サクセスストーリー/在日外資系企業エグゼクティブの声 日本アエロジル株式会社 (マイケル・ドルーダ氏) ドイツの化学品メーカー エボニック インダストリーズ AG の日本法人であるエボニック ジャパン株式会社と 三菱マテリアル株式会社の合弁会社の日本アエロジル株式会社は、三重県四日市市の工場にて、アエ ロジル(超微粒子シリカ)等の特殊化学製品の製造・販売および研究開発を行っている。日本でのビジネ ス状況や今後の展望について、代表取締役社長のマイケル・ドルーダ氏に聞いた。 日本アエロジル株式会社(以下、日本アエロジル)は、 ドイツ化学大手エボニックグループの企業で、同グループ の日本法人 4 社のうちの一つである。 グループの中心となるエボニック インダストリーズ AG は、 5 社が統合されてできたドイツの特殊化学品のメーカーで、 150 年近い歴史があり、2007 年の社名変更により、現 在のエボニック インダストリーズ AG が発足した。同社はド イツ・エッセンを本拠地とし、世界 25 ヶ国に製造工場を 所有。従業員は 33,000 名以上、売上高は 135 億ユー ロを誇る(2015 年時点)。研究開発にも力をいれており、 世界 35 ヶ所以上に 2,700 人以上の研究開発スタッフを 擁し、2015 年の研究開発費は 4 億 3400 万ユーロに上 代表取締役社長のマイケル・ドルーダ氏 三重県四日市工場にて る。 日本アエロジルは、塗料やトナーなどに使われるフュー ムドシリカの製造販売および研究開発を行うため、1966 年にドイツのデグザ社(現 エボニック インダストリーズ AG) 日本アエロジルの強み:顧客企業との共同開発 同社の生産するアエロジルなどの添加剤は、シリコーン と三菱金属鉱業㈱(現 三菱マテリアル㈱)の折半出資 や接着剤、シーラント、コーティング材など、様々な製品 で設立された。同社の設立背景と日本でのビジネス状 に使われている。自動車業界では、ウェザーストリップや 況について、代表取締役社長マイケル・ドルーダ氏に話 防風ガラスを支えるシリコンゴム製のシーラント、傷を防ぐ を聞いた。 自動車のコーティング材にも使われている。「私たちが生 産する添加剤は、製品の特徴を際立たせ、特定の機能 を持たせるのに重要な役割を果たしている。自動車業界 では、接着剤やシーラントの利用が増えており、高い機 能と安定性が求められている。これまで、私たちは顧客と 日本における会社設立の背景 日本アエロジル設立当初の 50 年前、デグサ社と三菱 手を携えて製品開発を行ってきた」とドルーダ社長は述べ た。 金属鉱業は同じ分野のビジネスを展開しており、原料や 現在では、食品から医薬品、化粧品まで、30 以上の 副産物を融通し合えるため、両社が合弁企業を設立し 業界に製品を販売しており、コーティングやシリコーンのよ たのは自然な流れだったという。「三菱は多結晶シリコー うな、あらゆる分野の工業製品にも使われている。同社 ンを生産し、その副産物を利用し、デグサが製品を生産。 の生産する製品は、応用範囲が広いことが強みだ。そし また、デグサの生産工程で出た副産物を三菱が原料とし て、顧客のニーズにあわせて製品を開発し、より高い機 て利用するという完全なループを成立させることができた。 能を持たせることで、他社が提供できない特殊な製品を 廃棄物を削減できるため商業的にもメリットがあり、同時 作り出すことに成功している。 に環境の点からも、他のプラントに運ぶ必要がなく、汚染 同社が日本で生産を続ける理由もそこにある、とドルー を発生させないで済む。両社が隣接するプラントで生産 ダ社長は言う。「多くの日本企業はマレーシア、ベトナム、 することは理にかなっていた」とドルーダ社長は説明する。 タイなど海外に生産拠点を移している。しかし、私たちは 今でもそうした企業に日本から製品を供給している。なぜ Copyright (C) 2016 Japan External Trade Organization (JETRO). All rights reserved. なら多くの場合、私たちは、日本に研究開発拠点を持つ 今後の日本での展開 顧客企業と密に連携を図りながら製品開発を共同で行 製品に対する需要の増加に対応し、四日市工場の っているからだ。顧客と共に開発した私たちの製品が日 拡張を行った同社だが、一般にコストが高いといわれる 本から輸出され、日本企業の海外工場で使われてい 日本で製造を行うことについて、ドルーダ社長はこう説 る。」 明した。「私たちは、特殊な製品を製造しているので、 コストパフォーマンスは第一条件ではない。しかし、グリ 三重県四日市での研究開発について ーンフィールドで新たに化学工場を設置するとしたら、 同社は 2015 年 10 月、同社製品の一つ SMA(Surface 日本は第 1 の選択ではないだろう。私たちの場合、日 Modified Aerosil:アエロジル特殊品)の生産能力増強の 本にすでに工場があり、インフラが整っている。専門知 ため、三重県四日市にある工場に約 20 億円(既存プラ 識も日本に蓄積されている。日本で生産しているのは、 ントの耐震化等も含む) の追加投資を 行い、新たに この専門知識があるからといってもいい。日本で生産し SMA 製造プラントを建設した。四日市工場は、エボニッ ていくのは簡単ではないが、日本にはインフラ、専門性、 ク グループの中でもアジアで最大規模の生産能力を持 ノウハウ、そして特殊品については市場がある。こうした つフュームドシリカ(アエロジル)の工場であり、日本のみな ことを踏まえ、日本に投資を拡大した。」同社では、将 らず、アジアをはじめ、全世界へ製品を出荷している。 来的に、アジアでの研究開発を日本に集約させていくこ 四日市工場には研究開発部門があり、製品開発およ び応用技術の部門で、20 名近くの研究員を抱えている。 とも検討しているという。 同社の四日市工場では、地元の高校や専門学校 応用技術は、文字通り、技術の応用に焦点を置いてお などから毎年4~5 名の社員を採用している。しかし、 り、コーティング材、接着剤、シーラント、シリコーンなど、 優秀な人材を確保するためには、合弁パートナーであ 各製品に熟知した専門家がいる。研究開発は、微粒子 る三菱グループのネットワークが欠かせなかったという。 の設計開発などに力をいれている。 「100%ドイツ企業だったら、こうした有能な人材にアクセ 同社が日本で生産している製品のうち、重量ベースで、 スできなかったかもしれない」とドルーダ社長はいう。 60%が日本国内市場向けで、40%が海外向けとなって 今後の展開として、同社は日本での共同開発に期 いる。また、特殊品については、アメリカやヨーロッパなど全 待を寄せている。「私たちには大手企業との信頼できる 世界に輸出している。「私たちは日本に研究開発拠点を 協力関係、共同研究の実績があり、今後も成長が期 持っているので、日本の顧客企業とともに開発し、日本 待できる。顧客と一緒に新しい革新的な製品を開発し から輸出している製品はたくさんある。特にプリンター用の ていきたい」とドルーダ社長は述べた。 トナーでは、日本の大手企業と共に独自に開発したもの (2016 年 1 月取材) は多数ある。」とドルーダ社長は述べた。 同社沿革 1966 年 ドイツのデグザ社(現 エボニック・インダストリーズ AG)と三菱金属鉱業㈱(現 三菱マテリアル㈱)の折半出資 にて、日本アエロジル㈱を設立 1968 年 日本アエロジル㈱ 四日市工場にて親水性フュームドシリカ・アエロジルの生産開始 2004 年 出資比率の変更(※デグザ・ジャパン㈱80%、三菱マテリアル㈱20%) ※親会社のデグザ・ジャパン㈱は、社名変更により、現在のエボニック・ジャパン㈱に。 2015 年 四日市工場にて SMA 生産能力増強のため、新たに製造プラントを建設。 日本アエロジル株式会社 設立: 1966 年 11 月 事業概要: 親水性、疎水性アエロジル(超微粒子シリカ)等の化学製品の製造・販売、研究開発 親会社: エボニック・ジャパン株式会社(80%)、三菱マテリアル株式会社(20%) 住所: (本社)〒163-0913 東京都新宿区西新宿 2 丁目 3 番 1 号 新宿モノリス 13 階 URL: http://www.aerosil.jp Copyright (C) 2016 Japan External Trade Organization (JETRO). All rights reserved.
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