住宅金融支援機構における 地域の住まい・まちづくりへの 支援の取組

特 集
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地方創生
∼地方創生の実現に向けた住まい・まちづくり分野での取組∼
住宅金融支援機構における
地域の住まい・まちづくりへの
支援の取組について
住宅金融支援機構 審議役
福島 直樹
(ふくしま なおき)
と、旧住宅金融公庫時代は、住宅ローンの住宅建設
の基準の検査を地方公共団体に委託し、また、地域
の気候・風土等に対応した割増融資を行うことなど
により、
地方公共団体との連携を行ってきました。
しかし、旧住宅金融公庫から機構への移行の過
1985 年京都大学経済学部卒業、建設省入省。 国土交通省総合
政策局不動産業課企画専門官、同 建設業課入札制度企画指導室
程で、直接融資の住宅ローンの大部分が廃止され、
長、
(一財)不動産適正取引推進機構調査研究部長、国土交通省住
地域対応の特別加算額もなくなりました。また、
住宅
宅局住宅政策課長、内閣官房地域活性化統合事務局次長等を経て
の基準検査が民間で行われるようになりました。そ
2014 年より現職。1級ファイナンシャル・プランニング技能士。
の後、平成 19 年に機構が設立されると、機構は証券
化支援業務(フラット35)に専念し、経営基盤の安
定化に注力してきました。こうした中、
地方公共団体
1. はじめに
地方創生に向け、各地域では地方版総合戦略の
策定がなされ、いよいよ今年度から本格的に各施策
が動き出そうとしています。また、国の住生活基本
計画の改定を受け、各地域ごとの住生活基本計画
の見直しが始まろうとしています。
こうした中、住宅金融支援機構(以下「機構」
と略
します。)としても、地域が抱える住まい・まちづくり
の様々な課題解決について、ワンストップで応えるこ
とが、全国に支店を配置している機構の公的機関と
しての責任を果たすことであると考えています。
機構と地方公共団体との関係を振り返ってみる
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との関係も希薄になっていきました。
一方、我が国は、既に人口減少社会に突入し、人
口減少が加速度的に進めば、経済規模の縮小や生
活水準の低下を招きかねないという極めて深刻な
状況に直面しています。特に地方においては、人口
減少が地域経済の縮小を呼び、地域経済の縮小が
人口減少を加速させるという負のスパイラルに陥るリ
スクに直面し、地域の弱体化が懸念されています。
こうした状況を克服するため、現在、国と地域が総力
を挙げて、産官学金労言が連携して地方創生に取
り組んでいるところです。
このような中、国及び地方公共団体が行うまちづく
り等の施策に協力し、住生活の向上に貢献すること
を目的としている機構が各地域の取組を支援するこ
とは当然の使命であると考えます。このため、機構
としては、地方公共団体、地域金融機関、地域住宅
関連事業者等との連携を図り、地域の住まい・まち
づくりの課題を解決し、地方創生に貢献する取組を
より一層強力に進めてまいります。
2. 地域の住まい・まちづくりへの支
援の取組
(1)地 域との対話による課題の
把握
(2)これまでの取組
こうした各地域の課題を踏まえ、機構としては、埼
玉県では「老朽化マンション管理適正化支援先導
事業」において講師の派遣やマンション共用部分リ
フォーム融資の相談を行うとともに(平成 28 年3月:
埼玉県と連携協定を締結[図1])
、
北九州市では「城
野ゼロカーボン先進街区形成事業」への支援、長岡
市では「長岡まちなか民間活力創造研究会」への
参加等を行っています。また、地方移住をサポート
するNPO法人ふるさと回帰支援センターが開催する
「ふるさと回帰フェア 2015」に初めて出展する等の
取組を行ってきたところです。
機構では、昨年度から本店に地域連携担当部長
また、自然災害で被災した住宅の再建支援では、
を設け、
まず、住まい・まちづくりについて、先進的な
平時から地方公共団体との連携を強固にするため、
取組を行っている地方公共団体等を訪問し、機構の
約60の地方公共団体と、災害時における住宅の早
融資制度等が、地方創生の取組の施策パッケージ
期復興に向けた協力に関する協定を締結しました。
の一端を担うことができないか、及びそのための改
善方策は何かについて意見交換を行ってきたところ
です。
これまで、埼玉県、北九州市、熊本市、大分市、金
沢市、長岡市、見附市等数多くの地方公共団体等を
訪問したところですが、
ここでの意見交換の中で、機
構に対しては、①住み替えや空き家再生、②コンパク
トなまちづくり、③地域の特色を生かした地方創生
に資する住宅プロジェクト、④市街地再開発、⑤住宅
団地・マンション再生、⑥東京から地方への移住促
進への支援等数多くのテーマについて期待が寄せ
られました。同時に機構が有している融資制度等
があまり知られていないことも分かりました。
(3) 各 支店等の体制充実による
新たな取組
さらに、今年度からは、地域の皆様に機構の融資
制度等をよくご理解いただき、ご活用いただけるよう
ワンストップで相談に対応できる体制を構築しまし
た。
具体的には、各支店等において、地方創生に資す
る地域の住まい・まちづくりに関する担当窓口を設
け、マンション共用部分リフォーム融資、まちづくり融
資、フラット35(リフォーム一体型)及び民間金融機
関のリバースモーゲージ型住宅ローンを支援する住
宅融資保険など、当機構の各種融資制度等につい
て、地域との対話を図りながら、施策支援のツールと
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∼地方創生の実現に向けた住まい・まちづくり分野での取組∼
図 1:埼玉県老朽化マンション管理適正化支援先導事業との連携
~専門家への支援~
分譲マンション
~管理組合への支援~
埼玉県
老朽化マンション
管理適正化支援先導事業
アドバイザー
市町村
・登録情報の整備と公開
アド イザ スキル向上支援
・アドバイザースキル向上支援
マンション
管理専門家団体
管
専門家団体
・老朽化マンションの抽出等
・アドバイザー派遣
機構で実施させていただく支援
機構で実施させていただく支援
● ドバイザ 登録講習会 機構制
●アドバイザー登録講習会で機構制
●支援事業 対象とな た管理組合
●支援事業の対象となった管理組合
度がプログラム化
・マンション共用部分リフォーム融資
・マンションすまい・る債
への職員派遣
●管理組合・市民向けセミナーへの
講師派遣
・高齢者向け返済特例制度 等
●アド イザ からの相談対応
●アドバイザーからの相談対応
マンション共用部分リフォーム
融資等の利用
してご活用いただけるような取組を行っていきたいと
者が医療施設等の充実したまちの中心部に移住する
考えています。
ため住宅を購入する場合を想定しています。
この場合、民間金融機関によるリバースモーゲージ
(4) 地 域との新たな連携のモデ
ルづくり
さらに、こうした各種融資制度等を組み合わせて地
域ごとの課題の解決に貢献できないか、
地域と一緒に
なって考え、連携して取り組んで行くことが重要である
と考えています。
例えば、[ 図2]は、機構の住み替え支援に係る融資
制度等を示したもので、まちの郊外に住んでいる高齢
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型住宅ローンを活用すれば、年金暮らしの方でも、住
宅ローンについて、金利相当部分のみを毎月支払い、
残りの元金はお亡くなりになった際に移住先の住宅を
売却してローンの返済にあてることとなるので、費用
面で移住が容易になります。このスキームでは、機構
は金融機関が抱えるリスクを住宅融資保険によってカ
バーする商品を提供しています。
また、郊外に残った住宅については、空き家になら
ないよう借上げ機関((一社)移住・住みかえ支援機
図 2:地域のワンストップ相談窓口との住み替え支援のための連携
【高齢世帯】
リバースモーゲージ型住宅ローン
(融資保険) ・建設 / 購入
住みかえ
・サ高住の入居一時金
購入等
賃貸 / 売却
ワンストップ相談
窓口等
リフォーム
業者
宅建業者
コーディネート組織
(NPO、まちづくり企業等)
地域
金融機関
住宅金融支援機構
<賃貸(賃借)>
借上機関による借上
→耐震リフォーム工事
賃貸
住みかえ
購入
住みかえ
住みかえ支援(耐震リフォーム)
への融資
<売却(購入)>
中古購入+リフォ ム の融資
中古購入+リフォームへの融資
(フラット35リフォーム一体型)
【子育て世帯】
構)を通じて若い世帯に転貸する場合に、リフォーム
域ごとに異なります。そのため、地域の課題の解決
融資(耐震改修)を行う商品を提供しています。他
のためのいわば処方箋を地域の皆様と連携して一
方、住宅を売却する場合には、購入者が中古住宅とリ
つ一つ手作りで作っていく必要があると考えていま
フォームが一体となった融資を受けられる商品を用意
す。こうした処方箋づくりにあたり、
機構融資制度等
しています。
により総合的に支援し、それに伴う関係者間の調整
こうした機構のスキームと地域のワンストップ相談窓
を行っていくことが機構の重要な役割の一つである
口が連携すれば住み替えが促進されるものと考えま
と考えています。
す。
さらに、その成果が、地域と機構との新たな連携
以上は、住み替え支援の一般的なモデル例です
のモデルとなり、ひいては他の地域における地方創
が、地域の課題は、空き家再生、住宅団地・マンショ
生の施策として役立つように横展開されればと思っ
ン再生、コンパクトシティ、移住、日本版CCRCなど地
ています。
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地方創生
∼地方創生の実現に向けた住まい・まちづくり分野での取組∼
3. 持続可能な地域づくりに向けて
地方公共団体等におかれては、地域の住まい・
まちづくりの課題解決にあたり、こうした機構の様々
な機能を活用していただければと思っています。
(1) 機構による支援の役割・機能
たばかりですが、住まい・まちづくり、さらには地域
(2) 持 続可能な地域づくりへの
貢献
づくりにおける機構の役割には主に3つの役割、機
我が国は、人口減少、地域経済衰退という極めて
能があるのではないかと考えています。
厳しい状況に直面しています。これをいかに克服し、
第一に、上記でも触れた地域の住まい・まちづく
持続可能な地域づくりを行っていくかが喫緊の課題
りの処方箋づくりの後方支援と、それに伴う関係者
となっています。
間の調整機能です。機構は、公的金融機関として、
こうした持続可能な地域づくりで重要なのは、
「ま
中立的な立場で、地方公共団体等が行おうとしてい
ち・ひと・しごとの創生に向けた政策5原則」
(
「ま
る施策を後方で支援し、関係者間の調整ができるも
ち・ひと・しごと総合戦略」2015 改訂版)の第1番
のと考えます。
目の柱に掲げられている「自立性」です。これは各
第二に、金融面での民間金融機関の補完機能で
施策が一過性の対症療法にとどまらず、構造的な問
す。例えば、マンション建替え事業や再開発事業の
題に対処し、地方公共団体・民間事業者・個人等
準備段階で必要となる初動期資金について、民間
の自立につながるようなものにするという原則です。
金融機関では融資が困難な場合には機構の支援が
その点、地域の住まい・まちづくりを金融により支援
求められることがあります。また、民間金融機関が
する手法は、
元来、
融資が事業者等の採算性・継続
提供するリバースモーゲージ型住宅ローンに対し、
リ
性を審査して融資するという性格を有していること
スクを住宅融資保険でカバーすることも重要な役割
から、各主体の自立性を促し、持続的な地域づくりに
と考えています。
貢献できる可能性を持っていると考えます。
最後は、機構と地域の連携等に係る情報提供・
機構としては、地域との対話を行い、民間金融機
情報発信機能です。これは、全国の各地域の支店
関との適切な役割分担のもと、持続可能な住まい・
等が有している地域と機構との連携施策等の情報
まちづくりに必要な金融商品の開発を行うなど創意
や本店が収集する国の住まい・まちづくりに関する
工夫を行いながら、地域に寄り添いつつ、地道に、か
施策等の情報を地域に還元し、地域と機構の連携
つ、息の長い取組を進めてまいります。そして、地域
を深めること等を通じて地域づくりに役立ててもらう
にふさわしい取組を通じて、地域の様々な課題の解
ことです。
決に寄与し、持続可能な地域づくりに貢献できるよう
機構においては、地域との連携による取組を始め
努めてまいります。
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〈参考〉住宅⾦融⽀援機構における地⽅創⽣関連の融資制度等
1 ⼦育て⽀援
4 住宅の好循環(住みかえ⽀援、空き家対策等)
■省エネ賃貸住宅建設融資(⼦育てファミリー向け)
⼦育てに必要な住⼾規模を有し、省エネルギー性
能にも優れた賃貸住宅に対する⻑期固定⾦利による
融資
■⺠間⾦融機関のリバースモーゲージ型住宅ローンに
対する⽀援
⾼齢者向けの次の資⾦を対象に、お亡くなりにな
るまで毎⽉の返済は利息のみとして、毎⽉返済負担
を軽減するリバースモーゲージ型の住宅ローンの供
給を住宅融資保険によって⽀援
2 ⾼齢者の居住安定
・申込本⼈が⾃ら居住する住宅の建設・購⼊資⾦
■サービス付き⾼齢者向け賃貸住宅融資
建設⼜は他⽤途からサービス付き⾼齢者向け賃貸 ・申込本⼈が住みかえる場合のサービス付き⾼齢者
向け住宅の⼊居⼀時⾦及びその際の住みかえる前
住宅にコンバージョンするものの事業資⾦を融資
の住宅のリフォーム資⾦
■⾼齢者向け返済特例制度による⽀援制度
満 60 歳以上の⽅(以下「⾼齢者」といいます。) ・申 込本⼈が⾃ら居住する住宅または3年以内の
定期借家契約により第三者に賃貸する住宅のリ
のご⾃宅のリフォームや住みかえ等における⾼齢者
フォーム資⾦
向け返済特例制度(お亡くなりになるまで毎⽉の返
■
【フラット
35(リフォーム⼀体型)】
済は利息のみとして、毎⽉返済負担を軽減できる制
中古住宅の購⼊と併せてリフォーム⼯事を⾏う場
度)等で⽀援
合に、中古住宅の購⼊資⾦とリフォーム⼯事の資⾦
・まちづくり融資
を【フラット 35】で融資
マンション建替事業や密集市街地での共同建替
【フラット
35】機構住みかえ⽀援ローン(住宅取
事業等で供給される住宅を建設・購⼊する資⾦を ■
得ローン)
融資
(⼀財)⾼齢者住宅財
・リフォーム融資
(バリアフリー⼯事・耐震改修⼯事) 現在所有している住宅を、
団による保証を活⽤し住宅借上事業を実施している
ご⾃宅をバリアフリー化または耐震改修するリ
機関に借上げてもらい、新たにご⾃⾝でお住まいに
フォーム資⾦を融資
なる住宅を建設・購⼊する資⾦を融資
・リフォーム融資(住みかえ⽀援(耐震改修))
⾼齢者が、現在所有している住宅を、(⼀財) ■リフォーム融資(住みかえ⽀援(耐震改修))
(⼀財)⾼齢者住宅財団による保証を活⽤し、住
⾼齢者住宅財団による保証を活⽤し住宅借上事業 宅借上事業を実施している機関が、
借上げする際に、
を実施している機関に借上げてもらう際に、住宅
当該機関が耐震改修する資⾦を融資
所有者が当該住宅を耐震改修する資⾦を融資
■耐震改修のための融資メニュー
・リフォーム融資(耐震改修⼯事)
3 ⼆地域居住
・マンション共⽤部分リフォーム融資
⼆地域居住に対応するため、本⼈が週末等に利⽤す ・賃貸住宅耐震リフォ-ム融資
るセカンドハウスの建設・購⼊に対して【フラット ■⺠間⾦融機関による買取再販事業者へのローンに対
35】で融資
する⽀援
⺠間⾦融機関による買取再販事業者へのローンの
供給を住宅融資保険によって⽀援
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