地域パートナーHOT 情報 〔島根県〕 奥出雲の蕎麦 在来種「横田小そば」 ~絶滅危機から復活へ~ 宇山正樹(中小企業課課長補佐) [email protected] TEL 082-224-5661 みなさま、蕎麦(ソバ)はお好きですか? 最近では、趣味として蕎麦打ちを始められる方も多いようですが、私はめっきり食べる 方でのファンです。 蕎麦といえばよく耳にするのが「信州蕎麦」「出雲蕎麦」などですが、蕎麦は痩せた土 壌でも栽培できたことから、北海道から鹿児島まで全国的に蕎麦は生産されているようで す。 しかし、同じ日本の蕎麦でも、産地によって、また地域によって食べ方や食感や味わい はいろいろなようですが、そんな中でひときわ注目を集めている島根県の奥出雲町の蕎麦 「奥出雲蕎麦」をご紹介したいと思います。最近では、この奥出雲蕎麦を食べるためにわ ざわざ県外からも奥出雲町に足を運ばれる方も多くなりました。 本日は、奥出雲の蕎麦にまつわるお話しをご紹介させて頂きます。 まず、奥出雲町ってどんなところかをご紹介します。 島根県、鳥取県、広島県との県境に位置する奥出雲町ですが、中国地域のまさに真ん中 あたりに位置しており、主な産業はやはり農業のほか、伝統的工芸品「雲州そろばん」の 産地であるとともに、日本刀などの刃物に使用される鋼を作る「たたら製鉄」が今でも伝 承されていることで知られているところです。農業の分野では蕎麦の他に有名なモノとし て新潟の魚沼産コシヒカリに匹敵する島根コシヒカリ「仁多米」が知られています。 旬レポ中国地域 2016 年 6 月号 1 このほか、八岐大蛇伝説など、神話の里としても知られています。 色々と羅列しましたが、 「たたら製鉄」と蕎麦生産の歴史には因果関係があるようです。 調べてみたところ、奥出雲町で蕎麦を生産するようになった所以は、古来この地で行われ ていた「たたら製鉄」にありました。 この地で古くから「たたら製鉄」が行われていたわけは、奥出雲町では良質の砂鉄が取 れることと、砂鉄を三日三晩にわたって火で溶かすために必要な木炭資源(森林資源)が 豊富であったことに由来します。 たたら製鉄では、大量の土砂を川に流して砂鉄を選別する「鉄穴(かんな)流し」が行 われ、そのために切り開かれた山の斜面や、木炭を作るために伐採された跡地での焼き畑 によって蕎麦栽培が行われたそうです。そのため蕎麦の実がよく育つという利点があった ようで、江戸時代には幕府に献上されたと言われています。 この奥出雲で生産された蕎麦の在来品種は「横田小そば」と呼ばれ、香りが高く、甘み、 粘りが強い特徴がありますが、蕎麦の実の大きさは他産地の蕎麦に比べると小さく、収量 が低いことなどから、長い歴史の中で自然と収量が多い品種の栽培へと移り変わり、ご当 地の在来種「横田小そば」の栽培は限りなくゼロに近い「絶滅の危機」に瀕していたよう です。 信濃そばの実(左)の粒の大きさ に比較すると横田小そばの実(右) の粒はかなり小さいことが分かり ます。 横田小そばは粒が小さい分、香り が高く甘さと粘りがあります。 そんな中、町をあげた蕎麦による地域興しの動きが生まれ、わずかに保存されていた在 来種の種子を数年かけて種子量を増やす取り組みを重ねて、奥出雲町で幻になりつつあっ た在来種「横田小そば」の蕎麦生産が平成19年に復活されました。 旬レポ中国地域 2016 年 6 月号 2 ← 横田小そばの栽培風景 その後生産量も増え、奥出雲町では地元産蕎麦を使った蕎麦屋が増えてきました。 先日、その中のひとつ「姫のそば ゆかり庵」へ伺って蕎麦を食しましたので、少しご 紹介いたします。 このお店ですが、八岐大蛇伝説でも出てくる櫛稲田姫(くしいなたひめ)を奉った稲田 神社の中にお店があります。 ここで、この神社にまつわる古事記に出てくる神話をご紹介します。 櫛稲田姫は須佐之男命(すさのおのみこと)の武勇伝に華を添える女神です。古事記に 出てくる神話ですが、やんちゃであった須佐之男命は高天原(たかまがはら=天上界)で 天照大神(あまてらすおおみかみ)の怒りに触れて高天原を追われてしまいます。ここ奥 出雲の地に降り立った須佐之男命は、一人の美しい娘と老夫婦が泣いているところに遭遇 します。泣いているわけを尋ねると、八岐大蛇(やまたのおろち)という大蛇が毎年やっ 旬レポ中国地域 2016 年 6 月号 3 てきてはこれまで 7 人の娘が食べられてしまい、残された娘(櫛稲田姫)も命を捧げなけ ればならない寂しさで泣いていたのでした。須佐之男命は櫛稲田姫の美しさに心を奪われ、 八岐大蛇退治をして櫛稲田姫を救い、二人は結ばれたという話です。とてもロマンチック な神話ですね。この舞台がここ奥出雲町で、 「姫のそば ゆかり庵」のお店があるのがこ の櫛稲田姫が奉ってある神社の中にあります。 この「姫のそば ゆかり庵」は稲田姫神社の社務所を改装してお店を構えられ、昭和初 期の古民家の雰囲気がそのまま残っているお店で、神社と蕎麦屋の何ともいえないコラボ レーションが、神話の里「奥出雲」という雰囲気を醸し出しています。 <写真左:社務所が蕎麦屋です!> <写真右:ゆかり庵の部屋からの庭の眺め> ここの蕎麦は、先に紹介した奥出雲町産の蕎麦を石臼で挽いた蕎麦粉を使われ、もちろ ん手打ちで小麦粉などのつなぎは一切なしの十割蕎麦です。 奥出雲蕎麦は、蕎麦の実の殻ごと挽いて粉にしているため、麺の色は黒っぽく、歯ごた えがあり、香りが高いのが特徴です。 <写真左:数量限定の在来種「横田小そば」のセット> また、ゆかり庵は、地元で採った山菜、自社の畑で作った蕎麦粉、野菜などを使って、 ここ奥出雲町で伝わる昔ながらの郷土料理と地元の蕎麦でもてなすこだわりを持ったお 店です。蕎麦だけでなく、趣向を凝らした手作りのデザート(メロン果汁100%手作り アイス)や手作り飲み物(神社エール=ジンジャーエール=生姜が効いたスパイシーなジ ンジャーエール)をはじめ、地元で採れた山菜のてんぷらなど、季節によって様々な自然 の恵みを味わえます。 旬レポ中国地域 2016 年 6 月号 4 ぜひ、ロマンチックな神話に触れながら、ここ奥出雲で地元の蕎麦在来種「横田小そば」 の蕎麦を味わってみてください。蕎麦を召し上がっていただいた後は、すぐ目の前に見え る稲田姫神社にお参りし、須佐之男命と櫛稲田姫のロマンスもおすそ分けいただけるのは ここしかありません。ちょっと神社でお清めでもしてもらったかのような、心が洗われる 気分が味わえ、豊かな自然の恵みを味わえる幸せを感じることができます。また、奥出雲 町には、ここ「姫のそば ゆかり庵」のほかにもたくさんのおいしい蕎麦屋さんがありま すので、蕎麦屋のはしごをして蕎麦食べ比べの「奥出雲」旅で足を運んでみませんか。 ご参考までに奥出雲町の蕎麦や仁多米にちなんだイベント行事情報は次のウェブサイ トなどでご覧になれます。 ◆ウェブサイト「奥出雲そば街道 2015 新そばまつり」 http://www.town.okuizumo.shimane.jp/admin/admin/admin040/100/post-994.html ※昨年の案内です。今年も開催される予定です。 ◆米‐1グランプリ Facebook https://ja-jp.facebook.com/okuizumo.BEI1GRANDPRIX ◆姫のそば ゆかり庵 Facebook https://www.facebook.com/himenosobayukarian/ 経済産業省 中国経済産業局 広報誌 旬レポ中国地域 2016 年 6 月号 Copyright 2016 Chugoku Bureau of Economy , Trade and Industry. 5
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