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プレスリリース
報道解禁日時
本研究成果は英国科学誌「Scientific Reports」から、以下の報道解禁設定があります。
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日本時間5月25日午後7時【英国時間5月25日午前10時】
平成 28 年 5 月 25 日
報道機関各位
学校法人金沢医科大学
-新たなサイトカイン分泌制御機構の発見-
自己免疫疾患などに対する新たな治療法の開発への貢献に期待
概 要
わ
だ と しき
金沢医科大学免疫学講座の和田俊樹講師らの研究グループは、米国国立衛生研究所、九州大学
生体防御医学研究所、東北大学加齢医学研究所との共同研究で、Sortilin と呼ばれる分子が自然免
疫系の免疫細胞である形質細胞様樹状細胞(pDC)注 1 からのインターフェロン注2(IFN)-αの分
泌に関わることを明らかにしました。また、細胞が生体微量元素の一つである亜鉛を利用して
Sortilin の発現を制御することでサイトカイン注3の分泌量を調節するという新奇なサイトカイン
分泌制御メカニズムも明らかにしました。pDC は、その機能の異常による IFN の大量分泌によっ
て、全身性エリテマトーデスや尋常性乾癬といった炎症性疾患の発症・進展に重要な役割を果た
すことが知られています。本研究成果は、これらの疾患の発症機序の詳細な解明や新たな治療法
の開発への貢献が期待されると同時に、免疫細胞からのサイトカイン分泌制御機構に関する研究
を発展させるきっかけとなることが期待されます。
なお、本研究成果は、英国時間2016年5月25日10時(日本時間2016年5月25日
19時)に Nature Publishing Group(NPG)のオープンアクセス電子ジャーナル「Scientific Reports」
に公開されました。
詳 細
Toll 様受容体(TLR)は、病原体由来の共通パターン分子(PAMPs)を認識するパターン認識
受容体として自然免疫系において重要な役割を担うことが知られております。TLR は、PAMPs を
認識すると細胞内シグナル伝達系を活性化し、各種炎症性サイトカインの産生を促すことで、炎
症の惹起に重要な役割を果たしています。近年、サイトカイン産生の正や負の制御は、適切な炎
症応答のバランスを保つうえで極めて重要であることが示され、この制御が破綻すると自己免疫
疾患などの病態が引き起こされることが分かってきました。これまで、サイトカイン遺伝子の転
写活性化に至るシグナル伝達機構やサイトカイン遺伝子をコードする mRNA を直接分解する転写
後制御機構に関して、多くの研究者によって精力的にその研究が行われてきております。一方、
サイトカインの翻訳後から分泌に至る段階での制御に関しては、未だ不明な点が多く残されてお
ります。
本研究グループは、近年インターフェロン-γ(IFN-γ)やインターロイキン-6(IL-6)の分泌に
関わることが報告されてきたものの、その詳細については不明な点が多かった Sortilin と呼ばれる
分子に着目し、解析を行いました。その結果、Sortilin はこれまでその発現が知られていた T 細胞
やマクロファージ以外にも、pDC や好塩基球、B 細胞など様々な免疫細胞に幅広く発現しており、
IFN-γ や IL-6 に加えて、IFN-α、IL-10、IL-12、IL-17 といった様々なサイトカインと結合すること
が分かりました。更に、マウスから調製した pDC を用いて解析を行い、Sortilin が pDC において
IFN-α の分泌輸送に関わっていることを突き止めました。本研究グループは更に、TLR からのシ
グナルに応答して Sortilin が mRNA レベルで分解されることを発見しました。
詳細な解析の結果、
TLR からのシグナルによって細胞内の亜鉛濃度が上昇すると、Sortilin の mRNA に結合しているポ
リ C 結合蛋白質1(PCBP1)が外れて mRNA の分解が促される、というこれまで知られていなか
った新しい Sortilin の発現制御機構がわかりました。つまり、免疫細胞は生体微量元素の一つであ
る亜鉛を利用してサイトカイン輸送を担う分子 Sortilin の発現を制御することでサイトカインの
分泌量の調節する、というとてもユニークなサイトカイン分泌制御のメカニズムを備えているこ
とを示しています。
(図)
今後の展開
pDC は、慢性的な活性化や自己由来の核酸への応答などによって IFN を過剰産生することによ
り、全身性エリテマトーデスや尋常性乾癬といった炎症性疾患の発症・進展に重要な役割を果た
すことが知られています。本研究成果は、これらの疾患の新たな治療法の開発への貢献が期待さ
れます。同時に、免疫細胞からのサイトカイン分泌制御機構に関する研究を更に発展させるきっ
かけとなることも期待されます。
<研究費情報>
本研究は、日本学術振興会の科学研究費補助金(若手研究(B)
;25870851、基盤研究(C)
;22590431
及び 25460601)及び日本私立学校振興・共済事業団の学術研究振興資金などの支援を受けて行わ
れました。
<発表雑誌>
雑誌名:Scientific Reports(オンライン)
論文タイトル:TLR signals posttranscriptionally regulate the cytokine trafficking mediator sortilin
著者:Toshiki Yabe-Wada*, Shintaro Matsuba, Kazuya Takeda, Tetsuya Sato, Mikita Suyama, Yasuyuki
Ohkawa, Toshiyuki Takai, Haifeng Shi, Caroline C. Philpott, Akira Nakamura* (*責任著者)
<参考図>
図:Sortilin を介したサイトカイン分泌制御機構
細胞外へのサイトカイン輸送を担う Sortilin は、TLR-亜鉛-PCBP1 シグナルによって転写後制御
を受ける。この機構は、サイトカインの過剰な分泌を抑える負の翻訳後制御機構として機能して
いると考えられる。
<用語解説>
注1)形質細胞様樹状細胞(pDC)
病原体由来の非メチル化 CpG-DNA を認識する TLR9 を高発現しており、ウイルス感染時に大
量の I 型 IFN を産生する特異な樹状細胞分画として知られている。
注2)インターフェロン
ウイルス感染に対して免疫系を調整する働きを持つサイトカインの一種。
注3)サイトカイン
免疫細胞から放出される分泌蛋白質の一種。生体防御において重要な役割を担っており、極め
て微量で標的細胞を活性化及び抑制する効果を発揮することが知られている。
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