セルビア出張報告 - 日本下水道事業団

JS技術開発情報メール №175 号掲載
◇ 国際戦略室からのお知らせ ◇
禁無断転載
セルビア出張報告
国際戦略室
山下 喬子
セルビアと聞くと、皆さんはどのようなイメージを浮かべますか?
昨年度、JS は下水道事業支援センターとの JV として国土交通省から
委託を受け、
「下水道革新的技術実証事業を対象とした海外展開方策検討業務」を実施しまし
た。この業務は国土交通省が実施している下水道革新的技術実証研究(B-DASH プロジェク
ト)の海外展開を目指し、国内外での調査を行なったものです。その一環として、平成 28 年
2 月にセルビアを訪問し調査を行いました。今回は、その際の様子を少しだけご報告します。
地図データ©2016 Google, ORION-ME, SK planet, ZENRIN
セルビアは東欧に位置し、緯度、面積は北海道と同じくらいの、人口 735 万人の国です。
主に調査の対象とした首都ベオグラードは、以下の写真に示すような雰囲気でした。
▲旧市街
▲ベオグラードの「ハチ公」
いかにもヨーロッパ、な素敵な街並みですね(私は他のヨーロッパ各国を知りませんが…)。
また、市北部にはドナウ川が流れています。ドナウ川といえば、ヨハン・シュトラウス 2 世
の「美しく青きドナウ」という曲が有名ですね*。しかし、そんな美しく青き川の街…には下
水処理施設がありません(!)。管渠は整備されているため、ベオグラード市内で発生する汚
水の約 80%は集水されているものの、未処理のままドナウ川やその支流であるサヴァ川など
に放流されているのが現状です。セルビア全体で見ますと、地方都市で小規模な処理場建設
は進んでいますが、2014 年のデータでは、汚水の 74%が集水され、何らかの処理がされてい
るのはそのうちわずか 16%のみと報告されています。しかしながら、その放流水質などはき
ちんと統計として取りまとめられておらず、維持管理が適正になされているかなど、きちん
と把握できていないことも課題です。
*
ちなみに、ヨハン・シュトラウス 2 世はオーストリアの人です。
Copyright©2016 日本下水道事業団技術戦略部
JS技術開発情報メール №175 号掲載
◇ 国際戦略室からのお知らせ ◇
禁無断転載
ドナウ川はドイツを源流とし、東方へと流下して最終的に黒海へと注ぎ込む河川です。19
ヶ国に跨る世界最大の国際河川流域となっており、流域面積は 80 万 km2 を超えます。セル
ビアはドナウ川流域管理区域に含まれますが、窒素・リンともに流域で最大の負荷排出国と
なっており、これを削減することが求められています。
さらに、セルビアの最重要施策として「EU への加盟」が掲げられています。EU 加盟の条
件として EU 指令を遵守することが定められており、下水に関しても高度処理施設の整備が
求められています。
以上のような背景から、セルビアでは高度処理が可能な下水処理施設のニーズが高まって
います。日本政府にも支援要請がなされており、現在は JICA によってベオグラード市の下
水道マスタープラン作成の支援が行なわれているところです。
このほか、サヴァ川沿いのベオグ
ラード駅周辺は、美しい水辺を生み
出す「ウォーターフロント計画」が
進められており、高層マンションや
商業施設の並ぶ、日本で言えばお台
場(?)のようなエリアが完成する
予定とのことでした。
▲ウォーターフロント完成予想図
今回の調査では、埼玉県富士見市の姉妹都市であるシャバツ市を訪れました。富士見市は
セルビアに姉妹都市を持つ、日本で唯一の都市で、今回の調査に当たり、シャバツ市を紹介
していただきました。シャバツ市は、ベオグラード市から西に 50km ほどに位置し、サヴァ
川の流域となっています。ここでは EU の支援で下水処理場の整備が進められています。私
たちが調査に訪問した際には A2O 法の処理場が完成しており、供用開始に向けて職員の研修
が行われている真最中でした。管理を行なう公社では、上水と合わせて安定した料金徴収を
徹底する一方で、建設費や維持管理費の削減方策を検討するなど、健全な経営を目指した取
組みがなされています。また、将来的には汚泥の消化ガス発電によって処理場の電力を賄う
ことを計画しているとのことでした。
▲最初沈殿池(後方は水質試験棟)
▲反応タンク(後方は送風機棟)
今回の調査を通じて、セルビアでは下水の高度処理が求められているものの、体制や施設
の整備がまだまだ不十分であることが明らかになりました。日本では、B-DASH 事業をはじ
め、世界に誇れる技術開発が進められています。JS は今後も、セルビアのようなニーズの強
い地域を抽出し、本邦技術の海外展開のサポートを続けてまいります。
Copyright©2016 日本下水道事業団技術戦略部