呼び出しに応じて給油等を行う場合における安全

最 近 の
行政の動き
呼び出しに応じて給油等を行う場合における
安全確保策に関する指針について
消防庁危険物保安室
総務事務官
河本
崇希
た給油取扱所の運用形態に係る安全確保策のあ
はじめに
近年、中山間地域等の給油取扱所においては、
り方に関する検討会(座長:小林恭一東京理科
顧客の来店が極端に少なく、かつ係員数の確保
大学教授)
」
(以下「検討会」という。
)を開催し、
が難しい等の問題をかかえている状況にあり、
呼び出しに応じて給油等を行う場合において想
地域特性に応じた効率的な給油取扱所の運用形
定される火災危険性に対する安全確保策のあり
態が模索されています。
方について検討を行い、その結果を取りまとめ
経済産業省においても、サービスステーショ
ン(以下「SS」という。)数が、市町村内で
カ
た報告書を公表するとともに、
「呼び出しに応
じて給油等を行う場合における安全確保策に関
所以下の地域が増加している傾向が指摘されて
する指針について(平成28年
おり、これらの地域において顕在化している、
44号)
」
(以下「指針」という。
)を関係業界団体
いわゆる SS 過疎地問題への対策のため、平成
及び全国の消防機関に通知しました。
27年
月に SS 過疎地対策協議会を設置し、自
月25日消防危第
今回は、本指針についてご説明します。
治体等に対する相談窓口の設置等、各種取組の
検討が進められているところです。
検討会の概要
このような状況の中で、通常は給油取扱所に
呼び出しに応じて給油等を行う場合の安全上
常駐している危険物取扱者である係員が、例外
の課題を抽出し、課題に対応した安全確保策を
的に給油取扱所に隣接する店舗等に所在し、顧
講じた全国
客からの呼び出しに応じて速やかに給油取扱所
長崎県及び宮崎県)の給油取扱所において実証
へ移動して給油又は注油を行う運用形態(図
実験を行いました。実証実験では実際に給油等
参照)が、SS 過疎地対策の
つの方策として取
を行い、第三者の立ち会いによる確認、係員へ
り上げられたことを踏まえ、
「地域特性に応じ
のヒアリング、顧客へのアンケート(任意)等
図
箇所(北海道、広島県、高知県、
呼び出しに応じて給油等を行う給油取扱所のイメージ
Safety & Tomorrow No.167 (2016.5) 2
やかに給油取扱所へ移動して給油又は注油する
により、安全確保策の効果を検証しました。
場合をいいます。
検討会にご参加いただいた委員は次のとおり
なお、顧客の来店時や火災・危険物の流出等
です。
地域特性に応じた給油取扱所の運用形態に係る
の事故発生時には直ちに給油取扱所へ移動し、
安全確保策のあり方に関する検討会委員
適切な対応をとる必要があるため、係員が所在
(敬称略)
する店舗等から給油取扱所までの距離について
座
は、実証実験の結果等を踏まえ、15メートルか
長
小林
委
恭一
東京理科大学
ら60メートル程度を目安としました。
総合研究院教授
また、当該給油取扱所における危険物の販売
員(五十音順)
石井
大谷
弘一
英雄
全国石油商業組合連合会
量については、中山間地域等における給油取扱
業務グループ
所の来客頻度や実証実験の結果を踏まえ、一月
チームリーダー
横浜国立大学大学院
あたりの危険物の販売量が10∼40キロリットル
環境情報研究院
程度を目安としました。
教授
小笠原雄二
東京消防庁 予防部 危険物課長
川野
一般社団法人インターホン工業会
泰幸
呼び出しに応じて給油等を行う場合におけ
る安全確保策について
技術委員長
木村
俊文
本部
清水
高橋
秀樹
俊勝
⑴係員が給油取扱所に臨場していない時の安全
滝川地区広域消防事務組合消防
予防課
確保策
保安指導係長
呼び出しに応じて給油等を行う給油取扱所
石油連盟
給油所技術専門委員会委員長
は、係員が給油取扱所に常駐せず、給油等の
川崎市消防局
作業時以外は不在となっているため、係員不
予防部
在時の安全を確保することが必要です。
危険物課長
田村
裕之
ター
西村
下
山口
英治
朋広
克己
給油取扱所が閉店している状態であれば、
消防庁消防大学校消防研究セン
技術研究部
ロープ等により係員以外の者を出入りさせな
大規模火災
研究室長
い措置が講じられますが、呼び出しに応じて
全国農業協同組合連合会
給油等を行う給油取扱所は営業中であるた
生活関連事業部
燃料部
め、係員以外の者が危険物を取り扱うことを
石油販売促進課
副審査役
防止する措置や、危険物を貯蔵又は取り扱う
日本ガソリン計量機工業会
場所に出入りすることを防止する措置を講ず
事務局
ることによって安全を確保することとしまし
幹事
危険物保安技術協会
た。指針では下記の安全確保策を講じるよう
業務部長
示しています。ただし、係員が給油取扱所付
近で作業中である等、臨場性が認められる場
呼び出しに応じて給油等を行う給油取扱所
の考え方
合はこの限りではありません。
呼び出しに応じて給油等を行う場合とは、通
①以下のいずれかの方法により、係員以外の
常は給油取扱所に常駐している危険物取扱者で
者による給油、注油、いたずら等を防止す
ある係員が、例外的に給油取扱所に隣接する店
る措置を講ずること(図 参照)
。
舗等に所在し、顧客からの呼び出しに応じて速
ア
3
給油ノズル及び注油ノズルのロック
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図
給油ノズルのロック等の例
固定給油設備及び固定注油設備(以下
板を設置すること。ただし、監視カメラ
「固定給油設備等」という。
)の電源遮断
(監 視 カ メ ラ の 映 像 を 映 す た め の モ ニ
イ
ウ
POS システム等による固定給油設備
等の使用の制限
②給油取扱所のポンプ室、油庫等の危険物を
貯蔵又は取り扱う建築物について、施錠管
理を行う等、係員以外の者を出入りさせな
ターを含む。以下同じ。
)を設置したと
きは、インターホン等を設置しないこと
ができる。
イ
場合(ウの場合を除く。
)
インターホン等及び看板を設置するこ
いための措置を講ずること。
⑵来客時の安全確保策
給油取扱所への車両や人の進入(以下「来
客等」という。
)を係員が迅速に覚知し、給油
取扱所の状況を確認することができるように
所在場所から給油取扱所を直視できる
と。ただし、
センサーを設置したときは、
インターホン等を設置しないことができ
る。
ウ
所在場所から給油取扱所を直視できる
するとともに、顧客が係員を呼び出すことが
場合において、給油空地又は注油空地に
できるようにするため、インターホン、セン
死角があり来客等の覚知に支障が生じる
サー、看板等の機器を設置することとしまし
おそれがある場合
センサー及び看板を設置すること。
た。また、これらの機器について、店舗等内
の執務室等、係員が所在している場所(以下
「所在場所」という。)から給油取扱所を直接
なお、センサー及び監視カメラを併用して
視認できるか否かの視認性に応じて、設置の
設置した場合は、来客等を迅速に覚知すると
要否を次のとおり整理し、指針に示しました。
ともに給油取扱所内の状況を把握できること
①設置機器について
が実証実験において確認されており、安全を
ア
所在場所から給油取扱所を直視できな
い場合
インターホン等顧客が係員を呼び出す
ための機器(以下「インターホン等」と
確保するうえで効果が高いと考えられます。
これらの機器の設置の要否について、表
のとおりまとめました。
②機器の設置方法等について
いう。)
、センサー(センサーで来客等を
機器等の設置方法及び設置例(図
検知した際に、執務中の係員に伝達する
参照)については、次のとおりです。
ための機器を含む。以下同じ。
)及び看
ア
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インターホン等
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表
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直視の可否に応じた設置機器
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図
インターホンの設置例
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図
センサーの設置例
ウ
給油取扱所に来店した顧客が、執務中
執務中の係員が、給油取扱所の状況を
の係員を呼び出すことができるように設
確認できるように設置すること。
置すること。また、顧客が操作を行う機
エ
器は、見やすく操作がしやすい位置に設
看板
・給油取扱所の顧客が見やすい位置に設
置すること。
イ
監視カメラ
センサー
置すること。
来客等を検知し、執務中の係員に伝達
なお、顧客が見やすいよう複数の箇所
に設置することが望ましいこと。
することができるように設置すること。
5
Safety & Tomorrow No.167 (2016.5)
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図
監視カメラの設置例
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図
看板等の設置例
・看板には、原則として、係員を呼び出
内容に準じるが、係員を呼び出す方法
す方法、所在場所、緊急時の対応及び
のみを表示する等、表示方法に応じて
顧客が自ら給油又は注油をしてはなら
簡潔に表示することが望ましいこと。
ないことを簡潔に表示すること。
・看板の表示内容の具体例は次のとおり
であること。
また、機器の設置例を平面図で表したもの
は、図
・
のとおりです。
図 は、所在場所から給油取扱所を直視で
「インターホンを押して、そのままお
きない場合であり、インターホン、センサー
待ちください。向かいの店舗から係員
及び看板を設置したほか、任意で監視カメラ
が参ります。緊急時は119番通報して
の設置及び床面表示を行った例です。
ください。
」
図 は、所在場所から給油取扱所を直視で
・看板の設置の他、床面への表示や電光
きる場合であり、原則としてはインターホン
掲示板の設置を併せて行うことが望ま
及び看板の設置が必要となるところ、イン
しいこと。この場合、床面や電光掲示
ターホンに代わりセンサーを設置したほか、
板の表示内容は原則として看板の表示
任意で床面表示を行った例です。
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図
図
所在場所から給油取扱所を直視できない場合
所在場所から給油取扱所を直視できる場合
⑷予防規程
⑶静電気防止対策
呼び出しに応じて店舗等から給油取扱所へ
予防規程に「危険物施設の運転又は作業に
移動してきた係員が、静電気を帯電していな
関すること」として、火災危険性を低減する
い状態で給油ノズル又は注油ノズルの操作を
うえで重要である、係員が給油取扱所に臨場
行う必要があるため、従前から労働安全衛生
していない時の安全確保策及び係員が来客等
規則(昭和47年労働省令第32号)第286条の
を覚知した際の適切な対応について定め、市
で規定されている静電気帯電防止作業服及び
町村長等の認可を受けることを指針に示しま
静電気帯電防止用作業靴の着用について、改
した。具体例は次のとおりです。
めて徹底を図ることを指針に示しました。
ア
係員が給油取扱所にいないときは、給油
ノズル及び注油ノズルをロックする等、顧
7
Safety & Tomorrow No.167 (2016.5)
客自らによる危険物の取扱いやいたずらを
給油等を行おうとする給油取扱所の実情を踏
防止する措置を講ずること。
まえて、管轄の消防機関がその適否の判断を
イ
給油取扱所への車両や人の進入又は異常
を覚知した際は、直ちに給油取扱所の状況
行うこととしました。
⑵
⑵に掲げる設置機器のうち、給油取扱所内
を確認するとともに適切な対応をとるこ
に設置する機器の工事に係る取扱いについて
と。
は、「製造所等において行われる変更工事に
⑸設置機器の維持管理
設置した機器については、定期的に外観及
係る取扱いについて(平成14年
月29日付け
消防危第49号)」を参考としてください。
び作動状況を点検することが望ましいことを
また、これらの機器のうち、電気設備に該
指針に示しました。点検項目の具体例は次の
当するものは電気工作物に係る法令の規定に
とおりです。
より設置する必要があります。
ア
看板の表示が消えていないか。
イ
設置機器の周囲に、機能の障害となるも
のは置かれていないか。
ウ
設置機器に破損等はないか。
エ
設置機器は正常に作動するか。
⑶既に呼び出しに応じて給油等を行っている給
油取扱所については、当該施設の実態に応じ
て、本指針を参考にすることが望ましいこと
としました。
まとめ
留意事項について
その他留意事項について下記の項目を指針に
呼び出しに応じて給油等を行う給油取扱所に
おいては、
顧客自らによる危険物の取り扱いや、
示しました。
いたずら等を防止することが重要であり、
また、
⑴呼び出しに応じて給油等を行うにあたって
来客時や事故発生時には係員が迅速に対応する
は、
に掲げる店舗等から給油取扱所の距離
ことが必要となります。
や危険物の販売量を目安としますが、「係員
給油取扱所関係者及び消防機関におかれまし
が来客等を覚知した際に適切な対応がとれる
ては、本指針の運用について十分配慮され、呼
かどうか」、「給油取扱所で火災等の災害が発
び出しに応じて給油等を行う場合における安全
生した場合に直ちに応急の措置を講ずること
の確保に御活用いただくようお願いいたしま
ができるかどうか」が重要であると考えられ
す。
ます。これらの観点から、呼び出しに応じて
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