リサーチ TODAY 2016 年 6 月 10 日 緊急リポート:Brexit は他人事でない。為替は100円に 常務執行役員 チーフエコノミスト 高田 創 今日、世界の不確定要素は「ABCリスク」に集約される。Aはアメリカ(America)のトランプ現象や利上げ の行方だ。Bは英国(Britain)のBrexitで、6月23日にEU残留・離脱を問う国民投票の行方が注目される。C は中国(China)の不安だ。 本論のテーマはBrexitだが、投票の行方は予断を許さない。下記の図表は、英調査会社の世論調査の 推移である。最新調査では、残留43%、離脱42%と両派の支持率は極めて拮抗している。みずほ総合研 究所は、英国のEU離脱に関する緊急リポートを発表している1。日本では多くの人々が、英国においては 大きな影響があるBrexitだが、日本にとっては他人事で、冒頭の「ABCリスク」のなかでは影響が少ないとの 意識を根強く持っているのではないか。「離脱」の場合、英国やユーロ圏経済の先行きへの不確実性が高 まり、金融市場が大きく不安定になる可能性がある。その結果、為替では5円程度の円高、つまり今日の水 準を勘案すると100円に近くになることに留意の必要がある。日本では、円高による株安、企業収益の悪化 やデフレ圧力の高まりに警戒する必要があり、さらにはこれらがファンダメンタルズに反する動きであること から、為替介入の議論も生じうる。 ■図表:EU離脱に関する世論調査推移 (%) 残留 60 離脱 態度保留 50 40 30 20 10 0 4/1 4/6 4/11 4/16 4/21 4/26 5/1 5/6 5/11 5/16 5/21 5/26 5/31 6/5 (月/日) (注)同日に複数調査がある場合は平均値。 (資料)What UK Thinks EU より、みずほ総合研究所作成 次ページの図表は、当社が独自に作成した投資家のグローバルなリスク許容度指数である2。過去の欧 1 リサーチTODAY 2016 年 6 月 10 日 州に関連したリスクイベント時にはリスク許容度が大きく低下していることが示されている。 ■図表:グローバル市場のリスク許容度指数 (前月差) リスク許容度 高い 3.0 2.0 1.0 0.0 -1.0 -2.0 -3.0 -4.0 ③欧銀健全性不安 ('16/1) ①リーマン・ショック 直後('08/10) リスク許容度 低い ②欧州債務危機深刻化 ('11/8) -5.0 -6.0 (年) (注)13 の金融指標から投資家のリスク許容度を推計。 (資料)Datastream、Bloomberg 等よりみずほ総合研究所作成 この図表で示した3つの欧州にからむリスクイベント、①リーマン・ショック(2008年)、②欧州債務危機 (2011年)、③欧銀健全性不安(2016年)における市場変動と同程度の変動が再び生じた場合の影響度を まとめたのが下記の図表である。日本にとって最大の問題は、ひとたびイベントが起きると、逃避通貨として の位置付けをもつ円が、対ドルで上昇する可能性があることだ。リスク許容度が先の①②③の事例並みに 低下すると、単月で初期のショックとして、為替相場には2~6円の円高圧力、株価には1,000~3,000円の 下落圧力が発生するとの試算結果となった。今日、既に100円台半ばにまで円高が進んでいることを前提 とすれば、イベント発生時の為替相場は100円を伺う水準になる。そのために、日本にとってBrexitは他人 事ではなく、日本固有のファンダメンタルズに反する動きとして、これを回避すべく為替介入や日銀の追加 緩和等の議論が生じうる。 ■図表:Brexitの場合のドル円相場、日経平均への影響試算 リスク許容度指 数の5月実績と イベント発生時 の差 ドル円相場 (単位:円) 日経平均 (単位:円) 2008年10月 ①リーマン・ショック直後 ▲ 5.4 ▲ 5.9 ▲ 3,276 2011年8月 ②欧州債務危機の深刻化 ▲ 3.9 ▲ 4.3 ▲ 2,381 2016年1月 ③欧銀健全性への懸念の高まり ▲ 1.6 ▲ 1.7 ▲ 940.4 過去のイベント 推計値(当月の変化) (注)ドル円相場、日経平均株価、米日 10 年利回り差、リスク許容度指数からなる 4 変数 VAR モデルを構築し、イン パルス応答関数により推計。推計値は、現状水準(ドル円相場:1 ドル=110 円、日経平均:16,000 円)を基準に 計算。推計期間は 2008 年 1 月から 2016 年 5 月。 (資料)Datastream よりみずほ総合研究所作成 1 2 吉田健一郎 「英国の EU 離脱とその影響」(みずほ総合研究所 『緊急リポート』 2016 年 6 月 9 日) 松本 惇「中国発のリスクオフが主要国経済に与える影響をどうみるか」(みずほ総合研究所『みずほインサイト』2015 年 9 月 1 日) 当レポートは情報提供のみを目的として作成されたものであり、商品の勧誘を目的としたものではありません。本資料は、当社が信頼できると判断した各種データに基づき 作成されておりますが、その正確性、確実性を保証するものではありません。また、本資料に記載された内容は予告なしに変更されることもあります。 2
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