深層曝気装置および高濃度酸素水供給装置による DO 改善効果の検討

深層曝気装置および高濃度酸素水供給装置による DO 改善効果の検討
~ダム湖を事例として~
(株)建設技術研究所 森井 裕、斎藤 健、柳井 信一、○澤田 育則
国土交通省 四国地方整備局 山鳥坂ダム工事事務所 田窪 遼一
1. はじめに
愛媛県大洲市にある鹿野川ダム湖の下層では、夏
季に貧酸素化が顕著となり、マンガンやリン等の濃
度が上昇する傾向があった。既設の曝気循環装置に
より EL+50m までは DO が改善されており、EL+50m 以
深を対象とし、深層曝気装置、高濃度酸素水供給装
置が設置され、平成 26 年より試行運用が行われてい
る。この両装置の DO 改善効果を検証するとともに効
果的な運用方法を確立することを目的として現地調
査をし、地形条件や装置の特徴に着目して改善効果
を考察した。
2. 深層曝気装置・高濃度酸素水供給装置の概要
深層曝気装置、高濃度酸素水供給装置は、水深が
大きい堰堤直上の 0.06k、
0.12k に設置されている(表
1、図 1)。平成 27 年は、3 月から 11 月の間両装置
の同時運用が実施され、11 月初旬から中旬に高濃度
酸素水供給装置の単独運用が実施された(図 2)。
表 1 深層曝気装置、高濃度酸素水供給装置の諸元
装置名
設置数
1基
H26
高濃度酸素水
供給装置
1基
H26
貯水池運用(H27)
(m3 /s)
放 流量
200
流 入量
貯 水位
分 布観測
(EL+m)
90
160
84
120
78
80
72
40
66
0
3/1
4/1
5/1
6/1
7/1
8/1
9/1
水質保全装置運用実績
:分布観測地点
:分布観測、採水地点
:連続観測地点
深層曝気装置
10/1
11/1
高 濃度
60
深層
貯水池、装置運用図
水温・DO 鉛直分布観測(1 回/月)
分布観測+湖底上 1.0mMn 等(1 回/月)
湖底上 0.5m 水温・DO(1 回/2 時間)
1.0k
(EL+m)
60
高濃度吐出口
深層吐出口
55
洪水制限水位(EL+81.0m)
高濃度吸込口
深層吸込口
50
高濃度酸素水供給装置
45
仮締切堤横断図
40
30
50
70
90
110
高濃度酸素水
供給装置
130
150
(m)
曝気循環装置散気位置
EL50.0
EL47.2:吐出口
EL46.7:吸込口
EL48.0:吐出口
EL44.0:吸込口
仮締切堤
図 1
連続観測では、
ダム湖 3 地点に観測地点を設定し、
湖底上 0.5m にメモリー式 DO 計(JFE アドバンテック
RINCO-W)を設置した(図 3)。観測は 3 月~12 月の間
実施し、2 時間間隔で水温・DO を計測した。データ
の回収は 1 ヶ月に 1 回の頻度で行い、その都度機器
点検を実施し機器に異常がないことを確認した。
図 2
EL44m(水深37m※)
EL48m(水深33m※)
1240m3/hr
EL46.7~51.7m(水深29~34m※)
EL47.2~52.2m(水深29~34m※)
80m3/hr
吸込口
吐出口
水量
吸込口
吐出口
水量
※洪水期制限水位時(EL81m)の水深
深層曝気装置
(2) 連続観測
諸元等
運用開始
深層曝気装置
さらに、ダム湖 4 地点 (図 3)において、湖底上
1.0m で採水を行い、Mn,T-P 等の分析を実施した。
装置設置縦断イメージ図
3. 現地調査の方法
現地調査は、以下の 2 つの調査を実施した。
(1) 分布観測
分布観測では、鹿野川ダム湖において縦横断的に
観測地点を設定(図 3)し、水温・DO の鉛直分布の観
測を 3 月~11 月に月 1 回程度の頻度で実施した。観
測地点には GPS で座標を確認して舟で移動し、ケン
ナワで水深を計測しながら対象湖底標高となるよう
舟の位置を微修正して地点を決定した。水温・DO の
観測は、船上から多項目水質計を下ろし、表層(0.5m)、
1/4 水深、1/2 水深~底上 1m:1m 間隔、底上 0.5m で
観測を行った。
2.0k
図 3 調査地点図
4. 調査結果の分析
(1) DO 改善効果の空間的変化
5 月の分布観測結果では、両装置同時運用により
1.8k 程度まで DO 改善効果が確認された(図 4)が、
2.0k より上流へは到達しなかった。2.0k 付近に存在
するマウンド(天端標高 EL+53.3m)のため DO 改善効
果が 2.0k より上流へ及ばなかったと考えられる。両
装置運用なし(H22 定期観測)と比較すると、貧酸素の
領域を縮小していた。また、H26 に実施した高濃度酸
素水供給装置の単独運用時の DO 改善効果範囲は、2
週間の運用で装置から 300m 程度であったが、H27 は
同時運用により高濃度酸素水の一部を取り込むこと
で改善範囲が拡大した。
6-8 月は高濃度酸素水供給装置より上流側の一部
範囲で底上 0.5m の DO が改善しにくくなっていた。
これは、下層において水温が上昇し DO 消費速度が上
昇したことや深層曝気装置(吸込口:EL+44m)により
高濃度酸素水の一部が取り込まれたこと等が要因と
推察される(図 5)。
一方で、高濃度酸素水供給装置より上流側の一部範
囲で底上 0.5m の DO が改善しにくくなることが確認
された。これは、深層曝気装置が高濃度酸素水供給
装置の高 DO の一部を引き込み、吐出させていること
が要因の一つと推察される。そのため、今後はこの
ような特徴を踏まえて効果的な運用方法を検討する
必要がある。
仮締切堤切欠部横断標高(m) (EL+m) DO(H27.7.14)
(2) DO 改善効果の時系列変化
3/21 の出水後より 水温成層が 明らかとなり 、
0.5k,1.0k で DO が低下を開始、5 月後半に 1.0k で
0mg/L となり 8 月後半には全地点で DO が 0mg/L とな
った(図 6)。9/24 出水により DO が上昇したが、11/6
に同時運用から高濃度酸素水供給装置の単独運用に
切り替わると 0.5k,1.0k では DO が低下した。
その後、
11/18 出水により循環期に移行したと考えられる。
両装置が停止したすべての停止期間に 0.05k にお
いて停止直後から DO が急激に減少した(図 6)。
6/10-14 の停止期間では、停止後 10.5mg/L から 3 日
程度で 0.05mg/L まで DO が減少(図 7)した。両装置
は当初、出水時には運用を停止していたが、装置停
止直後から DO が急激に減少することから出水時にも
連続運用するよう運用方法を見直した。
(3) 溶出抑制効果
140
120
高 DO が切欠き部を 100
通過し下流方向へ
80
切欠部
60
高濃度酸素水
40
供給装置
20
高濃度近傍
0
140
0
40
80 120 160
(m)(m)
(m)
深層吸込口
34 40 44 47 50 56 62 68 74 80 深層吸込口
86 95 (EL+m)
深層曝気装置
図 5
DO(H27.5.19)
(EL+m)
60
深層曝気装置
55
50
45
40
0
0.5
(EL+m) 仮締切堤
60
55
50
45
40
0
0.5
(EL+m)
60
55
50
45
40
0
0.5
高濃度酸素水供給装置
1
2
3
4
5
6
切欠部は深層吸込口付近で上昇
0
5
10 15 20 25
(mg/L)
(mg/L)
高濃度近傍 高濃度近傍
仮締切堤切欠部
水温(自動観測装置,鹿野川ダム直上流)
75
65
55
45
出水により下層が安定化
6
8
10
12
14
16
18
20
22
(mg/L)
20
0.05k
0.5k
1.0k
深層
高濃度
データ欠損
10
0
高濃度単独運用
水温成層形成
により DO 低下
3/1
3/31
4/30
図 6
5/30
6/29
7/29
8/28
9/27
10/27
11/26
DO 連続観測結果(日平均)
DO(0.05k,湖底上0.5m)
(mg/L)
20
15
10
5
0
6/10
55
(℃)
装置の停止
15
5
24
DO(連続観測,湖底上0.5m)
底上+0.5m
深層
高濃度
装置停止直後:10.5mg/L
停止後78.0時間:0.05mg/L
6/11
図 7
6/12
6/13
6/14
6/15
6/16
6/17
両装置停止期間:93.0時間
装置停止時の DO 時間変化(連続観測)
50
H18-26最大値
(mg/L)
DO(0.05k,湖底上1.0m)
H18-26平均値
15
EL+60m 以深拡大図
H18-26最小値
12
40
9
1
1.5
2
2.5 (km) 0 3 6 9 12 15 (mg/L)
6
DO(H27.6.17)
(EL+m) DO鉛直分布(6月)
3
60
0
1月 2月 3月 4月 5月 6月 7月 8月 9月 10月 11月 12月
55
50
(mg/L)
T-P(0.05k,湖底上1.0m)
0.20
45
0.15
DO が改善しにくい EL+60m 以深拡大図
40
1
1.5
2
2.5 (km) 0 3 6 9 12 15 (mg/L) 0.10
0.05
DO(H27.9.9)
(EL+m) DO鉛直分布(9月)
0.00
60
1月 2月 3月 4月 5月 6月 7月 8月 9月 10月 11月 12月
55
(mg/L)
T-Mn(0.05k,湖底上1.0m)
50
6
※定期観測 T-Mn は、H22-H26 のみ
45
4
EL+60m 以深拡大図
45
1
○:深層・高濃度吐出口
0
(EL+m) DO鉛直分布(5月)
60
近傍は高濃度
吐出口で上昇
仮締切堤切欠部の DO 鉛直分布
(EL+m)
85
0.05k 地点の湖底上 1.0m における水質の変化を図
8 に示す。8 月を除き、3-10 月に底層 DO の低下が抑
制され、4-10 月において過去の各月の DO 最大値を超
えていた。また、DO の低下に伴い、T-Mn が上昇した
が、過去の定期観測 Mn と比較して低く、6-10 月 (8
月を除く)の各月における T-Mn 最小値を下回った。
T-P においても、各月における過去の定期観測の平均
値を下回っており、両装置の同時運用による溶出抑
制効果と判断される。
5. まとめ
本研究では、現地調査を行いその結果をもとに特
徴の違う両装置の同時運用による DO の改善効果、溶
出抑制効果について考察を行った。その結果、年間
を通じて下層 DO を概ね改善し、マンガン等の溶出が
抑制されていることを確認した。また、両装置同時
運用により効果範囲が拡大することを確認したが、
60
58
56
54
52
50
48
46
44
42
40
7
1.5
△:曝気循環吐出口
8
40
2.5 (km) 0 3 6 9 12 15 (mg/L)
2
白縦線:観測位置
9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20
図 4
(mg/L)
DO 縦断分布図
2
0
堰 堤(0.05k,H22)
定期観測,両装置運用なし
定 期観測 ,両 装置運 用なし
中央(2.4k,H22)
0.05k(H27)
分布観測,両装置同時運用
2.4k(H27)
1月 2月 3月 4月 5月 6月 7月 8月 9月 10月 11月 12月
定期H18-H26平均(堰堤)
分布観測結果(0.05k)
図 8
底層における水質の変化