ダウンロード - 北海道森町

第3章
3-1
マイクロ水力発電実証事業
青葉ヶ丘公園の概要
青 葉 ヶ 丘 公 園 は 、 函 館 市 内 か ら 車 で 約 1 時 間 、 森 町 に あ る 公 園 で 、 JR 森 駅 か ら
徒 歩 10 分 と 街 の 中 心 部 に 位 置 し て い る 。 大 正 3 年 開 設 の 歴 史 あ る 公 園 で あ り 、 開
設当時植樹されたソメイヨシノの一部は今でも春に元気に花を咲かせ、園内にあ
る 1,000 本 の 桜 は 毎 シ ー ズ ン 20 万 人 を 超 え る 花 見 客 で 賑 い を 見 せ る 。
桜は突然変異をおこした枝を挿し木で育て 1 品種とすることもあるため、園内
に は 森 小 町 (モ リ コ マ チ )、 青 葉 枝 垂 (ア オ バ シ ダ レ )と い っ た 世 界 に 1 本 だ け の 固
有 種 が 存 在 す る 。 そ の 他 、 御 衣 黄 (ギ ョ イ コ ウ )、 鬱 金 (ウ コ ン )な ど 黄 緑 色 の 花 を
咲かせる珍種も見られる。例年 5 月上旬から咲き始め、下旬までの長い期間、桜
を楽しむことができるのも特徴のひとつ。
桜が終わりを迎えると花菖蒲が鮮やかに咲き目を楽しませてくれる他、 北海道
天然記念物に指定された栗林もあり、秋には たわわに実をつけ、子供たちの歓声
が響きわたる。
園内には通称“ひょうたん池”と呼ばれている親水ひろばがある。
池 か ら 園 内 各 所 へ 広 が っ て い る 水 は 池 の 約 100m 上 流 よ り 、公 園 の 横 を 流 れ る 森
川から水を引き込んでいる。
写 真 3-1-1、 図 3-1-2 に 青 葉 ヶ 丘 公 園 の 現 況 を 示 す 。
写 真 3-1-1
-
青葉公園の現況
27
-
①
②
③
水路幅
60cm
落差
50cm
橋
⑤
④
図 3-1-2 青葉公園内の発電装置設置予定箇所付近の現況
-
28
-
3-2 設置個所と水車発電機の選定
発電装置の設置箇所は、表 3-2-1 の発電候補地点の選定の目安を基に、現地調査を行いA・
B2 地点選定した。
当初、A地点のみの候補地だったが、近隣住民への配慮からA・Bの 2 地点とした。
A.青葉ヶ丘公園に導水する既設水路の落差を利用出来る地点(斜路部)
B.実証事業の普及啓発で行う見学会で説明しやすいスペースの確保が可能な地点(導水路部)
表 3-2-1 発電候補地点の選定の目安
※北海道経済部発行『中小水力発電導入の手引き』より
A地点の諸元は次の通り
水路幅 B=0.60m
水 深 h=0.04m(最大通水時(9/17)の測定値)
断面積 A=0.024 ㎡
現地踏査写真を写真 3-2-2~3-2-4 に示す。
写真 3-2-2 導水路幅 (B=0.6m)
-
29
-
写真 3-2-3
導水路の水深の測定
(h≒4cm)
水深測定時の水量が最大通水量であることは、縦軸水車・発電装置の出力表示が写真 3-2-4 に
示すように最大出力である P=2.4W(ハブダイナモの定格出力値)を示していることから推定でき
る。
写真 3-2-4
縦軸水車・発電装置の最大出力(P=2.4W)の表示記録
以上の現地導水路の断面測定の結果、本導水路の通水量は、次式で算定することとした。
※流量(推定)
流下断面積 A=0.6×0.04=0.024m3/s
流速 V≒0.8m/s(表面流速)
流量 Q=A×V=0.0192m3/s (想定時より▽20%)
≒0.32ℓ/分
※計画時の流量は Q=0.024m3/s と
想定していた。
-
30
-
A地点の発電規模(出力~流量値)を図 3-2-5 の水車選定図で見ると、今回のケースでは水車
選定不可の為、今回のケースでは水量、落差とも水車選定が不可の領域であるため、現地導水
路の配置特性(本水路から森川への余水路)を考慮し、下記に示す 3 種類の水車を設置すること
とした。
選定した水車と設置場所については、図 3-2-6 に示す。
① らせん式・・・・・・・・・・・・・・・・・・・A地点
② 縦軸式・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・A地点
③ 下掛け式・・・・・・・・・・・・・・・・・・・B地点
A 地点
※かんでんエンジニアリング HP より
図 3-2-5 水車選定図
-
31
-
A 地点
B 地点
図 3-2-6 水車設置位置図
- 32
-
3-3 水車・発電装置の概要
選定した 3 種類の水車・発電装置は、それぞれ独立した発電装置として設計した。
設計にあたっては、小規模な河川流量でも水車回転を得られるよう、出来るだけ“軽量化”する
こととした。
水車・発電装置の全体結線模式図は図 3-3-1 のとおりである。
-
33
-
出力表示盤
図 3-3-1
-
34
-
水車・発電装置の全体結線模式図
(1)各水車・発電装置の設計概要図
各機種の具体的な設計概要図を図 3-3-2~図 3-3-4 に示す。
-
35
-
【下掛け式】
・導水路の水平部に設置する機種である。
・導水板により水路の流れを水車羽根部に集水する工夫を行う。
・水車羽根部の材質は、発錆しにくいステンレス材(SUS)とする。(他の水車
についても同様とする。)
図 3-3-2 下掛け式水車・発電装置の概要図
-
36
-
【らせん式】
・水路内に設置する「らせん部」の回転をローラーチェーンにより
水車部の上に設置する発電装置に伝達し、発電する方式とする。
・水量が増加した場合に水車発電装置を簡単に取り外せるよう水車
らせん部の固定は、らせん部本体下部に取り付ける「幅調節用ネ
ジ」で水路側壁に固定する。
図 3-3-3 螺旋式水車・発電装置
-
37
-
【縦軸式】
・転軸が縦軸としたもので、基本的な構造は、下掛け式と同様である。
図 3-3-4 縦軸式水車・発電装置の概要
-
38
-
(2)その他設備
 出力表示盤の設置
マイクロ水車で発電したエネルギーは、併設した出力表示盤で発電装置毎に発電量を表
示管理する。
らせん式発電装置の出力データは別途、記録計(データロガー)に集約しデータ解析を
行った。

バッテリーの設置
マイクロ水車で発電した電気エネルギーは、併設した出力表示盤内のバッテリーへ集め
ることとした。

LED ライトの設置
園内にある橋に取り付けた LED ライトを点灯させ、夜間の防犯に使用することとした。
点灯時間 16 時~24 時まで

水車設置場所の見学用デッキの設置
水車の仕組みをより近く安全に見てもらうためのデッキや、立入境界柵を作製した。
道南では地材地消をテーマに利用促進に向け様々なPR活動を行っている道南スギを使用。

水車設置場所等の説明看板の設置
普及啓発での見学用に各水車の説明を記した看板作製した。
上記、見学用デッキと出力表示盤の設計図は、図 3-3-5~3-3-6 に示す。
設備設置位置図を図 3-3-7 に示す。

-
39
-
図 3-3-5 A地点見学用デッキ設計図
-
40
-
図 3-3-6 出力表示盤設計図
-
41
-
①
①
②
LED ライト
夜間点灯中
見学用デッキと説明看板
園内木橋に取付けた LED ライト
①
④
③
③
バッテリー
全体説明用看板と出力表示盤の内部・境界柵
下掛用発電装置説明看板と境界柵
図 3-3-7 設備設置図
-
42
-
3-4 実証試験概要
水車発電機等すべての設置が完了し 9 月 1 日より運転を開始した。
運用開始前後より問題として起こった事象と対応策を下表に示す。
事象
対応策
(当初案)
(改修案)
らせん式水車の回転力を減速機付き発電装
らせん式水車の回転力をチェーンでハブダイ
置に伝え、発電方式としていた。
ナモ発電装置に伝え、発電方式とした。
水車の回転数が低く、定格出力(W)に達
ハブダイナモは、2台を並行に配置した。
しない状態が続いたため、発電機を軽量化す
るとともに定格出力の低いものに変更するこ
ハブダイナモ発電装置
ととした。
2台並列配置
減速機付き発電装置
チェーン
チェーン
らせん式水車
らせん式水車
・発電機ハブダイナモの回転駆動伝達用ベル ・ハブダイナモの回転による摩耗が顕著となったこ
トが摩耗し、粉状物付着している状況を確認 とから、ベルトの内側に”突起”があり、水車回転を
より確実に伝達可能、かつ、耐摩耗性の高いタイミ
ングベルトに交換した。
タイミングベルトの仕様は、下記のとおりである。
なお、交換したタイミングベルトは、ゴム製品を仕
様した。
-
43
-
事象
・らせん水車の排水口に近い為、水量が増し、
縦軸水車がオーバーフロー状態になった。
対応策
・効率よく水車の羽根に流水を受けるように、
調整用板を取り付けた。
・落ち葉・落下樹種が流入し水車が停止し、用 ・落葉等を取除き、発電量を確認。
水が溢れている。
・落葉対策として既設用水路の分岐口にスクリ
ーンを設置した。
-
44
-
事象
・らせん水車・発電装置のチェーンが外れた状態
対応策
・現行チェーンより約 3 ㎝短くしたチェーン
に交換し、チェーンの緩み調節用ボルトで調
節した。
調節用
ボルト
・結束バンドの締め過ぎによる LED ライトの断線
-
・新しい LED ライトに付替作業を実施し、点
灯の有無を確認。
45
-
3-5 発電実績データ収集
(1)収集データの種類と頻度
らせん式発電装置から収集するデータは、出力表示盤に取り付ける「電力計」で測定(表示)
する電力(W)とする。
また、電力(W)の収集頻度は、測定開始後から 24 時間連続測定するものとし、データロガー
に記録するデータは、10 分間隔で取り込むこととした。
データの回収頻度は、1 回/月程度とし、月毎の帳票としてまとめるほか、月ごとのグラフと
して記録した。
回収は専用パソコンで行い、その手順(イメージ)は、下図の通りである。
(2)機器の仕様
直流電力計 DW-777
データロガー LR8515
浪越エレクトロニクス
日置電機
写真 3-5-1 実際のデータ収集状況
-
46
-
(3) データ回収結果
今回の実証データ回収結果を図 3-5-2~3-5-5 に示す。
9月
日
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
13
14
15
16
17
18
19
20
21
22
23
24
25
26
27
28
29
30
平均
最小値
最大値
9月
発電停止日数
最大値
6.17
5.86
5.89
5.98
6.15
6.15
6.02
5.91
5.89
5.38
5.62
4.85
3.51
4.39
0
-0.02
0
-0.01
-0.02
-0.02
-0.02
-0.02
-0.01
-0.02
4.6
4.30
4.27
4.57
4.66
5.47
最小値
5.67
0.39
0.27
5.59
5.83
5.92
5.56
5.36
5.38
3.45
0
3.16
2.57
-0.02
-0.02
-0.03
-0.03
-0.02
-0.02
-0.02
-0.03
-0.03
-0.03
-0.02
-0.02
0
0
0.01
4.23
4.39
3.52
-0.02
6.17
1.92
-0.03
5.92
10
月別出力
平均値
5.93
3.57
3.86
5.76
6.00
6.02
5.79
5.70
5.76
4.53
1.75
3.93
2.95
1.71
-0.01
-0.02
-0.02
-0.02
-0.02
-0.02
-0.02
-0.02
-0.02
-0.02
2.18
1.09
2.78
2.79
4.55
4.56
チェーンの外れを
確認
2.70
-0.02
6.02
日間
9月
7
6.5
6
5.5
5
出力(W)
4.5
4
最大値
3.5
最小値
3
平均値
2.5
2
1.5
1
0.5
0
1
3
5
7
9
11 13 15 17 19 21 23 25 27 29
図 3-5-2 流況図
-
47
-
10月
日
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
13
14
15
16
17
18
19
20
21
22
23
24
25
26
27
28
29
30
31
最大値
5.77
5.11
5.16
6.04
5.93
5.96
6.14
5.94
6.01
5.77
5.99
5.48
5.1
5.94
6.11
6.21
6.26
6.06
6.08
5.90
2.99
5.48
6.03
5.73
3.15
5.13
5.32
4.24
5.61
5.77
0.01
最小値
4.46
0
0
2.73
4.65
4.67
0
4.11
4.11
4.36
4.5
4.29
2.45
1.98
4.71
4.75
4.77
4.35
4.76
2.47
1.64
0.01
4.23
2.92
1.89
0.55
3.78
2.05
0.01
0
0
5.37
0.01
6.26
2.75
0
4.77
平均
最小値
最大値
10月
発電停止日数
1
月別出力
平均値
5.39
0.77
2.36
4.85
5.59
5.56
5.55
5.36
5.10
5.37
5.31
5.13
4.04
3.64
5.56
5.71
5.73
5.53
4.99
4.14
2.47
2.84
5.24
4.75
2.52
2.96
4.79
3.23
3.84
2.79
0.00
4.23
0.00
5.73
日間
10月
7
6.5
6
5.5
5
出力(W)
4.5
4
最大値
3.5
最小値
3
平均値
2.5
2
1.5
1
0.5
0
1
3
5
7
9 11 13 15 17 19 21 23 25 27 29 31
図 3-5-3 流況図
-
48
-
11月
日
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
13
14
15
16
17
18
19
20
21
22
23
24
25
26
27
28
29
30
最大値
0.01
0.01
0.01
5.49
5.53
4.99
3.61
2.87
4.79
4.56
3.13
4.71
4.24
1.97
1.39
5.08
5.08
4.77
4.75
4.22
4.88
4.88
4.87
4.88
4.88
5.77
0.31
0.01
0.01
3.90
最小値
0
0
0
0
2.19
2.92
2.41
1.44
0
2.46
2.22
0.56
1.14
1.24
0
0
3.09
4.04
3.45
2.73
3.57
3.96
4.16
0.62
2.77
0.33
0
0
0
0
3.52
0.01
5.77
1.51
0
4.16
平均
最小値
最大値
11月
発電停止日数
5
月別出力
平均値
0.00
0.00
0.00
1.32
3.79
3.99
3.06
2.11
2.54
3.62
2.55
3.21
2.42
1.62
0.55
2.09
4.19
4.39
4.12
3.60
4.51
4.49
4.46
4.48
3.93
4.00
0.01
0.00
0.00
1.89
2.57
0.00
4.51
日間
11月
7
6.5
6
5.5
5
出力(W)
4.5
4
最大値
3.5
最小値
3
平均値
2.5
2
1.5
1
0.5
0
1
3
5
7
9 11 13 15 17 19 21 23 25 27 29
図 3-5-4 流況図
-
49
-
12月
日
1
2
3
4
最大値
最小値 平均値
2.95
1.58
2.17
1.99
1.5
1.73
2.2
1.43
1.72
1.64
1.34
1.52
平均
最小値
最大値
12月
2.20
1.64
2.95
発電停止日数
0
1.46
1.34
1.58
1.79
1.52
2.17
日間
12月
月別出力
7
6
出力(W)
5
4
最大値
最小値
3
平均値
2
1
0
1
2
3
4
図 3-5-5 流況図
≪データ結果まとめ≫
今回の実証期間は、9/1~12/4までの95日間であった、このうち、16日間の水車停止があった。
9月の停止10日間については、らせん式水車発電機の駆動部のチェーンが外れたことによる停止だ
った。後の要因としては、実証場所が公園のため松笠などの大きな種子が流入した場合、水車の
流入口に絡みつき次々と枝葉が堆積し、羽根に負荷がかかってしまい一時的に回転力を低下させ
ることが判明した。他の2つの水車は枝葉の堆積で発電停止になることが頻繁にあった。
らせん水車の実証データ測定期間中の稼働率は83.2%であった。
発電機本体の調整で発電出来ない期間もあったが、比較的安定した発電が行われた、設置場所
の変更で当初想定出力23.5Wに達することはなく、最大出力6.26Wと発電量はわずかであった。
-
50
-
3-6 撤去作業
今回の業務で、青葉ヶ丘公園に設置した 3 種類の「マイクロ水力発電装置」を来春の再設置
を考慮した仕様で撤去を行った。表 3-6-1 に作業内容を示す。
あわせて、今年度実施過程の中で判明した各マイクロ水車装置の修繕部位の確認および水路
部や見学用ステージ設置等の各施設の改修も併せて実施し、来年度再設置時までに今後の維持
管理面の課題軽減対策を抽出した。
作業期間:平成 27 年 12 月 4 日(金)
表 3-6-1 作業内容
3 機種共札幌へ持ち帰り整備
後、森町より指示される、保
管場所へ搬入する。
-
51
-