セーフティー・リーダー シップによる安全文化の 形成

Shaping safety culture through safety leadership
セーフティー・リーダー
シップによる安全文化の
形成
OGP レポート第 452 号
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International Association of Oil & Gas Producers
豊富な国際経験
国際石油・天然ガス生産者協会は、世界各地の様々な土地で事業を展開する会
員企業に支えられ、豊富な技術的知識と経験を蓄えている。当協会では、この
貴重な知識を集約し、会員企業のグッド・プラクティスを示すガイドラインと
して、石油ガス業界の活用に資している。
International
As s o c i a t i o n
of Oil & Gas
P r o d u c er s
一貫して質の高いデータベースとガイドライン
世界中で、業界における教育研修、管理、ベスト・プラクティスが
確実に一貫した取り組みにより実施されるようにすることが、
OGP の総合的な目標である。
石油・天然ガス探鉱生産業界は、特定分野において一貫性のあるデータベース
と記録作成を策定する必要があることを認識している。OGP の会員は、操業を
開始する際、あるいは現地で適用している自社の方針・規則を補完するものと
して、このガイドラインを利用することが奨励される。
国際的に認められた業界の情報源
多くの OGP ガイドラインが各国当局や安全環境団体から認められ、活用され
ている他、世界各国の政府や非政府組織、非会員企業からも要望が寄せられて
いる。
www.ogp.org.uk
This translation of Report 452 has been kindly supplied by INPEX
Corporation. The accuracy of the translation has not been verified
by IOGP. IOGP accepts no responsibility or liability for the
accuracy of the translated report. In all cases, only the original
English version is authentic. IOGP reports are subject to regular
review and re-publication. IOGP cannot guarantee that unofficial
translation reflects the most current version of any report.
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Shaping safety culture through safety leadership
セーフティー・リーダーシップ
による安全文化の形成
レポート第 452 号
2013年 10月
版
刊行履歴
日付
1.0
初版
2013 年 10 月
1.1
誤植の訂正(10、16 頁)
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International Association of Oil & Gas Producers
免責条項
本文書に記されている内容の正確さに関しては精査を重ねたものの、過去、現在、そして将来いずれの時点に於
いても、OGP、IPIECA、およびその会員企業が、資料に含まれる情報の正確性を保証する責任を問われる事は
無いと同時に、OGP、IPIECA およびその会員企業の過失の如何に関わらず、本文書の予見可能な、あるいは予
見不可能な使用を起因として発生する責任を負うことはなく、ここに於いてそのような責任は除外される。本文
書の使用は、本免責条項の条件に対する使用者の同意と解釈されることから、使用者本人の責任に於いてなされ
るものとし、使用者は後続の使用者に対して本免責条項を告知する義務を負う。
著作権表示
本文書の内容全ては The International Association of Oil and Gas Producers と IPIECA がその著作権を所有す
る。本文書全て、あるいはその一部は、i) OGP の著作権、および ii)情報源を認知した場合のみ、再生する許
可が与えられる。転載禁止。その他の目的での使用には、OGP ならびに IPIECA からの事前の書面によ
る許可を得なければならない。
本文書に関わる諸条件は、イングランドおよびウェールズ法に準拠する。本文書に関して生じる争議はイングラ
ンドとウェールズの裁判所の管轄下にて仲裁を受けるものとする。
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Shaping safety culture through safety leadership
目次
概要
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第 1 部 – 行動の必要性
03
第 2 部 – 安全文化とは 04
第 3 部 – 安全文化の要素 05
第 4 部 – リーダーシップとは 11
第 5 部 – セーフティー・リーダーシップの特徴 12
第 6 部 – 操業におけるリーダーシップ 20
第 7 部 – 今後に向けて 23
第 8 部 – 参考文献 26
第 9 部 – その他の参考資料 27
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International Association of Oil & Gas Producers
概要
この報告書は、石油・天然ガス業界のリーダー達に向け
て、リーダーシップがいかに安全文化を形成するかにつ
いての認識を高めてもらうことを目的として書かれた。
本書では、安全文化とセーフティー・リーダーシップと
は何かを説明し、特に安全文化に影響を及ぼすリーダー
シップの特徴について解説する。
安全への取り組み
は、一優先事項で
はなく、いかなる
時もあらゆる段階
においても、意思
決定を形作る価値
感でなければなら
ない。
どの企業も安全な操業を願うものだが、この願いをいかに
行動に移すかが課題である。規則、基準、手続きの明文化
は重要で必要であるものの、それ自体十分ではない。企業
は、安全の価値があらゆる従業員に深く浸透しているよう
な文化を構築しなければならない。
本書では、「考え方や態度、行動を形作る不文律の基準
及び規範」を文化と定義する。
安全を重んじる文化はリーダーから始まる。リーダーが文
化を動かし、文化が行動を動かすからである。リーダー
は、期待事項を設定し、体制を構築し、周囲の人に教え、
トップの責任を示すことで、文化に影響を与える。
安全と操業の健全性に対する意識は、経営陣から始まる。
だが、経営陣だけでは文化全体を動かすことはできない。
安全文化が花開くには、それが組織全体に深く根付いて
いる必要がある。
(Tillerson, R., 2010)
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Shaping safety culture through safety leadership
1. 行動の必要性
文化的要因は、家庭、社会、職場などのあらゆる場面で、常に行動に
影響を与えている。組織の文化は新入社員に受け継がれ、管理者や同
僚の監視下にない一人でいる状況でも、社員の行為に強い影響力を及
ぼす。文化のこのような包括的な特徴は、管理者が従業員の意欲や行
動を喚起したい場合に、大きな力となる。裏を返せば、物事が上手く
いかないときは、安全文化が不十分であることの表れである。
重大事故は、概して多数の要因が予期せぬ具合に相互作用した結果
である。その多くは心理的または行動的な要因であり、職場に浸透
する安全文化の影響を受けている。強固な安全文化は、それ自体が
事故に対する絶対的な保証にはならないが、事故報告書に頻出する
事故原因である、油断、怠慢、違反等に対する障壁となる。確かな
安全文化に支えられていないマネジメントシステムからは、望まし
い結果が得られない恐れがある。
多くの石油ガス企業は、自社の安全文化や、事故・ケガ件数削減の取
り組みの結果に誇りを持ってよい。だが、安全文化は組織内で均一で
ないことも多く、どの企業にも改善の余地がある。確かな安全文化を
実現、維持するのは一度に出来ることではなく、長い時間を要する道
のりである。
組織の文化を形成する上で大切なのは、経営者のリーダーシップの
取り方と、安全に対する責任を、行動を通じて目に見える形で示す
ことである。安全文化を向上させるには、決断力と体力が必要であ
る。その際、キャンペーンやポスター以上に影響力を持つのが、長
期間の集中的な取り組み、責任、そして「有言実行」しようとする
意思である。
本書が、石油ガス業界の経営者にとって、どのようにリーダー
シップを取って自社の安全文化を強化できるかについて理解を
深める一助となれば幸いである。
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「この事故は、チェルノブイリ発電所だけでなく、
当時存在したソビエト連邦の原子力の設計、運転、
規制機関全体に見られた不十分な安全文化から生じた
と言える。安全文化には献身的な取り組みが必要で
あり、原子力発電所の場合は、主に開発・運転に携わ
る組織の経営者の姿勢から生み出される(p23)。」
(IAEA, 1992)
「NASA の安全文化は、受身的で独りよがりにな
り、いわれのない楽観主義に支配されるようになっ
た。時と共に、安全性向上のための独立的な抑制・
均衡体制がゆっくりと無意識のうちに蝕まれていっ
た。代わって登場した詳細なプロセスからは、膨大
なデータと根拠のない同意が出されるばかりで、効
果的なコミュニケーションはほとんどない
(p.180)」(Columbia Accident Investigation Board,
2003)
「政府当局の監督と並んで、石油ガス業界の内部改
革が行われなければならない。安全文化の根本的な
転換を実現する、抜本的な改革が必要である
(p.217)」
「企業のトップは、新たな安全文化を受け入れる誠実
で深い決意を強調し、マコンド抗井暴墳事故の過ちを
繰り返さないよう、業界全体でリスクマネジメントを
向上させる取り組みを主導する必要がある(p. 247)」
(National Commission on the BP Deepwater Horizon
Oil Spill and Offshore Drilling, 2011)
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2. 安全文化とは
Deal と Kennedy は、文化を「周辺で物事がなされる様」
と簡潔に定義している(1982)。企業の文化は、会社の綱
領、HSE 方針、HSE パフォーマンスの改善を示すアニュ
アルレポートなど、対外的なイメージ形成のための人目に
付きやすい文書に表現することができる。しかし、組織の
文化を如実に物語るのは、仕事を進める上で組織内に実際
に発生する状況である。「周辺で物事がなされる様」と
は、共通の慣行やコミュニケーションなど、実際に見受け
られる物事をいう。この下位に文化のより抽象的な特徴が
あり、価値、信念、イデオロギー、通念など、これまでに
問題として取り上げられたもの、取り上げられなかったも
の、または意識的、無意識的なものがある。組織の仕事の
やり方について、共通してみられるこのような内部の特徴
は、内部の者にはなかなか指摘や認識が難しい。
建設的な安全文化とは、安全が非常に重要な役割を果た
し、組織で働く人にとって本質的な価値とされている文
化をいう。これと対照的な組織では、安全性の問題は取
るに足らない、あるいは本来の業務と離れた厄介なもの
として扱われる。安全文化の構築は複雑なプロセスであ
り、多くの要因に左右される。一例を以下に示す。
• 安全に対するリーダーの責任
• 従業員の関与と意欲
• 従業員の価値観、信念、通念(従業員の国または地
理的な文化の影響を受ける)
• 職場の安全性に関する従業員の認識(安全風土)
• 伝説的な事件、話
• 方針、要領
• 責任、説明責任;
• 生産、最終利益のプレッシャーに対する品質の問
題
• 危険な行動や危険な状況を是正する措置、または措
置の欠如
強固で建設的な安全文化のもとでは、全員が安全に責任を
感じ、日常的に安全性を追及している。各自が「業務上の
責任」の範囲を超えて危険な状況や行動を見つけ、進んで
問題に介入し改善している。強固な安全文化があれば、ど
の作業員も気兼ねなくプラントマネージャーや CEO のとこ
ろに行き、安全上の懸念について話ができる。このような
行動はやり過ぎとはみなされず、むしろ組織から高い評価
と報酬が与えられる。同僚も互いに日常的に目を配り、仕
返しを恐れることなく危険な行動を指摘し合うことができ
る。
強固な安全文化の利点として、危険な状態にある行為が
少ない、事故発生率が低い、従業員の離職率が低い、欠
勤率が低い、生産率が高いなどが挙げられる。このよう
な組織は、事業活動のあらゆる側面で秀逸である。
強固で持続可能な安全文化を築くには時間と手間がかか
り、複数年度に亘るのが一般的である。継続的なプロセス
改善手順を踏むことで、リーダーと従業員の安全に対する
責任が日常業務に不可欠な要素として重んじられる文化を
築くことができる(OGP, 2010 等を参照)。
だが、安全文化は壊れやすい。誤ったメッセージによって
長年の苦労が水泡に帰すこともある。
• 監督者の優先する事項
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Shaping
safety
culture
through
safety
leadership
Shaping
safety
culture
through
safety
leadership
3. Elements of a Safety
3. 安全文化の要素
本項では、強固な安全文化の構築に寄与する 5 つの要素
について説明する。この 5 つの要素は、安全文化がどの
ようなものかを説明するのに役に立つ。これについて
は、次項以降でさらに詳しく解説する。
強固な安全文化とは
•
情報を把握する文化 – 組織が関連データを収集分
析し、安全パフォーマンスを把握している。
• 報告する文化 – 非難を恐れずに安全上の懸念を報
告できると従業員が自信を持っている。
• 学習する文化 – 組織が過りから学び、危険な状況
を改善する。
• 柔軟な文化 – ダイナミックで難度の高い作業
環境に遭遇した場合、組織が指揮命令系統を立
て直すことができる。
• 公正な文化 – 許容できる、あるいは許容できない行
動の境界を従業員が理解している。許容できない行動
は、一貫性のある公平公正な方法で対処する。
(出典: Reason, 1998)
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3.1 安全文化の要素:情報の把握
情報を把握することは、事故が起こらないときの油断防
止に有益である。安全な組織は、異常が発生する可能性
をいつも意識している。実際、安全は「悪い出来事がな
い状態」と定義されることも多い。安全性の結果が予想
に反していないと、「注意を引く」ものがないという意
味で、安全は目に見えない。何も見えないと、何も発生
していないと考え、従来通りに行動していてもやはり何
も起こらないだろうと思うものである。だが、これには
語弊がある。絶えず安全な結果を出すには、努力が必要
なのである。
したがって、悪い出来事が頻繁に発生しない場合、認
識と「慢性的な不安」感を高め維持するため、組織は
情報システムを構築し、システム全体の安全性を決定
付ける人的、技術的、組織的、環境的な要因に関する
情報を収集、分析、共有できるようにする必要があ
る。これは単にケガやニアミスの報告という問題では
ない。
問題はもっと複雑である。
「重大、軽微な事故のいずれの調査からも、事前に
報告、分析されていれば事故を回避できたという情
報があったことが、必ず示される。要するに、弱い
信号であっても、必ず前兆はある。事故防止に注力
している組織はこのことを認識しており、こうした
情報の収集に多大なエネルギーを注いでいる。この
ような文化にある従業員は、危険な状況、ハザー
ド、無駄な手続き、プロセスの混乱、警戒を要する
状況など、望ましくない結果を招きかねないものは
何でも報告するよう奨励されている」(Hopkins,
2006, p.4)。
また、データ処理や意思決定を目的として収集したデー
タを簡素化する場合は、注意を要する。「簡素化とは、
ある情報を重要でない、無関係であるとして切り捨てる
ことである。だが、これは本質的に危険である。切り捨
てた情報こそ、災害の回避に必要になることがある」
(Hopkins, 2002, p.9)).
• 強固な安全文化を持つ組織は、情報を切り捨てず、
異常を知らせる微弱な信号にも注意を払う。
• 強固な安全文化を持つ組織のリーダーは、戦略的な
「ヘリコプターからの眺め」へのこだわりを捨て、
操業の詳細を把握しようとする。従業員は、悪い事
態が起こる可能性を示す些細な兆候も観察し報告す
る。
• 強固な安全文化を持つ組織は、「複雑性の検証と、
能力・成功に関する申告内容の再確認を職務とす
る」人材を多く雇用している。
•
コスト削減を重視する組織は、このような人
材を余剰とみなし、余剰は効率性の敵という
考えのもとで仕事をしている。
• 慎重な組織は、余剰を情報の収集、解釈に不可欠と
して扱うが、災害を回避するにはこれが必要であ
る。
出典: Hopkins (2002)
Shaping safety culture through safety leadership
3. Elements of a Safety
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3.2
安全文化の要素:報告
高リスク産業の組織は、事故報告や事故調査を通じて教
訓を得る機会を、以前にも増して取り入れようと尽力し
ている。事故を認め議論しようとしないと、将来の災害
防止の機会を逃すばかりか、安全よりも生産を重視して
いる証拠と受け止められかねない。
全ての報告案件を同程度調査するのは実際的ではないた
め、優先順位付けが必要になる場合もある。
次のパラメーターを検討する。
• リスク―想定される事象の重大性または頻度を評
価する。
安全管理の事前の対策は、組織内で発生する状況の把握に
重点を置いている。事故報告、ニアミス、危険な状況の観
察報告を随時提出させることで、安全な作業を行える限界
を理解し、安全上重大な欠陥に対する是正措置を実施する
上で不可欠な情報を得ることができる。これを効果的に行
うため、報告システムは利用しやすく、使いやすいもので
なければならない。
報告手段が煩雑で時間がかかる、あるいは組織の階層間に
信頼が欠けていると、過小報告が発生する恐れがある。信
頼構築は進める必要があるが、一方で、信頼できる機関
(通常は HSE 部署内に設置)にしか報告者の身元が分か
らないような機密性の高い報告システムを導入し、この悪
循環を断ち切ることが必要だろう。
• 改善―改善の余地がある問題を特定する。
• テーマ―事故の種類や状況が報告データに繰り返
し見られない。
適切なシステムが整備できたら、報告の改善は、最前線で
働く社員を参加させ、学びと改善のプロセスに貢献して貰
えるかという問題になる。組織には、相互信頼の雰囲気を
醸成、維持することが求められる。
報告システムから多くを学び、効果的な是正措置を策定する
には、次の二点を認識しておかねばならない。これらは成熟
した安全文化の証でもある。
さらに、改善措置、学んだ教訓の組織全体への周知、報告
者本人へのフィードバックなどにより、報告の価値を可視
化しなければならない。これには、報告事故案件を効果的
に調査できるよう、すぐに利用可能な十分で適切な資源が
必要である。
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• ラインマネジメントにコントロールの喪失とみなされ
るとしても、調査の独立性を最大限確保する。
• 提言に基づく措置策定の作業にラインマネジメン
トを積極的に関与させることで、その「引受け」
を強化する。同時に、将来的な安全確保の際に求
められる役割を、ラインマネジメントに認識して
もらうことができる。
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3.3
安全文化の要素:学習
学びの文化は、報告の文化の自然的な発展形である。とい
うのも、組織が報告から学ぶときにしか、報告の効果が発
揮されないからである。
強固な学びの文化を有する組織は、さまざまな情報源から
情報を収集し、有益な教訓を導き応用し、知識を共有し、
プロセスを改善して学んだ教訓を実行に移す。本当に学習
する組織は、反対意見を求めて効果的な学習の機会を探そ
うとする。このような組織は、悪い知らせにも柔軟に対応
するため、情報が管理者に伝わる前に単純化や骨抜きにさ
れることはない。また、人間関係と報告システムが信頼と
誠実さを前提としており、報告に信頼性がある。組織が目
に見える形で報告を扱うため、従業員は報告することを勧
められていると感じ、結果として効果的な報告文化が形成
される。
本当に学習する組織は、情報分析と新しい知見の活用を
職務とする専門職員を置いている。専門職員の職務は次
のとおりである。
• 問題と教訓を特定する
• 問題を改善するため、現地のマネージャーと共
同で計画を作成する。
• 学んだ教訓を組織全体で実行する。
このように、知見を共有して組織の共有財産とする
ことで、教訓を効果的に根付かせることができる。
また、学習する組織は、主要メンバーが時間をかけて重
要な知識の分析、保存、周知、構築に取り組み、実務の
改善に生かしているため、主要メンバーが退職しても重
要な知識が失われることはない。
学習する組織は、さまざまな情報源から得られる教訓に敏
感である。情報源としては、内部の報告システムや体系的
な根本原因分析がある。他に重要な情報源として、組織外
部の事故の調査がある。特に、頻度は低いが重大な被害を
引き起こす事象の防止には重要である。このような事象は
組織内では発生していなくても、業界では発生しているこ
とがある。
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3.4
安全文化の要素:柔軟性
安全文化は個人と組織に関するものであり、態度と構造の
両方に関する特徴がある。意思決定のプロセスは決定事項
の緊急性と関係者の専門知識により変わる可能性があると
いう意味で、安全文化に柔軟性があると、組織は調整、状
況認識を効果的に行うことができる。
文化的な柔軟さを求める組織は、従業員の有する技術を実
践し、適切で効果的な構造的柔軟性が活用されたことを確
認するため、脅威・事象への対応措置を見直す必要がある。
柔軟な文化とは、次のような組織の文化をいう。
柔軟な文化に特徴的なのは、意思決定の質を損なわず、ま
た企業の基本的な価値観や信念から逸脱せずに、組織構造
を従来の階層的構造からより平坦な事業構造に転換する能
力である。柔軟な文化は反応性や影響力、適応力に優れて
おり、組織内の所属階層ではなく、目の前の問題に対応す
る従業員の能力を重視している。
• 急速に展開する操業や危険な状況に遭遇した場合
に、体制を再構築できる。
•
従来の階層的構造からより平坦な構造へ移行するな
ど、組織構造を迅速に変革する能力がある。
• 評価と決定を行えるだけの適切な水準の専門知識
がある。
柔軟な文化は、安全性の問題を把握しリスクを早期に認
識する力を高めるだけでなく、特定されたリスクに適切
な措置を組み合わせられるようにする。柔軟な文化のも
とでは、組織と従業員が変化する要求に迅速かつ効果的
に適応することができ、それが奨励され、必要性が認識
されている。このように、組織のサポートを認識できる
ため、各自が立場に関わらず、ミス防止と事故管理に積
極的な役割を担うことができる。
重要なのは、従業員の持つ技術の幅と、この技術を必要な
時にどう活用するかを企業が認識することである。多くの
従業員が組織に自分の技術を示す機会を大切に考えられる
と、組織の柔軟な文化を促進することになる。
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3.5
安全文化の要素:公正さ
公正な文化とは、上記以外の安全文化の要素の強力な実現
要因である。明確な期待、一貫的な規則の実施、公正でバ
ランスの取れた調査プロセス、規則違反・ミスへの対応な
どにより、全従業員に各自の権利と責任に関する力強いメ
ッセージを発信することができる。
人間の行動は、重大な過失と故意による損害を両端とす
る範囲の中に規定される。この範囲内にある場合は組織
の方針決定が適用され、範囲外では司法の介入が必要に
なる。
しかし、この境界線は曖昧であることを認識しておか
ねばならない。暴力やアルコール依存症等の特定の問
題は別にして、許容基準は継続的に見直されており、
境界は常に変動している。薬物乱用等の一見明白な問
題でさえ、個人と組織の責任の境界に関する組織の見
解によって、大幅に異なる措置が取られることがあ
る。組織は、薬物乱用を個人の問題として処罰するこ
ともできるし、組織の責任と捉えて困難な状況にある
従業員の更生と支援を行うという選択肢もある。
重要なのは、組織内に境界を従業員全員で確立し、全
員に周知し、一貫した運用を行うことである。
公正な文化のモデル
重大な過失
司法制度
通常の人間の行動
犯罪の意図
マネジメントシステムの制御
司法制度
曖昧な境界線
図 1 – 公正な文化のモデル
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出典:Reason (1997)
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4.
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リーダーシップとは
安全文化はリーダーシップに始まる。リーダーシップ
は文化を動かし、それが言動を動かす。
生産と人員の両方を重視するリーダーシップが、業務実績
において最高の結果をもたらすことは既に証明されている
(Blake & Mouton, 1964)。強固な安全文化を築くため、
リーダーには次のようなリーダーシップスタイルの適用が
求められる。
安全文化に対する上層部のサポートは、資源の提供、専
任の安全担当者の設置、安全教育訓練、事故調査を皮切
りにすることが多い。より多くの時間と取り組みを重
ね、セーフティ・マネジメントシステムの構築、安全目
標の設定、現場レベルの仕組み(ハザード分析、言動の
観察とフィードバック、報奨制度、対策事項追跡システ
ム、安全委員会等)の導入を行うこともできる。さらに
強固な安全文化を目指す場合は、説明責任制度の活用が
考えられる。安全は全員の責任であり安全担当部署だけ
の責任ではないという認識が深まるだろう。
• 交流型対変換型:簡単に言うと、相互交流型のリー
ダーとは管理者である。目標を設定し、行動を観察
し、適宜調整を行う。変換型のリーダーは、ビジョ
ンを描き、単なる自己利益を超えてこれを達成する
よう従業員に促す(Nanus, 1992)。セーフティー・
リーダーには相互交流のスキルが必要だが、変換型
のスキルがなければ、従業員を巻き込むことはでき
ない。
時が経つと、組織の価値観と信念も変化し、物理的なハ
ザードの撤廃から人為的ミスを招きやすい作業状況の撤
廃へと重点が移行する。この中で、職場環境を積極的に
改善するシステムが構築され、安全が組織の基本的価値
となり事業の不可欠な一部として定着していく。
• 状況と背景(Hersey & Blanchard, 2001):優れたリ
ーダーは、その時々の状況や組織が事業展開している
社会的背景(産業部門、国など)に合わせてスタイル
を変化させる。これはセーフティー・リーダーについ
ても同様である。
しかし、このような状況を作るには、もう一つ、セーフ
ティー・リーダーという要素が必要である。あらゆる階
層の管理者にセーフティー・リーダーの役割が求められ
る。
なかには、一般にイメージされるリーダーの人格特性を自
然に身に付けている人もいる。だが、そうでない人がセー
フティー・リーダーになれないという訳ではない。リーダ
ーに対する認識は、人格よりも言動に深い関係がある。
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5. セーフティー・
リーダーシップの特徴
T.R.Krause (2005)によると、安全文化に影響を及ぼし
得るセーフティー・リーダーシップとこれに関連する言
動には、主に 7 つの特徴がある。
• 信頼性 – リーダーの言動が一致している。
• 行動志向 – リーダーが危険な状況に対処す
べく行動を取る。
• ビジョン – リーダーが組織の優れた安全性
像を描いている。
• 説明責任 – リーダーが、従業員に安全上重大な活
動について説明責任を持たせている。
• コミュニケーション – リーダーの安全に関する情
報の伝え方が、組織の安全文化の形成、維持に役割
を果たしている。
• 協力 – リーダーが従業員に安全関連の問題解決への
積極的な関与を促し、従業員の当事者意識を高めて
いる。
• フィードバックと評価 – 早く、確実に、積極的にとい
う認識により、安全な行動が奨励されている。
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5.1 リ ー ダ ー シ ッ プ の 特 徴 : 信頼性
信頼性とは、ある人の行動を観察した結果、その人に備わっていると
考えられる特質と言うことができる。リーダーは、従業員の便益を図
って行動し、信頼を構築していく。リーダーの能力は、信頼構築を実
現するのに必要だが、これだけでは信頼性を勝ち得ない。信頼は極め
て得難く、非常に脆いものである。一度失うと回復は難しい。
信頼性に関連する言動
• 自他に対してミスを認める。
• 相手に尊敬と尊厳をもって接する。
• 集団の利益を代表しサポートす
る。
信頼性の認識を左右するリーダーシップの特徴には、
次のものがある。
• 安全作業状況に関する受け入れ難
い情報も、包み隠さず提供する。
• 一貫性
• 整合性
• 率直なコミュニケーション
• どのように作業状況を改善
するかについて、意見を求
める。
• ミスを認める能力
• 最後まで責任を果たす。
• 管理の共有
優れたセーフティー・リーダーには厚い信頼が寄せられている。周
囲の人がリーダーの言葉を信じ、不都合な事実や受け入れ難い内容
があったとしても、真実を話してくれると信頼している。このよう
なリーダーには、誰から見ても言動の一致が認められる。
• どんな状況でも行動に一貫性があ
り、安全基準に則っている。
• 安全に関する決定が支持されてい
なくても、その決定を厭わない。
• 従業員、請負業者、近隣住民等に配
慮を示す。
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Shaping safety culture through safety leadership
5.2 リ ー ダ ー シ ッ プ の 特 徴 : 行動志向
行動志向に関連する言動
•
事業計画と意思決定に安全性を取り入れ、事業判断
が現在または将来的に悪影響を及ぼしかねない場合
は、異議を唱える。
• 安全性要件が満たされていないときは、いつでも日常
業務に介入する。
• 事業に付随する重大ハザードとそれがどう管理されてい
るかを把握する。
• 安全性に関する会議、監査、事故調査、事故調査の再検
討、事業、キャンペーンを主導し積極的に参加する。
• 安全性の問題やニアミスの報告について、模範を示
す。
• 学んだ教訓を積極的に共有し、最終措置を実行に移す
とともに、効果的に実施されているか確認する。
• 安全性に関する規則や懸念事項について、従業員や請負
業者と話す機会をつくる。
• 目に見える形で現場を訪問し、現場の実情を把握す
る。
• 許容不能な安全性リスクがあった場合、従業員と請負業者
が義務に従い、作業を中止するようサポートする。
リーダーの役割は、業務の指揮と規則の遵守
を監督することにとどまらない。リーダー
は、提案を求め、従業員の意欲を高め、従業
員と関わり合って安全性の問題解決にあた
る。事後的ではなく事前的に問題に取り組
み、安全上の懸念に適切なタイミングで有意
義な対応を行って、結果を追及する熱意と実
行力を示さなければならない。
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5.3 リ ー ダ ー シ ッ プ の 特 徴 : ビジョン
組織に強固な安全文化を築くには、優れた安全パフォーマンスとは
どのようなものかを「視覚化」し、経営陣にこのビジョンを説得す
る能力が求められる。
リーダーシップの神髄は、ビジョンを持つことである。
• ビジョンは、組織の戦略構築の基盤である。
• ビジョンは、組織の目的(何をすべきか)を中心とする。
ビジョンには、組織の目的をどう達成するかについて、価値観
と信念を反映させる。
共通のビジョンを築き、メッセージを組織の人々に伝えるためには言
葉を用いるが、最も大切なのは行動である。たとえば、新しいアイデ
ィアを検討し受け入れる意思を示すこと、従業員に自分の行動が他者
に及ぼす影響を考えるよう促すこと、安全性のビジョンと価値観を用
いて従業員の意欲を高めるといった行動がある。
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ビジョンに関連する言動
• 現状とビジョンの差を認識す
る。
• 行動を通じて、ビジョンを説明す
る責任を果たす。
• 周囲の人と関わり合いながら日常
業務とビジョンの関連性を持たせ
る。
• 適切な機会がある度に、ビジョンを明
確に力強く示す。
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5.4 リ ー ダ ー シ ッ プ の 特 徴 : 説明責任
説明責任に関連する言動
• 既存の実績評価基準に基づき、従業員を対象に安全性に
関する明確な役割と責任、目標と目的を定義し周知す
る。
• 安全に作業を遂行できるようにする十分な資源と手段を
提供する(機材、原料、作業場、施設等の物理的な資源
と手段のほか、作業量、スケジュール、教育訓練、人間
関係、リーダーシップ等の心理社会的な資源がある)。
• 安全性関連の結果について従業員に説明責任を持たせ、実
績を測定し評価する。
– 作業状況の管理を特に重視する。
– 設定目標に対する従業員の作業状況を定期的に見直し、
行動に移す。
– 現場での行動を測定する際は、公式・非公式な観察方
法を活用する。
– 望ましくない行動や不十分な作業状況を早期に検知し是
正する。
• 望ましい行動を強化する
– 従業員に対し、行動と作業状況に関する建設的なフィー
ドバックを与える。効果を上げ望ましい行動の頻度を上
げるため、フィードバックは迅速で確実、かつ有意義で
誠意あるものとしなければならない。
– 報奨、採用、昇進に関する決定の際に、行動と作業状況
を考慮する。
– 安全な作業遂行の成功事例を評価し、報奨を与える。
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優れたセーフティー・リーダーは、組織のあらゆ
る職務を対象とする効果的な説明責任体制を構築
する。
説明責任がある者とは
• 担当者に仕事を割り当てる者
• 担当者による作業の完了について、最
終的な報告義務を負う者
• 担当者による割り当てられた業務の遂行
状況を、基準に照らして測定、評価しな
ければならない
説明責任は、責任と結果を関連付けるものであ
る。
説明責任 = 責任 + 評価
結果
結果の管理は、個人的な見解や感情ではなく、
事実と綿密な分析に基づき組織全体で一貫して
実施しなければならない。
「…今日では、多くの監督責任者が安全に
責任を負っていること、そして何をすべ
きかを分かっているが、実行に移してい
ない。その理由は、監督責任者には大
抵、
説明責任がないのである。すなわち、安
全性の点で評価がなされていない」
(Dan Petersen, 1995)
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5.5 リ ー ダ ー シ ッ プ の 特 徴 :
コミュニケーション
リーダーのコミュニケーションの取り方は、組
織の安全文化の形成、維持に役割を果たし、作
業の実施状況に大きな影響を与える。簡単に言
うと、リーダーは、安全に関して期待する内容
を伝え、リーダーとチームがいかに自らの行動
に責任を負っているかを説明することで、チー
ムの行動に影響を及ぼすのである。
コミュニケーションは、明確で明瞭なメッセー
ジを送り、そのメッセージを受け取り理解した
という反応を得る、双方向のプロセスが効果的
である。職場でのコミュニケーションは殆どが
作業に関するものであり、日常業務とその完了
を確認する会話である。このようなコミュニケ
ーションは、チームや個人が仕事を安全に行う
ために欠かせない。
また、リーダーは、チームの組織の全体目標
に対する貢献の仕方について、大局的な見地
を伝えることが必要である。
効果を上げるため、リーダーはチームが
安全性に関するコミュニケーションから
何を求めているかを把握しなければなら
ない。
コミュニケーションに関連する言動
• 各自に期待される内容と、それが組織の大局的な安全性の
ビジョンと目標にどのように関連するかを明確に説明す
る。安全は、コストやスケジュールと引き換えにできる優
先事項ではなく、価値であると伝える。
• 各自のパフォーマンスに対し、定期的にフィードバック
と指導を行う。リーダーから適切なタイミングで率直か
つ建設的なフィードバックを与えることで、各々の成長
につながる。リーダーが、許容できるリスクと許容でき
ないリスクの境界を設定することがある。
• 業務が安全に遂行された場合、関係者に謝意と評価を示
し、良い行動が繰り返されるようにする。リーダーは、
安全な作業を妨げていると考えられる懸念や課題につい
て一人ひとりに意見を尋ね、そうした課題への対応支援
を約束する。リーダーは、この約束を徹底しなければな
らず、さもなければ信頼を失う恐れがある。
• 期待する内容に対してチームに作業のフィードバックを行
い、成功事例を認識するとともに、改善の必要な分野に取
り組む。
• チームが、安全目標、組織の戦略、なぜ自分の役割を果たし
安全に作業することが大事なのかを理解できるよう、効果
的にコミュニケーションを図る。
• チームが安全上の課題と解決策に関与し、当事者意識を持
つ機会を与える。
出典: D’Aprix(1999)
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5.6 リ ー ダ ー シ ッ プ の 特 徴 :
協働
協力に関連する言動
• 意見を尋ね、耳を傾け、他の人の意
見を評価していることを示す。
• 実績について率直、正直であ
る。
• 周囲の人に真摯な気遣いを示
す。
• 安全上の懸念についてチーム内で議論
するよう促す。
協力とは、共に働くことをいう。チームワークを奨励し、安全上の問
題の解決にあたって周囲の人から情報を求め、これに基づき行動する
リーダーは、一層強力な当事者意識を育むことができる。
強固な安全文化とは、安全に作業する意欲が自然に湧き、誰も見
ていなくても正しい行いがなされる文化である。リーダーは、協
力を奨励することにより、真の意欲を生み出す文化の構築に一役
買うことができる。
安全な作業のために、従業員には次のことが求められる。
• 業務に必要な能力があり適任であること。業務の進め方を知っ
ており、ハザードやリスク、損害防止のために導入している制
御を把握している。
• 明確な指示とサポートのもと、信頼されて仕事を任されてい
ると感じられる雰囲気で作業する。
• 連帯感を持ち、互いに目を配るチームの一員という気持ちを持
つ。
異なる部署間でも協力は必要である。たとえば、保守・操業部門の
間で緊密な協力関係がある場合は、問題と解決方法について共通の
理解が得られる。事故の多くは、引き継ぎに関する責任が明確でな
い、または業務の担当者や制御の実施責任者が決まっていない場合
に発生している。リーダーには、部署間の協力を推進し、チームを
まとめ、議論を促す役割が求められる。
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5.7 リ ー ダ ー シ ッ プ の 特 徴 :
フィードバックと評価
個人やチームにフィードバックを与え評価することは、安全な行動を
促し(危険な行動をやめさせ)、安全文化を強化するための強力な手
立てとなる。従業員には、各自の作業状況について定期的にフィード
バックや指導を行う必要がある。適切なタイミングで、率直で建設的
なフィードバックを与えることが各々の成長につながる。だが、フィ
ードバックを与えることは、単にその人の評価を伝えるにとどまらな
いことがある。個人的な批判とも受け取られかねず、その場合は非常
に否定的なものとなるため、フィードバックは議論の余地のない事実
を根拠としなければならない。
フィードバックは1対1で行うのが最も良いが、評価は公表する
ことができる。本人が、評価の良い面と自らの行動を結び付けら
れなければならないが、これは事象発生に近い時点で(即時性)
行うと最も効果があり、評価は一貫して適用される(確実性)と
本人が考えることになる。この意味において、評価とは報酬制度
ではなく、リーダーが安全な行動を示した(危険だと思った時点
で仕事を中止した、など)個人を認め、同僚の前で評価すること
をいう。リーダーは、チームの行動も評価しなければならない。
そうすることで、安全上の問題に関するチームの当事者意識と協
力を促せる(肯定的)のである。
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フィードバックと評価に関する言動
• 行動に着目し、その人が何をして
いるか、何が観察されたかを記述
する。個人の過失は取り上げな
い。
• 行動が他人に与える(可能性のある)
影響のほか、影響を受けた人やその同
僚、組織全体に対し懸念される影響を
記述する。
• 安全な行動を取った人を褒め
る。
• 新規の刺激的なプロジェク
トに従業員を参加させる。
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6. 操業における
リーダーシップ
近年の重大事故調査では、個人、環境および経済面で
壊滅的な損失が生じた根本的原因として、設備の健全
性や操業慣行に対する管理者の取り組みと理解の不足
が指摘されることが多い。
石油ガス業界の操業は、人と環境に対して多くのリスク
を孕んでおり、業界固有のリスクを伴うこともある。し
たがって、マネジメントが卓越した安全性、操業実績、
設備の健全性に全力で取り組むことが事故防止の手段と
して欠かせない。
リーダーがこの姿勢を伝える最善の方法は、優秀で意欲
の高い作業員を登用することである。安全、安心で環境
に配慮した成果を出せるよう工夫された健全なエンジニ
アリング・技術作業慣行に基づき、終始一貫して操業活
動を実行できる人を登用するのである。
強力なリーダーシップがある企業は、高度な設備の健全性
と操業管理を持続させることができる。
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6.1 操業におけるリーダーシップの原則
リーダーシップが第一に目標とすべきなのは、設備を正
しく維持、操作するための制度の導入である。設備は故
障があってはならず、重大事故を招く、あるいは大きく
寄与するようなやり方で操作してはならない。このよう
な制度を支える原則として、リーダーには次のことが求
められる。
• 自身の管理下にある設備に付随するリスクを把
握する。
• 当該設備内における業務の管理・実施方法を把握
し、検証する。
• 社内外で発生した事故から教訓を学び、適切に対処
する。
• 設備のライフサイクルと一致する、明確な操業
の全体像を得るために、どの指標を用いて測定
する必要があるかを理解する。
• 社内のフィードバックや外部からの情報に対し、操業
の調整のための仕組みを導入する。
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6.2 評価と改善におけるリーダーシップ
の役割
操業の完全性に関する評価は、設備の操作性と保守に関す
る情報を広く深く網羅するものでなければならない。ま
た、上層部のリーダーから全従業員に至るまで、組織全体
で業務がどのように行われているかを調査しなければなら
ない。プロセスを慎重に評価し、単独または累積的なリス
クがある場合は、それが適切なタイミングで、正確で効果
的に管理されているかを判断する。
測定は、明瞭な実績・状況基準に則って行う。評価プログ
ラムから必要な結果を確実に得られるようにするため、リ
ーダーは次の原則が明確に履行されるようにしなければな
らない。
• 操業の評価を所定の頻度で行い、操業の完全性に関
する予想がどの程度達成されているかを確認する。
• 評価の頻度と対象範囲については、操業の複雑さ、
リスクの度合い、作業状況を考慮する。
• 評価は、事業部に属さない外部専門家を交えた総合的
なチームが実施する。
• 評価の結果は文書に記録し、優先順位を付け、明確
に設定された期限内に解決する。
• 評価プロセスの効果は定期的に評価し、結果を活
用して改善に取り組む。
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7. 今後に向けて
安全文化とリーダーの行動については、膨大な情報を得
ることができる。重要なのは、組織の安全文化を良い方
向に形作る行動と言動を、それぞれの組織が簡単な言葉
で表現することである。この対策は HSE 担当部署に任せ
るものではなく、全員が共有すべき責任である。
今後に向けた方法の一つとして、リーダーが自らの行動を
継続的に改善するために次の一歩を踏み出し、組織内に安
全文化を形成できるよう、次頁以降に記載の質問について
検討されたい。
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7.1 組織の安全文化の強靭性
本報告書の「安全文化」に記載される内容を読み終えたら、
次の質問を検討する。
• 5 つの各要素について、安全文化醸成の重要要素と
してどの点が最も印象に残ったか。
• これらの問題を同僚に提起したとき、どのようなフィ
ードバックが得られたか。
• 組織(ユニット/部署)の安全文化を表す要因、
行動、プロセスはどのようなものか。
• 上記で特定した要因について、組織の成熟度と言動の
一貫性にどの程度満足しているか。
• 安全文化を向上させるには、どの要因への取り組み
が最も重要になるか。
• 安全文化に関する正式で客観的な評価は必要か。
このような質問は、実地調査または聞き取り調査
の形で行うことができる。なかには、既に情報が
公開されているケースも多い(報告データベー
ス、欠勤・離職率統計、文化調査、勤務評定、行
動安全観察等)。
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7.2 己 を 知 る – 他者の視点で自分をみつめる
本報告書の「リーダーシップ」に記載される内容を読み
終えたら、次の質問を検討する。
• 強固な安全文化を構築する上で、どのリーダーシ
ップの特徴が特に重要だと考えられるか。
• 自社のリーダーの行動にどの程度満
足しているか
• 安全に関するリーダーシップを目に
見える形で示す機会には、どのよう
なものがあるか。
• このような機会を、一貫性のある方法で活用してい
るか。
• 他にできることはないか。
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8. 参考文献
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9. その他の参考資料
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ルの選定に関する指針」(2010 年)には、安全衛生環境
(HSE)の実績向上に活用できるツールについて、詳しく
記載されている。
この報告書は、ある組織文化において、特定のツールが効
果を発揮しない状況や、さらには非生産的になる恐れのあ
る状況を確認している。対象としたツールについて、OGP
HSE 文化としてまとめられる組織文化との比較分析によ
り、一定の文化水準の組織に最も適した HSE ツールの特
定、評価がなされている。
OGP 報告書第 435 号は、下記にて公開されている。
http://www.ogp.org.uk/pubs/435.pdf
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