MARKETING HORIZON May 2016 特集: Beyond Advertising 広告はこれからどうなるのか? CONTENTS イラスト 小田桐 昭 米国ウォートンスクール「広告の未来」プログラム報告 Beyond Advertising …… 4 FEATURE メディア変化に対応した広告戦略 ── 田中 洋 …… 13 これから広告はどう変わっていくか ── 清水 聰 …… 16 本荘 修二 …… 18 捨てているあるものを宝の山に !? ── 吉田 就彦 …… 20 …… 22 組織横断とバランスシート型 への転換 ── 広告は広告を超えていくことになるけれど、 まったく別のところにいくわけではない ── 古川 裕也 ★MARKETING NEWSトピックス★ 大坪 檀 MARKETING EYES 女性マーケターの眼/クリエーターの眼 27 …… …… 26 …… 31 BOOKS 『手書きの戦略論』 『 爆買いを呼ぶおもてなし』 Introduction Beyond 広告はこれから 最近、 目立つ広告が少なくなった。 広告がきっかけで物を買うことが少なくなっ た。広告を話題にすることが減った。 こういうことを感じているのは私だけではない と思います。また、 企業側の立場でも、 広告は無視できないツールではあるものの広 告に費やすエネルギーが相対的に減少していると感じるマーケターは少なくないと 思います。 このまま行くと広告はどうなるのか、 というのが広告関係者、 広告主、 広告研究者 はもとより、意識の高い一般の生活者を含めた社会全体の一大関心事になりつつあ るのではないでしょうか。 そのようなぼんやりとした不安な空気に敏感なのは米国 のマーケティング関係者たちです。 ペンシルヴァニア大学ウォートンスクールでは 数年前から「BeyondAdvertising(広告の先にあるもの) 」 というプロジェクトが始 まり、そのリーダーで、 米国マーケティング界のレジェンドのお一人、Y.J. ウィンド 教授とそのお仲間が同プロジェクトのレポートとして同名の著書をお纏めになりま した。 今号は、その概要をウィンド教授に特別にご寄稿いただき、 そのテーマに対して、 日本側の広告の実践と研究の第一人者たちに自らのお考えをぶつけていただいたと いう企画です。 巻頭のウィンド論文は私にとって大変な衝撃でした。 お読みいただければ分かり ますが、彼らが「これからの広告」 と呼ぶモデルは、 今までの広告の概念を大きく超え ています。具体的にはつぎの3点に注目がすべきかと思います。 1.プレーヤーが広告主とその商品・サービスの受け手だけでなく、 あらゆる関係者、 社会全体とその文化まで含まれている 2 MH May 2016 Advertisng どうなるのか? 2.今まで広告にとってははるか上位の概念だった会社全体の目的やミッションが 考慮すべき重要な要因の一つに上がっている 3.1に関連しますが、売り手よし、使い手よし、だけでなく、社会よしが目指す状態だ といういわゆる日本の近江商人由来の「三方よし」の考え方が前面に出てきている これは単なる広告の拡張といった生易しいものではなく、 会社経営そのものと 言っていいくらい大きなスコープを持ち、 これをいまだに 「広告」 と呼んでいいのか と思えるまったく異質なものになってしまっています。 これは200人を超える世 界中の経営者、 広告関連の実務家、 経営学者などの見解に基づいているということ で、多くの関係者が今の広告のあり方に相当な危機感を抱いていることの表れとみ ていいでしょう。 これは決して新しい広告の定義でもなければ、広告の世界が変わっていく方向を正 確に予測したものでもありません。ただ、今までどおりの広告の仕事のやり方では通 用しなくなってきている、さて、あなたならその仕事をどう変えていきますか、という 強烈な問題提起になっています。ウィンド論文を軸とするこの号の主張から、読者の 皆さんも、5年後、10年後の広告は、また、広告回りの仕事の仕方はどう変わってい るのか、また変えなければいけないのか、思いを巡らせていただければと思います。 本誌編集委員長 片平秀貴 MH May 2016 3 Beyond Advertising 米国ウォートンスクール「広告の未来」プログラム報告 2020 年までに、 広告は現在のマーケティング の一機能としてのものから、 目に見えないイン スピレーションを提供するもの、 商品やサービ スの体験提供において必要不可欠なものとな るだろう。 (KarlIsaac,HeadofBrandStrategyandInnovation,Adobe(2014)) 4 MH May 2016 広告を超えて Yoram(Jerry)Wind and Catharine Hays, with Alexa de los Reyes ヨラム・ジェリー・ウィンドウ,キャサリン・ヘイズ, アレクサ・デ・ロス・レジェス (訳) 郷香野子 MH May 2016 5 Beyond Advertising ブランドとメディア,そしてそれを取り巻く 図1 全包囲タッチポイント価値創造 (ATVC) モデル 人々の関係は,周知のとおりこれまでにないス ピードで急速に変化しています。マーケティング の世界ではこれに何とか対応しようと,新たな混 乱が生じています。我々はこの大きな課題に対し て,「まずは現実的制約を無視して理想的な状況 を描いてみる」というアプローチにより, 「広告 2020 年計画」というプロジェクトを進めていま す。世界中の 200 人を超える経営幹部や研究者, 技術者,次世代の企業家,などの人々を対象にヒ アリングし,彼らに 「現在,起こっている状況に鑑 みて,2020 年には広告はどのようになっている か。どうなっているべきか。それを現実にするため に,我々は何をするべきか。 」 と尋ねました。 この結 果に基づいて,新しい思考態度と新しいアプロー チによる新しい広告の未来を提言しました。そ れが「全包囲タッチポイント価値創造モデル;All TouchpointValueCreationModel(ATVC)」で次 のようにまとめることができます。 つぎのような人、組織、社会・文化が縦横に関わ るあらゆる接点(タッチポイント)において、関係 者全員のためにできるかぎり大きな価値が生まれ るように、そこでの個々の活動をリアルタイムに、 相互に相乗効果を生むように調整し組織化するこ と な要素が重要であるとしています。 ・企業 1.世界中で共通した明確で一貫性のある目的 ・その企業の関係者 があること ・その企業がサービスを提供したいと思う人たち 2.リーダーが本心を語り、権威があること ・その企業が関わる社会と文化 3.組織全体に信頼性と透明性があること 以下では,ATVC モデルの 4 つの重要な要素 4.ブランドを預かる人々が協調すること について概説し,経営への3つの重要な示唆を議 これらはすべて,関係者、関係部門を超えて横串 論しましょう。 になるべきポイントで、これらが満たされること により個人としても全体としてもよい結果が生ま ATVC モデル れることが期待されるものだと思います。ビネー 1.Win-Win-Win な目的を整えて短期的にも長 とフィールドは彼らの著書,『The Long and the 期的にも影響力のあるものにすること ShortofIt( その,長所と短所 )』の中でこう述べ 我々の共同研究者は,ブランドとそれを預かる ています。「人々の「感情」は,人々が支払おうとす 人たちとの関係性においてはつぎの 4 つの基本的 る金額にも販売数量全体にも大きな影響を与えて 6 MH May 2016 米国ウォートンスクール「広告の未来」プログラム報告 います。 そして,感情の効果は(モノやマーケティ 4.タッチポイントにおいて価値が生まれるため ングの効果より) ずっと長く持続し,長い目で見れ のガイドラインとして、コンテンツとコンテクス ば,感情は大きな利益をもたらすのです」 と (Binet トに注目すること and Field, 2013)。 「今までの広告を超えた広告」であるためには、 あらゆる状況で人々の注目を集めなければなりま 2.ブランドの真の目的に命を吹き込むために、分 せん。このためには,すべてのタッチポインにおい 析力、クリエイティブ、デザイン、現場運営の効率 て「R.A.V.E.S」となるコンテンツが必要になりま 化のすべてを一つにまとめること す。 腕利きのデザイナーやストーリーの語り手と Relevant & Respectful:受け手の関心に合うこと。 いったクリエイティブな分野と,定量的判断に基 顧客の興味や関心に寄り添うが,プライバシーの づく分析的な分野は,よく対峙した関係として語 境界は超えない。 られます。 これは、クリエイティブを定量的に測る Actionable :受け手が参加できること。受け手が ことが難しかったり、数字が何らかの方法で本当 対話し,関わり合い,共有し,共創できること。 に重要なアイデアを潰してしまったりするためで Valuable & Value-generating: 受 け 手 に と っ て す。しかしこれからは,ブランドの真の目的を読み 価値があり新たな価値が生まれること。受け手に 解き、これを世界中に発信していくために、アナリ とって金銭的にも感情的にも価値が感じられ、そ ストとクリエイター、デザイナー、そして現場運営 れが受け手にとってのブランドの価値につながっ の専門家が心を一つにして協力していく必要があ ていくこと。 ります。 Exceptional Experience:受け手にとって特別な 体験であること。思い出に残ること。 3.あらゆるタッチポイントでのアクションを関 Shareworthy Stories:受け手が共有したい物語が 係づけ、 価値創造の相乗効果を生むこと あること。深く,そして誰でもが感動する物語に これまでの広告が実践してきたように広告や なっていること。 マーケティングに内在する狭い考え方の中だけ で生きていると、ブランドの寿命は危ういものに そして,コンテクストを設計するさいにはつぎ なってしまいます。広告が包括的かつ効果的な方 のような「S のための M.A.D.E」を抑えておくこと 法で人々に届き、役に立ち、人々とつながり続け が重要になります。 るためには、広告の範囲が企業全体を包みこむよ Multisensory :それは五感を使うものになってい うに、その伝統的な範囲を超えて行かなければな るか。 りません。 そのためには,上で述べたすべての関係 Audience :メッセージを受け取るオーディエンス 者間のすべてのタッチポイントを網羅し相乗効果 の感情の状態やムード,役割に寄り添ったものに が生まれるように調整していく必要があります。 なっているか。 つまり、全包囲タッチポイントとは,広告やマーケ Delivery Mechanism:配信メカニズム,インター ティングのコントロール外にあるものを含めたブ フェイス,プラットフォーム、媒体など、使用する ランドに対して人々が持つ相互作用のすべてのポ インターフェイスの特徴や特性は受け手の目線で イントを包括したものにならなければいけないの 考えられているか。 です。 Environment(環境と場所):受け手のいる場所は どこで,そこで何が起こっているか。その環境に融 MH May 2016 7 Beyond Advertising 合しているか。 を優先させるあまり、長期的により大きな利益を Synergy(シナジー):あるタッチポイントでのコ もたらす「三方よし」の方策を犠牲にしていません ンテクストが他のタッチポイントで相乗効果を持 か。 ち、より大きな価値を生むようになっているか。 全包囲タッチポイント戦略と相乗効果 経営への3つの示唆 御社の広告戦略は,すべてのタッチポイントを 「将来に備えるにあたり,進歩を妨げとなる最大 考慮したものになっていますか。それとも,まだ組 の脅威は周りが見えないことである。過去に敬意 織の他の職能から分離して行っていますか。 を払えないこと,そして,過去に成功した方法で 将来も成功できるとは限らないと理解しないこと コンテンツの適正化 だ」。これは, オムニコム・グループ DAS名誉会長 「R.A.V.E.S.」ガイドラインに沿ってコミュニ トマス・ハリソンの言葉です。 ケーション・メッセージや提供商品を設計してい 大きな変革期にある今日の経営において,最も ますか。商品やメッセージを個人に合せてカスト リスクの高い戦略は,同じ戦略を取り続けること マイズして顧客との絆をより深めていますか。使 です。 無論,現在のすべての思考枠組みが間違って い手との協働や共創が起こりやすいようなプラッ いたり,変更が必要になったりしているわけでは トフォームを用意していますか。そして、ビッグ ありません。 しかし,将来に訪れる現実を想定しな データ分析も味方にしていますか。 がら、常にそれでいいのだろうかと疑問を投げ続 けなければいけないのです。これらを念頭に置け コンテクストの最大化 ば,ATVC モデルを実行してゆくことが経営上 「R.A.V.E.S.」を提供する一方で,「M.A.D.E.S」の 不可欠であることは明白です。以下に示す3つの 基準に従い,適正なコンテクストが設計できてい 示唆を検討し,あなたの組織がやって来る障害を ますか。人々が望むときに望む場所で、彼らが欲し 克服できるかどうか,変化し続ける現実を捉え,そ いメッセージや商品について彼らと語り合う準備 れをプラスに転じることができるかどうかを判断 はできていますか。 してください。 2.イノベーションを仕掛け、実験する 1.あなたの今の思考パターンを疑え より革新的な組織を作りあげるために,御社は アルバート・アインシュタインが言った有名な 適応的実験という考え方を採用したことはありま 言葉があります。 「現在の思考パターンを変更し すか。適応的実験とは、小さな挑戦的仮説を現実に なければ,現在の思考パターンで作り出された問 ぶつけてその結果から次の仮説を生み実験し順次 題を解決することはできない」 。以下では,ATVC 学習しながら未知から学ぶという考え方です。こ モデルが提案する,変更すべき思考パターンを紹 のためには実験ごとにきちんとその実験結果を測 介しましょう。 定し説明することが求められます。あなたの戦略 について様々な側面をテストする複数の実験を行 「三方よし」 の目標 お互いに創発して利益を得るために、ブランド うことにより、アクションと結果の因果関係が学 習できるのです。 のため、人々のため、そして社会のための 「三方よ し」の適切な目的を設定していますか。 短期的利益 8 MH May 2016 ChapterSF の共同創業者のガレス・ケイは,実験 米国ウォートンスクール「広告の未来」プログラム報告 の意義について, 次のように指摘しています。 「 『偉 図 2 イノベーション・ホライズン 大なこと』は少しの賭け金から成る小さな実験を 積み重ねることから生まれます。1回で完璧な結 果を得ようと頭を悩ませて学んでも何も得られな いのです。スタンフォード大学の図書館の検索シ ステムのプロジェクトから始まって大きくなった Google がその良い例です」 と。 3つのイノベーション・ホライズン 3つのイノベーション・ホライズンというアプ ローチ (図 2 を参照) は,組織の規模に関係なく,経 営資源の割り当てを決定し,不確実性を管理する ためにとても有用な考え方です。 これにより、前向 きの考え方を取らざるを得なくなるのです。まず, ホライズン 1 は,現時点で主に使用している技術 領域であり,ここへは資源の 80 ~ 90%を割り当 てます。 ホライズン 2 は,既に存在する技術につい て新たに使用を検討している技術領域です。ホラ イズン 3 は,現時点では範疇外である ( 今後,利用 する可能性のある ) 技術領域です。ホライズン 2, 3 へは資源の 10 ~ 20%を割り当てることをお勧 めします。 今日の科学やテクノロジーに目を向けると,コ グニティブ・コンピューティング,拡張現実,3D プリントといったように,急速に目覚しい進歩を 遂げています。 その中にあって、これらの動きに取 り残されないようにするためには、このような3 つのホライズンを考えるアプローチ以外に手はな いと思います。 何回も申しあげるように、現状のや り方・考え方を変えないことが最もリスクの高い 創造性とコラボレーション, 「三方よし」の原則, 人中心,スピードと俊敏性を備えているように編 成されていますか。グローバル化やイノベーショ ンから自らの優位性を獲得できるようなプロセス となっていますか。変わり続ける環境に対するイ ンサイトをどうやって獲得しようとしています か。 組織のアーキテクチャの構成要素とは,文化と 価値観,ガバナンスとビジネスモデル,構造とプロ セス,価値創造,人々,考え方,そして能力,成果の 測定,技術のインフラストラクチャ,経営資源と ファシリティといったことですが,これは,イノ ベーションの助けにも妨げにもなり得るもので す。ATVC モデルを実施に移してゆくには,その ような構成要素からなる組織の全体像をもう一度 戦略なのですから。 見直して、内部と外部の経済資源と能力が十分か 3.組織のアーキテクチャとインフラストラク は,これらの組織のアーキテクチャの構成要素に チャを再考する ついての現在の認識がそのままでよいかを問うこ 本稿で示す, 「広告を超える広告」戦略を浸透さ とで、組織アーキテクチャの構成要素のあり方に せるために,組織のアーキテクチャの能力はきち んと評価されているでしょうか。 組織は,すべての どうかを確認する必要があります。重要な第一歩 ついて新しい仮説を立てて小さな実験を繰り返し てゆくとこをお薦めします。 関係者のニーズを反映させながら、透明性と信頼, MH May 2016 9 Beyond Advertising 図3 経営への3つの示唆のまとめ 総括 全包囲タッチポイント価値創造モデル (ATVC モデル ) は,大変革期にあるこの時代における我々 の役割,課題,機会に大いなる意味を与えるもので あると自負しています。我々の研究は,いかにすべ ての相互作用(オンライン,リアルタイム,インス トア,屋外,グループ内,あるいは個人の家の中) ネットワークの統率者 が,当事者たる会社やブランドだけでなく,関係す 再編成されたアーキテクチャの最後の構成要素 るあらゆる人々に利益になるように統率すること は,各タッチポイントのポートフォリオを調整し, ができるかを、実務家の皆さんに理解してもらう 外部と内部の縦割りを橋渡しする適切な統率者の ことを目指しています。そのためには、当該企業内 存在です。Korn Ferry 社が行った調査によれば, でも役員フロアだけでなく社のメンバー全員の支 ネットワークの統率者に相応しいのは今日のよう 持が必要になります。既存の思考枠組みに挑戦し、 に急速に変化する環境の中できちんと仕事ができ 強固な縦割り組織を再考し、革新を盛り上げるた ている執行役員であるといいます。 同社が10 年間 めに様々な実験をするという具体的なステップこ で 250 万人以上の専門家を評価した結果から,高 そが、あなたの組織が「広告が広告を超える」時代 度に優秀な経営者の特性、経験、資質をあぶりだし に成功し、繁栄するための唯一の方策といってい た結果、度胸,状況適応性,顧客視点,グローバル視 いかもしれません。 点,共感,平静,社交性,あいまいさへの耐性などが 確認されました。実はそれらがネットワークの統 率者の望ましい特性と一致しているのです。逆に 言うと、すべての関係者のタッチポイントに注意 を払いきちんと統率できる能力がないと現代の経 営者として失格だということになるのです。 10 MH May 2016 参考文献 ・Binet, Les, Peter Field. (2013), The Long and the Short of it: Balancing Short and Long-Term Marketing Strategies, Institute of Practitioners in Advertising. ・The Wharton University, Advertising 2020 Hp.( http://wfoa.wharton.upenn.edu/ad2020/) インテージ FEATURE 昭和33年5月28日第3種郵便物認可 通巻第693号 平成28年6月1日発行(毎月1回1日発行) HO R I Z O N 広告はこれからどうなるのか? ― 今を見つめる。未来を描く。 Jugaad に学ぶ Ochestrate メディアエレメント トリプルメディア オウンドメディア synergy インターネット広告 Beyond Advertising これから広告はどう変わっていくか nvironment and Location 広告戦略 touchpoints メディアユーザー マーケティングメッセージ ア 告 FEATURE これから広告はどう変わっていくか FEATURE >> Strategy メディア変化に対応した広告戦略 Text 田中 洋 それにインターネット広告はそれ自体がひとつ のメディアとしてくくれるほどの共通性を有し テレビ広告の後 てはいない。枠売り広告から運用型と呼ばれる広 現在、広告にどのような変化が生じているのだ 告まで、さまざまなアドテクノロジーを用いた方 ろうか。 もっとも大きな変化とは、テレビ広告の支 式が乱立しているのと、ネイティブ広告から動画 配的な時代が終わりつつあることだ。テレビ広告 に至る種々のフォーマットがある。これらをイン が新聞広告に代わってメディア別広告費の第一位 ターネット広告としてひとつに扱うことも問題で になったのは 1975 年で、今から約 40 年前のこと ある。 だ。この 40 年間、テレビは広告メディアの中心的 アーンドメディア・オウンドメディア・ペイドメ な存在であり続けてきた。それ以前に新聞広告が ディアという「トリプルメディア」という考え方も 支配的な地位を有していた。 現在、まったくテレビ 提唱されているものの、メディアミックスという や新聞に接触しない人たちは若い人だけでなく、 観点からみて有効な分類かは疑問である。例えば、 中年層にも浸透しつつある。 私たちは、まずどのよ オーディエンスの反応が、有料メディアか否かで うな広告メディアが今後有力になるかを考察する 変化するとは考えにくい。このトリプルメディア ことで、広告の将来のあり方を考えることができ 分類は、広告主から見たときのメディア使用の自 るだろう。 由度の問題であり、オーディエンスの反応ではな しかし、これからやってくるのは 「インターネッ いことが最大の問題なのだ。 ト広告の時代」ではない。 筆者と共同研究者たちと 吉田秀雄記念事業財団で 2013 年に行った研究に メディアエレメントの組み合わせ よれば、テレビとインターネットとは視聴者レベ これからやってくるのは、新しいメディアの時 ルで見るとさほど競合していない。テレビを 2 時 代ではなくて、新しいメディアエレメントの組み 間視聴する人の間では、インターネット視聴時間 合わせの時代である。つまり、現代においては、① はさほど増加していないからだ。 コンテンツ、②デバイス、③プラットフォーム(イ MH May 2016 13 Beyond Advertising ンフラ) 、④ビジネスモデルの4つの要素をどのよ しながら広告戦略を考えることになるだろう。つ うに組み合わせるかによって、広告メディアが決 まり、どのようなコンテンツに寄り添って、どの まってくるのである。テレビや新聞などの既存マ ようなデバイスに広告を掲出させるか、どのよう スメディアの時代には、これら4つのエレメント なプラットフォーム(インフラ)を通じてメッセー は分かちがたく結び合っていた。 ジを発信するか、そのメディアのビジネスモデル 新聞メディアであれば、①新聞記事というコン が広告をベースにしたものかどうか。こうしたメ テンツに、②新聞紙というデバイス、③新聞社と宅 ディアエレメントの選択を通して広告戦略を考え 配システムいうプラットフォーム、④広告と購読 る時代が近くやってくるだろう。 料をベースとするビジネスモデルによって成立し ていた。 テレビ・雑誌・映画でも同じようにこれら メディアユーザーの受動性と能動性 4つのエレメントが固く結合してメディアを構成 もうひとつ、テレビというメディアについて考 していたのである。 えておくべきことがある。それは、テレビメディア ウェブが発達してから、これら4つのエレメン とは、メディアユーザーに受動的な視聴態度を促 トは解体され、自由に組み合わされるようになっ す初めてのメディアであったことである。それま た。例えば、Yahoo! というメディアは、①マスメ でのメディアとテレビが決定的に違っていたこ ディア・オンライン発あるいは消費者発のコンテ とは、オーディエンスが単にテレビ受像機の前に ンツ、②以前は PC、現在はスマートフォン中心の 座り、チャンネルを選択すれば良かったという視 デバイス、③オンラインのプラットフォーム、④広 聴態度の受動性にある。それまでのメディアは新 告をベースとするビジネスモデル、 というように。 聞のように、メディアに向かって読むという一種 その他のメディアも、LINE ならば、 デバイスの の能動性をオーディエンスに強いていた。簡単に ②スマホ化に特化して対応したメディアであり、 言えば、テレビは寝ることの次に、もっとも楽なメ 楽天やリクルートは①企業発のコンテンツをベー ディアだったのである。 スとしたメディアと理解できる。 つまり、現在のメ しかしウェブがこれらのメディアと根本的に異 ディアは、基盤となるひとつのメディアエレメン なる点は、ユーザーが自分で操作をしなければな トを基軸として展開されたものなのである。 らないメディアであるということだ。ソーシャル それでは、広告はこれからどのように変化する メディアが典型的にそうであるように、自分で写 だろうか。 広告主は、次の4つのエレメントを選択 真や記事などのコンテンツをつくりだし、友人の 投稿を読んで反応しなければならない。これは一 見するとラクなメディアではないように思える。 しかしそうではない。 こうしたユーザーの積極性・能動性・参加性が、 ユーザーにとってはテレビ以上に面白いものなの だ。ちょうど、スーパーマーケットが登場したと き、消費者が自分で買いたい商品を選ぶことで売 上を増加させたように、ユーザーが自由に操作し て、結果を見たり、友人と交友することが、テレビ を受動的に視聴するよりも面白い。いくらテレビ が優れたコンテンツを提供したとしても、こうし たユーザー自身の能動的アクションに基づくメ ディア行動は異なった次元の喜びや楽しみをユー 14 MH May 2016 FEATURE これから広告はどう変わっていくか ザーにもたらす。 ユーザーがつくったコンテンツ中心のメディアで では、広告はどうなるのか。 これまでテレビで培 は、ユーザーはレシピ投稿や閲覧を通じて、広告コ われてきた広告表現の技術やスキルは、ユーザー ンテンツとして提供されるレシピにも触れる機会 が受動的であることを前提に育成されてきた。広 が産まれる。 告効果もまた、テレビの受動性を前提に長い間研 究されてきた。 これからは、ユーザーの能動性、こ 結論として言えば、これからの広告を考えると とに、参加性を前提とした広告づくりが必要とな き、メディアエレメントの新しい組み合わせに る。例えば、広告コンテンツは単に受動的に見るだ よって広告スタイルを考えることと、ユーザーの けでなく、ユーザーが参加してコンテンツづくり 能動性・参加性を考慮した広告活動であることが に参加する、あるいは、コンテンツを組み替えられ 求められる。 るような仕組みが必要となる。 もちろんこうした試みはすでにいくつか実現し ている。例えば、LINE でスタンプづくりにユー ザーが参加する、あるいは、クックパッドのような 田中 洋 (たなか ひろし) 中央大学ビジネススクール 教授 ㈱電通 MH May 2016 15 Beyond Advertising FEATURE >> Prospect これから広告はどう変わっていくか Text 清水 聰 「Orchestrate」という言葉だ。今までの広告は、マ ス媒体を通じた広告で商品認知を促し、新聞チラ インターネットの登場以降、日本の広告を取り シで来店を促し、店頭のプロモーションで購買を まく環境は大きく変化した。消費者行動研究者と 促すといった、消費者をうまく購買まで誘導する して、 日本の消費者を調査・分析してきた経験から 形に構築されていたが、ネット上のクチコミや比 は、認知媒体としての新聞の役割が低下してきた 較サイトなど、企業がコントロールすることので こと、インターネットの中でも SNS 系の役割が、 きない多くの情報が登場してくると、もはや消費 特に若い人の中で認知段階だけではなく購買の段 者は企業の思惑通りに情報に触れてくれない。つ 階でも高くなっていること、情報感度の高い人と まり消費者は自らの意思で情報を取捨選択して入 低い人との情報格差が広がり、新しいタイプの高 手し、商品を比較し、購買しているのである。この 感度層、低感度層が生まれてきていること、その 2 状況では、企業が各種メディアを用いて消費者を つの層では意思決定の際のメディアの接触の仕方 購買まで誘導すると考えるのではなく、消費者が や商品選択基準が大きく異なること、など、従来と それらの情報を自らの意思でうまく組み合わせ、 は違う現象がさまざま生じてきていることが判明 購買していくパターンが増えてくる。先生はそれ している。 広告の受け手である消費者は、インター を「Orchestrate」という言葉で表現し、単に各種 ネットという新しい手段を得て、ここ 10 数年で大 メディアを組み合わせるだけではなく、それらの きく変化しており、おのずと「広告」の役割も変わ 相乗効果が、まるでオーケストラが音楽を奏でる らざるを得ない。 ように共鳴し、最終的な消費者の購買に結びつく このような状況の中、光栄にもマーケティン と説いた。まさに今までの広告の概念を超えた’ グ・サイエンス研究におけるレジェンドであり、 ’ Beyond Advertising‘だし、経験豊富な先生なら Beyond Advertising‘ の 著 者 で あ る、Wind 先 ではのまとめ方だなと感心した。 生のお話を直接伺う機会を頂戴した。先生のお ただ、Wind 先生の話にもまだ発展させる余 話の中で私が特に大事な概念だと感じたのは 地があると思ったことも確かだ。一つは時間軸、 16 MH May 2016 FEATURE 2つめはメディアの内容、そして 3 つめはその 「Orchestrate」 の効果の測定である。 これから広告はどう変わっていくか いのに対して、単に SNS に投稿することだけが目 的の層が発する SNS は、企業の発信するメッセー 先生の話では、各種メディアが互いに融合し、共 ジのコピーの色合いが強く、企業の発信するプレ 鳴し、購買に結びつくとしているが、消費者行動、 スリリースを拡散しているだけであることがわか 特に消費者の意思決定プロセスを研究している る。拡散という意味では彼らの SNS も意味がある 私には、そこに「時間軸」が入っていないことが気 が、Wind 先生の語る「Orchestrate」としての役割 になった。 確かにスマートフォンを介して、関心を は、 明らかに情報先端層の発する SNS よりも低い。 持った商品のことはその場で探索し、気に入れば SNS に触れた・触れない、や、 「いいね」の数だけで ネットでその場で決済できる現在では、従来に比 はなく、誰が発した SNS に触れたのか、は重要な べて消費者の意思決定に至るまでの時間は短く ポイントであることがわかるだろう。 なっているが、その短い時間の中にもメディアに 第 3 にその「Orchestrate」そのものの効果測定 触れる順番によって、効果が異なることはわかっ である。従来は広告の効果は消費者の「認知率」、 ている。例えばインテージ社の i-SSP データを用 チラシの効果は消費者の「来店率」「チラシ掲載商 いた分析からは、企業の HP では、HP を観てから 品の購買率」、店内プロモーションの効果は消費者 購入する消費者と、購入後に HP を見る人では、圧 の「購入」で、それぞれ測定されていた。各メディア 倒的に後者の方がロイヤルユーザーになっていく の役割が何となく明確だったためだ。しかし上に 確率が高いことがわかっている。前者の HP の使 挙げたように、インターネットに関しては、その い方は、新製品を探すための役割であるのに対し メディアに触れる順番や、発信者によって異なる て、後者の場合は、その商品が他の商品とどう違う SNS の効果、などの実態があるわけで、新しいメ のかを探るために HP を探っているからである。 ディアの役割は TPO によって相当違うことが推 つまり、メディアに接触するタイミング、順番に 察される。こうなると「Orchestrate」は概念として よってそのメディアの役割は異なるわけで、一回 は理解できても、その効果を測定するのはかなり の購買のみを扱うならば「Orchestrate」で構わな 大変だろうなと推察できる。 いが、ロイヤルティという、従来から大事された概 このように、いくつか突っ込みどころはあるが、 念を考えて行くには、もう少し理論的に精査する メディアの相乗効果を「Orchestrate」という言葉 必要があるだろう。 でまとめたのはセンスがあるし、概念は新しく面 第 2 にメディア、特に企業がコントロールでき 白い。本来なら Wind 先生に敬意を表して「日本の ない SNS の内容である。我々はどうしてもその効 研究者には是非この概念を日本のデータで確かめ 果を「いいね」の数やフォロワーの数で測定しがち てほしい」、と言及してまとめるところだが、それ だが、それは広告の効果を、単に GRP だけで捉え、 では百戦錬磨の Wind 先生の術中にはまってしま 広告のクリエイティブ・メッセージを無視してい う。ここはひとつ、Wind 先生の概念枠組みの中 るのと同じであり、真の SNS の効果を捉えている で話をするのではなく、言葉は悪いがそれを「踏み とはいいがたい。 つまり、いい SNS に触れ、他のメ 台」にして、日本独自の新しい考え方を作っていき ディアと共鳴すれば、それは肯定的なドライブに たいものである。それこそが、日本の研究者と欧米 なるだろうが、つまらない SNS に触れたのでは、 の研究者の「Orchestrate」になるはずだから。 他のメディアとうまく共鳴できず、 「Orchestrate」 最後に、出版されたばかりの著書のエッセンス になっていかないのである。では、いい SNS とは を、著者自らの言葉で語っていただくという、非常 何か。日本の消費者での研究からは、情報先端層 に有意義な時間を頂戴したことに感謝する次第で の発する SNS は、肯定・否定を問わず自らの体験 ある。 に基づく評価が加わり、論理的で非常に内容が濃 清水 聰 (しみず あきら) 慶應義塾大学 商学部 教授 MH May 2016 17 Beyond Advertising FEATURE >> Challenge 組織横断とバランスシート型への転換 コクヨ 品川オフィス Text 本荘 修二 あるブランドの目的を統合し、全てのタッチポイ ントをオーケストレート(orchestrate)せよ」、つま ウォートンフューチャーオブアドバタイジング り、さらに先に行けと言う。 (WFoA)プログラムなる長期の研究活動におい 拙著では、広告、PR に店舗や顧客サービスなど て、22 カ国の 200 人以上のリーダーの知見を集 の機能を横断し、各種メディアの横串を唱えたが、 積して生まれた本書「Beyond Advertising」は、激 「Beyond Advertising」は、その範囲を広げ、従業員 動するマーケティングの将来展望を示している。 や決済、アプリ、IoT をもオーケストレートすべ しと説く。これは容易なことではない。いち早く、 組織横断のチャレンジ 既存の組織の壁やサイロとも言われる縦割りを克 筆者(本荘)が、拙著「大企業のウェブはなぜつ 服しなければならないと、あらためて警鐘が鳴る。 まらないのか」でウェブ時代のマーケティング・コ ちなみに、米国のコンファレンスで集まった ミュニケーションについて組織論から問題提起し CMO にウィンド教授が「Beyond Advertising」の てから 9 年余り経つ。縦割りで組織も機能もバラバ 論を説いたところ、 「私たちは wrong audience よ。 ラで、かつ階層も妨げになり、オンラインのメディ CEO に言うべきよ。」との反応だったとか。全社的 アとコミュニケーションの活用があまりできず、さ な問題だけに、容易なことではない。企業による差 らにはソーシャルメディアに適切な対応ができて が大きく生じるだろう。 いない企業が多いのが実情だ。 出版した当時は、大企業における組織横断の難し 「全てのタッチポイント」が意味すること さやオンライン・コミュニケーション部門の位置付 360 度マーケティングで、消費者に整合性のあ けなどの問題を正しく理解する人は少なかった。で るブランドメッセージを届けるべしという命題に は今はどうだろう。問題としての認識は進んだよう どう取り組むかと悩んでいる間に、現実は確実に だが、解決には至っていない企業がほとんどだ。 進化している。ある商品のよさを消費者に伝える しかし、本書 「Beyond Advertising」 は、 「説得力 にあたり、テレビや印刷媒体、ネットといった各メ 18 MH May 2016 FEATURE これから広告はどう変わっていくか ディアを駆使し、360 度の囲いを作ってコミュニ たなタッチポイントが出現する。スポーツ品メー ケ―ションしようという時代から、365 日のつな カーはウェアラブルとそのユーザーコミュニティ がりをブランドと消費者の間に築く時代へと進ん に熱心だが、それ以外の企業も IoT がタッチポイ できた。これがさらに、 「全てのタッチポイント」 ントとして浮上する日は遠くない。それまでに準 でのつながりへと進んでいく。 備ができている企業はどれだけあるだろうか。 これからの時代は、各タッチポイントでブラ ンドメッセージを発信するだけでなく、顧客の 説得力ある統合化されたブランディング フィードバックを得て、それに応えることが肝要 「Beyond Advertising」は、あらためて説得力あ となる。 「Beyond Advertising」で提唱しているほ る統合されたブランドの目的を唄う。全てのタッ どではないが、一部でもこうしたビジネスプロセ チポイントでのつながりが実現されれば、なおさ スを導入して業績と株価を大きく上げた米百貨店 らブランド自体がしっかりしていなければならな チェーンの例も現れている。 い。また「Beyond Advertising」は、ブランド、消費 販売員以外の社員の行動もソーシャルメディア 者、社会の三方よしを唱える。多様なタッチポイン で広まる今、インナーブランディングの重要度が トを組み合わせることからブランドを問い直し、 増している。アルバイトが店舗で変なことをして、 ブランドの存在意義を高めるという原点に立ち返 ブランドを傷つけた飲食や小売がある一方、社員 ることも求められるだろう。 を表に出してブランディングのプラスにする会社 一 部 の タ ッ チ ポ イ ン ト の 組 み 合 わ せ だ が、 が現れるなど、これまでになかったタッチポイン JICA(独立行政法人国際協力機構)の例が分りや トが重要化している。 すいので簡単に紹介したい。 そして、テクノロジーの進歩と普及により、新 2009 年、事業仕分けによるプレッシャーがか ㈱リサーチ・アンド・ディベロップメント MH May 2016 19 Beyond Advertising かっていた JICA だが、国民にあまり理解がされ 大半を占めてはいないか。 ていないのが実情だった。そこで JICA は、トッ ウィンド教授は、マーケティング・メッセージ プジャーナリストの池上彰氏に国際協力の最先 となるストーリーとともに商品開発するのがよ 端の現場を取材してもらい、そのコンテンツを日 いと言う。広告だけで考えても手詰まりになりや 経ビジネスオンラインの広告ページで連載した。 すい。ウィンド教授が登壇の 2013 年東京で開催の JICA は、え、こんな、と驚くような各国各地に人を Wharton Global Forum で、このトピックも話さ 配備し、日本最強のネットワークを持っていた。 そ れたが、こうした取り組みを実践しているのはご こで池上氏は、JICA の手引きなしには行けない く一部の企業であり、より多くの企業の例を聞く 各地を回る魅力を感じたのだ。 日を待ちたい。 連載終了後は、コンテンツは JICA のホームペー オール・タッチポイントのオーケストレートで ジに掲載され、オンラインの社外報となった。いわ 避けられないのが、柔軟性だ。説得力あるブランド ゆるオウンドメディアである。また、同連載は「世界 メッセージを発信し、フィードバックを得て、柔軟 を救う7人の日本人」「池上彰のアフリカビジネス によりよいものにしていく。そこでは、既にオンラ 入門」なる書籍として出版。さらに、テレビ東京「未 インゲームで実践されているように、リアルタイ 来世紀ジパング」と連動し、ウガンダ、ケニア、モザ ムでデータを集め分析して改善したり次の手を打 ンビークなどテレビ番組化された。 つことも求められる。それもオール・タッチポイン こうした広告を起点としたタッチポイントの組 トでだ。 み合わせによるコンテンツ・マーケティングによ そのためにも、組織やメディアを横断的に統合 り、国民向けの強力なブランディングとなったの したビジネスプロセスが不可欠となる。企業は である。かつては数%の国民にしか事業内容が理 マーケティングを捉え直し、これをきっかけに次 解されておらず興味も持たれなかった JICA だが、 世代の組織へと進化を図らねばならないと、ウィ いまや JICA 主催のイベントには参加申し込みが ンド教授は言う。 殺到して抽選でしか行けないほどになっている。 この革新を実行するにはマインドセットが重要 また、池上氏の著書「世界を救う 7 人の日本人」に だとウィンド教授は指摘するが、さらに深いレベ も登場する JICA スーダン事務所長を務めた宍戸 ルでの視点の転換が必要だろう。 健一氏は、復興支援の専門家として注目され、講演 911 そしてリーマンショック以降、P/L(損益 などに引っ張りだこだ。 計算書)型から B/S(バランスシート)型へと企業 こうして、オンラインメディアの広告から始 経営の重心は移ってきた。しかし、マーケティング まった、タッチポイントを組み合わせたコミュニ では、依然として P/L 発想が強い印象がある。上 ケ ー シ ョ ン 活 動 は、JICA の 存 在 価 値 を 再 認 識 記のように、短期の柔軟性のない施策に偏ってい させる結果となり、当初は弱かったブランドメッ るのはその表れだ。B/S 的視点から時間軸を設定 セージ自体も三方よしの刺さるものとなった。 し、根本的なところからブランディングを構築し、 かつ市場と継続的につながり対話しながら改善し バランスシート型マーケティングへの転換 ていけば、資産としてのブランド価値は、P/L 型 既にある商品、既にあるメッセージを前提に、 マーケティングよりも上げることができる。 マーケティングの相談をするブランド企業のマー 前出の JICA の例でも、広告が資産化し、資産が ケターが多いとも聞く。 しかも、それが正しくない 資産を生む連鎖でブランド価値を押し上げている。 ことも往々にしてあるが、なかなか変えられない オール・タッチポイント時代の広告は、消費される ようだ。このように、ブランドメッセージありき P/L 型から B/S 型への転換が鍵となるだろう。 で、その発信にフォーカスしたマーケティングが 本莊 修二 (ほんじょう しゅうじ) 本莊事務所 代表 20 MH May 2016 G NEWS MARKETIN ★ TOPICS ★ FEATURE アメリカマーケテイング協会(AMA)の機関誌マーケ これから広告はどう変わっていくか 持つリーダシップがゲームを変える力を持つ。消費者は広 テイングニューズ誌の2016年1月号が到着。特集は 告に対し、特におかしなデジタル広告に対し懐疑的にな 2016年の広告。アメリカの代表的なマーケテイングマン る。消費者は広告を無視する力を強める」 12人に変化する広告の姿を語らせている。この号から新 アメリカの広告最前線にある人たちの興味ある発言が 編集長の下で発行されている。正月号らしく2016年のセ 本特集には一杯。広告業界は大変換期に再突入という ールスとマーケテイングといった記事も登場。いつものよう ことのようだ。 に独断と偏見で日本のマーケターに参考になる記事を選 関心記事 ①大変動の後の国際マーケテイング。東 んで紹介する。 西ドイツが統合された後のマーケテイングの中身、使用 特集記事 2016年の広告の姿。広告は動く標的だ。 法、意味合い, 受け入れに大きな変化を引き起こすことを マーケターは新しいトレンドと技術で動く広告の動きととも 体験した。地政学的な大変動が起こるとマーケターが当 に歩くことが求められているのだ。広告がどのように動くの 然としてきたことに大変動が起こるのは歴史の大事変か か、広告の姿はどうなるのか常に注視する必要があり、そ ら見ることが出来る。東ドイツは統合により、人口減少、失 のために12人の専門家の色々な観察、洞察、視点、助言 業者の増大、東ドイツの消費者は経験したことのない消 を紹介するとしている。そのいくつかを要点的に紹介する 費経済、産業界はシビヤーナ国際競争にさらされることに と。 なった。東ドイツの消費者は西ドイツの消費者と広告に対 ①HZDG社長のカレン・ズカーマン女史の発言。「広 する反応は大きく違っていた。二つの中国、南北朝鮮、キ 告代理店は単純な一方的な売り込みから広告依存のア ューバ、 イランの台頭により起こるマーケト、マーケット志向 ップローチに力点を置くことに動く。消費者はブランド選好 の変化に備える必要がある。マーケターは今まで経験し に当たりより感性的になる。好き嫌いで衝動買いをする傾 ていなかった消費者意識、行動に戸惑うことになるという 向が強くなる。広告は物語的となり、コンテンツに力点が もの。 置かれるようになる。消費者のデザインを評価する傾向 ②2016年、セールス、マーケテイング業界で起こること が強まる」 の一つは、個人化の進展で電話による顧客との会話がe ②アノマリー上海社エリック・リー氏の発言「E-コマ -メールを超えて重視されることになろうというもの。2016 ースがブランド構築のプラットホームになる。E-コマースは 年の重要な傾向は個人化の重視。一対一のマーケテイ 簡単なオンライン・ビジネスの垣根を越えオンラインからオ ングが当然の手法とみられることになろうと予言。それに フラインを結びつける役割を果たすようになる。配達の分 対応した色々な技法、技術が誕生すると強調。 野では物を運ぶだけでなくサービスも提供することが始ま ③情報化経済の中で益々困難になるのは真実を知る っている」 ことと伝えることだとサンフランシスコのデジタルマーケテイ ③レオバーネット社のCEO、 トム・バーナデイン氏の発 ング会社のグアダグノ氏が強調。ソーシャルメディアに乗 言。「我々の業界では多くの変化が起きているがその変 る情報、映像には自己の主張、解釈、物語の正当性を強 化は加速している。2016年の注目すべき変化の一つは 調するあまりゆがめたり、主観的な証明、おもわせ振りの データで動かされるマーケテイングでこれはクリエ―テイ 加工、 イメージ創造をしたりするものが氾濫していると警 ブの分野に大きなインパクトを与る。ビッグデータ技術の出 告。マーケターは事実とフィクションの間でどのような活動 現で我々は混乱に陥っているが、 クリエテイビテイとビッグ をするのか、マーケターの役割が今新たに問われている データの融合が重要だ。優れたコンテントには優れたスト と。 リーが不可欠だ。我々が競争している相手は大衆文化、 ④アメリカの大学も需給問題に直面、大学も学生募集 消費者に訴求するには、関心を持つこと、魅了すること、 にマーケテイング志向と募集プロセスを真剣に考える新た 役に立つことに力点を置く活動が必要だ。創造力が業界 な時代に入ったと大学のマーケテイングを強調する記事 の最も価値ある資産だ」 が出現。日本の大学のマーケテイングの先生、自分の大 ④No,No, No, NO, NO, Yes社の創設者ギデオン・アミ 学はいかがですか。 チェイ氏の発言。「クリエイティビティのリーダシップが今ま でになく重要になっている。ビジョンと新しいアップローチを (大坪 檀 静岡産業大学総合研究所教授・所長) MH May 2016 21 Beyond Advertising FEATURE >> Digital Infra-structure 広告は広告を超えていくことになるけれど それはとても広告的に行われるだろう コクヨ 品川オフィス Text 古川 裕也 化すると、「あらゆるレベルのデータ解析をベー スに統合的な戦略を構築して、カスタマーとのリ 「アルファ碁」という名前の人工知能が、世界 レーションを最適にする方法」くらいのことにな トップレベルの棋士と 5 回戦って 4 勝 1 敗だっ ると思われる。もちろん、その中の種目は、e コマー たというニュースは、ふだん囲碁にも A.I. にも関 ス、デジタル・コンテンツ、DMP、運用型広告、ア 心のない人々にも衝撃的に受け止められた。コン ドテクなどなど、栄枯盛衰含め多種多様だ。 ピューターが将棋のプロ棋士に勝って注目を浴び このゲームが今までといちばん違うのは、運用 たのが、去年。A.I. が囲碁の一流棋士を破るには 型広告はじめ多くの種目で自動化がなされつつ 10 年以上かかるだろうと言われていた。それだけ あるということだろう。たしかにデジタル・マー に、今回の衝撃は大きく、人工知能は、すっかり日 ケティングという仕事の中には、人間よりもコン 本人全体の関心事になってしまった。 ピュータの方に向いているパートが数多く含まれ その関心は、シンギュラリティ(技術的特異点、 ている。どちらでも能力のある方が受け持てばい つまり人工知能が人間の知性を超える瞬間)はい いのであって、明らかに人間より A.I. の方がシュ つかということに、ほとんど向かっていると思わ アという種目は必然的に増えていくだろう。囲碁 れる。音声認識ソフトの発明者で今はグーグルに で人間に勝てるようになったのは、deep learning いるレイ・カーツワイルは、それを 2045 年と予測 つまり、外部を認識し、みずから学習、判断するこ している。 とができるようになったからだと言われる。彼は 現在、マーケティングの世界で起きているのは、 まるで思春期のように成長しているのだ。 マーケティングはすべて、イコール、デジタル・ 人間のアイデアが常に上位概念としてあり、あ マーケティングという変化であって、それは、世の くまでその手段として自動化されたデジタル・プ 中のほとんどすべてが、 デジタル・インフラをベー ラットフォームがあるといういわば人間信頼説 スに構築されていることとパラレルだ。 と、シンギュラリティをむしろ当然の出来事とし デジタル・マーケティングをおおざっぱに図式 て、人間より明らかに有能なマシンに基本すべて 22 MH May 2016 FEATURE これから広告はどう変わっていくか を委ねようといういわばシステム信頼説とがあ 事態と捉えておきたい。おそらく、人間は、人間で る。それは、特殊に有能な人間の出現や成長を信じ なくてはできないことを新たに発見していくだろ るか、それを全く信頼せず、平均的能力さえあれば う、と僕は楽観的にかまえているのだけれど。 誰でもできるようなシステムを開発する方が安定 テクノロジーの劇的進化によって、僕たちの 的効率的に成果が上がるという考え方との対立で ゲームもがらっと変わった。当然、プレイヤーの顔 もある。 ぶれもまったくちがうものになっている。この領 最近よく語られるのが、「今ある仕事で何が残る 域は、日本の広告代理店が必ずしもメインプレイ か」問題。オックスフォード大学のカール・ベネディ ヤーではない。SI ×コンサル、デジタル・専業マー クト・フライによれば、現在ある仕事の半分が 10-20 ケティング・エージェンシー、デザイン・ファーム 年のうちに人工知能に置き換えられるという。 など、どちらかというとシステム設計に強いプレ イヤーが、コンサル、マーケティング、デザイン、ク アスリート、ミュージシャンなど、生身の人間が リエーティブ領域に侵犯してきていて、まだ戦場 やることに意味がある仕事は残るとか、 自体が確定してない状況にある。ゲームのプリン 同じ弁護士でも、調査弁護士はなくなるが、敗訴確 シパルとコンピタンスを確定できたところが勝つ 実と言われていた O.J. シンプソンを無罪にするよ だろう。とはいえ、要はソリューション・ビジネス うな法廷弁護士は生き残るとか。 「ロボットに人 である。種目×能力。さらにそれを統合する力を競 間の仕事が奪われる」 的な言い方がよくされる。 い合うゲームである。その原理はほぼ変わらない。 実際多くの職業が消えていくだろう。 けれど、そ デジタル・マーケティングの領域は、実はまだ、 れは、やらなくてもいいことから人間が解放され ブルー・オーシャンとは言わないが、パープル・ ることを意味するのであって、むしろハッピーな オーシャンくらいの段階であって、現在加速度的 三井農林㈱ MH May 2016 23 Beyond Advertising に増えている需要に対して供給が追い付いていな ウッド並みの予算と報酬を用意しているという。 い状態である。 淘汰は少し先になるだろう。 さらに、自由度。当初のディレクションはかなり精 最近、ある領域をひとつのブランドが完全に制 緻に束縛しているが、いったん決めたら後は自由。 覇した例がある。映像ディストリビューション領 100%信頼して任せる。唯一のしばりは、 「今まで 域におけるネットフリックスがそれだ。 なかったもの」。これは、望むところだ。 2016 年 1 月 5 日。 ラスベガス。CES 開催日前日。 創り手が、いちばんほしいのは、高評価×売り上 ネットフリックス CEO、リード・ヘイスティング げ。理由はかんたん。それがないと、次のバッター スのキーノート・プレゼンテーションを聞いた。 登 ボックスに立てないからだ。それゆえ、ヒットする 場しただけで、 スタンディング・オベーションだっ 原理のようなものを実は本能的に渇望している。 た。彼によれば、すでにほぼ全世界にコンテンツを それは、内容やキャスティングを規定されること 配信する準備が整っているという。中国、北朝鮮、 に対するネガティブな気持よりはるかに大きい。 シリアの 3 か国をのぞいて。 ネットフリックスは、カスタマー・ファーストに ネットフリックスの競争優位性はすでにずいぶ 徹底した結果、クリエーティブ・パーソンにとって ん語られている。 簡単に言うと、映像コンテンツの 最も魅力的な映像産業たりえているのである。 企画制作のほぼすべてをカスタマーの行動データ データ・アナリシスから、なんらかのクリエー を根拠に組み立てるという徹底的に顧客オリエン ティブ・アウトプット、つまりカスタマーとの接触 テッドなモデルだ。こういう地域に配信するのは、 まで。ずっと言われていながら、アドヴァタイジン こういう種類の、こういうジャンルがヒットする グ・ビジネスではなかなか確立できない説得力の 確率が高い。 その場合、キャストはケヴィン・スペ ある方程式が、映像配信というカテゴリーをほぼ イシーでなくてはならないとか、この地域の人た 制圧したのだ。データは誰が読んでも同じ結果を ちは、ホームドラマの場合毎回必ず意外な出来事 導き出すわけではない。そこには、人智が必要であ を入れないと見続けてくれないとか、この地域の る。この方程式のプロセスのいくつかの重要なポ 人たちは S.F. にも毎回 3 回アクション・シーンが イントにも、人智が必要である。ストラテジーにし あると満足度があがるとか。 ても、PR にしても、もちろんクリエーティブにし 企画を映像にするかどうかは、シノプシスと1 ても。方程式がクリアだと、人力が必要なところ、 回目2回目のシナリオを読んで、基本 100%デー つまり、少なくとも当分、A.I. より人間の方が優 タから判断するという。そのアルゴリズムは、当 れた仕事をすると予想される場所がよくわかる。 然トップ・シークレットだけれど、 ほんとに 100% 広告はじめ僕たちの仕事はほぼすべて、課題→ データだけなのか、最後あるいは最初、2~3%く アイデア→エクゼキューションというプロセスか らい直観が介在するのか実はよくわからない。 ら成り立っている。それは、何がどのように変化し データによって内容がだいぶ規定される。とい ようと変わらないだろう。広告は広告を超えてい うと、監督などクリエーティブ・パーソンは、忌 くことにならざるを得ないことはもはや明白だけ み嫌いそうである。けれど、事実は全く逆なのだ。 れど、それは広告で培ったスキルを広告以外の仕 ネットフリックスは、現在、創り手たちからいちば 事に応用していくことでのみ可能である。今後ど ん仕事したい相手先になっている。ハリウッドを うなっていくのかではなく、現在持ち合わせてい 凌ぐほどの。 る能力の応用で、今までやったことのない何がで 「お金(制作費の方がギャラより重大関心事にな きるだろう、という立ち位置の方が、プレイヤーと る)・自由度・ヒット確率の高さ」 しては健全かつ有効だと思われる。新しい仕事は この3つが、 クリエーティブ・パーソンが望むこ どれも、そのようにして生まれてきたのである。 とのすべてである。 まず、ネットフリックスはハリ 古川 裕也 (ふるかわ ゆうや) 株式会社電通 CDC センター長 24 MH May 2016 日本マーケティング協会の 5、6 月のセミナー 【東京】 明日から使える 「売るためのパッケージデザインの作り方 (実践編) 」 日 時 : 2016 年 5 月 26 日 (木) 13:00 ~ 17:30 会 場 : 公益社団法人 日本マーケティング協会 アカデミーホール 講 師 : 小川 亮氏 ㈱プラグ 代表取締役社長 総会記念企画 「今後の日本経済の展望」 日 時 : 2016 年 5 月 30 日 (月) 14:40 ~ 15:40 14:40 ~ 15:40 総会特別講演 6 階 阿蘇の間 15:50 ~ 16:50 マーケティング大賞表彰式 6 階 霧島の間 17:00 ~ 18:00 懇親パーティー 5 階 穂高の間 会 場 : アルカディア市ヶ谷 (私学会館) 東京都千代田区九段北 4-2-25 TEL(03)3261-9921 講 師 : 永濱 利廣氏 ㈱第一生命経済研究所 経済調査部首席エコノミスト 「マーケティング・プランニング力 スキル&センスアップ講座」 ~企画からプレゼンテーションまでの実践コーチング~ 日 時 : 2015 年 6 月 13 日 (月) 10:00 ~ 18:00、14 日(火) 10:00 ~ 18:00 会 場 : 公益社団法人 日本マーケティング協会 アカデミーホール 講 師 : 清野 裕司氏 ㈱マップス 代表取締役、 スタッフ 2 名 マーケティング・ベーシックコース 2016 ねらい ・理論と企業事例を併せて学び、 マーケターとしての基盤をつくる ・マーケティングの共通言語とフレームワークを正確に理解する ・実践的なワークショップ・プレゼンテーションからスキルを高める ・異業種交流により、 マーケターとしての視野・ネットワークを拡大 コース構成 ● MBC 夏季・水曜コース 2016 年 6 月 1 日 (水)~ 7 月 20 日(水) ● MBC 夏季・木曜コース 2016 年 6 月 2 日 (木)~ 7 月 20 日(水) ● MBC 秋季・木曜コース 2016 年 10 月 20 日 (木)~ 12 月 6 日(火) 毎週1回 1日2セッション 計7回 (7週間) 合計 13 セッション ※上記セミナーの詳細につきましては、 協会 WEB http://www.jma2-jp.org をご確認ください。 MH May 2016 25 MARKETING EYES 女性マーケター の眼 50代母から学ぶ 「ファンになってもらう方法」 広告の進化 梅原 沙緒里 渡辺 コウキ ㈱東急エージェンシー ㈱大広 私の母は “典型的”な地方都市の中高年女性かもし 先日インフルエンザにかかったわたしは、会社を1週間休 れない。 んだのですが、予定していた打合せは全てこなすことができ 子育て中に始めた生協のおかげか、通販への抵抗 感はほとんどなく、新聞やネットで化粧品のお試しセット を見つけては「お得だから」という理由で片っ端から申し ました。会社に行くよりもむしろ仕事が捗ってインフルエン ザながらとても充実した1週間でした。これ、ハングアウトや 込む (iPadで) 。そのうち、封を開けるのは半分程。実 FaceTimeのおかげなんです。 家に帰るたび “ストック” が増えている。 この数年、仕事をする上での、インターネットがもたらした 「代謝が悪くなってきたから」。録りためた韓国ドラマ 変化は本当に計り知れない。こういう状況をリアルに体験 を見ながら、深夜の通販番組で買ったフラフープを夜な 夜な回し続ける。きっとこのフラフープも近々押入れの ダイエッ ト器具たちと共に永い眠りにつくだろう。 すると、世の中がどんどん進化しているのを実感します。 じゃあ私たち広告マンはその進化についていけているの 通販やネッ トショッピングを駆使する母だが、 その理由 か? は単純に「楽だから」。地方都市といえども大型店舗は 広告コミュニケーションのあり方が、マス前提の組み立て 少し遠いし、歩きながら商品を探すのも疲れる。その反 から、戦略もメディアも含め、キャンペーン全体を統合的に 面、通販だとワンクリックですぐ届く。 そんな母があるとき「この化粧品に決めた」と意気 揚々と報告してきた。「肌の調子がいい」 「シミが薄くな 作り上げていくという状況に、 ここ数年変わってきてます。広 告クリエイティブのルールがどんどん書き換えられていく感じ。 った」と色々理由は聞かせてくれるが、よくよく聞いてみ それが数多く具体となっていっている実感があります。 ると「ここはコールセンターがしつこくない」とか、 「お誕 戦い方がCM中心ではなくなったということにおいては、 生日おめでとうと言ってくれた」とか、 「後日肌悩みに合 私のような企画を生業にする職業からすると、あらゆる側面 った商品サンプルを送ってくれた」とか、そういうことだっ たようだ。きっと「お誕生日おめでとう」と書かれたDM が送られてきても買い続けてないだろう。 から生活者にアプローチできるというメリットがある反面、戦 う相手が競合商品のCMだけではなく、ニュースソースや一 つまり、人の温もりがあるおもてなし「温感コミュニケ 般人のソーシャルにあげられる可愛らしい猫や赤ちゃんなど ーション」 なのだと思う。一流ホテルが「紳士淑女のお になってきている。いい感じのコピーとかいい感じのビジュア 客様を、自らが紳士淑女となってもてなす」 ように、大手 ルだけで解決できる課題は少なくなってきてるんだと思いま 食品会社が「大切な人に食べてもらいたいという想い で商品をつくる」 ように、そのブランドにとって顧客がどう いう存在なのかを明確にすれば、自ずとどう「温もり」 を 26 クリエーター の眼 す。 今後、広告クリエイティブの業界はどんどんカオスになって つくればいいかがわかるようになる。それが「買い続けて いくんだと思います。でもだから面白い。いくつになっても新 もらう」 「ファンになってもらう」ための大切な要素、 と母 しいことを学べる。新しいことにトライできる。日々この仕事 をみて改めて思った。 に向き合える楽しさに感謝です。 うめばら・さおり 株式会社大広 マーケティング局コーポレートコミュニケーショングループ わたなべ・こうき 株式会社東急エージェンシー クリエイティブ局 クリエイティブディレクター MH May 2016 BOOKS Editor's Choice Professor's Choice 『手書きの戦略論』 『競争を味方につけるマーケティング』 磯部光毅 著、宣伝会議 勝又 壮太郎・西本 章宏 著、有斐閣 ターゲットインサイト、タッチポイント、エンゲージメン 本書の問題意識は非常にシンプルである。競争を避 ト、バイラル、ネイティブアド…。広告をはじめとする企 けるのではなく、味方につけるべきであるということ。これ 業のコミュニケーション領域においては、毎年のように までの競争戦略論、市場戦略においては、差別化によ 新しい言葉や概念が生まれ、その瞬間においてはあた って独自市場を確保すること、競争を避けることが経営 かもそれが最善であるかのようにもてはやされる。多く のマーケティング担当者は付いていくだけで精一杯と いう状況に陥ってしまっているのではないだろうか。 広告代理店を経て、現在は独立系コミュニケーショ ンプランナーとして活躍する著者は、本書を通じて、そ んな「迷子」に対して非常にわかりやすい地図を描い ている。コミュニケーション領域の数ある戦略を「7つ の流派」として、その成り立ちから現在に至るまでをケ ースをまじえて解説していた内容となっている。その7 つとはポジショニング論、ブランド論、アカウントプラニ ング論、ダイレクト論、IMC論(統合マーケティングコミ ュニケーション論) 、エンゲージメント論、クチコミ論であ る。これらはそれぞれが対立した概念というわけではな 的成功へのほぼ唯一の方法とされてきた。しかしながら、 現在の消費財市場をみれば、 これが非常に困難であるこ とは言うまでもない。であれば、競争を避けることを夢想 するのではなく、競争的な環境の中で活路を見出すこと を考えたほうが現実的ではないか、 こうした背景から本書 はスタートしている。 序章では現代的な市場戦略における問題を多角的 に俯瞰し、 メーカーと流通業者を巻き込んだまさに「狂騒 的」な競争の実情を描き出している。続く章では、マーケ ティングや消費者行動の学術的な蓄積を踏まえながら、 競争を味方につけることができる可能性がどこまであるの かを理論的な観点から検証している。具体的には、当該 ブランドの選択確率に対して同じ考慮集合に含まれる他 ブランドが与える文脈効果(これを筆者らは競争コンテク く、時にミルフィーユのように折り重なるように共存して スト効果と呼んでいる) を理解することにより、 どの競合ブ いるのだ。 ランドを考慮集合に入れるべく (あるいは外すべく)マー このところ、 「当事者」や「コミットメント」のような言 ケティング戦略を進めるべきかという示唆を得ている。実 葉への注目の高まりのせいか、世間において「俯瞰」 証分析の各章では、独自に開発したモデルを、 ビール系 するという行為に対して、軽視とまでは言わないが、少 飲料とチョコレート菓子の製品に対する消費者判断デー なくとも重視しない傾向があるのではないかと個人的 には感じている。しかし、過去の歴史を踏まえて、今置 かれている状況をきちんと全体の中で位置づけること の重要性は、時代が混沌とすればするほど増すはず である。複雑に絡まり合った目前の課題に対して、 「ど う考えるか?」にいきなり取り組むのではなく、まずは全 貌を俯瞰したうえで、 「どういう考え方で考えるべきなの か?」を冷静に見極めることこそが、最適解にたどりつ くための近道なのではないだろうか。本書はそのため の貴重な補助線となることだろう。 (㈱カゲン 取締役 子安 大輔) タへ適用することによって、競争環境を新しい観点からと らえる統合的な枠組みを提示している。 本書はやや専門的な内容を含むため、理論的背景、 調査設計、実証分析の各章について完全に理解して 読み進むには、 それなりの事前知識が必要かもしれない。 しかし、前述のように本書の目的は単純であり、各章の 図表や議論をもとに、エッセンスを読み進めていくだけで も、 十分な示唆を得ることが可能であろう。本書を通して、 「競争関係を理解するためにこのような方法がある」と いうことを知ることができれば、自身の抱える課題を新し い視点から見直す契機になるだろう。 (東京大学大学院 経済学研究科 教授 阿部 誠) MH May 2016 27 広告掲載会社 「マーケティングホライズン」編集委員 編集委員長 片平秀貴丸の内ブランドフォーラム GMOリサーチ㈱ 表4 表2 共同印刷㈱㈱ 表3 ㈱インテージ 11 ㈱電通 15 ㈱リサーチ・アンド・ディベロップメント19 三井農林㈱ 23 編集委員(五十音順) ㈱リックテレコム 子安大輔㈱カゲン 松風里栄子㈱センシングアジア ツノダフミコ㈱ウエーブプラネット 中島聡㈱明治 中塚千恵東京ガス㈱ 本荘修二本荘事務所 見山謙一郎㈱フィールド・デザイン・ネットワークス 吉田けえな㈱RBK 吉田就彦㈱ヒットコンテンツ研究所 エチエンヌ・バラールジャーナリスト 編集後記 今回の巻頭論文の著者、 にその例に漏れることはありませんでした。 ところ ウィンド教授とは 30 年 が、巻頭言でも書きましたが今回の議論はいつもと 来 の 知 り 合 い で 70 代 打って変わって人間を正面から見つめたもので、内 も半ばを超えた今でも 容自体に驚きはありませんが、あの米国経営学がこ ウォートンスクールの こまで舵を切ったことに驚きを禁じ得ませんでし マーケティング領域の た。 実質的リーダーとして ウィンド教授が言うように、変わらない、が最悪の ご活躍されているのに 選択だということを自ら実践されているのですね。 は頭が下がります。 今年2月に来日され、教授を囲 なりふり構わず変わり続ける、この真剣な姿勢こそ んで今回ご執筆いただいた各氏が集って日米で「広 今われわれが学びとらなければいけないところで 告の将来」を語り合ったのが今号のテーマのきっか はないかと強く思います。 広告は、広告会社は、広告 けです。 研究は、そして広告の受け手はこれからどう変わっ 日本のモノづくりの匠の方々や欧州の強いブラン ていくのか、この号がそれを考えるきっかけになれ ドの経営者の方々とお付き合いしていると、一般 ばこんなうれしいことはありません。 的に米国の MBA の教授連は議論が合理的、機械的 ウィンド教授の話で終始してしまいましたが、教授 で、主張はクリアに分かるものの味わいとか深さと に劣らず刺激的な論稿をお寄せ下さった、清水、古 いう面で退屈なのはなぜなのだろうかと問い続け 川、 本荘、 田中各氏には心からお礼を申し上げます。 てきました。 友人ながらウィンド教授も残念なこと (片平秀貴) マーケティングホライズ 5号/ NO.694 2016年6月1日発行© 発行者:塚田宗紀 発行所:公益社団法人日本マーケティング協会 〒106 -0032東京都港区六本木3 -5 -27六本木YAMADAビル 9 F TEL.03 -5575 -2101 FAX.03 -5575 -0626 http://www.jma-jp.org 定価:1部200円(送料別) (購読料は会員費に含まれています) 印刷所:大日本印刷㈱ 表紙ロゴ/柳沢光二 表紙デザイン・本文編集/松熊慎一郎 無断複写・転載を禁ず。 28 MH May 2016
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