更新日：2016/5/25（2016/5/27 訂正版） 調査部： 増野 伊登 イラク：油価下落から 2 年、石油開発の今 （イラク石油省統計データ、IEA 統計、BP 統計、その他各種報道） 2014 年夏以降の油価低迷による石油収入の減少と、「イスラーム国」（IS）対策による国防費の増大 を受け、イラク政府は財政難に陥っている。ほとんどの新規投資案件が停止し、開発支出は始動済 案件の中でも緊急性の高いものに割り当てられている。 一方、イラクの原油生産量と輸出量は過去最高水準で推移している（クルド自治区を含む）。生産量 は 2015 年 12 月に 400 万バレル/日を超え、2016 年 2 月に 446 万バレル/日を記録した（イラク石油 省）。4 月の輸出量は 400 万バレル/日に迫る勢いとの情報もある。 しかし、投資削減の影響は今後より顕著に出てくる恐れがあり、安定的な増産に必要不可欠な輸 送・貯蔵・出荷インフラの整備と拡張が更に遅れる可能性が高い。独自輸出を行っているクルド自治 区でも、クルディスタン地域政府（KRG）の財政困窮で開発は停滞気味だ。以上のことなどを考慮に 入れると、今後数年間のイラクの生産量の伸びは横ばい、あるいは緩やかなものになると予想され る。 もう一つの懸念事項は、アバディ政権による行政改革の影響だ。2016 年 3 月 24 日にマフディ石油 大臣が自身の職務停止を発表しており、次期大臣はまだ決まっていない。政治的しがらみを持たな いテクノクラートの登用を目標に掲げるアバディ首相だが、大臣の人選をめぐる政治勢力間の協議 がまとまらない現状を見ると、道のりは険しい。 はじめに イラク石油省によれば、北部クルド自治区を含むイラク全体の 2016 年2 月の原油生産量は 446 万バレ ル/日となり、過去最高水準に達した（図1）。同月のイラク南部からの生産量だけでも 356 万バレル/日強 を記録し、これも過去最高であった。4 月の輸出量は 400 万バレル/日に迫る勢いとの情報もある。 一方で、2014 年夏以降の油価低迷でイラク政府の石油収入は 6～7 割程度減少している（図 2）。国家 収入の 9 割以上を石油に依存しているイラクにとっては深刻な問題だ。また、「イスラーム国」（IS）対策の ための軍事費支出の増大も財政難に拍車をかけている。 クルド自治区の財政事情もまた厳しい。予算の分配に関するイラク政府との交渉が暗礁に乗り上げた クルディスタン地域政府（KRG）は、連邦政府を介さず独自に原油輸出を行っている。KRG が実効支配 下に置いているキルクーク油田の一部も含めれば、クルド自治区の現在の生産量は約70万バレル/日、 輸出量は 50～60 万バレル/日程度に上ると見られる。油価の下落を受け、KRG の IOC に対する支払い –1– Global Disclaimer（免責事項） 本資料は石油天然ガス・金属鉱物資源機構（以下「機構」）調査部が信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は本資料に含ま れるデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、何らかの 投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一切責 任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。 が遅れている中で、進出企業各社はノンコア事業の縮小を進めている。 非現実的な 2016 年度予算 2015 年 12 月 15 日、イラク国民議会は 2016 年度予算を承認した。下表のとおり、同予算における政府 歳入額は 81.7 兆ディナール（692 億ドル）、歳出額は 105.8 兆ディナール（897 億ドル）で、24.2 兆ディナ ール（205 億ドル）の赤字が見込まれている（1 ドル＝1,180 イラク・ディナールで換算）。油価の下落以降 特に歳入額が減っていることが見て取れるが、2016 年の財政赤字は想定以上に膨れ上がる可能性があ –2– Global Disclaimer（免責事項） 本資料は石油天然ガス・金属鉱物資源機構（以下「機構」）調査部が信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は本資料に含ま れるデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、何らかの 投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一切責 任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。 る。なぜなら、予算上の想定原油価格は 45 ドル/バレルで設定されているが、2015 年 12 月以降イラク政 府による原油販売価格は 20 ドル/バレル台で推移しているからだ。 2012 2013 2011 歳入 104.6 119.4 115.4 石油収入 NA NA 105.7 非石油収入 NA NA 9.7 援助 2.1 0.0 0.1 歳出 94.3 109.4 131.2 経常支出 66.8 75.8 83.7 人件費 33.9 34.9 41.1 財・サービス 12.0 17.5 16.3 石油部門(製油所を含む） NA NA 15.3 その他 NA NA NA 歳入-歳出 10.3 10.0 -15.8 (注1)財政年度は1～12月。 （注2）2015年はIMFの予測値。 （出所）JCIF、IMFなどを基に作成。 イラク政府財政 前提原油価格 前提原油輸出量 前提原油輸出収入 2015 年予算 56 ドル/バレル 330 万バレル/日 675 億ドル 2014 104.4 98.5 5.9 NA 118.2 68.9 40.3 9.1 23.8 NA -13.8 （単位：兆ディナール） 2015* 2016（予算） 61.6 81.7 NA 69.8 NA NA NA NA 90.7 105.9 NA NA NA NA NA NA NA NA NA NA -29.1 -24.2 2016 年予算 45 ドル/バレル 360 万バレル/日 591 億ドル 一方、想定原油輸出量の 360 万バレル/日は比較的現実的な路線であると思われる。360 万バレル/ 日の内訳は、クルド自治区とキルクーク油田が 55 万バレル/日、南部が 305 万バレル/日だ。しかし最近 の実績値で見れば、イラク南部のみで 320 万～330 万バレル/日程度を輸出している。クルド自治区とキ ルクーク油田からの輸出収入（約90 億ドル）が入ってこなかったとしても、KRG が独自の輸出を続けてい る今、イラク政府はクルド自治区への予算配当 17%（18 兆ディナール＝152.5 億ドル）の支払いを停止し ているため、この点では大きな影響はないだろう。 とはいえ、原油供給過剰と価格低迷の現状では、予算で見込まれているほどの収入が困難であること に変わりはない。イラクは国内外からの借り入れをあてにしているが、厳しい条件が設定される国際金融 機関からの借り入れや増税対策は国内の賛同を得にくいこと、また汚職問題も深刻であり、容易な話で はない。 –3– Global Disclaimer（免責事項） 本資料は石油天然ガス・金属鉱物資源機構（以下「機構」）調査部が信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は本資料に含ま れるデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、何らかの 投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一切責 任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。 油価の下落と石油上流開発への影響 イラクの上流開発において、IOC（国際石油会社）は、同国石油省との間に締結した技術サービス契 約に基づき、油田およびガス田の探鉱・開発・生産作業を請け負っている（クルド自治区については生 産物分与契約）。要は、地下資源に対する主権と開発権はイラクに帰属するという前提の下、IOC はイラ ク政府のコントラクターとして事業を実施するという契約形態だ。IOC は、探鉱・開発その他に係る費用を 負担するが、売り上げの一部をコスト回収および報酬という名目でイラク政府から受領することになる。油 価低迷でイラク政府の歳入が激減する中、サービス契約に基づく IOC への対価支払にも影響が出てい るようだ。 補足だが、IOC は、コスト回収および報酬として、それらに見合う量の原油をイラク政府から受け取っ ている。イラクでは報酬額がバレル当たりで固定されているため、油価下落はイラク側にとって不利だ。 現在高水準の原油生産を維持している同国であるが、低油価の状態が継続すれば IOC への支払いは 更に厳しさを増すだろう。 対応策として、イラク政府は、2015 年に引き続き、IOC に対して新規事業の延期と 2016 年事業計画の 縮小を求めている。2016 年 2 月 22 日のマフディ前石油大臣の発言によると、交渉の結果、2016 年の石 油分野における支出を、IOC 側の提案額である 230 億ドルから 90 億ドル強にまで削減したとのことだ （2015 年は 131 億ドル）。一方で、2016 年 5 月 13 日付のロイター通信は、イラク政府と IOC 各社（BP、 ExxonMobil、Shell、Eni、Lukoil など）の間でコスト削減についてまだ合意に至っていないと報じている。 IOC 側から正式なコメントは出ていないものの、もし交渉が長引けば操業の遅れにつながる可能性もあ る。また、イラク政府関係者によると、IOC の中には、政府が提示する予算では事業の継続自体が困難 だと見ている会社もあるようだ。 現在のところ開発支出予算は始動済案件の中でも優先度の高いものに割り当てられており、新規事業 や長期間を要する緊急性の低い事業（つまり短期間で生産量の減少につながらない事業）は延期や一 時停止に見舞われている。生産・開発中案件の操業継続によってもたらされているここ数カ月間の増産 を維持することは難しいと考えられ、新規案件の延期が今後数年の間に供給面に影響を及ぼしてくる可 能性はある。2015 年 11 月、英石油大手 BP の中東部門を統括するマイケル・タウンゼンド氏は、2016 年 にイラクが大幅に生産量を伸ばすことは難しいだろうとの見解を明らかにしている。事実、増産基調の一 方で、イラクの油井掘削装置（リグ）の稼働数は減少傾向にあり、2014 年6 月の 96 本をピークに、2016 年 4 月には 43 基まで減少している（OPEC 月刊石油報告）。 –4– Global Disclaimer（免責事項） 本資料は石油天然ガス・金属鉱物資源機構（以下「機構」）調査部が信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は本資料に含ま れるデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、何らかの 投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一切責 任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。 インフラ整備への影響も懸念される 油価下落や IS の台頭以前から、貯蔵タンク・パイプライン・製油所などのインフラ拡張事業の遅れが出 荷能力の拡大を妨げる主要因になっている。国際エネルギー機関（IEA）も指摘したとおり、インフラの不 足が増産における最大の課題であり、財政難でインフラ整備の遅れはますます深刻化する恐れがある。 また、老朽化する設備の適切な維持管理の不在も問題視されている。 南部のみの出荷能力は、理論上では 450 万バレル/日ほどになると見られるが、原油の輸出を南部の 出荷ルートに依存している現状では、海上での天候悪化やメンテナンスによる設備の稼働中断が輸出 量に致命的な影響を及ぼすことになる。このため、2013 年に発表された統合国家エネルギー戦略で、イ ラクは出荷網の多様化をエネルギー政策上の重要課題として位置づけ、南北からの原油出荷量を合わ せて 1,055 万バレル/日（南 680 万バレル/日、北 375 万バレル/日）に拡大する意向を表明した。 しかし、イラクの南北を連結するパイプラインは、ポンプ能力不足と老朽化により現輸送能力は20万バ レル/日を下回ると言われているほか、ヨルダンやシリア向けの輸出パイプライン建設計画も治安の悪化 を受け棚上げの状態だ。イラク全体の精製能力は 90 万バレル/日程度あると言われるが、製油所の低稼 働率や IS の襲撃によるベイジ製油所（能力 27 万バレル/日）の稼働停止もあり、2014 年の精製量は 50 万バレル/日を下回り、2016 年第 1 四半期は更に約 40 万バレル/日にまで下がった（イラク石油省デー タ）。1,055 万バレル/日という出荷能力目標は、それを下支えするパイプラインや製油所などの整備なく して達成できない。もとより高く設定された目標は、支出の削減で更に実現が遠のいたと言える。 石油・天然ガス開発をめぐる最近の動向 2015 年末には、南部石油公社 SOC が、同社が操業する小規模油田（Artawi、Luhais、Nhr bin Umar、 Nassiriya、Tuba など）の開発に関し、ExxonMobil と PetroChina（CNPC 傘下）からの出資獲得を目指 しているとの報道が見られた（Basim Abdul Kareem SOC 副会長の発言）。本件には、海水圧入によ る EOR（増進回収）や、貯蔵設備とパイプラインの建設なども含まれると言われており、石油開発の 停滞を防ぎ、収入源を確保しようとするイラク政府の姿勢を見て取ることが出来る。このほか、生産減 退に直面している Rumaila、Zubair、Majnoon、West Qurna 油田においても EOR の適用が検討され ているとのことだ。 2016 年 3 月には、イラクで初となるコンデンセートの輸出が開始した。Rumaila、Zubair、West Qurna 1 油田から産出される随伴ガスを処理するBasrah Gas Company（Shellが筆頭株主）が 10,000m3 のコ –5– Global Disclaimer（免責事項） 本資料は石油天然ガス・金属鉱物資源機構（以下「機構」）調査部が信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は本資料に含ま れるデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、何らかの 投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一切責 任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。 ンデンセートを Umm Qasr 港から出荷した。イラク政府からの支払いが遅れていることもあり、同社の 生産量は当初の計画で見込まれた量を下回っているが、これからの進展に期待が集まる。 また、ミサンとバスラにおけるガス処理量は、2014 年の 4.43 億 cf（1,250 万 m3）/日から、2016 年 1 月には 6.37 億 cf/日に増え、2003 年以来の最高記録となった。しかし、ガス処理量の増加にも関わ らず、ガスのフレア量は、2014 年の 12.9 億 cf/日から、2015 年には 14.8 億 cf/日に増えており、井 戸数に占めるフレアの割合で見ればイラクは過去 10 年にわたり世界最大のガスフレア国である。国 内電力需要の上昇に対応することはイラクにとって喫緊の課題であるため、随伴ガス回収事業は同 国にとって優先度の高い案件だと考えられる。 このほか、イラク南部の Khor al Zubair では新石油ターミナルの建設が進んでいる。計画から既に 1 年以上ずれ込んでいた石油製品（ガソリン）の輸入・貯蔵ターミナル（3 万m3）については、2016 年5 月に UAE の SKA International がコミッショニングを開始している。一方、同社が BP と共同で進めて いる重質燃料油の輸出ターミナル建設計画は、まだコントラクターの選定も済んでいない。現在、イ ラクは 10 万トン/月の高硫黄分重油を南部から輸出しているが、現状の輸送・貯蔵設備では対応が 追いつかず、製油所の稼働を停止するか、原油と混ぜ合わせるか、井戸に再圧入せざるを得ない こともあるという。5,000m3 の貯蔵タンク 2 基や、重質油を分解するためのハイドロクラッカーの建設 などが進めば、イラクの追加収入源になろう。2015 年にイラク政府高官が発言したところによると、理 論上で言えば、イラクは 2016 年には LPG の純輸出国になる可能性もあるとのことだが、現状の油価 では資金調達に難がある。 混迷するイラク行政、治安悪化の懸念 IS については、その勢力圏がイラク北西部（クルド自治区を除く）に限られているため、同国の原油生 産量の 8 割程度を産出する南部油田はほとんど影響を受けることなく操業を続けている。より深刻な問題 は、国民の政治不信がピークに達していることだ。石油収入の激減で公務員給与の支払いは危機的状 況にあり、依然停電が頻発するなど公共サービスも円滑に機能していない。これに対し、アバディ首相 は、不必要な大臣ポストの廃止や汚職の撲滅のほか、現状宗派や民族を基にした派閥ごとに割り振られ ている大臣ポストに、より経験豊富で、政治的なしがらみを持たないテクノクラートを任命すべきとの発言 を繰り返しており、抜本的な内閣再編の必要性を訴えている。2016 年 3 月 31 日には内閣改造案が議会 に提出された。 –6– Global Disclaimer（免責事項） 本資料は石油天然ガス・金属鉱物資源機構（以下「機構」）調査部が信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は本資料に含ま れるデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、何らかの 投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一切責 任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。 アバディ首相の行政改革案に基づき、2016 年 3 月末、マハディ石油大臣は、2015 年時点ですでに議 会に辞表を提出していたことを明らかにし、議会による審議の結果が出るまで「職務を一時停止する （suspending duties）」とした。しかし、アバディ首相の新内閣案は、既得権益を保守しようとする政治家か らの強い反発を受け、後任として指名された石油大臣候補は早々に辞退を表明する結果となった。2016 年 4 月末には、5 名の新大臣の任命が議会で承認されたが（水資源・農業大臣には元駐日イラク大使の ジャナービー氏が就任）、石油大臣や財務大臣をはじめとする要職ポストをめぐっては各政治勢力間の 協議が決着していない。現在、ムクタダ・アル・サドル師（シーア派指導者で民兵団を組織）が推薦する 人物が候補に挙がっているとの情報もある。 石油大臣不在の中、2016 年 1 月に閣議で決定された SOC 分割の進捗状況も注目される。同閣議決 定に基づき、SOC は Basra Oil Company（BOC）と改称し、SOC が管轄していた Dhi Qar 県の 4 油田の操 業は Dhi Qar Oil Company（DQOC）が引き継ぐことになった。2016 年 1 月頭には、DQOC が、入札の実 施が延期されているナーシリーヤ統合開発プロジェクト（埋蔵量 44 億バレルのナーシリーヤ油田の開発 と製油所建設から成る統合プロジェクト）に関し、IOC との協議再開を予定しているとの報道も流れた。同 年 5 月には、イラク財務省が、職員の移転や新設備の導入に必要な事業開始資金として、DQOC に対し 4,200 万ドルを供与することを承認したとも報じられている。イラク政治界が混乱を極める今、SOC の分割 が円滑に進んでいるのか、石油行政にどういった影響を及ぼすのか、まだ見えてこない。 低油価状態による財政難は治安の悪化にもつながることが懸念される。2016 年 2 月から 4 月にかけて は、サドル師がバグダードで大規模な反政府集会を開いており、シーア派宗教界の最高権威シスターニ 師が呼びかけている改革が遂行されていない現状に対し、アバディ政権を非難している。4 月30 日には、 シーア派のデモ隊が、政府施設や外交団関連施設などが集まるバグダードのグリーンゾーン内部に突 入、一部は連邦議会を占拠し、イラク政府は非常事態宣言の発出を余儀なくされた。クルド自治区の各 都市でも、公務員への給与未払い問題でストライキやデモが起こっているという。 また、トルコの情勢不安も不安材料の一つだ。2016 年2 月に同国南東部に位置する都市Urfa で、イラ ク・クルド自治区とトルコ間を結ぶ原油パイプラインが襲撃を受け、以降3週間以上にわたり送油が停止、 北部からの輸出に甚大な被害をもたらした。 今後の生産見通し イラクの石油開発においては、IOC への報酬額がバレル当たりで固定されていることもあり、油価が下 –7– Global Disclaimer（免責事項） 本資料は石油天然ガス・金属鉱物資源機構（以下「機構」）調査部が信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は本資料に含ま れるデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、何らかの 投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一切責 任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。 がれば下がるほどイラク政府にとっては厳しい状態になる。低油価の状態がこのまま継続すれば、財政 赤字が想定よりも膨れ上がる可能性は高く、その場合 IOC に対するコスト削減の圧力は更に強まるだろ う。また、増産の最大のネックでもあるインフラ整備に充てる資金の捻出が更に厳しくなることも予想され、 上・下流投資の停滞が飛躍的な増産を妨げることは十分に考えられる。 このため、過去 1 年間（2015 年 3 月～2016 年 3 月）に見られた 100 万バレル/日の増産が今後も同じ ペースで継続するとは考えにくい。今後の油価の推移次第だが、イラクの生産量は、現状維持あるいは 非常に緩やかな増加というのが可能性の高いシナリオである。油価低迷の現状を反映させるため、2015 年 6 月、Falah Alamri SOMO（国営石油マーケティング会社）総裁は、2020 年までの原油生産目標量を 900 万バレル/日から 600 万バレル/日に下方修正する方向で検討中であると発言したが、イラクの現在 の出荷能力を考えれば、これも実現可能性の低い目標と言わざるを得ない。インフラの整備が進まない 限り、イラクの生産量が飛躍的に、また安定的に伸びる可能性は低いだろう。 2015 年 2 月に発表された IEA の中期見通し（IEA Medium-Term Oil Market Report 2015）によれば、 2014～2020 年の間に、OPEC 全体の生産能力は 122 万バレル/日増強されると見られており、このうち 9 割弱（110 万バレル/日）をイラクが占めたが、2016 年の中期見通しでは、2015～2021 年間の OPEC 生産 能力の伸び（80万バレル/日）のうち、イラクが占める割合は2割強（27万バレル/日）に下方修正された。 以 –8– 上 Global Disclaimer（免責事項） 本資料は石油天然ガス・金属鉱物資源機構（以下「機構」）調査部が信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は本資料に含ま れるデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、何らかの 投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一切責 任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。
© Copyright 2024 ExpyDoc
