マルコフ連鎖モデルを用いた道路橋橋台に おける凍害の

平成27年度
マルコフ連鎖モデルを用いた道路橋橋台に
おける凍害の現状把握
国立研究開発法人土木研究所
国立研究開発法人土木研究所
国立研究開発法人土木研究所
寒地土木研究所
寒地土木研究所
寒地土木研究所
寒地技術推進室
耐寒材料チーム
耐寒材料チーム
○川村 浩二
遠藤 裕丈
島多 昭典
コンクリート構造物の長寿命化を図るには適切な維持管理が必要である。特に積雪寒冷地に
おいては、凍結融解と塩化物による劣化に対する耐久性設計法の充実が求められる。本論文で
は、合理的な耐久設計法の確立・提案に向け、その一環として凍害危険度や凍結防止剤散布量
の異なる道路橋橋台を対象に、目視によるスケーリング及び超音波による凍害ひび割れの調査
を実施し、マルコフ連鎖モデルを用いて凍害劣化の進行性を地域ごとに考察した。その結果、
凍害の進行具合と凍結防止剤の散布量および凍害危険度との関係を概ね把握することができた。
キーワード:コンクリート、凍害、スケーリング、ひび割れ
1. はじめに
コンクリート構造物は日々の生活を支える重要な社会
基盤であり、適切な設計、維持管理が求められる。しか
し、近年は急速に進行する多くのコンクリート構造物の
老朽化への対応が大きな課題となっている。そのため、
コンクリート構造物の長寿命化に資する合理的な耐久性
評価技術の開発が急務となっている。
北海道の道路コンクリート構造物は、厳しい寒冷環境
下に曝されている。また、道路管理者は冬期間、路面に
塩化物系の凍結防止剤を散布し、車両走行の安全確保に
努めている。このため、構造物の安全性やライフサイク
ルコストに直結する、凍結融解と塩化物の複合作用に対
するコンクリートの耐久性を合理的に照査できる技術が
必要となる。この複合作用によって発生するコンクリー
トの代表的な劣化である凍害は、形態が複雑であり、一
般にスケーリングとひび割れなど2種類以上の形態が同
時に発生・進行するケースが多い。加えて、凍結融解の
厳しさや凍結防止剤の散布量は地域によっても異なる。
このような地域条件の違いが凍害の進行に及ぼす影響に
ついては、まだ定量的に整理されていない。
そこで、凍害の進行に及ぼす地域条件の影響に関して、
その大凡の傾向を非破壊試験により把握・整理すること
を目的に、凍害危険度3~5の山間および内陸部に位置す
る道路橋を対象に目視によるスケーリングおよび超音波
による凍害ひび割れの調査を実施し、凍害の進行性と凍
害危険度および凍結防止剤の散布頻度との関係について、
マルコフ連鎖モデル1)により確率論的に考察した。
Kohji Kawamura, Hirotake Endoh, Akinori Shimata
図-1 凍害危険度マップと調査路線
2. 調査概要
(1) 調査対象橋梁
図-1に凍害危険度マップ2)を示す。このマップは、長
谷川が外気温上の最低温度や凍結融解日数などの気象デ
ータを基に凍害発生の危険性をグレード分けしたもので
ある。凍害危険度は、数値が大きいほど凍害が発生する
危険性が高いことを表しており、環境の厳しさの目安と
なるものである。
ここでは調査の目的に鑑み、凍害危険度と凍結防止剤
の散布量に着目して調査橋梁を選定した。調査路線を同
じく図-1に示す。路線の青色は凍害危険度5、赤色は凍
害危険度4、緑色は凍害危険度3の区間にある。調査は、
凍害危険度5のエリアに位置する道路橋の中から一般国
道242号遠軽町~足寄町間の34橋、一般国道38号狩勝峠
0点
1点
凍害なし
2点
1~3点の中間程度
粗骨材露出なし
深さ3mm以下の剥離
3点
4点
粗骨材がいくつか露出
5点
3~5点の中間程度
粗骨材全面露出
図-2 目視評価の基準
写真-1 表面走査法調査実施状況
受振子
発振子
劣化
t
健全
超音波伝播時間
X0
1
Vs
1
Vd
発・受振子間距離
図-3 表面走査法の概念
傾き2
相対動弾性係数と
傾きの関係(式(2))
REd(10mm)と傾き1
傾き1
REd(t)と傾き2
表面からの深さ
超音波伝播時間
10mm
t
REd(10mm) REd(t)
発・受振子間距離
相対動弾性係数
表面走査法のグラフで
折れ線が出現
表面走査法のグラフで
折れ線が出現せず
(t>10mmの場合)
表面からの深さ
~幕別町間の24橋及び一般国道39号愛別町~石北峠間の
28橋、凍害危険度4のエリアに位置する道路橋の中から
一般国道274号夕張市~日高町間の25橋及び一般国道275
号深川市~美深町間の27橋、そして、凍害危険度3のエ
リアに位置する道路橋の中から一般国道40号天塩町~豊
富町間の15橋、一般国道239号霧立峠~苫前町間の17橋、
一般国道230号札幌市~留寿都村間の 23橋及び一般国道
453号の札幌市~支笏湖間の11橋の計204橋の道路橋で行
った。
10mm
10mm
t
REd(10mm) REd(t)
相対動弾性係数
REd(10mm)
相対動弾性係数
透過法から求められる相対動弾性係数は、
の範囲にプロットされる可能性が高い
は式(2)より算出
図-4 表面走査法による凍害診断の考え方 4)
Kohji Kawamura, Hirotake Endoh, Akinori Shimata
(2) 調査内容
スケーリングに関しては目視による調査、凍害ひび割
れに関しては超音波(表面走査法)による調査を行った。
いずれも非破壊試験である。調査は起点側および終点側
の路面から流下する凍結防止剤を含む融雪水の影響を受
けやすい橋台で行った。ここでは、1橋台当たり橋台両
側面と正面の3面、1道路橋当たり6面を目視観察し、外
観上、最も凍害が大きかった面を調査対象箇所とした。
また、凍害の程度と凍結防止剤の散布量との関係を考察
するため、各道路橋における散布量も調べた。
a) スケーリング(目視調査)
目視調査は図-2に示すASTM C 672の基準3) に準じて行
った。粗骨材の露出状況や剥離の程度を詳しく調べ、0
~5点の評価点を付けた。
b) 凍害ひび割れ(表面走査法)
一般に凍害ひび割れの程度は相対動弾性係数(健全な
コンクリートの動弾性係数を100としたときの比率)で
評価される。ここでは既往の研究4)を参考に、相対動弾
性係数の真値が存在すると思われる領域の推定を試みた。
図-3、4に測定の概要、写真-1に調査実施状況を示す。
発振子から送信された超音波は、損傷の程度が小さい緻
密な組織を伝わりながら、最短時間で受振子に到達する
特徴がある。例えば、図-3に示すように凍害を受けて劣
化した層が表面近傍に存在する場合、表面に超音波の発
振子と受振子を配置し、受振子を一定の間隔で発振子か
ら遠ざけていくと、発・受振子間の距離がある値以上に
なると超音波の伝播経路は最短距離である健全層の縁端
面に一本化され、発・受振子間距離に対する伝播時間の
増加の割合は小さくなる。このため、発・受振子間距離
と超音波伝播時間の関係は図-3の下に示すような折れ線
グラフとなる。
ここで、原点から変曲点までの距離をX0、劣化層と健
全部縁端面における超音波伝播速度をそれぞれVd、Vs
(グラフの傾きの逆数)とすると、劣化層の厚さtは式
(1)から求めることができる5)。
t
X 0 VS  Vd
2 Vs  Vd
(1)
構造物の
なお、コンクリートが全体的に健全もしくは劣化して
いる場合は基本的に品質が一様に均等なため、発・受振
子間距離と超音波伝播時間の関係は折れ線ではなく、直
線グラフとなる。その場合のtは0か部材の全厚のいずれ
かとなる。
既報4)は、発・受振子間距離と超音波伝播時間の関係
のグラフの傾きから相対動弾性係数の把握を試み、下記
の実験式を得ている。
REd  21.7 x 0.81
図-5 累積散布塩化物イオン量の算出方法
劣化度
図-6 マルコフの連鎖モデルによる劣化推移の概念
表-2 相対動弾性係数の
表-1 目視評価の
判定基準
Kohji Kawamura, Hirotake Endoh, Akinori Shimata
われる領域の予測下
限の判定基準
(2)
ここに、REdは測定可能な最浅位置である深さ10mmも
しくは深さtの相対動弾性係数の真値(%)である。xは
発・受振子間距離と超音波伝播時間の関係のグラフの傾
き(図-3の下)で、REd の対象が深さ10mmの場合は図-4
の傾き1、深さtの場合は傾き2となる。
一般に凍害による損傷は、水分と凍結融解の影響を最
も受けやすい表面が顕著に大きいため、相対動弾性係数
は表面から内部にかけて大きくなる。このため相対動弾
性係数の真値は、図-4の下に示す橙色で塗りつぶされた
範囲に存在することになる。この考え方が概ね妥当であ
ることは、凍害を受けた道路橋での調査において確認さ
れている4)。
ここでは上記の方法に基づいて、相対動弾性係数の真
値が存在すると思われる領域の下限値(図-4の下に示す
青線、以下、表面から深さ10mmの下限値はREdL 10mm、
深さ50mmの下限値はREdL 50mmと記す)を調べ、REdL
10mm、REdL 50mmから大凡の凍害ひび割れの状況を把握
することとした。
c) 凍結防止剤散布量
北海道における凍結防止剤の年間散布量は、スパイク
タイヤの使用が規制される1991年以前は比較的少なかっ
たが、1991~2003年は概ね一定割合で増え続け、2003年
以降は同程度の値で推移する傾向にある6)。また、2007
年には、北海道の一般国道を管理する道路管理者が各路
線における凍結防止剤の年間散布量を調査している。こ
のデータを使用し、年間散布量は1991年から2003年にか
けて直線的に増え、2003年以降は一定となる図-5のグラ
フを作成し、斜線部の面積から得られる現在までの総散
布量を塩化物イオン量に換算し、供用から現在までに散
真値が存在すると思
劣化度
0
1
2
3
4
5
判定基準
0点
1点
2点
3点
4点
5点
劣化度
0
1
2
3
4
5
判定基準
100%≧RE dL >60%
60%≧RE dL >50%
50%≧RE dL >40%
40%≧RE dL >30%
30%≧RE dL >20%
20%≧RE dL ≧0%
布された橋長1mあたりの塩化物イオン量(以下、累積
散布塩化物イオン量と記す)を求めた。
(3) 凍害に及ぼす地域条件の影響の評価
凍害の進行に及ぼす地域条件の違いの影響の評価は、
マルコフ連鎖モデルを応用して行った。マルコフ連鎖モ
デルによる劣化推移の概念を図-6に示す。橋台で調べた
目視評価および深さ10mmと50mmにおける相対動弾性係
数の真値が存在すると思われる領域の下限値の結果を表
-1、表-2に示す劣化度判定基準に従ってグレード分けし、
式(3)に示すマルコフの連鎖モデルの基本式1)を用いて劣
化度の推移を予測した。
0
0
0
0
 f  1  P 01
  
0
0
0
 e   P 01 1  P12
d   0
0
0
P12 1  P 23
 
0
0
P 23 1  P 34
c  0
b  0
0
0
1

34
P
P 45
  
a  0
0
0
0
P
45
  
0

0
0

0
0 
1 
S
1
 
0
0
 
0
0
 
0
 
(3)
ここにf、e、d、c、b、aはそれぞれの劣化度(図-6の0、
1、2、3、4、5)を示す割合、Pijは推移確率、sは経過年
数である。
3
2
40%
1
20%
0%
0
25
75
50
経過年数
凍害危険度4 散布量少ないグループ
累積散布塩化物イオン量平均 9kg/m
(N=26)
部材の割合
100%
4
74%
3
20%
0
25
50
経過年数
75
部材の割合
4
3
40%
2
1
20%
0
50
経過年数
75
50
経過年数
75
100
100 0
25
50
経過年数
75
凍害危険度4 散布量多いグループ
累積散布塩化物イオン量平均 167kg/m
(N=26)
15%
36%
5
4
3
40%
2
1
0
25
50
経過年数
75
100
0
25
50
75
経過年数
100
図-11 凍害危険度 4 における REdL 10mm の劣化度の
推移比較
100%
5
57%
25
25
0%
凍害危険度5 散布量多いグループ
累積散布塩化物イオン量平均 154kg/m
(N=43)
14%
0
0
凍害危険度4 散布量少ないグループ
累積散布塩化物イオン量平均 9kg/m
(N=26)
0
60%
0%
100
60%
100
図-8 凍害危険度 4 における目視評価の劣化度
の推移比較
凍害危険度5 散布量少ないグループ
累積散布塩化物イオン量平均 13kg/m
(N=43)
75
50
経過年数
20%
0
100
25
80%
1
80%
0
0
凍害危険度:4 散布量多いグループ
累積散布塩化物イオン量平均 167kg/m
(N=26)
40%
100%
1
図-10 凍害危険度 3 における REdL 10mm の劣化度の
推移比較
2
75
50
経過年数
2
経過年数
53%
25
3
0%
5
0
4
40%
1 14 25
27 40 50
53 66 75
79 92 100
60%
0%
5
47%
60%
100 0
図-7 凍害危険度 3 における目視評価の劣化度
の推移比較
80%
38%
20%
0
1 14 27 40 53 66 79 92
100%
部材の割合
4
60%
凍害危険度3 散布量多いグループ
累積散布塩化物イオン量平均 590kg/m
(N=33)
凍害危険度3 散布量少ないグループ
累積散布塩化物イオン量平均 32kg/m
(N=33)
80%
5
部材の割合
部材の割合
22%
0%
80%
100%
100
図-9 凍害危険度 5 における目視評価の劣化度
の推移比較
凍害危険度5 散布量少ないグループ
累積散布塩化物イオン量平均 13kg/m
(N=43)
凍害危険度5 散布量多いグループ
累積散布塩化物イオン量平均 154kg/m
(N=43)
40%
80%
部材の割合
100%
凍害危険度3 散布量多いグループ
累積散布塩化物イオン量平均 590kg/m
(N=33)
凍害危険度3 散布量少ないグループ
累積散布塩化物イオン量平均 32kg/m
(N=33)
5
48%
4
60%
3
2
40%
1
20%
0%
0
0
25
50
経過年数
75
100
0
25
50
75
100
経過年数
図-12 凍害危険度 5 における REdL 10mm の劣化度の
推移比較
における、骨材露出が顕著な劣化度4以上の道路橋の割
合を比較したところ、凍害危険度3は0%と22%、凍害危
険度4は53%と74%、凍害危険度5は14%と57%となり、い
(1) 凍害と凍結防止剤散布量の関係
ずれにおいても累積散布塩化物イオン量が多いグループ
の方が割合は高かった。
はじめに、累積散布塩化物イオン量の違いがスケーリ
b) 凍害ひび割れ(相対動弾性係数の真値が存在すると
ングや凍害ひび割れに及ぼす影響について調べた。ここ
思われる領域の予測下限値)
では、凍害危険度ごとに道路橋を、累積散布塩化物イオ
凍害危険度3、4、5の道路橋におけるREdL 10mmの劣化
ン量の多いグループと、少ないグループに等分で分類し、
マルコフの連鎖モデルにより求めた目視評価と相対動弾
度の推移比較を図-10、図-11、図-12に示す。経過年数
50年目において、相対動弾性係数の真値が存在すると思
性係数の劣化度の推移結果の比較を行った。
a) スケーリング(目視評価)
われる領域の下限値が40%よりも小さい劣化度3以上の
図-7、図-8、図-9に凍害危険度3、4、5の道路橋にお
道路橋の割合を散布量の少・多で比較したところ、凍害
ける結果をそれぞれ示す。経過年数50年目において、累
危険度3は38%と47%、凍害危険度4は36%と15%、凍害危
積散布塩化物イオン量が少ないグループと多いグループ
険度5は40%と48%であった。次にREdL 50mmの劣化度の
3. 調査結果および考察
Kohji Kawamura, Hirotake Endoh, Akinori Shimata
100%
凍害危険度3 散布量少ないグループ
累積散布塩化物イオン量平均 32kg/m
(N=33)
確な傾向が示されなかった。
凍害危険度3 散布量多いグループ
累積散布塩化物イオン量平均 590kg/m
(N=33)
14%
(2) 凍害と凍害危険度の関係
4
次に、スケーリングや凍害ひび割れに及ぼす凍害危険
60%
3
度の影響について調べた。ここでは今回調査した道路橋
2
40%
1
の中から、累積散布塩化物イオン量が概ね同程度で凍害
20%
0
危険度が異なる道路橋を抽出して、マルコフ連鎖モデル
0%
75
0
25
50
100
75
0
50
100
25
経過年数
経過年数
による解析を実施し、目視評価と相対動弾性係数の真値
が存在すると思われる領域の下限値、それぞれの劣化度
の推移を凍害危険度ごとに比較した。なお、累積散布塩
図-13 凍害危険度 3 における REdL 50mm の劣化度
化物イオン量は、調査した道路橋ごとに異なる。ここで
の推移比較
は、同程度の累積散布塩化物イオン量同士で比較を行う
理由から、累積散布塩化物イオン量が0~100kg/mの範囲
凍害危険度4 散布量少ないグループ
凍害危険度4 散布量多いグループ
累積散布塩化物イオン量平均 9kg/m
累積散布塩化物イオン量平均 167kg/m
(N=26)
の道路橋を、それぞれの凍害危険度エリアから抽出して
(N=26)
100%
21%
考察した。
80%
5
37%
4
a) スケーリング(目視評価)
60%
3
目視評価の劣化度の推移比較を図-16に示す。経過年
2
40%
1
数50年目に着目し、骨材露出が顕著な劣化度4以上の道
20%
0
路橋の割合を凍害危険度ごとに比較すると、凍害危険度
0%
0
25
50
100 0
75
25
50
100
75
経過年数
3が0%、凍害危険度4が52%、凍害危険度5が49%となり、
経過年数
凍害危険度4と5はほぼ同程度の値を示したものの、凍害
危険度5は劣化度5の道路橋が13%存在する解析結果が示
図-14 凍害危険度 4 における REdL 50mm の劣化度
された。本調査の範囲では累積散布塩化物イオン量が同
の推移比較
程度の場合、凍害危険度が大きいほどスケーリングは進
行しやすい傾向を定量的に確認することができた。
凍害危険度5 散布量多いグループ
凍害危険度5 散布量少ないグループ
累積散布塩化物イオン量平均 154kg/m
累積散布塩化物イオン量平均 13kg/m
(N=43)
b) 凍害ひび割れ(相対動弾性係数の真値が存在すると
(N=43)
100%
思われる領域の下限値)
5
32%
80%
37%
4
REdL 10mmとREdL 50mmの劣化度の推移比較を図-17、
60%
3
2
図-18に示す。相対動弾性係数の真値が存在すると思わ
40%
1
れる領域の下限値が40%よりも小さい劣化度3以上の道
20%
0
路橋の割合について、同じく経過年数50年目に着目し、
0%
75
0
25
50
100
25
75
0
50
100
異なる凍害危険度同士で比較した。部材表面に近い位置
経過年数
経過年数
(ここではREdL 10mm)に関しては、凍害危険度3は35%、
凍害危険度4は35%、凍害危険度5は39%の道路橋が劣化
図-15 凍害危険度 5 における REdL 50mm の劣化度
度3以上を呈した。さらに、凍害危険度5の道路橋におい
の推移比較
ては、劣化度4ならびに5の割合も5%程度見られ、明瞭
推移比較を図-13、図-14、図-15に示す。同じく経過年
では無いが凍害危険度が大きいエリアほど、劣化度が経
数50年目における劣化度3以上の道路橋の割合を散布量
年により大きくなりやすい傾向が見受けられる。一方、
の少・多で比較すると、凍害危険度3は36%と14%、凍害
部材内部(ここではREdL 50mm)においては、凍害危険
危険度4は37%と21%、凍害危険度5は32%と37%であった。 度3は36%、凍害危険度4は34%、凍害危険度5は35%とな
累積散布塩化物イオン量が多いグループの方が高い割合
り、いずれの凍害危険度エリアにおいても割合はほぼ同
を示したのは、部材表面に近いREdL 10mmは凍害危険度3
程度であった。加えて、凍害危険度3と5において共に劣
と凍害危険度5、一方、部材内部にあたるREdL 50mmは凍
化度5の割合が5%程度示され、明瞭な傾向は把握できな
かった。この結果は、橋台内部における凍害の程度はい
害危険度5のみであった。
ずれの道路橋も差違がないことを示唆するが、本研究で
本調査で得たデータをマルコフの連鎖モデルにより解
は非破壊試験により求めた相対動弾性係数の真値が存在
析した結果の範囲では、いずれの凍害危険度エリアにお
すると思われる領域の下限値を解析に用いており、今後
いてもスケーリングは累積散布塩化物イオン量の影響を
はコア採取により得られる相対動弾性係数の真値による
受けることが定量的に示され、耐久性設計を行う際は留
評価を行い、さらに傾向を詳しく調べていきたい。
意する必要があることが確認された。一方、凍害ひび割
れについては、今回の調査ではスケーリングのように明
36%
5
部材の割合
部材の割合
部材の割合
80%
Kohji Kawamura, Hirotake Endoh, Akinori Shimata
100%
凍害危険度5
累積散布塩化物イオン量
平均37kg/m (N=81)
凍害危険度4
累積散布塩化物イオン量
平均29kg/m (N=35)
凍害危険度3
累積散布塩化物イオン量
平均25kg/m ( N=31)
5
部材の割合
80%
4
60%
3
2
40%
1
20%
0%
0
0
25
50
75
100 0
50
25
75
100 0
25
50
75
100
経過年数
経過年数
経過年数
図-16 目視評価の凍害危険度 3、4、5 の劣化度の
推移比較
100%
凍害危険度3
累積散布塩化物イオン量
平均25kg/m (N=31)
凍害危険度4
累積散布塩化物イオン量
平均29kg/m (N=35)
凍害危険度5
累積散布塩化物イオン量
平均37kg/m (N=81)
5
80%
部材の割合
4
60%
3
2
40%
1
20%
0%
0
0
25
50
75
100 0
25
経過年数
50
75
100
0
25
50
75
100
経過年数
経過年数
図-17 REdL10mm の凍害危険度 3、4、5 の劣化度
の推移比較
100%
凍害危険度3
累積散布塩化物イオン量
平均25kg/m (N=31)
凍害危険度4
累積散布塩化物イオン量
平均29kg/m (N=35)
凍害危険度5
累積散布塩化物イオン量
平均37kg/m (N=81)
5
80%
部材の割合
4
60%
3
2
40%
1
20%
0%
0
0
25
50
経過年数
75
100
0
25
50
経過年数
実態に即した凍害の進行予測技術の提案に向け、その一
環として、地域ごとに異なる凍結融解と塩化物の複合作
用の程度の違いと、凍害の進行性との関係に着目し、そ
の大凡の傾向を非破壊試験により把握・整理することを
目的に道路橋橋台を調査し、マルコフの連鎖モデルを用
いて凍害の進行性と地域条件の違い(凍結融解の厳しさ、
凍結防止剤の散布頻度)との関係について考察を行った。
今回の検討により、以下のことが明らかとなった。
(1) スケーリングについては、凍結防止剤の散布作業
において路面に散布された塩化物イオンの量なら
びに凍害危険度の影響を受けることが定量的に確
認された。
(2) 凍害ひび割れについては、スケーリングのような
明確な傾向は示されなかったものの、異なる凍害
危険度においては塩化物イオンによる影響が示さ
れた。今後は、橋台への流水の有無やコンクリー
ト内部への水分の供給形態にも着目し、明確な傾
向を得ることができるよう多角的な検討を進める
予定である。
75
100
0
25
50
75
100
経過年数
図-18 REdL50mm の凍害危険度 3、4、5 の劣化度
の推移比較
4. まとめ
本論文では、凍害による各種劣化形態(ここでは、ス
ケーリングとひび割れを対象)の複合的な発生を考慮し、
Kohji Kawamura, Hirotake Endoh, Akinori Shimata
参考文献
1) 土木学会:2013年制定コンクリート標準示方書「維
持管理編」,p.61,2013.10
2) 長谷川寿夫:コンクリートの凍害危険度算出と水セ
メント比限界値の提案,セメント技術年
報,XXIX,pp.248-253,1975.
3) American Society for Testing and Materials : Standard Test
Method for Scaling Resistance of Concrete Surfaces Exposed to
Deicing Chemicals,1998.
4) 遠藤裕丈,田口史雄,林田宏:コンクリート部材の凍
害診断への表面走査法の適用に関する研究,第55回
(平成23年度)北海道開発技術研究発表会発表概要
集,2012.2
5) 柏忠二,明石外世樹,小阪義夫:コンクリートの非破
壊試験法-日欧米の論文・規格・文献-,p.42,1980
6) コンクリートの凍結融解抵抗性の評価方法に関する
研究委員会報告書,pp.21-22,日本コンクリート工学協
会,2008.8