脱・都会! 地方に移住した若者たち 東京→岡山県真庭市 こ や の 小谷野智恵さんの場合 Part2 総務企画部 広報・情報システム室 TEL 082-224-5618 このコーナーでは、東京や大阪などの都会から、地方に移住し、充実した生活を送って おられる方をご紹介します。 連載第5回は、東京都から岡山県真庭市の勝山にIターンされ、カフェ「かぴばらこー ひー」を営む小谷野智恵さんにお話を伺いました。 小谷野さんは、生まれは北海道旭川市。ご両 親の仕事の関係で埼玉に移り住んでから、ご 結婚後、東京都に住まいを構えました。 ところが、東日本大震災をきっかけとして、 昔から考えていた自分のカフェを立ち上げた いという思いが膨らみ、これまで全く縁のな かった勝山への移住を思い立ちました。 そして今、町並み保存地区の古民家に小さな お店と、バリ舞踊の教室を開かれています。 今回は、特色であるもう一つの生業、バリ舞 踊教室や、開店までのご苦労について語って 左が小谷野さん 頂きます。 Part1 を読まれていない方は、旬レポ中国地域5月号「小谷野智恵さんの場合 Part1」 をごらんください。 店の中はバリ島の雰囲気 --事業内容を教えてください。 事業としては、カフェがメインです。しかし、ライフワークとしてバリとのつながりは外せません。バリ舞踊教 室を勝山で週に1回、岡山市内でも定休日の夜、月に2回講座を開いています。ここは元々、通 り側がクリーニング店で、奥は古民家(その昔はこちらでもクリーニング店を営んでいた)だったのですが、 旬レポ中国地域 2016 年 6 月号 1 町並み保存区沿いの元クリーニング店を自宅兼スタジオ、奥の旭川沿いの古民家をカフェとして使 用しています。 --この家はどなたが紹介を? 勝山で知り合った同世代の友人が間を取り 持ってくれました。 私が勝山でコーヒー屋をやろうと決心した時、 「自分の生まれた勝山という町を気に入って くれて、しかも東京から移住しただけでなく、 コーヒー屋を開業してくれることがとても嬉し い」と、この友人が力になってくれたんです。 地方では都会でアパートを探すのとは訳が 中庭から見たカフェの入口 (入江クリーニングの看板が小さくみえます) 違い、知らない人に自分の生まれ育った家を見せることはとても抵抗があると思います。彼の紹介が あったからこそ、この場所にたどり着くことができました。 さらに、勝山ののれんを作っている加納さんや、水道会社の社長さんなど、様々な方が応援してくださ って。ますます勝山が好きになって輪が広がった感じです。困った時に話を聞いてくれたり、自宅の居 間の板張りを手伝ってくれたり、漆喰の塗り方を教わったり、私一人の力では到底無理なことでした。 --店内は別空間です 昔から住まいやインテリアがとても好きだったので、自分の店を作るときは、自分でデザインしたいと思っ ていました。もちろんデザインを業者の方に頼むと費用が掛かるというのもありますが、やっぱりオリジナ ル、ここにしかないものを創りたくて。築 100 年以上の味わいのある古民家ならではの風合いを残し つつ、自分が好きなもの、納得したものを一つ一つ探してパズルのピースのように組み合わせていきま した。自宅もすぐ目の前ですから、大工さんや手伝ってくれる友人と相談しながら毎日一緒に工事す るような感じでした。 --家具はバリのものですか? 家具は全部バリに行って買ってきたものです。 古民家というのは、古い木の味わいがありま す。そこに新しい合板の家具では、この古民 家の味わいが台無しになってしまうと思いまし た。 ですから、チーク材や竹など自然素材を使っ ているものを選んだり、この雰囲気に合う、リ サイクルウッドを使ったアンティークな家具を買 バリの家具でそろった、落ち着いた店内 いました。窓枠やドアなど、建具もアンティーク品をバリで探して買ってきました。季節に応じて模様替 えもしますよ。 旬レポ中国地域 2016 年 6 月号 2 勝山とバリ舞踊 --通りに面してバリ舞踊ダンススタジオ 「Jukung(ジュクン)」の看板がありました カフェの場所は奥の古民家と決めていたのですが、 通り側の元クリーニング店のあった1階部分は、日 中は観光客も歩きますし、お店として利用するなら 良いですが、ゆっくり寛ぐ自宅と考えた時は少し落ち 着かないかなと思いました。 ちょうどその頃、自分のバリ舞踊の練習ができるよう なスペースがないか探していたんです。 それならば、むしろその立地を生かして、ガラス張り にしてスタジオを作ってしまったらいいのではないかと 閃きました。それで通りを歩く方にも、稽古の様子を 見ていただけるオープンなスタジオが完成しました。 ここは自分の稽古場所でもあり、踊りを教える場所 にもなっています。この夏には、こちらのスペースで短 編映画の上映会を開催します。 本場バリ島で踊る小谷野さん (上二つの写真は小谷野さんから頂きました) --バリ舞踊はいつから? バリ舞踊に出会ったのは、大学 4 年生の夏休みです。 本格的に始めたのはスターバックスの店長になった 2003 年からですね。ただし稽古に力を入れられる ことができたのはその後のOL時代でした。スターバックスは、シフト制で勤務時間も休みも不定期で したが、OL時代は就業時間や休みも決まっていたので、東京では就業後や休日に3人の先生に 師事し、週末はレストランやイベントなどで公演をするという、まさに踊りに打ち込む日々でした。年末 年始や GW などまとまった休みの時はバリの師匠の元に通いました。 --なぜここで教室を? 本当は、教室を開こうとずっと踊ってきたわけではありません。私は自分でパフォーマンスするほうが好 きで、先生になりたいと思って始めたわけでもありませんでした。 勝山には東京や大阪と違って、バリ舞踊の先生もいませんし教室もありません。今まで自分が『バリ 舞踊を通して頂いてきたもの』を活かして、これからは自分でやるしかないんだ…と思いました。「踊り で繋がる仲間を増やしたい」、そう思ったんです。 このスタジオをオープンした時、町の皆さんを招待して舞踊劇の公演をしました。私たち夫婦が勝山に 暮らし替えをしてスタジオを開くまでのストーリーを舞踊劇にしたのですが、皆さんとても喜んでくれて。 あの日、ひとつ壁を乗り越えられた気がしました。 旬レポ中国地域 2016 年 6 月号 3 バリ舞踊という自分の持っているモノが、町の方と繋がるきっかけをくれたんです。そのためにバリ舞踊を やってきたのかなという気がして。 自分の店、自分の事業の重み --起業するまでの苦労されたことは? とにかく改装作業が大変でした。起業の準備 のためにじっくり考えないといけない事があるの に改装に手をとられ、オープン前日まで壁を塗 っていました。お金の面は、なぜかわかりません が、何とかなりました。親には借金をしましたけ れども、銀行さんからの融資は受けずに起業す ることができました。 お店で忙しく働かれる小谷野さん --開店されていかがでしたか? 開店した時、「うわ、これは違った」と思いました。やってみないとわからなかったことですが、いくらスター バックスでストアマネージャーの経験があっても、自分の店、自分の事業というのは重みが全然違う。 その重みにとても苦しみました。1年経ってやっと慣れてきましたけど、すべて自分の責任で、自分に 跳ね返ってくる。カフェを始めるという夢に向かってがむしゃらに進んでいましたが、それは事業のスタート でありゴールではありませんでした。そこからが始まりで一日一日、一人一人とのお客様と真剣に向き 合うことでしか目指せないゴールがあります。一生懸命になりすぎて本当にヘトヘトになっていました ね。 --毎日? 月、火、水は休みですが、お店が休みというだけで売上の処理や発注処理、告知や HP の更新など 仕事は山ほどあります。一枚一枚、伝票を台帳に手入力していますが、どんなお客様がきて、どういう 豆をどういう入れ方で飲んだか分かる範囲で入力しています。 そういうことで、こういうお客様とこんな話をしたなとか、一日を振り返るようにしています。一人一人の お客様を大事にしたいなと思いますし、自分の店だと思うと手を抜くことができず、つい 100%以上の ことをしようと力が入ってしまいます。 創業支援 --実は真庭商工会さんから、小谷野さんのお話を伺ったのですが? 商工会とは創業塾に行き始めてからのお付き合いとなります。実はどういうサポートをしてくれるのか知 らなかったので、商工会というものを活用する予定はありませんでした。 ですが、研修していたタルマーリーや、町づくりをしている勝山の方々から「商工会はとても親切にやっ てくれるから行ったほうがいいよ」とアドバイスをもらって、ご挨拶に行ったところ、創業塾や助成金を紹 旬レポ中国地域 2016 年 6 月号 4 介していただきました。今も大変お世話になっています。 --「まにわ創業塾」の卒業生とお聞きしました 創業塾は本当に参加して良かったです。コンセプト作りがとても勉強になりましたし、今でも創業塾で 作成した事業計画を振り返ることがあります。例えば、有りそうで無かったものを狙うこと、個人の仕事 は安さを追いかけようとすると、結局価格競争になってしまうのでライバルの少ないところを狙うこと。ど ういうコンセプトやビジョンで事業を行うのか、とても考えされられた 1 か月でした。それが今でも大変活 きています。 --補助金も活用されていますが、女性の創業を増やす方策はありますか? どのような支援がいいか思いつきませんが、個人で起業するとなったら、明確に自分がどうしたいかを 突き詰めるしかないと思います。そこが十分な人と、イチのイチから支援が必要な人と、支援される側 が二分化しているようにも思います。 私もいつも迷いますが、人からどう言われるかではなく、まず起業した自分を主体にどう考えていくか、 そこをはっきりしないと、たぶん起業は難しいと思います。 小谷野さんにインタビューを、という決め手 は、「まにわ創業塾」で小谷野さんがバリ舞 踊の衣装で発表している写真、そして「入江 クリーニ」という看板?のあるお店の写真 (右写真と同じ構図)です。 写真右側のトンネルのような廊下の奥に隠 れ家みたいなカフェはあります。お店の中は 観光客や地元の方が和やかな雰囲気で楽し んでおられました。 旧クリーニング店の面影を残すお店の入口 小谷野さんが学ばれた「まにわ創業塾」ですが、本年度は5月に開催され、来年度も開 催を計画しているとのことです。真庭市で起業を考えている方は、是非真庭市や真庭商 工会にご相談されてはいかがでしょうか。 次号は、移住や起業を考えている方へのアドバイス、そして小谷野さんの今後について 語って頂きます。お楽しみに。 ◆ 真庭市公式ホームページ:http://www.city.maniwa.lg.jp/webapps/www/top.jsp ◆ 真庭商工会ホームページ:http://www.maniwasci.or.jp/ ◆ 真庭市産業サポートセンター ウェブサイト:http://www.maniwa-sangyo-sc.com/jigyou.html 経済産業省 中国経済産業局 広報誌 旬レポ中国地域 2016 年 6 月号 Copyright 2016 Chugoku Bureau of Economy , Trade and Industry. 5
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