PPPニュース 2016 No.4 (2016 年5月 25 日) 民間視点による脱エスカレーション 指定管理や委託等多くの地方自治体では、職員数の削減などによる組織・業務の最適化と共に民間 化の取組みを進めている。しかし、民間化も含め行財政のスリム化を実現しただけでは、行政の効率 化、そして公共サービス等住民の利便性を現実に最大化することは難しい。なぜならば、行政活動の 中の意思決定の流れや行動形態の中には、行政の視点では認識できない「見えない非効率(X非効率)」 を残しながらスリム化の取組みが進行するからである。予算額や人員等を単に削減しても、従来展開 してきた意思決定や行政の中の人間行動のプロセスに潜む「見えない非効率」を温存し続ければ、行 き着く結果は「努力しても報われない実態」となる。見えない非効率は、日常的・ルーティン的に実 施してきた「当たり前との認識」あるいは「無意識化」している領域に多く存在する。新たな制度の 導入も導入過程も含めて見えない非効率を抱えたままでは、全体としての非合理を生む合成の誤謬を 発生させ期待した効率化は実現しない。その結果、効率化に努力するほど地方自治体の組織・機能が 苦しくなり、スリム化努力が住民の利益に結び付かない実態をもたらす。 「見えない非効率」を掘り 起こし排除することが必要となり、この掘り起こしにおいて、重要なトリガーとなるのが行政とは異 なる民間化の視点などであることは間違いない。しかし、ここで指摘する民間化とは、民間組織体に 公共サービスを単に委ねることではなく、委ねたことを通じて民間の発想や視点を行政組織内に取り 込み実践することを意味する。形式的な目標管理による民間へのモニタリングではなく、プロセスの 中に組み込まれた民間のノウハウを公的部門も吸収し、民間の異なる視点から自分達の「当たり前」 を再発掘し改善することに一番のコアが存在する。 さらに、マネジメントに関して「1:29:300」の原則がある、組織内でひとつのミスや問題が生 じた場合、その背後には 29 の組織内で認識できる問題点があり、29 の問題点の背後には 300 の組織 の視点では認識が難しい問題点(いわゆる「X非効率」)が存在しているという意味である。組織内 で何かひとつの認識されたミスや問題点が発見され、それは、行為者等のひとつの原因から導き出さ れることはほとんどない。多くの場合には複合した組織的人間行動の原因からもたらされる。ひとつ のミスを組織内で精査することで、さらに認識可能な 29 の問題点が存在し、29 の認識可能な問題点 を認識するだけでは止まらず、さらに 300 ともいわれる深層部に至る日常化し無意識化したX非効率 を本格的に発掘しなければならず、組織内だけの視点では困難性を伴うことを意味している。逆に言 えば、組織内で従来の視点で発掘できる問題点は、原因の一割に止まることを意味しているのである。 300 の日常化した認識しづらい問題点・X非効率を放置し続ければ当然、組織に内在した病巣の本 質は残されたままとなり、同じミスを繰り返して発生させる結果となる。表面的な問題点に目を奪わ れそれに止まることなく、人間行動として問題点を掘り起こす姿勢が必要である。日常的に、組織自 らは発掘困難な問題点を外部の視点等を取り入れつつ、継続的に発掘し見直している組織は 30 の問 題点も減少し、結果として組織全体の効率化が進むことになる。X非効率を生み出す要因のひとつと して、個人や組織を通じた認知心理がある。代表的な認知心理として、①行動、②規模、③アンカー リング、④フレミング、⑤アクセス、⑥勝者の各エスカレーションが上げられる。①行動エスカレー ションとは、 「今までやってきたから」に代表される経験や先行して積み上げて来た行動を正当化し 易いこと、②規模エスカレーションは、経済規模、収益規模など規模が大きいことを優位性が高いと 認識し易いこと、③アンカーリングエスカレーションとは、最初に接した情報に大きく左右されやす いこと、④フレミングエスカレーションとは、自分の組織、地域などに好意的な情報を優先し易いこ と、⑤アクセスエスカレーションとは、日常よく使う情報入手ルートから得る情報を優先し易いこと、 ⑥勝者エスカレーションは、成功体験に左右され易いことである。以上のエスカレーションは無意識 の中で生じやすく、それが積み重なると自己過信が生じX非効率が堆積することになる。 © 2016 FUJITSU RESEARCH INSTITUTE
© Copyright 2025 ExpyDoc