0.5MB - 港湾空港部

D滑走路 埋立部の設計
~高盛土海上空港の埋立・断面について~
JV 工務・設計監理 Gr 三木隆之 澤資浩
五洋建設 梯浩一郎
キーワード:高盛土、大水深、大量急速施工、傾斜堤護岸、低置換改良、床掘置換、管中混合固化処理土
1. まえがき
D滑走路は埋立・桟橋組合せ構造であり、多摩川河口域を除く全体の約 2/3 が埋立部である。本プロジェ
クトはこれまでに行われてきたプロジェクト以上に大量急速施工が要求されており、設計段階において経済
性並びに工期短縮を意識した最適な設計を行うことが重要となる。本文は、埋立部の特徴及び設計段階にお
いて特に留意した点について述べたものである。
埋立/桟橋接続部
2. 埋立部の
埋立部の概要
2030.0
2008.2
10.0
11.8
N
365.0
320.0
面計画図を、図-2-2 に滑
空港施設用地境界
滑走路CL
428.4
474.0
図-2-1 に埋立部の平
22.8
護岸法線
25.0
2-1 計画条件
20.0
走路縦断計画を示す。埋
平行誘導路CL
空港施設用地境界
334.
3
ある。また、計画最低地
22.8
立部の面積は約 95ha で
護岸法線
11.8
1714.0
盤高さは、
滑走路 23 側端
部で A.P.+17.1m 以上、
最
図-2-1 埋立部平面計画
下点で A.P.+13.0m 以上
ー
スバ
クロ
であり、通常の埋立工事
に比べ高天端断面となる。
帯端 3端
過走 -RWY2
D
埋立
310.0
場周道路等用地
10.0
18.000
10
7.630
7.749
護岸部
6.858
工事完了時計画地盤高
17.100
17.280
17.230
20
部
D-R
16.380
16.330
6.730
5端
WY0 帯端
過走
場周道路等用地
60.0
240.0 10.0
過走帯 滑走路端
安全区域
13.932
(13.900)
13.092
(13.000)
15.000
14.670
13.736
13.715
14.105
13.122
計画最低地盤高
AP±0(m)
13.585
13.159
13.4
2.1
7.9
滑走路勾配
接続
滑走路長
2,500.0
240.0
60.0
滑走路端 過走帯
安全区域
25
橋
/桟
1.5%
1,250.0
240.0
4.0%
446.6
803.4
790.0
1,710.0
60.0
0.328%
1.2%
0.041%
LEVEL
15.750
60.0
178.697
10.0
37.678
7.875
1.5% 0.55% 1.5%
0.55%
0.47%
0.160%
VCL=90.000m
VCR=31300m
図-2-2 滑走路縦断計画
2-2 自然条件
2-2-1 水深条件
19m
埋立部付近の水深は、図-2-3 に
示すように現空港島の隅角部付近か
ら沖に向かって深くなる傾向にあり、 18m
23
05
埋立部
概ね A.P.-12.0m~A.P.-20.0m とな
っている。
17m
17m
16m 15m
14m
13m
現空港島
図-2-3 水深コンター図
2-2-2 地盤条件
埋立部付近の地盤には軟弱な粘性土が厚く堆積している。海底面より A.P.-20.0m の範囲には粘性土を主
体とし砂を挟む①-H 層(覆土層)が、A.P.-20.0m より A.P.-34.0m~A.P.-37.0m の範囲には粘性土主体の①
-C 層が、その下端より A.P.-52.0m~A.P.-62.0m の範囲には砂質土まじりの②-C 層が存在する。
界
法線 地境
岸
用
護
設
施
港
空
(A.P.)
0.0
橋
/桟
立
埋 部 (A.P.)
続
接
0.0
-10.0
-10.0
-20.0
-20.0
1
-30.0
-30.0
-40.0
-40.0
2
-50.0
-60.0
-50.0
-60.0
3
凡 例
-70.0
-70.0
:工学区分 1 ~ 5
-80.0
:①-H
4
-80.0
:③-C
:④-C
:①-C
:②-C
-90.0
:砂質土層
:礫層
-90.0
5
-100.0
-100.0
図-2-4 土層断面図(滑走路中心線)
2-3 構造計画
2-3-1 埋立天端高
埋立部の天端高さは、工事完了時より発生する供用期間中の残留沈下量に相当する上げ越し量を考慮して
設定した。縦断線形に関する上げ越しの考え方は以下のとおりである。
① 23 側滑走路端部から滑走路中心部(勾配変化点)の縦断線形に対する上げ越し量は、工事完了から
供用開始 30 年後の残留沈下量(それぞれ⊿S1、⊿S2)のどちらか大きい方とし、供用開始 30 年後
においても所要の地盤高さを確保できるように設定する。
② 接続部は鋼管矢板井筒上部カルバート背面側が不同点となり、上げ越しができないため、滑走路中
心部(勾配変化点)から接続部の範囲は上げ越し量の擦り付け区間とする。
工事完了から供用開始30年
後の残留沈下量⊿S1
工事完了時計画高
工事完了から供用開始30年
後の残留沈下量⊿S2
A.P.+17.10m
(23側滑走路端部)
滑走路基本計画高
A.P.+13.00m
(滑走路中心部)
接続部は上げ越しできない
ため維持補修で対応
A.P.+13.72m
(接続部鋼管矢板背面)
A.P.+6.58m
310m
1250m
(一律上げ越し区間)
446.6m
(擦り付け区間)
図 3-1 上げ越し量の考え方
工事完了~供用開始 30 年後に発生する残留沈下量は、23 側滑走路端部で⊿S1=90cm(工事完了までの沈
下量 6.8m)
、滑走路中心部で⊿S2=86cm(工事完了までの沈下量 6.3m)となるため、先述した上げ越し量の考
え方に則り、実施設計段階における工事完了時点の基本計画高に対する上げ越し量は 90cm とした。なお、こ
の上げ越し量は施工中に得られる沈下の実測データをもとに残留沈下量を予測し見直しを行う計画である。
残留沈下量の予測は、埋立部の全施工履歴を載荷荷重データベースとして管理し、平面的な施工履歴差と 3
次元的な荷重分散を考慮することができる圧密沈下予測・管理システム(HASP:Haneda Airport Settlement
Predict Program)を用いて行う。
2-3-2 護岸構造
埋立部は大水深かつ軟弱な粘性土層が厚く堆積した場所に位置する。このような条件下であれば、軟弱な
粘性土層を完全に改良し、その上に重力式の護岸を構築することが一般的に考えられる。しかし、当該地点
の粘性土層は非常に厚く堆積しており、完全に改良することは工期・工費の面からも容易ではない。そこで、
護岸構造は沈下に対し追随性の高い傾斜堤構造とし、軟弱地盤の改良は低置換のサンドコンパクションパイ
ル改良(以下 SCP 改良) を採用することとした。
また、軟弱層の下端に存在する②-C は、事前のボーリング調査結果から総沈下量(約 1.4m 程度)が小さ
く、圧密速度(cv=1000cm2/day)も速く供用開始後に生じる残留沈下量の影響も軽微であることから、②-C
層の一部を未改良のまま残した改良形式とした。同様に埋立地内の地盤改良であるサンドドレーン改良(以
下 SD 改良)も改良対象層が①-C 層下端までの改良形式とした。
埋立部の地盤高さは滑走路 23 側端部で A.P.+18.0m(上げ越し量含む)となり、護岸は高盛土断面となる。
護岸背面の盛土荷重が大きくなり護岸の安定を確保するためには、地盤改良の増深・拡幅もしくは護岸前面
に盛土荷重を増やす等の対策を講じなければならない。しかし、前述したとおり工期・工費への影響を勘案
するとこれらの対策は必ずしも得策ではない。そこで、護岸前面を床掘して砂質土系の材料で置き換え、床
掘により発生した粘性土を固化処理(管中混合固化処理土)することで埋立材料として再利用できる構造と
した。つまり、護岸前面は重い砂質土系の材料で、背面は軽い粘性土系の材料で置き換えることで護岸の安
定性を確保する構造である。管中混合固化処理土の原泥には、本工事に含まれる第一航路の切替工事に伴い
発生する浚渫土も一部利用することとした。
環境面では、護岸形式を傾斜堤とすることで直立護岸に比べ光の当たる面積が広く、海藻付着に有利とな
る。また、前面を環境共生型消波ブロックで被覆することで海藻の繁殖を促進し、漁礁及び生物付着場所と
しての効果も期待できる構造とした。
以上のように、低置換の SCP 改良、床掘置換、管中混合固化処理土を護岸断面に適用したことで、工期
短縮及びコストダウンが図れ、また環境にも配慮した断面となっている。
(堤外側)
法
護岸
線
港
空
境
地
設用
施
界
(堤内側)
パラペット
上部ブロック
消波ブロック
H.W.L A.P.+2.10
L.W.L A.P.±0.00
原地盤
捨石2
揚土1
捨石1
管中混合固化処理土2
SCP改良60%
中仕切堤2
管中混合固化処理土1
築堤材1
築堤材2
床掘置換
揚土2
被覆石
保護砂
中仕切堤1
揚土1
直投2
サンドマット
SCP改良60%
SCP改良30%
SD改良
図-2-5 標準断面図
3. 護岸断面の
護岸断面の設計
本護岸断面は、地盤改良部(低置換 SCP 改良、SD 改良)及び未改良層の粘性土の強度が護岸の安定に大き
く影響する。限られた工期の中で護岸断面を築造するためには、圧密が完全に終わっていない段階で施工を
進めていく必要があり、圧密途中の粘性土地盤の強度を適切に評価することが重要となる。ここでは、実施
設計における圧密途中の地盤強度の算定方法について述べる。
3-1 粘性土地盤の
粘性土地盤の強度の
強度の考え方
図-3-2 に示す有効応力(=有効土被り圧)と非排
Cu
水せん断強度の関係より、圧密沈下による強度増加
Cu1
を考慮した非排水せん断強度は下式により算定する。
Cu0
Cu/p
初期非排水せん断強度
なお、圧密沈下後の有効応力は、圧密沈下計算によ
り算定した沈下量より間隙比と有効応力の関係を用
(Cu/p)・p0
正規圧密過程
いて算定する。図-3-3 に圧密沈下後の有効応力の算
定フローを、また、図-3-4 に間隙比と有効応力の関
p0
係を示す。
p’
p
図-3-2 有効応力と非排水せん断強度の関係
Cu1 = max(Cu 0 , (Cu p ) ⋅ p ') = max(Cu 0 , Cu 0 + {(Cu p ) ⋅ p '−Cu 0 })
ここに、
Cu1 ;強度増加後の非排水せん断強度(kN/m2)
Cu 0 ;原地盤の非排水せん断強度(kN/m2)
Cu p
;強度増加率
p ' ;圧密沈下後の有効応力(kN/m2) (=有効土被り圧 )
p0
log p (有効応力)
pc
圧密沈下後の間隙比e1 の算定
e (間隙比)
圧密沈下計算より沈下量Sの算定
e0
ec
圧縮指数Cs
(過圧密領域)
圧縮指数Cc
(正規圧密領域)
間隙比と有効応力の関係より
圧密沈下後の有効応力p’を算定
図-3-3 有効応力算定フロー
図-3-4 間隙比と有効応力の関係
3-2 圧密沈下の
圧密沈下の考え方
各施工段階での沈下量は、SCP・SD 改良部はウェルレジ
スタンスを考慮した吉国の近似式により、未改良層はテル
ツァギの一次元圧密理論によりそれぞれ算定した圧密度を
各層の最終沈下量(Cc 法による)に乗じ算定した。以下、
SCP 改良部及び未改良層の圧密度を算定する際に留意した
点について考え方を示す。
3-2-1 SCP 改良地盤の圧密沈下
図-3-5 SCP 改良地盤の圧密遅れ
SCP 工法による改良地盤の圧密速度は、バロンの解による予測値より遅れる傾向にある。図-3-5 に過去の
施工実績から得られた SCP 改良地盤の置換率と圧密遅れの関係を示す。ここに、cv は実測の時間~沈下関係
から逆算される圧密係数であり、cv0 は土質試験で得られる圧密係数である。実施設計では、図-3-5 に基づ
き置換率により改良地盤の圧密係数の低減を行った。
3-2-2 未改良層の圧密沈下
SD 改良は、前述したように圧密対象層のうち①-C 層下端までを改良対象としている。その下の②-C 層の
圧密は、SD 改良下端を②-C 層に de/2(de:有効径)根入れすることとで、改良対象層下端(①-C 層下端)
とその下の砂層(②-S 層もしくは③-S 層)による両面排水条件として圧密計算を行った。
3-3 載荷履歴の
載荷履歴の考え方
地盤の強度を算定する上で盛土の載荷履歴が大きく影響する。載荷履歴の設定は、各施工段階の沈下や安
定性に与える影響を加味しつつ、施工平面展開上の特徴も考慮して設定しなければならない。各施工段階に
おける載荷履歴の考え方を表-3-1 に示す。これにより、圧密沈下計算に用いる載荷履歴は施工工程に対して
標準的なものを設定し、地盤の強度増加を考慮する安定計算は、各施工段階特有の条件を考慮して行うもの
とした。
表-3-1 各施工段階における載荷履歴の考え方
施 工 手 順
護岸部
埋立部
SCP工
サンドマット
盛上土撤去
SD工
サンドマット
保護砂
築堤材1
護岸概成
No.1
No.2
中仕切堤1
捨石1
防砂シート
床掘
置換
管中1
本体ブロック
築堤材2
捨石2
No.2
直投1
中仕切堤2
管中2
上部工
直投2
揚土1
No.2
被覆石
消波ブロック
護岸概成
護岸完成
液状化対策
揚土2
No.3
埋立完成
舗装排水
No.
施工段階
載荷履歴の考え方
1
捨石1
サンドマットから捨石1までは、連続的に急速施工される上、SCPの打設による原
地盤の乱れ等も懸念されるため、先行工種(サンドマット、築堤材1)の強度増加を
見込まずに安定検討を実施する。
圧密沈下計算に用いる載荷履歴は、施工工程に対して標準的なものを設定する。
2
中仕切堤1
中仕切堤2
揚土1
保護砂から揚土1までは、水深の違いによる原地盤強度の違いや施工層厚の違
いから必要となる圧密期間が異なり平面的に施工速度に違いが生じる。
したがって、圧密沈下計算に用いる載荷履歴は、全体施工工程に対して標準的な
ものを設定し、各施工層厚を決定した後、別途、安定検討上で地盤の強度増加に
必要な圧密期間を整理する。
3
揚土2
護岸全体の安定性に影響を及ぼす揚土2の施工は、不同沈下を抑制する意味で
も平面的にほぼ均一な施工速度で盛土を行うことになる。したがって、施工工程に
対して標準的な載荷履歴を設定して圧密沈下計算及びその沈下量に応じた地盤の
強度増加を考慮した安定検討を実施する。
4
その他
上記以外は、沈下安定検討上、大きく問題になることはないため、施工工程に対
して標準的な載荷履歴を設定し、圧密沈下計算及び安定検討を実施する。
3-4 護岸の
護岸の安定検討結果
ここまでで示した圧密途中の地盤強度の算定方法により算出した値を用いて、各施工段階の安定検討を実
施した。安定計算は修正フェレニウス法により行い、許容安全率は常時 1.3 以上、施工時 1.3 以上とする。
ただし、施工時の安全率が 1.1≦Fs<1.3 の場合は、施工中に地盤の変位及び応力を観測する計測施工を実施
することとした。図-3-6、図-3-7 に安定計算結果を抜粋して示す。
海側
150
陸側
最小安全率
F S MIN =
円弧の中心
X
=
-40.78
(m)
Y
=
18.18
(m)
R
=
48.18
(m)
半径
100
1.21
最小安全率
F S MIN =
1.22
円弧の中心
X
=
25.00
(m)
Y
=
5.16
(m)
R
=
27.16
(m)
半径
凡例
抵抗モーメント M R
=
182885.9 (kN・m)
抵抗モーメント M R
=
66866.1
(kN・m)
起動モーメント M D
=
150125.4 (kN・m)
起動モーメント M D
=
54586.9
(kN・m)
用地
法線 港施設
護岸
空
SCP30%
SCP60%
SD
界
境
路C
滑走
L
50
F
A.P. +5.16
= 1.21
S MIN
F
S MIN
A.P. ±0.00
0
= 1.22
A.P. -15.93
①-H
①-C-1
①-C-2
②-C
②-S
②-C
②-S
③-S
③-C-1
③-C-2
③-C-1
③-S
④-G
④-S
-50
⑤
-100
-200
-150
-100
-50
0
50
100
150
200
250
図-3-6 安定計算結果(捨石1施工時)
150
凡例
F
S MIN
最小安全率
100
50
F S MIN =
SCP30%
SCP60%
SD
= 1.30
1.30
円弧の中心
X
=
-7.79
(m)
Y
=
110.67
(m)
半径
R
=
164.67
(m)
抵抗モーメント M R
=
3855041.8 (kN・m)
起動モーメント M D
=
2964025.3 (kN・m)
境界
用地
法線 港施設
岸
護
空
路
滑走
CL
A.P. +15.61
A.P. +6.02
A.P. +2.10
A.P. ±0.00
0
①-H
①-C-1
①-C-2
②-C
-50
②-S
②-C
②-S
③-S
③-C-1 ③-C-2
③-C-1
③-S
④-G
④-S
⑤
-100
-200
-150
-100
-50
0
50
100
150
200
250
図-3-7 SCP 安定計算結果(揚土 2 施工時)
4. あとがき
本文では、埋立部の概要及び設計上留意した点について述べた。本文中でも述べたように、埋立部は粘性
土の強度の発現の有無により、安定上大きく影響を受ける構造となっている。実施工においては動態観測を
行い、実際の地盤状態を正確に把握し、安全かつ確実に施工を進めていくことが本プロジェクトを遅延なく
遂行するために必要不可欠なことであると考えられる。