下さい﹂
﹁チヨバアは余程お前を恐れているようだな⋮⋮﹂
NARUTO 第三十三話
1018
特に敵としてヒヨリと相対した事のあるオオノキはその思いが強い。ヒヨリにとっ
﹂
ては無数の敵の中の一人に過ぎなかったかもしれないが、オオノキにとっては群を蹴散
らす圧倒的な個を見せ付けられたのだ。当時の畏怖はまだ残っていた。
﹁で、では、あなたが日向ヒヨリの転生体という事に間違いはないのですね
なかった。
﹁⋮⋮一つ聞く。お前の強さは日向ヒヨリの最盛期と同等なのか
?
非常に残念な答えだった。
オオノキの質問にアカネは首を横に降った。当時の最盛期と同等ではない。それは
﹁いいえ﹂
﹂
でに至った彼らだ。嘘を見抜けるかはともかく、真摯に答えた言葉を理解出来ない訳は
この言葉は真実だろう。五影とミフネはそれを確信出来た。里や一国を代表するま
﹃⋮⋮﹄
﹁はい。私の誇りに誓って、私が日向ヒヨリの生まれ変わりだという事を宣言します﹂
今は全ての里が協力して乗り越えなければならない事態に陥っているのだから。
そ れ に 対 し て ア カ ネ は 首 肯 し た。こ こ ま で 来 て 今 更 嘘 を 吐 く 気 は ア カ ネ に は な い。
してアカネへと確認をする。
こうも立て続けに情報が上がっては嘘だと断言する事も出来ず、水影は最後に念を押
?
1019
当時のヒヨリはまさに圧倒的な実力を誇っていた。当然同じ三忍であるマダラも圧
倒的な力を見せ付けていた。
敵にマダラを有するイズナがいるならば、こちらにも同レベルの三忍がいる事は非常
に望ましい事だ。だがそうでないならば⋮⋮。
﹂
僅かに落胆するオオノキだったが、彼は少々勘違いしていた。
﹂
﹁当時よりも今の方が強いですね。修行は欠かせませんでした
﹁もうお前一人でいいと思うんじゃぜ
﹂
オオノキは思考を放棄した。
﹁何を言っているオオノキ
?
!
等と思っていた。だがオオノキは半分以上本気で発言していたりする。
多くの者はオオノキの言葉を冗談だと思い、雷影は相変わらず冗談が通用しないな、
エーはそれを冗談と受け取らずに怒りを顕わにする。
た っ た 一 人 に 戦 争 を 任 せ る と い う 本 気 か 冗 談 か 分 か ら な い 発 言 を す る オ オ ノ キ に、
!!
得いかない思いである。
達観したオオノキの言葉は何よりも説得力が籠もっていた。アカネとしては少々納
の強さを知る者が聞いたら、誰だってワシと同じ思いになるはずじゃぜ⋮⋮﹂
﹁お前は何も分かっとらんのじゃぜ。日向ヒヨリよりも強い。これを当時の日向ヒヨリ
NARUTO 第三十三話
1020
﹁まったく。私がいくら強くたってどうしようもない事は山ほどあるんですよ イズ
はたまたそれら含む全てかまではアカネにも分からないが。
それだけの切り札を持っているのだろう。それが輪廻眼か、それとも十尾とやらか、
だと。
実イズナはアカネを含み五大忍里が協力したとしても負ける訳がないと思っているの
あのイズナの自信。それはハッタリや誇張ではないとアカネは感じ取っていた。真
ナとの戦争もそうです。皆が協力して、初めて勝機が生まれると私は考えています﹂
?
﹁ええ。イズナの暴挙を許す訳にはいきませんからね﹂
﹁元よりそのつもりだ﹂
﹁日向の姫君にそう言われてはな⋮⋮。ワシも協力しよう﹂
い。癪だが手を組んでやる﹂
﹁お前が何者だろうと関係ない。ワシはあんな奴に協力するつもりも負けるつもりもな
たようだ。
の場の誰よりも長く生きているアカネのこの行動を無碍にするつもりは誰にもなかっ
そう言ってアカネは頭を下げる。しばらく無言の時間が続くが、実年齢はともかくこ
を守る為に、協力してください﹂
﹁私に対して思うところもあるでしょう。ですが、どうか忍界の、いえ全ての人々の未来
1021
﹁私も当然協力する。ばあ様、頭を上げてくれ﹂
雷影・土影・風影・水影・火影。五大隠れ里と謳われる忍の里の長が協力しあう。そ
こにはかつて柱間とマダラが夢見た形があった。それを思い、アカネは嬉しくなる。
︵見てるか柱間、マダラ⋮⋮。今、忍界が一つになろうとしているんだ︶
それは強大な危機が訪れたからこその団結なのだろう。皮肉だが、イズナの行動がこ
の協力関係を生み出したと言える。
だがそれでもいい。ようはこれで終わりにせず、これを始まりにすればいいのだ。こ
の強大な危機を乗り越え、その後も全ての里が協力し合えたなら⋮⋮。
アカネが希望の未来に想いを馳せている中も、五影の会話は続いていく。
!
!
ダラと手を組んでいる、とか言い出しそうなもんじゃと思っとったんじゃがな﹂
ばあ様を疑っているのか
﹂
﹁しかし、良く日向ヒヨリを信用したもんじゃぜ雷影よ。お前なら日向ヒヨリが裏でマ
めったな事を口にするな
!
昂する綱手を横に置いてオオノキに答えを返す。
もちろんそんな訳ないとアカネを信じている綱手はその言葉に激昂したが、エーは激
はないだろう。
ダラとヒヨリだ。実は裏で手を組んでいるのではと疑ってもそれほどおかしな発想で
オオノキの言葉は辛辣だが、ある意味では全うな疑りでもある。元々同胞であったマ
﹁おい両天秤のジジイ
NARUTO 第三十三話
1022
﹁ふん。自分達から正体をばらし疑われる様にする馬鹿がどこにいる。もし手を組んで
いたならば黙っていた方が利になるだろう﹂
まさに正論と言える答えだった。敵が騙し討ちをするならば、わざわざスパイ容疑を
掛けられる様な情報を与えはしないだろう。
それすら計算に入れていたとしても、疑問を持たれる段階で不確定要素は大きすぎ
る。むしろ、イズナがこういったいざこざを狙ってわざわざ日向ヒヨリの正体をばらし
て行ったのではないかと勘繰る程だった。
﹂
?
﹁よし。なら問題はワシの弟か⋮⋮﹂
力を求めていた。
も励んでいる。ナルトとしても兄弟子である長門から託された想いを守る為に更なる
ナルトは綱手から言われたSランク任務││という名目の保護││である修行に今
の情報が伝わる様になっています﹂
﹁私の影分身がついています。何かあれば影分身が解除されて、本体である私に何らか
﹁問題ない。ナルトは里で保護してある﹂
の保護は万全か
ワシの弟と木ノ葉隠れの人柱力をこちらで確保する事が先決だ。火影よ、九尾の人柱力
﹁下らん話は終わりだ。ワシらがすべき事はイズナの狙いである八尾と九尾、つまりは
1023
そう言いながら、エーは内心でこの状況でややこしい事を仕出かした弟に頭を痛くし
ていた。だが表情には出さずに他里に向けて次々と指示を出していく。
するとそれに間違いはないようだな。里からは既に捜索隊を編成しておる。岩・霧・砂・
﹁木ノ葉から得た情報によると、ビーは単独行動中の様だが、先ほどのイズナの言葉から
木ノ葉にはキラービーの情報を提供する。それを元に捜索チームを編成しすぐに動け﹂
そうしてエーの指示ともたらされた情報によってキラービー捜索の動きが進む。そ
こでミフネは纏まりつつある忍達にある提案を促した。
だろうか﹂
﹁五影の方々。こうして協力関係になるに当たり、公に忍連合軍を作るというのはどう
その提案に異論を唱える者はいなかった。五大隠れ里が協力するのだ。誰が見ても
分かりやすい纏まりの形を作り上げた方が良いだろう。
問題なのはその指揮系統だ。連合軍の権限を誰が持つか。それによっては一悶着あ
るやもしれなかった。
されるだけなのだから。
この意見にも異論を唱える者はいない。ここで反論した所でその者が全員から糾弾
になる。ここは中立国の立場を尊重して頂いた上で、拙者が提案したい﹂
﹁指揮系統は統一するのが望ましい。だが、それを決めるのがあなた方だけでは揉め事
NARUTO 第三十三話
1024
緊張が場を支配する中、ミフネがゆっくりと忍連合軍総大将を指名する。
﹂
?
持つ忍同士が、今手を取り合った。ここに、忍界初の忍連合軍が結成された。
だから味方にすればどれほど頼もしいかも理解している。互いに相容れない一面を
信頼していた。
互いに不満そうに不敵に笑いながらも、エーもオオノキも敵としての相手をある意味
﹁ああ、協力しろ﹂
﹁仕方ない。お前の命令を聞いてやる﹂
る。それは年の功で理解出来たオオノキであった。
若干不満そうにしていたが、ここに至って揉めていては今後の纏まりに差し支えが生じ
綱手・我愛羅・メイの三人は特に異論なく、納得の表情を見せていた。オオノキのみ
﹃⋮⋮﹄
せてみてはいかがか
る尾獣八尾をコントロール出来るのは雷影殿のみ。故に、雷影殿に忍連合軍の大権を任
殿に対しての判断からも、冷静に事をみる力を持っている事が伺える。それにキーとな
﹁先の雷影殿の指示、その適切さと早さは有事に置いて非常に利となるだろう。ヒヨリ
1025
五大忍里からなる忍連合軍が結成されるが、それで五影会談が終わった訳ではない。
その後にも幾つかの話し合いが講じられていた。
﹁八尾と九尾をこちらの連合軍で見つけ出し、隠しておくのがベストではないでしょう
か﹂
メイの意見は正論だろう。イズナの目的である無限月読には十尾が不可欠。そして
十尾復活には八尾と九尾が不可欠。
隠してどうする
﹂
八尾と九尾を除く全ての尾獣がイズナの手にある今、その目的を妨げる為には八尾と
ナルトもビーも大きな戦力だぞ
!
!
九尾を捕らえられない様にするのが最も効率的だろう。
﹁何を言っている
!
﹂
?
﹁それは駄目だ。これは二人を守る戦争でもある﹂
だが、五影にはメイと同じ考えの者が多かったようだ。
トとビーを隠すのではなく、戦争の戦力として投入した方が良いと判断していた。
対してそれに異を唱えるのが綱手とオオノキだ。両者ともに強大な力を有するナル
の尾獣を戦力として計算した方がいいのではないか
に尾獣を使った術や隠し玉を持ってるやもしれんぜ。ワシら忍連合軍側も、八尾と九尾
﹁火影に賛成じゃぜ。イズナの持つ七体の尾獣が集まった力は想像もできん⋮⋮。それ
NARUTO 第三十三話
1026
﹁この若僧が
ナルトはな││﹂
!
出すわけにはいかん
﹂
﹁ワシも風影の意に同意だ。もしもの事を考えれば、敵を前に八尾と九尾をおいそれと
﹁私も風影様の意見に賛成です﹂
沈黙する綱手を尻目に、メイとエーも我愛羅の意見に賛同する声を上げる。
だろう。それを思い出すと綱手は我愛羅に対して何も言えなくなったのだ。
綱手の治療が間に合ったから良かったが、そうでなければナルトはあの時死んでいた
出来たが、その代償にナルトは瀕死の重傷を負った。
してそれを押し通していた。結果として綱手はそのおかげでかつてのトラウマを克服
綱手はナルトと出会ったばかりの事を思い出す。あの時も、ナルトは無茶をして、そ
いたからだ。
我愛羅のその言葉に、綱手は何も言えなかった。まさにその通りだと綱手も理解して
﹁⋮⋮﹂
﹁仲間の為なら無茶をする⋮⋮だからこそだ﹂
発する。
我愛羅の言葉に綱手は力を籠めて反論しようとするが、それを遮って我愛羅が言葉を
﹁あいつの事は良く知ってる⋮⋮﹂
1027
!
﹂
何をしでかす
エーは八尾と九尾が捕らえられる危険性を上げ、そして続けて別の危険性も口にす
る。
か分からん⋮⋮逆に戦場が混乱するかもしれんしな
﹁そもそも八尾であるワシの弟は作戦などという言葉には縁遠い奴だ
!
それに同意した。意外性ナンバー1の名は伊達ではなかった。
﹁⋮⋮分かった﹂
?
も理解しているので、どうにか納得したようだ。
出したい所だが、五影内ではその意見は少数な上に、他の五影が言う様に危険性の高さ
メイの申し出に、綱手もオオノキも渋々だが同意する。内心では人柱力の戦力を持ち
﹁⋮⋮うむ﹂
﹂
キラービーの評価を聞いた我愛羅がナルトについても同じだと語り、綱手もアカネも
﹁⋮⋮ですねぇ﹂
﹁⋮⋮だな﹂
﹁⋮⋮九尾のナルトも同じだ﹂
どうやらキラービーの性格は雲隠れではかなり知られているようである。
エーの言葉にエーの部下の二人が何とも言えない表情を浮かべて同意を示していた。
!
﹁分かりました。では八尾と九尾は保護拘束という事でどうです火影様、土影様
NARUTO 第三十三話
1028
こうして五影全員の意思により八尾と九尾に対する処置が決まった所で、エーは五影
以外の人物の意見を求めた。
アカネのその言葉に一番に反応したのは綱手だった。綱手はアカネの事を誰よりも
﹁ですが、今のナルトが戦争に加わった所で正直足手まといにしかならないでしょうね﹂
収めたのもアカネであった。
再び混迷しようとする五影会談。だが、それを作り出したのがアカネならば、それを
ネの立場と実力が高すぎた。
五影でないアカネの意見など話し合いの数に入れる必要はないが、そうするにはアカ
二で決着した問題が、アカネの意見で再びもつれようとしているからだ。
そこまで言ったアカネの言葉に再び場が荒れようとする。五影の話し合いでは三対
﹁そうですね。ナルトの気持ちを考えるとナルトも戦力に加えたい所ですが⋮⋮﹂
然ではあった。
ナやマダラについて詳しい人物だ。忍連合軍を預かる者としては意見を求めるのは当
だが相手はこの場の誰よりも長く生き、誰よりも経験豊富で、誰よりも敵であるイズ
過言ではないだろう。
五影会談で五影や会談を預かる立場の者以外に意見を問う。それは異例と言っても
﹁⋮⋮お前の意見を聞きたい日向ヒヨリ﹂
1029
尊敬している。立派な祖父であった柱間と同等の存在であり、幼い頃より世話になって
いる存在だ。尊敬しない訳がなかった。
だが、それでも今のアカネの言葉は綱手には許せなかった。綱手はナルトの事を心底
想っており、ナルトが強くなろうとしている意思と、そして実際に強くなったその努力
を知っている。それが無意味であるかの様に言うアカネの言い方は、アカネを尊敬する
あのペインを倒したんだぞ それが足手まといになる
綱手にも看過出来なかったのだ。
﹂
!
!
大半は足手まといになるだろう。
に勝てる忍が一体どれ程いるだろうか。それが足手まといだと言うのならば、世の忍の
それと真っ向から相対し、打倒したのがナルトなのだ。仙人にすら至った今のナルト
のある忍を打倒したペインのその実力は、忍界でも屈指の物だろう。
るペインの巨大な爪跡。広大な里の大半を破壊しつくし、生き返ったとはいえ多くの名
その実力は木ノ葉隠れが誰よりも知っているだろう。今もなお木ノ葉隠れの里に残
ダーを張れたのだ。
黒幕ではない。だが、実力が確かだからこそペインは表とはいえ際物揃いの暁でリー
綱手のその反論はまさしく正論だろう。ペインは暁の表向きのリーダーであり、真の
!
!
わけがないだろう
﹁ばあ様 ナルトは強い
NARUTO 第三十三話
1030
だが、綱手のその正論による反論は、ナルトの立場を考慮すれば正論には成りえない
のだった。
﹂
!
﹁それは⋮⋮それ程なのか⋮⋮
﹂
ルトを守る為にどれだけの忍が犠牲になればいいか⋮⋮あなたに分かりますか綱手
?
﹂
﹁そして、今のナルトが百人いたところで、イズナ相手に勝ち目はありません。そんなナ
カネは説明した。
だが今納得出来ないのはナルトが戦争で足手まといになるという一点だ。それをア
ビーを保護拘束する案に納得したのだ。
そ れ は 綱 手 も 先 の 五 影 と の 話 し 合 い で 理 解 し て い る。だ か ら こ そ 綱 手 も ナ ル ト と
ん﹂
ですが、ナルトは敵に狙われる立場。八尾と九尾を敵に捕らえられる訳にはいけませ
﹁ナルトがただの忍であれば、まさに戦争において頼れる戦力となっていたでしょう。
てた。
なおもアカネに食って掛かっていた綱手に対し、アカネはその言葉で反論を切って捨
﹁そのナルトよりも、敵の方が圧倒的に強いからです﹂
﹁なら何故
﹁綱手。ナルトは強いですよ。それは私も認めます﹂
1031
?
今のナルトが百人いたところでイズナには敵わない。ナルトの実力を知る綱手とし
ては、流石にそこまでとは考えていなかったようだ。
だが、アカネは綱手の問いに対し、残酷にも首肯する事で答えた。
﹁イズナの実力は恐らくマダラ以上となっているでしょう⋮⋮。あの自信からして恐ら
く間違いはありません。イズナ自身、穢土転生のマダラ、一尾から七尾までの尾獣⋮⋮
それらから己の身を守るのに、ナルトはまだ未熟です﹂
ナルトが自身で自身の身を守る事が出来ない以上、ナルトを守るのは他の忍の役目と
なる。そうなればどれだけの忍がナルトに代わり犠牲となるのか⋮⋮。それを考えれ
ば、今のナルトを戦争に参加させる訳には行かなかった。
アカネの意見に反論の言葉がなくなった綱手は沈黙するしかなかった。
﹁⋮⋮﹂
アカネも認める様にナルトは確かに強い。ナルトに勝てる忍は本当に僅かだ。だが、
イズナはそれを凌駕するのだ。
ナルトとイズナの戦力差が少なければともかく、百対一でもイズナが勝つとなれば、
それはナルトを守るという前提がある戦争ではナルトは足手まといとなってしまうの
だ。
﹁ナルトが九尾の力を自在に扱える様になれば話は別ですけどね﹂
NARUTO 第三十三話
1032
そこまでの強さになれば、ナルトが足手まといになる事はないだろうとアカネは言
う。
ナルトが九尾の力を引き出せれば、それでイズナに勝てると言う訳ではない。だが、
少なくとも簡単に捕らえられる事はなくなるだろう。
そこまで話してアカネはチラリとエーに対して視線を向ける。それに気付いたエー
はまさかと思いつつも、ナルトとキラービーの隠し場所として考えていたとっておきの
場所を思い出していた。
としていたのだが⋮⋮﹂
?
﹁それなら万が一に九尾が暁に襲われても、それを自力で跳ね除ける可能性も上がるな﹂
﹁ナルトに人柱力の修行を課す、というわけか﹂
﹁なるほど⋮⋮。そこで八尾と九尾を保護しつつ││﹂
と一緒に修行に励んだある孤島だ。そこでビーは尾獣の力を己の物にした﹂
﹁場所は暁メンバーの出ていない雲隠れにある場所が妥当だろう。そして、そこはビー
んな関係があるのか。オオノキの、いや他の五影全員の疑問にエーは答えた。
隠し場所だけならともかく、ナルトが九尾の力を自在に扱える様になる事に関してど
﹁どういうことじゃ雷影
﹂
﹁⋮⋮それに関してはワシに考えがある。元々八尾と九尾の隠し場所として提案しよう
1033
﹁保護と人柱力の強化。一挙両得の案という訳じゃぜ﹂
﹂
エーの案に全ての五影が納得した。だが肝心のエーは浮かぬ顔でアカネを見つめて
いた。
﹁⋮⋮雲隠れの秘密の孤島の事を知っていたのか
﹁ありがとうございます雷影様﹂
だとは言わん﹂
﹁ふん⋮⋮。まあいい。元々九尾もそこに案内するつもりだった。今更この状況で秘密
をね。まさか本当にあるとは⋮⋮﹂
﹁いえ。噂で聞いた事はあるくらいです。雲隠れには人柱力を御す方法があるという噂
?
そこら辺の機微の調整を上手くされている様で、どうにも苦手に感じている様だ。
エーは感じていた。
りなど、そこには嫌みの様な物は感じない。先の礼も真実想いが籠められているのを
だからと言ってアカネに対して反発する程に気に食わない訳ではない。物腰や目配
平の上で動いている感じがして気に食わないようだ。
にこやかに礼を言うアカネに対し、エーは不機嫌そうに返す。どうにもアカネの手の
﹁ふん﹂
NARUTO 第三十三話
1034
八尾と九尾に対する方針が決定した次にした事は、敵の戦力の確認であった。
そして肝心要のイズナ。彼に関しては分かっている事は非常に少ない。
がいいだろう。
他にも隠れた能力を有している可能性もあり、単なる情報収集専門の忍と思わない方
程の研究者だというのが伺える。
これらは大蛇丸の研究によって解明されたゼツの能力であり、この点から大蛇丸が余
柱間細胞から得た木遁忍術を応用して作り出された術のようだ。
更に樹木を媒介に大地と同化して感覚を共有する術も持っている。この二つの術は
出来ないという恐るべき術である。
実体化するという術だ。しかも胞子状態では優れた感知タイプの忍ですら気付く事が
胞子の術とは、己の分身を胞子の状態にして対象に取り付かせ、チャクラを奪い取り
るが、そのゼツは胞子の術という特殊な術を用いる事が出来る。
だがその情報収集一つ取っても暁は桁違いだ。ゼツという人物が情報収集担当であ
一人は情報収集専門に等しいからだ。
と言っても注目すべき存在は少ない。残る暁は実質二人しかおらず、そしてその内の
そうして綱手は大蛇丸から得た情報を五影全てに伝えていく。
﹁残る暁についてだが、我々が知っている情報を全て開示しよう﹂
1035
アカネの言葉によると、当時のイズナの実力は現在で言うならばイタチやサスケに匹
敵する程だったようだ。
確かに強いだろう。だが、その程度ならば何の問題もない。忍連合軍が相手をするま
でもなく、木ノ葉隠れだけでどうとでもなる程度と言える。
だが今のイズナは輪廻眼を有しているのだ。輪廻眼の恐ろしさはペインにて実証済
みだ。しかも会談に侵入したイズナの言から、それ以上の実力を持っている可能性は非
常に高いと言えた。
何より、一番分かりやすい障害となっているのがイズナに操られるマダラである。
その実力はオオノキも知っている。千手柱間・日向ヒヨリの二人と共に、たったの三
人で第一次忍界大戦を終結に導いたのだ。実際に当時の戦争に参加していたオオノキ
としては、あの光景は恐怖以外の何物でもなかった。
だが、アカネはオオノキが驚愕する事実を述べた。
﹂
!?
死身の肉体を得て当時以上の実力となって敵対している。
当時でさえ、その実力は同じ三忍以外には並ぶ者はいないとさえ謳われた存在が、不
﹁な、なんじゃと
でもなお、今のマダラは第一次忍界大戦当時のマダラよりも強いです﹂
﹁今のマダラは穢土転生であり、その実力は完全には発揮出来ていないでしょう。それ
NARUTO 第三十三話
1036
それに驚愕しない者はこの場にはいなかった。前もって話を聞いていた綱手でさえ、
何度聞いても背筋が凍る様な思いとなる。
オオノキがそう考えたのも仕方ないと言えよう。
?
﹂
!?
﹂
?
しろ、周囲の者達を巻き込まない様にする方が難儀ですね﹂
﹁抑えるだけならば簡単です。というか、勝つだけならばそれほど苦労はしません。む
﹁それだけであのマダラを抑えられるのか
﹁戦争が始まり、マダラが現れたら私が相手をします﹂
のだ。アカネがマダラを抑えられるならば希望の目はあるだろう。
考えてみればここにいるのも、マダラと同じ三忍であった日向ヒヨリ、その転生体な
言葉は朗報だった。
マダラとの絶望的なまでの実力差を想像していたオオノキだが、それだけにアカネの
﹁本当か
﹁ですが、マダラを抑える策はあります﹂
だから、アカネの次の言葉にオオノキが動揺したのも仕方ないと言えた。
圧倒出来るのではないか
あの圧倒的な力に、更に圧倒的な力が加わっているという。マダラ一人で忍連合軍を
は当時の戦争ではマダラが得ていなかった物です﹂
﹁マダラは永遠の万華鏡を得て、木遁忍術を得て、その上で輪廻眼を得ています。これら
1037
﹃⋮⋮﹄
化け物もかくやとばかりのマダラを相手に、勝つだけならば苦労はしないと断言する
アカネ。これには五影も、いや室内の誰もが絶句した。
やはりこれも化け物だ。オオノキは改めてそれを確信する。そして誓った。アカネ
が存在する限り、忍界に無駄な争いを投じる様な行動はしない、と。
﹁未知数なのはやはりイズナと、そして捕らえられた尾獣ですね。イズナがどれ程の力
を有しているか⋮⋮尾獣をどの様に利用してくるか⋮⋮﹂
こればかりは実際に戦争で見ない限りは理解出来ない事だとアカネは語る。これら
によって此度の戦争の行く末が決まると言っても過言ではないだろう。
﹂
数⋮⋮。そしてこの戦争、我々侍も参戦する
ヒヨリ殿の心配も分かるが、これでも
﹁確かに暁の力は未知数。だが、今ここに世界初の忍連合軍がある。その力もまた未知
なお勝ち目はないかな
!
ないと断言する。それに対してアカネは答えを返す。
イズナの力を案ずるアカネに対し、ミフネは忍と侍の全てが結集した力も負けてはい
?
界全てが手を取り合う可能性が広がろうとしているのに、それに期待しない訳がなかっ
そう言ってアカネは笑顔で答えた。ここにあるのはまさに希望なのだ。ここから忍
﹁まさか。今の忍界に一番期待しているのは私なんですよ﹂
NARUTO 第三十三話
1038
1039
た。
こうして五影会談はひとまず終了した。五影はすぐに己が里に戻り、第四次忍界大戦
に向けての準備を始める。
各里からそれぞれの国の大名にも連絡が行き渡り、そして大名達の会談も終えて、正
式に忍連合軍は結成された。
五大国という強大な国と、五大忍里という強大な忍里。それらを巻き込んで、世界が
大きく動き始めた。
NARUTO 第三十四話
忍連合軍が第四次忍界大戦に向けて動いている中、キラービーはとある土地にて発
見・拘束された。彼は非常にマイペースな性格をしており、大蛇丸に襲われた時のいざ
こざを利用して里から抜け出し、心配する者や捜索する者の気持ちもそっちのけで自分
の趣味に浸っていた。
その趣味とは⋮⋮演歌である。元々はラップが好きだったのだが、次は演歌だと急に
言い出し、八尾の声も無視して演歌忍者棟梁であるサブちゃん先生の元へ演歌の教えを
請いに行ったのだ。⋮⋮演歌忍者という需要があるのかどうか分からない存在がいる
この世の中は、きっと広いのだろう。
ともかく、多くの捜索隊やアカネの影分身による捜索によってキラービーは発見さ
れ、そして兄貴分であるエーによってしこたま怒られた後に保護された。暁に捕らえら
れる前に八尾と九尾の安全を確保でき、一先ずは有利に事を運べていると言えよう。
さて、渦中の人物である九尾の人柱力のナルトだが、彼は今も激しい修行を積んでい
﹂
る最中であった。
﹁はあぁぁ
!
NARUTO 第三十四話
1040
﹂
!
けようとする。
する。そして本体と影分身の両方が同時に巨大螺旋丸を生み出し、それをサスケにぶつ
影分身が黒炎を対処している間に本体はもう一体の影分身を伴ってサスケへと突撃
て黒炎をガードする。
した。影分身を作り出し、その影分身が大地に螺旋丸を叩き込む事で出来た破片を使っ
黒炎が鋭い無数の刃となってナルトに襲い掛かる。だがナルトは慌てる事なく対応
これがあれば消えぬ黒炎も解除する事が出来るからだ。
味方であるナルトに気兼ねなく天照を使用出来るのもこの加具土命のおかげである。
い天照の欠点を補えるという訳だ。
命は天照の黒炎を自在に操る力を持つ。これにより強大だが扱いが難しく、消耗も激し
サスケは呼び出した黒炎をもう一つの万華鏡である加具土命にて操作する。加具土
は仙人モードで感知して即座に回避する。
視界にある空間に直接黒炎を呼び出す天照。サスケがそれを発動した瞬間に、ナルト
人は、新たな力を得た事で更に激しいぶつかり合いをしていた。
仙人モードのナルトと、万華鏡写輪眼に目覚めたサスケ。多くの修行で高められた二
相手は当然というべきか、最早終生のライバルとも言えるサスケである。
﹁おおぉぉ
1041
もちろん影分身を前方に出して本体を死角とし、写輪眼や天照に対する防御とする事
も忘れてはいない。
仙術が加えられた巨大螺旋丸。だが、サスケはそれを回避しようとはせずに敢えて受
け止めた。そう、サスケが開眼した第三の万華鏡、須佐能乎の力を確認する為にだ。
絶対防御とまで言われる須佐能乎の防御。第二段階にまで至ったサスケの須佐能乎
は、ナルトの巨大螺旋丸を確かに防いだ。だが、やはり螺旋丸の威力も然る物だ。その
あまりの威力に須佐能乎にも皹が入っている様だ。
螺旋丸でこれならば、風遁螺旋手裏剣を防ぐ事は難しいな。サスケはそう考える。そ
サクラちゃん
﹂
してそれ以上に、己を苛む痛みに思考が逸らされた。
﹂
大丈夫かよサスケ
﹂
!
!
分かったわ
!
﹁ぐ、ぅ⋮⋮
﹁ええ
!
!
﹁問題、ない⋮⋮
続きをやるぞナルト⋮⋮
﹂
!
に強くなっている。
サスケは強くなった。悲しみと憎しみを得て万華鏡を開眼し、それを乗り越え、確実
それが強がりであるのは誰の目から見ても明らかである。
!
天照を放った左目からは血が流れ、須佐能乎の反動か口からも血が溢れていた。
!
﹁お、おい
NARUTO 第三十四話
1042
だがその力は諸刃の剣なのだ。強すぎるが故に術者自身を苛む、それが万華鏡写輪眼
なのだ。このまま多用すれば視力は無くなり、肉体はボロボロになるだろう。
﹁止めるなアカネ
⋮⋮ッ
﹂
!?
無茶しないで
﹂
!
!
を付いてしまう。
﹁サスケ君
と思っているの
!
の修行では幾度も万華鏡写輪眼を使用しており、その度に限界ぎりぎりまで肉体を酷使
万華鏡写輪眼を駆使してナルトと全力で戦ったのはこれが初めてだったが、それ以外
操れる様にする為の修行を行っている。
度も修行を繰り返していた。その間に当然サスケは万華鏡写輪眼の力を把握し、自在に
アカネの本体が五影会談に出向いている間にも、ナルト達は影分身のアカネと共に何
い。
サクラの言う通り、サスケが万華鏡写輪眼の反動で倒れるのはこれが初めてではな
!?
もうこれ以上は無理よ これまでに何度倒れている
だが、やはり無理があったのだろう。サスケは更に口から吐血し、そのまま大地に膝
ネの制止すら振り解こうとする。
修行を見守っていたアカネもサスケのこれ以上の修行を止めに入るが、サスケはアカ
!
﹁そこまでですサスケ。これ以上は修行の効果も少ないでしょう﹂
1043
していたのだ。
おかげでサスケは自身の新たな力を把握し切ったと言える。そして、その代償として
今のサスケの視力は大分落ちていた。集中している時ならばともかく、こうして戦闘に
より力を消耗した時、その視力はまともな視界をサスケから奪う様になるのだ。
今のあなたならば、永遠の万華鏡を手にしても力に酔う事はないと信じています﹂
﹁サ ス ケ、も う 十 分 で す。あ な た は 新 た な 力 を 十 分 に 把 握 し ま し た。そ の 代 償 も ⋮⋮。
﹁⋮⋮﹂
アカネからのお墨付きだがサスケの気持ちは晴れる事はなかった。
サスケからすれば、今の自分は己の力を到底扱え切れているとは思えなかったのだ。
強大な力に振り回され、その代償に苦しむ様は無様そのものだと自身を罵倒していた。
そんなサスケの心情を知ってか、アカネはサスケへと声を掛ける。
過信せず、さりとて過小せず、己を知る。それが大事なのだとアカネは語る。
人は成功出来る可能性を高める事が出来るのだ。
自分に自信を持てずに様々な機会を逃した者は世に多い。自信を持つ。それだけで
そう、自信を持つ。それ自体は悪い事ではない。むしろ良い面を多く持つだろう。
こと自体は何も悪い事ではありません﹂
﹁サスケ。自信は過ぎれば過信となり、慢心を生み、死を呼びます。ですが、自信を持つ
NARUTO 第三十四話
1044
﹂
﹁イタチの左目も既に馴染みました。あなたも万華鏡の力を理解しました。眼の交換は
今日行います。分かりましたね
?
永遠の万華鏡を手に入れる事が唯一の道であり、それ以外で自力の克服は有り得な
込んだうちは一族は一人としていないのだ。
る事を不甲斐ないと思っているが、そもそも歴史上に置いて万華鏡写輪眼の反動を抑え
もっとも、サスケの考えは少々的外れでもある。サスケは万華鏡写輪眼の反動に屈す
得をする。
アカネの言葉を理解したサスケは、まだ自身の不甲斐なさに思う事はあれど一応の納
良いのだ。
かる事が予想させる。その為に出来るだけ早くサスケとイタチの両目を交換した方が
そして万華鏡写輪眼を交換した場合、その万華鏡が自身の身体に馴染むのに時間が掛
だからと言って力ある者を遊ばせておく余裕はないのだ。
り、そこらの上忍すら歯が立つ事はない。忍界全ての未来が掛かっている戦争だ。下忍
サスケやアカネは未だに下忍という立場だが、二人の戦力は下忍のそれを遥かに上回
いし、サスケ達も戦争に参加する事は通達されている。
戦争に向けて五大忍里は着々と準備を進めている。それは木の葉隠れも例外ではな
﹁⋮⋮分かったよ﹂
1045
い。これはうちはマダラをして覆らない法則だ。
それをサスケが出来ないからと自身を貶めるのは、ある意味傲慢と言ってもいいだろ
う。だが、だからこそのうちはサスケだとも言える。他人が出来なかったから自分も出
来ない等と、サスケは思わなかったのだ。
いるんですがねぇ﹂
﹁全く、自信を持つのは悪い事ではないと言いましたが⋮⋮持ち過ぎも駄目とも教えて
そんなサスケの傲慢を読み取ったアカネは、サスケが自信を無くして落ち込んでいた
のではなく、自信がありすぎたせいで落ち込んでいたのだと理解して肩を竦める。
天才故の傲慢と言うべきか。どことなくマダラを思い出させるサスケにアカネは苦
笑した。
最愛の人が苦しむ様を見せられ、それを和らげる事しか出来ないのは医療忍者として
ては出来るだけ早くにサスケに永遠の万華鏡を手に入れて欲しいと願っている。
だがこれが一時しのぎでしかない事は他ならぬサクラが理解していた。サクラとし
は和らいではいる。
会話の最中にサクラはサスケへと医療忍術を掛けていた。それによりサスケの痛み
﹁ああ⋮⋮悪いなサクラ﹂
﹁これで痛みは和らいだはずよサスケ君。でも無茶はしないでね﹂
NARUTO 第三十四話
1046
も、サスケを愛する女性としても苦しい事なのだ。
﹂
!
﹂
!
?
!?
﹁いえ、ナルトにはある任務についてもらいます﹂
はなく、任務であった。
そう意気込んでアカネに問い掛けるナルトだが、アカネがナルトに課したのは修行で
に応える為にも足踏みしている暇はないのだ。
修行相手がいなくなり、手持ち無沙汰となったナルト。だが兄弟子である長門の想い
いいのか
﹁アカネ オレはどうすればいいってばよ 影分身のアカネと組み手でもしてれば
と、そこで特にする事がないナルトがアカネに問い掛けた。
験を積まないでいい理由にはならない。
経験の為である。今までにも似たような経験は積んでいるが、だからと言って更なる経
どうやらサクラも眼の交換に立ち合う様だ。アカネの言葉の通り医療忍者としての
﹁はい
﹁分かった﹂
ておくように﹂
い。サクラは今後の為に少しでも多くの経験を積んだ方がいいので、眼の交換を良く観
﹁そ れ で は 今 日 の 修 行 は こ れ ま で と し ま す。サ ス ケ と サ ク ラ は 私 に 付 い て 来 て く だ さ
1047
﹂
?
その人物こそ、ナルトと同じく尾獣を宿した人柱力にして、尾獣を完全にコントロー
とってある意味運命的な出会いだったのかもしれない。
ヤマトの功績はともかく、ナルトはこの島である人物と出会った。それはナルトに
隠れはヤマトにもっと感謝してもいいかもしれない。
木ノ葉隠れの復興といい、尾獣の制御といい、まさに獅子奮迅の活躍である。木ノ葉
尾を抑えられずに暴走した時に、それを抑える力を持つヤマトが傍にいるのは当然だ。
ヤマトが同行しているのは当然ナルトの監視と尾獣の抑制の為である。ナルトが九
けたヤマトと、幾人かの木ノ葉隠れの忍、そして案内として雲隠れの忍が同行していた。
ナルトは極秘の任務を受けて雲隠れにある孤島へと移動する。道中は同じ任務を受
◆
になる為の修行を行う事となった。
ナルトは任務という名目の保護拘束と、人柱力として尾獣の力を自在に引き出せる様
島││という名の何か││に出荷されるまで約二日。
・・
アカネの答えに疑問を持つナルト。そして、そんなナルトが雲隠れの国の、とある孤
﹁ある、任務
NARUTO 第三十四話
1048
1049
ルする事が出来る史上でも数少ない忍、キラービーである。
出会った当初は互いにまだ分かり合えずにいた二人だが、ナルトはビーの過去を知
り、そしてビーに共感した。同じ人柱力として似たような過去を持っている事に気付い
たのだ。
だからこそ、ナルトはビーを尊敬した。同じ様な過去を持ち、他人に害され疎まれ、そ
して殺されそうになった事もあった。だがビーはそれを吹き飛ばす程に陽気で、自身を
殺そうとしていた存在すら受け入れるその度量の大きさを持っていたのだ。
そしてビーも同じ様な事をナルトに感じていた。結局は二人は似た者同士だったの
だ。過去や己の境遇に負けず、前向きで明るく生きている。
そんな二人が互いを受け入れて、年齢を超えた友となるのに然したる時間は掛からな
かった。
ビーの過去を知り、ビーと打ち解けあったナルトは己を受け入れる試練に挑んだ。
この島には真実の滝と呼ばれる場所がある。そこは己の中にある闇と向き合う場所。
自身の闇そのものに討ち勝たねば、憎しみの塊である尾獣の力は到底扱えないのだ。
ナルトもビーと打ち解ける前にここで試練に挑み、そして一度は敗れた。己の闇に討
ち勝つ事が出来なかったのだ。
だが、ビーとその仲間と会話している内に、どうすればいいのかという答えをナルト
NARUTO 第三十四話
1050
は得ていた。己の闇に討ち勝つのではない。己を受け入れなければならないのだと。
自分自身を信じられずにどうして前に進めようか。自分を疑わず自分に誇りを持っ
ているビーを見て、ナルトはそれに気付いたのだ。
そして、ナルトは自分自身を受け入れた。他人を憎み、疎ましく思う闇もまた、自分
なのだと。
己の中の闇を捨てず、受け入れ、そして乗り越えたナルト。これでナルトは己の中に
ある九尾と向き合う資格を得たのだった。
真実の滝の試練を乗り越えたナルトは、次に本命である九尾のコントロールを得る修
行へと挑む。
その修行法は、滝の裏にある特殊な遺跡にて行われるものだ。その遺跡は尾獣と対話
出来るシステムとして作られた遺跡だ。その中で人柱力に選ばれた者は尾獣と対話し、
そして尾獣の力を自在に引き出せる様になったのだ。
ただし、ごく限られた僅かな人柱力のみが、であったが。尾獣との対話を失敗した多
くの人柱力はそこで死に、尾獣は新たな人柱力が来るまで遺跡の中に封印される仕組み
となっているのだ。
死ぬ可能性がある。ビーからの説明でそれを理解したナルトは、その事実に恐れず九
1051
尾と相対する事を選んだ。
遺跡の奥には何もない白く広大な部屋があった。そこは真実の滝と似たシステムで
作られた部屋であり、この場所で集中する事で己の精神世界にて尾獣と対話する事が出
来る様になっている。
そしてナルトは、九尾の力をコントロールする為に⋮⋮九尾の封印を解いた。
ナルトの精神世界での九尾との戦いはナルトの優位に進んでいた。
ビーがナルトの精神世界に八尾の力を送り、それで援護し、ナルトも本体がじっと
座って己の精神世界に没頭しているのを利用し、仙人モードとなって一気に九尾を追い
詰めたのだ。
だが、尾獣の力をコントロールするにはここからが本番だった。人柱力が尾獣の力を
得る為には、尾獣の意思から尾獣のチャクラを奪う必要がある。
奪ったチャクラは人柱力の物となる。だが、その際に必ずと言って良いデメリットが
あった。尾獣の意思からチャクラを奪うという事は、尾獣の意思に触れるという事なの
だ。
つまりナルトは九尾の意思に、九尾の憎しみに触れるという事になる。それを防ぐ為
には強い意思が必要であり、その為の真実の滝の試練だったのだ。
だが、九尾の憎しみはビーの予想に反して強すぎた。ナルトは九尾のチャクラを吸収
NARUTO 第三十四話
1052
││
││
││
すると同時に九尾の憎しみも吸収してしまう。
││憎い
││苦しい⋮⋮
││
││
││
││殺してやりたい⋮⋮
││助けて
││あいつさえ居なければ
││復讐してやる⋮⋮
!
!
!!
││
!
憎しみのチャクラは九体に分離しても消えなかった。それどころか尾獣は長く在り
まってしまった。
力の塊だったのかもしれない。そこに多くの人々の苦しみや憎しみが混ざり、黒に染
そして十尾はその力でかつて人々を苦しめていた。元々は十尾のチャクラは純粋な
たのが九体の尾獣の始まりである。
尾獣とは、十尾と呼ばれる最強のチャクラを持つ存在の一部だ。十尾が九つに分離し
憎しみの塊。それが九尾の憎しみの正体。
それは、無数の憎しみの塊だった。一つではない。一人ではない。多くの意思による
││あいつばっかり⋮⋮
││どうせうまくいかない⋮⋮││
!
!
!
続ける内に、 尾獣としての力を利用され人々に振るわれる度に、更なる憎しみを得て
いったのだ。
特に九尾に染み付いた憎しみは他の尾獣を上回っていた。九尾は尾獣の中でも最大
の力を持つ存在だ。それ故に積もり積もった憎しみも強大なのだろう。
九尾の憎しみに飲み込まれかけたナルトは暴走の一歩手前まで陥ってしまう。傍で
見守っていたヤマトはそれを抑えようと木遁の力を振るおうとする。
お前はワシの憎しみの小さな一
だが、その前にナルトの内面で変化が起こっていた。
◆
﹂
﹁お前にワシの力をコントロールする事などできん
部にすぎん
三代目火影は忙しい中も自分に愛情を向けてくれた。その妻ビワコは忙しいヒルゼ
ある。だがそれだけじゃなかった。
だが、ナルトは耐えた。認められず、相手にされず、疎ましがられ、迫害された事も
は暗く重たい過去を思い出す。
九尾の言葉はナルトに重く圧し掛かっていた。九尾が発する言葉を聞く度に、ナルト
!
!
1053
ンに代わり、ナルトを本当の孫の様に扱ってくれた。
多くの子どもからは嫌われていたが、それでも友はいた。一緒にいたずらをする悪
友。共に修行する仲間。互いに認め合った好敵手。こんな自分を愛してくれる女性。
﹂
憎しみだけで育った訳ではない。それがナルトを九尾の憎しみから押し止めていた。
だが、それもここまでだ小僧
!
﹁うわああああ
﹂
だが、そんなナルトに対して、九尾はわざと大量のチャクラを分け与えた。
﹁存外しぶとい⋮⋮
!
消えていなくなれ
!!
みも大量に浴びてしまったのだ。
消えちまえ
!
その時だった。
一人では耐えようのない憎しみがナルトの中に渦巻き、ナルトを支配しようとする。
││消えろ
││
今までの比ではないチャクラをその身に吸収したナルト。それと同時に九尾の憎し
!?
!
﹂
││いいえ⋮⋮ここに居ていいのよ││
!!
不思議とナルトを締め付ける憎しみは収まっていた。そして目の前に佇む一組の男
ルトの心に染み渡っていく。
ナルトの中に憎しみ以外の声が響いた。その声はとても穏やかで、何故か愛しく、ナ
﹁
NARUTO 第三十四話
1054
女にナルトは気付く。
﹁ナルト⋮⋮﹂
﹁ようやく会えたね﹂
二人はナルトに向けて優しく微笑みかけた。そこにあった感情は愛、その一言に尽き
るだろう。
自身に向けて微笑み掛けてくる初対面の二人にナルトは戸惑うが、男の方はどこかで
四代目の顔岩の人
﹂
見た事があると既視感を感じ、そして思い出した。
﹁んっと⋮⋮ああーー
!
ある。正確には本人を模した存在なのだが。
?
じゃあオレってば││﹂
?
せがれ。つまりは息子。それが正しいならば自分は四代目火影の息子だという事に
﹁せがれ
﹁そりゃ、お前の名前はオレが名付けたんだから。せがれなんだし﹂
出来ずに混乱するナルトは、次のミナトの答えを聞いて更に混乱する。
目の前の人物が四代目火影だとして、なぜ自分の名前を知っているのか。現状が理解
﹁ナルトって⋮⋮オレの名前⋮⋮どうして⋮⋮
﹂
そう、男の方は四代目火影の顔岩とそっくりの顔をしているのだ。というか、本人で
﹁はは⋮⋮そこは普通に四代目でいいよナルト⋮⋮﹂
!
1055
なる。
﹂
ナル
そのいきなりの事実にナルトが驚愕している中、ミナトの隣にいた女性が突如として
何すんのさクシナ
ミナトの後頭部を殴り付けた。
﹁いたっ
﹂
成長した息子との初対面
何が、お前の名前はオレが名付けたんだから、よ
トの名前は自来也様から頂いたものだってばね
﹁なーに言ってるってばね
﹁そ、それは、そうだけどさ。それを決定したのはオレだろ
なんだから少しはかっこつけさせてよ⋮⋮﹂
!
!?
ルトは素直にミナトに疑問をぶつけた。
の人は一体誰なんだってばよ
﹂
?
ナルトの疑問に対し、ミナトも女性も答えを返してはいなかった。
﹁ふふ、そうかもしれないね﹂
﹁〝てばよ〟⋮⋮私の口癖って遺伝みたいだってばね⋮⋮﹂
!?
それと、そっちの女
疑問に思った事は色々と考える前に知っている人に聞くのが早い。そう結論したナ
女性は一体何者なのか。
突如として始まった寸劇にナルトは戸惑う。四代目火影に対してこうも気安く話す
?
!
!
!
﹁な、なあ⋮⋮もしかして、四代目火影がオレの父ちゃんなのか
NARUTO 第三十四話
1056
それは仕方ない事だろう。二人はけしてナルトを蔑ろにして答えなかったのではな
く、最愛の息子とようやくの再会に気持ちが先走っていたのだから。
﹁〝てばね〟って⋮⋮も、もしかして⋮⋮﹂
自分と同じ様な口癖。そして父だろうミナトと仲睦まじい女性。
ナルトはその答えに辿り着き、そして最後の確認をするかのように二人に期待を籠め
た視線を送る。
その視線を受けて、二人はより一層の愛を籠めてナルトに名乗りを上げた。
・・・・
﹁さっきの質問の答えを言うよ。オレは波風ミナト。君の、父親だよ﹂
﹁私はうずまきクシナ。あなたの││﹂
そこまでで十分だった。答えを最後まで聞く前に、耐え切れなくなったナルトは二人
に向かって飛び込み、抱きついた。
﹂
ナルトは震えながらミナトとクシナを、父と母を抱き締める。これが嘘ではないんだ
と言わんばかりに震えながらだ。
母ちゃん⋮⋮
!
それを受け止めた二人は優しく抱き締め返した。
﹁ずっと⋮⋮ずっと会いたかったってばよ⋮⋮父ちゃん⋮⋮
﹁うん⋮⋮私も⋮⋮﹂
﹁オレもだよ⋮⋮ナルト﹂
!
1057
十六年ぶりに再会を果たした親子は、その時間を埋めるかの如く抱きしめあった。
だが、ゆっくりとしていられる状況ではない。まずはその時間を作る為に、クシナは
残されたチャクラで九尾の動きを縛り付ける。
いえ、それは火影としての事情、世界の平和の為の事情。非常に重要な事だが、犠牲と
そんなナルトに対し、ミナトとクシナは謝る事しか出来なかった。事情はあったとは
う気持ちも絡み合っていたのだ。
両親に出会えた嬉しさはあれど、それと同時に今まで思っていた事をぶつけたいとい
ればどれだけ違った人生を歩めていたか。
九尾の入れ物となったせいでナルトは辛い思いを何度もしてきたのだ。それがなけ
最初はナルトが不満をぶつけた。何故自分の子どもに、オレに九尾を封印したのか。
そうして九尾を一時的に封じた後に、ナルト達は様々な会話を行った。
柱力として選ばれたのだ。
うずまき一族の生命力と封印術。この二つを有しているからこそ、クシナは九尾の人
る程だ。
いる。その封印術は凄まじく、強大凶悪なチャクラの持ち主である九尾をすら封印出来
うずまき一族は封印術に長けており、クシナもそれに漏れず強力な封印術を会得して
﹁ちょっと待っててねナルト。まずは九尾を大人しくさせるから﹂
NARUTO 第三十四話
1058
1059
なったナルトには関係ない話でもある。
だが、ナルトはそんな二人を許した。確かに辛かった。苦しかった。だが、それでも
自分は四代目火影の息子なのだ。ならばこれくらい耐える事は出来る。
そう言い放つナルトを二人は誇りに思う。自分達が育てずとも立派になってくれた
事に感謝する。そして、自分達の手で育てられなかった事を悔い、悲しむ。
だが悲しんでばかりはいられない。こうしてチャクラを以ってして意思を具現化す
るには制限があるのだ。チャクラが無くなってしまえば消滅してしまう。その前に二
人はナルトと様々な会話をした。
会話と言っても重要な事は僅かだ。十六年前に九尾復活を企んだ男の正体はすでに
知れている。その事はミナトとクシナもナルトの中で見ていたので当然知っていた。
むしろ、ミナトとクシナが驚愕したのは仮面の男の正体ではなく、日向ヒヨリが転生
し、自分の息子を鍛えている事だったりする。
ナルトの中にチャクラと意思のみで存在していた二人は、ナルトが見聞きした事柄を
感じ取れていた。その中でアカネの正体がヒヨリであると察したのである。
四代目火影とその妻であり九尾の人柱力であったクシナだ。当然木ノ葉隠れ最大の
顔役であったヒヨリとは幾度と無く面識があり、ミナトに至っては螺旋丸を開発してヒ
ヨリに見せたら、ヒヨリが昔から使っていた技術の一つであったと判明した苦い過去も
あるくらいだ。
そんな二人がアカネのチャクラを感じてその正体が日向ヒヨリであると察するのは
容易く、その強さを見て正体に確信するのに時間は掛からなかった。
﹁しかし⋮⋮ヒヨリ様が転生するなんてね⋮⋮﹂
それって誰
﹂
﹁ぴっちぴちに若返っていたってばね⋮⋮羨ましい⋮⋮﹂
﹁⋮⋮ヒヨリ様
?
ていた。
そうして疑問に思っているナルトを見て、ミナトとクシナの方が残念そうな表情をし
い。
こうして話題に出したという事は、自分に関わりがある事のはず。だが聞き覚えは無
会話の中でミナトからふと漏れたその名前にナルトは聞き覚えがなかった。二人が
?
﹂
﹁う⋮⋮お、おっす
?
﹂
﹁ヒヨリ様はかつて初代火影様やうちはマダラ様と一緒に木ノ葉隠れを築き上げたお方
目指す身として渋々だが了承した。
元火影だけに実感の籠もった言葉である。ナルトもそれをしみじみと理解し、火影を
!
るからね
﹁ナルト⋮⋮修行もいいけどもう少し勉強もしようね。火影になると書類仕事が結構あ
NARUTO 第三十四話
1060
⋮⋮ん
﹂
?
じゃあ初代三忍のヒヨリ様っ
でも、何でそのヒヨリ様って奴が話に出てくるんだって
!?
よ。初代三忍って言えば分かるかしら
﹂
てすげーんだな
ばよ
?
!
﹁ナルト。オレはお前を信じてる﹂
いっても子どもを信じるのが親だからとミナトは言う。
ナルトならば、忍の世に蔓延る憎しみを終わらせる答えを見つけ出せると。どこまで
いを託した。
3人は残された時間を使って会話を続ける。そして二人は、ナルトに向けて自らの想
と会話する方が重要だと考えてヒヨリの事は忘れる事にした。
ミナトの言い分が少々気になったナルトであるが、それよりもせっかく出会えた両親
﹁うーん⋮⋮ま、いっか﹂
﹁まあ、その内分かる事だよ。今は別の話をしよう﹂
こでは黙っておく事にする。
そう考えるナルトだが、ミナトはアカネがまだナルトに話していない事を鑑みて、こ
という輩も同様のはずだ。
初代火影と言えばかなり昔の人物であり、当然本人は死亡している。ならそのヒヨリ
?
!
﹁三忍って⋮⋮ エロ仙人が二代目三忍って奴だろ
1061
親が子を愛するのは当たり前。その当たり前を生まれてから一度も受け取れなかっ
たナルトに対し、クシナは愛を籠めて言う。
怨嗟の声が九尾から漏れ出る。それをナルトは受け止め、そして憎しみ以外の感情で
と封じ込めた。
だが、そこまでだった。ナルトが腹部の封印式を操作し、一瞬で九尾を元の封印牢へ
を作り出し、尾獣玉と呼ばれるそれをナルトに向けて放とうとする。
それでもなお九尾の力は凄まじかった。膨大なチャクラを籠められた巨大な黒い球
れ、そのチャクラの多くをナルトに吸収された。
ミナトの援護とクシナの封印術も相まって、九尾は手も足も出せずにいい様にやら
撃を九尾に加える。
両親によって憎しみを追いやる事が出来たナルトは、今までとは比べ物にならない攻
そして再びナルトと九尾の戦いが始まる。
を追いやった。
先ほどまで九尾の憎しみに捉われていたのが嘘の様に、ナルトは一気に九尾の憎しみ
まで染み渡り、絶大な安心感をナルトに与える。
二人の言葉を受け取ったナルトは心の底から充足していった。二人の言葉は心の隅
﹁ナルト。あなたを愛してる﹂
NARUTO 第三十四話
1062
1063
返した。
││ごめんな九尾⋮⋮でも、おめーを悪ぃようにはしねーから⋮⋮少しの間、待って
てくれ││
両親との邂逅と語らいは、ナルトから九尾の憎しみすら乗り越える力を与えていた。
今はまだ無理だ。だが、必ず九尾を受け入れる。九尾を疎ましくすら思っていたナル
トが、九尾を真に認めた瞬間であった。
⋮⋮そして、別れの時がやってきた。
ミナトとクシナがこうしてナルトの精神世界で対面出来たのは、二人が死ぬ前に自ら
のチャクラをナルトに封じ込めた為だ。
ナルトが九尾を暴走させそうになった時や、九尾の人柱力として力をコントロールし
ようとした時に助ける事が出来るようにとの想いによって、二人はナルトにチャクラを
封じた。
だが、封じられたチャクラの量は定められており、そして回復する事はない。こうし
て意思を具現化するだけでチャクラは消費され続け、その上九尾との戦闘でナルトを援
護した事でチャクラは更に消費された。
もう、二人に残された時間は殆ど無かったのだ。
二人は最後に十六年前の事件、九尾復活の真相についてナルトに語る。そして、事情
NARUTO 第三十四話
1064
があったとはいえナルトに重荷を背負わせた事を再び謝った。
そしてナルトもまたそんな二人を再び許した。いや、そもそも恨んですらいないと伝
えたのだ。確かに九尾を封印された事に憤りを感じた事はある。だが、それで親を恨ん
だ事はなかった。
親の愛情というものを理解していなかったナルト。だが、今ならそれが理解出来た。
自分の命を子どもの為に与えてくれた両親。そこに籠められた物は一つ、そう、愛情だ。
自分の器には九尾よりも先に愛情が入っている。それが分かっただけでナルトは十
分であり、幸せだった。
父と母の子で良かった。ナルトの想いの全てを聞いたミナトとクシナは、ナルトに礼
を言いながら消えていく。
││私達の元に生まれてきてくれて⋮⋮本当にありがとう││
消えていった父と母。だが、その想いはナルトの中に残っていた。
そしてナルトはここに誓った。火影になる事を。どの先代すら超えた火影になる事
を。そして父よりも格好良い男に、母よりも強い忍になる事を。
こうして、ナルトは現実世界へと意識を帰還させる。
生まれた時から籠められた愛によって、九尾の憎しみを克服したナルト。だが、真に
九尾と分かりあえた訳ではない。
1065
未だ完全なる人柱力とは言えず、新たに得た力もまだ未熟。なので、ナルトは先達で
あるビーと共に新たな力を自在に操る修行を行うのであった。
NARUTO 第三十五話
ナルトが人柱力としての修行に力を入れている中、アカネはアカネで色々と行動して
いた。
イズナの戦力は到底侮れる物ではない。この戦争で敗れれば待っているのは理想の
世界という名の地獄だ。幻術に支配されて見せられる平和な世界に何の意味があるの
か。到底受け入れる事の出来ない未来を回避する為には、イズナとの戦争に勝たなけれ
ばならない。
その為の準備は必要不可欠だ。前もって決めていた作戦を総大将である雷影含む五
影全員に相談し、そこから更に作戦を詰めていく。
﹂
?
例え納得したとしても内心では快く思わない事は多いだろうし、そんな状況でアカネ
も、部下となる上忍や中忍は反発する可能性が非常に高いだろう。
そう、アカネがいくら強くとも、明確な立場は下忍なのだ。下忍が部隊の隊長をして
﹁はい。今の私は立場としては下忍です。部隊を持っても部下が納得しないでしょう﹂
だな
﹁なるほどな⋮⋮。ならば、お前はこの戦争では部隊を率いず、遊撃要員として動くわけ
NARUTO 第三十五話
1066
が命令を出しても満足の行く働きが出来るとは思えなかった。
まあ、忍連合軍の作戦会議に参加出来て、その上自分の意見を述べる事を許されてい
る段階で下忍の域を超えているのだが。
﹂
?
﹂
!
火影を目指すオビトにとって、五影全員が揃っているこの場にいる事は緊張と感激で
アカネからの紹介に、オビトが力強く挨拶をする。
﹁よろしくお願いします雷影様
﹁ええ、私の後ろにいる彼、うちはオビトです﹂
可能なのだが、彼がいるといないとでは作戦の自由度が格段に変わる事になる。
アカネの作戦には一人の協力者が不可欠であった。いや、彼がいなくとも作戦自体は
﹁同行者だと
﹁ただ、同行者は一人付けますが﹂
マダラ出現に合わせて自由に動ける立場がアカネには必要なのだ。
五影全員ですら勝てない敵を放置すればどれ程の被害が出るか。それを抑える為に、
い。⋮⋮はずだ。
たとしても勝ち目は薄く、そもそも雷影が総大将である以上戦場で五影が揃う事はな
それが最も重大な問題だ。マダラの相手はアカネ以外では務まらない。五影が揃っ
﹁それにマダラが現れた場合、部隊を率いていてはマダラへの対応が遅れてしまいます﹂
1067
一杯だった。
﹂
いつか自分もこの中に。そういった想いがオビトの挨拶を力強くさせていた。
﹂
﹁ふむ。うちはの者か⋮⋮。うちはにしては中々いい目をしとるな
﹁ありがとうございます
!
﹂
﹁ほ う。こ や つ も 万 華 鏡 に。⋮⋮ 木 ノ 葉 に は ど れ だ け の 万 華 鏡 開 眼 者 が い る ん じ ゃ ぜ
﹁オビトの万華鏡写輪眼の力があれば、この作戦は非常にやりやすくなります﹂
そんなうちは一族にあって、オビトの熱血具合は雷影には印象良く映ったようだ。
ト意識が高く、すかした態度を持つ者が多いという印象だ。
どうやらオビトは雷影に気に入られたようだ。雷影からすればうちは一族はエリー
!
になっていなければ恐るべき敵なのだが。
それが複数いるならば非常に頼れる戦力と言える。⋮⋮忍界が手を組むという状況
鏡保持者を見たのはマダラ以来だ。
それを有する存在は過去の戦争でもほんの僅かしか現れていない。オオノキも万華
物だというのに、それを遥かに上回る力を持つのが万華鏡写輪眼だ。
万華鏡写輪眼。うちは一族自慢の写輪眼すら超える瞳術。写輪眼ですら手を焼く代
?
﹁現状ではオビト含めて五人ですね﹂
NARUTO 第三十五話
1068
方法だが、山中一族の心伝身の術││いわゆるテレパシー││にて行われる。
なお、オビトがアカネに戦場で追従する理由の一つがここにもある。情報部隊の伝達
部隊から通達が入り、アカネがその場へと向かう様になる手はずだ。
戦場のいずこかにマダラが現れたら、連合本部にて全部隊に情報を伝達している情報
部隊として動く事が決定された。
オビトの能力と作戦の大まかな説明が終わり、アカネとオビトは此度の戦争にて遊撃
ばの話だが。
いられるだろう。ある意味イズナに感謝するオオノキであった。全ては戦争で勝てれ
このまま上手く戦争が終われば、岩隠れは五大忍里として木ノ葉隠れと対等の立場で
ど考える必要もなくなるのだ。
を機に忍界が手を取り合えば無駄な争いはなくなる。木ノ葉との勝ち目のない戦争な
今回の忍連合軍はある意味では良い機会だったのだろうとオオノキは悟った。これ
里。明らかに木ノ葉一国の力が他里と比べて突出しているとしか思えない五影である。
万華鏡有するうちは一族に、アカネ有する日向一族に、それらを有する木ノ葉隠れの
れは綱手を除く他の五影も同じなのだが。
清々しいまでのインフレに流石のオオノキも開いた口が塞がらないようだ。いや、そ
﹁⋮⋮﹂
1069
NARUTO 第三十五話
1070
だが、アカネは自らの固有能力にて、心伝身の術を無効化してしまうのだった。なお、
この固有能力の詳細を知る者は未だ世にいない。
また、念には念を入れて影分身のアカネを各部隊に一体ずつ配置させる事となった。
マダラやその裏にいるイズナ、そして尾獣に対抗する為に、本体の余裕を持たせるよ
う影分身は最小限のチャクラで作り出される。
だが、最小限でも元が元だ。全チャクラの1%程度を消費し、それを更に各部隊に振
り分ける程に影分身を作り出したとしても、その影分身一体一体の力はそこらの上忍を
超える。
チャクラ総量で言えば上忍以下になるだろうが、そもそもの技量が桁違いなのでチャ
クラ以上の活躍は見込めるだろう。
そうして影分身がマダラと遭遇すれば、影分身が消滅して本体に情報を伝え、遭遇前
に消滅した場合は先に決めていた様に情報部隊からの伝達を待てばいい。
なお、ここまで念を入れているのだが、アカネは戦場にマダラが出現すればその瞬間
にチャクラにてマダラを感知する事が可能である。
ここまでするのは本当に念には念を入れての事であった。万が一にも何らかの未知
の手段で、マダラやイズナがチャクラを感知出来ない様にしていないとも限らないから
だ。
これで一先ずのアカネの戦争での動きは決定された。後は残る時間を使って準備を
進めるだけだ。
木ノ葉隠れでは影分身のアカネが弟子である忍達の最終調整に当たっていた。イタ
チとサスケの眼も互いに馴染みつつある。戦争にもぎりぎり間に合うだろう。
と言っても、二人ともぎりぎり過ぎる為にアカネと同じく部隊に加わる事はなく、遊
撃部隊として動くだろうが。
うちはきっての忍であり、永遠の万華鏡を得た兄弟。その遊撃部隊がどれほどの活躍
をするかはまさに見物と言えよう。
本体であるアカネは特筆してやる事は終わり、すでに日常の一部││食事や睡眠と同
意││となっている鍛錬をこなしたり、老人達と茶を飲みつつ昔話に花を咲かせていた
りする。
﹁ギャハ、ギャハ、ギャハ 日向の姫にマッサージをさせるとは。流石は両天秤のオオ
1071
﹁全くだ。もう少し御自分の立場という物を考えてほしいものだ﹂
﹁ワシからすれば信じ難い光景じゃて⋮⋮﹂
ノキと恐れられただけあるのー﹂
!
﹁私、下忍ですもん。ここですかオオノキ
﹁おお、そこじゃぜ。あ∼、効くのぅ﹂
﹂
そんなアカネのマッサージをこれでもかと受けたオオノキは、まさに若返った思いに
意と同時に会得している。壊すも治すも思いのままなのだ。
人体をこれでもかと知り尽くしているアカネだ。マッサージの極意など人を壊す極
まったのだ。
その最中にオオノキが腰を痛めた事が切っ掛けとなり、アカネによるマッサージが始
ンゾウ・アカネ・オオノキ・ミフネ││が集まって和気藹々としていた。
一通りの会議が終わり、休息の時間となった時、老人組││チヨバア・ヒルゼン・ダ
﹁ふむ。心地良さそうだな土影殿⋮⋮﹂
?
こんな気持ちは初めてじゃぜ マダラだろうがイズナだろ
﹂
!
なっていた。
身体が軽い
!
うが、もう怖い物はない
!
聞いたアカネが何らかのフラグが立ちそうな気がして不安になったのは誰も知らない。
生まれ変わったかのような気持ちにオオノキは舞い上がり、思わず叫び出す。それを
開放された。骨や神経の歪みを矯正されたのだ。まさに新生オオノキである。
絶えず鈍い腰痛に襲われていたオオノキは、マッサージを終えた瞬間にその痛みから
!
﹁おお
NARUTO 第三十五話
1072
﹁調子に乗りすぎですよオオノキ。そもそも、身体の使い方に無理があったから腰痛に
なるのです。無理というか、無駄とも言えますね。修行不足ですよ﹂
アカネがフラグを回避する為にオオノキに注意を促す。アカネからすれば腰痛すら
修行不足の一言で済ませてしまうのだった。
﹁土影殿に同意﹂
そりゃそうじゃ
く。かつては、いやほんの数週間前までは敵同然の相手が集まり、互いに笑い合う。ま
そう呟くミフネに、誰もが聞き入った。そう、その通りだ。こんな状況を誰が思い描
んな時が訪れるなど、この歳になっても思いもせなんだ⋮⋮﹂
﹁こうして、忍の重鎮である各々や、侍である拙者が集まり馬鹿な話をして笑い合う。こ
そしてそんな彼らを見てミフネも笑みを浮かべる。
れど楽しげに笑うアカネ。
オオノキの言葉から始まり、アカネを肴に笑う老人達。それを僅かに疎ましげに、さ
!
﹁右に同じく﹂
﹁ギャハ
!
﹁こいつら⋮⋮﹂
﹂
る忍がどれだけいるか知りたいもんじゃぜ﹂
﹁おぬしに言われてはどの忍だろうと立つ瀬がないぜ。日向ヒヨリ以上に修行をしてい
1073
さに夢物語だ。
皆がそう思い、今のこの状況に深い感慨を持つ。その中にあって、アカネだけは違う
想いに浸っていた。
﹁柱間と⋮⋮マダラ。この二人は夢見ていました。誰もが手を取り合う世界を⋮⋮﹂
そして、アカネも。そんなアカネの想いを察したのか、この場の誰よりも疑い深く、敵
対心が強かったオオノキが言う。
﹁この戦争、必ず勝つ﹂
世界の行く末はその先にある。オオノキがその言葉を言い放つ事は、他の誰よりも深
く重みがあり、そしてこの場の誰もがそれに同意する。
歳を取り、凝り固まった感覚を捨て、新たな目標を定める。生き方が定まっている老
人には難しい事だ。だからこそ、忍を代表する老人達が平和を求めて同じ意識を持つ事
が、何よりも世界が変わろうとしている証拠と言えた。
﹂
!
﹁仕方ないお爺ちゃんお婆ちゃん達ですねぇ﹂
に﹂
﹁確かに。では拙者もお願い致す。先程の土影殿を見ているとどうも肩の凝りが疼く故
んかの。ギャハ、ギャハ、ギャハ
﹁その為にはしっかりと休養を取らんとな。日向の姫よ、ワシもマッサージをしてくれ
NARUTO 第三十五話
1074
1075
アカネは苦笑しつつも、影分身を使って両者にマッサージを行う。
他の里や国の重鎮に甲斐甲斐しくマッサージをする木ノ葉の英雄を見て、ヒルゼンも
ダンゾウもやや頭を痛くする。だが自分達も彼らの気持ちが分からない歳ではないの
で次の順番を待っていたりする。
こうして老人達はリラックスしながら、明るい未来に想いを馳せていた。
忍連合軍の戦争への準備は着々と進んでいた。潜入偵察隊によって暁のアジトは割
り出され、その戦力の一部も把握出来た。
一部、と言ってもその数はなんと十万。忍連合軍総数八万よりも多い数だ。だが、そ
れで怖気づく者は五影にはいなかった。
総大将である雷影から素早い指示が飛び、残る五影もそれに倣い細かな指示を出し、
作戦や準備が整っていく。忍界史上初の五大忍里と侍による様々な混合部隊が作り出
され、そして各里の忍の垣根を超える為の額当ても作られた。
〝忍〟。その一文字のみを印された額当てだ。木ノ葉隠れでも、砂隠れでも、霧隠れ
でも、岩隠れでも、雲隠れでもない。ただ、忍。ここにあるのは国や里を超えて、忍の
世を守る為に集まった忍なのだ。という意味がこの額当てには籠められていた。
その意味を、我愛羅が忍達に伝える。
NARUTO 第三十五話
1076
かつては敵同士であり、互いに憎みあっていた事もある。親兄弟、仲間を殺され、憎
んだ敵が傍にいる。当然そんな状況下で仲良く手を組み合う事など出来ず、諍いを起こ
す者は複数現れた。
だが、我愛羅の演説でそれも収まる。今ここに敵はいない。皆が皆、暁に傷つけられ
た痛みを持っている。痛みを知っている。ならば、そこに国や里の差はない。あるのは
ただ〝忍〟だ、と。
我愛羅の想いが籠もった真摯な言葉に、忍全てが賛同する。諍いを起こしていた者達
は互いに非を詫び、そして互いを認め合った。
この瞬間、忍連合軍の戦意は格段に上昇した。我愛羅が年若く風影となった事に納得
しない者達もいただろうが、今の我愛羅を見て風影に相応しくないと考える者は最早い
ないだろう。
そうして忍連合軍が動き出す。史上最大の戦争である、第四次忍界大戦が開戦した。
◆
火の国から見て北にある山岳。山岳の墓場と呼ばれる場所に、イズナのアジトがあっ
た。そこではイズナが忍連合軍が動き出すのを待ち構えていた。
﹁動き出したか﹂
イズナは忍連合軍が準備を終えるのをわざわざ待っていたわけではない。マダラの
輪廻眼を両掌に移植して、その反動にも耐え切った。
だが完全に力が馴染むにはまだ時間が必要だったのだ。万華鏡写輪眼を移植した場
合も、それが馴染むのに時間を必要とする。輪廻眼もまた同様だったのだ。
今のイズナはほぼ完全に四つの輪廻眼に馴染んでいる。その力はイズナですら計り
知れない程だ。
八尾と九尾はどこに
あった。正確には大蛇丸はわざとビーを見逃したのだが。
その答えの一つは、ビーが大蛇丸の目を誤魔化す為に切り捨てた八尾の足の一部で
?
入れていた。一尾から七尾までは言うまでもなく外道魔像に封印済みだ。ならば残る
イズナは既に得ているからだ。十尾に至る尾獣のチャクラ、その全てをイズナは手に
の意思も、イズナにとっては余興に過ぎなかった。
そう、余興なのだこの戦争は。忍界の全てが手を組み、力を合わせて立ち向かう彼ら
めから力を振るっては余興の意味がないと、イズナは自らを戒めた。
新たな力を振るいたくて堪らない今の自己の心境を、イズナは正確に評する。だが初
﹁ふ、早く試してみたいものだ。⋮⋮いかんな、まるで玩具を与えられた子どもだな﹂
1077
NARUTO 第三十五話
1078
一部と言えど八尾は八尾。そのチャクラは多少は外道魔像へと封印されている。そ
して、残る九尾のチャクラ。それは穢土転生にて補っていた。
かつて、雲隠れの里にて﹁雲に二つの光あり﹂と謳われた忍達がいる。それが兄の金
角と、弟の銀角の金銀兄弟である。
二人はかの六道仙人の末裔であり、その力はまさに雲隠れでも、いや当時の忍界でも
比べる者が少ない程であった。
九尾と戦い、食べられるも腹の中で生き延び、九尾のチャクラ肉を喰らいながら二週
間も暴れ続け、堪らず九尾が二人を吐き出して生き長らえたと言えばその実力の一端が
理解出来るだろうか。
しかもその際に九尾のチャクラを持つ様になったのだ。金銀兄弟は雲隠れが集めた
六道仙人の宝具の内、四つを所有しており、本来なら使用するとあまりのチャクラ消費
に死亡するとまで言われるそれらの宝具も、九尾のチャクラのおかげで何の問題もなく
扱えた。
金銀兄弟はその力にて二代目火影扉間に致命の傷を与えた事もある。もっとも、扉間
一人に対し、金銀兄弟は二十人の部隊で相手にしていたのだが。
この場合はその状況から部下が逃げ切る時間を稼ぎ、その上で自らも木ノ葉隠れまで
逃げ切れた扉間を褒めるべきだろう。おかげで扉間は致命の傷を負うも、ヒヨリによっ
1079
て治療されて生き長らえたのだから。
そんな金銀兄弟もとうの昔に亡くなっている。だが、それを覆す禁術がこの世には
あった。そう、穢土転生である。
穢土転生にて蘇った者は生前と同じ力を再現されている。あまりに強すぎた場合は
再現しきれないが、金銀兄弟に宿った九尾のチャクラを再現する事も可能であった。
その金銀兄弟を外道魔像に封印する。そうすれば九尾のチャクラの一部だが、外道魔
像に封印した事になる。
この二つ、八尾の一部と金銀兄弟はあくまで代用品だ。だが、代用品でも十尾を目覚
めさせるには十分だった。
代 用 品 ゆ え に 十 尾 は 完 全 体 と し て は 復 活 し な い。だ が そ れ で も イ ズ ナ に は 問 題 な
かった。イズナの目的はあくまで無限月読による永遠の平和。その術は十尾が復活し
てさえいれば組む事が可能なのだ。
目的に至る手段をイズナは既に得ていた。だからこそ、この戦争は余興でしかないの
だ。戦争の結果に関わらず、イズナは目的を果たせるのだから。
と言ってもイズナは戦争で負けるつもりは毛頭ない。代用品は用意しているとはい
え、八尾と九尾を捕らえて完全な形で十尾を復活させた方が良い事に変わりはないの
だ。
そして何より。自分達の世界を守ろうとする今の世の忍や、日向ヒヨリの力と意思を
││
へし折る事が出来ると思うと、負けても良い等とはイズナには到底思えなかった。
││口寄せ・穢土転生
﹁⋮⋮なんだぁ
﹂
イズナは穢土転生にて贄である金銀兄弟を浄土より口寄せする。
!
それでどこぞに封印されても困るのでな。ここで利用させてもらう事にした﹂
﹁戦場に出した所でお前達程度、日向ヒヨリの手に掛かれば塵芥に等しく敗れるだけだ。
そんな金銀兄弟に対し、イズナは二人の誇りを傷つけるような言葉を放った。
いというイズナに金銀兄弟は訝しむ。
穢土転生にて蘇らせたならば、それなりの意味があるはず。だが、何もする必要はな
?
?
﹁⋮⋮どういう意味だ
﹂
くくく、お前達が何かをする必要はない﹂
﹁てめーなにもんだ。オレ達を蘇らせてどうするつもりだ﹂
﹁そうだ金角、銀角。お前達は穢土転生によって蘇った﹂
うやら自らの現状に思い至ったようだ。
蘇った金銀兄弟は死んだ時の記憶を思い出し、現状に戸惑っている。だが、金角はど
﹁オレは⋮⋮オレ達は確かに死んだはず⋮⋮いや、これはまさか﹂
?
﹁どうする、だと
NARUTO 第三十五話
1080
﹁なんだと
﹂
オレ達を舐めてんのか
﹂
!!
!?
﹂
﹁身体が⋮⋮動かねぇ
﹁ぐ、ぐおお
﹂
対して逆らう事は出来ない様に術を組み込まれていた。
だが、それで終わりだ。尾獣化した所で二人は穢土転生の肉体。術者であるイズナに
九尾と言えるだろう。
柱力以外で尾獣化を成せる者は金銀兄弟を除いてこの世にはいない。その力は小さな
元々激情しやすい二人はイズナの言葉に切れ、その力を開放する。尾獣化である。人
の今の言葉がどれほど癇に障ったか。
騙し討ちとはいえ、二代目火影を追い詰め、二代目雷影を討ち取った二人だ。イズナ
﹁てめー
!
事は出来ないのだ。
に逆らっていたマダラの意思を容易く封じる程にだ。もう、マダラはイズナの力に抗う
四つの輪廻眼を得たイズナの力は今までよりも遥かに増していた。それは穢土転生
か。
にも逆らう事が出来るのはうちはマダラくらい⋮⋮いや、それももう不可能と言うべき
尾獣化しようとも、イズナの穢土転生に逆らう事は不可能であった。これに曲りなり
!
!
1081
﹁無駄にチャクラを放出するとはな。おかげで日向ヒヨリが気付いただろうが。まあ、
どうでもいいがな﹂
そう、この瞬間にアカネは九尾のチャクラを放つ存在に気付いていた。どれだけ遠く
離れていようと、尾獣化する程のチャクラを放てばアカネが気付かぬ訳が無い。
同時に九尾のチャクラを引き出せる様になったナルトも、金銀兄弟が放つ九尾のチャ
クラを察知していた。今頃は疑問に思ってビーに相談している事だろう。
﹁さて、金銀兄弟よ、復活ご苦労だった。ではお別れだ﹂
﹄
!?
これならばアカネや忍連合軍が何をしようとも問題はない。
り人柱力に何かあったとしても、尾獣は外道魔像の中に戻る様に細工が成されていた。
そして人柱力に尾獣を封印しても、その封印の大本は外道魔像に繋がっている。つま
したのだ。言うなればイズナ流のペイン六道である。
イズナは暁によって捕らえた人柱力を六道の力にて操り、その身体に再び尾獣を封印
が穢土転生を利用して新たな戦力を作り上げていた事が原因である。
今の外道魔像には二尾から七尾までの尾獣が封印されていなかった。それはイズナ
の尾獣のチャクラが外道魔像に封印された、という訳ではなかった。
そうして、金銀兄弟は何もする事が出来ずに、外道魔像へと封印される。これで全て
﹃うおおおおおッ
NARUTO 第三十五話
1082
更に名だたる忍の穢土転生体が無数。イズナが暗躍しつつ集めていた者達だ。そし
て白ゼツ十万体。穢土転生という質、白ゼツという数。二つを揃えたならば、忍連合軍
にも劣らないだろう。
││土遁・開土昇窟
││
地中を移動する白ゼツの大軍を、岩忍が土遁にて地中より追い出す。瞬間、雲霞の如
!
多くの血が流れる戦場。その趨勢は、忍連合軍に傾いていた。
つもの部隊に分かれており、それを狙って暁の軍勢も分散して攻め入っていた。
戦争と言っても、ただただ正面から軍勢同士をぶつけ合う物ではない。忍連合軍は幾
た。
戦端が開かれてから僅か一時間足らず。既に両軍は様々な場所でぶつかり合ってい
◆
そうしてイズナが動き出す。史上最大の戦争である、第四次忍界大戦が開戦した。
なくては興ざめだ﹂
﹁さあ、余興を始めよう。頼むから、兄さんやオレが出てくるまで耐えてくれよ。そうで
1083
NARUTO 第三十五話
1084
く地中より溢れ出す白ゼツ達。その数は数千、いや万に及ぶだろう。
だがそれに怯む者は忍連合軍にはいなかった。白ゼツが溢れ出た瞬間に掛かる部隊
長の号令と共に、幾多の忍達が白ゼツに攻撃を仕掛ける。
眼前はどこもかしこも敵だらけだ。術が外れるという心配をする必要はなく、誰もが
全力の一撃を放っていく。
一瞬にして無数の白ゼツ達は命を失っていく。だが、敵は数に任せて更に押し切ろう
とする。死を恐れぬ白ゼツ達は自らの命を武器にひたすらに前に進んでいく。
││
数の利と命を惜しまぬ勢い。その二つによって忍連合軍にも被害が出始める。だが
││
││牙狼牙・廻
いく。
││蟲玉
んでいく。
││
ヒナタとネジが同時に八卦空壁掌を放ち、更に強大な衝撃波を生み出して敵を飲み込
││八卦空壁掌
││
キバが双頭狼となりて、全身からチャクラを放出させつつ高速回転で敵を蹴散らして
!
!
シノが蟲を大量に操り多数に攻撃を仕掛けつつ、その類稀なる体術にて無数の敵を鎧
!
1085
水遁・爆水衝波
雷遁・千鳥流し
││
!
袖一触する。
││土遁・土流割
!
もっとも、強大な敵を相手にそれを行う事が困難なのだが。戦争前に穢土転生対策を
何に不死身であろうとも足掻きようがない。
生するならば、まず動きを封じ、その後に封印術にて封じればいいのだ。そうすれば如
だが、穢土転生を無効化する為の手段は構築済みであった。外傷を与えてもすぐに再
由もあって開始当初は忍連合軍に被害が多かった。
敵は一体一体が里や歴史に名を残す程の存在であり、その上不死身の化け物という理
の面々と立ち向かうとやはり戸惑う事はあったようだ。
あらかじめ穢土転生による敵の存在を示唆されていた忍連合軍だが、いざ名だたる忍
別の戦場では穢土転生との遭遇戦が開始されていた。
んでいた。
然他の忍達も彼らに負けじと力を振るい、結果として味方の損耗は予想よりも少なくす
アカネと、そしてアカネによって大きく成長した者達が敵に大打撃を与えていた。当
け出し、水遁にて大地の裂け目を敵ごと埋め、そこに雷遁を流し込んで一気に殲滅する。
そして影分身のアカネが土遁にて大地を割り、未だ地中の敵を大地の裂け目へとさら
!
シミュレーションしていた忍達も、穢土転生の強者達に苦戦し、対応が遅れていたのだ。
対応が遅れた理由はそれだけではない。敵は過去の人物達。つまりはかつての同胞
であったり、恩師、親友、家族等と、忍連合軍の戦う意思を削ぐ様な相手もいたのだ。
そ れ ら の 穢 土 転 生 達 は イ ズ ナ に よ っ て 意 思 を 縛 ら れ て 無 理 矢 理 に 争 わ さ れ て い る。
それが分かっていても、親しかった者達に刃を向けるのを躊躇う者は少なからず居た。
だが、だからと言ってむざむざ殺される訳にもいかない。敵が知人だからこそ、その
ザ
ブ
ザ
地獄から解放してやりたいと全力を尽くす者もまた存在していたのだ。
だけでなく、その生き様や死に様はナルトに強い影響を与えていた。そして何より、こ
そんなかつての強敵だが、二人はナルトにとって特別な敵だった。ただ強く恐ろしい
だ。そうでなくてはナルト達は今を生きてはいなかっただろう。
ルト達が勝てたのはカカシの存在と、ナルトとサスケの潜在能力の一部が開花した為
イズナに穢土転生の駒として選ばれただけに、両者ともにその実力は高い。当時のナ
そして白。再不斬に付き従う少年であり、氷遁と呼ばれる血継限界の所有者である。
グと呼ばれる無音暗殺術の腕前は右に出る者がないと言われた程の忍だ。
鬼人・再不斬。かつてナルト達が少年時代に戦った元霧隠れの忍。サイレントキリン
カカシが二人の穢土転生に向かってそう呟く。
﹁再不斬⋮⋮白⋮⋮すぐに楽にしてやるからな﹂
NARUTO 第三十五話
1086
の二人もナルトを気に入っていたのだ。最後にナルト達と戦えた事を良かったと言え
る程に⋮⋮。
カカシにとっても、生死を懸けて戦った敵である再不斬の事を少なからず尊敬してい
る。そんな再不斬と白が無残にも操られて争いを強制されているのを見て、カカシの中
に沸々と怒りが湧いていた。
敵は再不斬と白だけでなく、他にも無数の穢土転生体がいた。数で言えば忍連合軍が
再生する暇を与えるなよ
﹂
勝っているが、その質は確実に穢土転生達の方が上だろう。⋮⋮極一部を除けば、だが。
﹁オレが倒した者から順に封印術を掛けろ
!
数に生み出し、その鏡の反射を利用して一瞬で移動する秘術を白は持っている。
だが、こと速度という一点でカカシを上回る者がいた。それが白である。氷の鏡を無
カカシの動きを見切れた者は殆どいなかった。
アカネとの修行で身に付けた雷遁の鎧を身に纏い、身体能力を最大限に活性化させた
解除する為にも再不斬を真っ先に封印する。それがカカシの狙いだった。
視界が役に立たないこの状況では、忍連合軍の多くが戦力半減となるだろう。それを
覆われて視界が失われていた。
カカシの狙いは再不斬だ。既に戦場は再不斬の得意術である霧隠れの術にて濃霧に
部隊長であるカカシがそう叫び、そして瞬身の術にて一瞬でその場から掻き消える。
!
1087
NARUTO 第三十五話
1088
それを利用して白は再不斬の前に立ち、カカシの雷切を受け止める。意思がなく、死
すらない穢土転生だからこその庇い方だ。だがそれは、かつての白が再不斬を庇った時
と皮肉にも一致していた。
白によって動きを封じられたカカシに向けて、再不斬が彼を象徴する武器である首切
り包丁を振るう⋮⋮と見せかけて、再不斬は大地に向けて首切り包丁を振り下ろした。
その一撃によって大地は砕け、その下から現れたカカシに首切り包丁の一撃が命中す
る。そして、そのカカシは音を立てて消滅した。
あらかじめ作っていた影分身に、地中を掘り進めて奇襲させようとしていたのだ。そ
して、それを再不斬は見抜いた。再不斬はサイレントキリングの達人だ。それ故に音で
気配を察知する技術に長けていたのだ。
かつてカカシと再不斬が戦った時は、似たような戦法にて地中からの奇襲に対応出来
なかった事が、今の再不斬に活きたのかもしれない。最適な行動をする様に操られてい
たのもこの奇襲を察知出来た理由の一つだろう。
そして再不斬は、白に動きを止められているカカシに向かって今度こそ首切り包丁を
振り下ろそうとする。動きを止めている白ごとにだ。イズナによって感情を制御され
ている穢土転生に、仲間を巻き込む事に対する躊躇いなどなかった。
そして再不斬は⋮⋮上空からのカカシの奇襲によって袈裟切りに裂かれた。
﹁⋮⋮
﹂
﹂
を見たカカシはここに誓った。こんな戦い、一刻も早く終わらせてやる、と。
そんな人間を、感情のない道具にまで貶め、争わせる。再不斬と白の二度目の死に様
感情のある人間である証拠でもあった。
カシに呆気なく敗れたのだ。それは忍としては失格の感情なのだろう。だが、再不斬が
そして、白が死んだ事に内心で動揺し、その動きは精彩を欠き、互角に戦っていたカ
躇いを持っていたのだ。
た白もろともにカカシを斬り殺そうとした。だが、その時の再不斬には白を斬る事に躊
封印されていく再不斬と白を見ながらカカシは思う。かつての再不斬も自分を庇っ
いた霧は晴れ渡り、視界は元に戻った。
カカシの合図と共に封印術の使い手が再不斬と白を封印する。途端に戦場を覆って
﹁今だ
類稀なる切れ味にて再不斬を切り裂いたのだ。
らせない様にわざと立てていたのだ。そして、攻撃する一瞬のみに雷切を発動し、その
本体が雷遁の鎧を帯びる時に発する音も、地中を掘り進む音も、空中からの奇襲を悟
に飛ばしておいた二体目の影分身であった。
全てはカカシの術中であった。本体の攻撃も、地中の奇襲も、全ては囮。本命は空中
!?
!
1089
﹁行くぞ
残る全ての穢土転生を封印する
!
﹄
!
﹂
!
カカシの号令と共に、忍連合軍と穢土転生の争いは激化していく。
﹃はっ
NARUTO 第三十五話
1090
││
!
だがその考えは、白ゼツ達が化け物と称する者相手には無意味な考えであった。
別の部隊を叩く。それが白ゼツ達の判断であった。
地上を行く者はことごとく蹴散らされる。ならば地下からこの化け物をやり過ごし、
点ではなく面を重視した忍術により、数千という白ゼツ達が消し飛んで行く。
││水遁・八卦水壁掌
に事を進められている要因だろう。
そして何より、数の有利という物を覆す存在が忍連合軍にいた事も、忍連合軍が優勢
いた。
とも劣らぬ忍が存在する。そんな彼らが率いる軍勢は、過去の忍にも負けじと対抗して
強大な力を誇る穢土転生の忍達には手を焼かれていたが、現代にも過去の傑物に勝る
ら立ち向かい、そして撃破していた。
里や国の垣根を超えて手を取り合った忍達は、自軍よりも数多い暁の軍勢に真っ向か
た。
両軍あわせて二十万近い忍達が争う第四次忍界大戦は、忍連合軍の優勢で進んでい
NARUTO 第三十六話
1091
﹁地下を通り過ぎるつもりか⋮⋮無駄な事を﹂
白眼にて地下を透視出来るこの存在に対し、その行動は容易く見透かされる。
││
そして、出て来ないならばそれでいいと言わんばかりに、化け物はその力を振るった。
││土遁・螺旋土流削
﹂
その場に潜んでいた白ゼツ達はミキサーに掛けられたが如くにすり潰されていく。
地下の土や岩を螺旋状に操作し、そのまま高速で乱回転させるという忍術だ。当然、
印を組み大地に手を当てる。それでこの忍術は発動した。
!
アカネちゃん一人で片付けないでくれよ
!
!
けて術を放つ。
││火遁・豪龍火の術
!
││
修行により新たに会得した風遁と、うちは一族として元より備えていた火遁。その二
!
││風遁・真空大玉
││
そうしてオビトもその力を発揮する。影分身を作り、アカネの土遁で出来た大穴に向
し、自分は何もしていない等というのは我慢出来ないようだ。
オビトもアカネの強さを理解しているが、それでも自分より一応は年下の少女が活躍
とも敵が全滅していく事に焦りを覚えた。
アカネが個の力にて数を圧倒しているのを傍目で見ていたオビトは、自分が何もせず
﹁ちょっとちょっと
NARUTO 第三十六話
1092
つを影分身によって完全に同等のチャクラ比で合わせ、強大な業火と化して敵を焼き尽
くす。これがオビトの大軍用合体忍術の一つ、豪炎乱舞である。
豪炎乱舞はアカネの土遁の範囲外にいた白ゼツ達に降りかかる。風の勢いを備えた
どんなもんよ
﹂
炎は、岩の隙間や穴に入り込み、生き残った白ゼツ達を飲み込んでいったのだ。
﹁よし
!
ね、全く。⋮⋮ん
これは⋮⋮
?
﹂
﹁さて、イズナはいつ出てくるつもりなのか⋮⋮。高みの見物でもしているのでしょう
未知数なので、どうしても全力を出す訳にはいかなかった。
いたのだ。まあ、今程度の消耗では消耗とも言えないのだが。それでも敵が強大な上に
だからと言って敵を放置する訳にも行かず、消耗しない程度に無理せず敵を間引いて
力で戦場を動き回る事は難しい。
だが、アカネの本命はあくまでマダラ、そしてイズナだ。その二人が出てこない今、全
軍の負担は非常に減るだろう。
既にアカネとオビトだけで万を超える白ゼツを倒している。これだけで他の忍連合
カネの中で合格点であった。
修行の成果は本番で発揮出来てこそ意味がある。その点で言えばオビトは十分にア
﹁ええ。素晴らしい一撃でしたよ﹂
!
1093
!
まさかナルトに何かあったのか
﹂
アカネがまだ動かぬイズナに対し僅かに不満を零した時、アカネが何かに反応した。
﹁どうしたんだアカネちゃん
?
オビトがナルトの安否を確認するのは当然と言えた。
八尾が暁に捕らえられたら、その時点で戦争は負けに等しい。そうなる訳には行かず、
だが、この戦争はナルトを守る為の戦争でもあるのだ。ナルトとビー、つまり九尾と
が命を懸けている中、自分だけのうのうと安全な場所で過ごすなど出来る訳がない。
風に、そして嬉しそうに笑っていた。オビトとしてもナルトの気持ちは理解出来る。皆
アカネはこうなる事を予想していたらしく、ナルトが飛び出したのを少しだけ困った
超えて島を抜け出したのをアカネが察知していたのだ。
らだ。ナルトに何があったのかは分からないが、ナルトが木ノ葉隠れや雲隠れの監視を
オビトがナルトの事を心配している理由は、ナルトが現在この戦場に向かっているか
心配していた。
アカネの反応にオビトも気が付く。そして問題のナルトに何か変化があったのかと
?
﹁なら何があったんだ
﹂
ならば先程の反応は何だったのか。それが気になるオビトだが、アカネはそれに対し
?
いますよ﹂
﹁いえ、ナルトに変化はありません。ビー殿と一緒にそのまままっすぐ戦場に向かって
NARUTO 第三十六話
1094
て難しそうな表情で考え込み、そして急に笑顔を見せた。
﹂
!
戦争もまた、夜に合わせて変化するのであった。
既に戦争が始まって半日以上が経過しており、周囲は夜の闇に覆われていた。そして
者達の主観であり、例えどんな環境だろうとも時間は等しく流れる。
時の流れが緩やかに感じる戦争という極限の環境。だが、それは戦争を体験している
持つのか、それは後ほど判明する事となる。
そうして二人は別の戦場へと飛び立った。この時のアカネの反応がどういう意味を
トは判断し、アカネの言う様に次の戦闘に向けて気を入れ直す。
アカネの変化は気になるが、アカネが何も言わないならば問題はない事だろうとオビ
﹁おう
ですからね。これから他の部隊の救助に行きますよ﹂
﹁さあ、敵の数は減っていますが油断は禁物ですよ。穢土転生で復活した忍は強敵揃い
はなかった。
急に機嫌良く笑い出したアカネにオビトは怪訝に思うが、アカネはその真相を話す事
ふふふ﹂
﹁ふ、ふふふ。ああ、いえ、すみません。少し、いやかなり嬉しい事があったものでして。
1095
NARUTO 第三十六話
1096
忍連合軍は医療部隊を中心として組み立てた陣地にて負傷者の手当てを行い、交代し
ながらの休息を取っていた。
だが、夜になったからと言って戦争が終わらない限り、争いもまた終わる事はない。
油断する事なく警戒を強め、感知能力の高い忍による警戒網を構築していた。
しかし、白ゼツの能力はその警戒すら超えるものであった。
白ゼツは対象に触れる事で、その対象のチャクラを吸収する能力を持っている。だ
が、白ゼツの真価はその能力ではない。
白ゼツは吸収したチャクラの持ち主と完全に同一の見た目に変化する事が出来るの
だ。しかも、そのチャクラ性質まで完全に一致する程の変化だ。まさに忍界一の変化の
術と言えよう。
忍連合軍は変化の術を代表とする術に対して、チャクラ性質を見極める事で敵か味方
かを判断する様にしており、陣地へと入るにはその検査を通らなければならない。
事前に登録されたチャクラ性質と合致しなければ、その瞬間に敵と見なされて拘束さ
れる事になるだろう。
それだけ厳重な警戒だが、白ゼツには通用しなかった。チャクラ性質まで完全に真似
るという変化の術の前では、感知タイプの忍の検査も意味を成さないのだった。
忍連合軍の忍に変化した白ゼツは、易々と連合軍の陣地に侵入し、そして闇に紛れて
静かに、そして確実に連合軍の忍を暗殺していく。
例え死体が見つかり侵入を察知されても、白ゼツの変化の術を見抜く事は出来ない。
事が大きくなっても、白ゼツは悠々と連合軍の忍を殺して行くだろう。⋮⋮そこに、理
不尽に人の皮を被せた存在がいなければ、の話だが。
白ゼツは変化の術を駆使し、さも味方の様に連合軍の忍に近付いていく。
陣地の中にいるのは味方。その常識が連合軍の危機感を奪い、殺気を隠して近付いて
くる白ゼツに胸襟を開いて対応してしまう。
警戒心のない者を殺す事など白ゼツには容易い。周囲に多数の目がない場所にいる
忍は、白ゼツにとって格好の得物だった。
﹂
そして今また、白ゼツによって新たな犠牲者が⋮⋮出る瞬間に、白ゼツの動きを止め
﹂
何をする気だ
た者がいた。
﹁なっ
﹁お、お前
!?
そしてアカネは白ゼツの驚きを無視して、そのまま白ゼツを無力化する。
忍が驚きの声を上げる。
動きを止められた白ゼツと、そして仲間だと思っていた者に奇襲を受けそうになった
!
!?
1097
﹁ふっ
﹂
﹂
﹁があっ
!
﹂
!
﹂
?
だ。
と確定したのだ。そして気配を消して後をつけ、その犯行の寸前を確認したという訳
アカネは白ゼツの忍連合軍に対する悪意や殺意から、その正体はともかく不審人物だ
真似る事が出来ても、その心まではそうではない。
アカネにも白ゼツの変化の術を見ただけで見抜く事は出来ない。だが、完全に対象を
いませんよ。次があれば意を消す修行に専念するんですね﹂
高いと自負しています。チャクラ性質はそっくりですが、悪意や殺意は消す事は出来て
﹁あなたの変化の術は確かに忍一かもしれません。ですが、私も感知能力はそれなりに
﹁ば、馬鹿な⋮⋮ボクの変化の術は忍一だ⋮⋮。どうやって見抜いた⋮⋮
これだけの警戒網を超えて敵が侵入しているとなったらそれも当然だろう。
突如として仲間から敵に変化した光景を見て、暗殺されそうになった忍は驚愕する。
﹁こ、こいつは
ツの変化の術は解けてしまった。
一瞬で宙に浮き逆さとなり、大地に叩き付けられる白ゼツ。そしてその衝撃で、白ゼ
!?
﹁この白ゼツはどうやらチャクラすら真似て変化できるようです。恐らくチャクラを吸
NARUTO 第三十六話
1098
﹂
﹂
収した対象に化ける事が出来るのでしょう。その旨を本部へと通達してもらえません
か
﹁わ、分かった
?
そんな中に医療部隊から連絡が入る。敵の正体は白ゼツの変化だと本部にも伝わっ
なかった。
らない。正体が分からないままでは対応のしようがなく、敵の正体に想像を重ねるしか
夜襲の動きはなく、防壁を張り、感知タイプの忍を置いて、それでもなお敵が見つか
の犯人は欠片も正体を見せていないからだ。
連合本部では現場の混乱に頭を悩ませていた。現場の仲間が闇討ちされている中、そ
れるとは思うが。
る事に限りがある。まあ、各部隊に一体の影分身が配置されているので、被害は抑えら
本部に通達されればその対応も早く成されるだろう。影分身のアカネ一人では出来
している。ならば、その結果が重要であり、その情報が必要なのだ。
外れているか当たっているかはともかく、結果として白ゼツは完全なる変化の術を成
する。
大蛇丸から得た白ゼツの情報から、アカネは白ゼツの変化の術の詳細を大まかに予測
!
1099
たのだ。だが、問題なのはその対応策だ。敵味方の区別がつかないこの状況をどうすれ
ば切り抜けられるか。
忍連合軍一の切れ者である奈良シカクは悩み、だが冷静に思考する。何か手はあるは
白眼か
﹂
⋮⋮どうやら、各部隊に配置されている日向アカネが
ずだ、と。その時だ。新たな情報が連合本部へと送られてきた。
その方法はなんだ
敵の変化を見破れるようだ⋮⋮﹂
﹁⋮⋮待て、また連絡が入った
﹁なに
!?
!
!?
は当然だろう。
!!
そして十数分。シカクはとうとう目的の情報を見つけ出した。それは、九尾の力を自
力に関する資料を漁り、情報を調べ出す。
だがその時、シカクの脳内にある閃きが走った。次の瞬間にシカクは九尾とその人柱
存在がいてたまるかと、アカネの正体を知るシカクは内心で叫んだ。
冷静なシカクですら思わず突っ込んでしまったようだ。アカネ以外にそれが出来る
﹁⋮⋮なるほどその手があったか。その方法を全部隊に通達って⋮⋮出来るか
﹂
に通達されれば、被害は最小限に抑えられる。その方法を一刻も早く知りたいと思うの
闇の中に光る一筋の光明にシカクが声を荒げる。白ゼツの変化を見破る方法が全体
!
﹁⋮⋮白ゼツの悪意や殺意を感知した、だそうです﹂
NARUTO 第三十六話
1100
1101
在に操れる様になった人柱力ならば、敵の悪意を感知する事が出来るという物だ。
シカクにはアカネの感知がどの程度の精度かは分からない。情報として記録に残っ
ている九尾の人柱力の力ならば、より明確に白ゼツの変化を見抜ける可能性は高い。
そう判断したシカクだが、それは本末転倒だとも気付いている。ナルトを守る為の戦
争にナルトを投入する。完全に目的と手段が滅茶苦茶である。
だが、そのシカクの悩みも無意味なものであった。
島亀から脱出したナルトとビー。その二人を取り押さえる為にエーと綱手が向かっ
ていた。ナルトとビーが暁に捕らえられてからでは遅いのだ。総大将であるエーと綱
手が出向くに値する重要案件だろう。
当然ナルト達は綱手達の言葉に反対する。誰に言われようと、自分を巡る戦争を他人
任せにする事などナルトには考えられないのだ。
互いの意見は平行線であった。そしてナルトは強引にでもこの場を突破しようとし、
エーはナルトを殺してでも止める決断をした。
九尾の人柱力であるナルトが死ねば、同時に九尾も一時的にだが霧散する。いずれは
チャクラが集合し元の尾獣へと戻るが、それまでにはしばらくの時間を必要とする。そ
の間はイズナの目的を防ぐ事が出来るという判断だ。
流石の綱手もそれには反対を示す。だがそれは、総大将として戦争を勝利に導く責任
NARUTO 第三十六話
1102
があるエーの耳には届かなかった。
そんなエーに真っ向からぶつかったのがビーだ。殺すならばナルトではなく自分を
殺せとまでビーは言う。それ程までにビーはナルトを信頼していた。
だがエーとしては人柱力として完成されているビーの方が、ナルトよりも戦力として
安定しているという判断で、ビーを生かそうとする。そこに兄としての私情は挟んでい
ないだろう。必要とあらばビーを殺す覚悟すら固めているのだから。
エーの意思に反対するビーに対し、エーは人柱力とは国や里のパワーバランスであ
り、力の象徴であり、特別な存在だと諭す。個人の感情で好き勝手に動いていい存在で
はないのだ、と。
だが、ビーは人柱力にも人としての心があると反論する。それを無くしたら、人柱力
はただの兵器に陥ってしまうのだと。
ラ リ アッ ト
それでも己の意思を変えないエーに対し、ビーもまた己の意思を見せ付けた。
互いの得意技である雷犂熱刀をぶつけ合う二人。この体術は敵を中央に挟み、互いに
同等の力で敵の首に放つ事でその首をねじ切るという荒業である。
だが、このぶつかり合いでビーはエーに勝利した事はなかった。完全に互角の威力を
出してこそ、初めて雷犂熱刀は真価を発揮する。なのでビーは過去に宣言していた。い
つかはエーを追い抜くと。エーが自分に合わせるのではなく、自分がエーに合わせるよ
1103
うにしてやるという意気込みだった。
そして今この時、ビーはその発言を真実に変えた。そう、ビーの雷犂熱刀がエーの雷
犂熱刀を凌駕したのだ。
もと
いつの間に自分を追い抜いたのか。そう驚愕するエーに、ビーは告げる。力だけが人
柱力ではない。もっと強い力の基が入っているから、信じるものがあるから、強くなれ
るのだと。
ビーのいう信じるもの。それはかつてエーがビーに対して告げた言葉だ。﹁お前はオ
レにとって特別な存在。オレ達は最強タッグだ﹂、それがエーの言葉だ。それを信じて、
ビーは強くなろうとし続けたのだ。
それをようやくエーも思い出した。雷影となり、ビーを対等な相棒という立場から、
里にとって重要な人柱力として見るようになってしまったエーが忘れてしまったかつ
ての言葉。それをビーは片時も忘れていなかった。
ビーの言葉にエーも揺らいでいた。そして綱手に至っては、ナルトの覚悟と想いを聞
きナルトに賭ける事にした。ナルトならば必ずや忍の皆を守る事が出来ると信じたの
だ。
だが、それでも簡単に考えを改める程に、エーの頭は柔らかくなかった。エーにとっ
て覚悟とは力だ。力のない覚悟などなんの意味も持たない。故にエーは、己の全力を
NARUTO 第三十六話
1104
もってナルトの力を確かめた。
雷遁の鎧のマックス状態。その速度は忍一とも言われている。その力にて、ナルトを
殺すつもりでエーは全力で攻撃した。
そしてその一撃を、ナルトは完全に見切って躱しきった。その速度はナルトの父であ
るミナトの異名、〝黄色い閃光〟を綱手が思い出す程であった。
ナルトの覚悟と、そしてそれを裏付ける力を見たエーは、ナルトを信じる事にした。
総大将であるエーに完全に認められて、今ここにナルトが戦争に参戦した。
◆
エーからの信頼を得たナルトは戦場へと向かい、そして早速八面六臂の活躍を成す。
九尾チャクラモードと呼ばれる状態となったナルトは、その感知能力にて敵の悪意を
感知する。例え白ゼツが完全に変化をしていたとしても最早無意味であった。
元々アカネによって数を減らされていた白ゼツ達は、ナルトによって更に数を減らす
事になる。
更にナルトはまだ戦場で暴れている穢土転生体の封印にも一役買っていた。ナルト
自体に封印術はないが、その圧倒的な力で穢土転生の忍を打ち倒し、再生する前に他の
1105
忍が封印していったのだ。
そしてアカネはそんなナルトの活躍を遠くから感じ取り、やはりこうなったかと苦笑
する。あのナルトがいつまでも大人しくしている訳がないのだ。そんな事は短くない
付き合いで理解していた事だ。
だが、ナルトをこのまま放置する訳にはいかなかった。九尾のチャクラを引き出せる
様になったナルトは今までよりも遥かに強さを増している。それでもなお、マダラ相手
だと勝ち目は薄いと言えるレベルであった。
いや、マダラを相手に僅かでも勝ち目がある時点でナルトを褒めるべきだろう。若干
十七歳足らずでは破格の強さと言える。このまま成長すればいずれは、とさえ思わせる
成長速度だ。
しかし問題は未来ではなく今なのだ。今のナルトではマダラを相手に勝ち目は薄い、
それが重要なのだ。ナルトとビーが捕らえられればその時点で終わりに等しい、そうさ
せる訳には行かないアカネはナルトの傍へと移動する。
アカネの作戦上でもその行動は間違ってはいない。マダラはイズナの持つ戦力でも
最上級。ならばナルトとビーを捕らえる為に動かす可能性は高いと言えた。
そしてアカネの予想は半分だが当たっていた。イズナもまたナルトのチャクラを感
じ取り、そして穢土転生から得た情報もあってその位置をより正確に特定していた。
当然イズナはナルトとビーから尾獣を奪う為に戦力を繰り出す。いくら代用品があ
るとはいえ、やはり本物の尾獣を捕らえた方がより確実なのは間違いないのだ。
そしてアカネの予想の外れた半分。それは繰り出す戦力にあった。イズナはここに
あってもマダラを温存し、マダラ以外の強力な戦力をナルトとビーにぶつけたのだ。
それがかつての人柱力達であった。
暁に捕らえられて尾獣を抜かれ、死した後も六道の力にて操られ利用される。この所
業にはビーすら怒りを覚えた。
輪廻眼を植えつけられ、イズナの六道と化した六人の人柱力達。しかも彼らは蘇った
後に再び尾獣を封印されていた。つまり、生前と同じ、いや輪廻眼のおかげでそれ以上
の力を振るえるという事である。
そして今のイズナの力は、六人の人柱力全てを六道の力を付与させ、その上尾獣化さ
せてなお余裕があった。
輪廻眼の視界共有と六道の力を持つ六体の尾獣化した人柱力。対してナルトとビー
は二人。しかも尾獣化を可能としているのはビーのみだ。いかに九尾が最強の尾獣で
﹂
あり、ビーが完全なる人柱力と言えど、これは分が悪すぎた。
﹁この
!
NARUTO 第三十六話
1106
││風遁・螺旋手裏剣
││
﹁こいつら全員長門のと同じかよ
防いだ。
﹂
だが敵は六道人柱力。餓鬼道の力を持つ者が螺旋手裏剣を吸収する事で容易く難を
トは成長していた。
九尾チャクラモードにより、影分身を使わなくとも螺旋手裏剣を作り出せる程にナル
!
﹁はっきり言って無茶苦茶やばいぜバカヤロー
コノヤロー
﹂
!
いと考えているようだ。
だが信じる自身
﹂
こんな戦力差、すぐにひっくり返るってばよ
!
だが、そんなビーに対しナルトは笑みを浮かべて言った。
﹁問題ねー
﹁根拠ない自信
!
!
やっぱり結構余裕があるのかもしれない。そう思わせるビーに、ナルトの自信の理由
!
﹂
あまりの戦力差にビーも泣き言を呟く。ラップ調を出しているが、流石にこれはまず
!
獣化をして対抗しているが、それでもこの戦力差を覆す事は出来ないでいた。
一対一なら、いや二体でも今のナルトならば勝ち目はある。だが敵は六体。ビーも尾
力を有しているとなると厄介この上ない。
これにはナルトもうろたえた。これだけの力を持つ者達が、その上ペイン六道と同じ
!?
1107
が映った。
││
﹁根拠は、あるってばよ
││須佐能乎
﹂
!
﹂
﹁うるさいウスラトンカチが﹂
﹁おせーぞサスケ
使い手。となれば答えは一つ。
いた。須佐能乎の使い手は限られている。そしてナルトに味方する二人の須佐能乎の
そのチャクラの刃の正体は須佐能乎の刃。そして須佐能乎は二体その場に存在して
る。
ナルト達に迫っていた尾獣の内、二尾と六尾がチャクラの刃によって吹き飛ばされ
!
!
つけて来たのだ。
保護拘束されているはずのナルトが戦場にいる事を疑問に思い、二人はこうして駆け
もナルトのチャクラは感知出来る程に大きかった。
た。そこで感じたのがナルトのチャクラだ。感知タイプではないサスケ達だが、それで
互いに交換した万華鏡に馴染んだ二人は、その力を戦争に役立てようと動き出してい
そう、サスケとイタチ。永遠の万華鏡写輪眼を得た、うちはの誇る最強の兄弟である。
﹁無事で何よりだナルト﹂
NARUTO 第三十六話
1108
││
そしてほぼ同時に別の援軍が到着した。そう、アカネとオビトである。
││螺旋丸
すのであった。
は吹き飛ばされ││る事はなく、神羅天征に耐える事で逆に七尾をその反動で吹き飛ば
有していた。最強の六道とも言える天道、その力の一端である神羅天征によってアカネ
そしてアカネが七尾に向かって拳を叩き込もうとする。だが、その七尾は天道の力を
流石にこれだけの螺旋丸を同時に喰らえば吹き飛ばされてしまう。
オビトが複数の影分身と同時に大量の螺旋丸を三尾に叩き込む。巨体を誇る尾獣も、
!
﹄
!
オビトがそう呟くが、確かに間違ってはいない。本来尾獣とは一個人で相手をする存
﹁一人一体ずつか。尾獣に対するノルマとしてはおかしい気がするなおい﹂
た。
五尾をナルトとビーがそれぞれ相対し、数の上での有利不利は完全になくなる事となっ
ともかく、四人の援軍によって迫り来る尾獣の数は一気に減る事になる。残る四尾と
ていた。
さすがは長年の付き合いと言うべきか。ナルトとサスケの突っ込みは完全に一致し
﹃お前だけだそんなん出来るのはよ
﹁一度見た術が何度も通用するとは思わない事です﹂
1109
在ではないのだ。そんな化け物六体と忍六人が相対するなど、火影を目指すオビトも考
えた事もなかった光景だ。
﹁強敵だな。いけるなサスケ﹂
﹁当然だ。ナルトよりも早く倒してやるさ﹂
よ﹂
﹁残念だったなサスケ。オレってばすっげー強くなってっから負ける気はしないってば
だが、そんな化け物と相対する忍達に恐怖心はなかった。この場にいる誰もが忍界屈
皆いく││﹂
指の強者だ。その力は尾獣に勝るとも劣らぬ者達ばかりである。
﹁よし
﹁んだとこのヤロー
﹂
急に止めるなよ吃驚するだろうが
!
!
﹁やるかウスラトンカチが
﹂
﹁だったら急に飛び出すなこの馬鹿が﹂
!?
﹂
!
る事でどうにか止まる事が出来た。
が出来ず飛び出す寸前だったナルトは、アカネが合気にて動きの流れをコントロールす
いざ決戦と意気込むナルトにアカネがストップを掛ける。急に言われても止まる事
﹁ちょいとストップですナルト﹂
!
﹁何だってばよアカネェ
NARUTO 第三十六話
1110
尾獣を前にして仲間割れが出来るこの二人は状況を把握出来ていない馬鹿か、それと
も大物かのどちらかだろう。後者である事を期待したイタチであった。
そんな馬鹿二人に拳骨を落とし、静かになった所でアカネが白眼にて尾獣達を見つめ
る。
﹁いってぇ⋮⋮鎖
杭
どういうことだってばよ
?
﹂
?
よーし
﹂
!
にアカネもそれを止める事はなかった。もうナルトも理解しているだろうと判断した
ペイン六道との戦いを思い出したナルトは今度こそ尾獣に向かって進み出す。流石
﹁あん時と一緒か
!
力に縛られる尾獣の姿が映ったのである。
のは自分だけだと悟ったからだ。アカネの白眼が並外れて優れているからこそ、外道の
鎖に関してはアカネは何も言わなかった。どうやら尾獣を縛る鎖を見る事が出来る
十尾復活に必要な尾獣をこちらが確保出来れば言う事はない。
尾獣を開放する事も可能かもしれない。そうなれば戦況は一気に有利となるだろう。
が杭の様に首筋に埋め込まれているようです。それを抜けばあるいは⋮⋮﹂
﹁ええ。尾獣達はペイン六道と同じ様に操られています。その受信機となるあの黒い棒
頭をさすりながらもアカネの呟きを聞き逃さなかったナルトがその意味を問う。
?
﹁ふむ。鎖で縛られているのか⋮⋮大元は首筋の杭⋮⋮。なるほど﹂
1111
からだ。
に辿り着いた。
尾チャクラモードの力もあって四尾の攻撃を掻い潜り、誰よりも早く四尾を縛る杭の元
ともかく、他の面倒なペインよりも比較的楽な相手だと言うのが原因か。ナルトは九
まりなかったりする。
でも合理的にと思っただけで、実際に人間道の力を尾獣化の状態で使わせるつもりはあ
も人間道の力が使いやすいだろうという、まあそれだけの理由だ。イズナとしては少し
そして四尾の姿は巨大な猿だ。つまり人間と同じ様に手足があるので、他の尾獣より
頭に触れる事でその記憶を読み取るというもの。
ちなみに四尾に人間道の力が与えられたのには理由がある。人間道の能力は対象の
ナルトが相手をしているのは四尾だ。四尾には人間道の力が与えられていた。
僅かな可能性だとしても、やる価値があるならばやるまでだ。
全 員 の 狙 い は 首 筋 に あ る 杭 だ。そ れ を 抜 き 取 れ ば 尾 獣 が 開 放 さ れ る 可 能 性 が あ る。
れぞれ相対する尾獣の元へと動き出す。
サスケもまたナルトに負けじと別の尾獣へと駆け出した。それに続き残る者達もそ
﹁ったくあの馬鹿が﹂
NARUTO 第三十六話
1112
数の不利があった時はともかく、一対一ならば尾獣を相手にしてもここまで戦える程
これだな
﹂
にナルトは強くなっていた。
﹁よっしゃ
!
そして、その言葉を聞いていたのは四尾だけではなかった。九尾もまたナルトの言葉
は気付いたのだ。
係が羨ましく思え、尾獣と友達になりたいとナルトは言う。それが本気の発言だと四尾
ナルトと会話を続ける内に、四尾は徐々にナルトを認める様になる。ビーと八尾の関
て接する。そんな人間は四尾には初めてだった。
た。尾獣に対する憎しみや恨みなどの気持ちがなく、尾獣を下に見ずに対等な立場とし
だがナルトと会話をする内に、ナルトが他の人間とは違うという事に四尾は気付い
けていた。またも己の力を奪おうとする輩が来たのか、と。
その空間では四尾が鎖に繋がれて自由を奪われ、そして侵入者であるナルトに吠えた
あったのかもしれない。
神 だ け が 四 尾 の 深 層 心 理 へ と 入 り 込 ん だ の だ。人 柱 力 だ か ら こ そ の 何 ら か の 共 鳴 が
そこは四尾の深層心理とも言うべき空間か。ナルトはそこに移動したのではなく、精
動していた。
そしてナルトが杭を抜こうと触れた瞬間││ナルトはいつの間にかある空間へと移
!
1113
NARUTO 第三十六話
1114
を聞いていたのだ。いや、九尾はずっとナルトの声を、その行動を見てきた。だからこ
そ、ナルトが本気でそう思っている事を誰よりも理解していた。
そんなナルトに対し、九尾は語るだけでは本心は伝わらないと考える。だが、それは
九尾がナルトを良く知っているという証拠でもあった。
ナルトならば言葉だけでなく、行動によって証明する事を知っているのだから。
九尾の思い通り、ナルトは行動で示し証明してみせた。深層心理から元の世界へと意
識を戻したナルトは、四尾を縛る鎖の元である外道の杭を抜き取ったのだ。
これで四尾は鎖から開放されて自由になる││わけではなかった。例え全身を縛る
鎖がなくなっても、四尾と外道魔像を繋げる鎖はそのままだ。何故なら、その鎖は外道
魔像を介しているからだ。四尾を開放するには外道魔像をどうにかするしか方法はな
かった。
それでも、行動を以って証明したナルトを四尾は真に認めた。そしてナルトにある物
を託し、四尾は外道魔像の中へと戻って行った。
四尾に認められたナルト。だが、認めたのは四尾だけではなかった。九尾もまたナル
トを認めたのだ。
ナルトのこれまでの行動。その全てが、九尾の中の人間への憎しみを払拭させたの
だ。もちろん全ての人間を無条件に信じる事はないだろう。だがナルトならば信頼出
来る。そう九尾は思えたのだ。
ナルトは、四尾の中で知ったとてつもなく大切な情報を思い出す。尾獣には尾の数に
適した呼び名ではなく、ちゃんとした名前がある事を。
ラ
マ
﹂
四尾の名は孫悟空。そして九尾の名は││
ク
面目躍如と言わんばかりの火力である。
人間サイズならまだしも、尾獣という巨体にて修羅道の力を発揮する。まさに兵器の
い攻撃を仕掛けてきた。
ら機械の身体を口寄せし、そこから大量のミサイルやレーザーを放つというとんでもな
先手を取ったのは二尾だ。二尾には修羅道の力が与えられており、尾獣化した全身か
不遜とも言えるその思考。だが、それでこそうちはサスケとも言えた。
試運転としては不足のない相手だとサスケは考える。
サスケが相手をしている尾獣は二尾。尾獣という強大な敵を相手に、永遠の万華鏡の
それはナルトが真に人柱力として完成した瞬間であった。
九喇嘛。それが九尾の本当の名前。互いに名を呼び合う友となったナルトと九喇嘛。
﹁行くぜ九喇嘛
!
1115
そんな圧倒的火力に対し、サスケは万華鏡写輪眼にて対応する。
天照にて空間に黒炎を生み出し、それを加具土命にて網目状に変化させる。それだけ
でミサイルの全てを迎撃せしめた。
網の目を潜り抜ける様にレーザーがサスケに迫るが、それすら須佐能乎にて完全に弾
かれる。
そしてそれらの力を使った反動を確認し、サスケは不敵な笑みを浮かべた。
﹁ふ、これが永遠の万華鏡か﹂
万華鏡写輪眼のリスクが無くなるとはあらかじめ聞いていた。だが、聞くと体験する
とでは大違いだ。それをサスケは身を以って実感した。
これだけの強大な力を振るいつつも、代償となっているのは多少のチャクラのみだ。
サスケが浮かれるのも仕方ないと言えよう。
だがサスケは直に自戒する。強くなっても上には上がいるのだ。ここで調子に乗る
﹂
と痛い目を見るのは過去の経験からも明白だった。
!
そのまま黒炎は二尾に燃え渡りその視界を炎に染める。そこに更に須佐能乎の弓を
を、それ以上の黒炎にて焼き尽くしていく。
今は敵に集中すべきだとサスケは思考を切り替える。そして二尾が口から放った炎
﹁まあいい。さっさと終わらせてもらうぞ化け猫
NARUTO 第三十六話
1116
放ち、両足を大地に縫い止めた。後は首筋にあるという杭を抜くだけだ。
そうしてサスケが二尾に突き刺さっている杭を抜こうとした時、サスケはナルトの
チャクラが一気に増大したのを感じ取った。
尾獣化したナルト。その姿は他の人柱力の尾獣化とは少々異なっていた。
他の尾獣化は完全に尾獣の姿になるのに対し、ナルトの場合は九尾を形取ったチャク
ラを纏っている様に見えるのだ。
この理由は九尾が陰と陽のチャクラに分けられている事が原因なのかもしれないが、
詳しい事は判明されていない。だがそれは問題にはならないだろう。何故なら、例え完
こいつらの杭、オレに抜かせてほしいってばよ
﹂
全でないにしても、ナルトと九喇嘛が手を組んだその力は他の人柱力を凌駕するから
だ。
﹁皆
!
尾獣化
!?
!?
ばならないと何故か思ったのだ。
﹁ナルトついにやったのか
﹂
ているのは理解しているが、孫悟空と対話をしたナルトは尾獣の開放は自分がしなけれ
尾獣達を攻撃する仲間にナルトはそう叫ぶ。彼らも尾獣から杭を抜く為に攻撃をし
!
1117
﹁これがナルトの⋮⋮﹂
﹁すごいな。九尾の力を完全にコントロールしているのか﹂
﹁こりゃ巻き込まれない内に離れた方がいいな﹂
﹁あなた、ナルトの攻撃もすり抜けられるでしょうに。⋮⋮ふむふむ。今のナルトなら
マダラ相手でも大分粘れるか⋮⋮強くなりましたねぇ﹂
ナルトの尾獣化に誰もが驚愕する。アカネは何やら感慨深そうにしているが。
そんな風に皆がナルトの尾獣化に気を取られていた隙に、尾獣達は最大の攻撃である
尾獣玉を放とうとする。
然しものサスケ達も五体同時の尾獣玉には肝を冷やした。そんな中、アカネは平然と
﹂
?
してナルトに確認をする。
﹂
!
﹁速い
﹂
そして一つの街を容易く破壊出来るだろう尾獣玉を弾くその力。
万華鏡写輪眼で強化された動体視力でも僅かしか見切れないその速度。
!
!
﹁写輪眼でも見切るのが限界か
﹂
その言葉と同時に、ナルトは一瞬で全ての尾獣玉を弾き飛ばした。
﹁ああ。問題ねーってばよ
﹁ナルト、あなただけで防げますか
NARUTO 第三十六話
1118
1119
まさしく桁違い。これがナルトと九喇嘛の力であった。
だが、初めての尾獣化ゆえに欠点はあった。まだ完全にナルトと九喇嘛がリンクする
事が出来ないので、尾獣化の持続時間はせいぜい五分が限界だったのだ。
もっとも、五分もあればナルトには十分だった。
今のナルトに六道の力で効果が期待出来るのは天道くらいだ。いや、その天道とて神
羅天征は吹き飛ばされずに耐える事ができ、地爆天星も吸い寄せられる前に容易く破壊
する事が出来る。
まあ、イズナ本体が人柱力六道から離れすぎている為に、その力もかなり制限されて
いるという理由もあったが。それを差し引いても尾獣化したナルトの強さの賜物だろ
う。
五対一という圧倒的不利な人数差もナルトには程よいハンデだった。そしてナルト
は尾獣達それぞれの杭の位置を確認し、チャクラを伸ばしてそれを抜き取ろうとする。
その瞬間、ナルトは再び尾獣達の深層心理の世界へとやって来た。いや、九喇嘛とリ
ンクを果たした為、ナルトは先程よりも更に深い深層心理へと到達していた。
四
尾
その証拠が人柱力の存在だ。ここには尾獣だけでなく、その人柱力も同時に存在して
いたのだ。
彼らはナルトに対して初めから好印象だった。それは孫悟空が外道魔像に吸い込ま
NARUTO 第三十六話
1120
れる前に、他の人柱力と尾獣達にナルトの事を伝えていたからであった。
そしてナルトは、人柱力と尾獣それぞれと名を交し合った。尾獣の真の名を知る人
間。ここにいない一尾は除くが、それ以外の全ての尾獣の名を知った者は六道仙人を除
きナルトが初めてであった。
全ての尾獣から名と、そしてチャクラを託されたナルト。この時、ナルトは全ての尾
獣から認められたのだった。⋮⋮ただし、一尾は除く。
NARUTO 第三十七話
ナルトが尾獣達を解放してすぐ、尾獣は全て外道魔像の元へと再び封印された。それ
すごいじゃないか
﹂
をナルトはじっと見つめ、そして必ず尾獣達を解放すると決意する。
﹁おいナルト
!
﹂
!
││しばらくは無理だな。ワシのチャクラをコントロールする事はともかく、尾獣化
チャクラモードも切れて通常のナルトへと戻ってしまった。
突如として声を荒げるナルト。それと同時にナルトの尾獣化が解除され、その上九尾
目か
﹁オビトのおっちゃんもイタチ兄ちゃんもありがとな。でもこのモードは、ってもう駄
に関してはまだまだ子どもなのだと、アカネもため息を吐く。
若干一人ほどナルトの急成長に苛立ちを示していたが。どれだけ成長しても、ナルト
﹁ちっ⋮⋮まだ負けたわけじゃねぇ﹂
に操られる尾獣を開放した手腕を掛け根無しに褒めていた。
そんなナルトの元に仲間達が駆けつける。オビトもイタチも、尾獣化を成功させて敵
﹁九尾の完全なるコントロール⋮⋮これ程とは﹂
!
1121
は少し間を置いてからだ││
﹁分かったってばよ九喇嘛﹂
﹁九喇嘛⋮⋮九尾と本当に和解したんですね。⋮⋮良くやりましたねナルト﹂
﹁アカネ⋮⋮﹂
あの憎しみばかりを籠めたチャクラを放っていた九尾を、友として受け入れる。それ
がどれほど困難で、どれほど偉業か。
本当に成長した。ナルトならばいずれは、と思っていたアカネだが、いざそれを見る
と感嘆の想いしか浮かばなかった。
そんな優しく自分を褒めてくれるアカネを見てナルトも感動する。修行中は厳しく
も、上手く出来れば褒めてくれたアカネだが、これほど真に想いを籠めて褒められた事
は初めてだったのだ。
様だ。
感動は一瞬で終わった。褒めた後に新たな課題を出す所は修行も実戦も変わらない
﹁あ、はい﹂
ですよ﹂
す。戦争中ですので修行は出来ませんから、実戦にて磨くようにしなさい。最重要課題
﹁と言っても、まだ九尾のコントロールは完全ではないようですね。持続時間も短いで
NARUTO 第三十七話
1122
││
生まれ変わっても変わってねーなこいつはよ││
││けっ
!
?
アカネがヒヨリって人の生まれ変わりぃぃぃ
﹂
﹁おや、九尾⋮⋮九喇嘛と言いましょうか。九喇嘛が教えましたね
!?
﹁まじかよ⋮⋮﹂
問題ないのだが。
﹂
であった。まあ今は九喇嘛もナルトの事を信頼し、人間と事を構えるつもりはないから
しかも新たな宿主であるナルトを鍛え出したのだ。その時の九喇嘛の心境や如何に、
のチャクラを九喇嘛が感じ取った時には歯軋りしてたりする。 そのヒヨリが亡くなった時は内心笑みを浮かべたものだが、転生しアカネとなり、そ
もなく、九喇嘛は己の対抗手段であるヒヨリを警戒していたのだ。
いざ九尾が復活した時の抑止力としてヒヨリが九喇嘛を警戒していたのは言うまで
知った。
九喇嘛は先々代の人柱力であるミトの中に封印されていた時に、日向ヒヨリの事を
ナルトのいきなりの発言を聞き、アカネは即座にその答えに行き付いた。
?
﹁はあああ
そこで九喇嘛は隠す事もなく、自分の知るアカネの正体をナルトに教え込んだ。
心の中で九喇嘛と会話をするナルト。どうやら九喇嘛の呟いた言葉が気になる様だ。
生まれ変わったってどういうことだってばよ
││あん
?
!?
1123
もしかしてサクラちゃんも
﹁ふん、今更気付いたのか﹂
﹁サスケは知ってたのかよ
﹂
!?
ネは感じ取る。
言に限るだろう。その言動は破天荒だが、人としては非常に信頼出来るタイプだとアカ
だがビーの人間性はそれで理解出来た。ビーを簡潔に評すると、器が大きい、この一
するビーにアカネも少々たじろいだ。
素直にアカネの巨乳を見て興奮している事を隠さず、転生という大事よりも乳を優先
﹁⋮⋮いえまあ、疎まれるよりはいいですけどね﹂
﹁死んで生まれ変わる、これって一大事。でも巨乳に罪はない、乳って超大事﹂
いた可能性はナルトよりは遥かに高いのだが。
まあ、サスケもアカネの異常性には勘付いていたので、自力でアカネの正体に辿り着
今も気付いていなかった可能性は十分にあったりする。
等とサスケは偉そうに言っているが、サスケ自身も大蛇丸から教えられていなければ
﹁サクラはどうだか知らんが、オレはとっくに気付いていた﹂
!
﹁アカネ
﹂
言葉を最後まで言い切らず、アカネは突如としてあらぬ方角を見やる。
﹁さて、長話をしたいのは山々ですが、今は戦争中││﹂
NARUTO 第三十七話
1124
?
﹁⋮⋮
どうしたアカネ﹂
いや全員が衝撃を受けた。
﹁これは⋮⋮まさか十尾か
﹄
﹂
ナルトもサスケもアカネの反応を怪訝に思う。そして、アカネの次の一言に二人は、
?
﹂
!
ね。チャクラの位置と地図の場所が敵のアジトとほぼ一致しています﹂
ビーさんもナルトもここにいる。それは本当に十尾なのか
﹁待ってくれよアカネちゃん 十尾の復活には八尾と九尾が必要なはずだ
!
﹁恐らくだが、それは十尾の抜け殻だ。そこにワシら以外の尾獣を封印し、不完全なまま
││少し代われナルト。ワシが説明する││
それに対して答えたのはアカネではなく、ナルトの身体を借りた九喇嘛だった。
淡々と感じ取ったチャクラの情報を話すアカネに対し、オビトが疑問を叩きつける。
!?
だが、
﹁巨 大 な チ ャ ク ラ の 塊 が 出 現 し た。場 所 は こ こ か ら 遥 か 遠 く。恐 ら く 敵 の ア ジ ト で す
取ったというのか。
だが、十尾復活のキーである八尾と九尾はこの場にいる。ならばアカネは何を感じ
この世を生み出したとされる神にも等しい存在だ。
アカネの言葉を聞いた者達はまず己の耳を疑った。十尾。それは尾獣全ての融合体。
﹃
!?
?
1125
に動かしたんだろうよ﹂
﹂
﹁お前は九尾か。⋮⋮なるほど、先程ナルトが開放した尾獣達を再び封印したのか。な
らばその抜け殻を戦力として使う気か
﹂
ネが十尾の不自然な点に気付いた。
﹁これは⋮⋮
﹁馬鹿な⋮⋮﹂
││おいおい、どういうことだこりゃ
││
十尾の抜け殻
九喇嘛の説明を聞いてイタチは敵の策を想像する。だが、八尾と九喇嘛、そしてアカ
?
⋮⋮いや、あの時感じたワシのチャクラ
オレのタコ足⋮⋮││
!
﹂
!
話を。
われ、それでもなお生き続けて九尾の肉を喰らい、そして九尾のチャクラを得た兄弟の
そう言って九喇嘛は皆に説明する。かつて、九尾の戦いを挑み、返り討ちにあって食
﹁ワシのチャクラに関してだが⋮⋮覚えがある﹂
疑問に思った二体の尾獣だが、そこでそれぞれのチャクラの正体に気が付いた。
││あ⋮⋮
!
尾と九尾のチャクラを僅かだが感じ取れたからだ。
アカネも、九喇嘛も、八尾も、それぞれに驚愕する。なぜなら││外道魔像から、八
?
!
﹁どういうこった⋮⋮
NARUTO 第三十七話
1126
﹁馬鹿な
金銀兄弟は死んだはずだ
﹂
!
﹁あ⋮⋮いや、でも八尾はどう説明するんだ
﹁いや、穢土転生がある﹂
!
﹂
!
﹂
札の切り方が分
!
た。
る戦術を行おうとして、そして再びあらぬ方角を見やって苦虫を噛んだ様な表情をし
九喇嘛の説明を聞いたアカネは、十尾が完全に復活する前に叩くという定石とも言え
かっているなイズナ
﹁なるほど。なら、完全復活する前に止めるのが吉ですね。⋮⋮っ
ラを完全に取り込んでないから、復活にも多少は時間が掛かるようだな﹂
りゃ感知は出来ないからな。感知出来る今はまだ不完全ってわけだ。ワシらのチャク
﹁だが完全には復活してねー。十尾は自然エネルギーそのものだ。仙人モードでもなけ
いた。
相変わらず良く分からない韻を踏んだ言葉だが、それとは裏腹にビーも本当に焦って
﹁前にタコ足分身のチャクラを少々回収されてるゥ。こう見えても少し慌ててるゥ﹂
その答えは、当の八尾の人柱力であるビーが説明をしてくれた。
しては納得するが、八尾に関してはどうなっているのか。
オビトの反論に対しイタチが穢土転生の存在を指摘し、この場の誰もが金銀兄弟に関
!?
1127
﹁今度はどうした
﹂
﹂
近くには五影と、そして忍連合軍が無数
!
﹂
!
!
!
れらを頭の中で組み立て、そして答えをはじき出す。
皆を神威空間へ
このままじゃ全
あなたも神威空間で移
マダラの力、五影の力、マダラに対する策、十尾、無限月読、イズナの思考⋮⋮。そ
どうするべきか。アカネは僅かしかない時間の中で、一瞬にして思考を繰り広げる。
﹁ちぃっ⋮⋮
う。下手すればそれで世界は終わりを告げるかもしれなかった。
全ではないが、それでも七体の尾獣の集合体だ。その力は推し量る事すら出来ないだろ
だが、十尾を放置すれば十尾は完全に復活してしまう。八尾と九喇嘛のチャクラは完
る。このまま十尾の元に向かえば忍連合軍は壊滅状態に陥るだろう。
いくら五影であろうとも、マダラを相手にして長くは持たないとアカネは判断してい
!
求する。そしてアカネはまたも衝撃発言をした。
次から次へと面倒事が起こっている様子にサスケも苛立ちを見せ、アカネに説明を要
!?
﹁マダラが現れた⋮⋮
﹄
滅必至だ
﹃
!
うちはマダラ出現。それも忍連合軍の総大将の元に、だ。
!?
﹁今すぐマダラの元に向かう オビト
!
NARUTO 第三十七話
1128
動しなさい
問答の時間も惜しい、先に行くぞ
﹂
!
事ではすまないだろう。
﹂
はまだ猶予がある。今はマダラを止めるべきだ。そうしなければ五影も、忍連合軍も無
必ずイズナは十尾の力を振るう。それがアカネには確信出来ていた。ならば、十尾に
かったのだ。
感じ取った。そんなイズナが、十尾を復活させてすぐに無限月読を仕掛けるとは思えな
これまでのイズナの言動から、アカネはイズナが全力でアカネを叩き潰すつもりだと
はイズナの性格にあった。
答えは、マダラを止めに行く、であった。十尾を放置してマダラを止める。その理由
!
││マダラ
これ以上、お前の手を汚させはしない
皆
﹂
﹁くそ、オレも速く行かなきゃ
﹂
││
オレを信じてくれ
展開の速さにナルトの思考速度が付いて行けなくなり、混乱している様だ。だがアカ
!
アカネは最速にて戦場を駆ける。友の誇りを守る為に。
!
した。
アカネはオビトに指示を出し、そしてオビトの返事を確認した瞬間に、全力で駆け出
﹁わ、分かっ││って、はや
!?
!?
!
!
﹁ど、どういう事だってばよ
!
1129
ネが言ったように、問答をする時間はないに等しい。
それをこの場で最も理解していたのはオビトと、そしてイタチであった。
﹄
﹁ナルト、サスケ、そしてビーさん。オビトさんを信じろ﹂
!
多くの穢土転生を打ち破り、封印してきた忍連合軍。だが、敵が新たに繰り出した穢
忍連合軍と暁の穢土転生。その戦いは最終局面へと突入していた。
◆
在がいなくなった。
そうして一瞬にして、先程まで尾獣と尾獣がぶつかり合っていた戦場から、全ての存
オビト自身もまた、己を神威空間へと移動させるのであった。
オビトの神威により、全員が神威空間と呼ばれる特殊な時空間へと移動する。そして
全員の意思を確認したオビトは、自身の万華鏡写輪眼である神威を使用する。
そしてビーもここに来て仲間を疑う様な懐の小さい人物ではなかった。
いう事を良く理解しているのだ。
イタチの言葉をナルトもサスケも信用する。二人ともイタチが無駄な事をしないと
﹃⋮⋮おう
NARUTO 第三十七話
1130
1131
土転生によって、再び危機に陥っていた。
その穢土転生はかつての五影達。つまりは今の五影の先任や先々任達である。
二代目水影、二代目土影、四代目風影、三代目雷影。かつて里の為に心力を注ぎ、多
くの忍から尊敬されていた影達。それが忍達に牙を剥いたのだ。
いや、牙を剥けさせられた、というべきか。死者の意思など関係ない。それが穢土転
生なのだから。
これに対抗すべくオオノキが前線に立つ。師である二代目土影を止める事が出来る
のは自身のみだと理解していたのだ。
いや、オオノキだけではなかった。なんと、連合軍の総大将であるエーと綱手、メイ
までもがここに参戦したのだ。
エーの先代である三代目雷影は恐るべき実力を持つ。それを止められるのは自身の
みと、エーもまたオオノキと同じ事を考えていたのだ。
綱手はエーを守る為にも追従し、そして敵の戦力がこの場に集中している事を考慮
し、メイもまたここでの勝利が戦争の勝利に近付くと判断し、この戦場に参戦する。
ここに、過去の影達を止めるべく、現代の影達が集った。
影と影の戦い。その決着に要する時間は長くはなかった。
それも当然だ。影と影の戦いとは言うものの、実際には忍連合軍と暁の戦いだ。つま
り、現代の五影には多くの味方が付いているのだ。
一対一という展開を望む者は五影の中にはいなかった。唯一エーのみは尊敬する親
である先代と一人で戦いたいという想いがあったが、総大将として勝利を得る事を優先
する強かさは持ち合わせていた。
いくら前影達が強く、不死身の肉体を持っていたとしても、流石に戦力が違いすぎた。
﹂
こちらには、五影と同等の実力を持つ忍が幾人もいたからだ。
﹁はぁ
﹂
の攻撃を捌き、的確に自身の攻撃を当てていく。
雷遁により一撃の鋭さは三代目雷影が上だが、ガイは巧みな体術によって三代目雷影
プを果たしたガイは、その強さを五影並かそれ以上に伸ばしているのだ。
だが、ガイはそれと真っ向から渡り合っていた。八門遁甲によって強大なパワーアッ
を誇る三代目雷影の強さは、下手すればエー以上かもしれない。
八門遁甲・第七門を開いたガイと三代目雷影がぶつかり合う。雷遁の鎧と頑強な肉体
﹁⋮⋮﹂
!
!
つ。その一撃により、三代目雷影は吹き飛んでいく。
ガイは地獄突きと呼ばれる三代目雷影の貫手を躱し、反撃として強力な回し蹴りを放
﹁極・木ノ葉金剛力旋風
NARUTO 第三十七話
1132
﹁むん
﹂
﹁まだだ
﹂
忍体術、雷我爆弾を放つ。
ラ イ ガー ボ ム
そしてエーが吹き飛んだ三代目雷影を掴み、そのまま全力で対象を大地に叩きつける
!
﹁効いていないか
ならば効くまで攻撃するのみ
﹂
!
﹂
良くぞ言った 賢しい者が多いと思っていたが、オビトといいお前
!
といい、木ノ葉にも中々の奴がいる
!
ろうか。ともかく、二人は更なる攻撃を三代目雷影に加えていく。
ガイの言葉にエーも力強く同意し、そしてガイと共感する。思考回路が似ているのだ
!
﹁その通りだ
!
ら逃げ出しているだろう。
まさに雷影の名に相応しい実力。だが、それで恐れを抱く二人ならば、既にこの場か
強靭な肉体によりガイとエーの攻撃を防ぎ切ったからである。
だが、三代目雷影は無傷であった。それは穢土転生の力で再生したのではなく、その
となく死んでいる威力だろう。
この二つの忍体術の恐るべき威力により、大地は大きく陥没した。並の忍ならば幾度
体術の一つ、儀雷沈怒雷斧である。
ギ ロ チ ン ド ロッ プ
更にエーはそのまま跳躍し、三代目雷影の首元へと蹴りを叩き付ける。これも雷遁忍
!
1133
第七門を長時間開放し続ける事を可能としたガイと、三代目雷影と同等の実力を持つ
エー。この二人がタッグを組んで戦う限り、不死身の肉体とはいえ、流石に三代目雷影
にも勝機はなかった。
やがて、ガイの連撃によって大きな隙が生まれた三代目雷影に、エーの貫手が突き刺
さる。突き刺さった箇所は右胸。そこは三代目雷影が古傷を負った箇所であり、最も強
度の少なかった箇所であった。
それにより大ダメージを負った三代目雷影は、忍連合軍の封印術によって封印されて
いく。
﹁⋮⋮さらばだ、オヤジ﹂
封印されゆく父に、エーは別れの言葉を告げる。かつて三代目雷影が亡くなった時、
エーは誰も知らない場所で号泣したものだ。
﹂
良し、さっさと潰して終わらせる
だが、今は一人の忍ではない。雷影の称号と、忍連合軍の総大将の座を得ている。な
らば、感傷に浸るなど許されない。
ぞ
﹁わかっとる 残る敵は⋮⋮二代目土影のみか
!
エーは即座に気を入れ替え、残る敵を確認する。
!
!
﹁雷影様⋮⋮﹂
NARUTO 第三十七話
1134
1135
四代目風影は我愛羅によって、二代目水影はメイと自来也によって既に封印されてい
た。
二代目水影は蜃気楼や幻術の使い手であったが、仙人モードの自来也の感知力の前で
は形無しだったようだ。本人は眉無しだが。
残るは二代目土影のみ。だが、それが最も面倒な敵であった。
純粋な肉体面での強さならば三代目雷影が圧倒しているだろう。だが、二代目土影に
は恐るべき術があった。
それが塵遁。血継限界の更に上、風遁・土遁・火遁の三つの性質変化を組み合わせる
という、血継淘汰である。
その術の能力は││触れた物質を分子レベルまで分解して消滅させるという、完全な
る一撃必殺の術だ。更に術の範囲も中距離までカバーしている上、敵の忍術を消す事も
可能。まさに攻防ともに優れた術と言える。
当たれば確実に死ぬ。どんな屈強な肉体の持ち主でも、どんな強力な術の持ち主でも
││
関係ない。故に塵遁使いに戦えるのは塵遁使いのみ││という訳でもなかった。
││神威
威空間へ移動させたのだが、現実世界で見ると消し飛ばしたという表現になる。
二代目土影が放った塵遁・原界剥離の術をカカシが神威にて消し飛ばす。正確には神
!
素早い原界剥離の術に対し、即座に神威を合わせられるその精度。カカシも戦争まで
の期間で神威に関してかなり研究した様である。もっとも、その代償として視力がかな
﹂
﹂
り低下しているのだが。
﹁土影様
﹁分かっておる
﹂
ぐ為に再生する片方を封印しようとしても、分身体がそれを阻止する。
消滅した片方の二代目土影は直に再生を始め、そして再び元の一つになる。それを防
が敵は穢土転生体、不死身の肉体を持っているのだ。
本来ならばこれで終わりだ。分裂体はその力も半減し、塵遁も使用不可能になる。だ
外へと逃したのだ。
二代目土影はオオノキの塵遁が命中する直前に、分裂によって片方の自分を術の範囲
身と違って攻撃を受けても消えないという秘術である。
分裂。それが二代目土影のみに許された秘術。分身と違って完全な実体を持ち、影分
だがそれは避けられてしまった。いや、正確には分裂して片方だけ避けられたのだ。
・・
カカシが作り出した隙を狙って、オオノキが原界剥離の術を二代目土影に放つ。
!
!
!
これで二度目だ。上手く追い詰めても、ギリギリで封印を回避する。穢土転生でなけ
﹁またか⋮⋮
NARUTO 第三十七話
1136
れば既に終わっているが、それは穢土転生を相手に言っても仕方のない事だ。
だが、二度目は確実に一度目よりも上手く追い詰める事が出来た。次は必ず封印まで
一気に終わらせるぞ
﹂
持っていく。そんな風に考えるオオノキとカカシに、それを後押しする者達が現れた。
﹁オオノキ
!
﹂
早く封印の準備をするんじゃぜ
﹄
﹁やった
﹃はっ
!
!
﹂
せようとそのまま直進し、そして二体の穢土転生を飲み込んで行った。
口寄せされる。だが、原界剥離の術は二代目土影ごと、後方に現れた穢土転生を消滅さ
原界剥離の術が届くよりも僅かに早く口寄せの術が発動し、新たな穢土転生が戦場に
離の術を放つ。口寄せの術を使用していた二代目土影にそれを防ぐ術はない。
当然それを黙って見ている五影達ではない。オオノキは瞬時に二代目土影に原界剥
﹁させんぜ
の術を使用した。
だが、それは敵も理解していたのだろう。なので二代目土影は、塵遁ではなく口寄せ
るオオノキとカカシがいてこの人数だ。勝利は確実と言えた。
五影全員と、自来也とカカシとガイ。いくら塵遁が強かろうとも、それを無効化出来
そう、他の前影達を封印した者が援軍として駆けつけて来たのである。
!
!
!
1137
全身が消滅しようとも、封印しない限り穢土転生は復活する。オオノキの指示に従
い、封印術を会得している忍が再生する二体の穢土転生を封印しようと準備に掛かる。
だが、原界剥離の術の範囲内にあって、動き出す人影があった。分子レベルまで分解
させる術をまともに受けて存在するモノなどある訳がない。だというのにこれは一体
どういう事なのか。
﹂
その答えは、オオノキが驚愕の声を上げる事で判明した。
﹁う、うちはマダラ
﹂
!
﹂
!
ムウ
﹂
遁と言えども忍術は忍術。ならば、忍術そのものを吸収する餓鬼道には通用しなかった
その輪廻眼の力の一つ、餓鬼道にて忍術を吸収したのだろうと推測したのだ。例え塵
で綱手は輪廻眼の力を嫌という程に理解している。
塵遁を防いだ理由、それを真っ先に思いついたのは綱手だ。かつてのペインとの戦い
﹁いや、輪廻眼の力か
く、塵遁が当たったのに全く無傷で存在する事に対しての驚きだった。
オオノキの声に反応したのはエーだ。それはマダラがここにいる事に対して、ではな
﹁ば、馬鹿な
!?
せめて無様だけでも
!
ようだ。
﹁くっ
!
NARUTO 第三十七話
1138
マダラは仕方ないとして、せめて二代目土影だけでも封印をとオオノキは叫ぶ。当然
それはマダラによって阻まれるだろうが、五影や自来也達が協力すればマダラを抑える
くらいは出来るだろうという判断だ。
何故何もせん
﹂
だが、オオノキの予想に反し、マダラは何もせずに二代目土影の封印を黙って見てい
た。
﹁⋮⋮どういう事だ
!
﹂
!
!
マダラの裏にいるイズナを感じ取る綱手。そしてエーはイズナの増上慢に怒りを顕
のか
﹁舐めおって いくら貴様が強かろうと、これだけの数を相手に勝てると思っておる
﹁どうやらイズナがマダラを操っている様だな﹂
の答えだった。
二代目土影を助けなかったのは助ける必要がないから。それがマダラの、いやイズナ
度どうとでもなる﹂
﹁ふ、影程度、兄さんが出るまでの繋ぎに過ぎん。こうして兄さんが出た以上、お前達程
そして二代目土影が封印され、ようやくマダラがその口を開いた。
当然残る者達もマダラの意図に疑問を抱き、より一層マダラの警戒を強めた。
何もしないマダラに不審を抱いたエーは感情のままに叫ぶ。
!?
1139
わにする。
愚かな。真の強者の前に、数などいくら集めても無意味だと分から
だがイズナはそんなエーに対し嘲笑する事で返した。
んのか
お前達にもそれくらいの経験はあると思っていたのだがな﹂
﹁はっ。数、だと
?
﹂
?
ならば先達として少し教授してやろう
真の強者というものをな
﹂
!
る。
﹁仕方ない
!
││
意味だとイズナは内心で五影達を見下し、そして印を組み上げた。
イズナの叫びと同時にこの場の全員が戦闘態勢に移行する。だがそんな行動など無
!
メイの言葉に対してそう返し、イズナは嘲笑から蔑む様な笑みへと表情を変化させ
言葉は理解出来ても、どうにも意味は理解出来ていないようだな﹂
﹁なんだ。オレの言葉が理解出来なかった訳じゃなかったようだな。安心したぞ。だが
﹁私達が束になってもあなたに勝てないと
それはつまり、五影がそこらの雑魚という意味を持っている事になる。
だが、イズナの言葉はそこらの雑魚にではなく、五影に対して向けられているのだ。
ても蹴散らされて終わりだろう。
イズナの言葉は間違いではない。五影達に対し、そこらの忍が数百、いや数千集まっ
?
││木遁・樹海降誕
!
NARUTO 第三十七話
1140
木遁にて樹木が生成され、人の身体よりも太い蔓が無数に生えてくる。
そ の 無 数 の 蔓 が 一 気 に 忍 連 合 軍 へ と 襲 い 掛 か る。そ の 範 囲 は あ ま り に 広 大 だ っ た。
大軍用の忍術でも、ここまでの規模を持つ術はどれほどあるか。
蔓の勢いは凄まじく、五影や自来也達でも己の身や近しい者達を守るのが精一杯だっ
た。残る大勢の忍はこの秘術に対抗する術を持たず、このままでは多くの忍が命を落と
してしまうだろう。
││
だが、そうはならなかった。
││風遁・八卦風刃掌
﹁やはりこちらに来たか⋮⋮日向ヒヨリ
﹂
掛かろうとしていた蔓の全てを切り裂いた。
八卦空壁掌に風遁を合わせた忍体術。線状に広がって行く風の刃は、忍連合軍に襲い
!
以前は意思と肉体のどちらかならばマダラもイズナに抵抗する事が出来ていた。だ
する。
それを安心しつつも、アカネはマダラの意思が完全にイズナに操られている事を危惧
てはいなかった。
どうやら間に合ったようだとアカネは安堵する。マダラが出現して、まだ誰も傷つい
﹁マダラ⋮⋮いやイズナか﹂
!
1141
が、今はそれがないように見られる。
新たに穢土転生の術式を上書きしたか、それともマダラですら抵抗出来ない程にイズ
ナが力を高めたか。
恐らく後者だろうとアカネは考える。いや、単純に前者であると思い、敵を過小評価
あいまみ
したくなかったのだが。
相見える両者。伝説に謳われた初代三忍の内の二人、日向ヒヨリとうちはマダラが正
面からぶつかろうとしていた。
相対した瞬間に訪れた静寂の間。それは一瞬で終わりを告げた。
先手を取ったのはアカネであった。マダラは印を結ぼうとするが、アカネはその印が
結び終わるよりも先に八卦空掌を放っていたのだ。
まさに神速の一撃。これを可能としたのがアカネの長年の経験から来る、未来予知に
も匹敵する先読みである。
敵の動きの先が読める故に、その動きに対して常に先手を取り最適な行動を選ぶ事が
﹂
出来る。アカネの強さを支える重要な技術の一つである。
!
マダラはその八卦空掌を須佐能乎の限定発動によってどうにか防ぐ。それでもあま
﹁ちぃっ
NARUTO 第三十七話
1142
りの威力に吹き飛ばされ、印は崩れてしまった。
﹂
﹁やはり強いな⋮⋮
だが、兄さんの力を舐めてもらっては困る
﹂
そうさせる訳には行かない。なので、まずはマダラを遠ざける事が先決であった。
ネの力。二つがぶつかり合う余波だけでどれだけの被害が出る事か。
これがアカネの狙いだ。忍連合軍から離れなければ、イズナの操るマダラの力とアカ
それをマダラは須佐能乎にて防ぐが、やはり威力は殺しきれずに後退し続ける。
掌が放たれマダラを狙い撃つ。
そこに更にアカネが追撃する。八卦空掌の乱れ撃ちである。一息で数十もの八卦空
﹁はああっ
!
!
逆に言えば、完成体須佐能乎でもなければ対抗する事すら出来ないという事である。
だ。
愚の骨頂。故に初手から最大最強の須佐能乎にて相手にする。それが唯一の対抗手段
日向ヒヨリを相手に、第一段階や第二段階などの須佐能乎で様子を見るという判断は
はなく完成体の須佐能乎を発動させた。
その隙を突けないマダラではない。僅かな間を見切り攻撃を躱し、そして限定発動で
く時間も僅かだが延びる事となる。
マダラを遠ざける事には成功した。だが、距離が開けば開くほど、アカネの攻撃が届
!
1143
NARUTO 第三十七話
1144
完成体須佐能乎。その具現化した破壊の権化を見て、忍連合軍の大半が無意識に後ず
さりする。
離れていても一目見ただけで理解出来たのだ。あれには絶対に勝てっこない、と。そ
して、同時に思った。
ならば、その破壊の権化と互角以上に戦っているあの忍は何なんだ、と。
完成体須佐能乎が刃を振るう。一振りで離れた山すら斬り裂く神話の一撃だ。
それをアカネは真っ向から受け止め、そして捻じ伏せた。チャクラの刃を白羽取りの
要領で掴み、そのままへし折ったのだ。
それをマダラへと投げつける││のではなく、マダラの立つ大地に投げつける。マダ
ラの力でマダラを倒す事など出来ないのはヒヨリの時代から百も承知だ。それよりも
足場を崩した方がマシだと判断したのだ。
当然マダラは崩れ行く足場から別の足場へと跳び移る。そこをアカネが襲撃した。
一気に距離を詰め、完成体須佐能乎を砕く勢いで殴りつける。事実、完成体須佐能乎
はその一撃で皹が入っていた。
輪廻眼を持つマダラ相手にチャクラの技は通用しない。チャクラを流し込む柔拳も
また、吸収されて意味を成さないだろう。
故に剛拳。チャクラを攻撃する箇所一点のみに集中させ、その上で高速連撃を放つ。
拳の弾幕とも言うべきか。速度と威力を両立させたアカネの攻撃の前に、完成体須佐
﹂
能乎はその鎧を剥がされていく。
﹁くっ
そこで綱手は近場にいた山中一族の者に頼み、本部へと伝達をする。そして本部から
いう声も上がってきたのだ。
忍達の中にはヒヨリのチャクラを覚えている古兵もおり、その者達から日向ヒヨリと
達は思う。
ここに至って、流石にアカネの正体を隠し通すのは無理かと、アカネの正体を知る者
﹁うちはマダラを圧倒している⋮⋮誰なんだあの忍は⋮⋮﹂
﹁な、なんという戦いだ⋮⋮﹂
を遠目で見ていた忍達の誰かが呟いた。
アカネとマダラの戦いにより、二人の周囲の地形は瞬きする間に変化していた。それ
は成功だったと言えよう。
り、その反動でマダラの身体が吹き飛ばされていく。アカネと距離を取るという意味で
だが、その程度の斥力は最早アカネには通用しなかった。斥力に耐えるアカネによ
のだ。
たまらずマダラは神羅天征を放つ。斥力の力にてアカネを吹き飛ばそうとしている
!
1145
全忍に伝達が走った。
あれこそが、現代に蘇った日向ヒヨリ。日向ヒヨリの転生体である日向アカネだ、と。
﹄
ば心強いとしか言えなかった。
!
これなら暁にも勝てる
﹁初代三忍の一人が味方なのか
﹂
!
﹂
日向アカネが転生者であろうと、彼女が味方で、そして強敵を相手に戦ってくれるなら
だが今は戦争という異常事態だ。死者が蘇るなどいくらでも見てきたものだ。例え
死者が転生して新たな生を得る。平時に聞けば眉唾物だ。真実ならば脅威だろう。
﹃おお⋮⋮
!
!
い。その事実を慰めとし、イズナは次の一手を取る。
も折り込み済みではある。それに兄は穢土転生によって生前の力を発揮出来てはいな
兄を何よりも尊敬するイズナにとって、その判断は非常に歯痒いものだ。だが、それ
マダラを操るイズナは、やはり兄の力では日向ヒヨリに勝てないと判断する。
だが、その希望を打ち砕いてやろうと企む者がいた。そう、うちはイズナである。
のだ。
始めた事で気を取り直す。現金なものだが、往々にしてそういう者が多いのが人の世な
うちはマダラという圧倒的な強者を前に心が折れかけていた者達も、希望の光が見え
﹁勝てるぞ
NARUTO 第三十七話
1146
そう、絶望の一手を。
││口寄せ・外道魔像
﹂
││
る。これが作戦の全てだ。
時にオビトによって神威空間から現実空間に移動させてもらい、別天神の奇襲を敢行す
シスイは戦争には参加せず、オビトの神威空間にて身を隠し、そしてマダラが現れた
に、神威を利用した奇襲作戦を取ったのだ。
別天神の力を考えれば可能性はあった。そして、確実に別天神をマダラに使用する為
られているマダラを更に操り返すという作戦であった。
これがアカネの、正確には別天神の力を知った奈良シカクが発案した策。イズナに操
の中で待ち続けていたのだ。
現れたのはうちはシスイだった。シスイはこの瞬間の為に、ただひらすらに神威空間
!
﹁なに
﹂
ダラの近くの空間が歪み、突如として一人の忍が現れた。
戦局を容易く覆す最大の一手だ。そしてマダラが口寄せの術を発動した瞬間││マ
十尾の口寄せ。そして十尾という圧倒的な力によって全てを蹂躙する。
!
うちはマダラよ
!
││
││別天神
﹁己を取り戻せ
!
!?
1147
NARUTO 第三十七話
1148
この作戦の肝は神威の能力の利便性である。オビトの神威は自身を神威空間に送る
事であらゆる攻撃を防ぐだけでなく、人間や物質を神威空間に送る事も出来るのだ。
そして神威空間からは神威でなければ脱出は不可能だ。口寄せの術や飛雷神の術な
どの時空間忍術でも脱出は叶わない。それは逆に言えば、外から神威空間の中に干渉す
る事も出来ないという事だ。
つまりマダラやイズナでも、神威空間に身を隠すシスイに気付く事は出来ないのだ。
それだけではない。神威空間から現実空間へと移動する時、神威空間に入った場所で
はなく別の場所に出現する事も可能なのだ。
飛雷神などの術と比べればタイムラグは大きい。だが、飛雷神と違いマーキングを必
要とせず、敵に干渉されずに別の場所へ自由に移動出来るのは大きな利点だろう。
これによって別天神の奇襲は成功した。後は別天神がイズナの穢土転生の縛りを上
書き出来るかどうか、であった。
││
果たしてその結果は││マダラがある印を組んだ事で判明された。
││解
敵の不利となる行動を取る。それはすなわち││
て行った。
口寄せ解除の印。それによって口寄せされかけていた外道魔像は元の空間へと戻っ
!
﹁マダラ⋮⋮
﹂
!
た。
◆
﹁馬鹿な
別天神だと
﹂
!!
だが、今の木ノ葉を見てその可能性はないと判断してしまったのだ。別天神に開眼し
が別天神を開眼する可能性がある事も考えてはいた。
いや、イズナも自分が持つ万華鏡が自分独自の物とは思ってはいない。いつかは誰か
だ。
自分と同じ別天神の使い手が都合よく現れる等と、イズナには考えられなかったの
に相応しく、使い手によって能力が千差万別なのだ。
そもそも万華鏡写輪眼の使い手は歴史上でも数えられる程。そして万華鏡という名
事であった。
戦場から遠く離れたアジトにてイズナは叫ぶ。これはイズナも完全に予想外の出来
!
初代三忍うちはマダラ。半世紀を超える縛りより、ようやく開放された瞬間であっ
﹁⋮⋮すまんなヒヨリ。手間を掛けさせた﹂
1149
たならば、必ずやうちは至上の里へと変化しているはず。イズナはそう考えていた。
それ程の力が別天神にはあり、傲慢な者が多いうちは一族ならばそうするだろうと考
えていたのだ。
だが、今の木ノ葉はかつてと同じく生温い里のままだ。ならば別天神に開眼した同胞
はいない、そうイズナは判断した。
仕方ない事かもしれない。イズナにとってうちは一族は誇り高く最も素晴らしい忍
の一族だ。里を支配出来る力を得ればそうするだろうという考えが、イズナの思考の隅
にこびりついていたのだ。
だからうちはシスイという人間を見誤った。一族ではなく、里全てに愛を注ぎ、里の
為に生きてきた最高峰の忍を見誤ったのだ。
別天神の力はイズナが良く理解している。あの偉大な兄でさえ、別天神には逆らえな
かった。そこに力の強弱は関係ない、別天神を受ければ必ずその幻術に支配されてしま
うのだ。
つまり、例え穢土転生の縛りがあろうとも、別天神はそれを上書きしてしまう。マダ
ラはイズナの手を離れてしまったのだ。
穢土転生を解除してマダラを開放し、再び穢土転生にてマダラを蘇らせる。そう考え
﹁ならば穢土転生を解除して││いや、駄目か﹂
NARUTO 第三十七話
1150
たイズナだが、すぐにこの案を却下した。
何故ならば、マダラも穢土転生の仕組みを完全に理解しているからだ。穢土転生には
あるデメリットが存在していた。それは穢土転生の印さえ知っていれば、死人側から穢
土転生の口寄せ契約を解除する事が出来る、というデメリットであった。
これだけならばマダラが再び穢土へと戻るのではと取れるかもしれない。だが、実際
には術者の縛りから解き放たれ、死なぬ身体、尽きぬチャクラにて自由に動ける様にな
るのだ。
つまり穢土転生を解除しても何の意味もないという事だ。それどころかデメリット
にしかならない。
未だに穢土転生で蘇った古兵達は忍連合軍と戦っているのだ。穢土転生を解除すれ
ば、他の穢土転生全てが解除される。それは敵にメリットしか与えない愚策だろう。
別段全ての忍が集まっても物の数ではないが、だからといって敵のメリットを増やす
つもりもイズナにはなかった。
﹂
!
!!
!
かつては忍の世で最強と恐れられ、千手一族と覇権を争っていたうちは一族。そのな
イズナはアカネと現代のうちは一族に対して怨嗟の声を上げる。
いか
﹁おのれ日向ヒヨリィィ そして惰弱した同胞どもめ そんなに里の飼い犬でいた
1151
れの果てにイズナは怒りしか覚えなかった。
今の惰弱しきったうちは一族など最早同胞にあらず。イズナは過去の思い出にある
自分にとって都合のいいうちは一族だけを同胞とし、他の全てを切り捨てた。
なお、ヒヨリが一緒になって怒りの対象となっているのは条件反射である。それほど
イズナはヒヨリを憎み恨んでいるのだ。
﹁⋮⋮⋮⋮⋮⋮まあ、いい﹂
しばしの時を費やし、イズナは己の中から怒りを排出する。
兄が奪われたのは憤慨すべき事であり、惰弱な同胞は唾棄すべき存在である。だが、
それだけだ。過程がどれ程変わろうとも結果は変わらない。
そうだ。兄がいなくとも、初代三忍が敵に回ろうとも、忍全てを相手にしようとも、結
﹁そう、オレが直接出ればいいだけだ。予定が繰り上げされた。それだけの事だ﹂
果は変わらない。ならば問題などどこにもない。
﹂
!
狂った様に笑い、イズナが戦場へと出陣する。最強の尾獣である十尾を携えて。
﹁この怒りは奴らの絶望にて収めるとしよう。ふ、ふふふ、はぁーはっはっは
NARUTO 第三十七話
1152
通達させたのだ。
!
上がった。
そしてどう解釈しても答えは一つだと理解し、通達から数瞬後に爆発的な歓声が湧き
その通達を聞いた忍達は、まず沈黙してその言葉の意味を噛み砕こうとする。
││うちはマダラは穢土転生の縛りを破り味方となった
││
オビトの伝言を受け取ったエーは即座に本部へと通達し、マダラの現状を全部隊へと
た。
忍連合軍の疑問は、総大将であるエーにオビトからの伝達が伝わった事で解消され
しかもそこに敵意は感じられない。これは一体どういう事なのか。
あれほど激しい戦いを繰り広げていた二人が、今は何故か静かに向かい合っている。
て終わりを告げたからだ。
忍連合軍が動揺している理由。それは、日向アカネとうちはマダラの戦いが突如とし
でも万を超える人数が動揺しざわめくと、それだけで戦場に響き渡るというものだ。
戦場に、忍連合軍のどよめきが響き渡る。誰一人として大声は出していないが、それ
NARUTO 第三十八話
1153
﹁おおおお
﹂
﹂
﹂
どうやって穢土転生を破ったんだ
﹁あのうちはマダラが味方に
﹁すげー
﹁流石はうちはマダラだ
﹂
﹂
!
!?
!
ていた為にその意思に反して敵対関係にあった。
二人が再会したのは暁による木ノ葉崩しの最中であったが、あの時はイズナに操られ
忍連合軍が沸き立っている中、アカネとマダラは再会の喜びを噛み締めあっていた。
場に立っている。その事実に興奮しない者は殆どいなかった。
そして同等以上の力を持つ日向アカネもいる。初代三忍の内の二人が味方として戦
た敵が、その力のままに味方になったのだ。
とにかく、忍連合軍の士気は大幅に上がった。先ほどまで圧倒的な力を見せ付けてい
び起こす事になるかもしれないのだから。
別天神という力は出来るだけ知られない方がいいのだ。下手すれば新たな混乱を呼
者がそれを広めようとする事はない。
様々な憶測が飛び交うが、真相はうちはシスイの別天神である。だがその真相を知る
!?
!!
!
﹁いや、日向ヒヨリの力じゃないのか
NARUTO 第三十八話
1154
だが今は違う。別天神によって自由を取り戻した事により、アカネとマダラは真の再
会を果たす事が出来たのだ。
﹁マダラ⋮⋮﹂
﹁ヒヨリ⋮⋮﹂
ああ、マダラが帰って来た。終生の友が、平和を目指した同志が、共に高め合った好
敵手が帰って来たのだ。
﹂
アカネは感動のあまりに僅かに涙ぐみ、マダラへと駆け寄っていく。そして勢いのま
﹂
まに抱きつこうとして││
﹁ふん
﹂
マダラに拳骨を落とされた。
﹁あがぁ
!
ま、まさか別天神が効かなかったのか
!?
!?
﹂
聞けば馬鹿馬鹿しく思う程度の物だった。
作戦は失敗だったのか。そう悲観し、臨戦体勢を取るシスイ。だが、真相はシスイが
を加える。
これに驚愕したのはシスイだ。別天神が発動したというのに、マダラがアカネに攻撃
﹁な
!
﹁な、何をするマダラ
!?
1155
﹁や か ま し い
﹂
貴 様
!
・・
木 ノ 葉 外 れ の 森 で アレ を 叫 ん だ 事 を 忘 れ た と は 言 わ さ ん ぞ
!?
気だったのだ。
ま、まさか、聞こえていたのか
?
の攻撃を止められたんだろうが
!
訳を口にする。
﹁だ、だが待ってほしい
あれのおかげで私はイズナの正体に気付けたと思えば、そこ
それを鑑みるに、当然今回も⋮⋮。マダラの怒りを抑えるべく、アカネは慌てて言い
裁が加えられていた。
年単位で時間を置き、たまに弄っていた当時の柱間とヒヨリだったが、当然その度に制
マダラはあの時の出来事をネタにされる事を非常に嫌っている。そうと知りつつも
マダラの言葉を聞き、アカネは冷や汗を流していく。
!
!
﹁で、ですよねぇ﹂
﹂
﹁当然だ 操られている時も意識はうっすらとあったわ だからお前への須佐能乎
﹁え⋮⋮
﹂
敵同士というより、互いに理解し合っている悪友というべきか、とにかくそんな雰囲
妙だった。
シスイはどうも様子がおかしいことに気付く。別天神が失敗したにしては雰囲気が
!!
!
!
NARUTO 第三十八話
1156
まで悪い事ではなかったんじゃなかろうか
﹂
!?
﹂
!!
!!
﹂
﹂
あの時はそれどころじゃなかったから保留にしてやったんだよ
﹁だったら何であの時に怒らなかったんだよ
﹁何で逆切れしてる
﹂
﹂
﹁なら今回も保留にしよう。今は戦争中だからそれどころじゃないし。ね
!?
別段ナルト達との付き合いが嫌だとか、楽しそうでなかったとかそういうのではな
た事がない程に楽しそうなのである。
そしてシスイはアカネの態度の差に気付く。マダラと接する時のアカネは、今まで見
い様である。
シスイは確信した。やっぱりこれ悪友同士の会話だ、と。別天神は失敗した訳ではな
﹁むかつく正論を吐きおって⋮⋮
!
?
!!
!?
ら仕方ないのだ。
だってあの記憶が一番アカネの印象に残っていたのだから仕方ない。仕方ないった
チ⋮⋮アレだったのである。
・・
マダラの叫びは激しく正しい。だが、あの時アカネの脳内に咄嗟に浮かんだのがモロ
る話とか、あるだろうがあぁぁぁぁ
﹁もっと別のやり方があるだろうがぁぁぁぁ イズナが知らずにオレ達だけが知って
1157
く、やはりマダラという存在がアカネにとって特別なのだろう。
﹁まあいい。今回は勘弁してやる。それと⋮⋮すまなかった﹂
マダラは先ほどまでの空気を一変させ、そして心底申し分けなさそうに謝罪した。
そしてアカネもまた真面目な態度に戻り、マダラの謝罪に対して首を横に振る。
﹁お前は悪くない、悪くないんだ。だから、謝る必要なんてない﹂
﹁⋮⋮全ての責任を負う事など傲慢かもしれん。だが、オレがイズナの変化に気付けて
やれれば⋮⋮そう思うとな﹂
え家族でも、完全に理解してやる事なんて出来ないんだ﹂
﹁お前の言う通り、傲慢だよそれは。人はどれだけ強くなろうとも神にはなれない。例
アカネの慰めの言葉はマダラにも理解出来る。
﹁そうか⋮⋮﹂
だがそれでもマダラは納得出来なかった。自分がイズナを止める事が出来ていれば。
そう考えるのを止める事はマダラには出来なかった。
﹂
しかし、先ほどアカネが言った様に今は戦争中だ。後悔を捨てる事は出来ないが、気
持ちを切り替える事は出来る。
?
﹁はっ。シスイと申します。お初にお目に掛かれて光栄ですマダラ様﹂
﹁そこの同胞よ。名は何と言う
NARUTO 第三十八話
1158
気持ちを切り替えたマダラは己の意思を取り戻させてくれたシスイへと意識を向け
る。
そしてシスイは偉大なる先祖とこうして出会えた事に感動し、礼を正して名を告げ
た。
シスイにとってマダラとは尊敬すべき偉大な先祖なのだ。うちは一族の歴史におい
てマダラ以上の存在など記録に残っていない。一族の幼い者は誰もがマダラの伝説を
読み聞かされ、マダラに憧れ、マダラみたいになりたいと一度は夢見るのである。それ
はシスイとて例外ではなかった。
めたつもりはないが、それでもこうして目の当たりにすると感慨深く思うのは、マダラ
それは、自分がしてきた事は無駄ではなかったのだと実感出来たからだ。見返りを求
じてくれている。
シスイの言葉に、マダラは救われた思いになる。現代の同胞がかつての己を誇りに感
﹁そうか⋮⋮﹂
我々にとって英雄だ。それは今でも変わりません﹂
﹁勿体無いお言葉です。ですが、あまり御自分を卑下なさらないでください。あなたは
祖だ。それよりも、此度の尽力に感謝する。よくぞオレの自由を取り戻してくれた﹂
﹁そう畏まる必要はない。失敗し、お前達に多くの問題を残してしまった不甲斐ない先
1159
も人の子だったという事だろう。
﹁ヒヨリ⋮⋮オレ達のしてきた事は⋮⋮﹂
戦乱を収める為に多くを殺した。多くを失った。憎しみを飲み込み、同胞を、家族を
﹁ああ、無駄でも、間違いでもなかったよ﹂
殺した一族と手を組んだ。その全ては⋮⋮無駄ではなかったのだ。
マダラはアカネとシスイと共に忍連合軍の元に移動する。
忍連合軍には他の戦場からもやって来た援軍も辿りついて、誰もが静かにマダラを見
つめる。ナルト達もまた神威空間から現実空間に戻り、同じ様にマダラの行動を見守っ
ていた。
そしてマダラは現代の忍達を前で、ゆっくりと頭を下げた。
﹁言われるまでもない
忍の世の為にも、イズナは必ず倒す
!
﹂
込みがあったようだ。イズナに操られている時の態度も影響しているのだろう。
うちは一族の歴史上最強とまで恐れられた人物だ。もっと傲慢な人間だという思い
カネ以外の誰もが驚愕する。
まさか素直に謝罪されるとは思ってもいなかったのだろう。マダラのこの行動にア
﹁迷惑を掛けた。その上で、恥を承知で頼む。⋮⋮イズナを止めたい。力を貸してくれ﹂
NARUTO 第三十八話
1160
!
﹂
﹁そういう事じゃぜ。あなたこそワシらに手を貸して貰うぜうちはマダラ﹂
﹁ええ。今や忍界は一つになろうとしています﹂
絶対にこの戦争に負ける訳にはいかん
﹁この戦争が終われば、これを機に争いは収まる﹂
﹁ならば
!
﹄
!?
﹁いつの間に
﹂
口寄せされたのか
!? !?
﹁違う
口寄せではない
﹁十尾は前触れなく現れた
﹂
﹂
こいつは││﹂
﹂
﹁グオオオオオオオオオォォォォォ
!!
!
!
!
エーと綱手が驚愕の声を上げる。だが、それはアカネとマダラによって否定された。
!?
﹁ば、馬鹿な
軍の誰もが、それの突然の出現に驚愕していた。
・・
突如として起きた異変に驚愕した。マダラだけではない、アカネも、五影も、忍連合
﹃ッ
マダラは心の中で柱間に語り掛ける。そして再び口を開こうとして││
││柱間よ。ここにオレ達の夢がある。見逃すと損だぞ││
た。かつての夢がここにあると理解したのだ。
五影の意思を聞き、忍連合軍もその意気を高める。それを見てマダラは笑みを浮かべ
!
1161
十尾出現。それは一切の前触れなく起こった。口寄せの術ならば術者の発動なり、召
喚時特有の煙なりと口寄せ特有の前触れがある。
だが十尾にはそれがなかったのだ。一切の感知も出来ず、いきなりこの場に出現した
﹂
のだ。まるで瞬間移動でもしたかのように。
﹂
!
﹂
?
﹁⋮⋮分からん。オレですら今のイズナの力を把握してはいない﹂
﹁マダラ、イズナは飛雷神の術を
尾と共にこの場に瞬時に移動する事も可能だろう。
イズナが飛雷神の術の使い手ならば、マダラを操っている時にマーキングをして、十
ている対象も同時にマーキングした場所へと移動する事が可能だからだ。
そして先ほどの十尾の出現が飛雷神だと想像した理由だが、飛雷神の術は術者が触れ
解出来る。この世で十尾をコントロール出来るのは、イズナくらいなのだから。
十尾の上にはイズナがいた。何やら仮面を被っているが、その正体は顔を見ずとも理
﹁イズナ⋮⋮
それを肯定する様に、アカネは十尾の上に立つ存在を指差した。
瞬間移動に匹敵する時空間忍術の存在に思い至り、もしやとマダラは考える。
!
﹂
﹁まさか飛雷神の術か
?
十尾の上を見ろ
﹁可能性は⋮⋮あるな
!
NARUTO 第三十八話
1162
イズナが飛雷神の術を会得していたかどうかをアカネが確認するも、それは、マダラ
ですら知り得ぬ情報であった。
そして突然の出来事に動揺する忍達に向けて、イズナはその口を開いた。
ど う か こ ん な 愚 か な 行 為 は 止 め て ほ し い。マ ダ ラ の 想 い が 籠 め ら れ た そ の 言 葉 は
い、協力して平和を実現させる事が出来るのだと。もう、こんな事は終わりにするんだ﹂
﹁なら分かったはずだイズナ。人は分かり合える。時間は掛かるがいつかは手を取り合
イズナの言葉を聞いたマダラは、一縷の望みにかけてイズナに語り掛ける。
それをイズナは素直に驚き、そして称賛したのである。
で手を組み、助け合って困難を乗り越えここまで来たのだ。
しかしそれは間違っていた。忍達は国や里の垣根を越え、かつては殺し合った者同士
だ。
合軍と言っても、所詮は形だけであり、連携や信頼などない烏合の集だと思っていたの
だが、忍の世が一つに纏まろうとしているのはイズナの予想外な出来事だった。忍連
でも可能なのはイズナが良く知っている。
それは嘘偽りない称賛の言葉だ。単にここまで勝ち抜くだけならば、日向ヒヨリ一人
驚いたぞ﹂
﹁まずは称賛しよう。まさか五大国の忍がここまで協力する事が出来るとは、な。正直
1163
一年か
﹂
?
⋮⋮イズナには届かなかった。
それとも百年経っても千年経っても協力していられるのか
﹁無理だよ兄さん。確かに今は協力している。だが、それはいつまで続く
十年か
?
?
このオレが作る
千手柱間にも
永遠の平和を 誰も傷つかず
オレが平和を作り出す 兄さんにも
!
などない。それをマダラは理解していた。
だから
日向ヒヨリにも無理ならば
﹁無理だろう
!
﹂
!
!
誰もが幸せになれる世界を
!
!
!
?
誰も騙されず
!
!
忘れてしまえば再び起こりうる。それが争いであり、その果てが戦争だ。永遠の平和
かつての戦争で受けた痛みを⋮⋮。
そうなれば、人は忘れる。個としての人ではなく、種としての人が忘れてしまうのだ。
年ならばいい。だが、百年もすればこの戦争も記憶ではなく記録になってしまう。
イズナの問いにマダラは答えられなかった。人間とは忘れる生き物だ。十年や二十
?
!
い信念が。
﹂
オレに協力しろ
これに従わないならば⋮⋮邪魔者全てを消して無限月読を実行するまでよ
!
イズナの平和を実現したいという想いは嘘ではない。誰もが幸せになれる世界。こ
!!
!
そこには確固たる信念が存在していた。歪んでいるが、それでも他人では曲げられな
!
﹁最後通告だ 貴様らにも平和を享受する事は許されている
NARUTO 第三十八話
1164
の誰もがには、敵対する忍も含まれていた。
邪魔する者には容赦はしないし、平和実現の為に利用出来る物は利用する。だが、そ
れでも多くの者に平和をもたらそうという考えは持ち続けていた。
イズナの覚悟と信念、そして振るわれずとも理解出来る圧倒的な力に忍連合軍が気圧
される。
その中にあって、この場で誰よりも若い三人の忍が、イズナに真っ向から立ち向かっ
た。
﹁ふざけんじゃねぇ 未来の事なんざ分からなくて当たり前だろうが それでも皆
1165
﹂
で頑張って、少しずつ前に進んでんだろう
じゃねー
!
それをテメー一人の勝手で邪魔してん
!
!
偽りの平和に逃げたのよ
まるで子どもね
﹂
!
!
対抗していた。
多くの大人が気圧される中、自らの信念を曲げずにナルト達は全力でイズナの気迫に
ナルト、サスケ、そして二人に合流したサクラがイズナの語る理想を否定する。
!
﹁あなたがしようとしている事は逃避よ 辛く困難な平和への道から逃げて、安易な
け妄想の中に引き篭もってろ。オレ達を巻き込むな負け犬が﹂
﹁お前一人が作る未来が平和である保証がどこにある。そんなに未来が怖ければ自分だ
!!
﹁ふ、ふふ。見たかマダラ﹂
﹁ああ⋮⋮あの少年達を見ると思い出すな、昔のオレ達を﹂
アカネ達の瞳には、ナルト達がまるで過去の自分達の様に映っていた。
何者にも曲げられない信念を持ち、未来を信じて前を見続けている。そんなナルト達
を見て思う事は一つだ。
﹁二代目三忍はいるのだし、三代目とでも言うべきかな﹂
﹁なら、先輩として後輩に負ける訳にはいかないな﹂
三代目三忍という称号に相応しいまでの成長を見せるナルト達を見て、アカネとマダ
ラも前に立ち、イズナと敵対する意思を見せる。
それだけではない。五影や他の忍達もまた、若い忍が覚悟を見せている中で尻込みす
る事を恥じ、誰もが戦意を高めてイズナを睨み付けたのだ。
﹂
止めてみせようちはマダラよ
そして忍達よ
十尾
!
の時止められなかったオレの罪を、ここで雪ぐ﹂
の力に絶望せよ
﹁⋮⋮分かったよ。ならば
!
イズナの叫びと共に、イズナの体からは柱間細胞の管が生え、十尾へと繋がっていく。
!!
!
﹁ああ、今のお前は間違っている。だから、それを止めるのが兄であるオレの役目だ。あ
﹁⋮⋮兄さんもオレの邪魔をするのか﹂
NARUTO 第三十八話
1166
これにより十尾をよりコントロールし易くしているのだ。
そして十尾がその姿を変化させていく。今の十尾はまだ不完全なのだ。それでもな
お、十尾の力は凄まじかった。
十尾の口に巨大な尾獣玉が作られていく。その威力は並の尾獣が放つ物とは比べ物
にならないだろう。眼下に放てば、それだけで忍連合軍が壊滅する事は必至。
だが、それを見るアカネやマダラ、そしてナルトに焦りはなかった。
アカネとマダラは躱す必要がないと確信し、ナルトもまた暖かなチャクラを感じて不
安に思わなかったのだ。
半径数百kmは消し飛んだだろうか。その恐るべき威力に忍達は恐れを抱く。だが、
誰も存在しない荒野に着弾した。
それによって十尾はバランスを崩し、尾獣玉は天高く飛んでいく。そして遥か彼方、
れた。
そして、十尾が尾獣玉を放つよりも僅かに早く、十尾の足元に巨大な樹海が生み出さ
││木遁秘術・樹界降誕││
ぐ為の用意をどうにか整え、そして││
アカネの言葉と同時に、十尾が巨大な尾獣玉を発射しようとし、忍連合軍はそれを防
﹁イズナよ。三忍の力を舐めるなよ﹂
1167
それでも防ぐ事は出来た。ならば対抗する事は不可能ではない。
そう思い至り、そして木遁を使用したマダラへと感謝する。だが、木遁を使用したの
はマダラではなかった。マダラは両腕を組んで見守っていただけで、何もしてはいな
かったのだ。
だが、それもまた違っていた。
ならば、誰が木遁を放ったのか。木遁を使用出来るのはマダラ以外ではヤマトのみ。
ならばヤマトなのか
﹄
﹂
答えは、木遁の最初にして最強の使い手。木ノ葉の誇る初代火影にして初代三忍││
?
﹁遅れてすまぬな二人とも
!
!!
最低限の守りはあるが、それでも平時と比べると圧倒的に守りが薄くなっているだろ
出払い、残っているのは僅かな強者と多くの下忍達であった。
第四次忍界大戦に多くの忍が参加している中、当然木ノ葉隠れの里も中忍以上の忍は
◆
なぜ柱間がここにいるのか。それを語るにはしばし時を遡らなければならない。
そう、千手柱間その人である。
﹃遅いぞ柱間
NARUTO 第三十八話
1168
う。そのせいもあって、里の警備はより一層の警戒心を持って固められていた。少ない
人数ならば、それを覆す様に警戒に当たっているのだ。
だが、それは外からの襲撃に対してだ。里の内部にはそこまでの手が加えられていな
かった。人が少ないから仕方のない事だろう。だが、そうして内部の警戒が薄れるのを
待っていた者が、里の内側に存在していたのである。
周囲に誰もいない事を気配で確認し、その人物は慎重に瞳を開ける。
そして全身に絡み付いていたチューブなどの医療器具を外し、おもむろに立ち上がっ
た。
﹁いえ⋮⋮木ノ葉はそういう甘ちゃんだらけだったわね﹂
た自覚が大蛇丸にはあった。むしろ今こうして生かされているのが不思議なくらいだ。
されるか、殺されるか、少なくとも何かしらの処置はあるだろう。それだけの罪を犯し
だが、大蛇丸はすぐには動かなかった。目覚めた事が木ノ葉にばれれば、永遠に幽閉
放されたのである。
大蛇丸はイザナミによって永劫終わらぬ幻術に苛まれていたが、数日前にようやく解
よって幻術に捕らわれていたはずの大蛇丸であった。
里の内部にて自身への警戒が薄れるのを待ち望んでいたのは、イタチのイザナミに
﹁やはり、里の警戒が外に向いているわね。予想通り戦争が起こったようね﹂
1169
かつての同胞や師を思い出し、大蛇丸は憎しみではなく懐かしそうな笑みを浮かべ
る。
そしてすぐに行動を開始しようとする。あまり時間に猶予はないからだ。
﹂
﹁戦争が始まっているとしたら⋮⋮急いだ方がいいわね﹂
﹂
﹁どこに急ぐのですか
﹁
?
﹁おはようございます大蛇丸。良く眠れたようですね。いい夢は見られましたか
﹂
?
分が気配を見逃しても仕方がないと、大蛇丸も自分を慰めた。
﹂
日向ヒヨリ。いや、日向アカネ。それが大蛇丸に声を掛けた人物だ。アカネならば自
栄ですよ。⋮⋮いつからお気づきで
﹁⋮⋮これはこれはヒヨリ様。わざわざ私の目覚めに合わせて挨拶に来て頂けるとは光
?
そう動揺するが、声の主の正体をしって納得がいった。
一人独白する大蛇丸。だが、その独白を聞いていた者がいた。気配はなかったはず。
!?
大蛇丸もまさか最初から気付かれていたとは思いもしなかったようだ。大蛇丸がイ
﹁⋮⋮それはまた、随分と過大評価をされたようで恐縮ですねぇ﹂
ですので﹂
﹁いつから、ですか。あなたが目覚めてからですよ。私はあなたの見張り専用の影分身
NARUTO 第三十八話
1170
ザナミから抜け出し、意識が目覚めた時の気配の変化、それにすらアカネは気付いたの
だ。
﹂
大蛇丸はその事実に冷や汗を流し、そして目論見が崩れた事を内心で悲観する。そん
な大蛇丸にアカネは問い掛けた。
﹁さて、何をする為に急いでいたのですか
﹁⋮⋮﹂
﹁どちらの陣営として
﹂
﹁もちろん、木ノ葉の忍として﹂
﹁木ノ葉を裏切ったあなたが、何故
﹂
﹁うちはイタチに借りを返す為﹂
﹁借りとは
?
?
﹁かつての私の願いを⋮⋮思い出させてくれたからよ﹂
?
﹂
﹁戦争に参加しようと思いましてね﹂
だ。
しばしの無言が続き、そして大蛇丸は賭けに出た。正直に全てを話すという賭けに
す。
アカネは真っ直ぐに大蛇丸の目を見ながら話し、大蛇丸もまたアカネの目を見つめ返
?
1171
アカネの問いに、大蛇丸は流れる様に答えていく。その答えは大蛇丸を知る者ならば
到底信じられないものだ。
己の実験の為に木ノ葉にて多くの忍を材料とし、数多の人間の未来を歪め、師も同胞
も裏切った最悪の忍。それが大蛇丸だ。そんな者が今更何を言おうと信じられるはず
もないだろう。
﹂
アカネは大蛇丸の答えを聞いても何の反応もせず、そして更に問いを続けた。
﹁かつてのあなたの願いとは
?
それはヒルゼンなりの気遣いの言葉だった。両親を失って落ち込む大蛇丸を慰めた
為なのではないか。ヒルゼンは大蛇丸にそう言ったのだ。
両親の墓で白蛇の皮を見つけたのも、両親が生まれ変わり、いつかまた大蛇丸に会う
生の象徴だと教わった。
た皮だ。大蛇丸は一緒に両親の墓参りをしていた師であるヒルゼンに、白蛇は幸運と再
そして両親の墓の前にて、大蛇丸はある物を見つけてしまった。それは白蛇の脱皮し
した。それほどに、大蛇丸は両親を愛していたのだ。
大蛇丸が幼い頃に両親は亡くしてしまった。それは大蛇丸の心に大きな傷を作り出
それが、大蛇丸の最初の願い。そして、大蛇丸を歪めてしまった願いでもあった。
﹁⋮⋮死んでしまった父と母。両親にもう一度会いたかったのよ﹂
NARUTO 第三十八話
1172
1173
かったのだ。だが、それは呪いの言葉になってしまった。
大蛇丸は生まれ変わった両親に再会する事を夢見る様になった。それはいつしか、永
遠の命を手に入れる事に変わっていった。
両親が生まれ変わるのはいつなのか。それはヒルゼンにも分からないと答えられた。
つまり、十年先か百年先かも分からないという事だ。
ならば、例え何百年経っても生き続けていなければ両親との再会は叶わない。その為
には研究をしなければならない。その為には多くの術理を知らなければならない。そ
の為には世の真理を解き明かさねばならない。その為には不死にならなければならな
い。不死になる為には更なる研究を。研究、研究、研究。
そうして多くの研究と人体実験を繰り返し、戦争にて多くの死を間近で見て行く内
に、大蛇丸は歪んでいった。そしていつしか、幼い頃の純粋な願いは歪み、この世の真
理を解き明かすという目的の為の手段が、目的へとすり替わってしまったのだ。
だが、イザナミによってその歪みに気付けたのだ。かつての願いを思い出した大蛇丸
は、まるで悪い夢から覚めたかの様に晴れ晴れとした気分になった。
当然目的の為に手段を選ばないその精神は変わってはいない。だが、それでも本当の
目的を思い出した大蛇丸に、木ノ葉やヒルゼンに対する恨みは消えてなくなっていた。
大蛇丸の言葉に嘘はなく、その瞳は澄んで恨みや憎しみは無くなっている。アカネは
そう判断した。
﹁分かりました。では、ここから出てもいいですよ﹂
﹁解
はい、これで問題ないでしょう﹂
だが、その術者はアカネであり、その解除も容易であった。
様にする為の結界である。
﹂
そう、大蛇丸の周囲には非常に強固な結界が張られていた。当然大蛇丸を逃がさない
﹁⋮⋮感謝するわ。と言っても、結構な強度の結界が張られているんだけど
?
た。もちろん、大蛇丸が味方になる確信があっての話だが。
それを考えるならば、大蛇丸をこんな場所で遊ばせておくつもりはアカネにはなかっ
忍の命が助かるか。
大蛇丸ほどの実力者となれば、戦争でどれだけ貢献出来るか。その貢献でどれだけの
戦力が必要ですからね﹂
﹁ええ、先ほどの言葉に嘘はないと思っていますから。それに、戦争には少しでも多くの
﹁私が言うのもなんだけど⋮⋮えらく簡単に私を外に出すわね﹂
!
﹁ええ、当然ね。それじゃあ早速行きましょう。まずは戦力を集めなければね﹂
信用を失い過ぎていますので﹂
﹁ですが、一応私も付いて行きますよ。少なくとも里の中で自由にさせるには、あなたは
NARUTO 第三十八話
1174
﹁戦力
﹂
?
﹁屍鬼封尽だと
戦争には、ね﹂
﹂
何を考えている大蛇丸
﹂
?
て永遠に苦しみ続けるのだ。
屍鬼封尽にて呼び出された死神の腹の中に、術者と封印の対象が永劫封印され、そし
が、九尾すら封印するその術の代償は、術者の命であった。
かつてはその術にて四代目火影であるミナトが九尾を封印し、里を救ったという。だ
だ。
屍鬼封尽。それはアカネも名前と効力しか知らぬうずまき一族に伝わる封印の秘術
?
必要な道具ですよ﹂
﹁これは死神の面。屍鬼封尽によって死神の腹の中に封じられた者の魂を開放する為に
﹁これがどうかしたんですか
﹁これね﹂
面があり、大蛇丸はその中から一つを選び取った。
そこは木ノ葉の外れにあるうずまき一族の納面堂だ。そこには無数の死神を模した
そう言って大蛇丸は笑みを深め、アカネと共にある場所へと赴いた。
﹁そうよ。必要なんでしょう
?
?
1175
﹁まあ、少し離れてご覧になっててください。⋮⋮
グアアウウッ
﹂
!!
﹁これは⋮⋮﹂
そうして口寄せされたのは、なんと三体の白ゼツであった。
用する。
面を外し、そして腹から流れる血と、身体に刻んである術式を利用して口寄せの術を使
裂かれた死神の腹の中から一つの魂が解放される。これで死神に用はない、大蛇丸は
来る。死神と憑依した者には、死神と同じ傷を受けてしまう様だ。
そしてそのまま死神を操作し、死神の腹を裂いた。同時に大蛇丸の腹にも同じ傷が出
そう言って大蛇丸は死神の面を被り、そして己に死神を憑依させる。
!!
トック。それは大蛇丸の不屍転生の材料として最適なのであった。
生きてはいるが、意識はない。培養液に漬け続ければ生かしておく事が可能な命のス
に、培養して増やしたのである。
白ゼツの細胞を手に入れたのはいいが、研究する為には少ない細胞では足らない為
る。
そう、これは大蛇丸が柱間細胞を研究している為に生み出した白ゼツのクローンであ
わ。生きているけどね﹂
﹁安心してください⋮⋮これは私が白ゼツを培養して作ったクローンよ⋮⋮意識はない
NARUTO 第三十八話
1176
﹁クローンとはいえ命は命。それを⋮⋮﹂
私は寿命をこれ以上減らすつもりはありませんので﹂
?
││穢土転生の術
││
大蛇丸が蘇らせたのは二人の人物だ。その人物とは││
﹂
!?
私たちは死んだはずなのに⋮⋮どういう事なの
?
!
﹁こ、ここは⋮⋮クシナ
?
││
!
そうして現れたのは二つの棺。厳重な封印が施された棺だが、その封印は大蛇丸に
││口寄せの術
所に、大蛇丸は更に口寄せの術を行った。
四代目火影ミナトとその妻クシナであった。現状をまだ把握出来ていない二人を他
﹁ミナト
﹂
そう言って再生忍術に掛かる事を拒否しつつ、大蛇丸は穢土転生の術を使用する。
﹁それって再生忍術でしょう
﹁そのくらいの傷なら私が治せましたのに﹂
する。
そう言って大蛇丸は不屍転生にてクローン白ゼツに乗り移り、その身体を自らの物と
そろ意識が限界なのでこの白ゼツを使わせて貰いますよ﹂
在ですしねぇ。今更倫理を問うてもどこから問えばいいのやら⋮⋮。それよりも、そろ
﹁確かにそうかもしれませんが、そもそも白ゼツ自体が千手柱間の細胞から作られた存
1177
よって解除され、中から二人の人物が現れる。
棺にはそれぞれある文字が書かれていた。一つは〝初〟、もう一つは〝二〟。この二
扉間⋮⋮
﹂
つはかつて大蛇丸がヒルゼンを狙った時の物と同じであった。
﹁柱間⋮⋮
!
おお
﹂
﹂
は出来ない。その法則を利用したのである。
他の術者が穢土転生にて蘇らせた存在を、別の術者が穢土転生にて同時に蘇らせる事
続けていたのだ。
ろう。そう判断した大蛇丸は、敵が柱間と扉間を利用出来ないように穢土転生にて縛り
うちはマダラすら利用出来るならば、初代火影や二代目火影すら利用する事も可能だ
る存在がいる。
ある事に大蛇丸は薄々だが勘付いていたのだ。ならば、マダラの裏にはマダラを利用す
その理由は、マダラの裏にいるだろう何者かへの対抗策の為だ。マダラが穢土転生で
ず、現世に留まらせ続け、その上で封印する。
大蛇丸はこの二人の穢土転生を厳重に封印し、隠していた。決して穢土転生を解術せ
そう、初代火影千手柱間と、その弟にして二代目火影千手扉間である。
!
﹁⋮⋮ここは
ん
?
?
!
﹁また大蛇丸とかいう忍か⋮⋮
!
NARUTO 第三十八話
1178
意識を取り戻した柱間と扉間。現状の確認に一瞬の戸惑いを感じるが、すぐにアカネ
﹂
︵ヒヨリ︶の存在に気付いたようだ。
﹁久しぶりだな二人とも
アカネは久しぶりの旧友との再会に喜びの声を上げる。
!
前回は迷惑を掛けたのヒヨリよ オレにとってはほんの少し前だが、お前
そして柱間もアカネと同じく友との再会を喜んだ。
﹁おお
!
ヒヨリよ、これはどういう状況だ
何故お前は
!
!
﹁ま、まあまあ落ち着いてください二代目様﹂
らすのがかつての木ノ葉の日常だったのである。
馬鹿三忍││誤字にあらず││が何かをやらかした時には、こうして扉間が怒鳴り散
凄まじい剣幕での怒鳴りにアカネも柱間もやや腰を引いている。
!
全てを説明
!
﹂
!
してもらうぞ
今の世に新たな肉体で生きておる 大蛇丸とやらと共にいる理由は
﹁何を悠長に笑っている二人とも
と、互いに笑い合う二人。そんな二人に対して、不機嫌そうに叫ぶ者がいた。
﹁そうかそうか﹂
﹁ああ。あれから三年は経ったな﹂
の姿を見る限りそれなりの時間が経っているようだのぅ﹂
!
1179
﹁む
なんだ貴様は
﹂
?
﹁ほお
四代目とな
うむうむ、里も長く安定しておるようだな
!
﹂
?
そんな孫が無事に里を運営出来ているか不安だったのだ。
賭け事まで覚えてしまう始末だ。
﹂
初孫だった綱手を柱間は大層可愛がり、甘やかし続けていた。果てには柱間の好きな
﹁綱か⋮⋮今、里は大丈夫ぞ
アカネの言葉で素直に落ち込んだ。
自分が死した後も里が潰える事なく続いている事に柱間は素直に喜びを表し、そして
!
の誰もが知っているので必要ないのだ。
初対面であるミナトとクシナが自己紹介をする。柱間と扉間は紹介せずともこの場
﹁私はその妻のクシナです。よろしくお願いします初代様、二代目様﹂
﹁オレは四代目火影のミナトと言います﹂
?
﹁今は綱が五代目をしていますよ﹂
!
それなら良かったぞ
﹂
!
﹁無駄話をせずさっさと説明せんかぁぁぁ
﹂
そう言ってアカネと柱間は互いに笑い合い、そして扉間の怒りが再び落ちた。
﹁そうか
!
﹁安心してください。きちんと火影をしていますよ﹂
NARUTO 第三十八話
1180
!!
﹃すいませんでした
ている事を。
﹄
自身が転生した事、大蛇丸が改心した事、そして、イズナによって忍界に危機が訪れ
扉間の怒りを収める為にもアカネは迅速に状況を説明する。
!
それを見たミナトは大蛇丸の変化に驚いた。四代目火影の座に固執し、自分が選ばれ
大蛇丸は自身の術である穢土転生の存在に対して、命令ではなく頼み込む。
貸してもらえませんか初代様、二代目様﹂
﹁うちはイズナが引き起こした戦争に勝たなければこの世の未来はなくなります。力を
それ以上にマダラの真実を知れた事が柱間には嬉しかった。
イズナがしてきた事は到底許される事ではなく、柱間にも怒りは湧いている。だが、
を思ってくれているのだ。
だが違った。マダラは自分達を裏切ってはいなかったのだ。今でも友として自分達
心をどれほど痛めた事か。
かつて、柱間はマダラと死闘を繰り広げた。最大の友との望まぬ死闘。それが柱間の
全てを知った柱間は納得したように呟く。
﹁柱間⋮⋮﹂
﹁⋮⋮そうか。イズナだったのか﹂
1181
なかった事に恨み骨髄だった大蛇丸が、こうも変わるとは想像も出来なかった様だ。
﹁⋮⋮ワシらの縛りを無くしておる様だな﹂
ど一瞬にして殺せるでしょうね﹂
﹁はい。その力も出来る限り生前に近づけています。あなた達がやろうと思えば、私な
そう、大蛇丸は柱間達を縛ってはいなかった。今の柱間達は己の意思で自由に行動す
る事が可能であり、大蛇丸を殺して完全な自由を手に入れる事も可能なのだ。
﹁なるほどな⋮⋮﹂
扉間は大蛇丸を見つめ、そして柱間とアカネに目をやり、二人が頷いたのを確認して
ため息を吐く。
い﹂
﹁相変わらずお人好しが過ぎる⋮⋮。まあよい。戦争を止める事はワシも不本意ではな
﹂
﹁そ う い う 事 だ 大 蛇 丸 と や ら 安 心 す る が 良 い。オ レ も 全 力 で イ ズ ナ を 止 め よ う ぞ
NARUTO 第三十八話
!
﹂
!
全員の答えは一致していた。ならば、後はやる事は一つ。
﹁母の強さをイズナって馬鹿野郎に教えてやるってばね
﹁ナルトが頑張っているんだ。父親として手伝ってあげなきゃね﹂
!
﹁柱間。私と、そしてきっとマダラも待っています⋮⋮早く来ないと私達が全部終わら
1182
せちゃいますよ﹂
そう言って、影分身であったアカネは柱間達に後を任せて消滅する。
この時、戦場にいるアカネの本体はこの情報が伝わり、戦場から確認出来た柱間の
チャクラに納得し、敵としての復活でなかった事に安堵し喜んでいた。
アカネの言葉を理解した柱間は、友と再び力を合わせる事が出来る事に笑みを浮か
行くぞ
﹂
べ、自らの顔岩の上で守るべき里を眺めつつ、気合を入れて叫ぶ。
﹄
﹁いつの世も戦いよ⋮⋮だが、戦争もこれで最後ぞ
﹃はっ
!!
こうして、柱間率いる最強の援軍が、戦争に参戦したのであった。
!
!
1183
NARUTO 第三十九話
千手柱間。言わずと知れた初代火影であり、初代三忍の内の一人。そんな伝説の人物
が突如として戦場に現れた。
そして、この衝撃的な事実に忍連合軍が気付く前に、次々と新たな援軍がやって来る。
﹁兄者め。慣れ親しい友と再び共闘出来るからと逸り過ぎだろう﹂
優れた瞬身の術の使い手である扉間が到着。次にクシナを抱えたミナトと、そして大
蛇丸も戦場に到着する。
﹂
クシナという人一人を抱えてこの速度。瞬身使いとしては自身以上かと、扉間はミナ
トを称賛する。
﹂
﹁私達が来たからにはもう大丈夫だってばね
﹁父ちゃん、母ちゃん
ミナト達も最愛の息子とこうして現実世界で対面出来た事を喜ぶ。しかし今は戦争
も実際に再会した時の喜びは想像以上だった。
ナルトは九尾モードのチャクラ感知にて二人の存在には気付いていた。だが、それで
!
!
﹁遅れたかな、ナルト﹂
NARUTO 第三十九話
1184
中、それも最終局面だ。感動の再会に浸るのは後にして、今は前方にいる恐るべき敵に
集中すべきだと気持ちを切り替える。
﹂
別の場所では援軍に現れた大蛇丸に、自来也と綱手が驚愕していた。
﹂
いつイザナミから抜け出したのだ
﹁大蛇丸
﹁お前
!
分かと自嘲する。
?
それ以上、大蛇丸は何も言わなかった。ほんの僅かな間が空き、そして自来也は不敵
﹁それはあなた達が決めなさい﹂
﹁⋮⋮信じていいんだな﹂
そして大蛇丸の目を見て確認する。
確かに、今は大蛇丸の事情や真意を問いただしている暇はない。自来也はそう考え、
分の攻撃が意味を成さなかった事に怒り狂っているかの様だ。
そう言って大蛇丸は前方を指差す。そこには猛り叫ぶ十尾の姿があった。まるで自
﹁久しぶりねぇ二人とも。まあ、今はそんな事よりもあっちを優先すべきじゃない
﹂
そんな旧友に対し、大蛇丸は相変わらずな二人だと思い、そして変わりすぎたのは自
まさかの大蛇丸の登場に、綱手と自来也は目を見開いた。
!
!
1185
に笑う。
﹁鈍っておらんだろうな
遅れたら置いていくぞ
﹂
!
﹄
も見ている事だし、三忍の面汚しにはならないでよ
﹂
﹁私達の中で一番みそっかすだったあなたにそんな事を言われるなんてねぇ。初代様達
!
?
﹂
一方、柱間は懐かしき友との再会を喜び楽しく会話を繰り広げていた。
二代目三忍と称された時の空気を。
そして三人は共に僅かな笑みを浮かべ、一瞬にしてかつての空気を取り戻す。そう、
みである。
自来也と綱手の息のあった熟年突っ込みであった。だが、残念でもなく当然の突っ込
﹃お前が言うなお前が
!
オレはお前を信じていたぞマダラ
!
!
ガハハハハ
﹂
﹁めいわっ⋮⋮いてーだろうが
﹁ぐはっ
!
!
いつまでも叩いてんじゃねぇこの馬鹿が
!
﹂
いないという事実と、マダラと友として再会出来た事が嬉しかったのだろう。
嬉しそうに笑い、ばしばしとマダラの肩を叩き続ける柱間。よほどマダラが裏切って
﹁いたっ、⋮⋮すまんな柱間。迷惑をっいっ、迷惑っ││﹂
﹁ガハハハハハ
NARUTO 第三十九話
1186
!
かつて友に掛けてしまった多大な失態について謝罪しようとするマダラだが、柱間が
肩を叩く力があまりに強かった為に、思わず反撃をしてしまった。
だがそれでも柱間はめげずに大声で笑い続ける。そこにはただ嬉しいだけでなく、マ
ダラに対して気にするな、という思いが籠められていた。
それはマダラも気付いていた。だからこそ、マダラは柱間の想いを汲んで、いつも通
りに柱間と接する事にした。
おぬしならばとっとと終わらせかねなかったからな、出来るだけ急い
!
⋮⋮それにしても﹂
!
﹄
!
!
果でもある。
まあ、穢土転生なので何の問題もないのだが。ついでに言うと哀れでもなく当然の結
参戦直後に再起不能のダメージを受けた。
完全なるセクハラ発言に、アカネとマダラのツープラトンが炸裂する。哀れ、柱間は
﹃ふん
では││﹂
﹁あらためて見るとなんとまあ、ピチピチに戻ったものよ 以前よりも胸は大きいの
柱間はアカネの身体をじろじろと眺め回す。そして一言。
だぞ
﹁おう、ヒヨリ
﹁何やってんですか二人とも⋮⋮。まあ、間に合った様で何よりですよ柱間﹂
1187
﹂
そんな風に旧友達がその親交を深めたり、親子が真の再会を喜んでいる中、イズナが
だからどうした
その口を開いた。
﹁で
?
﹁初代三忍が揃った所で、それで勝てると思っているのか
﹂
そんなイズナに対し、アカネもまた自信をもって返した。
片もないという、圧倒的なまでの自信だ。
その言葉にあるのは純然なる自信。例え初代三忍が全員揃った所で負ける要素は欠
?
その言葉の意味は││イズナがそのまま口にした。
イズナのその言葉の意味を理解出来た者は少ない。それは初代三忍達だけであった。
意識はちゃんとイズナと十尾に向けていたのだが。
イズナの言葉に誰もが視線をそちらに向ける。もっとも、再会を喜んでいた者達も、
?
だ。
イズナの言葉を遮ったのはマダラだ。その言葉に、一つ間違いがある事を指摘したの
﹁違うな﹂
﹁お前達三人の強さは良く知って││﹂
﹁先ほども言ったが⋮⋮あまり三忍を舐めない方がいいぞイズナ﹂
NARUTO 第三十九話
1188
その間違いとは││
﹄
ダンゾウ
!
間が動き出した。
﹁猿
﹃はっ
!
扉間がそう叫ぶと、ヒルゼンとダンゾウは一瞬にして扉間の前に移動し跪いていた。
!
﹂
最早言葉は無意味。ならば力で以って示すのみ。イズナがその判断に至った瞬間、扉
に止まる術もなければ、そのつもりもないのだから。
それでもイズナは揺るがない。例え敵の戦力がどれほど増大しようとも、最早イズナ
や四代目火影にその妻までいる。
イズナは思う。なるほど。確かに戦力は増した。三忍が全て揃い、その上二代目火影
ここに、三代に渡る全ての三忍が揃った。
春野サクラ。
そして、初代に三代目として認められた新たな三忍、うずまきナルト・うちはサスケ・
二代目三忍、自来也・大蛇丸・綱手。
初代三忍、千手柱間・うちはマダラ・日向ヒヨリ。
﹁イズナよ。三忍の称号は⋮⋮既にオレ達だけのものではない﹂
1189
﹄
﹁四赤陽陣をする
﹃ははぁ
手伝え
!
﹂
!
と共に前に立つ。
それに応えずして何が忍か。ダンゾウは何の反論や疑問も抱かずに、扉間やヒルゼン
わないからだ。つまり、自分ならば火影と変わらぬ働きをすると信じられているのだ。
それにダンゾウは応えた。出来るか、等とは扉間は言わない。出来る事しか扉間は言
す。
その理由を扉間はダンゾウに説明せず、ただ一言、四赤陽陣をする、と命令だけを下
して最後の一人にダンゾウを選んだ。
兄が一度言い出したら聞かない事を理解している扉間は、仕方なくそれを承諾し、そ
カネ達と暴れたいと我侭を言ったからである。
柱間が選ばれていない理由は、柱間がこの戦場に到着するまでに、自分も思う存分ア
ある扉間と、そしてミナトである。
その術の使い手として、扉間はヒルゼンとダンゾウを選んだ。残る二人は当然火影で
その強さはかつてヒルゼンを閉じ込めた四紫炎陣の数十倍も強いという。
四赤陽陣。それは火影級の忍が四人で協力して初めて出来るという、強力な結界だ。
!
﹁二代目、三代目、ダンゾウ様、私の前へ﹂
NARUTO 第三十九話
1190
1191
四赤陽陣の為の前準備は既にミナトが終わらせていた。四人で対象の四方を囲む必
要があるのだが、ミナトの飛雷神の術があればそれも容易い事だった。
ミナトは飛雷神のマーキングがついた特別製の苦無を十尾の後方と左右に投げてい
たのだ。その早業に扉間も火影の名は伊達ではないかと笑みを浮かべる。
そしてミナト自身も全力で戦う為にその力を発揮する。その力とは、ナルトと同じく
九尾チャクラモードであった。
ナルトの中に封印されている九喇嘛は陽のチャクラの塊であり、残る陰のチャクラは
ミナトの中に封印されていた。
ミナトはその陰の九尾チャクラをコントロールし、九尾チャクラモードへと至ったの
だ。恐るべきはそのセンスだろう。ナルトが苦労した九尾のコントロールを、ここまで
完璧にこなしているのだから。
⋮⋮もしかしたらだが、死神の腹の中で延々と陰の九尾と共に苦しんでいた事によ
り、陰の九尾と何らかの友情みたいなものが芽生えたのかもしれない。
ともかく、九尾チャクラモードになったミナトは、扉間達三人をそれぞれの配置へと
飛雷神の術にて飛ばす。
ちなみにミナトの配置は真正面であった。これはミナトが勝手に選んだ配置だ。理
由は、最愛の妻から離れたくないというものと、最愛の息子の活躍を正面から見たい、と
﹂
││
いう二つの個人的理由からである。
﹁行くぞ
││忍法・四赤陽陣
﹁もういっちょ
喰らうってばね
﹂
!!
これで十尾の動きは封じたわ⋮⋮
じるくらいならば可能であった。
でも長くは持たないわよ
﹂
﹂
!
結界は砕かれる事はなくその威力に耐え、そして尾獣玉の爆発は開いている上空に向け
放たれた尾獣玉が四赤陽陣にぶつかる。その威力に四赤陽陣は大きく歪み膨らむが、
陣は結界術の最高峰であった。
巨大な尾獣玉が十尾の口から放たれる。その破壊力は先に見た通りだ。だが、四赤陽
動きを封じられた十尾は、その怒りを力に変えて放った。
!
!
﹁大丈夫だよクシナ。その前に十尾を││来る
!
流石にこの封印術を以ってしても十尾を封印する事は叶わないが、それでも動きを封
た。かつては九尾を完全に押さえ込んだという、うずまき一族の強力無比な封印術だ。
クシナが気合を入れた瞬間に、クシナの身体から無数の鎖状のチャクラが溢れ出し
!
そしてそれだけではない。ミナトはクシナに向けて視線にて合図を送る。
扉間の掛け声と共に四赤陽陣が発動し、十尾の四方に巨大な結界が張られた。
!
!
﹁よし⋮⋮
NARUTO 第三十九話
1192
て上昇していった。
﹂
!
なるだろう。
!
器用に変化させなければ不可能だ。それが出来る様になるほど、ナルトが成長したと
て
このチャクラの受け渡しは九喇嘛のチャクラを忍一人一人のチャクラ性質に合わせ
再び回復は可能だ。
る。当然ナルトの中の九尾チャクラは減るが、九喇嘛が瞑想してチャクラを溜める事で
これにより忍達は今までの数倍のチャクラを得て、大幅にパワーアップする事にな
のチャクラを受け渡していた。
それだけではない。九喇嘛の協力もあり、ナルトは影分身を駆使して忍達全員に九尾
四赤陽陣に入り、十尾に挑む事が出来る様になった。
そして柱間が木分身にて結界の四面それぞれに出入り口を作り出す。これで忍達は
を目指すナルトとしては興奮するのは当然であった。
ナルトは火影や母の力に興奮していた。特に火影の力を目の当たりにした事は、火影
﹁す、すげぇ
﹂
クシナの封印術が更に十尾を縛り、その口元を塞ぐ。これで簡単に尾獣玉は放てなく
﹁危ないからお口も閉じときなさい
1193
いう事である。
そうして九尾のチャクラを得た忍に対し、イズナは身動きが取れない十尾の代わり
に、十尾の肉体から小さな分裂体を無数に生み出して対抗する。
小さな、と言ってもそれは十尾と比べての話だ。分裂体の大きさはバラバラだが、最
も小さい者でも人間大。大きな者は10mを越える者までいる。
﹂
そんな化け物達に対し、忍達も怯まずに立ち向かう。忍連合軍と十尾の死闘が、開始
された。
◆
!!
ていく。
溜め込んだチャクラを用い、師匠である綱手譲りの剛力にてサクラは分裂体を粉砕し
め続けるという、緻密なチャクラコントロールがあって初めて会得出来る白豪の印。
サクラの額には綱手と同じく白豪の印が浮かんでいた。三年間チャクラを一定に溜
を突破する。
独特の掛け声とともに、三代目三忍とも称される程に成長したサクラが分裂体の群れ
﹁しゃーんなろー
NARUTO 第三十九話
1194
更に、アカネによって鍛えられた技術も同時に発揮していた。この世界で極少数しか
会得していない技術、合気である。
分裂体の動きを鍛えられた観察力で見抜き、力の流れと重心のバランスを見切り、分
裂体の攻撃に合わせて柔を仕掛ける。
そうしてバランスを崩した所に、全力の一撃を放つ。その一撃によって分裂体は他の
分裂体を巻き込みつつ、数百メートルも吹き飛ばされて行った。
﹂
﹁さて、サクラちゃんに負けてられないってばよ
吠え面かかせてやるぜ
?
﹂
﹁どっちが多く倒せるか、勝負するか
﹁上等だ
!
﹂
し、サスケも雷遁の鎧による高速移動と攻撃力で、ナルトに負けじと分裂体を切り裂い
九尾チャクラモードのナルトは圧倒的な速度にて数十もの分裂体を一瞬で吹き飛ば
と向かっていく。
サクラばかりに活躍させるつもりもなく、ナルトとサスケは競い合いながら分裂体へ
!
!
で切れさせる事はしないと誓った。
自分が分裂体だったら。そんな恐ろしい想像をしたナルトとサスケは、サクラを本気
﹁⋮⋮こればかりは同意する﹂
﹁⋮⋮サクラちゃんを怒らせるのは止めておこう﹂
1195
ていく。
﹂
﹁まだまだぁ
!
││風遁・超大玉螺旋手裏剣
││
││
本人達が知らぬ内に三代目三忍の名を襲名されたナルト達が奮闘している中、二代目
いた。
くないと互いに思っている二人は、次の瞬間には新たな得物を求めて同時に動き出して
互いに異口同音し、そして睨み合う二人。負けず嫌いであり、あいつだけには負けた
﹃よし。オレの勝ちだな。⋮⋮﹄
スケが叫ぶ。
その強大な一撃は、それぞれが数百もの分裂体を消滅させる。それを見たナルトとサ
須佐能乎の弓矢に加具土命の力を混ぜ合わせた一撃を放つ。
そして、九喇嘛のチャクラにて超巨大化させた螺旋手裏剣をナルトが放ち、サスケは
││炎遁・須佐能乎加具土命
!! !!
に力を振るう。
そして、ナルトはナルトでサスケに負けじと更なる力を発揮し、サスケもまた同じ様
﹂
﹁おおおおぉ
!
NARUTO 第三十九話
1196
三忍達もまたその猛威を振るっていた。
﹁さて、久しぶりにやりましょうかねぇ﹂
﹂
﹁まさか再びお前と力を合わせる時が来るなんてな﹂
﹁人生とは分からぬものよのゥ。だからこそ面白い
妙木山の蝦蟇
大舞台ゆえに張り切って行こうかのゥ 遠からんものは音に聞け、近くば
のだ、と。
だからこそ、大蛇丸も綱手も自来也の言葉に同意する。未来は未知だからこそ面白い
なかった。
再び集結した二代目三忍。この三人の誰一人として、こうなる未来を予想した者はい
!
!!
三忍語りて仙人に
﹂
!
﹁さあ
﹂
自来也様たァ││﹂
﹂
!
少しは空気を読まんか
寄って目にも見よ 怒りに溢れた血の涙ァ
妖怪
﹁先に行くわよ
!
!
待たんかお前ら
!
﹁置いて行くぞ自来也
﹁あ、ちょっ
!
!!
!
!!
﹁ええぃ
もういいわい
!
合わせろよ大蛇丸
!
﹂
手から言わせると空気が読めてないのは自来也であった。
せっかくの見栄切りをまたも邪魔され、自来也は怒り心頭になる。だが、大蛇丸と綱
!
1197
!
││火遁・大炎弾
﹁仕方ないわねぇ﹂
﹁はあぁ
﹂
││
││
巨大な壁となった炎はそのまま直進し、無数の分裂体を飲み込んでいく。
く。
自来也と大蛇丸が同時に放った火遁と風遁が互いに合わさり、その威力を増幅してい
││風遁・大突破
!
!
た。
流石はというべきか。弟子であるサクラに劣らぬ怪力にて、分裂体は吹き飛んで行っ
そしてその壁を突き破り、綱手が生き残った分裂体に直進してそのまま殴り付ける。
!!
て術を放った。
!
の動きを封じる為に使用した。
羅生門とは攻撃の為の術ではなく、本来は防御の為の術だ。だが、大蛇丸はそれを敵
││口寄せ・三重羅生門
││
そう言って大蛇丸は分裂体の中でも大型の物に標的を絞り、複数の大型分裂体に向け
ね﹂
﹁さて、細かいのは他の忍でも相手に出来るでしょう。私達は大物を仕留めましょうか
NARUTO 第三十九話
1198
﹂
大型分裂体の周囲を囲むように三つの巨大な羅生門が口寄せされる。それにより逃
﹂
げ場を失った大型分裂体達は、次の一撃を無防備に受けてしまう。
それでワシの方が強すぎたら謝るとしよう
﹁次はあなたが合わせなさい
﹁全力でやるからのぅ
!
││
││仙法・火遁大紅蓮弾
!
﹁過剰火力だろうが
もっと大勢の敵を巻き込んでやれ
﹂
!
されたり、地獄の炎に巻き込まれて焼滅していった。
に向けて吹き飛んでいく。哀れ、直線上にあった分裂体は溶解しかけた羅生門に押し潰
綱手の怪力によって羅生門は吹き飛ばされ、その勢いに押されて地獄の炎も無数の敵
それを見た綱手はもっともな意見を放ち、敵側に向けて羅生門を全力で殴り付ける。
!
瞬にして焼滅し、強靭な耐久力を誇る羅生門すら内側から溶けつつあった。
獄炎と大嵐。二つが混ざりあい、羅生門の内側に地獄が現出した。大型分裂体達は一
││
││仙法・風遁大嵐烈風
!
不敵に笑い合い、そして全力の術を放った。
当然それを見た大蛇丸も負けじと仙人モードへと至る。互いに仙人になった二人は
た発言をし、加減なしに術を放つ準備をする。そう、仙人モードである。
自来也は、自分の全力についてこれなかったら謝ってやろうと、励ましと挑発を混ぜ
!
!
1199
││
そうして多くの分裂体を倒した二代目三忍だが、その手を休める事なく更なる力を戦
場で発揮する。
││口寄せの術
事に育っているようだな。安心したぞ
﹂
なるほどなるほど。里の力は無
!
﹁うーん、まあ、強さは十分なんですが⋮⋮。一人は少々⋮⋮いえ、かなり危うかったん
しかった様だ。
自分がいなくなった後も、里は立派に成長をしている。それを目の当たりに出来て嬉
活躍を見てご満悦だった。
アカネとマダラに二代目三忍と新たな三代目三忍の話を聞かされた柱間は、後任達の
!
!
二代目三忍と三代目三忍の活躍ぶりを見て、初代三忍達はその力を称賛していた。
あった。
口寄せ三竦みと恐れられた二代目三忍の口寄せ動物が再び集い、戦場で暴れるので
綱手の口寄せ、巨大ナメクジのカツユ。
大蛇丸の口寄せ、巨大ヘビのマンダ。
自来也の口寄せ、巨大ガマのガマブン太。
!
﹁ほほぅ あれがお前達の言う二代目と三代目か
NARUTO 第三十九話
1200
ですよねぇ﹂
アカネは三忍達の中で一人だけ大罪を犯している人物を思い浮かべ、人間変わりもす
るものだとしみじみと感じていた。
誰よりも人生経験が豊富なアカネであったが、あそこまで歪んでいた人物がこうも良
い方向に変化したのを見るのは早々ない経験であった。
恐るべきはイザナミと言うべきか。うちはの力は大概だなぁ。と、自分の力は棚に上
げて感心するアカネであった。
﹂
?
を封印したのも、大蛇丸が暁にこれ以上力を与えない様にする為であり、屍鬼封尽につ
どれもこれも自分の利とする為にしてきた事ではある。ビーを逃がしたのも柱間達
ているのだ。
うに封印したり、イズナから屍鬼封尽について聞き出してミナトの魂を救い出したりし
大蛇丸はビーをわざと逃がしたり、イズナに柱間と扉間の穢土転生を利用されないよ
ければ現状は更に窮していた事になる。
そう、アカネは知らぬ事だが、マダラが言う様に大蛇丸が木ノ葉隠れから抜け出さな
﹁そうなのか
本当に意外だがな﹂
﹁大蛇丸は確かに過ちを犯したが、結果的に見れば意外と助けになっていたりする⋮⋮
1201
いては自分の知識欲の為だ。
それがどこをどう転がったのか、忍連合軍の為に上手く働いていた。だからといって
大蛇丸がしてきた事は到底許される事ではないのだが。
﹁罪は罪であり、罪には罰が必要だ。だが、罪とはけして拭えぬものではない。大蛇丸と
やらが改心したのならば、それを受け入れるまでぞ﹂
﹁⋮⋮そうだな。では、オレも罪を拭う為に働くとしよう﹂
﹁お前の場合は仕方なかっただろうと言ってるのに⋮⋮﹂
柱間の言葉にマダラが同意し、償いの為に力を振るおうとする。
﹂
アカネや柱間としてはマダラは操られていただけなのだが、マダラは割り切れてはい
今は戦場に気を入れるべきぞ
!
ない様だ。
!
﹁では行くぞ
﹂
の最高峰を見せてやろうと初代三忍がその力を発揮する。
二代目三忍や三代目三忍達、そして多くの忍連合軍が戦っているのを見て、彼らに忍
事を教えてあげなくては﹂
﹁それは困りますね。後輩達が調子に乗って増長しないよう、まだまだ修行が足らない
﹁そうだな。このままだと後輩達に全ての見せ場を取られてしまいそうだ﹂
﹁まあ、それも後の話よ
NARUTO 第三十九話
1202
!
﹃おう
﹄
伝説の力を見せ付けた。
!
││
!
!
分裂体達を串刺しにしていく。
友との久しい共闘ぞ。存分に力を振るわせてもらうぞ
﹂
更に木人の全身から四方八方に万を越える木の槍を飛ばし、一瞬にして周囲に群がる
││仙法・木遁挿し木の術
を振り上げるだけで無数の分裂体を文字通り蹴散らす。
近寄る分裂体など物ともせず、腕を一振りしただけで無数の分裂体を吹き飛ばし、足
え、敵陣中央にて縦横無尽に暴れ出したのだ。
その木人の上に立ち、柱間はそのまま木人を自在に操作する。前方の味方達を飛び越
玉すら相殺する事が出来る恐るべき巨人なのだ。
柱間が木遁忍術にて木製の巨人を作り出す。だが、木製と侮るなかれ。その力は尾獣
││仙法・木遁木人の術
││
目のふちに僅かに隈取りが出来るだけの完全な仙人モードに至り、そして初代三忍が
ず。
柱間の掛け声と共に、三人が同時に仙人モードとなる。その所要時間、僅か一秒足ら
!
﹁まだまだ
!
1203
││仙法・木遁真数千手
││頂上化仏
││
││
を持つ巨大な仏像であった。
柱間が印を組んだ瞬間に生み出された物。それは木の巨人を遥かに上回る、無数の腕
!
の威力の程は想像もつかないだろう。
一撃一撃が分裂体を容易く屠る威力を持っており、それが数千数万と放たれるのだ。そ
圧倒的質量から繰り出されるその連打の威力は、まさに質量以上に圧倒的であった。
れる。
真数千手の名の通り、数千もの腕から繰り出される連打が分裂体に向けて振り下ろさ
!!
﹂
﹁戦争は好かんが、敵が人ではないのがまだマシか。おかげで加減をする必要がないぞ
NARUTO 第三十九話
1204
だった。
強力な個に対してならばともかく、無数の群に対してならばばらけた方が効率的なの
に集まって力を振るうと逆に効率が悪くなってしまう事もあるのだ。
柱間とは別の戦場にてマダラは戦っていた。初代三忍の力は強すぎる為に、狭い戦場
そう言って、人間相手ではない事に安堵しつつ、柱間は分裂体に猛威を振るう。
!
││
﹁さて、柱間やヒヨリに負ける訳にはいかんな﹂
││完成体須佐能乎
﹂
り、忍達が期待した通りの働きを見せる。
その力の程は既にこの場の誰もが知っているだろう。マダラは須佐能乎を存分に操
い、忍連合軍の味方としてだ。
山を断ち、地を砕く神話の力。完成体須佐能乎が戦場に顕現する。先程までとは違
!!
││
!!
なかったマダラの全力が、分裂体目掛けて振り下ろされる。
心技体。全てが揃った今のマダラだからこその力だ。操られている時には発揮出来
力にてマダラは柱間と互角以上に渡りあったのだ。
完成体須佐能乎に自然エネルギーを加えるという、生前のマダラの最強の力だ。この
││仙術須佐能乎
そしてそれだけではない。マダラは忍連合軍の想像以上の力まで発揮したのだ。
開始した。
他の術など児戯。誰もがそう思わせる程に、マダラは須佐能乎の力にて戦場で蹂躙を
たに切り裂かれていく。
一振り。ただそれだけで、大小様々な分裂体が大きさなど関係ないとばかりに一緒く
﹁はっ
!
1205
その一撃により、大地に巨大で深い峡谷が出来上がった。星が長い年月を掛けて作り
上げる大自然を、土遁などの術の作用ではなく、ただの一撃の威力にて作り出してし
まったのだ。
それだけではない。その威力は分裂体や大地を切り裂くだけに留まらず、そのまま直
進を続けて四赤陽陣にまで到達し、結界の一面を大きく歪めてしまう。
﹁む、いかんな。加減をせんと扉間に怒鳴られてしまうな⋮⋮﹂
マダラの心配は当たっていた。先の一撃が命中した結界の一面は扉間の担当する一
面であり、先の一撃で無駄に結界に負担が掛かった事に怒りを顕わにしていたりする。
アカネもまた二人とは違う場所を己の戦場としていた。
アカネは火遁を除く四つの性質変化を駆使して雑魚狩りに励む中、同じくその力にて
分裂体を狩っている柱間とマダラを見る。
というものであった。
?
じ様││アカネにとってはだが││に戦っているというのに、柱間達は木遁やら須佐能
こっちが普通││アカネにとってはだが││に五大性質変化の術でそこらの忍と同
なんかずるくない
そこにあった感情は、懐かしの友とまた一緒に戦える嬉しさ││ではなく、あいつら
﹁⋮⋮﹂
NARUTO 第三十九話
1206
乎やらの特殊な力を振るっているのだ。絶対にずるい。
アカネとしては何だか仲間外れにされた様な気になるのだ。アカネがそう思うのは
仕方ない事と言えよう。けっして私もあんな風に巨大兵器みたいなのを操って戦いた
い、と思っている訳ではないのである。
た。
﹁出来た
﹂
﹂
﹃阿保かお前はぁぁ
﹁おおぅ
﹂、と忍連合軍に思わせる程に馬鹿げたチャクラを放ち、そのチャクラで巨人の
?
当然柱間とマダラがそれに気付かぬ訳がなく、恐ろしく無駄にチャクラを消耗する無
衣を作り上げていたのだ。
だっけ
いつの間にか、近くに柱間とマダラがいた。アカネが、﹁なあ、十尾って二体いるん
!!
!
?!
﹄
して造形を作っていき、須佐能乎の様にチャクラの巨人を作り上げ身に纏う事に成功し
アカネはチャクラを練り上げ、その身に集中させていく。そしてそのチャクラを操作
る。ならばそれに倣うのみだ。
思い立ったが吉日。鉄は熱い内に打て。先人達は素晴らしい言葉を残してくれてい
﹁⋮⋮やってみよう﹂
1207
ど ん だ け ぞ お ぬ し
駄のない超高度な技術を用いた無駄な術を作り出したアカネに耐え切れず、自分の戦場
を離れて突っ込みに来てしまったのだ。
な ん ぞ そ の チ ャ ク ラ の 巨 人 は
!?
﹂
!
﹁な、なんですかいきなり
?
!?
﹁な ん で す か じ ゃ あ る か
﹂
!?
乎の形は使用者によって千差万別あれど、わざわざああいう形に形態変化させているの
須佐能乎もそれに近い。両目の万華鏡を開眼した者だけに使用できる術だが、須佐能
は性質変化の術であり、形態変化の術ではない。
術を発動する印にてそういう形になる様に設定されてあるからだ。なので、水龍弾の術
この術が龍の形をしているのは、術者が龍の形に形態変化させているからではない。
これは文字通り水の龍を敵にぶつけるという術だ。
仕組みについて説明すれば分かるだろうか。例えば水遁・水龍弾の術という術がある。
須佐能乎のチャクラの鎧はあくまで須佐能乎という術の効果によるものだ。忍術の
みたいなものだが、須佐能乎とアカネの作り出した術には大きな違いがあった。
柱間とマダラの指摘は非常に正しい。アカネの今の術は言うなれば須佐能乎の模倣
!!
!
ら、同じチャクラで術を放った方がよっぽど効率的だろうが
﹂
﹁無 駄 に も 程 が あ る だ ろ う が そ ん な に チ ャ ク ラ を 籠 め て 無 駄 な 巨 人 作 る く ら い な
NARUTO 第三十九話
1208
ではなく、あくまで術者固有の形としてあらかじめ決まっているのだ。多少ならば形態
変化をさせる事も可能だが。
だが、アカネが作り出したチャクラの巨人は違う。無駄にチャクラを練り上げ、それ
を巨人の形に形態変化させて身に纏う。確かに可能だ。圧倒的なチャクラ量と、圧倒的
な技術があれば、だが。
幸か不幸か、アカネはその両方を有していた。それこそ柱間やマダラですら足元にも
及ばぬ程にだ。だからこそチャクラの巨人を作り出せたのだが、この場合は無駄に過ぎ
るというものだろう。マダラが言う様に、同じチャクラで普通の術を放った方が何倍も
効率的だ。わざわざ巨人の形に形態変化させる意味がどこにあるというのか。それな
らそういう印を作り出した方が遥かにマシであった。
!
﹁だってお前らばっかずるいじゃないですか
﹂
だから問題ない、というには明らかにやりすぎだったりするのだが。
する量しか消費していない。
とも、アカネからすれば全体の数パーセントだ。仙人モードのアカネならばすぐに回復
そう、チャクラ量が多いからこそその回復量もまた桁違いだ。消費した量は凄まじく
!
!
らほんの一分足らずで回復するよ
﹂
﹁いいんですよ 私はチャクラの回復量も桁違いなんですから この程度の消耗な
1209
!!
﹃子どもか
﹄
﹁十七歳ですし
お前らと違って若いんだよこっちは
﹂
!
﹁ええい
ならばこっちもあれをやるぞマダラ
﹂
ではなく、精神も年相応に合わせて多少は変化するが、それでもこれはない。
だが、中身は千年を越える時を生きている。転生する故に連続して生き続けている訳
!
!
!
・・
・・
というか、殆どないはずだ。
柱 間 の 言 う あれ と は 一 体 何 な の か
?
る。
││
││仙法・木遁木人の術
││仙術須佐能乎
!
合させた。
自 分 の 知 ら ぬ 二 人 の 術 な ど そ う 多 く は な い。
それをどうしようというのか。そう思っていたアカネの前で、二人はその力を││融
二人が繰り出したのは、先程戦場で二人が振るっていた術と同じものだ。
!
││
そう疑問に思うアカネを他所に、二人はかつてヒヨリに隠れて作り上げた術を披露す
?
﹂
何やらアカネに対抗意識を燃やしたのか、柱間が何か不穏な事を言い出した。
﹁む⋮⋮やるのかあれを⋮⋮﹂
!
﹁⋮⋮あれ
NARUTO 第三十九話
1210
││威装・須佐能乎
││
﹂
これぞ対ヒヨリ用に二人で開発した合体忍術ぞ
!
さった事により、その力・耐久力は大幅に上昇している。
﹁見たか
﹄
﹁なんで二人がかりで対私用の忍術作ってんだよ
﹃んなもんお前が強すぎるからだろうが
﹂
その木人に須佐能乎を纏わせる。木人須佐能乎とでも言うべきか。二人の力が合わ
いの大きさだ。
能乎と同じ大きさを持たなければ使用出来ないが、木人はちょうど須佐能乎と同じくら
対象に須佐能乎を纏わせる、威装・須佐能乎と呼ばれる技術だ。対象と言っても須佐
!
﹄
﹁真面目に戦わんかぁぁぁあぁぁ
﹃す、すいませんでした
﹂
二代目と三代目が激闘を繰り広げている中で、初代のみが馬鹿をしていればこうもな
つく怒りである。
馬鹿三忍││誤字にあらず││に対して扉間がとうとう激怒した。まさに怒髪天を
!!
!!!
に酷い仕打ちである。
の三人はそこらの雑魚を蹴散らしている。忍連合軍が死力を尽くして戦っている相手
異口同音に叫ぶ柱間とマダラであった。なお、そんな風に馬鹿な話をしながらも、こ
!
!
!
1211
ろう。久しぶりの集合だからと少々羽目を外しすぎである。
一応初代三忍達が倒した分裂体の数は誰よりも多いという事は、彼らの名誉の為に記
しておこう。
﹂
﹁マダラ おぬしがその馬鹿どもと一緒に馬鹿をしてどうする ちゃんと馬鹿二人
の手綱を握らんか
!
その一部とは││最も自由にしてはならない、尾獣玉を放つ十尾の頭部であった。
が緩んでしまい、一部が自由になったのだ。
クシナが封印術にて封じているが、十尾がその力を更に強大にした為にわずかに封印
るい易くする。
か、それとも初代三忍が放つ力に脅威を抱いたのか、その身体を更に変化させて力を振
十尾はふざけている││当人達は至って真剣なのだが││初代三忍達が苛立ったの
そんな扉間の胃の痛みを救ってくれたのは、他でもない十尾であった。
う。穢土転生でも痛みは感じるのだ。胃の辺りが特に。
それがこの有様では、生前と同じく胃薬を処方して貰わなければならなくなるだろ
ダラにストッパーとなってほしいのだ。
扉間の剣幕に流石にマダラも謝罪する。扉間としては馬鹿三忍の中で一番ましなマ
!!
!
﹁す、すまん扉間﹂
NARUTO 第三十九話
1212
十尾がその形を徐々に変化させていく。より強くなる為に進化している││のでは
なく、元に戻っていくと言った方が正確である。
完全体として復活出来なかった十尾は、徐々に力を溜めて元の姿に戻ろうとしている
のだ。それはつまり、更に強くなるという事である。
十 尾 は よ り 強 大 と な っ た 力 を 初 代 三 忍 に 向 け て 振 る う。脅 威 と な る 者 を 排 除 す る。
その判断は非常に正しい。だが、正しければ必ず結果が伴う訳ではなかった。
﹂
﹂
﹁マダラ
!
﹁よっ
﹄
﹂
を受け止め、そしてそのまま後退しながらもどうにか尾獣玉を天高く放り投げる。
柱間とマダラの合体忍術である木人須佐能乎。須佐能乎を得た木人は十尾の尾獣玉
﹃はぁぁ
き事は一つ。この尾獣玉を防ぐ事だけだ。
イズナにどんな企みがあるかは知らないが、そんな事は柱間達には関係ない。やるべ
るわせていた。
員が全滅するだろう。それはイズナも同じだというのに、イズナは十尾に自由に力を振
十尾から放たれる巨大な尾獣玉。このまま着弾すれば柱間達はおろか、結界内の忍全
﹁ああ
!
!
1213
!
更にアカネが螺旋丸を投げつけて、その威力にて尾獣玉を結界の外へと追いやった。
﹁まったく⋮⋮﹂
十尾の本格的な活動に対して、ようやく馬鹿を止めた三人を見て扉間が息を吐く。
別に馬鹿をしつつも無駄な動きはしていないという、極めて有能な馬鹿なのだが、そ
れでも最年長者として恥ずかしくない姿を見せてほしいと思うのは、けして扉間の我侭
ではないだろう。
◆
イズナは三忍達の力を見て思う。確かに脅威だ、と。
二代目や三代目も三忍の名に恥じぬ力を見せ、初代達は更に別格の力を振るう。十尾
の尾獣玉をああまで容易く防ぐとは、流石のイズナも想像していなかった。
た。その脅威とは││
むしろイズナにとっての脅威は別にある。それに対して、イズナは注意を払ってい
あった。
だが、問題はなかった。むしろ敵が強ければ強いほど、イズナにとっては好都合で
﹁だが⋮⋮﹂
NARUTO 第三十九話
1214
││神威
﹂
││
││神羅天征││
ナには通用しなかった。
と、オビトの協力の元に神威空間からの不意打ちを放ったが、完全に警戒していたイズ
だからこそ、イズナは常にカカシを警戒していた。カカシも出来るだけ不意を突こう
動のタイムラグ故に自身が受ける心配はないが、十尾が狙われてしまえば面倒だ。
塵遁すら時空間に消し飛ばすその瞳力。イズナをして恐るべきと言えるだろう。発
を穢土転生にて操っている時に確認していた。
これがイズナが警戒していた脅威、神威である。カカシの神威の能力は、二代目土影
クラにて範囲を拡大させた神威を十尾に放つ。
突如として十尾後方の空間が歪み、そこからカカシが出現する。そして九喇嘛のチャ
!
!
⋮⋮﹂
﹁ちっ
警戒されていたか⋮⋮﹂
﹁中々の瞳力だ⋮⋮。うちはの血族ではないお前が、そこまでの瞳力に目覚めるとはな
ずれた神威はあらぬ空間に発動し、何も飲み込まずに不発に終わった。
神威が効果を発揮するタイムラグの間に、神羅天征にてカカシを吹き飛ばす。目標が
﹁ぐぅ
!
1215
NARUTO 第三十九話
1216
渾身の一撃が無駄に終わった事にカカシは内心で悪態を吐く。
神威の発動にはかなりのチャクラを消耗する。いくら九喇嘛のチャクラにて増大し
ていようとも、十尾ほどの巨体を対象にすればチャクラの消費も大幅に増加してしま
う。
それだけならまだいい。問題は視力の低下にある。万華鏡写輪眼の多用は視力を大
きく低下させてしまう。うちは一族ではないカカシならばなおさらだ。
十尾を対象に出来る程の神威となればあと何回放てるか。その少ない回数の内、最大
の好機が潰されたのは痛かった。
そんなカカシの心中はともかく、イズナはカカシの存在を疎ましく思う。
いや、カカシだけならば殺せば終わりで問題ない。だが、カカシは神威が外れた瞬間
にオビトによって神威空間へと逃げているのだ。然しものイズナも神威空間へは手出
しが出来なかった。
先程から圧倒的な力を見せる三忍達や、それに負けじと戦う五影達にそれに追従する
力を持つ者達、そして力を合わせて戦う忍連合軍。そんな連中を相手にしつつ、その上
で神威の不意打ちに警戒しなければならない。
流石にこれだけ面倒が集まるとイズナでも手間だった。だからこそ、イズナは切り札
1217
の内の一つを切ろうとする。そしてこの切り札が発動した時の、忍達が浮かべるだろう
絶望の顔を思い描き、イズナは悦に浸る。
イズナにとって敵の力が強大であればあるほど好都合だった。それは、集団の連携に
よって生み出される力ではなく、一人の個としての力に関してである。
一人の力がどれ程強大でも、イズナには関係がない。何故ならば、イズナにはそれを
利用出来る力があるからだ。
敵が別天神を使うならば、こちらも別天神にて対抗しよう。そう、イズナもまた、別
天神の使い手なのだ。その力にてかつてマダラを操ったのだから。
答えはそう││日向アカネである。
だが、今回の別天神の対象はマダラではなかった。イズナに取っては悔しい事だが、
忍界最強の忍はマダラではない。ならば誰か
使用までに長い時間を掛けるという無駄をしたくなかったのだ。
らも、イズナが別天神の力を重要視している事が伺える。生半可な相手に使用して、再
イズナにとって別天神はとっておきの切り札だ。マダラ以外に使用しなかった事か
それがイズナが余裕だった理由の一つだ。
切 っ て は い な い だ ろ う。そ ん な 恐 る べ き 忍 で あ る 日 向 ア カ ネ を 別 天 神 に て 支 配 す る。
日 向 ア カ ネ の 圧 倒 的 な 強 さ は イ ズ ナ も 良 く 理 解 し て い る。恐 ら く ま だ 全 力 を 出 し
?
十数年という別天神のインターバルを縮める方法はイズナにはなかった。本来の別
天神ならば、柱間細胞にてそのインターバルを大幅に縮小する事が出来るのだが、イズ
ナの別天神は永遠の万華鏡を得た時に後天的に開眼した為か、柱間細胞の恩恵が得られ
なかったのだ。
もっとも、イズナは柱間細胞によって別天神のインターバルが縮小されること自体知
らないのだが。自身に発揮されなかった効果ゆえにそれも仕方ないだろう。
ともかく、そのとっておきの別天神を、この世で最も憎む存在に向けて使用する。
日向アカネが、あの日向ヒヨリがその力を味方に向けて振るうのだ。そう考えただけ
で胸が空く思いだ。
そうしてイズナはアカネに対して別天神を使用する為に、そして確実に別天神を発動
させる為に、輪廻眼の力を発動させる。
その瞬間、イズナは突如としてアカネの眼前の大地に立っていた。
﹄
!?
輪廻眼には六道の力以外にも、開眼者固有の瞳術も存在していた。イズナにも当然固
現れたからだ。そう、戦場に突如として現れた十尾と同じ様に。
それもそのはず。イズナは一切のタイムラグもなく、一切の前触れもなく、この場に
アカネも、そして柱間もマダラも、イズナが現れた瞬間を察知出来なかった。
﹃
NARUTO 第三十九話
1218
おおくにぬし
有の瞳術がある。それが大国主と呼称された瞳術であった。
大国主は大地を縮める力を有している。自身か、自身が触れた物体が大地に接触して
いる時に発動させると、地続きとなっている大地のどこにでも瞬時に移動する事が出来
るのだ。
これによってイズナはアジトから遠く離れた戦場へと、十尾を連れて移動したのだ。
アカネやマダラが気付かなかったのも当然だ。その移動にタイムラグは存在しないの
だから。
もっともデメリットも存在する。移動した距離が長ければ長い程、インターバルも長
くなってしまうのだ。流石にこれだけの距離を移動した事により、相当なインターバル
を必要とした。
その為にオレに協力するのがお
だがそのインターバルも既に終わっている。大国主は発動し、日向アカネの虚は突け
た。後はアカネを操るのみだ。
││
││無限月読こそが平和へ至る唯一絶対の手段
前の使命
!
﹁イズナ
いつの間に
﹂
の命令を当然だと思い込み、自身ですら気付かぬ内に操られるのだ。
その命令がどれほど荒唐無稽だろうと、別天神には関係ない。別天神を受けた者はそ
!
!
!
1219
﹁先程の時と同じ⋮⋮
﹁⋮⋮ふむ﹂
しかも飛雷神ではないな
﹂
!?
さあ
﹂
日向ヒヨリよ その力を忍連合軍に振るえ
無限月読を
!
能ではない。
﹂
!
石にこの距離で、しかもイズナの大きさでマーキングを見落とす程に、マダラの眼は無
一度目は十尾の巨体でマーキングが隠されているのかとも考えていたマダラだが、流
れていなかったのだ。
飛雷神の術にはマーキングが必要だが、イズナが現れた場所にそのマーキングは刻ま
ダラは、この現象が飛雷神の術によるものではないと見抜いた。
突如として現れたイズナに柱間とマダラが驚愕する。そして同じ現象を二度見たマ
!
!
完遂する為の一助となれ
!
術だ。二度も受けない様に警戒するのは当然だ。
マダラは当然イズナの別天神を警戒していた。一度受けた、それも人生を狂わされた
見る。
柱間はイズナの発言の意図が理解出来ずに訝しみ、マダラはそれを理解してアカネを
!!
﹁ふはははは
﹂
?
﹁まさか
!?
﹁む
NARUTO 第三十九話
1220
当然自分が警戒しているならアカネも警戒しているものとマダラは見ていた。戦い
に関してなら、マダラに出来る事は固有の能力以外でほぼ何でも出来ていたのだから、
そう考えても仕方あるまい。
それに別天神自体警戒はしていても、それ程脅威ではないとマダラは考えていた。別
天神はその効果を他人によって解除する事が出来るからだ。もちろん相応の実力や技
術は必要だが、アカネは言うまでもなくそれらを有していた。
だが、当のアカネが操られてしまえば話は変わる。
他の誰だろうと、アカネならばその動きを止めて別天神を解除する事が可能だろう。
だが、アカネの動きを止めて別天神を解除する。それが誰に出来るというのか。
柱間とマダラならば対抗はまだ可能だが、その激しい戦闘の中ではアカネに触れる事
すら至難の業。他の忍ならなおさら不可能に等しい行為だ。
マダラの反応から柱間も脅威を感じ取り、そして絶望の未来を思い描く。
⋮⋮は
﹂
そんな二人の反応と、狂った様に笑うイズナを見てアカネはその口を開く。
﹁だが断る﹂
﹄
﹁ははははは
﹃⋮⋮ん
?
だが断る。それがイズナの言葉に対するアカネの返答だ。
?
!
1221
まさか断りの言葉が返って来るとは思ってもいなかったイズナは、その意味を理解す
﹂
貴様の使命はなんだ さっさとその力で無限月読実現の為に働
るのに時間を要し、そして再びアカネに命令をした。
け
﹁ふ、ふざけるな
!
!
己の固有能力について説明してあげた。
そんな三人に対し、アカネはため息を吐きつつ、一族の一部以外には秘密にしていた
解が出来ない三人であった。
イズナとマダラと柱間が同時に沈黙する。これは一体どういう事なのか、さっぱり理
﹃⋮⋮﹄
鍛え、美味しい物を食べながら平和を謳歌する事ですかね﹂
﹁私の使命って⋮⋮まずはあなたを倒して無限月読を止めて、その後修行に励み、弟子を
!
別天神も、無限月読すら効かんだと
多分無限月読も効きませんね﹂
﹁⋮⋮⋮⋮ふ﹂
﹂
貴様本当に化け物か
﹂
!!
﹁ふ
﹁ふざけるなぁぁぁ
!
?
これには柱間とマダラもイズナに同意した。今までにも幻術が効いた憶えは二人に
!?
﹁はあ、仕方ないですね。私に幻術の類は通用しません。全部自動で無効化します。あ、
NARUTO 第三十九話
1222
1223
もなかったが、それはあくまでアカネの実力で防いでいるものだと思っていた。
それが幻術を完全に無効化する能力だったのだ。ただでさえ強い化け物がもっと強
い化け物だったという、まさに考えたくもない事実であった。
なお、幻術は当然として陰陽遁も封印術もその大半を無効化してしまうのだが、流石
にそれは言わないでおいたアカネであった。
NARUTO 第四十話
別天神が不発に終わった事で怒り心頭となるイズナ。冷静さを完全に失っているイ
﹂
ズナは、アカネにとって完全に隙だらけであった。
﹁はっ
﹂
﹂
││八卦六十四掌││
﹁遅い
とするが、その前にアカネはイズナを捉えていた。
イズナが気付いた時には遅かった。アカネ達から離れる為に大国主を発動させよう
!?
!
!?
イズナのダメージ、そして攻撃を受けた時の防御。それらを見て、アカネは様々な推
きな傷が付けられていた。
剛拳の威力にイズナは吹き飛ばされ、大地に叩き付けられる。そしてその全身には大
の早業と言えよう。
にアカネは剛拳による攻撃も加えていた。柔拳と剛拳を同時に叩き込む。まさに神速
刹那の間にイズナの点穴が突かれる。更に体内にチャクラを流し内臓を攻撃し、同時
﹁ぐぅっ
NARUTO 第四十話
1224
察を行う。
?
﹂
!
だが、イズナと戦って勝てないとは二人は思わなかった。純粋なスペックでは負けて
では上だろう。
イズナは強い。それは柱間もマダラも認める所だ。恐らく自分達よりも純粋な強さ
んだ⋮⋮﹂
﹁ああ。お前は強くなった。だが、ヒヨリの強さは単純な強さでは勝てない領域にある
﹁もう止めておけイズナよ。おぬしではヒヨリには勝てんぞ﹂
報を共有し、敵の冷静さを奪う。まさに一石二鳥である。
もちろんそれもアカネの計算の内だ。こうして情報を敢えて声に出す事で味方と情
ものだ。
手には確かに情報の有無の差は大きい。だが、こうも容易く暴かれると勘に障るという
自身の情報を暴いている。それを理解して、イズナは苛立ちを覚える。未知の敵を相
﹁き、貴様⋮⋮
り輪廻眼のチャクラ吸収は常時発動ではない。とりあえずこんな所ですか﹂
塞いだ点穴も意味はなし。回復しているけど柔拳による内臓のダメージはあり。つま
う事ですね。その証拠にダメージは即座に回復しているな。柱間の力の恩恵かな
﹁ふむ。頭部を集中して守りましたか。頭部以外はダメージを負っても問題ない、とい
1225
いても、それを覆せる経験と技術を二人は有しているのだ。
そして、アカネはそれ以上の経験と技術を有していた。だからこそ、二人はヒヨリと
の勝負で一度たりとも勝利した事がなかったのだ。
﹁単純な強さでは勝てない⋮⋮か﹂
イズナはマダラの言葉をそのままに呟く。そして、倒れたままに勝ち誇った様な笑み
ヒヨリ避け││﹂
を浮かべた。
﹁これは
﹂
吹き飛んだ。
瞬間、マダラは突如としてアカネに何かを叫び、それとほぼ同時にアカネが後方へと
!
!?
いや、そんな気配は一切感じなかった。もしそう
?
ならば攻撃を受けたのではなく、アカネが自ら後方に飛んだ それならば、何を理
だ。
だとすれば、それはアカネですら感じ取れなかったという事になる。それはまさに脅威
何らかの術による攻撃を受けた
柱間はアカネが吹き飛んだ理由が理解出来なかった。
﹁なにっ
NARUTO 第四十話
1226
柱間が最も恐れたのは前者だ。もし、もし今のが攻撃だったならば。アカネですら避
由としてそうしたかは理解出来ないが、それでもまだ納得が出来た。
?
何があった
﹂
けられなかった攻撃だとしたら⋮⋮。それは誰も避ける事が出来ない事を意味してい
マダラ
!?
るのだから。
﹁ヒヨリ
!
﹁⋮⋮﹂
﹂
瞬早く後ろに飛んで衝撃を逃がしたか﹂
﹁流石だな日向ヒヨリ。今の一撃で胸を貫くつもりだったが、兄さんの声に反応して一
いた。
逆に言えば、それはアカネも先の攻撃を感知する事が出来なかったという事を示して
ると判断したのだろう。
今は何かしらの攻撃に備えて廻天を発動している。これならば見えぬ攻撃も防御でき
心配するマダラとは裏腹に、アカネにはそれ程のダメージを受けた形跡はなかった。
﹁無事ですよ。しかし⋮⋮敵からダメージを受けたのはどれほどぶりか⋮⋮﹂
﹁ヒヨリ
しいと言わんばかりに、柱間を無視してアカネの元へと駆けつけた。
そう判断した柱間はマダラに向けて疑問を問う。だが、マダラはそれに答える暇も惜
事を表している。
先のマダラのアカネに対する言葉は、アカネに起こった事象をマダラが理解している
!?
!!
1227
イズナは生き延びたアカネを称賛する。アカネはその言葉を無視し、白眼の力を強
め、そして意識を集中させて感知能力を最大限に引き上げる。イズナの攻撃を見抜くつ
もりなのだろう。
そんなアカネに対し、イズナは余裕の笑みを浮かべながらアカネの行動の無駄を指摘
した。
﹁無駄だ日向ヒヨリ。いくら貴様でも、この力を見切る事は不可能だ。それが可能なの
は││﹂
﹂
﹂
!?
出来るようだね﹂
一体イズナは何をしたのだ
﹂
﹁もう一人のイズナがいる
﹁なんだと
﹁見えないイズナ⋮⋮﹂
どうやらそのイズナは輪廻眼以外では見えない様だ
﹂
﹁そういう事だ。兄さんの輪廻眼は穢土転生の紛い物。でも、この力を見る事くらいは
イズナはマダラに視線を向ける。正確にはその両目にある輪廻眼をだ。
﹁オレだけの様だな⋮⋮
!
輪廻眼以外では見えないイズナ。マダラのその言葉に、柱間もアカネも意識を集中さ
!
柱間の問いに、アカネを庇う様に立つマダラが何かを警戒しつつ答えた。
!
!?
!
﹁マダラよ
NARUTO 第四十話
1228
せて周辺を探る。
だが、やはり何も感じ取る事は出来ない。アカネの白眼でも、仙人モードの感知力で
リンボ
も、一切の気配すら掴めないのだ。
術
﹂
兄さんの輪廻眼の力だ
事すら出来ん
貴様らには何をどうしようと見る事はおろか感じる
!
事
三人に増えただと
兄さんだけで庇いきれるかな
﹁これは⋮⋮
﹂
﹂
それは少々厄介ぞ
﹂
が、生身であるアカネは致命傷を受ければそれだけで終わりだ。
そんな敵を相手に、十分な対応が出来るのはマダラのみ。穢土転生である柱間はいい
う。
見る事も感じる事も出来ないイズナが三体。そして当然本人も攻撃をしてくるだろ
イズナはその力を存分に振るい、輪墓に三体の分身を呼び出した。
﹁見えざる世界に三人のイズナか⋮⋮
!
!? !
!
!
!!
﹁単純な強さでは勝てない。十分に理解したよ。ならば⋮⋮それ以上の力で戦うまでの
してイズナの言葉を聞いて、全員が先程の攻撃の正体を理解した。
そう言って、イズナは己の両掌を見せ付ける。そこに移植されたマダラの輪廻眼、そ
!!
!
﹁無駄だと言ったはずだ。輪墓・辺獄。見えざる世界〝輪墓〟に己の分身を呼び出す瞳
1229
アカネを庇いつつイズナを制する。その果てしなく至難の業にマダラも柱間も焦り
を覚える中、イズナが突如として後ろへと振り返った。
ろう﹂
﹁ちっ⋮⋮流石にこれ以上は見過ごせんな⋮⋮まあいい、どうせなら全力でやるべきだ
あれは飛雷神の術か
﹂
そう呟いて、イズナはその場から一瞬で消え去った。どうやら大国主の力で移動した
様だ。
﹁また消えたぞ
?
!
ラが集まっていた。きっとイズナ固有の瞳術なんだろうな﹂
イズナは消えたが、その分身は残っている
!
そしてイズナを追おうとする三人を足止めする。
マダラの言う通り、イズナが呼び出した輪墓・辺獄による分身はまだ残っていた。
﹁警戒を解くなよ二人とも
﹂
﹁いや、恐らくあれも輪廻眼の力だと思う。消える前に一瞬だがイズナの両目にチャク
!?
めろ
﹂
﹁ひどくないかマダラ
!
﹁死なぬ身体だろうが
!
それくらい我慢しろ
!! !?
!
﹂
マダラはアカネを抱きしめ、そして輪墓イズナの攻撃から逃れるように動く。
!
﹂
﹁来るぞ ヒヨリはオレの傍にいろ 柱間は攻撃を受けてイズナの分身の情報を集
NARUTO 第四十話
1230
﹂
﹂
柱間は不満を漏らしつつも輪墓イズナの攻撃をその身に受け、そしてその場で輪墓イ
ここにいるのかマダラ
ズナがいるだろう空間を攻撃する。
だが、こちらの攻撃はすり抜けている
﹁当たらん
﹁いる
!
!
﹁待て、これは⋮⋮﹂
﹁こうなったら強引に││﹂
断したアカネは強引な手段を取る事にした。
このままではサスケが死ぬ。そしてそれだけでは被害が収まらないだろう。そう判
た。
外道魔像へと変化しており、そしてサスケのチャクラが小さくなっていくのが感じられ
アカネが十尾の方角を見る。そこではかなり状況が変化している様だ。十尾の姿は
﹁分身がそれを許さない、か﹂
﹁そうしたいのは山々だが⋮⋮﹂
﹁マダラ、出来るなら十尾の方に向かってくれ。あっちがやばそうだ﹂
姫様抱っこをされながらだったが。
輪墓の出鱈目な性能に舌を巻きつつ、アカネは冷静に分析をする。まあ、マダラにお
﹁相手の姿や攻撃は見えず、こっちの攻撃は効かないか。これは面倒だな﹂
!
!
1231
﹂
ダメージを受ける覚悟で強引に突破しようとしたアカネを制止し、マダラは周囲の空
間を見つめる。
お前の輪廻眼でも見えなくなったのか
﹁イズナの分身が消えた⋮⋮﹂
﹁どういう事だ
﹂
?
時間制限があるのだろうとマダラは推測する。
!
を越えて十尾の元へと辿り着いていた。
イズナがアカネに別天神を仕掛けに移動し、十尾を離れている間。ナルト達は分裂体
◆
二人を助ける為にもイズナを止めに行こうとする。だが││既に遅かったようだ。
取るアカネ。
消えかけるサスケのチャクラに、そしてナルトにも大きな変化が生じている事を感じ
﹁分身が消えたのなら好都合だ。早くイズナを止めに行かなくては
﹂
見えなくなったのではない、文字通り消えたのだ。恐らく輪墓に呼び出した分身には
﹁いや⋮⋮もしや効果時間が切れたのか
?
?
﹁よし、後はこのデカブツを消すだけだ﹂
NARUTO 第四十話
1232
﹂
﹁ちょっと待ってくれサスケ こん中には尾獣達がいんだ
達を助けてからだ
!
こいつを倒すのは尾獣
!
る尾獣達を助けようとしていた。
行くぜ九喇嘛
﹁ちっ、だったら早くしやがれ﹂
││
﹁分かってるって
││おう
﹂
サスケは厄介な敵をさっさと片付ける腹だったが、ナルトは十尾の中に封印されてい
!
!
﹂
!
する。
狙い通りに事が動いたナルトは、次に飛び出した尾獣達を十尾から引き摺り抜こうと
﹁よし
が反応し、外へと飛び出そうとしだしたのだ。
け与えられたチャクラが残っており、この攻撃によって十尾の中に眠る尾獣のチャクラ
だがナルトの目的を果たすにはそれで十分だった。ナルトの攻撃には尾獣達から分
動不能に陥らす程ではなかった。
その一撃により、十尾は多少のダメージを負った。だが、所詮は多少であり十尾を行
螺旋丸にて十尾を攻撃する。
ナルトは九喇嘛からもらったアドバイス通りに、全力でチャクラを籠めて作り出した
!
!
1233
だが一尾と八尾のチャクラは持っていなかった為に、その二つのチャクラは上手く引
き摺る事が出来ないでいた。
そこをカバーしたのが我愛羅とビーだ。一尾の人柱力であった我愛羅は一尾のチャ
クラを、八尾の人柱力であるビーは八尾のチャクラを引っ張り、それぞれ十尾から引き
抜こうとする。
当然十尾もそれに抵抗する。だが、ナルトが引っ張る力に更に無数の忍が集まる事
で、十尾は抵抗空しく全ての尾獣を抜き取られてしまった。
十尾は抜け殻であった外道魔像へと戻り、そして外道魔像の周囲に全ての尾獣が元の
姿を取り戻して集結した。
﹂
せる事はないだろうが。
な一尾だが、それでもナルトには多少の感謝を持っていた。もっとも、それを素直に見
それでも目の前の少年が自分を助けてくれたのだと、一尾も理解していた。人間嫌い
⋮⋮唯一、一尾だけはその約束を知らなかったりする。
自 分 達 を 助 け る と い う 約 束 を 本 当 に 守 っ た ナ ル ト に 対 し、全 て の 尾 獣 が 感 謝 す る。
﹁よっしゃー
!
﹁オレ達の勝ちだ
﹂
﹁後はこのデカブツを消せば⋮⋮﹂
NARUTO 第四十話
1234
!
残るは外道魔像のみ。それさえ倒せばイズナの目的である無限月読は適わない。
﹂
﹂
そうして外道魔像に向けてナルトとサスケが力を合わせた一撃を放とうとして││
﹁え
﹁な⋮⋮に⋮⋮
﹂
!?
﹁サスケ君
ナルトォ
﹂
!?
そしてそこに、この場を支配する男がやって来た。
た。
周囲の忍達も一体何が起こっているのか全く理解できず、ただ混乱するばかりであっ
突然の出来事にサクラも理解が追いつかないでいた。
!?
いても動く事は出来なかった。
首を掴まれたかの様な苦しみがナルトを襲う。じたばたと手足を動かすが、どう足掻
﹁サス││がぁっ
よって押さえつけられた。
そのままサスケは大地に崩れ落ちる。それをナルトは支えようとして││謎の力に
いたナルトも、そしてサスケ自身もだ。
何が起こったのか。それを理解出来た者は誰一人いなかった。サスケの隣に立って
サスケの腹部から、突如として血が吹き出した。
?
?
1235
﹄
﹁十尾から尾獣を抜き取るとはな。大した奴らだ⋮⋮だが、流石にそれ以上は見逃せん
な﹂
イズナ
!?
﹃
﹄
た。
そしてイズナは慌てふためく忍達を無視し、外道魔像の上に立ってその力を振るっ
大国主の力によって前触れなく出現したイズナに誰もが驚愕する。
﹃なっ
!?
﹂
しようとする。外道魔像から伸びた鎖が全ての尾獣、そしてビーとナルトに繋がれた。
そしてイズナは吹き飛び大きなダメージを受けて弱った尾獣を、外道魔像に再び封印
誰もその攻撃の正体を見抜けてはいない様だ。
突如として全ての尾獣が吹き飛ばされる。先程サスケが致命傷を受けた時と同じく、
!?
?
﹄
!?
へと封じ込まれていく。
更なる攻撃を加えられた尾獣達は抵抗の力を無くし、そのまま一尾から順に外道魔像
﹃ぐああ
てまたも見えざる力、輪墓・辺獄を振るう。
当然の如く抵抗する尾獣と人柱力に向けて、イズナは面倒くさそうにそう呟き、そし
﹁無駄な抵抗はするな。さっさと一つに戻れ。十尾こそがお前達の真の姿だろう
NARUTO 第四十話
1236
八尾は最後に己の足の一部を千切り、それをビーの為に残す。人柱力であるビーが死
﹂
なぬ様、己の一部を残したのだ。
そして││
﹁く、九喇嘛⋮⋮
﹂
!
快進撃を続けていた忍連合軍が、一瞬にして窮地に陥ったのだった。
る。
サスケが倒れ、そしてナルトもまた倒れた。尾獣は全て封印され、イズナの手に落ち
逃れる事は出来ない。僅かに生を延ばしているに過ぎなかった。
だがそれだけだ。尾獣を抜かれた人柱力は死ぬ。その法則は、うずまき一族と言えど
たうずまき一族は人柱力として優れており、尾獣を抜かれても即死する事はないのだ。
ナルトが即死していないのはうずまき一族の血を引いているからだ。生命力に溢れ
弱っていく。
て地に落ちる前に我愛羅によって受け止められた。だが、その心臓の鼓動はどんどんと
九喇嘛を封印されたナルトは輪墓イズナから開放され、力なく地に落ちていく。そし
﹁ッ
そして九喇嘛もまた、最後に我愛羅にある頼みを残し、外道魔像へと封印された。
﹁││﹂
!
1237
そしてイズナは窮地に陥った忍連合軍を無視し⋮⋮全ての尾獣を吸収した十尾を己
の肉体へと封じ込めた。
十尾を取り込んだイズナの肉体は変わった。肌は灰色に、額には二本の角の様な突起
﹁⋮⋮これが﹂
物が生え、右手には黒い錫杖を持ち、背後には九つの黒い球が浮かび、勾玉模様の入っ
た衣姿││の様に見える肉体││へと変化する。
そう、これこそが十尾の人柱力。そして忍の祖である六道仙人と同等の力であった。
つまり、六道仙人すら越える者。そう、イズナは全てを越える力を得たのだ。
﹁いや、オレは兄さんの輪廻眼すら得ている。つまり││﹂
﹂
!
イズナはこの戦争で十尾の人柱力になるつもりはなかった。そうする必要もなく、十
だ。
アカネならば、輪墓を受けながらも自分を打倒しそうなイメージが浮かび上がったの
だが、輪墓の力があればアカネに絶対に勝てる、と断言出来る自信はなかった。あの
・・・
勝てるだろう。イズナはそう思っている。
イズナの持つ輪墓の力はアカネですら防げなかった。輪墓の力があればアカネにも
でしなければ、貴様を相手に勝利は確信できんとな
﹁認めよう。認めたくなかったが、それでも認めるしかない。日向ヒヨリよ⋮⋮ここま
NARUTO 第四十話
1238
尾の力と己の力があれば勝利は確定しているものと思っていた。
﹂
だが、マダラを奪われ、柱間を復活させ、別天神を防がれた。ここまでされては最早
悠長な事を言ってられはしない。
﹁この力で日向ヒヨリを殺す。他はどうでもいい。日向ヒヨリさえ殺せば⋮⋮
││
!
﹂
!
﹁今のオレに別天神など効かん。仮面がなくなった理由をもっと深く考えるべきだった
﹁別天神が⋮⋮
失敗という結果に終わった。
﹁無駄だ﹂
それを好機と取ったシスイが一か八かの賭けに出たのだ。そしてその賭けは││
十尾の人柱力となった際に仮面はその顔から外れていた。
今までイズナが仮面を被っていたのはシスイの別天神を警戒しての事だった。だが、
を、シスイは待ち続けていた。
マダラを開放する為に使用した別天神とは別の、もう片方の別天神。それを使う機会
神威空間から現れたシスイがイズナに向けて別天神を放つ。
││別天神
に群がる忍連合軍など、一瞥だにしなかった。新たに出現した、己の同胞にも、だ。
その時点で戦争は己の勝利となる。イズナにはその確信があった。だからこそ、周囲
!
1239
な﹂
そう、イズナから仮面がなくなった理由。それは人柱力となる際の衝撃で外れたので
はない。仮面を必要としなくなったから、外したのだ。
その事実に驚愕するシスイを他所に、イズナは一瞬でその場からシスイの後方へと移
﹂
動する。
﹁
も││
日向ヒヨリィィ
﹂
!
だからこそ、ナルトを連れて逃げる我愛羅を無視した。だからこそ、サスケを治療す
はおろか、忍連合軍自体を歯牙に掛けていないのだ。ただ一人、日向アカネ以外は。
自分を殺さなかったのは同胞だからとか、そんな理由ではない。もはやイズナは自分
怨嗟の声を上げ、イズナは消えた。そして、シスイは理解した。
!
だが、イズナはそうしていない。その理由は何なのか。同胞だからだろうか。それと
うと思えば、一瞬で殺す事が出来ていたのだ、と。
はなく、ただただ単純に速いだけのもの。だからこそ理解出来る。イズナは自分を殺そ
今のタイミングならば確実に殺す事が出来ていた。イズナの動きは瞬間移動の類で
自分を通り過ぎたイズナにシスイは疑問を抱く。何故、自分を殺さなかったのか、と。
!?
﹁貴様さえ殺せば⋮⋮
NARUTO 第四十話
1240
るサクラを無視した。だからこそ、イズナのプレッシャーに耐えながらも攻撃しようと
していた忍達を無視したのだ。
イズナの全ては、日向アカネを殺す事だけに向いていた。
◆
││速い
││
そして三人が戦闘態勢を取った後に、イズナが現れる。
を巻き込んでしまうからだ。
の場に留まり、イズナと決戦する事にした。これ以上忍連合軍の部隊に近付けば、彼ら
今のイズナは真っ先にアカネを狙ってくるだろう。それが理解出来ていた三人はこ
そして、こちらに向かってくるだろう。
今 更 向 か っ た 所 で 意 味 が な い 事 を 感 じ 取 っ た の だ。イ ズ ナ は 既 に 目 的 を 果 た し た。
イズナの元に向かっていた初代三忍は、その動きを止めて戦闘態勢に移行した。
﹁分かっている﹂
﹁ああ⋮⋮﹂
﹁二人とも⋮⋮﹂
1241
!
三人の思いが一致した。それはイズナが現れたのが瞬間移動によるものではなく、単
純な速さによるものだと三人が見抜いた事を意味する。
めに戻ってきてやったぞ﹂
﹁待たせたな日向ヒヨリよ。単純な強さでは敵わんと言っていたな。それが本当か確か
これほどの力の差ですら跳ね除ける事が出来るのか。イズナは先のマダラの言葉が
﹁⋮⋮それ言ったの私じゃないんだけど﹂
どこまで真実なのか、どこまで自分に付いてこれるか確かめようとしているのだ。
﹁やれやれ⋮⋮ここまで力の差のある戦いはどれほどぶりか⋮⋮﹂
﹂
﹁ほう、今までにも経験があるみたいなセリフだな。お前に敵う者がオレ以外に今まで
にもいたのか
敵と戦った憶えなどなかった。逆の意味でなら常にあったが。
だが、アカネと付き合いが最も長いだろう柱間とマダラには、アカネが力の差のある
アカネの言葉はイズナにも、そして柱間とマダラにもそういう意味に聞こえた。
?
は絶対に不幸だとは言い切れない思いがあった。
自分よりも強い敵と戦う。それは普通に考えれば不幸だろう。だが、アカネにとって
手と戦う機会も少しはありましたよ。幸か不幸か、本当に少しですけどね﹂
﹁まあ、これでも経験は積んでいますからね。あなたよりも遥かにね。自分より強い相
NARUTO 第四十話
1242
・・
強敵と戦いたい。それはアカネの武人としての根幹に根付くものだ。どれだけ年月
が流れようと、幾つの人生を歩もうと、それが崩れ去る事はなかった。
﹁穢土転生であるオレ達には相性の悪い相手という事か⋮⋮﹂
にくい相手と言えた。
ればかりか穢土転生故に医療忍術による回復も出来ない分、下手すれば生身よりもやり
ま無力化されるだろう。穢土転生の不死性を期待した戦いは出来ないという事だ。そ
そしてイズナに傷つけられた穢土転生体は再生する事は出来ず、深手を負えばそのま
ズナの背後に浮かぶ九つの黒い球││に触れればあらゆる物体が消滅する。
その身にあらゆる忍術は効果を及ぼさず、陰陽遁によって作り出された求道玉││イ
り、今のイズナは六道仙人と同じ力を持っている。
そう、それこそが六道仙人の力。陰陽遁を完全に制御出来る者は六道仙人のみであ
だ﹂
よ。恐らく今のイズナは陰陽遁を完全に操り、全ての忍術を無にする事が出来るはず
﹁忍の祖⋮⋮後ろのはやはり求道玉、ならば⋮⋮。柱間、今のイズナから深手を負うな
至ったのだからな﹂
﹁当 然 だ。オ レ は 最 早 貴 様 を 越 え た。こ の 身 は 忍 の 祖 と 同 じ、い や そ れ 以 上 の 存 在 に
﹁イズナ、あなたは強い﹂
1243
﹂
﹁そういう事だ。もはやお前達に出来る事はない。消えるならば追いはせん。オレの狙
いは日向ヒヨリだけよ⋮⋮
﹂
!
﹂
分身が来るぞ気を付けろ
﹁見えぬ敵を相手にどうせいと言うのか
﹁ちっ、柱間
だが、イズナもまたそれをさせじと二人に分身をぶつけた。
の隣に立つ。
アカネのみを狙うと告げるイズナに対し、柱間とマダラは当然それをさせじとアカネ
!
メージを受けても、穢土転生ならば再生する事が可能だったのだ。
唯一の救いは、輪墓イズナには六道の力が備わっていない事か。輪墓イズナからダ
体の輪墓イズナが向かっていたから尚更だ。
撃は不可能な事に変わりはなかったのだ。しかも輪墓イズナが見える分、マダラには二
マダラも輪墓イズナの攻撃を回避するのが限界だ。輪廻眼では見る事は出来ても、攻
ず、攻撃も効かないとなれば然しもの柱間も手の打ちようがなかった。
マダラはまだ輪廻眼により輪墓イズナを視認出来るが、柱間はそうはいかない。見え
!
!
﹂
!
﹁随分と評価されたものですね。まあ、嬉しくもありますよ﹂
る
﹁さあ、これで邪魔者はいない。貴様とは一対一で戦って、そして圧倒的な力で殺してや
NARUTO 第四十話
1244
そう言って、アカネは笑いながら構えを取る。その構えは、柱間やマダラが知る柔拳
の構えではなかった。
理解出来たようだ。
!
﹂
!
﹁伊達に長く生きていない事を教えてやろう﹂
﹁格の差を教えてやろう
てようと、圧倒的な差を覆す事は出来はしないのだ、と。
だが、イズナはそれを否定する。どれほど技量に長けてようと、どれほど技術が優れ
いの経験を持つアカネのその言葉には重みがあった。
強さとは単純なスペックだけで決まるものではない。誰よりも長く生き、誰よりも戦
﹁来いイズナ。強さとは数値で計れるものだけではない事を教えてやろう﹂
﹁あくまでオレに勝つつもりか⋮⋮
﹂
ただし、言葉通りの意味でだ。アカネが何を言わんとしているのか、それはイズナも
アカネのそれを上回っていた。
それは全て真実であった。アカネが僅かな時間で感じ取れたイズナの力量は、完全に
かないでしょう﹂
すら私を越える。それらの単純な強さを数値化出来るならば、私はあなたの半分にも届
﹁もう一度言おう。イズナ、あなたは強い。身体能力は比べるまでもなく、チャクラ量で
1245
NARUTO 第四十話
1246
神話の再現である六道イズナと、千年を越える研鑽を持つ武人アカネ。その二つが
今、激突した。
◆
先に動いたのはイズナだ。アカネとの間合いを一瞬で詰め、右手に持つ黒い錫杖││
求道玉が変化したもの││を袈裟切りに振るう。
それをアカネは僅かに身体を逸らす事で避ける。その瞬間、イズナは二つの求道玉を
アカネの足元へと移動させ、その足を払うように左右から交差させる。
払うように、と言ったが、求道玉に触れてしまえばあらゆる物体は消滅してしまう。
それが防げるのは六道仙術を得た者のみ。つまりアカネでは求道玉が命中した瞬間、そ
の部位は消滅してしまう事になる。
アカネは足元に迫る求道玉を跳躍して避ける。だが、宙に浮いた事で完全に無防備と
なったアカネに向けて、イズナが求道玉の錫丈を振り下ろした。
逃げ場はない。宙に浮いたまま自在に動く事が出来るのは今の世ではオオノキと、六
道仙術を得たイズナくらいだ。
イズナは早くも終わりかと、呆気なく終わる事に対して若干のつまらなさと、そして
勝利の笑みを浮かべ││その予想を覆された。
﹂
!?
しまうだろう。
だ。二人のチャクラはもう殆ど感じられない程に弱まっている。このままでは死んで
アカネはそう考えるが、懸念する事はイズナの倒し方ではなく、ナルトとサスケの事
様はあるな。
り、身体能力は完全に自分を上回る。だが、反応出来ない程ではない。ならば対処の仕
再生力も桁外れかと、アカネはイズナの情報を修正する。先の移動を見て予想した通
て再生し、その傷跡は欠片も残ってはいない。
だが、その程度の損傷はイズナにとって痛手ですらなかった。空いた風穴は一瞬にし
﹁⋮⋮器用な事だ。流石は最強の柔拳使いか。空中戦もこなせるとはな﹂
風穴を空けたのだ。
のつま先ただ一点のみにチャクラを集中させ、無駄な破壊を生まずにイズナのわき腹に
それだけではない。逃れる瞬間にアカネはイズナの肉体に一撃加えていた。一点、足
ら逃れていた。
噴出する事で、その勢いを利用して宙を移動したのだ。それにより、錫丈の攻撃範囲か
錫丈を振り下ろした先にアカネはいなかった。アカネは肉体の一部からチャクラを
﹁む
1247
NARUTO 第四十話
1248
サスケはまだいい。死んでも時間が経ちすぎなかったらまだ蘇生も可能だ。だが、ナ
ルトは九喇嘛を抜かれている。こうなったらアカネが再生忍術を使用しても確実に助
けられるかは分からない。
何をする気だ。ナルトは我愛羅が連れているのか。どこに││な
││サスケの元にはサクラがいる。ならば治療により助かる可能性も、いや、大蛇丸
がサスケの傍に
││ん
││
嘛を入れ直すつもりだろう。ミナトの元に行けばそれが可能だった。
ナルトに至っては無事に回復する可能性が高くなった。九喇嘛を抜かれたから、九喇
信じている。何らかの処置を施すつもりだろう。
の傍に近寄ったのは気になるが、今更サスケの肉体を奪うような事はしないとアカネは
アカネは二人の現状を把握し、そしてどうにかなる可能性を見出す。大蛇丸がサスケ
るほど、ミナトの⋮⋮なら、ナルトは助かる可能性が高いな。
?
神威空間ならば未だ戦場に存在する白ゼツに襲われる心配もなく、安全に二人の治療
に移動させられたのだろう、と。
だ。一瞬疑問に思うが、アカネはすぐに理解した。ナルト達がオビトによって神威空間
チャクラが消えていた。それだけではない、サクラと大蛇丸とミナト、そしてクシナも
アカネが二人が助かる可能性を見出した時、アカネの感知範囲からナルトとサスケの
?
に集中する事が出来る。より助かる確率が上がるというものだ。アカネはオビトの判
﹂
断に笑みを浮かべる。
﹁⋮⋮何が嬉しい
﹂
!
考えたならば即実行。敵を相手に遠慮は必要ないのだ。
らば仙術ならばどうだろうか。
マダラはイズナには全ての忍術が効かないと言っていたが、体術は効果があった。な
一方アカネはイズナへの対策方法を模索していた。
ナは自分にそう言い聞かせる。
そんなはずはない。六道仙人を越えた自分に敵う者等この世にある訳がない。イズ
てしまうのだ。
圧倒的有利なはずなのに、何故かアカネを前にするとその有利がちっぽけな物に見え
イズナは更に苛立つ。
この状況にあって良い事があっただなどと、戯言としか思えない事を口走るアカネに
﹁どこまでも癪に障る⋮⋮
﹁気にするな。少し良い事があっただけだ﹂
るのだ、と。
それがイズナには癪に障った。今の自分と戦って、どうして絶望ではなく笑顔になれ
?
1249
NARUTO 第四十話
1250
││仙法・風遁大突破
││
高速で接近するアカネに対し、イズナは四つの求道玉にて迎撃しようとする。
ようという考えもあった。
事でそのプライドをへし折り、アカネに対して負ける可能性を考える己の弱気を払拭し
相手の土俵だろうと負けはない、という自信があるのだ。同時に、相手の土俵で勝つ
その接近戦を敢えて受けた。
イズナは、求道玉を持つ自身相手に接近戦を挑む事の愚かさに嘲笑を浮かべ、そして
次にアカネはイズナの元に自ら移動し接近戦に望んだ。
う。
防一体の便利な能力というのが確認出来ただけだ。ならば、直接当てるしかないだろ
これでは仙術が効果を及ぼしたかどうかは判断がつかない。求道玉は変幻自在で攻
イズナの身体を覆い、大突破を全て防ぎ切ったのだ。
だが、大突破により生み出された風圧は求道玉によって防がれた。求道玉が変化して
のは威力ではなく当てやすさなのだから。
だ。雷遁系も速度という点では上だが、範囲という点では大突破が上だ。確認に必要な
この術を選んだ理由は、単純に効果範囲と発動速度、術自体の速さに優れているから
アカネは仙術によりその効果範囲と威力を大幅に拡大させた風遁・大突破を放つ。
!
飛翔する求道玉は変幻自在に動き、アカネに攻撃を仕掛ける。それを紙一重で躱しつ
つ、アカネはイズナに向けて近付いていく。
四つから六つに求道玉が増える。だが、例え後ろから迫ろうと、死角がないアカネは
求道玉を完全に見切り、回避していた。
アカネに死角がないのは白眼によるもの││ではない。確かに白眼は360度とい
う視界を有しているが、僅か一部のみ視界が届かないという弱点を有している。これは
アカネと言えど変わりない弱点だ。
だが、それでもアカネに死角はない。その理由は単純明快。視界に頼ってはいないか
らだ。白眼の使い手としてはまさしく矛盾している理由だろう。
アカネにとって白眼とはここ百年程で手に入れた力だ。その前のアカネは白眼など
有してはいなかった。だからこそ、アカネは視界に頼らずに、気配や空気の動き、直感
などで死角を消す術を得ていたのだ。
白眼に死角あれど日向アカネに死角なし。そして、その技術と体術を融合させて、ア
カネは全ての求道玉を避けながらイズナの眼前まで近付いた。
元より身体能力とそれを強化するチャクラはイズナが圧倒的に上なのだ。例えアカ
だが、アカネの神技を見てもイズナは一切うろたえる事はなく、冷静に対処する。
﹁ふん﹂
1251
ネが体術を極めていようとも、その差は覆しようがない。
イズナはそう確信し、超速の動きにてアカネに拳を叩き込む。そして││
﹂
そしてその結果は││
モードにて仙術を籠めずに術を使うという、無駄に器用な技術であった。
通常の忍術が通用するか、仙術が通用するか、それを同時に確かめる為である。仙人
右手は通常の螺旋丸。左手は仙術を籠めた螺旋丸をだ。
アカネはイズナにその力を返し吹き飛ばすと同時に、左右の手で螺旋丸を叩き込む。
イズナが知らなくて当然と言えよう。
にまで到達した者はまだいない。つまりこの技術は日向アカネのみの技術なのである。
今の世の中で合気を扱える者はアカネが指導した極僅かな忍のみ。その上、この真髄
世では編み出される事がなかった合気柔術である。
アカネがしたのは、相手の力をそのままに相手に返すという合気の真髄だ。この忍の
これにはイズナも混乱した。一体何をされたのか、全く理解が及ばないのだ。
拳に籠めた威力がそのままに、自身へと返って来た。
﹁││
?!
左手の仙術を籠めた螺旋丸が炸裂した部分は傷ついていた。つまり、仙術ならば今の
﹁なるほどな。忍術は無効化するが、仙術は効果ありと﹂
NARUTO 第四十話
1252
イズナにも効果がある事が実証された訳だ。そしてアカネはここまでで得た全ての情
報を纏める。
体 術 と 仙 術 な ら ば 効 果 あ り。た だ し そ の 動 き は 全 て に 置 い て 自 身 を 上 回 っ て い る。
だが、技術ならばこちらが上。求道玉と呼ばれる黒い球は自在に動かす事が可能で、形
も流動的に変化する。効果範囲はまだ不明。大突破を無効化した事から、求道玉に触れ
るのは危険⋮⋮。
最後の、求道玉の効果に関してはまだ確認が出来ていなかった。なら、確認すればい
いだけだ。
体術が有効ならば物理攻撃全般は有効なはず。そう判断したアカネは懐から手裏剣
を取り出した。
││
!
全ては錫丈が盾の様に変化した事で防がれてしまう。
アカネのチャクラにて万を越す数にまで増殖した手裏剣がイズナを襲う。だが、その
投擲した手裏剣そのものを影分身で増やすという、影分身の応用忍術だ。
││手裏剣影分身の術
剣を投擲すると同時に術を放った。
久しぶりに戦闘で手裏剣を使用する事に、アカネは思わず呟いてしまう。そして手裏
﹁忍具使うのどれくらいぶりだろ﹂
1253
だがアカネにはそれで問題はなかった。元よりダメージを与えたくて放った術では
ない。確認したかったのは、求道玉の効果である。
できる点からも、塵遁を上回ってるけど﹂
﹁オオノキの塵遁みたいなものか。触れた物質を消滅させる⋮⋮形状の変化や術を保持
﹂
?
││まあ、やってみるか││
つ確認したい事が出来た。それが上手く行けば││
イズナが考える事はアカネも考えていた。そして、求道玉の能力を確認して、もう一
るだろう。そうなればイズナの勝利だ。
いずれは求道玉か、イズナ本人に捉えられ、そして防御も意味なく肉体を削り取られ
玉を全て回避し続けるのは不可能に近い。
ズナとは基本スペックが違い過ぎる。長期戦になればイズナが有利であり、そして求道
そのイズナの予想は間違ってはいないだろう。アカネが強いとはいっても、やはりイ
と、結局はジリ貧となるだけだ。
抗う事は出来ない。妙な体術を使うが、それも決定打にはならない。どれだけ耐えよう
そして、それでも問題ないとイズナは思っている。いくら分析しようが求道玉の力に
アカネが自分の能力を分析している事はイズナにも理解出来ていた。
﹁分析はすんだか。なら、オレの倒し方も編み出せたかな
NARUTO 第四十話
1254
1255
アカネの予想が正しければ、イズナとの戦闘に置いて非常に大きなアドバンテージに
なる。
それを確認する為に、アカネはまたもイズナに対して接近戦を挑む。だが、今度の目
的はイズナへの攻撃ではなかった。
接近するアカネに対し、イズナは当然求道玉を展開した。今度は九つ全ての求道玉を
だ。
アカネはそれを回避するのが精一杯で、イズナに近づけなかった。いや、その様に演
出していた。
そしてギリギリ躱す演出をし続け、アカネの身体が死角となり、イズナからは見えな
くなった瞬間に││アカネは求道玉を僅かに触れてみた。
それは本当に僅かにだ。当たっても大したダメージにはならない様、指先に僅かに触
れただけ。それならば、指の先が少し消滅するだけで、アカネならばすぐに再生出来る
ダメージにしかならない。
そして確認したかった事が理解出来た時││アカネはイズナに向かって直進した。
求道玉は回避しているが、先ほどまでとは打って変わってアカネは確実にイズナに近
付いている。それも猛スピードでだ。
今まで回避が精一杯に見せていたのは演技だったのかとイズナは気付くが、それが何
NARUTO 第四十話
1256
の目的だったのかはイズナにも理解出来なかった。
遠距離で求道玉を動かしてもアカネ相手にはあまり意味はない。イズナはそう悟り、
錫杖を投擲する事でアカネを牽制し、その間に求道玉を全て己の周囲に戻す。
遠距離戦で埒が明かないならば、近距離戦で決着をつけるまで。近距離戦の最中なら
ば、イズナの攻撃と求道玉の攻撃の両方に気を割かねばならず、隙も大きくなるだろう。
そういう判断だった。
そしてその判断は││アカネが狙った通りの行動であった。
アカネはイズナに接近し、そして高密度に圧縮した螺旋丸を作り出す。これならば強
靭な十尾の人柱力の肉体でも耐える事は出来ないだろう。
当然その圧縮螺旋丸をまともに受けるつもりはイズナにはなく、錫杖を振るってアカ
ネを両断せんとする。
アカネは錫杖を躱すが、そこを求道玉にて追撃するイズナ。求道玉を避けたらすぐに
錫杖を。単純だが、隙のない連携によりアカネは螺旋丸を当てるタイミングを得る事が
出来ないでいる。
イズナはアカネの合気を警戒し、自らの身体で体術を繰り出す事はしなかった。イズ
ナは合気の理屈をおぼろげながらに理解していたのだ。
錫杖と求道玉ならば、触れた瞬間にアカネの肉体が消滅する。そうすれば、相手の力
を利用する事も出来ないだろう。イズナのその判断は非常に正しかった。
だが、アカネは非常に非常識な存在でもあった。その非常識さを完全に理解していな
かったのが、イズナの誤算だろう。
いや、誤算というのは流石にイズナに酷だった。何故なら││六道仙術を使えない者
﹂
が求道玉を無効化するなどと、どうして予想出来ようか。
﹁な
イズナに走った衝撃は小さくなく、そして大きな隙を生み出してしまった。
二つにするどころか、ガードした腕すら消滅させる事が出来ずにいたのだ。
だからこそ、イズナは目の前の光景が信じられなかった。錫杖はアカネの胴体を真っ
ドした腕ごと胴体が真っ二つになるはずだった。
だから、この錫杖の一撃を受ければ受けた肉体は消滅するはずであり、アカネはガー
こそアカネは錫杖と求道玉の攻撃を全て避けていた。
触れた対象を消滅される錫杖だ。本来ならば防ぐという行為は不可能であり、だから
ネは避ける事が出来ない錫丈を、その腕で防いだのだ。
求道玉と錫丈の連携にて、ついに憎き日向ヒヨリを追い詰めたと思った矢先だ。アカ
では避けられぬだろう一撃であった。
イズナは信じられないものを見た。アカネに向かっていた錫杖は、体を崩したアカネ
!?
1257
﹁がはぁっ
﹁ぐぅっ
﹂
﹂
く止めの一撃を放とうとして││
マダラには悪いが、今のイズナを生かしておくつもりはアカネにはなかった。容赦な
だろう。その間に頭部も破壊すれば、それで終わりである。
この状態でも生きている事は恐るべき事だが、それでも再生には若干の時間を要する
おかげで即死する事は免れていた。
流石はというべきか、唯一守るべき頭部はどうにか求道玉でガードしていたようだ。
アカネの圧縮螺旋丸が命中し、イズナの胴体の大半が消し飛んだ。
!?
アカネは輪墓イズナから受けたダメージを即座に再生させる。そして、イズナもまた
体の危機を救ったのだろう。
人に差し向けた輪墓イズナ以外にも別の分身が潜んでいたという事だ。その分身が、本
柱間とマダラを見るに、二人は未だに輪墓イズナに足止めを受けていた。つまり、二
!
墓イズナの仕業だと理解した。
﹂
何もない空間から突如としてダメージを受ける。アカネは吹き飛びつつも、これが輪
今度はアカネが大きなダメージを受けて吹き飛ぶ事になった。
!?
﹁くっ、まだ輪墓の分身がいたのか⋮⋮
NARUTO 第四十話
1258
﹂
!?
胴体の殆どが消し飛ぶという重傷を癒しきっていた。
何故⋮⋮何故求道玉が通用せん
!
﹂
?
そして、アカネの説明を受けたイズナは、その怒りを通り越してアカネを完全に危険
説明するのが面倒だったからだ。
アカネが幻術や陰陽遁を防ぐと説明したのは、ボス属性のファジーな性能をいちいち
の効果が及ぶ範疇なのである。当然、無効化した際にかなりのチャクラを消費したが。
求道玉は触れた物質を消滅させるという効果を持つ能力であり、その能力はボス属性
無効化する、という何ともファジーな性能を有していた。
アカネの持つ特殊固有能力︻ボス属性︼は、術者に対する特殊な効果を及ぼす能力を
玉、恐らく陰陽遁の術なんじゃないですか
﹁ああ、言い忘れていましたね。私、幻術だけでなく陰陽遁も防ぐんですよ。その求道
輪墓イズナの攻撃に耐える準備をしつつ、イズナの疑問に答えた。
怒り喚くイズナに対し、アカネは全身のチャクラを更に活性化させて防御力を高め、
納得出来なかった。
それを誰よりも理解しているイズナだからこそ、求道玉が変化した錫杖を防いだ事が
ずして求道玉を防ぐ事は不可能なのだ。
イズナは怒りのままに疑問を叫んだ。いくら日向アカネと言えど、六道仙術を会得せ
﹁貴様⋮⋮どういう事だ
1259
視した。
最早戦いを楽しもうだのと思
﹁⋮⋮求道玉すら防ぐだと。貴様は危険すぎる⋮⋮。圧倒的な力で絶望を与えようと思
﹂
い、輪墓の力を貴様に使わなかったのはオレの驕りだ
わん
!
﹂
﹁無事のようだな
﹂
何を│
?
!
!
﹁ああ。そっちも無事でなにより、イズナは││ん 上空に向かっている
│﹂
?
そう思うアカネの元に、輪墓イズナから開放された柱間とマダラが駆けつける。
間移動は出現にもタイムラグは殆どないようだ。
アカネはイズナが消えた瞬間に、別の場所にてイズナのチャクラを感じ取る。この瞬
﹁消えたか⋮⋮いや、あそこか﹂
イズナは大地にあって使用出来る大国主を発動し、そして瞬時にその場から離れた。
れたのだろう。だが、それはイズナも承知の上だ。
それらの輪墓イズナは集結してそのままイズナ本体に重なっていく。効果時間が切
向けた二体。そして念の為に自身の警護をさせていた一体。計四体の輪墓イズナだ。
そう叫び、イズナは全ての輪墓を集結させる。マダラに差し向けた一体。柱間に差し
!!
﹁アカネ
NARUTO 第四十話
1260
アカネは上空に向かうイズナを感知するが、その目的が理解出来なかった。
イズナは無限月読を行う気だ
﹂
だが、アカネの言葉を聞いた柱間が上空に浮かぶ月を確認した時に、イズナの目的に
いかん
!
気付いた。
﹁ま、まさか
﹄
!
││世を照らせ
無限月読
││
!!
逃れえぬ月の光が、世界を照らす。無限の夢が始まった。
!
輪廻の力を持つ者が月に近付きし時、無限の夢を叶えるための月に映せし眼が開く。
うちは一族に伝わる石碑にある一文が記されている。
と対峙する。
そして、アカネ達がその対処に時間を取られている間に、イズナは夜の空に浮かぶ月
事を理解しており、迎撃の為に地爆天星で作り出した無数の巨石による投擲を行う。
アカネ達はすぐにイズナを止めようと動き出す。だが、イズナはアカネ達がそうする
ズナの狙いに瞬時に気付けた。
無限月読に関する情報を、イズナを除き誰よりも理解しているマダラだからこそ、イ
﹃なに
!?
!
1261
││
!
それが無限月読による幻覚だと理解していても、それに抗う事は出来ず、やがて誰も
く。その中で、誰もが己の望む幸せな世界を見ていた。
影すら貫く無限月読の光により、全ての人間は神樹に縛られ繭の様な物に包まれてい
ていった。
さらにイズナは世界中に神樹の根を張り巡らせ、神樹の生命エネルギーで人々を縛っ
││神・樹界降誕
み込まれ、そして意識を無限月読の中に飲まれていく。
無限月読の光に触れた存在は、老若男女どころか、人も動物も関係なくその幻術に飲
越えて全ての生物を照らしていく。
その光は太陽の如きであり、夜の闇を切り裂き昼の如き明るさとし、そして障害物を
す。
そして天に浮かぶ月に、イズナの輪廻写輪眼が映し出され、全てを照らす光を放ち出
が浮かび上がる。
イズナの額に輪廻眼と写輪眼の模様が重なった第三の瞳、輪廻写輪眼とも言うべき瞳
NARUTO 第四十一話
NARUTO 第四十一話
1262
がその幻術の世界を己のいるべき世界だと感じる様になる。
無限月読に掛かっていない存在はこの世に数人のみだった。穢土転生体の存在達と
アカネ。そして穢土転生の術者であるイズナとその直属の部下である白ゼツと黒ゼツ
の存在である。
穢土転生達が無限月読に掛かっていない理由。それは彼らが穢土転生体だから、であ
る。無限月読は生物のみに作用される術であり、穢土転生で蘇った彼らは意思はあれど
生物としては見なされていない様だ。
アカネが無限月読に掛かっていない理由は、言うまでもなくボス属性のおかげであ
る。ここまでボス属性の存在に感謝した事はアカネの長い経験で初めての事かもしれ
ない。
白と黒のゼツに関しては、理由は定かではない。イズナが作り出した存在な為か、そ
﹂
れとも別の理由があるのか⋮⋮。少なくとも、イズナは己が生み出した存在である為と
思っているだろう。
﹂
﹁無限月読が発動してしまったか⋮⋮
﹁何故オレ達は無事なのだ
だからだ﹂
﹁オレ達が無事なのは恐らく穢土転生だからだ。ヒヨリが無事なのは⋮⋮こいつが異常
?
!
1263
﹁なるほどな﹂
﹁納得するなよおい﹂
軽口を叩くアカネ達だが、その内心はかなり焦燥している。この現状を覆すにはどう
﹂
すればいいのか、甚だ見当が付かないのだ。
マダラにヒヨリ
!
ず、現状打破の為にアカネ達に合流したのだ。
?
﹂
﹁いや、イズナを倒しても無限月読は収まらん﹂
扉間の質問に、無限月読や輪廻眼に最も詳しいマダラが答える。
﹁どうする。これはイズナを倒せば収まるのか
﹂
アカネ達の元に扉間が合流する。彼もまた穢土転生体故に無限月読に掛かっておら
﹁兄者
!
?
なくては解除など夢のまた夢だ﹂
﹁オレのまがい物の輪廻眼でどこまで解除可能か⋮⋮。そもそも、イズナをどうにかし
だが、そこにマダラの歯切れが悪くなった理由があった。
ダラがいれば解除は可能だという事だ。
そこでマダラの歯切れが悪くなる。輪廻眼ならば無限月読を解除できる。ならば、マ
﹁輪廻眼による幻術だ。同じく輪廻眼によって解除は可能だが⋮⋮﹂
﹁ならばどうすればいい
NARUTO 第四十一話
1264
そう、マダラの輪廻眼は穢土転生によるまがい物。その力は凄まじくとも、真の輪廻
眼には遠く及ばないのが現状だ。
そして、例えマダラの輪廻眼で無限月読を解除出来たとしても、イズナを倒さなくて
は意味がない。確実にイズナはその邪魔をするだろう。
﹂
?
マダラの考えだ。
やって倒せというのか。対抗手段がないアカネに、イズナを倒す事は出来ない。それが
見えぬ攻撃にどれほど耐えられるだろうか。こちらの攻撃は全て無効化され、どう
ナと同時に戦っていればどうなっていたか。
アカネが対抗出来たのは、イズナが一対一の戦いに拘ったからだ。初めから輪墓イズ
勝てるかと言えばマダラは否と答えるだろう。
先の一戦ではアカネもまた規格外の能力にて対抗したが、それでもアカネがイズナに
が規格外の存在だ。
イズナは強すぎると言ってもいい。その身体能力、チャクラ量、輪廻眼の瞳術。全て
るのか。
イズナを倒す。そう言うアカネに対し、マダラは確認をした。イズナを倒す事が出来
﹁⋮⋮勝てるのか
﹁なら、イズナを倒すのが先決か﹂
1265
﹁まあ、勝てるか勝てないかではなく、勝つしかない⋮⋮ん
な﹂
光が収まって来ている
アカネの言う通り、月から照らされる光は徐々に弱まりつつあった。
?
残しているアカネには問題ないレベルの消耗であった。
うだった。多少はチャクラが消耗したが、自然エネルギーを取り込み、そして切り札を
そうなる前に勝負を急ごうかと思っていたアカネだが、これならばその心配もなさそ
のチャクラはいずれ尽きていただろう。
も消費し続ける事になるのだ。このまま無限月読が効果を発揮し続けていれば、アカネ
一度無効化すればチャクラの消費も一度だけで済むが、無効化し続けた場合チャクラ
に見合ったチャクラが代償として消費される。
ボス属性で何らかの能力を無効化した場合、その能力に籠められたチャクラと、効果
ではない。便利な能力には相応のデメリットが存在する。それはボス属性も同じだ。
アカネは無限月読を無効化している。だが、それは何のデメリットもなしにという訳
誤算だった。
マダラはアカネが無限月読を無効化しているからそう言うが、アカネとしては嬉しい
らその心配はないのだがな﹂
﹁その様だな。光が収まれば無限月読に掛かる心配もなくなるだろう。もっとも、端か
NARUTO 第四十一話
1266
﹁光が収まったか﹂
やがて、世界を照らす光は収まり、そして世界に闇が戻って来た。だが、無限月読に
捕らわれた人々は元には戻らない。やはり輪廻眼による解術が必要なのだろう。
そして天からイズナが降り立った。そこには完全に勝ち誇った笑みが浮かんでいた。
﹁お前がそう思っていても、もしかしたらマダラに解除出来るかもしれないぞ
﹂
!!
うとする。
﹂
そう叫ぶイズナに対し、アカネ達もまた諦めるつもりもなく、イズナを倒す為に戦お
限月読が実行された所で変わりはせん
﹁愚かだな。ありもしない希望に縋るか⋮⋮。まあ、いい。貴様だけは殺す。それは無
い物の輪廻眼でも解除出来るかもしれない。その可能性は本当に僅かだが存在する。
そう、イズナは嘘は言っていない。だが、それがイズナの思い込みであり、実はまが
?
こうして勝ち誇っているのだ。
言葉が嘘ではない事がアカネには理解出来た。イズナは真にそう思っているからこそ、
まがい物の輪廻眼であるマダラでは、無限月読を解除出来ないとイズナは言う。その
てもだ﹂
こうが、無限月読の中で夢に浸る者達を解放する事は出来ん。それは兄さんの力であっ
﹁全ては終わった。世界はオレという救世主によって救われた。最早貴様らがどう足掻
1267
﹁四対一か。まあ、問題はないが、日向ヒヨリを殺すのに邪魔をされるのも面倒だな﹂
アカネ、柱間、マダラ、扉間。その四人の敵を相手にしても、全力を出して戦う自身
に負けはないとイズナは思う。
だが、アカネ以外の三人が、その身を盾にしてアカネを守れば少々面倒だとも思って
いた。だから、イズナは先に周囲の三人を無力化する事にした。
﹂
イズナは輪墓・辺獄を発動し、四人の分身を呼び出してアカネ達に差し向ける。
﹁分身が来るぞ
そうしてマダラが仲間達に輪墓イズナの動きを声にして警告している隙に、イズナ本
ダラのみだろう。
当然それを視認出来るマダラが皆に警告するが、対応出来るのはやはり視認出来るマ
!
人が大国主の力によってマダラの後ろへと移動した。
﹂
!?
の点穴を貫かれた事により、マダラはチャクラを練る事を制限され、その上大地に縫い
イズナは陰陽遁によって生み出した複数の黒い棒をマダラの身体に突き刺す。背中
よって瞬間移動したイズナの動きを察知する事は流石に無理だった。
輪墓イズナの警戒と、周囲への指示。二つを同時にこなしていたマダラに、大国主に
﹁悪いな兄さん。少し大人しくしてもらうよ﹂
﹁はっ
NARUTO 第四十一話
1268
付けられてしまう。
ぐおっ
﹂
﹁マダラ
﹁くっ
!
﹁う、動けん⋮⋮﹂
﹁全力で下がれ柱間
﹂
﹂
!
アカネはイズナを止めようと動くも、アカネの周囲にも輪墓イズナが存在する。当然
が、輪墓イズナに動きを封じられた柱間にそれは不可能であった。
扉間が封じられた事により、次の狙いが柱間だと確実に理解出来たアカネがそう叫ぶ
ぐっ
黒い棒により磔にされてしまう。
ンターバルも非常に少なくて済む。そうして隙を突かれた扉間もまた、マダラと同じく
大地ある場所ならば大国主で移動できぬ地はない。これほどの短距離転移ならばイ
飛雷神で移動した瞬間に、その場にイズナもまた大国主によって現れたのだ。
そうして飛雷神にて延命する扉間だったが、やはりそれは延命にしかならなかった。
る事は運に頼るしかない。
扉間は飛雷神を駆使する事でどうにか回避するが、それでも目に見えぬ攻撃を回避す
墓イズナの攻撃を避ける事が出来なくなる。
唯一輪墓イズナを視認し、仲間の目となっていたマダラが封じられた事で、柱間は輪
!
!?
!
1269
本体の邪魔をさせるわけもなく、アカネは輪墓イズナによって吹き飛ばされ、その間に
柱間も黒い棒によって完全に身体を固定されてしまった。
果は変わらなかっただろうな。それをお前で証明してやろう、日向ヒヨリよ﹂
﹁初代三忍も、火影も、今のオレにはこの程度の存在だ。例え穢土転生でなかろうと、結
穢土転生で再現出来る強さには限界がある。柱間にマダラ、そして扉間はその限界を
超えた強さを持っていた為に、穢土転生では生前以下の強さしか発揮できない。
だが、例え生前の強さであったとしても結果は変わらない。それを損なっていない完
全な力を有しているアカネを倒す事で証明する。イズナはそう言っているのだ。
﹂
﹁先 程 と は 違 う ぞ。最 早 オ レ の 力 だ け で 勝 と う な ど と は 思 わ ん。兄 さ ん の 力 で あ る 輪
墓・辺獄。それを最大限に利用して、貴様を殺す
そんなイズナに対し、アカネは平然とある提案をする。
を攻撃する準備を整える。
アカネの周囲を四体の見えざる輪墓イズナが囲む。そしてイズナ本体もまた、アカネ
!
戦えば、下手すれば彼らが消滅する恐れもあった。それを回避するべくアカネは戦場を
穢土転生だろうと、イズナの力に掛かれば再生も叶わずダメージを受ける。この場で
﹁⋮⋮いいだろう。死に場所くらいは選ばせてやる﹂
﹁場所を移そう。ここだとマダラ達に被害が出る﹂
NARUTO 第四十一話
1270
移す事を提案したのだが、イズナは拒否する事なくそれを受け入れた。
柱間達はどうでもいいが、マダラが傷つく事はイズナも本意ではないのだ。例え、マ
﹂
ダラが傷ついているのがイズナの仕業だとしてもだ。
﹁ヒヨリ⋮⋮
く。それがアカネの狙いだとイズナは考える。
可能なのは耐える事のみ。そして、耐える内に出来るやもしれないイズナの隙を突
前に、どれだけ警戒しようとも無意味だ。
アカネの言葉に対し、イズナは何も言わずに分身を向かわせる。察知出来ない攻撃の
﹁来い﹂
あって、アカネはゆっくりと風間流の基本とされる構えを取る。
四体の見えざるイズナに、桁違いの力を持つ六道イズナ。その圧倒的に不利な状況に
◆
から一瞬で移動し、マダラ達を巻き込まない場所にて再び対峙する。
アカネを心配するマダラに、アカネは笑顔で応える。そしてアカネとイズナはその場
﹁大丈夫。負けるつもりはないよマダラ﹂
!
1271
だが、イズナのその予想は初手から覆された。輪墓イズナの攻撃がアカネに届いた、
その瞬間││
﹂
四度目もそうならば
?
限のダメージで抑えた。一度ならばまぐれだ。二度までもそう言える。だが、三度目は
だが、またも攻撃が当たる瞬間に、アカネはその身を捻り、輪墓イズナの攻撃を最低
せ、そして輪墓イズナに攻撃を仕掛けさせ続ける。
いや、まぐれにすぎない。そうに決まっている。イズナはそう思う事で精神を安定さ
く。それはどういう理屈なのか。
アカネは輪墓イズナの攻撃を捌いたのだ。見えぬはずの、察知出来ぬはずの攻撃を捌
﹁なんだと
!?
るのだ
ま、まさか⋮⋮見えているというのか
﹂
!?
!
発言を否定した。
イズナは信じられないものを見たかのように絶叫し、そしてアカネの顔を見て自分の
!?
なぜ輪墓にいるオレの攻撃を紙一重とはいえ防げ
滲んでいる。もっとも、傷はすぐに回復しているようだが。
いない。僅かにだが、攻撃が加えられた箇所の服は裂け、肉もまたかすかに裂けて血が
アカネは四体の輪墓イズナの攻撃の全てを捌き続ける。完全に避ける事は出来ては
?
﹁ばかな⋮⋮馬鹿な馬鹿な馬鹿な
NARUTO 第四十一話
1272
﹂
﹂
﹂
アカネは輪墓イズナを見る事は出来ていない。それは絶対だ。何故なら、アカネは自
らの瞳を閉じているからだ。
﹁な、なぜ瞳を閉じている⋮⋮
﹁見えぬ攻撃だ。ならば、見る必要があるのか
見えぬはずだ
イズナの問いに、アカネは攻撃を防ぎつつも律儀に答える。
﹁な、ならばどうやって攻撃を防いでいる⋮⋮
!
﹂
?
輪墓イズナの攻撃はけして格下などという生易しいものではない。今の輪墓イズナ
う。ただし、相手が圧倒的に格下だったならば、の話だ。
理屈の上ではイズナも理解出来る。いや、イズナもそれを行おうとすれば可能だろ
えられるだろう。
肉体に触れた瞬間に、その攻撃に対して対応するように動けば、ダメージは最小限に抑
るならば、攻撃を受けた時の肉体の反応は見えずとも同じだ。ならばその瞬間、攻撃が
なるほど。アカネの言葉は道理だろう。例え見えずとも、攻撃されてダメージを受け
当然の事を述べたかの様なアカネの言葉に、イズナは開口したままにあった。
﹁な、あ⋮⋮﹂
反応すれば致命傷は避けられる。当たり前だろう
﹁見えなくとも、攻撃は来る。当たればダメージを受ける。ならば、攻撃が触れた瞬間に
!
?
!?
1273
は六道イズナの分身だ。六道の力は有してないが、その身体能力は桁違いだ。十尾の人
柱力になっていないイズナの輪墓でさえ、尾獣達を叩きのめしている事からその凄まじ
さは理解出来るだろう。
そんな輪墓イズナを四体同時に相手取り、その全ての攻撃において致命傷を避ける。
それはどういう神技なのか。いや、まさに神技としか言い様がない技術であった。
イズナが理解出来ないのも当然だ。イズナはこの世で最強の忍と呼んでも過言では
ない存在に至っている。そのイズナが、自分では出来ない所業をアカネはこなしている
のだ。
だが、アカネはこの世の誰よりも経験を積んでいる存在だ。その研鑽はゆうに千年を
超える。イズナが理解出来ない年月を掛けて練磨してきた存在がアカネなのだ。
アカネにとって忍の生はせいぜい百年と少しだ。だが、武人として過ごした年月はそ
の十倍以上。忍としてのアカネはイズナに劣る。だが、ここにいるのは忍ではない。武
人に戻ったアカネなのだ。ならば、この程度の技が出来ない理屈がない。
イズナは理解の及ばないナニカを見るような目でアカネを見る。その時だ。イズナ
の意識が完全にアカネに向いている瞬間、イズナの後ろの空間が突如として歪み、そこ
﹂
からクシナが現れた。
﹁なに
!?
NARUTO 第四十一話
1274
﹁喰らいなさい
﹂
オレから尾獣を奪うつもりか
!
に眠る尾獣のチャクラを取り出そうとする。
﹁く、貴様
﹂
クシナの身体から伸びたチャクラの鎖がイズナを捕らえ、そしてそこからイズナの中
!
﹂
!?
﹂
!?
﹁そうだと言ったら
﹂
はないが、ここに至ってアカネ以外を犯人だと思う事はイズナには出来なかった。
イズナは見えない攻撃を放った人物だろうアカネを見る。アカネが何かをした証拠
﹁ま、まさか⋮⋮先程のも貴様か日向ヒヨリ
解出来ない何かのよって攻撃を受け、吹き飛ばされたのだ。
それよりも問題なのは先程の攻撃だ。いや、攻撃だと思われる。イズナは自分でも理
クラが僅かにだ。戦闘力に何ら支障はない。
だが、イズナにとってクシナなど最早どうでもいい。奪われたのは一尾と八尾のチャ
空間へと移動する。
イズナが何らかの力によって吹き飛ばされた隙を狙い、クシナはオビトによって神威
﹁こ、今度は何だというのだ
イズナが吹き飛ばされた事により実行する事が出来なかった。
イズナは求道玉を操り、クシナに向けて放とうとする。だがその行動は、突如として
!
1275
?
﹁何をした
どんな術を使った
﹂
!!
く。
アカネは輪墓イズナの攻撃から致命傷を避けつつ、イズナの言葉を聞いてため息を吐
!?
﹂
﹁自分だって見えない攻撃をしてるじゃないか。私も似たような事をやり返しただけだ
が
?
が、チャクラを全力で解放しようが、それらは視認する事はおろか、感じ取る事も出来
ても何も変わらない通常時のチャクラが映る。例え何をしようとも、螺旋丸を作ろう
天使のヴェールを発動させると、アカネのチャクラは隠蔽され、第三者がアカネを見
力である。
〝天使のヴェール〟。それがアカネの使用した、〝ボス属性〟同様にアカネ特有の能
はず、アカネの能力はこの世界の理から逸脱したものなのだ。
如何なる理屈で成り立っている術なのか。イズナには見当もつかない。それもその
てしても見えないのだ。
見えざる攻撃を二度も受けたイズナは驚愕する。見えないのだ。輪廻眼の力を以っ
で遮られた。
イズナはアカネの言葉を否定しようとするも、それはまたも不可視の一撃を喰らう事
﹁り、輪廻眼を持たない貴様にそんな事が出来るはずが││﹂
NARUTO 第四十一話
1276
ない。輪墓・辺獄のチャクラのみと言えばいいだろうか。
もっとも、アカネの肉体から離れたチャクラはその限りではない。螺旋丸も投擲すれ
ば天使のヴェールの能力から外れ、普通に見えるようになるだろう。
つまり、アカネは天使のヴェールを発動させ、肉体から仙術チャクラを切り離さずに
輪廻眼でも見切れない術だと
﹂
そのまま伸ばし、イズナに一撃を加えた。それが見えざる攻撃の正体だ。
﹁馬鹿な⋮⋮
!?
のか。
!!
るだけだ。激情した相手の心理など読みやすいにも程があるからだ。
アカネの挑発に、イズナは完全に切れた。そうなればアカネとしてはよりやり易くな
﹁ひゅ、日向ヒヨリィィィ
﹂
ているのに、それは卑怯になるから使わないという。これが挑発でなくてなんだという
ナはアカネに見えぬ輪墓・辺獄を使用しているのだ。対してアカネは同じ様な力を持っ
だが、この言葉をイズナに対して言うのは嫌味すら籠もった挑発となっていた。イズ
あまり使わない様にしている事は確かではある。あまりにも強すぎる能力だからだ。
それは完全に挑発の意味を籠めたセリフだった。いや、アカネ自身天使のヴェールは
の様に緊急を要さない限り、使わないでおいてやるさ﹂
﹁そう興奮するな。安心しろ、私がこの能力を使うのはいささか卑怯だからな。さっき
!
1277
イズナの怒りは輪墓にいる分身にも伝わった。だからだろう。アカネの中で想像す
る輪墓イズナの動きと、現実に動いている輪墓イズナの動きが一致し始めたのだ。
﹂
そして、アカネの予測が現実に追い付いたその時、とうとうアカネは輪墓イズナの攻
撃を防ぐ、ではなく躱しだした。
見えているのだろう
!!
﹂
取っていいのか、イズナには分からなかった。
だが、見えずして避けているならば⋮⋮それはもう、アカネという存在をどう受け
ネの事を認めている。
見えているならば、避ける事が出来ても当然だ。それくらいは出来るとイズナはアカ
方がまだ納得が行くからだ。
ズナは見えているだろうと叫ぶ。見えていて欲しい。イズナはそう思っている。その
先程までの憤怒は恐怖へと変化した。変わらずに瞳を閉じているアカネに対して、イ
﹁や、やはり見えているのか
!?
!
その答えは、予測にあった。今までにアカネは輪墓イズナの攻撃を別の角度から観て
察知出来ていない。だが、避ける事は出来る。
アカネは輪墓イズナの姿も攻撃も見えてはいない。それどころか気配や殺意なども
どうやらアカネはイズナには理解の及ばない存在だったようだ。
﹁見えていないさ。だが、予測は、出来る
NARUTO 第四十一話
1278
いた。それは輪墓イズナを直接見ているのではなく、輪墓イズナと戦う柱間やマダラの
動きやダメージを観て、感じ取っていたのだ。
輪墓イズナの身体能力、技術、攻撃パターン。それら全てを、アカネはイズナ本体と
戦っている時に白眼の全周囲に及ぶ視界から観察していた。
そして輪墓イズナと直接戦闘している間に、輪墓イズナに出来る事出来ない事を更に
分析。そして、予測した。次にどう動くか、どう攻撃してくるか、その攻撃を躱せばど
う追撃してくるか、その全てをそれまでの情報から予測したのだ。
十を超える生を歩み、千を超える年を武に費やし、万を超える戦いを制してきた。そ
の経験から来る予測は未来予知に匹敵する。
本来ならば相手の視線や筋肉の動き、習得している武術、戦意や殺気などの意から予
測をするのだが、それらは輪墓イズナからは見取れない。
それ故に情報を集めるのに時間が掛かったが、集まりさえすれば問題はなかった。
避ける、避ける、避ける、避ける。今までとは打って変わって、アカネは全ての攻撃
を避ける。
そして、輪墓イズナの攻撃を大きく跳躍する事で躱し、今まで閉じていた瞳を開いた。
﹂
もはや瞳を閉じて神経を集中する必要もなくなったのだ。
﹁この、バケモノがァァッ
!!
1279
アカネが開いた瞳を見て、イズナは己の全てを見透かされた様な気分になり、怒りと
羞恥、そして恐怖から絶叫する。
││
そして様々な感情をないまぜにしながら、全ての分身と共にアカネへと攻撃を仕掛け
た。
││仙法・隠遁雷派
﹂
当然それを避けるが、そこに輪墓イズナが攻撃を仕掛けてくる。だが、アカネはそれ
今更当たるアカネではない。
イズナの両手から無数の雷が飛び交う。鋭く速い雷がアカネを襲うが、見える攻撃に
!
なぜ当たらん
!
すら当然の如くに避けた。
﹁なぜだ
!
!
ているのだ。
﹁これならばどうだ
﹂
はなく、予測と現実が寸分たがわぬ動きをしているが故に、見えているのと同然になっ
最早アカネの目には輪墓イズナの動きが映っていた。それは本当に見えているので
う、イズナ以上に。
ある意味で、アカネはこの世で誰よりもイズナを理解しているのかもしれない。そ
﹁お前なら、そう動くと思っているからな﹂
NARUTO 第四十一話
1280
││
││地爆天星
!
下地点、そこは多くの忍が神樹に囚われている地点だった。
く降らせ、そして次に万象天引にて天より巨大な隕石を呼び落とす。そしてそれらの落
イズナは天高く飛翔し、地爆天星にて大地から大量の巨石を浮かばせて雨あられの如
││
││万象天引
!
﹂
!
!
﹂
!?
だが、イズナを更に驚愕させる出来事が起こった。アカネは仲間たちを見捨てたので
れがアカネの選択ならば止むなしと、イズナはそのまま巨石と隕石を落とし続ける。
アカネがその選択を選ぶとは思ってもいなかったイズナは僅かに動揺する。だが、そ
ろう。
このままでは本当に無限月読にて眠りに付く忍の幾百人かは巻き込まれてしまうだ
﹁仲間を見捨てただと
その戦術に対して、アカネは何もせずにただ輪墓イズナの攻撃を避ける事に専念した。
日 向 ア カ ネ が 仲 間 を 見 捨 て る 事 が 出 来 な い と 知 っ て い る か ら こ そ の 外 道 の 戦 術 だ。
アカネがそれを防ごうとすればその隙に輪墓イズナの攻撃に晒される。
アカネが巨石や隕石を無視すれば、それらは多くの死者を生み出すだろう。そして、
ぬぞ
﹁奴らは無限月読で眠りに付いているが、死んでいる訳でない 見捨てれば確実に死
1281
はない。助ける必要がなかったから、輪墓イズナの攻撃を避ける事に専念したのだ。
││
││
││尾獣玉螺旋手裏剣
││仙術須佐能乎
!
次はなんだ
何故貴様らが生きている
!?
﹂
陰の九喇嘛は陽の九喇嘛の半身だ。その九喇嘛がナルトの中に入れば、ナルトは助か
うに願った。それが、十尾に封印される前に九喇嘛が我愛羅に頼んだ事だった。
そこで我愛羅はミナトに対し、ミナトの中に眠る陰の九喇嘛をナルトの中に入れるよ
九喇嘛を抜かれたナルトは死に瀕し、我愛羅によってミナトの元へと運ばれた。
時はナルトとサスケが倒れた時間まで遡る。
◆
ルトと、イズナに急所を貫かれた事で死んだはずのサスケだったのだ。
巨石と隕石、その二つを破壊した存在。それは九喇嘛を抜かれた事で死んだはずのナ
!!
乎に劣らぬ仙術須佐能乎が巨大隕石を破壊する。
突如として放たれた巨大な螺旋丸が巨石を全て破壊し、そしてマダラの完成体須佐能
!
!!
次から次に起こる現象に、イズナの理解は追いつかない。
﹁次から次へと⋮⋮
NARUTO 第四十一話
1282
るだろう。
﹂
我愛羅のその願いに、当然ミナトは賛同する。だが、そこに待ったの声が掛かった。
﹁ちょっと待った
!
!
れた事がなかった故にそれを嬉しく思っていた。
私も連れて行って欲しいってばね
!
せずに黙って待つ事は出来なかったのだ。
何も出来ないかもしれないが、それでも息子が死の淵に瀕しているというのに、何も
神威空間に移動しようとしていた二人を止めて、クシナも同行を願い出た。
﹁ちょっと待って
﹂
一方オビトとしては尊敬する師に褒められた事を恥ずかしがりつつも、あまり褒めら
いだった。
ナトは悔いる。だが、それでもこうして成長した姿を見れた事により、嬉しさが勝る想
師として弟子の成長を嬉しく思いつつ、その成長を見届ける事が出来なかった事をミ
ね。師として嬉しいよ﹂
﹁それは⋮⋮確かにそうだね。分かったよ⋮⋮オビト、あのキミが冷静になったもんだ
!
!
と一緒に神威空間に来てくれ。そこなら安全にナルトを助ける事が出来る
﹂
﹁ここは敵地だ先生 いつどこで九尾を狙っているか分かったもんじゃねー オレ
突如として現れたオビトがミナトを止める。
!
1283
NARUTO 第四十一話
1284
そうして神威空間にナルト含む四人が連れられる。そこにはナルトと同じく死に掛
けているサスケと、それを治療するサクラと大蛇丸も存在していた。
大蛇丸はサスケが瀕死の重傷を負ったのを仙人モードで感知し、そしてすぐにその場
へと駆けつけ、サスケを治療するサクラに協力を申し出たのだ。
サクラの医療忍術と、大蛇丸が研究し尽くした柱間細胞。その二つによりサスケは一
命を取りとめようとしていた。
そしてナルトもミナトから陰の九喇嘛を託され、その命を取りとめようとする。
だが、ナルトもサスケもすぐには目覚める事はなかった。
ナルトとサスケが目覚めない理由。それはナルトとサスケの精神世界にあった。
ナルトとサスケは様々な条件をクリアした事により、六道仙人との対面を果たしてい
たのだ。
六道仙人。安寧秩序を成す者。その名を大筒木ハゴロモ。彼は死した後もそのチャ
クラと意思はこの世に留まり、常に世界を見守り続けてきたのだ。
そして待った。己の想いと力を託す事が出来る者が現れるのを、千年もの間待ち続け
たのだ。それが、ナルトとサスケであった。
何故、この二人が選ばれたのか。それは二人がハゴロモの息子であるインドラとア
1285
シュラの転生体だからだ。
インドラとアシュラ。二人は六道仙人の息子でありながら、大きな違いがあった。そ
れは才能だ。
優秀な兄であるインドラと、落ちこぼれの弟であるアシュラ。親が優秀だとしても、
必ずしも子がその才を引き継ぐとは限らない。その典型的な例と言えよう。
才能の差は、そのまま二人の歩む道を真逆とした。
インドラは何でも一人の力でやりぬき、己の力が他人とは違う特別なものだと知る。
そして力こそが全てを可能にすると悟った。
一方アシュラは何をするにも上手くいかず、一人では何も出来なかった。だからこそ
努力し、他人と協力し、修行の苦しみの中で肉体のチャクラの力が開花し、インドラに
並ぶ力を得た。そして強くなれたのは一人の力ではなく、皆の協力や助けがあったから
こそだと理解したのだ。そこには他人を想いやる愛があることを知り、愛こそが全てを
可能にすると悟ったのだ。
ハゴロモはアシュラのその生き方の中に可能性を感じ、アシュラを皆を導く忍宗の後
見人とした。だが、それが悲劇の始まりでもあった。
兄であるインドラは、弟のアシュラと協力してくれるだろうとハゴロモは信じてい
た。だが、インドラはアシュラが忍宗の後見人となる事を認めなかった。
そして、その時よりインドラとアシュラの長きに渡る争いが始まったのだ。
インドラとアシュラの肉体が滅んでも、二人が作り上げたチャクラは消える事なく、
時をおいて転生した。
そして幾度とない転生を経て、インドラはサスケに、アシュラはナルトへと転生した
のだ。
﹁ワシの目にはハッキリとアシュラのチャクラがお前に寄り添うのが見える﹂
ハゴロモの言葉にナルトも思い当たる節があった。今までにも幾度か自分の中にア
﹁⋮⋮﹂
シュラの存在を感じた事があったのだ。
そして同時に、インドラの転生体が誰であるかも理解していた。
そこでナルトは自分達の前の転生者がどうなったかが気になった。その問いに、ハゴ
ロモはどこか悲しそうに語り出した。
ンドラとアシュラの転生体を見た事はハゴロモにもなかった。
それもイズナによって妨げられてしまった。あそこまで共にあり、仲良く笑いあうイ
時、この二人こそがワシの想いを告ぐ者達だと感じていた⋮⋮だが﹂
﹁一世代前の転生者は千手柱間とうちはマダラだった⋮⋮。ワシは二人を見守っていた
NARUTO 第四十一話
1286
かつて失った息子達の笑顔が戻って来たと、精神体の身で喜びを噛み締めていたもの
だ。
なあ六道の大じいちゃん
アカネもずっと転生してんのか
﹂
!?
ものよ﹂
﹁そうだ
!
どういうことだってばよ
﹂
?
得る事ではないはずなのだ⋮⋮。むしろ母の転生体であると言われた方が納得する﹂
など。いくらワシの弟であり、転生眼を開眼したハムラの血を継ぐ一族と言えど、あり
﹁あの者の存在は在り得ないのだ。人の身で十尾に迫ろうかというチャクラを内包する
ぬ存在とは、どういう意味なのか。
ハゴロモの言葉の意味はナルトには理解出来なかった。六道仙人をして理解の及ば
﹁⋮⋮
?
アカネの存在はワシの理解の及ぶ範疇にないのだが﹂
﹁いや、あの者はそうではない。日向ヒヨリの前のあの者をワシは知らぬ。だからこそ、
ナルトであった。
問い掛ける。それは間違っているのだが、ある意味ではアカネの根幹を言い当てていた
アカネもまた誰かの転生体であり、かつては六道仙人の関係者だったのかとナルトは
!
ラの、ワシの弟の血を継ぐ者が、ワシの息子たちの転生体の間を取り持つ。縁とは異な
﹁それもあのヒヨリという不思議な者のおかげか。今はアカネと名乗っておるな。ハム
1287
神樹の実を喰らい、全てを超越した存在を比較対象にされるアカネ。当人が聞けば不
六 道 の 大 じ い ち ゃ ん
満を口にするだろうが、他の者が聞けばハゴロモに同意するだろう。
だって世界の全部を知ってるってわけじゃないんだろうしさ﹂
﹁う ー ん。ま あ、ア カ ネ は 超 ス ゲ ー っ て 事 で い い ん じ ゃ な い
が起こっていた。
そうしてナルトとハゴロモが会話をしている時、現実世界の神威空間では新たな動き
にいるのも理解出来る﹂
来はせん。⋮⋮そういう細かい事を気にせん所も、お前の魅力なのだろう。九喇嘛が気
﹁⋮⋮それはその通りだ。ワシとて神の身ではない。森羅万象をこの身に収めるなど出
?
母として息子のために出来る事がある。そう思った時、十尾の人柱力と化したイズナ
それに対し、クシナは理由も問わずに一片の迷いもなく承諾した。
﹁分かったわ﹂
ズナから奪って来いと言ったのだ。
ナルトの身体に入り込んだ陰の九喇嘛が、クシナに対して一尾と八尾のチャクラをイ
﹁ナルトを救う為に、一尾と八尾のチャクラが必要だ。出来るなクシナ﹂
NARUTO 第四十一話
1288
と向きあう恐怖など、欠片も生まれなかったのだ。
﹁クシナ⋮⋮﹂
﹁ええ、大丈夫よ﹂
ミナトもまた、クシナの覚悟を知って反対はしなかった。命を懸けてでも子どもを守
﹂
る。生前にそれを発揮した自分達が、穢土転生となって今更子どもの為に命を懸ける事
を躊躇うわけがないのだ。
﹂
﹁タイミングはオレが計ります。イズナが隙を見せた時がチャンスです
﹁だが、そう上手くイズナが隙を見せるのか
﹂
!
を倒してしまったりするかもな﹂
﹁⋮⋮そうだな。アカネならきっとやってくれるだろう。もしかしたらそのままイズナ
きっとイズナに隙を作り出してくれるはずだ⋮⋮
﹁い や、多 分 大 丈 夫 だ。今、ア カ ネ ち ゃ ん が イ ズ ナ と 戦 っ て い る。ア カ ネ ち ゃ ん な ら、
た防がれてしまうのではと懸念したのだ。
じ様な奇襲を仕掛けているのだ。イズナがそれに警戒しない訳はなく、今回の奇襲もま
だが、カカシはそれに疑問を抱いた。いくら神威からの奇襲とは言え、幾度となく同
ラを奪い取るタイミングを計ろうとする。
神威空間から唯一外の世界を確認出来るオビトが、クシナがイズナから尾獣のチャク
?
!
1289
﹁ヒヨリ様ならきっとそうだってばね﹂
﹁確かにね﹂
カカシの半分は冗談で、半分は本気の言葉に皆が笑う。我愛羅のみはこの状況で笑え
る木ノ葉の忍達をある意味で尊敬していたが。
そしてイズナに大きな隙が出来た瞬間に、オビトはクシナを現実世界へと移動させ、
そして一尾と八尾のチャクラを奪ったのを見届けてから、再び神威空間へと移動させ
た。
サスケの傷は大蛇丸に柱間細胞を移植された事により塞がれ、それと同時に輪廻眼に
一方サスケもまた精神世界にてハゴロモから想いと六道の陰の力を託されていた。
た。
に己の信じる答えを示し、ハゴロモより想いと六道の陽の力を託されてここに目覚め
ここに、全ての尾獣のチャクラがナルトの中に集結した。そしてナルトは、ハゴロモ
ラ。そして九喇嘛のチャクラ。
二尾から七尾の尾獣に預けられたチャクラ。イズナから奪った一尾と八尾のチャク
う﹂
﹁よ し。そ の チ ャ ク ラ を 早 く ナ ル ト の 中 に 入 れ ろ。そ れ で 全 て の 尾 獣 の チ ャ ク ラ が 揃
NARUTO 第四十一話
1290
開眼する条件を満たす事になる。
﹂
﹂
そして現実世界では、治療を終えたサクラがカカシから頼まれごとをされていた。
﹁え
﹁な、何を言っているカカシ
﹁バカ野郎
そんな事をすればお前の左目が
﹂
!
﹂
?
﹂
!
!
無
!
限月読は発動してしまった イズナを倒しても無限月読は解除出来るか分からない。
くなった。チャクラも尽き掛けている。だから、お前に託すのが一番なんだ⋮⋮
﹁今まで通りじゃ駄目だから、そうしようってんだろ。⋮⋮この左目はもう碌に見えな
からだって
﹁だ、だから、オレとお前が協力すればいいんだろ 今までだってそうだったし、これ
価を発揮するものだ。違うか
﹁オビト、オレの写輪眼は元々お前のだ。そして、写輪眼とは本来両目が揃って初めて真
は制止し、そして諭すように語り出した。
カカシの提案をオビトは却下しようとする。己に詰め寄ろうとするオビトをカカシ
!
﹁サクラ、オレの写輪眼をオビトに移植してくれ﹂
に対し、カカシは再び同じ事を説明する。
サクラもオビトも、カカシの言葉の意味が一瞬理解出来なかった。だが、そんな二人
!?
!?
1291
!
だがな
﹂
倒さなくちゃ可能性はなくなる だったらその可能性をわずかでも上げ
るしかない
!
﹁だ、だけどよ││﹂
す。
火 影 に な っ て、仲 間 を 守 る ん だ ろ
そう言って、カカシは笑顔で左目の写輪眼を抉り取った。そしてそれをサクラに手渡
﹂
! !?
それでもまだ否定の色を見せるオビトの胸倉をカカシは掴み、そして叫んだ。
!?
里の皆を、連合軍の仲間を、世界中の人々を、リンを
﹁お 前 は そ の 写 輪 眼 で 里 の 皆 を 守 る ん だ ろ
﹂
だったら、守ってみせろ
﹁
!
それこそが、オビトの両目に写輪眼を揃える事だ。カカシはオビトにそう言った。
!
!
﹁お前が火影になる姿を、オレの残った右目で見せてくれ﹂
!!
﹂
!
﹂
!
オビトはついに己の真価を発揮出来る様になったのであった。
オビトの左目に、二十年という年月を経て写輪眼が戻る。両目の写輪眼が戻った今、
﹁はい
﹁⋮⋮サクラちゃん、頼む
﹁さあ、放置すれば腐るだけだぞオビト﹂
NARUTO 第四十一話
1292
NARUTO 第四十二話
アシュラの転生体として目覚め、六道仙術を会得したナルト。
インドラの転生体として目覚め、輪廻写輪眼を開眼したサスケ。
二人は六道仙人から託された想いを叶える為に、再び現実世界へと戻って来た。
そして天から降り注ぐ巨石を目の当たりにし、新たな力にてその全てを破壊する。そ
の力は以前のそれとは比べ物にならない程に高まっており、アカネをして驚愕する程で
あった。
?
﹁ちょっと待って。私も第七班の一員なのよ。忘れてもらっちゃ困るわ﹂
だが、その二人に反対したのはアカネではなかった。
終わらせようとする。
互いの力と使命を果たすべく、ナルトとサスケはアカネを休ませて己達の力で全てを
﹁そういう事だ。お前はもう休んでいていいぞ。残りはオレとナルトで片を付ける﹂
﹁ちょっと色々あってな。なーに、後はオレ達に任せておけってばよ﹂
みたいですけど﹂
﹁なんとまあ⋮⋮。一体何があったんですか二人とも 桁違いにパワーアップしてる
1293
そこに現れたのはサクラだ。サスケの治療に体力とチャクラを大きく消耗したが、そ
れでも第七班として二人に置いてけぼりにされるつもりはなかった。
百豪の術を最大限に活性化させ、イズナの眼力に怯まぬ胆力を見せ付ける。
﹁オレも参加させてもらう。次期火影として、仲間を守るのは当然の役目だからな﹂
両目の写輪眼を取り戻したオビトもまた最後の戦いに参戦する。
左の神威による絶対攻撃と、右の神威による絶対防御。その上両目の万華鏡を得た事
により須佐能乎にも目覚めたオビトだ。その戦力はナルト達にも引けを取らないだろ
う。
﹁やれやれ。年寄り扱いされる年齢じゃありませんよ。まだまだ戦えますって﹂
ナルト、サスケ、サクラ、オビト。そして未だ健在のアカネ。
無限月読が世界を支配する中にあって、彼らはまだ絶望していない。それがイズナに
﹂
は理解出来ない。例え自分を倒したとしても、無限月読を解除する事は不可能││
貴様、その左目は
!?
!
るという、輪廻写輪眼に開眼しているのだ。
そこにあるのは確かに輪廻眼の紋様だった。しかも写輪眼の勾玉紋様すら入ってい
が映る。
無限月読を解除する事は不可能。そう考えていたイズナの目に、サスケの左目の紋様
﹁なに
NARUTO 第四十二話
1294
﹁サスケ、あなた輪廻眼を開眼したのですか
﹂
!?
何かくんぞ
﹂
お前には見えないのか
﹁サスケ
﹁何か
オレにははっきりと見えるぞ﹂
?
!
﹂
!
サスケは口寄せした刀を輪墓イズナに投げつけ止めを刺そうとするが、それはすり抜
た。
その一撃は防がれてしまうが、それでも輪墓イズナにダメージを与える事に成功し
﹁ここか
サスケに迫る四体のイズナの内一体を、ナルトは六道の黒い棒にて叩き付ける。
たのだ。
それだけではない。六道仙術ならば、輪墓の世界にいる分身を攻撃する事も可能だっ
ナルトは輪墓イズナを見えずとも感知する事を可能としていた。
輪廻眼を有するサスケに輪墓による奇襲は奇襲足りえず、そして六道仙術を会得した
?
!
イズナはサスケを確実に殺すべく、全ての輪墓イズナを差し向ける。だが││
うやく実現した平和な世界なのだ。ここまで来て崩されてたまるか。
サスケを殺さなければ無限月読が解除される。それだけは許す訳にはいかない。よ
その言葉にアカネは希望を見出し、そしてイズナはその事実に歯噛みした。
﹁ああ。これなら無限月読も解除出来るはずだ﹂
1295
ける事で無効化されてしまう。
﹁サスケ。その分身に通常の攻撃は通用しない⋮⋮はずなんですが、ナルトの攻撃は当
﹂
たっているようですね。あなたも輪廻眼を開眼してるし、この短時間であなた達に何が
あったんですか
る冷静さはアカネにもあった。
!
﹂
そしてその後の攻撃は全て予測し、回避しながらイズナへと向かって行った。
を受けてから身体を捻りダメージを抑える。
それを聞いたアカネは距離感がつかめない最初の一撃だけは避ける事が出来ず、攻撃
する。
アカネを足止めする為に向かわせた輪墓イズナを見たサスケがアカネに対して忠告
﹁そっちに一体行ったぞアカネ
﹂
で襲い掛かるのは好みではないが、世界の命運が掛かっているならば仕方ないと割り切
アカネはそう言って、イズナに向かって直進する。一人の敵を相手にこれだけの強者
﹁じゃあ、後でいいですよ。イズナを倒した後で﹂
﹁説明すると長くなる﹂
?
?
﹁経験と予測と勘ですよ﹂
﹁⋮⋮見えてるのか
NARUTO 第四十二話
1296
﹁⋮⋮そうか﹂
アカネの非常識さを深く考えては負けだと悟っているサスケはそれ以上何も言わず、
﹂
自分を殺す為に迫るイズナ本体に視線を向ける。
﹁貴様さえ死ねば
﹂
!?
イズナに命中させたのである。
サスケは天手力によって石とイズナの空間を入れ替え、石に向けて放っていた千鳥を
る。それがサスケの輪廻眼の瞳術、 天 手 力である。
アメノテジカラ
サスケが視認した一定範囲の空間にある存在や物体の、任意の空間座標を入れ替え
自身の位置が一瞬で入れ替わった事にイズナは気付き、そしてその効果も理解した。
﹁なに
大地へと転がった。
を貫き穿つ事になる。そしてイズナが先程までいた空間に石が出現し、万有引力に従い
瞬間、石があった空間にイズナが突如として現れ、千鳥がまともに命中し、その肉体
槍状に変化させて、離れた位置に転がっている石に向けて投擲した。
それに対してサスケは六道の陰のチャクラを籠めた黒い千鳥を作り出し、その千鳥を
れない。自身の生死よりも勝利条件を満たす事を優先し、イズナはサスケを狙う。
輪廻眼を持つサスケさえ殺せば、そうすれば例え自分が死した所で無限月読は解除さ
!
1297
﹁はぁぁ
﹂
﹂
!
││速い
││
へと移動していた。
だが、錫杖がサクラに触れる瞬間に、サクラはオビトの神威によって安全な神威空間
を払うかのように錫杖を叩きつけようとする。
サクラを警戒に値しないと判断したイズナは、追撃を加えようとするサクラに対し虫
﹁調子に乗るなよ塵芥め
ラが追撃を加えようとする。
六道千鳥が命中したイズナに対し、百豪の術にて溜め込んだチャクラを解放したサク
!
﹂
!
﹂
!
た。
﹁おのれ⋮⋮
ある意味貴様がもっとも厄介だな
ズナの一体が止めようとするが、その攻撃は神威の絶対防御によって意味を成さなかっ
須佐能乎を発動したままにオビトはイズナに向けて突き進んでいく。それを輪墓イ
﹁行くぞ
そして両目の万華鏡写輪眼が揃った事で、オビトは須佐能乎の力にも目覚めていた。
た事により、神威自体の性能も大きく増したのだ。
今までよりも遥かに速い神威の発動速度にイズナが舌を巻く。両目の写輪眼が揃っ
!
!
NARUTO 第四十二話
1298
││
オビトに宿る瞳力に幾度となく煮え湯を飲まされたイズナだ。その厄介さも理解し
ていた。
││神威須佐能乎
携攻撃だ。
﹂
!
そして現れたサクラに向けて錫杖を突き刺そうとし││その錫杖はナルトの求道玉
だが、流石にイズナも神威による奇襲は読んでいた。
﹁何度もその手が通じるか
﹂
一撃の重さではサクラの方が圧倒的に上であり、そして奇襲を仕掛ける事も出来る連
戻し、サクラに攻撃させたのだ。
イズナの後ろの空間に神威を発動させ、そこから神威空間に送っていたサクラを呼び
体術を披露する事はなかった。
術が通用しないなら体術で攻撃すればいい。それは当然の判断だが、オビトが自らの
﹁なら直接叩くだけだ
りはなかった。オビトが仙術を扱えれば話は別だっただろうが。
だが、仙術ではないその攻撃では六道イズナには通じない。それは神威だろうと変わ
物体は全てが神威空間へと飛ばされる、防御不能の絶対攻撃だ。
オビトは須佐能乎の剣に神威の力を籠め、それをイズナに向けて振るう。剣に触れた
!
!
1299
﹂
﹂
によって防がれてしまう。
﹁
﹂
得たイズナに対しても、確かなダメージを与えていた。
サクラは全力でイズナを殴り付ける。その一撃は、十尾の人柱力となり強靭な肉体を
﹁しゃーんなろー
!!
!?
!
つまりあの封印を解かない限り、イズナの呼び出せる分身は二体が限度となる。その
ナは直感した。
封印された輪墓イズナは輪墓の効果時間が切れたとしても、元に戻る事はないとイズ
だが、ここに至って勝ち目が非常に低くなった事をイズナは悟った。
ける予定だ。
残る一体は自分と同化させており、いざという時に身代わりにして致命的な攻撃を避
攻撃を当たり前の様に回避し、弟子たちの戦いぶりを観察していたが。
もう一体はアカネの足止めをしている。と言ってもアカネは余裕の表情で見えざる
ルトの六道仙術によって動きを封じられていた。
そして眼下に映る光景を見た。そこでは自分の分身である輪墓イズナの内、二体がナ
吹き飛ばされつつも、イズナは空中で姿勢を制御し体勢を整える。
﹁くっ
NARUTO 第四十二話
1300
数で、輪墓を視認出来るサスケ、輪墓を感じ取り攻撃と封印をする事が出来るナルト、そ
して見えずとも輪墓の攻撃を回避するアカネ、輪墓ですらダメージを受けないオビト。
この四人を相手に戦って勝てるとは、流石のイズナも思えなかった。
そして輪墓の効果時間が切れ、アカネを攻撃していた輪墓イズナも本体と同化する。
それとほぼ同時にアカネの動きも止まる。輪墓の効果時間すら完全に把握している
様子に苛立ちと恐怖をイズナは抱く。
ここに至っては逃げるのも選択の内か。六道の力を手に入れた今、やろうと思えば無
限月読は月さえあれば可能となった。
この世で無限月読を解除出来るのは自分を除きサスケのみ。今は無理だが、いずれサ
スケを殺す事が出来ればそれで問題はなくなる。大国主の力があれば暗殺も容易だろ
う。
そう思い立ったイズナはここは逃走の一手を取ると苦渋の決断をし、大国主の力を発
﹂
動する為に大地に降り立とうとし││
﹁がっ
しょう
﹂
﹁逃がしませんよ。あなたのあの瞬間移動、大地に触れていなければ使用出来ないので
顎に大きな衝撃を受けて上空へと吹き飛んだ。
!?
1301
?
││そこまで見抜くか
││
﹂
?
ぶつけ、イズナを大地に触れさせない様にしたのだ。
﹁アカネ。あいつを地面に降ろさないようにすればいいんだな
いくぜサスケ
﹂
!
鶴
ナにはどうしようもなかったのだ。いや、餓鬼道にてどうにか吸収しようとはしたのだ
だが、それはことごとくアカネによって遮られた。見えざるチャクラの攻撃は、イズ
どうにか大地に触れようと足掻く。
イズナはその攻撃を保険としていた輪墓イズナを身代わりとする事で回避し、そして
天手力で空間ごと転移させられたイズナが現れ、両方の術を同時に受ける。
ナルトがサスケに、そしてサスケがナルトに向けて同時に術を放つ。その間の空間に
サスケもまた六道の力による黒い千鳥を発動させ、そして天手力を使用した。
借りた術を発動させる。
サスケの策に従い、ナルトは己の中にある尾獣の内、封印術を得意とする一尾の力を
守
大国主の発動条件を見抜いたアカネは、天使のヴェールで不可視となったチャクラを
何度も同じ術を使えばカラクリを見抜かれて当然だ。
!
﹁ええ。そのサポートは私がしましょう。あなた達は全力で戦いなさい﹂
﹁よっしゃ
!
﹁行く必要はない。オレに向かって術を打て。動きを封じる術がいい﹂
NARUTO 第四十二話
1302
1303
が、アカネはそれすら見抜き、見えざるチャクラを放出して衝撃波を作り、それをイズ
ナに叩き付けていた。それでは然しもの餓鬼道でも吸収する事は出来なかった。
大国主を封じられたイズナはアカネの攻撃を逆に利用し、そのまま空中へ逃れようと
する。
そこに神威から現れたサクラとオビトが先回りしていた。二人では決定打に欠ける
が、僅かな時間が稼げればそれでいい。その時間でナルトとサスケがイズナの元に辿り
着き、そして攻撃を加えていく。
単純な戦闘力ではイズナが最も高いだろう。一対一ならば、ナルトもサスケもイズナ
に勝てはしない。
だが、小隊を組んで連携を取る事で、その力の差を逆転させているのだ。イズナはア
カネのみを敵と見ていた。アカネ以外の存在を有象無象としか見ていなかった。だか
らこそ、イズナはこうしてナルト達に追い詰められていた。
そうして、イズナを追い詰めるナルト達を見てアカネは微笑む。
││ああ、今の彼らには私も勝てないかもな││
そこには弟子の成長を喜ぶ師としてのアカネと、新たな好敵手の誕生を喜ぶ武人とし
てのアカネがあった。
もはやイズナに勝ち目はなかった。まだ余力は多く残っている。だが、イズナ一人で
はナルト達の連携に対処する事は出来なくなっていたのだ。
六道仙術を得たナルト。輪廻眼に目覚めたサスケ。その二人を攻撃力と回復力に秀
でたサクラと、神威という凄まじい性能を誇る瞳術を持つオビトがサポートする。
大国主で逃げようにも、それはアカネによって妨げられる。輪墓イズナも封じられ、
六道イズナの全力もナルトとサスケのコンビを相手に決定打足りえない。
﹂
!
うとしたのだ。
う、それでいて地殻を変動させるほどの出力を調整し、無理矢理に大国主を発動させよ
ようとすれば邪魔が入るなら、大地の方を引っ張り上げる。大地から岩が離れないよ
イズナは大国主を発動する為に、地爆天星にて大地を強引に隆起させる。大地に降り
今更無駄にする訳にはいかない。
で死ねば今までの全てが無意味と化す。それだけは、兄を犠牲にしてまで進めた計画を
どうにかして逃げなければならない。その為の手段を講じなければならない。ここ
で戦況が良くなる訳ではない。
空中にて怒りと焦燥に駆られ、ナルト達を憎々しげに睨みつけるイズナ。だが、それ
手詰まりだ。それがイズナにも理解出来てしまった。
﹁お、おのれ⋮⋮
NARUTO 第四十二話
1304
当然それを許すアカネではなく、イズナが隆起した大地に触れる前にイズナを攻撃し
ようとして││
﹄
﹁な││﹂
﹃
ていた。
﹁き、貴様⋮⋮何故造物主であるオレに逆らう⋮⋮
﹁造物主
﹄
・・・
違ウナ。オレノ造物主ハ、オレノ母ハカグヤダ﹂
の存在だ。
カグヤ。それはハゴロモがナルトとサスケに語った話の中での登場人物。遥か過去
突然の出来事と黒ゼツの言葉に誰もが混乱する。
﹃
?
﹂
黒ゼツによって胸を貫かれたイズナは、謎の力によって動く事も出来ずにただ困惑し
◆
貫かれた。
それよりも僅かに早く、大地から突如として出現した黒ゼツによって、イズナの胸が
!?
!?
!
1305
それがどうして黒ゼツの母となるのか。一体黒ゼツは何をしようとしているのか。
疑問に思うアカネ達を見ながら、黒ゼツは笑みを浮かべながら話を続ける。
﹂
能性ハ少シデモ減ラシタカッタトコロダ。オ前達ガイズナヲ消耗サセテクレタノハ好
﹁輪廻眼ヲ四ツモ手ニ入レタ存在ハイズナガ初メテダ。母復活ニ下手ナ抵抗ヲサレル可
﹂
都合ダッタ﹂
﹁母復活
﹁カグヤ⋮⋮まさか
﹂
﹂
こいつが動き出す前に止める
!
が耐え切れず、膨張を始めたのだ。
﹁ああ
﹂
チャクラの吸収と共にイズナの身体が変化していく。膨大なチャクラの吸収に肉体
人々からチャクラを抽出し、吸収しているのだ。
地中から膨大なチャクラが溢れ出す。無限月読に囚われ、神樹によって縛られている
そして、その恐るべき可能性はイズナの絶叫と共に具現化していった。
黒ゼツの言葉とハゴロモとの会話から、ナルトは恐るべき可能性を頭に浮かべる。
﹁グオオオ
!!
!?
?
!
黒ゼツの企みを成就させてはならない。そして何より、このままではチャクラを吸収
!
﹁ナルト
NARUTO 第四十二話
1306
されている人々の命に関わるだろう。
それを防ぐ為にナルトとサスケはイズナ││いや、イズナだったモノを封印しようと
する。
だが、それは黒ゼツにとっては好都合な行動だった。膨張を続けるイズナだったモノ
から、膨大な髪の毛の束が伸び、一瞬にしてナルトとサスケを捕らえてしまったのだ。
そして二人からチャクラを吸収し始める。このままでは自分達も、そして人々も死ん
でしまう。そう焦る二人に対し、黒ゼツは無限月読に囚われている者達に命の別状はな
い事を告げる。
だが、それは人間として無事という意味ではなかった。
無限月読。それはイズナが信じたように、人々に永遠の安寧をもたらす術ではない。
その本来の用途は、カグヤの兵を生産する為のものであった。
無限月読に囚われた人々は、いずれその肉体を変化させてカグヤの従順な兵士と化
﹂
す。その成れの果てが、白ゼツなのだった。
﹁オビト
﹂
アカネが仙術チャクラを取り込ませる事で十尾の人柱力にも通用する様にした神威
オビトが神威須佐能乎にてナルトとサスケを捕らえる髪の毛を切り裂こうとする。
﹁分かってる
!
!
1307
NARUTO 第四十二話
1308
須佐能乎は、その髪の毛を確実に切り裂いた。
解放されたナルトとサスケは即座にその場を離れ、そしてイズナの変化を見届ける。
イズナだったモノは更に膨張を続け、そして一定の大きさから急速に縮小し始めた。
そして、一つの存在が現れた。十尾を取り込んだイズナに、無限月読で囚われた人々
からチャクラを吸収する事で封印から目覚めた者。
額に二本の角、その中央に輪廻写輪眼を、両目には白眼を有する女神。それこそが、か
つてハゴロモによって封印された大筒木カグヤだった。
大筒木カグヤ。その正体は異空間からこの星に渡ってきた異邦人だ。
カグヤはかつて神樹││十尾の正体││を追い、この地へとやってきた。そして神樹
になったチャクラの実を喰らい、圧倒的な力を手に入れたのだ。
いや、チャクラの実を喰らう前から、カグヤは恐るべき力を有していた。だが、カグ
ヤはその力を慈愛と平和の為に使っていた。この地を治めていた時、民からは女神と崇
められてすらいた。
それが神樹の実を喰らった事で変わってしまった。カグヤの性格は徐々に変化し、そ
していつしか多くの民から恐れられる様になったのだ。
そして愛していた二人の息子も離反し、カグヤは全てのチャクラを己に取り戻す為に
二人の息子と争った。そして、ハゴロモによって封印されたのである。
1309
だが、カグヤは封印される前に最後の足掻きとして黒ゼツを生み出していた。第三の
息子と言うべき黒ゼツは、母復活の為に動き始めた。
その為に黒ゼツはハゴロモが残した石碑を改竄する。それにより、うちは一族は石碑
に記された言葉を間違った意味で捉えてしまい、その傲慢と暴走の一助としてしまった
のである。
ハ ゴ ロ モ の 子 ど も で あ る イ ン ド ラ が ア シ ュ ラ と 争 っ た 裏 に も 黒 ゼ ツ の 影 が あ っ た。
黒ゼツはそうして長き年月を掛けて、カグヤが復活する土壌を整えていたのだ。
その中で、黒ゼツはマダラという最高の素材を見つけた。マダラならばいずれ輪廻眼
に開眼し、カグヤ復活の計画を進める事が出来ると期待したのだ。
だが、その期待は裏切られた。事もあろうに、インドラの転生体であるマダラは、ア
シュラの転生体である柱間と友となったのだ。それも、インドラとアシュラの因縁によ
る憎しみすら超える程の友に。
その功績が日向ヒヨリにあったのは言うまでもない。だからこそ、黒ゼツはイズナ以
上に日向ヒヨリを憎々しく思っていた。
マダラと柱間は互いに裏切る事のない無二の親友となった。だが、それでも黒ゼツは
諦めなかった。彼にとってカグヤ復活は、例え何千、何万年経とうとも成し遂げなけれ
ばならない悲願なのだ。
そして黒ゼツは、マダラを罠に嵌めるべく動き出した。そう、イズナに狙いを付けた
のである。永遠の万華鏡写輪眼の情報を気付かれぬ様にイズナに与え、そして千手一族
や木ノ葉隠れに対する憎しみを煽っていく。
イズナは黒ゼツの予想通りに、いや予想以上に踊ってくれた。別天神に目覚め、マダ
ラを操り、柱間の細胞を手に入れてマダラが輪廻眼を開眼する条件を整えるばかりか、
自らが輪廻眼に開眼する。黒ゼツにとっては大金星と言える活躍だ。
流石にマダラの輪廻眼すら移植したのは少々予想外だったが、それでもこうしてカグ
ヤ復活に至った今では些細な事だった。
こうして、千年に渡り忍界の裏で暗躍した黒ゼツにより、大筒木カグヤが復活を果た
したのだ。
アカネもまた、白眼にてカグヤを見る。そしてその圧倒的な力を見抜く。今のカグヤ
次にカグヤはアカネにその視線を向けた。そして徐々にその表情を険しくしていく。
﹁⋮⋮﹂
と陽のチャクラからハゴロモが術を渡した事も見抜いた。
そして二人のチャクラからインドラとアシュラの転生体である事を見抜き、そして陰
カグヤは白眼を発動させ、その視線をナルトとサスケに向ける。
﹁⋮⋮﹂
NARUTO 第四十二話
1310
は六道イズナすら越えるチャクラを有しているのだ。もはやアカネですら比較になら
ない程のチャクラ量である。
切り札を切ってなお、勝ち目は薄い。だが、なくはない。それに、ナルト達がいれば
可能性は劇的に上昇する。そう考えるアカネに対し、カグヤは口を開いた。
⋮⋮﹂
﹁なに
﹁どういうことだってばよ
?
﹂
れば、別の世界から運ばれた力だ。それがこの世界でチャクラと呼ばれる力に適応変化
う。アカネの、ヒヨリのチャクラは数多の人生にて築き上げたアカネだけの物。言うな
つまり、大元を辿れば忍のチャクラはカグヤに辿り着く事になる。だが、アカネは違
に次の子に。そうして世界中に広がりながら、忍と呼ばれる存在は増えていった。
るカグヤから世界中に広がったからだ。カグヤの血を引く二人の息子からその子に、更
この世界に忍と呼ばれるチャクラを操る存在が現れたのは、チャクラの化身とも言え
上なくはないのだが、一般人と同じくチャクラを操る術を有していなかったのだ。
元々この世界の人々はチャクラという力を有してはいなかった。いや、生物である以
カグヤの系譜ではないチャクラ。その意味はナルト達には理解出来ない。
?
﹂
﹁貴様は危険だ。そのチャクラ、ワラワの系譜ではない。だというのに、それだけの力
1311
したのだ。
だからアカネのチャクラから、カグヤのチャクラに繋がるものは欠片も感じ取れな
い。それがカグヤの警戒を上昇させた。
﹁ハムラの子孫のはず⋮⋮だが、この力はワラワのものではない⋮⋮。まさか、一族の仕
?
十尾に迫るという、人間では有する事が不可能と言えるチャクラ量。大筒木一族が有
は、と勘違いをしたのだ。
カグヤは、アカネの事を大筒木一族が自分達に対抗する為に作り出した存在なので
対抗する為であった。
木一族と敵対していた。白ゼツを量産しているのも、いずれ来るであろう大筒木一族に
大筒木一族は神樹の実を求めて星々を旅する一族だ。そして今のカグヤは、その大筒
筒木一族の事を指していた。
木ハムラの子孫を指すのではない。それはカグヤがこの星に渡る前、カグヤが別れた大
カグヤの言う一族とは、大筒木一族の事を指す。だがそれは、大筒木ハゴロモや大筒
推測出来たが、一族とは何なのか。
カグヤの独白はアカネにも理解は出来ない。チャクラに関してはどことなく理由は
﹂
業か
﹂
﹁一族
?
NARUTO 第四十二話
1312
する白眼。そして今こうして己の邪魔をする行動。これらから、カグヤがそう勘違いす
るのはあながち間違いとも言えなかった。
﹂
!!
アカネがイズナ戦にて切り札を切らなかったのは、文字通り切り札であるからだ。こ
復し、通常時以上のチャクラとなってアカネの力を底上げした。
め込んだチャクラを解放し、全身に行き渡らせる。多くの戦いで消耗したチャクラが回
アカネの切り札。それは綱手やサクラと同じ百豪の術である。アカネが長年額に溜
る。
が殆どないからだ。つまり、八門遁甲を使用した所でアカネには意味を成さないのであ
まあ、流石に八門遁甲の陣は習得していないが。理由としては解放する程の潜在能力
けられる力ならば大抵習得している。
はない。アカネは努力によって力を付けてきた存在だ。それ故に、努力によって身に付
アカネはここに来て切り札を切る。と言ってもそれはアカネ固有の能力という訳で
が、その規模と破壊力は桁違いと言えよう。
八十神空撃、掌にチャクラを籠めて放出する体術の一種だ。八卦空掌と似た様な体術だ
やそがみくうげき
カ グ ヤ は ア カ ネ に 向 け て、突 如 と し て チ ャ ク ラ の 塊 を 叩 き つ け よ う と す る。
﹁
﹁ここで消えよ﹂
1313
の切り札を切ってなお、イズナに隠された一手があれば抗う術を失うかも知れない。そ
れを恐れ、アカネはイズナの底を見るまでは切り札を封じていたのだ。
もっとも、底を見た後にナルト達が増援として現れたので、切り札を切る必要もなく
やそがみくうげき
なったのだが。
﹂
砕いていく。
﹂
﹂
無数にぶつかり合う二つの力。その衝撃は大気を震わせ、当たらずとも大地を大きく
ぶつかり合う二つの力の塊は完全に互角であった。
力とチャクラに任せて攻撃を繰り出すカグヤと、劣る能力を技術にて埋めるアカネ。
上ならば、八卦空掌の規模と破壊力を上げればいいだけの話だ。
アカネは八十神空撃に対して八卦空掌で対抗する。八卦空掌よりも規模と破壊力が
﹁はあっ
!
!
ヤの特殊な体質を利用した攻撃だ。
ともごろし
はいこつ
カグヤは己の骨を変化させ、あらぬ空間に向けて放つ。 共 殺の灰骨と呼ばれる、カグ
﹁お前のチャクラは吸収出来ずともよい。滅びよ﹂
人外とも言える二つの存在の衝突にサクラは思わず目を瞑り、オビトも戦慄する。
﹁冗談だろ⋮⋮
!
﹁きゃあ
NARUTO 第四十二話
1314
ともごろし
はいこつ
共 殺の灰骨は対象に突き刺さると同時に、対象もろとも崩壊していく。一撃必殺の術
だ。それをカグヤは時空間を操る事で、アカネの背後に出現させた。
だが、アカネは廻天によって灰骨を弾く。そして灰骨が現れたと同時にその時空間に
﹂
﹂
八卦空掌を放ち、逆にカグヤに攻撃を返した。
﹁ぐっ
﹁母さん
!
術から解放する。そしてその数が増えると再び無限月読にてチャクラを吸収し、白ゼツ
無限月読にて人間を白ゼツという兵にしつつ、人間が滅びないように一定数の人々は
な苗床だ。
黒ゼツの言葉にカグヤは賛成する。この地、すなわちこの星は、カグヤにとって大切
﹁⋮⋮そうね﹂
こならここよりももっと戦いやすいし、何よりこの世界を傷つけずにすむ﹂
﹁母さん。こいつは絶対に殺すべきだ。ナルト達も含めて別の世界に連れて行こう。そ
害に繋がるのだが。こうして転生して復活するなどとどうして思えるか。
いや、消す為にイズナをけし掛けた結果が、かつての三尾と戦争を利用したヒヨリ殺
てアカネを睨みつけ、後悔する。ここまで面倒な存在になる前に消すべきだった、と。
アカネの思わぬ反撃に、カグヤの右袖口に同化した黒ゼツが心配の声を上げる。そし
!
1315
にする。苗床とはよく言ったものだ。
そ の 大 切 な 苗 床 を こ れ 以 上 傷 つ け る つ も り は カ グ ヤ に は な い。ア カ ネ と い う イ レ
アメノミナカ
ギュラーな存在に思わず力を振るったが、殺すならばより効率的な世界がある。
天之御中。それがカグヤの輪廻眼の固有瞳術だ。
自分と周囲にいる存在を瞬時に別空間へと強制移動させる時空間忍術の一種で、移動
アメノミナカ
先に設定されている六つの空間は、どれも人間には戦いづらい環境となっている。
・・・・
そ こ で 全 て の 決 着 を つ け る べ く、カ グ ヤ は 天之御中 を 発 動 し、こ の 場 の 人 間 の
ほとんどを強制移動させた。
アカネのチャクラは減った。
至ったアカネであった。
どうしてこうなった。誰もいなくなった周囲を見渡し、どれほどぶりかにその心境に
﹁⋮⋮﹂
NARUTO 第四十二話
1316
NARUTO 最終話
ナルト達がカグヤによって異空間に強制移動させられ、壮絶な戦いをしている中、ア
カネは風に当たりながら考えていた。
││どうしよう││
アカネの感知でもナルト達を感じ取る事は出来ない。それ程に遠い場所か、もしくは
違う空間世界に移動したのだ。そして今回の場合は後者である。
いくらアカネが非常識な存在だと言えど、別空間に移動したナルト達を追う事は出来
ない。そもそもアカネに時空間忍術の適正はない。手詰まりである。
そんな風に途方に暮れているアカネの元に、柱間達がやって来た。柱間達を抑えてい
﹂
﹂
た黒い棒はイズナがカグヤに飲まれたと同時に消滅し、自由になった柱間達がアカネの
何があった
チャクラを追ってこの場に集結したのだ。
﹁ヒヨリ
!?
なチャクラの持ち主。
柱間達はアカネに説明を求める。ここにいたはずのナルト達がいない理由、あの膨大
﹁突如として凄まじいチャクラが出現した⋮⋮あれはなんだったのだ
!?
!
1317
それらの疑問についてアカネが答えようとした時だ。その場に突如として現れた存
在があった。それこそ、忍宗の開祖である六道仙人、大筒木ハゴロモである。
﹁それについてはワシから説明しよう﹂
イズナの血痕から現れたハゴロモは、ナルト達の現状を皆に伝えた。
それに対してもっと早く助言を欲しかった事を扉間が口にするが、ハゴロモとしても
この世に顕現する為に、九尾とインドラとアシュラのチャクラを必要としたのだから致
し方なかった。
イズナの内に眠るマダラと柱間、そして九尾のチャクラがあったからこそ、ようやく
顕現を可能としたのだ。
一通りの情報を語ったハゴロモはアカネに目を向ける。
よう。感謝する﹂
来ぬ。だから、此度と前回の転生者が手を取り合えたのは、お前のおかげと思う事にし
﹁そうかもしれぬし、そうでないかもしれぬ。神ならぬこの身では未来を見通す事は出
﹁⋮⋮私が居なくとも、ナルトとサスケならきっと手を取り合う事が出来ましたよ﹂
た﹂
﹁礼を言おう。お前のおかげで、インドラとアシュラの転生者は手を取り合う事が出来
NARUTO 最終話
1318
そう言って、ハゴロモはアカネに対して頭を下げる。そこまでされて礼を受け取らな
いアカネではなく、ハゴロモの想いを汲んで頷きを返した。
﹂
?
過去の五影全てを穢土転生にて呼び出し、彼らのサポートを得て口寄せの術を発動し
その方法を提案するまでもなく、問題は解決した。
﹁⋮⋮十分過ぎるほどだな﹂
﹁私のチャクラを融通しても足りませんか
ラが残されていなかった。それを補う方法があるにはあるのだが││
だが、その口寄せの術に必要なチャクラは膨大であり、ハゴロモにはそれ程のチャク
ルトとサスケを通じて皆を呼び戻す事が可能なのだ。
あった。他の者ならばいざ知らず、ハゴロモであれば遠く離れたナルト達だろうと、ナ
そんなナルト達を助けるべく、ハゴロモが案を出してくれた。それが彼らの口寄せで
ていかれたのだ。
還する事が出来ないのだ。オビトの神威でさえ繋がらない程に遠い世界に、彼らは連れ
そう、ナルト達が首尾よくカグヤを封印出来たとしても、彼らは自力でこの世界に帰
今そのチャクラはない。ナルトとサスケに託したのでな⋮⋮﹂
戻す。だが、それにはチャクラが足りぬ。この術には膨大なチャクラがいる。ワシには
﹁さて、先も説明した通り。ナルト達が母を封印すれば、この世界に口寄せの術にて呼び
1319
ようと試みたハゴロモだったが、規格外が一体存在していたおかげで必要なくなった様
だ。
そして、ナルト達はカグヤを黒ゼツもろとも封印する事に成功する。
それを感じ取ったハゴロモは、アカネのチャクラを受け取りながら口寄せの術式を展
開した。
並の口寄せの術式など比べ物にならない程に広大な術式が大地に描かれ、そして遠く
離れたナルト達を呼び戻す。
アカネェ 無事だったのかよ
!
急にいなくなって心配
そこにはナルト達だけでなく、十尾から解放された全ての尾獣も口寄せによってこの
ここは⋮⋮って
﹂
!
!
地に戻っていた。
﹁え
したんだぞ
!
?
﹂
!
﹁ナルト、サスケ。そして皆⋮⋮よくぞ世界を救ってくれた﹂
心配も当然であり、アカネも謝罪し、そして世界を救った事を褒め称えた。
カグヤとの最終決戦において、移動した矢先にアカネの姿がなかったのだ。ナルトの
ね。最後の戦いに参加出来ずにすみませんでした。そして、良く頑張りました⋮⋮
﹁私からしたら急にいなくなったのはあなた達です⋮⋮まあ、私にも事情がありまして
NARUTO 最終話
1320
ハゴロモはナルト達と、そしてアカネに向けて礼を言う。
自らが残した禍根を拭ってくれたのだ。ハゴロモは心底彼らに感謝していた。
ハゴロモは解放された九喇嘛と楽しげに会話するナルトを見る。
これこそが、ハゴロモが思い描いた世界。尾獣達すら己から協力したくなる。そんな
忍が現れたのだ。ナルトならばきっと今の世界を変えてくれるとハゴロモには思えた。
ナルトが神威空間から戻って来た両親と語らい、ハゴロモを含めた多くの忍が喜びを
顕わにする中、マダラは一人イズナの傍に佇んでいた。
イズナはカグヤが封印された事により元の肉体を取り戻していた。だが、それだけ
だ。尾獣を抜かれた人柱力は死ぬ。それはイズナも例外ではない。
﹁何度も、同じ事を言われたな⋮⋮オレは、それでも間違えてしまった⋮⋮。兄さんの、
ないんだ﹂
事などたかが知れている。だから、皆で協力して、次に想いを託していかなければなら
﹁ああ。分かってる。ただ、お前はやり方を間違えてしまった。一人の力で変えられる
﹁平和な世界が出来ると、信じていた⋮⋮それは本当なんだ⋮⋮﹂
マダラの存在を感じ取り、イズナは力なく語り出す。
﹁ああ﹂
﹁にい、さん⋮⋮﹂
1321
弟とは思えないくらい⋮⋮出来そこないだ⋮⋮﹂
イズナは誰に止められようと、どんな罵倒を受けようと、目的の為に邁進する事を止
めなかった。
だが、その目的が根本から間違っていたとなれば話は別だ。無限月読だけに希望を見
出していたのだ。それがそもそも間違っていた知った時、イズナは絶望し、その心は黒
﹂
ゼツに歪まされる以前のイズナに戻っていた。
﹂
﹁兄さん⋮⋮日向ヒヨリも、そこにいるのか
﹁ああ、いるぞ。それがどうした
?
﹂
その願いは誰が聞いても却下するだろう。イズナはそれだけの事を仕出かしてきた
て欲しい⋮⋮﹂
﹁さ、散々お前と敵対して今更だと思うが⋮⋮頼みがある⋮⋮。お前の、チャクラを分け
?
会話をする。
アカネもそれを拒否せずに、マダラと共にイズナの傍で膝をつき、倒れ伏すイズナと
イズナの、恐らくは最期の頼みを聞き、マダラはアカネを呼び出す。
﹁分かった⋮⋮。ヒヨリよ、こっちに来てくれ﹂
﹁呼んでくれ⋮⋮頼みたいことが、あるんだ⋮⋮﹂
?
﹁どうしたイズナ。私に何の用がある
NARUTO 最終話
1322
のだ。例え騙されていたとしても、情状酌量の余地はないほどに。
アカネはイズナの目を見つめ、そして首を横に振りながら答える。
﹂
?
﹂
?
﹁分かったよ﹂
なら、頼むアカネよ⋮⋮オレに、チャクラを⋮⋮﹂
﹁ふ、ふふ⋮⋮そう言えば、お前の今の名前を呼んだ事は、なかったか⋮⋮。分かった。
それを無視した。
アカネ達を少し離れた場所で見守っていた柱間が思わず呟くが、当然の如くアカネは
﹁⋮⋮転生したお前がいう事か
いつまでも死んだ人間に引き摺られてどうする﹂
同一視しないでもらいたいな。そうそう、マダラと柱間も私の事はアカネって呼べよ。
﹁私の今の名前だ。日向ヒヨリはもう死んでいるんだ。いつまでも過去の私と今の私を
﹁なに⋮⋮
﹁アカネだ﹂
カネの答えはまだ終わってはいなかった。
最期の望みも断たれた事にイズナは力なく、そして当然だろうと納得する。だが、ア
﹁⋮⋮そうか﹂
﹁駄目だ﹂
1323
アカネはイズナの頼みを疑う事無く受け入れた。その手を握り、力ない肉体にチャク
ラを分け与えていく。
それがイズナの命を救う事にはならない。今更チャクラを得た所で、尾獣を抜かれた
イズナの死は覆らない。ならばイズナは何をしようとしているのか。
イズナは両手を組み、そしてアカネから受け取ったチャクラを使ってある術を発動し
ようとする。
﹂
それを見たマダラは思わず叫んだ。イズナの使おうとしている術が何なのか、マダラ
その術は
は理解しているのだ。
﹁イズナ
!
止めた。
でいたのか。誰もがそう思っていた所で、動き出そうとする者達をハゴロモとナルトが
マダラの叫びにアカネを除く周囲の者達が反応する。やはり最後の悪あがきを企ん
!
││外道・輪廻天生の術││
門が木ノ葉隠れの忍を蘇らせたのと同じ││
ナルトにはイズナが発動しようとしている術に覚えがあった。そう、それはかつて長
﹁ああ。あれは、そういう術じゃねーってばよ⋮⋮﹂
﹁待て。イズナに戦闘の意思は最早ない﹂
NARUTO 最終話
1324
輪廻天生の術。死んだ人間を蘇らせるという輪廻眼に宿る外道の術。ただし、その反
動として術者の命も失われてしまうが。
イズナが輪廻天生の術を発動した瞬間、マダラの身体が輝き出した。そして穢土転生
﹂
であったその肉体に生気が宿り始めた。
﹂
﹁こ、これは
﹁まさか
﹂
!?
ゼツが関与していない死者、例えば過去の五影達や忍刀七人衆などは蘇らせていない
を抜かれて死んだ人柱力達も、その多くが蘇っていた。イズナが言う様に、イズナや黒
そう、蘇ったのはマダラ達だけではない。第四次忍界大戦で犠牲となった忍も、尾獣
⋮⋮オレが、関与していない者は⋮⋮蘇らせていないがな﹂
﹁オレや、黒ゼツの陰謀でこの世を去った者達⋮⋮その、大半はこれで、蘇ったはずだ
空洞のままだったのだ。
力を失う。マダラの真の目はイズナの両掌に移植されている為に、蘇っても両目だけは
蘇ったマダラは思わずイズナを見つめ、そしてまがい物の輪廻眼が砕け散った事で視
﹁イズナ⋮⋮お前⋮⋮くっ
宿り出す。そう、穢土転生だった者達が生者として蘇りだしたのだ。
マダラだけではない。柱間に扉間、そしてミナトとクシナもまた、その肉体に生気が
!
!
1325
が。
イズナが四つの輪廻眼を有していた事が、これだけの死者を蘇らせる事が出来た要因
だ。死んでから間もなければ多くの死者を蘇らせるが、遥か昔に死んだ死者を蘇らせる
のは輪廻眼でも一人が限界だろう。
それを補ったのが四つの輪廻眼の力であり、そしてアカネの膨大なチャクラであっ
た。おかげでアカネのチャクラは底を尽き掛けていたが。
なお、流石に暁が殺しただろう無数の人々はイズナでも蘇らす事が出来なかった。こ
の戦場の様に場所を指定出来るならばともかく、イズナが関与していない死者を特定し
て蘇らす事は出来なかったのだ。
ともかく、イズナの手によって戦争の犠牲者の多くは蘇った。だが、そこに疑問の声
を上げた者がいる。
﹁ふ、ふふ。貴様に関しては⋮⋮ただの嫌がらせだ⋮⋮木ノ葉で火影の座を奪い混乱を
だが、こうしてイズナの手によって蘇っていた。しかもある程度は若返ってまでだ。
も天寿を全うしたと言える。
同然だ。だが、扉間はそうではない。金銀兄弟のせいで多少の寿命は削れたが、それで
そう、扉間である。マダラやミナトにクシナはイズナの策略によって命を奪われたも
﹁⋮⋮ワシを蘇らせたのは何故だ。ワシはお前の手に掛かった覚えはないのだがな﹂
NARUTO 最終話
1326
呼ぶもよし⋮⋮何もせず無為に生きるもよし⋮⋮せいぜい、好きに、生きろ⋮⋮﹂
それは、かつてはライバルだったイズナからの意趣返しの様なものだ。マダラと柱間
﹂
が戦場で激突していた時は、イズナと扉間もまた激突していたのだ。
﹁貴様⋮⋮
﹁⋮⋮分かった﹂
﹁⋮⋮ヒヨリ。いや、アカネ。頼みがある﹂
が黒ゼツなのである。ある意味で、イズナも犠牲者と言えた。
遠く離れた様に感じる喪失感。それがイズナの暴走の始まりであり、それを利用したの
う平和な世界。それを叶えたいという思いと、柱間達と兄が意気投合したことで、兄が
そう、イズナの願いの根幹にあったのは、マダラの願いだった。尊敬するマダラが願
それが、マダラの願いを模したものだとしても。
けがない。世界に平和をもたらしたい。それは、本当にイズナの願いだったのだ。例え
マダラの両目を返す。それでイズナには思い残す事はなかった。いや、無念がないわ
﹁イズナ⋮⋮﹂
﹁にい、さん⋮⋮兄さんの、目を⋮⋮返すよ⋮⋮オレには、過ぎた力だった⋮⋮﹂
た。今更文句を言っても意味はないと悟ったのだ。
イズナの最後の嫌がらせに扉間は眉間に皺を寄せ、そしてため息を吐いて受け入れ
!
1327
マダラの頼みを受け、アカネはイズナから輪廻眼を摘出し、マダラに移植する。
﹁それは⋮⋮﹂
それにイズナは驚愕する。アカネが輪廻眼を移植した事にではない。アカネが移植
した輪廻眼に驚愕したのだ。
その輪廻眼は、一つはイズナの右掌に移植されていたマダラ本人の物。もう一つは、
イズナの左目だったのだ。
﹂
﹁オレの目は確かに返してもらった。だが、左目はお前にやるさ。代わりにお前の左目
をもらうぞ﹂
﹁なぜ⋮⋮そんなことを⋮⋮
しい笑みを浮かべて答える。
マダラがそうした理由がイズナには理解出来ない。そんなイズナに対し、マダラは優
?
見届けるんだ﹂
う。それでも前に進み、いずれは平和な世界に近付いていく。それをオレと共にお前も
﹁人は、少しずつしか前に進めない。時に過ちを犯し、後戻りしてしまう事もあるだろ
マダラの言葉にイズナは残された右目を見開く。
りと変わっていく様子がお前にも見えるだろう﹂
﹁こうすれば、お前はオレの左目としてずっと一緒にいられる。これなら、世界がゆっく
NARUTO 最終話
1328
﹁ふ、ふふ⋮⋮知らなかったよ。意外と、ロマンチストなんだね⋮⋮兄、さん⋮⋮⋮⋮あ
り、が⋮⋮と⋮⋮⋮⋮﹂
最期に、イズナは笑いながら逝った。それをマダラは見届けながら、ただ無言で佇ん
でいた。
膝をつき、静かにイズナを見つめるマダラにアカネはゆっくりと近付いていき⋮⋮そ
達が思い思いに別れを告げている事だろう。
そうして、マダラとアカネを除く者達はこの場から移動した。今頃は六道仙人と尾獣
﹁え⋮⋮いや、分かったよ﹂
﹁ヒヨリ⋮⋮いや、アカネよ。おぬしだけは、残ってやってくれ﹂
柱間の頼みに皆が頷き、その場から離れて行く。
﹁皆よ⋮⋮今はマダラをそっとしておいてくれぬか⋮⋮﹂
今は、そういう想いを出してはいけないと理解しているのだ。
頷き、そして両親が蘇った事を素直に喜びたい気持ちを抑える。
イズナの最期を見届けたハゴロモは思わずそう呟く。それを聞いたナルトは小さく
﹁穢土転生を解術するつもりであったが⋮⋮まさか輪廻天生を行うとはな﹂
1329
して、そっと頭を抱き締め優しく語りかける。
﹁いいんだ⋮⋮もういいんだマダラ﹂
﹁⋮⋮オレは﹂
お、オレが⋮⋮
オレがもっと、もっとイズナを⋮⋮
﹁もう、誰も見ていないよ⋮⋮もう、我慢しなくても、いいんだ⋮⋮﹂
﹂
﹁お前のせいじゃない⋮⋮
◆
﹂
イ ズ ナ は イ ズ ナ は
お前は、悪くないんだ⋮⋮ 悪いのは全部カグヤと黒
!
!
⋮⋮
﹁オ レ が イ ズ ナ を も っ と、も っ と 理 解 し て や れ て た ら ⋮⋮
アカネの言葉により、塞き止めていたマダラの感情が溢れ出した。
﹁オレは⋮⋮
!
おおおおおおお
﹂
!!
尾獣全てのチャクラを持つナルトと、輪廻眼を持つサスケが互いに子の印を結ぶ。ハ
ね
無限月読に囚われていた人々は、ナルトとサスケの二人が協力する事で解放された。
!
!
!
マダラの叫びが木霊し、そして忍界史上最大の戦争は幕を下ろした。
!
ゼツだ⋮⋮だから、お前も自分を責めるな⋮⋮責めないでくれ⋮⋮﹂
!
!
﹁う、おお⋮⋮
NARUTO 最終話
1330
1331
ゴロモから教わったその方法により、無限月読は解術されたのである。
第四次忍界大戦終結後。世界は慌しく動き始めた。
死んだはずの人間が蘇った事により、喜びと同時に様々な問題も増えたのだ。その中
で顕著なのが人柱力と尾獣の存在だろう。
暁に捕らえられ犠牲になった人柱力が蘇った事により、その人柱力に対応する尾獣を
再び封印するという話が上がったのだ。
だが、多くの話し合いの結果それは却下された。尾獣達は最早天災と呼ばれる災害で
はなく、人に恨みを持たずに自由に生きる道を選んだのだ。
そしてそれを後押ししたのがナルトだ。大戦を集結に導いた英雄に後押しされては、
牛
鬼
尾獣を兵器とする道を選ぶ事も出来ず、全ての国が納得して人柱力と尾獣を解放した。
唯一人柱力として存在しているのはナルトとビーだ。九喇嘛も八尾も、人柱力と共に
ある事を選んだのだ。それ以外の尾獣は各々が故郷とする地に戻り、平穏に過ごした。
蘇った人柱力達は人柱力としての在り方から解放され、自由に世界を旅したり、里の
為に働いたりと好きに生きた。
この戦争によって手を取り合った五大国と五大忍里は、今までの禍根を捨てて平和条
約を締結する事にした。
暁によって受けた痛みを共有した今、互いが平和を望み、こうして歩み寄れる様に
なったのだ。
この平和が永遠だと思う者は子どもだけだろう。共通の敵を失った事により、いずれ
再び対立を始めるかもしれない。だが、それでも人は平和に向けて歩み出した。
ならば、それを少しでも長く維持するよう努力し、その想いを次代に繋げる事こそが、
今を生きる人々の使命だった。
﹂
各国や各里は大きく体制を変えていき、その激動の慌しさに翻弄されながらも、平和
ナルトー
を謳歌するのであった。
﹁ナルトー
!
の名を知らぬ者はいない忍であるうずまきナルトも、平和な世界で惰眠を貪っていた。
平和を謳歌しているのは木ノ葉隠れの里も同じだ。大戦の英雄にして、今や忍界でそ
ばよ∼⋮⋮﹂
﹁うーん⋮⋮なんだよ母ちゃん⋮⋮もう少し寝かせてくれよ⋮⋮今日は任務もないって
!
起きる
起きるってばよ
﹂
!!
早く起きないと拳骨落とすわよ
﹂
!
!
!
!
君とサクラちゃんと約束してるんでしょ
﹁わぁ
!
!
﹁何言ってるの 今日は早く起こしてくれっていったのはあなたでしょう サスケ
NARUTO 最終話
1332
クシナの拳骨の痛さを思い出し、ナルトは咄嗟に起き上がる。
それを見たクシナが両腕を組んだままナルトを見下ろし、そして満足そうに頷いた。
ラーメンだと嬉しいんだけどなぁ﹂
?
は、それはナルトにとって死の宣告に等しい。
ラーメンは体に悪くねーってばよ
!
﹂
﹂
どういうことだってばね、あんたの食生活は 三代目様はナル
必死にクシナを説得するナルト。だが、その説得の仕方は逆効果だった。
ラーメンだった事もあったけど、それでもこんなに元気に生きてるってばよ
!
トにどんな教育をしてたってばね
!?
!
思わぬところでヒルゼンに飛び火したクシナの怒り。この時、同じタイミングでヒル
!!
﹁さ、三食ラーメン
!
﹁ま、待ってくれよ母ちゃん
オレってば三食
ともかく、ナルトにとってラーメンはベストフードだ。それを食べては駄目と言うの
を食すのはどうかと思うが。
切っては切れない存在だ。言わば掛け替えのない友と言ってもいい。⋮⋮まあ、その友
その絶望的な宣言に、ナルトの精神は崩壊しかける。ラーメンとはナルトにとって
!
!
から食べさせたりはしないわよ
﹂
﹁朝っぱらから何言ってんの 私が料理を作る限り、ラーメンなんて体に悪い物を朝
﹁へーい。今日の朝ごはんは何
﹁よし。じゃあ早くご飯食べちゃいなさい。もう出来てるわよ﹂
1333
ゼンに悪寒が走ったそうだが、前後関係は定かではない。
﹁いいナルト。ラーメンを食べるなとは言わないわ。でもね。三食ラーメンとか、朝か
ああいう携帯食には体に悪い物がたくさん入ってるっ
ら ラ ー メ ン な ん て の は 駄 目 よ。お 昼 と か 夕 飯 に た ま に 一 楽 に 行 く く ら い は い い け ど。
カップラーメンは特に駄目
﹁分かったってばよ⋮⋮﹂
﹂
﹁全く。ほら、いつまでも落ち込んでないで、さっさと朝ごはん食べてきなさい﹂
!
た。
﹂
不幸な事かもしれないが、それを聞いてナルトに食べさせようと思うクシナではなかっ
た。その中の一つが、カップラーメンの栄養バランスの悪さであった。ナルトにとって
死んでから十七年経って生き返ったクシナは、今の時代の常識をミコトから教わっ
になっても女性は乙女なのである。
なお、ミコトがクシナが歳を取っていない事を羨んでいたのは言うまでもない。幾つ
ていた様だ。
悲しんだが、まさか生き返って再会するとは思ってもおらず、再会した時はそれは驚い
うちはミコト。サスケの母にして、クシナの友人だった女性だ。クシナが死んだ時は
てミコトに聞いたんだからね
!
!
﹁か、カップラーメンが禁じられた⋮⋮
NARUTO 最終話
1334
ショックで項垂れて、とぼとぼと朝食を食べに行くナルト。
だが、その実そこまでショックは受けてはいなかった。今のナルトには、この両親に
囲まれた家庭での温もりを味わえる方がよっぽど嬉しいからだ。
﹂
!
﹁さて、私も食べよっと。頂きまーす
﹂
﹂
?
﹂
?
ばよ
﹁え
聞いてねーってばよそんな話 父ちゃんがライバルってどういうことだって
﹁そ。綱手様が退任した時に、もう一度火影に就任するって話をもらったんでしょ﹂
﹁どうするって⋮⋮忍の仕事のこと
﹁ねえミナト。ミナトはこれからどうするの
そしてクシナも食卓に加わり、家族のひと時が始まった。
!
にかける。
ミナトは言われるがままに傍にあった醤油をナルトに渡し、ナルトはそれを目玉焼き
﹁ん﹂
﹁父ちゃん、醤油取って﹂
既に朝食を食べていたミナトと一緒に食卓につき、ナルトも朝食を食べ始める。
﹁おはよう父ちゃん。それじゃ、頂きまーす
﹁おはようナルト。早く食べないとご飯冷めるぞ﹂
1335
﹂
!? !
!
ミナトは里の上層部から四代目火影として再び就任しないか、という話を持ち掛けら
れていた。
ミナトはまだ若く、そして戦争でも活躍した実力者であり名声も高い。火影として再
び就任するのに里としては異論はないのだ。もちろん、綱手が退任してからの話だが。
その話を初めて聞いたナルトは複雑な思いになる。息子として父が火影になるのは
誇らしいが、火影を目指す一人の忍としては何とも言い難いのだ。
﹁いや、その話は断るよ。オレは一度死んだ人間だからね。里の舵取りは今を生きる人
父ちゃんは里を守り、オレを守って死んだんだ そんな
!
がやるべきさ﹂
﹁そんな事ねーってばよ
!
﹂
立派な忍がちょっと死んで生き返ったくらいで火影になれないなんておかしいってば
よ
!
﹂
?
﹁ああ。アカデミーの教師をしようと思ってね﹂
﹁やりたいこと
﹁それに、オレにはやりたい事もあるしね﹂
そこはまあ、ナルトにも複雑な心境があるのだ。
ばね⋮⋮﹂
﹁あんたはミナトが火影になってほしいのかなってほしくないのか、どっちなんだって
NARUTO 最終話
1336
そう、それがミナトのやりたい事だ。今、世界は平和に向けて動いている。これから
しばらくは、戦争もない時代が続き、そして戦争を知らない世代が増えていくだろう。
だが、それは永遠に続く訳ではない。戦争を知らない世代が、痛みを知らない世代が
増えれば、人は過去の戒めすら忘れ、再び争い出すかもしれない。
それを少しでも防ぎたく、ミナトはアカデミーの教師として子ども達に様々な事を教
えてやりたいのだ。
﹁マジかよ⋮⋮どんだけだよ。むしろ心配になってきたってばよ⋮⋮﹂
教師をしてくれる様になったんだ﹂
﹁オレだけじゃないよ。二代目様もオレの意見に賛同してくれてね。二代目様も一緒に
だが、ナルトの驚愕はそれで終わらなかった。
くのだ。これがどれほど凄まじい事か、理解出来ないナルトではなかった。
そう、元火影が現役と同じ戦闘力を持ったままに、教師として忍候補生を指導して行
スゲー贅沢出来るってばよ﹂
﹁父ちゃんがやりたいならオレも反対はしないけどさ。⋮⋮これからのアカデミー生は
ミナトの想いを聞いたクシナはそれを了承し、ミナトを応援する事にした。
しね﹂
﹁そっか。うん、私は良いと思うわ。それに夫のやりたい事を応援するのも妻の役目だ
1337
二代目火影と四代目火影に教わる候補生達。今後の下忍に求められる水準が高くな
﹂
り過ぎないか、逆に心配するナルトであった。
﹁ご馳走様でした
﹁ありがと母ちゃん
﹂
﹁はい、お粗末様。食器は置いといていいから、準備して行ってきなさい﹂
!
揃って暮らす事が出来るなんて⋮⋮本当に夢のようよ﹂
﹁ええ⋮⋮。ナルトが立派になった姿を見れただけで満足だったのに。こうして家族で
﹁こんな幸せなひと時が来るなんて、夢にも思っていなかったよ﹂
それを見ながらミナトとクシナは微笑み、そして幸せを噛み締めていた。
食事を終えたナルトは、サスケ達との約束の時間に遅れないよう慌てて準備をする。
!
いなかった。
平凡で、そして掛け替えのない幸せが手に入るなんて、ミナトもクシナも夢にも思って
戦争が終わり、ヒルゼンの好意で一軒家を貰い、そして家族で揃って暮らす。こんな
少々縁起でもない冗談を言いつつ、二人は笑い合う。
﹁やめてってばね。縁起でもないんだから﹂
﹁もしかして、これが無限月読の中だったりね﹂
NARUTO 最終話
1338
いや、本来ならこれが当たり前だったのだ。黒ゼツの企みによって多くの平穏が崩さ
れたが、そうでなかったら、今の様に幸せな日々を送っていたのだろう。
一度失ったからこそ、より今の幸せが理解出来る。皮肉だが、黒ゼツの企みがミナト
達にそれを実感させ、再び失わない様に心掛けさせていた。
﹁ミナト⋮⋮愛してるわ﹂
﹁オレもだよクシナ﹂
かつて失った幸せを噛み締める内に、二人の雰囲気が変化していく。そして徐々に互
﹂
!
いの距離が近付いていき││
そんじゃ行ってきまーす
﹁よっしゃ
!
﹁き、気をつけるってばね
﹂
行ってらっしゃいナルト﹂
﹁あ、ああ
!
それぞれすべき事をし出した。クシナは家事の続きを、ミナトは教師になる為の手続き
ナルトが出かけてしばらく無言となった二人。そして互いに同時に笑い合い、そして
﹁⋮⋮﹂
﹁⋮⋮﹂
方面に鈍いナルトはそのまま出かけて行く。
ナルトの声で、慌てて距離を離した。そんな両親をおかしく思いながらも、そういう
!
1339
﹂
を。いつまでも一家の大黒柱として、無収入のままではいられないのである。
◆
﹁お、待たせたってばよ
﹁それで、今日はどうするんだ
いでしょ﹂
﹂
﹁あんたね⋮⋮少しは話を聞いてなさいよ。今日は中忍試験を受けるかどうかの話し合
?
集合時間には遅れてはいない。
待ち合わせの場所には既にサスケとサクラが待っていた。最後になったナルトだが、
﹁ふん。まあ時間には間に合っているから許してやる﹂
!
より良くする狙いもある。
う。そして、五大忍里の上役と五大国の大名が集まる中忍試験を利用し、各国の関係を
全ての里は同盟を組んでいる。今までと違いその規模は最大の中忍試験となるだろ
験を開催する話が五影会議で決定したのだ。
そう、戦争が終わり平和となり、既にある程度の時が流れている。そんな中、中忍試
﹁あ、そうだったそうだった﹂
NARUTO 最終話
1340
﹁でもさ。今更中忍試験をオレ達が受けていいのか
﹂
?
いつ
という目で見られたくないんだよ
﹂
!
!
だが、それを表に出すフガクではない。サスケは未だに下忍である事を情けなく思わ
よりも誇り高く思っている。というか、結構親馬鹿なので昔からそういう節はあった。
戦争で活躍し、世界を救った英雄の一人となったサスケだ。今はフガクもサスケを誰
い。
それは暁が木ノ葉落としをする前の話なのだが、そういう目で見られた事があるらし
?
﹁だが、いつまでも下忍のままではいられん オレは父さんに、いつまで下忍なんだこ
る。
そんな控えめに言っても化け物三人が、中忍試験に参加する。他の参加者は涙目であ
け三人がその気になれば一国や二国くらい簡単に落とせるだろう。
だが、この三人は上忍相手でも正直言って楽勝な実力者である。というか、ぶっちゃ
いという気持ちは当然全員にある。
者はもういない。彼らだけが下忍のままだ。それは格好がつかないので、中忍になりた
ナルト・サスケ・サクラ。木ノ葉の第七班の三人は、未だ下忍だ。同期で下忍である
﹁まあ、な﹂
﹁⋮⋮それは、まあ﹂
1341
れているのでは、と若干不安に感じているのだ。
﹂
﹁私だって中忍になりたいわ。だって⋮⋮給料が全然違うのよ
受けられないのよ
任務だって碌なのが
!
﹂
由が大半だった。なお、その中には中忍試験を諦めた下忍も多くいたという。
そして、観客が増えた理由は、世界を救った英雄であるナルト達を一目見たいという理
減 っ た 理 由 は 至 っ て 単 純 だ。そ ん な 化 け 物 が い て 合 格 す る 自 信 が な か っ た か ら だ。
者が大幅に減り、そして観客は大幅に増えたという珍事が起こった。
余談だが、今期の中忍試験参加者にナルト達がいる事が判明した瞬間、中忍試験参加
反対意見なく、ナルト達の中忍試験参加が決定した。
﹃異議なし﹄
に参加ということで﹂
﹁⋮⋮そうだな。オレだって中忍になりてーし。今回の参加者には悪いけど、中忍試験
違ってはいないだろう。
忍と謳われようと、下忍は下忍なのである。実力相応の給料が欲しいと思うのは何ら間
然違う。それは、例えサクラが上忍を上回る実力を有していようが変わらない。例え三
サクラの願望はある意味で当然の願望だ。下忍と中忍では任務の危険度と給料が全
!
﹁そういやさ、ナルトってヒナタとどこまで進んでるの
?
NARUTO 最終話
1342
﹁いっ
﹂
怪しいわね、ねえサスケ君﹂
きゅ、急に何を言いだすんだよサクラちゃん
﹁あらー、どうして慌ててるのナルト∼
﹁⋮⋮くだらねぇ﹂
!
恋話を持ち出した。
﹁ひ、ヒナタとは、その、別にそういう関係じゃねーってばよ﹂
﹁じゃあどういう関係なのよ。教えなさいよ、うりうり﹂
﹂
﹁えーっと、その⋮⋮そ、そういうサクラちゃんこそサスケとどうなんだってばよ
﹁ぶはっ
さ、サスケ君とは、その⋮⋮﹂
﹂
中忍試験の参加が確定し、特にやる事がなくなった所でサクラが突如としてナルトに
?
!?
わ、私
?
!
﹂
!
場に残されたのは、サスケと空間を入れ替えた石ころだけだった。
沈黙に耐えかねたサスケは天手力を発動させてまでしてこの場から消えさる。その
﹁⋮⋮知るか
追求から逃げられた事に安堵していた。
サスケは冷や汗を流しつつ、余計な事を言ったナルトを睨みつけ、ナルトはサクラの
めながらチラチラとサスケを見る。
突如として巻き込まれたサスケは吹き出し、そしてサクラは期待するように顔を赤ら
﹁え
?
!
1343
﹁あーん、サスケ君待ってよー
﹁なあ、似合ってるかこれ
﹂
﹂
﹂
綱手が火影の座から降り、新たな火影が就任したのである。
戦争終結から時は流れ、木ノ葉隠れの里はちょっとしたお祭り騒ぎになっていた。
◆
木ノ葉隠れは平和を謳歌していた。
るナルト。
逃げたサスケを追いかけるサクラ。そしてそんな二人を見て、平和である事を実感す
﹁⋮⋮輪廻眼をあんな事に使う。平和だってばよ⋮⋮﹂
!!
﹂
?
綱手の後任である六代目火影に選ばれたのはオビトだった。
﹁なあリン⋮⋮本当に、オレが火影になってもいいのかな
それに対してリンは笑顔で頷き、そしてじっくりとオビトの姿を見つめる。
かしげにリンに尋ねる。
六代目火影の文字が描かれた衣装と火の文字が描かれた帽子を付けたオビトが、恥ず
!
?
﹁ええ。とっても似合ってるわよオビト
NARUTO 最終話
1344
戦争で最後まで戦い抜き、ナルト達を導いた実績が認められたのだ。それだけではな
い。常日頃から公言しているオビトの夢。火影になって里の皆を守りたいというその
夢を、今や木ノ葉隠れで知らない者は殆どいない。
そして、その公言が嘘でない事もまた、多くの民が理解していた。そんなオビトだか
らこそ、火影として選ばれたのだ。火影にとって必要な想いを持っているオビトだから
こそ。
だが、当のオビトは自分が火影に選ばれて良かったのかと、今更ながらに不安になっ
ていた。
火影として木ノ葉隠れを守り、導く事が出来るのか。その不安をオビトはリンにぶつ
けた。
うのはそういう事でしょ
﹂
から。オビトが木ノ葉を守れないなら、それは他の誰にも無理よ。火影に選ばれるとい
﹁オビトの不安は私には分からないわ。だって、オビトなら火影になれるって信じてた
そんなオビトに対して、リンは苦笑しながら言う。
呆れる様に叱り付けてくるリンに、オビトは頭を下げる。
﹁うう⋮⋮﹂
﹁もう。ここに来てまで惚れた女相手に情けないこと言わないでよ﹂
1345
?
自分を信じれないなら、自分を選んでくれた者達を信じろ。リンはそう言っているの
だ。
そしてオビトがその言葉を信じれないとしたら、それはオビトが火影になると信じて
いたリンを信じられない事を意味する。
オレは今まで通り、木ノ葉の皆を守る為に努力する
それを理解したオビトは、今までとは違い自信に溢れた瞳になり、リンを真っ直ぐに
見つめる。
﹁そうだな⋮⋮。分かった
!
﹂
﹁リン。ありがとう。オレは誰よりも立派な火影になる
﹁だから
だ、だから⋮⋮﹂
!
変化は出るが、その根本はそのままなのだ。
そう、火影になったとしても、オビトのやる事に変わりはない。いや、仕事の内容に
それは火影になっても同じだ﹂
!
﹂
心だろう。けしてオビトを弄って楽しんでいる訳ではない⋮⋮はずだ。
オビトの次の言葉を理解しているリンだが、最後まで本人に言ってほしいという乙女
かべて聞き返す。
顔を赤くして口淀むオビトに対し、リンも顔を赤くしながらも意地悪そうな笑みを浮
?
﹁だ、だから、オレと結婚してくれ
!
NARUTO 最終話
1346
今までにも、オビトは幾度となくリンに告白してきた。アカネによって後押しされた
のが切っ掛けで、事あるごとに告白するようになったのだ。
想いは言葉にしなければ上手く伝わらない。そして、伝わったからといってそれが叶
うとは限らない。だが、何度も想いをぶつけられて、それで心が動かされる事もある。
人の心とはそういうものだ。
﹁いいわよ﹂
﹂
だって⋮⋮リンはカカシの事が⋮⋮﹂
?
﹁ま、待ってくれ
オレが悪かったからそれだけは勘弁してくれ
﹂
!
オビトの事を、どこか頼りない、守らなきゃいけない弟の様にリンは感じていた。だ
で微笑む。
乙女心を解していないオビトに呆れつつも、オビトが慌てて謝る姿を見てリンは内心
!
﹁はあ⋮⋮ここに来て他の男の名前を出すなんて。やっぱ止めようかしら﹂
﹁え
﹁もう、いいわよって言ったのよ。二度も言わせないでよ、恥ずかしいじゃない﹂
それが理解出来ずに、オビトは呆けた様にリンを見つめる。
の耳に入った言葉は了承の意味を持つ言葉だった。
いつもの様に告白して、いつもの様に振られる。そう思っていたオビトだったが、そ
﹁⋮⋮はあ、やっぱりだめ⋮⋮え
?
1347
が、オビトは成長するにつれ逞しくなり、背の高さもリンを大きく超え、今では誰もが
認める忍に成長した。
もう弟の様には見れなくなったオビトを、それでも少し情けない所を可愛いと感じ
る。これも惚れた弱みなのだろうとリンは思う。
カカシの事は今でも好きだ。だが、それは憧れに近い物になっていた。常にストレー
トに感情をぶつけてくれるオビトに、リンも徐々に惹かれていたのだ。
﹁ちょ、ちょっと待ってくれ。も、もう一度やり直させてほしい⋮⋮。リン。オレと結婚
してください﹂
﹁うん。よろしくお願いします﹂
うちはオビトが六代目火影に就任した日。それは同時にオビトの恋が成就した日と
なり、オビトの人生で最高の1日となった。
もっとも、リンとの間に娘が生まれた日によって、最高の1日は上書きされてしまっ
たのだが。良い事なので何も問題はないだろう。
た。
人を見守っていた隻眼の男性が一人、笑みを浮かべながらその場から立ち去っていっ
新たな門出を迎えた二人。そんな二人が互いに意識している中、気付かれないよう二
﹁⋮⋮﹂
NARUTO 最終話
1348
◆
大きな事件もなく、平和を謳歌する木ノ葉隠れの里。その入り口の門に、数人の忍が
集まっていた。
﹁どうしても行くのですか あなた達を拒否する者は木ノ葉にはいません。木ノ葉隠
1349
て、世界中を旅するというマダラの案に便乗したのだ。
柱間もまた、マダラと共に世界を旅する事にした。こうして蘇ったのも何かの縁とし
ない方が良い。正直戦力が過剰過ぎるぞ。他の里が無駄に緊張するやもしれんしな﹂
﹁マダラが行くのだ。オレも付き合おうと思ってな。それに、今の木ノ葉にオレ達はい
とうとしているのはマダラだけではなかった。
イズナの目で世界を見届ける。それが今のマダラの望みだ。そして、木ノ葉から旅立
﹁世界は平和の道を進もうとしている。オレはそれをこの目で見届けたい﹂
だが彼らは、マダラはその申し出に首を横に振って拒否した。
カカシが、里を出て世界を旅しようとする者達を食い止めようとする。
た。休んでもいいはずだ﹂
れで隠居しても咎める者もいません。あなた達はもう十分に英雄として活躍してくれ
?
なお、木ノ葉隠れの戦力が過剰なのは今更である。例えマダラと柱間が抜けたとして
も、今の木ノ葉隠れにはそれに比類する忍が数人もいるのだ。これだけでもう過剰過ぎ
るだろう。
そして、マダラと柱間が共にあるならば、当然もう一人もこの旅に付き合うのであっ
た。
﹁私がいなくてもあなた達なら大丈夫でしょう。でも、こいつらは私がいないと何をす
るか分かりませんからね﹂
アカネもマダラ・柱間と同行を申し出たのだ。初代三忍による諸国行脚である。道中
彼らが悪党と出会わない事を祈る。悪党に対してだが。
﹁何をしでかすか一番分からんのはアカネぞ⋮⋮﹂
﹁言うな柱間⋮⋮後で折檻されるても知らんぞ⋮⋮﹂
そう、マダラは木ノ葉にてしばしの平和を謳歌していた時、旅の役に立つだろうと飛
こう﹂
﹁安心しろアカネ。飛雷神の術は会得している。木ノ葉の情報はオレが逐一仕入れてお
﹁ナルト。あなたならきっと火影になれます。その時は、お祝いに戻ってきますね﹂
﹁アカネ⋮⋮﹂
﹁聞こえてるからな二人とも。全く。さて、それでは木ノ葉を任せましたよ皆﹂
NARUTO 最終話
1350
雷神の術を会得していた。天才の面目躍如である。
﹂
﹄
アカネの弄りポイントぞ﹂
﹃はっ
﹁それくらいでお前が死ぬわけないだろうが
﹂
﹁ぐぅぅ、もう穢土転生ではないのだ⋮⋮少しは加減せんか
余計な事を口走った柱間が二人から制裁を受ける。
﹁ぐはっ
!
蘇っても、三人の関係は相変わらずの様である。
大きく発展しているのだ。暁により一度は崩壊しかけたが、人的損害は殆どなかった事
自分達が心血を注いで築き上げた物が、何十年と経っても存在し続け、そればかりか
している里を見て感動していた。
特に柱間とマダラの二人は時代が流れた木ノ葉隠れを隅々まで見て回り、そして安定
た。
アカネ達は戦争終結後、木ノ葉隠れの里にて他の忍と同じく、しばしの平和を謳歌し
!
!
﹁そういう事だ﹂
!
﹂
﹁アカネは昔から時空間忍術が使えなかったからなぁ。これはマダラのあれに匹敵する
﹁いいなぁ。私も飛雷神覚えたいなぁ⋮⋮﹂
1351
もあり、すぐに復興して人々の活気は戻った。
例えこれから先、何かあったとしても、きっと木ノ葉隠れは耐え抜き、そして負けじ
と立ち向かえるだろう。二人はそれを確信したのだ。だからこそ、こうして思い残す事
なく旅に出る事が出来るのである。
﹁おいアカネ。オレはまだお前に勝っていないんだ。だから必ず帰って来い、いいな﹂
﹁ええ。輪廻眼を開眼したサスケと勝負してみたかったですしね。帰って来た時は勝負
と行きましょう﹂
ああ言いながらも、サスケは無事に帰って来いとアカネに伝えているのだ。サスケの
その不器用な言葉にアカネは笑顔で返す。
﹁サクラ。二人をよろしくお願いしますよ﹂
﹁なんか私のハードル高くない まあ、分かってるわよ。馬鹿ばっかりする男どもを
止めるのは、いい女の役目だしね﹂
?
﹁さて、そろそろ行くとするか。⋮⋮アカネ、今の両親に挨拶しなくてもいいのか
﹂
﹁ええ。昨夜ゆっくりと語り合いました⋮⋮。それに、私特製の消えない影分身を残し
?
間とマダラはこれ以上アカネを刺激しないように口を噤んだ。正しい判断である。
この場に扉間がいれば、お前が一番の馬鹿だろうがと叫んでいた事だろう。なお、柱
﹁流石、サクラは分かっていますね。この馬鹿二人も中々に止めるのが大変でして﹂
NARUTO 最終話
1352
ていますので、一緒には居られます﹂
アカネの斜め上の回答に、要らぬ心配だったとマダラはため息を吐いた。影分身の癖
﹁⋮⋮そうか﹂
に消えないとか、アカネに常識を求めてはいけない。
まあ、流石のアカネも消えない影分身を作るには、大量のチャクラと特別な術式を描
﹂
いた符が必要だとは記しておこう。そうポンポンと増産できる代物ではないのだ。
﹁では、行くか﹂
﹁うむ。未知の世界を知るのは中々に楽しみぞ
﹁美味しい食べ物はあるかなぁ﹂
ナルトの呟きに続けて、サスケも、サクラも、そしてカカシも呟く。 ﹁もう、見えなくなったな﹂
﹁そうね⋮⋮﹂
﹁ああ﹂
﹁行ったってばよ⋮⋮﹂
それを見送りながら、ナルトがぽつりと呟いた。
行く。
そうして初代三忍達は、思い思いの言葉を口にしながら楽しげに木ノ葉から旅立って
!
1353
﹂
﹂
﹂
﹂
そこには、アカネという心強い仲間が離れていく事に対する悲しさと、そしてそれ以
上の││
﹁よっしゃー
﹁ようやく、ようやく
﹁解放されたのよ私たち
!
うずまきナルト
◆
彼らにそれを知る由はなかった。
ネが木ノ葉に帰って来た時、ナルト達は更なる地獄を体験する事になるのだが⋮⋮今の
なお、この会話は遠く離れたアカネの白眼によって、読唇術にて読まれていた。アカ
解放された彼らは、まさに真の平和を手に入れたのだった。
それ以上の、喜びが籠められていた。よほどアカネの修行が辛かった様だ。地獄から
!!
!
!!
﹁ああ、これで地獄の修行に巻き込んだ事をオビトに愚痴られなくなる
NARUTO 最終話
1354
1355
紆余曲折を経て日向ヒナタと結ばれる。その後はヒナタとの間に二児を儲け、幸せな
家庭を築く。
オビトが火影を退任後に七代目火影として選ばれる。火影として忙しい日々を送る
が、多くの仲間の助けもあり、どうにか家庭と火影を両立させる事に成功。
九尾と六道仙術を使いこなす最強の忍の一人として数えられる。だが、六道仙術自体
は強すぎる為に、殆ど使用する事はなかった。使用例としては対アカネ戦が主である。
うちはサスケ
結婚したナルトを見て焦って迫ってきたサクラの愛に根負けし、サクラと結婚する。
二児の父となる。子どもは一人で十分の様だったが、二人目が生まれたナルトに負けじ
とサクラに二人目を仕込んだ。
ナルトが火影に就任したのを切っ掛けに、火影の右腕となる。口喧嘩をしつつもナル
トを支え続けた。おかげてナルトの負担は減り、家族との時間が取れたようである。
輪廻写輪眼という、輪廻眼と写輪眼の二つの瞳力を同時に扱える稀有な存在。その力
はナルトと完全に互角であり、最強の忍として数えられる。だが、その全力を出すのは
対アカネ戦くらいである。
NARUTO 最終話
1356
春野サクラ
ナルトとヒナタの幸せそうな結婚式を見て、サスケへのアタックを加速させた。その
おかげか、念願叶ってサスケと結婚に至る。なお、いのにかなり勝ち誇ったらしい。
結婚後はうちはの性を名乗り、サスケとの間に娘と息子の二児を授かる。忙しい夫を
支える良き妻となった。だが、たまに家を壊すほどの怪力を繰り出す事もある。
三代目三忍として正式に名乗る事を許された忍。その医療忍術に右に出る者は少な
く、生涯に渡って多くの患者の命を救う事になる。
日向ヒナタ
か つ て か ら の 憧 れ で あ っ た ナ ル ト と つ い に ゴ ー ル イ ン。幸 せ な 家 庭 を 築 き 上 げ た。
長男と長女を授かり、良き妻として夫を支え、良き母として子どもたちと接する。
アカネの正体を知った後も、変わらずアカネを姉の様に慕っていた。
犬塚キバ
アカネの地獄の修行を乗り越えた事で、犬塚一族最強の忍となる。火影にはなれな
かったが、それでも多くの忍から尊敬される程の実力者となった。
1357
油女シノ
アカネの地獄の修行を乗り越えた事で、木ノ葉でも屈指の体術の使い手となる。な
お、当然油女一族秘伝の忍術も巧みに使いこなす。
その高い実力を買われ、扉間にアカデミーの教師としてスカウトされ、それを承諾。
教師として多くの忍を育てて行く。なお、存在感の薄さは健在である。
奈良シカマル
その高い知能指数と知識を持ち、火影となったナルトの相談役としてナルトを支えて
いく。恐らく一番里に貢献した忍と言える。だが、面倒くさがり屋な所は変わらない。
かねてから怪しい関係であった砂のテマリと結婚。一児を授かる。
秋道チョウジ
ついにデブでも構わないというマニア⋮⋮もとい、体型を気にしない女性を発見。そ
の女性、雲隠れの忍であったカルイと結婚し、長女を授かる。
秋道秘伝の忍術を操り、高い実力を持つ忍として木ノ葉を支えていく。
山中いの
NARUTO 最終話
1358
サクラがサスケをゲットしたのを勝ち誇った事に怒り心頭になり、意地でもイケメン
をゲットしてやると里を奔放する。そして哀れな犠牲者⋮⋮もとい、いのの心を射止め
た一人のイケメン暗部と結ばれた。
結婚後は長男を授かり、忍の道から離れて実家の花屋を継ぐ。
日向ネジ
アカネの正体を知った後、アカネに挑む事に空しさを感じる。そしてヒナタも結婚し
た事で守る必要がなくなり、生きがいをなくす。
そこでヒアシがネジをハナビ││ヒナタの妹││の護衛に任命する。新たな生きが
いを得たネジは懸命にハナビを守り、そしてその心を射止めてしまう。この時ネジ22
歳、ハナビ16歳であった。ヒアシにボッコボコにされながらもハナビとの結婚を願
い、どうにか結婚を許された。
日向の長となったハナビを支えつつ、火影の左腕にも選ばれた為に火影をサポートす
るという忙しい日々を送る。
ロック・リー
尊敬するガイに追いつけるよう、パワー全開で今も青春を送る。サクラが結婚したの
1359
でその恋を諦める。後に一人の女性と恋愛し、結婚。一人息子を得た。
テンテン
原作と変わらず忍具店を営むが、原作と違い六道の宝具は得ていない。
波風ミナト
アカデミーの教師としてその腕を振るう。その整った顔と忍としての類稀なる腕か
ら女性候補生に圧倒的な人気を誇る。プレゼントを貰うと捨てる事も出来ず、持ち帰っ
てクシナによく怒られる。
多くの候補生を優秀な忍へと育て、慕われている。実はナルトが波風性を名乗ってく
れない事を残念に思っている。
うずまきクシナ
ナルトと家族で暮らし出し、ようやく母親として振舞える事に幸せを感じ、少々教育
ママ的になる。
新しい生き方に生きがいを感じる夫を支えつつ、新しい子どもをおねだりしたりす
る。ナルトが兄になるのはそう遠くない未来であった。
NARUTO 最終話
1360
日向ソウ
オリジナルキャラクター。アカネの父。
戦争終結後、世界を見て回るというアカネの意思を尊重し、アカネを見送る。もっと
も、影分身のアカネがいたので寂しくはなかったが。
立派に巣立った子どもを見て、妻と共に二人目を欲しがる。アカネが里帰りした時に
二十歳離れた弟を見せて愕然とさせた。
日向ホノカ
オリジナルキャラクター。アカネの母。
日向ソウの項を参照。
日向ヒアシ
ナルトがヒナタを託すに相応しい人物だと認め、二人の結婚を許す。そして日向の後
継者としてハナビをより厳しく鍛えていくが、そのハナビがあろう事か護衛役であった
ネジと結婚したいと言い出す。これにはお父さんもびっくりして八卦六十四掌をネジ
に叩きこんだほどであった。
1361
しばらく機嫌は直らなかったが、ネジとヒザシの土下座、そしてハナビの懇願により
二人の結婚を許す。
日向ヒザシ
ネジから宗家の跡取りと結婚したいという話を聞き、父として息子の為に命懸けでヒ
アシを説得する。
特にそれらの影響で兄弟の仲が悪くなるということもなく、たまに二人で飲んで愚痴
を聞いたりしている。
日向ヒルマ
ヒアシとヒザシの父。原作には登場しているが、名前がない為にオリジナルの名前を
与えられた。
平和な世界を見て、日向も変わるべきかと少しずつ柔らかくなる。後にナルトの提案
である日向一族の掟変更に賛成し、掟を変更する助力をする。
うちはフガク
イタチに刑務部隊隊長の座を譲った後、立派になった二人の息子を残された片目に刻
NARUTO 最終話
1362
みつつ、二人の活躍を肴に酒を飲む事を楽しみにしながら生きる。
親馬鹿だが、それを息子達には悟らせないように努力する。だが、イタチには気付か
れていた模様。
うちはミコト
蘇ったクシナと驚愕の再会を果たし、そしてそれを喜んだ。今では先輩母として色々
とクシナに教えている。だが、クシナの若さを羨ましく思っていたりもする。
うちはイタチ
父の跡を継ぎ、刑務部隊隊長に就任する。それを親の七光りだと言うものは一人もお
らず、多くの者から尊敬される。ナルト達と違い目立った活躍は少ないが、最も素晴ら
しい忍の一人として謳われた。
サスケが結婚した後もしばらく独身として過ごしていたが、親友であるシスイの紹介
で出会った女性と付き合い始め、時間を掛けて結婚に至る。
うちはシスイ
戦争終結後、別天神があまりに有名になり、別天神の力を権力者が恐れる事を自ら示
1363
唆して封印する。その封印は五影会談にて行われ、五影全ての承認がなければ使用出来
ない様にされた。
その後は以前から付き合いのあった日向の分家の女性と結婚。うちはと日向の仲を
より深く保つ役目を果たす。イタチと並び、最も素晴らしい忍として称えられる。
自来也
綱手の火影退任を祝う酒の席で戯れにした告白が綱手に受け入れられ、放心している
間にあれよあれよと結婚していた。
何が起こったのか自来也を以ってしても理解出来なかった。幻術だとか無限月読だ
とか、そんなチャチなもんじゃなく、もっと恐ろしいものの片鱗を││ここからは先は
読めなくなっているようだ。ともかく、熟年結婚だったが互いの仲に問題はなく、喧嘩
をしながらも幸せな日々を過ごした。
ナルトを孫の様に可愛がり、その子どもを更に可愛がった。
綱手
火影退任後、自来也の想いを受け入れて結婚する。高齢だったが年齢を二十代まで操
れる綱手には何の問題もなく、三人もの子どもを産んだ。
NARUTO 最終話
1364
ナルトを可愛がり、そしてナルトの家族と本当の家族の様に付き合う様になる。
大蛇丸
イザナミによって改心するが、罪は罪。罰は受けなければならないが、戦争終結の一
助を担った事により大きく軽減される。
他にも技術提供などをする事で刑もあってないようなものとなり、悠々自適に研究す
る日々を送る。両親に会いたいという夢は変わらず、次は転生を繰り返すアカネの秘術
を開発するべく研究に力を注いでいる様だ。
はたけカカシ
火影となったオビトの良き相談役として共に木ノ葉の為に働く。オビトが火影を退
任した後も、その妻であるリン共々に長きに渡る付き合いをする。
写輪眼はなくなったが、修行によって五影に匹敵する実力は有している実力者であ
る。六道仙術にて隻眼を再生する提案をナルトから受けたが、あえてそれを断った。
なお、一楽というラーメン屋の一人娘であるアヤメという女性と結婚した。
うちはオビト
1365
うちは一族で初の火影に就任したとして、一族ではマダラやサスケと人気を分け合う
程に名高くなる。兼ねてからの目標であった火影となり、今まで以上に里の為に貢献し
た。
両目の万華鏡を得て、神威という万華鏡をして強すぎると言える瞳術を操り、歴代で
も最強と名高い火影と言われる。ナルトが火影となった今でも、どちらが強いが何度も
議論された事がある。
愛妻家として知られ、妻には頭が上がらない事も広く知られている。そういった点も
含め、里の多くから慕われた良き火影となった。
野原リン
カカシに恋をしていたが、オビトの情熱的な愛に押されて彼になびく。オビトが火影
となった日を記念に結婚を受け入れた。
結婚後は子どもを二人儲け、幸せな家庭を築く。なお、カカシが別の女性と結婚した
時は複雑な想いを抱いたという。
マイト・ガイ
リー共々変わらぬ青春パワーで熱く過ごしていく。その剛拳は右に並ぶ者がいない
NARUTO 最終話
1366
とまで言われ、史上唯一八門遁甲の第七門をほぼノーリスクで解放する事に成功する。
ヤマト
ある意味で木ノ葉最大の英雄。彼がいなければ里の復興は五年は掛かったとまで言
われている。
戦争終結後は忍として様々な仕事をこなす。そのオールマイティさにより綱手、オビ
ト、ナルトと三代の火影に重宝された苦労人。
薬師カブト
マザーや孤児院の家族と共に孤児院を切り盛りする。戦争や何らかの理由で家族を
失った孤児に己がマザーから受けた愛を分け与えていった。
薬師ノノウ
大蛇丸から投与された薬物の影響がなくなり、元の健常な体に戻った後は以前と同じ
様に孤児院にて多くの孤児たちに愛を与えていった。
猿飛アスマ
1367
戦争終結直後に婚約者であった紅に結婚を申し込む。全てが終わったら結婚しよう
と戦争前に伝えていたらしい。死亡フラグを乗り越えて幸せな家庭を得た。
夕日紅
妊娠していた為に戦争には参加せず、木ノ葉でアスマや仲間の勝利と無事を祈ってい
た。
無事に帰還したアスマとすぐに結婚式を挙げ、長女と長男次男の三人の子どもを授か
り幸せに過ごす。
猿飛ヒルゼン
戦争終結後、里を若い者に任せて忍世界から引退。ダンゾウと共に平和な世界でのん
びりと過ごした。
志村ダンゾウ
戦争終結後、里にはもう自分は必要ないと考え引退。ヒルゼンとゆっくり過ごした
り、尊敬する師である扉間と共に語り合ったりして平和を謳歌する。
NARUTO 最終話
1368
水戸門ホムラ
ヒルゼン達同様に引退した後は平穏に過ごす。
うたたねコハル
ヒルゼン達同様に引退した後は平穏に過ごす。
猿飛木ノ葉丸
三代目火影の孫として見られる日々を嫌っていたが、ナルトによってそのコンプレッ
クスを払拭された少年。故にナルトを尊敬している。
戦争終結後にナルトと同じ中忍試験を受け、下忍から中忍となる。その後も修行を続
け、立派な上忍となって多くの下忍を育てていった。
奈良シカク
その明晰な頭脳を以って、木ノ葉に大きく貢献する。息子の成長を見守った後は引退
し、好きな将棋を打ちながらのんびり過ごす。なお、幾度となくアカネが挑んできたが、
全て返り討ちにしている。
1369
千手扉間
平和な世界で己の存在意義を問うていた時に、ミナトに誘われたのを切っ掛けにアカ
デミーの教師として働く事を決める。
その手腕は今でも衰えておらず、多くの優秀な下忍を生み出した。彼の教え子の多く
はリアリストになったが、その根底には木ノ葉を想う気持ちが確かに流れていた。
我愛羅
風影として立派に砂隠れの里を率い、火影となったナルトの良き理解者となる。
チヨバア
平和になった世界を、長生きはするものだと感慨深く見守り、更に長生きし続ける。
明美メイ
水影を退任し、旧五影の集いにて綱手の結婚を知る。唯一の未婚者という事実に焦り
を抱き、新たな水影にアプローチをする様になる。
オオノキ
NARUTO 最終話
1370
戦争を通じて凝り固まった思考を柔らかくし、戦争終結後は他里との同盟に力を入れ
る。日向アカネの影に怯えていたという噂もあるが、所詮は噂である。
エー
雷影を退任した後も、その力を衰えさせる事無く修行に励む。目指すは打倒日向アカ
ネだという。それが叶ったかどうかは定かではないとだけは記しておこう。
ビー
元の鞘に収まった八尾と共に、修行したりラップを刻んだりと自由に生きる。
二位ユギト
︶で会話をしたりもする。
元二尾の人柱力。人柱力の立場から解放され、新たな人生を歩む。もっとも、二尾で
ある又旅との仲は元々悪くなく、良く二人︵一人と一匹
やぐら
を償う為に里の為に尽力する。
元三尾の人柱力。操られていたとはいえ、霧隠れを混乱に陥れた事に責任を感じ、罪
?
1371
老紫
元四尾の人柱力。オオノキよりも頑固と言われていたが、ナルトと尾獣達の対話に
よってそれも若干柔らかくなる。人柱力の立場から解放されてからは一人の忍として
岩隠れに貢献する。
ハン
元五尾の人柱力。人柱力であった頃は里の者に疎外されていた。人柱力の立場から
解放され、忍界が大きく変わった事もあり、里の者からの目も変わって来た事からそれ
を受け入れ、一人の忍として里の為に働く様になる。
ウタカタ
元六尾の人柱力。一度は霧隠れから離反したが、再び里に戻り和解。忍の師として多
くの弟子を育てる。
フウ
元七尾の人柱力。人柱力であった頃は里に庇護され、あまり外の世界を見る事は出来
ず、友達もいなかった。だが、人柱力の立場から解放されたのを切っ掛けに、世界中を
旅して様々な物を見聞きし、多くの友達を作る事に成功する。
八尾と九尾を除く尾獣達
各々が故郷や好きな土地にて自由に生きる。ナルトを介する事で離れていてもそれ
ぞれが会話をする事ができる。かつての様に人々に災厄を振りまく事もなくなり、中に
は人を助け感謝される者もいた。
◆
カグヤが封印され、イズナが輪廻天生を行った同時刻。雨隠れの里のある場所にて異
変が起こっていた。
てを託して死んだはず。
確かに自分は死んだはずだ。あの時、輪廻天生にて木ノ葉の忍を蘇らせ、ナルトに全
ように自身の体を見つめた。
紙で作られた花に囲まれていた長門がゆっくりと体を起こす。そして信じられない
﹁ここは⋮⋮おれは、死んだはずでは⋮⋮﹂
NARUTO 最終話
1372
﹂
長門かお前 どうしたんだその髪の毛。あんなに赤かった
そう思い悩む長門。だが、その悩みが吹き飛ぶ出来事が長門の隣で起こった。
や、弥彦⋮⋮
﹁う、うう⋮⋮﹂
﹁
﹁こ、ここは⋮⋮長門
?
?
のか
﹂
髪が真っ白になってるじゃないか。それに、頬もこけている。お前ちゃんと飯食ってる
?
!?
﹁弥彦
﹁うお
﹂
いきなり抱きつくなよ
﹂
⋮⋮いや、おかしいな。オレは確かお前を庇って⋮⋮﹂
な、何だよ長門
!
!
﹂
!
﹁分からない。オレも死んだ。だが、こうして生きている⋮⋮これはまるで⋮⋮。そう
かに死んだはず⋮⋮それが、どうして生きている⋮⋮﹂
﹁生き返った⋮⋮。そう、か。そうだな。どうやら寝ぼけすぎていた様だな。オレは確
﹁生き返った⋮⋮生き返ったのか⋮⋮
しめる。そこにあった感触は夢ではないと長門に伝えていた。
長門は、これが夢でないか、幻術でないかと疑心暗鬼になりながらも弥彦の体を抱き
!
﹁どうしたんだよお前
混乱している長門は何も言えずに、ただじっと弥彦の顔を見つめていた。
記憶にある姿とは変わり果てた長門に弥彦は戸惑っているようだ。だが、それ以上に
?
!
?
1373
だ、小南は
小南はどこだ
﹂
!?
﹂
﹁なに言ってるんだ。家族が助け合うのは当然だろう。ほら、行くぞ﹂
それを弥彦が支え助けた。思わず礼を告げる長門に対し、弥彦は笑って答える。
﹁ああ。ありがとう弥彦﹂
﹁おっと。大丈夫か長門﹂
なっている長門は、その場で倒れそうになる。
長門は立ち上がり小南を探そうとする。だが、足に受けた古傷によって歩行が困難に
人がこの場にいない。
弥彦と小南と長門。この3人は小さな頃から困難を乗り越えてきた家族だ。その一
門が小南を思い出した。
弥彦が自分の死を思い出し、そして二人で現状の認識を確認しようとしている時、長
?
!
やがて二人は自分達が眠っていた傍に、大きな樹とその樹にぶら下がる人間大の繭が
だ。
長門は泣きそうになる己を抑え、もう一人の家族を探す。泣く時は、三人が揃った時
そう、家族だ。自分を助けてくれた。助け合ってきた家族がここにいる。
﹁⋮⋮ああ
NARUTO 最終話
1374
あるのを見つけた。
﹂
﹂
そして長門がその感知力を以ってして、その繭の中に小南がいる事に気付く。
﹁あの中に小南がいる⋮⋮
﹁そうか⋮⋮なら、絶対に助け出すぞ
﹂
﹁⋮⋮ん﹂
﹁小南
夢と間違えるのも仕方ないだろう。
その夢から覚めて、最初に目にしたのが死んだはずの弥彦と長門なのだ。この現実を
ごすという、幸せな夢を。
先ほどまで、無限月読の中で小南は幸せな夢を見ていた。そう、弥彦と長門と共に過
﹁弥彦⋮⋮長門⋮⋮ああ、夢でもいい。二人に会えるなら、これが夢でも⋮⋮﹂
て、夢の続きを見た。
無限月読から解放された小南は、懐かしい声に誘われてゆっくりと瞳を開ける。そし
!
!
﹁無事かおい
﹂
同時に、小南を包んでいた繭が地面に落ち、そして繭がゆっくりと解けていく。
無限月読を解術する印を組み、無限月読は解除された。
二人は小南救出の為に繭や大樹を切り裂こうとする。その時だ。ナルトとサスケが
!
!
1375
な、何をするの弥彦
﹂
そんな小南に対し、弥彦がその額にでこぴんを放った。
﹁いたっ
!
﹁弥彦が言っても説得力がないな⋮⋮さっき寝ぼけてたのは誰だ
﹂
図星を指されてうろたえる弥彦に、それを見て笑う長門。
﹁う、うるさいな長門
﹂
先ほどまでの幸せな夢と違い、どこか現実感がある。いや、現実なの
そんな二人を見つめながら、小南は徐々に現状の認識を改めていく。
?
な﹂
!
それを理解するのに小南はしばしの時間を要し、そして、理解した瞬間に二人に抱き
の弥彦。
長門が生きているのも夢ではなく、弥彦もまた、長門が操っている天道ではなく本物
﹁長門⋮⋮じゃあ、この弥彦も⋮⋮﹂
﹂
﹁現 実 だ よ。夢 な ん か じ ゃ な い。オ レ 達 に も 何 が 起 こ っ た か 分 か っ て い な い ん だ け ど
混乱する小南に、弥彦も長門も互いに苦笑し、そして小南に優しく語りかけた。
?
!
と長門が生きている⋮⋮。
でも、弥彦
﹁お前が寝ぼけているから起こしてやったんだろ。感謝してもらいたいくらいだ﹂
!
﹁そうだ⋮⋮これは夢じゃない。夢じゃ、ないんだ⋮⋮
NARUTO 最終話
1376
﹂
﹁いいえ。私は私の意思であなたに賛同したのよ。だから、罪はあなただけにはないわ﹂
れ﹂
﹁すまない⋮⋮だが、小南はオレの命令を聞いてただけだ。小南は責めないでやってく
﹁お前ら。オレが死んでからそんな事をしてたのか⋮⋮﹂
に終わった。
そして、蘇った事も、小南を捕らえていた繭に関しても、結局分からないという結果
く。
弥彦は自分が死んだ後の話を二人から聞き、長門も自分が死んだ後の話を小南から聞
三人が泣き止み落ち着いてから、長門達は各々の状況について確認しあう。
く泣き続けた。
そんな二人に釣られ、弥彦も徐々にその涙腺を緩めていった。そして、三人でしばら
二人に抱きついて泣きじゃくる小南に、長門もまた三人の再会に喜び涙を流す。
﹁な、何だよお前ら⋮⋮泣くなよ。オレだって泣きたくなるだろう⋮⋮﹂
!
ついた。
長門⋮⋮
!
﹁ああ⋮⋮﹂
﹁弥彦⋮⋮
1377
自身が死んだ後の長門達の行動を聞いた弥彦。その声は多少の非難の意思が入って
いた。
だが、同時に自分が彼らの立場だった場合も考える。
﹁いや⋮⋮オレだって逆の立場だったら⋮⋮お前らが死んだら、きっとそうしてたかも
な。だから、気にすんなよ。大事なのはこれからだろ﹂
﹁弥彦⋮⋮﹂
﹁大事なのはこれから、か⋮⋮﹂
弥彦の言葉に、やはり自分達のリーダーは弥彦だと二人は思う。
単純な強さではなく、人を引っ張る力を持つ者。それが弥彦なのだと。
がどうなってるかきっと教えてくれるさ﹂
﹁とりあえず自来也先生の所に行こうぜ。自来也先生ならオレ達がどうなったか、世界
◆
そうして三人は自来也を訪ねて木ノ葉隠れの里へ赴くのであった。
﹁そうね。迷惑ばかり掛けたものね﹂
﹁そうだな⋮⋮自来也先生にも、ちゃんと謝りたいしな﹂
NARUTO 最終話
1378
1379
長門
自来也とナルトと再会し、そして己の過ちを深く謝罪する。自来也は三人の復活を心
底喜び、そして長門と小南を許した。自来也の懐の広さに改めて師の偉大さを理解し、
そして二度と間違えないように誓う。
その後は罪を償う意味も籠めて、雨隠れの里と世界の平和の為に尽力する。その傍に
は常に大切な家族の姿があった。
弥彦
長き眠りから復活し、家族と再会を果たす。自来也との再会では生来の涙もろさから
誰よりも泣いたという。
長門と小南と共に雨隠れの里と世界の平和の為に尽力する。後に小南と結婚し、家族
を増やした。
小南
長門と弥彦の復活を心から喜び、そして自来也とナルトに感謝した。
長門や弥彦と共に雨隠れの里と世界の平和の為に尽力する。そして、以前から心を寄
せていた弥彦と結婚を果たす。
◆
アカネ達が木ノ葉から十分に離れた時。アカネがぼそりと呟いた。
どうやら白眼でナルト達の会話を読み取った様だ。相変わらず無駄に高性能な能力
﹁あいつら⋮⋮次に帰ってきたら覚えていろよ﹂
を無駄に使うアカネであった。
を覗いていただろう
﹂
﹁しかし、姿は変わったのに中身は変わらんなアカネは。昔もそうやってオレ達の会話
盗み見て、そして二人と出会った経緯を持っていた。
柱間に痛い所を突かれ、アカネが呻く。ヒヨリであった頃にも柱間とマダラの会話を
﹁うっ﹂
?
﹂
!
計算に加えられていない。知らないのだから当然だ。
転生して更に生きた事に関してだ。つまり、ヒヨリ以前の人生で積み重ねてきた年月は
マダラの言葉の意味は、ヒヨリとして他の二人よりも長く生き、そしてアカネとして
﹁ううっ
﹁生きてきた年数でいえばオレ達よりも上なのに、誰よりも子どもっぽいなお前は﹂
NARUTO 最終話
1380
だが、アカネとしてはそれも含めて言われている様に感じた。千年以上生きてるのに
転生して若返ると、少しは年齢に合わせて精神も変化するんだよ
子どもみたいなところがあるな、と言われて気がしたのだ。
﹁う、うるさいな
﹂
﹁⋮⋮ん
﹂
そう言えばアカネよ。おぬしはもう日向の契約から外れているのか
﹂
?
ああ、あの契約ですか。ええ。日向ヒヨリはもう死んでいますからね。今の私
?
﹁ほう、そうかそうか
﹂
には何の関係もありませんよ﹂
﹁ん
を見開いた。
柱間が突如として思い出したかの様にアカネに問い、それを聞いたマダラがはっと目
﹁
!?
?
ても仕方ない事なのだ。⋮⋮いや、流石にアカネ個人の精神の影響が強いと思われる。
つまり、今の若く瑞々しい肉体を得たアカネの精神が、多少は子どもっぽくなってい
の二つの肉体に入ったとして、数年もすればその精神には恐らく差が出ているだろう。
若々しく気力に溢れた肉体と、老いて自由が利かなくなってきた肉体。同じ精神がそ
の年月を生きているのだが、精神とは肉体の変化によっても変わってくるものだ。
アカネの言い訳もあながち嘘という訳ではない。全ての人生を合計すると千年以上
!
!
!
1381
アカネの答えを聞いた柱間はニヤニヤしながらマダラを見る。
それを憎々しげに睨みながらも、マダラは何も言えなかった。
﹂
?
!
だが、一人だけその契約が多大な障害となった者がいたりする。
血が選ばれようと、自身の血が絶えようと、それはどうでも良い事だったのだ。
ヒヨリはそのどちらも飲んだ。ヒヨリにとって大事なのは今であり、未来の長に兄の
事を禁じる事であった。
一つは次代の長に兄の子どもを選ぶ事。そしてもう一つが、ヒヨリの結婚と子を残す
ヒヨリが長となる事を認める代わりに兄と契約したその内容は二つ。
たのだ。
ちかけた。このままではヒヨリが日向の長となる事を見越し、全てを失う前に手を打っ
その時、兄は長の座をヒヨリに奪われたのではなく、そうなる前にヒヨリに契約を持
リがその座を得ようとした為に、兄は日向の長にはなれなかった。
元々日向の長となる存在はヒヨリの兄であった。だが、戦国の世を終わらすべくヒヨ
する事を禁じられていた。
そう、日向ヒヨリは日向宗家との、正確にはヒヨリの兄と交わした契約により、結婚
だろう
﹁いやぁ、アカネも大変だったな ヒヨリの時は契約のせいで結婚も出来なかったの
NARUTO 最終話
1382
﹁私は気にしてないんですけどね﹂
﹁⋮⋮﹂
﹁ほう、そうか。だが、いいかげん結婚するつもりはないのか
﹂
もう契約に縛られてい
ないなら結婚の一つや二つすればいいではないか。結婚もいいものぞ
﹂
?
﹃やっぱりお前結婚する気ないだろ
﹄
﹂
私よりも強い人を求めて何が悪い
アカネの答えに柱間もマダラも異口同音に叫んだ。
﹁な、何でですか
﹂
!
!?
﹁お前よりも強い奴がそこらにいてたまるかぁぁぁ
!!
!
!
﹁自分の強さをちゃんと理解してんのかこの脳タリンがぁぁ
﹂
﹁はあ⋮⋮優しい人がいいですね。あと⋮⋮私より強ければなお良しかな﹂
ながらもその問いに答えていく。マダラは耳をダンボにしていた。
マダラにとっては危険球とも言える言葉を投げ掛ける柱間に対し、アカネは妙に思い
﹁では、結婚するとしたらどんな男がいい
が自分から積極的に結婚に向けて動く事はないだろう。柱間とマダラはそう直感した。
今は、と言ってるが、ではいつになったら結婚するつもりなのだろうか。多分アカネ
緒にいる方が楽しいから、結婚とかは考えられないですね﹂
﹁一つや二つって⋮⋮そういうものじゃないでしょ、結婚って。それに、今はお前達と一
?
?
1383
﹂
﹂
﹂
﹂
﹁そんなの世の男が私よりも弱いのが悪い
﹁この世の男は全員悪いってことぞそれ
!
蘇って新たに得た力をお前で試してやろうぞ
!
!
!?
﹁この馬鹿女に世の常識を叩きこみたい⋮⋮
丁度いい
﹂
!
﹁うるさい黙れぶっとばすぞ
﹁おお
!
﹂
﹄
!
!
マダラとアカネと共に世界中を旅する。様々な事件やアクシデントに巻き込まれな
千手柱間
◆
という。
犯人に思い至った者達は全員が頭を抱えるが、当人達は楽しく世界中を旅して回った
件が起きた。
その日、木ノ葉の外れの森が消滅し、そして翌日には元に戻るという摩訶不思議な事
!
鹿が
﹁そうだな 輪廻眼の力も試したかったところだ 少々お灸をすえてやるぞこの馬
!
!
﹃ぶっ殺す
NARUTO 最終話
1384
1385
がらも、三人の力でそれを乗り越えて楽しく過ごした。
蘇った直後に六道仙人と接した為か、しばらくして六道仙術に目覚める。そしてマダ
ラとの力の差を再び互角へと持っていく離れ業をやって見せた。世界最強の忍の一人。
うちはマダラ
イズナの目と共に世界中を見て回る。そしてその中でカグヤの情報や大筒木一族の
情報を得て、その対処の為に輪廻眼の力を存分に振るう。
イズナの輪廻眼を移植した事でその固有瞳術も得る。しかも、輪廻眼の交換という史
上初の行為が原因か、時空を操作する瞳力にも目覚めるチートっぷりを発揮。世界最強
の忍の一人。
アカネと幾度となく勝負し、幾度となく敗北し、そしてとうとう勝ちを拾った。
日向アカネ
最大の友である二人と一緒に楽しく世界中を旅した。道中のハプニングも楽しさを
増すスパイスである。
とは誰の言葉か。世界最強の忍にして、世界最強の武人。
蘇って更に強くなる二人を嬉しく思い、自身も更なる修行に励んだ。もうゴールして
もいいんですよ
?
NARUTO 最終話
1386
マダラと柱間が寿命を迎えると、木ノ葉にて隠居してゆっくりと暮らした。そして、
里と世界の平和を噛み締めて寿命を迎える。その後、アカネの魂がどこに向かったの
か、それを知る者は誰もいない。⋮⋮この世界では、だったが。
∼Fin∼
NARUTO編おまけ││THE LAST││
第四次忍界大戦から二年の年月が流れ、世界は平和を謳歌し続けていた。それは木の
葉隠れの里も変わらない。
そんな木ノ葉隠れは今、いつもよりも若干陽気な雰囲気に溢れていた。その理由は、
木ノ葉隠れの、いや、世界の英雄であるうずまきナルトと日向ヒナタの結婚式が近日中
に挙げられる事が判明したからである。
そのおめでたい話に便乗する者は多く、記念としてうずまき一族の印が入った饅頭を
売り出したり、螺旋丸キーホルダーなる商品を売り出したりと、木ノ葉隠れはちょっと
したお祭り状態になっていたのだ。もっとも、来月からは本当のお祭りである輪廻祭り
おおごと
が開催されるのだが、騒げる理由は多いに越した事はないのである。
に男のみの参加である。
結婚の前祝いという名目で、ナルトは友人たちと焼肉店で楽しく食べていた。ちなみ
かったぜ﹂
﹁しっかしお前の結婚がここまで大事になるなんざ、アカデミー時代だと思ってもみな
1387
そんな中、シカマルは昔を思い出しつつナルトとアカデミー時代の思い出を語り合
う。
仲いいんだろ
どうなってんだ
結婚とかすんのか
﹂
﹁オレだって思ってもいなかったってばよ。そういやシカマルも我愛羅のねーちゃんと
?
﹁めんどくせー⋮⋮オレは一生独身でいいぜ﹂
?
?
﹂
!
には六代目就任とほぼ同時に火影様とリンさんが結婚してるしな﹂
﹁だなー。サクラちゃんもサスケを狙ってるし、次はサスケかもな
!
ナルトの向かいの席で黙々と焼肉を食べていたサスケが、冷や汗を流しながらナルト
﹁おい、やめろ縁起でもねー⋮⋮﹂
﹂
﹁しかし最近は有名どころの結婚ラッシュだな。この前は綱手様と自来也様が、その前
全に痩せずに彼女を見つけるつもりの様である。ある意味男らしい宣言と言えよう。
太った体型でもいいという女性を見つける宣言といい、相変わらずの食欲といい、完
﹁お前は彼女見つける努力をする前に痩せる努力を⋮⋮するつもりはないみたいだな﹂
ずにそう話す。
結婚が面倒だと言う友人に対し、チョウジは焼肉を食べる手と口のスピードを落とさ
型でもいいって言う彼女を見つけてみせる
﹁シカマルは相変わらずだね。ボクは今度雲隠れの忍と合コンするんだ。絶対ボクの体
NARUTO編おまけ──THE LAST──
1388
の言葉に反応する。
﹂
最近はサクラの迫り方が徐々にランクアップしてきているのだ。いいかげん冗談に
なっていないその言葉は本当に縁起でもなかった。
﹁お前いいかげん腹括れよ。そんなにサクラちゃんが嫌いなのか
﹄
?
﹂
!
そんな夢を追うくらいなら火影になる方が簡
!
だ全力を見せた事がないからだ﹂
﹁アカネに勝つ。その為には何が必要なのかすら分からない⋮⋮何故なら、アカネはま
と言えるのかもしれない。実際に腹を見せたわけではないが。
カネ相手に、徹底的に鍛えられたのだ。彼がアカネに対して腹を見せて服従しても当然
まあ仕方ないだろう。犬の様な性格の者が多い犬塚一族の青年だ。圧倒的に強いア
かれていた。
アカネを姉御という彼はキバだ。名前とは裏腹に、彼のアカネに対する牙は完全に抜
単だぜ
﹁アカネの姉御に勝てるわけねーだろ
サスケの言い訳には全員一致の突っ込みが返って来たが、残念でもなく当然である。
﹃お前は一生結婚しない気か
物にうつつを抜かすわけには││﹂
﹁べ、別にそういう訳じゃない。だが、オレは⋮⋮そう、アカネを倒すまでは結婚なんて
?
1389
席の隅の方で一人黙々と食事をしていたシノがようやく存在感を顕わにする。そし
て、その言葉は正鵠を射ていた。
達よりも遥かに長い年月を修行に費やしているのだ。負けた所でそれは恥にはならな
﹁そうだな。アカネは強いが、その強さがどこまでの高みにあるのかが分からん。オレ
い﹂
ネジがサスケを諭すように、そして己に対してどこか言い訳している様に言う。
ネジもまたサスケの様にアカネ打倒を目指していた。だが、圧倒的な強さと、初代三
忍という正体を知り、それを空しく思うようになってしまったのだ。
アカネ打倒に空しさを感じたネジは、任務であるヒナタ護衛に心血を注ごうとした。
だが、今回の結婚でその任務も終わりを告げた。
成すべき目標がなくなり、空しさを感じているネジであった。まあ、この場では関係
のない事だが。
﹂
!
解放されて喜んでたんじゃねーのか
﹂
﹁だからお前らあんだけ強くなったのにまだ修行してんのか。アカネの地獄の修行から
﹁それは分かるってばよ。オレだっていつかはアカネに勝ちてー﹂
一度も勝てずに負けたままでいられるか⋮⋮
﹁関係ないな。あいつがどれだけ修行してようが、そんな事で諦める理由にはならん。
NARUTO編おまけ──THE LAST──
1390
?
そう、シカマルが言う様に、ナルトとサスケはこの二年で更なる修行に励んでいた。
一度はアカネの修行から逃れられた事を喜んでいたというのにだ。
﹁まあ、サスケ君にサクラさんへの恋心がないとなればボクは一安心です ライバル
牙に掛かっていないはずのリーは五人に同調して頷いていた。
そんな彼らを恐ろしいものを見る目でシカマルとチョウジは眺め、そしてアカネの毒
行病とも言うべき病に冒されていた。哀れな⋮⋮。
アカネの修行を骨の髄まで叩きこまれた彼らは、修行を止めると不安になるという修
修行を受けた者達だ。
犠牲者
ナルトとサスケの言葉に、ネジとキバとシノが同意する。この五人はアカネによって
﹁いや分かんねーよ﹂
﹃分かる﹄
﹃いや、何か修行を止めるとどうも不安になってな⋮⋮﹄
1391
クラさんの⋮⋮
﹂
だと思っていたナルト君もヒナタさんと目出度く結ばれますし、次はいよいよボクとサ
!
に望みがないからである。
未だにサクラに惚れているリーのお目出度い頭に全員が同情する。どう見てもリー
﹃ないない﹄
!
一同はナルトの前祝いと、そしてリーの失恋の前慰め︵
◆
戻るが、そこで出迎えたヒザシに呼びとめられた。
︶に盛り上がるのであった。
前祝いの焼肉パーティが終わり、ネジは一人日向の里に帰り着く。そのまま自宅へと
?
﹁ヒアシ様が
こんな時間にどうしたんだろう
﹂
?
﹁分かりました﹂
﹁お待たせいたしました。ヒアシ様がお待ちです。こちらに﹂
室にて待つ。
瞬身の術まで用いて急ぎ、そしてネジは屋敷に仕える使用人に話を通し、しばし待合
宅から宗家の屋敷まで十秒と経たずに到着する。
とにかく、ネジは出来るだけ急いで宗家の屋敷へと赴いた。ネジがその気になれば自
れれば分家としては逆らう事は出来ない。逆らうつもりもないが。
既に夜も遅く、日付も一時間ほどで変わろうとしている。だが、宗家の者にそう言わ
?
の元に出向けとの仰せだ﹂
﹁ネジよ。ヒアシ様がお前を呼んでいたぞ。本日中ならば遅くても良いから、ヒアシ様
NARUTO編おまけ──THE LAST──
1392
使用人に案内されて、ネジはヒアシが待つ部屋へと移動する。場所はネジも知ってい
るが、こういう作法は必要な事なのだ。使用人の仕事を取ってはならない。
﹂
?
﹂
!
元々分家の人間が宗家の命令に従わない事はありえない。なので、ヒアシの言葉はネ
﹁いえ、まさか断るなど。そのお話、ありがたくお受けいたします﹂
﹁そうだ。明日にでもその旨をハナビに伝える。お前が断るなら話は別だが﹂
﹁ハナビ様の⋮⋮
前をハナビの護衛に付けようと思っている﹂
﹁うむ。明日でも良かったのだが、出来るだけ早い方が良いと思ってな⋮⋮。ネジよ、お
し、ゆっくりと口を開いた。
ヒアシは何かの書物を見ながらネジに労いの言葉を掛ける。そしてネジの質問に対
何様なご用件でしょうか
﹁いえ、こちらこそお待たせして申し訳ございませんでした。しかし、この様な夜分に如
﹁良く来た。遅くにすまなかったな﹂
をしつつ、ヒアシの書斎に入室し、そしてヒアシの言葉を待つ。
ヒアシの言葉に従い、使用人は襖を開いてネジを部屋へと通す。それに従いネジは礼
﹁通せ﹂
﹁ヒアシ様。ネジ様がいらっしゃいました﹂
1393
ジの意思を汲もうとする優しさだ。甥という意味でも、一応はネジもヒアシの中で特別
な位置にいるのだろう。
⋮⋮一つ、ご質問よろしいでしょうか
﹂
﹁そうか⋮⋮では、その力でハナビの為に尽くしてくれ。頼んだぞ﹂
﹁はっ
﹂
?
ヒアシに頭を下げつつ、ネジは疑問に思った事を確認する。
﹁⋮⋮なんだ
?
!
﹁はっ
ぶしつけな質問、申し訳ありませんでした
﹂
!
﹁はっ
それでは失礼いたします﹂
難しい顔でヒアシは呟き、一人である場所へと赴いて行く。
﹁⋮⋮月の大筒木一族。私の杞憂で済めばいいのだが﹂
そうしてネジが退室した後に、ヒアシは古い文献の続きを読み解いていく。
!
休め﹂
﹁構わん。⋮⋮もう下がって良いぞ。明日の明朝にまた屋敷に来い。今日はゆっくりと
!
測に対応出来るよう、準備は整えておくのが正解だろう﹂
﹁⋮⋮いや、決まっている訳ではない。だが、未来は常に予測不可能だ。ならば、その予
?
?
は仰っていました。何か不穏な事でも起こるのでしょうか
﹂
﹁何故、護衛の話を急に持ち出したのでしょう 出来るだけ早い方が良いとヒアシ様
NARUTO編おまけ──THE LAST──
1394
1395
だが、彼の不安は杞憂で終わる事はなかった⋮⋮。
◆
月の大筒木一族。それは、六道仙人である大筒木ハゴロモの弟、大筒木ハムラの末裔
だ。
ハムラは兄と共に十尾とカグヤを封印した後、月となった十尾を監視する為に、己の
一族の一部を引き連れて月の内部へと移り住んだのだ。この時地上に残された一族が、
後の日向一族である。
月の大筒木一族はハムラの教えに従い、長きに渡り生き続けていた。その教えとは、
大筒木一族が月に移り住んでから千年の後、地上の民がチャクラを正しく扱い世界が平
穏であるかを見極める、というものである。
だが、その解釈を巡り、大筒木一族は宗家と分家とで分かれて壮大な争いを行ってい
た。そして、勝ち残ったのは分家であった。
分家の者はハムラの教えをこう解釈した。千年の後に、地上の民がチャクラを正しく
扱わず、世に平穏を齎す事が出来ていなければ⋮⋮地上を滅ぼし、真の楽園を作る⋮⋮
と。
NARUTO編おまけ──THE LAST──
1396
分家が勝ち残った事により、その教えが月の大筒木一族の悲願となってしまった。そ
して最後の一族である大筒木トネリは千年後の地上を見て、地上を滅ぼす事を決断し
た。
千年経っても六道仙人の教えは浸透しておらず、地上の人間は未だチャクラを兵器の
様に扱っている。最早これ以上地上の人間をのさばらせる必要はないとトネリは判断
したのだ。
トネリは地上の人々を滅ぼすべく、月の内部にあるエネルギー球体〝転生眼〟の力を
利用し、月そのものを地上に落とそうとする。
月の質量が地上に落ちれば、その破壊により大多数の人々は死に、生き残った人々も
環境の変化に耐えられず死滅するだろう。全ての人々が死に絶えた後に、トネリは地上
に真の楽園を作り出すのだ。
その為の力もまた転生眼であった。三大瞳術とは違う第四の瞳術にして、輪廻眼と対
を成す転生眼。 転生眼とはハムラが開眼した瞳術だ。写輪眼の行きつく先が輪廻眼であるように、白
眼の行きつく先が転生眼なのである。
転生眼の力は凄まじいの一言に尽きる。転生眼を持つ者に触れれば、その者はチャク
ラを一瞬にして吸収され、その上転生眼の開眼者にはハムラのチャクラを有する者か、
1397
その直系の子孫でない限りダメージを与える事も出来ない。
月の内部にある巨大な転生眼は元はハムラが開眼したものであり、一族が代々伝わる
教えに従いハムラの子孫の白眼の眼球を封印し続けた結果、巨大なエネルギー球体に
なったのである。
転生眼の力を十全に発揮すれば、破壊された地上を楽園に変える事も可能だろう。
だが、そこには問題があった。トネリは大筒木一族の最後の一人。そう、千年の後に
残った一族が、大筒木トネリただ一人だけだったのだ。
これでは地上を滅ぼし楽園を作ったところで意味はない。生物は一人では数を増や
す事は出来ないのだ。単細胞生物は別としてだが。
そこでトネリは地上の日向一族に目をつけた。ハムラの血統、その中でも純度の高い
白眼を持ち、ハムラのチャクラを最も色濃く受け継ぐ宗家の娘。それを妻と迎える事
で、新世界の新たなアダムとイブになろうと画策したのだ。
だが、ここでも問題が起こった。なんとトネリに妻として選ばれた日向ヒナタが、ど
この馬の骨とも分からぬ輩と結婚をするという情報を得たのだ。
これにはトネリも焦った。そして同時に憤慨した。ヒナタに、ではない。ハムラの血
統でありながら、他の一族の血を招き入れる事を許したヒアシにだ。一族の誇りを汚す
行為にトネリは激怒したのだ。
NARUTO編おまけ──THE LAST──
1398
ヒナタが結婚してしまえば、全ての計画は台無しとなる。事は早急を要した。
だが、焦っても問題は解決しない。ここでヒナタを強奪したとして、それで全てが上
手く行くほどにトネリは地上の民を侮ってはいなかった。
計画を進めるには力が必要だ。そう、誰にも負けない力が。
それこそが転生眼の力だ。月にある大筒木の秘宝ではなく、トネリ個人の転生眼が必
要なのだ。
その転生眼を開眼する為に、高い純度を保った白眼をトネリは必要としていた。その
候補に上がっているのが、日向ハナビの白眼であった。
日向ハナビを攫い、その白眼を己の物にする。そして力を付けた後、日向ヒナタが結
婚する前に手に入れる。邪魔する者は転生眼の力の前にひれ伏すだろう。
そして地上の民は月そのものを落とす事によって壊滅する。その後に待っているの
は争いのない真の楽園だ。
トネリはそれらの計画を、ハムラの意思だと信じて遂行しようとする。
トネリは地上の民を侮ってはいない。地上を観察した際に、その力の高さは伺ってい
る。転生眼がなくば、今のトネリでは負けてしまう存在も少なくはないだろう。
トネリは地上の民を刺激しないよう深夜遅くに行動を開始し、気付かれないように
チャクラを隠し、傀儡達を日向宗家の屋敷に潜入させる。
1399
月の大筒木一族はトネリ以外が絶滅している為、人間を模した傀儡をチャクラを以っ
てして操りトネリの周りの世話をさせている。当然戦闘用の傀儡も存在しており、こう
して屋敷に潜入しているのも戦闘用の傀儡だ。
この傀儡には地上の忍が使う一般的な傀儡とは決定的に違う点がある。それは、一般
の傀儡はチャクラ糸を繋げてその糸の微妙な動きで傀儡を操るのに対し、トネリの傀儡
にはチャクラ糸が繋がっていないのだ。
ト ネ リ の 傀 儡 は エ ネ ル ギ ー 球 体 で あ る 月 の 転 生 眼 の チ ャ ク ラ に よ っ て 動 い て い る。
それ故にチャクラ糸を必要とせず、主であるトネリの意思で自在に動かす事が出来るの
だ。
そして彼らは傀儡故に生物特有の気配は皆無だ。その上でチャクラを隠せば、人形に
気付ける者はいないと言えよう。少なくとも、深夜の寝静まった日向宗家の屋敷には、
傀儡人形に気付けるはずの者はいなくなっていた。
そう、屋敷の主人であるヒアシは今この屋敷にはいなかった。今頃ヒアシはトネリが
あらかじめ渡しておいた手紙に記された場所に赴いているだろう。
日向一族の一部のみに月の大筒木一族の話は伝わっていた。それをトネリは利用し、
ヒアシに手紙を出して屋敷から離させたのだ。全てはハナビを、いやハナビの白眼を手
に入れる為に。
下手にヒアシと争う事になり、事が木ノ葉隠れの里に広まっては手痛いしっぺ返しを
受けるかもしれない。その可能性を少しでも少なくする為の策だった。
傀儡は静かに動き、そしてハナビの寝室に侵入し、寝静まっていた彼女を一瞬で捕ら
えた。
﹂
ラが失われたのを感じ取った。
そして、トネリがヒナタの元へ赴こうとした時、操作する傀儡の内の一体からチャク
ラの直系であるヒナタも理解してくれると信じきっていたのだ。
トネリは妄信的にそう信じていた。トネリにとって一族の掟は絶対であり、同じハム
婚しようなど、馬鹿げた事だと気付いてくれる。
を諭せば、それで彼女は目を覚ましてくれる。どこぞの者とも知れぬ薄汚い野良犬と結
残るはトネリがヒナタを連れて月に戻ればいい。大筒木の末裔である自分がヒナタ
ればそれで傀儡の仕事は終わりだ。
後は木ノ葉隠れから立ち去り、月に繋がっている秘密の洞窟へ赴き、そこから月に戻
意識を奪い、気絶した彼女を背負って静かに立ち去っていく。
何事かとハナビが目を覚ました時にはもう遅い。傀儡はハナビが暴れ出す前にその
﹁
!?
﹁これは⋮⋮﹂
NARUTO編おまけ──THE LAST──
1400
慎重を期して大事な白眼を手に入れたというのに、それを邪魔する者は誰なのか。
﹂
トネリがチャクラを広げてその犯人を確認する。それは││
﹁ハナビ様から手を離せ下郎
﹂
││八卦掌廻天
!
││
日向宗家のみに伝わる奥義回天。それを独自に編み出したネジは、戦争終結後の二年
!
﹁させるか
向かって襲い掛かっていく。その間に、ハナビを担いだ傀儡は離れようとする。
どこから現れたのか、ネジの周囲には無数の傀儡が現れていた。そして次々とネジに
ハナビを抱えている傀儡を先に行かせ、残る傀儡でネジの足止めをしようとしたのだ。
傀 儡 達 は 急 な 闖 入 者 に 慌 て る 事 な く │ │ 慌 て る と い う 感 情 自 体 な い │ │ 対 応 す る。
と辿り着き、そしてハナビを担いでいない方の傀儡に八卦空掌を浴びせたのだ。
これを黙って見ているネジではない。突如として飛び起き、一瞬にして宗家の屋敷へ
ナビが、何者かに攫われようとしていたのだ。
そこで見た光景は信じられないものだった。宗家の次女にして次代の当主であるハ
た。だが、何故か胸騒ぎがした為に、宗家に向けて白眼の透視と望遠の力を使った。
ネジはヒアシからハナビの護衛役を仰せつかった後、家に帰りゆっくりと休んでい
日向ネジ。ハナビの護衛役に任命されたばかりの日向きっての天才であった。
!!
1401
間でその上の奥義である廻天まで身に付けていた。
流石にその技術自体は自力で編み出したのではなく、戦争でヒアシが使用していたの
を目にしたのを真似た物だが、それでも二年で身に付けた事は天才の面目躍如と言えよ
う。
廻天は回天とは違い、噴出したチャクラそのものを高速回転させる技術だ。それ故に
その場で自らが回転する必要がなく、自由に行動する事が出来る。
それを利用し、ネジは迫り来る傀儡達を廻天によって弾きながら、一直線にハナビの
元へと駆けつける。
そしてネジは屋根を跳躍して逃げる傀儡の動きを捉え、その体に柔拳を叩き込む。そ
﹂
れと同時にハナビを奪い、抱きかかえて地面へと着地した。
﹁ご無事ですかハナビ様
私は確か⋮⋮﹂
?
混乱するも、その五体が無事である事にネジは安堵する。
﹁ハナビ様、ご無事で何よりです﹂
﹁ね、ネジ兄様⋮⋮あれ
と目蓋を開けると、そこには尊敬するネジの姿があった。
戦闘の衝撃により、ハナビが気絶から覚めようとしていた。そしてハナビがゆっくり
!?
﹁う、うう⋮⋮﹂
NARUTO編おまけ──THE LAST──
1402
そんなネジを見つつ、ハナビは自分の現在の境遇を理解した。
私は何者かに気絶させられて││﹂
らかの薬物を投入された事を危惧し、白眼にてハナビの体を確認した。
﹂
﹁⋮⋮チャクラの乱れはなし。ハナビ様、どこか苦しい所などはありませんか
﹁う、ううん。だ、大丈夫だから
﹂
現状を理解した瞬間、ハナビの顔が急速に赤くなっていく。それを見たネジは敵に何
られている。
そう、何者かに気絶させられ、攫われようとしていた。そして、今ネジに抱きかかえ
﹁そうだ
!
﹂
?
﹁手間を掛けさせてくれるね﹂
立っている事に。
そしてネジに遅れてハナビも気付いた。いつの間にか、自分達の前方に一人の男が
ていた。
地面に降ろされた事を僅かに不満に思いつつ、ハナビは様子が一変したネジに戸惑っ
﹁ハナビ様、オレの後ろに⋮⋮﹂
﹁え⋮⋮ネジ兄様
そっと大地に降ろされた。
慌てて首を振りつつ、ハナビはネジの胸板のたくましさをに胸をドキドキとさせ││
!
?
1403
その場に現れたのはトネリだ。トネリにとって最も重要なのはヒナタだが、全ての目
的を叶える為の前提条件である転生眼の為にはハナビの白眼が必要だ。
せっかく手に入れた純度の高い白眼を取り返されては堪った物ではない。それ故に
﹂
こうして直接出向いたのだ。正確には、直接ではないのだが。
何の目的でハナビ様を狙った
!!
そんなネジの叫びを、トネリは意にも介さずにハナビに向けて手を差し伸べる。
付いた。
ネジはこの男こそがハナビを狙った犯人の首謀者、もしくはそれに近しい存在だと勘
﹁貴様、何者だ
!?
﹂
﹁ふざけた事を⋮⋮
﹁あ⋮⋮
⋮⋮なっ
﹂
!?
﹂
﹁こんばんは。良い夜ですね﹂
﹁え
?
背後から突如聞こえた声に振り向き⋮⋮絶望を見た。
アカネ
トネリはそんな二人の反応をどうでも良いと思い、そして││
ナビは驚愕すべきものを見た。
自分を無視して訳の分からない事を話すトネリにネジが苛立ちを見せた時、ネジとハ
!
!
﹁さあ、こちらにおいで。ボクと共に来る事が、日向宗家としての真の役目だ﹂
NARUTO編おまけ──THE LAST──
1404
◆
のトネリは月で傀儡人形を操っていた。
お帰りなさい
﹂
﹁アカネ、帰っていたのか⋮⋮﹂
﹁アカネ姉様
!
たんでしょ
身分で言うならアカネ姉様の方が上でしょ
﹂
?
﹁しがない
分家
?
﹂
すのは分家の務めでございます﹂
﹁いやいや、それは前世の話ですから。今はしがない分家の一人です。宗家の方に尽く
?
﹁もう、様付けで呼ばなくてもいいって言ってるじゃない。アカネ姉様はヒヨリ様だっ
思っていないが。
ネ ジ と ハ ナ ビ に 対 す る 反 応 の 差 は 明 ら か で あ る。い つ も の 事 だ か ら ネ ジ は 何 と も
!
!
﹁ただいま、ネジ。ただいま帰りましたハナビ様
﹂
そう、アカネの言う通り、木ノ葉隠れに侵入したトネリは傀儡人形だったのだ。本物
破壊されたトネリ⋮⋮だった物を見下ろしながら、アカネはため息を吐いた。
﹁ふむ。やっぱりこれも傀儡ですね。視た感じが普通の人間と違ってましたし﹂
1405
?
アカネがしがない分家の立場なら、他の分家は何なのか。ネジは分家の概念について
深く考えた。
二秒で考えを放棄したが。アカネの言葉を真面目に受け取ってはこっちが損をする
だけなのだ。
く接してほしいな﹂
﹁アカネ姉様は分家とか気にしなくていいってなってるんでしょ。だったらもっと親し
て様々な経験を積んだのだ。
の在り方も徐々に変わりつつあり、ハナビも修行の日々だけでなく、年頃の女の子とし
ハナビが変化した理由は、やはり平和に向けて世界が動き始めた事が原因だろう。忍
にはアカネも驚きつつ、同時に喜んでいた。
だが、ここにいるハナビは歳相応の反応をする極普通の少女の様に見える。この変化
に出す事のない少女だった。
第四次忍界大戦までのハナビは日向の跡取りとしての修行をこなし、あまり感情を表
その精神は二年前とは大違いだ。
そう、ハナビは二年の年月で大きく成長している。外見は成長期ゆえに当然として、
ね。見た目もそうですが、性格も大分年齢相応になって。安心しましたよ﹂
﹁ふふ、分かりましたよハナビ。それはそうとして、二年も会わない内に成長しました
NARUTO編おまけ──THE LAST──
1406
﹁アカネ。お前はどうして木ノ葉に帰ってきたんだ
﹂
?
傀儡の常識から外れているハムラの傀儡に二人は悩み、そしてアカネが結論を出し
⋮⋮﹂
﹁確かに⋮⋮おかしいな。本来ならチャクラ糸がなければ傀儡を操る事は出来ないはず
﹁しかし⋮⋮この傀儡、チャクラ糸が繋がっていなかった様ですが⋮⋮﹂
審人物はハナビを狙っている様子。制裁決定である。
しかもネジと相対し、その後ろにはハナビがいる。二人の会話を確認すれば、その不
が日向の敷地内にいるのを発見したのだ。
深夜遅くに木ノ葉に辿り着き、実家でしばらく休もうと思っていた矢先に、不審人物
﹁そういう事です﹂
﹁そこでこいつを見つけた、と﹂
﹁で、先ほど帰ってきたばかりなのですが⋮⋮﹂
その式には必ず参加すべく、遥か彼方から全力で木ノ葉隠れへと帰還したのだ。
により、アカネは二人の結婚を知った。
そう、飛雷神の術により定期的に木ノ葉隠れの里に帰還しているマダラから得た情報
婚式に参加すべく大急ぎで帰ってきました﹂
﹁ああ、マダラからナルトとヒナタ様⋮⋮ヒナタが結婚するという話を聞きまして。結
1407
た。
﹁まあ、遠隔操作しているなら、どこかに犯人が隠れているという事でしょう。少し調べ
てみますか﹂
そう言って、アカネは仙人モードとなり、傀儡人形に籠められていたチャクラと同質
これは││
?
?
のチャクラを探知しようとする。
⋮⋮⋮⋮ん
│ │ 木 ノ 葉 ⋮⋮ い な い。火 の 国 ⋮⋮ い な い 周 辺 国 家 ⋮⋮⋮⋮⋮⋮ い な い
チャクラを消したか
?
しばらく集中してチャクラを探知していたアカネがゆっくりと目を開き、そして月に
?
﹂
向けて白眼を発動させた。
どうした
?
?
⋮⋮なるほど。最近の月の接近はそういう事か﹂
?
﹁大筒木一族
﹂
アカネが零した言葉はネジとハナビの知識にはないものだ。
?
﹁月の││﹂
﹁⋮⋮月の大筒木一族﹂
れを不思議に思いつつ、ハナビは首を傾げる。
徐々に迫りつつある月は、地上から見ると明らかに大きく見える様に映っていた。そ
﹁月
﹁アカネ
NARUTO編おまけ──THE LAST──
1408
そんな二人に、アカネはどう説明したものか悩みつつ、とりあえずザックバランに説
明した。
﹂
!?
﹁そうだ。月まで飛んで行けばいいんだ﹂
カネの脳内に電流が走った。
再び敵が襲ってくるのを待つしかないのか。そう考えながらも悩んでいたその時、ア
まった。
傀儡を泳がせればそれを追う事も出来ただろうが、侵入した傀儡は全て破壊してし
出来るのだろうが、その手段が分からない。
どうやって月に行くか。手がかりは殆どない。恐らく何らかの手段で月に行く事が
何ともないように話しつつ、その実アカネは悩んでいた。
﹁そういう事になりますね﹂
﹁月だと⋮⋮まさか、この傀儡は月から操っていたのか
る機会があった。それ故に月に渡り住んだかつての同胞の事も多少は理解していた。
アカネはかつてヒヨリであった頃に、宗家の一員として大筒木一族について知識を得
族でしょう﹂
儡から感じたチャクラと同質のチャクラを月にも感じました。恐らく犯人は大筒木一
﹁ええ。月には日向一族と源流を同じくする大筒木一族が住んでいるんですよ。この傀
1409
﹂
﹁ハナビ様、屋敷に解熱剤と鎮静剤はございませんか
﹁すぐ取って来るね
﹂
?
の反応は当然のものだと誰もが思うだろう。
二人のセメントな反応と迅速な対応に、思わずアカネも冷や汗をかいた。だが、二人
﹁ちょっと待て。私は熱などないし、興奮もしていない。至って冷静だ﹂
!
﹂
﹁アカネ姉様、宇宙って空気がないって知ってた 昔、土遁でどこまで高く昇れるか試
?
?
﹁⋮⋮言ったけど
﹂
﹁アカネ。オレの聞き間違えじゃなければ、お前は月まで飛んで行くと言わなかったか
NARUTO編おまけ──THE LAST──
?
私に自殺願望はありません ちゃんと宇宙空間でも無事に移動出来る様に
!
﹂
そう言って、アカネは様々な術を駆使し出した。
準備しておけば何の問題もないです
!
!
﹁全く
事を示唆する様な台詞を吐いてしまう。幸い誰もそれに気付かなかったが。
ハナビに可哀想なモノを見る目で哀れまれたアカネは、思わず別の世界の知識がある
!
﹂
﹂
した忍がいたらしいけど、途中で空気が薄くなりすぎて諦めたんだって。これで一つ賢
くなったね姉様
!
正直この世界の人よりよっぽど私の方が詳しいよ
﹁知ってますよ
!
1410
まず仙人モードのままで、かなりのチャクラを籠めた影分身を四体作り出す。その影
分身がそれぞれ風遁・土遁・雷遁・そしてチャクラ放出を行い、四人が収まれる大きさ
の球体を作り出した。
土遁にて巨大な球体を作り密閉し、風遁にて空気の断層を作り密閉空間を強固にす
る。そして雷遁にて無数の苦無に電流を流すことで中の温度を調節し、球体の周囲を膨
大なチャクラで覆う。
空気には限りはあるが、これで宇宙空間に出てもある程度は問題ないだろう。外に空
気 が 漏 れ る 事 は な く、紫 外 線 な ど も 岩 壁 に て 遮 断。電 熱 で 暖 ま っ た 苦 無 で 暖 も 取 れ、
チャクラのブーストで空と宇宙空間を自在に移動する。アカネ式簡易ロケットの完成
である。
ネジとハナビは急な展開に付いて行けず、やがて先ほどの光景をなかった事にした。
﹃⋮⋮﹄
れるはず。それじゃあ、私たちは家に帰りましょうか﹂
﹁さ、後は私の影分身が何とかしてくれるでしょう。少なくとも何らかの情報を得てく
ま宇宙へと飛び立った。
空気が漏れない為に外には聞こえない出発宣言をしつつ、アカネの影分身達はそのま
﹁じゃ、ちょっと行って来ますねー﹂
1411
﹂
考えを放棄した方が良い事もある。対アカネ用思考防御壁は順調に作動しているよう
だ。
今日うちに泊まって行きなよ
!
じゃあ旅の話でも聞かせてよ
﹂
⋮⋮そうですね。こんな時間に家に帰っても父さんと母さんに迷惑でしょう
﹁ねぇねぇアカネ姉様
﹁うん
!
し、お言葉に甘えましょうか﹂
!
﹂
!
﹁そうそう、ネジ兄様
﹂
?
!
どうされましたハナビ様
!
﹂
そ、それだけ
それじゃ、お休みネジ兄様
﹂
!
を正して分家としてあるべき態度を取る。
﹁⋮⋮さっきは、ありがとね
﹁お、お休みなさいませハナビ様
!
慌てる様に離れて行くハナビに、ネジもまた慌てて挨拶を返す。
!
!
突如として振り返ったハナビがネジに声を掛ける。何事かと思いつつも、ネジは姿勢
﹁はっ
﹂
ないと自分で自分に言い聞かせていた。その時だ。
そうして二人は和気藹々と帰路に就く。ネジは一人寂しく残されるが、別に寂しくは
﹁はーい
﹁こんな時間なんだから、早く寝ないと体に悪いですよ、もう。少しだけですからね﹂
!
?
﹁やった
NARUTO編おまけ──THE LAST──
1412
ん
お前はさっきハナビ様と一緒に⋮⋮﹂
そしてハナビの労いの言葉に満足している所で、後ろから声を掛けられた。
あ、アカネか
?
﹁ネジ⋮⋮﹂
﹁うお
!
﹂
?
﹂
?
いて最大の戦いが始まろうとしていた。
だが。ネジの胃が壊れるのが先か、ネジの精神が壊れるのが先か。今、ネジの人生にお
もっとも、そんなネジの誓いに反し、ハナビの方から徐々にアタックを強めてくるの
を出す事はしないと誓った。
今のアカネが影分身であった事に納得しつつ、ネジは何をどう間違ってもハナビに手
ネジの快い返事を聞けたアカネは、影分身を解いて消滅した。
﹁わ、分かった⋮⋮﹂
﹁分かりますね
﹁お、オレにそんな気は││﹂
⋮⋮分かりますね
﹁ハ ナ ビ に 手 を 出 し た け れ ば、最 低 で も 後 二 年 は 待 つ 事 で す。今 の 年 齢 で 手 を 出 せ ば
の疑問に対し、アカネは敵意で以ってして答えた。
ハナビと一緒に岐路に着いたはずのアカネが何故か自分の後ろにいる。そんなネジ
!
1413
◆
地上にいるネジの苦痛はさておき。
宇宙に向けて飛び立ったアカネ︵影分身︶達は、影分身である事を良い事に、碌に安
全確認もせずに大気圏に突入、そのまま突破し宇宙空間へと到達する。
これが本体であればもう少し慎重に行動するのだが、影分身なのだからダメージを受
けても消滅するだけで他に問題はない。まあ、結果として大気圏突破も、宇宙空間での
移動も問題なかったのだが。
チャクラを用いたとは言え、人間が個人の力で宇宙に飛び出す。この事実にはアカネ
も興奮した。
﹁それ、誰の台詞でしたっけ
﹂
あなたが覚えていないのに私が覚えている訳がない﹂
?
﹃はっはっはっはっは
﹄
﹁そりゃそうです。全員私なんですからね﹂
﹁さあ
?
いた。
白眼にて地球を見つめながら、アカネはどこかで聞いた事がある様な台詞を思わず呟
﹁おお、地球は青かった⋮⋮﹂
NARUTO編おまけ──THE LAST──
1414
!
影分身同士でコントをする。これも一人コントなのだろうか。
﹁っと、酸素がなくなる前にさっさと月に行かなきゃな﹂
﹁そうですね。四人もいるから酸素の消費も多くなりますし﹂
﹁その分大きめに作りましたけど、持って後十時間くらいでしょうか
﹁一秒間に十回の呼吸を⋮⋮﹂
﹃おいばか止めろ﹄
﹁さて、空気が勿体無いですから、月まで一気に飛ばしますか﹂
ら。
﹂
鹿
ば結局他の誰かが同じ事をしていたのは言うまでもない。だって同じアカネなのだか
馬
なお、その影分身に苛立っている他の影分身達だが、そいつが馬鹿な発言をしなけれ
は勝ち誇って他の影分身を見ていた。
が、そうすると影分身は消滅してしまうのでそれも出来ない。馬鹿な発言をした影分身
酸素を大幅に減らす様な馬鹿をしようとした影分身を、他の影分身が叩こうとする
だろうが、術の限界を超えた時点で影分身は消滅してしまうだろう。
アカネの影分身ならば十分な酸素を体内に取り込んでいれば十分以上は活動できる
滅するだろう。
影分身にも呼吸は必要だ。酸素がなくなり、呼吸困難となればその時点で影分身は消
?
1415
﹃賛成﹄
﹁頑張るのは私なんだけどなぁ⋮⋮﹂
気軽に月まで一気にと言うが、エンジン役となっているのは簡易ロケットの周囲を
チャクラで覆っているアカネだ。
他のアカネ達はそれぞれの役目を果たしているが、明らかにチャクラを放出している
アカネが一番重労働だろう。
文句を言いつつも、チャクラ役のアカネは放出するチャクラの量を一気に上昇させ
る。それにより、明らかな加速を見せて簡易ロケットは月に向かって移動を速めた。
じ取ったようですね﹂
﹁どうやらその太陽らしきものから、傀儡を操っていたチャクラと同質のチャクラを感
﹁地下に巨大な空間があります。それに、白眼でも見通せない太陽の様な何かも﹂
ですし﹂
﹁⋮⋮まあ、そうですね。白眼で見たところ、どうやら大筒木の本拠地は地下にあるよう
﹁逆に考えるんだ。激突しちゃってもいいやって﹂
ば﹂
﹁その代わり減速もしにくいですよ。月に着陸する時に激突しない様に気を付けなけれ
﹁おお、やっぱり大気がない分速度が上がりやすいですね﹂
NARUTO編おまけ──THE LAST──
1416
﹁その内部が大筒木一族の住処かな。他に人がいそうな気配はないし﹂
﹁空気の壁に異常なし
﹂
﹁電気による発熱、及び苦無に異常なし
﹄
!
!
カネを手伝うつもりではあったが。
風遁と雷遁の役目のアカネは非常に楽に寛いでいた。いや、何かあればすぐに他のア
﹃お前ら楽だな
!?
﹂
﹁私もチャクラの高速回転で掘り進めるようにしよう﹂
﹁オーケー。月の大地に突撃する部分は鋭角にしておく﹂
﹁そんじゃ、速度を少しだけ落としてそのまま行くぞー﹂
けに、アカネの予想よりも早く到達したようだ。
やがて簡易ロケットは月の表面近くまで近付いた。元々月の方から近付いているだ
る。ただし、実行者がアカネである事が前提だが。
障害物を力ずくでぶち抜いて敵アジトに侵入しろ、という誰が聞いても完璧な作戦であ
全員がアカネなだけに、意見がすらすらと出てそのまま作戦が決定された。作戦は、
﹃賛成﹄
﹁じゃあ、月に到着したらそのまま地下に侵入という事で﹂
1417
﹁そんじゃ、突入開始
﹃りょーかーい﹄
衝撃に備えろ
﹂
!
そんなものは圧倒的なチャクラ
?
む簡易ロケットは、とうとう岩盤を貫き地下空間へと到達した。
どれほど掘り進んだだろうか。ドリルの様に高速回転するチャクラにより順調に進
の前では無意味だ。チャクラ万能説は伊達ではない。
掛けて地面を掘り進んで行く。激突した時の衝撃
とうとう簡易ロケットが月の表面に着地⋮⋮せずに激突し、そのまま月の地下空間目
!
人は住んではいない様だ。だが、僅かに気になるチャクラが残されている様だ。
かった。何やら遺跡の様な物は見つかったが、遺跡というだけに既に廃墟であり、既に
アカネ達は地下空間を白眼でくまなく見通す。だが、その大地に人の影は見当たらな
族の技術なのだろう。
なにやら不思議な力が作用しているのだろうと判断する。恐らくはこれも大筒木一
破った岩壁から空気が漏れ出していないのだ。
その時、アカネ達は気付いた。月の表面と繋がったはずの空洞だが、アカネ達が突き
もちろん人工の太陽だが。
地下空間には広大な大地が広がっていた。水があり、森があり、そして太陽まである。
﹃おおー﹄
NARUTO編おまけ──THE LAST──
1418
遺跡も気になるが、やはり怪しいのはあの人工太陽だ。太陽から傀儡を操るチャクラ
と同質のチャクラを感じる上に、白眼で内部を視る事が出来ないとなれば怪しい事この
上ないだろう。
しかし、どうやって侵入するかが問題だ。太陽の様に光は照らしても、熱量は感じな
い事から近付いても問題はないだろうが、中に入る方法が見当たらない。
アカネ達は考えに考えた。大体二秒くらい悩み、そして結論を出した。
﹄
!
とにかく、怒り心頭なアカネ達はその怒りのままに簡易ロケットにて人工太陽に突撃
低でも二人は必要だ。物理的でなければ他にもいるが。
今のアカネを物理的に止められるのはマダラ・柱間・ナルト・サスケの四人のうち、最
を増すだけだろう。
実際にはトネリがヒナタに手を出す前に邪魔をしたのだが、それを知れば余計に怒り
﹃賛成
ないのが尚更許せん。突入で﹂
﹁うちの可愛いハナビに手を出そうたぁふてー野郎だ。その上ヒナタには手を出してい
﹁先に手を出したのはあっちだしね﹂
﹁異議なし﹂
﹁突き破るか﹂
1419
しようとする。だが、それを阻止しようとする者達がいた。トネリが操る傀儡達であ
る。
傀儡は巨大な鳥の傀儡を操り、人工太陽から飛び出して簡易ロケット目掛けて攻撃を
仕掛けてきたのだ。
チャクラの光弾を雨あられの如く放ち、簡易ロケットを迎撃しようとする。だが、そ
の全ては高速回転するチャクラによって弾かれていった。
そしてそのまま人工太陽に突撃した。傀儡達が出現する際に何やら人工太陽の一部
に穴が空いていたが、そんなの知ったこっちゃねーと言わんばかりに強引に突き破ろう
とした。
﹂
!
!
﹃では││﹄
││仙法・風遁螺旋風塵玉
││
境を整えていたアカネ達はその力を別の事に割く事が出来るという訳だ。
地下空間の環境は人が生活できるレベルで整っている。必然的に簡易ロケットの環
﹁だね。雷遁もいらなそうだし、私もやるか﹂
﹁ほほう。良し、もう風遁は必要なさそうだし、私も手伝おう﹂
﹁ふむ。かなりの頑強さ⋮⋮﹂
﹁おお、これは⋮⋮
NARUTO編おまけ──THE LAST──
1420
││
││仙法・土遁螺旋土流削
!
儡が操り、膨大な量のチャクラ弾が放たれる。
城に向けて突撃する簡易ロケット。それに向けて、城に備え付けられていた兵器を傀
当然目標とすべきはその城だ。
そして、アカネ達は白眼にてその城の内部に傀儡とは違う、人間がいる事を見抜いた。
らかに人が住んでいると思われる巨大な城が存在していた。
人工太陽の内部には空中に浮かぶ小さな島々と、月を思わせる欠けた球体、そして明
そして出来上がった巨大な穴に、簡易ロケットは突入する。
し、そして砕け散った。
三人のアカネ達から放たれる極大忍術により、人工太陽の強固な外壁は僅かに拮抗
││
││仙法・雷遁螺旋雷神撃
!
﹂
?
どっと笑いつつ、簡易ロケットはそのまま城に突撃し、そして中からアカネ達が降り
﹃ですよねー﹄
﹁影分身ですからね。チャクラが尽きます﹂
﹁実際に万倍来たら
まあ、簡易ロケットを守る廻天の前では無意味な攻撃だったが。
﹁ふ、私の防御を破りたければ、その万倍は持ってきなさい﹂
1421
立った。
﹁よし、突入。目指すは大筒木一族と思われる者の居場所だ﹂
﹄
﹄
アカネ達は精神に5ダメージを受けた
?
待ち構えていたトネリが立っていた。
﹃うっ
トネリの先制攻撃
!
トネリは大筒木一族の掟に従い、生まれた落ちた瞬間にその白眼を月の転生眼へと捧
目を持っていない。アカネのその言葉の通り、トネリの眼孔は空洞だ。
﹁ええ。目を持っていなくとも、良く視えている様ですね﹂
分身、それも実体を持っているね﹂
﹁君たちは⋮⋮日向の、ハムラの末裔⋮⋮その分家か。それに四人が同じチャクラ⋮⋮
!
!
﹂
そうしてアカネ達は最短距離でトネリの居場所まで到達する。そこではアカネ達を
邪魔をしに来るが、それらはアカネの速度を僅かにも落とす要因にはならなかった。
壁も、天井も、そんなものは一切関係なく、トネリに目掛けて突撃する。道中傀儡が
にだ。
アカネ達はそのままトネリの居場所を目指して一直線に進む。⋮⋮文字通り、一直線
﹃了解
!
﹁強引だね。女性ならばもう少し淑女らしくした方がいいと思うよ
NARUTO編おまけ──THE LAST──
1422
げられたのだ。
つまり、トネリは生まれてから一度も世界を見た事がないのだ。
そんなトネリが不自由なく暮らしているのは、目ではなくチャクラにて世界を認識し
﹂
ているからだ。ある意味健常者よりも視界が広く、物事の本質にも気付きやすいと言え
よう。
﹂
﹁⋮⋮聞きたい事がある﹂
﹁なんだい
﹁そうだよ。もっとも、それだけじゃないけどね﹂
﹁ハナビを攫おうとしたのは⋮⋮その眼を埋める為か
?
﹂
認しようとする。怒りを発揮するのは相手の目的を真に知ってからだ。
﹁ハナビの白眼を奪って何をしようとしていた
﹂
﹁分家の君に言っても仕方のない事だ。所詮は呪印を刻まれた白眼など⋮⋮ん
の力を感じない⋮⋮
?
?
﹁ああ、私に呪印は刻まれていませんよ﹂
カネからそれは感じられない。それに困惑するトネリに、アカネが答えを教えた。
呪印を刻まれているならば、影分身にも同じ様に呪印の力が刻まれるはず。だが、ア
?
呪印
淡々とハナビの眼球を奪おうとした事を告白するトネリに、アカネは冷静に事情を確
?
1423
﹁⋮⋮君は、日向の分家ではないのか
﹁分家ですが、私は少々特殊でして﹂
分家には必ず呪印が刻まれるはず⋮⋮﹂
﹂
月と地上を繋ぐ地下洞窟には監
視を置いていたが、監視が気付いた様子はない⋮⋮どうやってここまで来た
﹁⋮⋮そういえば、君はどうやってここに気付いた
を聞き出す。
アカネの不可思議さに戸惑いつつ、トネリはどうやってここまで来る事が出来たのか
?
?
?
たので、月があなたの本拠地だと気付きました﹂
﹁まさか⋮⋮地上から月のチャクラを感じ取ったというのか
﹃失礼な
﹄
﹁君の頭は正気か
!
﹂
﹂
﹁それと、私達がここまで来た方法は、地上から直接月に向かって飛んできました﹂
まあ、アカネも気付けたのは月の転生眼のチャクラが膨大だったからこそだが。
れて動いているからだ。転生眼がなければそんな芸当が出来るはずもなかった。
トネリが傀儡達を月から操る事が出来たのは、傀儡が月の転生眼のチャクラを籠めら
?
!?
それほど驚く事ですか
?
驚く事である。普通はそんな感知力を持っている訳がない。
﹁ええ。あなたも月から傀儡を操っていたでしょう
﹂
﹁傀儡の内部から感じられたチャクラと、月の内部から感じられたチャクラが同質だっ
NARUTO編おまけ──THE LAST──
1424
?
﹂
いや、誰だってアカネの言葉を聞けばトネリと同じ事を返すだろう。人間が地球から
月に向かって飛ぶなどと、誰が信じると言うのか。
﹁ちゃんと宇宙空間への対策をしてから来ましたよ
違う、そういう問題じゃない。
﹁ハムラの天命
﹁そうだ﹂
﹂
の人間に、生きる価値はない、と。
リが判断を下した。長き年月を掛けても、人はチャクラを争いの道具として扱う。地上
大筒木一族は、ハムラが残した天命に従い生き続け、そして最後の一人となったトネ
ているか見極めよと言葉を残した事を。
守っていた事を。そして、一族に向けて、千年の後に地上にてチャクラが正しく扱われ
上を見つめ、兄の六道仙人が作り上げた世界にて、チャクラが正しく扱われているか見
ハムラが月の外道魔像を見張る為に一族を率いて月に移住してきた事を。月から地
そうしてトネリはアカネにハムラの天命を、己の目的を話した。
?
に従え﹂
﹁まあ、良くは分からないが君も日向の、ハムラの血を受け継ぐ者ならば、ハムラの天命
トネリは呆れつつも、それらを無視して口を開く。
!
1425
地上の人間を滅ぼし、転生眼にて地上に真の楽園を築き上げる。それこそがハムラの
﹂
天命であり、ハムラの末裔の使命なのだと。
﹁転生眼
たのさ﹂
﹁そう、ハムラが開眼した第四の瞳術。その力によって、月は人が住める環境へと変わっ
?
なっている。恐るべきは転生眼の力である。
?
白眼対策をしている場所に隠しているのだろう。
アカネの白眼を以ってしても転生眼の場所は確認出来ない。恐らく何らかの手段で
ね﹂
﹁察しがいい。その通りだよ。まあ、今の君には転生眼の場所までは教えられないけど
﹁月を動かしているのも転生眼の力ですか。ハムラの転生眼が残っているのですか
﹂
ちなみに月の表面にさえ転生眼の力は伝わっており、月の地表でも人は呼吸が可能と
リの話を総合すれば馬鹿でも理解出来るだろう。
既にアカネも月の落下がトネリの仕業だと気付いている。月の不自然な接近と、トネ
﹁そうだ﹂
か﹂
﹁なるほど⋮⋮その力で、月を落とした後の荒廃した地上を再生しようというわけです
NARUTO編おまけ──THE LAST──
1426
﹁今の、ですか
﹂
?
トネリは判断したのだ。
?
﹁⋮⋮何故だい
﹂
﹁一人で決断したのか。だったら、なおさらお前を止めるとしよう﹂
断った。
アカネはトネリのそんな感情を見抜き、若干の哀れみを持ちつつも、トネリの誘いを
だけ長く話したのは本当に久しぶりだったのだ。
トネリが色々な事をアカネに話したのはそれも理由があったのかもしれない。これ
ずっとボク一人だった⋮⋮﹂
﹁そうだ。今の大筒木一族はボクしか残されていない。幼い頃に父が亡くなってから、
﹁ふむ⋮⋮もう一つ質問です。地上を滅ぼす決断は、あなただけでしたのですか
﹂
言っていられない程に困窮した状況であり、そして何よりアカネの力は利用出来ると、
アカネがただの分家であればこの様な誘いはしなかったかもしれないが、今はそうは
うと。
つまり、トネリはアカネを仲間に誘っているのだ。同じハムラの末裔同士、手を組も
⋮⋮﹂
﹁そうだ。君もハムラの末裔だ。ならば、ハムラの天命に従う事こそ、その本懐のはず
1427
?
﹁一人で決めた事に、間違いがあったら誰がそれを正す お前はこの決断が間違いで
﹂
ないと言えるのか
﹂
そんな愚かな者達を滅ぼし、地上に真の楽園を作る
これこそハムラが我ら
地上の人間は何年、何十年、何百年と経っても未だに争い続けて
?
!
﹂
﹁黙れ
!
!
﹁な、舐めるなぁぁぁっ
﹂
だが、アカネを前にして感情を剥き出しにするのは悪手だ。そこから読み取れる情報
が、意外と激情しやすい性格の様だ。
次々と放たれるアカネの挑発染みた発言に、とうとうトネリが切れた。一見温厚だ
!
ですね﹂
出しませんのでご安心を。そうそう、私も目を瞑りましょう。これで互いに条件は同じ
﹁そう怒鳴らなくてもその内消えますよ。私影分身ですから。ああ、後ろの三人は手を
!
天命を忘れた愚かな末裔よ これ以上一族の血を汚す前にここで消え去れ
﹁ふぅ、仕方ない駄々っ子だ。来なさい、少し教育してあげます﹂
は現状は説得の余地なしと見て、力ずくで止める事にした。
アカネの言葉に、トネリは闇を思わせる眼孔を見開いて叫ぶ。それを聞いて、アカネ
に託した天命だ
いる
﹁間違いな訳がない
?
!
!
!
NARUTO編おまけ──THE LAST──
1428
は非常に多い。先読みを得意とするアカネにとって、情報の多さはそのまま先手を取る
確率を上げる事に繋がる。
トネリは光球を生み出し、その光球にてアカネを貫こうとする。これを人体に埋め込
めば、それで対象を操る事が出来るという術だ。もっとも、アカネのボス属性の前では
無意味な能力なのだが、そんな事をトネリが知る由もない。
そもそもだ。トネリが光球を生み出す前に、アカネは動き出していた。トネリの意識
﹂
﹂
は攻撃に傾いていた為、その動きに対応する事が出来なかった。
﹁ふん
﹁ごはぁっ
アカネリバーブロー︵手加減︶
結果、相手の肝臓は粉砕される。ただし死にはしな
!
必ずや、一族の悲願を達成する。ハムラの天命に従う事こそが、一族の悲願なのだ。
肝臓が破壊され、多大なダメージを受けたトネリ。だが、彼の心は折れていなかった。
﹁あ、ぐ、あぁ﹂
い。だって手加減してるから。
く手加減した一撃の事である
み出される破壊力を、体を捻転させる事で損なう事なく拳に伝え、相手の肝臓を打ち抜
説明しよう。アカネリバーブロー︵手加減︶とは、アカネの強靭な足腰のバネから生
!
!?
!
1429
その一念が、トネリの心を絶望から守っていた。
﹂
﹁ふむ。肝臓は破壊されど心は折れず⋮⋮敵ながらその意気や良し
﹂
﹁がはぁっ
アカネアッパーカット︵手加減︶
だが戦いは無情
!
だって手加減してるから。
く手加減した一撃の事である 結果、相手の顎は粉砕される。ただし死にはしない。
生み出される破壊力を、体を捻転させる事で損なう事なく拳に伝え、相手の顎を打ち抜
説明しよう。アカネアッパーカット︵手加減︶とは、アカネの強靭な足腰のバネから
!
!?
!
!
﹂
﹁おお、まだ倒れないとは⋮⋮感動した
﹁││
じゃ、もう一発⋮⋮
アカネジャーマンスープレックス︵手加減︶
﹂
!
腕を回してクラッチし、アカネの強靭な足腰のバネを利用して後方に反り投げ、相手の
説明しよう。アカネジャーマンスープレックス︵手加減︶とは、後方から相手の腰に
!
!?
!
のこうのという想いはなく、ただただ痛みに耐える一人の男しか残されていなかった。
顎が砕け、脳も揺れ、激痛が走り、朦朧とするトネリ。そこには既に一族の掟がどう
﹁ぐ、ぁ⋮⋮﹂
NARUTO編おまけ──THE LAST──
1430
頭部を大地︵チャクラによる強化済み︶に叩き付ける一撃の事である
頭部は粉砕される。ただし死にはしない。だって手加減してるから。
﹂
ピクピクと小さく痙攣を繰り返すトネリの姿があった。
﹂
立場が違えばお前らだって同じ事をしたはずだ
﹂
﹁⋮⋮やりすぎでは
﹁鬼か
﹁いや悪魔か
わたくし
﹃そんな⋮⋮私、淑女なのでその様な恐ろしい事出来ませんわ﹄
﹂
﹂
結果、相手の
どしゃり、と音を立ててトネリは崩れ落ちた。アカネが眼を開いて見ると、そこには
!
◆
なかった様だ。
トネリの状態に気付いたアカネ達が彼に治療を施す。どうやら死神は彼の元に訪れ
﹃あ、やば﹄
あった。彼の命の灯火は後どれ程持つのか⋮⋮。
そうやってアカネ達がコントを広げている間にも、トネリの痙攣は小さくなりつつ
﹁こ、こいつら⋮⋮
!
!?
?
﹁同じ私だろう
!?
?
?
1431
﹁⋮⋮ここは﹂
﹂
死の淵から生還し、意識を取り戻したトネリは辺りを窺う。するとすぐ傍にアカネが
いる事に気付いた。
﹁気付きましたか﹂
惨敗である。
﹁さて、まだ月を落として地上を滅ぼそうと考えていますか
﹂
ボクは、ボク達は遥か昔から天命に従って││﹂
!
﹁じゃあ、あなたの両親も、同じ事を言っていたのですか
?
﹁間違った教育だと⋮⋮
を殺しはしませんよ。教育はしますけどね﹂
﹁まあ、あなたは明らかに間違った教育で育っている様ですしね。過ちを犯した子ども
﹁⋮⋮敵の心配をするなんて、可笑しな事だ﹂
﹁状況判断良し。どうやら後遺症はない様で安心しましたよ﹂
猶予はない事から推察した様だ。
そう、トネリは然程の時間を掛けずに気絶から覚めた。月が落ちるまでにはそれ程の
﹁⋮⋮その物言いでは、ボクはそれほど長くは気絶していなかった様だね﹂
?
﹁⋮⋮ボクは、敗れたのか﹂
NARUTO編おまけ──THE LAST──
1432
﹁ッ
﹂
﹁あなたの親は、あなたに何と言っていたのですか
﹂
だと断言するつもりだったが、どうやらそうではなさそうだ。
親もハムラの天命とやらをトネリに教え込んでいたとすれば、その時は間違った教育
親は息子に別の道を指し示した事を察する。
アカネのその言葉に、トネリは反論出来ずに呻いた。それを見て、アカネはトネリの
!
﹁大 筒 木 一 族 の 最 後 の 一 人 で あ る ボ ク は ⋮⋮ ハ ム ラ の 天 命 を 果 た さ な け れ ば な ら な い
縛りつけたのだ。
かに辛かった。だが、先祖の想いが、大筒木の悲願が、ハムラの天命が、トネリを月に
それが、父の遺言であった。だが、トネリはその遺言に背き、月の残った。孤独は確
間を探し、友を見つけ、自分の為に生きなさい。人間は一人で生きてはならない⋮⋮。
││父が死んだら、お前は地球に行け。もう、大筒木の大義も宿命も忘れていい。仲
き物ではないのだ。。
た。傀儡達がいるので生活に問題はない、だが、人間は衣食住が足りればいいという生
危篤になったトネリの父は、たった一人で月に残される幼い息子の行く末を心配し
アカネの言葉で、トネリは父の遺言を思い出した。
﹁⋮⋮﹂
?
1433
⋮⋮ならないんだ⋮⋮
﹂
ハムラは確かに││﹂
﹂
?
息を吐き、そして言った。
天命と言う名の呪いに、トネリは動かされていた。そんなトネリを見てアカネはため
!
﹁その天命とやら、間違った解釈をしていませんか
﹁そんなはずはない
!
正しくなければ人間を滅ぼせとまで言ったんですか
﹂
!
?
それこそがハムラの想いだ
!
ち、そして己を除く一族が幼い頃に死に絶えた為に、その過ちを正される事なく独善的
云わばトネリは被害者だ。歪んだ掟を守るべく、生まれた時からそう教えられて育
がれてしまった。
して宗家を滅ぼしてしまったのだ。そして、分家の解釈が真のハムラの天命だと受け継
だが、大筒木一族の分家がハムラの掟を誤まった解釈で受け取ってしまい、宗家と敵対
そして、それは事実当たっていた。ハムラに地上を滅ぼすつもりなど毛頭なかった。
る。
大筒木一族がハムラの遺志を間違った解釈で受け取った可能性があるとアカネは考え
どうやらハムラが人を滅ぼせ等と言い残した伝承はない様だ。それならばなおさら
﹁それは⋮⋮そのはずだ
﹂
﹁地上でチャクラが正しく扱われているかを見極めろとは言ったのかもしれませんが、
NARUTO編おまけ──THE LAST──
1434
こんにち
な性格を作り上げ、今日まで育ってしまったのだ。
﹁どうせお前達はまた争いを起こす。チャクラを使ってな⋮⋮﹂
﹂
﹁なるほど。ですが、あなたもチャクラを使って争いを起こしていますが
﹁え
?
﹂
?
しているのはあなたじゃないですか﹂
壊して、真の楽園を作る為にチャクラを使っている
!
﹁そ、それは⋮⋮﹂
と、今のあなたと、何が違うのですか
﹂
お前達と一緒にするな
﹂
平和を作る為に戦っている⋮⋮と。その結果、史上最大の戦争が起こりました。その彼
﹁一緒ですよ。今まで私が戦ってきた者も、同じ様な事を言っていました。地上に真の
!
!
!
﹁ち、違う ボクは地上に真の安寧を齎す為に⋮⋮
六道仙人の間違った世界を破
﹁安寧が齎されようとしている地上に、チャクラを以ってしてあらぬ争いを起こそうと
それは、チャクラを用いた争いに発展するだろう。
トネリが地上を滅ぼそうとすれば、当然それに対して地上の人々も対抗する。そして
そう、トネリは地上の人々を貶しているが、それはトネリ自身にも返って来る言葉だ。
?
﹂
すが。今の世界は平和に向けて動いていますよ。それはどう判断されるのですか
﹁ふむ。あなたは、今の地上の人々がチャクラを正しく扱えていないと判断したようで
1435
?
アカネの言葉に、トネリは言い返せなくなっていた。普段のトネリならまだ言い返せ
ていただろう。だが、戦いに敗れ、気力を失っている今のトネリには反論する力もな
かったのだ。
そんな状態だからこそ、アカネの言葉を冷静に受け止める事が出来た。そう、一緒な
﹂
のだ。今のトネリと、アカネが思い浮かべた悲しい男の想いと行動は⋮⋮。
?
﹁う⋮⋮
こ、これは⋮⋮
﹂
!?
い﹂
﹁目を
何を言ってるんだ。ボクには目は⋮⋮
﹂
!?
て、信じられないものを見た。
・・
アカネの言葉を怪訝に思いつつも、トネリはその瞳をゆっくりと開いていく。そし
?
﹁少し刺激が強いかもしれませんが、大丈夫ですよ。さあ、ゆっくりと目を開いてくださ
!
トネリの答えを聞き、アカネは微笑みながらトネリに再生忍術を掛けた。
﹁なんだ⋮⋮いいお父さんじゃないですか﹂
⋮⋮﹂
﹁父 上 は ⋮⋮ 地 球 に 行 っ て ⋮⋮ 掟 を 忘 れ て ⋮⋮ 友 や 仲 間 を 見 つ け て、共 に 生 き ろ、と
今のトネリならば、答えてくれる。そう信じて、アカネは同じ質問を繰り返した。
﹁もう一度聞きますね。あなたの親は、あなたに何と言っていたのですか
NARUTO編おまけ──THE LAST──
1436
﹁み、見える⋮⋮世界が、見える
﹂
!?
そのあまりのストレートな物言いに、アカネは少々焦った。ここまでまともに褒めら
じた事をそのままに口にした。
トネリは周囲の光景の次に、自分に目を与えてくれたアカネを見つめる。そして、感
﹁えっと⋮⋮その⋮⋮﹂
﹁⋮⋮それが、君の姿か。感じていたよりも、よっぽど美しい﹂
と喜びを味わいつつ、それらを父にも味わわせてあげたかったと僅かに慟哭する。
だが、やはり感じると見るとでは大きな違いがあったのだ。そして、モノを見る感動
の状況を感じ取る事で、目で見る以上に的確に行動する事は出来た。
初めて見る世界に戸惑いながら、トネリは感動する。チャクラを集めた心の目で周囲
﹁モノを見るとは⋮⋮こういう事なのか。⋮⋮父上にも、見せてあげたかった﹂
た獣はアカネ達がちゃんと美味しく頂いていた。
んだのだ。術を会得するまでに犠牲になった獣達に哀悼の意を⋮⋮。なお、犠牲になっ
この二年で、アカネは六道仙術を会得した柱間から眼球の再生という高度な技術を学
再生させたのだ。
トネリの眼孔に、まごう事なく眼球が埋まっていた。アカネが再生忍術により眼球を
﹁流石に白眼を上げる訳にはいきませんが。これくらいならね﹂
1437
﹂
月を落とすなんて馬鹿げた事はもう止めなさい。ここまで言っても
れた事はあまりなかったのだ。大体は自分の行動のせいだが。
﹁と、とにかく
止めないなら、実力行使しますよ
?
!
﹂
﹁ボクを殺しても、月は止まらないよ。転生眼を破壊しないとね。さあ、どうやって実力
行使する
?
﹂
?
?
け物共は滅びるべきなのかもしれない⋮⋮。
さあ、次は何と言って私を止めますか
?
破壊しますよ
﹂
!
?
﹁は、ははは⋮⋮ははははは
そうか⋮⋮転生眼を壊されるのは、勘弁してほしいな。
﹁時間がないから早くして下さいよ。月を落とす事を止めないなら、私が転生眼か月を
ていた。トネリも良く理解出来ていない様だ。
いつの間にかアカネがトネリを止めるのではなく、トネリがアカネを止める側になっ
﹁やろうと思えば出来ますよ
﹂
月など然したる時間もなく砕けるだろう。大概化け物である。地上はともかく、この化
げば不可能ではない。ついでにマダラと柱間もいるので、三人掛かりならより確実だ。
月の破壊と簡単に言うが、簡単な事ではない。が、地上にいるアカネ本体に協力を仰
﹁え
﹁転生眼を破壊します。それが無理なら月を破壊します﹂
NARUTO編おまけ──THE LAST──
1438
アレには一族の想いが籠められている。例え、間違った物だとしてもね⋮⋮﹂
﹂
どこか吹っ切れた様に語るトネリを見て、アカネはゆっくりと笑顔を見せた。
﹁じゃあ、月を止めるんですね
答えは簡単だった。父の遺言に従えばいいのだ。いや、初
?
ああ、私は日向アカネと言います﹂
?
突如として自分の名を告げたトネリに、自己紹介をしていなかった事を思い出してア
﹁え
﹁トネリだ。大筒木トネリ﹂
ついた。
めからそうすれば良かったのだろう。アカネに諭されて、トネリはようやくそれに気が
ならばどうすればいい
うとも、アカネによって食い止められるだろう。
攫って嫁にすればいい。だが、今の状態ではそれも叶いそうにない。トネリが何をしよ
アカネとの会話が、トネリの孤独を刺激したのだ。孤独はもう嫌だ。ならばヒナタを
道上に戻る様に、転生眼にて月を操作する。
そう言って、トネリは月を動かしている転生眼の力の働きを止めた。そして、元の軌
滅んでは意味がない﹂
上で生きてみたくなった。そして、地上の人々と過ごしてみよう。その為には、地上が
﹁ああ⋮⋮父上の遺言は、正しかった。人は一人では生きていられない⋮⋮。ボクは、地
?
1439
カネも自分の名を名乗る。
自分では良く分かりませんけど⋮⋮﹂
﹁アカネ⋮⋮いい名だ。あなたに相応しい﹂
そ、そうでしょうか
?
まあ本気で言っていると分かっているからこそ、アカネもたじたじなのだが。
計算通りの精神攻撃ならば、トネリは精神面でアカネの数歩上に立っている事になる。
先ほどからのトネリのべた褒めにアカネはたじたじだ。今が戦場で、これがトネリの
﹁え
?
言に応えたいのだろう。
母
は は
?
﹂
仲 間 で も な く
?
アカネは喜んで友となる事を心の中で誓い、そして││
友 じ ゃ な く
?
!?
?
﹁ボクの母になってくれないか
母 と 言 っ た の か え
?
まさかの答えに放心した。
母
?
ハハッ、おっとこれ以上は危険だ。
?
トネリの想いを汲み、アカネは頷いた。父の遺言である友や仲間を見つけろ。その遺
﹁ええ、大丈夫ですよ﹂
けた。
どこか言い難そうに歯切れが悪くなるトネリを見て、アカネは優しく微笑んで語りか
﹁アカネ、頼みがある⋮⋮ボクの⋮⋮﹂
NARUTO編おまけ──THE LAST──
1440
混乱するアカネに、期待と不安を籠めた様な視線が突き刺さる。それはまるで、母親
に捨てられそうな子どもの目だった。
﹁い、いいですよ﹂
キミに、いや母さんに叱られて思ったんだ。何だかお母
アカネはその視線を振り払う事が出来なかった。
ありがとう
!
ハムラは決して地上を滅ぼそうなどとは思ってはいなかった。ただ、地上の民がチャ
体であった。そこでトネリは、ハムラの真の遺志を知った。
そこでトネリが出会ったのは、大筒木一族の本家と、そして大筒木ハムラのチャクラ
が⋮⋮。
に突入した時に気付いた遺跡のチャクラが気になり、トネリと共に立ち寄ってみたのだ
そうして紆余曲折を経て、アカネ達とトネリは城を出た。その際、アカネが地下空間
だこの事実を知らない。知ればきっと叫ぶだろう。どうしてこうなった、と。
こうして、アカネに一つ年下の子どもが出来たのであった。なお、本体のアカネはま
どうしてそうなる。アカネは混乱している。だが、今更拒否する事も出来ない。
の思い出はないけど⋮⋮だからこそ、あれが母親なんじゃないかって思ったんだ﹂
さんみたいだって⋮⋮。ボクの母はボクが物心付く前に亡くなってしまったから、母親
﹁本当かい
!
1441
NARUTO編おまけ──THE LAST──
1442
クラの正しい扱い方をしていなければ、それを正す様にと想いを籠めていただけだった
のだ。
そして、ハムラは今の地上は正す必要もないと判断していた。兄であるハゴロモがナ
ルト達に未来を託した様に、ハムラもまた地上の民に未来を委ねたのだ。
己が信じていた天命が根本から崩れたトネリだが、その表情は晴れ晴れとしていた。
かつてのトネリならともかく、今のトネリはその真実を受け止める事が出来たのだ。
そして、地球に繋がる地下洞窟を抜けて、アカネ達は地上へと戻って来た。宇宙空間
を戻る必要がなくなり、アカネ達は影分身の内の一人を解除する。これで本体にも情報
が伝わっただろう。
その時、木ノ葉隠れの里にて、
﹁どうしてこうなった ﹂という叫び声が上がったのだ
が、その原因を知る者はまだ誰もいなかった。
◆
日向ハナビ
る。そして感情そのままにアタックを続けた。姉とは違い恋に積極的な様だ。
今回の一件から、ネジを尊敬する従兄としてではなく、一人の異性として見る様にな
!?
1443
日向ネジ
護衛対象であるハナビに迫られ続けるも、二年は耐え抜いた。そして、ハナビが十六
歳の時にとうとう陥落。ヒアシに土下座して結婚の許しを請う。
日向ヒアシ
トネリに呼び出された場所にて傀儡に襲われるが、原作と違い壊滅させて己の足で里
に戻ってくる。帰って来てゆっくりと眠り、朝目を覚ました時、何故か大筒木一族の末
裔と共にアカネが頭を下げていた。何が起こったのかはヒアシを以ってしても理解出
来なかった。
事情を聞き、ハナビを攫おうとしたトネリに思う所はあるが、反省をしているようだ
し、アカネの懇願もあってトネリを許した。だが、しばらくはハナビやヒナタに近づけ
させなかったという。
大筒木トネリ
アカネを母と慕い、地上で暮らす決意をする。そして慣れない地上に戸惑いながら
も、多くの光景に感動し、多くの友を作った。
日向アカネ
知らぬ間に出来た子どもに困惑しつつも、母の愛を知らずに育ったトネリに愛情を注
ぎ、地上の常識を教え込んだ。母性本能は高い様である。
月の転生眼
悪用されないよう、マダラの輪廻眼によって厳重な封印を施される。これを解けるの
は輪廻眼の使い手くらいだろう。さらに月との繋がりである地下洞窟を物理的に破壊
される。これで月への移動手段はなくなった。⋮⋮アカネの様に直接移動すれば話は
別だが。
◆
ナルトとヒナタの結婚式には多くの人が集まった。木ノ葉の上層部から、親しい友ま
で幅広く、そして他里からも風影を初めとする多くの人々が立場に関わりなく集まり、
そして祝福した。
﹁ヒナタ⋮⋮綺麗ですよ﹂
NARUTO編おまけ──THE LAST──
1444
﹁ありがとうアカネ姉さん⋮⋮﹂
﹂
?
葉に出来ないでいた。
?
﹂
﹁どうしたんですかマダラ
!
﹂
﹁母さん。こっちに来てくれないかな
?
そうしてアカネはトネリに連れられるままにマダラから離れて行った。今は母の愛
﹂
﹁はいはい。どうしたんですかトネリ
?
その時だ。二人の間に割って入る様に、トネリが現れた。
決心を固めようとしつつ、まだ時期尚早だと己に言い聞かせる。
親友が何を言いたいのか分からず、アカネはキョトンとマダラを見つめる。マダラは
﹁い、いや、何でもない
﹂
アカネの隣でその呟きを聞いていたマダラは、何かを言おうとするもそれを上手く言
﹁⋮⋮そ、そうだな﹂
﹁長く生きてますが、こういうのはどんな時でも素晴らしいと思えますね⋮⋮﹂
る事に、少しの感慨を感じていた。
アカネもまた、ナルトとヒナタを祝福した。そして、長年見守っていた妹分が結婚す
﹁分かってるってばよ﹂
﹁ナルト、ヒナタを不幸にしたら許しませんからね
1445
情を知らずに育ったトネリに構って上げたいようだ。
だが、トネリは去り際にマダラに勝ち誇った笑みを浮かべていた。その瞬間、マダラ
﹂
は理解した。こいつは敵だと。根本的な敵という意味ではなく、内在的な敵なのだ、と。
!
を模索する。なお、アカネは別に自分よりも強い者が結婚相手としての絶対条件ではな
今回を機に、アカネへ想いを告げる決意を固める。その為に、アカネに打ち勝つ手段
うちはマダラ
◆
今日も木ノ葉は平和の様だ。
寒気を感じるサスケ。
息子の晴れ舞台に涙目になるミナトとクシナ。次は私だと決意するサクラに、何故か
扉間。
そんな親友を遠目でもどかしそうに見つめる柱間に、その柱間を呆れた目で見つめる
連れて移動した。
思わず輪廻眼にて全力で睨み返すが、トネリはどこ吹く風と言わんばかりにアカネを
﹁砂利が調子に乗りおって⋮⋮
NARUTO編おまけ──THE LAST──
1446
1447
かったりするが、それをマダラが知るのは知る意味がなくなってからであった。