条件不利地域の公共サービスの持続性確保

新・地方自治ニュース 2016 No.5 (2016 年6月 10 日)
条件不利地域の公共サービスの持続性確保
人口減少と超高齢化が進む中で、単独の基礎自治体で完結する生活・経済活動は極めて限られるほ
か、上下水道、公共交通などの生活インフラ、施設管理、様々な公共サービスの提供でも単独の地方
自治体で持続性を確保することの限界が明確になり、複数の地方自治体が連携して担う仕組みの充実
が図られている。一方、離島も含めて地理的条件などから周辺地方自治体との連携が困難な「条件不
利地域」への対処が人口減の加速と共にさらに重要性を拡大させている。
こうした状況を踏まえ、条件不利地域における簡易水道を中心とした水供給の持続性確保に向けた
検討が総務省自治財政局で6月からスタートした。上水道事業は、下水道事業と異なりこれまで地方
自治体あるいは地域のコミュニティに管理運営等を委ねてきたウェートが高く、その形態も地方自治
体管理から自治会・町会の自主管理まで多様となっている。簡易水道の給水人口は、2015 年4月現
在で全国 343 万人(日本水道協会調べ)であり、上水道の 1 億 2,100 万人に比べて少ないものの、給
水人口 500 人未満の事業では全国で半分以上を簡易水道事業が占めている(厚生労働省「2013 年度
全国簡易水道統計」)。簡易水道は、沖縄県東北東島、南大東島等離島や山間部等条件不利地域が多
く人口減少が激しい一方で、世帯数の減少は単身世帯の増加から緩やかであり、生活インフラとして
の水道ネットワークの管理維持は、管路等の老朽化が進む中で今後とも重要な課題となっている。
また、簡易水道事業としての財政面にも人口減等の動向は当然に大きな影響を与える。2014 年度
決算では、簡易水道事業のほとんどが黒字経営である。その背景としては、職員数削減による人件費
減少、低金利や借入金の繰り上げ返済などによる利払い費の減少に加え、地方自治体の普通会計等か
らの繰入依存などによる面が大きい。また、上水道に対して簡易水道事業では給水原価が相対的に高
い一方で、供給原価は上水道と同水準となっており、料金回収率が低い点にも特色がある。今後、人
口減少に伴い簡易水道事業のコスト増加は避けられず、料金引上げや普通会計繰入の拡大等に伴う生
活コストの上昇は、新たな人口の社会的移動要因となることも否定できない。そして、環境変化が激
しい中で経営的ノウハウの充実も不可欠である。
しかし、簡易水道事業の全職員数は 1,712 人であり、749 事業の平均職員数は2人強となっている
(2014 年度決算ベース)。財政面だけでなく、人的資源面での事業継続が可能かは大きな課題とな
る。人的資源の問題は、簡易水道事業だけでなく上水道事業も含め地方自治を支える行政機関の職員
構成のピラミッドをいかに将来に向けて安定的に構成するかの重要な問題に結び付く。単独の地方自
治体ごとにフルセットで業務を担う職員構成を確保することは生産年齢人口が急速に減少する中で
都市部も含めて不可能となっている。内部事務に関しては、2011 年の地方自治法改正で「共同設置」
が可能となり、特別地方公共団体の設置手続の煩雑さと事務の委託におけるサービス提供方法の不安
定性等の課題を解消するため、機関等の共同設置の制度拡充により実現した仕組みである。また、事
務の委託による執行権限の委譲を伴わない状態で、事務の管理執行を他の地方自治体に委ねることが
できる「事務の代替執行」も 2014 年の地方自治法改正で導入されている。同種・類似のサービスを
実施している分野の場合、行政機関の人的資源の制約の面からも連携する構図が大きな選択肢となる。
維持管理はもちろんのこと、マネジメント面の充実においても重要となる。
簡易水道統合に対する政策は、総務省が①2016 年度から高料金対策や建設改良に対する地方財政
措置に関して上水道との統合等に伴う激変緩和措置を進めているほか、②従来から統合に要するソフ
ト経費の財政負担に対する措置を行うなどで、簡易水道事業と上水道事業の統合を進めるほか、厚生
労働省も国庫補助制度の見直しを通じた統合の推進を図っている。しかし、条件不利地域では、連携
や統合政策にも限界があり、水道事業自体の根本的な枠組みの変更(給水車等の活用等)や固定費の
変動費化に伴うビジネスモデルの転換も含めて検討する必要がある。従来の枠組みに囚われない、構
造的創造が必要な段階となっている。
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