リサーチ TODAY 2016 年 5 月 26 日 FinTech 革命と銀行へのゲームチェンジ 常務執行役員 チーフエコノミスト 高田 創 2015年のグローバルな金融業界で最も話題に上った一つは「FinTech(フィンテック)」であろう。FinTech とはFinance(金融)とTechnology(技術)からなる造語であり、最先端のIT技術を活用した新たな金融サー ビスを意味する言葉である。具体的には、オンラインでの融資の仲介を行うプラットフォームや、スマートフ ォンを用いたモバイル決済、家計・資産管理の自動化、コンピューター・プログラムによる資産運用アドバイ スなど、様々な分野での革新的な金融サービスが生み出されている。みずほ総合研究所は、最近の FinTechの動向に関して米国からのリポートを発表している1。そのなかでは、FinTech各分野で基幹となる 技術やサービスが普及しつつあるなかで、既存のサービスに応用を効かせた企業が現れていることに注目 した。ただし、新規企業に対する投資家の目が厳しくなるために、今後は企業の選別が強まる可能性があ り、投資先、提携先を考える金融機関にとっては個社の成長性の見極めが重要となるとした。 さらに当社は、FinTech革命とされる新たな金融サービスが銀行へ与える影響に関する緊急リポートを発 表している2。下記の図表は同リポートに示された、FinTechがもたらす新しい金融仲介の流れを示した概念 図である。今日のマイナス金利や金融規制の強化が、銀行の金融仲介機能を低下させ、ディスインターミ ディエーションを促進する一方、新たなIT技術の進歩であるFinTechにより新しい金融仲介の流れが生まれ ていることを示している。今日、既存の金融機関への制約が生じる一方で、IT技術の進歩が新たな分野の 一層の拡大をもたらすドライバーとなっていることを示している。 ■図表 FinTechがもたらす新しい金融仲介の流れ 家計 ソーシャル・レンディング マーケットプレイス・レンディング 学生ローン 住宅ローン 借入・ 債券 家計 消費者ローン 銀行 医療費ローン 当座貸越 カードローン 売掛金ファイナンス 企業 企業向け貸付 マーケットプレイス・レンディング ソーシャル・トレーディング (資料)みずほ総合研究所 1 ETF 投信 株式 ロボ・アドバイザー トレード・ファイナンス 社債 株式 リサーチTODAY 2016 年 5 月 26 日 下記の図表はFinTechの拡大による既存金融機関のビジネス環境の変化を示すものである。既存金融 機関から見ると、FinTechやIT技術の発展は大きなゲームチェンジを引き起こす可能性がある。同時に、金 融機関を巡る競争環境、外部環境が大きく変わるなか、FinTechやデジタル化への対応の遅れは、競争劣 位をもたらす可能性もある。したがって、金融機関としてはゲームチェンジが起こるなか、これらをリスクとし てだけではなく、チャンスとするためにビジネス/デジタル戦略を再構築する必要がある。 ■図表 FinTechの拡大や外部環境がもたらす既存金融機関のビジネス環境の変化 優れたIT技術を背景に、低手数料、高利便性 のサービスを提供 金融サービスの価格破壊 FinTechによるコスト革命を受 け、金融サービスの価格破壊 が起こる可能性 デジタル化した金融機関 IT技術をコアにビジネスを再構築し、FinTech で武装(リバンドリング)した金融機関 外部環境の変化 顧客ニーズの変化 顧客のデジタル志向 外部環境の変化が顧客ニー ズの変化を引き起こし、競争 優位性が失われる可能性 顧客(リテール/ホールセール)がデジタル化さ れたサービスを求める 新しい金融ニーズ IoTやシェアリング・エコノミー等、第4次産業革命によ り、産業やサービスのあり方が大きく変わる中 で、それを支える金融のあり方も変化 リテール キャッシュレス化、UX志向 中小企業 クラウド・ファンディング リスクではなく、チャンスとするための ビジネス/デジタル戦略の再構築が重要に ビジネス環境の変化 ゲームチェンジ の可能性 競争環境の変化 FinTechスタートアップの台頭 (資料)みずほ総合研究所 例えば、FinTechによるコスト革命を受けて、金融サービスの価格破壊が生じる可能性がある。すなわち、 優れたIT技術を背景に低手数料、高利便性のサービスが提供される。また、顧客のデジタル志向や第4次 産業革命により新しい金融ニーズが出てくるなど、顧客のニーズが大きく変化するため、従来の金融機関 の競争優位性が失われる可能性もある。こうしたなか、既存の金融機関はFinTechの提携・取り込み(リバ ンドリング)を進め、自らの顧客基盤に対してイノベーティブな金融サービスの提供をしないと生き残れなく なる。また金融機関の戦略上、FinTechとの直接の競合を避け、FinTechが侵入しにくい高度なコンサル ティング分野に注力したり、深いリレーションに基づくビジネス展開を志向したりするモデルもある。 ITの活用や金融機能のアンバンドリング化の流れは、急に生じたものではなく以前から様々な局面で生 じていた。ただし、IT化やアンバンドリング化の今日の大きな飛躍は、データを中心にしたテクノロジーが急 速に進歩を遂げたこと、その結果、金融機関のビジネスモデルに大きな変化を与える可能性が生じたこと だ。こうした動きは現在進行形であるため、みずほ総合研究所もその潮流を今後ともフォローし続ける所存 である3。 1 服部直樹 「拡大を続ける Fin Tech ビジネス」 (みずほ総合研究所 『みずほインサイト』 2016 年 5 月 12 日) 「FinTech 革命と銀行への影響」 (みずほ総合研究所 『緊急リポート』 2016 年 5 月 10 日) 3 FinTech の動向については、近刊『証券アナリストジャーナル』(2016 年 6 月号 日本証券アナリスト協会)特集「フィンテック」を 参照いただきたい。 2 当レポートは情報提供のみを目的として作成されたものであり、商品の勧誘を目的としたものではありません。本資料は、当社が信頼できると判断した各種データに基づき 作成されておりますが、その正確性、確実性を保証するものではありません。また、本資料に記載された内容は予告なしに変更されることもあります。 2
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