「2016・2017年度 日本経済の見通し(改訂)」について

平成28年5月23日
2016・2017年度
日本経済の見通し(改訂)
~ 4~6月期以降も、基調としては足踏みが続く ~
富国生命保険相互会社(社長 米山 好映)は、2016・2017年度の経済見通しを改訂しました。
【実質GDP成長率予測】
2016年度
+0.6%(前回+0.6%)、2017年度
▲0.2%(前回▲0.1%)
○ 1~3月期は、うるう年の影響もあり、2四半期ぶりのプラス成長
2016年1~3月期の実質GDP成長率は、 前期比+0.4%、 年率+1.7%と なっ た。 2四半期ぶり
のプ ラ ス成長と なっ たも のの、 う る う 年の影響で実勢よ り も 嵩上げさ れた面があり 、 基調
と し ては、 景気の足踏みが続いている 。 個人消費は増加し たも のの、 う る う 年要因を 除け
ば家計の節約志向が続く なかで弱い動き にと ど まり 、 住宅投資は2四半期続けて減少し た。
設備投資は、 金融資本市場の不安定化や国内外経済の先行き 不透明感を 背景に企業は投資
に慎重になっ たと みら れ、 3四半期ぶり に減少し た。 ま た、 輸出は、 2四半期ぶり に増加し
たも のの、 新興国経済の減速の影響など から 低い伸びにと ど ま っ た。
○ 4~6月期以降も、基調としては足踏みが続く
4~6月期以降も 、 基調と し ては足踏みが続く と 見込んでいる 。 海外経済の回復の足取り が
重いなか、 円高の進行も 製造業の向かい風と なり 、 輸出や設備投資は力強さ を 欠く 動き と
なる だろ う 。 また、 4~6月期については熊本地震によ る 工場稼働停止の影響など を 受ける
こ と に加え、 う る う 年要因の反動も あっ てマイ ナス成長を 見込んでいる 。 7~9月期は持ち
直すも のの、 年度前半は均せば横ばい推移にと ど ま る 。 ただし 、 年度末にかけては、 消費
増税を 睨んだ駆け込み需要が成長率を 高める 要因と なる 。 一方、 2017年度については、 駆
け込み需要の反動減に加え、 増税によ る 実質的な購買力の低下が重石と なり 、 マイ ナス成
長に転じ る と 予測し ている 。
○ 消費増税が先送りされた場合、低成長ながらも緩やかに持ち直す
も っ と も 、 消費増税は先送り さ れる 可能性が高まっ ている 。 再延期になれば、 2016年度に
ついては年度後半の駆け込み需要がなく なる こ と で成長率は抑えら れる 。 2017年度は増税
にと も なう 家計の負担増が回避さ れる ため、 雇用・ 所得環境の改善と と も に個人消費が緩
やかな増加傾向と なり 、 日本経済は低成長ながら も 緩やかに持ち 直すだろ う 。 なお、 こ の
場合の実質GDP成長率は2016年度が前年比+0.3%、 2017年度は同+0.6%と 予測し ている 。
もりざね
担当:財務企画部 森実 潤也、大野 俊明
TEL (03)3593-6813 (090)6493-3334
[email protected]
図表1.2016・2017年度 経済見通し
(前年比、%)
2015
2016年度予測
前回
年度
実績
上期
下期
民
間
需
時点
下期
(前期比)
500.3
508.7
506.0
511.1
508.1
513.0
511.6
514.3
2.2
1.7
0.9
1.0
1.6
0.9
0.1
0.5
529.0
532.3
529.2
534.3
531.0
531.1
529.8
531.3
0.8
0.6
0.1
1.0
0.6
▲ 0.2
▲ 0.8
0.3
需
0.7
0.8
0.1
1.0
0.7
▲ 0.5
▲ 1.2
0.5
要
0.5
0.5
▲ 0.2
1.0
0.6
▲ 0.7
▲ 1.4
0.3
実 質 国 内総 生産 (兆 円)
内
上期
2016年2月
(前期比)
名 目 国 内総 生産 (兆 円)
2017年度予測
民
間
最
終
消
費
▲ 0.3
0.9
0.3
1.6
0.9
▲ 1.5
▲ 2.5
0.4
民
間
住
宅
投
資
2.4
2.6
0.5
4.7
1.6
▲ 5.1
▲ 6.7
▲ 0.9
民
間
設
備
投
資
1.6
0.8
▲ 0.3
1.1
1.0
1.0
0.2
0.5
要
0.2
0.3
0.3
▲ 0.0
0.2
0.2
0.1
0.1
費
1.6
1.4
0.6
0.4
1.1
1.0
0.5
0.6
公 的 固 定 資 本 形 成
▲ 2.2
▲ 0.4
2.7
▲ 2.0
▲ 1.6
▲ 0.6
1.1
▲ 1.4
財 貨 ・ サ ー ビ ス の 純 輸出
0.1
▲ 0.2
▲ 0.3
▲ 0.0
▲ 0.2
0.3
0.4
▲ 0.1
財 貨 ・ サ ー ビ ス の 輸出
0.4
0.8
▲ 0.9
2.7
1.2
2.7
0.2
2.5
財 貨 ・ サ ー ビ ス の 輸入
▲ 0.1
2.3
0.9
3.3
2.4
1.1
▲ 2.2
3.5
公
的
政
府
需
最
終
消
注1.実質値は2005暦年連鎖価格
注2.内需、民間需要、公的需要、財貨・サービスの純輸出はGDPに対する寄与度
(主な経済指標と前提条件)
鉱 工 業 生 産 指 数
▲ 1.0
1.4
0.3
1.3
1.4
0.3
▲ 1.1
1.5
国 内 企 業 物 価 指 数
※
▲ 3.2
▲ 2.6
▲ 3.2
▲ 2.0
▲ 1.2
▲ 0.5
▲ 0.9
0.0
消 費 者 物 価 指 数
※
0.2
0.1
0.0
0.3
0.3
1.6
1.5
1.8
消 費 者 物 価 ( 除く 生鮮 ) ※
0.0
0.0
▲ 0.1
0.2
0.2
1.5
1.4
1.7
( 除 く 消 費 税 の 影 響 )
-
-
-
-
-
0.5
0.4
0.7
1.4
6.1
3.7
3.0
0.7
貿
易 収
支 (兆 円)
0.6
4.1
2.7
経
常 収
支 (兆 円)
18.0
20.6
11.1
9.5
23.2
21.0
11.8
9.2
名
目
金 指
※
0.2
0.3
0.2
0.4
0.5
0.3
0.3
0.3
完 全 失 業 率 ( % )
3.3
3.1
3.1
3.0
3.1
2.9
3.0
2.9
住宅着工戸数(万戸)
92.1
93.2
92.7
93.5
91.4
87.2
86.9
87.4
為替レート(¥/$)
120.1
108.6
108.4
108.8
114.9
109.0
109.0
109.0
($/b)
49.4
39.4
38.5
40.3
32.9
43.0
42.1
43.9
米 国 実 質成 長率 (年 率)
2.4
1.9
1.2
2.8
2.1
2.4
2.4
2.3
中 国 実 質 成 長 率
6.9
6.6
6.7
6.5
6.6
6.3
6.4
6.1
賃
原油価格
数
※
注1.原油価格は円ベースの入着価格を為替レート(月中平均、インターバンク中心相場)でドル換算
注2.米国・中国GDPは暦年ベースの成長率
注3.※印がついた指標の半期は原系列(前年比伸び率)、それ以外は季節調整値(前期比伸び率)
-1-
◇日 本 経 済 の現 状 と見 通 し
○1~3月 期 の実 質 GDP
5 月 18 日 に 発 表 さ れ た 2016 年 1~
図表2.実質GDP成長率の寄与度分解
(前期比、%)
4.0
~ 3 月 期 の 一 次 QE に よ る と 、 実 質
3.0
GDP 成 長 率 は 前 期 比 + 0.4% ( 年 率 換
2.0
算 + 1.7% )と 2 四 半 期 ぶ り の プ ラ ス 成
1.0
-1.0
な ど で 国 内 需 要 の 寄 与 度 が 同 + 0.2 ポ
-2.0
イ ン ト と な り 、輸 入 の 減 少 な ど に よ り 、
-3.0
っ と も 、1~ 3 月 期 に 成 長 率 が 高 ま っ た
主因は、うるう年の影響で個人消費な
1.3
0.4 0.4
0.5
0.0
長 と な っ た( 図 表 2)。個 人 消 費 の 増 加
外 需 は 同 + 0.2 ポ イ ン ト と な っ た 。 も
1.4
1.10.6
0.5
-0.4
-0.7
民間最終消費
民間在庫投資
公的需要
実質成長率
-4.0
-5.0
民間設備投資
純輸出
民間住宅投資
-0.4 -0.4
-2.1
-6.0
08
09
10
11
12
13
(暦年四半期)
14
15
16
(資料)内閣府「四半期別GDP速報」
どが嵩上げされているためで、これを
除 く と 実 勢 と し て は ゼ ロ % 台 半 ば の 成 長 に と ど ま る 。名 目 GDP 成 長 率 は 同 + 0.5%( 年
率 換 算 + 2.0% ) と 、 名 目 ベ ー ス で も 2 四 半 期 ぶ り の プ ラ ス 成 長 と な っ た 。 2015 年 度
の 実 質 GDP は 前 年 比 + 0.8% と ゲ タ の 効 果 に よ っ て プ ラ ス 成 長 と な っ た が 、 四 半 期 ご
との成長率は年度を通してほぼ同率のマイナスとプラスを繰り返しており、景気の足
踏 み が 続 い て い る と 言 え る 。 1~ 3 月 期 の 実 質 GDP を 需 要 項 目 別 に み る と 、 民 間 最 終
消 費 は 前 期 比 0.5% 増 と 2 四 半 期 ぶ り に 増 加 し た も の の 、 家 計 の 節 約 志 向 が 続 く な か
で う る う 年 要 因 を 除 け ば 弱 い 動 き に と ど ま り 、住 宅 投 資 は 同 0.8% 減 と 減 少 が 続 い た 。
設備投資は、国内外経済の先行き不透明感などから企業は投資に慎重になったとみら
れ 、 同 1.4% 減 と 3 四 半 期 ぶ り に 減 少 し た 。 公 的 需 要 に つ い て は 、 公 的 固 定 資 本 形 成
が 同 0.3% 増 と 3 四 半 期 ぶ り に 増 加 し 、政 府 消 費 は 同 0.7% の 増 加 と な っ た 。外 需 に つ
い て は 、輸 出 が 同 0.6% 増 と な る 一 方 、輸 入 が 同 0.5% 減 と な っ た こ と で 、外 需 は プ ラ
ス寄与となった。
今 後 の 日 本 経 済 に つ い て は 、4~ 6 月 期 以 降 も 、基 調 と し て は 足 踏 み が 続 く と 見 込 ん
で い る 。海 外 経 済 の 回 復 の 足 取 り が 重 い な か 、円 高 の 進 行 も 製 造 業 の 向 か い 風 と な り 、
輸 出 や 設 備 投 資 は 力 強 さ を 欠 く 動 き と な る だ ろ う 。 ま た 4~ 6 月 期 に つ い て は 熊 本 地
震による工場稼働停止の影響などが下押しとなることに加え、うるう年要因の反動も
あ っ て マ イ ナ ス 成 長 を 見 込 ん で い る 。7~ 9 月 期 は 持 ち 直 す も の の 、年 度 前 半 は 均 せ ば
横ばい推移にとどまる。ただし、年度末にかけては、消費増税を睨んだ駆け込み需要
が 成 長 率 を 高 め る 要 因 と な る 。一 方 、2017 年 度 に つ い て は 、駆 け 込 み 需 要 の 反 動 減 に
加え、増税による実質的な購買力の低下が重石となり、マイナス成長に転じると予測
している。日銀のマイナス金利政策については、住宅ローンなどの借入金利の低下が
家計の負担軽減につながる面はあるものの、預金金利の低下がもたらす先行き不安感
が消費マインドを弱める影響の方が大きいだろう。企業においては、借入金利の低下
が設備投資を後押しする面はあるが、海外経済の先行き不透明感から企業の期待成長
率が高まらないなか、追加的な投資需要を生むことも期待し難い。また、金利低下が
退職給付債務の増加につながることも重石となる。金融機関の収益に与える悪影響も
含め、マイナス金利政策が景気を押し上げる効果はほとんどないと考えている。
な お 、今 回 の 経 済 予 測 に つ い て は 、2017 年 4 月 の 消 費 増 税 実 施 を 前 提 と し て い る が 、
先 送 り さ れ る 可 能 性 が 高 ま っ て い る 。再 延 期 に な れ ば 、2016 年 度 に つ い て は 年 度 後 半
-2-
の 駆 け 込 み 需 要 が な く な る こ と で 成 長 率 は 抑 え ら れ る 。2017 年 度 は 増 税 に と も な う 家
計の負担増が回避されるため、雇用・所得環境の改善とともに個人消費が緩やかな増
加 傾 向 と な り 、低 成 長 な が ら も 緩 や か に 持 ち 直 す だ ろ う 。な お 、こ の 場 合 の 実 質 GDP
成 長 率 は 2016 年 度 が 前 年 比 + 0.3% 、 2017 年 度 は 同 + 0.6% と 予 測 し て い る 。
なお、主要な需要項目については以下の通り。
○個 人 消 費 は、駆 け込 み需 要 がなければ弱 い動 きに
雇用環境は改善傾向となっている。
1~ 3 月 期 平 均 の 就 業 者 数 ( 季 節 調 整
値 ) は 前 期 比 0.5% 増 の 6,415 万 人 と
増加傾向が続き、失業率についても 3
図表3. 求人倍率(新規・有効)の推移
(倍)
2.50
2.00
新規求人倍率
1.90
月 は 3.2% と 低 水 準 で 推 移 し て い る 。
ま た 、3 月 の 有 効 求 人 倍 率 は 1.30 倍 と
求人数が求職者数を大きく上回り、約
1.50
1.30
1.00
24 年 ぶ り の 高 水 準 ま で 上 昇 す る な ど
労働需給は引き締まった状況が続いて
い る( 図 表 3)。今 後 も 雇 用 環 境 は 緩 や
かに改善するだろう。日銀短観の雇用
人 員 判 断 DI を み る と 、 製 造 業 、 非 製
0.50
有効求人倍率
0.00
05
06
07
08
09
10
11
(月次)
(資料)厚生労働省「一般職業紹介状況」
12
13
14
15
16
造業ともに人手不足感は依然として強く将来を見据えて企業は正社員を確保する動き
を続けるとみられる。また、高齢者の定年後の継続雇用や女性の労働参入により非正
規社員についても増加基調が続くだろう。生産年齢人口が減少するなか、今後も労働
需 給 は 一 層 引 き 締 ま っ て い く と み ら れ る 。こ の よ う な 労 働 需 給 の 引 き 締 ま り を 映 し て 、
所 得 は 増 加 基 調 と な っ て い る 。 1~ 3 月 期 の 名 目 の 一 人 当 た り 現 金 給 与 総 額 は 前 年 比
0.7% 増 と 、基 本 給 に あ た る 所 定 内 給 与 は ベ ー ス ア ッ プ の 動 き を 反 映 し て 緩 や か な 増 加
傾 向 と な る な か で 、 3 四 半 期 連 続 で 前 年 を 上 回 っ て い る ( 図 表 4)。 今 後 に つ い て は 、
現 金 給 与 総 額 は 前 年 比 プ ラ ス で の 推 移 が 続 く と 想 定 し て い る 。2016 年 春 闘 で は 、経 団
連 の 第 1 回 集 計 結 果 に よ る 大 企 業 の 賃 上 げ 率 が 前 年 比 2.19% と 1% 台 後 半 と さ れ る 定
期昇給分を超えるなどベースアップの流れは続いたとみられ、非正規雇用者において
も賃上げの動きなどがみられた。こうした動きを映して所定内給与の増加傾向は続く
とみられる。もっとも、大企業の賃上
図表4.名目・実質賃金指数の推移
げ率は前年から鈍化しており、先行き
所定内給与の伸びが一段と高まること
は期待しづらく、また、企業収益の鈍
化で特別給与の伸びも抑えられること
2.0
(前年比、%)
名目賃金指数
1.0
0.7
0.5
0.0
から、現金給与総額は緩やかな伸びに
とどまるだろう。なお、実質賃金につ
いては、消費者物価が伸び悩むなかで
1~ 3 月 期 は 前 年 比 + 0.5% 増 と な っ た 。
-1.0
-2.0
特別給与
所定外給与
-3.0
所定内給与
消費者物価は当面弱い動きが見込まれ、
今後の実質賃金についても前年を上回
る推移が続くだろう。また、雇用者数
実質賃金指数
-4.0
12
13
(資料)厚生労働省「毎月勤労統計調査」
-3-
14
(暦年四半期)
15
16
の 増 加 も 加 わ り 、 実 質 総 賃 金 ( 実 質 賃 金 ×雇 用 者 数 ) は 緩 や か に 増 加 し て い く と み ら
れる。
個 人 消 費 は 、う る う 年 要 因 を 除 け ば 弱 い 動 き と な っ た 。1~ 3 月 期 の 民 間 最 終 消 費 支
出 は 前 期 比 0.5% 増 と 2 四 半 期 ぶ り に 増 加 し た 。 家 計 最 終 消 費 支 出 の 内 訳 を み る と 、
テ レ ビ な ど の 耐 久 財 が 同 5.0% 増 加 し た ほ か 、外 食 な ど の サ ー ビ ス 消 費 が 0.2% 増 と な
っ た 。10~ 12 月 期 に 暖 冬 の 影 響 で 冬 物 衣 料 の 販 売 低 迷 で 減 少 し た 半 耐 久 財 も 反 動 増 と
なった。ただし、うるう年要因で食料品など日常的な消費が嵩上げされている面もあ
り、実勢としては弱い動きと判断される。今後の個人消費については、基調としては
弱 い 動 き が 続 く だ ろ う 。雇 用・所 得 環 境 の 改 善 傾 向 が 続 く な か 、原 油 安 に よ る 電 気 代 、
ガス代の値下げで光熱費負担は軽減されている。また、所得環境の改善の恩恵を直接
受 け な い 年 金 受 給 者 に お い て は 、2015 年 度 補 正 予 算 に お け る 低 所 得 の 高 齢 者 向 け の 年
金生活者等支援臨時福祉給付金の支給が一定の下支えとなるだろう。しかし、食料品
の値上がりなどで家計のエンゲル係数が上昇しており、今後も家計の節約志向が続く
とみられる。また、年初からの株価下落などにより消費マインドは弱含んでおり、当
面、個人消費は伸び悩むだろう。なお、マイナス金利政策の効果については、住宅な
どのローンの借換えなどが家計の負担を軽減する一方で、預金金利の引下げによる消
費マインドへの悪影響の方が大きいと考えている。年度後半にかけては、駆け込み需
要 が 生 じ る こ と で 個 人 消 費 の 伸 び は 高 ま る も の の 、2017 年 4 月 以 降 は そ の 反 動 減 に 加
え、増税による実質的な購買力の低下により、大幅に落ち込むことが懸念される。
消 費 増 税 が 先 送 り さ れ た 場 合 、2016 年 度 に つ い て は 、増 税 前 の 駆 け 込 み 需 要 が な く
な る こ と で 、個 人 消 費 の 伸 び は 抑 え ら れ る 。2017 年 度 に つ い て は 、駆 け 込 み 需 要 の 反
動減と増税にともなう負担増がなくなることで、大幅な落ち込みは回避され、雇用・
所得環境の改善とともに緩やかな増加傾向となろう。
○新 設 住 宅 着 工 戸 数 は駆 け込 み需 要 により緩 やかに持 ち直 し
住 宅 投 資 は 減 少 し た も の の 、新 設 住 宅 着 工 は 持 ち 直 し て い る 。1~ 3 月 期 の 住 宅 投 資
は 前 期 比 0.8% 減 と 2 四 半 期 連 続 の 減 少 と な っ た 。 住 宅 投 資 に 先 行 し て 動 く 新 設 住 宅
着 工 戸 数 が 、政 府 の 購 入 支 援 策 の 効 果 が 薄 れ た こ と な ど に よ り 、4~ 6 月 期 を ピ ー ク に
減 少 し た 動 き が 進 捗 ベ ー ス で 反 映 さ れ た 。 も っ と も 、 1~ 3 月 期 の 着 工 は 同 8.8% 増 の
年 率 94.3 万 戸 と 住 宅 ロ ー ン 金 利 の 低 下 を 追 い 風 に 持 家 、分 譲 住 宅 、貸 家 と も に 増 加 し 、
3 四半期ぶりに増加に転じている。今
図表5.新設住宅着工戸数の推移
後の新設住宅着工戸数は、駆け込み需
(年率、万戸)
(年率、万戸)
要が加わることで、緩やかに持ち直し
50
ていくと見込んでいる。雇用・所得環
45
境が良好さを維持するなか、マイナス
40
80
金利政策の導入により住宅ローン金利
35
70
は一段と低下している。こうした状況
30
のもと、前回増税時に一部需要の先食
25
いが生じたため前回より小規模にとど
20
まると想定しているものの、駆け込み
15
需要が住宅着工の押上げ要因となる。
10
2016 年 9 月 末 ま で に 請 負 契 約 を 締 結
110
100
90
60
50
40
30
持家
貸家
分譲住宅
住宅着工(右目盛)
20
10
0
10
11
12
13
(暦年四半期)
(資料)国土交通省「住宅着工統計」
-4-
14
15
16
した住宅などについては引き渡しが増税後であっても旧税率が適用されることから、
年末に向けて着工は緩やかに増加していくだろう。その後は、駆け込み需要の反動減
により水準を落とすと見込んでいるものの、贈与税の非課税枠拡大措置や低金利環境
などが支えとなり、大幅な落ち込みは避けられるだろう。
消 費 増 税 が 先 送 り さ れ た 場 合 、標 準 シ ナ リ オ と 対 比 す る と 、2016 年 度 の 住 宅 着 工 戸
数 の 増 加 は 若 干 抑 え ら れ る 。 ま た 、 2017 年 度 の 落 ち 込 み が 緩 和 さ れ る と み て い る が 、
相続税対策としての貸家の建設需要が徐々に減退していくなかで、緩やかに水準を落
としていくだろう。
○設 備 投 資 は増 加 を見 込 むものの、伸 びは限 定 的
設備投資は、増加の動きが一服して
図表6.機械受注の推移
い る 。 1~ 3 月 期 の 実 質 設 備 投 資 は 前
期 比 1.4% 減 と 、3 四 半 期 ぶ り の 減 少 と
なった。企業収益が高水準にあるもの
(億円)
10,000
8,000
の、金融資本市場の不安定化や国内外
7,000
経済の先行き不透明感から企業は投資
6,000
に慎重になったとみられる。今後につ
5,000
いても、当面、設備投資は伸び悩むと
見込んでいる。企業収益は鈍化するも
3,000
2,000
1,000
れるほか、日銀のマイナス金利政策導
0
おり、資金調達環境は良好な状況が続
非製造業(船舶・電力を除く)
4,000
のの引き続き高水準を維持するとみら
入によって貸出金利は一段と低下して
民需(船舶・電力を除く)
9,000
製造業
07
08
09
10
(資料)内閣府「機械受注統計」
11
12
(月次)
13
14
15
16
(備考)データは3ヵ月後方移動平均
く 。 先 行 指 標 で あ る 機 械 受 注 ( 船 舶 ・ 電 力 を 除 く 民 需 ) は 、 1~ 3 月 期 が 同 6.7% 増 と
高 い 伸 び と な っ て お り 、こ の 受 注 分 が 今 後 顕 在 化 す る と み ら れ る( 図 表 6)。こ れ ら が
設 備 投 資 の 水 準 を 維 持 す る 要 因 に な る と み ら れ る 。 し か し 、 機 械 受 注 の 4~ 6 月 期 の
見 通 し は 同 3.5% 減 と 増 加 傾 向 に 歯 止 め が か か る 兆 し が み ら れ る 。 ま た 、 国 内 外 経 済
の先行き不透明感などから企業の期待成長率が高まらないなか、企業の投資に対する
慎重姿勢は続くとみられる。そのため、設備投資は力強さを欠く推移になるだろう。
なお、製造業については維持・更新投資を中心に増加が見込まれるが、円高への警戒
もあって積極的な能力増強投資は控えられるだろう。一方、外需の影響を受けにくい
非製造業は、消費の多様化に対応した物流関連投資や、訪日外国人の増加などを背景
とした宿泊関連、商業施設関連の投資を中心に緩やかに増加するだろう。
○公 的 固 定 資 本 形 成 は、補 正 予 算 の効 果 などから年 度 前 半 は増 加
公 的 固 定 資 本 形 成 は 減 少 に 歯 止 め が か か っ て い る 。1~ 3 月 期 の 公 的 固 定 資 本 形 成 は
前 期 比 0.3% 増 と 3 四 半 期 ぶ り に 増 加 し た 。 公 共 工 事 の 進 捗 を 映 す 公 共 工 事 出 来 高 の
推移をみると、過去の経済対策による押上げ効果が剥落し減少傾向となっていたが下
げ 止 ま り つ つ あ る 。( 図 表 7)。 ま た 、 公 共 工 事 の 先 行 指 標 で あ る 公 共 工 事 請 負 金 額 は
4 月 に 急 増 し た 。政 府 は 2015 年 度 補 正 予 算 と 合 わ せ て 2016 年 度 本 予 算 を で き る 限 り
年度前半に前倒しで執行する方針を打ち出しており、その効果が表れている。今後に
ついては、公的固定資本形成は、年度前半に増加するものの、その後は緩やかに水準
-5-
を 落 と し て い く だ ろ う 。2015 年 度 補 正
予 算 や 2016 年 度 予 算 の 前 倒 し 執 行 に
加え、4 月に発生した熊本地震への復
旧 対 応 で 5 月 17 日 に は 2016 年 度 補 正
予算が成立しており、これらが下支え
図表7.公共工事請負金額・出来高の推移
1.6
1.4
1.2
1.0
成 は 増 加 す る と 見 込 ん で い る 。し か し 、
0.8
東日本大震災復興需要については被災
0.6
ア ウ ト し て い る こ と な ど も あ り 、2016
年度の公的固定資本形成は小幅ながら
前 年 割 れ と な る だ ろ う 。2017 年 度 に つ
公共工事出来高
1.8
になることで、年度前半の公的資本形
3 県の公共工事請負金額は既にピーク
(兆円)
2.0
0.4
公共工事請負金額
0.2
0.0
11
12
13
14
15
16
(月次)
(資料)国土交通省、各保証会社資料により富国生命作成
(備考)公共工事出来高、公共工事請負金額は富国生命による季節調整値
いても、東京五輪に向けた投資の本格化などが押上げ要因となるものの、予算制約も
あって前年割れが続くと見込んでいる。
○輸 出 は一 進 一 退 の動 きに
輸 出 は 海 外 需 要 の 低 迷 を 映 し て 、一 進 一 退 の 動 き と な っ て い る 。1~ 3 月 期 の 実 質 輸
出 は 前 期 比 0.6% 増 と 2 四 半 期 ぶ り の 増 加 と な っ た も の の 、 新 興 国 経 済 の 減 速 の 影 響
な ど か ら 低 い 伸 び に と ど ま っ た 。仕 向 地 別 の 輸 出 数 量 指 数 の 動 向 を み る と 、1~ 3 月 期
は EU 向 け が 高 い 伸 び と な っ た ほ か 、米 国 向 け も 上 昇 に 転 じ た こ と で 前 期 比 + 1.4% と
な り 、 緩 や か な が ら 持 ち 直 し の 動 き が み ら れ る ( 図 表 8)。 EU 向 け に つ い て は 自 動 車
関連が増加傾向となるなか、足元は船舶が押上げ要因となった。米国向けは、エネル
ギー関連投資が減少した影響から一般機械などは弱い動きが続いたものの、自動車関
連 な ど が 増 加 し た 。 ア ジ ア 向 け に つ い て は NIEs 向 け を 中 心 に 弱 い 動 き が 続 き 伸 び 悩
んでいる。今後についても、輸出は一進一退の推移にとどまるだろう。海外需要につ
いては、欧米経済の回復が緩やかにとどまり牽引力を欠くほか、中国など新興国経済
の減速傾向が続くことで鈍い動きにとどまるだろう。また、円高の進行に加え、熊本
地震による工場稼働停止の影響も一時的な下押し要因となり、当面は弱い動きになる
と 見 込 ん で い る 。2017 年 度 は 海 外 需 要 が 緩 慢 な が ら も 回 復 に 向 か う こ と で 前 年 を 上 回
る伸びになると見込むものの、力強さ
図表8.輸出数量指数の推移
を欠くだろう。なお、サービス輸出に
分類される旅行収支の受取は訪日外国
人の増加などにより改善傾向にあり、
120
(2010年=100)
115
110
輸出の下支えとなっている。今後につ
105
いても、東京五輪を見据えた観光客誘
100
米国
95
90
EU
輸出計
傾向が続くことにより、輸出を下支え
85
アジア
するとみられるが、円高や中国の関税
80
強化などによる一人当たり消費額の鈍
75
致政策などもあって訪日外国人の増加
化などにより、輸出の伸びを高めるほ
どの力はないだろう。
中国
70
10
11
12
13
(月次)
14
(資料)財務省資料より富国生命作成
(備考)データは後方3ヵ月移動平均、各地域の季節調整は富国生命
-6-
15
16
【米 国 経 済 】
米 国 経 済 は 、 回 復 が 続 い た も の の 、 一 部 に 弱 さ が み ら れ た 。 1~ 3 月 期 の 実 質 GDP
成 長 率 ( 速 報 ) は 、 前 期 比 年 率 + 0.5% と な っ た ( 図 表 9)。 個 人 消 費 の 伸 び が 鈍 化 し
たほか、ドル高や新興国経済の減速を背景に設備投資や輸出の減少が続いたことによ
り 、10~ 12 月 期 の 同 + 1.4% か ら 減 速 し た 。家 計 部 門 に つ い て は 、住 宅 投 資 が 同 14.8%
増と 8 四半期連続の増加となり、堅調さを維持したものの、個人消費は、年初からの
株価低迷による消費マインドの下押しなどもあり、自動車・同部品を中心に耐久財消
費 が 減 少 し 、同 1.9% 増 と 10~ 12 月 期
の 同 2.4% 増 か ら 伸 び が 鈍 化 し た 。 一
方、企業部門については、設備投資が
図表9.米国実質GDP成長率の推移
(年率換算前期比、%)
8.0
同 5.9% 減 と 、 原 油 安 を 映 し た エ ネ ル
6.0
ギー関連投資の大幅な減少により 2 四
4.0
半期連続で減少したほか、在庫投資は
4.6 4.3
3.9
2.0
2.1
1.4
0.6
0.5
2.0
0.0
3 四 半 期 連 続 で マ イ ナ ス 寄 与 と な っ た 。-2.0
外 需 に つ い て は 、 輸 入 は 同 0.2% 増 と
-4.0
財の減少をサービスの増加が補い小幅
-6.0
個人消費
設備投資
住宅投資
プラスに転じたものの、輸出は同
-8.0
在庫投資
政府支出
純輸出
2.6 % 減 と ド ル 高 や 新 興 国 経 済 の 減 速
-10.0
などを背景に 2 四半期連続の減少とな
-0.9
08
09
(資料)米商務省
10
11
12
13
14
15
16
(暦年四半期)
った。
今後については、緩やかに回復すると想定している。企業部門においては、やや修
正されたものの依然としてドル高の重石は残り、新興国経済の減速もあって輸出は弱
い動きが続くだろう。また、企業収益の鈍化やエネルギー関連投資の低迷により、設
備投資も伸び悩むとみている。このように企業部門の弱さは残るものの、一段と景気
を 下 押 し す る 可 能 性 は 低 下 し て い る 。昨 年 10 月 か ら 節 目 で あ る 50 を 割 り 込 ん で い た
ISM 製 造 業 景 況 感 指 数 が 4 月 50.8 と 2 ヵ 月 連 続 で 50 を 超 え る な ど 、製 造 業 の 景 況 感
は持ち直している。一方、家計部門においては、個人消費の伸びは鈍化が続いたが、
ベ ー ス と な る 雇 用・所 得 環 境 は し っ か り し て い る 。2016 年 入 り 後 も 非 農 業 部 門 雇 用 者
数 は 前 月 差 20 万 人 前 後 の 増 加 が 続 き 、 4 月 の 失 業 率 は 5.0% と 完 全 雇 用 の 状 態 と さ れ
る水準付近で推移するなど労働需給は引き締まっており、賃金の伸びも次第に高まっ
ていくとみられる。今後も雇用・所得環境の改善が続くとみられるなか、株価の持ち
直しも消費マインドの改善に寄与し、個人消費は次第に増勢を取り戻すだろう。住宅
投資については、モーゲージローン金利の上昇が限られるなか底堅い推移が続くと見
込んでいる。このように、家計部門を中心とした回復基調は続くだろう。こうしたな
か 、 FRB( 米 連 邦 準 備 制 度 理 事 会 ) の 追 加 利 上 げ に つ い て は 、 年 後 半 に 追 加 利 上 げ に
踏み切ると見込んでおり、その後も慎重なペースで利上げを継続するだろう。もっと
も、日欧などグローバルに緩和的な金融環境が続くなかで、米国長期金利の上昇は緩
やかにとどまると想定しており、実体経済への影響は限られるとみている。なお、1
~ 3 月 期 の 下 振 れ を 踏 ま え 、2016 年 の 米 国 の 実 質 GDP 成 長 率 は 、前 年 比 + 1.9% と 前
回予測から下方修正している。
-7-
【欧 州 経 済 】
欧州経済は、緩やかな持ち直しが続
い て い る 。1~ 3 月 期 の ユ ー ロ 圏 の 実 質
図 表 10.ユ ー ロ 圏 実 質 G D P 成 長 率 の 推 移
2 (前期比、%)
GDP 成 長 率 は 前 期 比 + 0.5% と 10~ 12
月 期 か ら 伸 び が 加 速 し 、12 四 半 期 連 続
で プ ラ ス 成 長 と な っ た ( 図 表 10)。 け
ん引役が期待されるドイツについては、
同 + 0.7% と 10~ 12 月 期( 前 期 ) の 同
1
0.2 0.3
0
0.6
0.4 0.4 0.30.30.5
0.1
-1
+ 0.3% か ら 伸 び が 高 ま っ た 。低 イ ン フ
レが続くなかで個人消費が堅調となっ
たほか、暖冬で引き続き建設投資の伸
びが高くなった。また、シリアなどか
らの難民受入れへの対応などで引き続
-2
-3
08
09
10
11
12
13
14
15
(暦年四半期)
(資料)Eurostat
き政府支出が増加したことも下支えとなった。一方、外需は堅調な内需を映して輸入
の伸びが輸出の伸びを上回り、成長率にマイナス寄与となった。その他主要国につい
て は 、 フ ラ ン ス が 同 + 0.5% 、 イ タ リ ア が 同 + 0.3% と と も に 前 期 か ら 伸 び が 高 ま り 、
ス ペ イ ン は 同 + 0.8% と 前 期 と 同 じ 堅 調 な 伸 び が 続 い た 。
今後についても、内需を中心に緩やかな持ち直しの動きが続くと見込んでいる。雇
用 環 境 に つ い て は 3 月 の 失 業 率 が 10.2% と 依 然 高 い 水 準 に あ る も の の 、緩 や か な 改 善
傾向が続いている。そのなか、低インフレによる家計の実質的な購買力の高まりを背
景に、個人消費は回復基調を維持すると見込んでいる。固定資本形成については、持
ち直しの動きがみられるが、世界経済の先行き不透明感などから企業の投資に対する
慎重な姿勢が継続するとみられ、力強さを欠く推移となろう。輸出については、中国
など新興国の需要鈍化が引き続き重石となるほか、ユーロ安がやや修正されているこ
とも逆風となり、伸び悩むだろう。このように内需を中心とした緩やかな持ち直しが
続くと見込んでいるものの、先行きには不安要素が残る。ギリシャでは債務問題が燻
る ほ か 、6 月 23 日 に は 英 国 の EU 離 脱 の 是 非 を 問 う 国 民 投 票 が 控 え て い る 。離 脱 派 が
過半数を獲得すれば短期的には不透明感が強まるだろう。ユーロ圏にとって輸出先と
してウエイトの大きい英国の景気が下振れすると、対ポンドでの通貨高による価格競
争力低下も相俟って、輸出に悪影響が出る可能性には留意が必要であろう。インフレ
動向については、原油安の影響が一巡するにつれて、徐々に前年比でみたプラス幅が
拡大すると見込まれるものの、景気の持ち直しが緩やかにとどまるなかでインフレ圧
力 は 高 ま ら ず 、 ECB( 欧 州 中 央 銀 行 ) の 目 標 を 下 回 る 伸 び が 続 く だ ろ う 。
【中 国 経 済 】
中 国 経 済 は 、 弱 さ が 残 る も の の 減 速 に 歯 止 め が か か り つ つ あ る 。 1~ 3 月 期 の 実 質
GDP 成 長 率 は 前 年 比 + 6.7% と 10~ 12 月 期 よ り 0.1 ポ イ ン ト 伸 び が 鈍 化 し た ( 図 表
11)。 第 2 次 産 業 は 、 建 設 業 の 伸 び 率 が 高 ま る 一 方 で 製 造 業 が 鈍 化 し た こ と で 、 第 3
次 産 業 は 金 融 業 が 鈍 化 し た こ と を 主 因 に そ れ ぞ れ 減 速 し た 。 も っ と も 1~ 3 月 期 を 月
次ベースでみると、3 月の経済指標は改善を示す動きとなった。既往の金融緩和や財
政政策の効果によりインフラ投資の伸びが高まったことに加え、多くの都市で住宅価
格 が 上 昇 傾 向 に な っ て い る こ と で 住 宅 投 資 も 増 加 し 、 固 定 資 産 投 資 は 1~ 3 月 期 累 計
-8-
で 前 年 比 10.7% 増 と 2015 年 の 伸 び を
上回った。また、比較する前年と旧正
図 表 11. 中 国 実 質 G D P 成 長 率 の 推 移
16
(前年比、%)
月の日程がずれている影響もあるもの
の 、輸 出 も 同 二 桁 増 と な っ た こ と か ら 、
生産も持ち直しの動きがみられた。そ
れにより製造業の景況感は改善し、3
月 の 製 造 業 購 買 担 当 者 指 数 は 50.2 と 8
ヵ 月 ぶ り に 50 を 上 回 っ た 。 し か し な
がら、4 月の主要経済指標が 3 月の伸
14
実質GDP成長率
12
10
8
6.7
6
成長率目標
びを軒並み下回るなど、このまま反転
して成長率が高まる展開は見込みにく
い状況である。
4
07
08
09
(資料)中国国家統計局
10
11
12
13
14
15
16
(暦年四半期)
今 後 に つ い て は 、 6% 台 半 ば を 中 心 と し た 成 長 が 続 く と 想 定 し て い る 。 当 面 は 、 財
政支出の拡大により反転しているインフラ投資などが下支えすることで、減速傾向に
歯 止 め が か か る と 見 込 ん で い る 。ま た 、2016 年 入 り 後 、急 増 し て い る 不 動 産 開 発 投 資
が進捗することも固定資産投資を押し上げるだろう。一方、民間部門については製造
業を中心に減速が続くと見込んでいる。世界の工場としての地位が低下するなかで、
過剰な生産設備を抱える業種も多く、投資や生産の抑制は続くだろう。住宅市場につ
いては、地域による二極化が進んでいる。需要が堅調な 1 級都市に対し、地方都市で
は弱含んでいる地域が多い。住宅購入に対する支援策が打ち出されているが、住宅価
格 の 上 昇 が 顕 著 な 一 部 大 都 市 で は 引 き 締 め に 動 く と こ ろ も 出 て き て い る 。個 人 消 費 は 、
わずかに減速すると見込んでいる。住宅市場の持ち直しによる耐久財への需要増に加
え、減税効果により小型車の販売好調は続くだろう。しかし、実質賃金の伸び悩みも
あ っ て 伸 び 率 が 鈍 化 す る と 見 込 ま れ る 。ま た 、輸 出 は 先 進 国 向 け が 下 支 え す る も の の 、
新興国の減速により輸出額の水準回復には時間がかかると見込んでいる。中国は固定
資産投資主導から個人消費主導へと構造転換を図っている過程にあるなか、不動産や
生産設備の過剰の調整にも取り組んでおり、基調としては減速圧力がかかりやすい状
況 で あ る 。 今 年 の 成 長 率 目 標 ( 6.5~ 7.0% ) の 範 囲 内 で の 着 地 を 目 指 し て 政 府 は 政 策
を 舵 取 り す る と 見 込 ん で い る 。2016 年 の 実 質 GDP 成 長 率 は + 6.6% と 前 年 の 伸 び を 下
回ると想定している。
○今 後 の伸 び率 などについて
2016 年 度 の 実 質 GDP 成 長 率 は + 0.6% と 前 回 予 測 を 据 え 置 い た 。 4~ 6 月 期 に つ い
ては、熊本地震による工場稼働停止の影響などが下押しとなることに加え、うるう年
要 因 の 反 動 も あ り 前 期 比 年 率 1% 台 の マ イ ナ ス 成 長 に 転 じ る と 見 込 ん で い る 。 そ の 後
は 年 度 末 に か け て 個 人 消 費 と 住 宅 投 資 を 中 心 に 駆 け 込 み 需 要 が 加 わ る こ と で 、 2017
年 1~ 3 月 期 は 同 + 3% 程 度 に ま で 伸 び 率 が 高 ま る と 見 込 ん で い る 。
2017 年 度 の 実 質 GDP 成 長 率 は ▲ 0.2% と 前 回 予 測 か ら 下 方 修 正 し た 。個 人 消 費 と 設
備投資の見方を弱めたことが主因である。駆け込み需要の反動減の影響などにより 4
~ 6 月 期 に 個 人 消 費 や 住 宅 投 資 を 中 心 に 大 き く 落 ち 込 ん だ 後 、そ の 影 響 が 薄 れ る 7~ 9
月期以降はプラス成長を辿るものの、増税による実質購買力の低下などにより個人消
費 が 低 迷 す る こ と で 年 率 1% を 下 回 る 緩 慢 な 成 長 が 続 く と み て い る 。
-9-
○消 費 増 税 が先 送 りされた場 合 の成 長 率 予 測
2016年 度 の 実 質 GDP成 長 率 は 、 前 年 比 + 0.3% ( 標 準 シ ナ リ オ 対 比 ▲ 0.3ポ イ ン ト )
と予測している。個人消費と住宅投資を中心に年度末にかけての駆け込み需要がなく
な る こ と で 、民 間 需 要 の 寄 与 度 が 0.4ポ イ ン ト 低 下 す る 一 方 、駆 け 込 み 需 要 に 応 じ た 輸
入 が 減 少 す る こ と で 外 需 の 寄 与 度 が 0.1ポ イ ン ト 上 昇 す る 。
2017年 度 の 実 質 GDP成 長 率 は 、 前 年 比 + 0.6% ( 標 準 シ ナ リ オ 対 比 + 0.8ポ イ ン ト )
と予測している。駆け込み需要の反動減、増税による実質的な購買力の低下が回避さ
れ 、雇 用・所 得 環 境 の 改 善 と と も に 、個 人 消 費 が 緩 や か な 増 加 傾 向 と な る こ と な ど で 、
民 間 需 要 の 寄 与 度 が 1.1ポ イ ン ト 上 昇 す る 。一 方 、輸 入 に お い て も 反 動 減 が な く な る こ
と で 外 需 が 0.2ポ イ ン ト 、消 費 増 税 後 の 負 担 を 緩 和 す る た め の 政 策 が 打 た れ な い こ と で
公 的 需 要 の 寄 与 度 が 0.1ポ イ ン ト 、 そ れ ぞ れ 低 下 す る 。
図 表 12. 消 費 増 税 が 先 送 り さ れ た 場 合 の 成 長 率 予 測 の 比 較
【消費増税あり】 【消費増税先送り】
名目国内総生産(兆円)
実質国内総生産(兆円)
内
民
間
需
2015
2016
2017
2016
2017
年度
実績
年度
予測
年度
予測
年度
予測
年度
予測
500.3
508.7
513.0
507.6
512.8
2.2
1.7
0.9
1.5
1.0
529.0
532.3
531.1
530.5
533.8
0.8
0. 6
▲ 0 .2
0. 3
0 .6
需
0.7
0.8
▲ 0.5
0.3
0.5
要
0.5
0.5
▲ 0.7
0.1
0.4
民
間
最
終
消
費
▲ 0.3
0.9
▲ 1.5
0.2
0.4
民
間
住
宅
投
資
2.4
2.6
▲ 5.1
0.3
1.9
民
間
設
備
投
資
1.6
0.8
1.0
0.8
1.5
要
0.2
0.3
0.2
0.3
0.1
費
1.6
1.4
1.0
1.4
0.8
公 的 固 定 資 本 形 成
▲ 2.2
▲ 0.4
▲ 0.6
▲ 0.4
▲ 0.6
財貨・サー ビス の純 輸出
0.1
▲ 0.2
0.3
▲ 0.1
0.1
公
政
的
府
需
最
終
消
財貨・サービ スの 輸出
0.4
0.8
2.7
0.8
2.7
財貨・サービ スの 輸入
▲ 0.1
2.3
1.1
1.3
2.6
注1.実質値は2005暦年連鎖価格
(前年比、%)
注2.内需、民間需要、公的需要、財貨・サービスの純輸出はGDPに対する寄与度
○消 費 者 物 価 と金 融 政 策 の見 通 し
2016 年 3 月 の コ ア CPI( 生 鮮 食 品 を 除 く 消 費 者 物 価 総 合 ) は 前 年 比 ▲ 0.3% と 、 5
ヵ 月 ぶ り に マ イ ナ ス と な っ た ( 図 表 13)。 原 油 価 格 の 下 落 が 電 気 代 な ど に 反 映 さ れ エ
ネルギー価格のマイナス寄与が拡大したことが主因である。一方、日銀が公表する生
鮮食品及びエネルギーを除く総合指数については足元やや鈍化しているものの 3 月が
同 + 1.1% と 高 止 ま っ て い る 。 消 費 者 物 価 指 数 の 対 象 品 目 の 67.7% が 上 昇 す る な ど 、
現 時 点 で は 幅 広 く 物 価 上 昇 が み ら れ て い る 。今 後 に つ い て は 、コ ア CPI 上 昇 率 は 、前
年 比 ゼ ロ % 前 後 の 推 移 が 続 き 、 原 油 安 の 影 響 が 薄 れ て い く こ と で 2016 年 度 末 頃 か ら
緩 や か に プ ラ ス 幅 が 拡 大 し て い く と 想 定 し て い る 。エ ネ ル ギ ー 以 外 の 物 価 に つ い て は 、
- 10 -
図 表 13. 消 費 者 物 価 上 昇 率 の 推 移
徐々に上昇幅が鈍化すると見込んでい
る。これまで物価の押上げ要因となっ
た既往の円安進行の効果が減退するな
か、今後は反対に足元の円高進行が物
価の下押し圧力となる。一方、エネル
ギー価格の動向については、原油価格
は緩やかながら上昇すると想定してい
(前年比、%)
2.0
1.5
エネルギー
0.5
0.0
-0.5
幅 が 縮 小 し 、2017 年 度 入 り 後 に プ ラ ス
-1.0
寄与に転じるとみている。こうしたエ
-1.5
は 、2016 年 度 は 横 ば い 圏 で 推 移 し 、そ
生鮮食品を除く食料
1.0
ることから、年度後半頃からマイナス
ネ ル ギ ー 価 格 の 動 向 を 映 し て コ ア CPI
消費者物価(除く生鮮食品)
その他
12
13
14
15
16
(月次)
(資料)総務省「消費者物価指数」より富国生命作成
(備考)消費者物価指数は消費税率引上げの影響を除いている
の 後 は 緩 や か に 前 年 比 プ ラ ス 幅 を 拡 大 す る と み ら れ る 。 た だ し 2017 年 度 は 増 税 後 の
消費低迷で需給面からの物価上昇圧力がかかりづらく、上昇幅は限られよう。そのた
め 、 2016 年 度 の コ ア CPI は 前 年 比 + 0.0% 、 2017 年 度 も 同 + 0.5% ( 消 費 税 の 影 響 を
除く)にとどまると想定している。
なお、日銀が 4 月に発表した展望レポートでは、物価の基調は着実に改善している
と の 見 方 は 維 持 し た も の の 、 政 策 委 員 の コ ア CPI の 見 通 し の 中 央 値 は 、 2016 年 度 が
0.5% 、 2017 年 度 は 1.7% へ と 下 方 修 正 さ れ 、 物 価 目 標 の 達 成 時 期 を 「 2017 年 度 前 半
ご ろ 」 か ら 「 2017 年 度 中 」 へ 後 ろ 倒 し し た 。
○リスク要 因
日本経済は、当面足踏みが続くとの見方が当社のメインシナリオであるが、下振れ
リスクも高まっている。最大のリスク要因は政府の舵取りが困難になっている中国経
済の動向である。中国経済は、過剰債務に苦しむなか、経済対策の効果が持続するの
か疑問が残り、想定以上に景気が落ち込む可能性がある。米国では、さらなるドル高
の進行などで製造業の輸出や企業収益への下押しが強まり、その悪影響が家計部門に
も広がりをみせると景気後退につながるリスクがある。また、欧州では、前述した英
国 の EU 離 脱 問 題 に 加 え 、 銀 行 の 収 益 悪 化 懸 念 な ど か ら 金 融 シ ス テ ム 不 安 が 再 燃 し 、
企業や消費者のマインドを悪化させる可能性がある。このような海外要因の不安材料
が 顕 在 化 す る と 、外 需 が 先 導 す る 形 で 日 本 経 済 は リ セ ッ シ ョ ン に 陥 る 可 能 性 も あ ろ う 。
以
- 11 -
上
図表14.デフレーターの伸び率(2005暦年連鎖価格)
(前年比、%)
2012年度
国内総支出
▲
0.9
民間最終消費
▲
民間住宅投資
2013年度
▲
2014年度
2015年度
0.3
2.4
1.0
0.2
2.1
▲
0.2
▲
0.6
2.9
3.6
▲
民間設備投資
▲
0.2
1.0
1.5
政府最終消費
▲
0.7
0.2
2.0
公的固定資本形成
▲
0.2
1.9
3.1
財貨・サービスの輸出
0.6
8.5
2.4
▲
1.5
財貨・サービスの輸入
0.9
11.3
0.6
▲
9.2
▲
2016年度
1.4
▲
2017年度
0.9
1.1
0.0
1.3
0.2
0.5
1.5
0.4
0.8
0.8
0.2
1.6
0.4
1.3
▲
3.7
1.0
▲
9.2
2.9
0.3
▲
▲
0.0
予測
図表15.需要項目別の寄与度
(%)
2012年度
2013年度
2014年度
2015年度
2016年度
2017年度
実質国内総支出
0.9
2.0
▲
0.9
0.8
0.6
▲
0.2
民間需要
1.4
1.7
▲
1.5
0.5
0.5
▲
0.7
民間最終消費
1.0
1.4
▲
1.7
0.2
0.5
▲
0.9
民間住宅投資
0.2
0.3
▲
0.4
0.1
0.1
▲
0.1
民間設備投資
0.1
0.4
0.0
0.2
0.1
0.1
0.3
0.8
0.1
0.2
0.3
0.2
政府最終消費
0.3
0.3
0.0
0.3
0.3
0.2
公的固定資本形成
0.0
0.5
公的需要
財貨・サービスの純輸出
▲
0.8
財貨・サービスの輸出
▲
0.2
財貨・サービスの輸入
▲
0.6
▲
▲
▲
▲
0.1
▲
▲
0.1
▲
0.0
▲
0.2
0.3
0.1
0.5
0.5
0.6
0.1
0.7
1.3
0.1
0.7
0.0
1.2
▲
注1.四捨五入の関係上、内数の合計は必ずしも合計項目に一致しない
- 12 -
▲
0.3
▲
▲
予測
0.0
0.2