災害公営住宅現地調査報告書

災害公営住宅現地調査報告書
平成 27 年 4 月 8 日
認定 NPO 法人ヒューマンライツ・ナウ
震災プロジェクトチーム
1
目
次
1.はじめに
2.災害公営住宅の整備状況
2-1.災害公営住宅制度の概要
2-2.気仙沼以外の自治体における災害公営住宅の状況(宮城県、岩手県、大船渡市)
2-3.気仙沼市の状況における災害公営住宅の状況
2-4.
被災者の住宅に関する不安
3.既に完成している災害公営住宅について(視察報告)
3-1.只越住宅
3-2.南郷住宅
4.気仙沼市の災害公営住宅をめぐる課題
4-1. 今川市議会議員から見た気仙沼市の災害公営住宅の課題
4-2. その他の課題
(1) 家賃の漸増に伴う退去
(2) コミュニティの喪失
(3) 災害公営住宅売却の可否
(4) 保証人
(5) 災害公営住宅の不足
(6) 被災者の住宅に関する不安
(7) 阪神淡路大震災からの示唆
5.おわりに
2
1.はじめに
2011 年 3 月 11 日に発生した東日本大震災から、既に 4 年半が経過したものの、依然として、
多くの被災者が避難生活を送っている。最近は、被災者の避難先として、震災直後の仮設住宅か
ら、災害公営住宅への切り替えが進んでいる。このような切り替えは、被災者の安定的な生活環
境の整備という観点から、望ましいものである一方で、災害公営住宅の建設はいまだ途上にあり、
また問題点も指摘されている。
ヒューマンライツ・ナウ震災プロジェクトチームは、災害公営住宅の現状を視察するとともに、
災害公営住宅に居住する住民の声を聞くことにより、被災者の現実に寄り添った問題点を把握す
ることにした。
調査は以下のとおり実施した。
2015 年 10 月 3 日から 4 日
仮設住宅・災害公営住宅の視察・住民ヒアリング
議員、支援者からのヒアリング
2015 年 10 月~2016 年 3 月
2016 年 3 月 26 から 27 日
デスク・リサーチ
仮設住宅の視察・住民ヒアリング
本報告は、より良い災害公営住宅の実現、ひいては被災者への援助を目指して作成したもので
ある。この報告が、災害公営住宅の実状の改善につながるとともに、将来の問題点解消の一助と
なれば幸いである。
3
2.災害公営住宅の整備状況
2-1.災害公営住宅制度の概要 1
(1)制度の目的
公営住宅は、公営住宅法に基づき建設され、被災者に提供されるものである。すなわち、公
営住宅法は、「国及び地方公共団体が協力して、健康で文化的な生活を営むに足りる住宅を整
備し、これを住宅に困窮する低額所得者に対して低廉な家賃で賃貸し、又は転貸することによ
り、国民生活の安定と社会福祉の増進に寄与すること」を目的として(公営住宅法第1条)、
地方公共団体は、公営住宅(地方公共団体が、建設、買取り又は借上げを行い、低額所得者に
賃貸し、又は転貸するための住宅及びその附帯施設で、この法律の規定による国の補助に係る
ものをいう。同法 2 条 2 号)を提供する。
(2)入居者の負担率
公営住宅を借りることは無償とはされていない。国の補助については、公営住宅法上、公営
住宅の建設等に 2要する費用の二分の一とされている(同法7条)。残りの二分の一を入居者が
負担する。特例として、一定の要件に該当する災害の場合に、災害により滅失した住宅に居住
していた場合には、家賃の補助率は三分の二に引き上げられ、被災者たる賃借人の家賃負担は
三分の一に縮減される(同法 8 条)。これを、公営住宅の中でも災害公営住宅という。
また、激甚災害に対処するための特別な財政援助等に関する法律(以下、「激甚災害法」と
いう。)は、激甚災害として指定された災害に係る公営住宅の建設等の場合、激甚災害法によ
り補助率は四分の三とした。
さらに、東日本大震災における災害公営住宅については、東日本大震災復興交付金による追
加的な国庫補助により、国の負担割合は八分の七に引き上げられ、地方自治体の負担率は八分
の一に縮減された。 加えて、東日本大震災の甚大な被害に鑑み、事業主体が特に住宅に困窮す
る低額所得者について災害公営住宅等の家賃を低減する場合に要する経費の一部を国が補助を
することで、被災者たる入居者の家賃負担縮減が促進されている。 3
1「建築研究所報告書".国立研究開発法人」.
2
3
建築研究所,
http://www.kenken.go.jp/japanese/contents/publications/data/165/3.pdf
建築研究所報告書(http://www.kenken.go.jp/japanese/contents/publications/data/165/3.pdf)を
参考にした。
ここでいう「滅失」とは、全壊・全流出・全焼のことをいい、「住宅の損壊、消失若しくは流失し
た部分の床面積がその住宅の延べ床面積の 70%以上に達した程度のもの又は住宅の主要な構成要
素の経済的損害が住宅全体に占める損害割合の 50%以上に達した程度のもの」とされている(公
営住宅整備事業等補助要領 18 条 3 項)。東日本大震災においては、「滅失」の定義に「大規模半
壊・半壊 1 であって、通常の修繕では居住することができない等の理由により、解体することを
余儀なくされたもの」が追加された。
東日本大震災特別家賃低減事業対象要綱(国住備第 200 号、平成 24 年 1 月 10 日)
4
(3)入居の要件
入居者は、①入居希望者の収入が政令で定める一定の金額以下であること(公営住宅法 23 条
1 項 1 号。いわゆる入居収入基準)、②現に住宅に困窮していることが明らかであること(同
法同条同項同号。いわゆる住宅困窮要件)などの要件を満たす必要がある。
(4)入居の期限
大規模災害においては、被災市街地復興特別措置法 21 条の規定により、当該災害により滅失
した住宅に居住していた者及び都市計画事業等の実施に伴い移転が必要となった者について
は、当該災害が発生した日から起算して 3 年を経過するまでの間は、公営住宅の入居が可能と
されている。この「3 年」という期間制限については、特例により、復興推進計画に記載され
た災害公営住宅の建設等が完了するまでの間(最長 10 年間)と入居資格要件が緩和されている。 4
2-2.気仙沼市以外の自治体(宮城県、岩手県)における災害公営住宅の状況
本報告では、気仙沼市における災害公営住宅の問題点を把握するため、気仙沼市以外の区
域、特に気仙沼市の近傍に位置する宮城県及び岩手県の各市町村の災害公営住宅建設の状況を
比較対照する。宮城県及び岩手県の災害公営住宅の建設状況は以下のとおりである。
(1)岩手県
岩手県の各市町村における災害復興住宅の建設の状況は、表 1 のとおりである。岩手県の各
自治体の災害公営住宅整備状況は、岩手県のウェブサイトが詳しい 5。
<表 1
宮城県の災害公営住宅の建設状況>
工事着
岩手県自
治体
工事完
手戸数
計画数
(計画
中除
工事完
工事着手
工事完了
了戸数
率
率
く)
盛岡市
宮古市1
4
5
了住宅
未着工率
入居率
(設計中
(内定含
含む)
○年○月現在
む)
0
0
766
307
0
0
0
436 40.07833 56.91906
0
0
3.002611
2015 年 2 月○
日
2015 年 9 月
「復興推進計画による規制・手続きに関する特例詳細資料」,首相官邸ホームページ
http://www.kantei.go.jp/fukkou/pdf/reconstructionzones_01.pdf
「災害公営住宅の整備状況について」,岩手県ホームページ
http://www.pref.iwate.jp/kenchiku/saigai/kouei/009718.html
その他、復興庁「あなたのまちの復興情報」の岩手県のページに、各自治体の復興推進計画にも情報
がある。
http://www.reconstruction.go.jp/topics/map-iwate.html
5
宮古市
417
186
231 44.60432 55.39568 N/A
0
801
413
352 51.56055 43.94507
4.494382
290
83
171 28.62069 58.96552
90.625 12.41379
花巻市
0
0
0
0
0
0
0
北上市
0
0
0
0
0
0
0
久慈市
11
0
11
0
100
遠野市
0
0
0
0
0
一関市
27
27
0
100
0
0
1000
543
218
54.3
21.8
23.9
釜石市
1168
287
435 24.57192 37.24315
38.18493
二戸市
0
0
0
0
0
0
0
八幡平市
0
0
0
0
0
0
0
奥州市
0
0
0
0
0
0
0
雫石町
0
0
0
0
0
0
0
葛巻町
0
0
0
0
0
0
0
岩手町
0
0
0
0
0
0
0
滝沢市
0
0
0
0
0
0
0
2015 年 7 月 31
日
大船渡市
1
大船渡市
0
0
0
陸前高田
市
6
2015 年 9 月 8
日
2015 年 9 月 31
日
2014 年 4 月 3
日
2015 年 9 月 8
日
2015 年 9 月 8
日
2105 年 9 月 8
日
2015 年 9 月 8
日
2015 年 9 月 8
日
2015 年 9 月 8
日
2015 年 9 月 8
日
2015 年 9 月 8
日
2015 年 9 月 8
日
2015 年 9 月 8
日
2015 年 9 月 8
日
2015 年 9 月 8
日
2015 年 9 月 8
日
紫波町
0
0
0
0
0
0
0
矢巾町
0
0
0
0
0
0
0
西和賀町
0
0
0
0
0
0
0
金ヶ崎町
0
0
0
0
0
0
0
平泉町
0
0
0
0
0
0
0
住田町
0
0
0
0
0
0
0
大槌町
962
243
161 25.25988 16.73597
58.00416
山田町
777
327
121 42.08494 15.57272
42.34234
岩泉町
51
0
51
0
100
0
田野畑村
63
0
63
0
100
0
普代村
0
0
0
0
0
0
0
軽米町
0
0
0
0
0
0
0
野田村
100
54
45
54
45
九戸村
0
0
0
0
0
洋野町
4
0
4
0
100
一戸町
0
0
0
0
0
7
0
0
0
0
0
0
2015 年 9 月 8
日
2015 年 9 月 8
日
2015 年 9 月 8
日
2015 年 9 月 8
日
2015 年 9 月 8
日
2015 年 9 月 8
日
2015 年 9 月 8
日
2015 年 9 月 8
日
2015 年 9 月 8
日
2015 年 9 月 8
日
2015 年 9 月 8
日
2105 年 9 月 8
日
2015 年 9 月 8
日
2015 年 9 月 8
日
2015 年 9 月 8
日
2015 年 9 月 8
日
以上のとおり、岩手県の災害公営住宅の完成率は、宮古市や陸前高田市のように 4 割から 5
割の自治体がある一方で、大槌町や山田町では 1 割台にとどまっている。
(2)宮城県
宮城県の各市町村における災害復興住宅の建設の状況は、表 1 のとおりである 6。
工事着
宮城県自
計画
治体
数
工事完
手戸数
(計画
中除
工事完
工事着手
工事完了
了戸数
率
率
く)
3179
427
2752
石巻市
4500
1818
塩竈市
420
293
2130
923
白石市
0
0
0
名取市
716
0
92
角田市
0
0
0
多賀城市
532
274
岩沼市
210
0
210
登米市
84
0
60
6
未着工率
入居率
(設計中
(内定含
含む)
○年○月現在
む)
仙台市
気仙沼市
了住宅
13.4319
86.5681
0
1552
40.4 34.48889
25.11111
94
69.7619 22.38095
7.857143
380 43.33333 17.84038
38.82629
0
0
0
0 12.84916
87.15084
0
0
0
208 51.50376 39.09774
9.398496
0
100
0
0 71.42857
28.57143
2015 年 10 月 13
日
2015 年 10 月 13
日
2015 年 10 月 13
日
2015 年 10 月 13
日
2015 年 10 月 13
日
2015 年 10 月 13
日
2015 年 10 月 13
日
2015 年 10 月 13
日
2015 年 10 月 13
日
2015 年 10 月 13
「災害公営住宅の整備状況について」宮城県ホームページ
http://www.pref.miyagi.jp/uploaded/attachment/339978.pdf
その他、復興庁「あなたのまちの復興情報」の宮城県のページに、各自治体の復興推進計画など、
http://www.reconstruction.go.jp/topics/map-miyagi.html に詳しい情報がある。
8
日
栗原市
15
0
15
1010
151
497
大崎市
170
0
170
0
100
0
蔵王市
0
0
0
0
0
0
七ヶ宿市
0
0
0
0
0
0
大河原町
0
0
0
0
0
0
村田町
0
0
0
0
0
0
柴田町
0
0
0
0
0
0
川崎町
0
0
0
0
0
0
丸森町
0
0
0
0
0
0
亘理町
477
0
477
0
100
0
山元町
484
27
364 5.578512 75.20661
19.21488
松島町
52
0
52
0
100
0
212
158
54
74.5283
25.4717
0
利府町
25
0
25
0
100
0
大和町
0
0
0
0
0
0
大郷町
3
0
3
0
100
0
東松島市
七ヶ浜町
0
100
0
14.9505 49.20792
35.84158
9
2015 年 10 月 13
日
2015 年 10 月 13
日
2015 年 10 月 13
日
2015 年 10 月 13
日
2015 年 10 月 13
日
2015 年 10 月 13
日
2015 年 10 月 13
日
2015 年 10 月 13
日
2015 年 10 月 13
日
2015 年 10 月 13
日
2015 年 10 月 13
日
2015 年 10 月 13
日
2015 年 10 月 13
日
2015 年 10 月 13
日
2015 年 10 月 13
日
2015 年 10 月 13
日
2015 年 10 月 13
日
富谷町
0
0
0
0
0
0
大衡村
0
0
0
0
0
0
色麻町
0
0
0
0
0
0
加美町
0
0
0
0
0
0
涌谷町
48
0
48
0
100
0
美里町
40
0
40
0
100
0
女川町
860
28
230 3.255814 26.74419
70
南三陸町
738
352
104 47.69648 14.09214
38.21138
2015 年 10 月 13
日
2015 年 10 月 13
日
2015 年 10 月 13
日
2015 年 10 月 13
日
2015 年 10 月 13
日
2015 年 10 月 13
日
2015 年 10 月 13
日
2015 年 10 月 13
以上のとおり、宮城県の災害公営住宅の完成率は、山元町のように 7 割を超える自治体があ
る一方で、七ヶ浜町や女川町では 2 割台、気仙沼市にいたっては、1 割台にとどまっている。
岩手県と比較しても、県全体としてのその完成率に大きな差は見られないものの、県内での市
町村間では大きな差が見られる。
(3)大船渡市
市町村レベルにおける災害公営住宅の整備状況の一例として、気仙沼市近傍の岩手県大船渡
市を見る。同市によれば、同市における災害公営住宅は合計 800 戸、このうち市主体で建設す
る 290 戸については、171 戸(58.9%)の進捗状況となっており 7、地理的に近接しているにもか
かわらず、気仙沼市が工事の進捗について遅れをとっていることが分かる。
2-3.気仙沼市の災害公営住宅の状況
7
「災害公営住宅」,大船渡市ホームページ
http://www.city.ofunato.iwate.jp/www/contents/1354773607803/
10
日
気仙沼市の災害公営住宅の整備状況は以下のとおりである(平成 27 年 10 月末時点)8。多くの
住宅で入居が未だ実現しておらず、大半が入居済みである大船渡市と比較すると 9、その遅れが
うかがえる。
(1)市街地部
No.
地
区
名
鹿折地区
1
棟数
8
階数
4~5
整備戸数 入居予定
284
進捗状況
H28.8
1工区:躯体工事中
H28.10
2工区:基礎工事中
H28.12
3工区:地盤調査中
H28.11
気仙沼内湾(入沢)地区
4
2~5
道路拡幅工事中
61
2
H29.4
気仙沼内湾(魚町)地区
1
4
15
気仙沼内湾
3
(南町)地区
2
4~6
H28.8
基礎工事中
H28.7
一丁目:基礎工事着手
H28.11
二丁目:整地工事中
H28.5
躯体工事中
60
気仙沼内湾
4
(八日町)地区
気仙沼駅前地区
5
1
4
11
H28.10
2
12~13
194
H29.5
四反田地区
6
(幸町)地区
10
70
H27.9
完成・入居開始
4
5~7
176
H28.3
内外装工事中
2
9
144
H28.9
躯体工事中
南気仙沼
8
(内の脇)地区
南郷地区
9
H27.1
3
6~10
先工区:完成・入居開始
165
H27.3
8
後工区:整地工事中
1
南気仙沼
7
先工区:躯体工事中
「災害公営住宅整備事業 各地区の工事進捗状況」気仙沼市ホームページ
http://www.city.kesennuma.lg.jp/www/contents/1421836203441/
9 「災害公営住宅」,大船渡市ホームページ
http://www.city.ofunato.iwate.jp/www/contents/1354773607803/
11
後工区:完成・入居開始
舘山地区
10
2
3
30
H27.10
完成・入居開始
H28.3
九条地区
11
1
5
測量作業中
30
H28.8
赤岩五駄鱈地区
12
2
切通地区
13
3
6
21
3
72
市街地部合計
H27.7
完成・入居開始
H28.3
A・C工区:内装工事中
H28.4
B工区:内装・躯体工事中
H28.6
D工区:内装・基礎工事中
1,333
(2)郊外部
郊外部における災害公営住宅の整備状況は以下のとおりである。
整備戸数
地
No.
区
名
戸建
長屋
合計
入居予定
進捗状況
14
大沢地区
26
2
28
H27.8
完成・入居開始
15
只越地区
11
0
11
H27.8
完成・入居開始
16
宿(明戸)地区
14
3
17
H29.1
硬岩処理・切土工事中
0
14
14
H28.9
測量作業中
宿(旧唐桑小)地
17
区
18
鮪立地区
9
0
9
H28.9
宅盤整形・排水構造物工事中
19
小鯖地区
17
0
17
H28.3
建築工事中
20
大浦地区
18
0
18
H28.5
建築工事中
H28.12
水道工事中
H29.3
下水道工事中
H29.3
切土・表土剥取工事中
牧沢地区(1工
区)
牧沢地区(2工
21
区)
165
102
267
牧沢地区(3工
区)
12
22
面瀬地区
51
76
127
階上地区
H27.3
(1工区・浜,七
H27.7
半沢)
23
階上地区
H28.11
排水構造物・下水道工事中
長磯浜:完成・入居開始
七半沢:完成・入居開始
H27.10
87
19
106
H28.6
排水構造物工事中
(2工区・下原)
階上地区
H28.9
水路工事中
(3工区・前林)
24
大島地区
35
4
39
H28.2
建築・地区外水路工事中
25
大谷地区
67
5
72
H28.7
排水構造物・擁壁工事中
26
山谷地区
11
2
13
H28.7
排水構造物・擁壁工事中
H28.4
建築工事中
H28.1
建築工事中
H27.8
完成・入居開始
津谷地区
(1工区・津谷
街)
27
津谷地区
20
11
31
(2工区・津谷下
町)
28
小泉地区
郊外部合計
16
21
37
806
13
3. 既に完成している災害公営住宅について(視察報告)
2015 年 10 月、ヒューマンライツ・ナウ震災プロジェクトチームは、現地支援者の案内の
もと、下記の 2 つの災害公営住宅を訪問・視察した。
1:只越住宅
唐桑町堂角45番地8
2:南郷住宅
気仙沼市南郷25番1
3-1.
只越住宅
視察日時:2015 年 10 月4日(日)午後2時〜4時
調査者
(1)
:伊藤事務局長、吉田会員、池田会員、長瀬会員
只越住宅の状況
2015 年 10 月ヒューマンライツ・ナウ震災プロジェクトチームは、現地支援者の案内のも
と、東洋経済の岡田記者、気仙沼市の今川市議とともに、災害公営住宅の現状調査のため、只
越災害公営住宅を訪問した。お住まいの住民の許可をいただいた上で、住宅内・周辺の様子を
案内していただくとともに、災害公営住宅の具体的な問題点を指摘していただいた。
(2) 只越住宅周辺の様子
只越住宅には22~23世帯が所在しており、閑静な住宅街という印象であった。住民の方の
お話によれば、市への要望により、元々同じ地区で生活していた方々が集団で仮設住宅から引っ
越すことができ、この只越住宅で生活している。なお住民の方の中には、土地だけを借り、建物
は自己負担で建築されている方もいるため、災害公営住宅と自費で建築された住宅とが混在して
いる。
14
(3) 住民から指摘された問題点 1 : 雨樋の機能不全 10
災害公営住宅の問題点の一つとして、雨樋の機能不全が挙げられる。村上氏・住民の方の説
明によれば、屋根と雨樋とが密着しすぎており、強めの雨が降った際、雨樋に雨が流れず、屋
根からそのまま地面へ流れ落ちてしまうという。そのため、屋根の下の地面が屋根から流れ落
ちる雨によってえぐられてしまい、住民の方が自らの費用でシート等を購入し、落ちる箇所の
地面が削れないように対策を立てているとのことであった。
(4) 指摘された問題点 2 : 扉の開閉不具合
また、別の問題点として、物置部屋の扉が完全に閉まらないと言う点も指摘された。なお、
この物置は、住宅の外に取り付けられているため、部屋の中から行き来できないという問題も
抱えている。
10
本調査後、多少改善された。
15
(5) 指摘された問題点 3 :U字型排水溝
さらに、第三の問題点として指摘された点が、住宅の周囲を囲むU字型排水溝である。この
U字型排水溝は、大人が一またぎする必要があるほどの幅、脛まで入るほどの深さがあるた
め、怪我をする可能性がある。また、只越住宅には街灯が少ないため、夜間であれば気がつか
ずに排水溝に落ち込んでしまう危険性が高くなる。
そのため、住民の一人は、視界の悪い夜間や冬に自動車が排水溝に落ちないよう、自己負担
でブロックを購入し、排水溝の前に置いて脱輪を防止している。
(6) 指摘された問題点 4 : 敷き詰められた砂の質
第 4 の問題点として、住宅周辺に敷き詰められた砂の質の問題が指摘された
住民の方への聴き取りによれば、本来、この砂は住宅に使用されるような質の砂ではないた
め、風が強い日には砂が吹き荒れ人の目に入ってしまい、子どもを外で遊ばせることもできな
いという。
そのため、住民の一部は、風で飛ばないような、もっと目の粗い砂利を持ってきてくれるよ
う市に対して要請し、その砂利を砂の上に撒いて対策を取っている方もいた。市は、砂利を地
区の隅に運搬することまでしかせず、個別の住宅に砂利を撒いてくれることまではしなかった
ため、実際に砂利を敷き詰める作業は希望する住民が自ら行う必要があった。
16
(7) 指摘された問題点 5 :放置された「公園」
只越住宅の土地の一部は、住民が公園として利用できるよう、あえて手つかずにされている。
下記写真のとおり、特に市が手入れをしているわけではないため、雑草が生い茂ってしまって
いる。住宅の裏手に位置する広い公園は、一切手入れが為されないまま放置されていたため、
当初植えられていた芝生も枯れ、雑草がベンチを覆い尽くすほどに生い茂ってしまっている。
公園の隅は覆いのないU字型排水溝があり、雑草は大人の脛ほどの高さまで生えているた
め、このまま放置してしまうと、排水溝に気がつかずに転倒する事故が起きることも懸念され
る。
(8) 指摘された問題点 6 :手入れ不十分なまま放置された土手
上記公園と同様、住宅の一角に所在する土手に対する手入れも十分にはなされていない。
住民の方からの聴き取りによれば、雑木林は私有地だが、土手はあくまで市の土地であり、
市の職員が刈ってくれたのは土手のごく一部にすぎなかったとのことである。
また、その他の部分については住民が自分たちで手入れして良いと言われたとのことだが、
土手は急な傾斜地であり、住民が自ら手入れすることは現実的には困難と思われる。
17
3-2.
南郷住宅
視察日時:2015 年 10 月 4 日(日)午後 4 時 20 分〜午後 5 時
調査者:伊藤事務局長、吉田会員、池田会員、長瀬会員
(1) 南郷住宅の状況
只越住宅に続いて、現地支援者のご案内のもと、東洋経済の岡田記者とともに南郷災害公営
住宅を訪問した。南郷住宅では住民の方にアポイントを取っていなかったため、外部から問題
の箇所を確認するにとどめた。
(2)
南郷住宅の様子
只越住宅と異なり、南郷住宅はマンションタイプの災害公営住宅である。資料 11によれば、間
取りは1LDK~3LDKまであり、全部で75戸とされている。
11
「気仙沼市南郷地区(1 期)災害公営住宅 完成資料」,宮城県ホームページ
http://www.pref.miyagi.jp/uploaded/attachment/307165.pdf
18
(3)
公共スペースの畳のカビ 12
現地支援者のご案内のもと、南郷コミュニティセンターの一室の畳を確認した。現在は畳の
裏はビニールで補強されているが、以前は入居直後だったにもかかわらず、畳の裏がかびてい
たという。原因としては、床板のはめ方が雑であり、隙間が出来てしまったことが考えられ
る。
(4)
2階ベランダの板のずれ
次に、2階ベランダに案内していただいたところ、一見して明らかにベランダ床板が大きく
歪んで取り付けられていることが確認できた。大人が歩いても揺れたりはしないが、造りが荒
いことの証左といえる。
12
本調査後、ある程度改善された。
19
4.気仙沼市の災害公営住宅をめぐる課題
4-1.今川市議会議員から見た気仙沼市の災害公営住宅の課題
2015 年 10 月 4 日、気仙沼市の今川悟市議会議員にインタビューを行った。
今川市議は、気仙沼の市議会議員として、東日本大震災、特に災害復興に強い関心を持ち、
活動を継続している 13。
今川市議の指摘する、気仙沼市の災害公営住宅の問題点は、以下のとおりである。
(1)家賃の高額化
第 1 に、災害公営住宅入居後、家賃低減化事業の対象になっている低所得世帯について
は、6 年目以降、家賃が段階的に引き上げられるという問題がある。被災者によっては、いま
だに被災状況から復旧していないにもかかわらず家賃の高額化に直面してしまうという事態が
起こりうる。
一方、収入超過者については、災害公営住宅入居 4 年目以降に家賃が高くなることを知り、
災害公営住宅を選択せずに最初から民間アパート等を選択し、特に気仙沼市以外の都市部の住
居に移動してしまうケースも見受けられるという。
これに対する対応策として、気仙沼市の場合、家賃相場を予め示して、実際の災害公営住宅
と対照することができるようにしている。
(2)空き家問題
第 2 に、災害公営住宅に空き家が生じてしまうという問題がある。家賃の高額化等に伴い、
災害公営住宅に空き家が発生した場合、最終的には、他の公営住宅と同様に、低所得者などに
貸し出される。しかしながら、災害公営住宅は新築であるため、既存の老朽化の進む公営住宅
と比較すると、災害公営住宅の家賃が高くなり、低所得者の入居が困難となるおそれがある。
(3)資産状況と家賃が比例していない
第 3 に、災害公営住宅では、入居に当たり、資産の多寡を調査しないことになっている。そ
のため、たとえば、共働きの働き盛りで子沢山という世帯が 55 平米の災害公営住宅に入居し
て、高齢者で、年金のみの収入だが、資産は保有しているという世帯が 80 平米に居住している
という事態が起こりうる。
この場合、働き盛りの世帯は、特に災害公営住宅の家賃が高額化した場合、災害公営住宅か
ら退出してしまう事態を発生させる懸念がある。
関連する問題として、二重ローン問題も、国の制度はあるものの、気仙沼市のような地縁血
縁の濃い場所では、実際にはほとんど利用されていない。債務者の近い血縁者が連帯保証人に
なっている場合が多い。しかしながら、二重ローンとして処理することに伴い、連帯保証人へ
13
その活動状況については、今川市議のホームページが詳しい。http://imakawa.net/
20
の請求を忌避して、連帯保証人に迷惑をかけないよう、二重ローンをそのまま負いつつづける
場合が多いという。
また、二重ローンを負っていることは、政令月収には反映されない。
(4)賃貸家賃の高額化
関連して、第 4 に、民間の家賃も高額化するという問題がある。
東日本大震災に伴って、比較的古くて、家賃が廉価のアパートの方が、津波で流されてしま
った一方で、震災後に建築された新しいアパートは家賃が高くなる。したがって、支援制度を
充実させないと、働き盛り世帯が気仙沼市を出て行ってしまうという事態が予測される。
関連して、比較的高収入の被災者は、災害公営住宅の払い下げを希望する場合が多い 14。
気仙沼市では、特別会計にして、より柔軟な制度の運用ができるよう検討が行われている。
住宅対策に使えるようにしたい。
(5)未定世帯問題
第 5 に、気仙沼市の仮設住宅、みなし仮設住宅で居住している世帯に、将来の展望をアンケ
ートしたところ、100 世帯余りが「未定」となっている。
気仙沼市の場合は、学校の校庭を使用しているため、できるだけ早く校庭の仮設住宅をやめ
たいと考えている。他方で、被災者の居住先を確保する必要がある。
なお、阪神淡路の教訓を活かしたいと考えているものの、阪神淡路大震災は都市部で起きた
災害であるのに対し、東日本大震災は気仙沼のような非都市部なので、参考にならない部分も
あるという。
4-2. その他の課題
(1) 家賃の漸増に伴う退去
今川市議のご指摘どおり、災害公営住宅の家賃の高額化に伴い、住民が住宅を退去し、市外
へ移住することを余儀なくされるという問題が想定される。
ア)
公営住宅の家賃の算出方法
公営住宅の家賃は、次の算式で算出される。①入居者候補の世帯のうち、収入のある人の
所得を合計した総所得金額から、②法定の控除額(同居の親族の数、障碍者の数等により算
出される。)を控除した額を 12 で除する(この金額を政令月収という。)。この政令月収と間
取りにより予め定められた表に基づき、公営住宅の家賃が定められる。
イ)
14
災害公営住宅の家賃の算出方法
気仙沼復興レポート⑥ http://imakawa.net/report/359.html
21
災害公営住宅についても、基本的に、通常の公営住宅と同様の方法により、家賃の額が
算出される。
ウ)
低減措置
東日本大震災の被災者に対する特例措置として、政令月収 8 万円以下の場合には、通常の
公営住宅よりも家賃額を低額にする措置が採られている 15。
エ)
今後の家賃額の見込み
災害公営住宅では、収入超過者(3 年以上入居し、政令月収が 158000 円を超える世帯)の家
賃は、その収入によって、時の経過とともに、漸増することが見込まれる。例えば、以下の
図 16に基づくと、政令月収が 18 万円の世帯は区分「Ⅴ」に該当するので、気仙沼地区の 65
㎡タイプの集合住宅の場合、最初の 3 年間は月 4 万 1000 円程度の家賃であるにもかかわら
ず、4 年目は 6 万 2000 円程度になり、段階的に 15 万円程度まで引き上げられる。
15
岩手県県土整備部建築住宅課,「県営の災害公営住宅等に係る募集等の取り扱いについて」,岩手県ホ
ームページ
http://www.pref.iwate.jp/dbps_data/_material_/_files/000/000/004/745/20130527_2.pdf
「公営住宅の家賃について」,宮城県ホームページ
http://www.pref.miyagi.jp/uploaded/attachment/108939.pdf
「復興交付金基幹事業」,復興庁ホームページ
http://www.reconstruction.go.jp/topics/120405gaiyou.pdf
16 「気仙沼市災害公営住宅入居仮申込のご案内」,気仙沼市ホームページ
http://www.city.kesennuma.lg.jp/www/contents/1376358203775/files/006.pdf
22
オ)
今後の課題
このような災害公営住宅の家賃の漸増により、家賃を支払えなくなる被災者が、災害公営住
宅から退去せざるを得なくなる可能性がある。東日本大震災の被害の大きさや災害復興の進捗
の状況に照らすと、多くの被災者がこのような厳しい選択を迫られる事態が予想され、必ずし
も被災者の適切な支援とはいえず、さらなる住宅支援策を検討していく必要がある。
5.
仮設住宅に残されている人たちへの聞き取り調査
2016 年 3 月、ヒューマンライツ・ナウ震災プロジェクトチームは、現地支援者の案内のも
と、仮設住宅に残されている人たち、また現地支援者へのヒアリングを実施した。
5.1
仮設 A
この仮説住宅では、70歳の女性2名および、現地支援者(50代男性 1 名)からのヒアリ
ングを行った。このうち、一人の女性は、災害公営住宅の入居が決まっており、秋には入居の
見通しとされている。しかし、この女性が十分に震災復興のためのサポートを行政から得られ
ている状況ではない。女性はまだ弔慰金の支給を受けていないと訴え、「どのような手続きを
したらいいのか、いくらもらえるのか、まだもらえるのか全く分からない」と述べていた。
もう一人の女性は、津波で住宅が半壊したものの、震災から数か月したころ、行政に相談
したところ、「リフォームして住んでよい」と言われ、長引く避難生活から解放されて家で落
ち着きたいと考え、多額の金員をかけてリフォームを行い、自宅に居住した。しかしその後都
市計画が変更となり、自宅は立ち退きの対象となり、仮設住宅への移転を余儀なくされた。立
ち退きに伴い、補償金が支払われる結果となったが、その結果、「災害公営住宅に入居する資
格を失った」と言われ、入居を申請することができなかった。なぜ災害公営住宅に入居する資
格がなくなったのか、については、明確に納得いくかたちでの説明を受けていない模様であっ
たが、とにかく諦めてしまったという。そのため、気仙沼を離れて新たな土地で生活すること
を決意したという。
この女性および現地支援者によれば、行政からいろいろと難しい条件を示された結果とし
て、災害公営住宅の入居を断念する仮設住宅生活者は少なくないという。「保証人がいなけれ
ば入居の申請が原則としてできない」と役所に言われ、例外があるのか、それはどういう場合
なのかについて丁寧な説明もされず、諦めてしまっている例がいくつも見られるという。
現地支援者によれば、保証人について行政が厳格になっているのは、既に災害公営住宅に
おいて家賃滞納が始まっていることが大きいという。災害公営住宅において家賃滞納が始まっ
ているという実情は明らかな貧困を意味するものである可能性が高く、生活保護等の支援が本
来望ましいはずである。
23
しかし、気仙沼においては生活保護を進んで奨励する行政の姿勢や対応は見られず、むし
ろ生活保護に対するハードルを強調し、生活保護を断念させる場合が見受けられる。
車を所有している、津波で家が流されたとしても土地がある、という場合、自動車、不動
産の保有を理由に「生活保護は認められない」と断られるケースもあるため、生活保護は難し
いと諦め、申請にたどり着かない人が多いという。そのため生活保護申請等は進んでいない。
日弁連が公表した生活保護申請に関わるガイドライン 17では、「持ち家がある」「車があ
る」という場合でも生活保護が認められる事例が紹介されている。しかし、こうした情報は知
らなかったということであり、十分に仮設住宅等に居住する被災者や支援者の方々に行き渡っ
ている状況にないようであった。また、仮に自動車や不動産を保有していても生活保護申請が
認められるケースはあるという事例がわかったとしても、申請に同行して支援してくれる人が
いない限り、行政の窓口で太刀打ちできない等の指摘がされた。
5.2
仮設
この仮説住宅は、気仙沼市の仮設住宅整理縮小の対象となり、秋には別の仮設への転居が
予定されている。この仮設住宅においては、90 代の独居生活の女性の話をうかがった。
この女性は高齢者に対するケアの体制がない災害公営住宅への転居に不安を抱えており、
老人ホーム等の施設への入居を何度となく申し込んでいるものの、認められないまま今日に至
っており、現在の仮設にやむなく残って生活しているものの、仮設の整理に伴い現在の仮設か
らも明渡し、次の仮設住宅にいかなくてはならないことに対し不安を表明した。
この女性は血圧が高く、様々な投薬を受けているが、「毎日、風呂場等に行く際には恐怖
を感じる」(突然発作等で死ぬのではないかと恐怖を感じるという趣旨)と訴えた。
老人ホーム等の施設に入居できるまで生き延びられるという希望が持ちにくい状態に置か
れている。
こうした問題を解決する仕組みが行政には乏しい。行政の担当者が定期的に訪問し、丁寧
に話を聞いており、担当者に悪気はないものの、かといって権限もないため、話を聞いてくれ
るだけで、何か問題を解決してくれるわけではないという。
5.3
気仙沼市の対応
気仙沼市では、福祉施設連携モデル型の県営災害公営住宅を建設する計画を進めて
きたとされる。
また、気仙沼市内では、高齢者向けのデイサービス施設や集会スペースの入った災害公営住
宅の建築を住民が市に要請している地区もあるとされる 18。
17
http://www.nichibenren.or.jp/library/ja/publication/booklet/data/seikatsuhogo_qa_pam_150109.pdf
18
木下 繁喜 「東日本大震災被災と復興と:岩手県気仙地域からの報告」,はる書房,2015.3 63p
24
そこで、5.2 の訴えも踏まえ、整備状況を確認したところ、鹿折の災害公営住宅にお
いて、福祉センターを設置したり、集会施設を併設する等を進めている最中であるとい
う。
また、集合住宅タイプの災害公営住宅には、高齢者相談所を設置したり、高齢者見守
り型の配置設計にする(水回りを玄関近くにすることにより、動向確認をしやすくする)、
社会福祉協議会や NPO と連携して、ライフサポートアドバイザー(LSA)19による訪問見
回りを行う等の対応を進めようとしているという。 20
ただし、高齢者住宅的な災害公営住宅の建設は検討しておらず、予算申請すれば認
められないわけでもないものの、災害公営住宅を今後一般にも活用したいという観点か
らいえば、用途が制限され悩ましいとの指摘があった。 21
今後、仮設の整理縮小という事態を迎え、被災高齢者に関してはさらに意向確認を
進め、適切な場所にできるだけ早く転居して落ち着いていただく方向で調整していると
の回答であった。
仮設住宅を取り巻く状況
6
以上の聞き取り結果を踏まえ、気仙沼市以外の仮設住宅にも共通する課題を検討する。
6.1
被災者の住宅に関する不安
真相報道バンキシャ!2015「被災地 1000 人の声スペシャル」のアンケート結果によれば、
2015 年、被災者は、住宅に関して最も大きな不安を抱いている。これは、2014 年のアンケー
ト結果と同じであり、被災者の住宅に対する不安が、引き続き大きいことが示されている 22。特
に気仙沼市は、2015 年 6 月、市内に建設する災害公営住宅で、用地の造成や資材確保が難航
し、全体の 4 割の戸数に当たる 18 地区 913 戸で入居時期が 1~10 カ月遅れると発表してお
り、現にほとんどの住宅の入居予定時期が 2-3 で指摘のとおり他市町村とも比較して遅く、
2016 年以降となっていることから、さらに住民の不安が増しているといえる 23。
6.2
災害公営住宅の不足
災害公営住宅の数が不足しているという問題がある 24。平成 25 年度の災害公営住宅仮申込み
受付状況によると、1998 戸に対し約 2200 件の申込があり、約 1 割の超過が報告されている
生活援助員 http://www.koujuuzai.or.jp/useful_info/lsa/
http://www.city.kesennuma.lg.jp/www/contents/1392283066409/files/250111iinkai_06.pdf
21 2016 年 4 月 8 日、気仙沼市への聞き取り。
22 「被災地 1000 人の声スペシャル」,日テレ真相報道バンキシャ!
http://www.ntv.co.jp/bankisha/voice/index.html
23 「<災害公営住宅> 気仙沼最大 913 戸入居遅れ」,河北新報(2015 年 6 月 13 日)
24 もっとも、災害公営住宅建設は、2015 年に工事完成のピークを迎えるため、客観的データを取ることが難
しい。前掲 http://www.jhf.go.jp/files/300127329.pdf
25
19
20
25
。そして、阪神・淡路大震災の被災者に対して提供された災害公営住宅の例から推測すると、
そのまま仮設住宅にとどまる事態が予測される。
6.3
保証人
公営住宅においても、入居に当たり、被災者は、通常、保証人を付することが求められるこ
とも被災者にとって負担となるものである。
もっとも、東日本大震災の場合には、復興庁や国土交通省は、一定の配慮を要請している。
すなわち、公営住宅が住宅に困窮する低額所得者の居住の安定を図ることをその役割としてい
ることを踏まえ、入居者の努力にかかわらず保証人がみつからない場合には、保証人の免除な
どの配慮を行う旨助言しているとされる 26。しかし、5 に記載した通り、十分に被災者にこの情
報は行き渡っていない。
6.4
災害公営住宅売却の可否
復興庁によれば、入居者は、耐用年数の四分の一を経過すると、災害公営住宅を売却可能とな
る。もっとも、東日本大震災に関しては耐用年数の六分の一でよいとされている 27。
ただし、売却価格は売却時の時価で決まるため、復興庁は、実態として中古の災害公営住宅
を買うよりも、自分の家を建ててしまったほうがよいと説明している。長期的な視点で災害公営
住宅に居住することは困難となれば、再び新しい地へと移動することを余儀なくされ、新たなコ
ミュニティを再形成しなければならないという点で被災者に重い負担がのしかかるといえる。
6.5
コミュニティの喪失
NHK が 2015 年 3 月 12 日に放送した「東日本大震災 4 年
災害公営住宅への転居
新たな課
題」 28によれば、仮設住宅から災害公営住宅への転居により、避難生活が終わったとみなされる
という。しかしながら、災害公営住宅への入居後もなお、慣れない環境・コミュニティの不在に
より、入居者の精神状態が不安定になるという課題が指摘されている。
最悪の場合には、孤独死するケースも相次いでいる。特に、被災三県(岩手、宮城、福島)の
高齢化率は 36%にも上り 29、その危惧は大きい。
実際に、阪神・淡路大震災の被災者では、元の居住地に関係なく災害復興住宅に移された結
果、隣近所のつながりが薄れ、孤独死が増えたと指摘されている。 30
加えて新潟県中越地震の際も同様の問題が指摘されている 31。これらの問題には、地方自治体
25
気仙沼市建設部災害公営住宅整備課,「災害公営住宅仮申込み受付状況」,気仙沼市ホームページ,
http://www.city.kesennuma.lg.jp/www/contents/1384407933248/files/250809iinkai_03.pdf
26 「災害公営住宅の入居に際しての保証人の取り扱いについて」,復興庁ホームページ
http://www.reconstruction.go.jp/topics/m15/09/20150915kishahapyo_jutakuhoshouninn.pdf
27 岩手県建土整備部建築住宅課住宅課長 勝又賢人「岩手県の住宅復興に向けた取組みと今後の復興」,
住宅支援機構ホームページ http://www.jhf.go.jp/files/300127329.pdf
28 http://www.nhk.or.jp/ohayou/marugoto/2015/03/0312.html
29 毎日新聞 2015 年 3 月 1 日 東京朝刊
30 神戸都市問題研究所,「生活復興の理論と実践」,都市政策論集第 19 集,勁草書房,1999 年 233p
31 石川永子,「中山間地域を含む地方都市における復興公営住宅の地域との関係性に関する研究」
,地域安全学会梗概集 No.26,2010.6 1,2p
26
による婦人会、老人クラブ、ふれあいのまちづくり協議会等によって住民相互の親睦を深めるコ
ミュニティ作りの支援や、ボランティアによる見守り活動により対応されている。
一方、新潟県中越地震の際に、コミュニティ作りのために意識的にコミュニケーションをと
るために、災害公営住宅に共用空間として居住者の交流を目的とした集会室の要望がなされた地
区もあるが、必ずしも希望通りに設けられたわけではなく、災害公営住宅内ではなく周辺地域と
の交流をはかってほしいとの趣旨で交流の場を作られなかったという事例もある。
阪神・淡路大震災および新潟県中越地震でなされた取り組みを参考に、コミュニティづくり
および周辺地域との交流の支援活動を促進することが求められる。
6.6
被災高齢者への対応
5 での仮設住宅の独居高齢女性の訴えのように、被災高齢者へのきめ細かな対応が十分にな
されているか、懸念の残るケースも報告されている。
前述のとおり、東日本大震災後、気仙沼市で高齢者向けのデイサービス施設や集会スペース
の入った災害公営住宅の建築を住民が市に要請している地区もあるとされる。 32行政もこれに応
えて対応を進めているものとみられるが、被災高齢者の不安、懸念に十分に沿ったかたちになっ
ているかといえぎ未だ課題は残されている。
被災高齢者をめぐる課題は、すべての被災地に共通する課題である。被災高齢者も今後さら
に加齢が進んでいくことから、福祉的側面の強い居住スペースの整備やサポート体制の確保が求
められている。
6.7
医療費をめぐる課題
国民健康保険に関して、被災地では免除措置がとられてきたが、今後これを打ち切る自治体
が増えていくと予測されている。ただでさえ、仮設住宅や災害公営住宅の中には不便な場所が多
く、交通費をかけて通院せざるを得ない被災高齢者が多い中、さらに医療費負担が増えることと
なれば、さらに、受診控えが進み、独居老人の健康悪化や災害関連死等も進む危険性が高いこと
が懸念される。
6.8
訪問支援員、LSA 等の役割強化、課題解決までのサポートについて
今回の調査を通じても、訪問支援員や LSA 等の活動を気仙沼市が推進している実情は把握
できたが、それぞれの担当者の権限が限られているため、見守り、訪問、安否確認等はできるも
のの、それぞれの被災者が抱える切実な問題を迅速に解決する体制とはなっていないことが見受
けられる。
この点では、こうした訪問支援員、生活援助員の役割を強化し、課題解決型に変えていく
必要がある。この点では、大阪府の社会福祉協議会による、「生活困窮者レスキュー事業」が参
考にされるべきである。 33
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この事業では、「行って、見て状況を把握する」にとどまらず、「適
木下 繁喜 「東日本大震災被災と復興と:岩手県気仙地域からの報告」,はる書房,2015.3 63p
http://www.misasagikai.or.jp/wp/wp-content/themes/original/img/phil/kouken.pdf
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用できる既存制度がないか検討する」そのうえで、「制度につなぐ」または「経済的援助を検討
する」、さらにそうした解決施策の適用後も「継続して見守る」という一貫した課題解決型のイ
ニシアティブが、担当者にゆだねられており、確実に行政の福祉等サービスにつなぎ、生活困窮
等の問題を解決する仕組みとなっている。
被災者、特に高齢者が問題を抱え、解決が困難なまま行き詰ることが今後も懸念される中、
同様の支援体制の確立が求められる。
6.8 阪神淡路大震災の教訓を踏まえて
東日本大震災後の災害公営住宅の課題を検討するに当たり、前例である阪神・淡路大震災の
後の公営住宅の問題点から示唆を得ることが出来る 34。
そのような示唆として、例えば、①低所得者・高齢者中心に、高額の家賃に耐えられない人た
ちの住居が破壊され、新たな住居が必要となった場合があること、②災害の後は復興需要も高ま
るため、低所得者は以前にも増して住宅に困窮するようになること、③災害公営住宅の戸数に限
りがあるために、
「仮設入居者優先枠」
(これは公営住宅との違い)
「抽選方式」が採られ、かえっ
て不平等を生み出していること、④自分で住居を決められないために、避難生活も長期化し、避
難所の撤去が進まず、復興が遅れるという事態が生じたことなどが挙げられている。
こうした問題は確実に回避されなければならない。
5.おわりに
以上のとおり、本報告書では、東日本大震災後の復興公営住宅に関する現状と課題を報告し
た。
10 月の現地視察では、民の方から問題とされる災害公営住宅の様子について、住民
の方から聴き取りを行うとともに、確認することが出来た。
たしかに災害公営住宅の造りや管理については問題がないわけではなく、生活される
住民の方に対して完全な満足をもたらしているとは言いがたく、不便であると言える。
また、無償で生活できた仮設住宅と異なり、災害公営住宅については、(収入によって
は一定年度の減額措置があるとはいえ)住民が自ら家賃を支払って入居していることも
考慮しなければならない。有償で居住しているにもかかわらず、完全に満足のいく住環
境が提供されていないことは問題と言える。しかし、気仙沼市も、仮設住宅での経験を
踏まえて対策を取っており、今回調査を行った災害公営住宅についても防寒対策を施す
といった対応を進めており、さらに、住民要望に応えて砂が飛ばないよう砂利石を用意
する、街頭を設置する等、住民の声を反映させた対応もなされている。
34下村明弘「住宅復興政策の経済的効果とその課題―公営住宅の評価を中心に―」国際協力論集第
3 号 59 頁 http://www.research.kobe-u.ac.jp/gsics-publication/jics/shimomura_5-3.pdf
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5 巻第
今後も現地の方々との連絡を密に取り、災害公営住宅の住環境が改善されているか、
人権の観点から問題のある状況へと後退していかないかを定期的にモニタリングしてい
くことが大切と思われる。
他方、未だ仮設住宅に入居できていない住民の生活は今も厳しいものである。ただし、仮設
住宅から災害公営住宅に移るのを躊躇する傾向として、仮設住宅で築いた絆の崩壊と孤立への
不安、新たなコミュニティの喪失、家賃が将来的に高額となることに対する将来不安、高齢者
にとっての災害公営住宅によるケアの後退への懸念等の問題がある。こうした懸念があるた
め、住環境のより悪い仮設住宅から移る決断ができない災害弱者の実情をくみ取った対応が認
められている。とくに、今後に向けて以下の改善が求められる。
・災害公営住宅の建設を急ぎ、人間らしい居住をすべての被災者に速やかに確保すること
・災害公営住宅の家賃が高額となることを恐れて、入居できない人々が少なくないことを踏
まえ、家賃に関しては、十分な軽減が図られるようにすること
・被災高齢者への十分な対応を図り、被災高齢者に対する医療的・福祉的支援を今後も継続
すること。被災高齢者にニーズに十分に配慮した災害公営住宅の建設およびサービスの充実、
相談・情報提供活動に努めていくこと
・被災者、特に被災高齢者の孤立を防ぐために、コミュニティづくりおよび周辺地域との交
流の支援活動を促進すること
・生活困窮者への生活保護申請や被災高齢者の切実な問題等に対応するため、その他の課題
に対応するため、訪問支援員、生活援助員の機能を強化し、課題解決型のものとしていくこと
東日本大震災から 5 年を経て、人間の復興への道はまだ半ばであり、被災者の疲労も蓄積さ
れている。自治体の対応には被災者に寄り添った前進も見られる一方、課題もあり、また、震
災からの時の経過に応じた支援の後退等のリスクも懸念されるところである。
今後も、被災者の現実を十分に把握し、寄り添い、よりよい被災者への支援を政府および自
治体に期待、要請するものである
以
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上