非小細胞肺がんの薬物療法を受ける 患 者 さんとご 家 族 の方へ 監修:がん研有明病院 呼吸器内科 部長 西尾 誠人 先生 はじめに 現在、病期がⅣ期の肺がん患者さんに対しては、主に薬物療法が行わ れます。 特に、肺がんの約85%を占める非小細胞肺がんでは多くの薬剤 が開発されていて、肺がんの組織型や遺伝子変異、患者さんの全身状態 などに応じて、多くの治療選択肢があります。 ここでは、がん研有明病院において、使用する薬物療法が決定される までの過程や、実際に使用される薬剤について紹介しました。この冊子を 通して、患者さんがよりよい治療を受け、 よりよい生活を送ることができる 一助になれることを願っています。 監修:がん研有明病院 呼吸器内科 部長 西尾 誠人 先生 扁平上皮がんの 薬物療法 肺がん全体の約60%と、 一番多い肺がんです。 肺野部に発生することが 多いです。 大細胞がん 維持療法に ついて 肺野部 副作用について 肺がん全体の約5%で、 扁平上皮がんにも 腺がんにも属さない 肺がんです。 肺野部に発生することが 多いです。 ALK遺伝子転座陽性 肺がん全体の約20% で、喫煙者に多く 見られます。 肺門部に発生する ことが多いです。 腺がん 非扁平上皮がんの薬物療法 扁平上皮がん EGFR遺伝子変異陽性 非扁平上皮がん 肺門部 EGFR遺伝子変異/ ALK遺伝子転座陰性 肺がんは組織型により分類されます。 非小細胞肺がんは肺がん全体の約85%で、さらに扁平上皮がんと非扁平上皮がんに 分けられます。 非小細胞肺がん について 非小細胞肺がんの種類 3 定 義 肉体的に激しい活動は制限されるが、歩行可能で、 軽作業や座っての作業は行うことができる。例:軽い家事、事務作業 2 歩行可能で、自分の身の回りのことはすべて可能だが、 作業はできない。日中の50%以上はベッド外で過ごす。 3 限られた自分の身の回りのことしかできない。 日中の50%以上をベッドか椅子で過ごす。 4 まったく動けない。自分の身の回りのことは まったくできない。完全にベッドか椅子で過ごす。 副作用について 1 維持療法に ついて まったく問題なく活動できる。 発症前と同じ日常生活が制限なく行える。 扁平上皮がんの 薬物療法 0 ALK遺伝子転座陽性 スコア 非扁平上皮がんの薬物療法 患者さんの日常生活の制限の程度を数値で示します。 EGFR遺伝子変異陽性 全身状態 EGFR遺伝子変異/ ALK遺伝子転座陰性 非小細胞肺がんでは、全身状態などに応じて、使用する薬物療法を決定します。 非小細胞肺がん について 全身状態 4 非小細胞肺がん について 薬物療法の流れ 遺伝子検査の結果により 薬物療法を選択 遺伝子 検査 (非扁平上皮 がんの場合) 初回治療 ! 病勢が進行した場合 2次治療 (薬物療法) 3次治療 (薬物療法) ! 患者さんの年齢や 全身状態により、 使用する薬物療法 を決定します。 (薬物療法) ! 患者さんの希望や 年齢、全身状態に より、ほかの薬物 療法を継続する ことがあります。 維持療法に ついて 患者さんの年齢や 全身状態により、 使用する薬物療法 を決定します。 副作用について がん研有明病院の例 日本肺癌学会 「肺癌診療ガイドライン」 もご参照ください。 病勢が進行した場合 扁平上皮がんの 薬物療法 ! ! ALK遺伝子転座陽性 組織診断 ! 非扁平上皮がんの薬物療法 がんの組織型が判明 EGFR遺伝子変異陽性 ! EGFR遺伝子変異/ ALK遺伝子転座陰性 遺伝子検査の結果と患者さんの年齢や全身状態により 薬物療法が選択され、治療が進められます。 5 EGFR遺伝子変異/ ALK遺伝子転座陰性 7 ページへ 10 ページへ 陽性 8 ページへ ALK遺伝子転座陽性 9 ページへ 副作用について EGFR遺伝子変異陽性 維持療法に ついて EGFRやALKなど、 遺伝子変異に応じた治療を 受けることができます。 扁平上皮がんの 薬物療法 扁平上皮がん 非扁平上皮がんの薬物療法 基本的に、 通常の抗がん剤による 治療を行います。 ALK遺伝子転座陽性 非扁平上皮がんの場合は、 特定の遺伝子に変異が あるか検査します。 陰性 EGFR遺伝子変異陽性 組織診断 非扁平上皮がん 遺伝子検査 EGFR遺伝子変異/ ALK遺伝子転座陰性 非小細胞肺がんでは、遺伝子変異などに応じて、使用する薬物療法を決定します。 非小細胞肺がん について 遺伝子変異 6 非小細胞肺がん について EGFR 遺伝子変異 /ALK 遺伝子転座陰性 ! 初回治療 プラチナ製剤併用 ± 維持療法 2次治療 ※2 3次治療 ドセタキセル 非プラチナ製剤単剤 副作用について がん研有明病院の例 日本肺癌学会 「肺癌診療ガイドライン」 もご参照ください。 ※1 : 薬物療法について 11 ページへ 維持療法に ついて ! 患者さんの希望や 年齢、全身状態に より、ほかの薬物 療法を継続する ことがあります。 扁平上皮がんの 薬物療法 ALK 遺伝子 転座陰性 ※1 病勢が進行した場合 ALK遺伝子転座陽性 非扁平上皮がん EGFR 遺伝子 変異陰性 ! 病勢が進行した場合 EGFR遺伝子変異陽性 ■ 年齢や全身状態により使用する薬剤を選択 ※2 : 維持療法について 12 ページへ 副作用について 14 ページへ 非扁平上皮がんの薬物療法 EGFR遺伝子変異/ ALK遺伝子転座陰性 基本的にEGFRチロシンキナーゼ阻害剤(EGFR-TKI) や ALK阻害剤を使用できないので、化学療法による治療が中心になります。 7 非小細胞肺がん について EGFR遺伝子変異陽性 ! 初回治療 病勢が進行した場合 2次治療 プラチナ製剤併用 ± ※2 維持療法 ※1 ※1 3次治療 非プラチナ製剤単剤 〈初回治療に化学療法を使用する場合〉 初回治療 ※1 EGFR-TKI単剤 3次治療 ※1 維持療法に ついて プラチナ製剤併用 ± ※2 維持療法 2次治療 非プラチナ製剤単剤 病勢が進行した場合 ! 病勢が進行した場合 ! がん研有明病院の例 日本肺癌学会 「肺癌診療ガイドライン」 もご参照ください。 ※1 : 薬物療法について 11 ページへ ※2 : 維持療法について 12 ページへ 患者さんの希望や年齢、 全身状態により、 ほかの薬物療法を継続 することがあります。 副作用について 14 ページへ 副作用について ! 扁平上皮がんの 薬物療法 EGFR 遺伝子 変異陽性 ! ALK遺伝子転座陽性 非扁平上皮がん EGFR-TKI単剤 病勢が進行した場合 EGFR遺伝子変異陽性 〈初回治療にEGFR-TKIを使用する場合〉 非扁平上皮がんの薬物療法 ! ■ 年齢や全身状態により使用する薬剤を選択 患者さんの希望や年齢、 全身状態により、 ほかの薬物療法を継続 することがあります。 EGFR遺伝子変異/ ALK遺伝子転座陰性 化学療法に加えてEGFRチロシンキナーゼ阻害剤(EGFR-TKI) を使用でき、 全身状態が悪くない場合は多くの治療選択肢があります。 8 非小細胞肺がん について ALK遺伝子転座陽性 ! ! 病勢が進行した場合 2次治療 初回治療 ※1 ALK阻害剤単剤 3次治療 ※1 非プラチナ製剤単剤 〈初回治療にALK阻害剤を使用する場合〉 ALK阻害剤単剤 2次治療 ※1 ※1 3次治療 維持療法に ついて プラチナ製剤併用 ± ※2 維持療法 非プラチナ製剤単剤 病勢が進行した場合 ! 病勢が進行した場合 ! がん研有明病院の例 日本肺癌学会 「肺癌診療ガイドライン」 もご参照ください。 ※1 : 薬物療法について 11 ページへ ※2 : 維持療法について 12 ページへ 分子標的治療、 もしくはほかの 化学療法を継続する ことがあります。 副作用について 14 ページへ 副作用について ! 扁平上皮がんの 薬物療法 初回治療 ALK遺伝子転座陽性 非扁平上皮がん プラチナ製剤併用 ± ※2 維持療法 ALK 遺伝子 転座陽性 病勢が進行した場合 EGFR遺伝子変異陽性 〈初回治療に化学療法を使用する場合〉 非扁平上皮がんの薬物療法 ! ■ 年齢や全身状態により使用する薬剤を選択 分子標的治療、 もしくはほかの 化学療法を継続する ことがあります。 EGFR遺伝子変異/ ALK遺伝子転座陰性 化学療法に加えてALK阻害剤を使用でき、 全身状態が悪くない場合は多くの治療選択肢があります。 9 非小細胞肺がん について 扁平上皮がんに対する薬物療法 ! 病勢が進行した場合 扁平上皮がん プラチナ製剤併用 2次治療 ※ 3次治療 ドセタキセル 維持療法に ついて ! 患者さんの希望や 年齢、全身状態に より、ほかの薬物 療法を継続する ことがあります。 扁平上皮がんの 薬物療法 非プラチナ製剤単剤 ALK遺伝子転座陽性 初回治療 病勢が進行した場合 副作用について がん研有明病院の例 日本肺癌学会 「肺癌診療ガイドライン」 もご参照ください。 ※ 薬物療法について 11 ページへ 副作用について 14 ページへ 非扁平上皮がんの薬物療法 ! EGFR遺伝子変異陽性 ■ 年齢や全身状態により使用する薬剤を選択 EGFR遺伝子変異/ ALK遺伝子転座陰性 ペメトレキセド、ベバシズマブは行わないよう勧められており、 プラチナ製剤併用または抗がん剤単剤が中心になります。 10 非小細胞肺がん について 薬物療法の種類 第3世代抗がん剤 (非プラチナ製剤) EGFR-TKI ALK阻害剤 ペメトレキセド ゲフィチニブ クリゾチニブ カルボプラチン ゲムシタビン エルロチニブ アレクチニブ パクリタキセル アファチニブ 血管新生阻害剤 ドセタキセル イリノテカン 維持療法に ついて ベバシズマブ 扁平上皮がんの 薬物療法 シスプラチン ビノレルビン ナブパクリタキセル 副作用について S-1 注射剤 (点滴) カプセル剤 非扁平上皮がんの薬物療法 プラチナ製剤 がんに特有の分子を標的にした薬剤です。 EGFR遺伝子変異陽性に有効なEGFR チロシンキナーゼ阻害剤(EGFR-TKI)や、 ALK遺伝子転座陽性に有効なALK阻害剤 などがあります。 ALK遺伝子転座陽性 大きく、プラチナ製剤と、第3世代と呼ばれる 抗がん剤に分けられます。プラチナ製剤と 第 3 世 代 抗 がん 剤 を 併 用 する「 プ ラチ ナ 製剤併用」が、非小細胞肺がん治療の中心 になります。 分子標的治療 EGFR遺伝子変異陽性 化学療法 EGFR遺伝子変異/ ALK遺伝子転座陰性 薬物療法には、大きく分けて化学療法と分子標的治療があり、 遺伝子変異や全身状態などにより使い分けます。 錠剤 11 病勢をコントロールできている場合 導入療法 (4コース) ! 病勢が進行した場合 維持療法 + ペメトレキセド 扁平上皮がんの 薬物療法 4コース後 効果判定 維持療法に ついて 2コース後 効果判定 2次治療 ペメトレキセド ALK遺伝子転座陽性 プラチナ製剤 非扁平上皮がんの薬物療法 ! EGFR遺伝子変異陽性 〈例〉ペメトレキセドによる維持療法 EGFR遺伝子変異/ ALK遺伝子転座陰性 導入療法としてプラチナ製剤併用を4コース行い、病勢をコントロールできている場合に、 維持療法を病勢が進行するまで続けます。 非小細胞肺がん について 維持療法の流れ 病勢をコントロールできていない場合 ! 患者さんの状態などにより、 使 用 する薬 物 療 法を決 定 します。 副作用について ! 12 2週 3週 3コース目 4コース目 維持療法 1コース目 維持療法 2コース目 ペメトレキセド最終投与日から 22日目まで投与 葉酸 葉酸として1日1回 0.5mgを連日経口投与 ビタミンB12 ビタミンB12として1日1mgを筋肉注射 9週ごと(3コースごと) ALK遺伝子転座陽性 ペメトレキセド最終投与日から 22日目まで投与 EGFR遺伝子変異陽性 1週 2コース目 非扁平上皮がんの薬物療法 1コース目 (21日) ペメトレキセド初回投与の 7日以上前 EGFR遺伝子変異/ ALK遺伝子転座陰性 シスプラチンとペメトレキセドを使用する場合、葉酸とビタミンB12を併用します。 また、患者さんの状態に応じて入院治療と外来治療が選択されます。 非小細胞肺がん について シスプラチンとペメトレキセド併用療法から ペメトレキセド単剤維持療法の流れ 扁平上皮がんの 薬物療法 20日間休薬 初回投与日 投与日 投与日 併用化学療法 投与日 投与日 (ペメトレキセド単剤) (ペメトレキセド単剤) 投与日 維持療法* シスプラチンとペメトレキセド併用療法は入院治療のほかに、 外来での治療が可能です。患者さんの状態に応じて、入院治療または外来治療が選択されます。 副作用について 前投薬 投与日 (ペメトレキセド単剤) 維持療法に ついて ペメトレキセド + シスプラチン * 併用化学療法の効果および副作用の状況に応じて、維持療法を実施するか担当医が判断します。 13 非小細胞肺がん について 薬物療法の副作用の発現時期 自分でわかる副作用 2 脱毛 3 4 経過 (週) 肝機能障害 腎機能障害 心機能障害 ※肺障害にも注意が必要 頻度 (高) 副作用について 骨髄抑制 白血球減少 好中球減少・貧血 血小板減少 維持療法に ついて 検査でわかる副作用 扁平上皮がんの 薬物療法 1 口内炎・下痢 全身倦怠感 ALK遺伝子転座陽性 遅延性悪心・嘔吐 便秘・食欲低下 全身倦怠感 筋肉痛・関節痛 EGFR遺伝子変異陽性 神経毒性 手足のしびれ感・耳鳴 急性悪心・嘔吐・便秘 アレルギー (様) 反応・呼吸困難 血圧低下・不整脈・頻脈 非扁平上皮がんの薬物療法 頻度 (高) EGFR遺伝子変異/ ALK遺伝子転座陰性 薬物療法による副作用の程度や発現時期については個人差がありますが、 起こりうる副作用を把握して対策することが重要です。 「インフォームドコンセントのための図説シリーズ 抗悪性腫瘍薬 肺がん 改訂版」 (2011) より抜粋 ・ 改変 14
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