経営者のための 小規模企業共済制度のご紹介

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経営者のための
小規模企業共済制度のご紹介
~制度改正で更にメリット拡大~
独立行政法人 中小企業基盤整備機構 中国本部
共済普及相談員(岡山県担当) 平井 則夫
1.はじめに
日本の全企業数(2014 年現在)は、382 万社、そのうち小規模企業は 85%、約 325
万社と大半を占め日本経済を支える重要な存在です。
国は、小規模企業の個人事業主や会社役員が事業を廃業する際に「退職金」に相当す
る資金が準備できる「小規模企業共済」制度を昭和 40 年に創設し、独立行政法人中小
企業基盤整備機構(以下「中小機構」という)がその運営を行ってきました。
さて 2014 年 6 月に閣議決定された「日本再興戦略」において、
「次世代へのバトンタ
ッチを促すため、中小企業・小規模事業者の経営者の高齢化等が進む中で、廃業時のセ
ーフティネット・事業承継支援機能を拡充するため、小規模企業共済制度を見直すとと
もに、中小企業支援機関の支援機能の強化を行う。」と明記され、中小企業の約9割を
占める小規模事業者の振興に関する政策を総合的かつ計画的に推進するために制定さ
れた「小規模企業振興基本法」の目標の一つである「新陳代謝の促進」の重点施策「事
業の承継・円滑な廃業」を狙いとして、今回「小規模企業共済法」が改正されました。
(本年 4 月 1 日施行)
制度改正の内容は後述しますが、今回の改定の趣旨は、個人事業主の配偶者又は子へ
の事業全部譲渡に係る共済金支給額の引き上げや廃業時のコスト負担への対応、より多
くの小規模事業者が利用しやすくなるような制度の利便性の向上を目的としておりま
す。
それでは、まず次項では当制度の概要(加入資格、税制上のメリット等)を、そして、
第3項では制度改正の内容について説明し、最後に当制度の認知度をより高め、加入率
向上に向けて、中小機構中国本部が本年度取組む広報活動等についてご紹介します。
2.小規模企業共済制度の概要
当制度は、小規模企業の個人事業主(共同経営者を含む)または会社等の役員の方が
事業をやめられたり、退職されたりした場合、生活の安定や事業の再建を図るための資
金をあらかじめ準備しておく共済制度です。いわば「経営者の退職金制度」といえます。
制度内容の詳細は次の表1をご覧ください。
旬レポ中国地域 2016 年 6 月号
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表1
小規模企業共済制度の概要
項 目
加入 資格
内
容
・常時使用する従業員が 20 人以下(宿泊業・娯楽業を除くサービス業、
商業では 5 人以下)の個人事業主および会社の役員
・事業に従事する組合員が 20 人以下の企業組合の役員、常時使用す
る従業員が 20 人以下の協業組合の役員
・常時使用する従業員が 20 人以下であって、農業の経営を主として行
っている農事組合法人の役員
・常時使用する従業員が 5 人以下の弁護士法人、税理士法人等の士
業法人の社員
・小規模事業者たる個人事業主に属する共同経営者
(個人事業主 1 人につき 2 人まで)
掛
金
掛金月額は、1,000 円~70,000 円の範囲(500 円単位)で自由に選択
加入後も掛金月額の増額・減額が可能
また、払い込み方法も、「月
払い」「半年払い」「年払い」から選択可能
掛金の税法上の
掛金は、全額が「小規模企業共済等掛金控除」として、課税対象所得
メリット(注)
から控除(1 年以内の前納掛金も同様)
共済金の受取り
共済金は廃業時・退職時に受領(満期は無し)
但し、請求事由が生じても、特定の要件に該当すれば、共済金等を受
け取らず、掛金納付月数を通算して共済契約の継続も可能
共済金の税法上
共済金の受取りは、「一括」「分割(10 年・15 年)」「一括と分割の併用」
の取り扱い(注)
のいずれかを選択
税法上、一括受取りによる共済金は「退職所得扱い」(税法上優遇)、
分割受取りによる共済金は「公的年金等の雑所得扱い」
共済契約者貸付
契約者(一定の資格者)の方は、納付した掛金合計額の範囲内で事業
制度
資金等の貸付が受けられる制度あり(年利 1.5% 担保・保証人不要)
上記一般貸付け以外により低利な特別な貸付制度もあり
加入申込み先
中小機構と委託契約を締結している下記団体・金融機関等に申込み
・商工会
・商工会議所
・青色申告会
・中小企業団体中央会、中小企業の組合
・金融機関の本支店(銀行・信用金庫・信用組合など)
(注)毎年の掛金全額が「所得控除」で節税でき、また、将来受取る「共済金」は掛金の合計
額より多く、更に「一括受取り」の場合、退職所得となり、税法上も有利となります。
なお、具体的な節税額、共済金額については、次の表2、表3をご覧ください。
旬レポ中国地域 2016 年 6 月号
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表2
課税される
所得金額
掛金の全額所得控除による節税額一覧表
加入前の税額
加入後の節税額
(所得税+
住民税)
掛金月額
掛金月額
掛金月額
1 万円
3 万円
7 万円
200 万円
309,600 円
20,700 円
56,900 円
129,400 円
400 万円
785,300 円
36,500 円
◆ 109,500 円
241,300 円
600 万円
1,393,700 円
36,500 円
109,500 円
255,600 円
表3
共済金額一覧表(掛金月額が3万円の場合)
共済金A(A共済事由)
掛金納付年数
共済金B(B共済事由)
・老齢給付(※)
掛金合計額
・個人事業の廃止
・会社等役員の疾病・負
・個人事業主の死亡
傷・65歳以上での退任
・会社等の解散など
・会社等役員の死亡など
※65 歳以上で 180 か月以
上掛金を納付した方に限
る。
5年
1,800,000 円
1,864,200 円
1,843,800 円
10年
3,600,000 円
3,871,800 円
3,782,400 円
5,400,000 円
6,033,000 円
5,821,200 円
20年
7,200,000 円
8,359,200 円
7,976,400 円
30年
10,800,000 円
13,044,000 円
12,635,400 円
15年
◆
(注)共済金等の額は、経済情勢等が大きく変化したときには、変更されることもあります。
[例]
課税された平均所得金額が400万円、月々3万円の掛金を15年間納付した方が、共済金A
を受取った場合。(上記表2、表3より)
節税額合計 ◆109,500円×15年=1,642,500円
掛金合計額= ◆5,400,000円
共済金A:6,033,000円
受取額-納付額=633,000円
合計2,275,500円
おトク
一括受取の場合、退職所得扱いとなり、税制上更に有利
旬レポ中国地域 2016 年 6 月号
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3.制度改正内容
今回の主な改正点は、経営者の引退後の生活の安定を図り、事業を次世代に円滑に承継
できる環境を整えるため、共済金の支給額の引き上げ(下記(1)(2)の通り)を行うととともに、
手続き面においても、申込金(現金)を添えることなく、新規の加入申込みや掛金の増額の申
込みが可能となりました。(下記(5)の通り)
<共済金関係>
(1)「配偶者等への事業全部譲渡」の共済事由の引き上げ
(準共済事由→A共済事由)
※共同経営者の場合(地位の譲渡)についても同様
詳細は表4の通り
(2)「役員の任意退任(65歳以上)」の共済事由の引き上げ
(準共済事由→B共済事由)
※65歳未満の任意退任は従来通り準共済事由
(3)共済金を受給できる遺族の範囲の拡大
(生計維持関係のない「ひ孫」、「甥・姪」を追加)
(4)分割共済金の支給回数の増加
(年4回[2、5、8、11月]→年6回[1、3、5、7、9、11月])
※支給期間(10年または15年)は変更なし
<手続き関係>
(5)申込金等の廃止(現行の現金納付も可)
(6)掛金月額の減少(減額)の要件廃止(委託機関による確認も廃止)
(7)掛金納付月数の通算事由を追加(共同経営者の独立開業)
(8)やむを得ない掛金滞納に対する機構解約の例外を追加(災害等特殊事情による滞納)
表4
共済事由
地位
個人事業者
(共同経営
者を含む)
小規模企業共済制度の共済事由(制度改正内容)
A 共済事由
【事業の廃止等】
○個人事業の廃止
(注)配偶者・子以外の者に
事業譲渡を行った場合を
含む
B 共済事由
【疾病等の役員退任、
老齢給付】
準共済事由
【みなし解約】
○老齢給付
(65 歳以上で 180 か月以
上掛金を納付)
○12 月以上の掛金の滞
納・共済金等の不正受給
○任意解約
○個人事業者が配偶者又は
子に事業を譲渡
○個人事業者が配偶者又は
子に事業を譲渡
○死亡
○法人成りし、その会社の
役員に就任しない場合
①親族内承継を廃業と同様の
共済事由に引き上げ
○会社等の解散
解約事由
【任意解約、掛金滞納等
による解約】
○老齢給付
(65 歳以上で 180 か月以
上掛金を納付)
○会社等役員の退任
(死亡・疫病・負傷・解散を除
く。)
○法人成りし、その会社
の役員となる場合
○12 月以上の掛金の滞
納・共済金等の不正受給
○任意解約
会社等役員
○65 歳以上の役員
の退任
○死亡、疫病、負傷によ
る退任
旬レポ中国地域 2016 年 6 月号
②65 歳以上については
共済事由を引き上げ
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4.加入率向上に向けての取組み
中国地域5県下での小規模企業共済の加入者数は、現在8万4千人余りとなっており
ます。同地域での加入対象者数約20万人の内、加入率は約4割であり、全国平均(約
3割強)に比べれば、かなり高い水準ではありますが、半数以上の方には未だ加入いた
だいていていない状況です。
小規模企業共済は、加入対象者に積極的にPRし、本制度のメリットを知っていただ
ければ、必ず加入される共済制度であると確信しており、本年度は、中小機構中国本部
として以下の項目を重点的に取り組み、加入率の向上を図って参りたいと思っておりま
す。
(1)委託機関の加入促進活動への支援・協力
加入促進を行っていただいている商工会、商工会議所、金融機関等へは、引き続き
各機関が実施する加入促進活動を全面的にバックアップいたします。特に本年度は、
中国地域に数多くの店舗網を有し、そして加入対象者の多くと取引関係にある地銀、
第二地銀、信金、信組などの金融機関へのアプローチを強化していく予定です。
(2)マスメディア等を活用したPRの強化(認知度の向上)
本年度は、昨年度以上にテレビ、ラジオを活用したより効果的なCMを実施いたします。
また、タイムリーな新聞広告を行うとともに、インターネットによる動画配信も行います。
マスメディアを活用したPRについては、小規模企業共済の認知度の向上に一定の成果
を挙げていると推測されますので、今後も引き続き強化していきます。
(3)関係自治体との連携の強化
中国5県の商工労働担当部署や各市区町村とは、従来より本制度の普及にご理解とご
協力をいただいておりますが、本年度も広報面を中心にご協力の依頼をいたします。
具体的には、県、市区町村の庁舎ロビーあるいは担当部署の窓口に小規模企業共済
のパンフレットやポスターを設置していただくとともに、定期的に発行している広報誌やホー
ムページに当共済の紹介記事を掲載していただくよう依頼いたします。
昨年度は、かなりの県、市区町村で広報面でのご協力をいただきましたが、本年度は更
に連携を強化して参ります。
(4)協同組合等への積極的アプローチ
本共済制度の加入対象者である個人事業主や小規模企業が主な組合員となっている
協同組合、同業組合、振興組合などにアプローチし、パンフレットの事務所への設置や組
合員への配付を依頼するとともに、組合員向けの刊行物やホームページに当共済の紹介
記事の掲載をお願いしてきました。昨年度も多くの協同組合等に依頼し、組合員に対しPR
をいたしましたが、本年度は更に積極的にアプローチいたします。
以上、中小機構中国本部としては、委託機関や関係自治体等のご協力もいただき、加入
対象者のより多くの方が当共済の存在を知り、加入され、メリットを享受されることを期待して
おります。
旬レポ中国地域 2016 年 6 月号
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最後に、中小機構中国本部として本年度から新たに取組むキャンペーン「創業したら小規
模共済!!」のチラシを次ページに掲載させていただきます。創業者のセーフティネットとして
本共済制度をご活用いただけるよう PR に励みますので、支援機関等の皆様におかれまして
も情報提供をよろしくお願いいたします。
■平井 則夫
プロフィール
独立行政法人中小企業基盤整備機構
中国本部
共済部共済普及課 共済普及相談員(岡山県担当)
岡山県出身
株式会社中国銀行を退職後、財団法人岡山経済研究所
理事・所長を経て平成27年4月から現職。
これまでの経験、人脈を活かし地元金融機関、経済団体、
中小企業に対し共済制度の普及を積極的に行っている。
旬レポ中国地域 2016 年 6 月号
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経済産業省 中国経済産業局 広報誌
旬レポ中国地域 2016 年 6 月号
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