企業の 5 社に 1 社で金利の低下を実感

2016/5/24
横浜支店
横浜市中区弁天通 4-51
TEL: 045-641-0380
URL:http://www.tdb.co.jp/
特別企画:マイナス金利導入に関する神奈川県内企業の影響調査
企業の 5 社に 1 社で金利の低下を実感
~企業の 1 割で新たな資金需要が発生、うち 63%が「設備投資」~
はじめに
日本銀行は 1 月 29 日、消費者物価の前年比上昇率を 2%とする「物価安定の目標」の実現を目
指して、これを安定的に持続するために必要な時点まで「マイナス金利付き量的・質的金融緩和
政策」を導入することを決定し、2 月 16 日より実施を開始した。他方、日本では初となるマイナ
ス金利政策が企業に与える影響について、必ずしも政策当局においても明らかではない状況とな
っている。
そこで、帝国データバンク横浜支店は、マイナス金利導入に関する県内企業の影響について調
査を実施した。本調査は、TDB 景気動向調査 2016 年 4 月調査とともに行った。
※
調査期間は 2016 年 4 月 15 日~30 日、調査対象は神奈川県 981 社で、有効回答企業数は 445
社(回答率 45.4%)
調査結果(要旨)
1.マイナス金利の導入による自社への影響は、「プラスの影響」「マイナスの影響」がそれぞれ
11.2%と 9.7%で、いずれも 1 割程度にとどまった。
「影響はない」と「分からない」で約 8 割
となっており、マイナス金利の効果が企業に浸透するまでには至っていない
2.企業の 19.6%で借入金利が低下。
「大企業」より「中小企業」の方が低下した企業が多い。また、
金利引き下げに関して、
「金融機関から提案があった」が 52.9%、
「自社から要請した」が 41.4%
となり、4 割超の企業は自ら借入金利の低下を求めて交渉していた
3.マイナス金利の導入をきっかけとして新たな資金需要が発生した企業は 10.3%。そのうち、
「設
備投資」(63.0%)
、
「運転資金」(60.9%)
、
「事業拡大」(30.4%)が主な用途
4.マイナス金利導入後、取引銀行との取引関係に「変化はない」とする企業が 84.5%。他方、
「メ
ーンバンク以外との取引が増えた」(4.9%)
、
「新たな金融機関と取引をはじめた」(4.0%)と
いう企業もみられた
5.マイナス金利導入後に借り入れを受けた企業は 37.1%。とりわけ、借り入れ時には「取引状況
全般」
「財務健全性」が評価されたと認識。マイナス金利導入前と比べて「特に思い当たらない」
が減少した一方、
「事業の成長性」は 16.4%に上がった
©TEIKOKU DATABANK, LTD.
1
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特別企画:マイナス金利導入に関する神奈川県内企業の影響調査
1. マイナス金利による影響、「プラス」と「マイナス」がともに 1 割前後
日本銀行によるマイナス金利の導入が自社にどのような影響を与えるか尋ねたところ、
「プラス
の影響」があると回答した企業は 11.2%にとどまった。他方、
「マイナスの影響」も 9.7%だった。
4 月時点において、企業はマイナス金利の影響について、プラス影響・マイナス影響を感じる割合
はそれぞれ約 1 割であった。また、
「影響はない」が 4 割を超えているほか、3 社に 1 社が「分か
らない」と回答しており、マイナス金利の効果が企業に浸
透するまでには至っていない様子がうかがえる。
マイナス金利導入による自社への影響を業界別にみると、
マイナス金利導入による
自社への影響について
「プラスの影響」を見込むのは『不動産』が 43.8%で突出
プラスの
している。マイナス金利導入により長期金利が低水準にな
影響
ったことで、
「長期保有収益不動産の取得を考えている」(不
11.2%
マイナスの影響
分からない
動産)など、事業用物件の仕入れに積極的になる企業が多
9.7%
34.2%
い。
他方、
「マイナスの影響」では、
『農・林・水産』が 100%
影響はない
だった。農業協同組合など貸出業務を行っている企業でマ
44.9%
イナスの影響を見込んでいる。企業からは、
「収益を見込め
る商売、あるいは成長が期待出来る分野がほとんどないこ
とを浮き彫りにするだけだろう」(その他の卸売)といった
注:母数は有効回答企業445社
声もあがっている。
(%)
100
100.0
マイナス金利導入による自社への影響について~業界別~
マイナスの影響
80
60
20
0
プラスの影響
33.3
40
0.0
農・林・水産
0.0
金融
43.8
11.0 8.2
建設
0.0
不動産
9.2 11.3
12.7 8.2
20.0
10.0
製造
卸売
小売
4.3 8.7
6.0 11.9
運輸・倉庫
サービス
2. 借入金利、企業の 19.6%で「低下」、うち 5 割超が「金融機関から提案」
金融機関からの借入金利にどのような影響があるか尋ねたところ1、「低下した」と回答した企
業は 19.6%となり、概ね 5 社に 1 社で借入金利が低下していた。他方、
「変わらない」が 54.2%
で過半を占め、逆に「上昇した」とする企業も 0.7%あった。規模別にみると、借入金利が「低下
した」企業は「中小企業」で 5 社に 1 社となっているものの、
「小規模企業」では 15.8%にとどま
り、中小企業を 4.4 ポイント下回った。
1貸出業務を行う金融機関に対しては、貸出金利について尋ねている
©TEIKOKU DATABANK, LTD.
2
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特別企画:マイナス金利導入に関する神奈川県内企業の影響調査
さらに、借入金利が「低下した」と回答した企業 87 社
借入金利が「低下した」割合
に対して、借入金利が低下したのは金融機関から提案があ
~規模別~
(%)
ったのか、あるいは自社から要請したのか尋ねたところ2、
25
「自社から要請した」は 41.4%で、4 割超の企業は自ら借
20
入金利の低下を求めて交渉していたことが明らかとなった。
15
また、
「金融機関から提案があった」は 52.9%となり、半数
10
超の企業は金融機関からの提案で借入金利が下がっていた。
企業からは、
「金融機関が活発に営業を仕掛けてきている
が、今ひとつピンとこない」(サービス)
、
「実際の金利が下
20.2
17.0
15.8
5
0
大企業
中小企業
うち小規模
がったわけではない、融資の積極姿勢は見える、そして各種手数料が軒並み値上げしている」
(不
動産)、といった意見がみられた。また、自社から要請した企業からは、「銀行の話を聞くと、か
なり厳しそう」(金融)など「銀行が疲弊してしまわないか心配」(製造)する声が挙がっている。
借入金利低下に対する申し入れについて
借入金利への影響
分からない
0.0%
どちらでも
ない
低下した
分からない
19.6%
25.6%
5.7%
上昇した
0.7%
自社から
金融機関から
要請した
提案があった
41.4%
52.9%
変わらない
54.2%
注:母数は有効回答企業445社
注:母数は借入金利が「低下した」と回答した企業87社
3.企業の 10.3%で新たな資金需要、そのうち「設備投資」需要が 63%で最多
マイナス金利の導入をきっかけとして設備投資や運転資金など、新たに発生した資金需要があ
「ある(見込み含む)
」と回答した企業は 10.3%となり、1 割の企業でマイナ
るか尋ねたところ3、
ス金利の導入により新たな資金需要が生まれていた。他方、
「ない(見込み含む)
」は 7 割にのぼっ
た。
新たに発生した資金需要が「ある(見込み含む)
」と回答した企業 46 社に対して、具体的にどの
ような用途か尋ねたところ、
「設備投資」が 63.0%で最多となった(複数回答可、以下同)
。次いで、
「運転資金」(60.9%)、
「事業拡大」(30.4%)と続き、「研究開発」と「季節資金(賞与資金、決
算資金、赤字補てん資金など)
」が 6.5%で並んだ。新規資金需要のうち 6 割超の企業で設備投資
2貸出業務を行う金融機関に対しては、「金融機関から提案があった」は自(行)社から提案した、「自社から要請した」は融
資先から要請があった、として尋ねている
3もともと検討・計画していたことのうち、マイナス金利の導入をきっかけに実行(予定含む)したことも、新たに発生した資金
需要として捉えている
©TEIKOKU DATABANK, LTD.
3
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特別企画:マイナス金利導入に関する神奈川県内企業の影響調査
に対する需要が生まれており、マイナス金利導入による経済効果が徐々に表れてきている。ただ
し、資金需要の用途は企業規模によって異なり、
「運転資金」(大企業 20.0%、中小企業 67.5%、
うち小規模 62.5%)では大企業より小規模企業で高くなっている。
企業からは、
「売上・利益双方に貢献する良質な事業用物件を取得することができた」(不動産)
といった、マイナス金利導入が不動産取得の追い風になるという意見がみられた。
新たに発生した資金需要の有無とその用途
(%)
70
ある
分からない (見込み含む)
19.6%
10.3%
63.0
60.9
60
50
40
30.4
30
20
ない (見込み含む)
6.5
6.5
研究開発
季節資金
10
70.1%
0
設備投資
運転資金
事業拡大
4.3
0.0
事業承継
その他
注:母数は、新たに発生した資金需要が「ある(見込み含む)」と回答した企業46社
注:母数は有効回答企業445社
4. 取引銀行との取引関係、企業の 8 割超は「変化はない」
マイナス金利の導入後、取引銀行との取引関係において変化があったか尋ねたところ、
「変化は
ない」と回答した企業が 84.5%と、最も高かった(複数回答可、以下同)
。他方、
「メーンバンク以
外との取引が増えた」企業も 4.0%あったほか、
「メーンバンクとの取引が増えた」が 4.9%、さ
らに「新たな金融機関と取引をはじめた」という企業も 4.0%みられた。
企業からは、
「事業物件購入資金の借り入れ申し込みができた」(不動産)や「金融機関からの
営業アプローチが増え
た」(卸売)
、
「カードロ
取引銀行との取引関係
0
ーンの勧誘が社員に向
20
けても行われ始めた」
メーンバンクとの取引が増えた
4.9
(サービス)などの声が
メーンバンク以外との取引が増えた
4.0
新たな金融機関と取引をはじめた
4.0
あがり、銀行間の低金
利競争が顕在化してい
ることがわかる。
©TEIKOKU DATABANK, LTD.
60
100 (%)
80
84.5
変化はない
その他
40
1.8
注:母数は有効回答企業445社
4
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特別企画:マイナス金利導入に関する神奈川県内企業の影響調査
5. 直近の借入時期、「マイナス金利導入後」が 37.1%
直近で金融機関等から借り入れを受けた時期について尋ねたところ、
「マイナス金利導入後」と
回答した企業が 37.1%と、4 割近くの企業でマイナス金利が導入された 2016 年 2 月以降に借り入
れを受けていた。2016 年 1 月以前の「マイナス金利導入前」は 43.1%だった。
特に、マイナス金利導入後に借り入れを受けた企業は大企業で多く(39.8%)
、中小企業(36.4%)
や小規模企業(35.3%)と規模が小さくなるほど割合が低くなっている。また、業界別では、『不
動産』の構成比率が 62.5%と突出して高い。続いて『建設』(42.5%)
、
『卸売』(40.9%)
、
『小売』
(40.0%)の順。
企業からは、「住宅ローンが過去にない
直近で金融機関等から借り入れを受けた時
低金利となり若年層の住宅取得意欲は増
分からない
し、活発化していると思う。但し、価格帯
6.1%
金融機関から
借り入れをしたこと
が低いところが大半で、利益確保に頭が痛
い」(建設)、「借りる側には悪い影響はな
はない
導入後
13.7%
いと考えるが、借入金について銀行からの
マイナス金利
37.1%
金利引き下げの申し入れを受けたことは
一度もない。過去には引き下げに時間を要
マイナス金利導入前
したことがある」(卸売)、「自社の借入れ
43.1%
には好都合だが、社会(経済)全体でみると
どうなのか不明。取引先など全体的な影響
がわからない」(製造)といった意見があ
がった。
注1:「マイナス金利導入後」は「2016年4月」「2016年3月」「2016年2月」の
いずれかを選択した企業
注2:「マイナス金利導入前」は「2016年1月」「2015年12月」「2015年11月以前」の
いずれかを選択した企業
6. 借り入れ時の評価項目、「財務健全性」がトップ、「事業の成長性」は 12.1%
直近で金融機関等から借り入れを受けた時、
借り入れ時に最も評価されたと思う項目
どのような項目が最も評価されたと思うか尋
ねたところ4、「財務健全性」(26.3%)が最も
高かった。次いで、
「取引状況全般」(23.8%)
が 2 割を超え、
「事業の成長性」は 12.1%で 3
位だった。
マイナス金利導入時に、日銀が金融機関に期
待したことは、従来の担保中心ではなく事業の
成長性などリスクを正しく評価し、企業への融
0
10
20
26.3
財務健全性
23.8
取引状況全般
12.1
事業の成長性
7.0
返済実績
4.9
借入目的・使途
担保余力
特に思い当たらない
その他
30 (%)
4.0
3.6
2.2
分からない
資を拡大することだったといえる。そこで、マ
16.0
注:母数は有効回答企業445社
イナス金利導入前後で比較したところ、マイナス金利導入前は「財務健全性」が最も高かったが、
4貸出業務を行う金融機関は、融資を行う際に最も重視する評価項目として尋ねている
©TEIKOKU DATABANK, LTD.
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特別企画:マイナス金利導入に関する神奈川県内企業の影響調査
マイナス金利導入後は「取引状況全般」が最も高くなっている。また、
「担保余力」は 0.1 ポイン
ト増加した一方、
「事業の成長性」をみると、導入前の 10.4%から導入後は 16.4%へと大きく上
昇した。マイナス金利が導入されて以降は、取引状況全般に加え事業の成長性をより重視してい
る様子がうかがえる。
借り入れ時に最も評価されたと思う項目
(%)
特に思い
事業の成 取引状況 借入目
財務健全
分からな
担保余力 返済実績
当たらな その他
長性
全般
的・使途
性
い
い
16.4
29.1
7.3
4.8
8.5
26.7
1.2
2.4
3.6
マイナス金利導入後
マイナス金利導入前
10.4
27.6
5.2
4.7
7.8
33.9
3.1
1.0
(N)
6.3
165
192
まとめ
マイナス金利は、2016 年 1 月に導入が決定され、2 月から実施されたことで、これまでの量的・
質的金融緩和に政策手段として金利が加わることとなった。ただし、マイナス金利政策による企
業活動への影響は、必ずしも明確ではない状況ではじめられたことも事実であろう。本調査結果
からは、企業にとってプラスあるいはマイナスかについては、いずれも 1 割前後の割合となった。
依然として、マイナス金利の影響が企業に浸透するまでには至っていない様子がうかがえる。
ただし、業界や企業によって影響の受け方は大きく異なり、現状では貸出競争が激化する金融
機関でマイナスの影響が大きい一方、不動産業では物件仕入れや投資に積極的な姿勢が目立ち、
住宅ローン金利の低下も追い風となっている。また、すでに 5 社に 1 社が借入金利の低下を実感
していることも明らかとなった。特に、自社から金利引き下げの要請を行った企業が 4 割にのぼ
るなど、企業側に変化も表れている。マイナス金利の効果は、これから徐々に設備投資などで顕
在化していくと見込まれる。
【内容に関する問い合わせ先】
(株)帝国データバンク 横浜支店 情報部 担当:野島
TEL 045-641-0380 FAX 045-641-0350
e-mail [email protected]
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