Page 1 Page 2 日下 裕章 氏の学位論文審査の要旨 論文題目 LCZ696

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Title
LCZ696(アンギオテンシンⅡ受容体-ネプリライシン阻害
剤)は高食塩誘発性の高血圧と心血管傷害に対しバルサル
タンより大きな改善作用がある
Author(s)
日下, 裕章
Citation
Issue date
2016-03-25
Type
Thesis or Dissertation
URL
http://hdl.handle.net/2298/34563
Right
日下
裕 章
氏 の 学 位 論 文 審 査 の 要 旨
論文題 目
LCZ696(ア
ン ギ オ テ ンシ ンII受 容体 一ネ プ リラ イ シ ン阻害 剤)は 高食 塩誘 発 性 の
高 血 圧 と心血 管 傷 害 に 対 しバ ル サ ル タ ン よ り大 き な改 善作 用 が あ る
(LCZ696,
angiotensin II receptor-neprilysin inhibitor, ameliorated high-salt intake‐
induced hypertension
and cardiovascular
injury more than valsartan)
高 血 圧 性 の 心 血 管傷 害 に 対 して 、 これ ま で レニ ン ・ア ン ギ オ テ ン シ ン(RA)系
阻 害 の 有 用 性 が 示 され て き
た 。近 年 、 ア ンギ オ テ ン シ ンII受 容 体 およ び 中 性 エ ン ドペ プチ ダー ゼ(ネ プ リラ イ シ ン)の 阻 害 作 用 を あわ
せ 持 つ薬 剤 、LCZ696が
RA系
開 発 され た 。最 近 の 臨床 研 究 で は 、LCZ696は
高血 圧 、 心 不 全 患 者 に 対 し、 従 来 の
阻 害 薬 よ りも 有 益 な 効 果 を示 した 。 しか しな が ら、 そ の 作 用 メ カ ニ ズ ム に 関 して は 不 明 な 点 が 多 い。
申請 者 は今 回 、高食 塩 誘 発 性 高 血 圧 モ デ ル を用 い て 、LCZ696と
ア ンギ オ テ ン シ ンII受 容 体 拮 抗 薬 バ ル サ ル
タ ンの 高血 圧 お よ び 心血 管 傷 害 に 対 す る作 用 を比 較 検 討 した 。
実繕
剣 こは3通
りの 手 法 を用 い た 。最 初 の 実 験 では 、 自然 発 症 高 血 圧 ラ ッ ト(SHR)に
続 計 測 シス テ ム を植 え 込 み 、 高食 塩 食(8%NaCl)開
始2週 間 後 にLCZ696、
低 用 量 、 次 い で 高 用 量 で 経 ロ投 与 し、そ の 後 、低 食 塩 食(0.3%NaCl)に
と と もに 、血 管 交 感 神 経 活 動 を解 析 した 。次 の 実 験 で は 、SHRに
ってNa・
慢 性 テ レメ トリー 持
バ ル サ ル タ ン、 な い し偽 薬 を
変 更 して 、血 圧 の 推 移 を比 較 す る
低 食 塩 食 下 で薬 剤 を投 与 し、7日 間 に わ た
水 バ ラ ン ス を測 定 した 。最 後 の 実 験 で は 、 メ タ ボ リッ ク シ ン ドロー ム合 併 高 血 圧 モ デ ル ラ ッ トで
あ るSHRCpに
対 し、 高 食 塩 食 下 で薬 剤 を4週 間 投 与 し、 心血 管 保 護 効 果 を比 較 検 討 す る と と も に 、摘 出 血
管 を用 いた血 管 内 皮 機 能 の 検 討 を行 った 。
そ の 結 果 、最 初 の 実験 で は 、高 食 塩 食 下 でLCZ696の
血 圧 を低 下 させ(蠕
高 用 量 投 与 はバ ルサ ル タ ン高 用 量 と比 較 し、有 意 に
期200.5±7.7mmHgvs.213.3±4.GmmHg)、
低 食 塩 食1こ変 更 した 後 も さ らに大 き
な 降 圧 効 果 を示 した 。血 圧 ・心 拍 変 動 ス ペ ク トル 解 析 か ら、LCZ696投
示 唆 され た 。 ま た 、LCZ696は
さ らに 、SHRCpに
与 に よ る交 感 神 経 活 性 の 抑 制 効 果 が
バ ルサ ル タ ン と比 べ 、7日 間 に わ た り有 意 に累 積Naバ
ラ ン ス を減 少 させ た 。
お い て 、高 食 塩 食 負荷 は 著 しい血 圧 上 昇 と と もに 、有 意 の 左 室 重 量 増 加 、心 筋 線 維 化 お よ
び マ ク ロ フ ァー ジ浸 潤 の増 大 を きた し、 内 皮依 存 性 血 管 弛 緩 反 応 か らみ た 血 管 内 皮 機 能 の 低 下 を惹 起 した 。
この 際 、LCZ696投
与 群 に お い て血 圧 は有 意 に低 下 し、 左 室 重 量 、 心 筋 線 維 化 と マ ク ロ フ ァー ジ浸 潤 が 減 少
す る と と も に 、血 管 内 皮 機 能 も有意 の 改 善 を認 め た 。一 方 、バ ル サ ル タ ン投 与 群 で は 、 血 圧 、心 室 重 量 、血
管 内皮 機 能 は 有意 の 改 善 を示 さず 、 心 筋 線 維 化 と マ ク ロ ファ ー ジ浸 潤 に 関 して も軽 度 の 改 善 に と ど ま っ た 。
以上 よ り、LCZ696は
バ ル サ ル タ ン と比較 し、 高 食 塩 誘 発 性 高 血 圧 モ デ ル に お い て有 意 の 降 圧 作 用 と心 血 管
保 護 作用 を示 し、 この機 序 に はNa排
審 査 で は 、1)ネ
LCZ696に
泄 の 増 加 と交 感 神 経 の 抑 制 が 関与 す る可 能 性 が 示唆 され た 。
プ リラ イ シ ンの 酵 素 学 的 特 徴 、2)LCZ696の
特性 と2種 の 薬 剤 活 性 を持 た せ る意 義 、3)
よ る 降 圧 作用 と心血 管 保 護 作 用 との 関連 お よび その 機 序 、4)摘 出 血 管 に お ける 作 用 メカ ニ ズ ム 、
5)腎 機 能 や 代 謝 へ の作 用 の 有 無 、6)臨 床 応 用 へ の 展 望 、等 の 質疑 が な され 、 申請 者 か ら概 ね 適 切 な 回 答が
な され た 。
本 研 究 は 、 高 食 塩 誘 発 性 、 あ る い は メ タ ボ リック シ ン ドロー ム 合 併 高 血 圧 に対 す る治 療 戦 略 に 関す る 新 た
な 知 見 を示 し、RA系
阻 害 に加 え て ネ プ リラ イ シ ン阻 害 を行 う こと に よ る心 血 管 傷 害 進 展 抑 止 の 可 能 性 を示
した 。 さ らに 、臓 器 保 護 に お け るNa代
謝 と交 感 神 経 活 性 調 節 の 重 要性 を示 唆 す る研 究 で あ り、 学 位 の 授 与
に 値 す る もの と評 価 した 。
審査委員長 腎臓内科遡 当教授
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