高次脳機能障害者に対する支援と神経心理学的検査結果の推移

高次脳機能障害者に対する支援と神経心理学的検査結果の推移
富山県高次脳機能障害支援センター
吉野修、野村忠雄、柴田孝、砂原伸行、糸川知加子、堀田啓
山本津与志、岡畑佳代子、山下朋之、山本浩二、萩原裕香里
【はじめに】
富山県高次脳機能障害支援センターでは、これまで個々の高次脳機能障害者の状況に合わせて、
個別的認知リハビリテーション、認知グループ療法、ならびに様々な生活支援や就学・就労支援
を行ってきたが、それらの支援により高次脳機能障害の改善が得られているか否かについては十
分に把握できていなかった。そこで、今回、神経心理学的検査結果の推移に注目し、調査した。
【対象・方法】
2007 年 1 月から 2011 年 12 月までに富山県高次脳機能障害支援センターに登録された 216 名
のうち、神経心理学的検査を 2 回以上施行した 16 名を対象とした。対象者の年齢、性別、疾患、
支援の内容、神経心理学的検査結果等について、後方視的に調査した。また、初回の神経心理学
的検査が受傷・発症から 2 年未満に施行されている群(12 名)を回復期群、2 年以上経ってから
されている群(4 名)を慢性期群とし、2 群に分けて、神経心理学的検査結果の推移を検討した。
【結果】
対象者の内訳は、男性 15 名、女性 1 名、頭部外傷 11 名、脳卒中 4 名、低酸素脳症 1 名であり、
初回相談時の平均年齢は 34.9±13.9 歳(平均±標準偏差)であった。
WAIS-Ⅲ(FIQ)の推移をみると、回復期群では、受傷・発症後 1~2 年はやや急な改善を示し、
その後約 4 年までは緩やかな改善を認めていたが、慢性期群においては明らかな改善は認められ
なかった(図1)。
回復期群、慢性期群別の支援の実際については、表1にまとめた。支援内容に関しては両群で
明瞭な差異はないが、認知リハビリを行ったのは回復期群が 12 名中 6 名であり、慢性期群の 4
名中 1 名より多い傾向にあった。また、回復期群、慢性期群別に就労等の現状について調査した
結果、就学・就労(福祉的就労も含める)に至っているのは回復期群 12 名中 8 名、慢性期群 4
名中 3 名であった(表 2)。
回復期群と慢性期群における各種神経心理検査の推移を比較検討すると、回復期群においては、
WAIS-Ⅲの FIQ・PIQ・VIQ、WMS-R の一般的記憶・言語性記憶・注意集中力・遅延再生にお
いて有意な改善を認めたが、TMT-A/B、RBMT、BADS においては明らかな改善は認めなかった
(表 3、4)。慢性期群においては、WAIS-Ⅲの知覚統合においてのみ有意な改善を認めた(表 3)。
また、回復期群を 40 歳未満(6 名)と 40 歳以上(6 名)とに分けて比較検討すると、FIQ が
40 歳未満の群は初回評価時 73.5±23.1 から最終評価時 93.2±20.3 と有意に改善を認めた(p=
0.032)が、40 歳以上の群では、83.0±18.0 から 90.2±9.9 と明らかな改善は認められなかった
(p=0.141)。さらに、回復期群において認知リハビリ施行群(6 名)と非施行群とで比較する
と、認知リハビリ施行群においては FIQ が初回評価時 76.2±23.0 から最終評価時 86.8±18.8 と
有意な改善を認めた(p=0.005)が、非施行群(6 名)においては 80.3±19.3 から 96.5±10.3
であり有意な改善は認めなかった(p=0.487)。
【考察・まとめ】
高次脳機能障害は、一般に1~2 年かけて改善する傾向にあると言われているが、当センター
における調査においても同じ傾向が認められた。WAIS-Ⅲ(FIQ)の推移をみると、回復期群に
ておいては有意な改善を認めた(図 1、表 3)。また、その中で、40 歳未満の群、認知リハビリ
を施行した群において、より明らかな改善を認めていた。高次脳機能障害者への支援に関しては、
個々の障害の程度、本人・家族のニーズ等に合わせ、包括的な支援計画を策定することが重要で
あるが、今回の調査結果を踏まえると、受傷・発症から 1~2 年の比較的早い時期には認知リハ
ビリを行うことも重要と思われる。
本調査において、慢性期群においては明らかな改善は認められなかった(図1、表 3)が、認
知グループ訓練を行った 1 名のみに FIQ の緩やかな改善が認められた。慢性期における認知グル
ープ訓練の効果については、今後、症例数を増やして検討すべきと思われた。
今回の調査では対象者が 16 名と少なく、神経心理学的検査結果の推移の詳細な検討や支援方
法や経過別の神経心理学的検査結果の比較検討などは十分にできなかった。神経心理学的検査の
再評価症例を増やし、詳細な検討を進めることが今後の課題である。
図1:受傷・発症からの WAIS-Ⅲ(FIQ)の継時的推移
表1:回復期群・慢性期群別の年齢、支援内容
回復期群(12 名)
慢性期群(4 名)
相談時平均年齢
38.4 歳
24.5 歳
認知リハビリ
6名
1名
就学支援
1名
0名
就労支援
5名
2名
生活支援
2名
1名
他機関連携
6名
3名
診断書作成
10 名
4名
(重複あり)
表 2:回復期群・慢性期群別の現状
回復期群(12 名)
慢性期群(4 名)
就労・就学
6名
2名
福祉的就労
2名
1名
認知リハビリ継続中
3名
0名
社会参加なし
2名
1名
(重複あり)
表 3:回復期群・慢性期群別の神経心理学的検査(WAIS-Ⅲ)の推移
P値
回復期群
回復期群
慢性期群
慢性期群
(初回評価)
(最終評価)
FIQ
78.3±20.4
91.7±15.3
PIQ
76.8±21.0
VIQ
P値
(初回評価)
(最終評価)
0.006*
71.8±17.2
73.3±22.0
0.595
92.3±14.5
0.004*
70.0±19.5
73.8±18.8
0.080
81.9±16.8
92.2±14.0
0.007*
79.0±15.4
76.3±22.2
0.626
言語理解
86.8±16.8
96.5±13.6
0.053
84.3±19.7
79.8±24.4
0.642
作動記憶
75.3±15.3
81.4±12.9
0.189
74.5±14.8
73.5±18.9
0.886
知覚統合
88.4±19.5
99.5±15.6
0.011*
75.8±20.4
84.5±20.9
0.028*
処理速度
64.7±13.4
77.5±13.0
0.014*
54.0±4.3
58.3±6.7
0.308
(mean±SD,paired t-test, *p<0.05)
表 4:回復期群・慢性期群別の神経心理学的検査(その他)の推移
回復期群
回復期群
(初回評価)
(最終評価)
WMS-R(一般的)
63.7±12.1
76.3±21.7
(言語性)
64.1±11.5
(視覚性)
P値
慢性期群
慢性期群
(初回評価)
(最終評価)
0.018*
68.8±17.8
73.3±21.2
0.417
78.7±19.3
0.002*
74.8±17.1
78.8±14.8
0.335
76.6±19.3
83.5±23.4
0.255
71.8±11.8
73.3±27.8
0.896
(注意集中力)
82.5±11.1
91.8±14.1
0.037*
74.5±16.5
79.0±17.3
0.229
(遅延再生)
53.6±7.9
74.3±22.1
0.005*
68.3±19.4
58.8±14.4
0.128
RBMT(点)
11.6±6.4
14.0±6.6
0.067
16.0±7.1
16.0±8.5
1.000
TMT-A(秒)
137.0±41.0
111.0±31.3
0.234
150.5±27.4
161.3±51.2
0.544
-B(秒)
208.0±122.8
159.0±71.3
0.375
200.8±40.4
207.0±83.6
0.822
17.2±4.2
19.5±2.4
0.141
12.0±2.8
15.0±1.4
0.500
BADS(点)
P値
(mean±SD,paired t-test, *p<0.05)