実験法・目的と方法

2016/5/30
広い話
• 人は普段から「好き嫌い」の判断をしながら生
活している
• 人や物についてなんでも
目的~方法
研究法ⅡA 実験法
認知心理学研究室D5 田根健吾
• ではその好き嫌いはどうやって決まるのか
広い話
広い話
• 対象の特徴によって決まる好み
• 対象の特徴によって決まる好み
• 例: 左右対称性 平均的
• 例: 左右対称性 平均的
→それぞれの中にある「好み」に合致するかどうか
→それぞれの中にある「好み」に合致するかどうか
私は左右対称な顔が好きだ
きらい。
広い話
広い話
• 対象の特徴によって決まる好み
• 評価する側との関係性によって変わる好み
• 例: 左右対称性 平均的
• 好みは変化することがある
→それぞれの中にある「好み」に合致するかどうか
・・・すき。
→だんだん好きになることがある?
100万人に1人レベルの左右対称顔
1
2016/5/30
先行研究
先行研究 - Zajonc (1968) -
• 単純接触効果(mere exposure effect)
• Zajonc (1968)
• 実験手続き:
まず参加者に刺激を見せる。各刺激の呈示回数に違い
があり、1回、2回、5回、10回、25回のいずれか。
• 参加者:ミシガン大学の学生
• 刺激:漢字(参加者は意味を知らない)
・・・・・・計12文字
1回
先行研究 - Zajonc (1968) -
2回
10回
5回
25回
先行研究 - Zajonc (1968) -
• 実験手続き:
全ての刺激呈示終了後、呈示していない漢字を加えて、
それぞれの漢字に対する印象を7件法で答えさせる。
• 結果
「この漢字は良い印象ですか?1~7で回答してください」
(×刺激個数分)
先行研究
• つまり、単純に繰り返し見ているだけでも、その
対象の好意度が上昇する。
→「単純接触効果」と呼ばれ、心理学において
非常に重要な概念とされる。
• その後の追試
• 顔やポスターなどさまざまな刺激でも生じる
• 閾下呈示でも生じる。
→頑健な現象であると考えられている。
(多少変数をいじっても安定して観察される)
• 刺激の呈示回数が多い漢字ほど好意度が高かった!!
先行研究
• なぜ単純接触効果が生じるのか?
• 知覚的流暢性誤帰属説(Bornstein & D’Agostino, 1992)
• 一度見たことのある刺激は、情報処理が楽になる。
波!
波しぶき!
扇!
扇の模様は
日の丸?
右下から左上への
流れを感じる!
2
2016/5/30
先行研究
先行研究
• なぜ単純接触効果が生じるのか?
• なぜ単純接触効果が生じるのか?
• 知覚的流暢性誤帰属説(Bornstein & D’Agostino, 1992)
• 知覚的流暢性誤帰属説(Bornstein & D’Agostino, 1992)
• 一度見たことのある刺激は、情報処理が楽になる。
• 一度見たことのある刺激は、情報処理が楽になる。
→認知的負荷が小さくなるため、ポジティブな印象になる。
かぶ!!
葉っぱ6枚!
さっき見たやつ!
付け根の
しわ!
葉脈かなり細かい!
既に処理された情報
を再構成するだけ
一般的な向きの置き方!
問題提起
実験計画について
• 知覚的流暢性誤帰属説によれば、どんな刺激でも
単純接触効果が生じると考えられる。
・・・しかし
• 単純に刺激を嫌悪刺激に変えるだけではダメ
• しかし、例えば「嫌悪感」があるような刺激でも同じだろう
か?
• 嫌悪感がある刺激を繰り返し見たところで、「嫌な感じ」が
強くなるだけではないだろうか??
• 中性的な刺激や魅力度の高い刺激における
単純接触効果との違いがわからなくなってしま
う。
↓↓↓
• 嫌悪感がある刺激でも単純接触効果が生じるか?
実験計画について
実験計画について
では、普通の刺激と嫌悪刺激で比較する?
では、普通の刺激と嫌悪刺激で比較する?
それでも不十分!
• 嫌悪感を生じる刺激で単純接触効果が生じなかった
⇒「嫌悪感のある刺激だから」生じなかった?
⇒「刺激の他の特徴が影響したから」生じなかった?
それでも不十分!
• 嫌悪感を生じる刺激で単純接触効果が生じなかった
⇒「嫌悪感のある刺激だから」生じなかった?
⇒「刺激の他の特徴が影響したから」生じなかった?
普通の刺激
類似度 低
↓↓↓
刺激自体の特徴を揃える必要がある
⇒条件間で同じ刺激を用いる
嫌悪刺激 類似度 高
接触経験の般化
生じた!!
生じなかった!!
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2016/5/30
実験計画について
刺激の選定
• 一般に、「目が合う顔刺激」は魅力的に知覚される
(Conway, Jones, DeBruine, & Little, 2007)
• そこで、参加者によって嫌悪感が異なる刺激を用い
て、刺激に対する嫌悪感が強い人と弱い人で
単純接触効果の生じ方に違いがあるかを調べる。
• 一方で、対人不安が高い者は他者と視線を合わせ
ることを嫌悪する傾向がある (Griest, 1995)
つまり、
⇒この条件を満たす刺激を選ぶ。
参加者の対人不安傾向の高さによって、「目が合う
顔写真」に対する嫌悪感は変化する。
⇒実験の目的に合致!
目的
• 刺激に対する嫌悪感が、単純接触効果に与える影
響を検討する ←本実験の目的!
目的
方法の簡単な説明としては・・・
• 刺激として「目が合う顔写真」を用い、参加者の対人不安傾向に
よって単純接触効果の生じ方に違いがあるか比較する。
• 実験手続き簡略化のために、刺激呈示回数が
0回の刺激(非接触刺激)と1回の刺激(接触刺激)
で好意度を比較する。 ⇒ 単純接触効果の指標
• 対人不安傾向の高い群と低い群に分けた時、単純接触効果の生
じ方に違いがあるか比較する。
⇒ 刺激に対する嫌悪感が単純接触効果に影響するか否か
• 知覚的流暢性誤帰属説の検討を通して,単純接触効果のメカニズ
ムについて理解を深めることができる。←本研究の意義
仮説と予想される結果
仮説
• 刺激に対する嫌悪感がある場合、単純接触効果は
生じない
予想される結果
• 対人不安傾向の低い群(刺激に対する嫌悪感が弱い)
⇒接触刺激と非接触刺激の好意度に差が生じる
• 対人不安傾向の高い群(刺激に対する嫌悪感が強い)
⇒接触刺激と非接触刺激の好意度に差が生じない
• 次は
方法です!
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2016/5/30
方法の構造
実験参加者
方法
(method)
実験参加者
(participants)
実験装置
(apparatus)
刺激
(stimuli)
手続き
(procedure)
実験計画
(experimental design)
実験装置
• 刺激呈示に使ったもの
• パソコン DELL社製コンピュータ OptiPlex 990SF
• ディスプレイ 19インチモニタ
• 刺激制御ソフト -Microsoft Power Point2007
• 反応取得に使ったもの
• 回答用冊子 -再認課題、好意度評定用
• 質問紙 -日本版社会的相互作用不安尺度(原井, 2002)
• 実験に適した参加者であったかどうか
• 今回の刺激は視覚刺激
• 人数
• 男女の比率
• ⇒実験は集団で行った。視力の正常な大学生
73名(男性11名、女性62名)が一度に実験に
参加した。
質問紙について補足
• 「社会的相互作用不安尺度」
・・・なんて大層な名前がついていると、少し怖く感じる
人もいるかもしれない。しかし・・・
• 質問紙は、実際のパーソナリティのほんの一部分を推
測するための目安に過ぎない。(特に今回のものはか
なりの簡易版。)
• また、「不安」というものにもポジティブな役割、適応的
な意義があるという主張もあり、
「不安傾向が高いこと」=「悪いこと」では断じてない!
刺激
手続き
• 顔刺激
• 実験の流れ
• 男女20枚ずつ 計40枚
• Web上に公開されているヘアカットモデルの写真
(顔写真自体の魅力度を高く保つため)
• 正面に視線を向けているもの
• 背景が白に近いもの
• 学習段階
↓↓
• 再認段階
↓↓
• 質問紙回答
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2016/5/30
手続き -学習段階-
手続き -再認段階-
• 刺激の半数、男女各10枚を学習段階で使用
• 学習段階で呈示しなかった20枚を含む、全40枚の刺激を呈示
• 予備実験で魅力度を測定し、男女とも残りの10枚との間で魅
• 男女交互に1枚ずつ呈示
• できるだけ記憶するよう教示
• 参加者は各刺激について、学習段階で呈示されたものかどう
力度に差が生じないよう調整
• 男性刺激と女性刺激は交互に呈示
• まず注視点を画面中央に1000ms呈示
• 次に顔刺激を画面中央に1枚ずつ2000ms呈示
手続き -質問紙-
• 再認段階終了後、質問紙へと回答。
かを、「あった」または「なかった」に丸を付ける形で回答
• 同時に、刺激についての好意度を7件法で評定。1を「非常に
好ましくない」、7を「非常に好ましい」とした。
• 学習段階で呈示した刺激が呈示される順番はあらかじめラン
ダム化し、特定のパターンが生じないよう制御した。
実験計画
• 今回の従属変数は・・・?
• 刺激に対する好意度評定値
• 質問項目は19項目。代表的な項目を2つ程度記載する。
• それぞれの項目が自分にどの程度当てはまるかを5件
法で回答。
• 1を「自分の性格や自分についての事実を全く表してい
ない」とし、5を「自分の性格や自分についての事実を
大変よく表している」とした。
実験計画
• 各要因は「参加者内」なのか「参加者間」なのか
→各参加者が、要因の中にあるすべての水準に参
加しているかどうかで見極める。
→すべての水準に参加しているなら「参加者内要因」
→1つにしか参加していないなら「参加者間要因」
接触経験の有無(接触/非接触)を○○○要因、参
加者の対人不安傾向(高/低)を△△△要因とする、
2×2の混合計画
• 今回の独立変数(要因)は・・・?(2つあります!)
• 接触経験の有無(2水準:接触/非接触)
• 参加者の対人不安傾向(2水準:高/低)
→質問紙得点を順番に並べ、高い方から半数を不安傾向高群、もう
半数を不安傾向低群とする。
引用文献
• Zajonc, R, B. (1968). Attitudinal effects of mere exposure.
Journal of Personality and Social Psychology Monograph
Supplement, 9 (No.2 Part.2), 1-28.
• Bornstein, R. F., & D'Agostino, P. R. (1992). Stimulus
recognition and the mere exposure effect. Journal of
personality and social psychology, 63(4), 545-552.
• Conway, C. A., Jones, B. C., DeBruine, L. M., & Little, A.
C. (2007) Evidence for adaptive design in human gaze
preference. Proceedings of The Royal Society: Biological
Sciences. 275, 63-69.
• Griest, J. H. (1995). The diagnosis of social phobia.
Journal of Clinical Psychiatry. 56, 5-12.
• 原井弘明 (2002). 日本版社会恐怖尺度(SPS), 日本版社会的
相互作用不安尺度(SIAS)の開発 日本行動療法学会大会発表
論文集 28, 50-51.
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2016/5/30
今回の達成目標
主張についての根拠が書かれている
• 主張についての根拠が書かれている。
• 論文は常に論理的なもの
• 文章は論理的に連結されているべき
• 追試研究ができるだけの情報が書かれている。
• 原則的には、
「~と考えられる。」「~と主張した。」の前には、
「~であるため、」「~ということから、」のように、
根拠を示す文章が来る。
• もしくは、
「例えば~」「~という研究がある(引用)。」のように、
間接的に主張を補強することもできる。
主張についての根拠が書かれている
追試研究ができるだけの情報が書かれている
• 今回のレポートで特に気をつけるポイント
– 知覚的流暢性誤帰属説が正しいならば、どんな刺
激でも単純接触効果が生じると考えられる根拠
– なぜ単純に嫌悪刺激を用いるだけではダメなのか
• 他の箇所も根拠が必要な部分はたくさんある。
なるべく気をつけて、実験に至るまでのお話を
整理しよう!
• ただし、
なんでも書けば良いというわけではない。
• この研究の目的や、測定対象について考え、「研究
ごとに違っていたら問題が生じる」と考えられる部分
について書く。
• 今回のレポートで特に気をつけるポイント
– 実験時の室内の様子
– 参加者はどのように刺激を呈示されたのか
• まずはレジュメに書かれた情報を漏らさず書く。
• 何も知らない読者の気持ちで読み直し、イメージ
がしにくい部分に関して説明を足す。
• より読み手に伝わりやすくなるように、文章を工
夫する。
• 提出について
• 6/2(木)15:30まで 厳守!!
• 9号館5階 図書資料室の入口付近提出BOX 名簿に
チェック
• ホチキス止めしたレポート2部をクリップでまとめて提
出(クリップが不足する場合があるのでなるべく持参)
• 今回は「表紙、要約、問題と目的、方法、引用文献」
について(付録は不要)
• 「今までの達成目標」+「今回の達成目標」と、チェッ
クリストが基準。
• 基準に満たない者は再提出の可能性あり。
• 質問について
• 授業パワポ等は http://pweb.sophia.ac.jp/c-michim/
• 質問は 田根 [email protected]
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