要 旨 ヒトにおいて、尿酸は極めて強い抗酸化作用を持っていると言われており、そ の効果はビタミン C よりも強いとも報告されている。ヒトが長寿であるのは尿酸 のお蔭であるという説もあり、また、過去にも優秀な人に尿酸が高い方や痛風が 多いとも言われている。実際に過去の偉人であるダ・ヴィンチ、ニュートン、ダ ーウィン、ナポレオン、ゲーテはみな痛風を罹患していたことで知られている。 低い尿酸値を呈する腎性低尿酸血症は、その合併症として、尿路結石の他、運 動後急性腎障害があるため、自衛隊の医療でも問題となる。我々は、これまでに 腎 性 低 尿 酸 血 症 の 2 つ の 原 因 遺 伝 子 ( SLC22A12/URAT1 遺 伝 子 及 び SLC2A9/GLUT9 遺伝子)をそれぞれ陸上自衛隊員及び海上自衛隊員の症例解析に より世界に先駆けて同定し 1,2)、それ以降、腎性低尿酸血症 1 型及び 2 型と分類さ れるようになった。さらに、それらがともに生理学的には腎臓の尿酸再吸収トラ ンスポーター遺伝子であることも報告した 1,2)。 一方で、我々は高尿酸血症や痛風の主要病因遺伝子として、尿酸排泄トランス ポーター遺伝子 ABCG2 を同定し 3)、痛風の 8 割もの症例に 3 倍以上にリスクを 高める ABCG2 の遺伝子多型を認めることを報告した 3)。また、高齢発症の痛風 ばかりでなく、若年発症の痛風の主要病因であることも報告した 4) 。さらに、 ABCG2 遺伝子の解析を進めることにより、従来の腎排泄低下型に加えて、腎外 排泄低下型という新しい臨床分類を提唱し、これまでの定説を覆す知見を得るこ とができた 5)。約 5000 人の健診受験者を対象に解析したところ、高尿酸血症の人 口寄与危険度割合(PAR%)は、肥満が 18.7%、多量飲酒が 15.4%であるのに対して、 ABCG2 の遺伝子多型(2 か所のみ)は 29.2%であることがわかり、 「高尿酸血症患者 の約 3 割は ABCG2 の遺伝子多型が原因で発症した」ことを証明した 6)。そのほ か、臨床診断された痛風症例のゲノムワイド関連解析(GWAS)を世界に先駆け て実施して、 ABCG2 を含む 5 か所の痛風の遺伝子座を同定することができた 7)。 尿酸が高い人や痛風がある人は、パーキンソン病の発症年齢が遅くなると言 われていたが、我々は ABCG2 の遺伝子多型により痛風の発症年齢が有意に早く なることと、逆にパーキンソン病の発症年齢が有意に遅くなることを見出した 8)。 尿酸トランスポーター遺伝子を含めた尿酸関連疾患の研究からその病態が明 らかとなりつつあり、新規病型分類につながる成果となった。これらの研究を進 めることにより、その分子病態の更なる解明とゲノム個別化予防・治療への応用 も期待される。当日は最近の知見を含めて報告する。 参考文献 1. Enomoto A, Kimura H, Chairoungdua A, et al. Molecular identification of a renal urate anion exchanger that regulates blood urate levels. Nature. 2002,417: 447-52. 2. Matsuo H, Chiba T, Nagamori S, et al. Mutations in glucose transporter 9 gene SLC2A9 cause renal hypouricemia. Am J Hum Genet. 2008, 83: 744-51. 3. Matsuo H, Takada T, Ichida K, et al. Common defects of ABCG2, a high-capacity urate exporter, cause gout: a function-based genetic analysis in a Japanese population. Sci Transl Med. 2009, 1: 5ra11. 4. Matsuo H, Ichida K, Takada T, et al. Common dysfunctional variants in ABCG2 are a major cause of early-onset gout. Sci Rep. 2013, 3:2014. 5. Ichida K, Matsuo H, Takada T, et al. Decreased extra-renal urate excretion is a common cause of hyperuricemia. Nat Commun. 2012, 3: 764. 6. Nakayama A, Matsuo H, Nakaoka H, et al. Common dysfunctional variants of ABCG2 have stronger impact on hyperuricemia progression than typical environmental risk factors. Sci Rep. 2014, 4: 5227. 7. Matsuo H, Yamamoto K, Nakaoka H, et al. Genome-wide association study of clinically defined gout identifies multiple risk loci and its association with clinical subtypes. Ann Rheum Dis. 2016, 75: 652-9. 8. Matsuo H, Tomiyama H, Satake W, et al. ABCG2 variant has opposing effects on onset ages of Parkinson's disease and gout. Ann Clin Transl Neurol. 2015, 2: 302-6.
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