リサーチ TODAY 2016 年 5 月 24 日 消費税率引き上げ延期でも国債暴落は回避 常務執行役員 チーフエコノミスト 高田 創 みずほ総合研究所が四半期毎に改訂している『内外経済見通し』1の最新版のなかで、重要な論点は消 費増税の先送りの有無だ。筆者は、中長期的な税の観点から、法人税と所得税は国際的な競合関係のな か日本も下げざるを得ないため、消費税率は着実に引き上げるべきと考える。ただし、その時期として、 2014年度の引き上げで消費の下振れが生じたというトラウマが経済主体に色濃く残り、しかも今年になって 海外環境の変化からマインドの低下が生じているなかでは、消費税引き上げ延期はやむを得ない面がある と言うのが筆者の見解だ。問題はその時の市場の反応だ。日本国債の格付けは、ムーディーズとS&Pでは A格にあるが、その格下げ観測も根強い。下記の図表は当社の増税先送りの財政への影響試算である。 予定通り引き上げのケース、4年延期して2021年度に引き上げのケース、引き上げの無期延期の場合を描 いてある。延期の場合、プライマリーバランスは4兆円程度下振れし財政の改善は遅れる。ただし、名目成 長率が利払い金利を上回るなか、政府債務のGDP対比をみると、上振れは限定的であり、4年の延期であ れば2020年代前半がピークとなる状況に変化はない。債務残高は世界最悪に近いが、プライマリー・バラ ンスなどフローの収支が少なくとも改善のトレンドにあるので、市場で国債スプレッドが大きく上乗せされる 状況にはなりにくいだろう。 ■図表:増税先送りによる財政への影響試算 プライマリー・バランス (対GDP比、%) 0 政府債務/GDP比率 (対GDP比、%) 240 試算値 ▲1 試算値 220 20年度:▲2.1% (目標:黒字化) ▲2 200 ▲3 180 歳出削減努力を前提に すれば、増税延期による 上振れは当面限定的 20年度:▲2.7% ▲4 (目標:黒字化) 160 18年度:▲2.4% ▲5 140 (目安:▲1.0%) 予定通り(2017年4月増税) 4年延期(2021年4月増税) 無期限延期 (年度) ▲6 ▲7 2010 12 14 16 18 20 22 予定通り(2017年4月増税) 4年延期(2021年4月増税) 無期限延期 120 (年度) 100 24 2010 12 14 16 18 20 22 24 (資料)内閣府「国民経済計算」よりみずほ総合研究所作成 ここで、先送りのタイミングには様々な見方が存在する。次ページの図表は先送りを行った場合の、メリッ ト・デメリットを様々な観点から比較したものだ。2021年度はインボイスの導入の予定時期にあたる。今回、 1 リサーチTODAY 2016 年 5 月 24 日 導入が予定される軽減税率にはインボイスがないため、益税が発生するという制度上の不備がある。それ だけに、今回、消費税が先送りにされ、将来消費増税が実施される時にはインボイスの導入がセットとなる 可能性が高まるとみた。 ■図表:増税延期期間によるメリットデメリット 延期期間 1年 2年 3年 4年 (18年4月) (19年4月) (20年4月) (21年4月) 重視するポイント 2020年度に向けた財政健全化注1 インボイス本格導入とのセット 無期限 △ △ × × - 現政権下での増税に対する責任注2 × ○ × △ × △ ○ △ ○ × 五輪効果で経済失速回避 × ○ ◎ △ ? 衆院解散の自由度確保注3 デフレ脱却 × × ○ △ △ ○ △ ○ ○ ○ 参院選への配慮注4 ○ × ○ ○ ? (注)1.消費税の増税時期と、増税分を国庫に納め始める時期とが、企業の決算期によって異なるため、増税初年度の 税収増はやや抑制される。 2.安倍首相の自民党総裁としての任期は 2018 年 9 月まで。ただし、自民党の総裁公選規程改正により、「2 期 6 年」の任期を「3 期 9 年」に延長する可能性あり。 3.衆院解散の自由度確保は、現職衆院議員の任期内(2018 年 12 月まで)における解散の自由度。1 年延期では、 2018 年 4 月前後の解散が困難になるため×と評価している。また、3 年(4 年)延期の場合には、2016 年度 (2017 年度)中の衆院解散を行うと新議員の任期が 2020 年度(2021 年度)までとなるため、増税と選挙の時 期が重なるが、再度の解散で時期をずらすことは可能。 4.次々回の参院選は 2019 年夏の見込み。 (資料) 各種報道を参考に、みずほ総合研究所作成 下記の図表は国債のCDSプレミアムの推移である。2014年11月に増税を先送りを決定した時は、プレミ アムが大幅に拡大した。その背景には、日本の経常収支の赤字化の不安や、税収状況等を含む財政状 況の改善へのトレンドが確認されておらず財政懸念が高まっていたことがあった。一方、今回は、経常収支 の黒字拡大の定着や、財政の改善があり、国債市場変動の蓋然性は前回よりも低い。ただし、債務残高水 準が高いだけに常に財政規律への配慮は不可避だ。また、格下げがあった場合、国債よりも日本企業・金 融機関への影響には留意が必要だろう。 ■図表:CDSプレミアム推移 80 70 (bp) 日本 米国 ドイツ 増税先送り (2014年11月18日) 60 50 40 30 20 10 1 2014年 3 5 7 9 11 1 2015年 3 5 7 9 11 1 2016年 3 5 (月) (注)5 年物 CDS (資料)Datastream よりみずほ総合研究所作成 1 「2016・17 年度内外経済見通し」(みずほ総合研究所 『内外経済見通し』 2016 年 5 月 20 日) 当レポートは情報提供のみを目的として作成されたものであり、商品の勧誘を目的としたものではありません。本資料は、当社が信頼できると判断した各種データに基づき 作成されておりますが、その正確性、確実性を保証するものではありません。また、本資料に記載された内容は予告なしに変更されることもあります。 2
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