6月7日 - 九州大学 大学院工学研究院 機械工学部門

2016/6/7
ソフトマター工学・第7回
2016年6月7日(火)
界面の熱力学
九州大学大学院工学研究院機械工学部門
准教授
山口 哲生
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本日のおはなし
1.前回の復習
-線形粘弾性の等価モデル
-温度-周波数換算則
2.レポート課題の解答例
3.界面の熱力学(1)
-界面張力,表面張力
-界面に対するギブス-デュエムの式
-過剰吸着量
4.まとめ
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線形粘弾性の等価モデル
粘弾性体固体のモデルはバネとダッシュポットでどのように表現されるのか?
G ' ( )  Ge  G
( ) 2
,
1  ( ) 2
G" ( )  G

.
1  ( ) 2
(   / G )
※一般には,粘弾性流体,粘弾性固体のいずれの場合でも,複数の緩和時間を
持つ.その場合,粘弾性挙動は以下のように表現される.
( i ) 2
G ' ( )  Ge   Gi
,
1  ( i ) 2
i

G ' ( )  Ge   d ln  H ( )

( )
,
1  ( ) 2
2
G" ( )   Gi
i
 i
.
1  ( i ) 2

G" ( )   d ln  H ( )


.
1  ( ) 2
H(τ):緩和スペクトル
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温度-周波数換算則
温度-周波数換算則(時間-温度換算則)
ある温度で粘弾性の周波数依存性を測定
異なる温度での曲線が重なるように
横方向にシフト
G’(ω)
G’(ω)
幅広い周波数領域での
粘弾性を推定することが
できる!
流動
領域
ガラス-
ゴム転移
領域
シフトファクター aT
温度Tで測定した周波数依存性を
別の温度(基準温度Tr)での周波数に換算するため
の係数
log aT 
 c1 (T  Tr )
c2  T  Tr
T
ガラス 1
領域 T
2
ゴム
領域
ω aT
c1, c2: 高分子によって決まる係数
(不明の場合には,c1 = 8.86, c2 =
101.6Kが用いられる)
T3
T5
T6
T7
T4
ω
4
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非線形粘弾性体の連続体力学
構成方程式(応力と変形を関係付ける式)
非線形Maxwellモデルの場合
t
 ij (t )   p ij  G  dt ' exp(

Cf. 線形Maxwellモデルの場合は
t
t  t'


  G  dt ' exp(
) (t ' )
t  t ' B (t , t ' )
)

t '
B (t , t ' )  E (t , t ' ) E (t , t ' ) :Finger テンソル
Eij (t , t ' ) 
ri (t )
:変形勾配テンソル
rji (t ' )
結局,非線形粘弾性体(Maxwell model)の運動を解くには,以下の方程式を連立
させる.
    g
v  0
t
t  t ' B (t , t ' )
 ij (t )   p ij  G  dt ' exp(
)


t '
単純な変形を除いては解析的に解けないので,有限要素法などを用いることになる.
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3.界面の熱力学
相Ⅰ
界面(interface)とは?
2つの物質の境界面のこと.特に,空気(または真空)と物
質の界面を表面(surface)と呼ぶ.ソフトマターにおいては,
界面は重要な役割を果たしており,ソフトマターの物性に
大きな影響を与える.
例1:牛乳(コロイド分散系)
牛乳にお酢を加えると,牛乳のなかのタンパク質間の相互
作用が変化して分散状態が変化し,ゲル化を起こす.
界面
A
相Ⅱ
例2:角が丸くなるゲル
金属などと比べて弾性率が小さいので,弱い力でも変形し
やすい.そのため,立方体になるようきっちり加工しても,
なるべく表面積を小さくしようとして角が丸くなってしま
う.
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界面活性剤とは?
界面活性剤(surfactant)
界面に作用して,界面の性質を変える物質のこと.
例:洗剤
油で汚れた皿に洗剤を加えると,洗剤の分子が水と油の
界面に入り込み,その界面を広げようとする.そのため,
油は小さな油滴となって水のなかに分散していく.
また,油が存在しない場合でも,右図のように水表面
(空気との界面)に集まって表面を広げようとするため,
下図のように表面積が大きな泡状の構造をとることがで
きる.
⇒ それではなぜ,界面活性剤は界面(表面)を広げよ
うとするのだろうか?
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界面の熱力学
界面自由エネルギー
いま,2つの(熱力学的な)相が共存し,平衡状態に
あるとする.
相Ⅰ
系全体の自由エネルギー G
界面
G  GI  GII  G A
GI , GII
GA
VⅠ
A
VⅡ
: 相Ⅰ,Ⅱのバルク(内部)
の自由エネルギー
相Ⅱ
:界面自由エネルギー
※
バルク ⇔
界面
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界面の熱力学
バルクにおける議論
平衡状態において,2つの相が共存しているとき,系の状
態は温度Tとそれぞれの相の体積Vα(α= ⅠまたはⅡ),およ
び分子 i の 化学ポテンシャルμαiで決まってしまう
(但し,平衡状態では2つの相の化学ポテンシャルは
等しいので, μαi = μi )
相Ⅰの自由エネルギー(Ⅱについても同様)
相Ⅰ
GI  GI (T , i , VI )
VⅠ
示量性(量をα倍にすると自由エネルギーはα倍になる)
を用いると,GⅠは次の関数形をもたなくてはならない.
GI (T , i , VI )  VI g I (T , i )
gI
:相Ⅰの単位体積あたりの
自由エネルギー
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バルクにおける議論(2)
最終的に,GⅠの具体的な形は以下のようになることが示される.
GI (T , i , VI )  VI PI (T , i )
また,温度,化学ポテンシャル,圧力の変化に関する関係式
(ギブス-デュエムの式(Gibbs-Duhem equation))を
導くことができる.
VI dPI  S I dT   N Ii di
i
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界面張力,表面張力
界面張力(Interfacial tension)
界面上に閉じた2次元領域を考える.領域内部では,界面
の面積をできるだけ小さくしようとして,領域の境界線を
内側に引っ張りこもうとしている.
圧力のときと同様に,界面の面積をΔAだけ変化させると
きに行なう仕事は,
W   A ,
ここでγを界面張力(表面の場合には表面張力(surface
tension))とよぶ.
右の例では,引っ張る力と界面張力の間に以下の関係が成
立する.

f
2a
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界面にも同じ議論を適用
示量性から出発すると,以下の式を示すことができる.
G A (T , i , A)  Ag A (T , i )
gA
:界面の単位面積あたりの
自由エネルギー
g A (T , i )   (T , i )
S
  

  A,
A
 T  i
相Ⅰ
 

 i

N
   Ai
A
T
界面
G A (T , i , A)  A
相Ⅱ
VⅠ
A
VⅡ
Ad   S A dT   N Ai di
i
:界面に対するギブス-デュエムの式
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バルクにおける議論(2)
界面に(過剰に)存在する単位面積あたり
のi種分子の数は
N Ai
A
i 
で表される.Γを過剰吸着量(surface
excess concentration)と呼ぶ.
過剰吸着量は,以下の式で定義される.
(右図の網掛けの領域の面積に対応)

0
i 
 dz (n ( z )  n
i
Ii

)   dz (ni ( z )  nIIi )
0
界面活性剤のように,分子が界面を好むものであれば過剰吸着
量は正である.これを正吸着(positive adsorption)という.逆に
分子が界面を避けるならば,過剰吸着量は負となり,これを負
吸着(negative adsorption)という.
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界面活性剤の添加によって界面張力は低下する
界面活性剤の種類をaで表す.界面に対するギブス-デュエムの式より,
Ad   S A dT  N Aa d a
温度一定とすると,
  
N

   Aa  a
A
  a T
もし界面活性剤濃度が非常に小さいならば,バルクではミセルなどの
会合体を作らずに分子分散すると考えられる.この場合,バルクでの界
面活性剤の化学ポテンシャルは以下のように書くことができる.
 a (T , na )   a0 (T )  k BT ln na
これを用いると
  
     a 
k T

  
 
  a B
na
 na T   a T  na T
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界面活性剤の添加によって界面張力は低下する(2)
この式によれば,界面活性剤のように過剰吸着量Γが正の場合,界面活性
剤の添加(バルクへのnaの増加)によって界面張力は低下する.
ラングミュアの吸着式(Langmuir’s adsorption equation )によると,
a 
na S
ns  na
ΓS: 飽和吸着量
これを積分することで,

   0  S k BT ln1 

na 

ns 
という式が得られる.
※界面活性剤濃度が大きくなると,
右図のようにミセル化が起こり,
界面張力はほぼ一定となる.
臨界ミセル濃度
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3.本日のまとめと次回の予告
本日のまとめ
本日は,
-界面張力,表面張力
-界面に対するギブス-デュエムの式
-過剰吸着量
について学んだ.
次回の予告
次回は以下のような内容のお話をする予定.
-ラプラス圧
-濡れ
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