見通し改訂:米国第一主義、米国に頼れない世界の

リサーチ TODAY
2016 年 5 月 23 日
見通し改訂:米国第一主義、米国に頼れない世界の不安
常務執行役員 チーフエコノミスト 高田 創
みずほ総合研究所は、四半期毎に改訂している『内外経済見通し』を発表した1。今回の改訂の特徴は、
ドル高に注目していることである。2015年までの基本シナリオは、新興国が減速を続けるものの、米国に期
待がかかる米国機関車論であった。ただし、世界経済は長期に亘るバランスシート調整の第3局面として新
興国問題を抱える局面にあるため、その下振れには留意するべきとの認識であった。前回(2月)の改訂で
は、米国への見方を大幅に下方修正し、米国の金融政策は年内利上げなしとの判断に至り、為替が円高
に大きく振れることも想定し、日本の成長率も大きく下方修正した。今回の改訂は前回よりさらに引下げ、米
国がこれまで担ってきた通貨高の引き受け手の役割を放棄し、ドル高を抑制すべく10%程度ドル安に誘導
する状況を想定した。年後半に向け、米国の景気は盛り返すとしたがその前提はあくまでもドル安が続くこ
とにある。これまで米国が担ってきた通貨高の引き受け手の喪失に伴い、世界経済はけん引役不在の状
況になる。足元の新興国発の不安は小康状態が続いているが、政策面も含め浮揚要因の不在による不安
は根強い。
■図表:みずほ総合研究所の世界経済予測総括表(2016年5月)
(前年比、%)
暦年
2013年
2014年
2015年
2016年
2017年
(実績)
(実績)
(実績)
(予測)
(予測)
(前年比、%)
2016年
2017年
(3月予測)
3.3
3.5
3.2
3.2
3.7
3.1
3.6
日米ユーロ圏
0.8
1.5
1.9
1.4
1.7
1.4
1.7
米国
1.5
2.4
2.4
1.6
2.3
1.8
2.3
▲ 0.3
0.9
1.6
1.4
1.4
1.2
1.4
1.4
▲ 0.0
0.6
0.5
0.6
0.4
0.6
6.4
6.3
6.1
6.0
6.0
6.0
6.0
中国
7.7
7.3
6.9
6.6
6.5
6.6
6.5
NIEs
2.9
3.4
2.0
1.8
2.2
2.0
2.2
ASEAN5
5.0
4.6
4.7
4.6
4.5
4.5
4.5
インド
6.3
7.0
7.3
7.5
7.5
7.6
7.5
オーストラリア
2.0
2.6
2.5
2.6
2.5
2.6
2.5
ブラジル
3.0
0.1
▲ 3.8
▲ 3.5
0.6
▲ 3.6
0.0
ロシア
1.3
0.7
▲ 3.7
▲ 1.2
1.0
▲ 3.3
0.5
日本(年度)
2.0
▲ 0.9
0.8
0.9
0.2
0.9
0.3
原油価格(WTI,$/bbl)
98
93
49
44
46
29
30
予測対象地域計
ユーロ圏
日本
アジア
(注)予測対象地域計は IMF による 2013 年 GDP シェア(PPP)により計算。
(資料)IMF、みずほ総合研究所
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2016 年 5 月 23 日
年初来の見通しにおける大きな転換の背景には、「第4局面」として新興国が深刻なバランスシート調整
にあるなか、先進国もバランスシート調整が長引き、世界同時不況に陥る不安があった。唯一のけん引役
である米国の不安がポイントであった。今回の見通しのポイントは、世界各国が通貨安を志向しドル高が進
んだ結果として、米国が為替政策を転換したことである。一旦、ドル高是正に伴い米国経済が安定したこと
により、世界連鎖不況は回避され、年初来の世界的株安の悲観シナリオは後退している。しかし、これまで
通貨安に依存していた、日本や欧州はけん引役を失った状況にある。こうした米国第一主義は、米国大統
領選において共和党候補としてトランプ氏が台頭し、自国優先の主張を繰り返す動きとも整合的だ。米国
の回復の切り札がドル高回避にあるなか、前回の改訂では「米国の年内利上げは無し」としたが、今回は、
下記の図表のようにさらに今後の利上げの想定も、「2017年以降は年2回」とし、最終的な利上げの着地点
もせいぜい2.0%止まりとした。
このようなドル高回避あるいはドル安志向への為替政策は、今後の大統領選の行方も含め、2017年以
降も続く可能性がある。
■図表:米国の政策金利の見通し
2.5
(%)
2.0
1.5
1.0
0.5
0.0
2015
2016
2017
2018
2019
2020
(四半期)
(年)
(注)グラフは政策金利レンジの上限(レンジ幅は 0.25%)。
(資料) みずほ総合研究所作成
今回の見通しのポイントには、米国の為替政策スタンスの転換があるが、世界経済は不確実性を多く抱
える。世界は今や「ABC不安」、すなわち「A」として、米国のトランプ大統領誕生。「B」として、英国のEU離
脱(Brexit)の不確実性。さらに、「C」として中国経済が抱える「時限爆弾」だ。今日、市場は小康状態では
あるが、今後を展望し明確な回復シナリオを描けない不安がつきまとう。
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「2016・17 年度内外経済見通し」(みずほ総合研究所 『内外経済見通し』 2016 年 5 月 20 日)
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