関東港湾空港技術開発ビジョンの概要

報
関東港湾空港技術開発ビジョン
∼首都圏の活力を支える東京湾沿岸域の持続的発展と環境創造を実現する技術開発∼
国土交通省関東地方整備局
横浜港湾空港技術桐査事務所 技術開発課
■■■■
要
旨:「関東港湾空港技術開発ビジョン」は、関東地方の港湾空港が引き続き、首都圏の持続的発展を支え
続けていくために必要な港湾・空港の技術開発の方向性と推進方策を定めたものであり、開発期間
は、平成14年虔から概ね10年間を目標としている。
キーワード:技術開発、持続的発展、東京湾の蘇生、環境創造、省力化、自動化
1.はじめに
技術開発ビジョン委員会」を設置し、活発な諌論の
21世紀を迎え、我が国の社会・経済は大きな転換
上策走した。
期に遭遇している。とりわけ、島国である我が国の
発展基盤である港湾・空港を取り巻く状況は、アジ
アの経済発展に伴う海外諸港の台頭、コンテナの基
幹航路の再礪等により、厳しさを深め、我が国港湾
の競争力の強化が大きな命題となっている。
国土交通省関東地方整備局港湾空港部は、首都圏
という広域的な視点に基づいた港湾の開発、利用及
び保全の指標となる「首都圏港湾の基本構想」を策
定した。
港湾・空港の技術開発に関してほ、旧運輸省第二
港湾建設局として平成7年皮に「港湾・空港建設の
技術開発計画」を策定、平成13年5月に国土交通省
港湾局が「新世紀を拓く港湾の技術ビジョン」を策
定し、順次、技術開発課題の実現化に向けて努力し
図一1「首都圏港湾の基本構想(国土交通省関東地方整備局、
平成14年3月)」における基本方針
てきたところであるが、今後さらなる技術開発の取
り組みが求められている。
以下に紹介する「関東港湾空港技術開発ビジョン」
は、「首都圏港湾の基本構想」及び「新世紀を拓く
港湾の技術ビジョン」を踏まえつつ、今後も関東地
方の港湾・空港が引き続き、首都圏の持続的発展を
支え続けていくために必要な港湾・空港の技術開発
の方向性と推進方策を取りこまとめたものである。
なお、本ビジョンの取りまとめにあた?ては、磯
部雅彦東京大学教授を委男卑とする「関●末港湾空港
∴
2.港湾・空港に関する技術開発の理念と目標
及び課題
2.1技術開発の基本理念
首都圏の活力を支える東京湾沿岸域の持続的発展
と環境創造を実現する技術開発
○関東地方は首都を擁する我が国の中枢圏域として
の役割を歴史的に担っているが、その発展は東京
湾の存在と不可分である。すなわち、東京湾がそ
の空間を提供している港湾、空港、臨海工業、ウ
オーターフロントの商業・サービス施設、レクリ
エーション施設等の機能を引き続き持続発展させ
ることが重要である。しかし、同時に「持続発展」
という観点から、公共投資の制約、資源の有限性
及び地球環境問題等への十分な配慮が不可欠であ
る。
○特に、東京湾は閉鎖性の高い海域であり、都市を
貫流して流入する河川も多いため、自然環境面で
は様々な問題を抱えており、東京湾の再生は都市
再生プロジェクトの一つとして、国家的な政策課
麓として動き始めようとしている。
○これらのことから、本ビジョンでは、首都圏住民
の共通社会資本とも言える東京湾沿岸域の持続的
発展と、東京湾を含む沿岸域の自然環境の革新的
図・2 関東港湾空港技術開発ビジョンのコンセプト
改善に貢献する技術開発の爾和的推進を基本理念
としている。
わしい国際機能の確保として、空港機能の拡充及び
2.2 技術開発の目標と技術開発課題
国際交流空間にネさわしい港湾空港施設の開発に関
関東地方整備局港湾空港部が重点課題として行う
する技術開発を目指す。
基本目標別の主な技術開発課題と個別開発内容を以
①海陸一貫輸送の高度化システムの構築
下に示した。
○物流情報の共有化による手続き等の簡素化に関す
る技術開発
〔目標Ⅰ〕高度を国際交流空間の形成を目指す
技術開発
②首都圏における空港機能の拡充
○急速施工を可能とする効率的な空港建設技術の開
発
中枢・中核国際港湾を多く有する関東地方におい
③湾岸域における交通機関の強化
ては、国際競争力の強化に資する港湾の整備・運営
○交通流動を円滑化する臨海道路の建設技術の開発
に関する技術開発を目指すとともに、首都圏にふさ
④国際交流空間にふさわしい港湾空港建設の開発
.[現状]
[将来]
塾 臨萎義塾 勤転塾
転塾岳誌岳転勤陰室
検疫所 税関港湾管理者港長 入管
税関 検疫所港湾管理者 港長 入管
図・3 ワンストップサービス及びシングルウィンドウ化技術の開発
P
技術開発を目指す。
ユニバーサルデザイン導入技術の開発
①港湾・空港におけるリサイクル材の活用
○港湾・空港工事における建設副産物の利用拡大技
〔目標■Ⅱ〕自然環境の保全・回復・創造に資す
る技術開発
術、新たな設計方法の開・発
○建設副産物・産業廃棄物を活用するための品質改
良技術の開発
1■我が国最大の集積を誇る東京湾は開銀性永域であ
②港湾におけるリサイクル拠点の形成
チるが故に、自然環境面で様々な課題を抱えているこ
③自然エネルギーの活用
■■■′ とから、様々な角度から東京湾の自然環境の保全・
回復・創造に関する技術開発を目指すとともに、省
庁統合メリットを生かした、東京湾の環境に責任を
持った行政を行うため、東京湾再生プロジェクト等
の先導役を担う技術開発を目指す。
①環境保全と適正な管理システムの構築
○自然環境メカニズムの解明に関する技術開発
▼ワンド
②沿岸域利用における自然共生技術の開発
○人工干潟■・藻場・磯場の造成技術の開発
図−5 港湾痍進物へのリサイクル材料の活用(水砕スラグ)
○港湾・空港構造物における環境共生技術の開発
③湾内の水底質の改善
○水底質浄化技術の開発
〔目標Ⅳ〕沿岸域における快適性と安全・安心
の提償を目指す技術開発
④海洋・陸域汚染の防止・効率的対処
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○流出油、浮遊ゴミの監視・予測・回収システムの
港湾空間における親水性や賑わい性の回復に対す
るニーズの高まりに対応し、水辺の特性を活かした
開発
快適空間形成のための技術開発を目指す。また、膨
大な菩棟のある首都圏の背後資産を地震・高潮・津
波等の災書から守り、被災後も速やかな復興を図る
ための技術開発を目指す。
①快適な水辺の交流空間の創出
○親水性のある賑わい空間のネットワークの形成手
法と評価システムの開発
②災害に強い港湾・空港空間の形成
○津波・高潮災害に対する対応技術の開発
○安全な船舶航行、船舶の係留に関する技術の開発
図4 沿岸域データベースの構築
〔目標Ⅴ〕既存ストックの活用と効率的な整備
を目指す技術開発
〔目標Ⅲ〕循環型社会形成支援を目指す技術開発
高度経済成長期を中心に形成されてきた首都圏の
資源の有限性の認執筆に基づき、循環型社会の形
港湾・空港のストックの多くは近い将来、更新時期
成が大きな社会目標となっていることから、港湾・
の到来が予測される。しかしながら、社会資本の効
空港としても、3R(リデュース・リユース・リサ
率的な整備に対する社会的要請の高まりから、これ
イクル)を基本として、循環型社会の形成に資する
ら既存ストックの適切な有効活用や、効率的な設
3.技術開発の推進方策
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∴無声・!
3.1技術開発の開発主体
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関東地方の港湾・空港に関する技術開発を担う主
体としては、国(関東地方整備局)、試験研究機閑
(国土技術政策稔合研究所・独立行政法人港湾空港
技術研究所等)、大学、港湾管理者・公社、企業・
NPO等の民間セクター等であり、適切に役割分担
しつつ効率的な技術開発を行う。
特に国は国の事業に密接に関わる技術開発を行
い、民間技術の積極的活用により民間活力に刺激を
図一6 人に安全な親水性ブロックの開発
与える。また、■環境・バリアフリー等国家施策に基
づく技術開発における先導的役割を担う。
計・施工・管理に関する技術開発を目指すととも
3.2 技術開発の推進方策
に、施工段階における歩掛かり及び基準等の鱒訂を
3.2.1技術開発課選評価の強化
国が担う観点から、身近にある施工管理データ等を
○今後の技術開発を取り巻く状況として、透明性や
活用した技術開発を目指す。
説明責任等の社会的要請に応えつつ、技術者のモラ
①既存港湾・空港ストックの有効活用
ルを高め、より高度な技術開発を推進するためには、
○老朽化した構造物の維持、補修、更新工法の開発
適切な技術開発目標の設定とより客観的な「評価」
②港湾・空港構造物の効率的な設計・施工・管理
の機能強化が必要である。
○遠隔操作化、ロボット化に関する技術開発
○そのため、技術開発のテーマ選定時、中間報告時、
最終報告時、開発成果の活用時等の各段階で、内部
†
自動航育子、リアノしタイム画像
施エモニタリング、底泥採取、水質‡巴握
図一7 港湾域における各種モニタリングロボット開発
評価を強化する。さらに、第≡者機関あるいは外部
○環境変化に関するモニタリング調査や景観形成に
専門家による稔合評価を行う体制を整備し、専門機
関する評価等についてはNPOや市民の継続的な参
関やユーザー、市民の声を開発に反映させる仕組み
加、協力を得る仕組みづくりを図る。
を整備する。
3.2.2 民間技術開発の支援と活用
○国として民間開発技術を積極的に支援するため、
新技術活用パイロット事業等、技術評価システムの
4.作業船に特化した技術開発
「関東港湾空港技術開発アクションプラン」には、
さらなる活用を図り、現場への新技術の積橿的な利
121項目に及ぶ個別技術開発項目があり、その内、
用を進める。
作業船に特化した主な技術開発は、表−1のとおりで
′
○また、VE(バリューエンジニアリング)等、技
ある。その内、最近取り組んでいるのが海洋環境整
術力を反映した入札契約制度の積極的活用を図る。
備船の高度利用技術の開発である。その概要は、東
○毎年、共同開発を行なうテーマを定め、技術捷案
京湾の海洋環境整備のために運行している清掃兼油
を公募する。捷案された技術に閲し
回収船(べいくりん)の清掃作業の効率化及び航行
実用化の可能性の高いものについて積極的に予算化
船舶の安全性の向上を図るために、水中に浮遊して
を図り、試験研究機関とも連携しつつ、共同技術開
いるゴミを超音波を利用して探査する装置、及び回
発として支援を行う。
収装置を開発するものである。
3.2.3 技術開発における行政間の連携の推進
○東京湾再生プロジェクト等、稔合的な施策技術が
奉1作業船に特化した主な技術開発
必要とされる分野において、効果的、効率的な技術
開発を行う観点から海岸、漁港、都市、河川等行政
間の連携を促進する。
○また、港湾・海岸事業と共通性の高い河川局の海
岸事業、農林水産省の漁港・海岸事業、地方自治体
の研究機関等との間で技術開発における技術交流会
諌の設営や共同シンポジウムの開催など、多面的な
連携方策の推進を図るとともに、地域の試験研究機
関との連携を促進する。
○旧港湾技術研究所を母体に新しく再編された国土
技術政策総合研究所及び独立行政法入港湾空港技術
研究所とは適切に役割分担しつつ、鍵来どおり連携
して技術開発を進める。
3.2.4 草の根技術開発の推進
○現場から技術開発計画の提案を行なう。直轄事務
所に蓄積されている豊富な現場情報等を活かして、
設計技術及び施工技術の技術開発を進める。さらに、
現場施工データの収集・蓄積を通じて、設計、積算
基準等の見直し等によるコスト縮減を図る。
3・2・5 技術開発成果の掌及・活用方策
○関東地方整備局管内の港湾空港事業に貢献した新
たな技術を対象とする「技術賞」を新設し、受賞技
術については、ホームページやパンフレットにより
積極的な広報・PRを図る。
図−8 海洋環境整備船の高度利用技術の開発
雪
5.あとがき
ここでは紙面の都合上紹介できなかったが本ビジ
関東地方の港湾空港は、21世紀においても引き続
き厳しい国際競争にさらされている等多様な対応課
ョンでは技術開発の全体体系を示すとともに、121
題を抱えており、そのような状況の中で、本ビジョ
項目にのぽる個別開発技術を示したアクションプラ
ンが我が国港湾空港の国際的な地位の向上や、市民
ンを捷案した。アクションプランの中には、これか
にとって利用のし易い安全で快適な空間の形成に資
ら全く新たに取り組むべき技術開発項目等が含まれ
することを期待してやまない。
ており、そのため、技術開発の具体的な取り組みに
あたっては、推進方策でも示した評価機能の強化の
一環として、関東地方整備局における内部評価や、
関東港湾空港技術開発ビジョンの本文は
中立の第三者磯関あるいは外部専門家による稔合評
関東地方整備局港湾空港部ホームページ
価を経て技術開発項目の精査を行い、実効性の高い、
http://www.pa.ktr.miit.go.jp/index.htmlを参
かつ開かれた技術開発を進めていくものとする。
照されたい。)
叫、