黎明期から浸透期への期待

巻 頭 言
Special
黎明期から浸透期への期待
「黎明期」では、不動産証券化は当時の不動産業に
大きな変化を惹起させた。
( 1 )高度成長期のP/L優先からB/S視点の追加
金指 潔
東急不動産株式会社
取締役会長
(不動産証券化協会フェロー)
(2)
資産入替の経営戦略への組込み(3)
新しい買い手
登場による開発機会増加で開発力の向上、開発人材の
育成(4)内部成長を担う運営業への着眼(5)不動産
事業の透明化促進(6)開発事業の共同複合大型化
本誌創刊号の巻頭言に、巻島専務理事(当時 )が
(7)
信託受託に適合する不動産の開発、商品化姿勢の
1990年代の不動産証券化制度創設からを振り返り今後
定着(8)
業容の国際化など伝統的な不動産業に非常に
を期待する記述がある。2016年からこの四半世紀を振り
大きな変化を齎した。
返ると、投資運用対象資産の多様化、公共施設等への
さて次の段階は?敢えていえば「浸透期」である。不
活用など、その実現に向けて当時の考えに沿った措置が
動産証券化浸透のために、不動産投資運用業の社会
検討されていることがわかる。
的意義を体現してゆく必要がある。その鍵の1つが「親
不動産証券化制度の変遷と現況を概観すると、1995
和性」だと思う。この3月に開業した“東急プラザ銀座”
年施行の不動産特定共同事業法による不動産特定共
でも、その言葉の意味を実感しているが、不動産資産の
同事業は約0.4兆円、1998年4月SPC法・資産流動化法
地元への地域価値貢献、不動産開発ではエリアマネジメ
施行後、特定目的会社型が約9兆円、特別目的会社型
ントでも注目されるこの視点を、内部成長に不可欠な運営
が約8兆円、そして同年12月投信法改正後、2001年3月
力が重要となる不動産投資運用業でも意識し実現するこ
に東京証券取引所が不動産投資信託上場市場を創設
とが、浸透促進に繋がるのではないかと思う。
し、現在Jリートは53銘柄、資産規模 約14兆円(時価
四半世紀の時間をかけ、自ら育とうとし育てられた我が
総額 10兆円超)、オ-プンエンド型私募リートは16本、資
国の不動産投資運用業を、今後も“先進性”
と“ディシプ
産規模は約1.6兆円(出資総額 約1兆円)
になった。
リン”
を持ち、社会の変化を感じ取りながら、課題を克服し
米国に続く世界第2位のリート市場を持つ我が国の不
動産投資市場の現在の姿であり、日本経済を支えてい
る。
併行して、国際競争力強化と投資家保護を備えた投
資市場育成の目的で、2006年に金融商品取引法が施行
て次の時代へと引き継がなければならないと思う。
聞くところ、1990年に本協会母体の不動産シンジケー
ション協議会( CRES )が設立に至った原動力の1つに
は、民間有志が米国の“リミテッド・パートナーシップ”
に興
味を抱き、始めた合同研究もあったそうである。
され、2014年同法改正を経て、投資者、投資家の範囲
不動産投資運用業の将来の担い手の皆様には、自ら
が、機関投資家から年金積立金管理運用独立行政法人
の想像力と知見を総動員して、ここまで育った日本の不動
( GPIF )
を含む年金基金、個人等の一般市民の投資家
産証券化(不動産投資運用業)
を更なる段階に誘うこと
まで伸展するなど、投資手段から国民の財産形成の役割
をフェローの一員として期待している。 も生まれ始めている。
不動産投資市場はこれまで幾度の危機にも耐えてき
最後に、
「東日本大震災」の復興途上、
4月に熊本地
た。その都度、
不動産と金融の融合を標榜する本協会の
震が発生した。
本寄稿時においても終息していない。お見
果たした役割は大きかった。とりわけ2009年9月の不動
舞い申し上げるとともに、迅速、着実な復旧を祈念したい。
産市場安定化ファンド組成は、我が国の金融資本市場
の窮地を救う役割を担ったといっても過言ではないと思う。
【文章中の数値は、平成 26 年度不動産証券化の実態調査(国土交
通省)、ARES 資料より引用】
May-June 2016
3