中学3年新設授業「つ ながり」について 広島なぎさ中学校・高等学校 社会科/地理歴史・公民科 教 諭 加 栗 貴 夫 本稿では、平成27年度に新設した広 識を活用していく力を育む」ことにあっ 初 代グランプリに輝 いたの が「くまモ 島なぎさ中学校3年の授業「つながり」 な差が生まれてしまった。ふさわしい問 たからである。 目の前の生徒の興味・関 ン」)が3つのテーマ(「地域/会社/日 本 授 業の最 後の取 組み いを如何に立てさせるか、今後の課題 (1回の授業を2時間連続で構成。以下 心を喚 起 するタイムリーな社 会 事 象を 本を元気に!」) を掲げて実施されている として行ったのが、小 論 文 の一つである。 「本授業」 という。) の概要を紹介したい。 教材化することが必要であると判断し、 ことを知っていた生徒は皆無であり、そ の 作 成 である。これは、後 「つながり」という授業 各授業担当者にできる限りの裁量を与 の点を紹介すると、みな中学生らしい素 藤芳文ほか『 学びの技法 』 えることにした。教員にとっては、生徒の 直な驚きの表情を見せていた。その点 (玉川大学出版部、平成26 以 上はあくまで私の取 組 みの一 部 近年、生徒たちの個々の知識の中に 状況を理解しながら学ぶにふさわしい を確認した上で「地域=広島県を元気 年 )などを参 考にして授 業 でしかなく、他の授 業 担 当 者もそれぞ は、他者や社会との関わりを持たない断 社会事象を選択して教材化し続けてい にしよう !」 というテーマを設定し、生徒一 を 組 立 て た 。この 取 組 み れに創 意 工 夫を凝らしながら授 業を 片的な知識が増加しつつあるのではな かなければならないという緊 張 感を持 人ひとりに「ゆるキャラ」をデザインさせ は、 「5W1Hを確実に押さえ 組 立てて展 開した。その過 程では、各 いかと感じることが多くなってきた。その 続的に “強いられる” 方法でもある。 た。生徒たちは、広島県の名産や他県 て事 柄を把 握し、それを文 自の授 業 内 容を日常 会 話や教 科 会の さらなる発展をめざして ような生徒の現状を踏まえて、他者や社 との違いなどを、iP a dを利 27年6月10日付朝刊記事「子ども用リー 章化できる力を身に付けさせる」ことを 場などを通じて教員同士で共有し、改 会との関わりの中で知識を活用していく 用して 調 べ 、思 い 思 い の ド命綱?犬みたい?」を選んだ。 これは、 目標とする本 授 業の総 決 算 的な位 置 善に努めた。初 年 度の取 組 みの中で 力を育むことを目的として本授業は新設 「ゆるキャラ」をデザインし、 最近増え始めている歩き始めの子ども 付けの活動であったが、今後の重要な 手 応えのあったものの一つが、他の教 された。 とは言え、 「他者や社会との関 その 後 各自の 作 品を共 有 を事 故から守るリードの使 用に対する 課 題の一つが浮き彫りとなる活 動にも 員 が 行った新 書を活 用した取 組みで わりの中で知 識を活 用していく力を育 する場を持った。 クラスメー 賛 否 の 声を紹 介 する記 事 であった 。 なった。 この取組みを通じて再認識した あった。その成 果を受けて、平 成 2 8 年 む」ことは「言うは易く行うは難し」で、 ど トのデザインの素晴らしさや 生 徒にとっては 考えや す いテーマで のが、ふさわしい問い(テーマ) を立てさ 度 は 新 書を活 用した 取 組 みを全クラ のように授業を構成・展開していけばよ 発想の斬新さをお互いに認 あったためか、かなり白熱したディベート せる難しさである。最初に説明をして各 スで実践する予定である。 いのか頭を悩ました。様々な教育実践 め合う場 面は微 笑ましいも が展開された。普段はおとなしい生徒も 自に問いを立てさせたが、当初生徒た 本 授 業 はスタートした ば かりで あ を参照したり、研修会に参加するなどし のがあった。この取 組みの 自身の意見を自分なりに一生懸命発言 ちが立てた問いの多くは漠 然としたも る。試 行 錯 誤を重ねつつも、生 徒たち 目的は、生徒と地域を「つな し、そういった姿 勢が他の生 徒たちの のであり、個別に「どうしてそれを論じる とともに、力 強く確 かな「 つながり」を 意欲をさらに高めた。ちなみに、その記 必 要があるの?どんな問 題があるから 本 校の教 育 活 動の中に描き出してい 事は世 間からの反 響も大きかったよう 問いにしたの?」 と聞くと、 「いや、特に問 けるようチャレンジし続けていきたいと 思う。 て方法論を学び、社会科の教科会で何 度も先 生 方と検 討の場を持ちながら、 なお、本授業を展開するにあたって、 以下のような授業として取組んでいくこ 本校から生徒一人ひとりがiPadを利用 とを決定した。 できる環境を整えてもらった。 キーワードは、 「 つながり」あるいは 「つなげる」 とした。 ①知識・出来事同士をつなげる ②知識・出来事を空間軸でつなげる ③知識・出来事を時間軸でつなげる ④知識・出来事を生徒自身との関わり 8 小論文を作成しよう 授業内容の紹介 ここからは、初年度の取組みの一部 を紹介していきたい。 「ゆるキャラ」をデザイン げる」ことにあった。 チャレンジ、京大式ディベート で、ディベート授 業を終えた2日後の同 題があるわけではないんですが… 」と ディベート自体は決して珍しい学 習 紙7月8日付朝刊にタイミングよく 「『 子ど いうような答えが返っ 活動ではないだろうが、私は、瀧本哲史 も用リード』記事に反響」という記事が てきた 。つまり、問 題 『 武器としての決断思考 』 (星海社、平 掲載され、次時の授業ではその反響記 意 識を持 つことなく、 成23年) に基づいてこの活動を行うこと 事を紹 介した。生 徒たちは自分たちの 物 事を論じようとして にした。同書は瀧本氏の京都大学での 議論の中には出てこなかった意見に触 いたのである。 「 論じ 「意思決定の授業」の内容を取りまとめ れて認識を深めたようであった。学習内 る」 ということそのもの でつなげる まず初回の学習テーマには、本授業 たものであり、その全容を実践すること 容とメディアの報道内容とがうまく 「つな を、 まずは教える必要 本授業を通じて、5W1Hを確実に押 が通常の教科とは毛色の違う授業であ はもちろん無理であるが、中学3年生で がった」事例である。 があると痛感した。問 さえて事柄を把握し、それを文章化でき ることを生徒たちに認識してもらうため も実践できる基本的な部分を活用した 2回目のディベート授業では、専門的 いを上手く立てること る力を身に付けさせることを目標とした。 に、通常の授業では扱うことがないであ のである。京都大学の講義で実践され な「 遺 伝 子 組 換え動 物をめぐる問 題 」 ができるようになった そして、学 習テーマ・教 材について ろう 「ゆるキャラ」を取上げた。 もちろん ている手法を部分的に体感することを を論 題とした。 このように、各 学習活 動 生徒もいたが、上手く は、各授業担当者がそれぞれ選定・構 生徒たちは様々な種類の「ゆるキャラ」 通じて、大学への意識付けを行うことも を単 発 的に配 置するのではなく、段 階 立 てられなかった 生 成することとした。それは、本 授 業の目 を知っていたが、平成23年から開催さ 一つの狙いであった。 的に発展させる形で配置するよう留意 徒もおり、小論文の出 的が「他者や社会との関わりの中で知 れている「ゆるキャラグランプリ」 (その 1回目の論題には、 『 朝日新聞 』平成 した。 来栄えにはやはり大き 季刊誌「鶴学園」 No.162 2016 春号 季刊誌「鶴学園」 No.162 2016 春号 9
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