2013 年度 商法第 3 部 2016 年 5 月 24 日 資料5 Ⅳ.国際売買 1.総説 1.1.国際売買の特徴(江頭 48-53 頁) (1)適用される法規範の不明確性、紛争解決手続の問題 法廷地の国際裁判管轄権の有無の判断 法廷地の国際私法による準拠法の決定 手続法は法廷地法による 外国判決の承認・執行 適用法規の不明確性への対処 当事者による準拠法の指定(法適用通則法 7 条) 国際条約による法統一(Ex.国連物品売買条約) 国際的商慣習の成文化・モデル立法(Ex.UNIDROIT 国際商事契約原則) 業界等による標準契約書式の利用 定型的取引条件の定義の明確化(Ex.インコタームズ) 紛争解決手続の不明確性への対処 専属的管轄合意 国際商事仲裁の利用 仲裁合意による訴訟の排除(仲裁法 14 条) 当事者による仲裁人の選任と仲裁地の選定(仲裁法 16-17 条、28 条) 仲裁判断の効力(仲裁法 45 条)と取消事由の限定(仲裁法 44 条) Cf. 東京地決平成 23 年 6 月 13 日判時 2128 号 58 頁 外国仲裁判断の承認及び執行に関するニューヨーク条約(1958 年) (2)商品輸送の時間・コストと危険性 運送証券・運送品処分権等、損害・責任保険による対処 (3)相手方の信用状態等の不明確性の高さ 荷為替手形、信用状による対処 (4)為替リスク、カントリーリスク、貿易規制等の存在 デリバティブ、貿易保険による対処 1 2013 年度 商法第 3 部 2016 年 5 月 24 日 資料5 1.2.国際物品売買契約に関する国際連合条約(CISG)の概要 (1)加盟国 西ヨーロッパ諸国、アメリカ、中国、韓国、ロシア、オーストラリア、途上国等 日本は 2008 年に加盟し 2009 年 8 月から適用 イギリスは未加盟 (2)適用範囲 営業所が異なる国に所在する当事者間の物品売買契約(CISG1 条 1 項)で; (a) 当事者の営業所が所在する国がいずれも締約国の場合;もしくは (b) 国際私法によれば締約国の法が適用される場合(こちらは留保可能(CISG95 条)) 当事者の国籍、商人性は考慮しない(CISG1 条 3 項) 個人利用目的、有価証券・通貨の売買、船舶・航空機の売買等の適用除外(CISG2 条) 原料を提供しての制作物供給契約、役務提供がメインの契約の適用除外(CISG3 条) (3)規律事項 売買契約の成立、売買契約から生ずる売主・買主の権利義務のみ(CISG4 条) この範囲内にあるが明文のない事項 →条約の一般原則または法廷地国際私法により定まる準拠法による(CISG7 条 2 項) 契約の有効性・目的物の所有権移転は範囲外(CISG)4 条 →法廷地国際私法によって指定される準拠法の対象 (3)任意規定(CISG6 条) 2.契約の成立(江頭 53-59 頁) 2.1.契約成立の準拠法 申込と承諾の一致の判断方法についての各国法の違い 契約成立方法のみについての合意の可能性 契約が成立したとしたら適用されたであろう準拠法? 2 2013 年度 商法第 3 部 2016 年 5 月 24 日 資料5 2.2.各国の法制 (1)申込の撤回 大陸法:承諾期間のある申込は期間内撤回不可 承諾期間のない申込は相当期間内撤回不可(民法 524 条) 英米法:期限付きでも約因がなければ撤回可能(ただしある程度は修正されている) CISG:承諾期間のある申込は期間内撤回不可(16 条 2 項 a 号) 承諾期間のない申込は撤回可能(16 条 1 項)、ただし相手方が撤回不能と合理的に 信頼していた場合には撤回不可(16 条 2 項 b 号) (2)書面の要否 大陸法・日本:不要 英米法:詐欺防止法+Parole evidence rule により必要 CISG:書面不要(11 条) (3)承諾の効力 日本:発信主義(民法 526 条) 諾否通知義務(509 条) CISG:到達主義(18 条 2 項) 諾否通知義務はない(18 条 1 項)、履行を承諾とする慣行は有効(18 条 3 項) 3.定型的取引条件(江頭 59-74 頁) 3.1.インコタームズについて 3.1.1.インコタームズの意義 よく利用される契約条件の定型化による契約コストの削減 定型化された条件の意義の明確化の必要性 Incoterms(ICC rules for the use of domestic and international trade terms) 国際商業会議所(International Chamber of Commerce)が作成 最新版は 2010 年版 契約中でインコタームズによる条件であることを明示 Ex.Standard Sales/Purchase Contract Form の裏面約款 9 条 売主と買主の間の費用・危険の配分が中心 買主の救済方法は規定されていない 3 2013 年度 商法第 3 部 2016 年 5 月 24 日 資料5 3.1.2.インコタームズ 2010 の概要 (1)11 種類の契約条件(2000 年版は 13 種類) 輸送手段が何であっても、また複数の輸送手段を用いていても適用されうる条件; EXW(Ex Works:工場渡) FCA(Free Carrier:運送人渡) CPT(Carriage Paid To:輸送費込) CIP(Carriage And Insurance Paid To:輸送費保険料込) DAT(Delivered At Terminal:ターミナル持込渡) DAP(Delivered At Place:仕向地持込渡) DDP(Delivered Duty Paid:関税込持込渡) 海上及び内水運送のみに用いられる条件; FAS(Free Alongside Ship:船側渡) FOB(Free On Board:本船渡) CFR(Cost And Freight:運賃込) CIF(Cost Insurance And Freight:運賃保険料込) *E グループ、F グループ、C グループ、D グループの分類 (2)各条件の構造 条件ごとに売主の義務(A)と買主の義務(B)が対応する形で規定されている 売主の義務:売主の一般的義務(A1)、許可・認可・安全確認およびその他の手続き(A2)、 運送および保険契約(A3)、引渡し(A4)、危険の移転(A5)、費用の分担(A6)、 買主への通知(A7)、引渡書類(A8)、検査-包装-荷印(A9)、情報提供による助 力及び関連費用(A10) 買主の義務:買主の一般的義務(B1)、許可・認可・安全確認およびその他の手続き(B2)、 運送及び保険契約(B3)、引渡しの受取り(B4)、危険の移転(B5)、費用の分担(B6)、 売主への通知(B7)、引渡しの証拠(B8)、物品の検査(B9)、情報提供による助力 及び関連費用(B10) (3)各条件の利用・選択 FOB・CIF:日本企業が関与する国際売買の大半で利用 船積時に引渡し・危険移転 4 2013 年度 商法第 3 部 2016 年 5 月 24 日 資料5 FCA:1980 年に導入、コンテナ輸送の場合への推奨 運送人の処分に委ねた時に引渡し・危険移転 Cf. CISG67 条 積地売買(E・F・C グループ)と揚地売買(D グループ) 国際売買では D グループの利用は稀 2010 年版での D グループの改編 3.2.FOB 条件 FOB Yokohama:横浜が船積港 売主の目的物・送り状等の提供義務(A-1)と買主の代金支払義務(B-1) 売主の運送書類の引渡義務(A-8) 売主ではなく買主が運送契約と運送中の保険契約を締結(A-3、B-3) 引渡しは「物品が本船の船上に置くこと(placing them on board the vessel)」(A-4) Cf.インコタームズ 2000 までは本船の手すり(ship's rail)の通過が基準 引渡時を基準に危険(A-5、B-5)と費用(A-6、B-6)の負担が移転 輸出の許可・通関は売主負担(A-2)、輸入の許可・通関は買主負担(B-2) 相手の手続に必要な情報の提供義務(A-10 第 1 段落、B-10 第 3 段落)と費用負担(B-10 第 2 段落、A-10 第 2 段落) 3.3.CIF 条件 CIF New York:ニューヨークが荷揚港 引渡しの基準と危険の移転時期は FOB と同じ(A-4、A-5、B-5) 売主が運送契約と海上保険契約を締結(A-3) 船積費用を含む引渡しまでの費用、運賃、保険料も売主が負担(A-6) Cf. CFR(C&F) 引渡後の費用は買主の負担(B-6) 売主の運送書類の引渡義務(A-8) 船積期間中の船積日付の記載の要求 仕向地における運送人への引渡請求、運送中の転売可能性の要求 5 2013 年度 商法第 3 部 2016 年 5 月 24 日 資料5 *イギリス判例法上の CIF 取引の性質 船積書類(運送書類・保険証券・送り状等)と支払いの同時履行 →目的物の売買ではなく船積書類の売買 船積書類に瑕疵がある場合の帰結 Cf.神戸地判昭和 37 年 11 月 10 日下民集 13 巻 11 号 2293 頁(Ⅲ-11:百選 65) 目的物に瑕疵がある場合の帰結 *国際売買契約におけるイギリス法の重要性 4.物品の契約条件の不適合と買主の救済(江頭 74-82 頁):省略 5.国際売買と代金の支払(江頭 179-202 頁) 5.1.荷為替信用状による決済 5.1.1.荷為替手形 買主の信用状態の不明確さ、商品の引渡しと代金支払いの同時履行の困難さ 為替手形と船荷証券を利用した同時履行の確保 D/P 条件(Document against Payment) 売主 A(振出人) 買主 B(支払人) 船積書類|①手形取立委任(割引) ②支払 | ↑ ②船積書類 ↓ ①取立委任(割引) ↓ | 甲銀行 ――――――――――――――――――→乙銀行 ←――――――――――――――――――― ③支払 D/A 条件(Document against Acceptance) 売主 A(振出人) 買主 B(支払人・引受人) ↓ ②引受 ↓ ↑②船積書類 船積書類↓①手形取立委任 ③支払 ↓ ↑ ↓ ①取立委任(割引) ↓ ↑ 甲銀行 ―――――――――――――――――――→ 乙銀行 ←――――――――――――――――――― ④支払 6 2013 年度 商法第 3 部 2016 年 5 月 24 日 資料5 売主側銀行による荷為替手形の割引 5.1.2.信用状(Letter of Credit:L/C) 丁銀行(通知銀行)←――――――――――――― 丙銀行(発行銀行) ↓②信用状 ↑①信用状発行依頼 買主 A 売主 B ③買取↑|③船積書類+手形割引+信用状 ↑⑤求償 |↓ ④請求 | 甲銀行(割引銀行)――――――――――――――→ 丙銀行 ←―――――――――――――― ④支払 荷為替信用状に関する統一規則および慣例 2007 年改訂版(Uniform Customs and Practice for Documentary Credits 2007 Revision):UCP600 Cf.輸出手形保険 5.2.信用状をめぐる法律関係 5.2.1.信用状の開設 売主=買主間の売買契約で信用状の開設義務 Ex.Standard Sales Conrtract Form 裏面約款第 2 条 1 項 Cf,神戸地判昭和 37 年 11 月 10 日下民集 13 巻 11 号 2293 頁(Ⅲ-11:百選 65) 買主による取引銀行への信用状発行依頼 取引銀行による信用状の発行 発行銀行・通知銀行・確認銀行 Cf.通知銀行の義務 最判平成 15 年 3 月 27 日金法 1677 号 54 頁 売主=買主間の対価関係と買主=発行銀行間の補償関係 5.2.2.信用状発行銀行の支払義務 (1)信用状条件厳格一致の法理(UCP7 条・14-16 条) 発行銀行による船積書類の書面審査(UCP14 条) 7 2013 年度 商法第 3 部 2016 年 5 月 24 日 資料5 条件に一致していれば支払義務(UCP15 条)、不一致であれば支払拒絶(UCP16 条) 不一致の場合の受益者または割引銀行への通知義務(UCP16 条) 一致・不一致の判断基準 国際標準の銀行実務による、一字一句の一致までは不要(UCP14 条 d 項) Ex.東京高判平成 15 年 5 月 27 日金判 1178 号 43 頁(百選 67) 東京地判平成 15 年 9 月 26 日金法 1706 号 40 頁 数量の誤差等の許容規定(UCP30 条) 船積書類の内容に関する規定(UCP17-28 条) 発行銀行の判断の傾向 日本の銀行による審査水準と割引手形の買戻請求の慣行 東京地判平成 4 年 4 月 22 日金法 1349 号 54 頁 大阪地判平成 2 年 2 月 8 日判時 1351 号 144 頁(百選 66) (2)信用状債務の独立性・抽象性・無因性(UCP4 条) 発行銀行の支払債務は対価関係の影響を受けない 売主側のメリット 発行銀行のメリット 権利濫用の抗弁 Cf.最判昭和 45 年 3 月 31 日民集 24 巻 3 号 182 頁(Ⅶ-25) 買主の自衛手段 *請求払無因保証 大阪高判平成 11 年 2 月 26 日金判 1068 号 45 頁(百選 68) 【参考文献】 高桑昭『国際商取引法(第 3 版)』(有斐閣、2011 年) 北川俊光=柏木昇『国際取引法(第 2 版)』(有斐閣、2005 年) 潮見佳男=中田邦博=松岡久和『概説国際物品売買条約』(法律文化社、2010 年) 柏木昇「国際的物品売買」現代契約法大系 8 巻 202 頁(有斐閣、1983 年) 新堀聡「インコタームズ 2010 の解説」JCA ジャーナル 57 巻 11 号 2 頁(2010 年) 8 2013 年度 商法第 3 部 2016 年 5 月 24 日 資料5 江頭憲治郎「手形保証とスタンドバイ信用状-その独立性をめぐって」『現代企業法の展 開 竹内昭夫先生還暦記念』(有斐閣、1990 年)123 頁 小塚荘一郎=森田果『支払決済法(第 2 版)』 (商事法務、2014 年)24-25 頁、111-113 頁、120−124 頁 9
© Copyright 2024 ExpyDoc