東北地方太平洋沖地震における動的相互作用を考慮した建物応答評価に関する研究 名古屋大学工学部社会環境工学科 建築学コース護研究室 丹羽智是 1. 研究の背景と目的 のようなパラメータを用いる。減衰定数は 2%の瞬間剛性比例型と 東北地方太平洋沖地震はマグニチュード 9.0 の日本観測史上最大 する。SR モデル(図 4)では地盤を半無限一様地盤として、地盤 の地震で、日本の広い範囲にわたって震度 6 弱以上の強い揺れが観 条件から水平と回転の地盤ばねを算出する。地盤の塑性化した場合 測された。津波による被害は甚大だったものの、揺れの大きさに比 も考慮するため、せん断弾性係数を半分にした場合についても検討 べ地震動による建物の倒壊など大きな被害は多くは報告されてい する。地盤ばねを算出する式は以下の通りである。 ない。南海トラフでも近い将来同様の大地震の発生が危惧されてお り、建物被害の予測は重要である。また兵庫県南部地震や新潟県中 Kh 長辺方向(X方向) 8Vs2 rh 8Vs2 rr3重量Kh:水平地盤ばね 階高 , K r 階数 剛性(kN/m) 2 3(1 )(kN)Kr:回転地盤ばね (cm) K K K 1 強度(kN) Q1 3 Q2 越沖地震において中低層 RC 造建物の被害がほかの建物に比べて小 14 6790 400 4.23×105 1.76×104 0.0 6163 6199 ここで ρ、r h、r r、ν はそれぞれ、地盤の密度、面積等価半径、断 さかったことが報告されている。この理由として建物の評価してい 面 2 次モーメント半径、ポアソン比である。密度、ポアソン比、せ 12 5200 400 4.62×105 2.20×105 7.61×103 7865 9232 剛性( K1 K2 2.71×105 1.74× 13 5211 400 4.31×105 9.55×104 3.69×103 7013 7379 11 5210 400 4.93×105 1.64×105 7.60×103 9326 10755 3.50×105 2.32× 10 5236 400 5.19×10 1.62×10 9997 11724 3.68×105 2.43× そこで本研究では、東海地方で大地震による建物被害を想定する する。SR モデルの固有周期と基礎固定モデルの固有周期の比較を 9 5236 400 5.31×105 2.66×105 1.93×104 10291 12449 3.84×105 2.40× ことを目的として、同地方で経済活動に大きな影響を与える建物に 8 5254 400 5.53×105 3.16×105 1.96×104 10386 13106 V7S が小さいほど軟らかくなるので、SR モ 5273 400 5.65×105 3.04×105 2.08×104 11130 13682 4.10×105 2.35× 6 5279 400 5.77×105 2.81×105 2.43×104 11780 VS の小さな地点で長周期化している。1.5m の根 14153 4.44×105 2.13× 5.87×105 2.98×105 14566 4.65×105 2.21× 15064 4.88×105 2.38× ない余力や建物と地盤の相互作用が考えられている。 ん断波速度は、VS が 400m/s に達するまでの深さを平均化して使用 5 5 4 対して建物応答解析を行った。建物モデルは東海地方において標準 的な事務所、工場、商業施設を対象として作成し、M9 クラスの地 図 5 に示す。地盤ばねは デルの固有周期は 5 5280 400 2.06×10 2.75×104 11850 入れを考慮した場合については基礎入力動を用いて検討する。 4 5287 400 6.00×105 2.75×105 2.85×104 12301 2.91×105 2.02× 3.26×105 1.93× 4.27×105 2.22× 3 5295 400 6.06×105 2.71×105 3.51×104 12667 15496 5.13×105 2.75× 2 5476 500 5.38×10 3.05×10 12959 16338 4.83×105 2.77× 解析をした。また地盤と建物の動的相互作用の効果を考慮したスウ MYG006、MYG011 の EW 1方向の波形を図 65 に、解析モデルと同じ 6203 580 8.04×10 1.56×105 1.43×104 14797 19188 7.39×105 1.68× ェイ・ロッキングモデル(以下 SR モデル)についても併せて検討 減衰定数 2%のトリパタイトスペクトルを図 7 に、地盤条件を図 8 した。 長辺方向(X方向) に示す。トリパタイトスペクトルには 重量 階高 3 階モデルの一次固有周期を 2.建物のモデル化と解析条件 実線であわせて示す。図 6 と図 (kN)7 から加速度波形が同じ形でも、 (cm) K1 K2 K3 Q1 地 震動である東北地方太平洋沖地震の観測波を用いて、弾性・弾塑性 地盤条件と入力波の一例として、SR モデルでも解析を行った 5 5 4 2.42×10 剛性(kN/m) 階数 本稿では上述した建物の標準的なモデル(図 1)を作成して、 K-NET で震度 6 弱以上を記録した主な地震動に対する(図 2)非線 5 強度(kN) Q2 4 8 6586 380 2.86×10 5.19×10 0.0 5491 震波の含む周波数の成分には大きな違いがあることが分かる。 5 4 7 5072 380 5125 380 0.0 7252 8380 2.68×105 2.04× 1.97×105 1.63×104 7840 9858 2.86×105 2.07× 3.84×105 2.44×105 2.21×104 8595 11142 3.42×105 2.18× 相互作用を考慮しない場合の解析結果を図 9 に示す。累積塑性変 4 5141 380 4.10×105 2.37×105 3.27×104 9673 12166 モデルとした。建物の復元力特性をノーマルトリリニア(図 3)で 3 5148 380 4.71×105 2.54×105 3.74×104 1054450 13262 階モデル、平屋工場モデルにおいて多くの観測点で 形倍率は 3 2 3,800 5,000 3,800 4,000 4,000 4,000 4,000 4,000 4,000 4,000 4,000 4,000 4,000 4,000 4,000 4,000 3,800 3,800 14FL 2FL 13FL 4,300 RFL 3FL B 6,000 C (a)事務所 10FL 7FL 4,300 3,800 3,800 3,800 4,300 3,800 3,800 3,800 3,800 3,800 3,800 4,000 8FL 5FL 7FL 4FL RFL 6FL 3FL 3FL 5FL RFL 5,000 階高 (kN) (cm) 3 5443 380 K2 強度(kN) 剛性( K3 Q1 Q2 K1 1.93×105 1.49×105 7.23×102 3379 5511 1.85×105 1.23× K 380 1.76×105 1.13×105 4.18×103 3515 5556 1.62×105 1.19× 5383 430 1.76×105 5.74×104 6.73×103 5215 7083 1.68×105 1.04× MYG017 MYG010 13,600 B 6,000 (c) 事務所 図 3 履歴曲線 C FKS001 Z 13,600 B L1 A C B 6,000 C 14 階建てモデル Z 6,000 C IBR002 TCG006 TCG014 5,500 3,800 RFL 5FL 6,000 4FL 6,000 3FL 1.08 1.07 1.06 重量 階数 1.05 (kN) 1.04 1 1.03 8025 1.02 1.01 1 重量 0 階数 (kN) 6,600 2FL 20m K1 4982 B1FL 10m 長辺方向(X方向) 剛性(kN/m) 1 TSR/TFix 5,000 2FL GL 1FL 1FLGL 200 200 8 階建てモデル 6.24×105 2.99× 2 MYG012 Z L1B A B 4.43×105 2.85× MYG011 1FLGL 200 GL 1FL 200 2FL 13,600 4.19×105 2.61× MYG007 4,300 5,800 3FL 3FL B L1 A 14538 MYG016 2FL 2FL 4FL (b) 事務所 11221 MYG015 6FL RFL B 6,000 3.54×104 8FL PRFL 13,600 重量 階数 MYG006 9FL 3 階建てモデル Z L1B A IWT012 11FL 1FLGL 200 ZBA AAA 12,000 B 12,000 C 12,000 D 12,000 E 12,000 F 12,000 G (d) 商業施設モデル 図 4 SR モデル 図 2 観測点一覧と (e) 平屋工場モデル 図 1 建物モデル一覧 MaxAcc.=571(gal) (a) MYG006 MaxAcc.=688(gal) 3 階モデルの固有周期 最大地動速度 MaxAcc.=511(gal) (c) MYG006(基礎入力動) MaxAcc.=688(gal) 420 階高 K1 4 31617 3 27076 550 K2 7.54×104 5.96×104 100 (cm) 24954 図 380 5 剛性(kN/m) 0 27313 2 27628 4 2 1 600 660 強度(kN) K3 Q1 Q2 4.72×104 3373 3906 200 300 KVs(m/s) K2 1 K3 5.74×105 3.84×105 0 0 6.50×105 4.56×105 2 2 7.00×105 1.88×105 4 4 剛性( K1 K 8.09×104 4.94× 強度(kN) Q1 7.32×105 3.44×105 8.48×102 19185 モデル別の固有周期と せん断波速度の関係 600 5.52×105 4.04×105 Q2 1.17×104 31469 38867 1.25×104 30452 40640 1.17×104 35065 46868 1.10×104 41388 0 2 1 22968 51144 60mモデ 30mモデ 低層モデ 4 平屋工場モ 6 6 6 6 商業施設モ 8 8 8 8 10 10 10 10 12 12 12 12 14 14 14 14 16 16 16 16 18 18 18 18 MYG006 MYG011 Time(s) 剛性(kN/m) (cm) 5 20 0 (b) MYG011 図6 SRモデル 長辺方向(X方向) SR地盤塑性後モデル 階高 Time(s) (d) MYG011(基礎入力動)図 7 MYG006、MYG011(EW 方向) EW 方向加速度波形 トリパタイトスペクトル 250 VS(m/s) Vs(m/s) depth(m) 13,600 depth(m) Z BA L1 5.03×105 3.22×105 3.68×105 2.14× 表 1 事務所 3 階モデル解析緒元 25~50(cm/s) 50~75(cm/s) 75~100(cm/s) 100~(cm/s) 12FL 1FLGL 200 380 5 3 階モデ を超える値を示しており損傷の危険性がある。 また事務所 1 5548 430 6.97×105 3.93×10 4.59×108 12601 16269 PRFL RFL 5184 K 2.41×105 2.06× 6.14×10 3.14×10 6 5084 380 3.26×105 3.相互作用を考慮しない場合の解析結果 5 剛性( K1 5800 形地震応答解析をする。上部構造のモデルは多質点系等価せん断型 与え、骨格曲線は静的増分解析より得られた結果をもとに、表 1 B1FL 2 20 20 500 0 0.5 1 1.5 2 2.5 0 ρ(t/m3) (a)MYG006 250 VSVs(m/s) (m/s) 20 500 0 0.5 1 1.5 2 2.5 ρ(t/m3) (b)MYG011 図 8 地盤条件 MYG006、MYG011 ルや事務所 14 階モデル、商業施設モデルでも大きな値を示した れる。南海トラフでの地震も長時間揺れが続くことが想定されてい MYG006 では、図 7 のトリパタイトスペクトルから長周期にも大き るため、解析で応答が大きかった事務所 3 階モデルや平屋工場モデ な成分を持っており、そのため大きな応答を示したと考えられる。 ルだけではなく、他の建物モデルのようなものも大きな応答を示す 可能性がある。 ここでは、相互作用の効果が大きいと思われる 3 階モデルを対象 50< 13.0 0.0 50< 5.2 50< 0.7 7.0 50< 0.0 43.1 24.1 8.3 50< 20.8 36.3 17.7 2.8 50< 6.4 38.9 11.0 2.6 50< 17.6 IBR002 50< 13.2 17.8 50< 32.7 TCG014 MYG015 MYG011 MYG010 結果の一部として MYG006EW 方向において、累積塑性変形倍率が MYG007 MYG006 NS 両方向で累積塑性変形倍率の値がより小さくなる。図 11 に解析 19.4 5.5 6.0 50< 12.0 TCG006 50< 18.5 22.3 50< 29.1 FKS001 (1) 50< 50< 6.2 13.5 (2) 50< 7.3 49.8 2.3 (3) 27.8 0.8 10.2 1.4 MYG007EW・NS 両方向で、基礎固定モデルよりも累積塑性変形倍 120.0 100.0 80.0 (4) 50< 50< 20.9 10.0 60.0 40.0 率の値が小さくなることがわかる。また、地盤の塑性の有無による (5) 50< 7.7 50< 3.0 20.0 0.0 影響を比較すると地盤の塑性化によって MYG006、MYG007EW・ 結果を図 10~14 に示す。図 10 より SR モデルとすることで MYG006、 MYG017 MYG007、MYG010、MYG011、MYG015 とした。SR モデルの解析 IWT012 (1)事務所 3 階モデル (2)事務所 8 階モデル (3)事務所 14 階モデル (4)工場施設モデル (5)商業施設モデル とする。解析地点は、地盤の硬軟差が大きな地点を選び、MYG006、 MYG016 4.相互作用を考慮した場合の解析結果 図 9 各建物長辺モデルで最大値を持つ階の累積塑 大きかった 2 階の履歴ループを示す。MYG006EW 方向の場合、SR 性変形倍率(EW 方向) モデルとすることで(b)履歴ループが小さくなっており、(c)根入れ 基礎固定モデル SRモデル SR地盤塑性後モデル SRモデル(根入れ1.5m) 120 を考慮することでさらに小さくなっている。基礎の相対変位波形 100 (図 12)を見ると地盤の塑性化によって基礎の相対変位が大きく 0.07 0.06 0.05 80 なっている。これは地盤ばねが軟らかくなったためである。一方根 基礎固定モデル SRモデル SR地盤塑性後モデル SRモデル(根入れ1.5m) 0.04 入れを考慮したモデルでは応答が小さくなり入力損失の効果が現 60 れている。しかし相互作用による効果は他の観測点では見づらい。 40 0.02 SR モデルではいずれの場合も応答の値は小さくなっているが、顕 20 0.01 0 0 MYG006EW MYG006NS MYG007EW MYG007NS MYG010EW MYG010NS MYG011EW MYG011NS MYG015EW MYG015NS MYG006EW MYG006NS MYG007EW MYG007NS MYG010EW MYG010NS MYG011EW MYG011NS MYG015EW MYG015NS 著な変化ではなく、層間変形角でも SR モデルと基礎固定モデルの 0.03 違いが見られる。しかしこちらも変化が小さく被害の度合いは同程 度と考えられる。 弾性解析による二種地盤のベースシアー係数と累積塑性変形倍 率の相関を示した図 14 を見ると、相互作用を考慮することでベー 図 10 事務所 3 階モデル(長辺) 図 11 事務所 3 階モデル(長辺) 累積塑性変形倍率 スシアー係数が小さくなっている。しかし累積塑性変形倍率の値が 層間変形角 を示している。ベースシアー係数が 1 を超える点も存在し、設計を 超えた入力が作用した可能性を示している。また、値が 1 以下でも 累積塑性変形倍率が大きくなっている地点がある。これは繰り返し Shear(kN) 大きな値であることに変わりはなく、被害が大きいままであること 応答を受けたためだと考えられる。 今回の解析では相互作用による低減効果が見られたが、SR モデ Dis(cm) Dis(cm) (a) 基礎固定モデル も分かるように、入力波の持つ周波数成分のピークに近づくことが (b) SR モデル (根入れ 1.5m) 図 12 相互作用の有無を考慮した 2 階履歴ループ あり、設計を超えた入力になる可能性がある。 基礎固定モデルの解析では 3 階モデル、工場モデルで累積塑性変 基礎固定モデル SRモデル SR地盤塑性後モデル SRモデル(根入れ1.5m) 形倍率が大きく損傷する危険性がある。しかし、実際の被害には非 地点では顕著な変化は見られず被害の度合いは変わらない。相互作 用を考慮した場合の応答は地盤の条件に大きく影響するため、設計 よりも大きな地震動が入力される可能性がある。相互作用を考慮す ることで、ベースシアー係数が 1 を切る地点に変化があったが累積 塑性倍率の値に大きな変化はなく大きな値を示したままであるた め、損傷の危険性は依然としてある。東北地方太平洋沖地震のよう に繰り返し入力が続く地震動では建物の応答が大きくなる可能性 があり、そのために累積塑性変形倍率が大きくなったのだと考えら Dis(cm) などが見られたが、累積塑性変形倍率など応答が大きな値を示した (a)SR モデル 120 100 累積塑性変形倍率 害については多く報告されていない。相互作用の効果は周期の伸び Dis(cm) 5.まとめ 構造部材の被害が主に報告されているだけで、倒壊などの大きな被 Dis(cm) (c) SR モデル 80 60 (b)SR モデル(根入れ 1.5m) 40 20 0 0 0.5 1 1.5 2 2.5 ベースシアー係数 Dis(cm) ルにすることによる固有周期の伸びは、トリパタイトペクトルから 図 14 ベースシアー係数と 累積塑性変形倍率の相関 Time(s) (c)SR モデル(地盤塑性後) 図 13 MYG006EW における地 盤条件毎の基礎相対変位波形 系列1
© Copyright 2024 ExpyDoc