美田と優秀な農家を守る

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美田と優秀な農家を守る
阿部茂昭
山形県JA庄内みどり 代表理事組合長
JAの位置する庄内平野は、日本有数の穀倉地帯。米価
の低迷、生産者の高齢化が進む中、法人化と集落営農に
よる地域農業の振興に挑戦しています。
◆規模拡大農家が「千俵の会」結成
それにもめげず、農家は耐えに耐えて、田ん
――米価の下落で、販売高が半分になったそ
ぼを荒らさないようにやってきました。
うですね。
米価の下落は、需給バランスを考えてこな
田植え時期ともなると、庄内空港に降りると
かった政策のツケが及んだということでしょ
き、一面の水田と、水面に浮かんでいるような
う。そこそこの規模でいいと考え、経営努力を
集落が散在する庄内平野を望めます。庄内に
怠るという気の緩みがあったとすれば、農家
は、この美田を守ってきた優秀な農家がいっ
自身も反省しなければなりません。
ぱいいます。美田と人がJA庄内みどりの誇り
であり、自慢です。
――そのような状況下で、どのように対応し
しかし合併から二十余年、米の価格が大き
ていかれますか。
く下がり、当初200億円を超えていた米穀の
管内では、採算やコストを考えて規模拡大
販売高は、いまや80億円余りと、半分以下に
に挑戦する農家が出てきました。ひとつには
なりました。農家の懐具合も半減です。しかし
米価の下落と生産者の高齢化で、水田の受委
託が一気に進んだことがありますが、一方で
自立心に富んだ農家が生まれ、20~30ha の規
模拡大に挑戦する経営が出てきました。
こうした生産者で1,000俵以上出荷する農家
が「千俵の会」をつくっているほどです。8ha
以上の農家222人が参加しています。
高齢化が進む中、規模を拡大する農家には
大いに期待しています。平成19年に品目横断
JA庄内みどり本所
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月刊 JA
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的経営安定対策が出る前、管内には200ほど
あべ・しげあき
平成 3 年JA酒田理事、 6 年JA
庄内みどり理事、13年常務理事を
経 て、19年 代 表 理 事 組 合 長 に 就
任。27年JA山形中央会副会長に
就任、現在に至る。
撮影・JA庄内みどり総合企画部企画経理課 富山栄美子
の生産組織がありましたが、リーダーが不足
◆生産組合中心に集落の維持
し対策を練っていたところです。そこで安定
――JAはこうした農家をどのように支援し
対策によって集落営農を進め、農地の85%
ますか。
以上を組織する86の組織が誕生しました。い
法人立ち上げの事務手続きや作物の選定、
まは農地中間管理機構ができて、農地の流動
経営指導、税金対策など、あらゆる面で支援
化、法人化が進んでいます。
するつもりです。JA自らの出資も視野にあり
集落営農から成長した法人は平成28年 3 月
ます。このためJAに担い手支援課・営農支援
末で32。これが全面積の約 3 割、2,700ha の
推進班も設けました。
農地を集約しています。今までの集落営農の
ただ、法人加入農家だけではなく、個人経
ような制度による交付金頼りでなく、自らの力
営の農家を支えていくのもJAの使命です。
で規模を拡大し、所得を上げようという経営
農家の組織である生産組合を中心に、集落を
体の出現です。こうした法人が平成29年度中
守りながら地域全体の農業を継続していくこ
には新たに18法人が誕生する見込みで、50法
とがJAの役目だと考えています。
人で農地のおよそ半分を占めることになりま
法人が大きくなると、JAから離れるのでは
す。
ないかという声がありますが、その心配はして
いません。米の集荷率は95%以上。法人、大
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JAトップインタビュー JA庄内みどり
田植え直後の水田と鳥海山
農家の所得アップに長ネギを導入
規模経営、小規模農家を問わず、JAは誠心
ています。ちゃんと人を雇える経営体を育て
誠意やっています。
ようということです。そのひとつが乾田直 播
ちょくは ん
です。庄内地方は春に強い風が吹き、活着に
たんすい
――資材価格や手数料に関しては、いかがで
問題のある湛水直播は難しいという事情があ
しょうか。
り、この十数年来、熱心な農家が試行錯誤を
特売はともかく、全体を比較すれば、JAの
重ね、乾田直播の技術をほぼ確立しました。
資材が高いということはありません。大口取引
20~30ha の経営体に普及しており、さらに拡
には優遇措置もありますし、手数料も民間会
大するものと期待しています。
社より高いわけではなく、輸送距離なども違
うので、地域あるいはJA間で差があるのは当
――そのほか、どのような課題がありますか。
然、考えられることではないでしょうか。
まず、担い手が不足しています。期待の法
生産資材の価格は製造工場や輸入の段階で
人経営も、担い手がいないと長続きしませ
考えるべきだと思います。そもそも農機は高
ん。いまは何とか維持していても、10年も過
過ぎます。1,000万円もするトラクター・コン
ぎると大きな問題になるでしょう。
バインでも、稼働日数は 2 週間から20日間。
そしてもうひとつは、山間地域の法人がで
それを 7 年くらいで買い替えるのでは採算に
きないところです。ここの田んぼを荒廃させな
合いません。これからは全自動でなくても、利
いためには、JAが自ら生産法人をつくって営
用者の状況を見ながら、必要な機能を備えた
農せざるを得ないと考え、次期の 3 か年計画
農機の開発、製造が必要だと思います。
で検討する方針です。
米以外では野菜と畜産を振興しています。
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◆コスト削減目指し乾田直播拡大へ
特に養豚については大手畜産会社を通して
――稲作の規模拡大にはコストの削減が必要
生活クラブ生協と提携しています。生協が望
だと思いますが、どのような取り組みをされ
む循環型農業に畜産は避けられません。とり
ていますか。
わけ耕畜連携には肉用牛経営も求められます
低コスト化は避けて通れない課題と考え、
が、今の子牛不足は当分続きそうです。子牛
数年前から、
「一歩先をいく農業」をスローガ
を確保するため、繁殖センター建設も必要だ
ンに、米の輸出を視野に入れた取り組みをし
と考えています。
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JAトップインタビュー JA庄内みどり
循環型農業のため畜産にも力を入れる
生活クラブ生協との協同組合間提携
◆これからの地域とJA・農業のビジョン
活クラブ生協と40年来の付き合いがあり、さ
――地域におけるJAの役割を果たすため
まざまな協同組合間提携を実現してきまし
に、JA職員が求められるものは何でしょう。
た。これをJA庄内みどり全体に広げたいと考
農村集落では、地域の住民のほとんどが農
えています。この提携を進化させた形で生協
家で組合員です。農家の人が、いま何を望ん
とJA、それに遊佐町、酒田市が加わり、FEC
でいるのかを知り、それに応えるのはJAの使
構想を温めています。フード(F)・エネル
命です。JAの事業は、組合員の共感がなけ
ギー(E)
・ケア(C)の地域づくりです。
れば、組合員は離れていきます。
そうした取り組みを通じて、地域農業を守
JA庄内みどりは、12年ほど前から 8 つの
り発展させていくつもりです。
基幹支店へと統廃合を進め営農指導体制を強
日本の水田農業をつぶすことは、国の大き
化しました。統廃合で組合員に不便をかけた
な汚点になります。日本の食料と国民の命を
ので、今度はJAが農家に返す番だと、職員に
守るためにも、ここ庄内地域は農業を必ず残
ハッパを掛けてきました。
さなければならない地域だと思っています。
総合JAの窓口は、支店にあります。支店は
特に米を残さないと、この美田が泣きます。
玄関です。これが機能している限り、組合員
(写真は全てJA庄内みどり提供)
がJAから離れることは決してないでしょう。
JA庄内みどりが、ここまでやってこられたこ
とがその証しだと思っています。
全職員、営業マンたれと、話しています。
これは私の米の販売経験から学んだことです
◎JA庄内みどりの概況
平成6年、酒田飽海地区の8JA
(JA酒田市・
JA酒田北部・
JA酒
田・
JA酒田市新堀・
JA八幡町・
JA遊佐町・
JA庄内平田町・
JA庄
内松山)
が合併して誕生。
山形県
が、常に相手の立場に立って対応すること、
特に古いお客さまを大事にするようにと話し
ています。それがあって新しいお客さまがで
きるものです。
――今後のビジョンをお聞かせください。
合併前のJA遊佐町とのつながりから、生
JA庄内みどり
▽組合員数
1万4,512人
(うち正組合員1万839人)
▽貯金残高
1,003億6,300万円
▽長期共済契約高
4,392億2,700万円
▽購買品取扱高
53億1,900万円
▽販売品販売高
120億4,000万円
▽職員数
535人(うち正職員307人)
(平成27年度末)
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