岩手県人口ビジョン、 岩手県ふるさと振興総合戦略

解説
本稿では、ビジョンと総合戦略を踏まえ、
本県における人口の現状や今後の展望、人
口減少対策などを紹介していきます。
岩手県人口ビジョン
1 岩手県の人口を取り巻く環境
⑴ 長期的な人口の推移
日本の人口は、高度経済成長なども背景
に、2度のベビーブームを経て、拡大基調
「まち・ひと・しごと創生長期ビジョン」及
年に人口置換水準(人口を一定に保てる水
しかしながら、合計特殊出生率は1975
で推移してきました。
び「まち・ひと・しごと創生総合戦略」を
を下回り、出生数が減少
準)である2・
挙げて取り組むこととされました。
策定するなど、人口減少、地方創生に国を
12
を続けたため、総人口は2008年をピー
要 な 県 政 課 題 と し て 捉 え、 さ ま ざ ま な 取
拡大基調で推移し、145万人のピークを
また、本県の人口も、1960年までは
クに減少に転じています。
組 を 進 め て き ま し た が、 人 口 減 少 に 歯 止
1)
。
この間の人口構造を見ると、
歳未満の
と、ピーク時から 万人減少しています(図
減少傾向にあり、2014年は128万人
迎えましたが、その後、1997年以降は
月、
「まち・ひと・しごと創
めをかけ、活力ある岩手を実現するため、
2 0 15 年
生 法 」 に 基 づ き、 人 口 の 現 状 と 今 後 の 展
望を示した「岩手県人口ビジョン」と、ビ
ジ ョ ン を 踏 ま え、5 年 間( 2 0 1 5 年 〜
「年少人口」はピークである1955年と比
歳以上の老
2019年)の施策をまとめた「岩手県ふ
万人減少している一方、
べ
15
65
4
岩手経済研究 2016 年5月号
は じ め に
年国勢調
― 大正9年の調査開始以来、初めての人
口減少 ― 。
今年2月に公表された、平成
ひと・しごと創生法」を施行し、同年 月、
国においては、2014年 月に「まち・
に入りました。
少となり、日本は、本格的な人口減少社会
人口は、大正9年の調査開始以来、初の減
査の人口速報集計結果によると、全国の総
27
11
本 県 で は、 長 年 に わ た り 人 口 減 少 を 重
07
17
10
るさと振興総合戦略」を策定しました。
37
岩手県人口ビジョン、
岩手県ふるさと振興総合戦略について
岩手県政策地域部長
大 平 尚
解説
岩手県人口ビジョン、岩手県ふるさと振興総合戦略について
約128万人(2014年)
総人口
1,400
1,200
約96万人(ピーク)
1,000
約74万人(2014年)
生産年齢人口
800
約52万人(ピーク)
600
約38万人(2014年)
年少人口
400
約5万人(ボトム)
200
老年人口
約16万人(2014年)
0
1920 1925 1930 1935 1940 1945 1950 1955 1960 1965 1970 1975 1980 1985 1990 1995 2000 2005 2010
40
1.44
1.42 1.40
20
1.20
55
60
40
45
50
昭和35
(60') (65') (70') (75') (80') (85')
全国女性人口指数
5
岩手経済研究 2016 年5月号
26
22
24
25
7
12
17
平成2
(90') (95') (00') (05') (10') (12') (13') (14')
本県女性人口指数
全国出生率(右目盛)
1.00
本県出生率(右目盛)
出生数の減少の第2の要因は、合計特殊
1.60
出生率の低迷です。
60
42
⑵ 人口減少のメカニズム
1.80
本県の2014年の合計特殊出生率は、
80
①本県の人口減少の特徴
2.00
を上回っているものの、
100
全国平均の1 ・
2.20
44
人口減少は、2つの要因によって引き起
120
。
1・ にとどまっています(図2)
2.40
こされます。
(出生率)
140
0
1つ目は、死亡数が出生数を上回る「自
然減」
、2つ目は、県外への転出者数が県外
からの転入者数を上回る「社会減」です。
本県では、戦前・戦後の一時期を除くと、
1960年代、1980年代後半、2000
15~49歳女性人口
(1960年=100)
の推移
(人口指数)
年代以降現在に続く3つの人口減少期があ
りますが、2000年以降は、
「自然減」と
「社会減」の二重の要因によって減少すると
いう、本格的な人口減少期に入っています。
②本県の自然増減の推移
本県の自然増減は、出生数の減少と死亡
図2
数の増加によって、1999年に減少に転
49
じ、以降は減少数が拡大する傾向にありま
す。
出生数の減少の第1の要因は、 歳から 歳
までの女性人口そのものの減少です(図2)
。
これは、社会減の要因にも言えることで
すが、若い世代の女性の県外流出が影響し
ています。
15
33
年人口は最も少なかった1935年と比べ
約145万人(ピーク)
1,600
万人増加しており、人口減少と少子高
(千人)
て
齢化が同時に進行しています。
本県の人口の推移
図1
15,000
40,000
10,000
35,783
-2,975 ⦆
-329
30,000
0
-5,000
21,701
-6,709
20,000
5,000
-10,000
-9,421
18,726
-15,000
-20,000
10,000
-25,000
0
昭和37
40
45
(1962) (1965)
(1970)
50
(1975)
55
60
(1980)
(1985)
転入者数(左目盛)
(1995)
転出者数(左目盛)
12
(2000)
17
(2005)
22
(2010)
26
-30,000
(2014)
社会増減(右目盛)
バブル崩壊
-329
アジア通貨危機
世界金融危機
ITバブル崩壊
0.6
-1,000
0.5
-2,235
-2,000
-3,000
-2,975
0.3
0.2
0.1
-6,000
0
-7,000
-0.1
-6,709
-8,000
-0.2
相関係数:0.
73
-9,421
昭和58
60
(1983) (1985)
平成2
(1990)
社会増減数(左目盛)
7
(1995)
12
(2000)
17
(2005)
22
(2010)
有効求人倍率の岩手県と全国の差(=岩手県-全国、右目盛)
26
-0.3
-0.4
①
。
-)
-9,000
-10,000
22
(2014)
(年)
岩手経済研究 2016 年5月号
22
歳前後の就職期に
-5,000
歳前後では、女性の社
-4,000
0.4
18
歳の進学・就職期、
0
円高不況
顕著であり、特に
社会増減数と有効求人倍率の関係
(人)
会減が大きくなっています(図5
図4
7
平成2
(1990)
このことから、雇用環境によって、社会
20,000
合計特殊出生率の低迷の要因は、未婚率
25,000
減の改善は可能だと考えています。
51,664
50,000
の上昇や、晩婚化などが直接的な要因であ
30,000
※社会増減に職権記載、職権消除を含まない。
また、本県の社会減を年齢別に見ると、
(人)
60,000
り、この背景には、子育て世代の所得の低下、
非正規労働者の増加、子育てと仕事の両立
本県の社会増減の推移
(人)
が困難なことがあるものと考えられます。
仮に短期間に合計特殊出生率が著しく向
上したとしても、出生数の増加につながる
女性人口の増加に至るまでには長い期間が
必要であるため、自然減の克服には、長期
的な取組が必要です。
③本県の社会増減の推移
本県の社会増減は、一貫して社会減が続
いていますが、1960年代、1980年
代後半、2000年代後半を減少のピーク
とする3つの波があります(図3)
。
これには、全国の雇用情勢と関係が大き
く、本県の有効求人倍率が全国平均を上回
ると社会減が縮小し、全国平均を下回ると
社会減が拡大する傾向にあることが明らか
となっています(図4)
。
最も社会減が少なかった1995 年は、
本県の有効求人倍率が全国平均より0・2
ポイント以上高く、社会減が△329人と、
ほとんどゼロになりました。
図3
6
解説
これは、県内の若者の希望に合う進学先
や、就職先の確保(職種・給与条件等)が
影響を与えていると考えられます。
図5- ①
年齢別社会増減数2014年(平成26年)
(人)
100
随伴移動
0
定年
転職、転勤
-100
大学卒業、就職
-200
-300
進学・就職
-400
男性
女性
-500
-600
(歳)
0
5
15
35
40
45
50
55
65
70
75
80
85
90
95
100
2 人口減少に伴う課題
人口減少は、次のような、住民生活の様々
な分野に影響を与えることが予想されます。
・ 生産年齢人口の減少に伴う労働力不足
・ 医療、福祉、介護人材の不足
・ 学校における学級数の減少
・ 公共交通機関の経営効率の低下
本県の人口の長期的な見通し
(千人)
(千人)
1,600
1,600
1,500
1,500
1,400
1,400
1,300
1,300
1,200
1,200
1,100
1,100
1,000
900
1,000
800
900
700
800
600
700
500
600
400
500
300
400
200
300
100
2000
60
・ 地域コミュニティの共助機能の低下
生産年齢人口の減少等は、今後一定程度
避けられませんが、人口減少に歯止めをか
け、影響を最小限に抑えていくことが必要
30
です。
25
3 人口の展望
万8千
93
20
国立社会保障・人口問題研究所(社人研)
によると、現状の減少傾向が続いた場合、
本県の人口は、2040年には約
図5- ② 10
人まで減少すると推計されています。
こ の 推 計 は、 い わ ば 何 ら 対 策 を 講 じ な
かった場合の人口推計ですが、社人研の推
万人まで減少すると見
②
。
-)
計を基に、2040年以降も試算を行うと、
2115年には、
込まれます(図5
24
岩手県人口ビジョン、岩手県ふるさと振興総合戦略について
人口の展望が実現した場合の2060年人口構造
人口の展望が実現した場合の2060年人口構造
2040年
2040年
103.9万人
2014年現在の人口構造
団塊の世代
2014年現在の人口構造
90~
85~89
80~84
75~79
90~
70~74
85~89
65~69
80~84
60~64
55~59
75~79
50~54
70~74
45~49
65~69
40~44
60~64
35~39
55~59
30~34
50~54
25~29
45~49
20~24
40~44
15~19
35~39
10~14
5~9
30~34
0~4
25~29
20~24
15~19
10~14
5~9
0~4
103.9万人
10~14
5~9
0~4
団塊の世代
40
60
80
0
20
40
60
80
安定し始める年の
た場合の2060
安定し始める
2060年
0
20
40
60
88.5万人
2060年
88.5万人
80
100
120
0
20
40
60
80
千人
93.8万人
出生数低下
20
人口展望が実現し
あらゆる世代が
人口展望が実現し
た場合の2060
年の
あらゆる世代が
93.8万人
若年層減少
0
90~
85~89
90~
80~84
85~89
75~79
80~84
70~74
75~79
65~69
60~64
70~74
55~59
65~69
50~54
60~64
45~49
55~59
40~44
50~54
35~39
45~49
30~34
40~44
25~29
35~39
20~24
30~34
15~19
10~14
25~29
5~9
20~24
0~4
15~19
若年層減少
100
120
100
120
千人
④
①
②
③
①
④
②
社人研推計(出生動向に変化がなく、社会増減は一定程度収束)
社人研推計をベースに出生率向上(2030年1.8、2040年2.07)
②に加え、対東京圏の社会増減ゼロ(国の総合戦略の考え方)
社人研推計(出生動向に変化がなく、社会増減は一定程度収束)
2040年に出生率2.07となり、2020年以降に本県の社会増減ゼロ
社人研推計をベースに出生率向上(2030年1.8、2040年2.07)
120
千人
78.4万人
78.4万人
③
68.4万人
③
68.4万人
②
千人
出生数低下
100
④
51.6万人
②
51.6万人
①
24.7万人
③ ②に加え、対東京圏の社会増減ゼロ(国の総合戦略の考え方)
① 24.7万人
2015 2020 2025 2030 2035 2040 2045 2050 2055 2060 2065 2070 2075 2080 2085 2090 2095 2100 2105 2110 2115
100 1950 1955 1960 1965 1970 1975 1980 1985 1990 1995 2000 2005 2010④
2040年に出生率2.07となり、2020年以降に本県の社会増減ゼロ
0
推計① 対策を講じず、減少傾向が続いた場合の社人研における推計
1950 1955推計②
1960 1965 1970
1975 1980 1985 1990 1995 2000 2005 2010
2015年までに人口置換水準(2.07
2020 2025 2030 2035 2040 2045 2050 2055
2060 2065 2070 2075 2080 2085 2090 2095 2100 2105 2110 2115
①をベースに合計特殊出生率が
2040
)まで回復した場合
推計③
推計①
推計④
推計②
推計③
推計④
7
②に加え、東京圏の社会増減を均衡させるとの国の総合戦略の目標が実現した場合
対策を講じず、減少傾向が続いた場合の社人研における推計
合計特殊出生率が 2040 年までに 2.07 まで回復し、2020 年以降に本県の社会減ゼロが実現した場合
①をベースに合計特殊出生率が 2040 年までに人口置換水準(2.07 )まで回復した場合
⇒ 2040 年に 103.9 万人
②に加え、東京圏の社会増減を均衡させるとの国の総合戦略の目標が実現した場合
合計特殊出生率が 2040 年までに 2.07 まで回復し、2020 年以降に本県の社会減ゼロが実現した場合
⇒ 2040 年に 103.9 万人
岩手経済研究 2016 年5月号
発展することが期待されます。
・ 地方が主役になる日本の姿が岩手で実現する
東京圏に集中している企業や大学の地方移転が進めば、子育
てをする若い世代が地方で働き、地方で子育てすることが当た
り前になる「地方が主役になる社会」が岩手で実現することが
期待されます。
2040 年には復興を確実に成し遂げ、内外の新たな発想と力で
8
岩手経済研究 2016 年5月号
場合、本県は将来的に次のような姿が期待
ボランティアの中には、移住された方もいます。
この推計に対し、合計特殊出生率が人口
・ 県外とつながり、新しい発想に岩手があふれる
できます。
からの様々な方とのつながりが生まれており、岩手で活動した
4 人口の展望が実現した場合の姿
な岩手の実現が期待されます。
置換水準(2・ )まで上昇した場合が②、
人口構造は、その後の将来人口の安定にもつながり、持続可能
3で示したような人口の展望が実現した
2060年頃には、あらゆる世代の人口が安定し始め、こうした
更に東京圏の社会増減を均衡させた場合が
暮らす
③の試算ですが、これら①から③の試算は、
・ 岩手で、子どもからお年寄りまで、あらゆる世代が生き生きと
いずれの場合も岩手からの人口流出が続く
)まで回復したとし
ため、仮に2040年に合計特殊出生率が
人口置換水準(2・
2040年に100万人程度の人口を確保
も視野に入れた人口の定常状態を目指し、
たものであり、超長期的な人口増の可能性
ての希望の実現」などの基本目標に呼応し
均衡」や、
「若い世代の結婚・出産・子育
年に東京圏から地方への転出数・転入数の
創生総合戦略」に掲げられた、
「 20 20
この目標は、国の「まち・ひと・しごと
期的な合計特殊出生率の向上を目指します。
2020年以降、社会減ゼロの実現と、長
これらの柱に沿ったふるさと振興を展開し、
てる」
、
「岩手で暮らす」の3つの柱を掲げ、
めをかけるため、
「岩手で働く」
、
「岩手で育
みにくさ」などを克服し、人口減少に歯止
起こす「働きにくさ」
、「子育てしにくさ」
、「住
したがって、本県では、人口減少を引き
ても、なお、人口は減少し続けます。
07
することを展望したものです。
<人口の展望が実現した場合の岩手県の姿>
07
東日本大震災津波からの復旧・復興の過程において、国内外
岩手県ふるさと振興総合戦略
人口流出に歯止めをかけられていません。
は一定程度確保されているにも関わらず、
立が困難であるといった就労環境の悪化な
いった経済的な理由や、子育てと仕事の両
口減少に歯止めをかけるためには、減少の
人口ビジョンで表したように、本県の人
めには、仕事に相応した賃金や安定した雇
れる中で、若者の県外流出を食い止めるた
の求人があり、本県との給与の格差も見ら
の待遇改善や、ワーク・ライフ・バランス
特殊出生率の向上を図るためには、職場で
性的な長時間労働の実態もある中で、合計
男性の育児休業取得率が低いことや、慢
どが背景にあるものと考えられます。
要因となっている若者の県外転出や合計特
用形態、やりがいを持って働ける職場づく
の実現による、子育てと仕事を両立させな
企業が集積する東京圏では、多様な職種
殊出生率の低迷等を克服していくことが必
りなど、雇用の質の向上を図っていくこと
1 ふるさと振興(地方創生)の3つの柱
要です。
がら働くことができる就労環境の整備を
が得られる仕事を創出し、岩手への新たな
合計特殊出生率の向上を目指す」ことを基
このため、
「社会全体で子育てを支援し、
図っていくことが重要です。
人の流れの創出を目指す」ことを基本目標
本目標に掲げ、
「若い世代の就労、結婚、子
このため、
「やりがいと生活を支える所得
が必要です。
さらに、岩手で豊かに暮らし続けていく
ためには、医療や教育など、生活基盤を強
このため、総合戦略においては、人口ビ
に掲げ、
「2020年に社会減ゼロ」を数値
化していくことも必要です。
ジョンで掲げた「岩手で働く」
、
「岩手で育
を上回る1・ 以
育てなどの願いに応え、出生率の向上を目
二つ目の柱は「岩手で育てる」です。
殊出生率の低迷に歯止めをかけるためには、
三つ目の柱は「岩手で暮らす」です。
医療・福祉や公共交通などの日常生活の
岩手で豊かに暮らしていくためには、生
合計特殊出生率の低迷の要因として挙げ
利便性や、教育環境の充実は、地域で豊か
社会全体で、若い世代の就労をはじめ、結
られる未婚化・晩婚化は、国が行った調査
活を支える基盤の強化を進め、地域の魅力
近年、本県の有効求人倍率は1・0を超
に暮らすための基礎となるものです。
婚から子育てまでを幅広くサポートするこ
45
向上を図っていくことが必要です。
⑶ 岩手で暮らす
上)
」を数値目標としました。
44
とが必要です。
本県の自然減の要因となっている合計特
指す(平成 年の1 ・
目標としました。
歳か
⑵ 岩手で育てる
てる」
、
「岩手で暮らす」の3つの柱に沿っ
た のプロジェクトによって総合的な取組
⑴ 岩手で働く
一つ目の柱は「岩手で働く」です。
本県の社会減の要因となっている
歳台前半の若者の県外転出に歯止めを
26
結果などから、子育て世代の所得の低下と
いのが就業です。
かけるために、特に注視しなければならな
ら
18
を進めていくこととしています(図6)
。
10
20
える状況が続いており、雇用の量について
岩手経済研究 2016 年5月号
9
岩手県人口ビジョン、岩手県ふるさと振興総合戦略について
解説
こ の た め、
「 医 療・ 福 祉
や文化、教育など豊かなふ
るさとを支える基盤の強化
を進め、地域の魅力向上を
目指す」ことを基本目標に
掲 げ、
「 住 み た い、 働 き た
い、帰りたいという人々の
願いに応えられる豊かなふ
るさと岩手をつくりあげる
(国民所得に対する県民所
93
得水準のかい離縮小(平成
年速報値を上回る ・4
以上)
)
」を数値目標としま
した。この目標は、豊かさ
を表す測定可能な目標とし
て設定したものであり、経
済的側面だけではなく、精
神的なものも含めた総合的
な豊かさを目指していくこ
とが必要です。
25
図6
3つの柱と施策推進目標
岩 手 で働 く
(1)やりがいと生活を支える所得が得ら
れる仕事を創出し、岩手への新たな人の
流れの創出を目指す施策
<施策推進目標>
若者の仕事や移住に関する願いに応え、
県外への転出超過を解消する社会減ゼロ
を目指します。
■人口の社会増減(年間)
△2,975人(H26)→ 0人(H32)※1
岩 手 で育 てる
(2)社会全体で子育てを支援し、出生率
の向上を目指す施策
<施策推進目標>
結婚や出産は個人の決定に基づくもの
であることを基本としつつ、若い世代の
就労、出会い、結婚、妊娠・出産、子育ての
願いに応え、出生率の向上を目指します。
■合計特殊出生率
1.44(H26)→ 1.45以上(H31)
岩 手 で暮 らす
(3)医療・福祉や文化、教育など豊かな
ふるさとを支える基盤の強化を進め、地
域の魅力向上を目指す施策
10のプロジェクト
商工業・観光産業振興、仕事創出プロジェクト
・ ものづくり・食産業等の振興による雇用の創出
・ 被災企業の再建支援による雇用の創出
農林水産業振興プロジェクト
・ 生産性・市場性の高い産地の形成、6次産業化の推進
・ 地域をけん引する経営体の育成、新規就業者の育成
ふるさと移住・定住促進プロジェクト
・ 全県的な推進体制の整備 ・ 移住情報の発信強化等
・ 相談窓口体制の強化 ・ 移住・交流体験の推進
就労、出会い、結婚、妊娠・出産まるごと
支援プロジェクト
・ 子育てしながら働きやすい労働環境の整備
・ 出会い・結婚支援の強化
・ 妊娠・出産に対する支援
子育て支援プロジェクト
・ 子育てにやさしい環境づくり
・ 保育サービス等の充実
・ 子どもに対する医療の充実と子育て家庭への支援
魅力あるふるさとづくりプロジェクト
・ 被災した沿岸地域のにぎわいのあるまちづくりの推進
・ 地域づくりの担い手の育成・新たな担い手の確保
・ 公共交通の利用促進 ・水と緑を守る取組の推進
文化芸術・スポーツ振興プロジェクト
・ 文化芸術活動の活発化と支援体制の構築
・ スポーツの振興による地域活性化の促進
若者・女性の活躍支援プロジェクト
<施策推進目標>
岩手に住みたい、働きたい、帰りたいと
いう人々の願いに応えられる豊かなふる
さと岩手をつくりあげます。
・ 若者間のネットワーク構築の促進
・ 地域における男女共同参画の推進
■国民所得に対する県民所得水準のかい離縮小
93.3(H25速報値)→ 93.4以上(H31)
※一人当たり所得水準(国=100)
・ 人材の確保・定着・育成 ・地域包括ケアシステムの構築
・ がん対策
・ 脳卒中予防 ・ 自殺対策
保健・医療・福祉充実プロジェクト
ふるさとの未来を担う人づくりプロジェクト
※1 国の総合戦略において、東京圏の転出入者均衡に
関する目標年次が2020年(H32)であり、国の取組と
呼応しながら取り組んでいきます。
・
「いわての復興教育」の推進 ・ 地域を担う「ひと」
の確保・養成 ・ 生涯を通じた学びの環境づくり
岩手経済研究 2016 年5月号
10
2 のプロジェクトと事業内容
年度は、総合戦略を実行に移して
3つの柱に沿った のプロジェクトに基づ
①商工業観光産業振興、仕事創出プロジェ
クト
②農林水産業振興プロジェクト
③ふるさと移住・定住促進プロジェクト
た医療や教育といった生活基盤の強化のほ
か、文化やスポーツの振興を図り、豊かに
いきいきと暮らす環境づくりを進めること
が必要です。
また、東日本大震災津波からの復旧・復
興の過程において、多くの若者が活躍して
おり、その活躍を支援していくことが必要
自然減に歯止めをかけるためには、子育
げ、地域の魅力向上に向けて取り組んでい
このため、次の5つのプロジェクトを掲
です。
てしながら働きやすい労働環境の整備や出
きます。
⑵「岩手で育てる」2つのプロジェクト
会い・結婚支援、各種保育サービスの充実
をはじめとした子どもを育てやすい環境を
このため、次の2つのプロジェクトを掲
③若者・女性の活躍支援プロジェクト
①魅力あるふるさとづくりプロジェクト
海産物をはじめ、本県が有する多彩な農林
げ、若い世代のライフステージに応じた支
④保健・医療・福祉充実プロジェクト
築いていくことが必要です。
水産物を生かした6次産業化等を推進しな
援を実施し、出生率の向上に向けて取り組
⑤ふるさとの未来を担う人づくりプロ
億円の関連事業を盛り込んでいます(図7)
。
ジェクトを推進する320事業、約1900
平成 年度当初予算には、
これら のプロ
ジェクト
②文化芸術・スポーツ振興プロジェクト
がら、活力ある農林水産業の実現を図り、
んでいきます。
を食い止めることが必要です。
ごと支援プロジェクト
②子育て支援プロジェクト
⑶「岩手で暮らす」5つのプロジェクト
10
また、岩手への新たな人の流れを生み出
すためには、岩手の魅力を発信し、岩手ファ
ンを増やしていくとともに、若者等への移
住・定住の支援を行うことが必要です。
このため、次の3つのプロジェクトを掲
豊かに暮らしていくためには、前に述べ
28
①就労、出会い、結婚、妊娠・出産まる
漁村や中山間地域における若者の県外流出
述べた雇用の質の向上と合わせて、三陸の
社会減に歯止めをかけるためには、前に
⑴「岩手で働く」3つのプロジェクト
ています。
き、積極的に事業を展開していくこととし
10
ふるさと振興の具体的な取組については、
いく重要な年です。
平成
10
28
げ、社会減ゼロに向けて取り組んでいきま
す。
岩手経済研究 2016 年5月号
11
岩手県人口ビジョン、岩手県ふるさと振興総合戦略について
解説
図7 10のプロジェクトに基づく主な平成28年度事業
岩手への新しい人の流れを生み出す「ふるさと振興」を総合的に推進するための取組
岩手で働く
岩手で育てる
社会全体で子育てを支援し、出生率の向上を目指す施策
やりがいと生活を支える所得が得られる仕事を創出し、
岩手への新たな人の流れの創出を目指す施策
■ 商工業・観光産業振興、仕事創出プロジェクト
■ 就労、出会い、結婚、妊娠・出産まるごと支援プロジェクト
・いわてで働こう推進事業費(8百万円)
・地域クラスター形成促進事業費(19百万円)
・いわてインバウンド新時代戦略事業費(111百万円)
・三陸総合振興推進費(53百万円)
・欧州県産品プロモーション推進事業費(29百万円)
・科学技術イノベーション創出促進事業費(21百万円)
・港湾利用促進費(3百万円) 他
・いわての子どもスマイル推進事業費(36百万円)
・いわてで家族になろうよ未来応援事業費(31百万円)
・特定不妊治療費助成事業費(123百万円)
・男性不妊治療費助成事業費(2百万円)
・周産期医療対策費(300百万円)
・生涯を通じた女性の健康支援事業費(6百万円) 他
■ 農林水産業振興プロジェクト
■ 子育て支援プロジェクト
・いわて農林水産ブランド輸出促進事業費(12百万円)
・むら・もり・うみ女子ネットワーク活動等応援事業費(5百万円)
・いわて農山漁村コミュニティ活性化支援事業費(13百万円)
・強い農業づくり交付金(1,319百万円)
・和牛オリンピック・総合優勝チャレンジ事業費(8百万円)
・いわての次世代林業・木材産業育成対策事業費(38百万円) 他
・地域子ども・子育て支援事業交付金(1,220百万円)
・子育て応援推進事業費(2百万円)
・子ども、妊産婦医療助成費(699百万円)
・保育対策総合支援事業費(111百万円)
・ひとり親家庭等セルフサポート事業費(57百万円)
・認定こども園施設整備費補助(51百万円)
・小児科救急医療体制整備事業費(27百万円)
・子育て支援対策臨時特例事業費(128百万円) 他
■ ふるさと移住・定住促進プロジェクト
・いわてまるごと売込み推進事業費(37百万円)
・いわてへの定住・交流促進事業費(140百万円)
・ふるさとづくり推進事業費(39百万円) 他
岩手で暮らす
医療・福祉や文化、教育など豊かなふるさとを支える基盤の強化を進め、地域の魅力向上を目指す施策
■ 魅力あるふるさとづくりプロジェクト
■ 保健・医療・福祉充実プロジェクト
・再生可能エネルギー導入促進事業費(55百万円)
・学びを通じた被災地の地域コミュニティ再生支援事業費(202百万円) 他
・医師確保対策推進事業費(998百万円)
・脳卒中予防緊急対策事業費(11百万円)
・地域包括ケアシステム基盤確立事業費(18百万円)
・生活習慣病重症化予防推進事業費(17百万円) 他
■ 文化芸術・スポーツ振興プロジェクト
・世界遺産登録推進事業費(50百万円)
・ラグビーワールドカップ2019開催準備費(48百万円) 他
■ ふるさとの未来を担う人づくりプロジェクト
・防災教育・復興教育推進事業費(10百万円)
・学校・地域の協働によるキャリア教育推進事業費(5百万円)
・いわてものづくり産業人材育成事業費(18百万円)
・岩手県立大学雇用創出研究推進事業費(12百万円) 他
■ 若者・女性の活躍支援プロジェクト
・いわて若者活躍支援事業費(11百万円)
・いわて女性活躍支援事業費(15百万円) 他
3 国を挙げて取り組むべきこと
人口ビジョンで分析したとおり、人口の
社会減には、地域の雇用環境が強く関係し
ています。
こうした環境は、国の経済政策や労働政
策によるところが大きく、県として、雇用
対策や産業振興に努めることはもちろんで
すが、国による政策が不可欠です。
日本の人口移動を見ると、首都圏への人
口流入が大きくなったのは、高度経済成長
やバブル経済など、首都圏と地方圏の格差
が拡大した時期でありました。
一方、本県の社会減が縮小傾向を見せた
のは、有効求人倍率が全国平均を上回る時
期と一致しており(図4(6ページ)参照)
、
地方重視の経済財政政策等の実施により、
地方の経済を活性化することが、地方から
の人口流出を抑制する一つの手段となりま
す。
また、合計特殊出生率の向上のためには、
出産や子育てに必要なサービスについて地
方の財政力によって差が出ないよう、乳幼
児や子どもの医療費助成の全国一律化など、
日本全国どこにおいても一定水準の高い
岩手経済研究 2016 年5月号
12
解説
岩手県人口ビジョン、岩手県ふるさと振興総合戦略について
出生地
総 数
北 海 道
1,310
東
北
1,407
北 関 東
1,675
東 京 圏
5,337
中部・北陸
3,626
中 京 圏
2,680
大 阪 圏
3,461
京阪周辺
822
中
国
2,037
四
国
995
九州・沖縄
3,895
外
国
316
計
27,561
北関東
0.9%
3.7%
81.3%
2.7%
1.1%
0.3%
0.1%
0.0%
0.1%
0.4%
0.4%
4.1%
6.0%
割合(%)
現 住 地
東京圏 中部・北陸 中京圏 大阪圏 京阪周辺 中 国 四 国 九州・沖縄
11.2%
2.2%
1.8%
0.6%
0.0%
0.2%
0.2%
1.0%
30.4%
2.4%
1.1%
1.1%
0.3%
0.2%
0.1%
0.6%
15.1%
1.0%
0.8%
0.6%
0.3%
0.2%
0.0%
0.4%
90.4%
1.7%
1.3%
1.5%
0.4%
0.6%
0.1%
0.9%
11.7% 81.6%
2.9%
1.4%
0.4%
0.4%
0.0%
0.2%
5.0%
1.5% 89.9%
1.5%
0.7%
0.3%
0.1%
0.8%
5.9%
1.3%
2.4% 79.9%
6.8%
1.4%
0.5%
1.5%
4.1%
0.9%
1.9% 10.9% 80.4%
0.9%
0.0%
0.7%
6.8%
0.7%
1.9%
7.0%
0.7% 79.7%
0.6%
2.1%
6.4%
0.8%
1.8%
9.8%
1.2%
2.6% 75.8%
1.0%
8.1%
0.9%
2.6%
4.2%
0.7%
1.7%
0.3% 80.8%
35.4%
8.5%
7.9%
8.9%
1.9%
7.9%
0.9% 16.1%
25.7% 12.0% 10.6% 12.7%
3.7%
6.7%
2.9% 12.4%
出典:国立社会保障・人口問題研究所「第7回人口移動調査」(2011年)
国においては、こうしたデータも踏まえ、
「地方創生はまず東北から」との意気込みを
持って、主体的な取組を進めていくことを
期待しています。
4 お わ り に
総合戦略に掲げた3つの柱とプロジェク
トを推進するためには、県のみではなく、
県民、市町村、企業、NPOなど、様々な方々
の参画が必要です。
あらゆる機会を通じてビジョンや総合戦
略の周知を図り、幅広く意見交換を行いな
がら、県民総参加の取組としてふるさと振
興に取り組んでいきますので、御理解と御
協力をお願いします。
〔お問い合わせ先〕
岩手経済研究 2016 年5月号
東 北
0.7%
58.0%
0.1%
0.1%
0.0%
0.0%
0.0%
0.1%
0.1%
0.1%
0.0%
0.3%
3.1%
県政策地域部政策推進室
政策担当
019‐629‐5508
〔ビジョン・戦略のホームページ〕
検索欄で「岩手県総合戦略」と検索
13
北海道
81.1%
2.0%
0.2%
0.4%
0.2%
0.0%
0.1%
0.0%
0.1%
0.0%
0.2%
7.9%
4.2%
サービスを受けられる制度創設等が、国の
図9 出生地ブロック別にみた現住地ブロックの状況
政策として望まれます。
<自然減対策(主なもの)>
・ 乳幼児等医療費助成の一律化
・ 地方単独医療費助成事業の現物給付化に
よる国庫負担金の減額調整の廃止
・ 子育てしやすい労働環境の整備
これらの内容を中心に、本県におけるふ
<社会減対策(主なもの)>
・ 地方重視の経済財政政策の実施
・ 地方への移住・定住の促進
・ 高等教育機関の地方分散、支援の充実
・ 雇用環境の改善
るさと振興を強力に推進するため、昨年6
図8 地方創生に関連した国への提言・要望
月、国に対して要望を行いました(図8)
。
引き続き、全国知事会等と
も連携しながら、要望してい
きます。
図9は、出生地ブロック別
に見た現住地ブロックの状況
58
ですが、東北ブロックの出身
者は、地元定着率が ・0%
と他ブロックに比べ低く、ま
た、東北ブロック出生者が東
京圏ブロックに留まる割合は
・4%と他ブロックに比べ
圧倒的に高いことが伺えます。
国は、全国的な人口減少の
要因の一つに、人口の「東京
一極集中」があることを指摘
していますが、図9の調査結
果 は、 東 京 一 極 集 中 問 題 が、
東京圏と東北圏の人口移動に
象徴されていることを示して
いると考えます。
30