為替トピックス6月16日号

2016/
為替トピックス
6/16
投資情報部
FX ストラテジスト
由井 謙二
トルコ1-3月期GDPは所得増を背景に高い伸びを記録

トルコの2016年1-3月期実質GDP成長率は前年比+4.8%と高い伸びを記録。所得増を背景
にGDPの約7割を占める民間消費が成長をけん引した。

4-6月期も民間消費を中心に高い成長が続く公算。ただ、治安悪化等から外国人観光客が
急減し、観光等のサービス業を圧迫。雇用・所得環境の悪化を通じて消費の抑制要因とな
る可能性には注意が必要だろう。

トルコリラの対ドル相場は、政治不透明感の高まりから、5月中旬に一時3.0リラ台を上回っ
たが、6月は米利上げ観測の後退を背景としたドル売り等からやや持ち直す動きとなった。

トルコの経済情勢は改善の動きがみられるが、政治不透明感がくすぶるなか、同国への資
金流入は抑制されやすい環境が続くとみられる。国際的な金融環境の不安定化や米利上
げ観測の高まる局面では、トルコ国内の政治不安もあいまって、リラ相場への売り圧力が
強まることが予想される。
トルコの1-3月期実質
GDP成長率は比較
的高い伸びに。個人
消費が成長をけん引
トルコの2016年1-3月期実質GDP成長率は前年比+4.8%となった。昨年10-12月期
の同+5.7%からはやや減速したものの、2000年からの平均成長率(同+4.4%)や政府
の2016年成長目標である同+4.5%を上回る高い伸びを記録した(図1)。
1-3月期の成長率について需要項目別寄与度をみると、GDPの約7割を占める民間
消費が成長に大きく貢献した。民間消費の寄与度は前年比で+4.8%と、2011年7-9
月期以来、4年半ぶりの高水準となった。昨年11月の総選挙で大勝した与党・公正
発展党の公約であった、2016年年初からの最低賃金の30%引き上げや、消費者物
価上昇率の鈍化等が、消費の追い風となったとみられる。実際に1-3月期の平均時
給は前年比+21.5%と昨年10-12月期の同+13.2%から大幅に拡大。インフレ率を加味
した実質賃金は前年比+10%超の伸びとなった(図2)。
また、政府支出の寄与度は公的部門の賃上げ等から前年比+1.2%と昨年10-12月
期の同+1.1%からプラス幅を拡大した。
その他、個人消費の好調から輸入が増加したため、純輸出(輸出-輸入)の寄与度
は前年比▲1.5%と、成長に対して2四半期ぶりにマイナス寄与に転じた。
この資料は投資判断の参考となる情報提供を目的としたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。銘柄の選択、投資に関する
最終決定はご自身の判断でお願いいたします。また、本資料は信頼できると思われる情報に基づいて作成したものですが、その正確性、完全
性を保証したものではありません。本資料に示された意見や予測は、資料作成時点での当社の見通しであり今後予告なしに当社の判断で随
時変更することがあります。最終ページに金融商品取引法に係る重要事項を掲載していますのでご覧ください。
1
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為替トピックス
図1:トルコ実質GDP成長率推移
(%)
(四半期:2006/3~2016/3)
20
15
10
5
4.8
0
▲5
純輸出
在庫
総固定資本形成
政府支出
民間消費
GDP伸び率
2000年からの平均成長率
▲ 10
▲ 15
▲ 20
▲ 25
06
07
08
09
10
11
(注)前年比、項目は寄与度
出所:トルコ統計局のデータよりみずほ証券作成
(%)
12
13
14
15
16
(年)
図2:トルコの平均時給と消費者物価指数(前年比)
(四半期:2013/3~2016/6)
25
実質賃金(①-②)
①平均時給
②消費者物価指数
20
15
10
5
0
13/3
13/9
14/3
14/9
15/3
15/9
16/3
(注)直近の消費者物価指数は4~5月の平均、平均時給、実質賃金は2016/3時点 (年/月)
出所:トルコ統計局、ブルームバーグのデータよりみずほ証券作成
4-6月期も内需の好
調が続く見通し。た
だ、サービス業は厳
しい環境に
今後については、民間消費の先行指標とされる消費者マインド指数は今年2月を底
に緩やかな改善を示しており、消費の底堅い動きが続くと予想される(図3)。他方、
4月の鉱工業生産は前年比+0.7%と3月の同+3.0%から鈍化したが、4~5月の自動車
生産台数は前年比で+10.0%と好調を維持した。設備稼働率も5月に75.7%と2月の
73.5%から持ち直しており、製造業部門も底堅さが維持されよう。
一方で、観光等のサービス業で厳しい環境が続いている。地政学リスクの高まり、治
安悪化を背景にトルコへの外国人観光客は大幅に減少しており、4月は前年比▲
28.1%と過去最大の落ち込みを記録した。外国人観光客の減少で、旅行や運輸が
大宗を占めるサービス輸出は昨年9月以降、前年比▲10%超の下落が続いている
(図4)。トルコの観光業は例年だと5月から10月にかけて最盛期を迎えるものの、治
安への不安が払しょくされない状況下、持ち直しは期待しにくい。サービス業は産
業人口構成比で約5割を占める等、雇用の受け皿役を担っている。サービス業の変
調は将来的に雇用・所得環境の悪化につながり、個人消費の抑制要因となる可能
性には注意が必要だろう。
この資料は投資判断の参考となる情報提供を目的としたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。銘柄の選択、投資に関する
最終決定はご自身の判断でお願いいたします。また、本資料は信頼できると思われる情報に基づいて作成したものですが、その正確性、完全
性を保証したものではありません。本資料に示された意見や予測は、資料作成時点での当社の見通しであり今後予告なしに当社の判断で随
時変更することがあります。最終ページに金融商品取引法に係る重要事項を掲載していますのでご覧ください。
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2016/6/16
為替トピックス
図3:鉱工業生産と消費者信頼感指数
(%)
(ポイント)
85
(月次:2012/1~2016/5)
8
6
80
4
75
2
70
0
65
▲2
60
鉱工業生産指数(前年比、左目盛)
消費者信頼感指数(右目盛)
55
▲4
12/1
12/7
13/1
13/7
14/1
14/7
15/1
15/7
16/1
(年/月)
(注)鉱工業生産は労働日数調整後、2016/4時点
出所:ブルームバーグのデータよりみずほ証券作成
図4:外国人観光客とサービス輸出(前年比)
(%)
(月次:2006/1~2016/4)
40
30
20
10
0
▲ 10
サービス輸出
外国人観光客
▲ 20
▲ 30
▲ 40
06
07
08
09
10
11
12
13
14
15
出所:ブルームバーグのデータよりみずほ証券作成
インフレ鈍化を背景
に上限金利の引き下
げ継続を想定
16
(年)
金融政策では、トルコ中央銀行(以下中銀)は政策金利である1週間レポ金利を
7.50%に据え置いている。一方で、3ヵ月連続で市場金利の上限となる翌日物貸出
金利を引き下げている(3月:10.75%⇒4月:10.00%⇒5月:9.50%)(図5)。
物価動向は、5月の消費者物価指数は前年比+6.58%と4月に続いて中銀のインフレ
目標(前年比+3%~+7%)内に収まった。ただ、エネルギーや食料品価格等を除いた
コアのインフレ率は前年比+8.77%と4月の同+9.10%からは鈍化したものの、改善は限
定的にとどまる(図6)。また、政府関係者からは、中銀に対して毎回0.5%の金利引き
下げを要求する声が聞かれている。こうしたなか、6/21に開催される金融政策決定
会合でも、物価上昇率の伸び鈍化や、利下げを求める政府当局への配慮等から、
上限金利の引き下げ継続が見込まれる。
今後は、リラ安の進行等から物価上昇圧力が再び強まる際に、物価安定を使命と
する中銀と景気浮揚を重視する政府との不協和音が生じるおそれがある。引き締め
的なスタンスを示している中銀の正念場となりそうだ。
この資料は投資判断の参考となる情報提供を目的としたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。銘柄の選択、投資に関する
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2016/6/16
為替トピックス
図5:トルコの主要金利の推移
(%)
(週次:2012/1/6~2016/6/10)
14
12
10
8
6
4
2
0
12/1
12/7
13/1
13/7
14/1
14/7
15/1
15/7
16/1
(年/月)
市場金利(翌日物銀行間金利)
政策金利(1週間物レポ金利)
上限金利(翌日物貸出金利)
下限金利(翌日物借入金利)
出所:ブルームバーグのデータよりみずほ証券作成
図6:トルコの物価指数(前年比)
(%)
(月次:2011/1~2016/5)
16
14
12
10
8
6
4
2
0
11/1
11/7
12/1
12/7
13/1
13/7
14/1
14/7
15/1
15/7
16/1
(年/月)
インフレ目標(5%±2%)
消費者物価(CPI)
食料品価格
コアCPI(除く食品、エネルギー)
出所:ブルームバーグのデータよりみずほ証券作成
トルコリラは国内の
政治不透明感から下
値不安がくすぶる展
開
トルコリラの対ドル相場は、5月初旬のダウトオール首相辞任表明を受けた政治不透
明感の高まりを背景に弱含みとなり、5月中旬には一時1ドル=3.0リラ台に減価した。
ただその後は、ユルドゥルム新内閣で市場の信認が厚いシムシェキ副首相を含む
主要閣僚が残留したことや、弱い米5月雇用統計で米早期利上げ観測が後退した
こと等から、2.9リラ台へとやや値を戻す動きとなった。対円では、英国の欧州連合
(EU)離脱懸念等にともなうリスク回避の動きから逃避通貨として円が強含んだた
め、6/14に1リラ=35円台を付ける等、安値圏での推移となった(図7)。
今後のリラ相場をみるうえで、まず経済面では、高い成長率が続き、物価は改善基
調となる等、底堅い動きがみられる。しかし政治面では、「強い大統領制」に意欲を
高める新政権の下で、大統領制移行に向けた憲法改正を確実なものとするため、
解散総選挙に打って出るのではとの思惑がくすぶる。カントリーリスクをみるのに参
考になるクレジットデフォルトスワップ(CDS、5年物)は、250ベーシスポイントを超え
る水準で高止まりし(図8)、海外投資家のトルコ証券投資動向では、株式で資金流
出の動きがみられる(図9)。政治不透明感の高まりが警戒されるなか、トルコへの資
金流入は抑制されやすい環境が続くとみられ、国際的な金融環境の不安定化や米
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2016/6/16
為替トピックス
利上げ観測の高まる局面では、再びリラ相場への売り圧力が強まることが予想され
る。
対円では、長期移動平均線から大幅下方かい離となっており、ある程度の悪材料
の織り込みが進んでいるとみられる。今後はトルコの政治動向に加えて、円買いの
動きに歯止めがかかるかどうかが注目される。
図7:トルコリラの推移
(1リラ=円)
(1ドル=リラ)
2.0
(日次:2014/1/2~2016/6/14)
55
52
2.2
49
2.4
46
2.6
43
2.8
40
3.0
対円(左目盛)
対ドル(右逆目盛)
37
3.2
34
14/1
14/7
15/1
15/7
出所:ブルームバーグのデータよりみずほ証券作成
(bp)
リ
ラ
安
3.4
16/1
(年/月)
図8:クレジットデフォルトスワップ(CDS)5年物の推移
400
リ
ラ
高
(%)
(日次:2012/1/2~2016/6/14)
350
300
250
200
150
100
12/1
12/7
13/1
13/7
14/1
14/7
15/1
15/7
16/1
(年/月)
出所:ブルームバーグのデータよりみずほ証券作成
(億ドル)
8.0
図9:海外投資家のトルコ証券投資動向とリラ相場
(1ドル=リラ)
1.80
(週次:2014/1/3~2016/6/3)
資金流入・リラ高
6.0
4.0
資金流出・リラ安
2.00
2.20
2.0
2.40
0.0
2.60
▲ 2.0
2.80
▲ 4.0
3.00
▲ 6.0
債券(左目盛)
トルコリラ(対ドル、右逆目盛)
株式(左目盛)
▲ 8.0
14/1/3
14/5/23
14/10/10
15/2/27
15/7/17
(注)株式、債券ともに4週移動平均
出所:トルコ中央銀行、ブルームバーグのデータよりみずほ証券作成
15/12/4
3.20
3.40
16/4/22
(年/月/日)
この資料は投資判断の参考となる情報提供を目的としたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。銘柄の選択、投資に関する
最終決定はご自身の判断でお願いいたします。また、本資料は信頼できると思われる情報に基づいて作成したものですが、その正確性、完全
性を保証したものではありません。本資料に示された意見や予測は、資料作成時点での当社の見通しであり今後予告なしに当社の判断で随
時変更することがあります。最終ページに金融商品取引法に係る重要事項を掲載していますのでご覧ください。
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2016/6/16
為替トピックス
金融商品取引法に係る重要事項
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商 号 等 : みずほ証券株式会社 金融商品取引業者 関東財務局長(金商)第 94 号
加入協会 : 日本証券業協会、一般社団法人日本投資顧問業協会、一般社団法人金融先物取引業協会、
一般社団法人第二種金融商品取引業協会
広告審査番号 : MG5690-160616-04
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